2016年08月12日

●「コクゾウムシの枢軸とは一体何か」(EJ第4338号)

 海上保安庁によると、9日に尖閣諸島周辺海域で中国海警局の
公船が最大13隻も接続水域を航行し、そのうち4隻が延べ10
回、領海に侵入しています。傍若無人な中国の振る舞いです。
 岸田外相は、程永華駐日大使を呼び3回にわたり、抗議したの
ですが、中国公船はそのまま居座っているという事態が続いてい
ます。周辺には数百隻の中国漁船が展開しているのです。南シナ
海で起こっている事態が東シナ海でも起こりつつあるのです。
 このような事態は、冷戦が終結した時点から、予想されていた
ことだったといえます。1989年に1945年から44年間に
わたって継続してきた米ソ冷戦が終結した後、次のようなことが
いわれたのです。
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 イデオロギー対立に終始した人類の歴史が終わり、どの国も民
主主義と自由に基づく政治経済体制を目指すようになる。
                   ──「歴史の終焉説」
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 この考え方に対して正面切って反対を唱えた人がいます。米国
政治外交誌『アメリカン・インタレスト』の編集長であるウォル
ター・ラッセル・ミード氏です。彼は次の評論を発表し、そこで
「コクゾウムシの枢軸」という聞き慣れない表現を使って注目を
集めたのです。ミード氏は革新的中道派の気鋭の政治学者です。
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  「歴史の終わりの終わり」/The End of History Ends.
         コクゾウムシの枢軸/Axis of Weevils.
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 「コクゾウムシの枢軸」については、白鴎大学高畑昭男教授の
本にも紹介されているし、ネット上にも高畑氏のコンテンツは多
くあります。その主張をまとめながら、以下にご紹介します。
 ここで「コクゾウムシ」というのは一種の昆虫で、穀類の中身
をかじって空洞化させ、そこに卵を産んで増殖します。目くじら
立てて即座に駆除しなければならないほどの害虫ではないが、そ
うかといって放置すると、後がやっかいなことになります。それ
では、なぜミード氏が「コクゾウムシの枢軸」というように「枢
軸」という言葉を使ったかというと、かつてブッシュ(子)大統
領が、イラン、イラク、北朝鮮を「悪の枢軸」と呼んだことから
きていると思われます。
 ミード氏がコクゾウムシと呼んでいる国は、中国、ロシア、イ
ランの3国です。これら3国は、米国のパワー低下をみてとり、
まるでコクゾウムシのように、「世界秩序」という穀類の食い争
いをしているというのです。ミード氏がいうその理由と根拠につ
いて、高畑昭男氏は次のように述べています。
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 アメリカは、冷戦終結後も圧倒的なパワーを駆使して世界秩序
を主導してきた。これに対し、ユーラシア大陸の一角を占めるロ
シア、中国、イランはそれぞれに不満を募らせている。「大口シ
ア」主義を掲げるロシアのプーチン大統領は、かつてソ連が君臨
した勢力圏の復活を画策し、周辺諸国を力ずくで再び支配しよう
としている。ウクライナ問題や2008年に起きたグルジア紛争
はその典型だ。
 一方、台頭を続ける中国は、その経済、政治、軍事力をかさに
着て勢力圏を拡大し、強引な力による現状変更を進めようとして
いる。その対象は安全保障面から国際金融面に拡大しつつある。
イランも、歴史的にスンニ派アラブ諸国が優位を占めてきた中東
の力の均衡を崩壊させ、レバノン、シリア、イラクなど隣接諸国
を通じて着々とシーア派勢力圏の拡大を狙っている。
         ──高畑昭男著『「世界の警察官」をやめた
  アメリカ/国際秩序は誰が担うのか』/株式会社ウエッジ刊
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 オバマ大統領の世界の警察官放棄宣言以後に世界で起こってい
ることを見ると、このウォルター・ラッセル・ミード氏の指摘が
いかに的確であるかがよくわかります。中国とロシアがまるで水
を得た魚のように動き出したからです。やがてそれにイランも加
わってくる可能性があります。
 オバマ政権は、イラクとの戦争を終わらせることを公約にして
できた政権です。オバマ大統領はその公約を実現させつつありま
す。しかし、その後の世界秩序をどのようにして守るかの視点が
決定的に欠けています。
 現在、米国では共和党のトランプ氏と共和党のクリントン氏の
間で、次期大統領選の本番が行われています。EJでは来週から
この問題にメスを入れていきますが、トランプ候補は、日本に対
し、米軍の駐留経費を全額支払わないのであれば、米軍を撤退さ
せると繰り返し、いっています。これに対してトランプ氏が外交
戦略というものが分かっていないからであり、実際に大統領にな
ればそんなことはしないだろうという識者は少なくありません。
 しかし、これは、案外米国の本音かもしれないのです。という
のは、米国には「オフショアー・バランサー」という構想がある
からです。
 「オフショアー・バランサー」とは、米軍のプレゼンスを米本
土に近い安全な場所に移し、後方からリモート・コントロールす
る戦略です。その方がコストも少なくて済むし、米国の経済・財
政面の現状を考えると、合理的に見えるからです。
 これに対し高畑昭男氏は、これまでの米国の指導力と抑止力は
つねに前線に軍隊を常駐することで確保されてきたことは歴史の
経験則であるといいます。
 そしてもしこのオフショア・バランシング戦略が日米同盟に適
用されたら、アジアの安全保障体制に深刻な影響を与えることに
なると警告しています。次の米国の政権がトランプ氏になるのか
クリントン氏になるのかによって、多少違っては来ますが、日本
としては、本気で自国の安全保障問題について考える必要があり
ます。         ──[孤立主義化する米国/023]

≪画像および関連情報≫
 ●繁殖する「コクゾウムシの枢軸」/高畑昭男氏
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   米外交のユニークな分析で知られる気鋭の米政治学者、ウ
  ォルター・ラッセル・ミードがロシア、中国、イランの3ヶ
  国を「コクゾウムシの枢軸」と呼ぶ挑発的評論を発表し、米
  外交界にちょっとした論議を巻き起こしたのは、2013年
  12月のことだった。
   コクゾウムシは穀類をガリガリかじって空洞化させ、内部
  に卵を産みつけて繁殖する。国際秩序を蚕食する行動と似て
  いることから3カ国を「コクゾウムシ」と名づけたようだ。
  ブッシュ前大統領はイラン、イラク、北朝鮮を「悪の枢軸」
  と呼んだが、「悪」とコクゾウムシは発音も近いので、語呂
  あわせのユーモアもあったのかもしれない。直前の11月は
  中国が一方的に防空識別圏を設定し、ウクライナでヤヌコビ
  ッチ政権がロシアの執拗な圧力に屈して欧州連合(EU)と
  の経済連携協定を土壇場で断念させられた(それが今春のキ
  エフ政変につながった)時期だ。
   ミードによれば、ロシア、中国、イランはユーラシア大陸
  中央部にあり、冷戦後の米国主導による21世紀の秩序に少
  なからぬ不満を持つ。「米国パワーの相対的低下と地政学的
  なすきを狙って秩序の侵食を図っている」と分析する。
                   http://bit.ly/2aLsitH
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岸田外相、程永華駐日大使に抗議.jpg
岸田外相、程永華駐日大使に抗議
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 孤立主義化する米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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