2017年02月01日

●「人民解放軍内の不満の3つの原因」(EJ第4450号)

 習近平国家主席の軍制改革に対して、現在陸軍を中心として軍
内に不満が渦巻いています。その不満の原因は、大別すると、次
の3つになります。
─────────────────────────────
        1.陸軍軽視と大量リストラ
        2.側近の要職への大量起用
        3.国家主席に実戦経験なし
─────────────────────────────
 上記「1」と「2」については、すべて述べていますが、とく
に「2」については、現在、人民解放軍内部で強い不満が高まっ
ています。習主席が、軍制改革と同時に、自分の腹心を相当露骨
に主要ポストに次々と就任させているからです。
 ひとつ例を上げることにします。2015年7月に海軍上将に
昇進した苗華(びょうか)という軍人がいます。彼はもともと陸
軍畑の軍人ですが、いきなり海軍上将に昇進したのです。海軍上
将とは、海軍上級大将の意味であり、大将より上のランクになり
ます。ちなみにその上のランクは、元帥、大元帥です。
 しかし、陸軍畑で出世を重ねてきた軍人が、海軍に移籍して上
将になる──こういうことは通常は起こり得ない人事ですが、典
型的な習近平人事の一環なのです。
 人民解放軍に第31集団軍というのがあります。中国人民解放
軍第31集団軍の前身は1947年に編成され、国共内戦でも活
躍しています。49年には、第3野戦軍所属の第31集団軍に組
織が改編され、福建省のアモイ市に本拠を置くようになったので
す。そのため「アモイ軍」と呼ばれています。
 習近平主席は、福建省や浙江省勤務だったことがあり、そのと
きにアモイ軍で人脈を築いていたのです。苗華氏の簡単な経歴を
上げておきます。
─────────────────────────────
 ≪苗華氏の軍歴≫
 1969年12月:人民解放軍第31集団入隊(15歳)
 1999年08月:第31集団軍政治部主任→少将
 2010年12月:蘭州軍区政治部主任
 2012年07月:蘭州軍区副政治部員兼規律検査委員会
          書記→中将
 2014年06月:蘭州軍区政治委員
 2014年12月:海軍政治委員
 2015年07月:海軍上将
─────────────────────────────
 苗華氏の2012年7月までの昇進は順当です。蘭州軍区副政
治部員に就任し、陸軍の中将に昇進しています。それに兼務とし
て規律検査委員会書記になり、軍部のなかでの権力もきわめて高
くなっています。
 しかし、2012年11月に習近平氏が総書記、そして、20
13年3月に国家主席になると、苗華氏は、2014年12月に
急遽海軍の政治委員になるのです。そして、2015年7月に陸
軍中将から、将官の最高位である海軍上将に昇進します。これは
きわめて異例のことです。明らかに軍制改革に合わせて、習近平
主席が主導した人事です。
 こういう人事をやられると、生え抜きの海軍将校からすると、
きわめて不満であるし、モラールが下がります。まして、政治委
員ですから、人事権も握っているのです。こういう人事が苗華氏
のケースだけではなく、他でも幅広く行われているのです。軍部
内に不満がくすぶるのは当然のことです。これが冒頭に上げた軍
部の不満の原因「2」の内容です。
 それでは不満の原因の「3」とは何でしょうか。
 ケ小平最高指導者に続く江沢民、胡錦濤、習近平の中国の政権
において、真の意味で軍部を掌握していたのはケ小平だけである
といってよいと思います。それ以後の3政権は、本当の意味で軍
部を掌握していたとはいえないのです。それは、これら3政権の
トップは、戦争で実戦の指揮を執り、銃を持って、死線を潜り抜
けていないからです。
 しかし、ケ小平は違うのです。その違いについて、福島香織氏
は、次のように説明しています。
─────────────────────────────
 振り返れば、ケ小平は文化大革命後、文革で総崩れになってい
た解放軍の立て直しを行いつつ軍権を掌握するために、軍制改革
と大リストラ、そして戦争を行った。1979年の中越戦争は、
ケ小平が軍権を掌握するプロセスのうえで非常に大きな意味を持
つ。国外的にはこの戦争は実践で鍛えられたベトナム兵によって
返り討ちにされ、解放軍の事実上の負けであったが、国内では勝
利宣言を行い、ケ小平はさらなる軍の近代化改革を進める。そし
て1984年の中越国境紛争で、その雪辱を晴らした。ケ小平は
この2回のベトナムとの戦争を通じて、軍の近代化と軍権の掌握
を確かなものにしたのだった。
        ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 これは、どこの軍隊でもそうでしょうが、とくに中国では、戦
争での実戦の指揮を執ったことがなく、国防大学で軍事戦略や戦
術を極めたこともない文民政治家は、表面的にはともかく、基本
的には尊敬されないのです。
 要するに「実戦の指揮を執る」──これしかないのです。しか
し、米国が相手ではまず勝ち目はない。そうなると、格好の相手
は日本です。しかも、間違っても米国が出てこないかたちで、尖
閣諸島周辺海域で日本と局地的な軍事衝突を起こし、中国国民に
明確に勝ちと認められる勝利を収める──このことに現在の習近
平政権は狙いを定めています。だからこそ、中国は尖閣諸島周辺
の海と空に何回も繰り返し、制圧を目的として、本気でアタック
してきているのです。   ──[米中戦争の可能性/020]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平氏 対日強硬論火消し役として側近起用/2016年
  ───────────────────────────
   中国軍の動向に詳しい香港の日中関係筋によると、今年は
  中国の尖閣諸島への攻勢が本格化するという。すでに、海上
  保安庁は昨年末、機関砲4基を備えた改造フリゲート艦が日
  本領海に侵入したことを確認した。尖閣諸島をめぐって砲弾
  が飛び交う事態も懸念される。ジャーナリスト・相馬勝氏が
  指摘する。
   日本の排他的経済水域(EEZ)内で日中両国間の取り決
  めに反した中国海洋調査船による調査活動が、昨年すでに、
  22回あり、一昨年の2倍を超えたことが挙げられる。20
  11年には8回、2012年は3回、2013年7回、20
  14年は9回と推移し、昨年は初めて2桁台に乗り、前年比
  で2倍を超えた。その活動区域の多くは東シナ海となってい
  る。これらは科学調査とみなされているが、その一方で軍事
  的な動機が背景にあるとみられる動きも出ている。それが中
  国のIT企業大手「騰訊(テンセント)」が作成した中国人
  民解放軍による尖閣諸島奪還作戦の3Dアニメ動画だ。これ
  はユーチューブで公開され、昨年9月の時点で100万回も
  再生されている。この動画は「3D模擬奇島戦役」とのタイ
  トルで、「20××年、某軍事同盟が国際法を無視して海洋
  での紛争を引き起こし、綿密に計画された奇襲作戦によって
  いくつかの人民解放軍基地が攻撃された」場面から始まる。
   中国軍はこの報復として、沖縄の米軍基地とみられる軍事
  基地に中国の弾道ミサイルを撃ち込み、中国軍戦闘機が攻撃
  を加えたあと、中国軍の揚陸部隊が上陸を開始し、敵軍隊を
  壊滅し、敵の軍事基地に五星紅旗が翻るという単純なストー
  リーだ。一見たわいもない内容だが、実はこのような中国軍
  による短期集中攻撃作戦は米軍などの戦略家らの間でまこと
  しやかに想定されており、単なる夢物語でない。
                   http://bit.ly/2ju9sJG
  ───────────────────────────

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習国家主席/苗華海軍上将
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2017年02月02日

●「マラッカジレンマをかかえる中国」(EJ第4451号)

 ここまでの記述で、習近平主席が人民解放軍を完全に掌握する
目的で、「外敵と戦って勝利」の実績を作るため、そのターゲッ
トとして日本を想定していることがわかってきています。
 そのため、何年もかけて計画的に尖閣諸島周辺海域と空域に船
舶(海警)と戦闘機を送り込み、現地において何らかの「局地海
戦」を仕掛けようとしているのです。しかし、あくまで米軍が参
戦できないかたちでの局地戦を狙っています。
 現在、習近平国家主席が最も信頼していると見られる軍幹部は
次の3人です。
─────────────────────────────
       1.呉勝利海軍上将/海軍司令
       2.孫建国海軍上将
       3.馬暁天空軍上将/空軍司令
─────────────────────────────
 12月25日、中国は空母「遼寧」を中心に複数の艦艇を従え
て沖縄県の宮古海峡を通過し、初めて西太平洋に進出。その後、
バシー海峡を経て南シナ海に入り、海南島の海軍基地に寄港。南
シナ海で艦載機の発着艦訓練を実施しています。
 このとき、遼寧には呉勝利海軍司令が乗っており、指揮を執っ
ています。おそらくこれは、呉海軍司令の習主席への進言によっ
て実施された行動であると思われます。明らかに、トランプ氏の
「一つの中国」をめぐる発言を受けて米国を牽制したのです。そ
の証拠に遼寧は、母港の青島に戻るさい、台湾海峡を通過してい
るからです。つまり、往復の行程で台湾本島を一周したことにな
ります。露骨な台湾に対する威嚇です。
 呉勝利氏は、2006年から海軍司令を務めていますが、20
06年5月に、キーティング米太平洋軍司令官と会談したさい、
米国に次の提案をしています。
─────────────────────────────
 われわれはまだ空母を持っていないが、空母を保有した場合、
ハワイを起点として、東を米国、西を中国が管理することにして
はどうか。               ──呉勝利海軍司令
─────────────────────────────
 実に自国中心で、思い上がりで、野心的な提案です。何しろそ
のとき中国は、まだ空母を持っていなかったからです。「どうせ
アジアは中国のものになる」という過剰な自信に裏打ちされてい
るからです。
 呉海軍司令のこの「太平洋分割管理」が、後に習近平主席が訪
米のさい、オバマ大統領に呼びかけた「新しい大国関係」につな
がるのです。この提案の狙いは、要するに「アメリカはアジアか
ら出て行け!」ということなのです。このふてぶてしい中国の野
心に対して、オバマ大統領は「アジア回帰」あるいは「アジアへ
のリバランス」と呼ばれるような、アジア太平洋地域を明確に重
視する方向性を打ち出したのです。
 中国はなぜこのような提案をしたのかというと、アジアにおい
て米国は、中国にとって目の上のタンコブ的存在であり、邪魔そ
のものであるからです。戦略的にも米国のアジアへの影響力を落
とすことが中国の発展につながると考えているからです。
 それは中国の通商路に深く関係とます。これについてピーター
・ナヴァロ氏の本には、次の問題が出ています。
─────────────────────────────
【問題】中国が急速に軍事力を増強しているのは、堅調な経済成
長の維持に欠かせない通商路及び国際投資を防衛するためか。
  「1」イエス
  「2」 ノー
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 この答えはもちろん「イエス」です。1949年の建国から約
30年間、中国(中国人民共和国)は、海とはほとんど縁のない
後進的な農業国家だったのです。石油はかなりの量が国内で産出
されたので、石油を輸入する必要はなかったのです。
 しかし、1978年にケ小平副主席の主導する経済革命によっ
て、きわめて中国的な特徴を持つ独特の国家資本主義が確立され
中国は大変貌を遂げることになるのです。それからさらに30年
が経過した時点で、中国は「世界の工場」と呼ばれるようになり
世界最大の工業生産国になったのです。しかし、その一方で中国
は世界最大の石油輸入国になり、その海上輸送路に大きく依存す
ることになったのです。
 現在、中国が輸入する石油の約40%は中東産、約30%はア
フリカ産です。問題はその海上輸送路です。産地から中国までの
シーレーンは約1万キロメートル以上に及ぶのです。そしてその
70%は、世界で最も悪名の高い海のチョークポイント、マラッ
カ海峡を通ることになります。
 しかし、マラッカ海峡は、水深が25メートルしかないため、
このマラッカ・マックスを超える大型タンカーは、迂回路を通ら
なければならないのです。その迂回路は次の2つです。
─────────────────────────────
          1. スンダ海峡
          2.ロンボク海峡
─────────────────────────────
 マラッカ海峡に近いスンダ海峡は、水深は30メートルあるの
ですが、不規則な海底地形と、激しい潮の流れがあり、喫水18
メートル以上の大型船は通過できないのです。
 そうすると、結局はロンボク海峡ということになります。ロン
ボク海峡は水深が100メートルを超えており、どのような大型
船でも通行できるからです。しかし、距離は離れています。これ
ら3つの海峡はいずれも米国の制海権下にあり、中国にとっては
大きな不安要素になっています。
             ──[米中戦争の可能性/021]

≪画像および関連情報≫
 ●中国は地政学の優等生/シリーズ地政学
  ───────────────────────────
   中国の歴史を振り返ると、ランドパワー(華北政権)とシ
  ーパワー(華南政権)とが互いに覇権を争い、興亡を繰り返
  しました。例えば、南宋時代にはシーパワーの特徴である市
  場や流通が発達して、華北の金朝と盛んに交易を行いますが
  モンゴルの騎馬民族が樹立した元朝は泣く子も黙るランドパ
  ワーでした。そして、明代には鄭和がケニアまで航海したほ
  どのシーパワーでしたが、清朝は台湾と外モンゴル、チベッ
  トを征服した大ランドパワーです。
   現在の中国共産党政権は北京を拠点とする華北政権ですが
  本能はランドパワーで、理性がシーパワーなのだと私は理解
  しています。中共中国の本来の姿がシーパワーでないことは
  その海洋戦略からも垣間見えます。常に本能としてのランド
  パワーが持つ領土的野心が、見え隠れしてしまってますから
  ね。中国は地理的に見てリムランドに位置しており、こうし
  た両生類的な性格を有することも地政学の理論上不思議では
  ないのですが、現在の中共政権による両生類的活動はそうい
  う形而上の理由ではなく、現実的な問題――エネルギー問題
  ――が動機となっています。
   中国は、1979年の改革開放以来、年平均9%を超える
  経済成長を続けてきた結果、いまや米国に次いで世界第2の
  エネルギー消費国になりました。原油需要量もまた世界第2
  位で、産油国としては世界第4位ながらも、国内生産分だけ
  では到底需要をまかないきれず、現在は石油純輸入国となっ
  ています。            http://bit.ly/2kU6fEk
  ───────────────────────────

中国シーレーンと主なチョークポイント.jpg
中国シーレーンと主なチョークポイント
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2017年02月03日

●「中国のマラッカジレンマとは何か」(EJ第4452号)

 習近平主席が悩んでいるとされる「マラッカ・ジレンマ」とは
何でしょうか。ピーター・ナヴァロ氏の本に、これに関係のある
次の問題が出ています。
─────────────────────────────
【問題】中国がアメリカやその同盟諸国による石油禁輸措置を恐
れる必要は本当にあるか?
  「1」ある
  「2」ない    ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 この問題の正解は「1」の「ある」なのです。「マラッカ・ジ
レンマ」はこれに密接に関係するのです。中国が覇権を求めて世
界に乗り出そうとするとき、一番恐れるのは米国によるこの石油
禁輸措置(経済制裁)なのです。
 それは、米国や関連産油国からの輸出を禁止するだけでなく、
石油や関連物資を自国に輸送してくるシーレーンを海上封鎖する
ことを意味しています。世界でこれができる国は、米国しかない
のです。
 歴史的にみると、この米国による石油禁輸措置を一番最初に受
けたのは実は日本──当時の大日本帝国です。1941年のこと
です。石油、ガソリン及びその他の重要な資源の対日禁輸措置は
石油需要の80%を米国に依存していた日本にとっては大打撃で
これが日本によるあの真珠湾攻撃につながるのです。ちなみに米
国は、このとき、日本の船舶に対するパナマ運河の閉鎖及び、米
国における日本の資産の凍結も実施しています。
 実は、米国による石油禁輸措置を次に受けたのは、中華人民共
和国、現在の中国です。1950年の朝鮮戦争のときです。朝鮮
戦争について歴史をメモしておきます。
─────────────────────────────
 1950年6月、南北に分断された朝鮮半島で勃発した戦争。
北朝鮮の南下から始まり、アメリカが南を支援して盛り返し、後
半は中国軍が北を支援して参戦、53年に北緯38度線で休戦協
定が成立した。冷戦下のアジアにおける実際の戦争となり、日本
にも大きな影響を与えた。          ──世界史の窓
                   http://bit.ly/2jFuYLA
─────────────────────────────
 この中国軍の朝鮮戦争への参戦に激怒したハリー・トルーマン
米大統領は、中国に対して経済制裁を行っています。この制裁は
実に20年にわたって続き、ニクソン大統領の突然の中国訪問に
よってやっと解除されたのです。トランプ大統領が口にして問題
化している「一つの中国」も、このとき米国は中国に対して約束
しています。中国の要求をほとんど受け入れているのです。
 このようにいうと、ニクソン大統領は、いかにも大局的立場に
立って中国と和解したように見えますが、実は違うのです。この
とき、ニクソン政権は公約のベトナム戦争を終わらせることがう
まく行かず、苦境に陥っていたのです。この問題を解決するには
どうしても中国の協力が必要だったのです。
 そのシナリオを描いたのは、あのキッシンジャー博士です。彼
は水面下で中国と交渉を進め、劇的な米中国交正常化を成し遂げ
るのです。キッシンジャー博士としては、今後は米ソの二極対立
の時代は終わり、ソ連・欧州・日本・中国・米国の5大勢力が相
互に均衡を保つことによって、世界の安定を図るという構想をニ
クソン大統領に提案し、その線で交渉は成立したのです。
 実は、中国は現在でも米国から兵器技術輸出禁止措置を課され
ています。それだけに、中国が何らかの軍事行動を起こすと、米
国が石油の禁輸措置を含む厳しい経済制裁をかけてくることはわ
かっているので、それを恐れているのです。
 それは、米国の石油禁輸措置がどれほど、中国について厳しく
恐ろしいものかについて知ると、わかってきます。ピーター・ナ
ヴァロ氏は、これについて詳しく書いているので、以下、それを
参考にして述べることにします。
 中国が輸入している石油の大半は、ペルシャ湾から運び出され
ています。このペルシャ湾とホルムズ海峡は、米国の第5艦隊が
警備を担っています。第5艦隊の司令部はマナマ(バーレーンの
首都)にあり、遥か南のケニア沖まで出向いてパトロールを行っ
ています。まさに世界の警察官です。
 そして米第6艦隊は、地中海を管轄しており、スエズ運河の北
端から太平洋への玄関口のジブラルタル海峡までをパトロールし
ています。地中海を横断するこの航路は、中国にとってヨーロッ
パ、英国、スカンジナビア向けの製品を輸出するために重要であ
り、原料や農産物を輸入するためにも大切な通商路です。
 インド洋に出ると、その中央部にディエゴガルシア島がありま
すが、ここは米軍の最も重要な戦略拠点のひとつです。長距離爆
撃機の発着場であり、この基地からB─2ステルス爆撃機が出撃
すれば、中国の主要都市をすべて攻撃できるのです。
 そして、アジアに入るためにマラッカ海峡を通ることになりま
す。この海峡も完全に米軍とシンガポールの管理下にあります。
したがって、何かコトが起きると、いつでも海峡を封鎖できるの
です。海峡は狭いので封鎖しやすいのです。
─────────────────────────────
 マレー半島とインドネシアのスマトラ島の間に位置するマラッ
カ海峡は、インド洋と南シナ海を結ぶ全長800キロの海峡であ
る。幅は非常に狭く、水深は比較的浅い。アジアへのこの狭くて
危険な入り口を、年間6万隻以上もの船舶が中国向け(及び日本
韓国向け)の石油だけでなく、世界貿易で流通するおよそ3分の
1の物質を積んで通過している。通航量はパナマ運河の3倍近く
スエズ運河の2倍以上にのぼる。
           ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/022]

≪画像および関連情報≫
 ●アジアで中国をもっとも敵視している国は?
  ───────────────────────────
   中国メディアの網易はこのほど、アジアの国々のなかで中
  国をもっとも敵視しているのは「日本ではない」と主張する
  記事を掲載。その国は「シンガポール」だと記事は説明して
  いるが、何を以ってシンガポールが日本以上に中国を敵視す
  る国だと主張しているのだろうか。
   記事が注目しているのは「マラッカ海峡」だ。シンガポー
  ルの発展はまさにこの天然の海峡がもたらしたものであると
  指摘、積み替え港としてのシンガポールの役割がこの国に発
  展をもたらした。
   しかし、もし中国がマレー半島のクラ地峡に「クラ運河」
  を建設し、各国の船がシンガポールを経由せずにクラ運河を
  航路にとり、上海を積み替え港として利用するなら状況は変
  わるだろう。中国は莫大な利益を得ることができる一方で、
  シンガポールを利用する船は「80%減少する」と記事は指
  摘。シンガポールにとってはまさに致命的な打撃になること
  は容易に想像ができる。
  また記事は「中国の石油備蓄は7日分に過ぎない」と指摘、
  もしシンガポールがマラッカ海峡を封鎖し、中国の原油輸入
  を阻止した場合、中国にとって致命的な打撃になる。いざと
  いう時、この措置を「米国が支持、また指示するだろう」と
  指摘する。            http://bit.ly/1sYa0Nj
  ───────────────────────────

マラッカ海峡の重要性.jpg
マラッカ海峡の重要性
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2017年02月06日

●「中国の『真珠の首飾り』とは何か」(EJ第4453号)

 「真珠の首飾り」といえば、グレンミラーの名曲を思い出しま
すが、ここでいう真珠の首飾りは地政学の話です。「中国の真珠
の首飾り」といわれるものがあります。これは「マラッカ・ジレ
ンマ」から脱却するための中国の海洋戦略のことです。
 改めてマラッカ・ジレンマとは、輸入原油全体の8割が通過せ
ざるを得ないマラッカ海峡の安全保障が米軍に委ねられていると
いう中国の弱点のこと。仮に台湾有事のさい、米国が中国の補給
ルートを断つため、海峡を封鎖する可能性がゼロではないからで
す。そのため、このマラッカ海峡において、中国が抱える潜在的
な脆弱性のことを「マラッカ・ジレンマ」というのです。
 そういうわけで、中国がとるべき海洋戦略には、次の2つがあ
ります。
─────────────────────────────
       1.マラッカ・ジレンマの回避
       2.    シーレーンの防御
─────────────────────────────
 基本的な考え方はこうです。エネルギーの供給先の中東やアフ
リカから中国までの海域に、いつでも寄港できる港湾をあたかも
中国の外港のように拠点として配置しておく戦略です。もっと具
体的にいうと、マラッカ海峡が仮に封鎖されても原油を中国に運
ぶルートを確保することです。
 それらの拠点としての港湾を「真珠」といい、それらの真珠を
繋いだラインを真珠の首飾りと呼んでいるのです。これについて
は、添付ファイルを参照してください。
 それらの「真珠」として次の4つを取り上げます。なお、以下
の記述は、「海国防衛ジャーナル/シリーズ地政学」のブログを
参照に書いています。         http://bit.ly/2k7w46y
─────────────────────────────
      1.   グワダル(パキスタン)
      2. ハンバントタ(スリランカ)
      3.チッタゴン(バングラデシュ)
      4.  シットウェ(ミャンマー)
─────────────────────────────
 第1の「真珠」は、パキスタンのグワダル港です。
 これを拠点化できると、中国のタンカーはここで原油を積み下
ろし、鉄道、道路、パイプラインなどを使って、新疆ウイグル自
治区やチベット自治区などの中国の内陸部に輸送できることにな
ります。マラッカ海峡を通らずに済むのです。
 パイプラインについては、パキスタンとイランの間で、イラン
の天然ガスをパキスタンに運ぶためのパイプライン建設に同意し
ています。したがって、中国はこれを中国まで延引させるよう交
渉しているといわれます。しかし、現在工事は何も行われていな
いようです。
 しかし、グワダル港には2つの問題点があるのです。1つは民
族紛争です。パキスタンの首都イスラマバードに住む人々とグワ
ダルに住む人々とは民族が異なっており、仲が悪く、対立関係に
あります。イスラマバードに住む人々はパンジャブ人、グワダル
に住む人はシンド人と呼ばれています。
 シンド人は、パキスタン軍から強い弾圧を受けており、そのた
め、民族主義運動が起きているのです。したがって、シンド人は
もしパキスタン政府が自分たちの権利を踏みにじる開発を行えば
中国からの出稼ぎ労働者を殺すとまでいっているのです。
 もう1つは、隣の強国インドの干渉を受けやすいことです。イ
ンドは、インド洋を守るため、中国やパキスタンの勢力を警戒し
ています。実際にパキスタンの海運の9割を担うカラチ港は、イ
ンドに近いため、戦時によく封鎖されるのです。実際に1971
年の印パ戦争でカラチ港は封鎖されています。そのため、グワダ
ル港の中国の軍港化を警戒しています。したがって、中国として
は、グワダル港を真珠化することは、自国のシーレーン防衛にな
ると同時に、インドのシーレーンを抑えることになります。
 第2の「真珠」は、スリランカのハンバントタ港です。
 インドとスリランカの間には、ポーク海峡がありますが、水深
が浅く、暗礁も多く、タンカーの航行は困難なので、エネルギー
・ルートとしては、多くの国のタンカーがスリランカの南部に位
置するハンバントタ港を利用しているのです。
 実はスリランカと中国の関係は良いのです。スリランカは長年
内戦が続いていたのですが、中国は2007年に3500万ドル
(約33億円)相当の武器装備売買契約を結んでおり、中国はス
リランカの最大の武器供給国になっています。
 さらにスマトラ沖地震で疲弊したスリランカに対し、石炭火力
発電所や高速道路建設、経済特区設立などの投資を行い、高い戦
略的地理条件を備えたハンバントタ港を中国海軍の寄港地として
獲得しているのです。したがって、ハンバントタ港は既に真珠化
されているのです。
 第3の「真珠」は、バングラデシュのチッタゴン港です。
 チッタゴンはバングラデシュ第2の都市であり、その港は国内
最大で、天然の良港です。中国は港湾施設の整備などで既に手を
打っており、バンクラデシュは中国海軍の施設を受け入れ、同港
の利用を認めています。したがって、チッタゴン港も既に中国の
真珠化しているといえます。
 第4の「真珠」は、ミャンマーのシットウェ港です。
 シットウェは、ミャンマーのラカイン州の州都であり、その港
は深水港なのです。中国は、ミャンマーの軍事政権の時代から武
器輸出を行うなど、つながりが深く、既に中国の真珠のひとつに
なってしまっています。
 なかでも中国は、大ココ、小ココという2つの島を1994年
から借りており、そこに高性能の偵察・電子情報施設を築いてい
ます。さらに、ミャンマーの7つの海軍基地では、ミャンマーが
持っていない艦艇が入港できるように改造されているのです。
             ──[米中戦争の可能性/023]

≪画像および関連情報≫
 ●中国「真珠の首飾り」戦略によるコロンボ港開発
  ───────────────────────────
   中断されていた中国によるコロンボでの巨大プロジェクト
  に、スリランカの大統領が許可を出した。インド洋周辺に拠
  点を築くことで、自国の利益を確保しようとしていると批判
  を受ける中国の「真珠の首飾り」戦略。その一環として、ス
  リランカのコロンボに新たに港湾都市(ポート・シティ)を建
  設する計画が、スリランカの前政権下で進められてきた。
   「ポート・シティ」計画は2014年9月から習近平主席
  の肝いりで始まった。14億ドルの予算でコロンボ港の傍に
  埋立地を整備し、233ヘクタールもの施設やF1サーキッ
  トの建設が予定されている。それが、2015年1月の選挙
  を経て、シリセーナ政権が誕生した直後に計画は中断させら
  れた。特に問題点となったのは大規模開発による環境への影
  響である。ウィクラマシンハ首相はコロンボ港での埋め立て
  工事によって、スリランカ西岸での環境破壊が引き起こされ
  観光産業がダメージを受けることに懸念を表明していた。
   2009年5月に長年の内戦が終結して以降、前大統領の
  ラジャパクサ氏は、中国を頼りにして国内インフラの復興を
  推し進めてきた。その結果、スリランカ最大の支援者となっ
  た中国によって、道路や鉄道、港などの建設が進められた。
                   http://bit.ly/2jDRDNt
  ───────────────────────────

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中国の真珠の首飾り
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2017年02月07日

●「真珠の首飾りとダイヤネックレス」(EJ第4454号)

 昨日のEJで述べたように、中国はかなり以前から、いわゆる
「真珠の首飾り」の構築に精力的に取り組んできており、既にし
かるべき手を着実に打ってきています。本来その基本的な考え方
は「マラッカ・ジレンマ」を回避する──すなわち、もし台湾有
事などが起こってマラッカ海峡が封鎖されても、中国が原油を確
保できるようにすること、それが目的なのです。
 しかし、港湾を建設する以上、中国はそれを軍事基地化しよう
とするのです。その典型的な例をわれわれはミャンマーに見るこ
とができます。ミャンマーの場合、中国が近づいたのは軍事政権
のときであり、軍事政権が一番欲しい武器輸出を行い、港湾建設
などを積極的に引き受けることによって、各所に海軍部隊を配置
することで、同地域における軍事的な優位を獲得することに成功
しているのです。
 中国は、その見返りとして、アンダマン海にある大ココ島に海
洋偵察・電子情報ステーションを建設し、小ココ島には軍事基地
を建設しています。カネにものをいわせてやりたい放題です。そ
の目的は、マラッカ海峡近くのインド領アンダマン、ニコバルに
あるインド軍事基地や艦艇の動向を監視することです。
 さらに中国は、ミャンマーの7つある港のすべてにおいて、大
型艦艇が入れるように改造しています。ミャンマー海軍は、そう
いう大型船舶を保有していないので、明らかに中国の艦艇が寄港
できるようにしたのです。とくにシットウェ港は、深海港として
建設し、潜水艦も入れるようにしています。
 シットウェ港は、ベンガル湾をはさんで、インドの大都市カル
カッタまで約500キロのところにあり、中国軍はここに新設し
た信号傍受施設によって、インド当局のさまざまな動向を探れる
ようになったのです。
 さて、その中国の脅威に対してインドは、どのようにして対応
してきたのでしょうか。インドといえば、非同盟中立の立場をと
る国として知られています。インドについて三井物産戦略研究所
は、次のようにレポートしています。
─────────────────────────────
 インドは、長く非同盟中立政策を採ってきた。しかし、冷戦後
期には、対中戦略から、事実上の同盟といわれるほどにソ連と接
近し、非同盟中立は名目になった。逆に、欧米と距離を置いたこ
とで、経済的繁栄が犠牲になったとの認識もインド国内に生まれ
たのである。
 2000年代に入ると、繁栄と大国への願望から、米国との協
調を望んだ。2000年3月のクリントン米大統領の訪印は、関
係改善の契機になった。しかし、パートナーシップに対する認識
の違いと戦略的自立願望ゆえに長続きせず、インド国内に過度な
対米接近を否定する意見が出始めた。
 非同盟中立は、底流に流れる思想だが、戦後の英国支配から脱
するための、弱い大国としての非同盟中立と、近年の中国の圧力
に抗しつつ軍事力を背景にしての戦略的自立には大きな違いがあ
る。米国との距離感も、この微妙な対中バランスから生まれてい
る。                 http://bit.ly/2l21xVY
─────────────────────────────
 この中国の真珠の首飾り戦略は、インドから見れば、対インド
包囲網以外の何ものでもありません。このため、インドは、海外
拠点の取得によってこの包囲網を突破することを考えています。
つまり、中国の「真珠」に対抗して、インド洋から南シナ海の沿
岸に、港湾のネットワークを整備しようとしているのです。そし
てこれらの拠点を「ダイヤモンド」とし、作戦を「ダイヤのネッ
クレス」と呼称しています。このなかで、真珠とダイヤが一番ぶ
つかるのがミャンマーということになります。
 今やインドの対東アジア貿易が占める割合は50%を超えつつ
あり、インドにとって東アジアへの海上交通路の重要性はますま
す増しています。そのうえでインドも90%のエネルギーを湾岸
地域から輸入しています。そのため、ホルムズ海峡の通航に影響
を及ぼしているイランやパキスタンが中国との関係を深めている
ことに脅威に感じています。つまり、インドは「ホルムズ・ジレ
ンマ」を抱えているということがいえます。
 一方で米国はこの地域に対して考え抜かれた手を打とうとして
います。2011年のことですが、米国とオーストラリア両国は
オーストラリア北部のダーウィンに、新たに米海兵隊2500名
を駐留させる計画を発表しています。この計画には、オーストラ
リア北部の空軍施設を共同で使用することや、オーストラリア西
部への潜水艦を含む米艦船の寄港の活発化が盛られています。さ
らに、ココス諸島にも米豪共同運用のための空・海軍施設の拡大
計画もあるといわれています。ココス諸島というのは、インド洋
の南キーリング諸島と北キーリング諸島の2つの環礁と27のサ
ンゴ島から成るオーストラリア領の島々です。
 世界地図を広げて確認するとわかるように、中東地域からディ
エゴガルシア島〜ココス諸島〜クリスマス島〜ダーウィン〜パプ
ア・ニューギニア〜グアム〜日本列島にはすべて米軍が駐留して
おり、中国の真珠の首飾りの外側を取り巻く大きなリングができ
ています。
 軍事戦略家によると、中国の真珠の首飾りは軍事戦略にはなり
得ないといいます。なぜなら、中国がインド洋において空軍力を
欠いているからです。確かに中国は既に遼寧という空母を保有し
ていますが、これは訓練用の空母であって、実戦には使えないの
です。現在、さらに2隻を建造中ですが、それが完成し、兵士を
訓練して実戦で使えるようにするには最低でも5年以上かかると
考えられます。これまでは経済力をテコとしてやって来たのです
が、その経済力にも明らかに陰りが見えてきているのです。
 それに一番軍事基地化の進んでいるミャンマーは、軍事政権で
はなく、これから民主化に向うものと思われます。そういう状況
において、中国の軍事利用が進むとは考えられないのです。
             ──[米中戦争の可能性/024]

≪画像および関連情報≫
 ●民主化が胎動するミャンマーで思いを馳せた中国の現状
  ───────────────────────────
   2014年8月初旬に、私は初めてミャンマーを訪れた。
  ちょうど、同国が“民主化”へのプロセスに舵を切る頃のこ
  とである。首都ヤンゴンの中心地、日系企業も支社を置くオ
  フィスビル・サクラタワー付近を拠点に動いていたが、昼夜
  を問わず、街は活気であふれていた。見るからに“若さ”と
  いうパワーを感じさせた。ベトナムのホーチミンの街を歩く
  ようなイメージを彷彿とさせた。日本車が8割ほどを占めて
  いたように見受けられた道路上の渋滞は、バンコクやジャカ
  ルタほど深刻ではなかったと記憶している。
   8月10日には、首都ネピドーで東南アジア諸国連合地域
  フォーラム(ASEAN Regional Forum、ARF) が開催される直
  前であったため、道端にはそれを宣伝するポスターが掲げら
  れていた。ミャンマーが国際社会の一員として地域の発展と
  協力プロセスにエンゲージし、場合によってはイニシアティ
  ブを発揮していこうとする、国民国家としての意思が感じら
  れた。それを象徴するかのように、看板にはASEAN10
  ヵ国の国旗の脇に「ミャンマーがこの地域の平和や発展に貢
  献する時期が来たのだと思います。祖国がこのような盛大な
  国際会議を主催できるのを誇りに感じています」。
                   http://bit.ly/2kwIpSC
  ───────────────────────────

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中国の首飾りと米国の首飾り
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2017年02月08日

●「尖閣奪取は中国の既定路線である」(EJ第4455号)

 2月3日のことです。米国トランプ政権の閣僚であるマティス
国防長官が来日し、安倍首相や稲田防衛相との会談が行われてい
ます。会談で日本の最大の懸念事項である尖閣諸島の安保適用の
有無について安倍首相からマティス国防長官に確認が行われ、マ
ティス長官から次の発言を引き出しています。
─────────────────────────────
 尖閣諸島は日本の施政の下にある領域であり、安保条約5条
 の適用範囲である。米国は、尖閣に対する日本の施政を損な
 おうとするいかなる一方的な行動にも反対する。
                 ──マティス米国防長官
─────────────────────────────
 1月11日、米上院外交委員会の指名承認公聴会において、国
務長官候補のレックス・ティラーソン氏に対して、共和党のルビ
オ上院議員から尖閣諸島について問われ、ティラーソン氏は次の
ように答えています。
─────────────────────────────
 R:中国が尖閣諸島(沖縄県石垣市)に侵攻した場合、米国
   はどのように対応するか。
 T:米国の日本防衛義務を定めた日米安全保障条約を適用す
   る。米国は条約に従って対応する。これまでも日本防衛
   を確約してきた。   R=ルビオ T=ティラーソン
─────────────────────────────
 まだ、国務長官になる前の発言ですが、ティラーソン氏はもし
中国が尖閣諸島に侵攻した場合、日米安保条約を適用すると明言
しています。既にオバマ前大統領も尖閣諸島が安保条約の適用範
囲内であると発言しており、関係者全員が「日米安保適用内」を
明言したことになります。
 しかし、肝心のトランプ大統領はどうでしょうか。トランプ氏
は、選挙中の2016年3月のことですが、ワシントンポスト紙
とのインタビューで次のように発言しています。
─────────────────────────────
 ポスト記者:中国が尖閣諸島を攻撃した場合、安保条約を適
       用するか。
 トランプ氏:私がどうするか、話したくない。
─────────────────────────────
 通常であれば、現職の国防長官が約束したことを大統領が翻す
ことはあり得ないことです。閣内不一致になるからです。しかし
懸念されることは、トランプ氏が選挙中に発言した米軍の日本駐
留経費負担増額の話です。マティス国防長官との会談ではその話
は一切出ていませんが、今後も要求がないとは限らないのです。
こうした懸念について、2017年2月4日付の朝日新聞は、次
のように書いています。
─────────────────────────────
 マティス氏から尖閣防衛に関与するとの言質を引き出したにも
かかわらず、安倍政権内の懸念が、完全に払拭されたわけではな
い。トランプ政権は大統領と閣僚の発言が食い違う、「閣内不一
致」が常態化している。マティス氏とトランプ氏がどこまで事前
にすりあわせたか定かではない。予測不能が枕詞のトランプ氏が
ちゃぶ台返しをしない保証はない。(中略)
 日本側にはトランプ氏の「ディール(取引)外交」への警戒心
も根強い。尖閣への安保条約適用など安全保障分野での対日政策
継続をうたう一方、駐留経費や防衛費増額、さらには通商分野で
の取引を迫ってくる可能性は否定できない。
          ──2017年2月4日付、朝日新聞朝刊
─────────────────────────────
 米国対中国──この2大大国は、このままではいずれ激突する
運命にあります。中国は非常に長いスパンで米国に追いつき、米
国を凌駕することを考えています。それには計画があり、中国は
その計画に基づき、ことを進めてきています。その計画によると
尖閣諸島を中国のものにすることは、既定路線なのです。
 その計画を描いたのは劉華清という軍人です。劉華清は中国国
外ではほとんど知られていませんが、ケ小平の右腕として、中国
海軍を率い、「中国海軍の父」といわれている人物です。劉華清
は海軍司令のとき、「中国の経済・科学技術が発展すれば、海軍
力はさらに大きなものになる」と中国海軍の近代化を主張し、次
のような計画を打ち出しています。
─────────────────────────────
 2010年までに第1列島線内部の制海権を握って、東シナ海
南シナ海を中国の内海とし、2020年までに第2列島線の西太
平洋の制海権を確保、2040年までには太平洋、インド洋にお
いて、米海軍と制海権を競い合う。そして、2050年までには
全世界規模の海上権力を握る。     http://bit.ly/2l31Y5O
─────────────────────────────
 誠に身勝手な計画であり、現在のところ、何一つ達成されてい
ませんが、中国がこの計画にしたがって海軍力を強化してきてい
るのは間違いのない事実です。ピーター・ナヴァロ氏は、劉華清
について、次のように紹介しています。
─────────────────────────────
 劉華清の名は、ベトナムでは、1974年に中国が西沙諸島を
奪取した際にべトナム兵の虐殺を命じた司令官として知られてい
る。中国の反体制派が劉華清と聞いてまず思い浮かべるのも、彼
が天安門事件(1989年)の虐殺に関わった部隊の司令官だっ
たことである。こうした暗いイメージもあるものの、最もよく知
られているのは「中国海軍の父」としての劉華晴である。自分の
目の黒いうちに中国が自前の空母を持てなかったら、「目を見開
いたまま死ぬ」と言ったというエピソードが有名である。
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/025]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプ大統領の誕生と中国海軍の行動の活発化
  ───────────────────────────
   2016年12月25日、中国海軍の訓練空母「遼寧」が
  宮古海峡を抜けて、西太平洋に入った。中国海軍のこの行動
  は、明らかにトランプ氏をけん制したものだ。中国は、自ら
  の懸念が現実のものになるのを恐れているのである。
   空母「遼寧」は、3隻の駆逐艦及び3隻のフリゲート、1
  隻の補給艦を伴っていた。「遼寧」は、訓練空母であって実
  戦に用いる能力がないにもかかわらず、空母戦闘群の編成を
  とって行動したのだ。ファイティング・ポーズを見せている
  ということである。その相手は、もちろん米海軍だ。
   現在、米海軍では、一般的に空母打撃群という呼称が用い
  られているが、中国メディアでは空母戦闘群と呼称されるこ
  とが多い。米海軍でも、2006年までは空母戦闘群という
  呼称を用いていた。呼称を変えたということは、作戦概念を
  変えたということである。米海軍の空母の運用構想は、すで
  に2000年代半ばには変わっていたということでもある。
  一方の中国は未だ、空母戦闘群を米海軍との海上戦闘の主役
  と考えているようだ。中国海軍は、現在でも、台湾東方海域
  が米海軍との主戦場になると考えている。中国は、海軍の行
  動範囲の拡大は戦略的縦深性を確保するためだとする。中国
  が太平洋側に戦略的縦深性を確保したいと考えるのは、沿岸
  部に集中する主要都市を攻撃から守るためであるが、敵が太
  平洋から攻めてくると考えているということでもある。太平
  洋から中国を攻撃する国、それは米国以外にはない。米国が
  中国に対して軍事攻撃を行う可能性を懸念しているのだ。
                   http://bit.ly/2htgdj0
  ───────────────────────────

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中国海軍の父/劉華清上将
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2017年02月09日

●「中国海軍戦略の方程式を解読する」(EJ第4456号)

 中国海軍の建設は、次の式であらわすことができるとされてい
ます。中国の海軍戦略のいわば方程式です。これは、海上自衛官
の経験を持ち、元防衛大学校海上防衛学教授を務めた作家の山内
敏秀氏の論文に出ていたものです。
─────────────────────────────
  中国海軍の戦略=
  革命の完成+海の長城+海洋管轄権の擁護+局部戦争+
  海上交通路の保護+非戦闘軍事行動
                 http://bit.ly/2kAVwlH
─────────────────────────────
 中華人民共和国(現在の中国)が海軍の必要性に目覚めたのは
蒋介石の率いる国民党軍が台湾本島にこもり、そこを大陸反攻の
拠点としたことがきっかけであるといわれます。
 それまでの中国は、軍隊の強化といえば、陸軍の強化であり、
海軍にはあまり関心がなかったのです。しかし、国民党軍が島に
立てこもったので、それを取り戻すには海軍が必要であると考え
たというわけです。つまり、台湾を取り戻すまでは、革命は完成
していないという考え方に立ったのです。
 「海の長城」とは何でしょうか。
 「海の長城」とは、毛沢東主席が1949年に中国人民政治協
商会議第1回全体会議の開幕演説で使っています。
─────────────────────────────
 我が国の海岸線は長大であり、帝国主義は中国に海軍がないこ
とを侮り、百年以上にわたり我が国を侵略してきた。その多くは
海上から来たものである。中国の海岸に「海の長城」を築く必要
がある。  ──毛沢東主席演説    http://bit.ly/2l9SD97
─────────────────────────────
 この場合、「海の長城」はあくまで沿岸警備であり、国として
当然の防衛であるといえます。添付ファイルの上の図がそれに該
当します。
 しかし、この海洋防衛ラインが本土の沿岸部から離れる契機と
なったのは、1978年に採用された改革開放路線です。国防の
対象となるエリアが、従来の内陸の奥深くから沿岸部に設置され
た経済特区へと移り、さらには海洋そのものが経済発展の舞台と
して認識されるようになったのです。これを仕掛けたのは「中国
海軍の父」といわれる劉華清です。添付ファイルの下の左の図が
それに該当します。「85戦略転換」と書いてあるのは1985
年にそれが行われたからです。ところで、劉華清は次のような名
言を遺しています。
─────────────────────────────
 海軍は商船の存在によって生じ、商船の消滅によって消える
 ものである。            ──劉華清海軍司令
─────────────────────────────
 つまり、劉華清海軍司令は、海洋事業は国民経済の重要な構成
部分であり、その発展には強大な海軍による支援がなければなら
ないと主張します。この85戦略転換が「海洋管轄権の擁護」へ
と変わり、第1列島線と第2列島線という現在の中国の海軍戦略
の考え方が出てくるのです。南シナ海については、国際法を無視
した勝手な論理で「九段戦」なる線を引き、そこは中国の領海で
あるとしてその管轄権を主張しています。この中国の海軍戦略の
変化について、山内敏秀氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国の海軍戦略が変化する契機となったのは「改革・開放」路
線を決定した1978年の11期3中全会です。「改革・開放」
路線の決定によって、海洋が経済発展の場と認識され、さらにい
わゆる85戦略転換を受けて、中国海軍は戦略を再検討し、国家
の経済建設に貢献するため、300万平方キロメートルの海洋管
轄権を維持することを目的とした近海防御戦略を策定しました。
 (中略)新しい近海防御戦略における脅威認識は概ね渤海から
南シナ海にいたる300万平方キロメートルの海域における中国
の海洋開発を阻害する他国の活動を主たる脅威とするものでした
が、近海防御戦略は、「革命の完成」や「海の長城」に取って代
わったのではなく、それらに付加され、重心が移行したに過ぎな
いのです。      ──山内敏秀氏 http://bit.ly/2kAVwlH
─────────────────────────────
 それでは、冒頭の中国海軍戦略の式にある「局部戦争」とは何
でしょうか。
 山内敏秀氏は、「局部戦争」は局地戦争ではなく、特定の政治
目標を達成させるための限定的な戦争であると述べています。海
洋管轄権を擁護しようとすると、どうしてもその目的達成のため
に関係国との間に衝突が起きる可能性がありますが、それが局部
戦争です。そういう海上における局部戦争に勝利するため、海軍
力の増強と近代化が急務であるとしているのです。
 中国は、こうした局部戦争において、投送兵力、海上封鎖、対
地攻撃、陸上作戦支援、水上艦艇攻撃、海上輸送、武力誇示、軍
事恫喝などを行うため、海軍を運用しようとしています。現在、
既に起きている南シナ海での各種の紛争、中国の人工島をめぐる
争い、東シナ海の尖閣諸島を巡る各種の衝突は、やがて局部戦争
に発展する恐れが十分あります。
 それでは、海軍戦略の式の最後に書かれている「非戦闘軍事行
動」とは何でしょうか。
 これは現在の呉勝利海軍司令がいっているのですが、90年代
の米軍が目指した「MOOTW」のことをいっているのではない
かと思われます。
─────────────────────────────
   MOOTW=Military Operations Other Than War
─────────────────────────────
 海軍力を高めて行くと、それだけで戦闘を防ぎ、政治目標を達
成できるという意味にもとれます。「戦わずして勝つ」という孫
子の兵法です。      ──[米中戦争の可能性/026]

≪画像および関連情報≫
 ●「中国海軍は縮小する」/文谷数重氏
  ───────────────────────────
   日本にとって中国の脅威は海軍力にある。日本人は中国が
  どれほど陸軍をもっていても気にはならない。だが90年代
  後半以降、日本の海軍力の優越が失われると、途端に不安と
  なった。その海軍力はこの10年間で特に急成長した。空母
  実用化や中華イージス登場の背後で、外洋型軍艦と潜水艦を
  併せた主力艦を55隻を完成させている。中国海軍力は、今
  後も急成長をつづけるのだろうか?
   答えはノーである。質的な向上はあるが、数的成長は望め
  ない。今後10年間、2026年までは微増にとどまり、2
  027年以降は減少に転ずる。なぜなら、経済成長の停滞、
  装備の高級化、既存艦の大量退役のためだ。中国海軍の成長
  は止まる。その第一の理由は経済成長の停滞により軍事費の
  成長が止まるためだ。海軍増強は経済成長に伴う軍事費増額
  に支えられていた。ここ10年間、2006年から15年ま
  で中国軍事費は合計6億元である。これは96年からの10
  年間の3倍の額である。中国はその軍事費を傾斜配分して、
  海軍の急成長を実現した。だが、今後は軍事費の増額は見込
  めない。その大元となる経済成長が停滞するためだ。強気の
  政府発表でも年率5%とされており、さらに統計の信憑性か
  らすれば実質はそれ以下となる。 http://huff.to/2laHzYk
  ───────────────────────────

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中国の海軍戦略の変遷
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2017年02月10日

●「ニカラグア運河は果してできるか」(EJ第4457号)

 昨日のEJで取り上げた中国海軍戦略の方程式を再現します。
─────────────────────────────
  中国海軍の戦略=
  革命の完成+海の長城+海洋管轄権の擁護+局部戦争+
  「海上交通路の保護」+非戦闘軍事行動
                 http://bit.ly/2kAVwlH
─────────────────────────────
 このなかで「海上交通路の保護」については、昨日のEJでは
取り上げていないので、今回考えます。海上交通路については、
その多くが米軍の支配下にあるので、中国としては沿岸に複数の
寄港地(真珠)を確保し、それをつなぐ「真珠の首飾り」戦略を
実施していることは、既に説明しています。これが「海上交通路
の保護」になっているわけです。
 中国は、世界中の重要な海峡や運河にも抜かりなく手を打って
います。そのひとつである「ニカラグア運河」について、東京財
団研究員で、元駐中国防衛駐在官の小原凡司氏の興味ある論文を
中心に紹介することにします。
 2016年6月26日のことです。その日はパナマ運河の拡張
工事完成式典が実施され、各国首脳が式典に集まったのです。し
かし、パナマ政府から招待されたにもかかわらず、中国の習近平
国家主席は姿を見せなかったのです。なぜ、出席しなかったので
しょうか。
 実はパナマは中国と国交がないのですが、台湾とは国交を結ん
でいます。したがって、この式典には台湾の蔡英文総統が出席し
ているのです。中国にいわせれば、そのような席に中国の国家主
席を招くのは失礼であるというわけです。中国は「一つの中国」
を認めない国とは国交を結ばない方針だからです。
 ニカラグア運河について述べる前に、バナマ運河の前提知識と
して、パナマ運河の歴史について「世界史の窓」から、次にメモ
してておきます。
─────────────────────────────
 大西洋と太平洋を結ぶ、パナマ地峡に設けられた運河。19世
紀のフランス外交官で、スエズ運河を完成させたフランス人のレ
セップスが建設に着手したが失敗。アメリカがパナマを強引に独
立させ、運河地帯の支配権を獲得し、1904年に着手し、19
14年に完成させた。アメリカは1977年の新パナマ条約で返
還を約束したが、89年にパナマ侵攻を実行、運河の支配維持を
図った。しかし、国際世論の反発が強く、99年に約束通り返還
された。     ──「世界史の窓」 http://bit.ly/2laXvL8
─────────────────────────────
 さて、パナマ運河は拡張工事が終わりましたが、ニカラグア運
河は着手されたものの、まだ完成していません。ニカラグア政府
と中国系企業HKNDが運河建設で合意し、2014年に着工し
2019年完成だったのですが、予定通りいっていないのです。
 一応中国系企業との契約になっていますが、運河の建設には巨
額の資金がかかり、一企業が担える金額ではないので、バックに
中国政府がいることは確実です。それにしても米国の喉元にあた
るニカラグアに、中国政府が関与して運河を建設することに米国
はよく黙っていたものです。
 中国は意識してそういう行動をとる国なのです。トランプ大統
領とオーストラリアのターンブル首相は、1月28日に電話で会
談しましたが、移民の問題をめぐって意見が衝突し、トランプ氏
に電話をガチャ切りされるということが起きています。
 そうすると、中国の王毅外相はこのタイミングをとらえてオー
ストラリアを急遽訪問し、全面的な戦略パートナーシップを充実
させると宣言し、3月の李克強首相のオーストラリア訪問を決め
ています。きわめて計算高い国であるといえます。
 ニカラグアもかつて運河建設をめぐって米国にさんざん翻弄さ
れ、結局パナマに運河を作られてしまった歴史があります。中国
はそのスキを衝いて、ニカラグア運河の建設を持ちかけたものと
思われます。
 米国は、運河建設に対してパナマとニカラグアを天秤にかけ、
両国に対して相当強引なことをやってきています。パナマ運河を
作るとき、当時パナマが属していたコロンビア政府が反対したの
で、パナマを強引にコロンビアから独立させています。
 また、ニカラグアで起きた暴動に便乗して海兵隊を派遣し、当
時の大統領を辞任させています。運河建設の権利を潜在敵国のド
イツに売ろうとしたという疑いをかけたのです。しかし、ニカラ
グア運河には、モモトンボ火山の噴火の危険が指摘されたので、
米国は1914年にパナマ運河を開通させています。
 ニカラグアの地理的ポジションについて知る必要があります。
ニカラグアは、メキシコの南、中米コスタリカの北に位置し、米
国の影響下にあります。そのコスタリカの南にパナマ運河がある
のです。パナマは、パナマ運河のおかげで経済が発展し、街には
高いビルが林立しています。コスタリカとしても、運河を建設す
れば経済も活性化するので、建設したいところですが、何しろ経
費が500億ドル(6兆円)もかかるので、大国の援助なくして
は建設不可能です。500億ドルはニカラグアのGDPの5倍近
い巨額な数字だからです。
 ニカラグア運河をどうしても建設したいニカラグアのオルテガ
政権は、2013年6月に香港系企業HKNDに新運河の計画・
建設・運営を認めることを決定し、その翌年から工事に着手して
います。HKNDは、北京に本社を置く信威通信産業集団の会長
の王靖氏が2012年に香港に設立した企業です。明らかにニカ
ラグア運河を建設することを目的とする企業と思われます。
 運河建設の条件は、運河完成後50年間、その後さらに50年
間更新可能となっており、運河の経営権はHKNDにあります。
つまり、ニカラグア運河は完全に中国の管理下に置かれることを
意味します。しかし、運河建設は簡単ではなかったのです。
             ──[米中戦争の可能性/027]

≪画像および関連情報≫
 ●中国主導「ニカラグア運河」/宮崎正広
  ───────────────────────────
   中国の「無謀」というより「発狂的な」海外投資の典型は
  対ベネズエラに行われた。反米政治家だったチャベス大統領
  の中国べた褒め路線にのっかって、中国は450億ドルをベ
  ネズエラ一国だけに投資した。担保はベネズエラが生産する
  石油であり、昨今は一日60万バーレルを輸入する。基本的
  ルールとは、幕末維新の日本が英米独露から押しつけられた
  不平等条約の中味を思い出すと良い。つまりカネを貸す見返
  りが関税だったように中国は猛烈に石油を確保して、その前
  払いを利息先取りを含めて行っているのである。
   将来のディスカウントを貸し付け利息に算定して計算して
  いるわけだから、原油代金はおもいのほか安くなっている筈
  である。パナマ運河をこえて、ベネズエラ石油は中国へ運ば
  れる。後述するようにニカラグア運河とパナマ運河拡張プロ
  ジェクトは、このベネズエラへののめり込み路線と直結する
  のである。ともかくベネズエラは歳入の過半が石油輸出(輸
  出の96%)によるものである。ベネズエラ原油価格は、1
  バーレル99ドル(13年)から、2015年四月現在、な
  んと1バーレル=38ドルに墜落したため、2015年は、
  2013年の三分の一の歳入に落ち込むことは必定である。
  ベネズエラはOPEC(石油輸出国機構)のメンバーでもあ
  り、勝手な行動も許されずチャベルを引き継いだニコラス・
  マドゥロ大統領は悲鳴を上げて中国に助けを求める。しかし
  中国はベネズエラ鉱区を買収し、投資しているが、石油市場
  の悪化により、これ以上の投資が出来ない。
                   http://bit.ly/2ktIYf5
  ───────────────────────────

オルテガ大統領と王靖HKND会長.jpg
オルテガ大統領と王靖HKND会長
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2017年02月13日

●「ニカラグア運河実現を阻む3問題」(EJ第4458号)

 ニカラグア運河は2014年に着工していますが、3つの問題
点に突き当たっています。次の3つです。
─────────────────────────────
      1.途中で資金が不足する恐れがある
      2.水源確保などの計画の甘さがある
      3.採算がとれるかどうかわからない
─────────────────────────────
 「1」は、運河の建設資金の問題です。
 2014年に着工したはずのニカラグア運河ですが、2015
年11月に英国のメディアは「ニカラグア運河の本格的工事開始
が1年間延期された」と伝えています。その翌日に、中国メディ
アが同じ内容を伝えているので、運河工事の1年延期は間違いな
いと思われます。
 「本格的工事開始が1年延期」という表現は、実際の工事には
入っていないことを意味します。それにしても、工事を請け負う
HKNDは中国の大富豪の企業であり、バックには中国政府がつ
いているのにどうして資金不足になったのでしょうか。
 HKNDの王靖会長のバックには中国政府がいるのは確かです
が、あくまで隠れた存在です。したがって、当面は王会長の個人
資産頼みになります。そのうえで世界の投資家からの資金を募る
計画もあるのですが、うまくいっていないようです。
 しかし、その肝心の王会長の個人資産が、中国株の暴落や経済
発展の減速によって、最高時の3分の1程度にまで目減りしてし
まい、深刻な資金不足を引き起こしているのです。
 実際に2014年からの1年間では工事はほとんど行われてい
ないのです。それは、米ブルームバークのある記事によって明ら
かにされています。2015年8月時点の話ですが、米ブルーム
バークのマクドナルド記者は、ニカラグア湖の岸辺のエルトゥー
ルという町を取材しています。このエルトゥールという町は、ニ
カラグア運河の工事がはじまると消滅する予定になっています。
この取材の結果、マクドナルド記者の書いた記事は、次の通りで
す。かなり長い記事なので、冒頭の一部のみ以下に示します。
─────────────────────────────
 町の人間はもう何ヶ月も運河建設関係者を目撃しておらず、工
事もわずかしか行われていないという。たしかに何人かの中国人
のエンジニアたちが、湖の東側に標識を立てていたのを去年の暮
れに見かけたし、今年のはじめには港が出来る予定の、西岸の工
事用の道が拡大され、照明が新しいものに変えられた。しかし現
地の若い実業家であるメンドーサ氏(32歳)は建設計画が進ま
ないことを確信しているために、エルトゥールの町の郊外にコン
ビニと隣接した2階建ての宿を建設中だ。彼は運河なんかできる
わけないと大胆に述べている。    http://exci.to/2luxzJD
─────────────────────────────
 「2」は、建設計画の中身の問題です。
 ニカラグア運河計画は、カリブ海と、太平洋と大西洋を結ぶ約
260キロメートル(パナマ運河の3・5倍)の運河を建設する
という壮大な計画です。
 この運河計画が普通の運河計画と違うのは、途中にニカラグア
湖を通過することです。運河の水位調節は、他の運河と同様に段
階的に水門を閉じて行う方式ですが、ニカラグア運河の計画には
水源としての人工湖計画がないのです。水路を引いて中央のニカ
ラグア湖の水源を使う計画になっています。
 しかし、これをやると湖の水源不足につながってしまいます。
それに生態系の変化も起こることになります。こうした建設計画
の甘さやニカラグア湖の生態系の問題では、環境団体による大規
模な反対運動も起きています。
 「3」は、この運河の採算性問題です。
 世界3大運河といわれますが、3つともいえるでしょうか。2
つはいえても3つ目をいえる人は少ないと思います。
─────────────────────────────
            全長   利用船舶数   開通年
 1.スエズ運河 167キロ 2万1000隻 1869年
 2.パナマ運河  80キロ 1万4000隻 1914年
 3.キール運河  98キロ 4万2000隻 1895年
─────────────────────────────
 これら3つの運河は、それぞれ別の場所にあるのですが、3つ
には関係があります。スエズ運河はエジブトにあり、地中海と紅
海を結ぶアジア/ヨーロッパ間ルートです。パナマ運河は、パナ
マにあり、太平洋と大西洋(カリブ海)を結ぶ南北アメリカの境の
ルートです。キール運河は、ドイツ北部にあり、北海とバルト海
を結ぶルートであり、デンマーク・ユトランド半島の根元に位置
しています。
 アジア/ヨーロッパ間ルートで考えると、スエズ運河とパナマ
運河は競争関係にあります。しかもこの2つの運河は最近相次い
で拡張工事を終了しています。スエズ運河は2015年、パナマ
運河は2016年です。その結果、パナマ運河は、スエズ運河に
比較して通航料金は3〜4割高くなっています。
 もし、ニカラグア運河ができると、その通航料金は相当高くし
ないと採算に合わなくなります。まして、ニカラグア運河はパナ
マ運河と非常に近い距離にあります。つまり、どちらを通航する
かは料金比較になるのです。スペイン在住の貿易コンサルタント
の白石和幸氏は自身のサイトで次のように述べています。
─────────────────────────────
 ニカラグア運河については完成するか否かが先ず疑問視されて
いる。また、パナマ運河とニカラグア運河が商業的に同時に採算
ベースに乗ることは不可能である。米国は中国の影響下にあるニ
カラグア運河は使用しないはずで、ニカラグア運河は中国の米国
を睨んだ戦略的な意味合いが強い。   http://bit.ly/2kdhxYI
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/028]

≪画像および関連情報≫
 ●前途絶望のニカラグア運河/宮崎正弘氏
  ───────────────────────────
   中国がパナマ運河に対抗してニカラグアに運河を建設する
  大プロジェクトは、日本円にして6兆円規模だ。全長278
  キロ、パナマ運河の三倍。気が遠くなる稀有壮大な夢の実現
  と騒がれた。
   ニカラグアのサンディニスタ左翼政権は派手に米国に敵対
  してきたが、複数政党制になっていまは連立政権である。政
  権が変わると、スリランカが、あるいはミャンマーがそうで
  あるように、中国主導のプロジェクトはときに中止されたり
  する。しかもニカラグアは、なぜか中国とは国交がない。台
  湾と外交関係がある不思議な左翼的国家、というより反米的
  な国家である。隣のコスタリカは白人国家。しかもコスタリ
  カのほうが、中国が出資してくれるので、あっさりと台湾と
  の外交関係を断った。
   米国から見れば、パナマ運河のすぐ北に競争相手ともいう
  べき大運河が建設されると聞けば、安全保障上からも、脅威
  であり、裏で妨害工作をするだろうと予測してきたが、妨害
  もなく、地元の環境保全の運動にも、表立った支援をなして
  いる様相はない。不思議だなといぶかしんできたのだが、最
  近の事情が伝わって、ようやく得心が出来た。つまり米国は
  この計画は最初から無理で、途中で放り投げてしまうだろう
  と楽観視してきたからだ。     http://bit.ly/2lySvzg
  ───────────────────────────

ニカラグア運河とパナマ運河の位置関係.jpg
ニカラグア運河とパナマ運河の位置関係
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2017年02月14日

●「ニカラグア運河/中国は諦めない」(EJ第4459号)

 ニカラグア運河についてネットで調べると、計画は大幅に遅れ
ているが、今後進められるであろうとする情報と、計画倒れで中
止になる公算が強いという相反する情報が溢れています。一体ど
ちらが正しいのでしょうか。
 東京財団研究員で、元駐中国防駐在官の小原凡司氏の論文の表
題(ウェッジ・インフィニティ/日本をもっと考える所載)は次
のようになっています。
─────────────────────────────
     小原凡司(東京財団研究員・元駐中国防駐在官)著
 中国が「ニカラグア運河」いよいよ建設へ「パナマ運河無力
 化の先に見据えるもの」   ──2016年6月27日付
                  http://bit.ly/2lDYKCD
─────────────────────────────
 現在、ニカラグア運河の建設は、HKNDによる調査などは行
われているものの、全然着手されていない状況です。その原因は
資金不足と地元民の反対にあるとみられます。しかし、小原氏の
論文を読む限り、運河にはさまざまな困難はあるものの、中国の
手で進められ、いずれは完成される可能性は高いと考えていると
読み取れます。
 なぜなら、もし、ニカラグア運河が完成すると、この運河建設
の主導権を握っている中国は、対米軍事戦略上、きわめて有利な
ポジションを占めることになるからです。小原凡司氏は、その中
国の優位性について、次のように述べています。
─────────────────────────────
 ニカラグア政府は運河の東西両端(太平洋口と大西洋口)の港
湾や自由貿易区の浚渫や建設、さらにはリゾート開発の権益をも
HKNDに与えている。これにより運河沿岸地域すべてが中国系
企業の管轄となり、この広大な地域が事実上100年間、中国の
租借地となるとみられている。
 中国は、運河沿岸全域を管理することによって、米国に知られ
ることなく、何でも大西洋に送り込むことができるようになる。
パナマ運河で行われている積荷の検査を自国で行うことができる
からだ。
 例えば、中国は現在でもベネズエラに対して、Z─9型対潜ヘ
リコプターやSM─4型81ミリ装輪自走速射迫撃砲、SR─5
自走ロケット砲などを輸出しているが、さらに、中南米諸国に反
米姿勢を強めるように働きかけ、実際に武器を供給することも容
易になるのだ。(中略)
 中国はニカラグア運河を通航する搭載物資に関する情報をすべ
て得ることにもなる。安全保障上も、ビジネス上も極めて重要な
情報である。しかし、中国が太平洋と大西洋を行き来する物資に
関する情報をより多く得たいと思えば、ニカラグア運河がパナマ
運河よりも商業的に魅力的になる必要がある。
                   http://bit.ly/2lBPjTC
─────────────────────────────
 しかし、ニカラグア政府もHKNDもこの運河工事をいまさら
中止できなくなっている事情があります。運河を作る以上、その
ルートに当たる土地や住宅を政府が買い上げる必要があります。
その買収すべき土地の総面積は、2900平方メートルに及び、
対象者は3万人〜12万人になるといわれています。
 問題なのはその土地や家屋の買い上げ価格の低さです。ニカラ
グア政府は、「840条第12項」に基づき、運河開発に必要に
なる土地を政府の土地鑑定評価額で買い上げるが、それに対して
所有者からの不服は一切受け付けず、立ち退かなければならない
としています。こういう強引な手法がとれるのは、現在のダニエ
・オルテガ大統領は独裁者であるからです。
 もちろん住民はこれに対して大反発し、何回もデモが行われて
います。住民としては住み慣れた土地を強引に奪われ、しかもそ
の代償として受け取るお金は非常にわずかなのですから、住民の
反発は当然のことです。
 現在のオルテガ政権は、親米の長期政権であるアナスタシオ・
ソモサ・デバイレ政権を倒して成立した政権であり、社会主義を
目指しています。中国はそのような国に接近し、投資を行い、米
国の喉元に多くの拠点を構えようとしているのです。
 ニカラグアだけではないのです。中国はベネズエラをはじめと
し、エクアドル、アルゼンチンなど、いずれも社会主義路線を進
める準独裁国家を対象に、1000億ドルを超える巨額の投資を
行っているのです。エクアドルには銅山開発、アルゼンチンでも
鉱山開発に加えて、鉄道事業への投資も行われています。しかし
そのいずれも進出している中国企業とトラブルを起こし、うまく
いっていないのです。
 以下は、国家通貨研究所経済調査部森川央上席研究員によるニ
カラグア運河の現状のコメントです。
─────────────────────────────
 当初の計画では工事が始まっているはずだが、ニカラグア政府
は全く情報を開示しておらず、進捗状況は不明である。だが企業
関係者の声を総合すると、本格的に工事が始まった形跡は見られ
ない。(中略)計画が具体性を欠いているだけでなく、ニカラグ
アを支援する友好国に陰りがみられることも計画への不安材料と
なっている。ニカラグアの与党は左派のサンディニスタ民族解放
戦線(FSLN)である。FSLN政権下で、同国は米州ボリバ
ル同盟(ALBA)という左翼政権の同盟に参加している。友好
国はキューバ、ベネズエラ、エクアドル、ボリビアなどで、イラ
ンやロシアとも武器購入などで関係が密である。特にベネズエラ
からは破格の条件で石油の提供を受けていた。しかし、ベネズエ
ラ経済は現在、危機的状況を迎えている。ニカラグア経済はこれ
までのところ好調であるが、今後はベネズエラからの援助は期待
できず、先行きへの懸念材料となっている。
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/029]

≪画像および関連情報≫
 ●ニカラグア運河計画、実現に疑問も/WSJ
  ───────────────────────────
  【オメテペ(ニカラグア)】中米ニカラグアのサンディニス
  タ民族解放戦線(FSLN)が率いる現政権は、1980年
  代に吹き荒れた革命運動のさなかに国土の大半を接収した。
  政府はここにきて再び地方の土地を確保しようとして国を混
  乱させている。だが、今回は資本主義に基づく事業、つまり
  中国資本の助けを借りて太平洋と大西洋を結ぶ全長172マ
  イル(約277キロ)の運河を建設することが目的だ。
   ニカラグアが計画しているこの運河は、完成すればフット
  ボール場4つ分より長い船舶の航行が可能となる。大きすぎ
  て新たに拡張されたパナマ運河でさえ航行できない船舶も利
  用できるようになる。ニカラグアの運河で建設・運営に関す
  る50年の権利を有する香港ニカラグア運河開発投資(HK
  ND)によると、このプロジェクトは人類史上最大規模の土
  木工事になるという。
   HKNDによると、水路や通関施設、道路、自由貿易圏を
  整えるためには642平方マイル(1663平方キロ)の土
  地が必要になる。ニカラグア政府関係者は懸案事項である土
  地の収用を正当化する理由として、運河が完成すれば貧しい
  ニカラグアに5万人分の雇用が創出され、経済規模が2倍に
  拡大する見通しだと説明している。だが、土地が収用されれ
  ば、2万7000人の住民が移住を余儀なくされることにな
  る。             http://on.wsj.com/2kyBKEi
  ───────────────────────────

ニカラグア運河反対運動.jpg
ニカラグア運河反対運動
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2017年02月15日

●「中国はなぜ海洋強国を目指すのか」(EJ第4460号)

 中国が海軍の強軍化に力を入れ、世界中の港、海峡、運河など
の拠点化に異常なほど力を入れているのは、なぜでしょうか。中
国の真意を知るには、中国という国の地理的ポジションや歴史を
振り返ってみる必要があります。
 われわれ日本人が世界地図を見るとき、上が北で、下は南、右
は東で、西は左です。日本列島を中心に見ているからです。右に
は広大な太平洋が広がっており、行きつく先はアメリカ合衆国で
す。西に行くと韓国、北朝鮮、中国があり、北に行くと、ロシア
があります。まっすぐ南に下ると、パプアニューギニア、オース
トラリア大陸があります。
 それは日本列島を中心に見ているからそうなのであって、中国
を中心にして逆さに世界地図を見ると、その様相は一変します。
その逆さ地図については添付ファイルをご覧ください。
 まず、いえることは海が非常に狭いことです。まず、日本列島
があります。南に下ると、九州から奄美諸島、沖縄、八重山と南
西諸島が連なり、台湾につながっています。台湾からは、バシー
海峡をはさんでフィリピンがあり、その端はベトナムへと、つな
がっています。
 海は日本海、黄海、東シナ海、そして南シナ海が広がっていま
す。しかし、それらの海をふさぐにように位置しているのが、日
本列島と台湾、フィリピン、そしてベトナムに至る諸島群です。
これを中国は「第一列島線」と名付けています。
 このなかで中国にとって最も邪魔なのが日本です。日本は経済
力が巨大であり、最先端のハイテク兵器を大量に持っており、数
は少ないものの、訓練の行き届いた強力な海上自衛隊を有してい
ます。しかも、米国と同盟関係を結んでいるので、うっかり手を
出すと、局地戦では返り討ちに遭ってしまう恐れがあります。
 これに比して南シナ海の諸国は日本ほど強くはなく、中国とし
ては手が出しやすいのです。そこで、中国は南シナ海での人工島
づくりに乗り出したのです。
 この「逆さ地図」で世界情勢を読むという独特のアイデアを本
にまとめられたのは、ジャーナリストの松本利秋氏です。今回の
EJはその松本氏の主張を参考にさせていただいています。中国
の海への関心について、松本氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国の西の端はヒマラヤ山脈を挟んでインドと国境を接し、北
に向かってアフガニスタン、タジキスタン、キルギス、カザフス
タン、ここから東に向かってはロシア、モンゴル、北朝鮮との間
に国境線が走っている。
 中国では、秦の始皇帝が漢民族の国家を創設して以来、北方の
騎馬民族の侵入をいかに防ぐかが民族存亡の要であった。中国の
歴史は大陸内部の土地争奪戦が主要な要素であり、三国志をはじ
め中国の歴史記述には、海のことがほとんど出てこない。
 このように大陸内部でのせめぎ合いを繰り返している国を、地
政学では「大陸国家=ランドパワー」と呼ぶ。中国は、歴史的に
北方との闘いに関心を集中させており、海への関心はほとんどな
かったと言って過言でない。 ──ジャーナリスト/松本利秋氏
                   http://bit.ly/2l9Trgn
─────────────────────────────
 ここで歴史を少し振り返ります。中国はかつて海洋進出を試み
目的を果たせなかった歴史があります。1271年〜1368年
の中国は元の時代です。元王朝は、中国とモンゴル高原を中心と
した領域を支配した王朝です。この年代に中国と親しく、行き来
していたのは、イタリア人のマルコ・ポーロです。マルコ・ポー
ロは、1271年に北京で元の皇帝ヘブライに謁見しています。
 1292年にペルシャに嫁ぐダッタン(モンゴル)の王女のエ
スコート役を果すため、北京に行っています。婚礼ですからこの
とき多くの人物が同行したはずですが、それは海路を覚えるため
であったと思われます。このとき、マルコ・ポーロは杭州を出発
し、マラッカ海峡、インド洋を通ってペルシャのホルムズに上陸
しています。
 1274年に元は、朝鮮の高麗軍を先導させて、日本の北九州
に2度にわたり攻め込んでいます。鎌倉時代の中期のことです。
元寇──すなわち、「文永の役」(1274年)と「弘安の役」
(1281年)の2回ですが、いずれも失敗に終わっています。
 元は文永の役で負けた原因を分析し、造船技術や航海技術を十
分磨いて、2度目の弘安の役で再び日本侵攻作戦を実行したので
すが、これにも破れ、それに懲りたのか、その後長い間にわたっ
て外洋に進出することはなかったのです。
 その中国が外洋での戦争に臨まなければならなくなったのが、
1840年から2年にわたる英国との戦争です。清の時代に起き
たこの戦争は「アヘン戦争」と呼ばれています。中国はこの戦争
に破れ、英国に香港島とその対岸にある九龍半島を割譲させられ
ています。
 その後日本と朝鮮半島の覇権をめぐって、1894年から18
95年にわたって起きた「日清戦争」にも破れ、台湾を日本に割
譲せざるを得なかったのです。中国側の主張では、尖閣諸島はこ
のとき日本に奪われたとしているのです。
 この2度にわたる外洋での敗戦は、中国人の心のなかに屈辱の
歴史として刻み込まれ、海洋から攻めてくる敵国に対して、強い
敵愾心を持つようになったのです。しかし、経済の低迷によって
中国はなかなか本格的な海軍を持つことができなかったのです。
 その中国が改革開放経済政策を採って経済力がついてくると、
中国は積極的に海洋進出を試みるようになってきます。その頃か
ら、日本列島、沖縄、台湾、フィリピン、ベトナムの「第一列島
線」に加えて、日本の本州から小笠原諸島、グアム、ニューギニ
アを結ぶ「第二列島線」を設定し、中国海軍は、これら二つの線
の内側を勢力範囲とし、海洋からの外国勢力の侵入を防ぐ戦略を
採るようになってきたのです。これら二つの線のなかには入れさ
せない戦略です。     ──[米中戦争の可能性/030]

≪画像および関連情報≫
 ●中国は海洋強国たり得ない/地政学者・奥山真司氏
  ───────────────────────────
  ――中国に目を転じてみると、新たに総書記に選出された習
  近平は「海洋強国」建設を主張している。大陸国家である中
  国が海洋強国を掲げる理由は何か。
  奥山:中国はこれまで多くの国境紛争を抱えていたが、その
  多くを解決させることができた。歴史を振り返ってみると、
  中国は内陸からの異民族の侵略により滅びることが多かった
  のだが、その危険性がこれほど小さくなったのは史上初めて
  ではないか。これが、彼らの海洋進出の要因の一つだ。中国
  はこの海洋進出を正当化するために、自らがもともと海洋国
  家であったという神話を構築しようとしている。明の時代に
  大船団を組み、アフリカや東南アジアに遠征した鄭和を讃え
  るキャンペーンを展開しているのはそのためだ。
   とはいえ、彼らが本当に海洋強国になることができるかと
  言えば、その可能性は低い。いくら国境紛争の多くを解決し
  たとは言え、中国は周辺諸国から警戒されていることもあり
  軍事力の大半を海軍に注ぐというわけにはいかない。陸軍と
  海軍を両方充実させるというのは資金面から困難だろう。大
  陸国家であると同時に海洋国家であることはできないという
  のは、歴史の教えるところである。もっとも、中国のこれま
  での周辺海域への進出が、この「海洋強国」という戦略に明
  確に基づいたものであるかどうかは、かなり疑わしい。
                   http://bit.ly/2i9k0RW
  ───────────────────────────
  ●地図の出典/http://bit.ly/2l9Trgn

中国を中心とする逆さ地図で見る.jpg
中国を中心とする逆さ地図で見る
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2017年02月16日

●「日米首脳会談/水面下の米中戦争」(EJ第4461号)

 この原稿は12日の夜に書いています。EJの緊急特集です。
今回のテーマ「米中戦争の可能性」に関係のある情報が入ってき
たので、急遽執筆しています。
 安倍首相とトランプ大統領による丸2日間に及ぶ日米首脳会談
において、非常に印象に残る場面があったことに気がついておら
れるでしょうか。
 それは、北朝鮮の弾道ミサイル発射を受けて、最終日に行われ
た予定外の緊急日米首脳共同記者発表におけるトランプ大統領の
表情とそのコメント内容です。念のため、共同発表の全文を次に
示しておきます。
─────────────────────────────
安倍 晋三首相:今般の北朝鮮のミサイル発射は断じて容認でき
 ない。北朝鮮は国連決議を完全に順守すべきだ。先程トランプ
 大統領との首脳会談において、米国は常に100%日本と共に
 あるということを明言された。そしてその意思を示すために、
 いま私の隣に立っている。私とトランプ大統領は日米同盟をさ
 らに緊密化し、強化していくことで完全に一致した。
トランプ大統領:われわれ米国は同盟国である日本と共にある。
 これは100%だ。そういうことをみなさんに伝えたい。
       ──2017年2月13日付、日本経済新聞夕刊
─────────────────────────────
 日米両首脳共に「100%」という強い言葉を使っています。
このときトランプ大統領の表情は、何かを睨みつけるかのように
非常に厳しいものだったのです。それは、金正恩最高指導者だけ
ではなく、中国の習近平国家主席に対しても、向けられていたの
ではないかと思うのです。それは秘めた“怒り”です。
 それには理由があります。実は今回の日米首脳会談には、水面
下において、中国が一枚噛んでいるのです。中国と米国は、今年
の1月に入ってから、水面下で激しい神経戦を展開していたので
す。それはもちろん「一つの中国」をめぐるやり取りです。
 トランプ氏が「ひとつの中国」について疑問を呈したのは、1
月12日、ウォールストリート・ジャーナル紙とのインタビュー
においてです。その直後(正確な期日は不明)、中国は「東風5
C」という最新のミサイルを発射したのです。ミサイルを発射し
て何らかのメッセージを伝える手法は北朝鮮とそっくりです。こ
れについて、2月5日付の「朝日新聞デジタル」は次のように報
道しています。
─────────────────────────────
 複数の核弾頭を搭載でき、米国を射程に含むとされる中国の新
型大陸間弾道ミサイル「東風5C」の発射実験について、中国国
防省は2月3日、国内メディアの取材に答える形で、実施を認め
た。米メディアが「トランプ政権を牽制する狙いがある」と報じ
ていた。米国の一部メディアは、米情報機関筋の話として、「中
国軍が1月の早い時期に、大陸間弾道ミサイル『東風(DF)5
C』を山西省・太原の発射場から、北西部の砂漠に向けて発射し
た」と報じていた。報道によると、東風5Cは10個の核弾頭を
搭載可能とされる。          http://bit.ly/2knV6uK
─────────────────────────────
 この情報に関して、ジャーナリストの加賀孝英氏が、米軍、米
情報当局関係者から得た情報として、2月13日発行の「夕刊フ
ジ」において次のように伝えています。
─────────────────────────────
 中国は1月、核弾頭を搭載できる弾道ミサイル「東風(DF)
5C」を山西省から試射した。事実上、「アジアの米軍基地を攻
撃できる」と、大統領就任前のトランプ氏の就任直後、浙江省に
配備した。北米全域を射程とした弾道ミサイル「DF41」の映
像を見せつけた。一方で、中国は軍民両用(デュアルユース)の
車両が、北朝鮮に輸出されるのをわざわざと阻止し、米国に伝え
た。要は「中国は北朝鮮のすべてを握っている」という、トラン
プ氏へのメッセージだ。           ──加賀孝英氏
          2017年2月13日発行/「夕刊フジ」
─────────────────────────────
 極めて露骨な米国への脅しです。上記の文中の北米全域を射程
とした弾道ミサイル「DF41」のユーチューブ映像とは次の通
りです。
─────────────────────────────
      DF41/DF31 ICBM/中国製
             http://bit.ly/2ko1SRn
─────────────────────────────
 もうひとつ注目すべきは、中国が北朝鮮をいかようにもコント
ロールできることをわざわざ伝えたことです。もしかすると、既
に北朝鮮が中国と一体化しつつあるのではないかとも考えられま
す。北朝鮮が12日に発射したミサイルと中国の「DF41」の
映像はそっくりです。技術供与が行われているのです。
 これに対して米国は、中国の脅しに対して、直ちに対応措置を
取っています。加賀孝英氏が得た米軍、米情報当局関係者から得
た極秘情報は次のように続くのです。
─────────────────────────────
 米国は2月8日、模擬核弾頭搭載の弾道ミサイルを発射し、ハ
ワイ沖3900キロの海域にピンポイントで着水させた。中国は
顔面蒼白になった。(そのうえで)トランプ氏は同日、大統領就
任祝いの返礼と称して、習氏に書簡を送った。つまり、「宣戦布
告なら受けて立つ」という通告だ。中国側は慌てて、9日の米中
首脳電話会談を言ってきた。         ──加賀孝英氏
─────────────────────────────
 加賀氏にいわせると、「米中は軍事衝突寸前」だったというの
です。日米首脳会談が行われる前には、米中でこのようなやり取
りがあり、その結果、トランプ大統領は幹部とも相談し、「一つ
の中国」の原則を受け入れ、日米首脳会談の前にコトを収めたの
です。          ──[米中戦争の可能性/031]

≪画像および関連情報≫
 ●「一つの中国発言修正はティラーソン国務大臣の尽力」
  ───────────────────────────
  ワシントン 10日 ロイター]──トランプ米大統領が前
  週、中国政府の求めに応じ、米国の「1つの中国」政策を維
  持すると表明した背景には、ティラーソン国務長官の尽力が
  あった。米当局者が明らかにした。トランプ大統領は9日に
  中国の習近平国家主席と電話会談し、中台がともに一つの中
  国に属するという「1つの中国」政策の維持で合意した。
   米当局者によると、大統領による突然の立場修正に先立ち
  ホワイトハウスではティラーソン国務長官やフリン大統領補
  佐官らが会合を行った。ある当局者はこの会合について、米
  中関係や地域の安定のために「1つの中国」政策の維持を表
  明することが正しい選択だと大統領を説得するための協調的
  努力だと述べた。
   ティラーソン長官は会合で、米中関係の柱となってきた政
  策を巡る疑念を解消しない限り、米中関係は停止したままに
  なると警告した。ティラーソン長官による今回の尽力は、ト
  ランプ政権が直面する幾つかの地政学的問題で同氏が影響力
  を持つ可能性を示唆している。過激派組織「イスラム国(I
  S)」との戦いや対イラン政策、ロシアとの関係改善など、
  トランプ氏が掲げる他の優先課題でティラーソン氏が今後ど
  のような役割を果たしていくか注目が集まる。
                   http://bit.ly/2kZIAnn
  ───────────────────────────

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米国は100%日本と共にある
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2017年02月17日

●「日米首脳会談にケチをつけた中国」(EJ第4462号)

 昨日のEJの続きです。なぜ、対中強硬派が揃っているトラン
プ政権の幹部が、日米首脳会談の直前に中国と電話会談を急遽行
い、トランプ大統領が「一つの中国」を認めたのでしょうか。
 それは、ティラーソン国務長官やマティス国防長官、フリン大
統領補佐官らが、現在アジアでコトを構えるのは得策ではないと
主張したからであるといわれます。米国は中東でも火種を抱えて
おり、こちらの方が優先順位が高いと判断したからです。
 しかし、米国は中国がいうところの「一つの中国」のポリシー
をそのまま認めたのではなく、ひとつの細工を施しています。そ
れは、ホワイトハウスの公式ホームページの「一つの中国」原則
の尊重について次のように記されていることでわかります。
─────────────────────────────
       to honor our “one China”policy.
─────────────────────────────
 ミソは「our」 にあります。「われわれの一つの中国の原則」
という意味になります。これは中国の原則ではなく、われわれ米
国の一つの中国の原則を尊重すると主張しているのです。すなわ
ち、「一つの中国」は認めるが、米国は台湾関係法で台湾を守る
というわけです。これは、もし中国が台湾を侵攻するようなこと
があれば、米国は軍事的に台湾を守るということを意味している
のです。台湾関係法は米国と台湾の事実上の軍事同盟です。
─────────────────────────────
 台湾関係法とは中華民国(台湾)に関するアメリカ合衆国と
 しての政策の基本が定められている法律である。事実上のア
 メリカ合衆国と中華民国(台湾)との間の軍事同盟である。
                  http://bit.ly/2kqfrzG
─────────────────────────────
 それにしても、中国はしたたかです。「一つの中国」を認めよ
うとしないトランプ政権に対し、さまざまな工作を行っているの
です。表面的には米国に対して威嚇を行い、同時に幅広い米国に
おける中国人脈を使って、内部から、「一つの中国」を認めさせ
る働きかけを行っています。硬軟を使い分けているのです。
 まず、中国は「核心的利益」(一つの中国)が冒されれば、世
界一の軍事力を持つ米国に対しても、戦争すら辞さないという姿
勢を示すものとして、昨日のEJで述べたように、トランプ氏の
大統領就任前の1月に「東風(DF)5C」を発射し、大統領就
任後には北米全体を射程に収める弾道ミサイル「DF41」を浙
江省に配備し、ミサイル発射の映像をユーチューブに公開して、
米国に見せつけています。これは米国への威嚇といえます。
 これに平行して、共和党内部の中国人脈を使って、「一つの中
国」を受け入れさせる工作を行っています。このなかにはキッシ
ンジャー博士もいたと思われます。フリン大統領補佐官は中国の
国務委員とのパイプがあり、そのルートを通じての工作もあった
と思われます。結局、その内部工作が功を奏し、ティラーソン
国務長官が中心となって、トランプ大統領を説得し、習近平国家
主席との電話会談が行われたものと考えられます。中国の工作が
実を結んだのです。
 それにしても、日米首脳会談の最後の日に、北朝鮮はなぜミサ
イルを発射したのでしょうか。明らかに意図的です。
 おそらく中国と北朝鮮は連携しているはずです。それは日米首
脳会談──とりわけ日本を牽制しようとしたものと思われます。
それには、米国も一枚噛んでいます。米国にも二面性があるので
す。そういう意味において、日本はトランプ政権に全面的には心
を許してはならないのです。
 安倍首相の外交は、力で現状を変更しようとする中国に対して
日米関係を強固なものにして、価値観を共有する各国と連携を図
りながら、中国包囲網を築くというものです。当然中国としては
日本に対して厳しい姿勢をとらざるを得ないことになります。
 そこで日米首脳会談の冒頭と最後に、日本を牽制するために行
われたのが、2つのサプライズです。会談の冒頭では、突然の習
近平対トランプの電話会見をぶつけ、会談の最後に北朝鮮のミサ
イル発射させることによって、日本が日米関係の成功をもろ手を
上げて喜べないようにしたのです。中国にとっては大成功です。
完全に日本はもてあそばれているように感じます。
 警戒すべきは、北朝鮮の「北極星2」の打ち上げ成功です。金
生恩最高指導者は次のように発言し、トランプ氏からツイッター
で反論を浴びています。
─────────────────────────────
 米本土を射程に収める大陸間弾道ミサイル(ICBM)が完
 成する過程にある。        ──金正恩最高指導者
─────────────────────────────
 しかし、「北極星2」の成功によって、ICBMの完成に一歩
近づいたことは確かです。「北極星2」は、直前に燃料注入作業
をする必要がない固体燃料型で機動性が高く、液体型よりも軍事
的な脅威が大きいのです。「北極星2」には次の2つの特色があ
ります。
─────────────────────────────
    1.潜水艦型SLBMを陸上型に改良している
    2.移動型車両にキャタピラーを使用している
─────────────────────────────
 北朝鮮は潜水艦の保有数では世界有数の数を誇りますが、高度
な潜水艦を作る技術はないのです。しかし、水中からミサイルを
発射するSLBMの技術を有しているので、それを陸上型として
改良したのが「北極星2」です。
 「北極星2」の最大の特色は、ミサイルを運び、発射させる移
動車両がキャタピラーを使用していることです。北朝鮮はゴムが
とれないので、輸入に頼ることになるため、キャタピラーにした
のだと思いますが、これは世界に例がないのです。これならどこ
にも移動でき、ますます発射位置を特定できなくなるメリットが
あります。        ──[米中戦争の可能性/032]

≪画像および関連情報≫
 ●北発射のミサイル「ICBMに向かう中間段階」=専門家
  ───────────────────────────
  【ソウル聯合ニュース】北朝鮮メディアが2月13日、新型
  の中長距離弾道ミサイル「北極星2型」の試験発射を12日
  に行い、成功したと報じたことで、このミサイルの性能や発
  射方式などに関心が集まっている。
   朝鮮中央通信など、北朝鮮メディアの報道を要約すると、
  12日のミサイルは固体燃料を使用する新型の戦略兵器であ
  り、昨年8月に発射実験に成功したとされる潜水艦発射弾道
  ミサイル(SLBM)の体系を土台に射程を延長した新たな
  形態の中長距離ミサイルということになる。
   北朝鮮の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」が公開した北極星
  2型の発射の写真を見ると、昨年8月に水中発射した全長約
  9メートルのSLBM「北極星」とほぼ同じだった。専門家
  らはこのミサイルについて、固体燃料を使用する大陸間弾道
  ミサイル(ICBM)の開発に向けた中間段階の兵器体系で
  ある「新型IRBM(中長距離弾道ミサイル)」だと分析し
  ている。IRBMは射程2400〜5500キロの弾道ミサ
  イルを指す。北朝鮮が公表した写真を見ると、SLBMと同
  様に円筒の発射管から飛び出したミサイルは10メートルほ
  ど上がった空中で点火され、正しい姿勢を取って浮上した。
  SLBMと発射方式や全長(12メートル)は同じだが、エ
  ンジン体系が、全く異なる新たな地対地IRBMと分析され
  る。北極星2型を1段目として2段目の推進体を組み合わせ
  れば、ICBMとしての性能を発揮できるとみられている。
                   http://bit.ly/2lKma9x
  ───────────────────────────

「北極星2」発射光景.jpg
「北極星2」発射光景
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2017年02月20日

●「中国は多くの非対称兵器を有する」(EJ第4463号)

 中国軍の実力はどの程度のものでしょうか。
 軍事専門家によって意見が割れています。いま米中が戦えば、
もちろん米軍が圧倒的に強いですが、ピーター・ナヴァロ氏は米
軍が脅威に感じていることは少なくないといっています。ナヴァ
ロ氏は、次の問題を出しています。
─────────────────────────────
【問題】1600キロ離れた場所から発射したミサイルを、時速
55キロで航行中の空母に命中させるのは、どのくらい難しいか
選べ。
  「1」困難
  「2」非常に困難
  「3」ほぼ不可能
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 この答えは「2」の「非常に困難」です。しかし、それを中国
が可能にしたと思われるからです。その名前は「対艦弾道ミサイ
ル」です。これは「空母キラー」といわれているのです。
 ミサイルについて知る必要があります。次の2つのミサイルの
違いがわかるでしようか。
─────────────────────────────
          1.巡航ミサイル
          2.弾道ミサイル
─────────────────────────────
 これら2つのミサイルは、推進力が違います。巡航ミサイルの
推進力は小型ジェットエンジンであり、弾道ミサイルの推進力は
ロケットです。なぜ、ロケットなのかというと、弾道ミサイルは
大気圏外に出るからです。これに対して、巡航ミサイルは、大気
圏から出ることはなく、大気圏のなかをジェットエンジンから推
進力を得て目標に向って飛行します。
 しかし、弾道ミサイルはロケットから推進力を得て大気圏外に
出て、ほとんど燃料を使わず、長距離を飛行できるのです。これ
について、ナヴァロ氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 弾道ミサイルは、通常はロケットによって打ち上げられ、大気
園外で準軌道飛行に入る。この希薄大気の中を、弾道ミサイルは
ほとんど燃料を使わず、長距離を飛ぶことができる。これが弾道
ミサイルの大きな利点である(価格はふつう巡航ミサイルのほう
がずっと安い)。目標付近に到達すると、弾道ミサイルは自由落
下して大気圏に再突入し、その過程で致死的な高速を獲得する。
           ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
 中国のこの対艦弾道ミサイルの画期的な点は、司令部と衛星経
由で連絡をとりながら、目標を追尾できることです。しかも、再
び大気圏に突入した後も、大海原の小さな目標をロックオンし、
目標に達することができる点です。驚くべき性能の弾道ミサイル
といえます。
 この手の対艦弾道ミサイルは射程1500キロメートル以上と
いわれています。もし、本当であれば、このミサイルを中国沿岸
部から発射すれば、遥か遠くの太平洋上を航行する米国の空母を
撃沈することが可能になります。そうであれば、米国の空母艦隊
は中国に近づくことができなくなります。つまり、これを中国か
ら見ると、「接近阻止」になります。
 この対艦弾道ミサイルは、中国の「接近阻止/領域拒否」戦略
の一環で開発されたミサイルなのです。「接近阻止」とは、文字
通り中国本土(というより第一列島線と第二列島線)に近付かせ
ないという意味であり、「領域拒否」とは米海軍のアジア海域か
らの駆逐を意味します。この「接近阻止/領域拒否」戦略は、公
海の航行の自由という国際法の原則からすると、とくに米国は絶
対に譲れない一線ということになります。
 中国の対艦弾道ミサイルについて、ピーター・ナヴァロ氏は、
フィリップ・カーバージョージタウン大学教授の言葉を紹介して
います。
─────────────────────────────
 アメリカは世界最強の海軍を保有している。現在、アメリカ海
軍はおそらく、中国軍やロシア軍を含め、世界中ビこの海軍と通
常戦争を戦っても勝利することができるだろう。だが、中国は抜
け目なく行動し、対艦弾導ミサイルなどのいわゆる非対称兵器を
開発してきた。対艦弾遭ミサイルは、アメリカ海軍の艦隊を人質
に取る能カを持っているかもしれない。これは、アメリカのアジ
ア地域への海軍力展開能カが次第に小さくなっていくことを意味
している。      ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
 この記述で注目すべきは「対艦弾導ミサイルなどのいわゆる非
対称兵器」という部分です。ここでいう「非対象兵器」とは何で
しょうか。
 米国の軍事力と中国の軍事力は非対称です。現在でも圧倒的に
米軍の方が優勢です。この場合、劣勢側はそれを覆すために開発
する兵器が「非対称兵器」です。
 例えば、対艦弾道ミサイルは一発せいぜい数百万ドルですが、
米国の空母は一隻100億ドルもします。非対称です。しかし、
このミサイルで、空母を撃墜することができるのです。こういう
兵器を「非対称兵器」といいます。中国は、「接近阻止/領域拒
否」戦略を実現するために、こういう非対称兵器を多数開発保有
しているのです。
 この対艦弾道ミサイルに該当する兵器に「東風/DF21D」
があります。移動車両に搭載してどこからでも発射でき、米空母
をターゲット化して追尾し、撃沈できます。そのため、「空母キ
ラー」と呼ばれているのです。これについては、明日のEJで述
べます。         ──[米中戦争の可能性/033]

≪画像および関連情報≫
 ●テロリストが軍隊よりも優位に立つ「非対称の戦争」
  ───────────────────────────
   パリで発生したISによる連続テロでは120名を超える
  市民が命を落とし、フランスのオランド大統領は「今回のテ
  ロは戦争行為」だと強く非難した。事件が起きる前から、同
  国を代表する日刊紙「ル・モンド」は、テロの危機が目前に
  あると警鐘を鳴らす記事を繰り返し掲載してきた。弊誌4月
  号の特集「これからの『戦争』と『世界』」に転載した「ル
  ・モンド」紙の記事をウェブでも公開する。
   1989年のベルリンの壁の崩壊は、人々の期待を裏切っ
  て、世界を不安定な新しい時代に引きずり込んだ。かつて冷
  戦時代、核戦争の危険は、敵でもありパートナーでもあった
  米国とソ連の2大国によって慎重に管理されており、世界は
  きわめて平和で、喜びに満ちていた。敵対するイデオロギー
  を背景にした紛争は、居心地の良いフランスと欧州大陸から
  遠く離れたところで行われ、燦々と輝く陽の光のもとで、美
  しいとさえ思えた。平和は「核の抑止力」という氷のカーテ
  ンに守られて、脅かされることすらなかった。
  21世紀に入ると、圧倒的な力を誇る米国の一国支配は20
  01年9月11日の同時多発テロ事件によって終止符を打た
  れてしまった。この事件は、永遠に平和で幸せだと信じられ
  ていた世界を大きく揺るがした。
   9・11を機に生まれてしまったのが「非対称的な戦略」
  である。これは、「ネズミのほうが猫よりも強い」、つまり
  弱者が強者に対して優位に立つという考えかただ。「非対称
  的な戦略」の誕生によって、嫌悪感と恐怖心と苦痛が支配す
  る、新しい国際社会が幕を開けた。 http://bit.ly/2m6N7nh
  ───────────────────────────

中国の対艦弾道ミサイル/DF21D.jpg
中国の対艦弾道ミサイル/DF21D
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