2016年12月27日

●「トランプ政権が対中国強硬な理由」(EJ第4429号)

 なぜ米国の政権は、ウォール街、とりわけゴールドマンサック
スの出身者を財務長官などの経済閣僚クラスの要職に採用するの
でしょうか。実際にクリントン政権とそれに続くブッシュ(子)
政権では、次のように、ゴールドマンサックスのトップが就任し
ています。
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   クリントン政権 ・・・  ロバート・ルービン氏
    ブッシュ政権 ・・・ ヘンリー・ポールソン氏
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 オバマ政権では、ゴールドマンの出身者ではないが、財務省の
出身で、国際担当財務次官も務めているティモシー・ガイトナー
氏が財務長官に就任しています。ガイトーナー氏は、ルービン財
務長官の下で働いていた経験の持ち主です。
 なぜ、米政権の財務官僚に、ウォール街の大物が必要なのかと
いうと、米国は世界最大の債務国であって、世界中からカネを集
める仕組みを作らないと、米国という国がもたないからです。そ
のため、米政権とウォール街は運命共同体として機能せざせるを
得ないのです。実際にどのような仕組みを作ったのかについて、
産経新聞特別記者の田村秀男氏は、次のように述べています。
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 ウォール街では金融危機が起きるたびにゴールドマンやその出
身者が辣腕を振ってきた。ルービン財務長官(当時、以下同じ)
は、1990年代前半に日本叩きの手段としたドル安・円高を止
めて強いドルを演出し、海外からの資金流入を促す一方で、アジ
ア諸国に金融自由化を強要し、投資資金を流し込んだ。(中略)
 株式市場が低迷する2001年に、ゴールドマンは「BRIC
s」の金融用語を発案し、ブラジル、ロシア、インド、中国をひ
とまとめにした投資手法を編み出し、外部のカネを集めて世界に
再配分、さらに米国に還流させ、幾度も稼ぐウォール街特有のビ
ジネスモデルを再強化した。       ──田村秀男氏論文
           「トランプ政権は日本経済のチャンス」
        ──「月刊Haneda2月号」/新春特大号
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 ところが、このウォール街中心政権は、2007年にサブプラ
イム危機、2008年にはリーマンショックに見舞われます。こ
の未曽有の危機処理に当たったのは、時のポールソン財務長官で
す。このときポールソン氏が何をしたかについては、彼の回想録
に詳しく書かれています。
 ポールソン長官は、実は親中派であり、財務長官に就任以来、
中国の要人との間に人脈を築き、ひたすら中国に米国債を持たせ
ることに腐心したのです。そのため中国でポールソン長官は「米
国債のセールスパーソン」といわれたのです。
 したがって、リーマン・ショックが起きたとき、ポールソン長
官は、中国の王岐山副首相に電話し、経営破綻しかけているモル
ガン・スタンレーへの緊急融資を打診します。しかし、これは実
現には至らなかったものの、時の中国の胡錦濤政権は米国債を継
続的に買い増しし、米国経済を支えたのです。そのため、中国の
米国債保有額は日本を抜いて世界一になったのです。
 この構図があるからこそ、その後のオバマ政権では、中国の人
権問題には目をつむり、南シナ海での人工島建設についても、口
では批判するものの、せいぜい航行の自由作戦と称して人工島の
近くを軍艦で航行する程度でお茶を濁していたのです。
 さらに習国家主席が執念を燃やしていた人民元のIMFの特別
引き出し権(SDR)入りまで容認したのも、大量の米国債を中
国に握られているため、今後も継続して国債を買ってもらわなけ
ればならないので、どうしても対中外交は軟弱なものになってし
まったのです。誰の目にも、人民元の国際通貨化は、時期尚早で
あることは明らかであったにもかかわらずこれを認めたののも、
中国が米国債を大量に保有しているからだったのです。
 しかし、トランプ次期政権は、その中国に対して、「一つの中
国」を含め、経済、安全保障の両面において、強硬な姿勢を打ち
出しています。あれほど、中国に対して弱腰であったオバマ政権
とは大きな違いです。それは、事情が変わったからなのです。
 添付ファイルを見てください。このグラフは、日中の対米貿易
収支と日中の米国債保有の推移をあらわしています。
 これによると、中国の対米貿易黒字は急膨張しているのに対し
日本のそれは縮小傾向にあります。これに対して、太い折れ線は
中国の米国債保有残高を示しています。これはサブプライム危機
の2008年頃に日本を抜き、2009年のリーマンショック以
降、急速に増えています。
 しかし、2011年頃から中国の米国債保有額は減少に転じ、
2016年になって、その保有額の日中逆転が生じています。一
方、中国の貿易黒字は膨張の一途をたどり、今や米貿易赤字総額
の5割ぐらいを占めるようになっています。どうしてこのような
変化が生じたかについて、産経新聞特別記者の田村秀男氏は、次
のように明解に分析しています。
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 中国は、対米貿易黒字で年間約3500億ドルのドルを稼いで
いるが、それを米市場に還流させるどころか、さらに米市場から
投資を引き揚げている。不動産バブル崩壊不安が漂う中国からの
巨額の資本流出に伴い、北京当局が外貨準備のドル資産を売って
人民元を買い支えざるをえなくなっている。
 安値輸出攻勢をかけて米国の中間層を痛めつけているうえに、
中国はいまや米金融市場の足をすくう巨大な問題勢力になった。
ワシントンは中国の金融パワーにへりくだる必要は全くなくなっ
た。「中貨(中国製品)排斥」で何の不都合があるものか。とは
言え、このままトランプ次期政権は強硬路線を貫徹できるのか。
                ──田村秀男氏前掲論文より
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            ──[孤立主義化する米国/114]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプ氏が仕掛ける中国試し、「台湾カード」の危険性
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  [ワシントン5日/ロイター]ドナルド・トランプ次期米大
  統領は先週、台湾の蔡英文総統と電話会談し、中国に対する
  強硬姿勢を示唆したが、貿易や北朝鮮といった問題をめぐり
  中国から譲歩を引き出すための危険な賭けをどこまで推し進
  めるのかは定かではない。
   米国と台湾の首脳は1979年の米中国交正常化以来、直
  接コンタクトを取っていなかった。トランプ氏と蔡氏の電話
  会談を受け、中国政府は外交ルートを通じて、米国政府に抗
  議。来年1月に退陣するオバマ政権は、長年かけて共和/民
  主両党による政権が慎重に築き上げてきた対中関係の進展を
  損ないかねないと警告した。
   もしトランプ氏が過度に自分の考えを通そうとするなら、
  中国との軍事対立を招く可能性があると、専門家らは指摘す
  る。同氏の側近とマイク・ペンス次期米副大統領は、蔡氏と
  の10分間に及ぶ電話会談は「表敬」であり、対中政策の変
  更を示すものではないとして、火消しに追われている。
   しかしトランプ氏は4日、中国の経済・軍事政策をツイッ
  ターで批判し、火に油を注いだ。一方、同氏の経済顧問であ
  るスティーブン・ムーア氏は、中国が気に入らなくても「お
  好きなように」と述べた。元米高官を含む専門家らは、台湾
  首脳との電話会談は中国に対する警告の第一弾にすぎないと
  みている。            http://bit.ly/2gYwGYg
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 ●図表出典/田村秀男氏前掲論文より

米国の対日中貿易赤字と日中の米国債保有残高(億ドル).jpg
米国の対日中貿易赤字と日中の米国債保有残高(億ドル)
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 孤立主義化する米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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