2016年12月28日

●「『一つの中国』原則に疑問がある」(EJ第4430号)

 トランプ次期米大統領の「一つの中国」の見直し発言が波紋を
広げています。「一つの中国」という言葉がある以上、「二つの
中国」があったことを意味します。それは次の2つの国です。
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     1.   中華民国 ・・・ 現在の台湾
     2.中華人民共和国 ・・・ 現在の中国
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 つまり、「中国」と名乗る国が2つあり、いわゆる本家争いの
紛争があって、それを制した現在の中国(中華人民共和国)が他
国と国交を結ぶときは、「中華人民共和国こそが正式の中国であ
り、台湾は中国の一部である」とする原則を相手国に認めさせて
きたのです。これが「一つの中国」の原則です。
 しかし、米国は共産主義国家を忌避し、あくまで台湾を中国で
あるとし、米国と中華人民共和国との間には、深い溝があったの
です。その溝を埋め、中華人民共和国と和解して国交を回復させ
たのは、第37代大統領のリチャード・ニクソンです。
 ニクソン大統領は、米軍のベトナムからの撤退を公約にして当
選したのですが、その処理に手こずっていたのです。この難問解
決に尽力したのがあのヘンリー・キッシンジャー氏なのです。こ
の問題にキッシンジャー氏が関与していたことと、今回のトラン
プ氏の発言とは無関係ではないのです。
 キッシンジャー氏の戦略は、北ベトナムの最大の軍事援助国で
あった中華人民共和国と国交を回復することによって、北ベトナ
ムを牽制し、北ベトナムとの秘密和平交渉を有利に進めるという
ものです。それは、中華人民共和国と対立を続けていたソ連を牽
制することにもなる実に巧妙な外交戦略といえます。
 しかし、この戦略によって米国は「一つの中国」の原則を飲ま
されることになります。しかし、この原則には、キッシンジャー
博士が仕掛けた巧妙なトリックがあるのです。1979年の米中
共同コミュニケーションには次のように書かれています。
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 ・アメリカ合衆国は中華人民共和国を中国唯一の合法政府で
  あることを「承認」する。
 ・アメリカ合衆国政府は、中国はただ一つであり、台湾は中
  国の一部あるとする中国の立場を「認識」する。
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 なぜ、前半の部分は「承認」で、後半の部分が「認識」なので
しょうか。それは国際法上、台湾は中国に帰属していないからで
す。そのため、「台湾は中国の一部である」と主張する中国の立
場を認識(理解)するといういい方しかできないのです。
 その証拠に、米国は1979年に中華民国との国交断絶と同時
に「台湾関係法」を制定しています。これは事実上の米国と台湾
との軍事同盟なのです。これについて、戦略国際問題研究所上級
顧問のE・ルトワック氏は、評論家の加瀬英明氏との対談で、次
のように述べています。
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 アメリカには米中国交を行った時に、政権が台湾を守ることを
義務づけた台湾関係法があります。台湾が中国から攻撃を蒙った
場合、アメリカ大統領が台湾を守ろうとしなかったら、議会が台
湾関係法によって台湾を守ることを要求するでしょう。日本との
安保条約よりも台湾の方がしっかりと守られていますよ。
               「大失敗!習近平の海洋進出」
        ──「月刊Haneda2月号」/新春特大号
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 実は、トランプ氏の「一つの中国」の見直しの言及は、相当周
到な計画の下で行われているのです。まず、キッシンジャー博士
がトランプ氏らへ、十分なブリーフィングを行ったうえで中国を
訪問して、習近平国家主席と会談します。その会談の時間に合わ
せてトランプ氏はツィートが発信しているのです。
 既に何度も述べているように、トランプ氏はキッシンジャー氏
と十分なコミュニケーションを取っており、トランプ氏がキッシ
ンジャー氏の面子を潰すことをあえてやるはずがないのです。し
たがって、これは計画的に行われているのです。つまり、外交交
渉を有利に進めるために、「台湾カード」を切ったのです。
 中国も「一つの中国」の原則だけでは弱いと感じていたはずで
そのために、2005年に「反国家分裂法」を制定し、台湾が独
立を唱えれば、武力で鎮圧することを定めています。中国情勢に
詳しい遠藤誉氏はこれに関して次のように述べています。
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 「一つの中国」論への疑義は、今となっては「台湾独立」とい
う可能性しか示唆しておらず、それは不可能ではないが、しかし
中国(北京)が黙っていない。必ず、「反国家分裂法」が火を噴
く。そのために中国は昨年、建国後初めて抗日戦争勝利記念日に
軍事パレードを挙行し、「反国家分裂法」が実行された際の威力
を、台湾にそしてアメリカに見せつけた。
 そんな中国に誰がした、と言いたいが、アメリカが過去におけ
る自国の選択を反省してみるのは悪いことではない。日本も経済
繁栄のために、その結果、何を招いているかを考えてみる必要は
あるだろう。             http://bit.ly/2hEoRqZ
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 7月11日から115回にわたって「孤立主義化する米国」と
いうテーマで米国論を書いてきましたが、今回でこのテーマは最
終回になります。ほとんどの人が予測していなかったドナルド・
トランプ大統領の誕生ですが、副島隆彦氏をはじめ、アメリカの
ことを熟知し、勘所を押さえている人には、彼が大統領に選ばれ
ることは最初から見えていたのだと思います。
 トランプ政権は、来年1月20日に発足しますが、このアメリ
カ大転換で、世界はどうなるのでしょうか。来年は1月4日から
新しいテーマでEJをお届けします。長期間のご愛読を感謝いた
します。    ──[孤立主義化する米国/115]/最終回

≪画像および関連情報≫
 ●エスカレートするトランプ米次期大統領の中国“口撃”
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   2016年12月16日、トランプ米次期大統領の、中国
  “口撃”がエスカレートしている。米国が維持してきた「一
  つの中国」政策の見直しにも言及した。その一方で、トラン
  プ氏は中国大使には習近平国家主席の知人を起用。硬軟織り
  交ぜて中国を揺さぶり、貿易などで譲歩を引き出す狙いとみ
  られる。
   トランプ氏は、11日放送された米FOXテレビの番組で
  「『一つの中国』政策は完全に理解している」と前置きしな
  がらも、「貿易関係などで合意が得られなければ、なぜ『一
  つの中国』に縛られないといけないのか」と疑問を呈した。
   さらに、「中国は為替操作などで米国に不利益を与えてい
  る」と批判。「南シナ海の真ん中での巨大な要塞の建設によ
  り、私たちは非常に大きな被害を受けている」「北朝鮮の核
  開発を中止するため中国が協力していない」とも指摘した。
   日本メディアによると、トランプ氏は今月2日の台湾・蔡
  英文総統との電話会談の直前、米情報当局から、中国の南シ
  ナ海進出に関する3時間に及ぶ説明を受けていた。軍事拠点
  化が進む岩礁の衛星画像を見たトランプ氏は「こんなに広範
  囲に行われているのか。元に戻すことはできないのか」と激
  怒したという。          http://bit.ly/2itx0yc
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習近平国家主席とキッシンジャー博士.jpg
習近平国家主席とキッシンジャー博士
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 孤立主義化する米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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