2017年12月04日

●「現実世界はマトリックスそのもの」(EJ第4658号)

 AI(人工知能)が高度に発達して、人類はAI軍団との戦い
に敗れ、ほとんどの人間は、自分ではそれとわからないままに、
AI軍団の世界を維持する電池と化して、「マトリックス」とい
う仮想現実の世界に生かされている──これが映画『マトリック
ス』の世界観です。
 しかし、そういう現実に気が付く人間もいるのです。それが映
画に登場するモフィアスであり、トリニティであり、彼らを助け
る仲間たちです。そして彼らによって救出され、覚醒したネオ、
ザ・ワンがいます。
 これについて、映画『マトリックス』にヒントを与えたとされ
る劇場用アニメ『ゴースト・イン・ザ・シェル/攻殻機動隊』の
監督である押井守氏は、次のように述べています。
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 人間のマインド(心)を支配しているのはマトリックスに違い
ないが、言い換えれば、「これが現実」と思い込んでいる「自分
自身」に他ならないのである。モフィアスの言う「プリズン」の
意味が正しく理解できれば、物語後半、なぜネオが「心を解き放
つ」ことで超人的な能力を身に付けるに至ったか――というプロ
セスに納得が行く。肉体をプラグで拘束し、脳をプログラムで支
配するマトリックスは、人間にとって「憎むべき存在」だが、そ
のカラクリに気付かず、マトリックスが見せる世界を「現実」と
思い込んで操られているのは他ならぬ「人間自身」なのである。
                   http://bit.ly/2BlvPez
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 確かにそういわれてみると、われわれが住んでいる世界が仮想
現実ではないといい切るのはなかなか難しいことです。「この世
はリアルかフェイクか」──このテーマは、古来から宗教や芸術
などで多くの解明の試みが行われてきたのです。その研究のなか
に「シミュレーション仮説」というものがあります。
 それは、英国オックスフォード大学のニック・ボストロム教授
が提唱した仮説で、ボストロム教授は次のように述べています。
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 この世は、技術的にとても進んだ文明によって、微に入り細に
入り、豊かなシミュレーションソフトウェアである。
                ──ニック・ボストロム教授
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 「シミュレーション仮説」というのは、人類が生活しているこ
の世界は、すべて「シミュレーテッドリアリティ」であるとする
仮説のことです。まさに「マトリックス」と同じ世界です。
 ボストロム教授のこの仮説は、次の3つのポイントにまとめる
ことができます。
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 @何らかの文明が人工意識を備えた個体群を含むコンピュー
  タシミュレーションが構築される可能性がある。
 Aそのような文明は、そういうシミュレーションを多数、例
  えば、数10億個を実行することもあるだろう。
 Bシミュレーション内のシミュレートされた個体は彼らがシ
  ミュレーションの中にいると気づかないだろう。
        ──ウィキペディア http://bit.ly/2rV0LA3
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 「そんな馬鹿な!」というなかれ、ボストロム教授と同じ趣旨
の発言をしている人は他にもいるのです。それは、バンク・オブ
・アメリカ傘下の投資銀行メリルリンチと、世界的実業家のイー
ロン・マスク氏も次のように同趣旨の発言をしています。
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 ◎メリルリンチ
  われわれはすでに20〜50%の確率でバーチャルワール
  ドに住んでいる。
 ◎イーロン・マスク氏
  われわれが「天然」な世界に生きている可能性は、数10
  億分の1である。
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 このように考えると、映画『マトリックス』の世界は、まんざ
ら映画のなかの仮想の世界とはいえなくなります。このことに関
して、テクノロジを基軸とした起業家である小川和也氏は次のよ
うに述べています。
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 もし現在の我々がコンピュータによるシミュレーションの世界
に住んでいないとすれば、未来の人類は高度なシミュレーション
装置を造る技術に到達しないまま滅びてしまったのか、過去の人
類をシミュレータに閉じ込めて操ろうとしなかったのか、いずれ
の可能性もある。一方、シミュレーションの中で生きているなら
ば、人類の滅亡が回避された可能性の証しにもなる。思い切った
この仮説に、好奇心を大きくくすぐられる。シミュレーションの
中で生きているか否かを証明する方法がない現状において、仮説
は仮説の域を超えることはない。高度化したテクノロジーが不可
能を可能にし、未来が過去をシミュレーションの中に収めるとす
れば、その意図はどこにあるのか。      ──小川和也氏
                   http://bit.ly/2iCCxbD
─────────────────────────────
 難しい理屈は別として、現在人類のほとんどはスマホというコ
ンピュータを介してネットにつながっています。そして、電車に
乗っていても、家でくつろいでいても、仕事をしていても、歩い
ていてさえも間断なくスマホの画面を終始みつめています。片時
もスマホから離れられなくなっているのです。
 これは映画『マトリックス』で培養液のなかに浸され、脳をプ
ラグに接続され、マトリックスという仮想現実を見させられてい
るのとほとんど変わらない状況ではないでしょうか。まんざら映
画『マトリックス』の世界を絵空事とはいえないのです。
            ──[次世代テクノロジー論/48]

≪画像および関連情報≫
 ●「シミュレーション仮説」への反論/ウィキペディア
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   我々がシミュレーテッドリアリティの中にいるという主張
  への決定的な反論は計算不能な物理学現象の発見であろう。
  なぜならそのような現象が発見されれば、コンピュータがで
  きないことが現実に起きていて、コンピュータシミュレーシ
  ョンではそれを再現できないことになるからである。
   シミュレーションはリアルタイムで実行できないという反
  論もある。しかし、そこには重要な点が見逃されている。問
  題は線型性ではなく、むしろ無限の計算ステップを有限時間
  内に実行可能かという点である。
   しかし、チューリングマシン(TM)などでモデル化され
  る一般的計算システムは有限個の状態を取ることしかできな
  い。TMの内部状態をテープの内容と結びつけて可能な状態
  数を増やしたとしても、TMがとりうる状態数は枚挙可能な
  無限になるだけである。さらにTMは枚挙可能な状態遷移し
  かしない。同じことは科学的モデリングに使われるあらゆる
  計算機にも当てはまる。従って、通常の計算の説明では、数
  学全般や自然をマッピングできるだけの十分な状態数や状態
  遷移数を持たない。従って厳密に数学的な観点からは、あら
  ゆるものをコンピュータ内で表せるという考え方は支持でき
  ない。これらの主張は、チューリングマシンよりも強力とさ
  れる仮説的なハイパーコンピュータ上でのシミュレーション
  には当てはまらない。       http://bit.ly/2rV0LA3
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ニック・ボストロム教授.jpg
ニック・ボストロム教授 
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする