2017年01月19日

●「国防費よりも治安維持費の多い国」(EJ第4441号)

 国のトップが何回も暗殺を仕掛けられるというのは、国が一枚
岩ではないということです。そのため、権力抗争が激しくなり、
権力者に対して数々の暗殺が仕掛けられるのです。
 それに、中国のような大きな国を共産党の一党支配でコントロ
ールしようとするとどうしても無理があり、相当強力な独裁体制
を築かざるを得なくなります。しかも、同じ独裁でも、習近平主
席の場合、スターリンがやったような個人独裁体制をとろうとし
ている点が気になるところです。
 スターリンの個人独裁について、評論家の長谷川慶太郎氏は、
自著で次のように述べています。
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 スターリンは、1930年代以降、完全に個人独裁体制を確立
していた。絶大な政治権力を掌握していたが、よく知られている
ように、それは冷酷無比な大粛清を伴って達成されたものだ。第
2次大戦の前後にわたっての長い統治期間に、スターリンが粛清
した人間は数十万とも数百万ともいわれているが、それはスター
リンの政敵は言うに及ばず、一見なんら関係もなさそうな党員、
官僚、軍人、さらには一般人にまで及んでいる。(中略)
 現状では習近平は、「反腐敗」というスローガンのもと、汚職
退治で民衆の支持を受けているかのようである。しかし、これも
スターリンの粛清の時と同じである。中国の現在の摘発での、汚
職・収賄、外国資本と結びついている等の「規律違反」というよ
うな罪名は、ソ連の粛清時も同じようであった。共産党が摘発を
行う場合の常套手段と言ってもよい。   ──長谷川慶太郎著
           『中国大減速の末路』/東洋経済新報社
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 中国の軍事費は他国を圧倒していますが、中国社会では、その
巨額の軍事費よりも国内の治安維持費(公共安全費)の方が多い
といわれます。各地で住民の抗議行動やデモが頻発し、少数民族
による分離・独立運動などの社会矛盾の激増に備えるためでしょ
うが、それにしても国内の治安維持を主たる目的とする公共安全
費が、軍事を目的とする国防費を上回るのは、どう考えても正常
な姿ではないといえます。真の敵は国外にあるのではなく、国内
にあるかのようです。
 果してこれが本当であるかどうかを調べてみたのですが、ほぼ
事実であることがわかったのです。治安維持費は中国では「公共
安全費」といわれますが、2008年〜2012年の5年間で予
算額を比較してみると、次のようになります。
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                   単位:億元
          公共安全費      防衛費
    2008年  4097     4178
    2009年 ◎4870     4807
    2010年  5140     5321
    2011年 ◎6244     6012
    2012年 ◎7018     6703
       ──「日経ビジネス」 http://nkbp.jp/2jngT9K
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 これは予算額での比較ですが、2008年からの5年間で3年
間は公共安全費が防衛費を上回っているのです。とくに2012
年は、公共安全費の7017億6300万元(約9兆1230億
円)が国防費の6702億7400万元(約8兆7140億円)
を上回っています。明らかに異常です。
 このレポート(2012年3月/胡錦濤政権当時)をまとめた
住友商事総合研究所の中国専任シニアアナリストの北村豊氏は、
中国について、次のコメントを書いています。
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 中国が世界第2位の経済大国としての矜持を保って世界をリー
ドしていくつもりならば、国内の安定が最優先であるべきで、そ
のためには国内に蔓延する社会矛盾を解消することが不可欠であ
る。胡錦濤総書記が提唱する“和諧社会(調和のとれた社会)”
を実現して、その先にある「全面的な“小康社会(ややゆとりの
ある社会)”の建設」を達成するには、“群体性事件”を公権力
で抑制するのではなく、その原因を根本から取り除く地道な努力
が必要なはずである。             ──北村豊氏
       ──「日経ビジネス」 http://nkbp.jp/2iZCxgT
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 中国で習近平主席や政権幹部に対して、暗殺やテロが起きてい
る原因は、習政権の情け容赦のない「反腐敗キャンペーン」にあ
ります。確かに「腐敗」をなくすことは大切なことですが、その
キャンペーンが習主席の政敵排除の手段になってしまっているの
です。権力維持拡大のためなら何でもするという姿勢です。
 中国人民大学教授の周孝正氏という学者がいます。社会学や人
口学を専攻しながら中国の政治・社会問題について発言している
人です。その周孝正氏は、「現代の中国はナチス化している」と
いっています。
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 ケ小平の教えを破っているのが問題です。ケ小平は中国は経済
建設に専念して、100年変わってはいけないという方針を打ち
出しました。しかし、ケ小平の死後19年が経過し、習近平が指
揮を執っている現在、中国はたしかに「経済大国」といわれるよ
うにはなった。しかし、問題は習近平が打ち出している「中国の
夢」が果してどこに向っているかということです。私に言わせれ
ば、現在中国は30、40年代のドイツか日本のような国家主義
に向っている。ナチスは国家社会主義です。中国の現在の社会主
義は国家社会主義以上でも以下でもない。軍事費がとめどなく拡
大しているし、領土問題、歴史問題で周辺各国ともめている。
              ──月刊「WiLL」2月号より
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             ──[米中戦争の可能性/011]

≪画像および関連情報≫
 ●「転換期中国のジレンマ」/周孝正氏
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   中国人民大学名誉教授で、人口社会学者の周孝正氏の講演
  (テーマ「転換期中国のディレンマ」)を、富士通総研中国
  通セミナで聴いたが、非常に興味深かった。
   経済分析だけでは中国社会が抱える矛盾を解明できないた
  め、中国社会の深層の矛盾について、政治、経済と社会の3
  つの側面から問題を明らかにしようという趣旨のようであっ
  た。氏は、1947年生まれ、11年目2回目の訪日とのこ
  とだが、名刺など作ったことがないなど大分変った生活ぶり
  で、招待の連絡もなかなかとれず苦労したらしい。
   “一流の研究者は、専門家だけでなく素人もわかる”と言
  われる通りで、熱のこもった内容を通して感じることができ
  た。第一世代毛沢東の国民党との闘争、文化大革命での下放
  と日々革命、第二世代ケ小平の都市と農村、対外二つの開放
  と経済建設、天安門での発砲、第三世代江沢民の時代からの
  農民工、暫定居留証など例を引きながらの説明は、中国語で
  意味は分からないながら、語気の強い発声ぶりで話されると
  一層理解できた感がある。習近平と軍の関係について、習近
  平には過去の指導者たちと違って、自身には実戦経験がない
  ことを指摘していたのは、一寸印象的であった。ダブルスタ
  ンダードを取りあげた中で、中国の憲法はあっさり“偽物”
  とし、当時全く法律など無かった状況の中、毛沢東の指示で
  世界中の憲法の良いところを寄せ集めたものと解説していた
  のは面白い。           http://bit.ly/2jnXtkT
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長谷川慶太郎氏.jpg
長谷川 慶太郎氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 米中戦争の可能性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする