2017年01月11日

●「中国を変貌させ兼ねない二冊の本」(EJ第4435号)

 中国でよく読まれている2冊の本があります。いずれも軍人学
者が書いた本です。重要なことは、これら2つの本が、現在の習
近平政権の思想の中枢になっていると思われることです。
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       1. 劉明福著  『中国夢』
       2. 戴 旭著 『C形包囲』
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 「1」の『中国夢』について述べます。
 この本は、国防大学の劉明福教授が著したもので、2010年
に出版されていますが、内容が米国を刺激しかねないという理由
で、一時出版禁止処分になっていたのです。
 ところが、有力者の提言によって出版禁止処分が解かれ、世に
出てきたのです。内容は、中国は経済的にも軍事的にも、世界一
になる必要があり、戦争で米国と戦っても、負けてはならないと
いう強迫観念で貫かれている、視野狭窄の軍事主義パラノイアに
陥った軍人が好む内容です。
 注目すべきは、この本ではケ小平が主唱した「韜光養晦(とう
こうようかい)」を否定していることです。「韜光養晦」という
のは、国力が整わないうちは国際社会で目立つことをせず、じっ
くりと力を蓄えておくという戦略のことです。
 これについて、元読売新聞北京支局長の濱本良一教授は、中国
は、胡錦濤後期の2007年頃から、少しずつ「韜光養晦路線」
の修正を行っているとして、次のように述べています。
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 1991年末にソ連が崩壊し、世界が次は中国の番だと考えて
いた時、最高実力者のケ小平は、『韜光養晦、有所作為』との大
方針を示した。その意味は『才能を隠して機会を待ち、少しだけ
行動にでる』というものだ。
 意図するところは、世界の脱社会主義の流れの中で、身を低く
かがめて力を蓄え、嵐が過ぎ去るのを待て。(中略)建国以来の
危機存亡に瀕した天安門事件を乗り切ったケ小平は老体に鞭打っ
て広東省など南方視察を敢行した。後継指導者として据えた江沢
民に対して、『改革・開放の御旗を絶対に降ろすな』と諭す意味
があった。そして濱本教授は、次の重要なポイントを指摘する。
「転換点は、2009年7月の海外駐在外交使節会議での胡錦濤
演説だった」と。
 なぜなら「韜光養晦、有所作為」の後節に「積極」が挿入され
「積極有所作為」とする主張に変化したことだと捉え、以後「自
己主張を強めた中国の姿勢が随所で見られるようになった。『微
少外交』から『強面外交』への大転換である」と指摘される。
 かくて軍事強硬路線を露骨に表現してアジア各国とぶつかり、
傲然としはじめた中国の姿勢に日本もASEAN諸国の過半も反
発し、団結し始めるのだ。ルトワックが指摘したように、『中国
の戦略には整合性がない』のである。     ──濱本良一著
『経済大国中国はなぜ強硬路線に転じたか』(ミネルヴァ書房)
                   http://bit.ly/2hU6Ysn
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 2012年に中国の最高指導者に就任した習近平国家主席は、
「中国の夢」と題して、中国の統治理念について語っていますが
そのネタ本は、劉明福著の『中国の夢』からとられています。
 しかし、次のように、劉明福氏が書いているドギツイ表現を抑
えてはいるものの、その本音は本に書かれている通りなのです。
その一部を以下にご紹介します。
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 誰しも理想や追い求めるもの、そして自らの夢がある。現在み
なが中国の夢について語っている。私は中華民族の偉大な復興の
実現が、近代以降の中華民族の最も偉大な夢だと思う。この夢に
は数世代の中国人の宿願が凝集され、中華民族と中国人民全体の
利益が具体的に現れており、中華民族1人1人が共通して待ち望
んでいる。
 歴史が伝えているように、各個人の前途命運は国家と民族の前
途命運と緊密に相連なっている。国家が良く、民族が良くて初め
て、みなが良くなることができる。中華民族の偉大な復興は光栄
かつ極めて困難な事業であり、一代、また一代の中国人が共に努
力する必要がある」と。         ──習近平国家主席
                   http://bit.ly/2iSWSof
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 この演説で習国家主席が述べている「中華民族の偉大な復興の
実現が中華民族の最も偉大な夢である」という表現は、その本音
が劉明福著の『中国の夢』にあるとすると、かつて中国の領土で
あった国や島嶼をすべて取り返すことこそ中国人の夢であるとい
うようにとれるのです。実際に習政権のやっていることはこの考
え方に沿っていると思います。そして、その実現のためには、軍
事力の増強が必要であると説いているのです。
 そして、現代について中国は「G2の時代」と呼び、米国と強
大化する中国が世界を二分、すなわち、太平洋を米国と中国とい
う2つの大国で二分し、仕切るといっています。しかし、やがて
中国が米国を上回るようになり、「G1の時代」──米国の一極
体制から、強大化する中国一極体制にとって代わる時代が来ると
いっているのです。
 胡錦濤政権では、確かに「韜光養晦路線」の修正ははじめたも
のの、『中国の夢』が説く軍人の夢というか、壮大な妄想に踊ら
されない国際社会に対する現実認識を持っていたといえます。さ
らに共産党一党支配の限界を認識し、構造的な経済や政治改革が
必要であると悟っていたといえます。
 しかし、習近平国家主席は、政治改革にも経済改革にも手をつ
けず、「軍制改革」に着手したのです。強軍化を推し進めるため
に、国家主席自身が軍権の完全掌握を図ったのです。「2」につ
いては、明日のEJで述べることにします。
             ──[米中戦争の可能性/005]

≪画像および関連情報≫
 ●「中国夢」に見え隠れする習近平のジレンマ
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  加藤嘉一:長く中国を中心としたアジア太平洋外交に従事さ
  れていた小原さんは、在シドニー総領事、在上海総領事を経
  て、現在は東京大学で教鞭を採られています。外交官から研
  究者への転身ですね。ご著書『日本走向何方(日本はどこに
  向かうのか)』の中国語訳を担当させていただいた頃から、
  小原さんがアカデミズムを重視され、それに対するこだわり
  も肌で感じていたので、私自身にはそこまで大きなサプライ
  ズはありませんでした。どのような経緯で現在に至り、就任
  されたときはどんな心境だったのでしょうか?
  小原雅博:東大法学部からお話をいただいたときは、青天の
  霹靂でした。退職後に学問の道に入れればいいな、との漠然
  とした希望は頭の片隅にありましたが、外務省を辞めてまで
  の転身は考えていませんでしたから。ずいぶん迷いましたが
  東大の熱意と、ある方から頂いた福沢諭吉の「一身二生」と
  いう言葉に押されて、昨年秋に東大に移って来ました。国際
  問題には誰もが納得する答えはありません。「reasonable」
  で「workable」な解を求めて、歴史や文化や言葉を学び、社
  会の奥深く分け入って体験し、専門家の先行研究に目を通し
  て、思索を深めていく。そんな努力の先に出口が見えてくる
  のだと思っています。東大での最初の学期は、30人のゼミ
  生を持ち、さまざまな国際問題を取り上げて議論しましたが
  学生たちの問題意識は高く、私自身が多くのことを学びまし
  た。実務と理論の統合という目標はまだ遠くの彼方にありま
  すが、毎日勉強できる喜びが私を支えてくれています。
                   http://bit.ly/2iEI92K
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中国で話題になっている2冊の本
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 米中戦争の可能性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする