2017年06月06日

●「ドットとピケティが論ずる中国論」(EJ第4535号)

 エマニュエル・トッドという人がいます。フランス国立人口統
計学研究所(INED)の研究員を務める1951年生まれの歴
史人口学者です。次の2つの著書で、ソ連邦の崩壊とその後の米
国の衰退を予想しています。
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  『最後の転落』(1976) ・・・・ ソ連邦の崩壊
   『帝国以後』(2002) ・・・・  米国の衰退
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 エマニュエル・トッド氏は、ソ連邦の乳児死亡率の高さに注目
し、「ソ連邦は崩壊する」と予想したのです。当時は米ソ冷戦の
最中であり、ソ連邦の政治体制は盤石に見えたので、崩壊など誰
も信用しなかったのです。しかし、1991年にソ連邦はトッド
氏の予想通りに崩壊したのです。
 そのエマニュエル・トッド氏は、中国をどう見ているのでしょ
うか。彼の中国に対する予測はきわめて悲観的なのです。
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 私は中国については、非常に悲観的だ。ほとんどの歴史人口学
者はそうだと思う。その人口が膨大であるのに対し、出生率が極
端に低いという問題を抱えている。中国は全員が豊かになる前に
高齢化社会に突入する。
 他方、社会保障制度が未整備で、男の子を選択するための偏っ
た人工中絶が行われている結果、男女比率のバランスが取れてい
ない。経済については、膨大な輸出能力を持っている。しかし、
私はこの国が自分で運命を操れる怪物であるとは思わない。共産
党のビートルズ(成功した世界的スター)ではなく、西側が経済
成長を実現するための輸出基地と言える。利益率を上げるために
中国の安い労働力を使うことは西側にとって自然な決定だった。
 現状の中国経済は設備投資比率がGDPの40%、50%に達
している。それは、経済バランスから見て異様であり、スターリ
ン時代の旧ソ連がそうであったように、経済が非効率であること
を示している。           http://nkbp.jp/1hFYFt8
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 さすが人口歴史学者らしい分析です。衝撃的なのは「社会保障
制度が未整備で、男の子を選択するための偏った人工中絶が行わ
れている結果、男女比率のバランスが取れていない」という指摘
です。どのくらい男女のバランスが悪いのか国連の調査によると
次のようになっています。
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 世界の平均 ・・・ 女子の出生100/男子の出生105
 中国の場合 ・・・ 女子の出生100/男子の出生117
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 女子の出生100に対して、男子の出生が107を超えると不
均衡とされるので、「117」という数字がいかに異常であるか
わかると思います。
 これほどの差があるということは、女子を妊娠したことがわか
ると、選択的に堕胎を行っていたか、出生しても当局に申告して
いないかのどちらかであるということです。これは、中国が前近
代的な父権主義社会であることを示しています。
 ドット氏によると、伝統的な中国社会の長所は、強い父権の下
における平等主義にあるといいます。とくに兄弟間の平等性が重
視されてきたのです。社会にこういう平等主義があったからこそ
中国では共産主義革命が起きたのです。実際に毛沢東は「すべて
の人は平等であるべきだ」といっています。そのとき中国は貧し
い国だったのですが、人々はきっと幸福だったはずです。
 しかし、ケ小平は中国に改革開放政策を取り入れたのです。そ
の結果、中国は急速に経済成長を始めたのです。しかし、中国は
平等主義の社会であり、経済成長によって、不平等や貧富の格差
がすさまじい勢いで広がると、潜在的な政治的不安定度が高くな
り、社会に不満が渦巻くようになったのです。
 中国政府は、この人民の不満をナショナリズムを高揚させるこ
とで外に向けようとします。それが反日政策・反日教育になった
のです。これはきわめて危険なことです。中国としてはそうせざ
るを得ないところに追い込まれたといえます。
 フランスの経済学者であるトマ・ピケティ氏は、これについて
日本と比較し次のように述べています。
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 日本は経済成長の過程で格差が解消されていきましたが、中国
は経済が発展すればするほど格差が広がっています。中国は社会
主義の国であるはずなのに、大部分の資本が一握りの人に独占さ
れています。このことを私は理解できない。
       ──トマ・ピケティ氏 http://nkbp.jp/2qK39X3
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 ここで素朴な疑問が生じます。どうして中国では経済成長する
につれて格差が拡大してしまったのでしょうか。トマ・ピケティ
氏は、それは企業や政府の間にはびこる汚職・賄賂にあると指摘
しています。その意味で、習政権がいま取り組んでいる反腐敗運
動は、それが正しく行われれば富の不平等な分配を是正できると
いい、次のように述べています。
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 そもそも中国ではなぜここまで汚職が蔓延するのでしょうか。
それは、個人の収入をきちんと管理する制度がないからです。賄
賂を受け取っても長期にわたって誰にも気が付かれないので、通
常ではあり得ない金額の蓄財に走る人もいます。だからこそ、反
腐敗運動は格差是正に非常に効果があるのです。
       ──トマ・ピケティ氏 http://nkbp.jp/2qK39X3
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 しかし、習近平主席は反腐敗運動を自らの権力拡張に使おうと
しており、腐敗は依然として減っていないのです。そのため軍拡
を行い、ますますナショナリズムを高めるという悪循環に陥って
いるのです。       ──[米中戦争の可能性/105]

≪画像および関連情報≫
 ●世界のこれから。2023年、中国が滅びる!?
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  「外婚制共同体家族国家は必ずどこかの時点で崩壊する
   これは、いま、世界で注目を集めているフランスの人類学
  者エマニュエル・トッドの家類型論から導き出される結論で
  す。トッドは、「家族システム」という考え方において、家
  族をその類似点と相違点から、大きく4つの類型に整理して
  考えています。その一つが、外婚制共同体家族国家です。特
  徴としては、「男子は長男、次男以下の区別なく、結婚後も
  両親と同居。そのため、かなりの大家族となる。父親の権威
  は強く、兄弟たちは結婚後もその権威に従う。ただし、父親
  の死後は、財産は完全に兄弟同士で平等に分割され、兄弟は
  このときにそれぞれ独立した家を構える」などがあげられま
  す。ロシアや中国がこのタイプとなります。
   ソ連の崩壊を、トッドは1976年の著書『最後の転落』
  で予言し、実際にソ連は1991年に崩壊しました。では、
  80年代までのソ連に匹敵する共産主義大国、現在の中国は
  どうなのか。やはり崩壊するのか。
   慎重なトッドは、断言はしていません。しかし、「カタス
  トロフィーのシナリオも考えられる」という答えは出してい
  ます。その理由の一つは、家族類型に内在する危機です。外
  婚制共同体家族社会では、カリスマ的な父親が、権力者と権
  威者を兼ねた独裁者として君臨する一方、兄弟=国民が横並
  びに並んで従います。これは縦型の権威主義と、横型の平等
  主義を二つ合わせたものですが、この二つはうまく折り合う
  バランスを見つけるのが非常に難しく、常に、構造的な危機
  を内包しています。       http://exci.to/2qQFFyA
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エマニュエル・ドット/トマ・ピケティ.jpg
エマニュエル・ドット/トマ・ピケティ
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | TrackBack(0) | 米中戦争の可能性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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