2017年08月22日

●「地下空間は基本設計前からの条件」(EJ第4588号)

 石原元知事は、築地市場の豊洲移転問題にはもともと関心は薄
かったものの、東京オリンピックの開催には強い意欲を持ってい
たのです。しかも、なぜか東京オリンピックの2016年開催に
は相当自信を持っていたようです。
 2009年2月6日、石原知事は「豊洲新市場整備方針」を決
定します。このときは「盛り土あり」の方針になっています。問
題なのは、この整備方針の巻末に記載されている豊洲新市場の開
場時期と環状2号線完成時期です。
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   ◎豊洲新市場開場時期及び整備スケジュール
    開場時期は平成26(2014)年12月
   ◎環状2号線完成スケジュール
    完成時期は平成28(2016)年 3月
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 環状2号線は、全長14キロの都道で、臨海部と都心を結ぶ大
動脈として機能させる予定の道路です。東京五輪では臨海部に選
手村を建築する予定のため、選手の移動にこの道路は不可欠にな
るのですが、この道路は築地市場が移転する前提で設計されてい
るのです。そのため石原知事は、豊洲新市場の開場時期をこの時
点で2014年12月と明記したのです。明らかに「2016年
東京五輪ありき」のスケジュールであるといえます。
 もうひとつ考慮すべきことがあります。2008年5月頃とい
えば、石原知事は自らの発案で設立した新銀行東京の経営が破綻
し、都が出資した1000億円を棄損、400億円の追加出資を
決めたことで、都議会や都民から厳しく批判されていた時期に当
たります。そういう時期に豊洲市場予定地の地下水から、環境基
準の4万3千倍のベンゼンが出て、石原知事にとって頭の痛い問
題が噴出した時期であったのです。
 そのため知事は、2008年7月に出された専門家会議の提言
──盛り土による市場整備にかかるコストのことを非常に気にし
ていたといいます。専門家会議の提言を実行すると、1000億
円ぐらいのコストかかるといわれていたからです。
 しかも、2009年には石原知事にとって計算外のことが2つ
も起きたのです。それは、2009年7月12日の都議選で「豊
洲市場への移転反対」を唱えていた民主党が自民党に勝利し、都
議会第1党になったことと、2009年10月2日にコペンハー
ゲンで開かれたIOC大会で、東京はオリンピックの開催地から
外れたことです。
 豊洲新市場の基本設計が「盛り土あり」ではじまったことは確
かです。しかし、2011年2月に基本設計プロポーザル(企画
提案型業者決定)で日建設計が採用されたときの基本設計には、
主要3棟の建物の地下には地下空間が描かれています。都が基本
設計に与えた条件のなかに、建物地下に「盛り土なし」の条件が
あったことになります。つまり、設計に当たって都が建物の下に
は地下空間を設けることを決めていたことは確かな事実です。
 小池知事の指示による「豊洲市場地下空間に関する調査特別チ
ーム」による「第2次自己検証調査報告書」によると、興味深い
ことがわかります。
 2012年5月30日の日建設計との打ち合わせで、都の担当
者は日建設計側に次の質問を行っているのです。
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 2012年5月16日に建物下の「盛り土なし」との指示を出
したが、以下の理由から、「盛り土あり」に変更は可能か。
            ──中澤誠/水谷和子/宇都宮健児著
           『築地移転の闇をひらく』/大月書店刊
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 「以下の理由」とは何かというと、「竣工後10年以降は、地
下水のポンプアップを中止する可能性があり、その場合、AP4
メートル程度まで地下水が上昇する可能性があるが、建物地下が
地下水のプールになるのを避けたい」というのが理由です。
 つまり、市場施設の建物下の「盛り土なし」で設計を指示して
おきながら、後で不安になり、変更を申し入れているのです。し
かし、日建設計は次のように変更を拒否しています。
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 これに対し日建設計は、「すでに6街区は図面がFIXし、社
内では実施設計を描き始め、後戻りできない状況である。さらに
埋土分の工期延長の懸念があることから、埋土なしの与条件で進
めていきたい」と回答しています。基本設計に着手した11年3
月から、盛り土なしは与条件として都から示されてきたことでし
たから、設計側から言えば今さらの感がある話だったのかもしれ
ません。設計の納期も全体の工期も待ったなしの状況で進められ
ていたことが、記録からも察することができます。
 東京都はその後、5、7街区の建物下の埋土についても同様の
要望を出していますが、その後、盛り土ありへの変更が実現され
ることはなく、全域での盛り土なしが確定しました。
      ──中澤誠/水谷和子/宇都宮健児著の前掲書より
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 「建物地下の空間がプールになるのを避けたい」──まさに現
在の状況を予測しています。小池都政になって地下空間が発見さ
れたとき、そこは地下水のプールになっていたのです。それは何
を意味するかというと、地下水管理システムが機能しないことの
証明であるからです。つまり、地下水の水位のコントロールがほ
ぼ不可能であることはあらかじめ予測されていたのです。
 それではなぜ、「盛り土あり」に設計を戻そうとしたのでしょ
うか。それは、盛り土があれば、ある程度の地下水は覆い隠すこ
とができるからです。つまり、豊洲の土地は、そんな難しいこと
をクリアしない限り、使える土地ではなく、まして生鮮食品を扱
う中央卸売市場として全く不適の土地なのです。建物が完成した
現在でも、その状況は何も変わっていないのです。
              ──[中央卸売市場論/035]

≪画像および関連情報≫
 ●卸売市場を建設することじたいが無理筋の計画
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   まずは、これまでの経緯を簡単に整理しておこう。
  報道・世論が沸騰する真っ只中、東京都の内部聴聞で地下空
  間を設けた理由について問われた当時の関係職員たちは、そ
  れが「汚染再発時の作業スペースだった」と証言した。次い
  で、小池都知事の采配で9月30日に公表された「自己検証
  報告書」には、地下空間の必要性を「技術会議が独自に提案
  した」と記されていた。
   ところが、10月7日に開かれた都議会の経済・港湾委員
  会に呼ばれた岸本良一中央卸売市場長は、「地下空間の必要
  性を提示したのは技術会議ではなく都職員の誤りだった」と
  謝罪した。複数回にわたる技術会議の全体を通して「空間」
  が議論されたため「技術会議の提案」と記録されてしまった
  のだという。
   10月13日になって、事態はさらに急転する。
  基本設計の発注先候補へのヒアリングを目的として開かれた
  「プロポーザル技術審査委員会・第3回」(2011年2月
  4日)の議事録で、都はそれまで黒塗りにしてきた部分を開
  示した。すでに報じられたように、そこには応募企業「日建
  設計」の主任技術者が「盛り土ではなく地下空間を」と提案
  する発言記録があったのである。  ──藤野幸太郎氏論文
                   http://bit.ly/2uRpgkf
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地下水のプール状態の豊洲新市場地下空間.jpg
地下水のプール状態の豊洲新市場地下空間
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中央卸売市場論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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