2017年09月15日

●「大局的戦略的発想のない豊洲市場」(EJ第4606号)

 小松正之氏による豊洲市場の問題点の指摘を続けます。今回は
3と4です。
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       1.   衛生・品質と温度管理
       2.情報の広域化とIT化の遅れ
     → 3.  減少する入荷量と集荷力
     → 4 .物流の近代化の大幅な遅れ
                ──小松正之著の前掲書より
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 「3」について考えます。
 かつて築地市場は、1980年代から1990年代頃のバブル
の絶頂期には、世界中から水産物を買い付け、国内からのものを
加えると、その水産物の取扱数量は90万トン、取扱金額にして
9000億円もあったのです。日本中のおいしい水産物はすべて
築地市場に集まってきたのです。
 しかし、現在では築地市場への入荷量は半減しています。20
16年の水産物の取扱量は、40万9866トンで、2006年
(57万2617トン)に比べて、28%も減っています。これ
に関して小松正之氏は、築地市場は近年凋落の一途を辿っている
日本の沿岸漁業に資源管理を徹底するようメッセージを発するべ
きであるとして、次のように述べています。
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 アイスランドやノルウェー、オーストラリア(シドニー)など
では、ITQ(「画像および関連情報」参照)のような厳格な資
源管理制度をベースにして、安定した漁獲物の提供、および漁獲
物の情報化が容易になっている。
 ところが日本では、そのようなシステムの構築と中央卸売市場
を結びつける構想など全くない。豊洲は水産物の集荷センターに
なるべきであるが、集荷の責任を負う卸売業者と仲卸業者は、何
ら新たな努力をせず、水産物は当然豊洲に集まるものとの甘い期
待感をもっているように見受けられる。    ──小松正之著
    『「豊洲市場」これからの問題点』/マガジンランド刊
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 「4」について考えます。
 築地市場はもちろん、最新の豊洲市場でも、その近代化は大幅
に遅れています。小松正之氏は次のように述べています。
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 オランダの花卉市場では、プログラミングされた動線に沿って
無人車両で商品を搬送できるようになっている。ところが豊洲市
場内の仲卸業者が卸から搬送する場合は、築地と同じように各社
ごとのターレ(豊洲では環境保全のために電動ターレのみ)を使
うことになっているため水産仲卸で500台以上、青果で150
台程度のターレが稼働する。各ターレの動きには一定の指示が与
えられないし、人件費なども膨大である。
 しかも、水産卸売棟と仲卸棟は1階⇔4階、青果棟は1階⇔3
階の移動が必要な場合がある。大型エレベーターと垂直搬送機が
あるとはいえ、上下移動にはそれなりの時間がかかる。
                ──小松正之著の前掲書より
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 現代は、運転手のいない無人自動車が一般道路を走行しようと
いう時代です。まして各種生産工場などでは、AI技術を駆使し
た、いわゆる「工場内物流」が常識になりつつあります。現代の
技術であれば、十分可能なことです。
 しかし、豊洲市場は、これから移転する最新の市場でありなが
ら、欧米の市場では既に行われているプログラミングによって、
商品を決められた場所に搬送する無人車両などの「市場内物流」
の構想がどこにもありません。
 せっかく巨額なお金をかけて豊洲に新市場を作りながら、どう
してこのようなことが起きるのかというと、築地市場から豊洲市
場への移転に当たって、日本の中央卸売市場をどう考えるかとい
う大局的・戦略的構想がまるでなく、豊洲新市場は、築地市場か
らの単なる物理的移転になってしまっているからです。
 小松正之氏は、むしろ築地市場の建築の方が、大局的、戦略的
な洞察があったとして、次のように述べています。
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 築地市場は、車社会になってからはその物流の動線がネックと
なったにせよ、鉄道・船舶輸送が全盛だった開設当時においては
じつによく考えられた施設構造になっていた。関東大震災後とい
うこともあり耐震技術も駆使し、床も水はけがよく滑らないよう
な石材を惜しげもなく使った。少なくともハード面の整備におい
ては、市場としての機能を検討、熟考した末に設計されたもので
豊洲市場建設のプロセスより格段に優れていたと思う。
                ──小松正之著の前掲書より
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 小松正之氏のこの著書は2017年1月に刊行されたものであ
り、小池知事の築地・豊洲2市場併用宣言は、当然その前提には
なっていません。既に完成している豊洲市場で理想の中央卸売市
場として運営するのは困難ですが、豊洲市場とこれから新築する
新築地市場を合わせて、大局的・戦略的構想に基づいた中央卸売
市場の運営を実現する余地は残されると思います。小松氏は、こ
の著作を次のようにしめくくっています。
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 豊洲の新しい中央卸売市場の開設が遅れれば、日本市場の優位
性と日本に集荷される水産物の減少を招くのみである。世界は、
現在の東京都と中央卸売市場関係者の対応を、冷めた日で見てい
ると思われる。世界規模の水産物の貿易流通調達の「ジャパン・
パッシング」を、豊洲市場移転論争は助長していると見るべきで
もはや一刻の猶予もない。    ──小松正之著の前掲書より
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              ──[中央卸売市場論/053]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ漁業補助金を撤廃できないのか/小松正之氏
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   日本が資源回復の光明を見いだせないなかで、アイスラン
  ドやノルウェーなど回復に成功している国がある。その決定
  的な違いは採用している管理制度。主な漁業先進国が取り入
  れているのはオリンピック方式ではなく、IQ方式やITQ
  方式と呼ばれるものだ。
   まず、IQ方式だが、これは「Individual Quota」、つま
  り個別漁獲割当方式といって、TACで設定された漁獲量を
  それぞれの漁業者に割り当てる方法のことをいう。「自分の
  漁獲量が決まっているから、他人の動向に左右されることな
  く漁ができます。年間を通じて操業計画が立てられるのでコ
  ストの計算もできますし、市場を見ながら高い魚を選んで漁
  をすることもできる。韓国は1999年にIQ方式を導入し
  2003年に110万トンだった沿岸・近海の漁獲量が20
  08年には130万トンに増加しています」。
   しかし、このIQ方式には制約もある。たとえば、ある業
  者は2000トンの漁獲枠を割り当てられたが、達成するに
  は船を大型化するなどの新たな投資が必要になる。それを望
  まずに1000トンしか漁獲しなかった場合は、残りの10
  00トンの枠が無駄になる。経営戦略に合わせて漁獲量を調
  整することが難しいのだ。「そこで、漁業者同士で漁獲枠を
  賃貸・売買できるITQ方式が登場しました。これによって
  漁業者は、より計画を立てて漁ができるようになった。ノル
  ウェーやアイスランド、オーストラリア、アメリカはみんな
  ITQ方式を採用しています」。 http://nkbp.jp/2xh27rJ
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小松正之氏.jpg
小松 正之氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中央卸売市場論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする