2017年09月12日

●「市場が近代化すると仲卸が消える」(EJ第4603号)

 改めて卸売市場について考えます。卸売市場というのは、次の
3種類の人たちによって構成されています。再現します。
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        1.卸売業者──元卸/大卸
        2.仲卸業者─────仲卸
        3.        買出人
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 「1」の卸売業者(元卸/大卸)は昔の問屋のことで、各産地
から生産者(漁業者)が取ってくる魚を集め、市場に運んでくる
業者です。当然のことですが、大きな資本力が必要です。築地市
場には7社の大卸があって、いずれも大企業です。つまり、大卸
は、商品の提供者、売り手ということになります。
 一方、買出人は自分のお店──例えば、寿司店や料理店などを
持っており、店でお客に出す料理のネタを仕入れる業者のことで
す。したがって、買出人の先には一般消費者の世界が広がってい
ることになります。買出人は、商品の買い手です。
 この大卸と買出人の間に入るのが仲卸業者です。大卸が運び込
んでくる魚の目利きをし、セリによって魚の値段をつけ、魚の加
工をして、買出人に提供します。現在、築地市場の仲卸業者の数
は600社を超えますが、ほとんどは中小企業です。
 実は、この仲卸という仕事には、何度も廃止の危機が襲ってい
ます。明治の初めに日本橋魚市場でも仲卸の廃止が叫ばれたし、
築地に移るときも廃止論が出ています。しかし、それでも長い間
にわたって、仲卸は生き延び、現代にいたっています。
 仲卸の仕事で重要なのはセリですが、これは大昔に制度化され
仲卸の歴史とともにあります。しかし、1999年の卸売市場法
の改正で、国の制度としてのセリはなくなっています。現在は、
各市場で特定の魚に絞って行うようになっています。この制度と
してのセリの廃止も、仲卸という仕事を危機にさらしているとい
えます。このセリ制度について、現在仲卸の仕事をしている中澤
誠氏は、インタビューで次のように述べています。
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──:セリとは何よりも、生産者のために生まれた制度として
   始まった。
中澤:・・のだと思います。
   もしセリがなくて、法定価格みたいなものだとしたら、
   生産者はそれによって権力の支配下に置かれてしまいま
   す。その間のクッションとして仲卸のセリが生まれて、
   非常にうまく機能したということですね。
中澤:制度化したというのが大きいのではないでしょうか。逆
   に消費サイドから見た場合、セリとは品質に値段をつけ
   る制度ですね。セリをやるということは、生産者はいい
   品質のものを生産しよう、あるいはいい魚を取ってこよ
   う、いい状態で東京に送ろう、という動機になるわけで
   す。セリでいい値段がつけば自分が儲かるわけだから。
   消費者の側から見ると、生産者が良い品質のものを作ろ
   うとすることは消費者にとっても非常に良いシステムな
   んですね。この卸売市場を、品質の競争でやろうと決め
   たのは、これは天才ではなかろうかという感じです。
    ──インタビュー/中澤誠氏「天才的な築地市場」より
      『現代思想』2017年7月臨時増刊号/青土社刊
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 昨日のEJで検討した豊洲市場移転の3つのメリット、「食の
安全確保」「効率的な物流」「多様なニーズ」は、いずれも仲卸
業者にとってはほとんどメリットがないのです。
 「食の安全確保」については、仲卸業者の問題ではなく、市場
全体の問題です。それでも、本来は「古い、狭い、危ない」築地
市場から、「新しい、広い、安全な」豊洲市場への移転だったは
ずですが、「古い」は「新しい」になったものの、「狭い」は必
ずしも「広く」ならず、土壌汚染の問題が出たことによって「危
ない」は豊洲にそのまま残っています。
 「効率的な物流」も仲卸にはあまり関係がありません。入荷は
大卸の仕事ですし、出荷に関しては効率的になるメリットはあっ
ても、仲卸だけのメリットではないし、「多様なニーズ」に関し
ても仲卸には特段のメリットはありません。
 つまり、仲卸業者の視点から見ると、豊洲市場移転はお金ばか
りがかかって、ほとんどメリットはないのです。だからこそ、ほ
とんどの仲卸業者が築地市場再整備を求めて、豊洲市場移転に反
対しています。
 それだけではないのです。市場が近代化すればするほど、仲卸
の仕事はなくなっていく傾向にあります。それが証拠に海外の卸
売市場には仲卸に当たる職人がほとんどいないと、中沢新一氏は
いっています。
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 海外の物流センターには、築地市場の仲卸にあたる職人がほと
んどいない。いたとしてもその数も能力も限られていて、築地市
場のように数百人を超える上質の味覚職人を、常時揃えておくこ
となどはとうていできていない。こうした物流センター化した市
場では、スーパーで売っているような平均的な食材は簡単に手に
いれることができるが、平均値を超えた逸品は、なかなか手に入
らなくなっている。そのためフランスでもイタリアでも、以前に
比べると、味覚の水準が低下したと嘆く食通が多くなった。
        ──中沢新一氏論文「築地市場の『富』」より
      『現代思想』2017年7月臨時増刊号/青土社刊
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 和食がなぜブームになっているのか。なぜ、築地の寿司は、世
界一おいしいのか──それは腕の立つ仲卸職人がいるからです。
こういうものは、意識して残さないと、いずれ、消滅してしまい
ます。こういう仲卸たちを守ることが、築地ブランドを守ること
につながるのです。     ──[中央卸売市場論/050]

≪画像および関連情報≫
 ●食のプロの技が築き上げた“世界一の市場”
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   築地場内には、マグロなどの大物鮮魚専門の店や、活魚が
  メインの店など、専門性の高い仲卸の店が所狭しと並んでい
  る。そのうちの二つの仲卸業者に、話を伺った。
   まず訪れたのは創業当時から生マグロにこだわる西誠(に
  しせい)。三代目代表の小川文博さんに、マグロを扱う際の
  知識と技について伺った。
   「せりの前には、『下ヅケ』と呼ばれる事前チェックをお
  こないます。尻尾の断面で脂の状態を確認し、味を想像しな
  がら下ヅケするんです。生マグロは時期を外すと見た目は一
  緒でも美味しくないこともありますし、いろんな知識をもと
  に値付けをしますが実際に切ってみたら予想と違った、とい
  うこともありますね」と小川さん。大きなマグロは、解体も
  一筋縄ではいかない。解体用の包丁は何種もあり、大きいも
  のでは150センチメートルほど。さらに片刃になっていて
  まっすぐ切るのも難しいが、プロの手と技によって丁寧に小
  分けにされ、店頭に並んでいく。
   マグロは獲れる場所や時期により種類が異なり、味もまた
  それぞれ。「築地市場のすごさは、たくさんのマグロが入っ
  てくることですね。その数はほかに類をみません。そのなか
  からお客さんの要望に合わせて、どういったマグロが良いか
  を考え、仕入れるのが私たちの仕事です」。
                   http://bit.ly/2eTV94X
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築地仲卸「西誠」.jpg
築地仲卸「西誠」
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中央卸売市場論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする