2017年07月06日

●「なぜ、築地市場は扇型デザインか」(EJ第4557号)

 市場の機能を知るために、市場を構成する人についてさらに詳
しく述べます。卸売業者と仲卸業者に3の「買出人」を加える必
要があります。中央卸売市場は、大別するとこれら3種類の人間
で構成されています。
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        1.卸売業者──元卸
        2.仲卸業者──仲卸
        3.     買出人
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 3の「買出人」とは、魚屋などの小売商、寿司屋、飲食店など
自分の店で売る商品や料理の材料を、市場内の仲卸業者の店に仕
入れにくる人たちのことです。
 元卸は昔の問屋さんのことで、産地の魚介を自分の資本力で集
めて市場に持ってくるのが仕事です。築地市場では、元卸は水産
で7社あり、東証第1部上場を含む大企業です。
 この元卸と密接につながっているのが仲卸です。仲卸は、数は
多いものの、そのほとんどは中小企業か零細企業です。仲卸の重
要な仕事は「セリ(競り)」です。セリは、元卸の持ち込んだ魚
のなかから、良い魚を選んで値段をつける制度です。これを毎日
繰り返している仲卸は、自然に元卸の持ち込んだ魚の質を見分け
る目利き力が備わってきます。これがいわゆる「築地ブランド」
を作り上げるのです。
 その仲卸の目利きを信用して、買出人が市場内の仲卸の店に魚
を買いに来るのです。仲卸から見れば、買出人の向こうには消費
者が広がっているわけです。このように、仲卸は、元卸と買出人
の中間に入って働くことから、仲卸が市場をダイナミックに動か
す存在になっています。
 問題は、市場の設計が、元卸、仲卸、買出人の動きにマッチし
ているかどうかです。日本橋魚河岸はその点かなり問題があるの
ではないかと、人類学者で思想家でもある中沢新一氏は、次のよ
うに述べています。
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 日本橋魚河岸時代の店舗の配置図などを見てみると、問屋(元
卸)と仲買とが混在しているので、荷物を運搬する時、動線がも
のすごく混乱したのではないかと想像されます。いまのターレの
動きよりも凄いことが起きていたのではないか。──中沢新一氏
「天才的な築地市場」/『現代思想』2017年7月臨時増刊号
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 その点、築地市場はきわめて理想的にできているといえます。
それは、300年を超える日本橋魚河岸での仕事の伝承を踏まえ
て、築地市場の設計技師たちと市場関係者による共同作業で構築
され、とくに仲卸にとって最適な仕事場として作り上げられてい
るからです。
 これについて、実際に仲卸をされている中澤誠氏に中沢新一氏
がインタビューする『現代思想』の企画において、中澤誠氏は、
次のように述べています。
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──築地市場の持つもう一つの「天才性」は、中澤さんも指摘さ
れている、あの扇型の構造ではないでしょうか。
中澤:あの猪瀬さんがこの扇型の悪口を言うわけです、移転推進
を言っている人が。これは列車の時代のレイアウトで、いまの時
代には適していないとやたら強調されています。これは言い掛か
りもいいところで、長い貨物列車を入れるために扇型にしたのは
事実ですが、貨物列車と今のトラックを比べたら貨物列車のほう
がずっと大きいんですから、そこにトラックが入れないと批判す
るのは、詭弁もいいところです。
 卸が全国から荷物を集めてくる。扇型の一番外側に、卸の売り
場がずうっと並んでいる。その内側に仲卸がびっしりと並んでい
る。卸と仲卸の間は、わずか何歩という距離。五、六で、卸と仲
卸が密着してくっついている。        ──中沢新一氏
          「天才的な築地市場」/(インタヴュー)
           『現代思想』2017年7月臨時増刊号
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 中澤誠氏のいうように、築地市場の扇型のデザインは荷物の運
搬に当初鉄道を利用したことによるものですが、現在ではトラッ
クで輸送が行われています。遠洋漁業の発達によって築地に集ま
る魚は多様化され、さらに冷凍技術の発達によって、輸送手段も
大きく進歩しているのです。
 実は、扇型のデザインは、元卸、仲卸、買取人の配置にも重要
な意味があるのです。扇の一番外側には元卸の店舗が並んでおり
外からトラックで運び込まれた荷物はここに下ろされます。
 そして、それらの荷物はセリ場に運ばれ、そこでセリが行われ
るのです。仲卸はそのセリに参加し、自分の目利きで選んだ魚を
扇の中央部に展開している自分の店舗に運び、販売できるよう魚
に必要な処理を行うのです。
 その仲卸の店に買出人が現れ、仲卸の目利きで確保された魚を
購入し、その荷物を扇型の内側に作られた「潮待茶屋」と呼ぶ発
送所から、トラックに乗せて発送します。「潮待茶屋」とは、仲
卸から荷を各地に配送する場所のことです。
 この扇型の外側から内側への流れにそって、魚類の荷の流れは
きちんと整序され、くるくると機敏に動くターレがその流れを駆
動させていくのです。一見すると、きわめてゴチャゴチャしてい
るようで、業務が非常に機能的、効率的に行われているのではな
いかということです。それは、長く日本橋魚河岸の時代から、元
卸と仲卸、そして買取人の間で、それぞれの動きにマッチするよ
うに築地市場が作られているからです。
 ここで考えるべきことがあります。それは、築地市場は本当は
誰も気がついていないだけで、とてつもなく素晴らしいものでは
ないかということです。しかし、それは豊洲市場にはどこを探し
てもないのてです。     ──[中央卸売市場論/004]

≪画像および関連情報≫
 ●そもそも卸売市場の役割とは?
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   2016年11月7日に開場予定だった築地市場は、小池
  百合子都知事の鶴の一声によって延期されることになりまし
  た。その後、新たな移転地として整備されていた豊洲市場は
  当初の説明とは異なる土壌汚染対策がなされていたことが発
  覚。小池都知事が緊急記者会見を開くなど、先行きの不透明
  感は増しています。
   紛糾する築地市場の移転問題ですが、翻って私たち消費者
  にとっても築地市場は、“食”という大きな問題でもありま
  す。築地市場は、中央卸売市場と呼ばれる“食”にとって重
  要な場所になります。今般、食品流通のあり方も大きく変化
  するなか、卸売市場はどんな機能を果たしているのでしょう
  か?築地市場の移転計画が浮上したのは、今から30年以上
  も前に遡ります。当時、築地市場の水産物取扱量は年々増加
  していました。そうした中、市場が手狭になったこと、物流
  が鉄道輸送からトラック輸送へとシフトして市場の構造が時
  代に合わなくなっていたこと、老朽化などを理由に築地市場
  を閉鎖と市場の移転計画が検討されていたのです。今般、話
  題になっている築地の移転計画は、このときから始まってい
  ると言っても過言ではありません。 http://bit.ly/2uhLTdS
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築地市場の扇型デザイン.jpg
築地市場の扇型デザイン
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 中央卸売市場論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする