2017年05月16日

●「突如発令された住宅の購入制限令」(EJ第4520号)

 「金九銀十」で住宅マンションブームが盛り上がっていた20
16年9月25日(日)のことです。南京市人民政府が、ホーム
ページ上に次の通達をアップしたのです。南京市は二線都市の筆
頭の820万都市です。
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◎南京市の不動産市場のさらなるコントロールのための主要地区
 の不動産購入制限措置に関する通知
 1.すでに1軒の住宅を所有している南京市の非戸籍保持者
   家庭の不動産購入(新築及び中古物件)を当分の間禁止
   する。
 2.すでに2軒以上所有している南京市の戸籍保有者家庭の
   新築不動産購入を当分の間禁止する。
                  ──近藤大介著/講談社
     『活中論/巨大化&混迷化の中国と日本のチャンス』
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 突然の通知で、しかも明日(26日)から実施するというので
す。明日から実施するなら、今日買ってしまえということで、市
内のマンションセンターに南京市民が殺到したのです。時期が時
期であり、多くの市民がマンション購入を考えていたのに、この
ような通達を突然ホームペー上で通告し、しかも明日から実施す
るというのは乱暴な話ですが、中国ではこういうことはよく起き
ることなのです。
 この通知の効果で、9月25日だけで、1604軒のマンショ
ンが売れたのです。本当は買う人がもっと多かったのですが、応
対するマンション販売スタッフの人数が足りなかったのです。そ
れに加えて南京政府は、10月5日にさらに詳細なマンション購
入制限令を出し、購入に強いブレーキをかけたのです。
 この南京市のマンション購入制限令は、燎原の火のごとく全国
各都市に広がったのです。制限令の内容はさまざまですが、頭金
の大幅引き上げが多く、それも細かな条件によって頭金は販売価
格の70%程度が標準になったのです。2016年の初めには、
頭金ゼロでも購入できた住宅が秋には頭金が販売価格の70%以
上にハネ上がってしまったのです。
 その結果、非戸籍保有者が締め出されることになったのです。
これによって彼らは、自分が住む住宅を手に入れることが困難に
なったといえます。なぜなら、頭金の割合が増えても困らないの
は、富裕層だけということになるからです。彼らは、自らが住む
ための住宅ではなく投機用の住宅を多く手に入れ、それを売って
ますます豊かになっていくのです。深刻な格差の拡大です。
 これらの住宅購入制限令で不思議なことは、これだけ大きな影
響を及ぼす政策であるのに、通達は中央官庁の国務院ではなく、
地方政府(地方自治体)が発令していることです。国務院には住
房和城郷建設部という専門官庁があるにもかかわらずです。
 しかし、10月5日にこの専門官庁のホームページには、新華
社通信上に掲載された「権威専家」というネームで書かれている
次の記事を転載したのです。
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 多くの都市で行った不動産市場のコントロール政策は投資と投
機の需要を抑制するのが目的だった。住宅価格があまりに急激に
上昇するのを抑止し、不動産市場を安定化させようとしたのだ。
日々刻々状況が変わる不動産市場に対して、市場を安定化させコ
ントロールしていくことに対して、引き続き細かな指導をし都市
政策に結びつけていく。            ──権威専家
                ──近藤大介著の前掲書より
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 この「権威専家」とは何者でしょうか。
 中国の官製メディアでは、よく「権威専家」とか「権威人士」
という名称が使われますが、これは習近平主席と劉鶴中央財経指
導小グルプ弁公室主任兼発展改革委員会副主任を指しています。
これについては、4月27日のEJ第4510号で「権威人士」
について説明しています。
 「権威専家」が習近平サイドの人物であるとすると、マンショ
ン購入制限令を事実上主導したのは、李克強サイドではなく、習
近平サイドであるということになります。しかし、このマンショ
ン購入制限令は、習政権が進めようとしているはずの「鬼城」解
消計画や戸籍制度改革と明らかに矛盾します。これについて、近
藤大介氏は、次のように述べています。
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 こうしたことから透けて見えるのは、2016年秋の「マンシ
ョン購入制限令」は、李克強首相が統括する国務院の主導ではな
くて、習近平総書記サイドが主導したということだ。おそらく、
9月に李克強が、ニューヨークの国連総会、カナダ、キューバと
11日間も外遊に出ている間(9月18〜28日)に、習近平と
劉鶴が主導して進めてしまったのだろう。
                ──近藤大介著の前掲書より
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 どうして同じ政権でありながら、習主席サイドは矛盾した政策
をとるのでしょうか。
 それは政権内部で権力抗争をしているからです。習近平主席は
李克強首相を追い落としたいのです。そのため、習主席は腹心の
劉鶴主任を使って李首相の政策の批判をさせ、次の5年間では首
相の職を奪おうとしているのです。習主席は経済オンチといわれ
ており、そのため劉鶴主任を重用しています。
 李克強首相は、自ら辞任するのではないかといわれます。もし
李首相が来年から首相を務めない場合、習近平国家主席の側近で
ある王岐山・中央規律検査委員会書記が次期首相に有力視されて
いますが、「関連情報」の記事にあるように、劉鶴主任の抜擢と
いう説もあります。これが実現すると、次の5年間では習主席の
1人執権体制が強化されることを意味します。
             ──[米中戦争の可能性/090]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平主席と李克強首相の対立激化 次期首相は習氏腹心か
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   中国共産党の序列ナンバー1の習近平国家主席と、序列ナ
  ンバー2李克強首相との対立が激化しつつあるとの見方が広
  がりつつある。そんななか、来年秋の中国共産党の第19回
  党大会の最高幹部人事で、李氏は党政治局常務委員を解任さ
  れるか、あるいは再任されても、翌年春の全国人民代表大会
  (全人代=日本の国会に相当)で首相の職務を解かれ、全人
  代委員長に横滑りする可能性が出ていることが分かった。
   その後任として、習氏の信頼が厚い腹心で、経済政策全般
  を任されている劉鶴・党中央財経工作指導小組(グループ)
  弁公室主任が首相のダークホースとして急浮上しているとい
  う。米国を拠点にする中国問題専門の華字ニュースサイトの
  「博聞新聞網」が伝えた。
   習氏と李氏の対立は以前からも伝えられていたが、2人の
  険悪な関係が明るみに出たのは2016年3月初旬の全人代
  の冒頭李氏が政府活動報告を終えた後、ひな壇に戻ってきた
  李氏に隣席の習氏は握手すらせず会話を交わすこともなく、
  一顧だにしないという異様な光景が衆人環視の中で展開され
  てからだ。さらに2人の政策が明らかに対立していることが
  分かったのが5月9日付の党機関紙「人民日報」の報道から
  だ。同紙は「権威人士」なる最高幹部かあるいは最高幹部に
  連なるブレーンとみられる匿名の人物への長文のインタビュ
  ーを掲載した。その内容は中国の経済情勢や経済政策に関す
  る見方で、権威人士のインタビュー内容は李氏ら政府高官の
  立場と明らかに食い違っていた。  http://bit.ly/2rdzfub
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劉鶴主任.jpg
劉鶴主任
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 米中戦争の可能性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする