2017年09月21日

●「世界に類のない日本の卸売市場法」(EJ第4609号)

 これからの中央卸売市場問題を考えるさいに知っておくべきこ
とがあります。それは、日本のような中央卸売市場制度は世界で
も珍しく、同様の制度は韓国と台湾にしかないことです。この場
合、韓国や台湾はかつて日本が統治していた国であり、日本の制
度が受け継がれたものと考えることができます。
 日本の中央卸売市場制度のどこが特異であるかというと、卸売
業者(大卸+仲卸)に対する法的な締め付けが大変に厳しい点に
あります。具体的にいうと、原則的に卸売業者は、法律で定めら
れた手数料でしか商品を売ってはならないことになっており、自
由に値付けができないのです。
 どうしてこのような制度になったのかというと、そのきっかけ
は、1918年(大正7年)に起きた米騒動にあります。当時イ
ンフレが発生するなかシベリア出兵が発表され、米相場は一気に
上昇します。そうすると、相場の上昇を見た各地の米問屋は、米
の買い占めや売り渋りをはじめ、主食の米が庶民に行き渡らなく
なってしまったのです。これが新聞で報道されると、この傾向は
一気に全国に波及したのです。これが「大正の米騒動」です。
 この事件をきっかけにして、公設市場開設への議論が一気に進
みます。しかし、立場によって、その狙いはバラバラであり、こ
れは現代にも引き継がれています。
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 ◎市民に食品を効率よく行き渡らせる ・・・ 社会運動家
 ◎都市の衛生のために市場を管理する ・・・   内務省
 ◎無駄の多い取り引きを統制させたい ・・・  農商務省
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 1923年に「中央卸売市場法」が成立し、1927年の京都
市を皮切りに、日本各地に中央卸売市場が誕生します。そこでは
公正な価格決定と取り引きの明朗化が謳われたのです。これによ
り、それまでの問屋市場は中央卸売市場に移され、取り引き方法
の合理化の手段として、委託販売、セリ売り、場内現物取引が決
められ、手数料制が導入されたのです。
 しかし、時代が進むにつれて、規制緩和が行われ、セリ売りに
ついても、制度としては1999年になくなっています。現在で
は、市場ごとに一部の水産物について行われていることは既に述
べた通りです。このままでは、セリ売りはやがてなくなってしま
うことは確実です。
 安倍内閣に規制改革推進会議というのがありますが、その農業
ワーキンググループが作成した次の文章があります。
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 特に、卸売市場については、食糧不足時代の公平分配機能の必
要性が小さくなっており、種々のタイプが存在する物流拠点の一
つとなっている。現在の食料需給・消費の実態等を踏まえて、よ
り自由かつ最適に業務を行えるようにする観点から、抜本的に見
直し、卸売市場法という特別の法制度に基づく時代遅れの規制は
廃止する。       ──中澤誠/水谷和子/宇都宮健児著
           『築地移転の闇をひらく』/大月書店刊
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 セリ売りが全廃されると、価格で競うしかなくなります。価格
競争になると、時間とともに鮮度の落ちる生鮮食品は、不利で足
元を見られ、買い叩きが起きてしまいます。そうなると、生産者
(漁業従事者)の収入がダウンし、とくに小規模の生産者は、割
に合わないと生産をやめてしまうことになります。この傾向は現
在も続いており、漁師を生業とする人たちは減っています。
 セリ売りがどれほど大事であるかについては、東卸市場労働組
合委員長の中澤誠氏は次のように述べています。
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 築地市場では、沖縄のマグロに一番いい値がついたことがある
のです。普通、マグロと言ったら大間が有名です。けれどもその
日並んでいた中で、これはどう見ても沖縄のマグロがいいと、そ
の日仲卸の目利きが、一番いい値段をつけたことがあります。そ
うすると東京中の一流の寿司屋が、築地で値段がついたならば間
違いないということで、その沖縄のマグロを買っていくのです。
 これはどういうことか。つまり、大間のマグロだったらブラン
ドとして名が知られていますから、素人でも値段が付けられる。
けれども、沖縄のマグロにもこうやっていい値段がつくというこ
とは、日本中にたくさんいる、ブランド力のない生産者のやる気
を引き出すんです。それが築地ブランドです。名前だけでない、
実体がともなっている。それが築地の実力なのです。
      ──中澤誠/水谷和子/宇都宮健児著の前掲書より
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 小池知事は、このセリ売りを何とかして残そうとしています。
それは仲卸業者を守ることで実現されます。そしてそれは「築地
を守る」ことにつながるのです。ということは、築地市場にも市
場機能持たせることを意味しています。小池知事の説明によると
民間に貸し付けて、一部の市場機能や商業施設を複合させ、食文
化の発信地として築地ブランドを守るとしています。つまり、築
地の民営化を目指しているのです。
 しかし卸売市場法では、20万人以上の人口を有する自治体が
設置する中央卸売市場について、民間参入を禁じており、2市場
併用案を実現するには、市場法の規制緩和が必要になります。こ
れについて小池知事は、ここに特区制度を活用しようとしている
のではないかといわれています。
 これは、特区制度を推し進めようとしている安倍政権にとって
悪い話ではないと思います。世論の関心の高い市場移転問題が特
区を利用して解決できれば、特区の有用性を宣伝でき、「築地を
守るため」「食の安全を守るため」という大義名分も立つので、
特区活用の可能性は十分あります。
 しかし、2市場併用案については、市場関係者にとって多くの
疑問があります。これについては、明日のEJで考えることにし
ます。           ──[中央卸売市場論/056]

≪画像および関連情報≫
 ●小池知事/「特徴を生かせば共存可能」2市場両立に自信
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   「私は豊洲移転ありきではなく築地」。東京都の小池百合
  子知事は6月20日夜、産経新聞の単独インタビューに応じ
  市場移転問題を検討するにあたっては、築地ブランドの活用
  を重視していたことを明かした。豊洲移転・築地再開発の両
  立案には業界内からも批判が出ているが、「特徴を生かせば
  共存可能」と反論した。
   このタイミングで、具体性が十分でない基本方針を発表し
  たとの指摘には、「昨年に定めたロードマップ(工程表)に
  従って一つずつ詰めてきた」。ただ、その一方で築地への思
  いを強く打ち出した。「途中から豊洲移転の話がメディアに
  躍った。私は豊洲移転ありきではなく、築地なんですよ、基
  本的に。豊洲移転のイメージが先行しているのはよろしくな
  いと思った」。両立案によって市場機能が分割されることに
  業界内から批判が上がっていることに対しては「その前に、
  都内に11の卸売市場があることをどうするんだという話が
  ある」と反論。「いまネットで、個人が注文してしまう時代
  になっているわけで、市場を取り巻く環境はこれからも激変
  していく。それぞれの特徴を生かして共存できると思う」と
  指摘した。            http://bit.ly/2y8IHCn
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2市場両立案は実現可能/小池知事.jpg
2市場両立案は実現可能/小池知事
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中央卸売市場論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする