2017年04月03日

●「マレーシア政府はなぜ妥協したか」(EJ第4492号)

 トランプ米大統領と中国の習近平国家主席が、4月6〜7日に
フロリダ州のトランプ氏の別荘「マール・ア・ラーゴ」で会談を
行います。この会談の最大のテーマは北朝鮮問題です。3月31
日付の朝日新聞はこれについて次のように報道しています。
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 会談で最重要の課題になるのが、北朝鮮の核・ミサイル開発で
緊迫する朝鮮半島情勢だ。軍事手段を含めた新たな対北朝鮮政策
を策定している米国が、北朝鮮の後盾となっている中国側に対し
徹底した制裁の履行などを求める見通し。
 経済面では、トランプ政権は貿易赤字削減を目指しており、米
国にとって最大の貿易赤字国の中国に対し、是正を強く求めるこ
とになりそうだ。 ──2017年3月31日付、「朝日新聞」
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 トランプ政権の出だしは必ずしも順調ではないが、対北朝鮮強
硬路線は、着実に手が打たれています。3月29日、下院外交委
員会は、北朝鮮をテロ支援国家に再指定するよう政府に促す法案
や、経済制裁の強化を求める法案を可決しています。
 米国が北朝鮮をテロ支援国家に指定したのは1988年1月の
ことです。87年11月に北朝鮮工作員が関与した大韓航空機爆
破事件が起きた2ヶ月後のことです。このときは、犯人の金賢姫
が逮捕されており、北朝鮮のテロへの関与は明白であったので、
テロ支援国家に指定できたのです。
 なお、この指定は、2008年10月に核問題を巡る6ヶ国協
議の合意に基づき、北朝鮮の核攻撃に向けた取り組みに応ずるか
たちで解除されています。
 今回の米国の再指定は、金正男氏が、マレーシアの空港でVX
によって殺害されたことを受けてのことですが、30日、マレー
シアと北朝鮮は、不可解な合意をしているのです。合意事項は次
の通りです。
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 ■両国が発表した主な合意事項
  【両国共通の発表内容】
   ・北朝鮮にいるマレーシア人と、マレーシアにいる北朝
    鮮人の出国を容認
   ・死亡した北朝鮮国籍者の遺体は北朝鮮に送る
  【北朝鮮のみ発表】
   ・両国はビザなし渡航の再導入を肯定的に討議し、関係
    発展へ努力する
  【マレーシアのみ発表】
   ・この深刻な犯罪に対する警察の捜査は継続する
         ──2017年3月31日付、「朝日新聞」
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 この合意で一番損をしたのはマレーシア政府です。国内で北朝
鮮による暗殺事件を起され、ベトナムとインドネシア国籍の実行
犯2人の女性は逮捕したものの、犯行を直接指揮した複数人の北
朝鮮人をやすやすと逃亡させたからです。さらに犯行に加担した
とみられる3人の北朝鮮人は、在マレーシア北朝鮮大使館に逃げ
込んだので、マレーシア警察は彼らの事情聴取を要求したのです
が、北朝鮮大使館は治外法権を盾ここれを拒んでいます。
 これに対して北朝鮮のやったことは、北朝鮮を出国しようとし
ていたマレーシア外交官を含む複数のマレーシア人の出国を禁止
し、いわば彼らを人質に取ったのです。
 マレーシア政府は、結局、事件解明のカギを握る大使館にいる
北朝鮮人3人と、北朝鮮の空港で足止めされているマレーシア人
の“人質”と交換するかたちで、事件の決着を図り、金正男氏の
遺体を「キム・チョルという名の北朝鮮国籍の男」して、出国を
認めたのです。
 これは、明らかにマレーシアの外交的な失敗です。もっともそ
のさい、マレーシアの捜査員が北朝鮮大使館に入り、大使館内に
いる3人と、かたちばかりの事情聴取をしてはいているものの、
重要な情報は得られなかったのです。その結果、マレーシア政府
としては、暗殺事件の関与者と思われる3人と、北朝鮮で人質と
なっているマレーシア人の交換に応ぜざるを得なかったのです。
 この“取引”を北朝鮮側からみると、次の3つの大きなメリッ
トがあります。
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 1.金正男氏とみられる遺体を身元を確認しないで北朝鮮政
   府が引き取ったことで、死因は単なる心疾患で、暗殺事
   件などは発生していないと主張できる。
 2.今回の暗殺に関わった複数の関与者を一人も他国に引き
   渡すことなく、すべて北朝鮮に戻すことができ、暗殺の
   あったことを他国は証明できなくなる。
 3.国交断絶が避けられたことで、両国にメリットのあるマ
   レーシアとのビザなし渡航の再導入について、マレーシ
   ア政府と交渉できる余地を残している。
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 疑問なのは、マレーシア政府が、なぜこの不利な取引に応じた
のかです。もし、北朝鮮だけが相手であれば、マレーシアは自国
民が人質にとられているとはいえ、このような誰が見てもわかる
裏取引には応じなかったと思われるからです。
 クアラルンプール空港での金正男暗殺事件によって、マレーシ
アが世界の注目を集めているので、外交官を含む何の罪もないマ
レーシア人が、不当にも北朝鮮を出られないでいることをもっと
鮮烈に国際社会に訴えることもできたはずです。
 ひとつ考えられることがあります。それは、北朝鮮とマレーシ
アの交渉にウラに中国がいるのではないかということです。中国
は北朝鮮側に立って、何らかの圧力をマレーシアにかけたのでは
ないかと思われます。マレーシアにとって中国は重要な国であり
中国からの要請には断れない事情があると考えられます。
             ──[米中戦争の可能性/062]

≪画像および関連情報≫
 ●金正男殺害を中国はどう受け止めたか――中国政府関係者
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   習近平政権誕生以来、中朝関係が冷え切っている中、中国
  はなぜ金正男氏を保護してきたのか、殺害は今後の中朝関係
  に影響するかなど、日本人が抱く疑問をぶつけた。回答から
  東北アジア情勢と課題が見えてくる。
   中国の中央テレビ局CCTV系列は、金正男氏が2月13
  日にマレーシアのクアラルンプール国際空港で毒殺されたこ
  とに関する報道で、2月16日昼のニュースの時点でもなお
  「金という姓の韓国籍男性」が殺害されたという形での報道
  しかしていなかった。
   これに関して、日本の多くのメディアが「中国が困惑して
  いる証拠」という主旨の報道をしていたので、先ずは中国政
  府関係者に「名前を完全な形で明示しない真意は何か」を聞
  いてみた(116日午後2時)。
   以下すべて、「あくまでも個人の意見だが」という前提で
  答えてくれた。「CCTVは最も権威あるテレビ局なので、
  責任ある報道しかすることができない。絶対に確実だと公式
  に確認されるまでは、"金正男"というフルネームを言うこと
  はできない。パスポートが偽造でないかなど、まだ確認され
  ていない」とのこと。特に北朝鮮の場合、偽造パスポートで
  海外渡航しているケースが多いのも事実。その後、マレーシ
  ア政府がパスポートやDNA鑑定により「まちがいなく金正
  男だ」と公表すると、CCTVもまた、「金正男が何者かに
  よって殺害された」と実名で伝えるようになった。というこ
  とは今も評論が全くないのは指示を出したのが北朝鮮か否か
  が判明していないからか。それにしても報道が静かすぎる。
                   http://bit.ly/2lyBecN
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マレーシア/ナジブ首相.jpg
マレーシア/ナジブ首相
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 米中戦争の可能性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする