2017年11月30日

●「マトリックス設計思想を分析する」(EJ第4656号)

 このところ、テクノロジ進化と関連して映画『マトリックス』
について論じています。実は、EJでは、この映画について20
03年と2006年にメインテーマではないものの、取り上げて
います。したがって、今回が3回目ということになります。
 2006年には、メインテーマ「ダヴィンチ・コード」のなか
で、キリスト物語との関連で、3回にわたって書いています。こ
の部分は、ブログで参照できるので次に示しておきます。
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    2006年09月07日/EJ第1916号
              http://bit.ly/2AzHFom
    2006年09月08日/EJ第1917号
              http://bit.ly/2BpOpSE
    2006年09月11日/EJ第1918号
              http://bit.ly/2n7fOWw
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 映画『マトリックス』は、システムというものを考えるときの
参考になります。マトリックスは、一体どういう仕組みになって
いるのでしょうか。マトリックスの設計者は、いうまでもないこ
とながら、人間ではなく、AI(人工知能)です。
 このシリーズの第2作『マトリックス/リローデッド』のラス
トに登場する「アーキテクト」と名乗る老人が設計者という設定
です。アーキテクトは「アーキテクチャ(architecture)」とい
う言葉からきており、マトリックス全体の設計思想の創案者であ
ると思われます。もちろんアーキテクトの正体はAIです。
 もともとAI──映画では「機械対人間」という構図で描いて
おり、「機械」とか「機械都市」とかいう言葉を使っていますが
当時と違って昨今はAIという言葉がよく使われているので、こ
こでは「AI」という言葉を使うことにします。
 映画『マトリックス』3部作を通じて、マトリックスは3回に
わたってバージョンアップしています。もともとAIは、人間と
は戦わないで、共存共栄を図ろうとしていたのです。しかし、人
間が、AIの力を削ぐため、電力を絶つ目的で太陽を使えないよ
うにしたため、AIは人間を電源として使う方法を考え出したの
です。人間は生体電気を生み出す120ボルト以上のバッテリー
になりうるからです。
 アーキテクトは、これまでの3部作のなかで、3回マトリック
スを再構築しています。
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   第1次マトリックス・・完璧な理想郷としての世界
   第2次マトリックス・・不完全さを取り入れた世界
   第3次マトリックス・・選択行動をとり入れた世界
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 第1次は「完璧な理想郷としての世界」を構築したのです。
 アーキテクトとしては、人々が仮想現実の世界で何の苦痛も不
安もなく幸せに暮らせる理想郷を作ったつもりだったのです。そ
うでないと効率的に発電できないからです。
 それでもその世界を受け入れないアノマリー(異端児)は必ず
一定数出るものと予想し、その受け皿として「ザイオン」という
都市を作っています。異端児を排除するのではなく、アノマリー
だけの都市を作り、それをAIが一括して管理するシステムにし
たのです。しかし、第1次マトリックスでは、アーキテクトの想
定を上回るアノマリーを出してしまいます。レジスタンス活動を
しているモフィアスやトリニティは、このときのアノマリーであ
ると思われます。彼らは、ザイオンを出て、ネブカトネザルとい
う名のホバークラフトに乗って、激しいレジスタンス運動を行っ
ています。
 第2次は「不完全さを取り入れた世界」を構築したのです。
 AIは人間の生態がよくわからない。そこで、そういう人間心
理の探索をする役割の直感プログラムをつくっています。それが
「オラクル」です。映画では「予言者」と呼ばれていますが、見
た目はふつうのおばさんです。
 オラクルの探索の結果、人間自身は元来「不完全さ」や「不合
理さ」を持っており、そういうものをマトリックスに取り入れる
必要があることが判明します。そこで、アーキテクトはそういう
ものを取り入れたマトリックスを設計し、構築します。これが第
2次マトリックスです。しかし、これも失敗でした。不完全性を
加えて再設計したマトリックスでも、多数のアノマリーを生む結
果となってしまったのです。
 マトリックスにはもうひとつの仕掛けがあります。それは「ザ
・ワン(The One)」 です。映画では「救世主」と呼称されてい
ます。彼はマトリックスをバージョンアップするために必要な要
素です。これは、アノマリーが一定に数に達すると、特殊な計算
式によって統合体として誕生します。映画では、ザ・ワンにネオ
が選定されますが、そのようにマトリックスのシステムが構築さ
れているのです。ちなみにザ・ワンの「ONE」の文字を並び替
えると、「NEO/ネオ」になります。つまり、アナグラムであ
り、トーマス・A・アンダーソンを指しています。
 第3次は「選択行動をとり入れた世界」を構築したのです。
 これは、オラクルが提案し、アーキテクトが取り入れたもので
す。その提案とは「人間に『選択』という行動を与えると、ほと
んどの人はそれを受け入れる」ということです。相手に選択権を
与えることによって、自分の意思決定であると感ずるものです。
 これによって、第3次マトリックスは、マトリックスの寿命を
延ばすことに成功したので、オラクルは「マトリックスの母」と
呼ばれるようになります。
 この「選択の概念」によって、映画にはさまざまな2者択一が
出てきます。モフィアスによる赤いピルと青いピル、アーキテク
トの示す右のドアと左のドア。マトリックスについての考察につ
いては、明日のEJでもさらに進めます。
            ──[次世代テクノロジー論/46]

≪画像および関連情報≫
 ●「マトリクス」についての哲学的考察
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   マトリクス3部作、映画としては色々な意見があります。
  まず、あの世界観、ストーリー、そしてビジュアルは、ぼく
  は一点を除いて斬新だと思いませんで、むしろ慣れ親しんだ
  ものという感じがしました。
   斬新でなく、慣れ親しんだのはどこかというと、漫画やア
  ニメです。斬新だと思った一点は、あれを実写(CGを実写
  とするかの議論はあろうかと思いますが)でやってしまった
  ところです。最後、レボリューションズの終わり方はわけわ
  からんというご意見が多いように思いますが、あれは通常漫
  画やアニメだとある、主人公の心中を語る独り言が無い作り
  方をしていることにより、ウォシャウスキー兄弟が展開だけ
  は踏襲し、画竜点睛を欠く結果になったのだろうと感じまし
  た。今回は哲学的な考察なので、映画評はこの辺にしときま
  しょう。マトリクスを哲学的に考察すると、どうなるのでし
  ょうか。
   マトリクスから学んだ哲学は、「すべては、チョイス>ア
  クション>リアクションであり、それ以上でもそれ以下でも
  ない」ということです。確か、メロヴィンジアンがこんなこ
  とを明確に口にしますが、物語全般に貫かれているテーマで
  す。               http://bit.ly/2i8K7dY
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マトリックスの設計者/アーキテクト.jpg
マトリックスの設計者/アーキテクト
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする