2017年08月21日

●「専門家会議の提言を検証してみる」(EJ第4587号)

 石原都政のときの豊洲関連の土壌汚染隠しは、正しいデータを
提出しなければならない専門家会議にも及んでいます。それらは
小池都政になってからの情報公開──「海苔弁はがし」によって
すべて明らかになっています。メディアもそのことはわかってい
るはずですが、さらに自民党の支持率を下げることにつながるの
で、無視しているようにみえます。
 きわめてテクニカルな話になりますが、どのようなデータを隠
したのか、そしてその隠したことが、どのような結果をもたらし
ているのかについて、知っていただきたいと思います。
 土対法関連の専門用語に「難透水層」というものがあります。
地下水を通しにくいか、通しやすいかという意味で使われる地層
のことです。地下水を通しやすい「透水層」に対して、粘土など
のように水を通しにくい層を「難透水層」といいます。完全に水
を通さない層は「非透水層」と呼ばれます。
 これに関して「透水係数」という言葉があります。これは、土
の中を水が移動する速度をあらわす言葉です。難透水層が多いと
透水係数の数値は小さくなり、汚染物質が上昇してこないことの
証になります。そのため、土対法では、土の下に連続した難透水
層がないか少ない、つまり透水係数が高いと判断された場合は、
深さ10メートルまでの汚染調査が求めています。したがって、
非常に経費がかかることになります。
 一級建築士の水谷和子氏は、東京都の役人がこの透水係数の数
値を誤魔化していたといっています。これも小池知事の「海苔弁
はがし」で明らかになったのです。水谷和子氏は次のように述べ
ています。
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 私がこの問題に取り組み始めたのは、専門家会議の半ばころで
す。友人に勧められて参加した築地見学会で、案内してくれた仲
卸のまぐろ屋さんと名刺交換をしたのがきっかけです。
 専門家会議の論争が気になり、初めて開示請求したのが地質調
査報告書でした。驚くことに、そこに書かれていた透水係数が専
門家会議で示されていたものとは違っていたのです。都は数値を
10倍安全側に書き換えて専門家会議に報告していました。都は
後日それを「誤記」としてホームページ上に訂正文を載せたので
すが、そのときは、すでに専門家会議は終了し、新たに技術会議
が開かれていました。都の虚偽報告が調査深度決定に及ぼした影
響は大きかったと思います。報告書の前提が変わるほどだったは
ずです。                  ──水谷和子氏
            ──中澤誠/水谷和子/宇都宮健児著
           『築地移転の闇をひらく』/大月書店刊
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 透水係数を10倍改竄しているということは、難透水層がない
のにあったといっているのに等しいのです。そうであるとすると
難透水層があるという前提で構築された専門家会議の土壌汚染対
策をきちんとやっても、汚染を防ぐことは困難であるということ
を意味します。まして、その肝心な盛り土がなかったのですから
土壌汚染対策にはなっていないということです。
 そこで、専門家会議の提言を少し詳しく以下に検証します。豊
洲新市場の地下構造図を添付ファイルにしてあるので、それを参
照しながら説明します。ここで「AP」について説明する必要が
あります。これは、土木関係用語であり、「高さ」を示す数値で
す。「AP」とは東京都中央区新川にある霊岸島水位観測所の最
低水位をもって定められています。
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    TP:トウキョウ・ペイル/東京湾の平均海面
    AP: アラカワ・ペイル/荒川の工事基準面
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 図のAP+2メートルには砕石層があります。それより以下に
ついては東京都は何もしていないので、そこには高濃度の汚染土
壌が残されています。そのため、砕石層を含め4・5メートルの
盛り土をして、汚染土壌が上昇してくるのを防いでいるのです。
確かに盛り土は行われているのですが、肝心の市場建物の下の盛
り土は行われておらず、地下空間になっています。
 問題は地下水の水位です。満潮時の海水面がAP+2メートル
です。しかし、台風などで大雨が降ったりすると、一挙に地下水
の水位が上昇し、砕石層よりも上に上がってきます。そうすると
本来きれいなはずの盛り土は汚染されてしまいます。
 しかし、ベンゼンなどの揮発性のガスについては盛り土によっ
て防ぐことができます。しかし、市場建物の地下は空間ですから
地下空間にはガスが充満し、いろいろな隙間から建物内部に侵入
してきます。これは防ぐことはできません。
 そのため、地下水管理システムが必要になったのです。この地
下水管理システムによって、地下水の水位をAP+1・8メート
ル以下に保つことができれば、満潮時はもちろん、増水時でも砕
石層よりも上部に上がってこないようにできるというのが専門家
会議の提言なのです。しかし、既出の水谷和子氏は、次のように
反論しています。
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 地下水管理システムが本格作動したのは2016年10月17
日と言われています。建物外にある観測井戸の5週間分の地下水
位を見てみると、低くて砕石層の上端AP2・5メートル前後、
高くてAP4・5メートル付近にあります。専門家会議の管理水
位AP2メートルまで下がった記録はなく、また技術会議の提言
した日常管理水位AP1・8メートルに至ってはもちろん1度も
記録したことはありません。満潮時の海水面がAP2メートル付
近ですから、AP1・8メートルで日常管理することはそもそも
物理的に難しく、机上の空論であったのではないかと思います。
      ──中澤誠/水谷和子/宇都宮健児著の前掲書より
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              ──[中央卸売市場論/034]

≪画像および関連情報≫
 ●盛り土/地下空間/汚染物質――豊洲市場問題とは何か
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   2016年11月7日に築地から移転されるはずだった豊
  洲市場。汚染物質に対する安全性の検証の必要性から小池百
  合子都知事の移転延期決定後、「盛り土」「地下空間」など
  計画と異なる工事の実態が明るみになり、小池都知事の判断
  が注目を集めています。
   見えにくくなった豊洲市場問題の論点を建築という観点か
  ら、若山滋氏(建築家・名古屋工業大学名誉教授)が整理し
  ます。トランプ氏とクリントン氏の選挙戦は、嫌われ者どう
  し、史上最悪の大統領戦と言われ、アメリカを二分する接戦
  を演じたのだが、小池都知事の選挙戦は圧勝であった。結局
  日本でもアメリカでも、人々は「変化」を選択したのであり
  その余震がまだ続いている。
   圧勝の余勢を買って、新知事が就任後最初に問題としたの
  が、築地市場の豊洲移転である。いくつかの論点が浮かび上
  がったが、センセーショナルに報じられたのは盛り土問題で
  あった。今更、という印象もあるが「あれは一体何だったの
  か、建築の専門家として説明してほしい」という声も強いの
  で、正直な印象を述べてみたい。この話を聞いて、初めは何
  が問題なのかよく理解できなかった。すでに竣工した建築の
  下に、しかるべき盛り土が行なわれていない、というが、わ
  れわれの頭の中には、その程度の土は掘り返して工事するも
  のという考えがある。       http://bit.ly/2wlkwTx
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豊洲新市場の地下構造.jpg
豊洲新市場の地下構造
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中央卸売市場論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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