2017年05月29日

●「独裁国を民主化させるキーワード」(EJ第4529号)

 米国による大規模な経済的関与の恩恵を受けながら、中国はか
えって国家の独裁性を強め、経済的利益の多くを軍事力強化に注
ぎ込み、現在アジア全般にわたって覇権を強めつつあります。ど
うしてこうなってしまったのでしょうか。
 クリントン元大統領は、中国に相応の市場開放を確約させるこ
となく、米国が市場を大幅に開放すれば、経済的に大きなダメー
ジを受けることは最初からわかっていたのです。中国のWTO加
盟を認めることはそれを意味しているのです。
 WTOに加盟すれば貿易は増大する。そうなれば中国は民主主
義国へと変化せざるを得ない──クリントン元大統領はそのよう
に考えたのです。確かに世界の人口の5分の1を擁する巨大な市
場が開かれれば、米国にも大きな利益がもたらされます。そして
中国が民主国家になれば、合わせて平和がもたらされるに違いな
いと考えたのです。
 しかし、中国は、あらゆる機会をとらえて自由貿易システムを
操作し、それによって利益を最大化することによって、自国経済
のみを発展させたのです。そして、米国経済に深刻なダメージを
与えたのです。「経済的関与が民主化と平和を促進する」という
考え方は、中国には通じなかったのです。
 「経済的関与が民主化と平和を促進する」──この主張の論拠
について、ピーター・ナヴァロ氏は、「USA★エンゲージ」の
ウェブサイトを見ることを推奨しています。この「USA★エン
ゲージ」自体については後で述べることにし、最初にその主張を
紹介することにします。キーワードは次の3つです。
─────────────────────────────
      1.成長する中間層の有する変革力
      2.第三者組織の数と種類と影響力
      3.情報流入量の増大とそのパワー
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 第1は「成長する中間層の有する変革力」です。
 これについて、「USA★エンゲージ」は次のように主張して
います。
─────────────────────────────
 市場経済の発展は、教育の普及、社会の外界への開放、独立し
た中間層の発達など、社会に変化をもたらし、それが独裁的支配
への逆風になる。   ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
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 経済が発展すると、中間層が発生し、社会のなかで一定の影響
力を持つようになります。これらの中間層は、一般論として、政
治的自由、法による支配、腐敗の一掃などを要求するようになり
政府は中間層に支持を求めざるを得なくなって、国は民主化の道
を進むことになるというのです。
 第2は「第三者組織の数と種類と影響力」です。これについて
「USA★エンゲージ」は次のように主張しています。
─────────────────────────────
 経済発展は国家と社会との関係をも変える傾向がある。経済が
発展するにつれて、国家をチェックし、政治参加の幅を広げる第
三者組織の数と種類が増え、就業や富の蓄積の機会に対する国家
管理や腐敗や情実は減少する傾向がある。
  シーモア・マーティン・リプセットスタンフォード大学教授
           ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
 経済が発展し、中間層が豊かになり、生活が安定化してくると
第三者組織が増加し、政治参加を求めるようになります。そして
環境保護、人権、言論の自由などのチェックを強めるようになり
国は民主化に向ってさらに前進します。
 第3は「情報流入量の増大とそのパワー」です。これについて
「USA★エンゲージ」は次のように主張しています。
─────────────────────────────
 経済が外に開かれれば、情報の流入量は飛躍的に増大する。イ
ンターネット、テレビ、書籍、新聞、コピー機、外国の雑誌、あ
りとあらゆる形態の大衆的娯楽及び知的見解が流入しい始め、民
主主義、人権、法による支配といった思想を広めていく。
        ヘンリー・ローウェンスタンフォード大学教授
           ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
 経済活動が活発になると、必然的に外部からの情報流入量が多
くなります。まして現代は情報社会であり、あらゆる情報通信手
段があり、外部からの情報流入を止めることは困難です。
 ピーター・ナヴァロ氏は、「USA★エンゲージ」について次
のように説明しています。
─────────────────────────────
 「農業団体とメーカーの幅広い連合」と自称する団体で、その
メンバーにはアップル、ボーイング、キャタピラー、コナグラ、
ユニオン・カーバイド、ウェステングハウス、ゼロックスなどそ
うそうたる米国の多国籍企業が名を連ねている」とあります。
                   http://bit.ly/2r7u4yY
─────────────────────────────
 「経済的関与が民主化と平和を促進する」という主張は、こう
した多国籍企業にプラスの結果がもたらすのです。確かに多国籍
企業の立場に立つと、独裁国家、とくに中国は一大市場であると
いえます。そこでは、労働力のコストは安く、税負担を劇的に軽
減できることや、厳しい環境保護規定や安全規定も存在しないの
で、移すべき生産拠点としては絶好の環境なのです。
 しかし、中国は実にしたたかだったのです。中間層とは取引を
して沈黙させ、第三者組織を監視する機関を作り、情報流入につ
いては5万人にも及ぶ「サイバーコップ」軍団を動員して都合の
悪い情報は封じ込めているのです。そこには絶対に民主化などし
ない意思を感じます。   ──[米中戦争の可能性/099]

≪画像および関連情報≫
 ●日本を不幸にする中国の民主化/田中宇氏
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   オーストラリアの軍隊系のシンクタンクが「中国が民主化
  すると、大衆扇動型の指導者が出てきて、反日・反欧米感情
  やナショナリズムを扇動する傾向が強まって、何をしでかす
  か分からない国に変質する恐れがある。豪州やアジア諸国に
  とっては、今の共産党独裁体制の中国の方が、国家としての
  行動パターンが分かりやすいので良い」とする分析書を発表
  した。
   オーストラリア戦略政策研究所が発表したこの分析書によ
  ると、中国経済の発展は輸出が基盤であり、世界との関係を
  悪化させることは自国経済を自滅させるので、中国政府がす
  すんで海外と敵対する政策を採ることはあり得ない。だが、
  今後の民主化によって国内政治が不安定になった場合、どこ
  か外国との敵対関係を煽り、国民のナショナリズムを扇動す
  ることで、指導力を維持しようとする政治家が現れる可能性
  がある、と分析書は予測している。
   私も、この分析書の見方には賛同する。中国に限らず、ロ
  シアやイラクなど世界の多民族国家の多くは、リベラルな民
  主主義をやろうとすると、矛盾する各派の主張に収拾をつけ
  られず、国内が混乱する。特に中国は、表向きは「漢民族が
  国民の9割」とされているものの漢民族の地域でも100キ
  ロも移動すれば話し言葉が変わるような多様性の強い社会で
  あり、単一国家として維持できているのが不思議なぐらいで
  ある。              http://bit.ly/2rIGXAf
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クリントン元米大統領.jpg
クリントン元米大統領
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(7) | TrackBack(0) | 米中戦争の可能性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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