2016年12月20日

●「米新政権をテストする中国の策略」(EJ第4425号)

 ヒラリー・クリントン氏が大統領選に敗北したことによって、
米国と中国との間の不自然な結びつきが防止できたことは日本に
とって幸いであったと思います。
 しかし、トランプ次期米政権の対中国政策はまだ十分見えてき
ていませんが、安全保障関係の閣僚人事やトランプ氏による「一
つの中国の原則に縛られない」という発言によって、中国に対し
て相当強い姿勢で臨む可能性も高まってきています。
 そのような矢先に、中国と米国の間で、ひとつのもめ事が発生
したのです。米海軍の水中グライダーが中国海軍に捕獲されると
いう事件です。これは「トランプ/米国」VS「習/中国」の前
哨戦とでもいうべき出来事であるといえます。
 事件の内容については、12月17日付「ヤフー・ニュース」
から引用します。
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◎中国艦船、米潜水機奪う=南シナ海で海洋調査中/国防総省
 米国防総省は16日、中国海軍の艦船が南シナ海の公海で15
日に、米海軍海洋調査船の無人潜水機を「違法に」奪ったと発表
した。米側は中国に対し、潜水機の即時返還を公式に要求した。
国防総省のデービス報道部長は「ほかに同種の例は聞いたことが
ない」とし、中国の行動を国際法違反と批判した。
 潜水機が奪われた現場は、フィリピンのスービック湾北西沖約
50カイリ(約93キロ)で、米調査船「バウディッチ」は無線
で中国艦船に潜水機を返すよう要求した。「(中国)艦船は無線
連絡を認識したが、(返還)要求は無視された」という。デービ
ス部長によれば、調査船が潜水機2機を回収しようとしたところ
中国艦船が近づき、小型ボートを出して1機を奪った。潜水機は
海水温や塩分濃度など一般的な情報を収集しており、機密情報に
は全く関係していないという。     http://bit.ly/2gOsnOd
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 実は中国は、新しい米政権が発足するタイミングで、同じよう
なことをこれまでも仕掛けてきているのです。新政権の反応を見
ようとしているのです。これは中国の常套手段です。
 ジョージ・ブッシュ(子)政権が発足した2001年4月、海
南島沖約110キロメートルの国際空域で、米海軍EP─3と中
国戦闘機が接触し、中国人のパイロットが行方不明になるという
事件が起きています。この事件(海南島事件)について、ウイキ
ペディアは次のように伝えています。
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 2001年4月1日、午前8時55分(中国標準時)海南島か
ら東南に110キロメートルの南シナ海上空の公海上で、中国国
内の無線通信傍受の偵察活動をしていたアメリカ海軍所属の電子
偵察機EP─3Eと中国人民解放軍海軍航空隊所属のJ─811
戦闘機が空中衝突する事故が発生した。そのため、中国人民解放
軍機が墜落しパイロットが行方不明になった。一方のアメリカ軍
偵察機は大きな損傷を負ったが、至近の海南島の飛行場に午前9
時33分に不時着した。搭乗員は中国当局によって身柄を拘束さ
れた。                http://bit.ly/2hMsUlq
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 事故が起きたのは、あくまで「南シナ海上空の公海上」です。
しかし、米国の情報収集飛行に苛立った中国の戦闘機は米海軍の
EP─3に異常接近し、接触して両機とも墜落したのです。
 事件を知ったブッシュ大統領は、江沢民国家主席にホットライ
ンを使って電話をかけたのですが、江主席は一向に電話に出ず、
13回目にやっとつながったといいます。
 実はこのとき、江沢民は事件を知るとうろたえて、ブッシュ大
統領からの電話に出ず、「どうしょう」と側近を集めてその対応
について協議したといいます。まさか衝突して両機が落ちること
は考えていなかったからです。当時の米中関係は極めて悪く、米
中戦争になる危険性もあったのです。これが海南島事件です。
 そのブッシュ政権が終わってオバマ政権が発足したのは、20
09年1月20日のことです。その3月8日、南シナ海の公海上
で、米海軍の音響測定艦インペッカブルが中国海軍の調査船5隻
にさまざまな妨害されたのです。その事件の詳細は、次のAFP
の記事を参照してください。
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【3月10日AFP】米国防総省は、南シナ海の公海上で8日、
5隻の中国艦船が、米海軍の非武装の調査船「インペッカブル」
に対し、約8メートル以内に近づくなどの危険な妨害行為を行っ
たと発表した。同省はまた、この事態に対し中国当局に抗議した
ことを明らかにした。
 国防総省によると、インペッカブルは中国・海南島の南120
キロメ点で活動中、5隻の中国の艦船に取り囲まれた。このうち
2隻が15メートル以内まで接近し、中国国旗を振りながら同海
域から退去するように要求したという。インペッカブルは中国艦
船に向け放水を行ったが、この際、中国艦船の乗組員は下着姿に
なったという。            http://bit.ly/2hMJG3Z
─────────────────────────────
 またしても公海上での進路妨害です。中国は、国連海洋法条約
(UNCLOS)を都合良く解釈し、ここはわれわれの海だと主
張し、他国に実力行使をしているのです。誠に傍若無人な対応で
あると思います。
 今回の潜水機捕獲事件が起きたのは、フィリピンのスービック
湾北西約50カイリの国際水域で、中国が実効支配しようしてい
るスカボロー礁よりずっとフィリピン寄りの位置です。ここの水
中での調査で中国にクレームをつけられるいわれはないのです。
 在英の国際ジャーナリストの木村正人氏は、この事件は「『一
つの中国』の原則という中国の核心的利益を踏みにじったトラン
プ氏への牽制と、南シナ海は中国の海であることを周辺国に知ら
しめる狙いがある」と述べています。
            ──[孤立主義化する米国/110]

≪画像および関連情報≫
 ●米海軍の水中グライダー捕獲事件
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   中国が軍事要塞化を進める南シナ海の国際水域で海洋調査
  をしていた米海軍の無人水中グライダーが12月15日、中
  国海軍に捕獲される事件が起きました。米国防総省は、主権
  国家は他国の管轄権に属さないという「主権免除」を前面に
  打ち出し、水中グライダーの即時返還を求めています。
   米国のトランプ次期大統領は11日放送の米テレビ番組で
  米中関係の出発点となってきた「一つの中国」原則について
  「どうして我々が縛られなければならないのか」と疑問を呈
  したばかりです。台湾は中国の一部であるという「一つの中
  国」政策は、習近平国家主席の核心的利益をなすだけに中国
  は敏感に反応したようです。
   この事件は、トランプ・習時代の米中関係を占う重要な意
  味を持っています。ユーラシア大陸の地政学を考えると、大
  国の中国とロシアに手を組まれるほど厄介なことはありませ
  ん。トランプ氏はロシアのプーチン大統領に宥和的な発言を
  繰り返す一方で、中国には非常に厳しい発言を繰り返してい
  ます。トランプ氏が「米国の国防費を負担しろ」と日本や韓
  国などの同盟国に無理難題を押し付け、中国経済圏に対して
  防波堤を築く環太平洋経済連携協定(TPP)を破棄すれば
  アジア太平洋で米国のプレゼンスは間違いなく低下するでし
  ょう。              http://bit.ly/2gYNbps
  ───────────────────────────

米国製/水中グライダー.jpg
米国製/水中グライダー
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 孤立主義化する米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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