2017年12月05日

●「IBM『ワトソン』を無料で提供」(EJ第4659号)

 2017年10月27日のことです。日本経済新聞の朝刊に次
のタイトルの記事が掲載されたのです。
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   米IBM「ワトソン」無料/会話・翻訳など6機能
                  AI使う開発促す
       2017年10月27日付/日本経済新聞
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 現代はAI(人工知能)の時代であるといわれます。長い研究
の積み重ねによって、AIの性能が最近大幅に向上し、多くの企
業が業務にAIを道具として使えるようになってきています。コ
ンピュータの性能が向上し、人間には不可能なほどの大量のデー
タを扱うことができるようになり、脳のメカニズムをヒントにし
たニューラルネットワークを多層化した「ディープラーニング」
という手法が、パターン認識にブレイクスルーを起こしたことが
きっかけになって、AIがさまざまな業務に幅広く使われるよう
になったのです。
 「ワトソン」はIBMが2007年から開発を進めてきたAI
による質問応答システムです。このシステムの最大の特徴は、何
といっても自然言語を操ることができることです。2011年に
米国のテレビの人気クイズ番組「ジョパディー」に出演し、過去
のグランドチャンピオンに圧勝したことで有名になったAIマシ
ンです。「ワトソン」は、出演に備えてニュース記事や百科事典
など何百万ページに相当する情報を取り込み、問題が出されると
それらの膨大なデータを分析し、理解して、正確な回答を導き出
したのです。
 「ワトソン」の性能について、『スマートマシン』の著者、林
雅之氏は次のように述べています。
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 ワトソンは、大量のデータ分析において自然言語を読み取るこ
とができるため、複雑な質問も理解できる。質問を出されると、
さまざまなデータから関連性のある情報を見つけて分析し、複数
の回答候補の中から回答の正確性を検証して評価を行い、根拠に
基づいた回答を提示する。また、質問を繰り返すことで賢くなり
これまでの成功と失敗のフィードバックをもとに、学習能力が高
まっていく。IBMでは、ワトソンのように、自ら学習するマシ
ンを「コグニティブ(認知型)コンピューティング」と呼ぶ。
                       ──林雅之著
      『スマートマシン/機械が考える時代』/洋泉社刊
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 現在、日本では、2014年頃から、三井住友銀行のコールセ
ンターで「ワトソン」が活用され、続いて、みずほ銀行、三菱東
京UFJ銀行などのメガバンクのコールセンターでも、「ワトソ
ン」は導入されています。銀行のコールセンターで「ワトソン」
がどのように活用されているかについて説明します。添付ファイ
ルを参照してください。
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 ワトソンが顧客の質問をテキストデータで取り込む。さらに取
り込んだ質問内容を解釈し、あらかじめ質問と回答のセットを格
納しておいたデータベース(DB)と照合する。照合先となるD
Bに格納する情報の元となるのは、問答集や業務マニュアルだ。
DBに格納された質問・回答の中から適切である確率(確信度)
の高い順に並べた結果をオペレーター画面に表示。オペレーター
はそれを参考にして、回答する。
 オペレーターが問い合わせに対する回答を全て暗記するのは至
難の業だ。特に金融機関では、誤った回答をするわけにはいかな
いという意識が強い。正確を期すためには熟練の担当者といえど
も、問答集や業務マニュアルを都度参照したり、現場責任者に確
認したりといった作業が必要になる。新人の場合はなおさらだ。
メガバンクがワトソンに期待するのは、こうした業務の負荷軽減
である。──『日経コンピュータ/ザ・ネクスト・テクノロジー
        脳に迫る人工知能最前線』/日経BPムック刊
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 しかし、「ワトソン」を活用するには、相当巨額の費用もかか
り、導入をためらう企業も多かったのです。ところが今回IBM
は、「ワトソン」を特定機能に限り、無料で、しかも期間無制限
で提供するサービスを開始し、既に多くの大学や企業などでの活
用がはじまっています。無料で提供するのは次の機能です。なお
その他の機能については有料課金になります。
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       @会話
       A翻訳
       B文章を基にした性格分析
       C対話を通じた意思決定支援
       D文章を基に感情や社交性を判断
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 ところで、IBMはなぜ「ワトソン」の無料提供に踏み切った
のでしょうか。
 それは、現在IBMは業績低迷が続いているので、その立て直
しを図るためです。目的は、牙城であるICTサービスの分野で
も猛威を振るう米アマゾンやグーグルに対抗するためです。アマ
ゾンは、ネットを通じて情報システムを使うクラウドサービスで
低価格を売り物に顧客を囲い込んでいるからです。
 そこでIBMとしては、「ワトソン」の無料提供によって、顧
客を自社サービスに呼び込み、自社クラウドユーザー企業を増加
させ、巻き返しを図る戦略です。IBMの強みは、過去のシステ
ム開発から得た経験やノウハウであり、ワトソンの無料提供に合
わせて、ビッグデータの分析、IoTのデータ処理の機能などに
ついても、今後無償化に踏み切り、何とかして、アマゾンのクラ
ウド市場での首位独走にストップをかけたいのです。
            ──[次世代テクノロジー論/49]

≪画像および関連情報≫
 ●AI「ワトソン」無料に/グーグルに対抗
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   米IBMは、11月から主力製品である人工知能(AI)
  「ワトソン」の無料提供に踏み切る。企業などは翻訳や性格
  分析など6つの基本機能を期間の制限なく世界中で利用でき
  るようになる。米グーグルが画像認識に強いAIで先行する
  が、IBMは汎用性の高い基盤システムとして業界標準化を
  目指す。無料にすることで開発者の裾野が広がり、AI活用
  の動きが産業界で加速しそうだ。IBMのロメッティCEO
  はAIのワトソンをてこに成長を探る。
   米IBMは、ワトソンの「会話」「翻訳」「文章を基にし
  た性格分析」「対話を通じた意思決定支援」「文章を基に感
  情や社交性を判断」など6つの基本機能を無料で提供する。
  従来は最低で数百万円程度かかるため導入をためらう企業が
  多かった。
   企業がワトソンの会話機能を使えば、チャットで自動応答
  する顧客対応窓口をネット上に開設することが可能になる。
  さらにチャットの内容から顧客の性格を分析し、マーケティ
  ングなどに活用するシステムも無料でつくれる。高度な機能
  を使う場合は有料とする。例えばオペレーターと顧客の通話
  内容を文章に変換するための「音声の文章変換」や、医療デ
  ータからがんを発見する「画像認識」などの周辺機能を使う
  場合は有料とする。一定の情報処理能力を超える場合も課金
  する。基本的なサービスを無料で提供することで顧客の裾野
  を拡大し、有料サービスに導く「フリーミアム」と呼ばれる
  ビジネスモデルを採用する。ワトソンのように汎用性の高い
  AIの基本機能を無期限で無償化するのは初めて。
                   http://bit.ly/2AHlrA8
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ワトソンを活用したコールセンター.jpg
ワトソンを活用したコールセンター
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする