2017年09月01日

●「専門家会議で改正土対法の先読み」(EJ第4596号)

 ここまでの経緯で既にわかると思いますが、なぜ豊洲の建物の
地下に地下空間が必要であったかについてまとめます。2001
年以降の土壌汚染対策関連の条例及び法律を再現します。
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  1.   環境確保条例/2001年10月 1日施行
  2.  土壌汚染対策法/2003年 2月15日施行
  3.改正土壌汚染対策法/2010年 4月01日施行
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 築地市場を豊洲に移転させる決断は、2000年のはじめに石
原元知事によって行われています。ただ、石原氏は、日本の技術
は世界一であるという信念を持っていて、土壌汚染ぐらい日本の
技術をもってすれば十分消滅させることができると信じていたの
です。だからこそ都知事選3期目の公約として「豊洲の土壌汚染
を解消させる」を掲げ、当選しています。
 この公約に基づいて石原都政がつくったのが、平田健正氏を座
長とする「専門家会議」であり、2007年5月19日に第1回
の会合を開いています。その時点で東京ガスは、都の環境確保条
例に基づく土壌汚染対策工事を行い、「汚染防止措置完了届」を
東京都にを提出しています。土対法の施行以前の対策工事なので
土壌汚染はまだ残っているものの、次の附則第3条により、土対
法の適用を免れることができたのです。
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【附則第3条】
 第3条の規定は、この法律の施行(2003年2月15日)前
に使用が廃止された有害物質使用特定施設に係る工場又は事業場
の敷地であった土地については、適用しない。
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 土対法は、2003年2月の施行ですが、専門家会議が設置さ
れた時点で既に2010年4月に改正土対法が施行されることは
決まっていたのです。問題は、その改正で上記の附則第3条が撤
廃されるという情報が出ていたことです。
 そうなると、東京都は土地の買主でありながら、莫大な費用を
かけて、改正土対法に基づく大がかりな土壌汚染対策をしなけれ
ばならなくなります。まして、東京ガスとの契約では瑕疵担保条
項を外しているので、すべて東京都が負担しなければならなくな
ります。そういうわけで、専門家会議では、これにどう対応する
かが重要な課題になったのです。
 ジャーナリストの藤野光太郎氏は、これについて、次のように
述べています。
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 言うまでもなく、東京ガスが豊洲の地の使用を廃止したのは土
対法の施行前である。もし、法改正でこの附則第3条が外された
り、または本則のどこかに新たに厳しい規定が盛り込まれるなど
して、豊洲の予定地が土壌汚染対策法の規制対象区域に指定され
れば、そこは「汚染地域」として確定し、手続き上、大掛かりな
汚染調査と根本的な汚染対策が義務づけられることになる。豊洲
の用地取得で都は、所有者である東京ガスが汚染対策を免れ得る
「瑕疵担保特約」を差し出して買収契約を成功させていたからで
ある。そうした経緯から、ただでさえ莫大なコストが発生するの
に、盛り土だけで埋め尽くしてしまえば、当然、その後の汚染再
発時に対策のための機器やシステムが搬入・設置できず、工事で
稼働させることになる重機の出入口もなくなる。
 東京都の幹部や担当者、専門家会議の委員たちが法改正の行方
を注視していたのは、豊洲予定地にそうした対策が必要になるか
否かで変わる土壌汚染対策の必要枠である。都の担当者は当時、
法改正で豊洲の敷地が汚染指定区域になった場合を想定し、前述
の諸作業に備えた建物下の空間確保がどうしても必要だったわけ
だ。こうした懸念から「盛り土が地下空間に化けた」のである。
                   http://bit.ly/2vtUQFj
─────────────────────────────
 専門家会議には、いうまでもないことながら、東京都の関係部
署の幹部が参加しています。彼らが最も恐れたのは、附則第3条
がなくなり、豊洲新市場の用地が「汚染地域」のレッテルを貼ら
れることです。それもこれもこれまでの土壌汚染をきちんとやっ
てこなかったからです。
 いやそれよりも問題なのは、そもそもひどい土壌汚染があるこ
とがわかっているガス工場の跡地を築地市場の移転地に選定し、
東京ガスに過分の恩典を与えてまで、購入したことです。常識で
は考えられない石原都政の最悪の決断といえます。
 専門家会議のメンバーの心配した通り、改正土対法から附則第
3条を撤廃され、豊洲新市場は「形質変更時要届出区域」に指定
されています。これは豊洲新市場が、土壌汚染区域であるという
レッテルそのものです。このレッテルは何としても外す必要があ
ります。そのための2年間の地下水のモニタリング調査だったの
ですが、最後の最後の9回目の調査で環境基準を大幅に上回る汚
染物質が生じています。
 しかし、建物は既に完成しており、東京五輪までにあと3年を
切っています。藤野幸太郎氏は、最後に次のような興味深いこと
を述べて、このテーマを閉じています。
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 ちなみに、旧法施行から約半年後に環境大臣となったのが、い
ま辣腕を揮っている小池百合子都知事である。環境大臣として3
年間在任中は、今回の汚染問題の急所である「附則第3条」が有
効な土対法が運用された。とはいえ、改正法の諸規定にも同様の
甘い規定が残っている。その改正法にさえ「形質変更時要届出区
域」として指定された豊洲予定地は、誰が判断しても明らかに生
鮮食料品の市場としては不適と言わざるを得ない。
                   http://bit.ly/2vtUQFj
─────────────────────────────
              ──[中央卸売市場論/043]

≪画像および関連情報≫
 ●もう「地下空間」というのはやめたらどう?/高橋洋一氏
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   テレビでは依然として築地市場の豊洲移転に関する報道が
  多いが、実態としては先週の本コラムで書いた方向になって
  いる。つまり、マスコミがいくら「地下空間」という謎めい
  た名称で報道しようとも、地下ピットの水質調査や空気測定
  の結果は「環境基準の範囲内」、つまり安全なのだ。
   どこの建物にもある地下ピットを、「地下空間」と呼ぶこ
  とを筆者は疑問に思っていた。実際、筆者が出たテレビ番組
  では、そのスタジオがある建物にも、配管修繕のために地下
  ピットがあると説明したのに、それでも豊洲のピットのこと
  は地下空間と呼んでいたからだ。
   知人のメディア関係者は、どの建物にも地下ピットはある
  ものと分かっても、それでは視聴者がそれを問題あるものと
  見てくれないので、あえて問題があるような「地下空間」と
  いう表現を使うと言っていた。この話を聞いて、マスコミの
  底の浅さが改めてわかった。
   先週のテレビ報道では、鉛が出たとか一部マスコミはまだ
  騒いでいた。環境測定は、一定の方法で行うので、都議会の
  各政党が「独自調査でこれこれが出た」というのはあまり報
  道するに値しないのだが、何か出ないとマスコミとしても困
  るのだろう。しかし、結果として、都だけが調査するよりも
  はるかに都民を安心させることになった。
       2016年9月の記事/ http://bit.ly/2xzLpkJ
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ジャーナリスト/藤野光太郎氏.jpg
ジャーナリスト/藤野光太郎氏
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2017年09月04日

●「使い勝手がすこぶる悪い豊洲市場」(EJ第4597号)

 ここまで豊洲新市場の用地の土壌汚染の劣悪さについて述べて
きましたが、既に完成している市場の建物についてはどうなので
しょうか。
 豊洲新市場の最大の問題点は、市場関係者の意見をほとんど聞
かないで設計され、建てられていることです。そのため、築地市
場ほどの市場を移転させようというときに必要とされる慎重さと
配慮がほとんど感じられない設計になっています。
 これは、豊洲の地形の問題ですが、豊洲新市場は環状2号線と
315号線が直交しており、市場の建物は次のように3分割され
ています。添付ファイルも参照してください。
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     1.    青果棟 ・・・・・ 5街区
     2.水産仲卸売場棟 ・・・・・ 6街区
     3. 水産卸売場棟 ・・・・・ 7街区
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 この場合、卸売と仲卸は、仕事上緊密な連携が必要ですが、豊
洲市場の場合、315号線という幹線道路で隔てられているので
道路の下に3本の「アンダーパス」が設けられています。しかし
これで1日に2000台ものターレー(小型運転車ターレット)
がスムーズに行き来できるかどうか非常に疑問です。築地市場の
ように、流れるような動線は望むべくもないのです。
 これについて、築地市場に詳しい中沢新一氏は、豊洲の卸売棟
と仲卸棟の問題点について、次のように述べています。
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 仲卸棟は4階建ての建物になっている。水産仲卸の仕事場は1
階の部分、買い出しが3階と4階で、そこに駐車場が付属してい
る。卸売棟から仲卸棟までは、1・5キロほどの外周道路によら
なければたどり着けないようになっているので、荷受した荷物は
トラックなどで仲卸棟に運び込まなければならない。仲卸棟1階
で荷分けされた水産物の荷は、ターレに乗せられ、3階と4階の
買い出し人のもとに運ばれる。このときターレは、建物の外に接
してつくられたループ状の渡り廊下を登っていかなければならな
い。築地市場内を自在に動き回っていたターレもこの窮屈な渡り
廊下の中では一方向に流れていくしかなく、多くの仲卸はかえっ
て事故が起きやすくなるのでは、という懸念を抱いている。
       ──中沢新一氏の論文「築地市場の『富』」より
      『現代思想』2017年7月臨時増刊号/青土社刊
─────────────────────────────
 豊洲新市場の売り場面積は築地の売り場の1・1〜1・2倍で
あり、建物全体では1・7倍という「広さ」が強調されていたの
ですが、実際の豊洲の売り場には仕切りが設けられるなど、非常
に使い勝手はよくないのです。
 中沢新一氏は、「豊洲新市場は広い」という東京都の触れ込み
に疑問を持っています。売り場の設計がそれを使う人の立場に重
点をおいて設計されておらず、自由に広く使える空間が狭くなっ
ているからです。このような豊洲新市場の問題点を中沢氏は、次
の3つにまとめています。なお、読み易くするため、文章は一部
リライトしてあります。
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1.魚市場では、全国から運ばれてきた魚を並べ、選び、店に運
  ぶ、を繰り返す。荷物は移動するだけでなく、広げて仕分け
  する必要があるが、その空間が確保されていない。
2.物流の中心であるターレーの動き回れるスペースについての
  考慮がほとんどなされていない。そのため、集荷と荷分の作
  業の流れが、いちいち寸断され、非効率的である。
3.建物が立体構造になっているため、品物は縦方向に動かす必
  要がある。だが売れた品物を上階に運ぶためのエレベーター
  は7基、スロープは3本と決定的に不足している。
4.店舗のスペースが築地店舗よりも狭い。そのためマグロのよ
  うな大きな魚を切るのが不便であるなど、使い勝手がよくな
  い。使い勝手が悪いと、コストアップにつながる。
       ──中沢新一氏の論文「築地市場の『富』」より
─────────────────────────────
 考えられないことですが、東京都は何から何まで、ごく一部の
市場関係者を除いて、豊洲関係の情報を徹底的に隠しまくったの
です。市場関係者は、設計図を見せて欲しいと都に要求しますが
東京都は拒否しています。設計図は、2011年6月に日建設計
から東京都に納品されています。
 築地の業界紙「日刊食料新聞」は、都条例に基づいて情報公開
請求を出したのですが、東京都は全面黒塗りの設計図を出し、非
開示を貫いたのです。「日刊食料新聞」はこれを不服とし、裁判
になったのです。おかしな話です。情報公開請求は、内容を知る
ために行うのに、内容が全面わからないようにして返しても、開
示したことになることです。裁判は2年にわたって行われ、東京
都が敗訴し、やっと設計図は公開されたのです。
 豊洲新市場は、土壌汚染対策費を除いても莫大なカネがかかっ
ています。それでいて、その使い勝手は最悪なのです。市場関係
の意見を聞かないで作ったからです。仲卸業務を営む中澤誠氏は
その設計について次のように批判しています。
─────────────────────────────
 極端な話で言えば、お寿司屋さんがサシミのツマを買いに行く
にも、歩いて水産から青果に買いに行けない市場だということで
す。市場内の物流用ルートがまったくつながっていないので、一
度外に出て、車に乗って外周道路を通って行かないと買えない。
こんなことは論外です。買い物しやすい、しづらい、という話以
前に一度外に出てからでないと、買い回りがでない、ということ
です。         ──中澤誠/水谷和子/宇都宮健児著
           『築地移転の闇をひらく』/大月書店刊
─────────────────────────────
              ──[中央卸売市場論/044]

≪画像および関連情報≫
 ●豊洲移転問題は「公害紛争」/室伏謙一氏
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   築地市場の豊洲新市場への移転問題は、当初移転を予定し
  ていた2016年11月7日を前に、小池知事が移転延期を
  決定したことを契機に、一気に注目を集めるようになった。
   小池知事は移転延期の理由として、@安全性への懸念、A
  巨額かつ不透明な費用の増大、B情報公開の不足を挙げてい
  る。このうち、@は言うまでもなく生鮮食料品を取り扱う豊
  洲新市場の敷地の土壌が汚染されており、食の安全や健康へ
  の影響が懸念されるということ、Aは整備・移転費用がなぜ
  そんなに大きな規模になったのか精査し、都民に説明する必
  要があるということ。
   延期決定の発表以降、この@とAに関するものを中心にメ
  ディアでは情報が飛び交っている。毎日どころか1日に数度
  新しい情報がもたらされることもあり、その度に東京都をは
  じめ、関係者の発言や説明は二転三転。多くの国民は、一体
  どこに真実があるのか?と思っているのではないだろうか。
   確かに、@及びAを中心に情報が飛び交っているといって
  も、問題の核心に迫るものがあるのかと言えば、まだそこに
  は至っていないというのが実情であろう。どころか、豊洲移
  転問題は一体何が問題なのかさえもみえにくくなっているよ
  うに思われる。筆者には、整備・移転費用の大きさもさるこ
  とながら、一義的には敷地の土壌汚染を巡る問題に思える。
  では、土壌汚染を巡る問題とは?漠然と食の安全、健康への
  影響や風評被害で豊洲市場経由の生鮮食料品が売れなくなる
  といった事柄が想定できそうだが、あいまいさは否めない。
                   http://bit.ly/2esj0oI
  ───────────────────────────

豊洲新市場配置図.jpg
豊洲新市場配置図
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2017年09月05日

●「業界6団体が移転に賛成した理由」(EJ第4598号)

 かつて石原慎太郎元知事は築地市場を視察して「古い、狭い、
危ない」と宣言、豊洲での新市場開設を目指します。今になって
考えると、つくづく最悪の選択だったといえます。
 しかし、このなかで「狭い」については、あまり異論はなかっ
たと思われます。築地市場は明らかに狭かったからです。仲卸業
を営む中澤誠東京中央卸売市場労働組合委員長は、これはウソで
あると断言しています。
─────────────────────────────
 「豊洲新市場は広い」と説明されてきました。築地市場の狭隘
化を解消するのだと。これが大嘘なのです。現在の築地は総面積
が23ヘクタールで、豊洲新市場は、その倍となる40ヘクター
ルと説明されていますが、実際に、私たちが作業したり、物流の
ターレーなどが通るための可動域で考えてみると、圧倒的に豊洲
新市場は使える部分が少ない。豊洲新市場の建物で、物流に使え
る敷地は、建坪で言えば18・3ヘクタールしかないのです。そ
れ以外のほとんどは、車が待機するための駐車場と、外周道路と
公園です。
 築地の場合は、23ヘクタールのすべてが平面で広がっている
ので、逆に言えば、ありとあらゆる場所が物流の場所になるとい
うことです。市場用地とは別に中央区の駐車場などもあるので、
非常に効率よく面積を使うことができているんですね。
     ──中澤誠氏の論文「まだまだある、使えない」より
      『現代思想』2017年7月臨時増刊号/青土社刊
─────────────────────────────
 日本の伝統的な生活空間のモジュールは、畳一畳分、つまり、
1・8メートルですが、豊洲新市場の店舗の幅は1・5メートル
しかないのです。わずか30センチの差ですが、この差で人間は
狭さを感じるものです。このようなことになったのは、幅広く市
場関係者の意見を聞かず、市場のなんたるかを知らない人が設計
したからです。
 それでいて東京都は、「店舗スペースは広くした」といってい
ます。これに対して中澤誠氏はそれは料金を取る施設スペースの
部分を広くしただけだといっています。築地市場にも料金がかか
る施設スペースがありますが、その横や後ろには、必ず共用スペ
ースがあって、業者はそこに荷物や、集荷のためのターレーを駐
車させているのです。
 ところが、豊洲新市場では、そういう共用スペースをなくして
施設スペースにしています。事業者にとっては、お金を払う場所
は増えたものの、実質的に使えるスペースは狭くなるということ
で不満が高まっています。
 築地・豊洲問題をここまで東京都、すなわち移転を進める側か
ら年表をたどってみてきましたが、市場関係者側からも見る必要
があります。東京都は、自分たちの都合による移転であるにもか
かわらず、何とか業界団体の要望による移転というかたちにした
かったのです。築地市場には業界6団体というものがあります。
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       1.築地市場を利用する水産卸 〇
       2.        水産仲卸 ×
       3.          青果 〇
       4.       売買参加人 〇
       5.       関連事業者 〇
       6.       買出人組合 ×
               移転賛成:〇/移転反対:×
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 この「水産仲卸」には、東京魚市場卸協同組合(東卸)──こ
れは業界の中で最大の団体ですが、1998年11月に「築地市
場の豊洲移転の是非」について、全組合員投票を行っています。
その時点で移転候補地として豊洲の名前は出ていましたが、その
時点では、土壌汚染のことは誰も知らないことです。そのときの
投票結果は次の通りです。
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 現在地(築地)での再整備 ・・・ 495票 56・8%
 豊洲移転         ・・・ 376票 43・1%
                      註:白票1票
─────────────────────────────
 この時点で移転に賛成していたのは、水産卸、青果、売買参加
人、関連事業者の4団体です。これを見ると、移転反対は2団体
ですので、移転賛成が圧倒的のように見えますが、人数的には反
対が多数なのです。石原慎太郎氏が知事になる前の状況です。
 この結果を見て、当時の都の中央市場長である宮城哲夫氏は次
のように市場関係者に約束しています。
─────────────────────────────
 1団体たりとも、反対があれば、絶対に豊洲には行きません
                 ──宮城哲夫中央市場長
─────────────────────────────
 ところがです。6団体中2団体が「移転反対」だったのですが
この反対2団体の理事長が非常に不透明な理由で更迭され、その
2団体の理事長は移転賛成に回ります。東京都と都議会自民党の
非常に汚い裏工作の結果です。
 しかし、既に全組合員投票で豊洲移転を否決している東卸は、
理事長が代わったといっても、それだけで賛成に転ずることは困
難です。そこで東卸では、組合員のなかから選ばれた一部の組合
員で構成する「総代会」なるものを作って、2014年にその総
代会が、1998年の全組合員投票の移転否決決定を覆し、移転
を可決させてしまったのです。
 これは、例えていうなら、国民投票で決定されたことを国会が
勝手にひっくり返すような暴挙といえます。このような強引なこ
とが行われ、形の上では業界6団体としては、豊洲移転賛成で決
まっているのです。しかし建物は完成しても、現在も豊洲移転は
行われておりません。    ──[中央卸売市場論/045]

≪画像および関連情報≫
 ●大事な議論がされない(築地市場編)
  ───────────────────────────
   豊洲市場移転に反対する方々が挙げる反対理由は,土壌汚
  染,建物の耐震性不足,施設の設計不備というところです。
  これらの問題がなければ、喜んで移転するとはいきませんよ
  ね。なぜなら,本当に理由が別にありそうだからです。表向
  きの理由は当然,移転先が豊洲とわかった後,さらに豊洲市
  場の施設の設計内容が分かった後に出てきたものです。とこ
  ろが,東京都中央卸売市場のホームページの「築地市場移転
  決定に至るまでの経緯」によれば,移転先がどこだろうと,
  移転そのものへの反対運動が昔から繰り返されています。再
  初の反対運動は昭和50年代の大井市場(現・太田市場)移
  転の時から起こっています。移転構想自体は、昭和30年代
  からあります。築地市場が取扱量や交通量の増加に対応でき
  なったためで,そのころから問題を抱えているわけです。
   大井市場移転の時も,水産業界の意見がまとまらず,都は
  水産業界に統一見解の要請をしています。その間,移転反対
  の総決起集会が築地本願寺で行われたりしたためかどうか分
  かりませんが,移転をあきらめ,昭和61年に築地現在地で
  の再整備が決定しています。平成3年に再整備工事に着手し
  たものの,工期の遅れや工事費の増加,そして業界調整の難
  航のため頓挫します。       http://bit.ly/2x1udrD
  ───────────────────────────

中澤誠東卸労働組合委員長.jpg
中澤誠東卸労働組合委員長
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2017年09月06日

●「築地は守る/豊洲は活かすの意味」(EJ第4599号)

 都議選で大勝した後の小池百合子知事は、その都政に関して批
判が集まっています。都庁周辺を取材する都政新報は、就任1年
目の評価について、100点満点で次の評点をつけています。な
お、舛添前知事については1期目前半の評価です。
─────────────────────────────
      石原慎太郎元知事 ・・・ 71・1点
       舛添要一前知事 ・・・ 63・6点
       小池百合子知事 ・・・ 46・6点
─────────────────────────────
 小池知事に関しては、あまりにも評価が低いというか、厳し過
ぎると考えます。もし小池知事が豊洲新市場移転を延期しなけれ
ば、土壌汚染のこと、盛り土のことなど、すべてのことが闇に葬
られていたと思うからです。もし移転してから後でそれが発覚し
中央卸売市場の運営が中断されるようなことになったら、大変な
ことになります。9分9厘決まっていた移転を延期させることは
相当の勇気ある決断が必要であったと評価できます。だからこそ
小池知事の率いる都民ファーストの会が多くの都民の支持を得て
大勝したのです。
 さて、都議選に先立つ2017年6月20日に小池知事は、築
地市場の豊洲新市場への移転問題について、方針を表明していま
す。日本経済新聞の記事に基づいて、論点をまとめます。
─────────────────────────────
 築地の再開発を含む市場の新たなプランについて、都職員にま
とめるよう指示した。理由は2つ。まず豊洲市場はこれまで約6
千億円をかけてつくられてきたわけだが、豊洲ありきで移転後の
計画が不十分ではなかったか。築地市場を売却して費用の穴埋め
をするとの計画はあったが、移転後に毎年生じる年間100億円
近い赤字にどう対応していくのか。
 2点目だが、日本一の世界に誇る築地ブランドは長い間、汗水
流して必死の思いで育て守ってきた市場の人に対して、向き合っ
ていく必要があると感じたからだ。
 築地市場は5年後をめどとして再開発する。環状2号線は五輪
前に開通させる。そのあとの築地市場跡地は五輪用のデポ、輸送
拠点として活用する。その後、食のテーマパーク機能を有する新
たな市場として東京をけん引する一大拠点にする考え方だ。
 豊洲の中央卸売市場は冷凍、冷蔵、物流、加工などの機能をさ
らに強化することで、将来にわたる総合物流拠点になりうる。築
地再開発と豊洲利用の具体案は事業者、都民とオープンな場を設
け、広く情報公開しながら検討していく。都は業者、都民の皆さ
んの信頼回復に向けて徹底的に努力する。
                http://s.nikkei.com/2evcg9f
─────────────────────────────
 上記の小池発言をひとことで表現すると、「築地は守る、豊洲
を活かす」ということになります。この言葉は、何を意味してい
るのでしょうか。
 小池知事の話をトレースすると、まず、豊洲新市場に対してさ
らなる土壌汚染対策を施し、2018年秋までには築地市場を豊
洲新市場に移転させます。続いて、築地市場を解体し、その跡地
については、東京五輪用の輸送拠点として利用します。
 東京五輪終了後、築地跡地を整備し、食のテーマパーク機能を
有する新たな市場として東京をけん引する一大拠点にするといっ
ています。そのさい、豊洲新市場に移った市場関係者は希望に応
じて築地新市場に戻ってこれるようにするといっています。
 この表現ではっきりしていないのは、築地に作るという食のワ
ンダーランドとは具体的に何かということです。この食のワンダ
ーランドの正体について、現時点で都議会も市場関係者も明確に
把握できていない状況です。
 NHKテレビの「ニュース・ウォッチ9」では、小池知事が築
地移転問題について方針を表明したその日に、この問題を取り上
げています。テーマは「築地は守る、豊洲は活かす」です。番組
ではその席に、120年以上も続く仲卸業者の酒井兄弟──酒井
信義氏と酒井衛氏を呼んで、意見を聞いています。その一部をご
紹介します。
─────────────────────────────
◎保里リポーター
 小池知事の表明について、築地で働く人はどう受け止めたので
 しょうか。120年以上続く仲卸業者の酒井さん兄弟です。豊
 洲への移転の準備を進めながらも、できれば築地で商売を続け
 たいと願ってきました。小池知事が打ち出した築地の再開発に
 ついてどのように受け止められましたか。
◎仲卸業者/酒井信義さん
 小池さんの出された結論は、ぼくは違うと思う。やっぱり築地
 市場を守るなら築地でやるべきだと思う。
◎仲卸業者/酒井衛さん
 現実的じゃない。市場を将来的に二分するというのは、ありえ
 ないと思う。(中略)
◎仲卸業者/酒井信義さん
 仮に受けざるをえないとすれば、豊洲を使い勝手のいい、みん
 なが喜んで働ける市場にしてもらいたい。できるだけ築地に戻
 りたい。5年といわず、3年くらいで戻れるように。
                   http://bit.ly/2x44vCB
─────────────────────────────
 築地市場の仲卸業者のほとんどは、ここまで述べてきたように
豊洲新市場移転に反対です。ところが舛添知事に代わった小池知
事が豊洲移転を延期して、築地市場の再整備の可能性を期待して
いたのです。しかし、小池氏は「築地は守る」とはいったものの
豊洲新市場に移転の決断をしたので衝撃を受けています。
 しかし、小池知事の真意は別のところにあります。築地市場の
再整備は完全になくなったわけではないのです。
              ──[中央卸売市場論/046]

≪画像および関連情報≫
 ●【記者座談会】/「築地は守る、豊洲は活かす」
  ───────────────────────────
  A:東京都の市場移転問題で20日、小池百合子知事が基本
    方針を示したね。
  B:豊洲移転か築地再整備かと注目が集まる中、示された方
    針は「築地は守る、豊洲は活かす」という市場の両立案
    だった。市場機能を豊洲に移転した上で、築地市場は民
    間事業者とともに土地を有効活用し、5年後をめどに再
    開発する。豊洲は冷凍冷蔵・物流・加工などの機能を強
    化して将来にわたる総合物流拠点とする計画だ。
  C:小池知事は会見中の質疑で「豊洲は新たな中央卸売市場
    としての機能を優先させ、築地も市場機能を確保できる
    方策を見出したい」と発言した。築地は都にとって「莫
    大な資産」のため売却は考えず、貸し付ける。隣の浜離
    宮庭園の活用も想定している。築地は「築地ブランド」
    を生かした「食のテーマパーク」機能を持つ東京をけん
    引する一大拠点とし、豊洲は「ITを活用した総合物流
    センター」とする。両市場を通ることになる環状2号は
    2020年の東京五輪前に開通させ、築地市場跡地は当
    面五輪用の輸送拠点として活用するという。
  A:収支面は大丈夫なのだろうか。
  C:「賢い支出のための選択」により、持続可能な市場を構
    築できるとしている。豊洲の機能強化による賃料改善と
    築地の賃料や地代収入などで両市場会計を黒字化する見
    通しを立てている。築地市場の再開発は、銀座からも近
    く立地がいいだけに、その動向に注目が集まるね。特区
    制度を活用するという話も聞こえてくるけど。
                   http://bit.ly/2xIk3ch
  ───────────────────────────

築地移転方針を表明する小池知事.jpg
築地移転方針を表明する小池知事
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2017年09月07日

●「豊洲は築地市場の一時的な移転先」(EJ第4600号)

 2017年9月5日、都議会では築地市場の豊洲市場への移転
関連事業費約55億円を盛り込んだ補正予算案が可決されていま
す。これには、共産党、日本維新の会、東京・生活者ネットワー
クが反対しています。
 これによって、東京都は豊洲市場で追加の土壌汚染対策工事を
行い、来年秋に築地市場を豊洲市場に移転させる予定です。これ
には、小池知事に反対姿勢をとる都議会自民党も反対はできず、
補正予算案に賛成しています。しかし、これは必ずしも築地市場
そのものの移転とは限らないのです。
 現在、豊洲市場の建物の下は地下空間になっています。その床
は砕石層であり、そこに水が溜まっています。これから都が行う
土壌汚染対策追加工事の目的は、その水を完全に抜いたうえで、
ここにコンクリートを敷き、下から土壌汚染物質が上がってこな
いようにすることです。
 しかし、この追加工事で土壌汚染が止まるほど、豊洲市場の土
壌汚染拡散の状況は生易しいものではありません。何しろ豊洲市
場の土地は「形質変更時要届出区域」という汚染地域のレッテル
が貼られたままです。こんなところを首都東京の中央卸売市場に
すれば、国際的信用を失ってしまうことになります。
 したがって、小池知事は表面上は「中央卸売市場は豊洲市場で
ある」といっていますが、これは本音ではないはずです。その根
拠は、小池知事が3年9ヶ月もの長期にわたって環境大臣を務め
ていたことと関係があります。
 しかも、小池知事は、土壌汚染対策法(土対法)が施行された
6ヶ月後に環境大臣になっているのです。
─────────────────────────────
      土壌汚染対策法施行:2003年2月15日
   小池百合子氏都知事に就任:2003年9月22日
─────────────────────────────
 そのため小池知事は、当然のことながら、土対法に詳しいし、
熟知しています。小池氏にしてみれば、環境大臣を務めた東京都
知事として、石原都政でやったこととはいえ、汚染区域のレッテ
ルが貼られている豊洲市場に生鮮食品を扱う中央卸売市場は作り
たくはないはずです。さらに、小池知事は、豊洲市場は今後いく
ら土壌汚染対策を施しても、いわゆる「無害化」は困難であると
考えています。これについては、平田健正専門家会議座長もその
ことに言及しています。
 しかし、築地市場を再整備するには、現在の築地市場を一時的
にどこかに移転させる必要があります。これまで築地市場の再整
備がうまく進まなかったのは、代替地がなかったことが原因であ
るといわれています。
 ところが今回は、土壌の無害化こそ達成されてはいないものの
豊洲市場が完成しています。そこで最小限度の追加的汚染防止対
策を施したうえで、一時的に築地市場を豊洲市場に移転させ、東
京五輪が終了すると同時に、豊洲市場も含めたかたちでの新しい
スタイルの中央卸売市場を作るという構想を立てているのではな
いかと考えられるのです。したがって、「豊洲市場=中央卸売市
場」であるとは限らないのです。
 まさかと考える人もいると思います。しかし、この説を支持す
る人は少なくないのです。ニューホライズンキャピタル取締役兼
社長の安東泰志氏は、小池知事のいう「築地は守る、豊洲は活か
す」に関して、次のように述べています。
─────────────────────────────
 小池都知事は20日の記者会見で、市場移転問題について「築
地は守る、豊洲は活かす」と述べ、事実上、築地再開発・再整備
を軸とする方向性を打ち出した。
 豊洲市場は、築地市場の一時移転先として利用した後、冷凍冷
蔵・物流・加工等の総合拠点として用途転用することで湾岸地域
の物流センターとして発展させていくという。メディアの中には
豊洲に一時移転することをもって「豊洲への市場移転」と報じる
向きもあるようだが、そうではない。
 現時点で、「白紙の状態から市場機能をどうするか」と問われ
れば、市場環境の変化を踏まえるならば豊洲市場のような巨大な
設備を、しかも東京ガスの工場跡地という、市場に最も不向きな
場所に整備することなどあり得ない判断であろう。しかし、現実
には既に土地建物を手当てし、整備してしまった以上、次善の策
を考えなければならない。その観点からすると、筆者は今回の案
は非常に理に適ったものであると考える。
         ──安東泰志氏/  http://bit.ly/2wwXDMR
─────────────────────────────
 小池都政の市場問題PTの委員の一人である東北芸術工科大学
の竹内昌義教授は、築地市場関連雑誌によく論文を寄稿されてい
る人です。EJがよく取上げる『現代思想』の「築地市場」特集
にも「築地市場改修案」という論文が掲載されています。竹内教
授の「築地は守る、豊洲は活かす」についての論評です。
─────────────────────────────
 私は市場問題PTの委員として市場のあり方を検討してきた。
その上で、小池都知事の今回の築地、豊洲両方を活かすという案
を支持する。これはこれでよく考えられた案だ。この市場の問題
は、長きにわたって議論され、検討されてきた。その過程で多く
の誤解や思い込みが存在する。(中略)
 小池知事の発表は具体的ではないと言われる。確かに現時点で
見えていないことは多い。また、市場を2市場、並存できないの
も事実である。ここへきての、逆の誤解もある。築地が更地にな
るかのような印象を話す人もいる。誰もそんなことは言っていな
い。築地を食のワンダーランド化するにあたり、築地自体の建物
の資源も必要と私は考える。確かに具体的にはまだなっていない
部分が多くある。           http://bit.ly/2eJDHjx
─────────────────────────────
              ──[中央卸売市場論/047]

≪画像および関連情報≫
 ●具体策なし 小池知事「築地は守る&豊洲は生かす」は裏目
  ───────────────────────────
   「知事が逃げた」――。20日行われた小池百合子都知事
  の会見で、記者の間からこんな失笑が漏れた。小池知事が満
  を持して発表した「築地市場移転」の最終案。表明したプラ
  ンは築地を豊洲に移転させる一方、さらに将来的に築地にも
  市場機能を持たせるというもの。「5年後をめどに築地を食
  のテーマパーク機能を持つ一大拠点に再開発する」というの
  だ。豊洲と築地の両市場が併存することを視野に入れている
  という。なんとも壮大な構想だ。
   ところが会見時間はわずか30分。しかも質疑応答は2人
  に限定し、時間もたったの4分だった。記者から「大事な問
  題だから、もうちょっとやりませんか?」との声が上がった
  が、小池知事は無視して会場を出て行った。
   「まさに“言語明瞭・意味不明”の会見でした。豊洲にい
  つ移転するのか、5年後に築地に市場機能を戻した場合、豊
  洲はどうなるのか、豊洲に業者の一部が残り、市場が2つに
  なっても弊害はないのかなど疑問は山ほどある。築地をどう
  つくり変えるのかも知りたいのに、十分答えないまま打ち切
  りになった。普段、オープンとか情報公開などと主張してい
  るのに、この日の小池知事は異常でした」(全国紙記者)
    「日刊ゲンダイデジタル」   http://bit.ly/2eDAi2d
  ───────────────────────────

築地市場における「せり」の風景.jpg
築地市場における「せり」の風景
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2017年09月08日

●「小池知事は最初から『築地温存』」(EJ第4601号)

 小池知事の「築地は守る、豊洲は活かす」について、前都議会
自民党幹事長の木啓氏は、公式ブログで次のように批判してい
ます。タイトルは「『決められない政治』への逆戻りは許されな
い」。なお、木啓氏は今回の都議選で落選しています。
─────────────────────────────
 都議会議員選挙が6月23日から告示される直前の6月20日
小池知事は延期していた築地市場の豊洲移転について、「築地を
守る、豊洲を活かす」という築地も豊洲も活用する考えを、これ
も独断で表明しました。今回も議会及び都庁の関係部局に知らさ
れることなく、この案は一方的に表明されたのです。(中略)
 結局、都議選前に「決められない知事」のイメージを払しょく
するためにこのような案を出したのでしょうが、内容は不透明な
部分がほとんどで、築地の業界関係者も判断のしようがないとい
うのが正直なところのようです。    http://bit.ly/2w8RHGa
─────────────────────────────
 ボロクソです。木啓氏は、築地市場の豊洲移転にストップを
かけている小池知事が「決められない知事」との批判を避けるた
め、わけのわからない案を出してきたととらえています。もっと
も「決められない知事」という印象操作をしていたのは、かつて
木幹事長が率いた都議会自民党ではありますが・・・。
 小池知事は、「築地は守る、豊洲は活かす」の方針を発表した
直後、築地市場に足を運んで市場関係者幹部に説明を行っていま
す。そのとき、東京都水産物卸売業者協会会長の伊藤裕康会長は
次のようにいっています。
─────────────────────────────
 伊藤:豊洲移転を決められたことは評価したい。しかし、豊
    洲と築地に2つの市場が併存することは絶対に理解が
    できない。
 小池:あくまで豊洲市場が中央卸売市場になります。
─────────────────────────────
 小池知事はここで「中央卸売市場は豊洲」と明言しています。
これに関連して、この小池知事の説明会に出席していた最大の業
界団体「東京魚市場卸協同組合」(東卸)の早川豊理事長は記者
に対して次の趣旨のことを話しています。
─────────────────────────────
 記者:小池知事の説明をどう思うか。
 早川:2つの市場は成り立たない。卸、仲卸、買参人が一堂
    に会して商品を評価し、販売するという市場本来の機
    能が2ヶ所同時並行で行えるとは到底思えない。もっ
    とも、再開発後の築地が中央卸売市場になるのであれ
    ば話は別だが。
─────────────────────────────
 小池知事は、明言はしていませんが、あくまで豊洲市場は、築
地が再開発されるまで一時的に中央卸売市場の機能を持つものの
築地が完成したあかつきには、中央卸売市場の機能は築地市場に
戻ることを示唆しています。
 なぜなら、豊洲市場は、追加土壌汚染対策はするものの、今後
とも土壌汚染はなくならず、無害化が困難との判断が小池知事に
あるからです。豊洲市場の土壌汚染は、初期段階できわめてゆる
い土壌汚染対策しかしておらず、その状態で建物を建てているの
で、いつまで経っても土壌汚染がなくならないのです。そのこと
は、環境大臣を務めた小池知事はよくわかっています。
 もうひとつ特記すべきことがあります。それは、この「築地は
守る、豊洲は活かす」のプランは、都議会自民党の印象操作であ
る「決められない知事」の批判を払しょくするために慌てて考え
出されたプランではないことです。
 小池氏は、知事に就任した時点で既に「築地市場温存」の方針
を決めていて、側近に命じてその実現プランを作成させているの
です。それを裏付ける文書も存在します。「現代ビジネス」編集
部がその文書を手に入れていますが、そこには市場問題の解決案
として、次の4つの選択肢が示されています。
─────────────────────────────
 1.予定通り豊洲に移転
 2.豊洲移転は中止、築地市場を改修して使う
 3.築地市場をそのまま使い、豊洲市場は倉庫として使う
 4.築地市場を再整備し、その間は一時的に豊洲へ市場機能
   を移転する          http://bit.ly/2wIVZHY
─────────────────────────────
 選択肢の1つずつについて、その実現性が検討され、最終的に
「4」が選択されたものと考えられます。この「4」こそ、小池
知事が明らかにした「築地は守る、豊洲は活かす」プランにつな
がるのです。そこには、次のように書かれています。
─────────────────────────────
 築地市場の再整備が終わり、市場機能が築地へ戻されたのちに
は豊洲市場を物流拠点やショッピングモールとして活用する。
                   http://bit.ly/2wIVZHY
─────────────────────────────
 なぜ「4」なのでしょうか。それは「築地のブランド」を守る
ためです。小池知事のいう「築地は守る」とは、20日の会見で
も述べた仲卸の人たちを守るということです。
─────────────────────────────
 築地市場の価値、そして高いブランド力というのは、これは東
京都の莫大な資産であると考えられます。高い知名度、そして長
い歴史、日本で唯一市場がブランドになった稀有な存在といって
いいかと思います。そして、その築地ブランドの核をなすのが仲
卸の皆さんでありまして、この仲卸の方々の目利き力ということ
が、まさにブランドの宝の中の宝という部分かと思います。
             小池知事  http://bit.ly/2vNXdmk
─────────────────────────────
              ──[中央卸売市場論/048]

≪画像および関連情報≫
 ●市場移転計画で見逃された「築地」ブランド/牧野直哉氏
  ───────────────────────────
   東京都観光汽船(TOKYO CRUISE)をご存じだ
  ろうか。浅草やお台場、日の出桟橋といった東京の湾岸エリ
  アを結ぶ船舶を運航している。東京湾に設けられた乗船地と
  隅田川を通って浅草を結ぶルートでは、漁船からも海産物の
  荷下ろしが可能な築地市場の岸壁を眺められる。この岸壁こ
  そ築地市場が移転せざるを得なくなった時の経過と環境変化
  を象徴している。
   築地市場は、日本橋にあった市場が関東大震災で潰滅的な
  被害を受け、当時の陸運と海運を考慮し、復興事業の一環と
  して移転されたという経緯がある。築地市場の開設以降、物
  流は鉄道輸送ではなく陸上のトラック輸送が主役となった。
  東京都中央卸売市場の「豊洲市場について」のページには、
  市場移転にまつわる情報が掲載されている。築地市場開業当
  時とは物流インフラも大きく異なっており、今や食品サプラ
  イチェーンはトラック輸送が支えている。豊洲市場は首都高
  速湾岸線に近い立地だ。築地から豊洲への移転理由の1つは
  物流手段の変化だ。世界最大の取扱量を誇る海産物も、いま
  や全国から陸上を経由してトラックで築地へ運びこまれる。
   物流手段の変化も、手狭なスペースの問題も、いずれも市
  場機能のハード(設備)の問題だ。一方で築地市場から豊洲
  市場への移転に必要となるソフト面は、どのように対応され
  てきただろうか。問題の根底には、移転後の市場に求められ
  る「あるべき姿」や「ビジョン」の欠落が大きく影響してい
  る。移転と同時進行で進んだ2020年の東京オリンピック
  の開催決定と準備が、ビジョンなき移転事業に拍車をかけて
  しまった。           http://nkbp.jp/2xQYBlA
  ───────────────────────────

早川豊理事長/伊藤裕康会長.jpg
早川豊理事長/伊藤裕康会長
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2017年09月11日

●「豊洲市場最大の売りとは一体何か」(EJ第4602)

 築地移転問題の小池知事の結論である「築地は守る、豊洲は活
かす」は、なかなか意味の深い言葉です。この人はなかなかの造
語の名人であるといえます。けっして、追い込まれて苦し紛れに
出した方針でないことは確かです。
 「築地は守る」とは「築地ブランドを守る」ということです。
小池知事によると、「築地ブランドを守る」をいい換えると「仲
卸の人たちを守る」ということになります。なぜなら、豊洲市場
でそれは実現できないからです。これについては、これから明ら
かにしていきます。
 一方、「豊洲は活かす」は、文字通り既に出来上がっている豊
洲市場を活かすことです。築地市場を再整備するにせよ、巨額の
お金をかけて作り、せっかく完成している豊洲市場を使わないで
売るという選択肢はないはずです。
 しかし、豊洲市場は、土壌汚染区域というレッテルが貼られて
いる土地の上に建っています。したがって、生鮮食料品を扱う中
央卸売市場として不適格であり、築地市場に新しいスタイルの市
場が再建できたときは、市場機能を戻すということを言外に含め
て表現されています。これが「築地は守る」ということばに含ま
れる意味です。
 それでは、豊洲市場はどうするのかというと、豊洲は物流セン
ターとして活用するのです。これについては、既出の安東泰志氏
が次のように具体的に述べています。
─────────────────────────────
 では、豊洲市場はどうするのか。ここで注目すべきは、その立
地特性と優れた冷凍物流機能だ。すなわち、豊洲は羽田と成田に
近い上、今回の一連の意思決定の結果環状2号線が開通すれば、
一層利便性が高まり、湾岸地域の物流センターとして極めて有利
な立地である。そこで豊洲では、市場機能のうちの、転配送機能
や市場外流通機能を維持発展させることで発展的に用途転用する
ことが可能である。大手卸売業者は中央卸売市場としての豊洲市
場をベースにすることも合理的であろう。   ──安東泰志氏
                   http://bit.ly/2eQ0r1g
─────────────────────────────
 ここまでEJはどちらかというと、築地市場が重要であること
を中心に述べてきていますが、豊洲市場についてもよい点は、た
くさんあり、これについても述べる必要があります。
 豊洲市場について知るには、東京都が次のハンドブックを作成
しています。参照をお勧めします。しかし、このハンドブックは
築地市場には問題があり、豊洲市場へ移転するしかないというロ
ジックで作られていることを念頭に置いて読む必要があります。
─────────────────────────────
    「築地市場の移転整備/疑問解消BOOK」
              http://bit.ly/2hibqj9
─────────────────────────────
 以下の説明は、添付ファイルの「<基幹市場>として選ぶなら
どちら?」を見ながら、読んでいただきたいと思います。豊洲市
場のメリットは次の3つです。
─────────────────────────────
          1.食の安全確保
          2.効率的な物流
          3.多様なニーズ
─────────────────────────────
 「1」は「食の安全」です。
 ハンドブックでは、次のようなロジックで「食の安全」につい
て、説明しています。
─────────────────────────────
 豊洲新市場は閉鎖型の施設ですので、築地のように商品を野ざ
らしにすることはありません。さらに温度管理もしっかりとでき
るので、商品を低温を保持したまま途切れることなく流通させる
「コールドチェーン」が確立できます。
       ──「築地市場の移転整備/疑問解消BOOK」
─────────────────────────────
 豊洲市場は全館閉鎖型の施設です。「コールドチェーン」とは
生鮮食品や冷凍食品などを、産地から消費地まで一貫して低温・
冷蔵・冷凍の状態を保ったまま流通させる仕組みのことです。
 豊洲市場がコールドチェーンを確立するには、HACCP(ハ
セップ)を取得する必要があります。HACCPは、食品の衛生
状態を科学的に分析、管理するための手法のことで、食の安全を
高めるために必要であるだけでなく、食品の輸出にも結びつくこ
とになります。
 「2」は「効率的な物流」です。
 豊洲市場には、専用の荷さばき場を確保できるので、衛生面で
も品質面でも、より「安全・安心」を確保できます。築地では、
面積が狭いため、搬入する車両と搬出する車両が同じ駐車スペー
スを使わざるを得なかったのですが、豊洲では搬入口と搬出口を
分けることで可能になっています。食品の入り口と出口を別にす
ることで、食品同士の接触機会を減らし、衛生面を一段と向上さ
せることができます。
 「3」は「多様なニーズ」です。
 豊洲市場では、築地市場よりも面積が広いので、大手スーパー
などの食品加工やパッケージする施設を置くことが可能になって
います。これは市場としての付加価値であるといえます。
 また、大口顧客のために、商品を店舗ごとに仕分けられるスペ
ースがとれることや、一時保管するための低温倉庫なども置くこ
とが可能になっています。
 このように考えると、築地市場に比べて豊洲市場は良いことづ
くめですが、築地市場で一番多い「仲卸業者」の視点に立って考
えると、彼らにとって豊洲市場は、特段のメリットは何もないこ
とがわかります。それでいて移転にはカネはかかるし、店舗面積
も狭いのです。       ──[中央卸売市場論/049]

≪画像および関連情報≫
 ●最新設備コールドチェーン破綻で鮮魚が風雨にさらされる
  ───────────────────────────
   「こんなことでいいのか!」――。“推進派のドン”こと
  伊藤裕康築地市場協会会長も“激オコ”だ。豊洲移転の最大
  のウリは、魚介類を産地から途切れることなく低温を保ち輸
  送する「コールドチェーン」だ。鮮度を落とさず消費者に届
  ける“最新鋭設備”に大枚をはたいたはずが、使い勝手を無
  視した造りのせいで宝の持ち腐れ。ちっとも機能しそうにな
  いのだ。
   「豊洲では荷台が横に開く『ウイング型』の運送用トラッ
  クは、生鮮食品が外気に触れてしまうため採用できません。
  接車し荷卸しするための『バース』も、荷台の後部の扉が開
  くタイプのトラックが、バックで入ってくることを想定した
  造りになっています」(運送業界関係者)
   荷を卸しやすいウイング型にも対応した築地より、手間と
  時間がかかるのは確実。しかも、「3.5メートルの高さ制
  限のある場所があるため、通行できない車両がある」(東京
  都中央卸売市場輸送協力会の椎名幸子会長)というから、豊
  洲のコールドチェーンは破綻へまっしぐらだ。15日の市場
  問題プロジェクトチームのヒアリングで、伊藤会長がまあ怒
  ること。             http://bit.ly/2wNtcmc
  ───────────────────────────

基幹市場として選ぶならどちら?.jpg
基幹市場として選ぶならどちら?
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2017年09月12日

●「市場が近代化すると仲卸が消える」(EJ第4603号)

 改めて卸売市場について考えます。卸売市場というのは、次の
3種類の人たちによって構成されています。再現します。
─────────────────────────────
        1.卸売業者──元卸/大卸
        2.仲卸業者─────仲卸
        3.        買出人
─────────────────────────────
 「1」の卸売業者(元卸/大卸)は昔の問屋のことで、各産地
から生産者(漁業者)が取ってくる魚を集め、市場に運んでくる
業者です。当然のことですが、大きな資本力が必要です。築地市
場には7社の大卸があって、いずれも大企業です。つまり、大卸
は、商品の提供者、売り手ということになります。
 一方、買出人は自分のお店──例えば、寿司店や料理店などを
持っており、店でお客に出す料理のネタを仕入れる業者のことで
す。したがって、買出人の先には一般消費者の世界が広がってい
ることになります。買出人は、商品の買い手です。
 この大卸と買出人の間に入るのが仲卸業者です。大卸が運び込
んでくる魚の目利きをし、セリによって魚の値段をつけ、魚の加
工をして、買出人に提供します。現在、築地市場の仲卸業者の数
は600社を超えますが、ほとんどは中小企業です。
 実は、この仲卸という仕事には、何度も廃止の危機が襲ってい
ます。明治の初めに日本橋魚市場でも仲卸の廃止が叫ばれたし、
築地に移るときも廃止論が出ています。しかし、それでも長い間
にわたって、仲卸は生き延び、現代にいたっています。
 仲卸の仕事で重要なのはセリですが、これは大昔に制度化され
仲卸の歴史とともにあります。しかし、1999年の卸売市場法
の改正で、国の制度としてのセリはなくなっています。現在は、
各市場で特定の魚に絞って行うようになっています。この制度と
してのセリの廃止も、仲卸という仕事を危機にさらしているとい
えます。このセリ制度について、現在仲卸の仕事をしている中澤
誠氏は、インタビューで次のように述べています。
─────────────────────────────
──:セリとは何よりも、生産者のために生まれた制度として
   始まった。
中澤:・・のだと思います。
   もしセリがなくて、法定価格みたいなものだとしたら、
   生産者はそれによって権力の支配下に置かれてしまいま
   す。その間のクッションとして仲卸のセリが生まれて、
   非常にうまく機能したということですね。
中澤:制度化したというのが大きいのではないでしょうか。逆
   に消費サイドから見た場合、セリとは品質に値段をつけ
   る制度ですね。セリをやるということは、生産者はいい
   品質のものを生産しよう、あるいはいい魚を取ってこよ
   う、いい状態で東京に送ろう、という動機になるわけで
   す。セリでいい値段がつけば自分が儲かるわけだから。
   消費者の側から見ると、生産者が良い品質のものを作ろ
   うとすることは消費者にとっても非常に良いシステムな
   んですね。この卸売市場を、品質の競争でやろうと決め
   たのは、これは天才ではなかろうかという感じです。
    ──インタビュー/中澤誠氏「天才的な築地市場」より
      『現代思想』2017年7月臨時増刊号/青土社刊
─────────────────────────────
 昨日のEJで検討した豊洲市場移転の3つのメリット、「食の
安全確保」「効率的な物流」「多様なニーズ」は、いずれも仲卸
業者にとってはほとんどメリットがないのです。
 「食の安全確保」については、仲卸業者の問題ではなく、市場
全体の問題です。それでも、本来は「古い、狭い、危ない」築地
市場から、「新しい、広い、安全な」豊洲市場への移転だったは
ずですが、「古い」は「新しい」になったものの、「狭い」は必
ずしも「広く」ならず、土壌汚染の問題が出たことによって「危
ない」は豊洲にそのまま残っています。
 「効率的な物流」も仲卸にはあまり関係がありません。入荷は
大卸の仕事ですし、出荷に関しては効率的になるメリットはあっ
ても、仲卸だけのメリットではないし、「多様なニーズ」に関し
ても仲卸には特段のメリットはありません。
 つまり、仲卸業者の視点から見ると、豊洲市場移転はお金ばか
りがかかって、ほとんどメリットはないのです。だからこそ、ほ
とんどの仲卸業者が築地市場再整備を求めて、豊洲市場移転に反
対しています。
 それだけではないのです。市場が近代化すればするほど、仲卸
の仕事はなくなっていく傾向にあります。それが証拠に海外の卸
売市場には仲卸に当たる職人がほとんどいないと、中沢新一氏は
いっています。
─────────────────────────────
 海外の物流センターには、築地市場の仲卸にあたる職人がほと
んどいない。いたとしてもその数も能力も限られていて、築地市
場のように数百人を超える上質の味覚職人を、常時揃えておくこ
となどはとうていできていない。こうした物流センター化した市
場では、スーパーで売っているような平均的な食材は簡単に手に
いれることができるが、平均値を超えた逸品は、なかなか手に入
らなくなっている。そのためフランスでもイタリアでも、以前に
比べると、味覚の水準が低下したと嘆く食通が多くなった。
        ──中沢新一氏論文「築地市場の『富』」より
      『現代思想』2017年7月臨時増刊号/青土社刊
─────────────────────────────
 和食がなぜブームになっているのか。なぜ、築地の寿司は、世
界一おいしいのか──それは腕の立つ仲卸職人がいるからです。
こういうものは、意識して残さないと、いずれ、消滅してしまい
ます。こういう仲卸たちを守ることが、築地ブランドを守ること
につながるのです。     ──[中央卸売市場論/050]

≪画像および関連情報≫
 ●食のプロの技が築き上げた“世界一の市場”
  ───────────────────────────
   築地場内には、マグロなどの大物鮮魚専門の店や、活魚が
  メインの店など、専門性の高い仲卸の店が所狭しと並んでい
  る。そのうちの二つの仲卸業者に、話を伺った。
   まず訪れたのは創業当時から生マグロにこだわる西誠(に
  しせい)。三代目代表の小川文博さんに、マグロを扱う際の
  知識と技について伺った。
   「せりの前には、『下ヅケ』と呼ばれる事前チェックをお
  こないます。尻尾の断面で脂の状態を確認し、味を想像しな
  がら下ヅケするんです。生マグロは時期を外すと見た目は一
  緒でも美味しくないこともありますし、いろんな知識をもと
  に値付けをしますが実際に切ってみたら予想と違った、とい
  うこともありますね」と小川さん。大きなマグロは、解体も
  一筋縄ではいかない。解体用の包丁は何種もあり、大きいも
  のでは150センチメートルほど。さらに片刃になっていて
  まっすぐ切るのも難しいが、プロの手と技によって丁寧に小
  分けにされ、店頭に並んでいく。
   マグロは獲れる場所や時期により種類が異なり、味もまた
  それぞれ。「築地市場のすごさは、たくさんのマグロが入っ
  てくることですね。その数はほかに類をみません。そのなか
  からお客さんの要望に合わせて、どういったマグロが良いか
  を考え、仕入れるのが私たちの仕事です」。
                   http://bit.ly/2eTV94X
  ───────────────────────────

築地仲卸「西誠」.jpg
築地仲卸「西誠」
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2017年09月13日

●「水産物の目利きは情報化が難しい」(EJ第4604号)

 このテーマの冒頭の部分で取り上げたことがありますが、かつ
てスーパーの魚が二級品だったことがあります。当時の卸売市場
法では、市場で魚の売買が相対取引でやれるのは、セリが終わっ
後と決められていたのです。セリが終わった後では、仲卸の目利
きから外れた魚しか残っていないから、必然的に二級品になるの
です。これは青果についても、同じことがいえます。
 しかし、これにはスーパーのような大量購入業者からクレーム
がつき、規制が緩和され、現在では夜中の1時頃からセリよりも
早く相対取引ができるようになっています。大量に魚を運び込ん
でくる大卸業者としては、大量に購入してくれるスーパーのよう
な大資本にまとめて売りたいと思うのは当然のことです。
 そういうわけで、現在スーパーには一級品の魚も多く出品され
るようになっていますが、二級品も多く混ざっています。しかも
スーパーでは魚や野菜はすべてサランラップに包まれ、光線の工
夫によって、すべて清潔に新鮮に見えてしまうのです。とくに鮮
魚の場合、素人の消費者がよい魚かどうか判断できるのは、見た
目の色あいか、価格ぐらいしかないのです。
 とくに刺身については、その当たり外れは、ヒフティー・ヒフ
ティーです。したがって、せめて正月くらいは、おいしい魚介類
を食べたいとして、多くの人が築地まで魚を買いに行くのです。
スーパーで買うのと違って、当たり外れが少ないからです。
 これに関して建築家の伊東豊雄氏は、「東京はサランラップ・
シティである」と主張し、次のように述べています。
─────────────────────────────
 だいぶ前に、僕は東京を指して「サランラップ・シティ」とい
うことを言いました。つまりコンビニに行くと、野菜や魚など生
鮮食品がすべてサランラップに包まれている。そうすると匂いも
ないし、全部清浄に見えてしまう。しかしフランスのスーパーに
行ったら、土のついた野菜が並んでいる。本来生まの商品をわれ
われは、ラップされることによって記号として消費しているので
す。要するにいま豊洲移転でやろうとしていることは巨大なサラ
ンラップ・シティというか、巨大なコンビニエンス・ストアにし
ていこうとしているのではないでしょうか。仲卸人の、動物的な
カンで魚の肌の色、その光具合を一瞬で見極め、値をつけ分けて
いく。それがなくなるわけですから。それはもう、いきなり大き
なマグロを切り刻んでパックにしてしまうようなものですよね。
           ──伊東豊雄氏×中沢新一(徹底討論)
               「『みんなの市場』をめざす」
           『現代思想』2017年7月臨時増刊号
─────────────────────────────
 シドニーの水産物市場は、情報化・IT化が非常に早くから進
んでいます。この市場の入札場には、3種類に区分された水産物
ごとに、時計型の電光掲示板が1台ずつ導入されています。
 電光掲示板のディスプレイには、魚の種類名、生産者、産地、
重量、色、等級が表示されます。等級は、「A+」から「B−」
まで4ランクに分かれています。この等級は、品質保証チームと
いうのがあり、そのチームが、魚の形や脂の乗りと傷み具合など
を総合的に判断して決めています。入札参加者は、電光掲示板の
ディスプレイに表示される、これらの情報を見ながら端末を使っ
て落札していくのです。築地市場のセリとは大きく違います。
 このシドニー水産物市場の場合、品質鮮度管理指針というもの
がよく整備されています。そうでなければ、鮮度の高い良い魚を
選定することは困難です。それでも「等級」に関しては、品質保
証チーム人の目で決めているのです。この部分は、今後AI(人
工知能)がよほど高度化しない限り、IT化するのは困難である
と思われます。
 築地市場では、そのIT化こそ大きく遅れているものの、ベテ
ランの仲卸たちの熟達した目利きによって魚を選んでいるところ
に、何物にも代えられない貴重な価値があるといえます。
 築地市場で海老専門の仲卸店を営む平井啓之氏はこの道45年
の経験があり、1日に1万本もの海老を扱ってきたため、ひとた
び海老を手にすれば、大きさ、重さ、状態を一瞬で見分けられる
といいます。平井氏は、海老の識別はどれほど機械が発達しても
人にしかできない仕事であるといい、次のように述べています。
─────────────────────────────
 生き物だから、色も見なけりゃなんない、鮮度も見なけりゃな
んない、色で識別もしなきゃなんない、指で触って柔らかさ固さ
も見なきゃなんない、脱皮してるかしてないか。まず形。形をお
客さんの注文のサイズに合わせて。みんな形が違うんだ。脱皮し
ながら大きくなっていくんですよ。プロのお客さんは大きさで使
い分けてるんです。焼き物にしたり刺し身にしたり。握って、首
と尻尾が出るくらいの大きさは天ぶらですね。
  ──弘 理子氏論文「築地市場─驚きの職人技と人間模様」
           『現代思想』2017年7月臨時増刊号
─────────────────────────────
 現在、日本には多くの外国人観光客が訪れますが、これらの観
光客で「築地」の名前を知らない人はいないといわれます。築地
市場には、和食ブーが続くなかで、観光、飲食、買い物などを目
的にして、毎日1万人以上の人が訪れます。もちろん、外国人観
光客だけでなく、日本人も含めてです。包丁を売る店の売り上げ
の約50%は外国人であるといわれます。そのような築地の文化
を簡単に潰してはならないのです。
 そういう築地ブランドを新設の豊洲市場が引き継げるかという
と、それは明らかに「NO」です。それに、豊洲市場には欧米に
見られるIT化された市場機能もないし、少し厳しいいい方をす
れば、ただの巨大な冷蔵施設に過ぎないのです。何よりも豊洲市
場では、築地市場の「宝」ともいうべき仲卸業者が生き残る余地
が少ないことがあります。それは、中間機構を廃止していこうと
する現代の資本主義の全体的傾向に対応した変化といえます。
              ──[中央卸売市場論/051]

≪画像および関連情報≫
 ●小池都知事方針/若林共産党都委員長に聞く
  ───────────────────────────
   東京都築地市場(中央区)の豊洲新市場(江東区、東京ガ
  ス豊洲工場跡地)への移転問題で、小池百合子知事は20日
  市場を豊洲に移転するとともに、築地市場は売却せず、市場
  としての機能を残す基本方針を発表しました。この基本方針
  をどう見るか、日本共産党東京都委員会の若林義春委員長に
  聞きました。
   小池知事が築地市場を売却せず、市場としての機能を残す
  と表明したことは、市場移転問題をめぐる都の従来の立場か
  らの大きな転換であると評価しています。石原慎太郎知事以
  来の都政は、築地市場を売却し、豊洲開発の原資にするとい
  うものでした。小池知事は、この立場からの大転換を都知事
  として初めて公式に発表したわけで、大変重い意味を持ちま
  す。築地の仲卸業者の8割が築地で商売したいと願い、すし
  屋さん、小売店も「やっぱりお魚は築地から」と声を上げて
  きました。日本共産党都議団も十数年間にわたって豊洲移転
  に反対し、築地市場の再整備を訴えてきました。こうした力
  が、石原都政以来の築地売却という方針の根幹を覆し、一歩
  動かしたことは明らかです。しかし、築地をいったん更地に
  して、豊洲移転を進めるという小池知事の基本方針には非常
  に重大な問題があります。豊洲市場の最大の問題は、東京ガ
  ス工場の操業がもたらした土壌汚染問題、食の安全・安心の
  問題です。小池知事は都議会第2回定例会で、都が約束した
  「無害化」は達成できていないとしておわびしました。汚染
  土壌を取り除くことはできず、安全が確保されていないこと
  を認めたわけです。        http://bit.ly/2vNYpSy
  ───────────────────────────

外国人観光客とセリの風景.jpg
外国人観光客とセリの風景
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2017年09月14日

●「豊洲新市場は本当に大丈夫なのか」(EJ第4605号)

 9月9日、東京都の小池知事は、築地市場からの移転方針を表
明後、改めて豊洲市場を視察しています。このとき、市場関係者
からは、知事に対し「安全宣言」を求めましたが、小池知事は、
消極的な姿勢に終始しています。おそらく小池知事は、「安全宣
言」は出さないと思います。それは、あくまで来年の豊洲移転が
一時的な移転であることを示唆しているからです。
 9月11日のEJ第4602号で、豊洲市場について東京都発
行の「築地市場の移転整備/疑問解消BOOK」を使ってご紹介
しました。しかし、これは、豊洲移転を促進する東京都が作成し
ているハンドブックなので、明らかに豊洲市場の良い点に重点を
置いて紹介した内容になっています。
 そこで、本当のところ実際はどうなのかについて、小松正之氏
の豊洲市場論をご紹介します。小松正之氏は、元水産庁の漁業交
渉官の経験があり、現在、東京財団上席研究員を務めておられま
す。小松正之氏は著書では、あくまで豊洲移転を前提としたうえ
で、豊洲市場の問題点を客観的に指摘しているからです。
 小松氏は、豊洲市場の最大の問題点として、建物の配置と交通
アクセスの不便さを指摘し、次のように述べています。
─────────────────────────────
 問題として一番目につくのは、市場機能の根幹をなす建物の配
置と交通アクセスの不便さである。豊洲新市場のメインの建物は
「水産卸売場棟(7街区)」「水産仲卸売場棟(6街区)」「青
果棟(5街区)」の3棟に分かれており、しかも水産の7街区と
6街区の間は都道(補助315号線)が分断している。
 両街区をつなぐのは道路下に設けられた約100mの4本の連
絡通路で、通路幅は12〜36m、天井までの有効高さは2・5
〜2・9m。ここをピークの時間帯には何百台ものターレが行き
来するのである。また7街区と5街区の間も都道(環状二号線)
が走っている。今の築地市場の水産仲卸と青果仲卸の店舗間は数
分あれば着く距離であるが、豊洲では6街区の水産仲卸棟と5街
区の青果棟をはしごして買物すると、その間は優に地下鉄一駅分
はある。                  ──小松正之著
    『「豊洲市場」これからの問題点』/マガジンランド刊
─────────────────────────────
 小松氏に指摘されるまでもなく、築地市場に比べて豊洲市場の
交通アクセスの不便さについては、最初からわかっていたことで
す。築地市場は、最寄りの都営大江戸線・築地市場駅に加え、東
京メトロ日比谷線・築地駅から徒歩5、6分。JR新橋駅からは
徒歩15分であるし、都営バスに乗れば6分で到着します。
 これに比べて豊洲市場には、ゆりかもめの市場前駅があるだけ
で、天候悪化でよく止まるので有名です。そうすると、車で行く
しかありませんが、晴海通り一本しかないのです。もし雪が降れ
ば、築地を通り過ぎてから凍結しやすい「橋梁」を3本通らなけ
れば豊洲に着かないのです。ちょっとした台風が来ても、豊洲に
たどり着くのは容易ではないのです。
 小松正之氏は、これに加えて、豊洲市場の問題点をさらに4つ
指摘しています。以下、内容を要約します。
─────────────────────────────
     → 1.   衛生・品質と温度管理
     → 2.情報の広域化とIT化の遅れ
       3.  減少する入荷量と集荷力
       4 .物流の近代化の大幅な遅れ
                ──小松正之著の前掲書より
─────────────────────────────
 今回は1と2について、2と3は、明日のEJで解説すること
にします。
 「1」について考えます。
 豊洲市場は、完全密閉型になっています。温度管理は、3つの
棟でそれぞれ異なります。
─────────────────────────────
     水産卸棟(7街区) ・・・ 10・5℃
    水産仲卸棟(6街区) ・・・ 25・0℃
      青果棟(5街区) ・・・ 23・0℃
─────────────────────────────
 築地市場に比べると、室温が下がることになりますが、何のた
めの室温低下なのかがはっきりしないのです。おそらくコールド
チェーンを狙ったのでしょうが、働く人の健康には配慮している
のでしょうか。海外市場では、鮮度劣化を防ぐために0〜5℃と
なっています。
 オーストラリアのシドニー水産市場では、温度による水産物の
劣化や腐敗を誰でも客観的に判断できる科学的基準で示していま
す。その結果、シドニー市場では次のような鮮度管理指針があり
−1℃から5℃の間の温度で管理することになっています。
─────────────────────────────
  4℃では、0℃の2倍の速度で劣化・腐敗が進行する
 10℃では、0℃の4倍の速度で劣化・腐敗が進行する
 16℃では、0℃の6倍の速度で劣化・腐敗が進行する
                ──小松正之著の前掲書より
─────────────────────────────
 「2」について考えます。
 豊洲市場における商品に対する情報化と透明化は、先進諸外国
比べて非常に遅れています。日本では、水産物のセリや相対取引
への参加者は買出人に限定されていますが、ノルウェーやアイス
ランドなどの水産物市場では、一定の条件を満たしていれば、セ
リや相対取り引きに、PCを使って誰でも参加できるのです。そ
れほど、開かれた市場になっているのです。
 そのためには、ITによる商品に対する情報化と透明化が不可
欠ですが、豊洲市場は、基本的に築地市場をそのまま持ってきた
だけであり、IT化には大きく遅れています。
              ──[中央卸売市場論/052]

≪画像および関連情報≫
 ●日本人に築地・豊洲への基本理解が不足/小松正之氏
  ───────────────────────────
   水産業の衰退に対し、水産行政が無為のまま時間をだらだ
  ら過ごし、漁業者からの不満に対しては補助金で何とかごま
  かし、基本的な漁業の法制度の改革をしないことに対して警
  鐘を初めて鳴らした書籍「これから食えなくなる魚」(幻冬
  舎新書)を出版したのが2007年5月であった。当時はと
  てもセンセショナル(衝撃的)な出版物であった。その時の
  編集担当者から、次は2年後に「「築地」を取り上げて書い
  ていただけませんか」とお願いされた。築地は奥が深そうで
  しかし、体系的な書物がないので、書きたい気持ちは大いに
  あったが、まだ知識と経験が不足し、時期尚早と判断したが
  気持ちの中に引っかかっていた。
   その後、「日本の食卓から魚が消える日」(日本経済新聞
  社)(2010年)の中で初めて流通や築地市場と豊洲新市
  場へ移転に、「東京湾再生計画」(雄山閣)(2010年)
  で外国市場との比較に触れた。私は農林水産省の役人時代か
  ら、築地市場にはよく通う。今は尚更、足しげく通う。視察
  と関係者との意見交換と教えを乞うためである。今は、年に
  30回以上も通うし、築地の隅々まで見て漸く質問ができる
  ようになったことは、私に築地市場や生鮮食品流通について
  知識と経験が蓄積されてきたことを意味する。
   ところで、私が水産庁課長や国際交渉担当参事官の時代に
  部下とともに築地市場の視察に出かけたが、彼らは築地市場
  の視察は一度で結構と言った。私には春夏秋冬そして日々顔
  が異なる築地市場がとても魅力的で何度通っても苦ではなく
  むしろ多大な至福であった。その思いは今でも変わらない。
                   http://bit.ly/2gWmSCI
  ───────────────────────────

豊洲市場施設概要.jpg
豊洲市場施設概要
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2017年09月15日

●「大局的戦略的発想のない豊洲市場」(EJ第4606号)

 小松正之氏による豊洲市場の問題点の指摘を続けます。今回は
3と4です。
─────────────────────────────
       1.   衛生・品質と温度管理
       2.情報の広域化とIT化の遅れ
     → 3.  減少する入荷量と集荷力
     → 4 .物流の近代化の大幅な遅れ
                ──小松正之著の前掲書より
─────────────────────────────
 「3」について考えます。
 かつて築地市場は、1980年代から1990年代頃のバブル
の絶頂期には、世界中から水産物を買い付け、国内からのものを
加えると、その水産物の取扱数量は90万トン、取扱金額にして
9000億円もあったのです。日本中のおいしい水産物はすべて
築地市場に集まってきたのです。
 しかし、現在では築地市場への入荷量は半減しています。20
16年の水産物の取扱量は、40万9866トンで、2006年
(57万2617トン)に比べて、28%も減っています。これ
に関して小松正之氏は、築地市場は近年凋落の一途を辿っている
日本の沿岸漁業に資源管理を徹底するようメッセージを発するべ
きであるとして、次のように述べています。
─────────────────────────────
 アイスランドやノルウェー、オーストラリア(シドニー)など
では、ITQ(「画像および関連情報」参照)のような厳格な資
源管理制度をベースにして、安定した漁獲物の提供、および漁獲
物の情報化が容易になっている。
 ところが日本では、そのようなシステムの構築と中央卸売市場
を結びつける構想など全くない。豊洲は水産物の集荷センターに
なるべきであるが、集荷の責任を負う卸売業者と仲卸業者は、何
ら新たな努力をせず、水産物は当然豊洲に集まるものとの甘い期
待感をもっているように見受けられる。    ──小松正之著
    『「豊洲市場」これからの問題点』/マガジンランド刊
─────────────────────────────
 「4」について考えます。
 築地市場はもちろん、最新の豊洲市場でも、その近代化は大幅
に遅れています。小松正之氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 オランダの花卉市場では、プログラミングされた動線に沿って
無人車両で商品を搬送できるようになっている。ところが豊洲市
場内の仲卸業者が卸から搬送する場合は、築地と同じように各社
ごとのターレ(豊洲では環境保全のために電動ターレのみ)を使
うことになっているため水産仲卸で500台以上、青果で150
台程度のターレが稼働する。各ターレの動きには一定の指示が与
えられないし、人件費なども膨大である。
 しかも、水産卸売棟と仲卸棟は1階⇔4階、青果棟は1階⇔3
階の移動が必要な場合がある。大型エレベーターと垂直搬送機が
あるとはいえ、上下移動にはそれなりの時間がかかる。
                ──小松正之著の前掲書より
─────────────────────────────
 現代は、運転手のいない無人自動車が一般道路を走行しようと
いう時代です。まして各種生産工場などでは、AI技術を駆使し
た、いわゆる「工場内物流」が常識になりつつあります。現代の
技術であれば、十分可能なことです。
 しかし、豊洲市場は、これから移転する最新の市場でありなが
ら、欧米の市場では既に行われているプログラミングによって、
商品を決められた場所に搬送する無人車両などの「市場内物流」
の構想がどこにもありません。
 せっかく巨額なお金をかけて豊洲に新市場を作りながら、どう
してこのようなことが起きるのかというと、築地市場から豊洲市
場への移転に当たって、日本の中央卸売市場をどう考えるかとい
う大局的・戦略的構想がまるでなく、豊洲新市場は、築地市場か
らの単なる物理的移転になってしまっているからです。
 小松正之氏は、むしろ築地市場の建築の方が、大局的、戦略的
な洞察があったとして、次のように述べています。
─────────────────────────────
 築地市場は、車社会になってからはその物流の動線がネックと
なったにせよ、鉄道・船舶輸送が全盛だった開設当時においては
じつによく考えられた施設構造になっていた。関東大震災後とい
うこともあり耐震技術も駆使し、床も水はけがよく滑らないよう
な石材を惜しげもなく使った。少なくともハード面の整備におい
ては、市場としての機能を検討、熟考した末に設計されたもので
豊洲市場建設のプロセスより格段に優れていたと思う。
                ──小松正之著の前掲書より
─────────────────────────────
 小松正之氏のこの著書は2017年1月に刊行されたものであ
り、小池知事の築地・豊洲2市場併用宣言は、当然その前提には
なっていません。既に完成している豊洲市場で理想の中央卸売市
場として運営するのは困難ですが、豊洲市場とこれから新築する
新築地市場を合わせて、大局的・戦略的構想に基づいた中央卸売
市場の運営を実現する余地は残されると思います。小松氏は、こ
の著作を次のようにしめくくっています。
─────────────────────────────
 豊洲の新しい中央卸売市場の開設が遅れれば、日本市場の優位
性と日本に集荷される水産物の減少を招くのみである。世界は、
現在の東京都と中央卸売市場関係者の対応を、冷めた日で見てい
ると思われる。世界規模の水産物の貿易流通調達の「ジャパン・
パッシング」を、豊洲市場移転論争は助長していると見るべきで
もはや一刻の猶予もない。    ──小松正之著の前掲書より
─────────────────────────────
              ──[中央卸売市場論/053]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ漁業補助金を撤廃できないのか/小松正之氏
  ───────────────────────────
   日本が資源回復の光明を見いだせないなかで、アイスラン
  ドやノルウェーなど回復に成功している国がある。その決定
  的な違いは採用している管理制度。主な漁業先進国が取り入
  れているのはオリンピック方式ではなく、IQ方式やITQ
  方式と呼ばれるものだ。
   まず、IQ方式だが、これは「Individual Quota」、つま
  り個別漁獲割当方式といって、TACで設定された漁獲量を
  それぞれの漁業者に割り当てる方法のことをいう。「自分の
  漁獲量が決まっているから、他人の動向に左右されることな
  く漁ができます。年間を通じて操業計画が立てられるのでコ
  ストの計算もできますし、市場を見ながら高い魚を選んで漁
  をすることもできる。韓国は1999年にIQ方式を導入し
  2003年に110万トンだった沿岸・近海の漁獲量が20
  08年には130万トンに増加しています」。
   しかし、このIQ方式には制約もある。たとえば、ある業
  者は2000トンの漁獲枠を割り当てられたが、達成するに
  は船を大型化するなどの新たな投資が必要になる。それを望
  まずに1000トンしか漁獲しなかった場合は、残りの10
  00トンの枠が無駄になる。経営戦略に合わせて漁獲量を調
  整することが難しいのだ。「そこで、漁業者同士で漁獲枠を
  賃貸・売買できるITQ方式が登場しました。これによって
  漁業者は、より計画を立てて漁ができるようになった。ノル
  ウェーやアイスランド、オーストラリア、アメリカはみんな
  ITQ方式を採用しています」。 http://nkbp.jp/2xh27rJ
  ───────────────────────────

小松正之氏.jpg
小松 正之氏
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2017年09月19日

●「3回連続汚染度悪化/追加の検査」(EJ第4607号)

 7月3日から書いてきた「中央卸売市場論」は、今回を含めて
あと4回で終了します。当初は30回程度でまとめたかったので
すが、調査していくと隠された事実が続々と出てきて、結局58
回まで膨らんでしまいました。しかし、大事なことはきちんと書
いたと自負しています。
 来年の秋に豊洲市場への移転を宣言した小池知事に対し、市場
関係者は「豊洲市場の安全宣言を出せ!」と迫っています。その
さなかのことですが、9月14日の日本経済新聞は次の記事を掲
載しています。
─────────────────────────────
 東京都は9月14日、豊洲市場の敷地内の地下水から8月中旬
に環境基準の120倍のベンゼンを検出したと発表した。昨年以
来、ベンゼンの濃度は100倍前後と高止まりが続いている。シ
アンとヒ素も基準超のまま。一方、同時期に実施した市場建物内
などの空気調査ではベンゼンなどの濃度は環境基準を満たした。
 土壌汚染対策の有識者からなる専門家会議は市場建物内の空気
について「科学的な安全は確保された状態にある」とのコメント
を公表した。地下水の結果に関しては「(従来に比べ)全体的に
見れば、大きく汚染状況が変化した傾向は確認できない」として
いる。豊洲市場では、地下水を生鮮食品の洗浄水や飲み水として
使わない。市場の業界団体は小池百合子知事に対して、豊洲市場
の「安全宣言」を求めている。  ──日本経済新聞電子版より
                http://s.nikkei.com/2x80HgX
─────────────────────────────
 ここで、この豊洲市場の地下水モニタリング調査は何のために
やっているのかを改めて考える必要があります。豊洲市場の地下
水調査は、東京都が土壌汚染対策工事を終えた2014年から2
年間の計画で調査し、1回〜8回はすべて環境基準以下をクリア
していたのです。そして、2017年1月公表の最後になる9回
目も環境基準以下がクリアできれば、改正土対法による汚染区域
(形質変更時要届出区域)のレッテルが外せたのです。ところが
第9回の調査結果は基準値の最大79倍のベンゼンなどが検出さ
れ、汚染区域のレッテルは現在も外せないままです。
 このことは、8月31日のEJ第4595号でも述べています
が、きわめて重大なことです。首都東京都の中央卸売市場が汚染
区域の上に建っているからです。
 なぜか、メディアは熱心に取り上げないのですが、この地下水
汚染調査は、不思議なことだらけです。なぜなら、石原、猪瀬、
舛添各知事のときの第1回〜第8回までの検査結果は、そのすべ
てが環境基準値以下であるのに、小池知事になってからの第9回
の調査結果だけが、なぜ、環境基準値の79倍のベンゼン検出な
のでしょうか。石原、猪瀬、舛添各知事が豊洲移転推進派であっ
たことを考えると、その調査結果に何らかの改竄があった疑惑は
否定できないと思います。
 おかしなことはまだあります。この9回目が突出して数値が高
かった理由について専門家会議は、9回目を担当した調査会社が
それまでと異なることや、調査手法が異なること、それに加えて
9回目のサンプル採取が地下水管理システムが稼働した直後だっ
たので、その違いが出たのではないかと述べています。
 専門家会議のこの発言は明らかにおかしいです。業者が違って
も、地下水の汚染調査の方法は、改正土対法に詳しく定められて
おり、誤差が出てもせいぜい数倍程度であって、79倍の差が出
るはずがないからです。
 それに、地下水管理システムが稼働した直後の地下水サンプル
採取だったというのも限りなく疑わしいです。それなら、専門家
会議のメンバーが主導して実施した第10回の地下水モニタリン
グ調査では、豊洲市場の29ヶ所の調査結果でも100倍にのぼ
るベンゼンが検出されたことです。数字が悪化しており、地下水
管理システムが稼働しているならば、数値が改善するか、現状維
持であるべきなのに、数値が悪化しているのは、地下水には深刻
な土壌汚染がまだあるということです。
 この仮説が明確に裏付けられたのが、第11回目に当たる今回
の調査結果です。なんと12O倍のベンゼン検出です。さらに数
値が悪化しています。
─────────────────────────────
         第 9回調査: 79倍
         第10回調査:100倍
         第11回調査:120倍
─────────────────────────────
 これについて、専門家会議の見解は、とても納得のいくもので
はありません。専門家会議は次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 地下水は、有害物質の濃度が低下傾向にある地点もあり、全体
的に見れば大きく汚染状況が変化したとは確認できない。市場で
地下水は使わず、大気も汚染されていないため安全である。
                   ──専門家会議の見解
─────────────────────────────
 随分甘い見解であると思います。79倍、100倍、120倍
と数値が高くなっていることには触れず、有害物質の濃度が低下
傾向にある地点があることをことさら強調し、数値の上昇につい
てはコメントしていないのです。明らかに逃げています。
 それに「市場では地下水は使わない」は、明らかに今までより
もハードルを下げています。しかも、ベンゼンは揮発性があり、
空気中に拡散し、当然市場内にも入ってきます。そのために専門
家会議は盛り土を提案したはずです。その盛り土がなかったので
すから、ベンゼンが空気中に拡散することになります。
 「地上と地下に分けて考える」──専門家会議のこの発言は、
土壌汚染が結局は除去できなかったことのエクスキューズに聞こ
えます。豊洲市場は、改正土対法の汚染区域の上に建っている事
実です。          ──[中央卸売市場論/054]

≪画像および関連情報≫
 ●「地上」の健康リスク指摘した報告書を都の専門家は無視
  ───────────────────────────
   東京都の築地市場(中央区)の移転先である豊洲市場(江
  東区)の地下水から、今年1月に環境基準の79倍のよベン
  ゼンが検出されたことを受けて再調査をしていた都の専門家
  会議(座長=平田健正放送大学和歌山学習センター所長)は
  3月19日、79倍が検出されたのと同じ井戸から100倍
  のベンゼンが検出されたと発表した。
   しかし、平田座長は、「(市場の建物内の)地上と地下は
  分けて考えるべき。地上の観測値に変化はなく、地上は安全
  だ」と述べた。実は都は今回のベンゼンが環境基準の100
  倍という結果では地上も安全とは言えない試算をした報告書
  を、日水コン(東京都、野村喜一社長)というコンサルタン
  ト会社にまとめさせていた。だが、同日の専門家会議ではそ
  の報告書にはまったく触れなかった。
   専門家会議は、ベンゼンなど揮発性ガスの上昇を抑える効
  果があるとして盛土を対策の柱として提言、2008年に一
  度解散した。だが昨年9月、肝心の盛土がないことが発覚、
  小池百合子都知事が新たな対策を提言してもらうために専門
  家会議を再招集した。2008年の提言では、地下水から揮
  発したベンゼン、シアンなどがガスとしてすき間などから地
  上の建物内に入り、人の健康や生鮮食料品にどの程度影響を
  与えるかを試算した。その結果、市場の地下水が環境基準以
  下に維持されていれば人の健康に問題はなく、食の安全・安
  心への悪影響も小さいと結論付けた。ただ、これはあくまで
  も盛土があることが前提だった。  http://bit.ly/2jBja2b
  ───────────────────────────

豊洲の地下空間を調べる平田座長.jpg
豊洲の地下空間を調べる平田座長
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2017年09月20日

●「小池都知事は安全宣言を出すのか」(EJ第4608号)

 小池知事は、築地と豊洲の2市場併用プランを知事になるとき
から持っていたといわれます。さらに豊洲市場の土壌汚染の実態
についても、自身の環境大臣時代の人脈を使って相当程度情報を
掴んでいたはずです。つまり、その時点から基本的に築地市場で
の再整備を心のなかでは決めていたと思われます。
 これまで築地市場の再整備を阻んできたのは、築地市場を営業
しながら、工事をすることの困難さです。種地がなかったからで
す。しかし、現在は土壌汚染問題が残っているとはいえ、豊洲市
場がいつでも使える状態で完成しているのです。
 これを使わない手はないし、知事としても既に莫大なコストを
かけて完成している豊洲市場を活かさなければならない。そのた
め、2018年中に築地市場を豊洲市場に移転し、東京五輪終了
後に5年程度の年月をかけて、築地市場を再整備して戻すことを
考えていると思われます。それにその時点では、AIなどの技術
による社会のIT化が一段と進み、卸売市場そのものも大幅に変
革せざるを得なくなると読んでいます。「築地を守る、豊洲を活
かす」とはこういうことを示しているのです。
 しかし、2市場併用プランについては「現実的ではない」とか
「コスト的に無理」とか、「2つの市場はあり得ない」とか、い
ろいろな批判が出ています。これらの批判について、小池知事は
次のように反論しています。
─────────────────────────────
 どうして日本の宝物を両方とも生かさないのかと思いますね。
土地は一度売却してしまうと、あとはディベロッパーに切り売り
されるだけで元には戻らない。私たちの方針を批判する方々は、
そのことの意味をわかっているのでしょうか。江戸時代の日本橋
魚河岸から、関東大震災後の築地外国人居留地開発を経て現在に
至る築地の歴史的魅力を保つためにも、土地全体が残るかたちの
ほうがいい。築地が培ってきた文化と、世界への発信力に終止符
を打つなどという、それこそ「もったいない」真似をなぜするの
でしょうか。
 その一方で、市場移転について二十年も三十年も議論を続けて
いるうちに、物流の環境や技術が飛躍的に進歩しました。距離だ
けを問題にする従来の立地の在り方も大きく変わっています。フ
ロン規制による冷蔵施設の需要がさらに増大するなかで、私は目
先の利害よりも、将来にわたる施設としての「持続可能性」を考
えるべきと考えます。「とにかく決めたことだから、市場を早く
豊洲に移せ」というだけでは、あまりにも無責任。豊洲を生かし
築地も守ることを考えて何が悪いか、と思います。
      ──「Voice/ボイス」/2017年10月号
─────────────────────────────
 これに対し、築地市場の主要業界団体のトップで構成する「築
地市場協会」は、小池知事に対し、知事による豊洲市場の安全宣
言を求め、要望書を提出しています。その目的は、風評被害の払
しょくですが、もし豊洲市場で予期せぬ事態が発生したときの補
償などの目的もあるものと思われます。
 しかし、小池知事は明確な安全宣言は出さないと思います。な
ぜなら、豊洲市場は、改正土対法では土壌汚染区域に指定されて
いるからです。これについて、東卸市場労働組合委員長の中澤誠
氏と一級建築士の水谷和子氏は、小池知事の安全宣言について次
のように述べています。
─────────────────────────────
中澤:そんなこと(知事の安全宣言)が可能でしょうか。自分の
   やったわけではないものの責任を、小池さんが自ら背負う
   形で安全宣言できるでしょうか。
水谷:土壌汚染対策法上で言えば、豊洲市場用地はおそらくずっ
   と高濃度汚染地区です。環境基準の10倍を超える汚染区
   域です。小池都知事も、そんな場所に「安全宣言」は、と
   うてい出せないでしょう。そんな尻ぬぐいするとは思えま
   せん。
中澤:どう想像しても、小池さんが安全宣言をする場面が思い浮
   かびません。自分が行ったことならまだしも、人の尻ぬぐ
   で安易に安全宣言をしたら、その後何が起こっても、小池
   知事の責任になります。それと同じ理由で農林水産省も認
   可しづらいはずです。(一部略)
            ──中澤誠/水谷和子/宇都宮健児著
           『築地移転の闇をひらく』/大月書店刊
─────────────────────────────
 安全宣言といえば、舛添前知事が定例記者会見でそれに近い宣
言をしています。しかし、舛添氏は、土壌汚染対策はしなければ
ならないもの(マスト)ではなく、それがあるからといって市場
を開業できないわけではないことを強調しています。
─────────────────────────────
記者:じゃあ、市場関係者とか外に向かってここは安全ですよと
   宣言したということとイコールだと捉えても大丈夫なわけ
   ですか。
舛添:大丈夫ですよ。間違ってほしくないのは、それがなければ
   開けないというマストの条件ではありませんけれどやった
   ということ。よく誤解があって、それもやっていないのに
   開くのか、それやって結果が出たらどうなると。その因果
   関係は法律上は全くありませんということを申し上げたい
   ので、私はこれで十分安全であると、ですから市場を開設
   しますということを責任持って申し上げたいと思います。
        ──2014年12月9日、舛添知事定例会見
                   http://bit.ly/2y89z5C
─────────────────────────────
 要するに、舛添前知事は地下水に土壌汚染は残るが、豊洲市場
は「安全」として、安全宣言をしたのですが、その後に「盛り土
なし」が判明します。この時点で安全宣言は崩壊しています。
              ──[中央卸売市場論/055]

≪画像および関連情報≫
 ●豊洲移転、風評被害払拭は「安全宣言より情報発信」
  ───────────────────────────
   築地市場(東京都中央区)の豊洲市場(江東区)への移転
  問題を検証する都の市場問題プロジェクトチーム(PT)は
  8月4日、豊洲市場の風評被害の払拭に向け「『安全宣言』
  という単発的な対策ではなく、継続的な情報発信などを提案
  する」といった内容を含む提言をまとめた。今後、提言を盛
  り込んだ豊洲市場の安全・安心に関する報告書を小池百合子
  知事に提出する。築地市場の業界団体から移転前に小池氏が
  安全宣言をするよう求める声が上がっており、小池氏の対応
  が注目される。
   提言では都が市場移転に向けて実施する追加の土壌汚染対
  策工事を「安全・安心に資する」と評価する一方、対策に関
  するPDCAサイクル(計画・実行・評価・改善の継続)を
  行うことが有用であると指摘。
   さらに風評被害払拭について「豊洲市場用地は、法律的・
  科学的に安全であり、被害が生じているわけでもない。こと
  さら『安全宣言』というのも奇妙だ」とした上で、追加対策
  の内容や効果、大気や水質の測定値を公表して正確な情報を
  発信するよう促した。小池氏は同日の定例記者会見で「(P
  Tの)提案を参考にしながら深めていきたい」として、情報
  発信の在り方などについて検討を進める見解を示した。
                   http://bit.ly/2hatWvG
  ───────────────────────────

記者会見する伊藤裕康会長.jpg
記者会見する伊藤裕康会長
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2017年09月21日

●「世界に類のない日本の卸売市場法」(EJ第4609号)

 これからの中央卸売市場問題を考えるさいに知っておくべきこ
とがあります。それは、日本のような中央卸売市場制度は世界で
も珍しく、同様の制度は韓国と台湾にしかないことです。この場
合、韓国や台湾はかつて日本が統治していた国であり、日本の制
度が受け継がれたものと考えることができます。
 日本の中央卸売市場制度のどこが特異であるかというと、卸売
業者(大卸+仲卸)に対する法的な締め付けが大変に厳しい点に
あります。具体的にいうと、原則的に卸売業者は、法律で定めら
れた手数料でしか商品を売ってはならないことになっており、自
由に値付けができないのです。
 どうしてこのような制度になったのかというと、そのきっかけ
は、1918年(大正7年)に起きた米騒動にあります。当時イ
ンフレが発生するなかシベリア出兵が発表され、米相場は一気に
上昇します。そうすると、相場の上昇を見た各地の米問屋は、米
の買い占めや売り渋りをはじめ、主食の米が庶民に行き渡らなく
なってしまったのです。これが新聞で報道されると、この傾向は
一気に全国に波及したのです。これが「大正の米騒動」です。
 この事件をきっかけにして、公設市場開設への議論が一気に進
みます。しかし、立場によって、その狙いはバラバラであり、こ
れは現代にも引き継がれています。
─────────────────────────────
 ◎市民に食品を効率よく行き渡らせる ・・・ 社会運動家
 ◎都市の衛生のために市場を管理する ・・・   内務省
 ◎無駄の多い取り引きを統制させたい ・・・  農商務省
─────────────────────────────
 1923年に「中央卸売市場法」が成立し、1927年の京都
市を皮切りに、日本各地に中央卸売市場が誕生します。そこでは
公正な価格決定と取り引きの明朗化が謳われたのです。これによ
り、それまでの問屋市場は中央卸売市場に移され、取り引き方法
の合理化の手段として、委託販売、セリ売り、場内現物取引が決
められ、手数料制が導入されたのです。
 しかし、時代が進むにつれて、規制緩和が行われ、セリ売りに
ついても、制度としては1999年になくなっています。現在で
は、市場ごとに一部の水産物について行われていることは既に述
べた通りです。このままでは、セリ売りはやがてなくなってしま
うことは確実です。
 安倍内閣に規制改革推進会議というのがありますが、その農業
ワーキンググループが作成した次の文章があります。
─────────────────────────────
 特に、卸売市場については、食糧不足時代の公平分配機能の必
要性が小さくなっており、種々のタイプが存在する物流拠点の一
つとなっている。現在の食料需給・消費の実態等を踏まえて、よ
り自由かつ最適に業務を行えるようにする観点から、抜本的に見
直し、卸売市場法という特別の法制度に基づく時代遅れの規制は
廃止する。       ──中澤誠/水谷和子/宇都宮健児著
           『築地移転の闇をひらく』/大月書店刊
─────────────────────────────
 セリ売りが全廃されると、価格で競うしかなくなります。価格
競争になると、時間とともに鮮度の落ちる生鮮食品は、不利で足
元を見られ、買い叩きが起きてしまいます。そうなると、生産者
(漁業従事者)の収入がダウンし、とくに小規模の生産者は、割
に合わないと生産をやめてしまうことになります。この傾向は現
在も続いており、漁師を生業とする人たちは減っています。
 セリ売りがどれほど大事であるかについては、東卸市場労働組
合委員長の中澤誠氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 築地市場では、沖縄のマグロに一番いい値がついたことがある
のです。普通、マグロと言ったら大間が有名です。けれどもその
日並んでいた中で、これはどう見ても沖縄のマグロがいいと、そ
の日仲卸の目利きが、一番いい値段をつけたことがあります。そ
うすると東京中の一流の寿司屋が、築地で値段がついたならば間
違いないということで、その沖縄のマグロを買っていくのです。
 これはどういうことか。つまり、大間のマグロだったらブラン
ドとして名が知られていますから、素人でも値段が付けられる。
けれども、沖縄のマグロにもこうやっていい値段がつくというこ
とは、日本中にたくさんいる、ブランド力のない生産者のやる気
を引き出すんです。それが築地ブランドです。名前だけでない、
実体がともなっている。それが築地の実力なのです。
      ──中澤誠/水谷和子/宇都宮健児著の前掲書より
─────────────────────────────
 小池知事は、このセリ売りを何とかして残そうとしています。
それは仲卸業者を守ることで実現されます。そしてそれは「築地
を守る」ことにつながるのです。ということは、築地市場にも市
場機能持たせることを意味しています。小池知事の説明によると
民間に貸し付けて、一部の市場機能や商業施設を複合させ、食文
化の発信地として築地ブランドを守るとしています。つまり、築
地の民営化を目指しているのです。
 しかし卸売市場法では、20万人以上の人口を有する自治体が
設置する中央卸売市場について、民間参入を禁じており、2市場
併用案を実現するには、市場法の規制緩和が必要になります。こ
れについて小池知事は、ここに特区制度を活用しようとしている
のではないかといわれています。
 これは、特区制度を推し進めようとしている安倍政権にとって
悪い話ではないと思います。世論の関心の高い市場移転問題が特
区を利用して解決できれば、特区の有用性を宣伝でき、「築地を
守るため」「食の安全を守るため」という大義名分も立つので、
特区活用の可能性は十分あります。
 しかし、2市場併用案については、市場関係者にとって多くの
疑問があります。これについては、明日のEJで考えることにし
ます。           ──[中央卸売市場論/056]

≪画像および関連情報≫
 ●小池知事/「特徴を生かせば共存可能」2市場両立に自信
  ───────────────────────────
   「私は豊洲移転ありきではなく築地」。東京都の小池百合
  子知事は6月20日夜、産経新聞の単独インタビューに応じ
  市場移転問題を検討するにあたっては、築地ブランドの活用
  を重視していたことを明かした。豊洲移転・築地再開発の両
  立案には業界内からも批判が出ているが、「特徴を生かせば
  共存可能」と反論した。
   このタイミングで、具体性が十分でない基本方針を発表し
  たとの指摘には、「昨年に定めたロードマップ(工程表)に
  従って一つずつ詰めてきた」。ただ、その一方で築地への思
  いを強く打ち出した。「途中から豊洲移転の話がメディアに
  躍った。私は豊洲移転ありきではなく、築地なんですよ、基
  本的に。豊洲移転のイメージが先行しているのはよろしくな
  いと思った」。両立案によって市場機能が分割されることに
  業界内から批判が上がっていることに対しては「その前に、
  都内に11の卸売市場があることをどうするんだという話が
  ある」と反論。「いまネットで、個人が注文してしまう時代
  になっているわけで、市場を取り巻く環境はこれからも激変
  していく。それぞれの特徴を生かして共存できると思う」と
  指摘した。            http://bit.ly/2y8IHCn
  ───────────────────────────

2市場両立案は実現可能/小池知事.jpg
2市場両立案は実現可能/小池知事
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2017年09月22日

●「豊洲プラス築地併用は実現するか」(EJ第4610号)

 築地市場の豊洲移転問題をここまで調べてきて、わかって来た
ことがあります。卸売市場の近代化を進めれば進めるほど、仲卸
業者が消えるという事実です。実際に海外の卸売市場には仲卸と
いう役割は存在しないのです。
 現在、日本の「和食ブーム」を担っているのは、築地市場にお
ける500社を超える仲卸業者の存在であるといわれています。
思想家にして人類学者でもある中沢新一教授は、仲卸の存在につ
いて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 築地市場のユニークさは物流センターとしての機能だけに限定
されない。仲卸を中心にしてかたちづくられてきた「中間機構」
の中に、味覚をめぐる莫大量の身体的暗黙知が蓄積され、それが
いまも健全な活動を続けている。
 食材にたいする「目利き」、魚体を扱う驚くべき職人技、料理
文化への繊細な配慮などによって築地市場は日本の食文化を根底
で支える存在になっている。築地市場は我々の宝物である。そし
てなによりも築地市場には未来がある。この未来を絶ってしまっ
てはならない。──中沢新一氏論文「築地アースダイバー」より
      『現代思想』2017年7月臨時増刊号/青土社刊
─────────────────────────────
 既に述べたように、諸外国の生鮮食料品を扱う卸売市場には、
仲卸業者はほとんど存在しておらず、日本のような中央卸売市場
は韓国と台湾にしかない独自のものです。これをもって、豊洲市
場移転推進派の人たちは、日本の卸売市場は遅れているという議
論をする人がいますが、この考え方は間違っていると思います。
なぜなら、日本が世界のなかで最も魚をよく食べる国のひとつで
あるからです。
 世界176ヶ国で1人当たりの1日の魚介類消費量ランキング
というものがあります。FAO(国連食糧農業機関)の2012
年のデータにおける順位は次のようになっています。
─────────────────────────────
          国名         消費量
     第 1位:モルディブ   381グラム
     第 2位:アイスランド  242グラム
     第 3位:キリバス    198グラム
     第 6位:日本      155グラム
     第 7位:韓国      154グラム
     第18位:フィンランド  101グラム
     第27位:ベトナム     89グラム
     第31位:中国       85グラム
                  FAO Statistics Division
                   http://bit.ly/2fBTMVE
─────────────────────────────
 この順位を見ると、日本は、魚をよく食べる国において、先進
国のトップに立っています。ダントツ第1位のモルディブは、イ
ンドの南西に浮かぶ島国で、約1200もの島々から成り立って
います。もっとも食べる魚はカツオで、3食カツオということも
珍しくないといわれます。
 それに比べると、日本は多種類の魚介類をさまざまな料理にし
て食べる国であり、魚介料理の豊富さに関しては世界に冠たる国
であるといえます。だから、いま世界で「和食ブーム」が起きて
いるのです。
 したがって、日本の中央卸売市場は仲卸を大事にする市場であ
るべきです。既出の東京財団上席研究員の小松正之氏は、著書で
築地市場や豊洲市場をオランダのイムイデン漁港市場、オースト
ラリアのシドニー水産物市場、ニュージーランドなどのオークラ
ンド水産物市場と比較して、大きく遅れていることを指摘してい
ますが、それらの国よりも、多くの魚を食べる国である日本は、
もっと独自の市場でもよいと思っています。しかし、先端のAI
やIT技術は積極的に取り入れる必要はあると考えます。
 豊洲と築地の2市場併用案について、築地市場協会の伊藤裕康
会長は、次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 知事の発言は、比較的バランスの取れたものであったことは評
価したい。ただ、大づかみの方針が示されただけで中身はこれか
ら。都と話を詰め、理想的な市場に近づけたい。しかし、市場は
卸業者や仲卸業者などが一堂に会するものであって、2つの市場
は成り立たない。      ──築地市場協会の伊藤裕康会長
─────────────────────────────
 伊藤会長は、市場というものは、大卸、仲卸、買出人が一同に
会さなければ機能しないといいますが、豊洲市場は、水産卸棟と
水産仲卸棟は315号線という道路で分断され、1・5キロも離
れています。その行き来は、道路地下のアンダーパスをターレー
で行うことになり、相当時間がかかります。
 しかも、仲卸棟は4階建ての建物で、仲卸は1階、買出人は3
階と4階になっており、築地市場のように、とても「一同に会し
ている」とはいえないのです。大卸、仲卸、買出人が一同に会し
ている築地市場に比べて非常に不便です。
 そのため、築地市場が再整備された後は、豊洲市場は、高度に
自動化された全館冷房の物流センターに改造して使い、整備後の
築地市場は、セリなどを行う一部の市場機能を移転し、買出人の
店舗を築地市場に戻して食のテーマパーク化するというのが、小
池知事のいう「築地は守る、豊洲は活かす」の考え方なのです。
 東京五輪が終り、築地整備の終了する2025年までの約8年
間、その間の技術革新はきっと目をみはるものになるはずです。
この間の技術革新は、AI(人工知能)の力が加わるので、これ
までとは比べ物にならないほど、高速に進化します。そうなれば
豊洲と築地の距離の問題は解決しているはずです。7月3日から
書いてきた今回のテーマは本号が最終回です。長い間のご愛読を
感謝いたします。  ──[中央卸売市場論/最終回/057]

≪画像および関連情報≫
 ●豊洲へ市場は移転、築地は「食のテーマパーク」に!
  ───────────────────────────
   懸案の築地市場移転問題で昨日20日(2017年6月)
  小池都知事が会見して、「豊洲への移転」「五輪後に築地を
  再開発」という基本プランを明らかにした。ただ、具体的な
  活用案は今後詰めるとしている。知事は、この問題を都議選
  のテーマにしたいようだが、果たしてこれで票になるのかど
  うか。知事が示したプランは、1)豊洲は総合物流拠点とす
  る、2)築地は5年後をめどに「食のテーマパーク」など再
  開発する、3)具体的な活用案は今後、事業者・都民と広く
  検討する、というものだ。
   つまり、「築地は守る。豊洲を活かす」。築地は五輪まで
  に更地にし、2号線道路を通す。その後、築地は再開発──
  だが知事は、「豊洲移転」とは言わなかった。実際は豊洲へ
  市場機能を移すにしても、築地の当事者が依然、賛成・反対
  に分かれている。
   確かに築地の人気は高く、ブランド化もしている。日の入
  場者4万2000人、CNNが選ぶ「世界の生鮮市場ベスト
  10」の2位(1位はどこだ?)。観光客のスポットでもあ
  る。ここから動きたくないという人たちもいる。さらに費用
  の問題がある。豊洲移転に6000億円かかる。うち、44
  00億円は、築地の跡地を売却して捻出する予定だったのだ
  が、これを売らないとなると、どこかで捻出しないといけな
  い。               http://bit.ly/2yeOlTt
  ───────────────────────────

築地市場からの移転を待つ豊洲市場.jpg
築地市場からの移転を待つ豊洲市場
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2017年09月25日

●「IT技術を習得することの必要性」(EJ第4611号)

 このところ新聞を見ると、AI(人工知能)やビットコイン関
連の記事が載らない日がなくなっています。これらに関連して、
IoT、フィンテック(Fintech) 、量子コンピューターなどの
記事も多くなってきています。
 日本経済新聞では、これらのICT関連技術について、連載囲
み記事を掲載し、その解説に努めています。それぞれに詳しい解
説が必要だからです。ビットコインの連載に関しては、既に何回
も取上げていますが、最近はそれに加えて、「ビットコイン狂騒
曲」のタイトルで、9月19日から23日まで、『迫真』で5回
にわたり連載が行われています。
 EJでもビットコインを取り上げています。2014年9月か
ら11月まで53回連載しています。ところで2014年といえ
ば、2月23日にビットコインの取引所での一つであるマウント
ゴックスが倒産しています。
─────────────────────────────
 2014年 9月 1日付、EJ第3866号
      〜2014年11月18日付、EJ第3918号
                  http://bit.ly/1wXUpx7
─────────────────────────────
 当時、多くの人は「マウントゴックスの倒産=ビットコインの
破綻」と考えており、その誤解を解くのが、EJ執筆のひとつの
目的だったのです。それが今やビットコインが、社会の大きな話
題になっています。2018年には、邦銀が連合して仮想通貨を
導入する計画が進んでいます。この仮想通貨は、ビットコインそ
のものではありませんが、ビットコインの中核技術であるブロッ
クチェーンを使っています。
 3年後の2020年の東京五輪までを考えても、VR(仮想現
実)、AR(拡張現実)、ドローン、自動運転車をはじめ、IC
T技術の進化によって、今までなら考えられなかったものが次々
に実現するはずです。その30年後の2050年までを考えると
人口動態や宗教、経済、文化にいたるまで「メガテック」と呼ば
れる大変化が起きるといわれています。それを予測することは、
非常に困難です。なぜなら、30年前の1987年に、アップル
アマゾン、フェイスブック、グーグルなどが席巻する今日の状況
をとうてい予測できなかったからです。
 しかし、3年〜5年後であれば十分予測することは可能です。
なぜなら、変化はある日突然起きるものではなく、既に存在する
技術が突然進化して、驚くべきものを生み出すからです。理論と
しては前からあった技術なのに、スマホが普及して、「ポケモン
GO」のアプリが開発されたことによって、突然注目されるよう
になったAR技術のようにです。つまり、今後3年後に変化を起
こすものは、既に現在の世界に存在する技術だからです。
 そこで本日からはじまるEJでは、それらの「技術/テクノロ
ジー」を取り上げることにします。
─────────────────────────────
   世の中を変化させる次世代テクノロジーについて知る
    ── 考えられないものが実現する5年間 ──
─────────────────────────────
 技術の話というと、文系の人は身構えます。そして、「それは
私の専門ではないので・・」とか、「それは技術の専門家にまか
せてあるので・・」とか逃げまくります。それでいて、わからな
くても恥ずかしいとは思っていないようです。
 文系の人の立場からいうと、理系の人は、エンジニアとして専
門的な教育を受けており、その道の専門家であるが、自分はそう
いう教育を受けていないので、わからなくても別に恥ずかしくは
ないという考え方の人が多いのです。
 しかし、この考え方は間違っています。私たちは、仕事でも生
活でもインターネットを利用し、スマホを使って、多くの人とコ
ミュニケーションをとっています。それにAI(人工知能)、ロ
ボット、ドローン、ビットコインなど、サイエンスや、テクノロ
ジーに囲まれて生活をしています。そのような時代に文系だから
といって、技術系のものから目をそむけていたら、完全に時代に
置いて行かれてしまいます。もはや、文系/理系と区分する時代
ではなくなっているのです。
 このような背景を受けてか、国立大学の文系学部廃止論が話題
になったことがあります。これは、2015年6月に文科省が発
表した文書が発端になったのです。そこには、いわゆる文系学部
の人文科学系学部と大学院、法学部や経済学部などの社会科学系
学部と大学院、教員養成系学部・大学院について、次のように書
かれています。
─────────────────────────────
 組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野
への転換に積極的に取り組むよう努める。   ──文部科学省
 「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」より
─────────────────────────────
 文科省のこの文書は、現代社会が理系人材を求めているので、
それに応えて文系学部の廃止に言及していますが、この考え方は
いささか乱暴です。文系学部を廃止してしまうのではなく、文系
学部の教育のなかに理数系教育を取り入れるべきであると考えま
す。現代は高度なICT社会になっており、文系学部といえども
理数系的センスを磨くべきであると考えるからです。
 私は、ある大学の経済学部で、ウェブサイトを構築する「イン
ターネット・プログラミング」講座を担当していたことがありま
す。経済学部の学生であっても、せめて自分でウェブサイトの構
築ぐらいできるICT対応力をマスターさせるべきであるという
大学の方針で、この講座が設けられたのです。
 2020年から小学校でプログラミング教育が開始されます。
他国に比して遅きに失してはいるものの、小学生の頃から理系セ
ンスを磨くのに役立つことは確かです。
            ──[次世代テクノロジー論/01]

≪画像および関連情報≫
 ●国立大の「文系廃止」の誤解はなぜ広がったのか?
  ───────────────────────────
   文部科学省が2015年6月に国立大学向けに出した人文
  系の組織再編を促す通知の波紋がなかなか収まらない。同省
  は「人文系切り捨てではない」と理解を求めるが、学術団体
  が7月に抗議声明を発表し、8月には一部の英字紙が「日本
  の大学が教養教育を放棄へ」と海外で発信する。文部科学省
  は「文系軽視は誤解」と火消しに躍起になっているが、果た
  して“誤解”は払拭されるのか。
   全国の国立大学を揺るがした今回の通知のタイトルは「国
  立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」。国立
  大の組織改編に向けた第3期中期目標・中期計画の期間が来
  年度からスタートするのに合わせて出されたものだ。
   しかし、通知を目にした国立大の人文系教員たちから「人
  文系軽視だ」などと不満が噴出。その原因をたどると“舌足
  らず”な文章構成に突き当たる。以下の一文が該当部分だ。
  《「ミッションの再定義」で明らかにされた各大学の強み・
  特色・社会的役割を踏まえた速やかな組織改革に努めること
  とする。特に、教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学
  部・大学院については(中略)組織の廃止や社会的要請の高
  い分野への転換に積極的に取り組むよう努めることとする》
                   http://bit.ly/1O8lapc
  ───────────────────────────

「ポケモンGO/AR技術」.jpg
「ポケモンGO/AR技術」
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2017年09月26日

●「AI時代のSTEM教育の必要性」(EJ第4612号)

 理系に強い人材をつくる──それには「STEM」教育を実施
する必要があります。「STEM」とは何でしょうか。
─────────────────────────────
 S ・・・・・ サイエンス    Science     科学
 T ・・・・・ テクノロジー   Technology    技術
 E ・・・・・ エンジニアリング Engineering   工学
 M ・・・・・ マセマティクス  Mathematics   数学
─────────────────────────────
 最近では「T」と「E」の間に「A」(芸術)を加えて、「S
TEAM」ともいわれますが、これについては後で述べます。
 さて、「STEAM」、すなわち「スティーム/蒸気」にちな
んで、蒸気エンジンを使って「STEM」を説明します。科学教
育ライターの金子茂氏の説明です。
─────────────────────────────
 水を熱すれば蒸気になります。これはサイエンス。どのくらい
の水にどのくらいの熱を加えるとどのくらいの蒸気が発生し、蒸
気圧として数値化できるかはマセマティクス。その蒸気圧をエネ
ルギーとして取り出せるかどうかはテクノロジー。エネルギーと
して取り出す具体的な装置として蒸気エンジンを作るのがエンジ
ニアリング。蒸気エンジンひとつをとってみても、4領域が密接
に関連していることが分かります。   http://bit.ly/2nW4c4w
─────────────────────────────
 なぜ、STEM教育が必要なのかというと、2045年に人工
知能が人間の能力を超えるといわれているからです。これは、シ
ンギュラリティといわれています。
 これに関して、文部科学大臣補佐官で、東大教授の鈴木寛氏は
投資コンサルティング会社インスパイア代表の成毛真氏との対談
で次のように述べています。
─────────────────────────────
成毛:日本人の大人にはSTEM教育が足りていなかったという
   のが私の結論なのですが、では、子供はどうなのか、文部
   科学大臣補佐官のすずかん先生に、それをうかがいたいと
   思って今日はやって参りました。
鈴木:今の高校生の大半と中学生以下は2000年以降に生まれ
   ており、2100年すぎ、つまり、22世紀まで生きる可
   能性が大いにあります。
成毛:22世紀まで生きる人たちにとっては、AIの「シンギュ
   ラリティ」(2045年頃にAIが人類を超す技術的特異
   点)を迎えるといわれる年は、まだ人生の折り返し地点で
   あったり、もっと手前の地点だったりするわけですね。
鈴木:その頃の大人はSTEMを理解していないとなりません。
   わかっている人だけがAIを使う側に回り、わかっていな
   い人はAIに使われる側に回ります。このことは、その頃
   の大人、つまり今の子供たちはよく理解しています。
               ──成毛真著/SB新書375
 『AI時代の人生戦略/「STEAM」が最強の武器である』
─────────────────────────────
 AIを使う側に回るか、それとも使われる側に回るか──それ
を決めるのは、STEMを理解しているかどうかにかかっている
と鈴木寛氏はいうのです。
 「分数の計算ができない大学生がいる」ことが話題になったこ
とがあります。私は、あるIT企業の新入社員にICT知識と技
術を教えており、若い人に簡単な計算問題を与えて解かせていま
すが、何でもない計算ができない人が多いのは事実です。分数の
計算どころか、普通の割り算ができない人もいます。
 さらに鈴木寛氏は次のことも指摘しています。現在、日本では
一学年は約100万人いて、進学率は50%なので、50万人が
大学に進学します。そのうち約30万人は、一生懸命勉強して大
学に入りますが、残りの20万人は、AO入試とか推薦入試とか
競争のないかたちで進学します。
 現在、受験生の最も多い大学のベスト3は、第1位は早稲田大
学、第2位は明治大学、第3位は近畿大学だそうです。どの年も
平均して11万人ぐらいが受験するそうです。これらの大学の受
験料収入は、約11万人が3万5000円を支払うので、38億
5000万円が入ってきます。
 その一方で、この3大学のなかには、私学の雄といわれる慶応
義塾大学が入っていません。受験者は約4万人ぐらいなので、順
位が低いのです。どうしてかというと、慶応義塾大学の場合、文
系学部の入試に数学と小論文が出題されるので、多くの受験者か
ら敬遠されています。もちろん国立大学の場合、文系学部にも数
学が出題されることはいうまでありません。数学は、論理的思考
を強くするため不可欠です。そのうち、国が入試に数学を出す私
立大学の助成金を増やす可能性もあります。これからは、数学教
育がとくに不可欠だからです。
 同じ文系学部といっても、国立大学の文系学生と数学が出題さ
れない私立大学の文系学生では、正答率に大きな格差が生じてい
ます。なお、成毛氏と鈴木氏は、「STEAM」について、次の
ように話しています。
─────────────────────────────
鈴木:すでに教育界では、STEMだけでは不十分と考えていて
   シンギュラリティ以降は、善と美が人間の仕事として残る
   ことを前提とした話をしています。
成毛:つまり、AIに使われるだけの人間にならないためにST
   EMは必須だし、AIを利用した仕事をするためには善と
   美が理解できないといけない。
鈴木:ですから、「STEM+アートデザイン」が欠かせないの
   です。これを「STEAM」と呼ぶ人もいますが、まだ呼
   称として確立はしていません。──成毛真著の前掲書より
─────────────────────────────
            ──[次世代テクノロジー論/02]

≪画像および関連情報≫
 ●今から始める科学技術教育/STEM/STEAM
  ───────────────────────────
   2015年12月に、株式会社野村総合研究所が発表した
  ニュースリリースによると、日本の労働人口の約49%は、
  10〜20年後に、人工知能やロボットに取って代わられる
  ことになることが明らかになりました。野村総研の他にも人
  間の労働がロボットに取って代わられるという指摘は世界中
  で多く、今の教育で未来に役立つスキルが本当に身につくの
  か、疑問視する声も上がっています。
   また近年の技術革新は“第4次産業革命”と呼ばれるほど
  めざましく、日々大量のデータが生みだされ、それらを蓄積
  ・分析し、次の行動に移すための施策が、世界中でとられて
  います。今後は私たちの身の回りにあるモノすべてに、イン
  ターネットがつながるIoT、仮想空間を体験できるVRな
  どの普及が進むとされていて、ビジネスの進み方も、ビッグ
  データやロボット、AIを前提としたものに変化していきま
  す。こうした時代に、テクノロジーにまつわる教育を行うべ
  きと言われるのは必然の流れですね。
  しかし、こうしたテクノロジーを重視した時代に「アート+
  デザイン(芸術)」を加えた「STEAM」が注目されてき
  ています。さまざまな業界で革新的な取組を行うためには、
  科学だけではなく、人間の感情や感覚についても学ぶべきと
  いう流れが生まれてきたからです。高度な技術開発と、未だ
  不確実な要素を多くもつ人間についての研究が、これからま
  すます進められていくでしょう。  http://bit.ly/2fJym92
  ───────────────────────────

鈴木寛文部科学大臣補佐官.jpg
鈴木寛文部科学大臣補佐官
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2017年09月27日

●「日本の15歳の能力は極めて高い」(EJ第4613号)

 科学雑誌『ネイチャ−』によると、日本の科学成果の発表の水
準は低下しており、ここ10年間で他の科学先進国に大きく遅れ
をとっていることが明らかになっています。『ネイチャ−』は次
のようにそのことを伝えています。
─────────────────────────────
 ネイチャー・インデックスに収録されている高品質な科学論文
に占める日本からの論文の割合は、2012年から2016年に
かけて6%下落しました。中国の急速な成長の影響により、米国
などの科学先進国が占める割合は相対的に低下していますが、日
本からの論文発表は、絶対数も減少しています。
 ネイチャー・インデックスに収録されている高品質の自然科学
系学術ジャーナルに掲載された日本の著者による論文数は、過去
5年間で8・3%減少しています。   http://bit.ly/2xtuzVi
─────────────────────────────
 これは、科学教育、すなわちSTEMや基礎研究開発に関わる
国策の失敗によるものといえます。このままでは今後日本のノー
ベル賞受賞者の数は激減してしまう恐れがあります。しかし、日
本人の科学技術に関する資質、能力は非常に高いのです。
 2012年にOECDが行った「OECD生徒の学習到達度調
査」(PISA)では、日本は、読解力と科学的リテラシーでは
第1位、数学リテラシーでは第2位と、ずば抜けています。日本
の15歳はきわめて優秀であるといえます。
─────────────────────────────
 ◎PISA2012調査による国際比較/ベスト5
       数学リテラシー          読解力
   @韓国     554  @日本     538
   A日本     536  A韓国     536
   Bスイス    531  Bフィンランド 524
   Cオランダ   523  Cアイルランド 523
   Dエストニア  521  Dカナダ    523
   OECD平均  494          496
  ―――――――――――――――――――――――――
      科学的リテラシー
   @日本     547
   Aフィンランド 545
   Bエストニア  541
   C韓国     538
   Dポーランド  526
   OECD平均  501 ──成毛真著/SB新書375
 『AI時代の人生戦略/「STEAM」が最強の武器である』
─────────────────────────────
 しかし、この順位をみるさい注意すべきことがあります。中国
はOECD加盟国ではなく、主要パートナーであり、統計に入っ
ていないことです。台湾は中国の妨害にあってこの統計から外さ
れています。シンガポールはOECD加盟国ではありません。
 そこで、OECD平均値より上位の国・地域でベスト5をとっ
てみると、次のようになります。上位はほとんど中国(上海、香
港、台湾)に席巻されてしまいます。中国恐るべしです。ちなみ
に、数学リテラシーで日本は第7位(536)です。
─────────────────────────────
 ◎OECD平均値より上位の国・地域/ベスト5
       数学リテラシー          読解力
   @上海     613  @上海     570
   Aシンガポール 573  A香港     545
   B香港     561  Bシンガポール 542
   C台湾     560  C日本     538
   D韓国     554  D韓国     536
  ―――――――――――――――――――――――――
      科学的リテラシー
   @上海     580
   A香港     555
   Bシンガポール 551
   C日本     547
   Dフィンランド 545   ──成毛真著の前掲書より
─────────────────────────────
 この2012年の調査結果を見て、ショックを受けたのは、当
時のオバマ米大統領です。米国が上位に入っていないからです。
米国の順位は、数学リテラシーが36位、読解力が24位、科学
的リテラシーが28位とさんざんな結果です。
 これを受けて、オバマ大統領は、2012年11月に再選を果
たすと、CNNに次の寄稿をし、「コミュニティ・カレッジ」に
よるSTEM教育を強化したのです。
─────────────────────────────
 変革とは、どんな年代の人でも、良質な職に就くための技能と
教育を得られる国にすることだ。私たちは、銀行が数十年間にわ
たって学生口−ンに過重な金利を課してきた状況を改め、大学に
進学する数百万人の費用負担を軽減した。
 今後は高技術・高賃金の雇用が中国へ流れないよう、数学と科
学の教師を10万人採用し、コミュニティ・カレッジでは地域産
業界がまさに今必要としている技能の訓練を、200万人の労働
者に提供する。             ──オバマ米大統領
                 ──成毛真著の前掲書より
─────────────────────────────
 コミュニティ・カレッジは、職業訓練に重点を置いた2年制の
高等教育機関です。ここで、徹底的にSTEM教育を実施するの
です。日本でいえば、専門学校であり、ここを卒業して大学に行
くか、そのまま就職する人もいます。
 日本は米国よりはかなり上位にいるものの、中国などのアジア
勢のレベルは高く、日本はSTEM教育のために、大学入試制度
などの改革が必要です。 ──[次世代テクノロジー論/03]

≪画像および関連情報≫
 ●日本の科学研究の実力が急速に低下している
  ───────────────────────────
   2017年度版の「科学技術白書」(6月2日政府、閣議
  決定)によると、主要な科学論文誌に発表された論文のうち
  引用された件数の多い論文の国別順位で、日本はこの10年
  間で4位から10位に下がっており、基礎研究力の低下が著
  しいと指摘されている。
   すでに日本の基礎研究力の低下は議論されており、政府は
  4月に行われた総合科学技術・イノベーション会議(議長は
  安倍晋三首相)で名目GDP(国内総生産)600兆円の達
  成に向け、技術革新を推進するための研究開発への投資額を
  来年度から3000億円上積みする方針を固めた。
   生産性向上のためには科学技術のブレークスルーが必要と
  なるが、日本の財政を考えると大盤振る舞いできる状況には
  ない。第5期科学技術基本計画で示されている「(政府研究
  開発投資は)対GDP比の1%にすることを目指す」を中心
  に議論せざるをえないため、研究開発投資の金額を増やすた
  めにはGDPを増やす必要がある。これはつまり、「高い経
  済成長をするためには高い経済成長が必要である」と言って
  いることになり、とても苦しい状況だ。3月23日に英国の
  科学誌『ネイチャー』は「日本の科学成果発表の水準は低下
  しており、ここ10年間で他の科学先進国に後れを取ってい
  る」と発表した。         http://bit.ly/2wLFAUM
  ───────────────────────────

日本の科学技術関係費は伸びていない.jpg
日本の科学技術関係費は伸びていない
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2017年09月28日

●「サイン、コサインはいらないのか」(EJ第4614号)

 第16代から第18代(2004年〜2016年)の3期12
年にわたり、鹿児島県知事を務めた伊藤祐一郎氏というベテラン
知事がいます。この伊藤知事は、県の総合教育会議において、次
の発言をしたのです。2015年8月27日のことです。
─────────────────────────────
 高校で女子に(三角関数の)サイン、コサイン、タンジェント
を教えて何になるのか。それよりもう少し社会の事象とか植物の
花や草の名前を教えた方がいい。     ──伊藤祐一郎知事
─────────────────────────────
 これと同じようなことを発言した人がいます。作家の曽根綾子
氏です。2011年に次の発言をしています。
─────────────────────────────
 2次方程式を解かなくてもこれまで生きてこられた。2次方程
式などは社会へ出て何の役にも立たないので、このようなものは
追放すべきだ。               ──曽根綾子氏
─────────────────────────────
 伊藤祐一郎前知事の発言はともかくとして、曽根綾子氏の発言
には同意する人は多いのではないでしょうか。確かに、日常生活
において、サイン、コサイン、タンジェントは必須のものではな
いでしょう。
 しかし、成毛真氏は、これらの発言について、次のように反論
しています。
─────────────────────────────
 三角関数なかりせば、測量はもとよりテレビゲームもつくれな
い。二次方程式が解けなければ宇宙開発など夢のまた夢である。
それ以前に数学は、ものごとを理知的・論理的に考える力を養っ
てくれる。作家はともかく、感性で地方自治を行われたのでは、
たまったものではない。災害対応など、じつに不安になってしま
う。ともかく、三角関数も二次方程式もわからない人が、これか
ら急速に社会に浸透してくる人工知能(AI)やロボットを「使
う側」に回れるとはとても思えない。
               ──成毛真著/SB新書375
 『AI時代の人生戦略/「STEAM」が最強の武器である』
─────────────────────────────
 私は曽根綾子氏の発言には違和感を感じます。なぜなら、曽根
氏が作家であるからです。「文章を書く」ことを職業にしている
からです。文章を記述するのは論理であり、その論理は、数学の
学習を積み重ねることによって、効率よく築かれ、磨かれていく
のです。
 これについて、成毛真氏と、元文科相補佐官で東大教授の鈴木
寛氏は、次のようなやりとりをしています。
─────────────────────────────
成毛:それひとつとっても私大文系だからSTEMは無関係とは
   言えないということですね。数学についてはどうですか。
   微分積分は社会に出てから役に立たない、だから数学を一
   生懸命勉強する必要はないと言う人もいます。
鈴木:高校で習う数学は論理です。論理的でないと、自然科学は
   もちろん、人文科学も社会科学も理解し、語り、書くこと
   はできません。論理的でないと、普通の文章も書けないの
   です。           ──成毛真著の前掲書より
─────────────────────────────
 OECD生徒の学習到達調査(PISA)では、次の3つのリ
テラシーをチェックしますが、実は、3つとも文章力に密接に関
係しているのです。文章力というのは、あるものごとについて、
やさしく、わかりやすく文章で表現するスキルのことです。
─────────────────────────────
         1.数学的リテラシー
         2.     読解力
         3.科学的リテラシー
─────────────────────────────
 1の「数学的リテラシー」は、論理力を磨くのにきわめて効果
があります。数学はロジックであり、その答えは1つに絞ること
ができます。したがって、数学に強くなることは、論理に強くな
ることを意味します。
 2の「読解力」も同じです。何かの文章を読んで理解するとい
うことは、論理的にすじが通ることを意味するからです。「わか
る」というのはいわば到達点であり、「わからない」が出発点に
なります。出発点の「わからない」から「わかる」まで、論理の
すじがつながると、人は納得をうるのです。
 3の「科学的リテラシー」、自然科学を理解するには、強い論
理力が必要になります。歴史を学ぶときも、論理力が求められま
す。歴史的事実を丹念に多く収集し、それらのパーツを論理力に
組み立て、真実を探るのです。
 これらの1、2、3を身に付け、磨くには、文章力を高めるこ
とによって、ある程度それは得られます。慶応義塾大学がどんな
に受験者が減っても、文系学部の入試において、数学と小論文を
出題しているのはそのためです。論理性を高めるには、数学と論
述が必要だからです。
 日本の大学は、世界のランキングからみると、その順位は高く
はありません。2015年のランキングでは東京大学が21位、
京都大学が22位です。しかし、これを学科領域別に見ると、東
京大学はサイエンスでは9位、京都大学は18位とかなり上位に
きます。
 しかし、社会科学では、東京大学、京都大学とも、200位以
内に入っていないのです。これが順位を下げている原因です。文
系学部が足を引っ張っているのです。これは、論理性の問題であ
り、大学入試を改革することによって大きく改善することができ
ると思います。どのように大学入試を改革するべきかについては
明日のEJで論ずることにします。
            ──[次世代テクノロジー論/04]

≪画像および関連情報≫
 ●「このままではダメになる」日本へ
  ───────────────────────────
   東京大学や早稲田大学など、日本の難関大学に中国人留学
  生が押し寄せている。「グローバル化」を進めたい大学当局
  にとって歓迎すべき存在だが、喜んでばかりもいられない。
  国際的な地位が低下する日本の一流大学が、中国でのすさま
  じい受験戦争に敗れた学生たちの「敗者復活の場」と化して
  いる実態もあるからだ。
   「あのまま中国の大学に残っていたら自分の将来は閉ざさ
  れていたでしょう」。4月から早稲田大学の人間科学部に通
  う中国人留学生の女性(22)は静かな笑みを浮かべながら
  話し始めた。インタビューしたのは彼女が昨年まで通ってい
  た都内にある「予備校」の教室。かつて祖国での失意のとき
  とは違い、自信を取り戻した姿がそこにあった。
   中国・遼寧省出身の彼女が来日したのは2014年7月。
  本国ではそれまでは2年間、「レベルが低くて卒業しても就
  職できるかどうかわからないような大学に在籍していた」と
  自嘲気味に話す。高校時代の3年間は大学入試に備えて猛勉
  強に励んだ。朝7時から夜9時まで学校の教室と自習室で過
  ごし、自宅では夜12時まで勉強した。有名な大学に入らな
  いと就職できないかもしれないという恐怖感。そのストレス
  は半端ではなかったという。    http://bit.ly/2wPEZ4y
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成毛真氏.jpg
成毛 真氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月29日

●「日本は理数系人材をいかに作るか」(EJ第4615号)

 「科学に強い人材をつくる」には、大学入試制度を改革する必
要があります。既に見てきたように、日本人の15歳、すなわち
高校生は、国際的にみても、数学や科学に強い、きわめて優れた
素質を有していることはわかっています。それなのに、理数系に
弱い社会人が多くなっています。これは教育の問題、なかんずく
大学入試制度に原因があります。
 私立の進学校では、高校2年生の段階で、大学受験を見据えて
生徒を文系と理系に分けてしまうのです。ほとんどの大学の入試
では、文系には数学と理科の問題が出題されないからです。その
ため、文系志望の生徒は数学と理科の勉強をしなくなります。
 これでは、みすみす理系に強い生徒の才能までも摘み取ってし
まうことになります。数学と理科は、論理力を鍛えるためのもの
であり、文系にとっても必要な学科なのです。これについて既出
の鈴木寛氏は、次のように述べています。
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 文系であっても、入試のときに数学があった主に国立大の文系
学生と、数学がなかった、主に私立文系の学生との問では正答率
に大きな差が生じています。おそらく、狭き門を突破して難関私
大文系学部に合格した人のほとんどは、中学校の時は数学ができ
ていたはずです。
 通信簿で数学は「5」をもらっていた人が、少なくないはずで
す。そういう生徒が高校へ進学し、2年生になって私立文系を目
指したとたんに数学と理科に触れなくなってしまうのは、もった
いないと思います。もともとはできる人のはずなんです。
               ──成毛真著/SB新書375
 『AI時代の人生戦略/「STEAM」が最強の武器である』
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 大学入試を変えるには、いきなり制度を変えるのではなく、理
数系に強い人材を育てる仕組みを作る必要があります。鈴木寛氏
は、かつての民主党政権の文科省副大臣時代に、その仕組みをひ
とつ作っています。それが「科学の甲子園」です。それは現在で
も続いています。
 「科学の甲子園」とは何でしょうか。科学技術振興機構のウェ
ブサイトから、その狙いをご紹介します。
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 科学の甲子園は、高等学校等(中等教育学校後期課程、高等専
門学校を含む)の生徒チームを対象として、理科・数学・情報に
おける複数分野の競技を行う取り組みです。
 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)は、平成23年
度(2011年)より科学の甲子園を創設し、全国の科学好きな
高校生が集い、競い合い、活躍できる場を構築します。また、こ
のような場を創ることで、科学好きの裾野を広げるとともにトッ
プ層を伸ばすことを目指します。    http://bit.ly/2ysEHfY
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 「科学の甲子園」は、ある学校の高校生が、チーム単位で、理
科、数学、情報の競技を行うもので、全国高校野球選手権大会と
同じように、各都道府県の予選を勝ち抜いた学校が、全国大会を
戦うのです。この大会に優勝すると、「サイエンス・オリンピア
ド」という米国で開かれる大会に参加することができます。
 2012年に第1回大会が兵庫県立体育館において開催され、
以後、毎年行われています。第1回大会のベスト3は、次の高等
学校です。
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      第1位:  埼玉県立浦和高等学校
      第2位:  滋賀県立膳所高等学校
      第3位:筑波大学付属駒場高等学校
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 鈴木寛氏は、「科学の甲子園」では、どの高校が優勝するかも
重要ですが、このイベントにどのくらいの高校がチャレンジする
か、その裾野の広がりの方がもっと重要であるといっています。
なぜなら、変革を起こすには、「高校生17万人」という数が必
要だからです。17万人の根拠は何でしょうか。
 最近の話ですが、全国の高校のサッカー部員の数が、野球部員
の数を抜いたそうです。どちらもほぼ17万人ですが、サッカー
部員の数が少し上回ったそうです。今後、その差は開いていくも
のと思われます。
 既に日本の野球は、十分世界に通用するようになっています。
イチロー選手をはじめ、数多くのプロ野球の選手がメジャーリー
グで活躍していますし、WBC/ワールド・ベースボール・クラ
シックでも2回も優勝しています。それは、17万人の高校生の
野球人口が支えているのです。
 Jリーグが始まったのは1993年です。それから20年以上
かけて、少しずつサッカー人口が増えて、やっと高校のサッカー
部員の数が17万人に達し、野球部員の数を超えたのです。実際
に日本のサッカー選手も、まだ数は少ないものの、プレミアリー
グのチャンピオンチームで、レギュラーを務める選手が出てきて
います。高校のサッカー部員が17万人が超えたことがそういう
状況をもたらしているのです。
 「科学の甲子園」は、やっと5年を超えたばかりですが、現在
高校における科学部の部員は約5万人です。約6年で5倍です。
17万人にはまだほど遠い状況ですが、科学技術の進歩は、はる
かにこれを上回っているので、今後相当スピードを上げる必要が
あります。国としての本気の取り組みが求められています。
 その鍵を握るのが、国としてのSTEM教育の強化です。鈴木
寛氏によると、このSTEM教育の機運を盛り上げ、その普及を
加速させていくため、一定の実験設備などを備え、生徒が自分で
テーマを決めて課題研究ができる高校を「スーパーサイエンスハ
イスクール」(SSH)に指定する取り組みを始めています。現
在、そのSSHは200を超えており、この動きは今後加速する
といわれています。   ──[次世代テクノロジー論/05]

≪画像および関連情報≫
 ●STEM教育とは何か?
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   19世紀の産業革命以降、教育は近代国家に欠かせないも
  のでした。労働の担い手を生み出し、市民社会を形成するた
  めに必要だったからです。そこでの教育技法は「教師が生徒
  に教え込む」つまり「教師から始まる」教育でした。
   20世紀に入り、市民社会が成熟すると、違った教育技法
  が生まれました。「成長過程にある人間の自主性を認め、そ
  こを起点とする」ものでした。いわば「生徒から始める」教
  育です。市民社会がさらに高度化し、扱う情報が飛躍的に増
  大する中、後者の教育技法は常に不利な状況を強いられまし
  た。理由は時間。自ら学びとる手段を持たない生徒は必要な
  情報を手に入れるにも時間がかかりました。「知りたいとき
  に知りたいことをすぐに知る」ことができる手段は、当時は
  存在していませんでした。
   1950年代から60年代、第二次大戦を経て発展した情
  報処理技術は、コンピュータという新しい機械を生みだしま
  した。その頃は研究室に置かれ、一部の人間しかタッチでき
  ないものでしたが、1970年代、研究室を抜け出し、小型
  化。80年代から90年代にはパーソナルコンピュータ=パ
  ソコンとなって家庭に入り込み。さらにパソコン同士が繋が
  り、インターネットを生みました。21世紀「知りたいとき
  に知りたいことをすぐに知る」時代がやってきました。「生
  徒から始める」教育を推進できる環境が整ったのです。
                   http://bit.ly/2xC0SRK
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小学校でのプログラミング教育.jpg
小学校でのプログラミング教育
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