2017年12月06日

●「スパコンでも計算不能問題がある」(EJ第4660号)

 2017年11月20日のことです。朝日新聞朝刊のトップに
次の記事が掲載されました。
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 ◎国産量子コンピュータ無償公開
  /試作段階/改良し開発加速へ/計算速度スパコンを圧倒
  スーパーコンピューターをはるかに超える高速計算を実現
 する「量子コンピューター」の試作機を、国立情報学研究所
 などが開発し、27日から無償の利用サービスを始める。世
 界的な開発競争が進むなか、試作段階で公開して改良につな
 げ、2019年度末までに国産での実用化を目指す。
     ──2017年11月27日付、朝日新聞(朝刊)
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 昨日のEJでお知らせした「IBM/ワトソン無料公開」の記
事とよく似ています。最近では、こういう先端技術の記事が新聞
のトップを飾ることが多くなっています。
 ところで、量子コンピュータとは何でしょうか。
 EJの今回のテーマ「次世代テクノロジ−論」は、12月末ま
で続ける予定ですが、量子コンピュータについては、どうしても
避けて通れない問題です。これからの時代は従来のノイマン型コ
ンピュータでは乗り切ることが困難であるからです。
 量子コンピュータについては、10月27日のEJ第4634
号でも簡単に説明していますが、改めてもう少し詳しく述べるこ
とにします。
 EJ第4634号でも述べているように、現在のスパコンでも
解けない問題はたくさんあります。ここでひとつ問題を出すので
考えてみてください。
 ここにそれぞれ重さの異なる50個の荷物があります。この荷
物をスーツケースに入れていくのですが、その入れ方には次の2
つの条件があります。
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 @スーツケースには20キログラムという重量制限があって
  それを上回らないこと
 Aスーツケースに入れる荷物の重量を可能な限り、20キロ
  グラムに近づけること
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 最も効率的と思われる方法を考えてみます。50個の荷物の重
量を正確に秤で測り、その値をスパコンに入れます。そして最も
20キログラムに近くなる組み合わせを見つけるのです。その組
み合わせを計算すると、1000兆通り以上というとんでもない
組み合わせになってしまうのです。そうすると、スパコンでやっ
ても2週間以上かかる計算になります。
 この場合、荷物の数を増やしていくと、スパコンでも計算不能
になります。仮に荷物が100個になったとすると、その組み合
わせの数は、10の30乗通りになります。1の後ろに0が30
個並ぶのです。これをスパコンで計算すると、10兆年もかかっ
てしまいます。事実上計算不能です。このように、ちょっと考え
ると計算できそうにみえる問題ですら、現在のコンピュータでは
解けないのです。
 ここで視点を変えて、別の問題を考えてみることにします。次
の計算があります。
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         7 × 13 = 91
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 何でもない計算です。しかし、答えの「91」は何と何を掛け
た数であるかと問われたら、すぐに計算できるだろうか。この程
度の計算であれば、計算の得意な人であれば、すぐに答えが出せ
ると思います。まず、91を2で割り、割り切れないので、次に
3についてやってみるというようにやっていき、7でちょうど割
り切れ、13になるので、解が得られます。このように与えられ
た数をいつくかの数の掛け算のかたちにすることを「因数分解」
といいます。
 実は因数分解は難しい問題なのです。仮に6059については
因数分解できるでしょうか。こうなると、簡単には解けなくなり
ます。答えは次の通りです。
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       6059 = 73 × 83
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 実は、この「因数分解の難しさ」を利用して、インターネット
上の安全性を守っている暗号方式があります。それは「RSA方
式」と呼ばれています。これについて、野口悠紀雄氏は、この暗
号方式について次のように述べています。
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 ヘルマンとディフィーの発明に刺激を受けたグループの一つに
MITのロナルド・リベスト(R)、アディ・シャミア(S)、
レオナルド・エーデルマン(A)の3人組がいた。1年後彼らは
「公開鍵暗号」と呼ばれる方式を発明した。暗号名は彼らの名前
の頭文字をとってRSAとした。
 RSAの暗号の基本的な発想は、つぎのようなものだ。「公開
鍵」と、それに対応する「秘密鍵」という2つの鍵を作る。公開
鍵は公開するが、秘密鍵は作成者が秘匿する。公開鍵から秘密鍵
を計算することは(事実上)できない。   ──野口悠紀雄著
     『仮想通貨革命/ビットコインは始まりにすぎない』
                      ダイヤモンド社
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 このRSAという暗号方式は、ネット上で暗号化されたサイト
に接続する場合、インターネットエクスプローラをはじめとする
ブラウザが普通にやっていることであり、ネットユーザーは、そ
の仕組みについて知っておく必要があります。RSA方式につい
ては、明日のEJで具体的に説明します。
            ──[次世代テクノロジー論/50]

≪画像および関連情報≫
 ●NTTが国産量子コンピューター試作機を一般公開
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   NTTは、11月20日、スーパーコンピューターを超え
  る膨大な量の計算を瞬時にこなす「量子コンピューター」の
  試作機を27日から無償で一般公開すると発表した。試作機
  は、内閣府の革新的研究開発推進プログラムの一環で、国立
  情報学研究所などと共同開発した。国産の量子コンピュータ
  ーが公開されるのは初めて。
   開発した量子コンピューター「CNN」は、理化学研究所
  のスーパーコンピューター「菖蒲」と比べ100倍の速度で
  計算できる能力があり、AI(人工知能)への応用や交通渋
  滞の解消などに役立てられると期待されている。来年5月に
  は創薬などに応用できる仕組みを公開する。
   CNNは、光ファイバーの中を光パルスが回り、「組み合
  わせ最適化問題」と呼ばれる複雑な問いの解を一瞬で導く仕
  組み。競合のカナダのDウェーブシステムズが導入している
  超伝導を使った方式の量子コンピューターは低温環境に置く
  必要があるが、CNNは常温で使うことができ、扱いやすい
  という利点がある。さらにCNNの方が解ける問題の規模が
  30倍以上優れているという。NTT物性科学基礎研究所の
  武居弘樹上席特別研究員は、「いろいろなものの最適解を見
  つけ、さまざまな無駄が削減できる」と自信をみせた。
                   http://bit.ly/2BGPu92
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国産量子コンピュータ.jpg
国産量子コンピュータ
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする