2017年02月06日

●「中国の『真珠の首飾り』とは何か」(EJ第4453号)

 「真珠の首飾り」といえば、グレンミラーの名曲を思い出しま
すが、ここでいう真珠の首飾りは地政学の話です。「中国の真珠
の首飾り」といわれるものがあります。これは「マラッカ・ジレ
ンマ」から脱却するための中国の海洋戦略のことです。
 改めてマラッカ・ジレンマとは、輸入原油全体の8割が通過せ
ざるを得ないマラッカ海峡の安全保障が米軍に委ねられていると
いう中国の弱点のこと。仮に台湾有事のさい、米国が中国の補給
ルートを断つため、海峡を封鎖する可能性がゼロではないからで
す。そのため、このマラッカ海峡において、中国が抱える潜在的
な脆弱性のことを「マラッカ・ジレンマ」というのです。
 そういうわけで、中国がとるべき海洋戦略には、次の2つがあ
ります。
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       1.マラッカ・ジレンマの回避
       2.    シーレーンの防御
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 基本的な考え方はこうです。エネルギーの供給先の中東やアフ
リカから中国までの海域に、いつでも寄港できる港湾をあたかも
中国の外港のように拠点として配置しておく戦略です。もっと具
体的にいうと、マラッカ海峡が仮に封鎖されても原油を中国に運
ぶルートを確保することです。
 それらの拠点としての港湾を「真珠」といい、それらの真珠を
繋いだラインを真珠の首飾りと呼んでいるのです。これについて
は、添付ファイルを参照してください。
 それらの「真珠」として次の4つを取り上げます。なお、以下
の記述は、「海国防衛ジャーナル/シリーズ地政学」のブログを
参照に書いています。         http://bit.ly/2k7w46y
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      1.   グワダル(パキスタン)
      2. ハンバントタ(スリランカ)
      3.チッタゴン(バングラデシュ)
      4.  シットウェ(ミャンマー)
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 第1の「真珠」は、パキスタンのグワダル港です。
 これを拠点化できると、中国のタンカーはここで原油を積み下
ろし、鉄道、道路、パイプラインなどを使って、新疆ウイグル自
治区やチベット自治区などの中国の内陸部に輸送できることにな
ります。マラッカ海峡を通らずに済むのです。
 パイプラインについては、パキスタンとイランの間で、イラン
の天然ガスをパキスタンに運ぶためのパイプライン建設に同意し
ています。したがって、中国はこれを中国まで延引させるよう交
渉しているといわれます。しかし、現在工事は何も行われていな
いようです。
 しかし、グワダル港には2つの問題点があるのです。1つは民
族紛争です。パキスタンの首都イスラマバードに住む人々とグワ
ダルに住む人々とは民族が異なっており、仲が悪く、対立関係に
あります。イスラマバードに住む人々はパンジャブ人、グワダル
に住む人はシンド人と呼ばれています。
 シンド人は、パキスタン軍から強い弾圧を受けており、そのた
め、民族主義運動が起きているのです。したがって、シンド人は
もしパキスタン政府が自分たちの権利を踏みにじる開発を行えば
中国からの出稼ぎ労働者を殺すとまでいっているのです。
 もう1つは、隣の強国インドの干渉を受けやすいことです。イ
ンドは、インド洋を守るため、中国やパキスタンの勢力を警戒し
ています。実際にパキスタンの海運の9割を担うカラチ港は、イ
ンドに近いため、戦時によく封鎖されるのです。実際に1971
年の印パ戦争でカラチ港は封鎖されています。そのため、グワダ
ル港の中国の軍港化を警戒しています。したがって、中国として
は、グワダル港を真珠化することは、自国のシーレーン防衛にな
ると同時に、インドのシーレーンを抑えることになります。
 第2の「真珠」は、スリランカのハンバントタ港です。
 インドとスリランカの間には、ポーク海峡がありますが、水深
が浅く、暗礁も多く、タンカーの航行は困難なので、エネルギー
・ルートとしては、多くの国のタンカーがスリランカの南部に位
置するハンバントタ港を利用しているのです。
 実はスリランカと中国の関係は良いのです。スリランカは長年
内戦が続いていたのですが、中国は2007年に3500万ドル
(約33億円)相当の武器装備売買契約を結んでおり、中国はス
リランカの最大の武器供給国になっています。
 さらにスマトラ沖地震で疲弊したスリランカに対し、石炭火力
発電所や高速道路建設、経済特区設立などの投資を行い、高い戦
略的地理条件を備えたハンバントタ港を中国海軍の寄港地として
獲得しているのです。したがって、ハンバントタ港は既に真珠化
されているのです。
 第3の「真珠」は、バングラデシュのチッタゴン港です。
 チッタゴンはバングラデシュ第2の都市であり、その港は国内
最大で、天然の良港です。中国は港湾施設の整備などで既に手を
打っており、バンクラデシュは中国海軍の施設を受け入れ、同港
の利用を認めています。したがって、チッタゴン港も既に中国の
真珠化しているといえます。
 第4の「真珠」は、ミャンマーのシットウェ港です。
 シットウェは、ミャンマーのラカイン州の州都であり、その港
は深水港なのです。中国は、ミャンマーの軍事政権の時代から武
器輸出を行うなど、つながりが深く、既に中国の真珠のひとつに
なってしまっています。
 なかでも中国は、大ココ、小ココという2つの島を1994年
から借りており、そこに高性能の偵察・電子情報施設を築いてい
ます。さらに、ミャンマーの7つの海軍基地では、ミャンマーが
持っていない艦艇が入港できるように改造されているのです。
             ──[米中戦争の可能性/023]

≪画像および関連情報≫
 ●中国「真珠の首飾り」戦略によるコロンボ港開発
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   中断されていた中国によるコロンボでの巨大プロジェクト
  に、スリランカの大統領が許可を出した。インド洋周辺に拠
  点を築くことで、自国の利益を確保しようとしていると批判
  を受ける中国の「真珠の首飾り」戦略。その一環として、ス
  リランカのコロンボに新たに港湾都市(ポート・シティ)を建
  設する計画が、スリランカの前政権下で進められてきた。
   「ポート・シティ」計画は2014年9月から習近平主席
  の肝いりで始まった。14億ドルの予算でコロンボ港の傍に
  埋立地を整備し、233ヘクタールもの施設やF1サーキッ
  トの建設が予定されている。それが、2015年1月の選挙
  を経て、シリセーナ政権が誕生した直後に計画は中断させら
  れた。特に問題点となったのは大規模開発による環境への影
  響である。ウィクラマシンハ首相はコロンボ港での埋め立て
  工事によって、スリランカ西岸での環境破壊が引き起こされ
  観光産業がダメージを受けることに懸念を表明していた。
   2009年5月に長年の内戦が終結して以降、前大統領の
  ラジャパクサ氏は、中国を頼りにして国内インフラの復興を
  推し進めてきた。その結果、スリランカ最大の支援者となっ
  た中国によって、道路や鉄道、港などの建設が進められた。
                   http://bit.ly/2jDRDNt
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中国の真珠の首飾り.jpg
中国の真珠の首飾り
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 米中戦争の可能性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする