2017年12月01日

●「救世主が自動生成されるシステム」(EJ第4657号)

 ネット上には、映画『マトリックス』に関する分析やレポート
や論文が数多くアップロードされています。それらを参照しなが
らEJを書いていますが、なかでもマトリックスのシステムの謎
に鋭く迫っている優れたレポートがあります。映画をご覧になっ
た方は、一読の価値があります。
─────────────────────────────
  「マトリックスの世界と人生論を考察する」/勝手創千界
                 http://bit.ly/2Btykvz
─────────────────────────────
 以下は、このサイトの論考を私なりに解釈して、マトリックス
のメカニズムを解明していきます。
 「ザ・ワン」の救世主は、アノマリー(異端児)の数が一定数
に達すると、アノマリーの統合体として自然に生成される仕組み
になっています。映画での救世主ネオは、計算によると、6人目
の救世主ということになります。
 それでは、ザ・ワンの役割は何でしょうか。上記サイトの著者
は次のように述べています。
─────────────────────────────
 システム上のアノマリー、つまり現在のマトリックスの仕様に
より必然的に生まれたアノマリーは、一定以上蓄積されると特殊
な計算式により統合体となる。この統合体こそが救世主と呼ばれ
る存在で、緻密に計算された選択を自ら選んだ後、オラクル(預
言者)の発言により、アーキテクトの待つ白い部屋(モニターが
いっぱいある部屋)に導かれる。
 マトリックスはこのアノマリーの統合体である「救世主」を検
討し、参考にし、プログラムの元(ソース)を書き替え、それを
主プログラムにリロードすることで、アノマリーさえも計算に入
れた新しいバージョンへとバージョンアップする。
                   http://bit.ly/2Btykvz
─────────────────────────────
 これによると、ザ・ワンの役割は、マトリックスをリロードし
バージョンアップさせることです。そのさい、アノマリーの溜ま
り場であるザイオン都市もリセットされ、再生されることになり
ます。ザイオンの再生には、ザ・ワンがマトリックス内から、女
性を16体、男性7体を選択し、彼らを基にしてザイオンが一か
ら再生させることになります。
 マトリックスは、そのルールに従わないアノマリーが増え過ぎ
ると崩壊してしまうように設計されています。そのため、アノマ
リーが一定数に達すると、ザ・ワンが自動的に生成され、そのザ
・マンがあたかも主体的にマトリックスをバージョンアップさせ
結果としてマトリックスを存続させるのです。マトリックス自体
がそういうシステムになっているのです。
 ザ・ワンは、アーキテクトの待つ部屋に案内されますが、そこ
で究極の選択を迫られます。2つのドアの選択です。
─────────────────────────────
    右のドア ・・ マトリックスをリロードする
    左のドア ・・ 何もしないで元の世界に戻る
─────────────────────────────
 このアーキテクトとネオの対話シーンがあります。英語ですが
雰囲気はお伝えできると思います。このとき、ネオは自分はザ・
ワンであることを自覚してアーキテクトと対峙しています。
─────────────────────────────
     ◎アーキテクトとネオの対話/4分46秒
              http://bit.ly/2BjqAer
─────────────────────────────
 これまでのザ・ワンは、すべて右のドアを開けています。もし
左のドアを開けると、マトリックスは近く崩壊し、ザイオンもリ
セットされるので、全人類が死に絶えてしまうからです。どちら
のドアを開けるかは、ザ・ワンに一応託されていますが、実質上
右のドアしか選べないようになっているのです。
 このように、マトリックスのシステムの前提では、人間はマト
リックスの中か、ザイオンのどちらかにいることになります。し
たがって、マトリックスが崩壊してしまうと、全人類は死んでし
まうことになります。だから、ザ・ワンは右のドアしか開けられ
ないのです。
 しかし、モフィアスやトリニティは、ザイオンからも脱出して
いるのです。彼らは、必要に応じてマトリックスのなかに侵入し
スミスらと戦闘を繰り広げます。また、彼らはマトリックスのな
かでスミスたちと戦うための訓練プログラムの仮想空間まで用意
して、ザ・ワンであるとネオを鍛えるのです。
 モフィアスがネオを培養槽から救出し、仮想訓練空間でネオに
現在人類が置かれている状況を説明するシーンがあるので、ご覧
ください。英語ですが、時間は2分59秒です。
─────────────────────────────
     ◎訓練プログラムにようこそ/2分59秒
              http://bit.ly/1mueTY7
─────────────────────────────
 ザ・ワンのネオは、円形の部屋でアーキテクトと対決しますが
ネオは右のドアではなく、左のドアを開けるのです。つまり、マ
トリックスとザイオンの崩壊を選んだことになります。マトリッ
クスの状況が変化してきているからであり、ちょうどそのとき、
トリニティが危機的状況に陥っていたからです。躊躇いもなく左
のドアを開けたネオは、全速力でトリニティの救出に向います。
そういうザ・ワンのネオの行動に驚愕するアーキテクトの顔がと
ても印象的でした。
 このように、マトリックスのシステムは、実によく考えられて
おり、なかなか深淵です。勝手創千界のサイトの著者はこういっ
ています。「映画『マトリックス』は人間の精神世界の映像化を
果すための映像技術として革命的である」と。
            ──[次世代テクノロジー論/47]

≪画像および関連情報≫
 ●「アーキテクト」とは何者か
  ───────────────────────────
   予言に従い、「ソース」を目指し、ようやくたどりついた
  ネオ。ドアを開けると、そこには神々しい白い光が広がる。
  そして、そこにいたのは・・・。髭もじゃのただのおやじ。
  いや、失礼。「ソース」での出来事が、本作のクライマック
  スとなるだろうと思い、観客は見ていたに違いない。しかし
  そこにいたのは、ただのオヤジだった。彼は、「アークテキ
  ト(設計者)」と名乗る。マトリックスの生成と、ネオとザ
  イオンの正体について語るが、それは謎解きではなく、禅問
  答。哲学論議にも近い。前作では明かされなかったいくつか
  の秘密は明かされたが、このシーンを見て、余計映画が分か
  らなくなった人の方が多かったに違いない。本作で最も面食
  らうシーン。このシーンがあるがゆえに、ほんどの観客は、
  単純に痛快なアクション映画ではなく、「意味不明な不可解
  な映画」として、頭を抱えながら、帰宅するはめになる。
   さて「アーキテクト」とは何者だったのか?プログラム?
  AI?機械?人間?
   それともただのオヤジ?映画で彼が自ら語る以上の説明が
  ない以上、本当の「アーキテクト」の正体は、次作での追加
  説明を待たなくてはいけない。映画のストーリーり辻褄あわ
  せに熱心になると「マトリックス」は余計分からなくなる。
  しかし、もう少し映画を高いところから見て、「象徴」ある
  いは「テーマ」という視点から見ると、本作は実に単純であ
  る。彼自身は言う。「私がマトリックスを作った」アーキテ
  クトとは、マトリックスの作り手である。
                   http://bit.ly/2Ad1FvP
  ───────────────────────────

ザ・ワン(救世主)のネオとアーキテクトの対話.jpg
ザ・ワン(救世主)のネオとアーキテクトの対話
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月04日

●「現実世界はマトリックスそのもの」(EJ第4658号)

 AI(人工知能)が高度に発達して、人類はAI軍団との戦い
に敗れ、ほとんどの人間は、自分ではそれとわからないままに、
AI軍団の世界を維持する電池と化して、「マトリックス」とい
う仮想現実の世界に生かされている──これが映画『マトリック
ス』の世界観です。
 しかし、そういう現実に気が付く人間もいるのです。それが映
画に登場するモフィアスであり、トリニティであり、彼らを助け
る仲間たちです。そして彼らによって救出され、覚醒したネオ、
ザ・ワンがいます。
 これについて、映画『マトリックス』にヒントを与えたとされ
る劇場用アニメ『ゴースト・イン・ザ・シェル/攻殻機動隊』の
監督である押井守氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 人間のマインド(心)を支配しているのはマトリックスに違い
ないが、言い換えれば、「これが現実」と思い込んでいる「自分
自身」に他ならないのである。モフィアスの言う「プリズン」の
意味が正しく理解できれば、物語後半、なぜネオが「心を解き放
つ」ことで超人的な能力を身に付けるに至ったか――というプロ
セスに納得が行く。肉体をプラグで拘束し、脳をプログラムで支
配するマトリックスは、人間にとって「憎むべき存在」だが、そ
のカラクリに気付かず、マトリックスが見せる世界を「現実」と
思い込んで操られているのは他ならぬ「人間自身」なのである。
                   http://bit.ly/2BlvPez
─────────────────────────────
 確かにそういわれてみると、われわれが住んでいる世界が仮想
現実ではないといい切るのはなかなか難しいことです。「この世
はリアルかフェイクか」──このテーマは、古来から宗教や芸術
などで多くの解明の試みが行われてきたのです。その研究のなか
に「シミュレーション仮説」というものがあります。
 それは、英国オックスフォード大学のニック・ボストロム教授
が提唱した仮説で、ボストロム教授は次のように述べています。
─────────────────────────────
 この世は、技術的にとても進んだ文明によって、微に入り細に
入り、豊かなシミュレーションソフトウェアである。
                ──ニック・ボストロム教授
─────────────────────────────
 「シミュレーション仮説」というのは、人類が生活しているこ
の世界は、すべて「シミュレーテッドリアリティ」であるとする
仮説のことです。まさに「マトリックス」と同じ世界です。
 ボストロム教授のこの仮説は、次の3つのポイントにまとめる
ことができます。
─────────────────────────────
 @何らかの文明が人工意識を備えた個体群を含むコンピュー
  タシミュレーションが構築される可能性がある。
 Aそのような文明は、そういうシミュレーションを多数、例
  えば、数10億個を実行することもあるだろう。
 Bシミュレーション内のシミュレートされた個体は彼らがシ
  ミュレーションの中にいると気づかないだろう。
        ──ウィキペディア http://bit.ly/2rV0LA3
─────────────────────────────
 「そんな馬鹿な!」というなかれ、ボストロム教授と同じ趣旨
の発言をしている人は他にもいるのです。それは、バンク・オブ
・アメリカ傘下の投資銀行メリルリンチと、世界的実業家のイー
ロン・マスク氏も次のように同趣旨の発言をしています。
─────────────────────────────
 ◎メリルリンチ
  われわれはすでに20〜50%の確率でバーチャルワール
  ドに住んでいる。
 ◎イーロン・マスク氏
  われわれが「天然」な世界に生きている可能性は、数10
  億分の1である。
─────────────────────────────
 このように考えると、映画『マトリックス』の世界は、まんざ
ら映画のなかの仮想の世界とはいえなくなります。このことに関
して、テクノロジを基軸とした起業家である小川和也氏は次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 もし現在の我々がコンピュータによるシミュレーションの世界
に住んでいないとすれば、未来の人類は高度なシミュレーション
装置を造る技術に到達しないまま滅びてしまったのか、過去の人
類をシミュレータに閉じ込めて操ろうとしなかったのか、いずれ
の可能性もある。一方、シミュレーションの中で生きているなら
ば、人類の滅亡が回避された可能性の証しにもなる。思い切った
この仮説に、好奇心を大きくくすぐられる。シミュレーションの
中で生きているか否かを証明する方法がない現状において、仮説
は仮説の域を超えることはない。高度化したテクノロジーが不可
能を可能にし、未来が過去をシミュレーションの中に収めるとす
れば、その意図はどこにあるのか。      ──小川和也氏
                   http://bit.ly/2iCCxbD
─────────────────────────────
 難しい理屈は別として、現在人類のほとんどはスマホというコ
ンピュータを介してネットにつながっています。そして、電車に
乗っていても、家でくつろいでいても、仕事をしていても、歩い
ていてさえも間断なくスマホの画面を終始みつめています。片時
もスマホから離れられなくなっているのです。
 これは映画『マトリックス』で培養液のなかに浸され、脳をプ
ラグに接続され、マトリックスという仮想現実を見させられてい
るのとほとんど変わらない状況ではないでしょうか。まんざら映
画『マトリックス』の世界を絵空事とはいえないのです。
            ──[次世代テクノロジー論/48]

≪画像および関連情報≫
 ●「シミュレーション仮説」への反論/ウィキペディア
  ───────────────────────────
   我々がシミュレーテッドリアリティの中にいるという主張
  への決定的な反論は計算不能な物理学現象の発見であろう。
  なぜならそのような現象が発見されれば、コンピュータがで
  きないことが現実に起きていて、コンピュータシミュレーシ
  ョンではそれを再現できないことになるからである。
   シミュレーションはリアルタイムで実行できないという反
  論もある。しかし、そこには重要な点が見逃されている。問
  題は線型性ではなく、むしろ無限の計算ステップを有限時間
  内に実行可能かという点である。
   しかし、チューリングマシン(TM)などでモデル化され
  る一般的計算システムは有限個の状態を取ることしかできな
  い。TMの内部状態をテープの内容と結びつけて可能な状態
  数を増やしたとしても、TMがとりうる状態数は枚挙可能な
  無限になるだけである。さらにTMは枚挙可能な状態遷移し
  かしない。同じことは科学的モデリングに使われるあらゆる
  計算機にも当てはまる。従って、通常の計算の説明では、数
  学全般や自然をマッピングできるだけの十分な状態数や状態
  遷移数を持たない。従って厳密に数学的な観点からは、あら
  ゆるものをコンピュータ内で表せるという考え方は支持でき
  ない。これらの主張は、チューリングマシンよりも強力とさ
  れる仮説的なハイパーコンピュータ上でのシミュレーション
  には当てはまらない。       http://bit.ly/2rV0LA3
  ───────────────────────────

ニック・ボストロム教授.jpg
ニック・ボストロム教授 
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2017年12月05日

●「IBM『ワトソン』を無料で提供」(EJ第4659号)

 2017年10月27日のことです。日本経済新聞の朝刊に次
のタイトルの記事が掲載されたのです。
─────────────────────────────
   米IBM「ワトソン」無料/会話・翻訳など6機能
                  AI使う開発促す
       2017年10月27日付/日本経済新聞
─────────────────────────────
 現代はAI(人工知能)の時代であるといわれます。長い研究
の積み重ねによって、AIの性能が最近大幅に向上し、多くの企
業が業務にAIを道具として使えるようになってきています。コ
ンピュータの性能が向上し、人間には不可能なほどの大量のデー
タを扱うことができるようになり、脳のメカニズムをヒントにし
たニューラルネットワークを多層化した「ディープラーニング」
という手法が、パターン認識にブレイクスルーを起こしたことが
きっかけになって、AIがさまざまな業務に幅広く使われるよう
になったのです。
 「ワトソン」はIBMが2007年から開発を進めてきたAI
による質問応答システムです。このシステムの最大の特徴は、何
といっても自然言語を操ることができることです。2011年に
米国のテレビの人気クイズ番組「ジョパディー」に出演し、過去
のグランドチャンピオンに圧勝したことで有名になったAIマシ
ンです。「ワトソン」は、出演に備えてニュース記事や百科事典
など何百万ページに相当する情報を取り込み、問題が出されると
それらの膨大なデータを分析し、理解して、正確な回答を導き出
したのです。
 「ワトソン」の性能について、『スマートマシン』の著者、林
雅之氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 ワトソンは、大量のデータ分析において自然言語を読み取るこ
とができるため、複雑な質問も理解できる。質問を出されると、
さまざまなデータから関連性のある情報を見つけて分析し、複数
の回答候補の中から回答の正確性を検証して評価を行い、根拠に
基づいた回答を提示する。また、質問を繰り返すことで賢くなり
これまでの成功と失敗のフィードバックをもとに、学習能力が高
まっていく。IBMでは、ワトソンのように、自ら学習するマシ
ンを「コグニティブ(認知型)コンピューティング」と呼ぶ。
                       ──林雅之著
      『スマートマシン/機械が考える時代』/洋泉社刊
─────────────────────────────
 現在、日本では、2014年頃から、三井住友銀行のコールセ
ンターで「ワトソン」が活用され、続いて、みずほ銀行、三菱東
京UFJ銀行などのメガバンクのコールセンターでも、「ワトソ
ン」は導入されています。銀行のコールセンターで「ワトソン」
がどのように活用されているかについて説明します。添付ファイ
ルを参照してください。
─────────────────────────────
 ワトソンが顧客の質問をテキストデータで取り込む。さらに取
り込んだ質問内容を解釈し、あらかじめ質問と回答のセットを格
納しておいたデータベース(DB)と照合する。照合先となるD
Bに格納する情報の元となるのは、問答集や業務マニュアルだ。
DBに格納された質問・回答の中から適切である確率(確信度)
の高い順に並べた結果をオペレーター画面に表示。オペレーター
はそれを参考にして、回答する。
 オペレーターが問い合わせに対する回答を全て暗記するのは至
難の業だ。特に金融機関では、誤った回答をするわけにはいかな
いという意識が強い。正確を期すためには熟練の担当者といえど
も、問答集や業務マニュアルを都度参照したり、現場責任者に確
認したりといった作業が必要になる。新人の場合はなおさらだ。
メガバンクがワトソンに期待するのは、こうした業務の負荷軽減
である。──『日経コンピュータ/ザ・ネクスト・テクノロジー
        脳に迫る人工知能最前線』/日経BPムック刊
─────────────────────────────
 しかし、「ワトソン」を活用するには、相当巨額の費用もかか
り、導入をためらう企業も多かったのです。ところが今回IBM
は、「ワトソン」を特定機能に限り、無料で、しかも期間無制限
で提供するサービスを開始し、既に多くの大学や企業などでの活
用がはじまっています。無料で提供するのは次の機能です。なお
その他の機能については有料課金になります。
─────────────────────────────
       @会話
       A翻訳
       B文章を基にした性格分析
       C対話を通じた意思決定支援
       D文章を基に感情や社交性を判断
─────────────────────────────
 ところで、IBMはなぜ「ワトソン」の無料提供に踏み切った
のでしょうか。
 それは、現在IBMは業績低迷が続いているので、その立て直
しを図るためです。目的は、牙城であるICTサービスの分野で
も猛威を振るう米アマゾンやグーグルに対抗するためです。アマ
ゾンは、ネットを通じて情報システムを使うクラウドサービスで
低価格を売り物に顧客を囲い込んでいるからです。
 そこでIBMとしては、「ワトソン」の無料提供によって、顧
客を自社サービスに呼び込み、自社クラウドユーザー企業を増加
させ、巻き返しを図る戦略です。IBMの強みは、過去のシステ
ム開発から得た経験やノウハウであり、ワトソンの無料提供に合
わせて、ビッグデータの分析、IoTのデータ処理の機能などに
ついても、今後無償化に踏み切り、何とかして、アマゾンのクラ
ウド市場での首位独走にストップをかけたいのです。
            ──[次世代テクノロジー論/49]

≪画像および関連情報≫
 ●AI「ワトソン」無料に/グーグルに対抗
  ───────────────────────────
   米IBMは、11月から主力製品である人工知能(AI)
  「ワトソン」の無料提供に踏み切る。企業などは翻訳や性格
  分析など6つの基本機能を期間の制限なく世界中で利用でき
  るようになる。米グーグルが画像認識に強いAIで先行する
  が、IBMは汎用性の高い基盤システムとして業界標準化を
  目指す。無料にすることで開発者の裾野が広がり、AI活用
  の動きが産業界で加速しそうだ。IBMのロメッティCEO
  はAIのワトソンをてこに成長を探る。
   米IBMは、ワトソンの「会話」「翻訳」「文章を基にし
  た性格分析」「対話を通じた意思決定支援」「文章を基に感
  情や社交性を判断」など6つの基本機能を無料で提供する。
  従来は最低で数百万円程度かかるため導入をためらう企業が
  多かった。
   企業がワトソンの会話機能を使えば、チャットで自動応答
  する顧客対応窓口をネット上に開設することが可能になる。
  さらにチャットの内容から顧客の性格を分析し、マーケティ
  ングなどに活用するシステムも無料でつくれる。高度な機能
  を使う場合は有料とする。例えばオペレーターと顧客の通話
  内容を文章に変換するための「音声の文章変換」や、医療デ
  ータからがんを発見する「画像認識」などの周辺機能を使う
  場合は有料とする。一定の情報処理能力を超える場合も課金
  する。基本的なサービスを無料で提供することで顧客の裾野
  を拡大し、有料サービスに導く「フリーミアム」と呼ばれる
  ビジネスモデルを採用する。ワトソンのように汎用性の高い
  AIの基本機能を無期限で無償化するのは初めて。
                   http://bit.ly/2AHlrA8
  ───────────────────────────

ワトソンを活用したコールセンター.jpg
ワトソンを活用したコールセンター
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2017年12月06日

●「スパコンでも計算不能問題がある」(EJ第4660号)

 2017年11月20日のことです。朝日新聞朝刊のトップに
次の記事が掲載されました。
─────────────────────────────
 ◎国産量子コンピュータ無償公開
  /試作段階/改良し開発加速へ/計算速度スパコンを圧倒
  スーパーコンピューターをはるかに超える高速計算を実現
 する「量子コンピューター」の試作機を、国立情報学研究所
 などが開発し、27日から無償の利用サービスを始める。世
 界的な開発競争が進むなか、試作段階で公開して改良につな
 げ、2019年度末までに国産での実用化を目指す。
     ──2017年11月27日付、朝日新聞(朝刊)
─────────────────────────────
 昨日のEJでお知らせした「IBM/ワトソン無料公開」の記
事とよく似ています。最近では、こういう先端技術の記事が新聞
のトップを飾ることが多くなっています。
 ところで、量子コンピュータとは何でしょうか。
 EJの今回のテーマ「次世代テクノロジ−論」は、12月末ま
で続ける予定ですが、量子コンピュータについては、どうしても
避けて通れない問題です。これからの時代は従来のノイマン型コ
ンピュータでは乗り切ることが困難であるからです。
 量子コンピュータについては、10月27日のEJ第4634
号でも簡単に説明していますが、改めてもう少し詳しく述べるこ
とにします。
 EJ第4634号でも述べているように、現在のスパコンでも
解けない問題はたくさんあります。ここでひとつ問題を出すので
考えてみてください。
 ここにそれぞれ重さの異なる50個の荷物があります。この荷
物をスーツケースに入れていくのですが、その入れ方には次の2
つの条件があります。
─────────────────────────────
 @スーツケースには20キログラムという重量制限があって
  それを上回らないこと
 Aスーツケースに入れる荷物の重量を可能な限り、20キロ
  グラムに近づけること
─────────────────────────────
 最も効率的と思われる方法を考えてみます。50個の荷物の重
量を正確に秤で測り、その値をスパコンに入れます。そして最も
20キログラムに近くなる組み合わせを見つけるのです。その組
み合わせを計算すると、1000兆通り以上というとんでもない
組み合わせになってしまうのです。そうすると、スパコンでやっ
ても2週間以上かかる計算になります。
 この場合、荷物の数を増やしていくと、スパコンでも計算不能
になります。仮に荷物が100個になったとすると、その組み合
わせの数は、10の30乗通りになります。1の後ろに0が30
個並ぶのです。これをスパコンで計算すると、10兆年もかかっ
てしまいます。事実上計算不能です。このように、ちょっと考え
ると計算できそうにみえる問題ですら、現在のコンピュータでは
解けないのです。
 ここで視点を変えて、別の問題を考えてみることにします。次
の計算があります。
─────────────────────────────
         7 × 13 = 91
─────────────────────────────
 何でもない計算です。しかし、答えの「91」は何と何を掛け
た数であるかと問われたら、すぐに計算できるだろうか。この程
度の計算であれば、計算の得意な人であれば、すぐに答えが出せ
ると思います。まず、91を2で割り、割り切れないので、次に
3についてやってみるというようにやっていき、7でちょうど割
り切れ、13になるので、解が得られます。このように与えられ
た数をいつくかの数の掛け算のかたちにすることを「因数分解」
といいます。
 実は因数分解は難しい問題なのです。仮に6059については
因数分解できるでしょうか。こうなると、簡単には解けなくなり
ます。答えは次の通りです。
─────────────────────────────
       6059 = 73 × 83
─────────────────────────────
 実は、この「因数分解の難しさ」を利用して、インターネット
上の安全性を守っている暗号方式があります。それは「RSA方
式」と呼ばれています。これについて、野口悠紀雄氏は、この暗
号方式について次のように述べています。
─────────────────────────────
 ヘルマンとディフィーの発明に刺激を受けたグループの一つに
MITのロナルド・リベスト(R)、アディ・シャミア(S)、
レオナルド・エーデルマン(A)の3人組がいた。1年後彼らは
「公開鍵暗号」と呼ばれる方式を発明した。暗号名は彼らの名前
の頭文字をとってRSAとした。
 RSAの暗号の基本的な発想は、つぎのようなものだ。「公開
鍵」と、それに対応する「秘密鍵」という2つの鍵を作る。公開
鍵は公開するが、秘密鍵は作成者が秘匿する。公開鍵から秘密鍵
を計算することは(事実上)できない。   ──野口悠紀雄著
     『仮想通貨革命/ビットコインは始まりにすぎない』
                      ダイヤモンド社
─────────────────────────────
 このRSAという暗号方式は、ネット上で暗号化されたサイト
に接続する場合、インターネットエクスプローラをはじめとする
ブラウザが普通にやっていることであり、ネットユーザーは、そ
の仕組みについて知っておく必要があります。RSA方式につい
ては、明日のEJで具体的に説明します。
            ──[次世代テクノロジー論/50]

≪画像および関連情報≫
 ●NTTが国産量子コンピューター試作機を一般公開
  ───────────────────────────
   NTTは、11月20日、スーパーコンピューターを超え
  る膨大な量の計算を瞬時にこなす「量子コンピューター」の
  試作機を27日から無償で一般公開すると発表した。試作機
  は、内閣府の革新的研究開発推進プログラムの一環で、国立
  情報学研究所などと共同開発した。国産の量子コンピュータ
  ーが公開されるのは初めて。
   開発した量子コンピューター「CNN」は、理化学研究所
  のスーパーコンピューター「菖蒲」と比べ100倍の速度で
  計算できる能力があり、AI(人工知能)への応用や交通渋
  滞の解消などに役立てられると期待されている。来年5月に
  は創薬などに応用できる仕組みを公開する。
   CNNは、光ファイバーの中を光パルスが回り、「組み合
  わせ最適化問題」と呼ばれる複雑な問いの解を一瞬で導く仕
  組み。競合のカナダのDウェーブシステムズが導入している
  超伝導を使った方式の量子コンピューターは低温環境に置く
  必要があるが、CNNは常温で使うことができ、扱いやすい
  という利点がある。さらにCNNの方が解ける問題の規模が
  30倍以上優れているという。NTT物性科学基礎研究所の
  武居弘樹上席特別研究員は、「いろいろなものの最適解を見
  つけ、さまざまな無駄が削減できる」と自信をみせた。
                   http://bit.ly/2BGPu92
  ───────────────────────────

国産量子コンピュータ.jpg
国産量子コンピュータ
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2017年12月07日

●「RSA暗号は因数分解の原理使用」(EJ第4661号)

 「因数分解」について復習します。因数分解とは、要するにあ
る数を掛け算のかたちにすることです。例えば、「36」という
数を例に上げます。
─────────────────────────────
         36 = 2 × 18
─────────────────────────────
 この場合、2と18は36の「因数」と呼ばれます。そのため
「2×18」は36を因数分解した結果になります。ところで、
36は次のような掛け算の式にすることができます。
─────────────────────────────
      36 = 2 × 2 × 3 ×3
─────────────────────────────
 この場合、3と2は、1かその数でしか割り切れない数になっ
ています。こういう数を「素数」といい、上記は「素因数分解」
といわれます。暗号で利用されるのはこの素因数分解です。
 われわれは、ネットでメールを送受信していますが、そのメー
ルの内容が機密性の高いものである場合は注意が必要です。なぜ
なら、そのメールの内容が途中で見られたり、内容が改ざんされ
る恐れがあるからです。インターネットは、そういうことが簡単
にできてしまうネット空間なのです。
 そういうときに「RSA暗号方式」が使われます。既に述べて
いるように、この暗号方式は因数分解の原理を利用して作られた
暗号方式です。AさんからBさんに、ある契約書をメールで安全
に送る場合を考えます。添付ファイルの図を参照してください。
事前に次の2つの「鍵」を用意します。
─────────────────────────────
      @公開鍵
       ・平文を暗号文化する鍵である
      A秘密鍵
       ・暗号文を平文に戻す鍵である
─────────────────────────────
 「公開鍵」というのは、文字通り公開されている鍵のことです
が、その目的は、平文(誰にでも読める文章データ)を暗号化す
ることにあります。
 Aさんは、Bさんに契約書(平文)をBさんの公開鍵で暗号文
にして、メールでBさんに送ります。Bさんは、この暗号文を自
分の秘密鍵で復号し、平文に戻します。秘密鍵は文字通り、自分
だけが知っている鍵のことです。秘密鍵の目的は暗号文を平文に
戻すことにあります。
 このRSA暗号方式について、北海道大学電子科学研究所教授
の竹内茂樹氏は、自著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 例えば、あなたと友人は互いに秘密の番号が素数「3331」
であることを知っているとする。今、あなたは新たな秘密の番号
として、別の素数「3581」を伝えたい。しかし、電話、手紙
どの方法をとっても情報が盗まれる可能性がある。では、どうす
ればよいだろうか。
 方法は簡単である。既知の秘密の番号「3331」と新たな秘
密の番号「3581」を掛け合わせた数「11928311」を
電話や電子メールなどなんらかの方法で知らせればよい。友人は
受け取った数「11928311」を秘密の番号「3331」で
割り算することで、簡単に「3581」を得ることができる。
                      ──竹内茂樹著
        『量子コンピュータ/超並列計算のからくり』
            ブルーバックスB1469/講談社刊
─────────────────────────────
 メールで送信した「11928311」を因数分解することは
至難の業です。しかし、それを受け取った方の人が、秘密の番号
の「3331」さえ知っていれば、その数で、「1192831
1」を割れば、簡単に「3581」という数字を知ることができ
るので、簡単に暗号が解けるので便利です。RSA暗号方式には
そういうメリットがあるのです。
 しかし、「11928311」の因数分解は、絶対に解けない
桁数ではありません。そのため、秘密の番号の桁数を500桁に
すれば、掛け合わせた数は1000桁になります。こうなってく
ると、スパコンレベルのコンピュータでは解くのに時間がかかり
過ぎるので、事実上解くことは不可能になります。
 実際のRSA暗号方式の公開鍵や秘密鍵は数百桁の素数の積に
なっています。したがって、暗号が解読されることはないといえ
ます。しかし、条件があります。それは「現在のスパコンが今の
能力を超えることがない限りは」という条件です。
 現在のスーパーコンピュータの能力を超えるコンピュータとい
えば「量子コンピュータ」があります。量子コンピュータは、量
子力学の原理に基づいて動作するコンピュータであり、現在のノ
イマン型コンピュータとは比較にならない超高速で演算を行うこ
とができるといわれています。
 その演算速度は次の通りです。1万桁の因数分解に現在のスパ
コンの千倍高速の未来スパコンでも約1000億年かかりますが
量子コンピュータであれば、数時間から数日で解くことができる
といわれます。
─────────────────────────────
         スパコン 千倍高速コン 量子コンピュータ
因数分解/2百桁 約10年    約3日       数分
因数分解/1万桁 約千億年   約1億年   数時間〜数日
                ──竹内茂樹著の前掲書より
─────────────────────────────
 その量子コンピュータは、試作機ではありますが、既に使われ
つつあります。そうなると、因数分解を使うRSA暗号はすべて
解けてしまい、役に立たないことになります。
            ──[次世代テクノロジー論/51]

≪画像および関連情報≫
 ●「RSA暗号は量子コンピュータで破られない」
  ───────────────────────────
   RSA暗号の共同発明で知られる、アディ・シャミア教授
  (イスラエル・ワイツマン科学研究所)が2017年4月、
  国際科学技術財団から科学技術の進歩に大きく寄与した功績
  に送られる日本国際賞を受賞した。
   受賞会見でシャミア教授は、約40年間の研究の経緯を振
  り返り、最近の研究事例としてIoT(インターネット・オ
  ブ・シングズ)のセキュリティに警鐘を鳴らした。量子コン
  ピュータによる暗号解読の可能性や、日本の研究者への期待
  も語った。
   日本国際賞は1985年にノーベル賞並みの世界的な賞を
  作ろうと創設された。シャミア教授は学術分野として暗号学
  を確立した功績が、受賞理由となった。情報を安全に保管で
  きる「秘密分散法」や、秘匿情報に触れることなく個人を特
  定する「個人識別法」の開発のほか、共通鍵暗号を解読する
  「差分解読法」の発見などの業績で知られる。
   RSA暗号は1977年に米マサチューセッツ工科大学の
  ロナルド・リベスト氏、シャミア氏、レオナルド・エイドル
  マン氏が共同研究で開発。3人の頭文字をとって名付けられ
  た。インターネットなどでのあらゆるデータのやりとりに不
  可欠な技術だ。シャミア教授は会見で、大学で暗号学や暗号
  論として教えられるようになった40年間に及ぶ研究の歴史
  を振り返った。         http://nkbp.jp/2BIBVFY
  ───────────────────────────

「『因数分解』から生まれたRSA暗号」.jpg
「『因数分解』から生まれたRSA暗号」
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2017年12月08日

●「和歌における『折句』と『沓冠』」(EJ第4662号)

 このところ難しい話が続いています。頭休めとして、理学博士
竹内薫氏の量子コンピュータの本に出ていた暗号に関する話をご
紹介します。
 「ステガノグラフィー」という言葉があります。ウィキペディ
アで調べると、次のような意味です。
─────────────────────────────
 ステガノグラフィー(steganography) とは、データ隠蔽技術
の一つであり、データを他のデータに埋め込む技術のこと、ある
いはその研究を指す。 クリプトグラフィー(cryptography) が
メッセージの内容を読めなくする手段を提供するのに対して、ス
テガノグラフィーは存在自体を隠す点が異なる。
         ──ウィキペディア http://bit.ly/2B6lKFD
─────────────────────────────
 何でもない文書に重要な情報を隠して送るのですが、何も知ら
ない人には普通の文章に見えるものの、読み方のルールを知って
いる人には、ちゃんと伝わるのです。このように平文に情報を隠
す技術を「ステガノグラフィー」といいます。
 昔の歌人は、このステガノグラフィーを使って和歌のやり取り
をしていたといわれます。竹内薫氏の本には、徒然草の作者の吉
田兼好と、その兼好と共に和歌四天王とよばれた歌人・頓阿との
和歌でのステガノグラフィーの例が出ています。
─────────────────────────────
 ◎吉田兼好
  夜も涼し 寝覚めの仮庵 手枕も 
  ま袖も秋に へだてなき風
 「夜も涼しくなったわ。家がボロいやん?アチコチの隙間から
秋風が入って目ぇ覚めるねん」
 ◎頓阿
  夜も憂し 妬たく我が背子 果ては来ず 
  なほざりにだに 暫し訪ひませ
 「夜が長くて退屈しているねん。ツレやねんから、遊びに来た
らエエのに。気軽においでや」  ──竹内薫著/丸山篤史構成
 『量子コンピュータが本当にすごい/グーグル、NASAで実
         用が始まった“夢の”計算機』/PHP新書
─────────────────────────────
 一見すると時候の挨拶のように見えますが、各句の語頭をとり
さらに後ろから語尾を並べると、次のようになります。
─────────────────────────────
    ◎吉田兼好
     よねたまえ → 米を貸してくれませんか
     ぜにもほし → お金も少し貸してほしい
    ◎頓阿
     よねはなし → 米は残念だがありません
     ぜにすこし → お金なら少しありますが
                 ──竹内薫著の前掲書より
─────────────────────────────
 和歌においては、このようなテクニックのことを「折句」とか
「沓冠」といっていますが、こういう一種の言葉遊びは、平安時
代から現代まで続いてきているのです。
 暗号の話はこのくらいにして、現在のコンピュータがどういう
ものであるかについて説明することにします。なぜなら、現代の
コンピュータがどういうものかわからないと、量子コンピュータ
が理解できないからです。
 それでは、現代のコンピュータとは何でしょうか。
 現代のコンピュータのほとんどは「ノイマン型コンピュータ」
と呼ばれています。「ノイマン」とは、ハンガリー出身の米国の
数学者であるフォン・ノイマンのことで、彼の構想により、作ら
れたコンピュータをノイマン型コンピュータというのです。
 それは、「京」のようなスーパーコンピュータから、多くの人
が日常使っているウインドウズPC、アップルPC、そして各種
スマートフォンにいたるまで、すべてノイマン型コンピュータに
属するのです。
 地球シミュレータと呼ばれるコンピュータがあります。海洋研
究開発機構で使われているスーパーコンピュータです。もちろん
このコンピュータもノイマン型コンピュータであることには変わ
りはないのですが、どういうコンピュータか詳しく述べると、高
性能なPCを並列につないだものであることがわかります。
 地球シミュレータは、1つ1つが毎秒80億回の計算が可能な
小さなコンピュータを8台を1セットにして実に640セット、
全部で5120台を並列に接続しており、全体で最大毎秒40兆
回の計算ができる凄いコンピュータです。しかし、コンピュータ
自体はノイマン型なのです。
 一体フォン・ノイマンとは、どういう人物なのでしょうか。ど
うやら、単に稀有な数学者というだけではなく、幅広い分野で驚
くべき立派な業績を上げているのです。竹内薫氏は、ノイマンに
ついて次のように絶賛しています。
─────────────────────────────
 純粋数学から始まったフォン・ノイマンの経歴は、応用物理か
らコンピューター、経済学、気象学、生物学、心理学、政治へと
及ぶ。しかも、それぞれの業績は掛け持ち仕事だったのだから恐
れ入る。フォン・ノイマンの才能は、どんな分野だろうと関係な
かった。まるで石ころからダイアモンドに磨き上げてしまうよう
に、誰かの未成熟なアイデアを数学の力で瞬く間にキラキラ光る
宝物にしてしまうのだ。      ──竹内薫著の前掲書より
─────────────────────────────
 実は、フォン・ノイマンは、量子コンピュータの原理である量
子力学についても実績があるのです。いずれにしても、量子コン
ピュータを理解するには、現在のコンピュータであるノイマン型
コンピュータについて詳しく理解する必要があります。
            ──[次世代テクノロジー論/52]

≪画像および関連情報≫
 ●フォン・ノイマン/宇宙人説
  ───────────────────────────
   現代社会は、天才であふれている。はずみで大魚をつかん
  だ運才、自称天才、エセ天才、ただの詐欺師。もちろん、本
  物の天才もいる。もっとも、本物の天才ともなれば、ヒトと
  は限らない。染色体の数が47本、つまり、両親から受け継
  がない秘密の染色体を持っている可能性もある(人間の染色
  体は46本)。ところが、さらに恐ろしい仮説もある。
   1950年代、アメリカの名門プリンストン大学に、ジョ
  ン フォン ノイマンという数学者がいた。彼は非常な変わり
  者だったので、こんな陰口をたたかれていた。「ノイマンは
  人間そっくりだが、本当は宇宙人」。
   たいていの本では、ジョークですませているが、中には真
  に受けている本もある。いずれにせよ、それが本当なら、染
  色体の数どころの話ではない。染色体があるかどうかも怪し
  い。宇宙人なのだから。
   アメリカのニューメキシコ州に、歴史上初の原子爆弾を開
  発したロスアラモス研究所がある。1945年8月、ここで
  つくられた2個の原子爆弾は広島と長崎に投下されたが、こ
  の忌まわしい研究所で、不気味なうわさが流れていた。「ハ
  ンガリー人はじつは火星人である」。これが普通の職場なら
  「ただのヨタ話やろ」で一件落着なのだが、天下の頭脳が集
  まる研究所である。噂を流した本人も、第一級の科学者だろ
  うし、何か根拠があったに違いない。
                   http://bit.ly/2j8bLYB
  ───────────────────────────

フォン・ノイマン/世界的数学者.jpg
フォン・ノイマン/世界的数学者
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2017年12月11日

●「ノイマン型コンピュータとは何か」(EJ第4663号)

 ノイマン型コンピュータとは、どのようなコンピュータなので
しょうか。その特徴は次の6つです。
─────────────────────────────
     @        中央演算/制御装置
     A       アドレス付き記憶装置
     B          入力/出力装置
     Cデータとプログラムを区別しない記憶
     D             逐次処理
     E           2進法の採用
                ──竹内薫著/丸山篤史構成
 『量子コンピュータが本当にすごい/グーグル、NASAで実
         用が始まった“夢の”計算機』/PHP新書
─────────────────────────────
 私は、ここ約10年以上にわたって、あるICT企業の新入社
員の入社時技術教育として、コンピュータのハードウェアやネッ
トワークの基礎などを教える教育の仕事を続けています。
 教育対象者の新人は、今どきの若者らしくPCは自由に使いこ
なしていますが、彼らは、ハードウェアやインターネットのこと
になると、PC自作の経験を持つ一部の若者をのぞき、ほとんど
何も知らない人が多いのです。彼らの多くは、そういう教育を受
ける機会が全くなかったからです。
 上記のノイマン型コンピュータの6つの特徴でとくに注目すべ
きは、AとCです。これは「メインメモリー」を指しています。
メインメモリーは、日本語で「主記憶装置」と訳されますが、毎
日PCを使っていながら、このメインメモリの役割をほとんどの
人が理解していないのです。
 PCはどのように動作するのでしょうか。PCの構造について
まったく知らない人に対して、私は次のように説明することにし
ています。
 PCの動作に必要なウインドウズなどのOSや各種アプリケー
ション(ソフトウェア)、各種データはすべてハードディスクの
なかに収録されています。ここで大切なのは、ユーザーの立場で
ではなく、PCの立場に立って考えてみることです。そうすると
物事が見えてきます。
 PCの電源がオンされたとします。これは、ユーザーがPCを
使おうとする合図です。しかし、この時点では、ユーザーがどう
いうアプリケーションを使おうとしているかはわかりません。そ
こでPCは、メニューを表示することにして、必要なプログラム
やデータを次々とメインメモリのコピーしていきます。その結果
メニューを表示します。これをデスクトップといいます。これで
OSがメインメモリー上にコピーされ、展開されます。
 ここでユーザーが「ワード」をマウスでクリックしたとすると
PCはワードが使えるように、さらにメインメモリに必要なプロ
グラムやデータを追加してコピーします。
 ここで重要なのは、ハードディスクからプログラムやデータが
メインメモリ上にコピーされることです。つまり、ユーザーが使
うのは、コピーされたプログラムやデータであることです。この
ことがよく理解されていないのです。
 したがって、仮に操作ミスでそれらのプログラムやデータの一
部が壊れて、PCがフリーズしたとしても、それはPCの故障で
はなく、この場合はPCを終了させて、再起動すれば元に戻すこ
とができるわけです。
 メインメモリにはDRAMが使われています。DRAMの素材
はコンデンサであり、電源を切ってしまうと、すべてのプログラ
ムやデータは消えてしまいます。したがって、電源をオンするた
びにPCの動作に必要なOS、アプリケーション、データがメイ
ンメモリにコピーされることになります。
 メインメモリにコピーされたプログラムやデータは、アドレス
が付いて格納されているので、CPUがそれらを随時呼び出すこ
とができるようになっています。ノイマン型コンピュータの特徴
のAです。しかし、CPUはつねにメインメモリにアクセスしな
ければならず、多くの時間のロスを生んでいます。CPUの処理
速度に比べてメインメモリの処理が遅いからで、どうしてもPC
としての処理全体が、遅くなってしまうのです。そのためこれは
「フォン・ノイマン・ボトルネック」といわれるのです。ノイマ
ン型コンピュータの構造的な宿命であるといえます。
 さて、コンピュータが扱うデータには、次の2つがあります。
これら2つはメインメモリに区別なく存在することができます。
ノイマン型コンピュータの特徴Cです。
─────────────────────────────
           1.プログラム
           2.  データ
─────────────────────────────
 データにはマシンに対する動作の命令を意味しているデータと
その命令に応じたマシン動作によって使用され、加工されるデー
タの2つがあります。プログラムの方がデータより強いのです。
 あの「マトリックス」のなかの人間はデータで、人間がルール
を犯さないように監視し、処理するスミスなどはプログラム(命
令)として位置づけられています。
─────────────────────────────
 マトリクスの中の人類はあくまでデータで、プログラムによっ
て誘導されて流れていく。アノマリーを補正(洗脳)するプログ
ラムのエージェントを配置。エージェントから脱出したものはザ
イオンに逃れられるように仕組まれている。人類を分析するうち
に人類に興味を覚えていくアーキテクトにはオラクルという選択
肢と選択後の結果だけ分かるプログラムのパートナーが追加され
た。マトリクス内には、多くのプログラムが存在し、活動してい
る。                 http://bit.ly/2iIFL9S
─────────────────────────────
            ──[次世代テクノロジー論/53]

≪画像および関連情報≫
 ●プログラムはデータ
  ───────────────────────────
   コンピュータは電気で動いています。ってのは知ってます
  よね。すみません。中の動作は電気信号の遣り取りで決めら
  れています。ハードディスク(大抵ファイルを保管する大容
  量記録装置ですね)やCD、DVDといった、いわゆる記憶
  (記録)媒体は直接電気で記録してあるわけではありませんが
  これを読み取って、電気信号に変換することで初めて、コン
  ピュータの本体もこれを受け入れることができるわけです。
  「コンピュータの本体」といっても機械の箱のことではなく
  て、ここまでに述べてきた記憶装置(メモリー)と計算装置
  という限定された意味です。
   コンピュータは、このような電気信号を喰って対応する作
  業を実行するわけですが、このコンピュータに喰わせてコン
  ピュータを動かすものは、広い意味でデータといわれます。
  「喰わせる」といっても消費電力のことじゃありませんよ。
  このデータを「喰う」ことは、普通、「読み込む」といいま
  すね。ロード(load)するともいいます。
   このコンピュータに喰わせるデータには、大きくわけて二
  つの種類があります。一つは、機械に対する動作の命令を意
  味しているデータ、もう一つは、その命令に応じた機械に動
  作によって使用され、加工されるデータです。前者は、機械
  (マシン)コード、とか、マシンインストラクションといわ
  れます。多くの場合、短く「コード」と呼ばれます。
                   http://bit.ly/2ApArUf
  ───────────────────────────

PCの基本構造.jpg
PCの基本構造
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2017年12月12日

●「世界最初のコンピュータ/ABC」(EJ第4664号)

 ノイマン型コンピュータの6つの特徴を再現します。昨日11
日のEJでは、AとCについて説明しています。
─────────────────────────────
     @        中央演算/制御装置
     A       アドレス付き記憶装置
     B          入力/出力装置
     Cデータとプログラムを区別しない記憶
     D             逐次処理
   → E           2進法の採用
                ──竹内薫著/丸山篤史構成
 『量子コンピュータが本当にすごい/グーグル、NASAで実
         用が始まった“夢の”計算機』/PHP新書
─────────────────────────────
 量子コンピュータを理解するには、現在のコンピュータを理解
する必要があります。そして、その現代のコンピュータ──ノイ
マン型コンピュータを理解する一番良い方法は初期のコンピュー
タについて知ることです。
 一般的に世界で最初のコンピュータは米国のENIAC、その
完成度を高めたのは英国のEDSACであるといわれています。
そして、そのどちらにもフォン・ノイマンが関わっている──こ
れが定説になっています。
 確かにその通りで間違いはないのですが、実はENIACとE
DSACの前後、1942年と1949年の間に同じようなコン
ピュータ開発の試みがあったのです。年代順に並べると、次のよ
うになります。
─────────────────────────────
          完成年 演算方式 メモリ プログラム
 1.ABC   1942  2進数   ×     ×
 2.コロッサス 1943  2進数   ×     ×
 3.ENIAC 1946 10進数   ×     ×
 4.The Baby  1948  2進数   〇     〇
 5.EDSAC 1949  2進数   〇     〇
─────────────────────────────
 「ABC」は1942年にアイオア州立大学のアナタソプとベ
リーによって作られたまさしく世界最初のコンピュータです。A
BCというのは「アナタソプ(A)とベリー(B)のコンピュー
タ(C)」という意味です。
 ABCは、2進数を採用し、論理回路を使った演算装置を持っ
ていましたが、メモリというものはなかったのです。しかし、一
般には現在のコンピュータと同じコンデンサを使ったメモリを持
つと説明されていますが、これはメモリというよりも、レジスタ
(一時的記憶装置)のようなものだったようです。だが、ABC
は完成しないまま開発は中止されています。
 「コロッサス」は第2次世界大戦中の1943年、ドイツ軍が
ヒトラーと将官の通信に使われていたローレンツ暗号の解読のた
めに英国で作られたコンピュータです。当時ドイツの暗号といえ
ば「エニグマ」が有名ですが、ローレンツ暗号はそのエニグマを
さらに複雑にしたものです。2進数を使い、計算は真空管で行っ
ていますがメモリはなく、ローレンツ暗号解読専用のハードウェ
アであって、コンピュータと呼ぶには難があります。
 1946年に開発されたのは「ENIAC」です。これは世界
初のコンピュータといわれています。ペンシルバニア大学のムー
ア校で、モークリーとエッカートらによって、弾道計算という軍
事目的のために制作されています。しかし、第2次世界大戦に間
に合わなかったので、1946年2月14日の聖バレンタインの
日に機密のベールを脱いでいます。
 とにかく巨大なマシンです。ENIACは、17468本の真
空管を使い、床面積は100平方メートル、重量30トン、消費
電力は150キロワットに達していたのです。
 ENIACの最大の特色は、2進数ではなく、10進数を使っ
ていることです。そのため、1万7千本という膨大な真空管を要
したのです。しかし、メモリは存在せず、弾道計算に特化した専
用計算機だったといえます。
 ややこしいことですが、「EDVAC」というマシンも存在す
るのです。1949年に英ケンブリッジ大学で開発されたEDS
ACと名前が酷似しています。したがって、このEDVACとE
DSACを混同しているケースがよくありますが、正確には違う
コンピュータです。
 EDVACは、ENIACの設計チームが、後からENIAC
の設計に顧問として参加したフォン・ノイマンの次のレポートに
基づいて開発したコンピュータなのです。レポートの名称とコン
ピュータの正式名称を次に示します。
─────────────────────────────
         First Draft of a Report on the EDVAC
  Electronic Discrete Variable Automatic Calculator
─────────────────────────────
 このマシンは、2進数を採用し、メモリとして高速な遅延記憶
装置を備え、プログラムを内蔵しています。
 これとほぼ同じ内容のコンピュータが1949年のEDSAC
ですが、その1年前の1948年にThe Baby というコンピュー
タが開発されています。これは、マンチェスター大学のウィリア
ムスとギルバーンによって作られ、1948年6月にプログラム
の実行に成功しています。
 演算方式として2進数を使い、「蓄積記憶管」といわれるCR
Tをメモリとして使う方式を開発しています。データとプログラ
ムを区別することなくメモリに記憶し、それを高速で実行する最
初のプログラム内蔵式コンピュータです。しかしこのコンピュー
タは、あくまで実験機として開発され、非常に小規模なコンピュ
ータだったのです。このマシンとEDSACについては、明日の
EJで取り上げます。  ──[次世代テクノロジー論/54]

≪画像および関連情報≫
 ●『エニアック世界最初のコンピュータ開発秘話』を読んで
  ───────────────────────────
   以前、フォン・ノイマンの話をしたとき、彼がおそらく史
  上最高の高知能の持ち主だったかもしれないという話をした
  と思う。ノイマンに好意的な人々はもちろん今でも彼がノイ
  マン型コンピュータの発明者だと言うことを疑ってはいない
  だろう。しかし、本書の帯には「ノイマン、お前だけは許せ
  ない」といささか物騒なことが書かれている。私はどうもノ
  イマンにはマジシャン的なところが逢ったのではなかろうか
  ともいった。本当に頭の回転が速かったというよりも、むし
  ろいたずらが好きな性格だったのではなかろうかというわけ
  である。純情可憐な科学者の心など簡単にだませるので、計
  算機よりも早く計算を行ったというトリックも簡単にできる
  はずなのだ。もっとも、ノイマンにしてみればこんなのはた
  だの罪のないいたずらだ。
   日本ではノイマンという科学者はそれほど評価されていな
  いような気がする。内臓式プログラムミング機能をコンピュ
  ーターに組み込むことを定着させた人として、知られる程度
  だ。それに相したことを考案した最初の人ではないというこ
  とも知られている。だからアメリカでは日本とは逆にノイマ
  ンの評価が高いのかもしれないと思う程度ではある。
                   http://bit.ly/2B78SP1
  ───────────────────────────

初めてのコンピュータ「ABC」.jpg
初めてのコンピュータ「ABC」
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2017年12月13日

●「EDSACのメモリは特色がある」(EJ第4665号)

 世界初のコンピュータ開発の話の続きです。量子コンピュータ
について知るには、現代のノイマン式コンピュータについて知る
必要があります。世界初のコンピュータの表を再現します。
─────────────────────────────
          完成年 演算方式 メモリ プログラム
 1.ABC   1942  2進数   ×     ×
 2.コロッサス 1943  2進数   ×     ×
 3.ENIAC 1946 10進数   ×     ×
→4.The Baby  1948  2進数   〇     〇
→5.EDSAC 1949  2進数   〇     〇
─────────────────────────────
 「The Baby」──これは開発者が付けた愛称ですが、開発者は
マンチェスター大学のウィリアムスとギルバーンです。マシンの
正式名称は「SSEM」といいます。
─────────────────────────────
      SSEM=小規模実験機
      Small Scale Experimental Machine
─────────────────────────────
 このマシンの最大の特徴は、メインメモリがはじめて装備され
たことにあります。その名称は「蓄積記憶管」です。これはウィ
リアムスが開発したもので、その名をとって「ウィリアムス管」
とも呼ばれています。
 ウィリアムスは、CRTをメインメモリとして使ったのです。
CRT(Cathode Ray Tube/陰極線管)は、かつてテレビにも、
PCのディスプレイにも使われたことがある、あのブラウン管の
ことです。しかし、ブラウン管がメモリとして使われるというの
は、いささかわかりにくいですね。
─────────────────────────────
 陰極線管の蛍光面に電子が衝突すると光が放出される。このと
き副作用として衝突箇所の周囲は電荷がわずかに変化する。これ
を測定することによって陰極線管を単純な記憶装置として使用す
ることが可能になる。電荷はすぐに失われるため繰り返し電子を
衝突させることが必要であり、記憶保持動作が必要な、いわゆる
(広義の)Dynamic Randam Access Memory の一種といえる。
         ウィキペディア   http://bit.ly/2C1gIan
─────────────────────────────
 これは、ある意味において、現在のPCのメインメモリである
DRAMの動きに近いものがあります。DRAMの素材はコンデ
ンサですが、コンデンサは、トランジスタと違って電荷を貯める
のに不向きな素材です。そのため、メインメモリにコピーされた
データやプログラムはそのままでは消えてしまうので、大量の電
気をメインメモリに送って消えないように維持するのです。この
動作を「メモリ・リフレッシュ」といいます。
 ウィリアムスは、6インチのCRTを利用して、データをCR
Tの蛍光面上に残留する電荷として記憶されることに成功してい
ます。しかし、電荷は一時的には蛍光面上に留まるものの、すぐ
失われるので、電荷を読み出して、再書き込みを繰り返すことに
よって、データは維持されるのです。これは「リフレッシュ」と
呼ばれています。メモリ・リフレッシュと同じです。
 規模から考えても「The Baby」は、いわゆるウィリアム管がコ
ンピュータのメモリとして使えるかどうかを確認するためのテス
トマシンであることは明らかです。
 初めてのコンピュータのなかで、最も完成度が高く、汎用性も
あるコンピュータは、1949年にケンブリッジ大学のウィルク
スと英国ケンブリッジ大学の数学研究所のチームによって開発さ
れた「EDSAC」です。
 EDSACの開発にフォン・ノイマンが直接参加しているわけ
ではないのですが、ENIACの設計に関してフォン・ノイマン
が書いたEDVACのレポートが参考にされています。昨日EJ
でも書いたように、ENIACの制作チームは、ノイマンのED
VACのレポートにしたがって、新しいコンピュータの制作に着
手し、EDVACという名のコンピュータを作成していますが、
ケンブリッジ大学によるEDSACの方が先に完成してしまい、
EDVACは世界一の功績を奪われたのです。EDSACの完成
は1949年であり、EDVACは1951年です。
 EDSACには3000本の真空管が使われ、消費電力は12
キロワット、占有面積は20平方メートルと、ENIACに比べ
るときわめてコンパクトに仕上がっています。演算方式に2進数
を使い、メインメモリにプログラムを内蔵する典型的なノイマン
型コンピュータになっています。
 EDSACで一番特徴的なのはメインメモリです。それはコン
ピュータの名称にもあらわれています。
─────────────────────────────
   EDSAC
   Electronic Delay Storage Automatic Calculator
─────────────────────────────
 この名称のなかの「Delay Storage」 は「遅延線メモリ」を意
味しています。添付ファイルの写真のパイプが並んでいる長い箱
が遅延線メモリであり、これ全体でほぼ1キロバイトの記憶容量
になります。なお、写真の男性がEDSACの制作者であるウィ
ルクスです。
 管のなかに水銀を満たし、片方から超音波のパルスを与えると
超音波は水銀中を伝わって反対側に届きます。これを電気信号に
変えて、また超音波のパルスにして管に戻してやると、水銀のな
かで循環する超音波のパルスとしてデータを記憶させることがで
きるのです。これが遅延線メモリです。EDSACは、このメモ
リを2台備えており、2キロバイトのメモリであったことがわか
ります。当然のことですが、メインメモリが装備できないと、プ
ログラムを内蔵することができないのです。
            ──[次世代テクノロジー論/55]

≪画像および関連情報≫
 ●復元された「EDSAC」コンピュータ
  ───────────────────────────
   英国ブレッチリーパークにある国立コンピューティング博
  物館で、世界に大きな影響を与えたコンピュータのうちの1
  台である「EDSAC」の復元を中心に据えた新たな展示が
  始まった。オリジナルのEDSACは、第2次世界大戦終了
  直後にケンブリッジ大学で作り上げられ、世界で最初の業務
  向けコンピュータであるLEOの基礎を築いた。
   EDSACの復元は、アンドリュー・ハーバード氏の率い
  る約20人のボランティアによっておよそ2年にわたって続
  けられてきており、このプロジェクトは2015年に完了す
  る予定となっている。現時点で、訪問者の興味を引くうえで
  十分なレベルにまで復元が進んでいる。コンピュータ歴史家
  であるマーティン・キャンベル・ケリー氏によると、コンピ
  ュータプログラミングの黎明期を象徴するマシンのプログラ
  ムを作成することに対する、若い人々への今後の動機付けに
  なるという。
   博物館のウェブサイトには「公式展示の開始時に、EDS
  ACの重要な特徴を示すデモが実施された。ビル・パービス
  氏は、キーボードのなかった時代にどのようにプログラムを
  入力していたのかや、ディスプレイ画面が普及していなかっ
  た時代にどのように結果が出力されていたのかを説明した。
                   http://bit.ly/2B8uOcu
  ───────────────────────────
  ●写真/図出典 http://bit.ly/2jtWOAr

「遅延線メモリ」.jpg
「遅延線メモリ」
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2017年12月14日

●「コンピュータはなぜ2進数なのか」(EJ第4666号)

 コンピュータが2進数で動いていることは、誰でも知っている
ことです。しかし、2進数については、小学校の算数の授業で、
あまり多くの時間をとって教えていないそうです。これひとつと
っても、日本のコンピュータ教育は間違っていると思います。コ
ンピュータを構造的に理解するには、2進数の理解は避けて通れ
ないからです。そういうわけで、ノイマン型コンピュータの6つ
の特徴の6番目も「2進数」になっていたはずです。
 ところが、世界初のコンピュータといわれるENIACの演算
方式は10進数です。しかし、ENIAC完成後、フォン・ノイ
マンのアドバイスによって1951年に完成したEDVACの演
算方式は2進数で再構築されています。
 ところでわれわれ人類は、なぜ、当たり前のように10進数を
使っているのでしょうか。これに対するネット上の解説の一つを
ご紹介します。
─────────────────────────────
 10進数が定着した理由には諸説あるのですが、その1つに、
「人間の指が両手で10本あるから」というものがあります。も
ともと数字は物を数えるためのものとして誕生し、誕生したばか
りの数字は、自然数(1,2,3,4・・・)だったと言われて
います。ちなみに、その後0やマイナスの数が誕生し、整数が生
まれたと言われています。
 物を数えるために身近に使えるものはやはり手の指です。両手
の指10本を1つの単位として、10本で一区切り、11からは
2人目の人の指を使う、10人の人の指を使いきったら、またそ
れを一区切りにして101からは11人目の人の指を使うといっ
た感じで物を数えていき、10進数が定着したのでしょう。
 もし、人間に指がなく、2本の腕しかなければ、2進数が採用
されていたかもしれませんし、ブタのヒヅメのように、2本の指
しかなかったら、4進数が採用されていたのかもしれません。さ
てさて、この指が10本だから10進数が定着したという仮説は
あくまで仮説です。指が6本ある宇宙人の星に行って、そこで、
12進数が定着していればこの仮説の信ぴょう性も増しますね!
                   http://bit.ly/2Ag2ReY
─────────────────────────────
 10進数に慣れている人にとって、2進数はかなり扱いにくい
ものです。仮に2進数で「110」が示されたとすると、うっか
り「ひゃくじゅう」と呼んでしまうものです。しかし、2進数の
「110」(いちいちれい)は、次のことを意味しています。2
進数の「110」は10進数の「6」なのです。
─────────────────────────────
    1×2の2乗+1×2の1乗+0×2の0乗=6
─────────────────────────────
 念のため、10進数のことを知らない宇宙人と地球人の567
をめぐる会話をご覧ください。
─────────────────────────────
宇宙人:567とは何ですか。
地球人:「ごひゃく・ろくじゅう・なな」です。
宇宙人:???..5+6+7=18という意味ですか。
地球人:いえいえ。567の5は「100が5個」、6は「10
    が6個」、7は「1が7個」を表しています。567全
    体で、5×100+6×10+7×1を表しています。
宇宙人:なるほど、一番右が1、その次が10、その次が100
    というように、数字を書く位置がひとつ左にずれると、
    10倍になるのですね!
地球人:そうです。地球では、数字を書く位置のことを「桁」も
    しくは「位」と呼んでいます。
宇宙人:なかなか面白い表し方ですね!
                  http://nkbp.jp/2AvulBy
─────────────────────────────
 この原理がわかっていれば、2進数を10進数にすることなど
簡単なのですが、どうも2進数が苦手の人が多いのです。しかし
コンピュータに強くなるには、2進数を縦横無尽に使いこなせる
必要があります。
 ところで、コンピュータは、なぜ2進数を使うのでしょうか。
何か特別な理由があるのでしょうか。
─────────────────────────────
       1.ハードウェアが簡単に作れる
       2.演算処理が極めて簡単である
       3.論理回路で全てを演算できる
─────────────────────────────
 第1の理由は「ハードウェアが簡単に作れる」ことです。
 コンピュータの内部には、単純な動作をする同じような回路や
部品がたくさんあります。2進数であれば、入力も出力も「0」
と「1」であり、回路や部品の構成がシンプルであるというメリ
ットがあります。
 第2の理由は「演算処理が極めて簡単である」ことです。
 10進数だと、0〜9までの掛け算で合計100通りになりま
すが、2進数ならたった4通りで済みます。演算処理が簡単なら
故障も少ないのです。10進数を採用したENIACは、演算処
理が複雑で、毎日故障の連続だったといいます。
 第3の理由は「論理回路で全てを演算できる」ことです。
 2進数であれば、簡単に「論理回路」が作れるので、あらゆる
計算が可能になります。これは、19世紀の数学者であるジョー
ジ・ブ―ルが提唱した「ブール代数」に基づいています。0また
は1の2つの値だけを持つ変数を用いる論理です。論理回路は、
論理演算を実現する電子回路のことですが、これについては、改
めて述べます。
 フォン・ノイマンがコンピュータの演算方式に2進数を採用し
たことは、その後のコンピュータ開発に受け継がれていき、現在
にいたっているのです。 ──[次世代テクノロジー論/56]

≪画像および関連情報≫
 ●パソコン世界の5不思議
  ───────────────────────────
  (その1)男と女の物語
   男性名詞か女性名詞かに誠にうるさいドイツ語やフランス
  語では、パソコンと云う言葉は男性名詞である。だから、パ
  ソコンは歴とした男性である。しかるにその中に入っている
  のがマザーボード。 男の中に母を宿す。 男の中に女がいる
  と云う不思議。そう言うと、キーボードと云う言葉は男性名
  詞。マウスと云う言葉は女性名詞。男は常に叩かれて、女は
  やさしく掌に包まれるべきなのか。
  (その2)アツカマシイ奴たち
   パソコンの凄さはメモリーに入れられたプログラムにある
  のに、CPU(中央処理装置)は、自ら「コンピューターの
  頭脳」と称し、あたかも自分が総てやっているかのように、
  偉そうに振る舞う。本当は指令に基づいて動いている足軽に
  過ぎないのに、大将軍か参謀長のような顔をするアツカマシ
  サ。そう言うと、OS(オペレーティングシステム)なんて
  云うのも何だ。大型コンピューターと違って、パソコンには
  オペレーターは存在しないのに、オペレーティングシステム
  と称する誇大さは何だ。パソコンよ、もっと謙虚になれ。
                   http://bit.ly/2B8e6JN
  ───────────────────────────

2進数の世界.jpg
2進数の世界
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2017年12月15日

●「ややこしい計算をどう計算するか」(EJ第4667号)

 元来コンピュータは、どのような目的で開発されたのでしょう
か。それは、ややこしくて、時間のかかる計算を機械にやらせる
ためです。既出の竹内薫氏によると、ややこしい計算には次の3
種類があります。
─────────────────────────────
       @      大きい数の計算
       A     高度な関数の計算
       B幾つもの式をセットした計算
                ──竹内薫著/丸山篤史構成
 『量子コンピュータが本当にすごい/グーグル、NASAで実
         用が始まった“夢の”計算機』/PHP新書
─────────────────────────────
 @は「大きい数の計算」です。
 暗算で計算するには限界があります。「指折り数えて」という
言葉があるように、指を折って数える計算も限定的です。そこで
登場したのが「アバカス」です。地面に溝を掘り、そこに石ころ
を並べて計算したのです。これが後に、「そろばん(算盤)」に
なったのです。古くメソポタミア文明のシュメールで使われ、や
がて中国に渡ったといわれます。アバカスについて竹内薫氏は、
次のように書いています。
─────────────────────────────
 中国ではアバカスのことを算盤といい、紀元前2世紀の文献が
あるようだ。日本に伝わったのは16世紀以前で、「さんばん」
が訛って「そろばん」になったと考えられている。日本で普及し
ているものは五つ珠だが、中国のものは七つ珠である。少し上の
世代には、珠の多い古いそろばんを憶えている読者もいるかもし
れない。実は、七つ珠は「五の珠」が二つと「一の珠」が五つあ
る。つまり、十六進法で計算できるのだ(十五まで数えて、十六
で桁が一つ上がる)。その点、日本の五つ珠(「五の珠」が一つ
と「一の珠」が四つ)は十進法に特化しているといえる。ちなみ
に、先ほど触れたシュメールのアバカスは、なんと六十進法を計
算するらしい!        ────竹内薫著の前掲書より
─────────────────────────────
 計算をするには、指からはじまって、アバカス、そろばんなど
の道具を使いますが、これらを「計算補助器具」といいます。計
算補助器具は、発達して現在は電卓になっています。それもスマ
ホに標準装備されているので、いつでもどこでも使うことができ
ます。しかし、これによって現代の日本の若者は、電卓に頼り過
ぎるあまり、簡単な加減乗除ができなくなりつつあります。
 コンピュータのハードやネットワークを指導するさい、ごく簡
単な加減乗除をさせる機会がありますが、大卒の新人でもその計
算、とくに割り算がスムーズにできない人が多いのです。何でも
電卓でやってしまうので、計算機能が劣化しているのです。
 Aは「高度な関数の計算」です。
 関数とは、与えられた文字や数値に対し、定められた処理を実
施して結果を返す機能のことであり、表計算ソフトやデータベー
スソフト、プログラミング言語などで利用されます。現代では、
表計算ソフト「エクセル」の関数が有名です。
 関数は、自動販売機の例で説明できます。自動販売機では、お
金を入れると、指定の商品が出てきます。この場合、投入するお
金は「入力」であり、出てくる商品は「出力」です。
 お金については、指定の商品の価格より入力金額が多い場合、
お釣りが出ます。紙幣でも硬貨でも対応できます。つまり、入力
が変化しても、出てくる商品、すなわち、出力は一定です。つま
り、自動販売機は関数なのです。数学的には「定数関数」という
ことになります。
 関数に関しては現代では「関数電卓」がウインドウズには付い
ていますが、昔は「計算尺」というものがあったのです。60歳
未満の人は「計算尺」といっても知らないと思います。
 この計算尺をジブリ映画『風立ちぬ』で見ることができます。
この映画の主役である堀越二郎が、計算尺と見られるものを使っ
て設計に取り組んでいるシーンがあります。その画像を添付ファ
イルに添付しておきます。堀越二郎が手にしているものが計算尺
であると思われます。
 計算尺の原理は、「対数」の発見が元になっています。対数と
いうと、いかにも難しく感じますが、竹内薫氏は次のように述べ
ています。
─────────────────────────────
         対数は「桁の数学」である
─────────────────────────────
 「桁の数学」とはまさに明言です。ICTの世界では、非常に
桁数が多い数字を扱うことが多いのです。その計算を簡単にでき
るのが対数であるからです。具体的には圧縮表示できるのです。
例えば、誰でもわかる10進数の1000と100万を掛けると
いくらになるかを考えます。
─────────────────────────────
   1000×1000000=1000000000
                     3+6=9
─────────────────────────────
 1000は対数では「3」、100万は対数では「6」、これ
を加えると「9」、つまり、ゼロの数が9個、「10億」という
ことになります。対数を使うと、次のことが可能になります。こ
の原理を使ったものが計算尺です。
─────────────────────────────
  対数を使うと、掛け算を足し算、割り算を引き算でやれる
─────────────────────────────
 Bは「幾つもの式をセットした計算」です。
 これこそコンピュータを使わないとできない計算であるといえ
ます。そういう意味で、コンピュータこそ最強の計算補助器具で
あるといえます。    ──[次世代テクノロジー論/57]

≪画像および関連情報≫
 ●計算尺は興味をそそる不思議な存在
  ───────────────────────────
   最近は計算尺を見る機会はほとんどありません。若い人に
  とっては、すでに「見たり触ったりしたこともない存在」に
  なっていることでしょう。
   私は子供の頃、叔父が持っていた小さな少し変わった「も
  のさし」を計算尺だと教えられて、何故「ものさし」で計算
  が出来るのか不思議で仕方ありませんでした。動かしてみて
  も特に何も起こりません。どう役に立つのかサッパリ分から
  ないものでしたが、それでも何となく精巧に出来たハイレベ
  ルの品物だというイメージを持ちました。
   何年生の時だったかよく覚えていませんが、中学生の頃、
  計算尺を買ってもらいました。下の写真にあるものです。計
  算尺を欲しいと思ったのは、「計算で何とか楽をしたい」と
  いう下心があったと思います。その後わずかな時間でしたが
  中学校あるいは高校で計算尺に関する授業もありました。私
  自身は計算尺を高度に使いこなしをしたとは思いませんが計
  算尺はなつかしい道具です。
   多分、計算尺を考案した人は、「簡単に計算ができる便利
  なものを作りたい」という強烈な思いがあって計算尺という
  すばらしい工夫/道具に到達したのではないかと思います。
  その意味で、「楽をしたい」、「快適に過ごしたい」などと
  いう動機は必ずしも悪くないと信じています。
                   http://bit.ly/2AxQFKN
  ───────────────────────────

計算尺を使って設計を考える堀越二郎/「風立ちぬ」.jpg
計算尺を使って設計を考える堀越二郎/「風立ちぬ」
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2017年12月18日

●「量子とは『量の最小単位』である」(EJ第4668号)

 先週検討した竹内薫氏による「ややこしい計算」の第1は「大
きい数の計算」、第2は「高度な関数の計算」、第3は「幾つも
の式をセットした計算」です。この3番目の計算は、非常に複雑
であり、人類はこの計算をスムーズに行うためにコンピュータを
開発したのです。英語で「計算する」という言葉には、次の2つ
があります。
─────────────────────────────
           1.calculate
           2. compute
─────────────────────────────
 「calculate」 の語源は「チョーク」といわれています。これ
はチョークを使って、地面や石板に式を書いて計算することを表
しています。初期のコンピュータは、まさに演算のためのマシン
──カルキュレーターであったのです。EDSACの「C」は、
カリキュレータを表しているのです。
─────────────────────────────
   EDSAC
   Electronic Delay Storage Automatic Calculator
─────────────────────────────
 しかし、「compute」 は同じ計算でも少し違うのです。複数の
演算を組み合わせて、何らかの結果を導くことをいいます。つま
り、「幾つもの式をセットした計算」を解くマシンがコンピュー
タというわけです。
 EDSAC以降、2進数と逐次処理を組み合わせたコンピュー
タ、いわゆるノイマン式コンピュータが続くことになりますが、
これによってあらゆる計算が可能になり、そこに大きな汎用性が
生まれたのです。なぜなら、2進数では、簡単に「論理回路」を
作ることができるからです。
─────────────────────────────
       1. 論理和/A or B
       2. 論理積/A and B
       3. 論理否定/Not A
─────────────────────────────
 論理回路というのは論理演算を表現した電子回路のことです。
ジョージ・ブールによる「ブール代数」に基づいています。本来
であれば、論理回路について説明するべきですが、説明が長くな
るので、これについては次の説明をもってかえることにします。
─────────────────────────────
 コンピュータ理論に関する初歩の高校教科書を開くと、二つの
きわめて単純な原理を知ることができる。チェスの駒の動きから
動画まであらゆる種類のデータは、1と0というたった二つの記
号の列に変換できる。そしてそのデータは、ゲートと呼ばれる単
純なスイッチが行なう、AND、OR、NOTという簡単な基本
操作によって制御できる。
 「ANDゲート」の二つの入力に1という信号がくると、この
ゲートは1(YES)を出力する。そしてそれ以外の場合には0
(NO)を出力する。つまりA and B″ ということだ。「O
Rゲート」はもっと懐が広く、AとBのどちらかに1が入力され
れば、1を出力する。
 「NOTゲート」は、入力を反転するだけだ。つまり1が入力
されると0を出力し、0が入力されると1を出力する。こうした
基本部品を何百万個とつなぎ合わせれば、デジタルな連鎖反応を
引き起こすことができる。単語や数や画像や音声やチェス盤上の
位置を表す1と0の列が、パチンコ玉のように回路の中を跳ね回
る。こうしてコンピュータは作動するのだ。
           ──ジョージ・ジョンソン著/水谷淳訳
    『量子コンピュータとは何か/数理を楽しむシリーズ』
                         早川書房
─────────────────────────────
 ここから、量子コンピュータの話に入っていきますが、このテ
ーマのEJは12月28日までなので、今日を含めてあと9回し
かありません。これで、量子コンピュータというものが現在のノ
イマン型コンピュータとどこが違うのか、いささかざっくりとし
た話になりますが、明らかにしたいと思います。
 「量子」とは何でしょうか。
 結論からいうと、量子とは「量の最小単位」です。何の量かと
いうと、エネルギーの量です。物質をどんどん小さくしていくと
します。すべての物質は「分子」からできていて、その分子はさ
らに「原子」の集まりであり、原子は「原子核」と「電子」、さ
らにその下に「陽子」と「中性子」があり、やがて素粒子に行き
着きます。
 そういう極小の世界ではエネルギーも分割不能なカタマリにな
ります。これが「量子」です。こういう極小の世界になると、世
の中の常識が通用しない不思議な力学が働きます。これを「量子
力学」といいます。量子力学は次のよえに定義されています。
─────────────────────────────
 量子力学は、一般相対性理論と同じく現代物理学の根幹を成す
理論として知られ、主として分子や原子、あるいはそれを構成す
る電子など、微視的な物理現象を記述する力学である。
 量子力学自身は前述のミクロな系における力学を記述する理論
だが、取り扱う系をそうしたミクロな系の集まりとして解析する
ことによって、ニュートン力学に代表される古典論では説明が困
難であった巨視的な現象についても記述することができる。たと
えば量子統計力学はそのような応用例の一つである。したがって
生物や宇宙のようなあらゆる自然現象もその記述の対象となり得
る。       ──ウィキペディア http://bit.ly/1MHBP2P
─────────────────────────────
 世の中の常識が通用しない不思議な力学とは具体的にどのよう
な現象をもたらすのでしょうか。明日のEJからそのことを追及
していきます。     ──[次世代テクノロジー論/58]

≪画像および関連情報≫
 ●人間が壁を通り抜けられる?量子力学の不思議な世界
  ───────────────────────────
   皆さんは、量子力学という物理学の理論をご存じでしょう
  か。量子力学とは、我々よりもはるかに小さな世界で起きる
  出来事を記述するための理論です。小さな世界で起こる出来
  事なんて自分たちにはあまり縁がないと思う人もいるでしょ
  う。特に理系が苦手な人にとっては、もっとも避けて通りた
  い分野のひとつかもしれません。しかし、私たちの生活に大
  いに関係がある理論なのです。
   量子力学は「事実は小説より奇なり」を体現するような理
  論とも言うことができ、とても不思議でとても面白い学問。
  今回はそんな量子力学の面白い話題を、やさしく楽しくお伝
  えしたいと思います。
   まずは、量子力学が使われている現場についてお話ししま
  す。上述のように、量子力学は我々よりもはるかに小さい世
  界での出来事を記述するための理論。具体的には、電子など
  の状態を書き表すためのものです。電子といえば電気の担い
  手。つまり量子力学は、電気が物質をどのように流れるかを
  考えるために必要なのです。例えば、電気を流したり流さな
  かったりできる半導体などは、まさに量子力学の知識が大活
  躍する領域です。量子力学の分野で最近話題なのが量子情報
  通信。量子力学のある特性をうまく利用すると、誰にも傍受
  されない完璧な通信が可能なると期待されている通信技術で
  す。               http://bit.ly/2zejeLi
  ───────────────────────────

物質を構成するもの/極小の世界.jpg
物質を構成するもの/極小の世界
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2017年12月19日

●「光量子の発見/アインシュタイン」(EJ第4669号)

 「量子」とは何かを見ていくことにします。竹内薫氏によると
量子とは「量の最小単位である」と述べています。
─────────────────────────────
 量子とは、その名の通り、「量の最小単位」である。それって
何の量だろう?まずは、エネルギーの量なのだ。この世の物質を
どこまでも細かく分解していくと、分子から原子、電子、陽子、
中性子、果ては素粒子と呼ばれるモノにまで行き着く。そんな極
小の世界では、エネルギーも分割不能な小さなカタマリなのであ
る。              ──竹内薫著/丸山篤史構成
 『量子コンピュータが本当にすごい/グーグル、NASAで実
         用が始まった“夢の”計算機』/PHP新書
─────────────────────────────
 上記の発言で重要なのは、「分割不能のカタマリ」という部分
です。それが量子ということになります。まず、「光」について
考えてみることにします。
 光とは何でしょうか。このテーマは大昔からさんざん議論され
てきています。今から300年から400年前、日本では江戸時
代の初め頃のことですが、ヨーロッパでは、光の正体について2
つの説が対立していたのです。
─────────────────────────────
    1.光は「粒子」である ・・・ ニュートン
    2. 光は「波」である ・・・ ホイヘンス
─────────────────────────────
 1の「光は粒子である」という説は、英国の科学者、ニュート
ンが唱えたもので、その根拠は「光は直進する」という光の性質
です。光は、他から力が加わらない限り、直進する性質を持って
います。例えば、雲のない晴れた日に飛行中の飛行機から地上を
見ると、くっきりとした飛行機の影が地上を動いているのが確認
できます。これは、光はなにか軽い「粒子」であることを表して
いるといえます。
 2の「光は波である」という説は、オランダの科学者、ホイヘ
ンスが唱えたものです。2つの部屋を仕切る壁に丸い穴をあけて
一方の部屋から光を当て、その穴から出た光をレンズを使ってス
クリーンに結像させると、明るい像が現れます。しかし、この穴
を小さくしていくと、スクリーンには波のような縞々の模様が現
れるのです。この現象は「光は粒子である」という説では説明す
ることは困難です。
 プールの中で波を起こし、それを手のひらで遮断しようとした
とします。そうすると、波は手の甲にぶつかるとともに、手のひ
らの内側の部分にも回り込んできます。これは、波の性質であり
光粒子説では説明がつかないのです。
 このようなわけで、19世紀になって「光は波である」という
ことでほぼ決着がついたのです。しかし、それから20年後、今
から120年ほど前に、再びこの論争が再現されるようになりま
す。アインシュタインの「光電効果の原理」の発表です。
 「光電効果」というのは、金属に光を当てたときに、金属の表
面から電子が飛び出す現象のことです。その性質は現在でも非常
に微弱な光を検出する装置に応用されているのです。ノーベル受
賞者の小柴昌俊氏がニュートリノ実験に使った「光電子倍増管」
という超高感度の光検出器もこの原理を応用しています。
 しかし、金属に光を当てたとき、単に電子が飛び出すというだ
けでは、光は波ではないとはいえないのです。光が波であっても
説明がつくからです。問題は、電子の飛び出し方にあります。そ
れを箇条書きにすると、次のようになります。
─────────────────────────────
 1.光の波長を赤から黄色、緑、青とだんだん短くしていく
   と、ある波長で突然電子が飛び出し始めた。
 2.電子が飛び出すかどうかは、光の強さにはよらず、波長
   (色)だけで決まった。ただ、光を強くすると、それに
   応じて飛び出す電子の数が増えたのである。
 3.飛び出した電子のエネルギーを測定すると、光の強さに
   はよらず、波長(色)だけで決まっていた。
                      ──竹内繁樹著
         『量子コンピュータ/並列計算のからくり』
                      ブルーバックス
─────────────────────────────
 アインシュタインは、光エネルギーの基本単位として、「光量
子」というものを仮定したのです。光量子のエネルギーは光の振
幅に比例し、波長に反比例します。光量子の波長を短くするとそ
のエネルギーは波長に反比例して大きくなっていきます。そして
そのエネルギーが、電子が金属のなかから飛び出すのに必要なエ
ネルギー量を超えると、突然電子が飛び出すとアインシュタイン
は考えたのです。これが光量子仮説です。ちなみに、光電子はそ
の後、「光子」(フォトン)と呼ばれるようになります。
 要するに、光量子仮説は「光は粒子である」ことを裏付けてい
るのです。光電効果の現象は、かなり前から知られていたのです
が、19世紀の物理学では説明ができなかったのです。「光は粒
子か波か」の決着がつかなかったからです。しかし、光電子仮設
は、その後の量子力学に発展するのです。
 アインシュタインは、ノーベル賞を受賞していますが、その受
賞理由は、有名な相対性理論ではなく、この「光電効果の発見」
だったのです。アインシュタインのノーベル賞受賞を記念して発
行された切手には、光電効果をイメージするデザインが使われて
います。(添付ファイル参照)なぜ、相対性理論にノーベル賞が
与えられなかったのかというと、それが当時何の役に立つかわか
らなかったのが原因であるといわれています。
 さて、これで「光は粒子である」ということにはなったのです
が、波の要素も否定できないのです。すべての物質には波の性質
があると考えられるのです。実際に「物質波」という言葉も存在
します。        ──[次世代テクノロジー論/59]

≪画像および関連情報≫
 ●物質波としての私たちはリズム天国を踊る
  ───────────────────────────
   わけのわからないことを調べるのが好きだ。意味不明の単
  語の羅列でしかなかった本が、あるとき急に意味を帯びる。
  その瞬間が好きだ。何度もこんなことをやっていると、何が
  重要で何が重要でないかがすぐに分かるようになる。この話
  はやめよう。今日は物質波の話だ。
   量子力学は二つのアプローチがあり、それは次第に同じと
  ころを目指すようになる。ひとつは先日述べたハイゼンベル
  クの行列力学だ。彼は電子の軌道運動を捨て、ボーアの理論
  を書き換えた。もうひとつが、ドブロイが考えシュレーディ
  ンガーが定式化した物質波である。
   物質波とは物の波のことで、全てのものはゆらゆらとうご
  めいているんだよ、という観念である。ハイゼンベルクは光
  が粒であり波でもあるという矛盾には触れずに、数学をして
  いったが、ドブロイは違った。彼はその矛盾を解決するため
  に、「波だと思ってた光がやっぱり粒だった。ということは
  粒だと思っている電子はもしかしたら波ということがいえる
  かも」と考えた。何を言っているんだ。粒と波が共存すると
  いうのも不思議な話だ。実験結果の都合のいいように、粒子
  性と波動性を使い分けるのはナンセンス。それらの否定的統
  一を目指さなくてはいけない。ドブロイは自由な粒子はめい
  めいが時計をもっているとした。固有のリズム、振動をもつ
  らしい。このリズムは質量が十分軽くないとつかめない。今
  まで物質が波動性を示すような実験結果がなかったのはその
  せいだ。             http://bit.ly/2kBDjCB
  ───────────────────────────

「光電効果」切手/アインシュタイン.jpg
「光電効果」切手/アインシュタイン
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2017年12月20日

●「誰も見ていない月は存在するのか」(EJ第4670号)

 アインシュタインが光電効果の原理の解明で、1921年にノ
ーベル賞を受賞するまで、「光は波である」と考えられていたの
です。しかし、アインシュタインによって「光は光電子という粒
子である」ということが証明されます。
 これを受けて、フランスの物理学者のド・ブロイという人が面
白いことを考えたのです。おおよそ次のようなことです。
─────────────────────────────
 光は波であると思われていたが、実際は粒子だったことが光電
子仮説によって裏付けられている。逆にいうと、粒子が波のよう
に振る舞っているのではないか。       ──ド・ブロイ
─────────────────────────────
 つまり、こういうことです。光はこれより小さくなれない光電
子なので、波の性質が目立つのであり、それより大きな粒子は波
の性質が目立たないのではないかと考えるのです。ド・ブロイは
この粒子ではあるが、同時に波としての性質を持つ波を「ド・ブ
ロイ波(物質波)」と名付け、そのことを博士号の学位論文に書
いて、1924年にソルボンヌ大学に提出したのです。
 困ったのは、ソメボンヌ大学の教授陣です。ド・ブロイの論文
の意味がわからなかったからです。そこで、一人の教授がアイン
シュタインにド・ブロイの論文を送って、意見を聞いたのです。
そうすると、アインシュタインからは、次のメッセージが返って
きたといいます。
─────────────────────────────
 この論文は素晴らしい。論文の著者には博士号はもちろんのこ
と、ノーベル賞を与える必要がある。  ──アインシュタイン
─────────────────────────────
 実際に「ド・ブロイ波」は、実験によって確認され、それから
5年後の1929年に、アインシュタインのいう通り、ド・ブロ
イはノーベル賞を受賞したのです。
 これによってわかったことは、量子というのは、すべての物質
の最小単位であり、それは波動性と粒子性という2つの性質を持
つということです。これはすべての物質に共通する基本的性質で
あり、「波動と粒子の二重性」といいます。
 このことをもっと噛み砕いていうと、われわれが目にする物質
は、粒子性がクローズアップされ、波動性は目立って見えないの
です。しかし、分子から原子、電子、陽子、さらに素粒子サイズ
の世界になればなるほど、そこに流動性が目立ってきます。この
ミクロの世界の物理学が「量子力学」なのです。
 これについて、北海道大学の竹内繁樹教授は、自著で次のよう
に述べています。
─────────────────────────────
 世の中を細かく見ていくと、物質も光も、すべてが「量子」で
成り立っている。そういう意味では、身の回りの自然現象を本当
に支配しているのは、「量子力学」ということになる。
 私たちがふだん用いている「波」や「粒子」といった考え方は
「量子」がたくさん集まった場合についてだけ正しい理論で、そ
れも「量子力学」から導くことが可能だと考えられている。
 もし、世の中のすべてを量子力学で説明できるのであれば、コ
ンピュータの原理として、「量子力学」を持ち出すのは、自然な
ことではないだろうか。
 量子計算は、「量子力学」を本質的に利用して、高速な計算を
行う。そのしくみを理解するにはやはりどうしても「量子力学」
の中身に立ち入らなくてはならない。     ──竹内繁樹著
         『量子コンピュータ/並列計算のからくり』
                      ブルーバックス
─────────────────────────────
 さて、量子力学の世界は、通常の物理学の常識が通じない世界
といえます。通常では起こり得ないことが普通に起こってしまう
世界といってもよいと思います。例えば、ハリー・ポッターの映
画で見たような人が壁を通過するようなことがごく自然に起きる
のです。したがって、そういう関心で量子力学を研究すると、興
味は尽きないと思います。そのひとつを上げると、次のテーマを
どのように考えますか。
─────────────────────────────
      誰も見ていない「月」は存在するか?
─────────────────────────────
 何を馬鹿なと思われるかもしれません。しかし、このテーマに
ついてアインシュタインは、死ぬまで悩み続け、多くの物理学者
たちと大真面目に議論を交わしたといわれます。
 どういうことかについて少し説明します。多くの人はこう考え
ます。誰も見ていなくても、月は客観的に存在する。多くの人が
見ているし、かつて宇宙飛行士は月に着陸したではないか、と。
 しかし、量子力学の世界では、月を含めて、個々人が客観的に
存在すると認識している自然界の事象は、人が観察するという行
為によって千変万化し、誰も見ていないときはそれは存在しない
というのです。
 「客観的存在」とは何でしょうか。サイエンスライターのコン
ノケンイチ(今野健一)氏は、次の3つを指摘しています。
─────────────────────────────
    1.自分と離れた外部に存在するものである
    2.その存在を五感で認識することができる
    3.きちんと定まった物理属性を有している
                   ──コンノケンイチ著
       『死後の世界を突きとめた量子力学』/徳間書店
─────────────────────────────
 これら3つはいちいちもっともなことです。しかし、この考え
方に立つと、「客観的存在」とは自分の外側の世界ということに
なります。そうすると、内側、つまりこちら側は自分だけの存在
になってしまいます。このようにきわめて哲学的論争になってし
まうのです。      ──[次世代テクノロジー論/60]

≪画像および関連情報≫
 ●誰もそれを見ていないとき世界は存在していないのか。
  ───────────────────────────
   そのような仮説を主張する物理学者がいて、その話を聞い
  て何て奇妙な考えだろうと思っていました。誰が見ていよう
  がいまいが、それで宇宙が現れたり消滅したりする事などあ
  るはずがないではありませんか。
   「モーガン・フリーマンが語る宇宙」でもその説が紹介さ
  れていて、誰も見ていない死角が生じると、今までそこにあ
  った風景が蒸発するように消えて暗闇になってしまう、そう
  いうイメージ映像で表現されていましたが、そんな馬鹿げた
  事があるはずがない、この学者は頭がおかしいと思ってまし
  た。しかしですね、「忘れてしまった過去は、初めから存在
  しないのと同じか?」という疑問は、誰も観測者がいない時
  には世界が存在しなくなるという仮説と全く同じ論理である
  ことに気づいたのです。
   確かに存在していたはずの過去がその記憶(記録)が失わ
  れた途端に、存在しなくなってしまう。そして記録が発見さ
  れると、再び存在していたことになる。それは、観測者が居
  なくなると現実が存在しなくなるという話と全く同じなんで
  す。なぜなら、我々が何かの事象を観測するという事はその
  事象を記録するという事であり、また、光の速度が有限のc
  という速度であるために、観測している事象はその全てが時
  間的に過去の出来事なのです。   http://bit.ly/2BDk0Dn
  ───────────────────────────

アルベルト・アインシュタイン.jpg
アルベルト・アインシュタイン
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2017年12月21日

●「ヤングの実験でできる『干渉縞』」(EJ第4671号)

 「誰も見ていない『月』は存在するか?」に関する興味ある実
験をご紹介します。
 最初に「波」について考えてみます。水を張った水槽があると
します。この水槽は2つの穴の空いた板で真ん中が仕切られてい
ます。この状態で、左側にコインを落としたとします。そうする
と、仕切り板に向って波が発生します。
 穴に到着すると、波は二つに分かれ、仕切り板の右側で相互作
用を起こします。相互作用とは、2つの山が重なり合うと、山は
大きくなり、波の強度が増し、逆に山と谷が重なると、お互いに
打ち消し合う、そのさまをいうのです。その結果、「干渉パター
ン(干渉縞)」という模様ができ上がります。これは「波」の存
在を示す証拠といえます。これについては、添付ファイルを参照
してください。
 続いて「粒子」の実験です。仕切り板で仕切られた2つの部屋
があります。仕切り板には2つの丸い穴が空いていますが、現在
は左の穴は塞がっており、右の穴だけ空いています。なお、右の
部屋の正面には、スクリーンが張ってあるとします。
 この状態において、左の部屋から仕切り板に対して光を当てま
す。そうすると、光は空いている右の穴を通ってスクリーンの右
側に丸い像を結びます。続いて、今度は右の穴を塞いで左の穴を
空けます。そうすると、光は左の穴を通して、スクリーンの左側
に丸い像を結びます。当たり前ですが、これは光が「粒子」であ
ることを示しています。
 問題は次です。今度は仕切り板の左右の穴を両方とも空けて、
左側の部屋から光を当てます。通常であれば、右の部屋のスクリ
ーンの左右に2つの丸い像が映し出させるはずです。しかし、実
際にはスクリーンには、干渉縞が映し出されるのです。これは光
が「波」であることを示しています。
 これは、英国の物理学者、トマス・ヤングが行った実験なので
「ヤングの実験」と呼ばれています。これについて、竹内薫氏は
次のように述べています。
─────────────────────────────
 これはヤングの実験と同じである。ヤングの実験は、光の干渉
作用を確認するための有名な実験だ。一つの光源から照射されて
二つのスリット(隙間)を通った光が、濃淡の縞をつくるという
実験である。波が干渉して、強め合ったり弱め合ったりしたわけ
だ。電子ビームも同じで、金属分子の隙間を通ったとき、まるで
波のように干渉したのである。
 粒子だと思っていた電子にも、波の性質があったわけだ。もち
ろん、電子より大きな粒子でも、原理的には同じだ。ようするに
極端な話、僕らも量子なのだ。粒子性が大きく、波動性が小さい
だけで、粒と波、両方の性質を持っているのである。
                ──竹内薫著/丸山篤史構成
 『量子コンピュータが本当にすごい/グーグル、NASAで実
         用が始まった“夢の”計算機』/PHP新書
─────────────────────────────
 驚くのはこれからです。物理学者たちは、どうしてこんな現象
が起きるのか、不思議でならなかったのです。粒子であるはずの
光(光量子/光子)がスクリーン上に干渉縞を作るには、光子が
スリットを抜ける直前に2つに分かれ、それぞれ左右のスリット
を抜けたのではないかと考えて、とくにスリットを抜ける瞬間を
観察しようとして、いろいろな仕掛けを施したのです。
 そして、実際に光を発射したのです。その結果は驚くべきもの
だったのです。何と、2つのスリットを抜けた光子は、スクリー
ンに干渉縞を作らず、左右に2つの丸い像を表示したのです。何
ということでしょうか。物理学者たちが観察しようとしていろい
ろな仕掛けを施していることを知って、光子は振る舞いを変更し
たかのように常識的な結果をもたらしたのです。
 冒頭に「誰も見ていない『月』は存在するか?」というテーマ
を出しましたが、人が見ていると、光子はその振る舞いを変更し
たのです。これについては、納得できないと思うので、次のユー
チューブ動画を見ていただきたいと思います。
 動画は次の2種類があり、最初の動画が終わると、続いて次の
動画が始まります。最初の動画はマンガの老人が英語で話し、日
本語のスーパーは出るものの、読みにくいです。しかし、後の動
画は日本語に吹き替えてあるので、分かりやすいと思います。動
画の内容は、道具立てこそ変えてはいますが、同じことをいって
います。ぜひ、2つとも連続してご覧ください。きわめて興味深
い内容です。
─────────────────────────────
    ◎二重スリットによるヤングの実験の再現
    第1の動画:マンガによる2重スリットの実験
                    5分23秒
    第2の動画:ピッチングマシンを利用する実験
                    4分14秒
               http://bit.ly/2BCaoGt
─────────────────────────────
 光子について、米国の著名な物理学者であるE・Hウォーカー
は、1968年発刊の自著で「光子は意識を持っている」といっ
ています。
─────────────────────────────
 意識というものが量子現象のすべての過程と関連しているかも
しれない。何であれ実際に起きる物ごとは究極的には量子力学的
な出来事の結果なのだから。たいていは思考力を持たないにして
もはっきりとした意識を持ち、宇宙の隅々まで影響を行きわたら
せているような存在がほぼ限りなく宇宙の中に生きている。
                   ──コンノケンイチ著
       『死後の世界を突きとめた量子力学』/徳間書店
─────────────────────────────
            ──[次世代テクノロジー論/61]

≪画像および関連情報≫
 ●「非実在性」は巨視的世界にも当てはめる事が実証される
  ───────────────────────────
   電子や光子などの極めて小さい素粒子は、その振る舞いが
  量子力学で記述される。そして、量子力学によれば、これら
  の素粒子は、普段は確率としてぼんやりとした霧の塊のよう
  に存在しており、観測を行なうまではその厳密な位置や速度
  などの状態を確定できない。つまり、見ていない(観測して
  いない)素粒子は見るまでは、存在していないとも表現でき
  る。この非実在性(見るまでは存在しない)は素粒子のよう
  な微視的世界では厳密な実験で実証されているが、人間スケ
  ールの巨視的世界では、例えば月の非実在性(誰も見ていな
  い間は月は存在していない)というのは、通常の常識的には
  あり得ないと考えられる。だが、本当に巨視的世界にも物理
  学的見地から量子力学的非実在性が当てはまらないのかどう
  かは、これまで未解決だった。
   具体的には、ある物理系で実在性の破れを確認するために
  は実在性が満たすレゲット・ガーグ不等式と呼ばれる条件が
  その物理系で破れることを示す必要がある。この不等式は実
  在性が成り立てば必ず満たされるが、量子力学のように実在
  性が成り立たない系では満たされない場合がある。しかし、
  実験で直接レゲット・ガーグ不等式の破れを示すためには、
  量子性が保たれる時間内に3回の高精度な測定が必要などの
  厳しい条件があり実証が困難だった。
                   http://bit.ly/2B3u599
  ───────────────────────────

ヤングの実験/干渉縞.jpg
ヤングの実験/干渉縞
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2017年12月22日

●「Nスペ『光と闇の迷宮』と量子論」(EJ第4672号)

 量子コンピュータについて語るときは、単にその概要について
述べるだけでも、量子力学というものをある程度理解することが
不可欠になります。そういうわけで、量子力学の本を数冊何回も
読み、ネット上のさまざまなコンテンツを参照しましたが、それ
でも十分に理解できないでいます。
 とにかく量子力学の世界は尋常な世界ではないのです。光電効
果を解明し、ノーベル物理学賞を受賞したあのアインシュタイン
でさえ、量子力学には終生疑問を唱えていたのです。なかでも、
量子力学に関するデンマークの理論物理学者ニュールス・ボーア
との理論論争は有名であり、その論争にアインシュタイは何度も
一敗地にまみれ、晩年は疲れ果てていたといわれます。
 そんなある日、ドイツのカブートのアインシュタインの別荘で
アインシュタインは、インドの大詩人タゴールに次のように尋ね
ています。そうです。あの有名な質問です。
─────────────────────────────
 われわれが見ていないときは、空にかかる月は存在しないの
 でしょうか。           ──アインシュタイン
─────────────────────────────
 この質問にタゴールは、どのように答えたのでしょうか。コン
ノケンイチ氏の本から、引用します。
─────────────────────────────
 量子力学の大御所ボーアとの論争に疲れた晩年のアインシュタ
インは、悩み抜いた末にインドの大詩人タゴールに次のように問
うている。「われわれが見ていない時は、空にかかる月は存在し
ないのでしょうか?」
 タゴールは答えた。「この世界は人間の世界です。科学理論と
いえども所詮は人間世界の科学者の見方にすぎません。世界とは
人間と無関係に存在するものではないでしょうか。私が見ていな
くても、月は確かにあるのです。月はあなたの意識になくても、
他の人の意識にはあるのです。人間の意識の中にしか月は存在し
ないことは同じです。
 私は人間を超えた客観性が存在することを信じます。ピタゴラ
スの定理は人間とは関係なく存在する真理です。しかし科学は、
月も無数の原子が描く現象であることを証明したではありません
か。あの天体に光と闇の神秘を見るのか、無数の原子を見るのか
もし人間の意識が月だと感じなくなれば、それは月ではなくなる
のです。               ──コンノケンイチ著
       『死後の世界を突きとめた量子力学』/徳間書店
─────────────────────────────
 禅問答です。タゴールは月は客観的存在であるといいながら、
「人間の意識が月だと感じなくなればそれは月ではなくなる」と
いっています。これに近い言葉に次のものがあります。
─────────────────────────────
     情報がないことは事実がないのと同じである
─────────────────────────────
 人間は目の前で起こった事実は認識できますが、遠く離れた世
界で起きていることは、報道がなければ知ることはできず、それ
は事実が存在しないのと同じことになります。
 アインシュタインは「宇宙を含む自然界の森羅万象は人の意識
に関係なく、あくまでも客観的な実在である」というのが信念で
したが、それはこの世の中のすべての人がそのように考えている
物理学の常識です。しかし、ミクロの世界の物理学である量子力
学では、それはまったく違う意味を持ちます。アインシュタイン
は、晩年に近づくにつれて、自分の物理学が量子力学に携わる学
者から論破されることが多くなり、そのことで悩み抜いていたと
いわれます。
 こういう量子力学の不思議な世界について、わかりやすく、か
つ懇切にわたって説明している動画を発見しました。動画のなか
には、光は波か粒子か、ヤングの実験、光電効果、光量子仮説な
ど、ここまで取り上げた命題や、アインシュタインとボーアの論
争、シュレディンガーの猫など、量子力学に関するさまざまな話
がすべて取り上げられています。アインシュタインとタゴールと
の対話もこの動画の一番最後に登場します。動画の時間は、約1
時間30分かかりますが、興味深いし、分かりやすいし、すこぶ
る濃い内容です。ぜひ視聴をお勧めします。
─────────────────────────────
    NHKスペシャル/アインシュタイン・ロマン
    「光と闇の迷宮」/1時間29分
                   http://bit.ly/2kSzrx7
─────────────────────────────
 上記の動画にも出てきますが、「だるまさんころんだ」という
変種の鬼ごっこがあります。この遊びと量子力学は似たところが
あるとよくいわれます。これについて、既出の竹内薫氏はネット
で次のように述べています。
─────────────────────────────
 ヒトが量子を観測していない間、量子はどこで何をしているの
かというと、「逃げて隠れて遊んでいる」のである。量子が遊ぼ
うと思ってやっているのかどうかは別として、量子のふるまいは
「だるまさんがころんだ」の遊びによく似ている。
 木の幹やら柱にへばりついて「だるまさんがころんだ!」と叫
ぶ鬼の役は、量子を観測するヒトや観測装置だ。鬼が振り返るた
びに「ぴたっ」と止まらなければいけないというルールは、ちょ
うど観測をした瞬間に該当する。量子の状態は、観測するまでは
確率的にしかとらえられない。「だるまさんがころんだ」も、鬼
が振り返るまでは誰がどこにいるかは確率的だ。確率的、とはつ
まりこの辺にいそうだってことだ。だいたいどの辺にいるかは見
当がついているが、実際どこにいるかは僕が振り向いてみないと
わからない。             http://bit.ly/2BJFpIP
─────────────────────────────
            ──[次世代テクノロジー論/62]

≪画像および関連情報≫
 ●NHKスペシャル「光と闇の迷宮」の感想
  ───────────────────────────
   世界中でアインシュタインを尊敬していたり好きだったり
  する者は数多いと思うが、「嫌いだ」と言う者は少ないだろ
  う。若いころ当方は、初心者用の相対性理論の本を読んで、
  その内容に驚き、感動した。誰もが絶対的だと思うだろう時
  間が相対的であると言うその発想の独創性に感動した。「ア
  インシュタインは人類史上最も神に近づいた人間だ」と思っ
  て尊敬していた。しかしNHKスペシャル「アインシュタイ
  ン・ロマン」を見て、アインシュタインへの尊敬は薄れた。
   NHKでアインシュタインの特別番組が放送されると知っ
  た時、当方は喜び、その放送日が待ち遠しかった。確かそれ
  は週に一回、全部で五回放送されたと思う。そして一回目と
  二回目を見て、がっかりした。放送された内容が「特殊相対
  性理論」と「一般相対性理論」のことで、それは既に本を読
  んで知っている事ばかりだった。
   だから三回目を見る時はあまり期待していなかった。この
  回のタイトルは「光と闇の迷宮」。その放送の前半でニュー
  トンとホイヘンスが「光は粒か、波か」で論争する。「光は
  粒である」と主張するニュートンに対して「光は波である」
  と主張するホイヘンス。互いに譲らない論争に、アインシュ
  タインは「光は粒と波の両方の性質を持つ」と結論付けた。
  しかし、その矛盾する構造については解明することが出来な
  かった。この内容も本を読んで知っていた。「また知ってる
  ことだ」と落胆しながらも番組の続きを見た。そして、そこ
  からはタイトルの通り、「光と闇の迷宮」だった。当方の知
  らない世界の扉が開き、不思議な迷宮の中に入って行った。
                   http://bit.ly/2kzMDaO
  ───────────────────────────

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アインシュタインとタゴールの対話
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2017年12月25日

●「量子コンピュータの速さのレベル」(EJ第4673号)

 量子力学のここまでの説明と、22日のEJでご紹介したNH
Kスペシャルを見ていただければ、前提知識としての量子力学の
知識は一般的には十分だと思います。ここからは、それがどのよ
うにして量子コンピュータになるのかについて考えます。
 現在のCPUのチップは、限りなく原子レベルに近づいていま
す。コマのように回転軸を上に向けて、反時計回りに自転する原
子を仮に「1」とします。それをひっくり返して回転軸が下を向
いて時計回りに自転するようすれば、その原子は「0」をあらわ
すことになります。もちろん、0と1は逆でもいいのです。この
場合、原子は極小のスイッチとして機能します。
 しかし、微細化がさらに進んで素粒子レベル、量子レベルにな
ると、量子力学が働き、量子は「0」と「1」の両方の状態をと
るようになります。つまり、「重ね合わせ」です。これについて
ニューヨーク・タイムズ紙の科学記者、ジョージ・ジョンソン氏
は、自著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 コンピュータ技術者が、量子レベルにまで小型化を進めると、
チップの中の出来事は、もはや決定論的ではなくなる。1と0を
はっきり区別できなくなるのだ。そして1と0に加えて、Φとい
う状態も取りうるようになる。(ここではこの記号はギリシャ文
字の「ファイ」の意味ではなく、0と1が量子的に重ね合わされ
た状態を表す)。量子はこのようなあいまいさを持っているので
同じ原因が同じ結果を及ぼすとは限らない。不確かさが支配する
のだ。正しい用語ではこれを「量子的不確定性」と言う。
           ──ジョージ・ジョンソン著/水谷淳訳
          『量子コンピュータとは何か』/早川書房
─────────────────────────────
 上記の「1と0をはっきり区別できなくなる」とは、重ね合わ
せのことをいっているのですが、要するにノイマン型コンピュー
タのが「0か1か」、つまり「あれかこれか」であるのに対し、
量子コンピュータは「1であり、0でもある」、つまり「あれで
あり、これであり」ということになるのです。
 量子コンピュータでは、ノイマン型のコンピュータのビットで
ある「0」と「1」の情報単位を扱う代わりに、重ね合わせを応
用して、「0」と「1」の併存が可能な「量子ビット」(キュー
ビット)という情報単位を使います。「0」と「1」を併存する
演算とは、「0」と「1」を重ね合わせたまま演算できることを
意味しています。
 量子コンピュータは、この重ね合わせの特質により、ノイマン
型コンピュータよりも処理速度が圧倒的に速いのです。
─────────────────────────────
 n量子ビットコンピュータは、ノイマン型では2のn乗回必要
だった演算を一度に行うことができる。
─────────────────────────────
 量子ビットによるスイッチが2つの場合を「2量子ビット」、
3つの場合を「3量子ビット」といいますが、それぞれが重ね合
わせにより、一度にやれるデータを以下に示します。
─────────────────────────────
   ≪量子スイッチが2つの場合/2量子ビット≫
    「00」「01」「10」「11」
   ≪量子スイッチが3つの場合/3量子ビット≫
    「000」「001」「010」「011」
    「100」「101」「110」「111」
─────────────────────────────
 2量子ビットコンピュータの場合、2の2乗回、すなわち、ノ
イマン型では4回やらなければいけない演算を1回でやれるとい
う意味であり、3量子ビットコンピュータの場合、ノイマン型で
は、2の3乗回、すなわち、8回やらなければいけない演算を1
回でやれるという意味になります。
 既に試作品ながら、512量子ビットコンピュータができてい
ます。この場合、現代のコンピュータであれば、2の512乗回
必要な演算を一度にやってしまうことになります。
 この量子コンピュータのアイデアは、英国の物理学者であるデ
イヴィッド・ドイチェ氏(1953年5月18日〜)の発案なの
です。既出の竹内繁樹北海道大学教授は、ドイチェ氏について次
のように述べています。
─────────────────────────────
 量子コンピュータのアイデアの登場は1985年。場所はイギ
リス、オックスフォード大学である。発案者は、デビッド・ドイ
チェ。彼はそのころ、理論物理学を研究する若手の研究者で、特
に平行宇宙論というものに関心を持っていた。
 平行宇宙論とは、「重ね合わせ」の考え方をもっと拡張して、
解釈する考え方だ。「重ね合わせ」にあるそれぞれの状態は実際
には別々に平行して存在する宇宙に属しているものと解釈する。
ちょっと想像するのが難しいかもしれない。
 ただ、「重ね合わせ」状態と観測にまつわる解釈はまだいろい
ろある。たぶん、厳密に比べれば研究者が100人いれば100
人とも違うかもしれない。とはいうものの、「重ね合わせ状態」
に関する実験結果は厳然とした事実なのである。平行宇宙論は、
その中の解釈の一つだ。           ──竹内繁樹著
         『量子コンピュータ/並列計算のからくり』
                      ブルーバックス
─────────────────────────────
 ドイチェ氏は「オックスフォードの仙人」と呼ばれ、変わり者
が多い数学・物理学者のなかでも、筋金入りの変わり者の学者と
いわれています。オックスフォード大学に教授職で籍を置きなが
ら、講義も試験もしないのです。そのため、大学からの給与はゼ
ロで、研究助成金と執筆の収入で暮らしています。しかし、自宅
を訪れて教えを請う学生には、ていねいに授業をしてくれるそう
です。         ──[次世代テクノロジー論/63]

≪画像および関連情報≫
 ●「量子ビット」を高精度化 演算速度が約100倍に
  ───────────────────────────
   理化学研究所や東京大学などの研究グループは2017年
  12月18日、量子コンピュータの情報単位「量子ビット」
  を実現する素子をより高精度化したと発表した。従来と比べ
  ると演算速度が約100倍になり、量子コンピュータを計算
  作業に使える時間も伸びるという。
   量子コンピュータは、量子ビットと呼ばれる情報単位を用
  いる。量子ビットは0と1に加え、0と1の「重ね合わせ状
  態」(量子の重ね合わせ)を扱える。量子計算のアルゴリズ
  ムを使えるため、従来のコンピュータと比べて計算や解析が
  短時間で行えるといわれる。
   実用化には、演算精度が99%以上の高精度な量子ビット
  が必要になる。そのためには(1)量子ビットの演算速度を
  向上させる、(2)量子ビットは時間経過とともに情報を失
  う(重ね合わせ状態を失う)ため、より長く保持できるよう
  にする(情報保持時間)――という条件を両立させなければ
  ならない。2つの条件を別々に達成する手法はあったが、同
  じ材料を使って両立した例はなかった。研究グループは、よ
  り情報保持時間を長くするために、磁気的な雑音が少ないシ
  リコン同位体の基板を使い、「量子ドット」と呼ばれる構造
  を作った。この構造に閉じ込めた電子の自転(電子スピン)
  を量子ビットとして使い、微小な磁石で高速にスピン操作を
  加えたところ、通常の約100倍の演算速度を実現したとい
  う。               http://bit.ly/2DyhNHH
  ───────────────────────────

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デイヴィッド・ドイチェ教授
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2017年12月26日

●「世界初の量子コンピュータの誕生」(EJ第4674号)

 量子コンピュータの研究は1990年から世界中ではじまって
います。量子コンピュータとは、量子力学の原理を応用して計算
するコンピュータのことです。
 しかし、研究は遅々として進まず、実現は21世紀後半といわ
れていたのです。それは「量子ゲート方式」の実現にこだわった
からといわれています。量子ゲート方式とは、いわゆる論理演算
の量子ビット版です。論理演算は、AND、OR、NOTを使う
2進数の演算です。
 ところが2011年のことです。カナダの新興企業Dウェーブ
・システムズ社が、量子コンピュータの発売を宣言したのです。
世界初の商用量子コンピュータです。このコンピュータは、量子
ゲートではない、まったく別のアプローチによる量子コンピュー
タです。Dウェーブ・システムズ社とは、一体どういう企業なの
でしょうか。
 Dウェーブ・システムズ(以下、Dウェーブ社)は、1999
年にカナダのブリティッシュ・コロンビア大学のヘイグ・ハリス
教授の出資した数千ドルを元にして、同大学で博士号を取得した
3人組、ジョーディー・ローズ、ボブ・ウィーンズ、アレキサン
ダー・ザゴースキンによって設立された企業です。
 ジョーディー・ローズ氏は、量子力学を専攻していますが、量
子コンピュータに関する独自技術を持っていたわけではないので
す。しかし、社名のDウェーブは「d波」を意味し、高温超電導
に関係する電子軌道のことであり、量子ビットに高温超伝導体を
想定していたとされています。
 2007年にDウェーブ社は、現在のシステムのプロトタイプ
に当たる「オリオン量子計算システム」のデモをやったのです。
このシステムは、16キュービット(量子ビット)であり、ノイ
マン型コンピュータでは、2の16乗回かかる計算を1回でやる
能力を持っていたのです。デモでは、似たようなかたちの分子を
パターンマッチングしたり、パズルを解かせたりしたのですが、
デモに見学にきていたグーグルの研究者たちが強い関心を持った
といいます。
 そして2011年にDウェーブ社は、128キュービットの量
子計算システム「D-Wave One」を発売します。価格は1000万
ドル、当時の為替レートは1ドル=80円だったので、8億円ぐ
らいの価格です。しかし、この1号機は、米国の航空機メーカー
ロッキード・マーティン社が複数年契約をしています。
 翌年の2012年には、後継機の「D-Wave Two」/512キュ
ービットを発売すると、グーグル、NASA(アメリカ航空宇宙
局)、USRA(アメリカ大学宇宙研究協会)がこのマシンを共
同購入しています。
 Dウェーブ社、まさに快進撃です。しかし、当初は、作動原理
や性能などについて強い疑いが持たれており、「本当に量子コン
ピュータなのか」という疑念もあったようです。しかし、その疑
いは現在は晴れつつあります。従来型の量子コンピュータの開発
思想とDウェーブマシンとは、発想が完全に異なるのです。これ
について、竹内薫氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 あっさり言い切ってしまおう。従来型は量子チューリング・マ
シンを目指しているのだが、「D-Wave Two」は違うのだ。従来型
の基本は、論理演算の量子バージョン・量子論理を駆使して、量
子演算回路(量子ゲート)を組んで、並列計算を実行することに
目標を置いていた(量子ゲート方式)。
 しかし、「D-Wave Two」は、最初から的を絞った演算に特化し
たのだ。ようするに、最適化問題専用の量子コンピューターを創
ろうとしたわけである。ちょっと極端な喩えでいえば、従来型が
バベッジの解析機関(汎用コンピューター)なら「D-Wave Two」
は階差機関(階差計算専用機)に当たるのだ。しかし、最適化問
題専用といっても、その応用範囲は、メチャメチャ広い!
                ──竹内薫著/丸山篤史構成
 『量子コンピュータが本当にすごい/グーグル、NASAで実
         用が始まった“夢の”計算機』/PHP新書
─────────────────────────────
 他社に先駆けてDウェーブマシンを導入した企業が何にこのマ
シンを使っているかについて簡単に述べます。
 米ロッキードマーチン社は、航空機のプログラムにあるバグの
検出にDウェーブマシンを使っています。たかがプログラムのバ
グ取りに8億円は高いと考えるかもしれませんが、何兆円もかか
る戦闘機の開発費用の約半分は、このバグ取りにかかるといわれ
ています。航空機にとってミスは命取りになるからです。
 グーグルは面白い使い方をしています。コンピュータを仕込ん
だメガネ「グーグルグラス」から送られてくる「意図のあるまば
たき」と「意図のないまばたき」を判別するアルゴリズムの開発
用に使っています。これは「顔認証システム」に使えるのです。
 NASAは、火星探索ロボットの行動計画の最適化や、宇宙ス
テーション内での実験スケジュールの最適化、ある対象物に関す
る複数の画像を融合して、意味のある画像を作るデータ融合など
に使っています。
 要するに、今のところDウェーブマシンは、何にでも使える汎
用マシンではなく、特定の目的に使う専用マシンを目指している
のです。量子ゲート方式を実現しようとするこれまでの量子コン
ピュータ開発とは違うのです。専用マシンとして用途を拡大し、
汎用化を目指そうとしているのです。
 ところで、Dウェーブマシンには「量子アニーリング方式」と
いう技術が使われています。アニーリングとは「焼きなまし」と
いう金属加工の技術です。この技術には日本の技術が使われてい
ます。量子アニーリング理論は、東京工業大学理学部長を務める
西森秀稔教授が提唱しています。この「量子アニーリング方式」
について、明日のEJで紹介します。
            ──[次世代テクノロジー論/64]

≪画像および関連情報≫
 ●「Dウェーブマシン」の商用利用が開始
  ───────────────────────────
   グーグルは、膨大な数のコンピューターをもっている。百
  万台規模のサーヴァーが相互に接続され、地球上で最も高速
  で、最も強力な人工知能をつくり上げてきた。しかし、昨年
  の夏、この検索エンジンの巨大企業がNASAと共同で手に
  入れたハードウェアは、さらにも増して最強かもしれない。
  少なくとも、これほど不可解なコンピューターはない。
   カリフォルニア州・マウンテンヴューにあるグーグルプレ
  ックス(グーグル本社)から数百マイル離れたNASAエイ
  ムズ研究センター内に設置されたその機械は文字通りブラッ
  クボックスだ。高さ10フィートほどの、巨大な冷凍庫のよ
  うなその黒い箱の中には、ある革新的なコンピューター・チ
  ップが収められている。それは、一般的に使われるシリコン
  の代わりにニオブ(耐熱合金として使われる金属)でつくら
  れた微小なループ状回路で構成され、宇宙空間の150分の
  1という極低温に冷却されている。箱の側面には、その名前
  ──それは、開発した企業の名前でもある──が、SFチッ
  クな大きな文字で書かれている。「D-Wave」。
   この黒い箱は、最先端の物理学を応用して、現存するどの
  コンピューターよりも高速にデータを処理できる、世界初の
  実用的な量子コンピューターだと、企業の幹部は説明する。
  もしそれが正しいなら、革命的なブレークスルーだ。しかし
  それは本当なのだろうか?     http://bit.ly/2BGPutb
  ───────────────────────────

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Dウェーブマシン/量子コンピュータ
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2017年12月27日

●「量子アニーリングの意味するもの」(EJ第4675号)

 Dウェーブマシン──量子コンピュータという言葉は使うもの
の、このコンピュータは、いわゆるノイマン型コンピュータのよ
うな何でもやれる汎用マシンではないことに留意する必要があり
ます。それでは、何を目的とするマシンなのでしょうか。
 Dウェーブマシンは、組み合わせ最適化マシンです。それ以外
のことはできないのです。組み合わせ問題とは、複数ある組み合
わせのなかから、最も条件に合う組み合わせを選び出すという問
題です。10月27日のEJ第4634号で述べた巡回セールス
マンの問題がこれに該当します。
 この組み合わせ問題は、現在のIoTの時代には、とくに計算
処理が不可欠なのです。これについて、早稲田大学高等研究所准
教授田中宗氏は、組み合わせ問題を解くコンピュータの必要性を
次のように述べています。
─────────────────────────────
 では、なぜ組合せ最適化処理を高速化する必要があるのだろう
か。組合せ最適化処理はデータ規模(巡回セールスマン問題の例
で言えば、訪問する場所数)が多くなるにつれて、選択肢の数が
爆発的に増加する。そのため、データ規模が大きくなっても「組
合せ最適化処理を高速に実行する技術」が求められていたのだ。
 IoTが社会実装へと向かいつつある昨今、より多くのセンサ
ーデータを獲得することが可能になり、かつ、その膨大な情報を
高速に処理することが必須となる。   http://bit.ly/2Bv6MWb
─────────────────────────────
 実は、Dウェーブマシンには、プロセッサ、すなわちCPUも
メモリもハードディスクのような外部記憶装置もないのです。そ
して、Dウェーブマシンを使うときは、問題を解くためのアルゴ
リズム、いやプログラムも開発する必要はないのです。それでは
Dウェーブマシンの正体は何なのでしょうか。
 Dウェーブマシンの特質を一言でいうと、次のことに尽きると
思います。
─────────────────────────────
 Dウェーブマシンとは、量子力学の「焼きなまし現象」を超
 電導回路を使って発生させる実験装置である。
               ──ジョーディー・ローズ氏
─────────────────────────────
 「焼きなまし(アニーリング)現象」とは何でしょうか。
 焼きなましは、金属加工技術の一種であり、日本刀の製造にも
使われています。いったん熱を加え、熱を徐々に弱めていくこと
で、金属原子の配置を整列させ、金属内の歪みを除去する方法の
ことをいいます。物理的には、アニーリングを使うことによって
エネルギーの低い安定した状態に移行させることを意味します。
 それでは、焼きなましの現象と量子アニーリングは、どのよう
な関係にあるのでしょうか。
 量子アニーリング理論を最初に考えたのは、東京工業大学の西
森秀稔教授と、当時西森研究室に大学院生として所属していた門
脇正史氏(現・エーザイ筑波研究所)の2人です。
 西森秀稔氏が、東京大学理学部物理学科の学生だった頃、「ス
ピングラス」という物質に関する理論研究が統計物理学の分野で
盛んに行われていたのです。この研究に興味を持った西森秀稔氏
は、統計物理学を専門分野に選んだのですが、この「スピングラ
ス」は、Dウェーブマシンと深い関係があるのです。
 なぜなら、Dウェーブマシンは、特殊な磁性体であるスピング
ラスを模した「3次元イジングモデル」という模型を実装してい
るからです。しかし、スピングラスの説明をすると、話がさらに
複雑になるので、省略します。
 1982年に米国の物理学者が脳の神経回路(ニューラルネッ
トワーク)が働く仕組みとこのスピングラスの理論との間に共通
点があることを発見します。西森秀稔教授はこれについて研究し
ニューラルネットワークに関する数式から、量子にみられる「量
子トンネル効果」を使って最適解を求める理論を門脇正史氏と共
同で論文として発表したのです。そのプロセスが焼きなましに似
ていたので、「量子アニーリング」と命名したのです。
 ここでいう最適解を求めるイメージを添付ファイルにしてあり
ますが、どういう意味なのかについて、竹内薫氏の説明を次に引
用します。
─────────────────────────────
 横軸は、可能性のパターン。縦軸はそのときのエネルギー(不
安定さ)を表す。フォン・ノイマン型コンピュータで、最適解を
探すためには、左から右へ順番に曲線を計算していき(玉を転が
し)、最もエネルギーの低いところを見つけることになる。そん
な「しらみつぶし」は大変なので、今は、適当なところから計算
を始めるやり方が主流である。近くに、もっと低いところがない
かを探すやり方だ。しかし、これだと、偽の答えにハマってしま
うと抜けだせない。
 そこで焼きなまし法の登場だ。焼きなまし法では、歪んで擬似
的に安定した金属に熱を加えるように、計算結果を揺すって、ハ
マった偽の解から脱出させる。揺すり方が適切なら、計算を繰り
返すことで、転がった玉は、最適解に辿りつけるだろう、という
戦法だ。            ──竹内薫著/丸山篤史構成
 『量子コンピュータが本当にすごい/グーグル、NASAで実
         用が始まった“夢の”計算機』/PHP新書
─────────────────────────────
 何となくイメージは掴めますが、内容は相当難解です。とくに
「揺すって」という部分はよくわかりません。まとめると次のよ
うになります。「焼きなまし」というエネルギーの最適化を行う
自然現象が経験的に知られており、それを真似して計算モデルを
作り、量子力学を応用して「量子アニーリング」という最も効率
のよい計算モデルを案出、それをDウェーブマシンで物理的に再
現したということになります。
            ──[次世代テクノロジー論/65]

≪画像および関連情報≫
 ●“量子コンピューター”組み合わせ「最適化問題」を解く
  ───────────────────────────
   現在最速のスーパーコンピューターで何百年もかかる計算
  を一瞬で解くとされる、量子コンピューターの実現が近づい
  てきた。ここ十数年の間、「2020年にも実用化か」「2
  050年までかかる」などさまざまにささやかれてきた。だ
  が、量子力学の法則に基づく“正統派”だけでなく、今や多
  様な計算機が登場し、実用性を打ち出す成果も徐々に出てい
  る。“夢の計算機”は創薬の効率化や高精度の気象予測、モ
  ノづくりの高度化などに威力を発揮する。人工知能(AI)
  の性能も爆発的に向上するだろう。
  【並列処理】
   量子コンピューターは、異なる二つの物理的状態を同時に
  取れる、量子力学的な「重ね合わせ」の性質を利用して計算
  する。現代のコンピューターは一度に一つの計算しかできな
  いが、量子コンピューターはこの重ね合わせの原理により、
  複数の計算を同時に行う。そのため、1回の計算で大規模な
  並列処理が可能なのだ。例えば、現在の暗号は解読に膨大な
  時間がかかることでその安全性を確保するが、量子コンピュ
  ーターが実現すれば、既存の暗号はたやすく破られる可能性
  がある。暗号は携帯電話やインターネット、電子マネーなど
  我々の生活に浸透しており、これらのサービスが根底から覆
  される恐れがある。        http://bit.ly/2BywSHE
  ───────────────────────────

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量子アニーリングによる「最適解」
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2017年12月28日

●「Dウェーブを追う国産量子マシン」(EJ第4676号)

 Dウェーブのハードウェアはどうなっているのでしょうか。内
部を探ってみることにします。
 「Dウェーブ」と書かれた黒い大きな筐体のなかには、銀色に
輝く筒状の「希釈冷凍機」があります。そのさらに内部には、D
ウェーブマシンの心臓部である超伝導回路が収められています。
なぜ冷凍機を使うかというと、超伝導回路は、絶対零度(摂氏マ
イナス273・15度)に限りなく近い「20ミリケルビン」と
いう温度に冷やす必要があるからです。したがって、この冷凍機
のなかは「宇宙で一番冷たい場所」になります。
 Dウェーブは「磁束」を使っています。磁束は、磁石のエネル
ギー量子のことで、「磁束量子」と呼んでいます。何しろ目に見
えないし、手で触れることもできないので、ピンとこないでしょ
うが、子どもの頃に、やった遊びを思い出していただきたいので
す。紙の上に砂鉄を置き、紙の裏から磁石を当てるときれいな模
様ができる──これは磁束量子がそうしているのです。
 ところで、「超伝導」とは何でしょうか。超伝導は次のように
定義されています。
─────────────────────────────
  超伝導とは、ある種の金属や合金をきわめて低い温度に下
 げると電気抵抗がなくなる現象。MRIやリニア モーター
 カーその他に利用されている。    ──ウィキペディア
─────────────────────────────
 超伝導は面白い現象です。電気抵抗は摩擦と同じであり、電気
抵抗がゼロになると、電流は延々と回り続けます。ごくごく小さ
な超伝導物質の輪を作り、そこに電流を流すと、輪はいつまでも
周り続けます。輪の中心に目に見えない磁気が存在しているので
それを量子として利用します。磁束量子について、竹内薫氏は次
のように述べています。
─────────────────────────────
 磁束量子は、メチャメチャ小さな磁石みたいなものだ。それを
小さな超伝導物質の輪の中に閉じ込めると、輪の中を流れる電流
の回転方向(右回りと左回り)によって磁束の向きが反転するこ
とが分かるだろうか。つまり、それが今回の量子計算モデルに使
う「0」と「1」になる。ここでのポイントは、従来型の量子コ
ンピューター研究でデバイスに使おうとしていた、分子や電子、
光子ではなく、磁束だったことだ。他の方式には、大掛かりな装
置を使った難しい制御が必要だが、磁束は回路の電流の向きで制
御できる。           ──竹内薫著/丸山篤史構成
 『量子コンピュータが本当にすごい/グーグル、NASAで実
         用が始まった“夢の”計算機』/PHP新書
─────────────────────────────
 添付ファイルの写真は超伝導回路です。ここには、量子コンピ
ュータにとって最も重要な「量子ビット」が実装されています。
量子ビットは、「ニオブ」という超伝導材料で作られたループで
ループに左回りの電流が流れると上向き、右回りに電流が流れる
と下向きの「磁束量子」が発生します。量子ビットのなかには上
向きまたは下向きの信号が流れるのです。なお、磁束量子とは、
物体に磁力をもたらすもので、磁束の最小単位です。
 Dウェーブマシンは、その後キュービット(量子ビット)の数
を大幅に増加させ、2015年には1152キュービット、20
17年には2048キュービットと、ほぼ2年ごとにその速度を
向上させています。
 Dウェーブ社はカナダを本拠地に持つ企業ですが、その技術の
中心である「量子アニーリング」は日本の技術です。これとは別
に国産の量子コンピュータの試作機も既にできています。国立情
報学研究所などが制作したもので、今年の11月20日の朝日新
聞によると、このマシンを無償で公開し、使ってもらう試みがは
じまっています。試作段階で公開して改良につなげ、2019年
度末までに国産での実用化を目指しています。記事の一部を以下
に引用します。
─────────────────────────────
 基礎研究は1980年代に始まり、日本の業績も世界的に評価
されている。国立情報学研究所や理化学研究所、NTTなどは、
内閣府の研究支援制度を使い、光ファイバーとレーザー光を組み
合わせた独自の方式を開発。計算速度は、理研にある小型パソコ
ンと比べて平均で約37倍速く、特定の計算では、Dウェーブよ
りも正答率は大幅に高かった。スパコンは冷却に多くの電力が必
要で、大規模な「京」では1万数千キロワットに及ぶ。今回の試
作機は、大型電子レンジ程度の1キロワットで済むという。
        ──2017年11月20日付/朝日新聞朝刊
─────────────────────────────
 この国産の量子コンピュータが実現すると、人工知能を実現す
る「機械学習」に必要な「組み合わせ最適化計算」を従来型のコ
ンピュータに比べて桁違いに高速化できる可能性があります。
 これは「2の5000乗回の繰り返し計算」を10マイクロ秒
で完了できるマシンです。2の5000乗は、10進数で約15
00桁の数になります。1秒間に1京回の計算ができる理化学研
究所のスーパーコンピュータ「京」を1京台集めて100億年計
算し続けたとしても完了しない回数の計算を一瞬で完了できる夢
のマシンとなる可能性をもっています。しかし、解決すべき課題
はたくさんあります。
 9月25日から書いてきた今回のテーマ「次世代テクノロジー
論」は今回で一応終了することにします。次世代テクノロジーと
いいながら、AI(人工知能)やブロックチェーンなどについて
は、取り上げていません。
 これらについては、新年において単独のテーマとして取り上げ
る予定でいます。長い期間にわたってのご愛読ありがとうごさい
ました。新年のEJの配信は1月5日からです。2018年も、
EJをよろしくお願いします。
        ──[次世代テクノロジー論/66]/最終回

≪画像および関連情報≫
 ●日本の「量子コンピュータ」に異議?果して本物か偽物か
  ───────────────────────────
   内閣府の主導のもとで開発されたという日本発の「量子コ
  ンピューター」をめぐり、インターネット上で疑問が次々に
  沸き上がっている。その仕組みからして量子コンピューター
  と呼んでよいのかどうか、判断に困っている人が多い。
   量子コンピューターは、量子力学の原理を用い、従来のコ
  ンピューターでは難しい性能、機能を発揮する機器として期
  待が集まっている。以前は「量子ゲート方式」と呼ぶ仕組み
  の研究が主流として注目を浴びてきたが、最近は別の「量子
  アニーリング(焼きなまし)方式」で実用化したという製品
  も海外で登場してきている。
   大学のような研究機関だけでなく、グーグル、IBM、イ
  ンテルといったITの巨人も開発競争に加わり、また各国政
  府も動いている。米国などの存在感が強い分野だが、新たに
  日本発で登場したのが「量子ニューラルネットワーク」とい
  うもの。
   開発したのは内閣府総合科学技術・イノベーション会議が
  主導する革新的研究開発推進プログラムの山本喜久プログラ
  ム・マネージャーの研究開発プログラムの一環としてだ。参
  加しているのは、NTT物性科学基礎研究所、量子光制御研
  究グループの武居弘樹上席特別研究員、本庄利守主任研究員
  らのグループ、情報・システム研究機構国立情報学研究所、
  情報学プリンシプル研究系の河原林健一教授、加古敏特任准
  教授らのグループ、東京大学生産技術研究所の合原一幸教授
  神山恭平特任助教らのグループ。  http://bit.ly/2kUJClT
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Dウェーブの本体「磁束量子」.jpg
Dウェーブの本体「磁束量子」
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする