2017年05月01日

●「なり振り構わぬ中国の株価維持策」(EJ第4512号)

 中国の株式市場について考えてみます。株式市場といえば、資
本主義の象徴ですが、中国に株式市場が創設されたのは1990
年のことです。なぜ、株式市場が創設されたのでしょうか。
 それは、あの天安門事件と関係があるのです。天安門事件が起
きたのは1989年のことです。民主化を求める学生たちが天安
門広場で大規模デモを敢行したのです。政府は人民解放軍を導入
して鎮圧し、数千人の死者を出す大事件になったのです。
 ときの権力者のケ小平は、もしこのような事件が再発されると
中国共産党は崩壊すると考えて強硬手段をとったのです。ケ小平
の驚くべき政治的な勘です。もし、現代であれば、人民解放軍の
戦車の前に立ちはだかったあの青年の写真は、スマホで、あっと
いう間に中国全土に広がり、大勢の人民が立ち上がり、中国共産
党は崩壊の危機に瀕することは確かです。
 このように天安門事件で危機感を覚えたケ小平は、それまでの
経済政策を変更し、上海としんせんに証券取引所を開設し、金儲
けを奨励することにしたのです。つまり、民主化を求める人民に
民主化させない代わりに、資本主義の主幹システムを導入したの
です。まさに苦肉の策です。
 もともと社会主義の国に株式市場を開設するには無理があると
いえます。証券取引所には国有企業が国有企業のまま上場されて
いたりしたからです。しかし、2000年に入ると、中国の株式
市場は盛り上がってきたのです。実際に株式によって多くの中国
人が、豊かになったことは確かです。これを見て多くの中国人は
株式に関心を持つようになります。そして日本の証券会社でも中
国株を扱うところが増えてきたのです。
 しかし、中国人のバクチ好きを知っている政府は、信用取引だ
けは認めなかったのです。もし認めると、株式投資が過熱するこ
とが目に見えていたからです。その頃、株式投資をしている人た
ちの間では、胡錦濤総書記の後任に習近平氏が就くのか、李克強
氏が就くのかに関心が集まっていたのです。李克強氏が経済に強
いことはよく知られており、これに対して習近平氏は「経済オン
チ」であり、市場からあまり信頼されていなかったのです。
 2007年10月に上海総合指数は最高値をつけていたのです
が、第17回中国共産党大会で、習近平氏の共産党序列が6位、
李克強氏の序列が7位に決まると、とたんに株価は暴落したので
す。これは、胡錦濤総書記の後任が習近平氏に決まったことを意
味しており、多くの投資家が失望売りをしたからです。
 自分が経済オンチであるといわれていることを意識している習
近平氏は、2012年に総書記に就任するや株式の信用取引制度
を導入したのです。何としても、株価を上げたかったからです。
 その結果、何が起こったでしょうか。
 株式市場の活況と急速な景気後退です。これについて高橋洋一
氏は、次のように解説しています。
─────────────────────────────
 2015年3月以降、「禁断」の信用取引を導入した効果もあ
って、株価は歴史的な高値を更新していた。しかし、実体経済は
その一年前から変調をきたしていた。株式市場以外は、景気低迷
にあえぎ、不動産バブルもはじけていたのだ。
 それでも、というより、だからこそ人々は株式投資にのめり込
んだ。民間企業の経営者のなかには、急騰する株式相場の誘惑に
勝てない者も数多くいた。なにしろ不景気のなか、会社経営は厳
しいが、株価だけは上昇している。勢いマネーゲームに参戦する
経営者が増えてもおかしくない。(中略)
 実体経済と株式市場のこの乖離を、中国政府は「新常態(ニュ
ーノーマル)」という言葉で説明した。急成長から緩やかな成長
へと減速し、安定的な経済成長に移行した、と強弁したのだが、
実態は急速な景気後退だった。
      ──高橋洋一著/『中国GDPの大嘘』/講談社刊
─────────────────────────────
 しかし、2015年夏に株価(上海株)は暴落するのです。そ
のとき、当局はなり振り構わぬ株価維持策を実施しています。そ
の維持策のなかに、大株主に対する一部企業の株式売却禁止措置
があります。期限は6ヶ月間です。自由主義経済圏ではあり得な
いこの暴挙を中国当局は実施したのです。
 このとき、一ヶ月で下げた株価の総額は、1兆5000億人民
元(約26兆円)にもなったのです。まさに中国株のバブルの崩
壊です。26兆円もの金額が一瞬にして消えたのです。しかも、
このときは、多くの投資家は信用取引をしていたので、有り金を
すべて失ったうえ、莫大な借金を負う投資家も少なくなかったの
で、飛び降り自殺(跳楼/ティアオロウ)する投資家が続出した
のです。中国政府は「跳楼」に関する報道を禁止し、ネットでの
その種のニュースをすべてカットしたのです。習近平主席は自ら
の失政を隠蔽するため、情報操作をやったのです。
 高橋洋一氏の本に出ていたのですが、中国の株式市場の世界で
は、「イーヒン・アルビン・チーシュー」という言葉があるそう
です。これは「10人の投資家のうち勝つのは1人、トントンが
2人、残り7人は負ける」という意味だそうです。このうち、勝
つ1人とは共産党幹部の官僚なのです。なぜなら、彼らはインサ
イダーで情報を得られるので損はしないのです。
 国有企業には持ち株の売却を禁止する一方、中国政府は商業銀
行、証券会社、生命保険会社などに大量に株を買わせ、株価を買
い支えようとしています。そのため、これらの金融機関は新規融
資ができなくなり、しかも大量の不良債権をかかえることになり
ます。そしてそれが、中国の経済をさらに冷え込ませる結果にな
るのです。
 そして、株の売却を禁じられた国有企業は、過剰設備をかかえ
ることに加えて、膨大な株の含み損もかかえることになります。
さらに2016年1月に解除されるはずの株式売却禁止措置はさ
らに延長され、さらなる株価の暴落を招くことになるのです。
             ──[米中戦争の可能性/082]

≪画像および関連情報≫
 ●中国「新常態」という異常事態/福島香織氏
  ───────────────────────────
   中国の国会にあたる全国人民代表大会が3月5日から開幕
  し、李克強首相は政府活動報告で、中国の経済成長率目標を
  7%前後に引き下げ、「中国の経済状況が新常態(ニューノ
  ーマル)に入った」と位置付けた。この首相の新常態宣言は
  ケ小平の改革開放以来の30年の中国の高度経済成長に終わ
  りを告げる「低成長宣言」と受け取る向きもあれば、ケ小平
  の改革開放以来続いてきた経済構造を痛み覚悟で転換すると
  いうシグナルと受け取る向きもある。左派経済学者の郎咸平
  などは、「習総書記の語る『新常態』はケ小平の南巡講話以
  上の影響力」とも言っていたが、果たして「新常態」とは、
  どういう状況をいうのだろうか。そして、その「新常態」と
  はいつまで続くのだろうか。
   習近平が最初に「新常態」という言葉を使ったのは、20
  14年5月の河南視察旅行中の発言だ。「中国の発展は依然
  重要な戦略的チャンスの時期にあり、我々は自信を強化し、
  目下の中国経済発展の段階的特徴から出発して新常態に適応
  し、戦略上の平常心を保ち続けなければならない」。
   この新常態の理念について、さらに具体的に説明されたの
  はその年の11月のAPEC商工サミットでの「発展の持久
  を求め、アジア太平洋の夢をともに築こう」という演説の中
  で、「新常態は中国のさらなる発展のチャンスをもたらすも
  のなのだ」と発言。       http://nkbp.jp/2pIu20J
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株価暴落で頭をかかえる投資家
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2017年05月02日

●「中国金融機関の保有する不良債権」(EJ第4513号)

 中国の経済統計にはウソがある──このことはよくいわれてい
ますが、実際にどこがウソであるかを指摘することは、それほど
簡単ではないのです。
 ひとつのチェック方法があります。複数の統計を比較すること
です。たとえば、GDPと失業率の関係をチェックする方法があ
ります。これは「オークンの法則」として知られています。
 オークンの法則とは、米国の経済学者、アーサー・オークンが
発表した実質GDPの変化率と失業率の間に見られる負の相関関
係のことです。これは、1960年代初頭の米国経済に関する実
証研究によって解明された法則です。失業率が1%低下すると、
実質GDPは3・2%上昇するというものです。
 生産活動が活発化すると、雇用者が増加し、失業率が低下、実
質GDPが上昇します。逆に、生産活動が停滞すると、雇用者が
減少し、失業率が上昇、実質GDPが低下するという関係のこと
を「オークンの法則」というのです。
 そこで、中国当局が発表する公式の失業率を見ると、きわめて
不可解なことがわかります。添付ファイルに2002年から20
14年までの失業率を付けているのでご覧ください。
 これは、国家統計局と人力資源社会保障部が発表した「登記失
業率」ですが、過去10年間にわたって、4・0%〜4・3%の
間でしか動いていないのです。これは、上のグラフ──完全失業
率は4・5%〜4・7%以内と掲げる国家目標の範囲内に収まっ
ています。この数字にはリーマンショックによる景気後退や20
14年の景気後退が反映されておらず、とても実態をあらわして
いるとは思えないのです。この国は、まず目標が先にあって、そ
れに基づいて結果が決まるようです。高橋洋一氏は、これについ
て、次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 そもそも中国の公式失業率は、調査の対象を、失業率が低い都
市部の戸籍を持ち、なおかつ職業安定所に登録した労働者だけを
対象にしている。もともと無意味な失業率調査であり、統計数値
なのだ。実情としては、中国の失業率は10%以上、悪いときは
20%にも上ると見られている。だから正確な失業率統計などな
いに等しいのだ。
      ──高橋洋一著/『中国GDPの大嘘』/講談社刊
─────────────────────────────
 かつてのソ連にしても、中国にしても社会主義国は、どうして
国の公式数値を改竄するのでしょうか。ソ連の場合は、アメリカ
を代表とする資本主義国家陣営と張り合っていたのです。そこで
アメリカに負けない目標を立て、実際の数値を目標に合わせて改
竄していたものと考えられます。
 中国の場合も同様です。彼らは経済大国世界第2位の日本に焦
点を合わせ、日本を抜くことに全力を傾けたのです。何がなんで
もGDPを増加させるために膨大な投資を行ったのです。その結
果、実際に中国はその目標を達成し、今度はアメリカを追ってい
ますが、中国の経済数値をていねいにチェックしていくと、数値
に実態が追いついていないことがわかります。
 株価についても同様です。株価が暴落すると、なり振り構わな
い株価維持策を行い、金融機関を含む国有企業に株式を購入させ
その売却まで制限して株価を買い支えることを平気でやってきて
います。その結果、中国の4大銀行は膨大な不良債権を抱える事
態に陥っています。
 ここに中国の国有4大銀行の2014年12月期決算の数字が
あります。この数字を見ると、4大銀行の減速が鮮明になってい
ることがわかります。
─────────────────────────────
 ◎中国4大銀行/2014年12月期決算    単位億元
         純利益  不良債権残高  不良債権比率
 中国工商銀行 2758    1244     1.13
     比率   5.0     32.9     0.94
 中国建設銀行 2278    1131     1.19
     比率   6.1     32.7     0.99
 中国農業銀行 1794    1249     1.51
     比率   7.9     42.4     1.22
   中国銀行 1695    1004     1.18
     比率   8.1     37.2     0.96
               ・純利益比率:前期比伸び率
     ・不良債権残高比率:2013年12月末比伸び率
        ・不良債権比率:2013年12月末の数字
    ──2015年3月31日付/日本経済新聞/電子版
─────────────────────────────
 4大銀行の純利益の合計が8526億元(約16兆2千億円)
と前の期に比べ6・5%増にとどまり、これまでの2ケタ成長に
ブレーキがかかっています。一方において、国内景気の減速によ
る企業の業況の悪化を反映し、不良債権は昨年1年間に36%も
増えています。
 収益を圧迫しているのはこの不良債権です。昨年末時点の不良
債権残高は合計4631億元と、1年前に比べて、36・2%膨
らんでいます。各行で見ても、不良債権の残高は、前年比で32
%〜42%と大きく膨らんでいます。
 また、マッキンゼー国際研究所による中国の抱える債務総額は
対GDP比でみると、次のように急増しています。
─────────────────────────────
        2000年  2007年  2014年
   政府     23%    42%    55%
   非金融業   83%    72%   125%
   家計      8%    20%    36%
                  http://amba.to/2piFChF
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/083]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の不良債権は190兆円/日本総研が試算/2016年
  ───────────────────────────
   中国の金融機関が抱える潜在的な不良債権の残高が昨年末
  時点で、12兆5千億元(約190兆円)に達したとの試算
  を大手シンクタンクの日本総合研究所が24日までにまとめ
  た。中国の公式統計の約10倍に当たる。経済成長の減速で
  隠れた不良債権が増えているとみられる。うまく処理できな
  ければ、中国で金融危機が発生する恐れもある。
   試算は中国の上場企業2300社余りの2015年度決算
  を分析し、借入金の8・6%分が、不良債権になり得ると推
  定。この比率を非上場企業向けの融資や、正規の融資以外の
  「シャドーバンキング(影の銀行)」を通じた貸し出しも含
  む中国全体の融資額に当てはめ、不良債権残高を推計した。
   中国政府は昨年末時点の不良債権残高を1兆2744億元
  としている。だが日本総研の関辰一副主任研究員は、当局の
  不良債権の認定基準が甘いと指摘。「金融機関も経営状況を
  正確に公開していない。政府が適切なタイミングで公的資金
  を投入できるか疑わしい」とみている。
                   http://bit.ly/2oUqvYa
  ───────────────────────────

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中国の失業率の推移
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2017年05月08日

●「中国経済不振の根本的な2大原因」(EJ第4514号)

 2016年1月のダボス会議のときの話です。著名な投資家の
ジョージ・ソロス氏は次のように発言したのです。
─────────────────────────────
    中国経済のハードランディングは不可避的である
                ──ジョージ・ソロス
─────────────────────────────
 中国当局はこの発言に激しく反発し、「ソロスが中国経済の破
滅を仕掛けている」と吹聴したのです。そのソロス氏は2017
年1月6日に来日して安倍首相と面会し、約40分間話していま
す。何を話したかは定かではありませんが、中国経済のことが話
題になったことは容易に想像できます。
 最近の中国経済に関して中国当局は、次の言葉を使ってその状
況について表現しています。
─────────────────────────────
      2015年全般 ・・・・・ V字型
      2016年前半 ・・・・・ L字型
      2016年後半 ・・・・・ h字型
      2017年前半 ・・・・・ I字型
─────────────────────────────
 「V字型」はV字回復のことです。V字型に似たものに「U字
型」というのがありますが、中国は「L字型」で、右肩下がりで
回復しないことを意味しています。「h字型」は、少し回復する
が、また下がるという意味です。「I字型」は中国から米国への
資金流出が止まらず、底抜けしていることを表現しています。V
LhI──この言葉通り、中国の経済はきわめて深刻であること
を意味しています。
 現在の中国経済を語るとき、外せないのは2008年秋のリー
マン・ショックを受けて中国政府が実施した4兆人民元(約68
兆円)投資と、空前の金融緩和です。これが功を奏して世界経済
は立ち直りのきっかけを掴んだのですが、中国はその後、生産過
剰と在庫過剰の問題を抱え込むことになります。実は、これはあ
まり知られていないのですが、4兆人民元投入の効果に味を占め
た中国政府はその後も2009年から4年間にわたって景気刺激
策を継続し、その投入資金を110兆人民元(約1900兆円)
まで膨らませてしまったのです。
 つまり、それだけの固定資産投資が行われたということです。
これが中国各地に鬼城(グイチェン)を生み出すなど、負の遺産
を遺すことになったのです。
 それに加えて、米国はリーマン・ショックの後遺症が重く、E
Uはギリシャ破綻に伴うユーロ危機、日本は失われた20年で、
それぞれ景気が回復せず、それまで先進国への輸出に頼ってきた
中国の経済成長が鈍化してしまうことになったのです。
 多くの中国ウォッチャーは、中国の経済不振をこのような角度
から説明しようとしますが、もっと根本的な原因があると主張し
ているのは、北京の講談社文化有限公司副社長を経て、「週刊現
代」特別編集委員に就任した近藤大介氏です。近藤氏は、膨大な
固定資産投資の弊害を認めたうえで次のように述べています。
─────────────────────────────
 表面的には、たしかにそうだろう。だが私に言わせると、中国
経済がいつまで経っても回復できない根本的な原因は、次の2点
である。
 第1に、「社会主義市場経済」という中国の社会システム自体
の矛盾が、もはや抜き差しならないところまで来ていて、各所で
炸裂していることである。
 第2に、「マルクスは知っていてもケインズは知らない」と揶
揄される習近平主席が「現代の毛沢東」となって、「マルクス主
義経済学」と呼ばれる社会主義的史観に立って経済を運営してい
るからである。           ──近藤大介著/講談社
     『活中論/巨大化&混迷化の中国と日本のチャンス』
─────────────────────────────
 中国に改革開放の道を開いたのは、毛沢東以来の2代目皇帝の
座についたケ小平です。ケ小平は中国共産党の総書記の座には就
きませんでしたが、自らは「核心」を名乗り、最高指導者として
君臨したのです。
 ケ小平は1976年に毛沢東が亡くなると、1978年から改
革開放政策をスタートさせています。しかし、当初は、農家に一
部農産物の自由耕作を認めたり、5つの都市に経済特区を設けて
外資を導入する程度にとどめていたのです。
 しかし、1989年に「天安門事件」が起こり、1991年に
ソ連が崩壊すると、ケ小平は共産党政権存続の危機感を痛感し、
改革開放を加速させたのです。このとき、政治は引き締めながら
も、地方政府には改革開放の促進を求め、国民には「金儲けに走
る」自由を認めたのです。
 1992年10月の第14回共産党大会において、「社会主義
市場経済」という方針を定め、1993年3月には憲法を改正し
第15条で次のように明記したのです。
─────────────────────────────
       憲法第15条
       国家は社会主義市場経済を実行する
─────────────────────────────
 「社会主義市場経済」とは何でしょうか。
 政治は社会主義を堅持するが、経済は市場経済に変更する──
これが社会主義市場経済です。これは、世界のどこの国もやった
ことのない体制であり、成功するかどうかは、誰も予想ができな
かったのです。本来政治が社会主義であれば、経済は計画経済で
あるべきであり、それを市場経済にするのであれば、政治は資本
主義でなければならないはずです。それをケ小平は、政治は社会
主義、経済は市場経済といいとこ取りの新しい制度を採用し、中
国の新しい発展を図ったのです。
             ──[米中戦争の可能性/084]

≪画像および関連情報≫
 ●「社会主義市場経済」はファシズムの一形態に過ぎない
  ───────────────────────────
   中国の「抗日戦争勝利記念日」(2016年9月3日)が
  近づいてきた。昨年の同日、天安門広場で大々的に繰り広げ
  られた「世界反ファシズム戦争勝利70周年記念」軍事パレ
  ードは記憶に新しい。
   「歴史を鑑(かがみ)に」と居丈高に迫る中国の歴史戦に
  は、3つの狙いがある。第1は潜在敵国、特に日本に贖罪、
  史観を浸透させ、その精神的武装解除を図ることである。第
  2は「反省しない日本」への敵愾(てきがい)心をかき立て
  独裁体制の維持を正当化することである。第3は自由、民主
  法の支配、人権といった「現在」の問題に焦点が当たらぬよ
  う、注意を過去にそらすことである。
   従って、とりわけアジアの自由主義大国・日本が誤った贖
  罪意識から脱して、正しく「歴史を鑑」とすることが、日本
  自身にとってはもちろん、自由世界全体にとっても戦略的に
  極めて重要となる。
   まず、ファシズムという言葉だが、これはイタリアのムソ
  リーニが、共産主義でも資本主義でもない「第三の道」とし
  て打ち出したものである。国家主義的な独裁を永遠の統治原
  理としつつ、資本主義のエネルギーを抑圧体制活性化のため
  に用いるというのがその「第三」ないし折衷策たる所以(ゆ
  えん)である。          http://bit.ly/2bCbdmb
  ───────────────────────────

ケ小平/毛沢東以来の2代目皇帝.jpg
ケ小平/毛沢東以来の2代目皇帝
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2017年05月09日

●「社会主義と市場経済の矛盾の爆発」(EJ第4515号)

 中国が改革開放に舵を切った1992年といえば、中国は日本
の8分の1程度の経済規模しかないアジアの貧国だったのです。
この程度の規模であれば、政治は社会主義、経済は市場経済とい
う矛盾に満ちた制度でも支障はなかったのです。
 このケ小平時代以降現在までの中国の姿について、近藤大介氏
は自著で次のように述べています。
─────────────────────────────
 ケ小平時代以降の中国は、現在に至るまで、突き詰めると「維
穏(ウェイウェン)」(治安維持)と「開放(カイファン)」と
いう2つのことしかやっていない。この両者は互いに反対方向に
べクトルを向けて、引っ張り合っている。そして、この両者が綱
引きをする緊張した綱の上に、13億8270万人(2016年
12月時点)の中国人が乗っかっているのが、現在の中国の姿で
ある。               ──近藤大介著/講談社
     『活中論/巨大化&混迷化の中国と日本のチャンス』
─────────────────────────────
 ケ小平は、政治と経済について、共産党序列ナンバー1とナン
バー2の役割を次のように決めていたのです。
─────────────────────────────
   維穏/政治分野/社会主義 ・・・ 共産党総書記
   開放/経済分野/市場経済 ・・・  国務院総理
─────────────────────────────
 ケ小平の時代に続く江沢民体制のときは、政治は江沢民総書記
が握り、経済は朱鎔基首相が担当。さらに次の胡錦濤体制のとき
は、政治は胡錦濤総書記、経済は温家宝首相という分担でやって
きたのです。
 江沢民政権時代はケ小平がまだ元気であり、その睨みが効いて
いたせいもあって、政治と経済の綱引きはバランスよく行われ、
高度成長を維持してきたのです。続く胡錦濤時代になると、経済
の規模が大きくなり、政治と経済のバランスをとることが困難に
なり、リーマンショックなどもあって難しい判断が必要になった
ものの、胡錦濤総書記と温家宝首相は何とか深刻な事態を乗り切
り、政権を習近平政権に引き継いだのです。しかし、経済成長に
翳りが出てきたのもこの時期であったのです。
 ところが習近平政権になると、習近平総書記と李克強首相の間
がうまくいかなくなってしまうのです。まず、2人はライバル同
士であり、最初から人間関係はギクシャクしていたのです。この
2人の関係について、近藤大介氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 2013年3月に正式に発足した習近平総書記と李克強首相の
新政権は、それまで5年以上にわたって、最大のライバル関係に
あった両者が、互いに妥協を強いられた結果として誕生した「政
略結婚政権」だった。そのため、ナンバー1とナンバー2の間に
信頼関係はなく、むしろ互いに疑心暗鬼になっていた。
 結果として習近平総書記は、「維穏」(政治)ばかりでなく、
「開放」(経済)の役割も李克強首相から取り上げて、自分が独
占した。その結果、それまで緊張していた綱は緩み、中国経済は
混乱に陥ってしまったのである。 ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 習近平氏は名門の精華大学で学んだのですが、その専攻は有機
化学学科であり、経済に関しては全くの素人です。これに対して
李克強氏は艱難辛苦のすえに北京大学に入学し、経済学博士号を
取得している秀才であり、経済の専門家でもあるのです。
 そのため、習総書記が経済オンチでも、もともと経済の担当は
首相であるので、問題はないはずです。まして李克強首相は経済
学博士であり、習近平総書記が首相とうまく連携すれば政治と経
済をバランスさせることはできたはずです。
 ところが習主席には野望があったのです。まして習政権になっ
てからの経済成長率は7%台になり、習政権としては何としても
経済を立て直す必要があったのです。それに習主席は李首相を信
用せず、政治のことだけでなく、経済にまでいろいろと口を出す
ようになったのです。そして、場合によっては経済減速の責任を
李克強首相にとらせて退任させ、すべてを自分のコントロール下
に置き、核心として、独裁体制を築こうとしているのです。
 しかし、もともと矛盾に満ちている中国経済は、既に抜き差し
ならないところにきているのです。これについて近藤大介氏は次
のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 そもそも社会主義と市場経済は互いに相矛盾する概念である。
それでも「呉越同舟」できたのは、21世紀初頭までの中国経済
が、小規模な存在だったからだ。ところが中国は、2010年に
GDPで日本を追い越して、アメリカに次ぐ世界第2の経済大国
に成長した。いまや中国のGDPは、日本の3倍に達しようとし
ていて、2020年代前半には、アメリカを追い越して世界一に
なる見込みだ。ここまで中国経済が巨大化した結果、社会主義制
度との間に、無数の軋轢が生じているのである。
                ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 社会主義と市場経済の軋轢を生んだ元凶は何でしょうか。
 それは国有企業です。中国では、基幹産業のほんとんどすべて
を約800社の国有企業が独占しています。そしてこの約800
社で中国の富の60%をを握っているのです。
 これらの国有企業に対して地方政府や銀行(これも国有企業)
が、すさまじい乱脈融資を行い、習政権が発足した2013年の
時点では、国家の負債額がGDPの2倍以上に膨張してしまった
のです。したがって、習政権としては、何よりも先に国有企業改
革に着手する必要があったのです。そのことがよくわかっていた
李克強首相は、その国有企業改革に手をつけようとしたのです。
それは待ったなしの情勢だったからです。
             ──[米中戦争の可能性/085]

≪画像および関連情報≫
 ●国有企業改革が本当はできない中国/2016年3月10日
  ───────────────────────────
   全人代の最大の課題は、中国が本気で国有企業の構造改革
  ができるか否かにある。もし徹底させれば、それは一党支配
  体制崩壊につながる危険性があるため、中国にはできない。
  党の存続を優先する中国の矛盾を読み解く。
   改革開放前まで中国の企業は原則として全て国営だった。
  「五星紅旗」丸抱えで運営してきたので、改革開放後は市場
  経済の競争には勝てず、多くが倒産。1992年に所有権と
  経営権の両方を持つ「国営企業」を、所有権だけ国に残して
  経営権は企業に移して、それを「国有企業」と称することに
  した。しかしそれでも今でいうところのゾンビ企業が溢れ、
  とても国際競争になど、参入できない状態だったので、19
  90年代後半、時の朱鎔基首相が果敢な「痛みを伴う決断」
  をして、20万社近くあった企業を10万社強まで減らして
  3000万人におよぶレイオフ(業績回復時の再雇用を条件
  に従業員を一時的に解雇すること。自宅待機失業者)を出し
  た。それでもこの改革により2001年にはWTO(世界貿
  易機関)加盟に成功し、国有企業は国際競争力をつけるため
  民営化の方向に動くはずだった。ところが、時の江沢民国家
  主席は「それでは『旨み』がない」ということで、1998
  年に「国有企業の人事に関しては中共中央組織部が決定し、
  国有企業の中に党組織を設置する」ことを決めたのである。
                   http://bit.ly/2p8njs1
  ───────────────────────────

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習近平総書記と李克強首相
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2017年05月10日

●「不動産投資に依存する中国の経済」(EJ第4516号)

 李克強首相は、「リコノミクス」と称して国有企業改革プラン
を策定しています。そのキーワードは次の3つです。
─────────────────────────────
        1.国有企業の市場化
        2.  市場の多元化
        3.国有企業の民営化
─────────────────────────────
 「1」は、国有企業を市場化することです。
 国有企業を守っている親方日の丸的な制度を廃止し、国有企業
を市場に委ねることです。当然、市場変化についていけない企業
は市場から退場することになります。
 「2」は、市場を多元化することです。
 国有企業、民営企業、外資系企業などをすべて平等に扱い、競
争原理を働かせることによって市場を多元化するのです。これに
よって市場は競争原理が働き、活性化します。
 「3」は、国有企業を民営化することです。
 かつて小泉首相がいっていたように、「民間にできることは民
間にまかせる」を徹底し、政府機能を縮小し、国有企業を民営企
業に生まれ変わらせるのです。
 これは、李克強首相が率いる急進改革グループがまとめたもの
ですが、国有企業改革プランとしては妥当なものです。しかし、
提案された李首相のプランは習近平総書記に一顧だにされなかっ
たのです。このプランが政策として認められるには、2018年
3月までの習近平政権の政策の基本として、「3中全会」で「公
報」として採択される必要があります。
 しかし、習総書記は李首相を公報の起草委員会のメンバーから
外し、公報として採択されたのは、国有企業に関しては次の内容
だったのです。
─────────────────────────────
 揺らぐことのない公有制経済の発展を強固なものとし、公有制
の主体的地位を堅持し、国有経済の主導的な作用を発揮し、国有
経済の活力、コントロールの能力、影響力を不断に増強させてい
く。                ──近藤大介著/講談社
     『活中論/巨大化&混迷化の中国と日本のチャンス』
─────────────────────────────
 何だこれは!・・という内容です。これは、国有企業の民営化
どころか国有化を強化する内容です。習総書記の考える国有企業
の改革とは、長い間江沢民一派の握っていた国有企業利権を引き
はがし、自分の利権に組み替えようとするもので、国有企業改革
を権力抗争に使おうとしているのです。
 中国は「不動産投資だけに依存する経済」といわれます。中国
のGDP成長率に占める不動産投資の比率が高いからです。この
不動産の伸びが鈍化すると経済が失速してしまうのです。201
4年と2015年に経済が失速していますが、いつもは、前年比
20%程度の伸びがあるのに、2015年の不動産投資はわずか
1%の伸びにとどまっています。
 「なぜ不動産なのか」について、中国通である宮崎正弘氏と石
平氏の2人の対談本に興味深いやり取りがあるので、ご紹介する
ことにします。
─────────────────────────────
宮崎:中国の景気が非常によく見えた蜃気楼の最大の原因は何か
   っていったら、不動産なんですよ。だから不動産価格の高
   騰ぶり、まだ続いているところもあるけどもね。このカラ
   クリというのは、つまり中国的視点から見ると、どういう
   カラクリだったの?
石 :それはどういうことかというと、特に温家宝の首相時代、
   内需が徹底的に不足してる中で経済をどうやって成長させ
   る?それが問題になったのです。1つは輸出です。も1つ
   が、やっぱり投資を煽り立てる。投資率が高ければ、あち
   こち投資が盛んになればなるほど、いろんな産業がそれで
   繁栄するんです。そうなると、その中で特に目を付けたの
   がいまの不動産。不動産を一棟造れば、中国にとってどう
   いう経済問題が解決されるか。まず不動産造れば、地方政
   府の財政が成り立つ。まず地方政府が安泰になる。不動産
   造れれば、1つ造れば関係する下流のいろんな産業にみん
   な反映する。鉄鋼産業にしてもそうですよ。
宮崎:制作過程におけるクレーン、ブルドーザー、それから消費
   における建材、タイル・・・。
               ──宮崎正弘/石平著/WAC
         『いよいよトランプが習近平を退治する!』
─────────────────────────────
 つまり、不動産を中心とした産業連鎖です。それではどうやっ
て不動産を支えて行くのかというと、財源の裏付けのない貨幣を
増刷して市場に投入するのです。個人はこれでローンを組んで不
動産を購入し、企業もその資金を手に入れて不動産投資をするの
です。この場合、大量に貨幣を刷るとインフレになりますが、中
国の場合は、それが全部不動産に吸収されてしまうので、インフ
レにはならないのです。しかし、不動産バブルが破裂すると、大
変なことになります。
 それでもGDPに占める不動産投資の比重も落ちてきているの
です。2013年のGDP比における不動産投資は約16%、2
014年は15%、2015年も14%というように減少傾向に
あります。逆にいうと、経済としては正常化に向っているといえ
ます。実はこれでも不動産投資の割合は、非常に大きいのです。
 1990年に日本の不動産バブルがはじけたとき、GDPに占
める不動産投資の割合は9%でしたし、2007年のサブプライ
ムローン問題が発覚したときの米国のそれは6%だったので、減
少傾向にあるとはいえ、中国の比率がいかに高いかがわかると思
います。しかし、バブルというものはいつかははじけるのです。
             ──[米中戦争の可能性/086]

≪画像および関連情報≫
 ●ゴールドマン警告「中国の不動産バブル崩壊」懸念
  ───────────────────────────
   このところ中国の住宅バブル崩壊を危ぶむ声が急増してい
  る。2016年9月から10月にかけて多くのメディア、投
  資銀行、そして豪州政府までもが中国住宅市場の過熱に警鐘
  を鳴らしている。中国政府が政策の舵取りを誤れば金融危機
  やコモディティー価格の急落などで世界経済を揺るがしかね
  ない。ここでは中国の住宅市場に対する見方を紹介し、有効
  な手立てを打ち出すためには中国政府が抱える2つのジレン
  マを抱えていることを解説していこう。
   まず、中国の住宅市場の動きをおさらいしよう。まず、販
  売金額は年初の急伸のあと8月まで前年比40%以上の増加
  ペースが続いている。政府が発表する新築住宅の価格動向を
  見ても、8月は主要70都市のうち64都市で値上がりし、
  7月の51から大きく増加。昨年2月までの約半年間がほぼ
  ゼロであったのと比べると様変わりだ。前月比の値上がり幅
  は6年ぶりの高さとなり、一年前に比べ南京と上海が30%
  以上、北京は24%など高騰が続いている。
  この住宅ブームの裏には政府の後押しがある。昨年12月の
  共産党政治局会議では経済成長鈍化を食い止める一環として
  住宅在庫の解消が重要課題とされ、中央・地方政府はその後
  あらゆる政策を動員、住宅の需要喚起に躍起になっていた。
                   http://bit.ly/2pciU7D
  ───────────────────────────

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李克強首相/リコノミクス
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2017年05月11日

●「中国ではなぜ鬼城が増加するのか」(EJ第4517号)

 正確な数字はありませんが、中国全土に散らばる「鬼城」は枚
挙にいとまがなく、現在も増えつつあります。その規模に関して
は大きいのは100万人級、小さいのは団地級までありますが、
数は100ヶ所以上に及ぶのです。なぜ、中国は、誰も住む人が
いない住宅の建設を続けるのでしょうか。
 直接的には、これらの大工事をすることによって経済活動が発
生しGDPが増えるので、やっているのです。それによって、日
本のGDPを抜くという目的があったのかもしれません。これに
ついては後述します。
 遠因としては、李克強首相が2014年2月に打ち出した20
20年までの国家プロジェクト「城鎮化」計画にあります。「城
鎮化」について、上海生まれの中国人で、現在、中国と日本の間
で出版や映像プロデューサーとして活躍している邱海濤氏は次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 城鎮化とは、李克強首相の経済成長戦略のもっとも重要な目玉
政策の1つであり、改革開放が行きづまるなかでの窮地脱出策と
して練りあげられた、壮大な計画だといわれている。核となるの
は、農民を都市部に移住させることである。日本語でいう「都市
化」のことだ。           ──邱海濤著/徳間書店
                   『中国大動乱の結末/
 混乱が止まらない経済・政治・社会を現地から驚愕レポート』
─────────────────────────────
 中国人の戸籍は、「農村戸籍」と「都市戸籍」に分けられ、農
村戸籍は60%、都市戸籍は40%です。毛沢東時代の1950
年後半にこの戸籍制度は導入されています。農村から都市への移
動は厳しく制限されており、日本人のように自分の意思で勝手に
引っ越しできないのです。農民が出稼ぎに都市に行くことはでき
ますが、農村戸籍のままです。
 豊かな大都市の戸籍を持つ者は、社会保障も有名大学への入学
も優遇されますが、農村戸籍では都市の大学への入学もままなり
ません。また、都市部の人間がマイホームに住み、不動産権利証
書を持っているのに対し、農民たちには自分の土地も家もなく、
そこに多くの格差があります。
 農民たちの土地や家は村から借りたもので、村の集団所有制に
なっています。したがって、住むことはできても、私有財産では
ないので、物件を売買できないのです。農地にしても使用権があ
るだけで、私有財産ではないのです。
 中国のノーベル文学賞作家の莫言氏と並び称される買平凹(か
へいおう)という作家は、中国の農民の暮らしについて2016
年4月、小説『極花』の中で、次のように述べています。
─────────────────────────────
 この10年近く、農村はひどく荒廃してきた。多くの村には人
の影がなく、家屋が倒れかかり、草が膝まで伸びている。村がど
んどん消えている。農村の廃頽ぶりは人を落胆させるほど凄まじ
く、故郷が失われようとしている。これから中国で何が起こるか
わからない。僕は心を痛めているのだ。 ──買平凹著『極花』
       ──邱海濤著/『中国大動乱の結末』/徳間書店
─────────────────────────────
 具体的に城鎮化(都市化)計画は、国が農家に農地使用の権利
証書を発給し、家屋・農地の下請け、賃貸、交換、譲渡の自由を
与えようというものであり、農民がこの権利証書を抵当にして銀
行から資金を借り入れる制度も整備されています。制度の趣旨と
しては悪いものではないのです。
 しかし、城鎮化計画の最大の狙いは、無計画な都市建設によっ
て生み出された中国各地の「鬼城」や膨大な新築住宅在庫を市民
権を持つようになった農民を移住させることによって、一挙に解
決させようと考えているのです。実は、この城鎮化計画が一向に
うまくいっていないのです。
 2016年7月13日付、新華社通信は、次の数字を報道して
います。
─────────────────────────────
    城鎮化に伴う新都市・新区の計画人口34億人
─────────────────────────────
 ここでいう「34億人」という数字は、何を意味しているので
しょうか。
 中国では、既に述べているように、城鎮化によって、人口増を
図るために新都市や新区を建設しています。その数は3500ヶ
所(2016年5月時点)であり、34億人というのは、そこに
建設される住宅群の収容可能人口なのです。
 34億人というと、現在の中国人口の2・5倍であり、全世界
の人口の半分を意味するのです。出産による人口増はすでにピー
クを過ぎていますし、農村部から都市部への移住者による人口増
に頼るしかないですが、どう考えても実現不可能な数字です。
 それに既に中国に現有している住宅の総量は需要量を上回って
いるのです。それにもかかわらずこの計画を進めようとすると、
中国の鬼城は増える一方です。それでもこの壮大な計画を実行す
ることによって、住宅投資を行うことができ、経済を活性化させ
GDPを増加させることができるのです。
 香港のフェニックステレビは、専門家の意見を引用して、次の
事実を明らかにしています。
─────────────────────────────
 過去5年間、中国では年平均の新築住宅戸数が1000万戸を
超えたが、実際の需要は800万戸にも及ばなかった。
   ──香港「フェニックステレビ」http://nkbp.jp/2qggkT2
─────────────────────────────
 とっくの昔に住宅が供給過剰になっているのに、城鎮化計画を
進めると、住宅の供給過剰を一層促進させ、鬼城がさらに増えて
しまうことになってしまいます。
             ──[米中戦争の可能性/087]

≪画像および関連情報≫
 ●中国鬼城/人口減少するのに34億人のマンション建設
  ───────────────────────────
   中国では人口減少プロセスが始まっていて、既に労働可能
  人口は減少しているが、数年後に総人口も減少し始めます。
  まず出生率が減少し女性は子供を産むより働くのを望み、高
  齢者だけが増えて行き、子供の数は急減します。
   まるで日本のようですが、中国も20年くらい遅れて日本
  化が進行しています。にもかかわらず中国の多くの自治体で
  は、2030年までに人口倍増する計画を建てている。中国
  では中央政府の他に省や自治区の地方政府があり、その下に
  城鎮という行政府が存在する。不動産開発を行っているのは
  この城鎮で、通常は省や自治区は直接は行っていない。
   中央政府の国務院の統計によると、新規開発計画の合計は
  34億人に達している。中国全体で1万ヶ所を超える新都市
  や産業地区が予定されていて、計画が達成される為には、今
  後15年間で中国の人口を4倍にする必要がある。中国には
  既に全土で100ヵ所以上の大規模なゴーストタウンが存在
  し、合計は数億人分とみられる。
   中国は農村から都市への移住を進め、都市化率を高めよう
  としていて、現在は56%となっています。日本の都市化率
  は公式には66%であるが、実際には95%以上であり、欧
  米と『都市』の基準が違っている。欧米では人口2000人
  以上は都市だが、日本では面積あたりの人口密度の条件など
  があって厳しい。         http://bit.ly/2pVilmr
  ───────────────────────────

中国城鎮化計画.jpg
中国城鎮化計画
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2017年05月12日

●「作るために作る中国の不動産投資」(EJ第4518号)

 中国では、どうして人が住まない「鬼城」が続々とできている
のでしょうか。今回もこのテーマを追求していきます。
 その理由は、ズバリGDPを増やし、高度成長をアピールし、
まず、日本のGDPを抜き、やがて米国のGDPを抜いて、世界
一になる──こういう野望です。
 日本がGDPで中国に抜かれたのは2010年のことです。日
本は1968年に当時の西ドイツのGDPを抜いて世界第2位の
経済大国になり、以来42年間、世界第2位の座を守って来たの
ですが、2010年に中国に抜かれています。中国の野望のひと
つは果されたのです。
 それでは、どのようにして中国はGDPを増やしたのでしょう
か。GDPを増やすには、いろいろな方法がありますが、手っ取
り早いのは国内投資、不動産に手をつけることです。
 昨日のEJで述べたように、中国の土地は個人所有は認められ
ておらず、すべて国有です。ここで、中国の中央政府と地方政府
の関係について知る必要があります。それは、中央予算と地方予
算の関係を知ることによって理解できます。既出の邱海濤氏の本
から引用します。
─────────────────────────────
 「地方予算」と「中央予算」の関係。
 本来、地方予算の財源は主に税収からくるとされるが、中国の
場合、地方政府による土地の譲渡で得られる収入が地方財源の半
分以上までを占めるといわれている。
 中央予算は地方からの納税で賄われる。地方予算は主に各級の
地方政府部門や地方国有企業、学校、病院、そして公的年金など
に使われるが、中央予算は主に外交、国防、対外援助、各級の中
央政府部門および中央国有企業、学校、病院などに使われる。
 また、中国における土地所有権についてだが、中国のすべての
土地は憲法で「全民所有制」と定められており、全国民の財産と
なっているため、理屈としては土地は中央政府、地方政府のいず
れのものでもない。
 しかし、現実には、土地は国民の財産であるにもかかわらず、
国民には発言権がなく、地方長官1人だけでも土地の用途や処置
などを決断できるようになっている。言い換えれば、土地所有権
は主に地方政府が握っている。ただし、地方政府の土地使用計画
は事前に中央政府に報告し、許可をもらわなければならない。
       ──邱海濤著/『中国大動乱の結末』/徳間書店
─────────────────────────────
 GDPを増加させるため、中央政府は地方政府に対して命令を
出します。そこで地方政府は、住んでいる住民や、土地を農地に
して使っている農民を追い出して、勝手に売り出しをはじめたの
です。農地買収については、若干の立ち退き補償金は出るものの
ほとんどは雀の涙に過ぎないのです。立ち退きは強引に行われ、
抵抗が大きい場合は、治安部隊が出動することもあります。
 ここで不動産を扱うデベロッパーは地方政府と組んでいて、共
産党幹部が出資をしていたり、共産党幹部の親族が経営していた
りします。おいしい話には必ず共産党幹部や親族が絡んでいるの
です。これがこの国のどうしようもない体質です。
 デベロッパーは、農民から取り上げた土地を担保に銀行やシャ
ドウバンクから融資を受け、団地や都市を作り、それを売り出し
ます。共産党幹部がそれをいったん買って、リベートを付けて人
民に売るケースもあります。
 しかし、そもそも中央政府によるきちんとした都市づくりの計
画に基づいて作られていないので、一向に売れなかったり、高価
で買えなかったりで、誰も住まない都市ができるのです。砂漠の
なかに突如できた100万人都市もありますが、作ることが目的
で、それを売り切ることを考えていないのです。しかし、それだ
けの投資を行っているので、GDPは確実に増加し、成長率を押
し上げることになります。
 しかし、莫大な資金を投入し、建設した高層マンションがまっ
たく売れなければ、投入資金を回収できないので、デベロッパー
は倒産し、不動産市場は崩壊するはずです。そうならないために
デベロッパーは、地方政府から土地の提供を受け、銀行から融資
を受け、都市づくりを継続します。次のケースもあります。
─────────────────────────────
 投機者と銀行、デベロッパーが共謀して、実際の不動産価値に
見合わない高値を付けて、投機者は実際の価格に見合わない不動
産を担保に融資を受けて、その融資された金のうちからデベロッ
パーからキックバックをもらう。融資は最初から返済するつもり
がなく、銀行側は、それをわかったうえで、融資し、担保となっ
た不動産を差し押さえる、ということになる。こういったからく
りから、二束三文の不動産まで法外な価格で取引される状況が起
きている一面もある。この結果起きるのは、銀行の不良債権の増
大である。   ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 実は鬼城の多くは高速鉄道の沿線に作られていますが、人が住
んでいない鬼城のためにも高速鉄道が作られています。高速鉄道
路線は2万キロメートル以上ですが、黒字路線は「北京─上海」
のみの1300キロメートルだけです。
 そもそも中国の鉄道総距離は11万キロ超メートルですが、そ
の大半が赤字であり、累積債務が68兆円に達しています。しか
も国営の中国鉄路総公司は鉄道を運営しているだけであり、鉄道
建設費は赤字に含まれていないのです。こんな状況で、毎年60
00キロメートルの鉄道建設を進め、そのうち2000キロメー
トル程度が高速鉄道です。
 こういうことをしているので、「高速道路は空気を運び、マン
ションには誰も住まず、道路には車も人も見かけない」というよ
うにネットで批判されるのです。しかし、それは事実であり、中
国の現実なのです。    ──[米中戦争の可能性/088]

≪画像および関連情報≫
 ●「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」/宮崎正弘氏
  ───────────────────────────
   全人代の席上で、次のような驚くべき発言が飛び出してい
  る。「一部の地方政府に倒産の可能性があるので、気をつけ
  て欲しい」(15年12月の全人代常務委員会で陳笠・常務
  副委員長)。
   すでに明らかになった地方政府の債務は邦貨換算推定で、
  320兆円から340兆円。公式発表でも290兆円。この
  金額は地方政府の歳入の2年分、殆どが不動産の無謀な開発
  と担当党員のポケットに消えた。そして、「発狂的投機」は
  「風と共に去りぬ」。借金を棒にする性癖がある中国人の経
  済活動から容易に想定できたリスクだが、それにしても想像
  を絶する巨額、返せる筈がないだろう。つまり、これらの開
  発費は銀行の不良債権と化ける。
   フィナンシャルタイムズが「中国の債務はGDPの290
  %だ」と報じたが、もし、そうであるとすれば、中国全体の
  債務は2900兆円となる。リーマンショックより、規模は
  壮大にして未曾有の数字である。
   無謀かつ無計画。そして借金に無関心と無心。貸し込んだ
  のは国有銀行とシャドーバンキング、そして理財商品などか
  らの迂回融資、あげくにヤミ金融。皮肉なことに後者のヤミ
  金融は胴元が殆ど公務員だ。
   「ここに巨大都市を造ろう」と呼びかけて、人口過疎の農
  村や湿地帯、いやはや海まで埋立てて人口島をつくり、セメ
  ントを流し込み、いい加減な地盤改良工事の果てに鉄筋、セ
  メント量を誤魔化す手抜き工事を繰り返した。
                   http://bit.ly/2pYDR9V
  ───────────────────────────

浙江省の「鬼城」.jpg
浙江省の「鬼城」
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2017年05月15日

●「不動産バブルを演出している中国」(EJ第4519号)

 中国の経済発展は、胡錦濤時代以降においては、マンションと
自動車が牽引しているのです。マンション(不動産)と自動車に
力に入れるということは、それに付随する鉄鋼生産から電化製品
までのさまざまな消費を喚起することになるので、経済成長に結
びつくのです。
 しかし、習近平政権になると、2015年6月に株式バブルが
崩壊したので、意図的に不動産バブルを再燃させて価格をつり上
げるリスクのある手法を取るようになります。それは、中国人民
銀行(中国の中央銀行)が、銀行の1年物貸出基準金利を引き下
げることです。住宅ローン金利は、この基準金利にリンクしてい
ます。2015年の基準金利の変更は次の5回です。
─────────────────────────────
                1年物貸出基準金利
    2015年 3月 1日 ・・・ 5・35%
    2015年 5月11日 ・・・ 5・01%
    2015年 6月28日 ・・・ 4・85%
    2015年 8月26日 ・・・ 4・60%
    2015年10月24日 ・・・ 4・35%
─────────────────────────────
 2015年には基準金利を5回も下げています。こんな短期間
で5回も下げるのは異常です。基準金利を下げれば、住宅ローン
金利も下がるので、住宅を購入しやすくなり、不動産バブルに火
がつくことになります。
 ここにひとつ疑問が出ます。中国は私有財産を認めていない国
なのになぜ住宅を購入するのかという疑問です。これについては
宮崎正弘氏と石平氏の対談において石平氏の説明があります。
─────────────────────────────
宮崎:それで私が前から不思議に思ってたのは、中国は私有財産
   を認めていない。私有財産でない権利を、何ゆえに人民が
   買うのか、と。
石 :いや、それは誰でも分かってるんです。法律で憲法で私有
   財産を認めない。さらに不動産買っでも、土地が自分の物
   にはならない。みんなそれが分かっている。しかし分かっ
   ている中で、やっぱり買う。じやあ、どうして買う?(中
   略)要するに、投資は彼らにとって、新しい産業に投資す
   る、そういう意識、感覚はないんですよ。本来ならば、投
   資というのは新しい産業を興すためにするもの。じや、彼
   ら中国人にとっていちばんの安心の財産が何かというと、
   お札ではなんです。   ──宮崎正弘/石平著/WAC
         『いよいよトランプが習近平を退治する!』
─────────────────────────────
 さらに石平氏は、中国人は昔から目に見える形の財産しか信じ
ないといいます。ですから、建物や金銀などで、価格の上がるも
のを本能的に持とうとするのです。マンションも2軒以上持つの
は当たり前で、「マンションの2軒目を持たずんば人に非ず」と
いわれているぐらいです。
 習政権は、基準金利の引き下げに加えて、さらにバブルを煽る
政策をやっています。住宅購入でネックになるのは頭金ですが、
これを販売価格の20%まで引き下げたり、頭金自体を銀行が事
実上肩代わりすることも黙認したりしたのです。なかには、住宅
ローンの15%割引きをするケースもあったといいます。10年
前のサブプライム・ローンとまるで同じパターンです。住むため
ではなく、投機のために住宅を手に入れようとしているのです。
 さらに問題なのは、サブプライム・ローンのときと同様に銀行
がはローンが払えるかどうかのチェックをきちんとやっていない
ことです。つまり、ローンをきちんと払えない人にも1軒ではな
く、2軒も3軒もマンションを売っていることです。
 その結果、景気は低迷しているのに、不動産バブルが進むとい
う独特の経済状態が生まれることになったのです。この実体経済
と株式市場や不動産市場の乖離についてこれを習政権は、「新常
態(ニューノーマル)」と呼んでいるのです。明らかなゴマカシ
以外のなにものでもないのです。
 このようにして不動産バブルは過熱し、2016年9月に国家
統計局が発表した8月の70都市住宅価格調査によると、新築マ
ンションの価格が90%以上にあたる64都市で前月よりも上昇
したのです。尋常な値上がりではないのです。これについて、近
藤大介氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国では、全国の市町村を、重要性や人口などを鑑みて、一線
都市から四線都市に区分している。一線都市は、北京、上海、広
州、深せん、天津の5都市。二線都市が、南京、武漢、重慶など
41都市。三線都市が紹興、珠海、吉林など110都市。残りす
べてが四線都市である。
 これまでは、マンション価格の上昇が激しいのは、主に一線都
市だった。だが2016年夏は、一部の二線都市、三線都市の上
昇率が、一線都市の上昇率を上回るという新現象も起こった。こ
れは、不動産バブルが地方都市にまで浸透してきたことを示して
いた。しかも上がり方が尋常でなかった。
                  ──近藤大介著/講談社
     『活中論/巨大化&混迷化の中国と日本のチャンス』
─────────────────────────────
 中国には「金九銀十」という不動産用語があります。これは、
「黄金の9月と銀色の10月」という意味です。9月中秋節(旧
盆)の3連休から、10月の国慶節(建国記念日)の7連休にか
けて、マンションの売り上げがピークに達するので、そのように
呼ばれるのです。いわばカキ入れどきです。
 そういうわけで、2016年の「金九銀十」も各都市の不動産
業者は大量の新築マンションの販売を仕掛けようとしていたので
す。しかし、銀十の10月にとんでもないことが起きるのです。
             ──[米中戦争の可能性/089]

≪画像および関連情報≫
 ●中国不動産バブル「2017年に崩壊しそう」な理由
  ───────────────────────────
   2016年の秋ごろから、中国の不動産バブルが再熱して
  いるとの指摘が増えている。バブルは膨れ上がっても、はじ
  けてしまっても経済成長には大きなマイナス。中国政府も手
  をこまねいているわけではないが、うまく制御できていない
  ようだ。2017年中にもはじけるのではないかとの指摘も
  ある。
   中国は、2010年に日本のGDPを抜き、アメリカに次
  ぐ世界第2位の経済大国となった。その前年ごろから住宅価
  格が高騰し、バブルのような様相を見せていた。バブルとは
  簡単に言えば、資産価格が通常の賃料や金利などから大幅に
  乖離して形成されてしまう現象のこと。1980年代の日本
  の「不動産バブル」が世界初とされる。その後、90年代の
  「アメリカITバブル」、2008年の「コモディティバブ
  ル」を経て、中国の「住宅バブル」は世界4番目と位置付け
  られた。
   世界的な金融危機に対応するため、中国当局は銀行に融資
  拡大を奨励して景気を刺激したり、貸出総量規制を撤廃する
  などして大幅な金融緩和を実施。不動産市場に資金が大量に
  流れ込んだ。また、経済成長に伴う労働力不足を解消するた
  め、農村部から都市部へ人口を移動させたことで、住宅需要
  が一気に高まった。        http://bit.ly/2qbSA1c
  ───────────────────────────

中国人民銀行.jpg
中国人民銀行
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2017年05月16日

●「突如発令された住宅の購入制限令」(EJ第4520号)

 「金九銀十」で住宅マンションブームが盛り上がっていた20
16年9月25日(日)のことです。南京市人民政府が、ホーム
ページ上に次の通達をアップしたのです。南京市は二線都市の筆
頭の820万都市です。
─────────────────────────────
◎南京市の不動産市場のさらなるコントロールのための主要地区
 の不動産購入制限措置に関する通知
 1.すでに1軒の住宅を所有している南京市の非戸籍保持者
   家庭の不動産購入(新築及び中古物件)を当分の間禁止
   する。
 2.すでに2軒以上所有している南京市の戸籍保有者家庭の
   新築不動産購入を当分の間禁止する。
                  ──近藤大介著/講談社
     『活中論/巨大化&混迷化の中国と日本のチャンス』
─────────────────────────────
 突然の通知で、しかも明日(26日)から実施するというので
す。明日から実施するなら、今日買ってしまえということで、市
内のマンションセンターに南京市民が殺到したのです。時期が時
期であり、多くの市民がマンション購入を考えていたのに、この
ような通達を突然ホームペー上で通告し、しかも明日から実施す
るというのは乱暴な話ですが、中国ではこういうことはよく起き
ることなのです。
 この通知の効果で、9月25日だけで、1604軒のマンショ
ンが売れたのです。本当は買う人がもっと多かったのですが、応
対するマンション販売スタッフの人数が足りなかったのです。そ
れに加えて南京政府は、10月5日にさらに詳細なマンション購
入制限令を出し、購入に強いブレーキをかけたのです。
 この南京市のマンション購入制限令は、燎原の火のごとく全国
各都市に広がったのです。制限令の内容はさまざまですが、頭金
の大幅引き上げが多く、それも細かな条件によって頭金は販売価
格の70%程度が標準になったのです。2016年の初めには、
頭金ゼロでも購入できた住宅が秋には頭金が販売価格の70%以
上にハネ上がってしまったのです。
 その結果、非戸籍保有者が締め出されることになったのです。
これによって彼らは、自分が住む住宅を手に入れることが困難に
なったといえます。なぜなら、頭金の割合が増えても困らないの
は、富裕層だけということになるからです。彼らは、自らが住む
ための住宅ではなく投機用の住宅を多く手に入れ、それを売って
ますます豊かになっていくのです。深刻な格差の拡大です。
 これらの住宅購入制限令で不思議なことは、これだけ大きな影
響を及ぼす政策であるのに、通達は中央官庁の国務院ではなく、
地方政府(地方自治体)が発令していることです。国務院には住
房和城郷建設部という専門官庁があるにもかかわらずです。
 しかし、10月5日にこの専門官庁のホームページには、新華
社通信上に掲載された「権威専家」というネームで書かれている
次の記事を転載したのです。
─────────────────────────────
 多くの都市で行った不動産市場のコントロール政策は投資と投
機の需要を抑制するのが目的だった。住宅価格があまりに急激に
上昇するのを抑止し、不動産市場を安定化させようとしたのだ。
日々刻々状況が変わる不動産市場に対して、市場を安定化させコ
ントロールしていくことに対して、引き続き細かな指導をし都市
政策に結びつけていく。            ──権威専家
                ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 この「権威専家」とは何者でしょうか。
 中国の官製メディアでは、よく「権威専家」とか「権威人士」
という名称が使われますが、これは習近平主席と劉鶴中央財経指
導小グルプ弁公室主任兼発展改革委員会副主任を指しています。
これについては、4月27日のEJ第4510号で「権威人士」
について説明しています。
 「権威専家」が習近平サイドの人物であるとすると、マンショ
ン購入制限令を事実上主導したのは、李克強サイドではなく、習
近平サイドであるということになります。しかし、このマンショ
ン購入制限令は、習政権が進めようとしているはずの「鬼城」解
消計画や戸籍制度改革と明らかに矛盾します。これについて、近
藤大介氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 こうしたことから透けて見えるのは、2016年秋の「マンシ
ョン購入制限令」は、李克強首相が統括する国務院の主導ではな
くて、習近平総書記サイドが主導したということだ。おそらく、
9月に李克強が、ニューヨークの国連総会、カナダ、キューバと
11日間も外遊に出ている間(9月18〜28日)に、習近平と
劉鶴が主導して進めてしまったのだろう。
                ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 どうして同じ政権でありながら、習主席サイドは矛盾した政策
をとるのでしょうか。
 それは政権内部で権力抗争をしているからです。習近平主席は
李克強首相を追い落としたいのです。そのため、習主席は腹心の
劉鶴主任を使って李首相の政策の批判をさせ、次の5年間では首
相の職を奪おうとしているのです。習主席は経済オンチといわれ
ており、そのため劉鶴主任を重用しています。
 李克強首相は、自ら辞任するのではないかといわれます。もし
李首相が来年から首相を務めない場合、習近平国家主席の側近で
ある王岐山・中央規律検査委員会書記が次期首相に有力視されて
いますが、「関連情報」の記事にあるように、劉鶴主任の抜擢と
いう説もあります。これが実現すると、次の5年間では習主席の
1人執権体制が強化されることを意味します。
             ──[米中戦争の可能性/090]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平主席と李克強首相の対立激化 次期首相は習氏腹心か
  ───────────────────────────
   中国共産党の序列ナンバー1の習近平国家主席と、序列ナ
  ンバー2李克強首相との対立が激化しつつあるとの見方が広
  がりつつある。そんななか、来年秋の中国共産党の第19回
  党大会の最高幹部人事で、李氏は党政治局常務委員を解任さ
  れるか、あるいは再任されても、翌年春の全国人民代表大会
  (全人代=日本の国会に相当)で首相の職務を解かれ、全人
  代委員長に横滑りする可能性が出ていることが分かった。
   その後任として、習氏の信頼が厚い腹心で、経済政策全般
  を任されている劉鶴・党中央財経工作指導小組(グループ)
  弁公室主任が首相のダークホースとして急浮上しているとい
  う。米国を拠点にする中国問題専門の華字ニュースサイトの
  「博聞新聞網」が伝えた。
   習氏と李氏の対立は以前からも伝えられていたが、2人の
  険悪な関係が明るみに出たのは2016年3月初旬の全人代
  の冒頭李氏が政府活動報告を終えた後、ひな壇に戻ってきた
  李氏に隣席の習氏は握手すらせず会話を交わすこともなく、
  一顧だにしないという異様な光景が衆人環視の中で展開され
  てからだ。さらに2人の政策が明らかに対立していることが
  分かったのが5月9日付の党機関紙「人民日報」の報道から
  だ。同紙は「権威人士」なる最高幹部かあるいは最高幹部に
  連なるブレーンとみられる匿名の人物への長文のインタビュ
  ーを掲載した。その内容は中国の経済情勢や経済政策に関す
  る見方で、権威人士のインタビュー内容は李氏ら政府高官の
  立場と明らかに食い違っていた。  http://bit.ly/2rdzfub
  ───────────────────────────

劉鶴主任.jpg
劉鶴主任
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2017年05月17日

●「北朝鮮ミサイル発射の意味は何か」(EJ第4521号)

 5月14日早朝の北朝鮮の弾道ミサイルの発射で再び朝鮮半島
が緊張に包まれています。今回のテーマは「米中戦争の可能性」
ですが、米朝紛争が米中戦争のきっかけになる可能性は十分ある
ので、この問題をしばらく取り上げます。
 この北朝鮮の弾道ミサイル発射は公開発射なのです。12日夜
から平安北動亀城市付近の飛行場に発射台を展開し、13日未明
にミサイルを起立させ、実際に発射したのは、その24時間後な
のです。堂々たる公開発射であるといえます。
 当然のことながら、その発射の兆候は日米韓の専門当局は把握
していたものと思われます。もっとも今回発射のミサイルは液体
燃料使用の新型「火星12型」なので、発射の兆候は衛星をよく
観察すればわかるはずですし、北朝鮮も最初から隠すつもりはな
かったものと思われます。
 それでは、なぜ発射は5月14日だったのでしょうか。それは
「3つ国に対するサイン」であると思われるのです。
─────────────────────────────
      1.米国へ対話の条件を示すサイン
      2.中国に対する怒りを示すサイン
      3.韓国文政権に祝意を示すサイン
─────────────────────────────
 「1」は「米国へ対話の条件を示すサイン」です。
 米国は、空母カール・ビンソンを朝鮮半島に派遣するなど、北
朝鮮に強い威嚇を行う一方で、中国に北朝鮮への経済制裁を強め
るよう要請し、中国も一定程度それに応えています。
 また、トランプ大統領は、ブルームバーグとのインタビューで
次のように語っています。
─────────────────────────────
   金生恩委員長とは「適切な状況下」であれば会談する
                 ──トランプ米大統領
─────────────────────────────
 問題は「適切な状況下」とは具体的に何かです。トランプ大統
領はそれを明確にしていませんが、「北朝鮮が核・ミサイルを放
棄する」ことであることは明らかです。
 北朝鮮の今回のミサイル発射は金委員長からのトランプ大統領
への返信であると思われます。北朝鮮の対話の条件は「核・ミサ
イルの保有を前提とする」というメッセージです。
 「2」は「中国に対する怒りを示すサイン」です。
 北朝鮮が弾道ミサイルを発射した5月14日は、中国が今年一
番重要なイベントと位置付ける「シルクロード経済圏構想(一帯
一路)」という初の国際会議の開催日なのです。中国にとっては
最も重要な日にミサイルを発射されたのです。習近平主席として
は北朝鮮によって顔に泥を塗られた思いでしょう。一帯一路国際
会議で習近平主席は演説において7回も間違えるなど、内心の苛
立ちを示しています。
 実は北朝鮮は中国に「4月20日に核実験を実施する」と伝え
ているのです。ところが、習主席は「もし、核実験を強行すれば
中朝国境を封鎖し、厳しい制裁をかける」と返し、北朝鮮は核実
験を中止しています。したがって、今回の弾道ミサイル発射は、
その意趣返しであると考えられます。
 「3」は「韓国文政権の祝意を示すサイン」です。
 韓国に文在寅政権ができたことは、北朝鮮にとってはきわめて
プラスです。北朝鮮は多数の工作員を送り込んで、朴政権の打倒
のための大規模デモを指揮し、大統領選挙においても、何かと文
在寅陣営を助けているのです。したがって、今回の弾道ミサイル
発射は文在寅政権誕生に祝意を送っていると考えられます。
 14日の弾道ミサイル発射に関して気になったのは米国の対応
です。今回のミサイル発射は北朝鮮も隠していないし、当然米国
はわかっていたはずです。もちろん中国もです。ところが事前に
両国は何のメッセージも出していないのです。
 もうひとつ米国はミサイルが発射された後、「これはICBM
ではない」というコメントを出しています。米国は弾道ミサイル
に関して妙な線引きをしています。つまり、わざわざICBMの
次の定義を持ち出しているのです。
─────────────────────────────
  ICBM(intercontinental ballistic missile1)とは
  55OOキロメートル飛翔するミサイルである
─────────────────────────────
 これに関しては、金正恩委員長が年頭談話で「ICBMの開発
は最終段階に入っている」と述べたことに関して、トランプ大統
領は「そうはならない!」というツイートを発信して、反対を表
明しています。しかし、北朝鮮は飛翔距離で弾道ミサイルを分類
していないのです。今回の弾道ミサイルにしてもICBMの第1
弾ロケットの実験ではないかともいわれています。もしそうであ
れば、通常軌道では4500キロメートル飛翔しており、実質的
にICBMであるといっても過言ではないのです。
 それは米国が「ICBMができればレッドゾーンである」との
ニュアンスの発言をしているので、ミサイル発射直後に「ICB
Mではない」と発言したのではないかと思われます。なんとなく
米国はハードルを下げているように感じます。
 しかし、シルクロード会議に北朝鮮の金英才・対外経済相らが
参加したことについて、北京の米国大使館は次のように抗議の書
面を中国外務省に送っています。米国としては、非常に控えめな
抗議ですが、形ばかりの懸念を伝えたのです。しかし、中国外務
省はこれを無視しています。
─────────────────────────────
 北朝鮮を招くことは、世界が北朝鮮に圧力をかけている時に
 誤ったメッセージを送ることにならないか。
                   ──北京米国大使館
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/091]

≪画像および関連情報≫
 ●北朝鮮 新型中距離弾道ミサイルの発射実験に成功
  ───────────────────────────
   14日、日本海に向けて弾道ミサイル1発を発射した北朝
  鮮は、キム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長の立ち
  会いの下、新型の中距離弾道ミサイルの発射実験に成功した
  と、写真とともに発表し、ミサイル技術の向上を図るため、
  今後も発射を繰り返す姿勢を強調しました。
   北朝鮮は14日、北西部・ピョンアン(平安)北道のクソ
  ン(亀城)付近から弾道ミサイル1発を日本海に向けて発射
  し、ミサイルはおよそ800キロ飛行し、高度は初めて20
  00キロを超えたと推定されています。
   これについて北朝鮮は15日朝、国営メディアを通じて、
  キム・ジョンウン朝鮮労働党委員長の立ち会いの下、新型の
  中距離弾道ミサイル「火星12型」の発射実験に成功したと
  発表しました。
   15日付けの朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は、1面から
  3面にわたって写真を掲載し、移動式の発射台に搭載された
  弾道ミサイルが真上に向かって上昇する様子や、屋内の施設
  で組み立てられたミサイルの姿などが写っています。
   今回の発射は、通常より角度をつけて高く打ち上げる「ロ
  フテッド軌道」を用いて「周辺諸国の安全に考慮した」とし
  たうえで、「高度は2111キロまで上昇し、787キロ離
  れた公海上の目標水域に正確に着弾した」としています。
   発射実験のあと、キム委員長は「アメリカ本土と太平洋作
  戦地帯は、われわれの攻撃圏内に入っている」とアメリカを
  強くけん制し、ミサイル技術の向上を図るため、今後も発射
  を繰り返す姿勢を強調しました。  http://bit.ly/2qJjajo
  ───────────────────────────

「火星12型」成功に喜ぶ金委員長.jpg
「火星12型」成功に喜ぶ金委員長
  
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2017年05月18日

●「米国には北に5つの選択肢がある」(EJ第4522号)

 「すべての選択肢がテーブルの上にある」──トランプ米大統
領をはじめペンス副大統領、ティラーソン国務長官がこれと同じ
言葉を発しています。米国は、自国の安全が脅かされることがな
いようにしたいのです。こういう米国の立場になって考えた場合
「あらゆる選択肢」には次のようなものがあります。
─────────────────────────────
      1.中国を通じて経済制裁を強める
      2.北朝鮮と米国が直接対話をする
      3.北朝鮮を核保有国として認める
      4.金正恩の斬首作戦を成功させる
      5.米国は北朝鮮を限定攻撃をする
─────────────────────────────
 第1の選択肢として考えられるのは「中国を通じて経済制裁を
強める」ことです。
 北朝鮮に最も影響力のある国は中国です。北朝鮮にとって中国
は最大の輸出国であり、石油や食料品などの最大の輸入国でもあ
ります。そういう意味において中国は、北朝鮮の生殺与奪の権利
を握っているといえます。したがって、北朝鮮に経済制裁をかけ
るのには、中国がやるのが一番効果的なのです。
 中国は、既に北朝鮮に対して経済制裁の圧力をかけています。
石炭の輸入を今年中停止し、もし、それでも北朝鮮が核実験を強
行するときは、石油の輸出を止める断油措置を講じ、それに加え
て、中朝国境を閉鎖すると警告したのです。
 中国の場合、国境に接する北部戦区と北朝鮮は、いわゆる「辺
境貿易」を密かにやっており、国境封鎖はこれができなくなるの
で、北朝鮮は大きなダメージを受けます。これによって北朝鮮は
核実験を中止しましたが、その代り14日に弾道ミサイルを発射
しています。
 しかし、中国の本音は地政学上北朝鮮を崩壊させることには反
対であり、中国を通じての経済制裁には限度があり、これによっ
て北朝鮮が核・ミサイルの開発・保有をあきらめることはあり得
ないと考えます。
 第2の選択肢として考えられるのは「北朝鮮と米国が直接対話
をする」ことです。
 水面下ではありますが、米国と北朝鮮はノルウェーのオスロで
非公式会談を行っています。これについて、産経新聞ニュースは
次のように伝えています。
─────────────────────────────
【北京=西見由章】ノルウェー・オスロで米国の元政府高官らと
接触した北朝鮮外務省の崔善姫米州局長は13日、帰国に向けた
経由地の北京の空港で、トランプ米政権との対話について「必要
な条件が整えば対話する」と記者団に語った。韓国の文在寅政権
については「見守っていく」と述べるにとどめた。
                   http://bit.ly/2rlgkhN
─────────────────────────────
 水面下とはいえ、米国がなぜ対話に応じたかというと、北朝鮮
で米国人が4人拘束されているからです。しかし、米国政府と北
朝鮮の正規の対話に応ずる条件(適切な状況下)としては北朝鮮
が絶対に飲めない次の条件ということになります。
─────────────────────────────
    北朝鮮が核・ミサイルの開発と保有を放棄する
─────────────────────────────
 この条件がある限り米朝対話は絶対に実現しないということに
なります。北朝鮮が妥協できる余地があるとすると、それは「核
・ミサイルの凍結」だけですが、これはトランプ政権としては飲
めない条件です。なぜなら、それでは歴代米政権、とくにオバマ
政権と何も変わらないし、米国はまたしても騙されることになり
かねないからです。
 第3の選択肢として考えられるのは「北朝鮮を核保有国として
認める」ことです。
 「アメリカファースト」の米国があくまで自国の安全にだけこ
だわるのであれば、この第3の選択肢しかないのです。しかし、
米国としては、この選択肢は簡単には取れないのです。それは、
次のことが必然的に起きるからです。
─────────────────────────────
 1.北朝鮮を核保有国として認めることは、それは米国の敗
   北を意味するからである。
 2.北朝鮮が核保有国になると、核保有こそ効果的防衛手段
   になるので核が拡散する。
 3.北朝鮮が核保有国になると、米の核の傘が無力化し、日
   本や韓国の核武装を招く。
─────────────────────────────
 第4の選択肢として考えられるのは「金正恩の斬首作戦を成功
させる」ことです。
 この作戦は、既に水面下でCIAによって行われています。し
かし、北朝鮮の場合、これは容易ではないのです。クリントン大
統領時代に米CIA長官を務めたジェームズ・ウールジー氏は、
次のように述べています。
─────────────────────────────
 金正恩の「斬首作戦」の実行は、通常の暗殺ミッションに比
 ベて、はるかに難しい。他の独裁者とは違うのです。
         ──ジェームズ・ウールジー元CIA長官
─────────────────────────────
 北朝鮮は外国人が簡単に入国できる国ではなく、外部の組織が
斬首作戦を実行することは困難なのです。したがって、北朝鮮内
部に協力者をつくり、暗殺を実行させる必要があります。これに
ついては、たびたび試みられているものの、この国では成功率が
きわめて低いのです。1から4までの選択肢はいずれも難があり
ます。第5の選択肢については、明日のEJで取り上げます。
             ──[米中戦争の可能性/092]

≪画像および関連情報≫
 ●金正恩「斬首作戦」 実行ならば日本経済も打ち首に
  ───────────────────────────
   国内の目が「森友学園」に注がれている間、東アジアには
  深刻な危機が訪れていた。核とミサイルをおもちゃにしてい
  た「お坊ちゃま」の暴走に、トランプ大統領は怒髪天。「金
  正恩」斬首作戦が実行されれば、日本経済も「打ち首」寸前
  で、逆風の大嵐が吹き荒れるというのだ。
   4月26日未明の平壌。小雨の空模様に加え、この日は新
  月。辺りは墨を流したような闇が広がるだけだ。前夜から、
  米韓空軍は平壌を大規模空爆。防空レーダーと防衛隊に壊滅
  的な打撃を与えていた。この闇と噴煙の中を縫うように、数
  台のヘリコプターが進んでいく。いくつかは地上部隊をおろ
  し、平壌の制圧に走らせるが、いくつかは意思を持ったよう
  に別の“標的”に急進していくのだ。
   ブラックホーク。幾多の戦場で活躍した米軍のヘリは“目
  標”の建物の前に降りると、次々と隊員たちを吐き出した。
  米海軍の特殊部隊・シールズ。韓国の「北派工作員」。先導
  するのは軍用犬だ。「精鋭部隊」は建物を取り囲むと、意を
  決したように四方八方から侵入を開始。数十分後、漆黒の闇
  に銃声、続けて歓声が響いた。「彼をやったぞ!」――。あ
  とひと月も経たないうちにこうした光景が見られるとはにわ
  かには信じがたいけれど、絵空事とは一笑に付せないほど、
  北朝鮮とアメリカの対立は深刻さを増している。
                   http://bit.ly/2pERg8m
  ───────────────────────────

ノルウェー/オスロでの米朝水面下会談.jpg
ノルウェー/オスロでの米朝水面下会談
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2017年05月19日

●「米国は北朝鮮に限定攻撃できるか」(EJ第4523号)

 米国が北朝鮮に対してとれる「あらゆる選択肢」には5つあり
ますが、それを再現します。既に昨日のEJで1〜4については
検証が終わっています。
─────────────────────────────
      1.中国を通じて経済制裁を強める
      2.北朝鮮と米国が直接対話をする
      3.北朝鮮を核保有国として認める
      4.金正恩の斬首作戦を成功させる
    ⇒ 5.米国は北朝鮮を限定攻撃をする
─────────────────────────────
 第5の選択肢として考えられるのは「米国は北朝鮮を限定攻撃
をする」ことです。
 この原稿を書いている5月17日現在、米軍が北朝鮮への武装
を解いていないにもかかわらず、この第5の選択肢はあり得ない
という雰囲気になっています。なぜなら、この選択肢は、あまり
にもリスクが大きいと思われているからです。
 1994年に北朝鮮がNPTを脱退すると宣言したとき、クリ
ントン大統領自身は北朝鮮への攻撃を決断したのですが、当時の
ペリー国防長官が次の見通しを報告したことと、金泳三韓国大統
領が猛反対したことによって断念しています。
─────────────────────────────
 朝鮮半島で戦争が勃発すると、最初の90日間で米軍兵士の
 死傷者は5万2000人に上る。   ──ペリー国防長官
─────────────────────────────
 これについて、平和外交研究所代表の美根慶樹氏は、米軍の北
朝鮮への攻撃は非常に困難であるとして、その根拠を6つ上げて
説明しています。少し長いですが、以下に引用します。
─────────────────────────────
 第1に、北朝鮮の軍事能力は核とミサイルの開発などによって
1990年代とは比較にならないくらい強大になっている。クリ
ントン元大統領時代と同様のシミュレーションをすれば、米国兵
の犠牲は何倍、あるいは何十倍にもなるだろう。
 第2に、朝鮮半島で米国と北朝鮮の軍事衝突が起これば、必ず
韓国が巻き込まれ、壊滅的な打撃をこうむる。北朝鮮・平壌と韓
国・ソウルの距離は約200キロメートルにすぎず、攻撃するの
にミサイルは必要ではない。北朝鮮は直接ソウルに砲弾を撃ち込
める性能の兵器を保有している。
 第3に、日本にも被害が及ぶであろうし、そうなると、日本と
しても単純に米国の決定を支持するとは言えなくなる。少なくと
も、軍事作戦の開始以前には、反対せざるをえなくなることもあ
ろう。また、実際に軍事衝突が起こった場合、安保法制によると
自衛隊を朝鮮半島に派遣せざるをえなくなる可能性も出てくる。
 第4に、中国も間違いなく反対するだろう。
 第5に、米国内でも反対意見が強いと思われる。反対論の根拠
として挙げられそうなこととして、米国は現実に被害を被ってい
ないこと、中東に比べて北朝鮮問題の優先度は低いこと、全面戦
争に発展して米国も核攻撃される危険が生じてくること、などが
挙げられる。手段をまだ尽くしていないのに軍事行動に出ること
には、特に強い疑問が呈されるだろう。
 第6に、先に攻撃すれば、米国が64年前に結ばれた朝鮮戦争
の休戦協定に違反することとなる。国際連合においても、安全保
障理事会のお墨付きを得るのは、中国やロシアが反対するので、
まず不可能と見るべきだ。       http://bit.ly/2reFHoh
─────────────────────────────
 この米軍による北朝鮮限定攻撃の選択肢はあり得ないという雰
囲気を察知してか、北朝鮮は5月14日に新型ミサイル「火星2
型」を打ち上げ、成功させています。米国とのチキンレースを展
開するなかで、北朝鮮はかなり強気の一手を打ってきたのです。
 米国は、明言はしていないものの、核実験をやるか、ICBM
を成功させればレッドラインしていますが、「火星2型」はそれ
に大きく近づいています。しかし、米国は「ICBMではない」
と即座に否定しています。それは、レッドラインではないといい
たかったものと思われます。
 確かに「火星12型」は、その飛翔距離は約4000キロメー
トルとされ、「5500キロ以上がICBM」とする米国の定義
には該当しませんが、本物のICBMが開発されるのは時間の問
題であることは間違いないことです。
 「火星12型」には新型のエンジンが搭載されており、1段目
の飛翔と指定の海域に落下させる実験ではないかといわれている
のです。実際には30分間飛翔し、正確ではないかもしれないが
弾頭を日本海に落としているので成功です。そうであるとすると
ロケットを2弾方式にすれば、5500キロメートルは確実に飛
翔するので、事実上のICBMです。
 現在米国は、中国の制裁に期待しているようですが、それには
明らかに限界があります。制裁に関して北朝鮮は激しく中国に反
発しており、かなり強気です。それには、どうやらロシアが絡ん
でいると思われますが、これについては改めて述べます。
 しかし、その一方で、5月16日、米原子力空母「ロナルド・
レーガン」が米海軍横須賀基地を出港しています。行き先は発表
されていませんが、朝鮮半島に向うものと思われます。朝鮮半島
周辺の海域には、既に米空母「カール・ビンソン」がいるので、
もし、ロナルド・レーガンが朝鮮半島に向うと、空母2隻体制に
なります。実際に戦闘をはじめるのに近い体制です。
 この状態でもし北朝鮮が核実験をやったら、米国はどう対応す
るのでしょうか。レッドゾーンを明らかに越えています。それで
もトランプ政権が中国に頼り、対話路線を探ろうとするのでしょ
うか。それでは、朝鮮半島周辺への空母打撃群の派遣は何だった
のでしょうか。それとも一転して米国は北朝鮮への限定攻撃を行
うのでしょうか。これについては来週のEJで詳しく述べます。
             ──[米中戦争の可能性/093]

≪画像および関連情報≫
 ●米国は北朝鮮を攻撃できるか?/辺真一氏
  ───────────────────────────
   トランプ政権のシリア空爆は、米国にとって越えてはなら
  ない一線を越えたら、軍事力を行使する決意を実際に行動で
  示したことになる。
   特に、米中首脳会談最中にシリアへの軍事行動に踏み切っ
  たことは「中国が北朝鮮の核開発阻止に協力しなければ、米
  国が独自に行動する」とのトランプ大統領の警告が、決して
  ハッタリではないことを見せつける結果となった。
   これに対して北朝鮮外務省は8日の談話で「一部にはシリ
  アに対する米国の軍事攻撃が我々に対する警告的行動である
  と騒いでいるが、そんなことに驚く我々ではない」と米国の
  威嚇を一蹴した。逆に「シリアの事態は、我々に帝国主義者
  らへの幻想は絶対禁物である」と述べたうえで「今日の現実
  は力には力で対抗し、核武力を常時強化してきた我々の選択
  が千万回正しかったことを立証した」と、核兵器を軸とした
  自衛的国防力を引き続き強化することを強調した。
   仮に金正恩政権が米国のシリア空襲に恐れおののいている
  なら、容易には6度目の核実験に踏み切れないだろう。換言
  すれば、史上最大規模の米韓合同軍事演習の最中にそれも3
  月中旬に演習に参加し、引きあげたばかりの原子力空母「カ
  ール・ヴィンソン」が再び朝鮮半島に派遣されている状況下
  で、それもシリア空爆の後に核のボタンを押すのはよほどの
  覚悟ができなければできない。   http://bit.ly/2nxsXbk
  ───────────────────────────

米戦略爆撃機「B─52」.jpg
米戦略爆撃機「B─52」
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2017年05月22日

●「北朝鮮の情報を把握している米軍」(EJ第4524号)

 米国が北朝鮮を軍事攻撃する可能性はあるのでしようか。現時
点では「あり得ない」という声が圧倒的です。「あまりにも犠牲
が大き過ぎる」というのがその理由です。
 しかし、これと同じ質問をドイツ国際政治安全保障研究所のハ
ンス・ギュンター・ヒルペルト氏にすると、次のように答えてい
ます。このインタビューは、2017年5月18日付の日本経済
新聞に掲載されていたものです。
─────────────────────────────
 可能性はある。北朝鮮への攻撃は朝鮮半島や日本に大損害をも
たらす悪夢のシナリオだ。だから米国はこれまで慎重だった。だ
が緊張が高まり、米朝両国は実体的なパイプを持っていないよう
にみえる。どちらかが相手の出方を読み違え、偶発的に危機が拡
大する恐れがある。
 北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)で米国を攻撃できる
ようになることを大統領は許さない。米国はいま何か動かさなけ
ればならない。交渉や制裁が失敗すれば戦争もあり得なくない。
         ──2017年5月18日付、日本経済新聞
─────────────────────────────
 はっきりしていることがあります。それは、このハンス・ギュ
ンター・ヒルペルト氏もいうように、米国は北朝鮮が直接米国本
土を狙える核・ミサイル(ICBM)を開発したときは、絶対に
北朝鮮を許さないということです。つまり、そのさいは、実力行
使は十分あり得るというわけです。
 北朝鮮が14日に打ち上げた「火星12型」について、米国は
その飛翔距離から「ICBMではない」としているものの、技術
的にはICBMの完成であると考えています。そうであるとする
と、そのICBMが実戦配備される前に米国としては手を打つ必
要があります。今の段階でそれを排除しておかないと、大変なこ
とになるからです。つまり、米国は北朝鮮を限定攻撃をする可能
性は十分あるわけです。
 まして現在、朝鮮半島周辺海域には米空母カール・ビンソンを
中心とする複数の艦艇と原子力潜水艦ミシガンと、それと同級の
潜水艦が配備されており、もう一隻の米空母ロナルド・レーガン
も朝鮮半島に向かっています。つまり、米国はいつでも北朝鮮に
対して限定攻撃ができる態勢にあります。
 しかし、米国は全面戦争だけは避けたいと考えています。その
ための課題は、いかにして初期の攻撃で、北朝鮮の報復攻撃能力
を殲滅するかにあります。実はミサイルの発射よりも怖いのは、
DMZ(非武装地帯)にある1万5千ものロケット砲です。これ
が発射されると、まさにソウルは火の海になります。
 実は米韓両軍は、北朝鮮の核施設や軍事基地、空軍基地、部隊
の正確な位置、ロケット砲の配置、高性能レーダー基地、地下基
地、その出入り口と換気施設など、あらゆる精密な情報を入手し
ているといます。しかも、リアルタイムで更新を続けているので
す。まして、北朝鮮の内部を探る偵察機などは、カール・ビンソ
ンに搭載され、朝鮮半島周辺にいるのですから、日々時々刻々情
報を入手しているはずです。
 韓国国防省で、情報参謀などを務めた高永拓殖大学客員研究員
は、これについて次のように述べています。
─────────────────────────────
 米国は、偵察衛星やU−2偵察機、無人偵察機グローバルホー
ク、さらに高性能カメラを備えたドローンなどを駆使して、24
時間、移動などの情報を監視。「ターゲットリスト」をリアルタ
イムで更新しているのです。北のあらゆる拠点が対象になってい
ます。           ──『週刊文春』/5月18日号
─────────────────────────────
 これに加えて、韓国国家情報院は、脱北者から詳しい情報の聞
き取りをしています。韓国国家情報院のある幹部は、その徹底し
た諜報活動について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 韓国に約3万1千人いる脱北者からは国情院が丹念に聞き取り
を行ない、北の主要な施設や生産拠点の情報はほぼ抑えている。
彼らの中にはかなり重要度の高い施設で働いていた人間が数多く
います。金正日時代でも、平壌で行なわれた軍事パレードの映像
を、北朝鮮の領空内に偵察機を一切入れずに撮っています。ハイ
ビジョンカメラで捉えたような映像でした。
 また、米国は、北朝鮮の核実験を評価するため、協力者を現地
に送り込み、実際に該当地域の土壌や水を調査用に持ち帰らせて
いるのです。        ──『週刊文春』/5月18日号
─────────────────────────────
 実は、朝鮮半島周辺海域に展開する米海軍は、トランプ大統領
の命令が出れば、直ちに攻撃を実行できる態勢にあります。この
場合、米軍による単独攻撃になると思います。問題は、この場合
中国はどのように対応するでしょうか。
 この中国の軍事介入について、2017年4月22日付の「環
境時報」は次のように書いています。
─────────────────────────────
 戦争が起こることには反対するが、しかし万一戦争が始まった
時には、中国はどのような立場を取るかに関して、米朝に通報す
る。もし北朝鮮が核・ミサイルの活動を展開し続け、米国がそれ
らの施設に外科手術的(=武力的)攻撃をしたならば、中国は、
(戦争行為をしたことに対して)外交的抗議を表明するだろうが
軍事的介入はしない。ワシントンは北朝鮮がソウル地区に報復的
攻撃をするであろうリスクを十分に考えなければならない。これ
らのリスクは米韓にとって耐え難いほど重いものとなるだろう。
                   http://bit.ly/2pNHJf6
─────────────────────────────
 つまり、中国は米国による北朝鮮への限定攻撃には軍事介入し
ないといっているのです。これは中国の大きな譲歩であるといえ
ます。          ──[米中戦争の可能性/094]

≪画像および関連情報≫
 ●日米の有事態勢/米軍空母増派が「サイン」
  ───────────────────────────
   緊迫化する北朝鮮情勢をめぐり、トランプ米政権は軍事力
  行使を選択肢に含む牽制の動きを続けている。現在でこそ米
  海軍の原子力空母カール・ビンソンが日本海に展開するなど
  米軍の威力を誇示する段階にとどまっているが、4月27日
  にはトランプ大統領が「北朝鮮との非常に大規模な紛争に行
  き着く可能性は当然ある」と発言した。トランプ政権の軍事
  オプションを実行する米軍は、いかなる態勢で北朝鮮と向き
  合っているのか。そして自衛隊はどのような役割を果たすの
  か。(千葉倫之、杉本康士)
   カール・ビンソンは米軍が10隻保有する原子力空母の1
  つ。同艦を中核とする第1空母打撃群は駆逐艦2隻、巡洋艦
  1隻などで構成される。FA18戦闘攻撃機約50機のほか
  早期警戒機や電子戦機など、約70機の艦載機を搭載してい
  る。ただ、カール・ビンソンが展開しただけで対北朝鮮攻撃
  を実行する態勢が整ったとは言い難い。湾岸戦争やイラク戦
  争など米国が過去に遂行した戦争では、いずれも複数の空母
  が同時展開して作戦に従事した。航空自衛隊関係者は「現段
  階では北朝鮮を威圧する政治的な行動にとどまっている」と
  語る。5月上旬に定期整備を終える米海軍第7艦隊の空母ロ
  ナルド・レーガンに加え、米本土から空母が周辺海域に展開
  すれば、米国が本気で準備に入ったサインだと捉えることが
  できる。             http://bit.ly/2pWBeTp
  ───────────────────────────

朝鮮半島周辺海域に展開するカール・ビンソン.jpg
朝鮮半島周辺海域に展開するカール・ビンソン
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2017年05月23日

●「米朝もし戦えば1時間で反撃封殺」(EJ第4525号)

 北朝鮮核・ミサイル問題を論理的に解いてみると、どういう答
えが出るでしょうか。
 結論からいうと、この問題の米国にとってのベストの解決策は
北朝鮮への限定攻撃によって核・ミサイル関連施設を破壊するこ
としかないのです。しかし、中国との約束により、北朝鮮という
国家は存続させる方針です。
 元自衛艦隊司令官の香田洋二氏は、米国と北朝鮮の神経戦につ
いて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 この事態が起きる可能性は、昨年から徐々に高まっていたとい
える。私は昨秋には、米朝の軍事衝突の可能性が20〜30%に
なっていたと分析しており、機会をとらえ警告を発していたが、
可能性は2017年1月1日のICBM最終段階宣言でさらに高
まり、トランプ政権誕生で現実味を強めていったのである。無論
北朝鮮も米国も自らのメンツだけにこだわって対立をエスカレー
トさせたのではない。まして金正恩が自暴自棄になっただとか、
トランプが感情的になっただとか、そういう話では断じてない。
 単純に言えば、北朝鮮は自国の存続のために、米本土に届く核
ミサイル開発で米国を交渉の場に引きずり出そうとし、米国は多
数の自国民が核ミサイルによって死ぬ事態だけは断じて避けなけ
ればならないと考え、両者がギリギリの政治戦と神経戦を繰り広
げた結果なのである。  ──『月刊正論』/2017年6月号
                   http://bit.ly/2ry8P6g
─────────────────────────────
 米国、とくに現在の米政権は「アメリカ・ファースト」を標榜
するトランプ政権です。当然のことながら「米国は多数の自国民
が北朝鮮の核・ミサイルによって死ぬ事態だけは、断じて避けな
ければならない」と強く考えています。
 香田洋二氏は、現在の米軍が北朝鮮を限定攻撃するシミュレー
ションを『週刊文春』5月18日号で解説しています。
─────────────────────────────
 米朝もし戦わば「1時間で平壌制圧」/元海自司令官ら断言
              ──『週刊文春』5月18日号
─────────────────────────────
 香田洋二氏によると、攻撃は2波にわたって行われますが、そ
のターゲットについては次のように述べています。
─────────────────────────────
 まず、ソウルに多連装ロケット砲が向けられている長距離砲兵
部隊、「ノドン」「テポドン」などで日本を射程に収める弾道弾
部隊が目標となります。同時に、巡航ミサイルの撃墜防止のため
北朝鮮の東西両海岸にあるレーダサイト、対空ミサイル、高射砲
部隊への攻撃が1次攻撃の中心となる。これは2次攻撃を行う際
の有人攻撃機への脅威の低減も兼ねます。地下基地・施設はかな
り深度のあるものもあり難敵ですが、出入り口と換気施設の破壊
は比較的、容易に行なわれます。──『週刊文春』5月18日号
─────────────────────────────
 攻撃は、東の日本海と西の黄海から行われます。時間は夜明け
数時間前、500発から1000発のトマホークと空中発射巡航
ミサイル(ALCM)による集中攻撃が行われます。
 トマホークについては、原子力潜水艦ミシガンと同級の潜水艦
から発射され、ALCMは爆撃機によって発射されます。ALC
Mというのは、米空軍の長距離攻撃スタンドオフ兵器で、航空機
の子供のような形状の白いミサイル(添付ファイル参照)であり
ピンポイントで攻撃目標を的確に攻撃します。
 これらの原子力潜水艦からのトマホークの発射と同時に、攻撃
兵器の大量搭載が可能なB−52爆撃機、高速と低空飛行を得意
とするB−1爆撃機、B−2ステルス爆撃機が一斉に空母から発
進し、北朝鮮の高性能レーダー基地、内陸部の地下基地攻撃には
レーダーに探知されにくいB−2が、対空火力の強い防空施設に
はB−1による奇襲集中攻撃を行います。
 これと同時並行に行われるのが、電波・通信網の撹乱です。こ
れについて、香田洋二氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 電波・通信網の撹乱は、電子戦機「EA−18Gグラウダー」
によって、対空警戒監視レーダー、飛行中のミサイルなど、電波
・電磁波を含むすべての装置の無力化が可能と考えられます。
               ──『週刊文春』5月18日号
─────────────────────────────
 イラクのように拡散した地域と違って北朝鮮は地域が限定され
ているので、その攻撃効率は高く、香田洋二氏によると、第1波
の夜明けの一斉攻撃による北朝鮮兵力の陸上からの反撃は、航空
機を含めほぼ皆無であるとしています。
 ある韓国国防省関係者は、米軍が、北朝鮮への軍事行動に踏み
切った場合、どのくらい時間を要するかについて、次のように述
べています。
─────────────────────────────
 北朝鮮の基本的な攻撃能力を無力化させるのにかかる時間は
 約1時間である。     ──『週刊文春』5月18日号
─────────────────────────────
 第1波の攻撃開始から2時間後に米軍内で攻撃評価が行われ、
巡航ミサイル約100発を使って第2波攻撃が開始されます。こ
の第2波攻撃について香田洋二氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 第2波は主として1次攻撃の“撃ち漏らし攻撃”への攻撃とな
ります。韓国と日本への攻撃を無力化し、脅威を最小化させる目
的です。防護態勢が最も手厚い平壌や、他の政治・経済の重要地
域の防空部隊・防衛部隊などの優先度は低くなります。
               ──『週刊文春』5月18日号
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/095]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプが今やろうとしていること/高橋洋一氏
  ───────────────────────────
   筆者は、東アジアの軍事バランスに常に注目している。た
  とえば、2012年8月27日付け本コラム「失われた20
  年で東アジアでの日本のプレゼンスは激減した。軍事費から
  分析する日中韓米露の『軍事力バランス』」では、古典的な
  リチャードソン型軍事モデルを使って、日本の周辺国の軍事
  バランスを分析している。     http://bit.ly/2qyp9Gz
   それによれば、日本の周辺国の軍事バランスは最近崩れて
  おり、これが地域の不安定を読んでいる、ということが分か
  る。この状態は長期的に続いており、ますます不安定になっ
  ている。オバマ大統領時代、アメリカは物わかりのいい国に
  なっていた。オバマ大統領は、「アメリカは世界の警察官の
  役目をもはや果たさない」というスローガン通りに行動し、
  それが世界の不安定化を招いていた。
   その例は、北朝鮮の核・ミサイルの挑発、ロシアのクリミ
  アやシリアへの介入、中国の南シナ海への勢力拡張である。
  それらが、具体的な東アジアの軍事バランスの変化にも数字
  として表れている。
   一方、トランプ大統領は大統領選挙期間中、アメリカ第一
  の姿勢から世界各地での紛争には手を出さないという姿勢で
  いた。そのままであれば、5年前に本コラムで分析した軍事
  バランスは今後もより不安定にならざるを得ないので、東ア
  ジアはいつ軍事紛争があってもおかしくない地域になってい
  ただろう。            http://bit.ly/2qEsAtP
  ───────────────────────────

巡航ミサイル/ALCM.jpg
 
巡航ミサイル/ALCM

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2017年05月24日

●「北朝鮮軍の『最後の切り札』とは」(EJ第4526号)

 米国が北朝鮮への軍事オプションをとるとしても、中国との関
係で、地上兵力を北朝鮮へ送り込むことはできないのです。した
がって、やれることは空爆だけです。これに加えて、特殊部隊に
よる、いわゆる「斬首作戦」を組み合わせるのが「限定攻撃」と
いうことになります。
 しかし、これで北朝鮮の反撃を抑えることは、ほとんど困難で
あるといえます。したがって、昨日のEJ第4525号でご紹介
した北朝鮮軍事オプションは、あくまでひとつの攻撃シミュレー
ションのひとつに過ぎないのです。
 北朝鮮は、朝鮮戦争の教訓にならって、北朝鮮全土を細かく区
分し、それぞれに通信、食料、医療、戦闘など最低限の機能を持
たせるようにし、たとえ国土が分断されても独自に抗戦できるよ
うにしているのです。これらの拠点を数次の攻撃ですべて破壊す
るのはほぼ困難です。それに加えて、北朝鮮には次の3つの「最
後の切り札」があるのです。
─────────────────────────────
      1.ソウルを火の海にできる長距離砲
      2.核や生物兵器による大量破壊兵器
      3.20万人以上の強力特殊作戦部隊
─────────────────────────────
 第1は「ソウルを火の海にできる長距離砲」です。
 これらの長距離砲は通常兵器ですが、何しろ数が多いので、防
戦が困難です。射程20キロ程度の小口径砲、ソウルを射程に収
める240ミリ、南方のキョンキド、ピョンテクにある米軍基地
にまで届く300ミリなど多彩な長距離砲が少なくとも1000
門以上あることは確かです。
 問題は、これらの長距離砲群を各種ミサイルや航空攻撃ですべ
て制圧できるかどうかです。設置場所についてはほとんど把握で
きているといわれますが、北朝鮮軍はこれらの長距離砲を山脈沿
いにくり抜いた坑道に隠しており、複数の出口を使って攻撃する
ようにしているので、すべてを破壊することは困難です。
 韓国・慶南大学の金東葉博士は、これらの長距離砲について次
のように述べています。
─────────────────────────────
 航空機による攻撃で、50%の砲門を破壊した場合でも、1時
間で3000発以上の砲弾がソウルに降り注ぐ計算になる。その
場合、ソウルの5〜7%程度が破壊される。
           ──高山右近大夫長房の情報配信ブログ
                   http://bit.ly/2pVcBKD
─────────────────────────────
 第2は「核や生物兵器による大量破壊兵器」です。
 北朝鮮は、年間約80キロの高濃縮ウランを製造する能力があ
るといわれます。このことから北朝鮮は2020年までに計50
個の核爆弾を保有する可能性があります。
 それらの核爆弾を運ぶミサイルとしては、1000発以上の弾
道ミサイルを保有しています。そのほとんどは短距離の「スカッ
ド」ですが、射程1300キロの「ノドン」は約200発保有し
ており、これで日本と在日米軍基地を攻撃することができます。
 さらに、射程3000キロ以上の「ムスダン」は約40発保有
しており、これでグアムの米軍基地を射程に収めています。それ
に14日に発射に成功した新型ミサイル「火星15型」がありま
す。射程は4500キロを超えており、事実上のICBMです。
これは米本土まで届きます。
 これらの核兵器よりもやっかいなのは、生物化学兵器です。そ
れは25種類に及び、2500〜5000トンも保有しているの
です。これを弾頭に入れてロフテッド軌道で落とされると防御す
ることはきわめて困難です。
 第3は「20万人以上の強力特殊作戦部隊」です。
 どこの国にも特殊作戦部隊はありますが、北朝鮮のそれはとく
に強力です。「高山右近大夫長房の情報配信ブログ」に次の記述
があります。
─────────────────────────────
 軍事関係筋によれば、北朝鮮軍特殊部隊は、米海軍精鋭特殊部
隊シールズと同じように、7〜8人の少人数で、1戦闘単位を構
成。有事となれば、AN2軽飛行機やホーバークラフト、潜水艦
特殊工作船などで韓国や日本に侵入する。
 それぞれの戦闘小隊は平時には、日韓の特定の施設、たとえば
「官庁」「放送局」「駅」など、市民生活を混乱に陥れる重要な
ソフトターゲットを一つずつ割り当てられ、全く同じ模型を相手
に連日、襲撃・制圧する訓練を続けているという。同筋は「狭く
て暗い場所での戦闘能力などに優れ、1人で一般の兵士5〜6人
に相当する力がある」と語る。     http://bit.ly/2pVcBKD
─────────────────────────────
 辺真一氏によると、北朝鮮の特殊作戦部隊の強さは、体力など
の訓練に加えて、思想教育が徹底していることにあるといってい
ます。それはかつての日本軍に似ているところがあると辺真一氏
はいい、次のように述べています。
─────────────────────────────
 北朝鮮の特殊部隊隊員の思想教育は特に徹底しており「将軍様
の命令とあれば、爆弾を抱えて敵陣に飛び込むことも辞さない」
との「特攻精神」で武装されている。実際に2009年4月に衛
星と称する長距離弾道ミサイルを発射した際には日米のイージス
艦による迎撃に備え、14人の空軍パイロットから成る特攻隊を
編成し、爆弾を搭載して、そのままイージス艦に突撃する訓練を
行っていた。潜水艦による北朝鮮武装兵士浸透事件で韓国軍に唯
一拘束された李光洙人民軍偵察局上尉は「死を覚悟している者に
は怖いものはなにもない。そのような教育を受けてきた」と筆者
に語っていた。            http://bit.ly/2rBrkYl
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/096]

≪画像および関連情報≫
 ●北朝鮮特殊部隊1万人が日本上陸で日本が戦場化
  ───────────────────────────
   北朝鮮が近く6回目の核実験を実施するとの観測が高まる
  なか、トランプ米大統領は対北軍事作戦の発動を辞さないと
  の構えを強めており、朝鮮半島有事が現実化しつつある。第
  2次朝鮮戦争が勃発すれば、韓国の釜山から日本の対馬まで
  わずか115キロメートルしか離れておらず、そこから九州
  は目と鼻の先だけに、日本も戦火に巻き込まれ、甚大な被害
  が出ることが予想される。
   日本政府がまず実施しなければならないのは、韓国に滞在
  する約6万人の邦人救出・避難作戦。さらに、朝鮮半島での
  戦火に逃げまどう韓国・北朝鮮人計30万人(初期段階)の
  難民の保護だ。戦闘が拡大すれば、北朝鮮から在日米軍基地
  に向けて打ち込まれるスカッドやノドンミサイルの迎撃態勢
  の整備が急務であり、その一部が都市部に到達し、一般国民
  も犠牲になることも否定できない。さらに、陸海空軍に所属
  する13万人の北朝鮮軍特殊部隊のうち、日本への攻撃に割
  かれる1個旅団、約1万の特殊部隊による日本本土でのテロ
  や奇襲攻撃にどう対処するのか。もはや朝鮮半島有事は対岸
  の火事ではなく、日本も戦場と化す「北東アジア戦争」とな
  る可能性が高い。         http://bit.ly/2qHbrQc
  ───────────────────────────

北朝鮮の特殊作戦部隊.jpg
北朝鮮の特殊作戦部隊
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2017年05月25日

●「本当に軍事オプションは不可能か」(EJ第4527号)

 5月22日の新聞報道で、中国は米国に対して、米国が北朝鮮
に具体的な行動をとるまでの猶予期間として「100日間」を要
求していたことがわかったのです。両国の貿易不均衡是正のため
の100日計画とは別の約束です。
 米国は、中国が協力しない場合、北朝鮮と取引がある大手金融
機関を含む複数の中国企業に対して米国独自の制裁を加えると通
告しています。もし、これが行われると、米国の金融機関や企業
との取引が出来なくなるので、中国としては大きなダメージを被
ることになります。
 米中首脳会談は4月はじめに行われているので、100日とい
うと7月中旬になります。基本的に米国は、それまでは中国の対
応を見守るはずです。その間、北朝鮮がミサイルを発射するなど
の挑発行為をしても動かないと考えられます。これについて辺真
一氏は次のようにコメントしています。
─────────────────────────────
 コリア・レポート編集長の辺真一氏は「北朝鮮問題はしばらく
中国に任せておこう」ということではないか、との持論を展開し
た。しかし、その中国に対して北朝鮮が対抗姿勢を取っていると
いう懸念もある。3日付の朝鮮中央通信は「中朝関係の根本を否
定し、親善の伝統を抹殺する妄動だ。友好がいくら大切だとして
も命同然の核と引き換えにしてまで懇願しない」との記事を掲載
した。中国と北朝鮮の比較的友好だった関係が悪化し、中国が北
朝鮮に対する締め付けを強化すれば、トランプ大統領としては狙
い通りということになるのだろうか。  http://bit.ly/2rrKBym
─────────────────────────────
 米国と北朝鮮との対話は、たとえそれが行われたとしても平行
線をたどることは必至の情勢です。北朝鮮は核を手放すことは絶
対にないし、米国はいま北朝鮮の核・ミサイルを容認すれば、子
孫の代まで北朝鮮に脅迫され続ける恐れがあり、それは絶対に容
認できないと考えているからです。このように米朝双方が譲らな
ければ緊張感が増すだけで、事態は硬直状態になります。つまり
この勝負は将棋でいえば、既に詰んでいます。
 マティス米国防長官は、19日の記者会見で、「もし軍事オプ
ションを取れば信じられない規模での悲劇が起きる」と発言し、
いまの段階での軍事オプションはないことを示唆しています。北
朝鮮は、この発言に「軍事オプションはない」と判断し、またし
ても弾道ミサイルを発射し、成功させています。米国と対話を行
う場合、有利なポジションを確保しておこうとしているのです。
 北朝鮮はさらにエスカレートして核実験を実施する可能性もあ
ります。これは北朝鮮にとっては大きな賭けですが、米国はそれ
でも何もできないと考えられます。おそらく米国は核実験を抑え
ることができなかった中国を責めると思います。中国は断油を含
む経済制裁をすると思いますが、北朝鮮はロシアに頼って危機を
脱すると思います。
 しかし、米国がそれでも何もしなければ、このチキンレースは
米国の負けであると世界が認めることになります。将棋でいえば
米国の投了です。プライドの高い米国がその屈辱を甘んじて受け
るとはとても思えないのです。
 そう意味において、米国が北朝鮮に対して軍事オプションをと
る可能性も十分あると考えます。その根拠になると思われるもの
は次の4つです。
─────────────────────────────
 1.カール・ビンソンとロナルド・レーガンという2隻の空
   母打撃群が既に朝鮮半島周辺海域におり、いつでも米軍
   は戦闘に入れる態勢にある。
 2.もし、トランプ政権が北朝鮮と対話し、仮に「核凍結」
   を勝ち取ったとしても、それではオバマ政権の「戦略的
   忍耐」と同じと批判される。
 3.今なら相当の被害が出るにしても、軍事オプションで米
   国は北朝鮮の脅威を取り除けると判断している。最終的
   に北攻撃の可能性はある。
 4.トランプ政権はロシアンゲートなどで支持率が低迷して
   いる。歴代政権では、こういう状況を打開するために軍
   事行動をとってきている。
─────────────────────────────
 北朝鮮が核・ミサイルを廃棄しない場合、軍事オプション以外
の手段では、経済制裁が現実的です。北朝鮮が核実験をした場合
中国は、中朝国境を閉鎖し、石油の供給を絞ることは米国との約
束もあるので、実施すると思います。
 北朝鮮と国境を接する中国の北部戦区は中央の習近平政権とは
距離があります。江沢民一派が仕切っており、北朝鮮といわゆる
辺境貿易を行っているのです。食糧などはこの辺境貿易を通じて
北朝鮮に入っています。したがって、中朝国境が軍隊で閉鎖され
ると、食料も止まってしまう可能性があります。
 このことを察知した金生恩委員長は、ロシアとの経済協力強化
に向け、ロシア極東ウラジオストクとの間の定期航路を開設した
のです。ニューズウィーク誌は、次のように報道しています。
─────────────────────────────
 朝鮮中央通信社(KCNA)によると、定期航路に就航する貨
客船「万景峰」号はこの日、北朝鮮の羅津港を出発した。「万景
峰は羅津ーウラジオストック間の国際的な観光船として、両国の
海上輸送や経済協力観光に前向きな貢献をするだろう」とした。
北朝鮮東部の清津のロシア総領事が貨物船を見送ったという。
                   http://bit.ly/2r7yczO
─────────────────────────────
 北朝鮮が中国を見限り、ロシアに接近すると、事態はさらに複
雑化します。世界を騒がせている北朝鮮とロシアが連携すると、
米国は一層手を出しにくくなるからです。ウクライナのときのよ
うに人道支援で食料品を届けるという名目で、ロシア軍が北朝鮮
に入る可能性もあります。 ──[米中戦争の可能性/097]

≪画像および関連情報≫
 ●プーチン大統領が北朝鮮に接近〜米中露の危険な駆け引き
  ───────────────────────────
   ソ連時代には北朝鮮とは密接な軍事協力をしてきた。そも
  そも朝鮮民主主義人民共和国、つまり北朝鮮の建国はソ連が
  主導したものだ。第二次世界大戦の後に、ソ連は朝鮮半島の
  北半分を占領し、ソ連軍抗日パルチザンの金日成氏を送り込
  んで、北朝鮮を作り上げた。朝鮮戦争では朝鮮半島の覇権を
  めぐってアメリカと戦った。冷戦時代には、ソ連は北朝鮮と
  軍事同盟を結び、北朝鮮の兵器の多くはソ連時代の中古品で
  あった。それをベースに、北朝鮮の軍事兵器が出来ていると
  言っていい状態であった。しかし冷戦の終わりは状況を一変
  させた。ソ連の後のロシア連邦と大韓民国、つまり、韓国は
  1990年に国交を結び、それからはロシアは北朝鮮からほ
  ぼ手を引き、韓国との関係を重視するようになった。
   ソ連崩壊後、軍事協力は事実上停止していた。2001年
  にロシアと北朝鮮は「防衛産業及び軍備分野における協力協
  定」と「2001年軍事協力協定」の二つの協定を結んだ。
  それもほぼ実質的なものにはならず、やっと最近になってこ
  の軍事協力が具体化しつつある。プーチン大統領と金正恩氏
  との関係は良いとは思えないが、プーチン大統領にとって北
  朝鮮は対アメリカ関係、対中国関係から重要性を増しつつあ
  る。北朝鮮の核実験やミサイル発射で国連が経済制裁を加え
  る決議をしても、抜け道を作り、北朝鮮を支えてきたのは中
  国だけでなく、ロシアもだ。国境を超えてロシア領に北朝鮮
  の労働者が送り込まれ、外貨を稼いできたと言われる。
                   http://bit.ly/2rGEXWo
  ───────────────────────────

北朝鮮の貨客船「万景峰」号.jpg
北朝鮮の貨客船「万景峰」号
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2017年05月26日

●「中国はなぜ民主国家になれないか」(EJ第4528号)

 ロシア・ゲート疑惑が広がり、トランプ政権が北朝鮮について
何を考えているかを探るために、安倍首相の外交担当補佐官であ
る河井克行氏は、安倍首相の命を受けて、ワシントンを訪問して
います。会った人は、共和党を中心に米議会の要人、シンクタン
クなどの複数の幹部です。
 24日の夕刊フジによると、実際に会ったのは、ジョン・マケ
イン上院軍事委員長、マイク・ロジャーズ下院軍事委員会戦略小
委員長、トム・コットン上院軍事委員会航空陸上小委員長、トム
・ダシェル元民主党上院院内総務、ウィリアム・ハガティ次期駐
日大使たちです。その結果わかったのは、次の5つです。
─────────────────────────────
 1.トランプ政権では、これまでは中東問題が最重要課題で
   あったが、現在では北朝鮮問題が最重要課題になってい
   る。空母を2隻配置するなど、全力を上げている。
 2.北朝鮮の金生恩朝鮮労働党委員長の方が、習近平中国国
   家首席よりも上位に立っている。北朝鮮はすべてを見透
   かしており、中国をナメ切っているようにみえる。
 3.中国の北朝鮮に対する圧力には、現時点では低い評価し
   かできない。圧力はきわめて不十分であり、十分効果を
   上げていない。北朝鮮に変化を起こさせていない。
 4.米国と北朝鮮との直接対話については、人によって意見
   が分かれるが、対話をしても意味がないと考える。米国
   は対北朝鮮政策について、ジレンマを抱えている。
 5.韓国で文在寅大統領が誕生したことには違和感をおぼえ
   ざるを得ない。「親北」の文在寅氏を大統領に選出する
   韓国世論には、きわめて強い不信感を持っている。
─────────────────────────────
 現在、北朝鮮問題は膠着状態に陥っています。その一方でトラ
ンプ政権は、ロシア・ゲートが深刻化しており、それどころでは
ない状況です。
 ここで話を中国に戻します。久しぶりにピーター・ナバロ氏の
本の問題を取り上げます。
─────────────────────────────
【問題】経済的関与がアジアの平和促進に果たす役割について正
しく述べている文を選べ
 「1」経済的関与によって、中国は独裁国家から、暴力や侵略
    に訴えることのないリベラルな民主主義国へと変わって
    いく。よって、経済的関与は平和の維持に役立つ。
 「2」経済的関与は、中国共産党の独裁的権力を強め、中国の
    軍事力増強に資金を提供したに過ぎない。

           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 この問題の正解は残念ながら「2」です。現在の中国をつくっ
てしまったのは米国であるといえます。日本にも応分の責任はあ
ります。中国を好戦的な独裁国家から、平和的でリベラルな民主
国家に変えるには経済支援を含む経済的関与によって、世界第1
位の米国と、2位の日本はこれまで大金を賭けてきたのです。
 実際にこの方法で、シンガポール、韓国、台湾などのアジア諸
国が独裁国家から民主主義国に移行しています。その移行を後押
しし、推進したのは、自由貿易とこれによってもたらされる外国
との経済的な関わりだったといえます。
 ラテンアメリカのアルゼンチンやチリやエクアドル、ヨーロッ
パのハンガリーや、ポーランドや、チェコ共和国などもかつては
独裁国家でしたが、今ではけっして豊かな国ばかりではないもの
の、完全な民主主義国になっています。こうした例にならえば、
中国も経済的関与を強めることによって民主主義国になれると、
これまで期待されてきたのです。
 しかし、中国だけは違ったのです。中国は、経済的に豊かにな
ればなるほど、その経済的エンジンが軍事力を強化することに結
び付き、その結果、中国共産党の独裁体制が、以前より強化され
るようになっています。
 今考えると、中国に対して一番間違った対応をしたのは、クリ
ントン大統領だったといえます。クリントン大統領は、任期満了
直前の2000年に、米国経済界の後押しを受けて、中国との経
済的な関わりを強めるために議会に中国のWTO加盟を支持する
よう求め、次のように演説したのです。
─────────────────────────────
 経済面から見れば、この(中国のWTO加盟)承認は一方通行
の道路のようなものだ。中国がWTOに加盟すれば、世界人口の
5分の1を擁する市場、つまり世界最大の潜在的市場が開かれる
ことになる。史上初めて、中国がわれわれと同じように、開かれ
た通商ルールに従うことに同意するのだ。史上初めて、アメリカ
の労働者によってアメリカで作られた製品を、アメリカ企業が中
国で販売することができるようになるのだ。
           ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
 この結果、何が起きたのでしょうか。
 中国がWTOに加盟すると、雪崩を打つように米国企業は生産
拠点を中国に移したので、米国では7万を超える工場が閉鎖に追
い込まれ、失業者は2500万人以上になったのです。そして米
国の貿易赤字は年間3000億ドルに膨れ上がり、現在、米国の
対中貿易赤字は何兆ドルにも達しています。
 この点をとらえて、ピーター・ナヴァロ氏はクリントン大統領
を「壊滅的な経済的帰結を招いたという点でこれほど誤った判断
を下したアメリカ大統領は他にいない」とまでいっています。
 それでも中国が民主主義国家になったのであれば、無駄なこと
ではなかったのですが、経済成長は民主化にはつながらなかった
のです。         ──[米中戦争の可能性/098]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の民主化、困難な理由と実現の可能性を問う
  ───────────────────────────
   中国は民主化する可能性があるのか。“中国屋”と呼ばれ
  る中国専門ジャーナリストや研究者の永遠のテーマだが、先
  日、米国最大手の中国の民主化運動を推進するNGO・公民
  力量の主宰者、楊建利が東京を訪れていたので、私もインタ
  ビューしたし、明治大学現代中国研究所が主催した講演会に
  も行ってきた。独裁体制をより強化しようとする習近平政権
  の登場で、中国の“党内民主”化は以前よりも遠のいたよう
  ではあるが、楊建利が“中国の民主化をあきらめない”とす
  る分析もなかなか興味深いので、ここで紹介したい。
   楊建利は高校を経ずに飛び級で山東省師範学院数学系に入
  学し、1989年の民主化運動に参加したのち米国に移住。
  ハーバード大学で政治経済学、カリフォルニア大学バークレ
  ー校(UCバークレー)で数学の博士の学位を取得し、米国
  に拠点を置きながら、中国民衆の権利と自由を推進する活動
  を続けてきた。当然、中国当局からは中国入国拒否のブラッ
  クリストに入る人物だが、2002年に中国東北部の失業者
  大規模デモの状況を視察するため、他人のパスポートで入国
  したところを逮捕され、不法入国などで5年間投獄された経
  験を持つ。2007年、当時のブッシュ大統領の働きかけで
  釈放され米国帰国後、中国のNGO・公民力量を創設し、中
  国の民主化を海外から働きかける。http://nkbp.jp/2qZaR2c
  ───────────────────────────

河井克行外交担当補佐官.jpg
河井克行外交担当補佐官
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2017年05月29日

●「独裁国を民主化させるキーワード」(EJ第4529号)

 米国による大規模な経済的関与の恩恵を受けながら、中国はか
えって国家の独裁性を強め、経済的利益の多くを軍事力強化に注
ぎ込み、現在アジア全般にわたって覇権を強めつつあります。ど
うしてこうなってしまったのでしょうか。
 クリントン元大統領は、中国に相応の市場開放を確約させるこ
となく、米国が市場を大幅に開放すれば、経済的に大きなダメー
ジを受けることは最初からわかっていたのです。中国のWTO加
盟を認めることはそれを意味しているのです。
 WTOに加盟すれば貿易は増大する。そうなれば中国は民主主
義国へと変化せざるを得ない──クリントン元大統領はそのよう
に考えたのです。確かに世界の人口の5分の1を擁する巨大な市
場が開かれれば、米国にも大きな利益がもたらされます。そして
中国が民主国家になれば、合わせて平和がもたらされるに違いな
いと考えたのです。
 しかし、中国は、あらゆる機会をとらえて自由貿易システムを
操作し、それによって利益を最大化することによって、自国経済
のみを発展させたのです。そして、米国経済に深刻なダメージを
与えたのです。「経済的関与が民主化と平和を促進する」という
考え方は、中国には通じなかったのです。
 「経済的関与が民主化と平和を促進する」──この主張の論拠
について、ピーター・ナヴァロ氏は、「USA★エンゲージ」の
ウェブサイトを見ることを推奨しています。この「USA★エン
ゲージ」自体については後で述べることにし、最初にその主張を
紹介することにします。キーワードは次の3つです。
─────────────────────────────
      1.成長する中間層の有する変革力
      2.第三者組織の数と種類と影響力
      3.情報流入量の増大とそのパワー
─────────────────────────────
 第1は「成長する中間層の有する変革力」です。
 これについて、「USA★エンゲージ」は次のように主張して
います。
─────────────────────────────
 市場経済の発展は、教育の普及、社会の外界への開放、独立し
た中間層の発達など、社会に変化をもたらし、それが独裁的支配
への逆風になる。   ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 経済が発展すると、中間層が発生し、社会のなかで一定の影響
力を持つようになります。これらの中間層は、一般論として、政
治的自由、法による支配、腐敗の一掃などを要求するようになり
政府は中間層に支持を求めざるを得なくなって、国は民主化の道
を進むことになるというのです。
 第2は「第三者組織の数と種類と影響力」です。これについて
「USA★エンゲージ」は次のように主張しています。
─────────────────────────────
 経済発展は国家と社会との関係をも変える傾向がある。経済が
発展するにつれて、国家をチェックし、政治参加の幅を広げる第
三者組織の数と種類が増え、就業や富の蓄積の機会に対する国家
管理や腐敗や情実は減少する傾向がある。
  シーモア・マーティン・リプセットスタンフォード大学教授
           ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
 経済が発展し、中間層が豊かになり、生活が安定化してくると
第三者組織が増加し、政治参加を求めるようになります。そして
環境保護、人権、言論の自由などのチェックを強めるようになり
国は民主化に向ってさらに前進します。
 第3は「情報流入量の増大とそのパワー」です。これについて
「USA★エンゲージ」は次のように主張しています。
─────────────────────────────
 経済が外に開かれれば、情報の流入量は飛躍的に増大する。イ
ンターネット、テレビ、書籍、新聞、コピー機、外国の雑誌、あ
りとあらゆる形態の大衆的娯楽及び知的見解が流入しい始め、民
主主義、人権、法による支配といった思想を広めていく。
        ヘンリー・ローウェンスタンフォード大学教授
           ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
 経済活動が活発になると、必然的に外部からの情報流入量が多
くなります。まして現代は情報社会であり、あらゆる情報通信手
段があり、外部からの情報流入を止めることは困難です。
 ピーター・ナヴァロ氏は、「USA★エンゲージ」について次
のように説明しています。
─────────────────────────────
 「農業団体とメーカーの幅広い連合」と自称する団体で、その
メンバーにはアップル、ボーイング、キャタピラー、コナグラ、
ユニオン・カーバイド、ウェステングハウス、ゼロックスなどそ
うそうたる米国の多国籍企業が名を連ねている」とあります。
                   http://bit.ly/2r7u4yY
─────────────────────────────
 「経済的関与が民主化と平和を促進する」という主張は、こう
した多国籍企業にプラスの結果がもたらすのです。確かに多国籍
企業の立場に立つと、独裁国家、とくに中国は一大市場であると
いえます。そこでは、労働力のコストは安く、税負担を劇的に軽
減できることや、厳しい環境保護規定や安全規定も存在しないの
で、移すべき生産拠点としては絶好の環境なのです。
 しかし、中国は実にしたたかだったのです。中間層とは取引を
して沈黙させ、第三者組織を監視する機関を作り、情報流入につ
いては5万人にも及ぶ「サイバーコップ」軍団を動員して都合の
悪い情報は封じ込めているのです。そこには絶対に民主化などし
ない意思を感じます。   ──[米中戦争の可能性/099]

≪画像および関連情報≫
 ●日本を不幸にする中国の民主化/田中宇氏
  ───────────────────────────
   オーストラリアの軍隊系のシンクタンクが「中国が民主化
  すると、大衆扇動型の指導者が出てきて、反日・反欧米感情
  やナショナリズムを扇動する傾向が強まって、何をしでかす
  か分からない国に変質する恐れがある。豪州やアジア諸国に
  とっては、今の共産党独裁体制の中国の方が、国家としての
  行動パターンが分かりやすいので良い」とする分析書を発表
  した。
   オーストラリア戦略政策研究所が発表したこの分析書によ
  ると、中国経済の発展は輸出が基盤であり、世界との関係を
  悪化させることは自国経済を自滅させるので、中国政府がす
  すんで海外と敵対する政策を採ることはあり得ない。だが、
  今後の民主化によって国内政治が不安定になった場合、どこ
  か外国との敵対関係を煽り、国民のナショナリズムを扇動す
  ることで、指導力を維持しようとする政治家が現れる可能性
  がある、と分析書は予測している。
   私も、この分析書の見方には賛同する。中国に限らず、ロ
  シアやイラクなど世界の多民族国家の多くは、リベラルな民
  主主義をやろうとすると、矛盾する各派の主張に収拾をつけ
  られず、国内が混乱する。特に中国は、表向きは「漢民族が
  国民の9割」とされているものの漢民族の地域でも100キ
  ロも移動すれば話し言葉が変わるような多様性の強い社会で
  あり、単一国家として維持できているのが不思議なぐらいで
  ある。              http://bit.ly/2rIGXAf
  ───────────────────────────

クリントン元米大統領.jpg
クリントン元米大統領
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2017年05月30日

●「中国経済実態は既に崩壊している」(EJ第4530号)

 中国経済はどうなっているのでしょうか。2016年は中国経
済悪化のニュースが頻繁に飛び込んできたものですが、2017
年に入ると、そういうニュースは影を潜めています。
 しかし、それは中国の景気が回復したということではなく、中
国当局が経済のマイナス報道の規制を行っているからです。それ
では、その実態はどうなのでしょうか。
 中国経済の現況を正しく把握するために、歴史的に中国経済の
重要な動きについて、以下に簡単にメモしておきます。
─────────────────────────────
     1980年 ・・・・ 改革開放路線開始
     1990年 ・・・・ 証券取引所を開設
     1994年 ・・・・ 管理変動相場制へ
     2001年 ・・・・ WTOに正式加盟
     2016年 ・・・・ 人民元SDR入り
─────────────────────────────
 中国の改革開放路線は、ケ小平政権時代の1980年代から始
まっています。社会主義国が特区方式で、実質的な資本主義化を
実現するという「社会主義市場経済」がスタートしたのです。世
界ではじめてのことです。
 それは、1990年代の江沢民政権のときに加速し、上海に証
券取引所を開設し、株式会社方式を導入します。その頃から消費
者物価指数が上昇し、1994年までに2ケタのインフレを記録
しています。1994年に二重相場制から「管理された変動相場
制」に移行し、人民元を大幅に切り下げています。
 アジア通貨危機を経て、中国経済は安価な労働力と資源を背景
に急速に工業力を付けて輸出を大幅に伸ばしたのです。その結果
2000年には米国の対中貿易赤字が対日赤字を上回ってしまっ
たのです。
 このような工業化を遂げて世界の経済大国になった中国に対し
米国のクリントン政権の強い後押しによって、2001年12月
に中国はWTO(世界貿易機関)加盟を果たすのです。このよう
にして、13億人の巨大市場である中国貿易は自由化され、20
04年に中国は遂に日本を抜いて世界3位の経済大国になったの
です。そして、2016年10月に人民元はIMFでSDR(特
別引出権)を獲得し、国際通貨になったのです。ちなみに中国で
はこのSDR入りのことを「入籠(ルーラン)」といいます。
 このように書くと、中国経済は前途洋々のようにみえますが、
本当のところは四苦八苦の状態です。社会主義市場経済というも
のがうまく機能しなくなっているのです。
 2016年12月は中国がWTOに加盟して15周年だったの
ですが、そのためのイベントは開かれていないのです。とにかく
習政権になってから、経済の面ではきわめて不振なのです。もと
もと社会主義国において市場経済を行うのは、資本主義への傾斜
を強めなければならないのですが、習近平政権では逆に社会主義
への傾斜を強めているので、いろいろなところに矛盾が噴き出し
てきています。
 既出の近藤大介氏の本に、ある中国経済関係者の声が出ていた
のでご紹介します。
─────────────────────────────
 WTOの議定書には、中国の加盟から15年経ったら、加盟国
は中国を『市場経済国』と認定し、中国の輸出品に対する反ダン
ピングの関税算定の代替国から外すと記されている。だが、現実
はどうだ?アメリカが拒否し、EUが拒否し、日本も拒否してい
る。先進国が揃って、WTO違反を犯しているのだ。
                  ──近藤大介著/講談社
     『活中論/巨大化&混迷化の中国と日本のチャンス』
─────────────────────────────
 この発言を聞くと、いかに中国がわかっていないかがよくわか
ります。中国のWTO加盟のいきさつから考えて、15年も経て
ば、中国は社会主義国が市場経済を行うことによって表面化する
数々の矛盾を解決して、独裁国家から脱却するだろうと西側先進
国は期待していたのです。なぜなら、経済面の矛盾を修正しよう
とすると、資本主義化せざるを得ないからです。しかし、習政権
になってからは、資本主義化ではなく、社会主義化を強めている
のです。これでは「市場経済圏」と認定することは困難です。
 中国経済の矛盾の兆候がさまざまな面に出てきています。その
実態について、中国に詳しい福島香織氏は「すでにクラッシュし
ている」といっています。それを社会主義国の特有のからくりと
嘘でもって大丈夫なように見せているというのです。統計数字の
水増しをはじめ、地方政府、国有企業、銀行の巨額債務をいかに
して隠すかについて研究しているのです。
 それでは、一体そのシナリオはどうなるのかについて、福島氏
は次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国の経済崩壊とは、じつはすでに崩壊している経済の実態を
受け入れることなのだ。中国では実質破綻状態にありながら、中
央政府からの補助金で倒産せずにいる国有企業を「ゾンビ企業」
と呼んでいるが、中国経済がすでに「ゾンビ経済」なのだ。すで
に死んでいる経済をきちんと死なせる。そのとき、何が起きるの
か。最悪のシナリオは、国有企業と銀行の倒産ラッシュ、大量の
失業者の出現、ようやく形成されてきたそこそこ豊かな中間層の
消失、人民元の大暴落と消費者物価のハイパーインフレ・・・。
当然日本を含む世界経済も無傷ではいられない。だが本当に恐ろ
しいのは、突如、人民元が紙くずとなり財産を失った人民の怒り
が社会不安を引き起こし、それを政権が力ずくで抑え込もうとす
るときに発生する流血と混乱の可能性だ。
        ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
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             ──[米中戦争の可能性/100]

≪画像および関連情報≫
 ●中国はいつ崩壊するの?/梶井彩子氏
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   「中国崩壊」が指摘されるようになって、一体、何年経つ
  だろうか。体制どころか経済さえも、まだまだ崩壊している
  ようには見えない。それどころか、緩やかに衰退するアメリ
  カを凌駕せんとする勢いは、今なお継続されているように見
  える。「中国崩壊論」を注意深く読めば@条件付き崩壊(○
  ×になった時、崩壊する)A崩壊が「始まった」(完全崩壊
  までに何年もかかる)B実質はすでに崩壊している(にもか
  かわらず表向きそうは見えない)――というものに分けられ
  る。確かに説得力があると思われるデータを提示しているも
  のもある。常に自虐的で「日本もうダメ」「中国に従うしか
  ない」とするような一部の人々もいることを考えれば、「中
  国にもこれだけの弱点がある」「日本の方がずっと安定して
  いる。中国は崩壊しそうなほど不安定」とする論調に意味は
  ある。実際、不安定であることに間違いはないし、崩壊後の
  リスクも考えておかねばならない。「中国脅威論」を煽りす
  ぎるのが問題であるのも確かだ。
   だがそこは諸刃の剣。これは読む側が気を付けるべきこと
  だと思うが、「中国崩壊論」を読んで事実を把握する、ある
  いは溜飲を下げるだけでなく、読んだことで中国に対して、
  「油断」してしまうフシはないだろうか。
                   http://bit.ly/2qtYh7l
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近藤大介氏.jpg
近藤 大介氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(7) | TrackBack(0) | 米中戦争の可能性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月31日

●「SDR構成通貨に値しない人民元」(EJ第4531号)

 2017年4月26日、中国共産党中央委員会の機関紙である
人民日報は、次の趣旨の報道を行っています。
─────────────────────────────
 過去20年にわたって「中国経済崩壊論」が幾度となく言われ
ハードランディングするなどと主張する西洋の専門家もいたが、
これらの予言は一度も当たったことがない。中国経済の長期的な
発展の傾向は基本的に変わっておらず、この先の中国経済はさら
に健全で持続的に発展する。
 世界経済の成長にも大きく貢献し、経済構造からみても中国経
済の質はますます良くなっており、ここ数年は国民総生産(GD
P)成長率6・5%前後を維持していて、中国が目標とする「小
康社会」が実現していると論じ、中国経済崩壊論などは全く成り
立つ訳がない。    ──2017年4月26日付、人民日報
─────────────────────────────
 人民日報のこの報道に対し、皮肉な話ですが、中国のネットユ
ーザーは「そんなに深刻とは思っていなかったが、人民日報がこ
う言うということは・・・」とか、「人民日報がこういう記事を
出すとは、本当に経済はダメなんだな」などのコメントが寄せら
れ、人民日報の記事から逆のことを読み取っているのです。要す
るに、政府系メディアの報道を全く信用していないのです。
 どうしてこのような評価になったのかというと、習近平政権の
経済運営がかなりひどいからです。中国では、ケ小平ルールとい
うものがあって、本来、経済問題は国務院総理(首相)、すなわ
ち、李克強首相の仕事なのです。しかも李首相は北京大学で経済
学博士号を持つ経済の専門家であり、適任です。
 しかし、習主席は経済問題も習近平グループでやるという野望
を持っており、李首相の政策にことごとくクレームをつけたので
す。そのため、李首相は自分の思うように経済を動かすことがで
きず、経済は混乱しています。これについて、近藤大介氏は習政
権の経済運営について、次のようにコメントしています。
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 習近平政権の約4年間を評価すると、政治分野と軍事分野に関
しては、習近平が強い指導力を発揮している。(中略)ところが
経済分野に関してだけは、この4年間というもの落第点である。
たとえてみれば、今日大雨が降ったから慌てて傘を用意し、今度
は台風が吹き荒れだしたから戸や窓を補強するといった具合だ。
万事後手後手で、かつ出たとこ勝負のため、長期的な見通しや整
合性に乏しい。           ──近藤大介著/講談社
     『活中論/巨大化&混迷化の中国と日本のチャンス』
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 中国という国は、どのようなことでも世界一になろうとする国
なのです。実際にGDPにおいては、2010年8月に日本を抜
き、世界第2の経済大国になっています。そのときの中国の喜び
というか、高揚した気持ちを2010年8月17日付の「環境時
報」は次のように伝えています。
─────────────────────────────
 わが国はこの5年間、イタリア、フランス、イギリス、ドイツ
を、GDPで追い抜いてきたが、今回ついに、日本を追い抜いて
世界第二の経済大国となった。日本では、内閣府がこの事実を発
表した10分後に、日経平均株価が今年最大の下げ幅となる91
00ポイントまで下落してしまった。実際、中国の今年の予測経
済成長率は10%なのに日本は3%にすぎない。日本は1968
年に西ドイツを追い抜いて以来、40数年間にわたって守り抜い
てきた「世界第二の経済大国」の地位から陥落したのだ。
       ──2010年8月17日付、「環境時報」より
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 もちろん国家が「世界一になる」というような目標を持つこと
自体はわるいことではありません。しかし、そのために長年にわ
たって異常なほど巨額な不動産投資を積み上げて、GDPを増加
させ、日本を抜いたのです。その結果、中国国内に100ヶ所以
上の巨大な「鬼城」ができてしまったのです。既に述べているよ
うに、鬼城は一向に解決されておらず、そのままです。
 それに加えて中国は、通貨でもドルに代わって人民元を基軸通
貨にしようという野望をいだいています。そのためにIMF(国
際通貨基金)が認定するSDR(特別引出権)に入ることに執念
を燃やし、さまざまな政治工作を繰り広げて、2015年11月
30日の理事会で、中国人民元をSDRの構成通貨のひとつにす
ることが認定されています。その構成比率は次の通りです。
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            構成通貨比率  決済通貨シェア
  ドル(アメリカ)  41・73%   40・87%
  ユーロ(EU)   30・93%   30・82%
  人民元(中国)   10・92%    1・72%
  円(日本)      8・33%    3・46%
  ポンド(イギリス)  8・09%    8・73%
        註:済通貨シェア(2016年6月統計)
─────────────────────────────
 SDRの構成通貨になるには2つの条件──「貿易規模と代金
決済で使われる通貨比率の高さ」と「金融市場で自由に交換でき
る」という2つの基本条件を満たしていることが求められるので
すが、人民元にはその基本的条件を満たしていないのです。それ
でもIMFのラガルド専務理事は、中国に異常に肩入れし、人民
元のSDR入りを認めさせたのです。
 実際に2016年6月統計による決済通貨のシェアでは、人民
元は構成比率の10・92%に対して、わずかに1・72%を占
めたに過ぎないのです。実際に中国は、海外との経常決済に占め
る人民元建ての決済金額のシェアは、2015年の26%から、
2016年末には16%に縮小しています。人民元をSDRに加
えたIMFのラガルド専務理事の責任は大きいといえます。
             ──[米中戦争の可能性/101]

≪画像および関連情報≫
 ●悲願のSDR入りを果たした中国/読売オンライン
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   IMFが2015年11月30日に人民元をSDR構成通
  貨として採用することを正式に決定すると、中国国営新華社
  は即座に速報を打ち、「歴史的な一歩」と歓迎した。李克強
  首相も中国の改革・開放の成果を国際社会が認めたものとし
  て高く評価した。
   SDRとはIMFが加盟国に対し、出資比率に応じて配る
  国際通貨の一種。通貨危機などで外貨不足に陥った加盟国は
  SDRを他国に渡せば、米ドルなどと交換できる。SDRの
  構成通貨見直しは5年ごとに実施される。前回2010年の
  見直しの際には、中国の期待に反する形でIMFは人民元の
  SDR採用を見送っている。中国としては捲土重来を期す形
  で、人民元の国際化に向けて着実に規制の緩和、自由化を進
  めてきた。
   経済面では米国発の金融危機、欧州発の財政危機後の激動
  の世界経済をけん引してきたとの自負もあるだろう。今や中
  国は名目GDPでは世界第2位の経済大国であり、実質的な
  購買力をベースとした為替換算では14年に米国を追い越し
  て世界第1位の経済大国となった。SDR入りは中国にとっ
  て外交的勝利であり、また、自らの経済力に見合った当然の
  帰結との思いもあろう。      http://bit.ly/2rcbqnw
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IMFラガルド専務理事.jpg
IMFラガルド専務理事
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(4) | TrackBack(0) | 米中戦争の可能性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする