2016年12月15日

●「トランプ政権の対中国戦略を探る」(EJ第4422号)

 トランプ次期米大統領は思っていた以上に、なかなかしたたか
です。トランプ氏は、外国の首脳としては最初に安倍首相に会っ
ていますが、それだけではないのです。世界のビジネスパーソン
に先駆けてソフトバンクの孫正義氏にも会っています。なぜ、日
本人とばかり会うのでしょうか。
 それは、日本がカネを持っていることを知っているからです。
孫正義氏は、12月5日にトランプ氏と会い、総額500億ドル
(約5兆7200億円)を米国のIT分野に投資し、5万人の雇
用を創出することを約束しています。
 孫氏としては、かつて傘下の米スプリント社に加えてTモバイ
ルUSを買収しようとしたとき、オバマ政権にストップをかけら
れ、米国戦略の修正を余儀なくされています。そのため、次期大
統領に誰よりも早く会って、大統領の求める投資を約束し、買収
戦略を前進させようとしているのです。おそらく約束が果たされ
れば、今度はトランプ政権はソフトバンクの邪魔はしないと思わ
れます。ビジネスの取引だからです。まさにビジネス・ファース
トといえます。
 それでは、トランプ次期大統領は、安倍首相には何を要求して
くるのでしょうか。
 これに関して、ジャーナリストの歳川隆雄氏は、夕刊フジのコ
ラム「永田町・霞が関インサイド」で次のように述べています。
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 ハッキリしていることがある。トランプ氏が大統領選挙期間中
に掲げた公約に、法人税を15%まで引き下げること、国内イン
フラに1兆ドル(114兆4300億円)投資する、2つがあっ
た。一方で減税して、他方で財政出動するというのは、相いれな
い。財源はどこにあるのか、ということである。
 だから、トランプ氏は安倍首相に対して、@米国債の買い増し
A米国製武器購入とシェールガスの輸入B日本企業の米国進出に
よる工場建設──を求めている。──「歳川隆雄の永田町・霞が
関インサイド」/2016年12月12発行/「夕刊フジ」より
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 しかし、外交とビジネスとは違います。米国にとって外交上最
も難しいのが中国への対応です。中国は、オバマ大統領の弱腰を
見抜いて、南シナ海に人工島を埋め立て、その軍事基地化を超ス
ピードで進めています。これによる米国の威信は大きく低下した
といっても過言ではないでしょう。
 これに対してトランプ氏は「強いアメリカ」を標榜して大統領
選を戦っています。問題はこの強いアメリカをどのようにして実
現させるかです。現時点で考えられるトランプ氏の戦略としては
次の3つが考えられます。
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 1.国防長官や国家安全保障担当大統領補佐官などの安全保
  障関連スタッフに軍部強硬派を起用する。
 2.あえて中国を刺激する発言を行い、オバマ政権との安全
  保障の考え方が異なることを知らしめる。
 3.しかし、中国との対話の窓口はいつでも開けておき、い
  つでも話し合いができる状況を確保する。
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 「1」については、早くからトランプ氏が国家安全保障補佐官
にマイケル・フリン氏を起用したことからはじまっています。フ
リン氏は、元アメリカ陸軍中将で、2012年から2014年ま
で、国防情報局長を務めた人物です。イラク戦争やアフガニスタ
ン戦争にも従軍しています。軍人出身です。
 問題は国防長官です。国防長官にはジェームズ・マティス氏が
指名されています。マティス氏は、アメリカ海兵隊の軍人で、最
終階級は大将です。NATO変革連合軍最高司令官、アメリカ統
合戦力軍司令官、アメリカ中央軍司令官などの要職を歴任してい
ます。つまり、大ベテランの軍人出身です。
 トランプ次期米大統領が安全保障の閣僚に元軍人の強行派を起
用するということは、米国との間にトラブル案件を持つ国に対す
る大きなプレッシャーになります。とくに中国は、違法に南シナ
海に人工島を建設しているので、強いプレッシャーを感じている
はずです。なぜなら、まだ現在の中国の軍事力では、とうてい米
国には勝てないからです。
 トランプ氏が続いてやったことは、中国駐在米国大使に、中西
部アイオワ州の知事を務める共和党のテリー・ブランスタド氏を
指名したことです。これは「3」に該当します。対話の窓口を設
けたのです。ブランスタド氏は習国家主席の古い友人なのです。
以下は、NHKニュース・ウェブの紹介記事の一部です。
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 アメリカメディアによりますと、ブランスタド氏は30年余り
前の1985年に、当時、河北省の農村部の幹部としてアイオワ
州を訪れた習近平氏と出会ったということです。習主席は4年前
に中国の最高指導者に就く直前に国家副主席として訪米した際に
もアイオワ州を訪れています。その際にはブランスタド氏が夕食
会を行うなど、両者は交流を続けていて、ブランスタド氏は習主
席を「古い友人」だとしています。   http://bit.ly/2hnEgyL
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 そして、今回トランプ氏は、中国に対して、中国が絶対に譲れ
ない「一つの中国」に疑問を呈したのです。これは「2」に該当
しますが、歴代の米国の大統領では絶対にいえなかった痛烈なパ
ンチです。まだ大統領になっていない現時点を利用して、中国が
激怒することを十分承知したうえで、あの発言をしたのです。
 いずれにせよ、トランプ氏の発言は、米中関係の根幹を揺るが
す言動であり、政権がスタートすると同時に米中は話し合いを持
つと考えられます。そのさい、ブランスタド中国駐在米国大使を
通して行われるものと思われます。このようにトランプ氏はなか
なかしたたかです。日本も油断は禁物です。
            ──[孤立主義化する米国/107]

≪画像および関連情報≫
 ●中国が強い懸念表明/「一つの中国」めぐるトランプ発言で
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  [北京 12日 ロイター]──中国外務省の耿爽報道官は
  12日、米国政府がこれまで維持してきた「一つの中国」政
  策を必ずしも堅持する必要はないとしたトランプ次期米大統
  領の発言について、極めて強い懸念を表明した。
   外務省は、台湾における中国の核心的利益を米国が認識で
  きない場合、米国との協力は「論外」であると主張。両国間
  に存在する多くの商業や安全保障問題について、この論点を
  交渉材料にしようとするトランプ氏のあらゆる試みを拒否す
  ると示唆した。耿報道官は「中国は報道について認識してお
  り、深刻な懸念を持っていると表明する。台湾問題は中国の
  主権と領土の保全にかかわるものであり、中国の核心的利益
  を内包するものであることをここに強調する」と述べた。
   さらに「『一つの中国』政策の支持は、中国と米国の関係
  発展のための政治的基礎となる指針だ。この基礎が妨げられ
  るか損害を受けた場合、中米関係や重要分野における両国の
  協力を健全に発展させることは不可能となる」と言明した。
  報道官は、外務相より上位に位置する楊潔チ・国務委員(外
  交担当)が最近ニューヨークを訪問し、フリン元米国防情報
  局長を含めトランプ氏の顧問と会見したと述べ、「中米関係
  や重要課題に関する意見交換を行った」と話した。会見の時
  期など詳細については触れず、今回の台湾をめぐる発言より
  前のことなのかどうかについても説明しなかった。
                   http://bit.ly/2hhcNi1
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習国家主席とアイオワ州知事ブランスタド氏.jpg
習国家主席とアイオワ州知事ブランスタド氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 孤立主義化する米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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