から持っていたといわれます。さらに豊洲市場の土壌汚染の実態
についても、自身の環境大臣時代の人脈を使って相当程度情報を
掴んでいたはずです。つまり、その時点から基本的に築地市場で
の再整備を心のなかでは決めていたと思われます。
これまで築地市場の再整備を阻んできたのは、築地市場を営業
しながら、工事をすることの困難さです。種地がなかったからで
す。しかし、現在は土壌汚染問題が残っているとはいえ、豊洲市
場がいつでも使える状態で完成しているのです。
これを使わない手はないし、知事としても既に莫大なコストを
かけて完成している豊洲市場を活かさなければならない。そのた
め、2018年中に築地市場を豊洲市場に移転し、東京五輪終了
後に5年程度の年月をかけて、築地市場を再整備して戻すことを
考えていると思われます。それにその時点では、AIなどの技術
による社会のIT化が一段と進み、卸売市場そのものも大幅に変
革せざるを得なくなると読んでいます。「築地を守る、豊洲を活
かす」とはこういうことを示しているのです。
しかし、2市場併用プランについては「現実的ではない」とか
「コスト的に無理」とか、「2つの市場はあり得ない」とか、い
ろいろな批判が出ています。これらの批判について、小池知事は
次のように反論しています。
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どうして日本の宝物を両方とも生かさないのかと思いますね。
土地は一度売却してしまうと、あとはディベロッパーに切り売り
されるだけで元には戻らない。私たちの方針を批判する方々は、
そのことの意味をわかっているのでしょうか。江戸時代の日本橋
魚河岸から、関東大震災後の築地外国人居留地開発を経て現在に
至る築地の歴史的魅力を保つためにも、土地全体が残るかたちの
ほうがいい。築地が培ってきた文化と、世界への発信力に終止符
を打つなどという、それこそ「もったいない」真似をなぜするの
でしょうか。
その一方で、市場移転について二十年も三十年も議論を続けて
いるうちに、物流の環境や技術が飛躍的に進歩しました。距離だ
けを問題にする従来の立地の在り方も大きく変わっています。フ
ロン規制による冷蔵施設の需要がさらに増大するなかで、私は目
先の利害よりも、将来にわたる施設としての「持続可能性」を考
えるべきと考えます。「とにかく決めたことだから、市場を早く
豊洲に移せ」というだけでは、あまりにも無責任。豊洲を生かし
築地も守ることを考えて何が悪いか、と思います。
──「Voice/ボイス」/2017年10月号
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これに対し、築地市場の主要業界団体のトップで構成する「築
地市場協会」は、小池知事に対し、知事による豊洲市場の安全宣
言を求め、要望書を提出しています。その目的は、風評被害の払
しょくですが、もし豊洲市場で予期せぬ事態が発生したときの補
償などの目的もあるものと思われます。
しかし、小池知事は明確な安全宣言は出さないと思います。な
ぜなら、豊洲市場は、改正土対法では土壌汚染区域に指定されて
いるからです。これについて、東卸市場労働組合委員長の中澤誠
氏と一級建築士の水谷和子氏は、小池知事の安全宣言について次
のように述べています。
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中澤:そんなこと(知事の安全宣言)が可能でしょうか。自分の
やったわけではないものの責任を、小池さんが自ら背負う
形で安全宣言できるでしょうか。
水谷:土壌汚染対策法上で言えば、豊洲市場用地はおそらくずっ
と高濃度汚染地区です。環境基準の10倍を超える汚染区
域です。小池都知事も、そんな場所に「安全宣言」は、と
うてい出せないでしょう。そんな尻ぬぐいするとは思えま
せん。
中澤:どう想像しても、小池さんが安全宣言をする場面が思い浮
かびません。自分が行ったことならまだしも、人の尻ぬぐ
で安易に安全宣言をしたら、その後何が起こっても、小池
知事の責任になります。それと同じ理由で農林水産省も認
可しづらいはずです。(一部略)
──中澤誠/水谷和子/宇都宮健児著
『築地移転の闇をひらく』/大月書店刊
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安全宣言といえば、舛添前知事が定例記者会見でそれに近い宣
言をしています。しかし、舛添氏は、土壌汚染対策はしなければ
ならないもの(マスト)ではなく、それがあるからといって市場
を開業できないわけではないことを強調しています。
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記者:じゃあ、市場関係者とか外に向かってここは安全ですよと
宣言したということとイコールだと捉えても大丈夫なわけ
ですか。
舛添:大丈夫ですよ。間違ってほしくないのは、それがなければ
開けないというマストの条件ではありませんけれどやった
ということ。よく誤解があって、それもやっていないのに
開くのか、それやって結果が出たらどうなると。その因果
関係は法律上は全くありませんということを申し上げたい
ので、私はこれで十分安全であると、ですから市場を開設
しますということを責任持って申し上げたいと思います。
──2014年12月9日、舛添知事定例会見
http://bit.ly/2y89z5C
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要するに、舛添前知事は地下水に土壌汚染は残るが、豊洲市場
は「安全」として、安全宣言をしたのですが、その後に「盛り土
なし」が判明します。この時点で安全宣言は崩壊しています。
──[中央卸売市場論/055]
≪画像および関連情報≫
●豊洲移転、風評被害払拭は「安全宣言より情報発信」
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築地市場(東京都中央区)の豊洲市場(江東区)への移転
問題を検証する都の市場問題プロジェクトチーム(PT)は
8月4日、豊洲市場の風評被害の払拭に向け「『安全宣言』
という単発的な対策ではなく、継続的な情報発信などを提案
する」といった内容を含む提言をまとめた。今後、提言を盛
り込んだ豊洲市場の安全・安心に関する報告書を小池百合子
知事に提出する。築地市場の業界団体から移転前に小池氏が
安全宣言をするよう求める声が上がっており、小池氏の対応
が注目される。
提言では都が市場移転に向けて実施する追加の土壌汚染対
策工事を「安全・安心に資する」と評価する一方、対策に関
するPDCAサイクル(計画・実行・評価・改善の継続)を
行うことが有用であると指摘。
さらに風評被害払拭について「豊洲市場用地は、法律的・
科学的に安全であり、被害が生じているわけでもない。こと
さら『安全宣言』というのも奇妙だ」とした上で、追加対策
の内容や効果、大気や水質の測定値を公表して正確な情報を
発信するよう促した。小池氏は同日の定例記者会見で「(P
Tの)提案を参考にしながら深めていきたい」として、情報
発信の在り方などについて検討を進める見解を示した。
http://bit.ly/2hatWvG
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記者会見する伊藤裕康会長