2017年03月01日

●「究極の非対称兵器である『機雷』」(EJ第4470号)

 中国の潜水艦には、ハードウェアの隠密性の問題だけでなく、
敵の潜水艦と戦う、いわゆる潜水艦戦がほとんどできないという
致命的な能力不足があります。そもそも中国海軍は、潜水艦戦を
戦った経験がないのです。
 これに対して米海軍は、第一次世界大戦(1914〜18年)
の途中からドイツ海軍と戦ってきた経験を持っています。その後
の第二次世界大戦では、米海軍は、高性能の潜水艦を持つドイツ
や日本と潜水艦戦で死闘を繰り広げてきているのです。そういう
実戦の経験を持つ日米と、潜水艦戦経験ゼロの中国との戦いは、
初めから勝敗がみえています。
 日本の海自と米海軍が合同で戦略を立てれば、総合技術力と経
験で劣る中国海軍はとうてい敵うはずがないのです。そうした現
実を無視して、中国が、第1列島線とか第2列島線など、太平洋
を勝手に自国領海に繰り入れるがごとき戦略は自殺行為でありま
す。こうした中国海軍の対潜水艦戦の現状について、既出のハー
バード大学アジアセンター・シニアフェローの渡部悦和氏は、自
著で次のように述べています。
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 中国海軍の潜水艦の能力は逐次向上しているが、敵の潜水艦を
攻撃する能力──いわゆる対潜水艦戦(ASW)能力に関しては
著しく低く、これは海上自衛隊や米海軍の潜水艦が東シナ海や南
シナ海で比較的自由に活動できる大きな要因となっている。
 海上自衛隊の場合は、優秀な対潜哨戒能力を有するP−3Cや
P1を80機保有し、さらに対潜哨戒ヘリであるSH−60Kも
保有する世界一流の対潜哨戒能力を誇る。
 これに対して中国海軍は、P−3Cと似た大型の哨戒機をわず
か4機持っているのみで、エンジン性能は低く、航続距離も短く
対潜哨戒ヘリとしての能力は低い。また、中国の水上艦艇で可変
深度ソナー(VDS)や戦術曳航式ソナーを装備している艦艇は
少なく、水上艦艇のAWS能力も低いと言わざるを得ない。
                      ──渡部悦和著
    『米中戦争そのとき日本は』/講談社現代新書2400
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 海戦用の究極の非対称兵器の代表ともいうべきものが「機雷」
です。何しろ兵器としては、安いもので一個20万円程度のコス
トで、相手に強い心理的インパクトを与え、大型の軍艦でも沈没
させることができるのですから、まさしく「非対称兵器」です。
 機雷は「機械水雷」を省略した言葉です。機雷とは、水中に設
置されて艦船が接近、または接触したとき、自動または遠隔操作
により爆発する水中兵器です。機雷に触れることを「触雷」、機
雷を設置した海域を「機雷源」といいます。
 米中戦争での機雷に関して、ピーター・ナヴァロ氏は次の問題
を読者に出しています。
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【問題】第二次大戦以後、アメリカの軍艦が沈没または深刻なダ
メージを被った事例のうち、機雷によるものの割合を選べ。

  「1」 0%
  「2」20%
  「3」40%
  「4」80%
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
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 この問題の答えは「4」の「80%」です。軍艦が機雷によっ
て受けるダメージは想像以上に大きいのです。第二次大戦以後に
敵の攻撃によって沈没したか、深刻なダメージを受けた米国の軍
艦は19隻ですが、そのうちの15隻が機雷によるものであった
のです。まさに80%です。
 機雷は、単に船を沈めるだけでなく、その威力は敵の海軍の行
動を心理的に制限させる効果があるのです。ピーター・ナヴァロ
氏は、こうした機雷の効果を、次のような分かりやすい譬えで説
明しています。
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 自分が20平方キロメートルの広大な牧場を所有していると想
像してみよう。その上で、その広大な土地のどこかに、両足を吹
き飛ばす威力を持った地雷が一個だけ埋まっていると想像してみ
てほしい。牧場をハイキングする気になるだろうか。そして、干
し草の山の中に隠れている一本の針のような地雷を探し当てて除
去し、再び自由に行動できるようにするまでにどれだけの時間と
費用がかかることだろうか。
           ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
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 米軍はベトナム戦争において、ハイフォン港において、加害者
としての機雷作戦を成功させています。1972年5月8日、空
母コーラルシーから出撃した戦闘機は、北ベトナムの最も重要な
港に機雷を投下したのです。その機雷の総数は、1万1000個
以上に及んだのです。
 この機雷投入によって、北ベトナム周辺の海上交通路は完全に
麻痺し、結果として北ベトナムが輸入する物資の80%を効果的
に遮断することに成功したのです。当時強大な米軍に対して優勢
に戦っていた北ベトナムも、この経済封鎖には閉口し、パリ平和
会議のテーブルに戻ったのです。
 第二次世界大戦で、日本が無条件降伏したのは、広島と長崎へ
の原爆投下といわれていますが、直接的原因は、米軍のB−29
が日本近海にばらまかいた1万2000個もの機雷であったとさ
れてます。海に囲まれた日本では、機雷がばらまかれると、海が
ぜんぜん使えなくなり、軍や兵器、食料の補給などがまったくで
きなくなる状況に陥ったからです。「機雷恐るべし」です。
             ──[米中戦争の可能性/040]

≪画像および関連情報≫
 ●海自の機雷整備方針は誤り?/希典のひとりごとのブログ
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   海上自衛隊の機雷整備方針が間違っているなどとは考えて
  もみなかった。軍事ライターの文谷数重氏が「軍事研究」3
  月号に寄稿している「中国海軍を封じ込める海上自衛隊の機
  雷」と題した記事を読むまでは。文谷氏は、記事の冒頭で次
  のように書いている。
   「日本は機雷の準備に熱心である。生産は1956年に再
  開され、生産規模も65年ごろには年間500個ほどに達し
  た。質も時代につれて進展し、高性能化している。その整備
  は、最近では上昇・追尾機雷を指向している。これは深海底
  に敷設され、敵艦船を感知すると、上昇あるいは自走し敵艦
  船を攻撃するというものだ。ここ30年で開発された機雷は
  ほぼこのタイプである。
   だが、この上昇・追尾機雷だけの整備は正しい選択なのだ
  ろうか?本来、これらの機雷はニッチ向けとされるものだ。
  特殊用途には合致するが、汎用性はない。大深度での対潜用
  に特化しているが、逆に言えばそれ以外には向かない。それ
  に特化した機雷整備方針は誤りである。汎用品としての能力
  に欠けており、主力機雷に据えるものではない。この上昇・
  追尾機雷の重視は惰性に過ぎない。かつての冷戦期には好適
  な機雷であり、ソ連原潜やその太平洋進出を妨害する三海峡
  封鎖には向いていた。       http://bit.ly/2lHJeb7
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各種機雷.jpg
各種機雷
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 米中戦争の可能性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする