2016年07月29日

●「改革が必要な安保理の拒否権行使」(EJ第4329号)

 国連安全保障理事会の常任理事国の持つ拒否権──この拒否権
の存在によって国際連合は、その目的である世界平和の実現のた
め、紛争を解決する本来の機能を果たせないでいます。なぜなら
安保理の拒否権は、米国、英国、フランス、中国、ロシアの5大
国に与えられた独占的特権であり、そこには何の制限も課せられ
ていないからです。
 制限なき拒否権──これがどれほど危険なものであるかについ
て考えます。そもそも拒否権は今までどのくらい行使されたのか
2008年7月現在の数字は次のようになっています。
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             2008年7月現在
                  発動回数
       アメリカ ・・・・   83回
       イギリス ・・・・   32回
       フランス ・・・・   18回
        ロシア ・・・・  127回
         中国 ・・・・   10回
            http://bit.ly/2a45fd4
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 全体の47%を旧ソ連を含むロシアが発動しています。しかも
そのほとんどが自国の権益を害する案件に関して発動されている
のです。この127回には含まれませんが、シリア内戦に限って
も、ロシアは4回拒否権を発動しているのです。これはロシアと
長らく同盟関係にあるシリア・アサド政権を擁護するための発動
になっています。
 それでいて、クリミア半島の帰属をめぐってロシアとウクライ
ナの間で起こったクリミア危機(ウクライナ紛争)では、ロシア
の拒否権行使の脅威を原因とし、国際社会、とりわけ国連はロシ
アによるクリミア併合や軍事介入に対してほとんど何も対処・糾
弾することができていないのです。安保理の常任理事国の一国が
武力行使にかかわっているのですから、国連としては動きようが
ないのです。
 米国の大統領にも拒否権が認められています。しかし、無制限
というわけではなく、一定の制限がかけられています。その仕組
みを簡単に説明します。
 議会が制定した法案は、国家元首である大統領のもとに送付さ
れてきます。大統領はこの法案を承認する場合は、法案に署名す
れば法案は法律になります。この場合、大統領が署名しなくても
議会の会期中に日曜日を除いて10日以上経過すると自動的に法
律になります。
 大統領が法案に反対する場合は、法案に署名しないで、承認で
きない理由を記述した書類を添えて、議会の会期中に日曜日をの
ぞく10日以内に議会に差し戻すのです。これは大統領の拒否権
の発動ということになります。
 大統領の拒否権によって差し戻された法案に対して、議会はど
うしても法案を成立させたいときは、次の2つの対応をとること
ができます。
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 1.大統領の拒否の内容を十分考慮し、必要に応じて法案に
   修正を加えて大統領に再送付する。
 2.上下両院でその法案を3分の2以上で再可決すれば、大
   統領の署名なしでも法律にできる。
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 このように、議会がその気になれば、大統領の拒否権を跳ね返
すことができるようになっているのです。これは大統領の独裁を
防ぐ仕組みにもなっています。
 このような制限を安保理の常任理事国の持つ拒否権にもかける
ことは可能です。例えば、次のように拒否権に一定の歯止めをか
ければ、独裁を防ぐことができます。
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 1.安保理決議の内容によっては、必ずしも全会一致を必要
   としないようにする。
 2.常任理事国5ヶ国のうち、4ヶ国が賛成すれば、1ヶ国
   の拒否権は認めない。
 3.安保理にかかわる紛争案件の当事者となる常任理事国は
   表決には加われない。
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 しかし、これらの拒否権行使の制限は一切行われることなく、
70年以上の年月が経過しています。なぜなら、この仕組みを変
更するには、国連総会で全加盟国の3分の2以上の賛成に加えて
常任理事国のすべての国の賛成が必要になります。これは、事実
上いかなる変更も不可能ということになります。
 これまで拒否権行使の抑止の試みがぜんぜんなかったわけでは
ないのです。次のフランスによる提案があります。しかし、この
提案にロシアや米国が賛成するとは思えないのです。次の記事は
早稲田大学学生原貫太氏のレポートからの引用です。
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 (安保理の)拒否権の行使を抑止しようという取り組みがフラ
ンスを主導として行われてきている。2001年、フランスは、
「ジェノサイド(集団殺害)などの大量残虐行為に対して歯止め
を掛ける議案に関しては、安保理常任理事国は自発的、そして集
団的に拒否権の発動を控えるべきだ」といった内容の提案を持ち
出した。フランスは、「拒否権は常任理事国の特権であるべきで
はないし、そうなることも出来ない」という姿勢を示しており、
イギリスもこの案に対して賛成の意を示している。
 また、2006年4月の国連安保理決議1674号による「保
護する責任」の再確認などの影響もあり、常任理事国に対する国
際的な圧力は一層強まっきている。  http://huff.to/29W2L3m
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            ──[孤立主義化する米国/014]

≪画像および関連情報≫
 ●「国連安保改革への道」/植木安弘上智大学教授
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   国連は今年で創設70周年を迎えます。国連の前身、国際
  連盟が僅か20年でその使命を終えたのと比べると、国連は
  東西冷戦や非植民地化、南北対立など、さまざまな国際政治
  変動を乗り越えて今日まで存続し、国際協調の促進の場とし
  ての役割を果たしております。
   その国連で国際平和と安全保障の維持で最も重要な役割を
  与えられているのが安全保障理事会です。安全保障理事会の
  決議には法的拘束力があり、経済制裁や武力制裁といった強
  制行動が取れる極めて強い政策決定権限を持った国連の中心
  的機関です。
   国連は現在193の加盟国で構成されています。ところが
  安全保障理事会は僅か15ヵ国で構成されているにすぎませ
  ん。しかも、その内5ヵ国が常任理事国で、拒否権を持って
  います。この常任理事国は第二次世界大戦の戦勝国であり、
  米国、イギリス、フランス、ロシアと中国の5ヵ国がこの特
  別な地位を占めています。このように重要な国連の政策決定
  機関を改革してその決定に参画したいという動きは以前もあ
  り、1965年に一度国連憲章が改正され、理事国の数が、
  11から15に増えました。その時は非常任理事国の枠を拡
  大しただけでした。        http://bit.ly/2adiWbs
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安保理における拒否権行使.jpg
安保理における拒否権行使
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 孤立主義化する米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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