2017年12月01日

●「救世主が自動生成されるシステム」(EJ第4657号)

 ネット上には、映画『マトリックス』に関する分析やレポート
や論文が数多くアップロードされています。それらを参照しなが
らEJを書いていますが、なかでもマトリックスのシステムの謎
に鋭く迫っている優れたレポートがあります。映画をご覧になっ
た方は、一読の価値があります。
─────────────────────────────
  「マトリックスの世界と人生論を考察する」/勝手創千界
                 http://bit.ly/2Btykvz
─────────────────────────────
 以下は、このサイトの論考を私なりに解釈して、マトリックス
のメカニズムを解明していきます。
 「ザ・ワン」の救世主は、アノマリー(異端児)の数が一定数
に達すると、アノマリーの統合体として自然に生成される仕組み
になっています。映画での救世主ネオは、計算によると、6人目
の救世主ということになります。
 それでは、ザ・ワンの役割は何でしょうか。上記サイトの著者
は次のように述べています。
─────────────────────────────
 システム上のアノマリー、つまり現在のマトリックスの仕様に
より必然的に生まれたアノマリーは、一定以上蓄積されると特殊
な計算式により統合体となる。この統合体こそが救世主と呼ばれ
る存在で、緻密に計算された選択を自ら選んだ後、オラクル(預
言者)の発言により、アーキテクトの待つ白い部屋(モニターが
いっぱいある部屋)に導かれる。
 マトリックスはこのアノマリーの統合体である「救世主」を検
討し、参考にし、プログラムの元(ソース)を書き替え、それを
主プログラムにリロードすることで、アノマリーさえも計算に入
れた新しいバージョンへとバージョンアップする。
                   http://bit.ly/2Btykvz
─────────────────────────────
 これによると、ザ・ワンの役割は、マトリックスをリロードし
バージョンアップさせることです。そのさい、アノマリーの溜ま
り場であるザイオン都市もリセットされ、再生されることになり
ます。ザイオンの再生には、ザ・ワンがマトリックス内から、女
性を16体、男性7体を選択し、彼らを基にしてザイオンが一か
ら再生させることになります。
 マトリックスは、そのルールに従わないアノマリーが増え過ぎ
ると崩壊してしまうように設計されています。そのため、アノマ
リーが一定数に達すると、ザ・ワンが自動的に生成され、そのザ
・マンがあたかも主体的にマトリックスをバージョンアップさせ
結果としてマトリックスを存続させるのです。マトリックス自体
がそういうシステムになっているのです。
 ザ・ワンは、アーキテクトの待つ部屋に案内されますが、そこ
で究極の選択を迫られます。2つのドアの選択です。
─────────────────────────────
    右のドア ・・ マトリックスをリロードする
    左のドア ・・ 何もしないで元の世界に戻る
─────────────────────────────
 このアーキテクトとネオの対話シーンがあります。英語ですが
雰囲気はお伝えできると思います。このとき、ネオは自分はザ・
ワンであることを自覚してアーキテクトと対峙しています。
─────────────────────────────
     ◎アーキテクトとネオの対話/4分46秒
              http://bit.ly/2BjqAer
─────────────────────────────
 これまでのザ・ワンは、すべて右のドアを開けています。もし
左のドアを開けると、マトリックスは近く崩壊し、ザイオンもリ
セットされるので、全人類が死に絶えてしまうからです。どちら
のドアを開けるかは、ザ・ワンに一応託されていますが、実質上
右のドアしか選べないようになっているのです。
 このように、マトリックスのシステムの前提では、人間はマト
リックスの中か、ザイオンのどちらかにいることになります。し
たがって、マトリックスが崩壊してしまうと、全人類は死んでし
まうことになります。だから、ザ・ワンは右のドアしか開けられ
ないのです。
 しかし、モフィアスやトリニティは、ザイオンからも脱出して
いるのです。彼らは、必要に応じてマトリックスのなかに侵入し
スミスらと戦闘を繰り広げます。また、彼らはマトリックスのな
かでスミスたちと戦うための訓練プログラムの仮想空間まで用意
して、ザ・ワンであるとネオを鍛えるのです。
 モフィアスがネオを培養槽から救出し、仮想訓練空間でネオに
現在人類が置かれている状況を説明するシーンがあるので、ご覧
ください。英語ですが、時間は2分59秒です。
─────────────────────────────
     ◎訓練プログラムにようこそ/2分59秒
              http://bit.ly/1mueTY7
─────────────────────────────
 ザ・ワンのネオは、円形の部屋でアーキテクトと対決しますが
ネオは右のドアではなく、左のドアを開けるのです。つまり、マ
トリックスとザイオンの崩壊を選んだことになります。マトリッ
クスの状況が変化してきているからであり、ちょうどそのとき、
トリニティが危機的状況に陥っていたからです。躊躇いもなく左
のドアを開けたネオは、全速力でトリニティの救出に向います。
そういうザ・ワンのネオの行動に驚愕するアーキテクトの顔がと
ても印象的でした。
 このように、マトリックスのシステムは、実によく考えられて
おり、なかなか深淵です。勝手創千界のサイトの著者はこういっ
ています。「映画『マトリックス』は人間の精神世界の映像化を
果すための映像技術として革命的である」と。
            ──[次世代テクノロジー論/47]

≪画像および関連情報≫
 ●「アーキテクト」とは何者か
  ───────────────────────────
   予言に従い、「ソース」を目指し、ようやくたどりついた
  ネオ。ドアを開けると、そこには神々しい白い光が広がる。
  そして、そこにいたのは・・・。髭もじゃのただのおやじ。
  いや、失礼。「ソース」での出来事が、本作のクライマック
  スとなるだろうと思い、観客は見ていたに違いない。しかし
  そこにいたのは、ただのオヤジだった。彼は、「アークテキ
  ト(設計者)」と名乗る。マトリックスの生成と、ネオとザ
  イオンの正体について語るが、それは謎解きではなく、禅問
  答。哲学論議にも近い。前作では明かされなかったいくつか
  の秘密は明かされたが、このシーンを見て、余計映画が分か
  らなくなった人の方が多かったに違いない。本作で最も面食
  らうシーン。このシーンがあるがゆえに、ほんどの観客は、
  単純に痛快なアクション映画ではなく、「意味不明な不可解
  な映画」として、頭を抱えながら、帰宅するはめになる。
   さて「アーキテクト」とは何者だったのか?プログラム?
  AI?機械?人間?
   それともただのオヤジ?映画で彼が自ら語る以上の説明が
  ない以上、本当の「アーキテクト」の正体は、次作での追加
  説明を待たなくてはいけない。映画のストーリーり辻褄あわ
  せに熱心になると「マトリックス」は余計分からなくなる。
  しかし、もう少し映画を高いところから見て、「象徴」ある
  いは「テーマ」という視点から見ると、本作は実に単純であ
  る。彼自身は言う。「私がマトリックスを作った」アーキテ
  クトとは、マトリックスの作り手である。
                   http://bit.ly/2Ad1FvP
  ───────────────────────────

ザ・ワン(救世主)のネオとアーキテクトの対話.jpg
ザ・ワン(救世主)のネオとアーキテクトの対話
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月04日

●「現実世界はマトリックスそのもの」(EJ第4658号)

 AI(人工知能)が高度に発達して、人類はAI軍団との戦い
に敗れ、ほとんどの人間は、自分ではそれとわからないままに、
AI軍団の世界を維持する電池と化して、「マトリックス」とい
う仮想現実の世界に生かされている──これが映画『マトリック
ス』の世界観です。
 しかし、そういう現実に気が付く人間もいるのです。それが映
画に登場するモフィアスであり、トリニティであり、彼らを助け
る仲間たちです。そして彼らによって救出され、覚醒したネオ、
ザ・ワンがいます。
 これについて、映画『マトリックス』にヒントを与えたとされ
る劇場用アニメ『ゴースト・イン・ザ・シェル/攻殻機動隊』の
監督である押井守氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 人間のマインド(心)を支配しているのはマトリックスに違い
ないが、言い換えれば、「これが現実」と思い込んでいる「自分
自身」に他ならないのである。モフィアスの言う「プリズン」の
意味が正しく理解できれば、物語後半、なぜネオが「心を解き放
つ」ことで超人的な能力を身に付けるに至ったか――というプロ
セスに納得が行く。肉体をプラグで拘束し、脳をプログラムで支
配するマトリックスは、人間にとって「憎むべき存在」だが、そ
のカラクリに気付かず、マトリックスが見せる世界を「現実」と
思い込んで操られているのは他ならぬ「人間自身」なのである。
                   http://bit.ly/2BlvPez
─────────────────────────────
 確かにそういわれてみると、われわれが住んでいる世界が仮想
現実ではないといい切るのはなかなか難しいことです。「この世
はリアルかフェイクか」──このテーマは、古来から宗教や芸術
などで多くの解明の試みが行われてきたのです。その研究のなか
に「シミュレーション仮説」というものがあります。
 それは、英国オックスフォード大学のニック・ボストロム教授
が提唱した仮説で、ボストロム教授は次のように述べています。
─────────────────────────────
 この世は、技術的にとても進んだ文明によって、微に入り細に
入り、豊かなシミュレーションソフトウェアである。
                ──ニック・ボストロム教授
─────────────────────────────
 「シミュレーション仮説」というのは、人類が生活しているこ
の世界は、すべて「シミュレーテッドリアリティ」であるとする
仮説のことです。まさに「マトリックス」と同じ世界です。
 ボストロム教授のこの仮説は、次の3つのポイントにまとめる
ことができます。
─────────────────────────────
 @何らかの文明が人工意識を備えた個体群を含むコンピュー
  タシミュレーションが構築される可能性がある。
 Aそのような文明は、そういうシミュレーションを多数、例
  えば、数10億個を実行することもあるだろう。
 Bシミュレーション内のシミュレートされた個体は彼らがシ
  ミュレーションの中にいると気づかないだろう。
        ──ウィキペディア http://bit.ly/2rV0LA3
─────────────────────────────
 「そんな馬鹿な!」というなかれ、ボストロム教授と同じ趣旨
の発言をしている人は他にもいるのです。それは、バンク・オブ
・アメリカ傘下の投資銀行メリルリンチと、世界的実業家のイー
ロン・マスク氏も次のように同趣旨の発言をしています。
─────────────────────────────
 ◎メリルリンチ
  われわれはすでに20〜50%の確率でバーチャルワール
  ドに住んでいる。
 ◎イーロン・マスク氏
  われわれが「天然」な世界に生きている可能性は、数10
  億分の1である。
─────────────────────────────
 このように考えると、映画『マトリックス』の世界は、まんざ
ら映画のなかの仮想の世界とはいえなくなります。このことに関
して、テクノロジを基軸とした起業家である小川和也氏は次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 もし現在の我々がコンピュータによるシミュレーションの世界
に住んでいないとすれば、未来の人類は高度なシミュレーション
装置を造る技術に到達しないまま滅びてしまったのか、過去の人
類をシミュレータに閉じ込めて操ろうとしなかったのか、いずれ
の可能性もある。一方、シミュレーションの中で生きているなら
ば、人類の滅亡が回避された可能性の証しにもなる。思い切った
この仮説に、好奇心を大きくくすぐられる。シミュレーションの
中で生きているか否かを証明する方法がない現状において、仮説
は仮説の域を超えることはない。高度化したテクノロジーが不可
能を可能にし、未来が過去をシミュレーションの中に収めるとす
れば、その意図はどこにあるのか。      ──小川和也氏
                   http://bit.ly/2iCCxbD
─────────────────────────────
 難しい理屈は別として、現在人類のほとんどはスマホというコ
ンピュータを介してネットにつながっています。そして、電車に
乗っていても、家でくつろいでいても、仕事をしていても、歩い
ていてさえも間断なくスマホの画面を終始みつめています。片時
もスマホから離れられなくなっているのです。
 これは映画『マトリックス』で培養液のなかに浸され、脳をプ
ラグに接続され、マトリックスという仮想現実を見させられてい
るのとほとんど変わらない状況ではないでしょうか。まんざら映
画『マトリックス』の世界を絵空事とはいえないのです。
            ──[次世代テクノロジー論/48]

≪画像および関連情報≫
 ●「シミュレーション仮説」への反論/ウィキペディア
  ───────────────────────────
   我々がシミュレーテッドリアリティの中にいるという主張
  への決定的な反論は計算不能な物理学現象の発見であろう。
  なぜならそのような現象が発見されれば、コンピュータがで
  きないことが現実に起きていて、コンピュータシミュレーシ
  ョンではそれを再現できないことになるからである。
   シミュレーションはリアルタイムで実行できないという反
  論もある。しかし、そこには重要な点が見逃されている。問
  題は線型性ではなく、むしろ無限の計算ステップを有限時間
  内に実行可能かという点である。
   しかし、チューリングマシン(TM)などでモデル化され
  る一般的計算システムは有限個の状態を取ることしかできな
  い。TMの内部状態をテープの内容と結びつけて可能な状態
  数を増やしたとしても、TMがとりうる状態数は枚挙可能な
  無限になるだけである。さらにTMは枚挙可能な状態遷移し
  かしない。同じことは科学的モデリングに使われるあらゆる
  計算機にも当てはまる。従って、通常の計算の説明では、数
  学全般や自然をマッピングできるだけの十分な状態数や状態
  遷移数を持たない。従って厳密に数学的な観点からは、あら
  ゆるものをコンピュータ内で表せるという考え方は支持でき
  ない。これらの主張は、チューリングマシンよりも強力とさ
  れる仮説的なハイパーコンピュータ上でのシミュレーション
  には当てはまらない。       http://bit.ly/2rV0LA3
  ───────────────────────────

ニック・ボストロム教授.jpg
ニック・ボストロム教授 
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2017年12月05日

●「IBM『ワトソン』を無料で提供」(EJ第4659号)

 2017年10月27日のことです。日本経済新聞の朝刊に次
のタイトルの記事が掲載されたのです。
─────────────────────────────
   米IBM「ワトソン」無料/会話・翻訳など6機能
                  AI使う開発促す
       2017年10月27日付/日本経済新聞
─────────────────────────────
 現代はAI(人工知能)の時代であるといわれます。長い研究
の積み重ねによって、AIの性能が最近大幅に向上し、多くの企
業が業務にAIを道具として使えるようになってきています。コ
ンピュータの性能が向上し、人間には不可能なほどの大量のデー
タを扱うことができるようになり、脳のメカニズムをヒントにし
たニューラルネットワークを多層化した「ディープラーニング」
という手法が、パターン認識にブレイクスルーを起こしたことが
きっかけになって、AIがさまざまな業務に幅広く使われるよう
になったのです。
 「ワトソン」はIBMが2007年から開発を進めてきたAI
による質問応答システムです。このシステムの最大の特徴は、何
といっても自然言語を操ることができることです。2011年に
米国のテレビの人気クイズ番組「ジョパディー」に出演し、過去
のグランドチャンピオンに圧勝したことで有名になったAIマシ
ンです。「ワトソン」は、出演に備えてニュース記事や百科事典
など何百万ページに相当する情報を取り込み、問題が出されると
それらの膨大なデータを分析し、理解して、正確な回答を導き出
したのです。
 「ワトソン」の性能について、『スマートマシン』の著者、林
雅之氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 ワトソンは、大量のデータ分析において自然言語を読み取るこ
とができるため、複雑な質問も理解できる。質問を出されると、
さまざまなデータから関連性のある情報を見つけて分析し、複数
の回答候補の中から回答の正確性を検証して評価を行い、根拠に
基づいた回答を提示する。また、質問を繰り返すことで賢くなり
これまでの成功と失敗のフィードバックをもとに、学習能力が高
まっていく。IBMでは、ワトソンのように、自ら学習するマシ
ンを「コグニティブ(認知型)コンピューティング」と呼ぶ。
                       ──林雅之著
      『スマートマシン/機械が考える時代』/洋泉社刊
─────────────────────────────
 現在、日本では、2014年頃から、三井住友銀行のコールセ
ンターで「ワトソン」が活用され、続いて、みずほ銀行、三菱東
京UFJ銀行などのメガバンクのコールセンターでも、「ワトソ
ン」は導入されています。銀行のコールセンターで「ワトソン」
がどのように活用されているかについて説明します。添付ファイ
ルを参照してください。
─────────────────────────────
 ワトソンが顧客の質問をテキストデータで取り込む。さらに取
り込んだ質問内容を解釈し、あらかじめ質問と回答のセットを格
納しておいたデータベース(DB)と照合する。照合先となるD
Bに格納する情報の元となるのは、問答集や業務マニュアルだ。
DBに格納された質問・回答の中から適切である確率(確信度)
の高い順に並べた結果をオペレーター画面に表示。オペレーター
はそれを参考にして、回答する。
 オペレーターが問い合わせに対する回答を全て暗記するのは至
難の業だ。特に金融機関では、誤った回答をするわけにはいかな
いという意識が強い。正確を期すためには熟練の担当者といえど
も、問答集や業務マニュアルを都度参照したり、現場責任者に確
認したりといった作業が必要になる。新人の場合はなおさらだ。
メガバンクがワトソンに期待するのは、こうした業務の負荷軽減
である。──『日経コンピュータ/ザ・ネクスト・テクノロジー
        脳に迫る人工知能最前線』/日経BPムック刊
─────────────────────────────
 しかし、「ワトソン」を活用するには、相当巨額の費用もかか
り、導入をためらう企業も多かったのです。ところが今回IBM
は、「ワトソン」を特定機能に限り、無料で、しかも期間無制限
で提供するサービスを開始し、既に多くの大学や企業などでの活
用がはじまっています。無料で提供するのは次の機能です。なお
その他の機能については有料課金になります。
─────────────────────────────
       @会話
       A翻訳
       B文章を基にした性格分析
       C対話を通じた意思決定支援
       D文章を基に感情や社交性を判断
─────────────────────────────
 ところで、IBMはなぜ「ワトソン」の無料提供に踏み切った
のでしょうか。
 それは、現在IBMは業績低迷が続いているので、その立て直
しを図るためです。目的は、牙城であるICTサービスの分野で
も猛威を振るう米アマゾンやグーグルに対抗するためです。アマ
ゾンは、ネットを通じて情報システムを使うクラウドサービスで
低価格を売り物に顧客を囲い込んでいるからです。
 そこでIBMとしては、「ワトソン」の無料提供によって、顧
客を自社サービスに呼び込み、自社クラウドユーザー企業を増加
させ、巻き返しを図る戦略です。IBMの強みは、過去のシステ
ム開発から得た経験やノウハウであり、ワトソンの無料提供に合
わせて、ビッグデータの分析、IoTのデータ処理の機能などに
ついても、今後無償化に踏み切り、何とかして、アマゾンのクラ
ウド市場での首位独走にストップをかけたいのです。
            ──[次世代テクノロジー論/49]

≪画像および関連情報≫
 ●AI「ワトソン」無料に/グーグルに対抗
  ───────────────────────────
   米IBMは、11月から主力製品である人工知能(AI)
  「ワトソン」の無料提供に踏み切る。企業などは翻訳や性格
  分析など6つの基本機能を期間の制限なく世界中で利用でき
  るようになる。米グーグルが画像認識に強いAIで先行する
  が、IBMは汎用性の高い基盤システムとして業界標準化を
  目指す。無料にすることで開発者の裾野が広がり、AI活用
  の動きが産業界で加速しそうだ。IBMのロメッティCEO
  はAIのワトソンをてこに成長を探る。
   米IBMは、ワトソンの「会話」「翻訳」「文章を基にし
  た性格分析」「対話を通じた意思決定支援」「文章を基に感
  情や社交性を判断」など6つの基本機能を無料で提供する。
  従来は最低で数百万円程度かかるため導入をためらう企業が
  多かった。
   企業がワトソンの会話機能を使えば、チャットで自動応答
  する顧客対応窓口をネット上に開設することが可能になる。
  さらにチャットの内容から顧客の性格を分析し、マーケティ
  ングなどに活用するシステムも無料でつくれる。高度な機能
  を使う場合は有料とする。例えばオペレーターと顧客の通話
  内容を文章に変換するための「音声の文章変換」や、医療デ
  ータからがんを発見する「画像認識」などの周辺機能を使う
  場合は有料とする。一定の情報処理能力を超える場合も課金
  する。基本的なサービスを無料で提供することで顧客の裾野
  を拡大し、有料サービスに導く「フリーミアム」と呼ばれる
  ビジネスモデルを採用する。ワトソンのように汎用性の高い
  AIの基本機能を無期限で無償化するのは初めて。
                   http://bit.ly/2AHlrA8
  ───────────────────────────

ワトソンを活用したコールセンター.jpg
ワトソンを活用したコールセンター
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2017年12月06日

●「スパコンでも計算不能問題がある」(EJ第4660号)

 2017年11月20日のことです。朝日新聞朝刊のトップに
次の記事が掲載されました。
─────────────────────────────
 ◎国産量子コンピュータ無償公開
  /試作段階/改良し開発加速へ/計算速度スパコンを圧倒
  スーパーコンピューターをはるかに超える高速計算を実現
 する「量子コンピューター」の試作機を、国立情報学研究所
 などが開発し、27日から無償の利用サービスを始める。世
 界的な開発競争が進むなか、試作段階で公開して改良につな
 げ、2019年度末までに国産での実用化を目指す。
     ──2017年11月27日付、朝日新聞(朝刊)
─────────────────────────────
 昨日のEJでお知らせした「IBM/ワトソン無料公開」の記
事とよく似ています。最近では、こういう先端技術の記事が新聞
のトップを飾ることが多くなっています。
 ところで、量子コンピュータとは何でしょうか。
 EJの今回のテーマ「次世代テクノロジ−論」は、12月末ま
で続ける予定ですが、量子コンピュータについては、どうしても
避けて通れない問題です。これからの時代は従来のノイマン型コ
ンピュータでは乗り切ることが困難であるからです。
 量子コンピュータについては、10月27日のEJ第4634
号でも簡単に説明していますが、改めてもう少し詳しく述べるこ
とにします。
 EJ第4634号でも述べているように、現在のスパコンでも
解けない問題はたくさんあります。ここでひとつ問題を出すので
考えてみてください。
 ここにそれぞれ重さの異なる50個の荷物があります。この荷
物をスーツケースに入れていくのですが、その入れ方には次の2
つの条件があります。
─────────────────────────────
 @スーツケースには20キログラムという重量制限があって
  それを上回らないこと
 Aスーツケースに入れる荷物の重量を可能な限り、20キロ
  グラムに近づけること
─────────────────────────────
 最も効率的と思われる方法を考えてみます。50個の荷物の重
量を正確に秤で測り、その値をスパコンに入れます。そして最も
20キログラムに近くなる組み合わせを見つけるのです。その組
み合わせを計算すると、1000兆通り以上というとんでもない
組み合わせになってしまうのです。そうすると、スパコンでやっ
ても2週間以上かかる計算になります。
 この場合、荷物の数を増やしていくと、スパコンでも計算不能
になります。仮に荷物が100個になったとすると、その組み合
わせの数は、10の30乗通りになります。1の後ろに0が30
個並ぶのです。これをスパコンで計算すると、10兆年もかかっ
てしまいます。事実上計算不能です。このように、ちょっと考え
ると計算できそうにみえる問題ですら、現在のコンピュータでは
解けないのです。
 ここで視点を変えて、別の問題を考えてみることにします。次
の計算があります。
─────────────────────────────
         7 × 13 = 91
─────────────────────────────
 何でもない計算です。しかし、答えの「91」は何と何を掛け
た数であるかと問われたら、すぐに計算できるだろうか。この程
度の計算であれば、計算の得意な人であれば、すぐに答えが出せ
ると思います。まず、91を2で割り、割り切れないので、次に
3についてやってみるというようにやっていき、7でちょうど割
り切れ、13になるので、解が得られます。このように与えられ
た数をいつくかの数の掛け算のかたちにすることを「因数分解」
といいます。
 実は因数分解は難しい問題なのです。仮に6059については
因数分解できるでしょうか。こうなると、簡単には解けなくなり
ます。答えは次の通りです。
─────────────────────────────
       6059 = 73 × 83
─────────────────────────────
 実は、この「因数分解の難しさ」を利用して、インターネット
上の安全性を守っている暗号方式があります。それは「RSA方
式」と呼ばれています。これについて、野口悠紀雄氏は、この暗
号方式について次のように述べています。
─────────────────────────────
 ヘルマンとディフィーの発明に刺激を受けたグループの一つに
MITのロナルド・リベスト(R)、アディ・シャミア(S)、
レオナルド・エーデルマン(A)の3人組がいた。1年後彼らは
「公開鍵暗号」と呼ばれる方式を発明した。暗号名は彼らの名前
の頭文字をとってRSAとした。
 RSAの暗号の基本的な発想は、つぎのようなものだ。「公開
鍵」と、それに対応する「秘密鍵」という2つの鍵を作る。公開
鍵は公開するが、秘密鍵は作成者が秘匿する。公開鍵から秘密鍵
を計算することは(事実上)できない。   ──野口悠紀雄著
     『仮想通貨革命/ビットコインは始まりにすぎない』
                      ダイヤモンド社
─────────────────────────────
 このRSAという暗号方式は、ネット上で暗号化されたサイト
に接続する場合、インターネットエクスプローラをはじめとする
ブラウザが普通にやっていることであり、ネットユーザーは、そ
の仕組みについて知っておく必要があります。RSA方式につい
ては、明日のEJで具体的に説明します。
            ──[次世代テクノロジー論/50]

≪画像および関連情報≫
 ●NTTが国産量子コンピューター試作機を一般公開
  ───────────────────────────
   NTTは、11月20日、スーパーコンピューターを超え
  る膨大な量の計算を瞬時にこなす「量子コンピューター」の
  試作機を27日から無償で一般公開すると発表した。試作機
  は、内閣府の革新的研究開発推進プログラムの一環で、国立
  情報学研究所などと共同開発した。国産の量子コンピュータ
  ーが公開されるのは初めて。
   開発した量子コンピューター「CNN」は、理化学研究所
  のスーパーコンピューター「菖蒲」と比べ100倍の速度で
  計算できる能力があり、AI(人工知能)への応用や交通渋
  滞の解消などに役立てられると期待されている。来年5月に
  は創薬などに応用できる仕組みを公開する。
   CNNは、光ファイバーの中を光パルスが回り、「組み合
  わせ最適化問題」と呼ばれる複雑な問いの解を一瞬で導く仕
  組み。競合のカナダのDウェーブシステムズが導入している
  超伝導を使った方式の量子コンピューターは低温環境に置く
  必要があるが、CNNは常温で使うことができ、扱いやすい
  という利点がある。さらにCNNの方が解ける問題の規模が
  30倍以上優れているという。NTT物性科学基礎研究所の
  武居弘樹上席特別研究員は、「いろいろなものの最適解を見
  つけ、さまざまな無駄が削減できる」と自信をみせた。
                   http://bit.ly/2BGPu92
  ───────────────────────────

国産量子コンピュータ.jpg
国産量子コンピュータ
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2017年12月07日

●「RSA暗号は因数分解の原理使用」(EJ第4661号)

 「因数分解」について復習します。因数分解とは、要するにあ
る数を掛け算のかたちにすることです。例えば、「36」という
数を例に上げます。
─────────────────────────────
         36 = 2 × 18
─────────────────────────────
 この場合、2と18は36の「因数」と呼ばれます。そのため
「2×18」は36を因数分解した結果になります。ところで、
36は次のような掛け算の式にすることができます。
─────────────────────────────
      36 = 2 × 2 × 3 ×3
─────────────────────────────
 この場合、3と2は、1かその数でしか割り切れない数になっ
ています。こういう数を「素数」といい、上記は「素因数分解」
といわれます。暗号で利用されるのはこの素因数分解です。
 われわれは、ネットでメールを送受信していますが、そのメー
ルの内容が機密性の高いものである場合は注意が必要です。なぜ
なら、そのメールの内容が途中で見られたり、内容が改ざんされ
る恐れがあるからです。インターネットは、そういうことが簡単
にできてしまうネット空間なのです。
 そういうときに「RSA暗号方式」が使われます。既に述べて
いるように、この暗号方式は因数分解の原理を利用して作られた
暗号方式です。AさんからBさんに、ある契約書をメールで安全
に送る場合を考えます。添付ファイルの図を参照してください。
事前に次の2つの「鍵」を用意します。
─────────────────────────────
      @公開鍵
       ・平文を暗号文化する鍵である
      A秘密鍵
       ・暗号文を平文に戻す鍵である
─────────────────────────────
 「公開鍵」というのは、文字通り公開されている鍵のことです
が、その目的は、平文(誰にでも読める文章データ)を暗号化す
ることにあります。
 Aさんは、Bさんに契約書(平文)をBさんの公開鍵で暗号文
にして、メールでBさんに送ります。Bさんは、この暗号文を自
分の秘密鍵で復号し、平文に戻します。秘密鍵は文字通り、自分
だけが知っている鍵のことです。秘密鍵の目的は暗号文を平文に
戻すことにあります。
 このRSA暗号方式について、北海道大学電子科学研究所教授
の竹内茂樹氏は、自著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 例えば、あなたと友人は互いに秘密の番号が素数「3331」
であることを知っているとする。今、あなたは新たな秘密の番号
として、別の素数「3581」を伝えたい。しかし、電話、手紙
どの方法をとっても情報が盗まれる可能性がある。では、どうす
ればよいだろうか。
 方法は簡単である。既知の秘密の番号「3331」と新たな秘
密の番号「3581」を掛け合わせた数「11928311」を
電話や電子メールなどなんらかの方法で知らせればよい。友人は
受け取った数「11928311」を秘密の番号「3331」で
割り算することで、簡単に「3581」を得ることができる。
                      ──竹内茂樹著
        『量子コンピュータ/超並列計算のからくり』
            ブルーバックスB1469/講談社刊
─────────────────────────────
 メールで送信した「11928311」を因数分解することは
至難の業です。しかし、それを受け取った方の人が、秘密の番号
の「3331」さえ知っていれば、その数で、「1192831
1」を割れば、簡単に「3581」という数字を知ることができ
るので、簡単に暗号が解けるので便利です。RSA暗号方式には
そういうメリットがあるのです。
 しかし、「11928311」の因数分解は、絶対に解けない
桁数ではありません。そのため、秘密の番号の桁数を500桁に
すれば、掛け合わせた数は1000桁になります。こうなってく
ると、スパコンレベルのコンピュータでは解くのに時間がかかり
過ぎるので、事実上解くことは不可能になります。
 実際のRSA暗号方式の公開鍵や秘密鍵は数百桁の素数の積に
なっています。したがって、暗号が解読されることはないといえ
ます。しかし、条件があります。それは「現在のスパコンが今の
能力を超えることがない限りは」という条件です。
 現在のスーパーコンピュータの能力を超えるコンピュータとい
えば「量子コンピュータ」があります。量子コンピュータは、量
子力学の原理に基づいて動作するコンピュータであり、現在のノ
イマン型コンピュータとは比較にならない超高速で演算を行うこ
とができるといわれています。
 その演算速度は次の通りです。1万桁の因数分解に現在のスパ
コンの千倍高速の未来スパコンでも約1000億年かかりますが
量子コンピュータであれば、数時間から数日で解くことができる
といわれます。
─────────────────────────────
         スパコン 千倍高速コン 量子コンピュータ
因数分解/2百桁 約10年    約3日       数分
因数分解/1万桁 約千億年   約1億年   数時間〜数日
                ──竹内茂樹著の前掲書より
─────────────────────────────
 その量子コンピュータは、試作機ではありますが、既に使われ
つつあります。そうなると、因数分解を使うRSA暗号はすべて
解けてしまい、役に立たないことになります。
            ──[次世代テクノロジー論/51]

≪画像および関連情報≫
 ●「RSA暗号は量子コンピュータで破られない」
  ───────────────────────────
   RSA暗号の共同発明で知られる、アディ・シャミア教授
  (イスラエル・ワイツマン科学研究所)が2017年4月、
  国際科学技術財団から科学技術の進歩に大きく寄与した功績
  に送られる日本国際賞を受賞した。
   受賞会見でシャミア教授は、約40年間の研究の経緯を振
  り返り、最近の研究事例としてIoT(インターネット・オ
  ブ・シングズ)のセキュリティに警鐘を鳴らした。量子コン
  ピュータによる暗号解読の可能性や、日本の研究者への期待
  も語った。
   日本国際賞は1985年にノーベル賞並みの世界的な賞を
  作ろうと創設された。シャミア教授は学術分野として暗号学
  を確立した功績が、受賞理由となった。情報を安全に保管で
  きる「秘密分散法」や、秘匿情報に触れることなく個人を特
  定する「個人識別法」の開発のほか、共通鍵暗号を解読する
  「差分解読法」の発見などの業績で知られる。
   RSA暗号は1977年に米マサチューセッツ工科大学の
  ロナルド・リベスト氏、シャミア氏、レオナルド・エイドル
  マン氏が共同研究で開発。3人の頭文字をとって名付けられ
  た。インターネットなどでのあらゆるデータのやりとりに不
  可欠な技術だ。シャミア教授は会見で、大学で暗号学や暗号
  論として教えられるようになった40年間に及ぶ研究の歴史
  を振り返った。         http://nkbp.jp/2BIBVFY
  ───────────────────────────

「『因数分解』から生まれたRSA暗号」.jpg
「『因数分解』から生まれたRSA暗号」
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2017年12月08日

●「和歌における『折句』と『沓冠』」(EJ第4662号)

 このところ難しい話が続いています。頭休めとして、理学博士
竹内薫氏の量子コンピュータの本に出ていた暗号に関する話をご
紹介します。
 「ステガノグラフィー」という言葉があります。ウィキペディ
アで調べると、次のような意味です。
─────────────────────────────
 ステガノグラフィー(steganography) とは、データ隠蔽技術
の一つであり、データを他のデータに埋め込む技術のこと、ある
いはその研究を指す。 クリプトグラフィー(cryptography) が
メッセージの内容を読めなくする手段を提供するのに対して、ス
テガノグラフィーは存在自体を隠す点が異なる。
         ──ウィキペディア http://bit.ly/2B6lKFD
─────────────────────────────
 何でもない文書に重要な情報を隠して送るのですが、何も知ら
ない人には普通の文章に見えるものの、読み方のルールを知って
いる人には、ちゃんと伝わるのです。このように平文に情報を隠
す技術を「ステガノグラフィー」といいます。
 昔の歌人は、このステガノグラフィーを使って和歌のやり取り
をしていたといわれます。竹内薫氏の本には、徒然草の作者の吉
田兼好と、その兼好と共に和歌四天王とよばれた歌人・頓阿との
和歌でのステガノグラフィーの例が出ています。
─────────────────────────────
 ◎吉田兼好
  夜も涼し 寝覚めの仮庵 手枕も 
  ま袖も秋に へだてなき風
 「夜も涼しくなったわ。家がボロいやん?アチコチの隙間から
秋風が入って目ぇ覚めるねん」
 ◎頓阿
  夜も憂し 妬たく我が背子 果ては来ず 
  なほざりにだに 暫し訪ひませ
 「夜が長くて退屈しているねん。ツレやねんから、遊びに来た
らエエのに。気軽においでや」  ──竹内薫著/丸山篤史構成
 『量子コンピュータが本当にすごい/グーグル、NASAで実
         用が始まった“夢の”計算機』/PHP新書
─────────────────────────────
 一見すると時候の挨拶のように見えますが、各句の語頭をとり
さらに後ろから語尾を並べると、次のようになります。
─────────────────────────────
    ◎吉田兼好
     よねたまえ → 米を貸してくれませんか
     ぜにもほし → お金も少し貸してほしい
    ◎頓阿
     よねはなし → 米は残念だがありません
     ぜにすこし → お金なら少しありますが
                 ──竹内薫著の前掲書より
─────────────────────────────
 和歌においては、このようなテクニックのことを「折句」とか
「沓冠」といっていますが、こういう一種の言葉遊びは、平安時
代から現代まで続いてきているのです。
 暗号の話はこのくらいにして、現在のコンピュータがどういう
ものであるかについて説明することにします。なぜなら、現代の
コンピュータがどういうものかわからないと、量子コンピュータ
が理解できないからです。
 それでは、現代のコンピュータとは何でしょうか。
 現代のコンピュータのほとんどは「ノイマン型コンピュータ」
と呼ばれています。「ノイマン」とは、ハンガリー出身の米国の
数学者であるフォン・ノイマンのことで、彼の構想により、作ら
れたコンピュータをノイマン型コンピュータというのです。
 それは、「京」のようなスーパーコンピュータから、多くの人
が日常使っているウインドウズPC、アップルPC、そして各種
スマートフォンにいたるまで、すべてノイマン型コンピュータに
属するのです。
 地球シミュレータと呼ばれるコンピュータがあります。海洋研
究開発機構で使われているスーパーコンピュータです。もちろん
このコンピュータもノイマン型コンピュータであることには変わ
りはないのですが、どういうコンピュータか詳しく述べると、高
性能なPCを並列につないだものであることがわかります。
 地球シミュレータは、1つ1つが毎秒80億回の計算が可能な
小さなコンピュータを8台を1セットにして実に640セット、
全部で5120台を並列に接続しており、全体で最大毎秒40兆
回の計算ができる凄いコンピュータです。しかし、コンピュータ
自体はノイマン型なのです。
 一体フォン・ノイマンとは、どういう人物なのでしょうか。ど
うやら、単に稀有な数学者というだけではなく、幅広い分野で驚
くべき立派な業績を上げているのです。竹内薫氏は、ノイマンに
ついて次のように絶賛しています。
─────────────────────────────
 純粋数学から始まったフォン・ノイマンの経歴は、応用物理か
らコンピューター、経済学、気象学、生物学、心理学、政治へと
及ぶ。しかも、それぞれの業績は掛け持ち仕事だったのだから恐
れ入る。フォン・ノイマンの才能は、どんな分野だろうと関係な
かった。まるで石ころからダイアモンドに磨き上げてしまうよう
に、誰かの未成熟なアイデアを数学の力で瞬く間にキラキラ光る
宝物にしてしまうのだ。      ──竹内薫著の前掲書より
─────────────────────────────
 実は、フォン・ノイマンは、量子コンピュータの原理である量
子力学についても実績があるのです。いずれにしても、量子コン
ピュータを理解するには、現在のコンピュータであるノイマン型
コンピュータについて詳しく理解する必要があります。
            ──[次世代テクノロジー論/52]

≪画像および関連情報≫
 ●フォン・ノイマン/宇宙人説
  ───────────────────────────
   現代社会は、天才であふれている。はずみで大魚をつかん
  だ運才、自称天才、エセ天才、ただの詐欺師。もちろん、本
  物の天才もいる。もっとも、本物の天才ともなれば、ヒトと
  は限らない。染色体の数が47本、つまり、両親から受け継
  がない秘密の染色体を持っている可能性もある(人間の染色
  体は46本)。ところが、さらに恐ろしい仮説もある。
   1950年代、アメリカの名門プリンストン大学に、ジョ
  ン フォン ノイマンという数学者がいた。彼は非常な変わり
  者だったので、こんな陰口をたたかれていた。「ノイマンは
  人間そっくりだが、本当は宇宙人」。
   たいていの本では、ジョークですませているが、中には真
  に受けている本もある。いずれにせよ、それが本当なら、染
  色体の数どころの話ではない。染色体があるかどうかも怪し
  い。宇宙人なのだから。
   アメリカのニューメキシコ州に、歴史上初の原子爆弾を開
  発したロスアラモス研究所がある。1945年8月、ここで
  つくられた2個の原子爆弾は広島と長崎に投下されたが、こ
  の忌まわしい研究所で、不気味なうわさが流れていた。「ハ
  ンガリー人はじつは火星人である」。これが普通の職場なら
  「ただのヨタ話やろ」で一件落着なのだが、天下の頭脳が集
  まる研究所である。噂を流した本人も、第一級の科学者だろ
  うし、何か根拠があったに違いない。
                   http://bit.ly/2j8bLYB
  ───────────────────────────

フォン・ノイマン/世界的数学者.jpg
フォン・ノイマン/世界的数学者
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2017年12月11日

●「ノイマン型コンピュータとは何か」(EJ第4663号)

 ノイマン型コンピュータとは、どのようなコンピュータなので
しょうか。その特徴は次の6つです。
─────────────────────────────
     @        中央演算/制御装置
     A       アドレス付き記憶装置
     B          入力/出力装置
     Cデータとプログラムを区別しない記憶
     D             逐次処理
     E           2進法の採用
                ──竹内薫著/丸山篤史構成
 『量子コンピュータが本当にすごい/グーグル、NASAで実
         用が始まった“夢の”計算機』/PHP新書
─────────────────────────────
 私は、ここ約10年以上にわたって、あるICT企業の新入社
員の入社時技術教育として、コンピュータのハードウェアやネッ
トワークの基礎などを教える教育の仕事を続けています。
 教育対象者の新人は、今どきの若者らしくPCは自由に使いこ
なしていますが、彼らは、ハードウェアやインターネットのこと
になると、PC自作の経験を持つ一部の若者をのぞき、ほとんど
何も知らない人が多いのです。彼らの多くは、そういう教育を受
ける機会が全くなかったからです。
 上記のノイマン型コンピュータの6つの特徴でとくに注目すべ
きは、AとCです。これは「メインメモリー」を指しています。
メインメモリーは、日本語で「主記憶装置」と訳されますが、毎
日PCを使っていながら、このメインメモリの役割をほとんどの
人が理解していないのです。
 PCはどのように動作するのでしょうか。PCの構造について
まったく知らない人に対して、私は次のように説明することにし
ています。
 PCの動作に必要なウインドウズなどのOSや各種アプリケー
ション(ソフトウェア)、各種データはすべてハードディスクの
なかに収録されています。ここで大切なのは、ユーザーの立場で
ではなく、PCの立場に立って考えてみることです。そうすると
物事が見えてきます。
 PCの電源がオンされたとします。これは、ユーザーがPCを
使おうとする合図です。しかし、この時点では、ユーザーがどう
いうアプリケーションを使おうとしているかはわかりません。そ
こでPCは、メニューを表示することにして、必要なプログラム
やデータを次々とメインメモリのコピーしていきます。その結果
メニューを表示します。これをデスクトップといいます。これで
OSがメインメモリー上にコピーされ、展開されます。
 ここでユーザーが「ワード」をマウスでクリックしたとすると
PCはワードが使えるように、さらにメインメモリに必要なプロ
グラムやデータを追加してコピーします。
 ここで重要なのは、ハードディスクからプログラムやデータが
メインメモリ上にコピーされることです。つまり、ユーザーが使
うのは、コピーされたプログラムやデータであることです。この
ことがよく理解されていないのです。
 したがって、仮に操作ミスでそれらのプログラムやデータの一
部が壊れて、PCがフリーズしたとしても、それはPCの故障で
はなく、この場合はPCを終了させて、再起動すれば元に戻すこ
とができるわけです。
 メインメモリにはDRAMが使われています。DRAMの素材
はコンデンサであり、電源を切ってしまうと、すべてのプログラ
ムやデータは消えてしまいます。したがって、電源をオンするた
びにPCの動作に必要なOS、アプリケーション、データがメイ
ンメモリにコピーされることになります。
 メインメモリにコピーされたプログラムやデータは、アドレス
が付いて格納されているので、CPUがそれらを随時呼び出すこ
とができるようになっています。ノイマン型コンピュータの特徴
のAです。しかし、CPUはつねにメインメモリにアクセスしな
ければならず、多くの時間のロスを生んでいます。CPUの処理
速度に比べてメインメモリの処理が遅いからで、どうしてもPC
としての処理全体が、遅くなってしまうのです。そのためこれは
「フォン・ノイマン・ボトルネック」といわれるのです。ノイマ
ン型コンピュータの構造的な宿命であるといえます。
 さて、コンピュータが扱うデータには、次の2つがあります。
これら2つはメインメモリに区別なく存在することができます。
ノイマン型コンピュータの特徴Cです。
─────────────────────────────
           1.プログラム
           2.  データ
─────────────────────────────
 データにはマシンに対する動作の命令を意味しているデータと
その命令に応じたマシン動作によって使用され、加工されるデー
タの2つがあります。プログラムの方がデータより強いのです。
 あの「マトリックス」のなかの人間はデータで、人間がルール
を犯さないように監視し、処理するスミスなどはプログラム(命
令)として位置づけられています。
─────────────────────────────
 マトリクスの中の人類はあくまでデータで、プログラムによっ
て誘導されて流れていく。アノマリーを補正(洗脳)するプログ
ラムのエージェントを配置。エージェントから脱出したものはザ
イオンに逃れられるように仕組まれている。人類を分析するうち
に人類に興味を覚えていくアーキテクトにはオラクルという選択
肢と選択後の結果だけ分かるプログラムのパートナーが追加され
た。マトリクス内には、多くのプログラムが存在し、活動してい
る。                 http://bit.ly/2iIFL9S
─────────────────────────────
            ──[次世代テクノロジー論/53]

≪画像および関連情報≫
 ●プログラムはデータ
  ───────────────────────────
   コンピュータは電気で動いています。ってのは知ってます
  よね。すみません。中の動作は電気信号の遣り取りで決めら
  れています。ハードディスク(大抵ファイルを保管する大容
  量記録装置ですね)やCD、DVDといった、いわゆる記憶
  (記録)媒体は直接電気で記録してあるわけではありませんが
  これを読み取って、電気信号に変換することで初めて、コン
  ピュータの本体もこれを受け入れることができるわけです。
  「コンピュータの本体」といっても機械の箱のことではなく
  て、ここまでに述べてきた記憶装置(メモリー)と計算装置
  という限定された意味です。
   コンピュータは、このような電気信号を喰って対応する作
  業を実行するわけですが、このコンピュータに喰わせてコン
  ピュータを動かすものは、広い意味でデータといわれます。
  「喰わせる」といっても消費電力のことじゃありませんよ。
  このデータを「喰う」ことは、普通、「読み込む」といいま
  すね。ロード(load)するともいいます。
   このコンピュータに喰わせるデータには、大きくわけて二
  つの種類があります。一つは、機械に対する動作の命令を意
  味しているデータ、もう一つは、その命令に応じた機械に動
  作によって使用され、加工されるデータです。前者は、機械
  (マシン)コード、とか、マシンインストラクションといわ
  れます。多くの場合、短く「コード」と呼ばれます。
                   http://bit.ly/2ApArUf
  ───────────────────────────

PCの基本構造.jpg
PCの基本構造
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2017年12月12日

●「世界最初のコンピュータ/ABC」(EJ第4664号)

 ノイマン型コンピュータの6つの特徴を再現します。昨日11
日のEJでは、AとCについて説明しています。
─────────────────────────────
     @        中央演算/制御装置
     A       アドレス付き記憶装置
     B          入力/出力装置
     Cデータとプログラムを区別しない記憶
     D             逐次処理
   → E           2進法の採用
                ──竹内薫著/丸山篤史構成
 『量子コンピュータが本当にすごい/グーグル、NASAで実
         用が始まった“夢の”計算機』/PHP新書
─────────────────────────────
 量子コンピュータを理解するには、現在のコンピュータを理解
する必要があります。そして、その現代のコンピュータ──ノイ
マン型コンピュータを理解する一番良い方法は初期のコンピュー
タについて知ることです。
 一般的に世界で最初のコンピュータは米国のENIAC、その
完成度を高めたのは英国のEDSACであるといわれています。
そして、そのどちらにもフォン・ノイマンが関わっている──こ
れが定説になっています。
 確かにその通りで間違いはないのですが、実はENIACとE
DSACの前後、1942年と1949年の間に同じようなコン
ピュータ開発の試みがあったのです。年代順に並べると、次のよ
うになります。
─────────────────────────────
          完成年 演算方式 メモリ プログラム
 1.ABC   1942  2進数   ×     ×
 2.コロッサス 1943  2進数   ×     ×
 3.ENIAC 1946 10進数   ×     ×
 4.The Baby  1948  2進数   〇     〇
 5.EDSAC 1949  2進数   〇     〇
─────────────────────────────
 「ABC」は1942年にアイオア州立大学のアナタソプとベ
リーによって作られたまさしく世界最初のコンピュータです。A
BCというのは「アナタソプ(A)とベリー(B)のコンピュー
タ(C)」という意味です。
 ABCは、2進数を採用し、論理回路を使った演算装置を持っ
ていましたが、メモリというものはなかったのです。しかし、一
般には現在のコンピュータと同じコンデンサを使ったメモリを持
つと説明されていますが、これはメモリというよりも、レジスタ
(一時的記憶装置)のようなものだったようです。だが、ABC
は完成しないまま開発は中止されています。
 「コロッサス」は第2次世界大戦中の1943年、ドイツ軍が
ヒトラーと将官の通信に使われていたローレンツ暗号の解読のた
めに英国で作られたコンピュータです。当時ドイツの暗号といえ
ば「エニグマ」が有名ですが、ローレンツ暗号はそのエニグマを
さらに複雑にしたものです。2進数を使い、計算は真空管で行っ
ていますがメモリはなく、ローレンツ暗号解読専用のハードウェ
アであって、コンピュータと呼ぶには難があります。
 1946年に開発されたのは「ENIAC」です。これは世界
初のコンピュータといわれています。ペンシルバニア大学のムー
ア校で、モークリーとエッカートらによって、弾道計算という軍
事目的のために制作されています。しかし、第2次世界大戦に間
に合わなかったので、1946年2月14日の聖バレンタインの
日に機密のベールを脱いでいます。
 とにかく巨大なマシンです。ENIACは、17468本の真
空管を使い、床面積は100平方メートル、重量30トン、消費
電力は150キロワットに達していたのです。
 ENIACの最大の特色は、2進数ではなく、10進数を使っ
ていることです。そのため、1万7千本という膨大な真空管を要
したのです。しかし、メモリは存在せず、弾道計算に特化した専
用計算機だったといえます。
 ややこしいことですが、「EDVAC」というマシンも存在す
るのです。1949年に英ケンブリッジ大学で開発されたEDS
ACと名前が酷似しています。したがって、このEDVACとE
DSACを混同しているケースがよくありますが、正確には違う
コンピュータです。
 EDVACは、ENIACの設計チームが、後からENIAC
の設計に顧問として参加したフォン・ノイマンの次のレポートに
基づいて開発したコンピュータなのです。レポートの名称とコン
ピュータの正式名称を次に示します。
─────────────────────────────
         First Draft of a Report on the EDVAC
  Electronic Discrete Variable Automatic Calculator
─────────────────────────────
 このマシンは、2進数を採用し、メモリとして高速な遅延記憶
装置を備え、プログラムを内蔵しています。
 これとほぼ同じ内容のコンピュータが1949年のEDSAC
ですが、その1年前の1948年にThe Baby というコンピュー
タが開発されています。これは、マンチェスター大学のウィリア
ムスとギルバーンによって作られ、1948年6月にプログラム
の実行に成功しています。
 演算方式として2進数を使い、「蓄積記憶管」といわれるCR
Tをメモリとして使う方式を開発しています。データとプログラ
ムを区別することなくメモリに記憶し、それを高速で実行する最
初のプログラム内蔵式コンピュータです。しかしこのコンピュー
タは、あくまで実験機として開発され、非常に小規模なコンピュ
ータだったのです。このマシンとEDSACについては、明日の
EJで取り上げます。  ──[次世代テクノロジー論/54]

≪画像および関連情報≫
 ●『エニアック世界最初のコンピュータ開発秘話』を読んで
  ───────────────────────────
   以前、フォン・ノイマンの話をしたとき、彼がおそらく史
  上最高の高知能の持ち主だったかもしれないという話をした
  と思う。ノイマンに好意的な人々はもちろん今でも彼がノイ
  マン型コンピュータの発明者だと言うことを疑ってはいない
  だろう。しかし、本書の帯には「ノイマン、お前だけは許せ
  ない」といささか物騒なことが書かれている。私はどうもノ
  イマンにはマジシャン的なところが逢ったのではなかろうか
  ともいった。本当に頭の回転が速かったというよりも、むし
  ろいたずらが好きな性格だったのではなかろうかというわけ
  である。純情可憐な科学者の心など簡単にだませるので、計
  算機よりも早く計算を行ったというトリックも簡単にできる
  はずなのだ。もっとも、ノイマンにしてみればこんなのはた
  だの罪のないいたずらだ。
   日本ではノイマンという科学者はそれほど評価されていな
  いような気がする。内臓式プログラムミング機能をコンピュ
  ーターに組み込むことを定着させた人として、知られる程度
  だ。それに相したことを考案した最初の人ではないというこ
  とも知られている。だからアメリカでは日本とは逆にノイマ
  ンの評価が高いのかもしれないと思う程度ではある。
                   http://bit.ly/2B78SP1
  ───────────────────────────

初めてのコンピュータ「ABC」.jpg
初めてのコンピュータ「ABC」
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2017年12月13日

●「EDSACのメモリは特色がある」(EJ第4665号)

 世界初のコンピュータ開発の話の続きです。量子コンピュータ
について知るには、現代のノイマン式コンピュータについて知る
必要があります。世界初のコンピュータの表を再現します。
─────────────────────────────
          完成年 演算方式 メモリ プログラム
 1.ABC   1942  2進数   ×     ×
 2.コロッサス 1943  2進数   ×     ×
 3.ENIAC 1946 10進数   ×     ×
→4.The Baby  1948  2進数   〇     〇
→5.EDSAC 1949  2進数   〇     〇
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 「The Baby」──これは開発者が付けた愛称ですが、開発者は
マンチェスター大学のウィリアムスとギルバーンです。マシンの
正式名称は「SSEM」といいます。
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      SSEM=小規模実験機
      Small Scale Experimental Machine
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 このマシンの最大の特徴は、メインメモリがはじめて装備され
たことにあります。その名称は「蓄積記憶管」です。これはウィ
リアムスが開発したもので、その名をとって「ウィリアムス管」
とも呼ばれています。
 ウィリアムスは、CRTをメインメモリとして使ったのです。
CRT(Cathode Ray Tube/陰極線管)は、かつてテレビにも、
PCのディスプレイにも使われたことがある、あのブラウン管の
ことです。しかし、ブラウン管がメモリとして使われるというの
は、いささかわかりにくいですね。
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 陰極線管の蛍光面に電子が衝突すると光が放出される。このと
き副作用として衝突箇所の周囲は電荷がわずかに変化する。これ
を測定することによって陰極線管を単純な記憶装置として使用す
ることが可能になる。電荷はすぐに失われるため繰り返し電子を
衝突させることが必要であり、記憶保持動作が必要な、いわゆる
(広義の)Dynamic Randam Access Memory の一種といえる。
         ウィキペディア   http://bit.ly/2C1gIan
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 これは、ある意味において、現在のPCのメインメモリである
DRAMの動きに近いものがあります。DRAMの素材はコンデ
ンサですが、コンデンサは、トランジスタと違って電荷を貯める
のに不向きな素材です。そのため、メインメモリにコピーされた
データやプログラムはそのままでは消えてしまうので、大量の電
気をメインメモリに送って消えないように維持するのです。この
動作を「メモリ・リフレッシュ」といいます。
 ウィリアムスは、6インチのCRTを利用して、データをCR
Tの蛍光面上に残留する電荷として記憶されることに成功してい
ます。しかし、電荷は一時的には蛍光面上に留まるものの、すぐ
失われるので、電荷を読み出して、再書き込みを繰り返すことに
よって、データは維持されるのです。これは「リフレッシュ」と
呼ばれています。メモリ・リフレッシュと同じです。
 規模から考えても「The Baby」は、いわゆるウィリアム管がコ
ンピュータのメモリとして使えるかどうかを確認するためのテス
トマシンであることは明らかです。
 初めてのコンピュータのなかで、最も完成度が高く、汎用性も
あるコンピュータは、1949年にケンブリッジ大学のウィルク
スと英国ケンブリッジ大学の数学研究所のチームによって開発さ
れた「EDSAC」です。
 EDSACの開発にフォン・ノイマンが直接参加しているわけ
ではないのですが、ENIACの設計に関してフォン・ノイマン
が書いたEDVACのレポートが参考にされています。昨日EJ
でも書いたように、ENIACの制作チームは、ノイマンのED
VACのレポートにしたがって、新しいコンピュータの制作に着
手し、EDVACという名のコンピュータを作成していますが、
ケンブリッジ大学によるEDSACの方が先に完成してしまい、
EDVACは世界一の功績を奪われたのです。EDSACの完成
は1949年であり、EDVACは1951年です。
 EDSACには3000本の真空管が使われ、消費電力は12
キロワット、占有面積は20平方メートルと、ENIACに比べ
るときわめてコンパクトに仕上がっています。演算方式に2進数
を使い、メインメモリにプログラムを内蔵する典型的なノイマン
型コンピュータになっています。
 EDSACで一番特徴的なのはメインメモリです。それはコン
ピュータの名称にもあらわれています。
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   EDSAC
   Electronic Delay Storage Automatic Calculator
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 この名称のなかの「Delay Storage」 は「遅延線メモリ」を意
味しています。添付ファイルの写真のパイプが並んでいる長い箱
が遅延線メモリであり、これ全体でほぼ1キロバイトの記憶容量
になります。なお、写真の男性がEDSACの制作者であるウィ
ルクスです。
 管のなかに水銀を満たし、片方から超音波のパルスを与えると
超音波は水銀中を伝わって反対側に届きます。これを電気信号に
変えて、また超音波のパルスにして管に戻してやると、水銀のな
かで循環する超音波のパルスとしてデータを記憶させることがで
きるのです。これが遅延線メモリです。EDSACは、このメモ
リを2台備えており、2キロバイトのメモリであったことがわか
ります。当然のことですが、メインメモリが装備できないと、プ
ログラムを内蔵することができないのです。
            ──[次世代テクノロジー論/55]

≪画像および関連情報≫
 ●復元された「EDSAC」コンピュータ
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   英国ブレッチリーパークにある国立コンピューティング博
  物館で、世界に大きな影響を与えたコンピュータのうちの1
  台である「EDSAC」の復元を中心に据えた新たな展示が
  始まった。オリジナルのEDSACは、第2次世界大戦終了
  直後にケンブリッジ大学で作り上げられ、世界で最初の業務
  向けコンピュータであるLEOの基礎を築いた。
   EDSACの復元は、アンドリュー・ハーバード氏の率い
  る約20人のボランティアによっておよそ2年にわたって続
  けられてきており、このプロジェクトは2015年に完了す
  る予定となっている。現時点で、訪問者の興味を引くうえで
  十分なレベルにまで復元が進んでいる。コンピュータ歴史家
  であるマーティン・キャンベル・ケリー氏によると、コンピ
  ュータプログラミングの黎明期を象徴するマシンのプログラ
  ムを作成することに対する、若い人々への今後の動機付けに
  なるという。
   博物館のウェブサイトには「公式展示の開始時に、EDS
  ACの重要な特徴を示すデモが実施された。ビル・パービス
  氏は、キーボードのなかった時代にどのようにプログラムを
  入力していたのかや、ディスプレイ画面が普及していなかっ
  た時代にどのように結果が出力されていたのかを説明した。
                   http://bit.ly/2B8uOcu
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  ●写真/図出典 http://bit.ly/2jtWOAr

「遅延線メモリ」.jpg
「遅延線メモリ」
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする