2015年04月01日

●「安倍政権は従来にない自民党政権」(EJ第4006号)

 2014年12月の総選挙は、自民党と公明党の与党が勝利し
たものの議席は2議席プラスの326議席にとどまったのです。
その一方で、野党第一党の民主党が敗北し、共産党が8議席から
21議席に大躍進しています。本来民主党に流れる票が共産党に
入ったからです。
 この選挙結果からいろいろなものが読み取れますが、重要なも
のは次の2つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.アベノミクスの継続は同意されたこと
     2.消費税増税への反発が非常に強いこと
―――――――――――――――――――――――――――――
 選挙前に読売新聞社が行った世論調査では、「衆院選で重視す
る争点」として「景気や雇用」を重視する人が70%もあったの
ので、「1」に関しては当然の結果であるといえます。
 民主党が敗れたことから2つのことが読み取れます。1つは、
国会での民主党によるアベノミクス批判がまるで功を奏していな
いことです。2つは、消費税増税を仕掛けたのは民主党であると
国民は思っていることです。
 消費税増税を最初に仕掛けたのは野党時代の谷垣総裁(当時)
率いる自民党です。それは、谷垣総裁自身が財務相の経験者であ
ることと無関係ではないのです。当時の自民党内部には、増税反
対論者がたくさんいたからです。
 民主党の菅政権は、自民党が2010年の参院選に消費税10
%増税を掲げたのを見て、自らも消費税を選挙の争点にしたので
す。もし、自民党が増税で先行していなければ、民主党は増税を
掲げていないと思います。「自民党が公約にしているのだから」
という気持ちが菅首相(当時)にあったことは確かです。
 公約というものは野党と与党とでは重さが違うのです。ところ
が、野党時代が長かった民主党では、与党になったことを忘れ、
野党時代の軽い気持ちで消費税増税を掲げて参院選を戦い、参院
での過半数を失ったのです。これが民主党が政権を失う大きな原
因のひとつになったのです。
 実際に消費税増税法は、民主党、自民党、公明党の3党合意で
成立していますが、それを仕掛けたのは政権与党の民主党である
として、国民の怒りはすべて民主党に向っているのです。
 さらに今回、安倍首相が10%への消費税増税を2017年4
月まで延期したことで、国民の増税への怒りはますます自民党で
はなく、民主党に集中しています。
 まさか、意図してやったのではないでしょうが、増税を民主党
政権のときにやらせるという自民党の高等戦略に民主党は嵌って
しまったのです。その結果として、2014年の総選挙では、唯
一消費税増税を批判できた共産党が、本来なら民主党に流れても
いい票を獲得して議席を13議席増やしたのです。
 アベノミクスの第1の矢である金融緩和も、第2の矢である財
政政策も、本来は左派リベラル政党が主張する政策なのです。こ
れに対抗するのは、経済への国家の介入を嫌い、小さな政府を主
張する米国の共和党のような政党のはずです。
 しかし、自民党は、安倍政権以前は「小さな政府」を主張して
いたのに、安倍政権になるとこれを封印しています。若田部教授
はこれを「奇妙なねじれ」と呼んでいます。
 これに困ったのは野党なのです。この奇妙なねじれについて、
若田部教授は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 リフレーション(リフレ)政策とは、これまでのデフレを是正
し、物価上昇率2〜3%程度のマイルドなインフレを実現する政
策です。原田泰(早稲田大学教授)は、リベラル派がリフレ政策
に反対するのはなぜなのかを分析しています。
 第1に、リフレ政策には効果があるのに、それをリベラルでな
い安倍首相が推進して成功してしまったのはいやだ、第2に、成
功したら自分たちが攻撃している問題が少なくなるからいやだ、
そして第3に、いまはうまくいっているかもしれないが将来は悪
くなるという見方、です。最初の2つには、成功したらどうする
か、という問題があります。嫌いな人がやっている政策だからと
いう理由で反対してしまうと、いざ自分たちが政権を運営すると
きに選択肢がなくなってしまいます。    ──若田部昌澄著
 『ネオアベノミクスの論点/レジュームチェンジの貫徹で日本
            経済は復活する』/PHP新書973
―――――――――――――――――――――――――――――
 安倍政権は、これまでの自民党政権とは少し違うようです。明
白な違いは、財務省と戦っていることです。それぞれの政権でも
そこそこ財務省に抵抗しているのですが、法律で決まっている消
費税増税を延期するほど強い抵抗を示した政権は珍しいのです。
民主党政権などは財務省に完全支配されてしまっています。
 これに、前回述べた「経済政策の3本柱」ごとに各政権の政策
優先度を示すると、次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
       自民党政権  民主党政権  第2次安倍政権
   経済成長    △    ×→△       ○?
  景気安定化    △      ×       ○?
  所得再分配    ?      ○        ?
           ──若田部昌澄著/日本経済新聞出版社
        『解剖/アベノミクス/日本経済復活の論点』
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで「△」は、やってはいるが、中途半端であることをあら
わしています。その点安倍政権は「経済成長」と「景気安定化」
に関しては、明確な手を打っていることがわかります。とくにデ
フレ突入後の約20年にわたって、政権を担った自民党政権と民
主党政権は、景気安定化のための有効な政策を何も実施していな
かったのです。とくに日銀を巻き込んで、積極的なデフレ脱却策
を講じなかったのです。  ── [検証!アベノミクス/88]

≪画像および関連情報≫
 ●最大のリスクとしての政治/若田部昌澄氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  アベノミクスは、安倍首相のリーダーシップによるところが
  きわめて大きい政策パッケージです。そうなると、彼個人に
  頼ることが最大のリスクです。自民党の中の経済政策思想は
  一枚岩ではありません。現在4つの政策思想グループが呉越
  同舟とまではいえないまでも、「同床異夢」の状態にあると
  いえます。第1の思想はリフレーション派で、「第一の失」
  を支えています。これは安倍首相の近辺にいるグループが相
  当します。金融政策を中心にデフレ脱却を目指す人々です。
  浜田宏一(米イエール大学名誉教授)、本田悦郎(静岡県立
  大学教授)が内閣官房参与に起用されたのはその象徴です。
  第2に、財政拡張派です。麻生太郎財務大臣らが代表的で、
  長年財政政策を景気対策として唱えてきたリチャード・クー
  (野村総合研究所)がブレーンであるとされます。また、こ
  こには耐震・防災対策のための公共事業支出をうたう国土強
  靭化論が影響力を有しています。その代表的論客である藤井
  聡も官房参与に就任しています。第3に、産業政策派で、甘
  利明経済財政・再生担当大臣のもと、成長戦略に影響を有し
  ています。これらに加えて、第4に、現在は目立ちませんが
  増税財政再建派がいます。これは民主党、公明党との「社会
  保障と税の一体改革」についての3党合意を順守し、復興増
  税、そして消費増税に賛成してきた人々です。
           ──若田部昌澄著/日本経済新聞出版社
        『解剖/アベノミクス/日本経済復活の論点』
  ―――――――――――――――――――――――――――

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アベノミクス指揮者/安倍首相
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2015年04月02日

●「経済成長否定思想の正体とは何か」(EJ第4007号)

 日本の経済論壇では、なぜか、日本の経済成長はもはや望めな
いとする悲観的な論調が勢いを増しています。「日本はもう十分
豊かなので、経済成長は必要ない」とか、「日本経済は成熟化し
ており、もはや成長はできない」といった経済成長悲観論が根強
く蔓延しています。
 そういう成長否定論の第一人者である水野和夫氏の大ベストセ
ラーの著書の冒頭には、次の記述があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 近代とは経済的に見れば、成長と同義語です。資本主義は「成
長」をもっとも効率的に行うシステムですが、その環境や基盤を
近代国家が整えていったのです。私が資本主義の終焉を指摘する
ことで警鐘を鳴らしたいのは、こうした「成長教」にしがみつき
続けることが、かえって大勢の人々を不幸にしてしまい、その結
果、近代国家の基盤を危うくさせてしまうからです。
                      ──水野和夫著
        『資本主義の終焉と歴史の危機』/集英社新書
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本は成長できるのか──実はこの論争は、既に述べたように
日本に高度成長をもたらした池田勇人内閣による「所得倍増論」
当時からあるのです。そのときは、経済成長路線を取る池田元首
相のブレーンの下村治氏と脱成長を唱える経済学者の都留重人氏
が激しく論争したことで知られています。
 日本は十分豊かになっているといいますが、果してそうでしょ
うか。むしろ、貧しくなっているのではないかと思います。その
証拠に、失われた20年といわれる間は、名目GDPがまったく
伸びていないのです。
 名目GDPというのは、1年間に国民が取得する給料や配当な
どの合計額のことですが、それが長期間停滞しているのです。こ
ういう経済成長しない期間が長くなればなるほど、失業率が高ま
り、所得が大幅に減少し、貧しくなる──貧困層が増えるのは当
然のことです。
 「オークンの法則」というものがあります。米国の経済学者の
アーサー・オークンが、1962年に提案した産出量と雇用の関
係を示す経験則です。「オークンの法則」は法則と呼ばれていま
すが、理論から導かれた結果ではなく、主として経験的観測なの
で、より正確には「オークンの経験則」と呼ばれるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 3%の産出量の増加は、1%の失業率の減少、0・5%の労働
力率の減少、0・5%の従業員一人当たりの労働時間の増加、1
%の時間当たりの産出量(労働生産性)の増加に対応する。
         ──ウィキペディア http://bit.ly/19D31Pn
―――――――――――――――――――――――――――――
 失業者は財サービスの生産に貢献しないので、失業者の増加と
実質GDPの低下は同時に発生するのです。添付ファイルに、完
全失業率と実質国内GDPの推移のグラフを示しておきます。赤
が完全失業率、青が実質国内GDP成長率をあらわしていますが
2つが強い相関を示していることがわかると思います。
 財政の状況は、政府の債務残高を名目GDPで割って計るので
分母であるGDPが増えないと、数値が改善しないのです。何も
高度成長する必要はないのです。毎年せいぜい2〜3%の成長で
十分です。高橋洋一氏によると、もし5%強の名目成長があると
プライマリー収支はゼロになるというのです。
 この成長否定思想は、1964年にスイスに本拠を置く民間シ
ンクタンク「ローマ・クラブ」が次のことを謳う報告書を作成し
たのがはじまりといわれています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 人口増加や経済成長を抑制しなければ、100年以内に人類
 は滅亡する。    ──『成長の限界』/ダイヤモンド社
―――――――――――――――――――――――――――――
 1964年というと、日本でも公害による環境汚染が深刻化し
た時期であり、「成長否定思想」は、強い説得力を持っていたの
です。確かに現在の中国のような環境汚染を見ると、成長一辺倒
に否定的な意見が出ても不思議はないと思います。
 公害による環境汚染を克服した現在の日本においても、同じよ
うなことをいう人がいるのです。2011年10月に行われた高
橋洋一氏との対談において、若田部昌澄氏はこれに関連して次の
ように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 最近、根強くある意見としては、原発事故の影響もあって、経
済成長のために原発が必要なら、経済成長は必要ないと、成長そ
のものを否定するようなものもある。ただ、これは誤解で、もち
ろん経済活動のためにはエネルギーが必要だけれども、経済成長
と原発は、具体的には何も因果関係はない。
 同様に、地球温暖化問題で、経済成長を追いかけると、温暖化
ガスであるCO2がいっぱい出て大変だという人もいます。これ
も、本当にCO2を削減するためには、技術革新が必要です。経
済成長と技術革新は深く関係しているので、経済成長と環境問題
というのも密接に関連している。    http://bit.ly/1DiGwM0
―――――――――――――――――――――――――――――
 財務省は、名目GDPが増えると長期金利が上がり、国債など
負債の利払い費が増えるといいます。しかし高橋洋一氏はそれは
財務省の方便であると一蹴します。確かに最初の1〜3年は利払
いの方が多くなるが、国債は長期の固定金利なので、市場の金利
が上がっても、利払いの金利は急速には上がらないのです。
 もっとも最初の1〜3年は利払いの方が多くなるといっても、
それは、税収弾性値を「1・1」で計算しているからであり、実
際は弾性値が「3」か「4」になるので、あっという間に税収の
方が多くなるのです。財務省は、自分本位で国民のことなど考え
ていないので、こういうからくりを巧妙なことを仕組んでいるの
です。          ── [検証!アベノミクス/89]

≪画像および関連情報≫
 ●朝日新聞「経済成長を問い直す」/白川真澄氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  お読みになった方もあると思いますが、朝日新聞が2015
  年1月23日〜24日の朝刊で「経済成長を問い直す」とい
  う議論を大きく取り上げていました。経済成長主義への根本
  的な疑問が広がり、脱成長をめぐる議論がもはや無視できな
  くなっていることを現わしていると思います。面白い論点も
  出されています。登場している論者は、水野和夫、藻谷浩介
  萱野稔人、大竹文雄、広井良典、待鳥聡史(23日)、岩瀬
  大輔、牧原出、神里達博(24日)の9人です。それぞれ短
  い文章ですが、その分だけ各自の主張がよく分かります。脱
  成長論の立場では、水野さんは「成長戦略」が「富の集中戦
  略」でしかないことを批判し、広井さんは経済成長を最優先
  の政策目標にすることはマイナスの方がはるかに大きく「定
  常型社会」をめざすべきだと、それぞれ持論を展開していま
  す。その対極で、脱成長論への通俗的な批判を展開している
  のは萱野さん。「もし経済成長がなければ、高齢者の福祉を
  支えるため現役世代の負担は増す一方なので、現役世代はど
  んどん窮乏化していく」、「『経済成長はもう必要ない』と
  いう意見は、誰かを貧窮化するという犠牲のうえでのみ、成
  り立つ意見なのである」と。    http://bit.ly/19ukmKv
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/ウィキペディア http://bit.ly/19D31Pn

日本の完全失業率と実質国内GDPの推移.jpg
日本の完全失業率と実質国内GDPの推移
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2015年04月03日

●「50年代からある経済成長否定論」(EJ第4008号)

 「成長是か否か」の経済成長論争は、日本では1950年代か
ら起きています。なかでも最も有名なのは、「都留重人VS下村
治」の成長論争です。これが連綿として現在の経済論壇まで続い
ているのです。その論争について、若田部教授の本を参考にご紹
介します。なお、故人の敬称は省略します。
 都留重人は1912年生まれで、非常に裕福な家庭に育ち、旧
制八高(現在の名古屋大学)に進学します。しかし、そこで共産
主義に共鳴したことが発覚し、放校処分を受けてしまいます。
 しかし、家庭が裕福であったので、米国のウィスコンシン州の
ローレンスカレッジに留学し、その後ハーバード大学に編入入学
することができたのです。そして都留は非常に優秀な成績で19
35年に卒業し、大学院に進学します。
 当時のハーバード大学経済学部は黄金時代と呼ばれ、J・A・
シュンペーター、W・レオンチェフ、G・ハーバラーらの超一流
経済学者が教鞭をとっていたのです。教授陣だけではなく、生徒
も凄いのです。そのとき都留と一緒に大学院生として在籍してい
たのが、ポール・A・サムエルソンだったのです。
 都留は極めて成績優秀であり、博士号を取得してそのままハー
バード大学の講師になったのですが、太平洋戦争開戦で1942
年に交換船で日本に帰国したのです。そして、戦時中は外務省嘱
託として活躍するのです。
 終戦後、1947年に社会党の片山哲が首相に就任すると、都
留重人は経済安定本部の総合調整委員会副委員長に就任します。
そして、「第1回経済白書」といわれる「経済実相報告書」の作
成に携わるのです。そのとき、都留の下でこの執筆に参画したの
が大蔵官僚の下村治なのです。
 下村治は都留よりも2歳年上の1910年生まれです。193
4年に東京帝国大学(現在の東京大学)を卒業し、大蔵省に入省
したのですが、経済学部であったため出世できず、戦後は経済安
定本部に配属になっていたのです。なお、経済学は、都留のよう
な輝かしい学習歴はなく、独学で修得したといわれています。そ
の経済安定本部で下村は都留に上司として出会うのです。
 このときの「経済実相報告書」は、終戦直後の高いインフレと
物資不足に悩まされていた経済の状況をどう改善するかが内容と
して求められていたのです。
 下村治は草稿を書いて都留に提出したのですが、都留はこれを
ボツにしてしまうのです。そのときの下村の草稿は現在は残って
いないのですが、若田部教授は他の文章から推測して、次のよう
な内容であったのではないかとしているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在起きている生活水準の低下とインフレの原因は、供給に対
して需要が超過しているからだ。これを調整するには低い生活水
準で我慢するか、あるいは生産性を向上させて供給を増やすしか
ない。労働組合の抵抗を考えると生活水準の引き下げは難しい。
だとしたら、生産性の向上しかない。    ──若田部昌澄著
 『ネオアベノミクスの論点/レジュームチェンジの貫徹で日本
            経済は復活する』/PHP新書973
―――――――――――――――――――――――――――――
 都留重人は、シュンペーターやマルクスの影響を受けた経済学
者です。博士論文のテーマも「景気循環論」だったのです。景気
循環は資本主義の必然であるととらえ、マクロ経済政策による対
策よりも、どちらかというと、経済の構造やその変化を重視した
といわれています。
 それでは、都留重人は終戦後の日本の経済をどのようにしよう
としていたのでしょうか。上久保敏大阪工業大学教授のの研究に
よると、都留は賃金と物価の関係をどうするかが重要であるとし
ていたというのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本は敗戦直後高いインフレと物資不足に悩まされます。政府
は公定価格を定めますが、インフレには勝てずに公定価格の引き
上げが続きます。賃金もその過程で上がりますが、公定価格の上
昇のほうが先行するので、価格と賃金の差にあたる「やみ利潤」
が発生します。都留はこの「やみ利潤」をゼロにして賃金に分配
するのが良いと考えました。  ──若田部昌澄著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 これでわかるように、都留は生活水準の低さを再分配によって
向上させようとしたのです。社会主義政策です。これに対し下村
は、生産性の向上による経済成長によって生活の向上を目指すべ
きと考えたのです。その主張は両者全く相容れなかったのです。
 このように、都留重人と下村治は、後に池田勇人内閣が推進し
た「所得倍増政策」を巡って経済成長について激突するのです。
それは一度や二度ではなく、あらゆる場所で論争が行われたので
す。それは2人だけの論争にとどまらず、通産大臣だった池田勇
人をはじめ、著名な経済学者やエコノミストが参戦し、大いに盛
り上がったのです。これについては来週のEJでご紹介します。
 都留重人は、片山内閣退陣後は、一橋大学教授、学長などを歴
任し、1975年〜85年には朝日新聞の論説顧問を務めている
のです。これには既出の笠信太郎が深くかかわっています。当時
朝日新聞は、資本主義のアンチテーゼを唱えており、笠信太郎や
マルクス経済学者の大内兵衛などが影響を与えていたのです。そ
れに都留重人も加わったことになります。
 もうひとつ都留重人についてどうしても述べておかなければな
らないことがあります。それは、都留が晩年、公害問題にシフト
し、「公害研究」という雑誌の刊行に携わったことです。これは
経済成長思想とは真っ向から対立する考え方であり、現在の原発
を再稼働して使い続けなければならないのなら、経済成長などは
必要ないという考え方につなにがってくるのです。
 この都留重人の弟子が伊東光晴氏であり、伊東氏は『アベノミ
クス批判/四本の矢を折る』(岩波書店)を上梓し、安倍政権の
成長批判を展開しています。── [検証!アベノミクス/90]

≪画像および関連情報≫
 ●見透かされた首相の限界/GOXI
  ―――――――――――――――――――――――――――
  東日本大震災の復興財源に関連し、国会で「復旧・復興と財
  政再建までやれれば政治家として本望だ」と答弁した菅直人
  首相をみてふと半世紀前の池田勇人元首相(昭和35〜39
  年在職)のある言葉を思い出した。池田元首相といえば10
  年間で国民経済の規模を実質価値で倍増する目標の下に政策
  を総動員する国民所得倍増計画を掲げたことで知られる。今
  でいう成長戦略のようなものだ。池田元首相が、その看板政
  策につながる月給2倍論を最初に訴えた際、高名な経済学者
  の都留重人氏らから批判を浴びた。都留氏は月給が2倍にな
  らなければ「挂冠(けいかん)(=官職を辞める)」するよ
  う要求。これに対して池田元首相はこう反論した。「挂冠ど
  ころか、一生をかけている政治家をさえ辞めるくらいの決意
  をもっている」。池田元首相がここまで大見えを切った背景
  には、ブレーンのエコノミスト、下村治氏による理論的な裏
  付けがあった。日本経済は終戦後の混乱期を脱して勃興期に
  向かうというのが下村理論の基本認識。一方の都留氏ら名だ
  たる経済論客は高度成長自体に懐疑的だった。結局、その後
  の経済は所得倍増計画以上の高い成長を遂げ、日本は経済大
  国へと突き進んだ。そんな経済史の一場面と比べたとき「政
  治家の本望」と語る菅首相の言葉からは池田元首相ほどの決
  意も自信も感じ取れない。     http://bit.ly/1CHz4tf
  ―――――――――――――――――――――――――――

都留重人と下村治.jpg
都留 重人と下村 治
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2015年04月06日

●「都留VS下村/成長と格差の論争」(EJ第4009号)

 時の有力経済学者の都留重人と大蔵省エコノミストの下村治の
論争は「成長と格差論争」といわれ、当時大きな話題になったの
です。なかでも、『朝日ジャーナル』誌上で展開された論争は有
名であり、当時通産大臣だった池田勇人まで参戦し、都留をはじ
めとする当時の著名な経済学者がそれに反論するというかたちで
派手に論争が展開されたのです。
 それでは、何が論点だったのでしょうか。
 当時下村治は、日本には強い潜在能力があり、それを発揮させ
れば、日本経済は2桁台の高度成長を十分に成し遂げることがで
きると主張していたのです。
 これに対し、都留は理論的支柱になっている下村理論を批判し
それを政策に取り入れ、所得倍増を推進しようとする池田勇人も
批判の対象にしたのです。都留は、「そもそも所得という概念が
曖昧である」として、次のように主張しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国民所得という網では覆い切れないプラス要素とマイナス要素
がある。都市の空気の汚濁など、国民生活の立場からいって大変
なマイナスであるけれども、国民所得計算には記録されるわけで
はない。ムリにも所得倍増を実現しようとして、積極的な刺激策
をとれば、インフレにもなりかねない。手ごろのインフレは、債
務者利潤を生んでメーカーなどにとって経理がやりやすくみえる
から、その誘惑もあるだろう。しかし、インフレだけは、やめて
もらわねばならぬ。
 それは、国内で一部の階層を特別に痛めつけるだけでなく、対
外的には日本の通貨である円の価値を弱くし、かりにも平価切下
げをしなければならぬようになれば、同じだけの輸入を確保する
ために、余計に多くの輸出をしなければならないことになるから
である。                 ──若田部昌澄著
 『ネオアベノミクスの論点/レジュームチェンジの貫徹で日本
            経済は復活する』/PHP新書973
―――――――――――――――――――――――――――――
 都留は、インフレを恐れ、それによって円安になることに疑念
を持っています。当時の経済学者は、第1次世界大戦後のドイツ
のハイパーインフレの怖さを知っているだけに、インフレには過
敏に反応したのです。
 そのうえで、都留は、所得倍増よりも各階層のあいだの所得格
差を縮めることの方がもっと重要であるとして、次のように論じ
ているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の経済は今まで通りに独占的大企業を強め、中小企業の企
業主や労働者を絞りあげる方向に進んでいくだろう。生産性の強
みが比較的おそい農業も、おのずから取り残されていくだろう。
こうした格差をちぢめるのには、強力な変革の施策を必要とする
ものであり、それを明示することこそが、現代の課題なのだ。
 こうした点をつきつめて考えていくと所得倍増をはかる前に、
あるいは少なくとも所得倍増をはかるのと同時にしなければなら
ないことが、いかに多いかを私たちは知ることができるだろう。
政治家諸公はもとよりそれを承知で、それがいかに困難であるか
を知っているからこそ、まずは所得倍増で、うるおいを次第にし
みとおらせようというのであるかもしれない。
               ──若田部昌澄著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 都留の発言の最後の部分「まずは所得倍増で、うるおいを次第
にしみとおらせる」というのは、「トリクルダウン」と同じこと
をいっているのです。現在のアベノミクス批判とあまり変わらな
い論争が当時展開されていたことがわかります。
 下村治は、経済がうまくいっているときはできるだけ干渉しな
いようにすべきと考えていたのですが、都留重人は資本主義は放
置すると、資本家と労働者の格差だけでなく、大企業と中小企業
の産業間の格差が広がり、何らかの計画と統制を加える必要があ
るとの社会主義的政策の重要性を主張したのです。
 これに対して池田勇人は、都留の意見に次のように真っ向から
反論しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本経済は「経済勃興期」に入っている。企業家は合理化、近
代化意欲に燃えており、質の高い大量の労働力が、きわめて不満
足な就業機会しか与えられていない。もっとも、自由放任で済ま
されるものではなく、高い需要圧力が維持されるかどうかは、今
日、政府の政策いかんにかかる問題である。経済成長は外部から
与えられる現象ではない。我々自身の決意と行動によって創造さ
れるものである。われわれの政治家としての責務は、国民の創造
力を刺激し、これを強化し、それを自由に発揮させる環境を形成
しつつ、これを方向付けることである。
               ──若田部昌澄著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 「都留重人VS下村治」の論争では、下村と池田は役割分担を
して対応しており、発言としては池田の発言の方が多く残ってい
ます。格差拡大に関する池田の都留に対する反論です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 所得格差縮小の問題はもとより大切である。だが、「乏しきを
うれえず、均しからざるをうれえる」式の戦時非常経済意識ない
しは停滞的封建経済的意識が底流をなすかの考え方には賛成しか
ねる。経済を拡大し、総生産を増加していく過程において、格差
の縮小をはかるべきであろう。 ──若田部昌澄著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 最後に都留重人は、首相になった池田勇人に詰め寄ったそうで
す。「もし10年で所得倍増ができなかったどうするか」と。こ
れに対し池田はこう答えています。「うまくいかなければ首相辞
任どころか、政治家を辞める決意を持っている」と。所得倍増は
見事に実現したのです。   ─ [検証!アベノミクス/91]

≪画像および関連情報≫
 ●「安倍成長戦略の誤謬」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  安倍首相の言うように、当時、池田勇人首相の経済指南役で
  「所得倍増計画」の立案者であった下村治氏(大蔵省を経て
  日本開発銀行理事などを歴任したエコノミスト)と、経済学
  界の大御所である都留重人氏との間で、「高度成長の是非」
  を巡り激烈な議論があったことは事実である。だが、それは
  「より高い成長率か、それともより低い成長率か」を巡る議
  論であって、「成長か、具体的な格差是正策か」の議論では
  なかった。例えて言うなら、下村氏が日本経済という車には
  潜在力があり、時速80キロの速度を出すことが可能だと主
  張したのに対し、都留重人氏、大来佐武郎氏、吉野俊彦氏と
  いった「安定派」と呼ばれるエコノミストたちは、そんな速
  度を出したら、車のエンジンが壊れてしまう、安全運転がで
  きないと主張したのである。実際のところ下村氏は雑誌「エ
  コノミスト」に「安全運転につき、お静かに」という論文を
  書いて、安定派に反論している。格差の是正、つまり果実を
  できるだけ広く公平に分配するには、果実そのものがなくて
  はならない。だが、当時はその果実が乏しかった。政府は毎
  年米の作付けを一喜一憂して注目しており、しばしば米不足
  が生じたし、外貨は政府の一手管理下にあり、自由に物を輸
  入することすらできなかった。外貨準備は20億ドル〜30
  億ドルの間を往来し、ちょっと設備投資が盛り上がると、た
  ちまち底をついた。つまり果実そのものが不足する貧しい経
  済だった。           http://amba.to/1am79EL
  ―――――――――――――――――――――――――――

演説する池田勇人元首相.jpg
演説する池田 勇人元首相
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2015年04月07日

●「都留の遺志を引き継ぎ成長を批判」(EJ第4010号)

 経済学の論争というものは、わかったようで、わからないもの
です。「都留重人VS下村治」の論争でも、日本経済は潜在能力
があるので、2桁の高度成長は可能であると主張する下村や池田
に対し、都留重人をはじめとする当時一流の経済学者は、せいぜ
い5〜6%の安定成長が限度であり、それ以上を目指すと、日本
経済のエンジンは壊れてしまうと主張したのです。
 結果として、下村/池田の予測は的中し、日本経済は高度成長
し、池田勇人首相が経済政策として推進した「所得倍増」は達成
されたのです。下村/池田が勝利したかたちになっていますが、
そうだからといって、下村の経済学が都留のそれに勝ったとはい
えないのです。なぜなら経済学は「こうすればこうなる」という
ように明確な答えの出せる学問ではないからです。
 経営・金融のコンサルタントで、エコノミストとして実体経済
をつぶさに観察してきている中原圭介氏は、孫正義氏が師匠と仰
いでいる有名な経営学者から次のようにいわれたそうです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 世界一流の経済学者の説に対し、世界一流の経済学者の中から
まったく反対の説が出るというのは、つくづく不思議ですね。貴
兄のように現実の経済を見つめてこられた方の意見を、経済“学
者”はもっともっと尊重してほしいものです。
          ──中原圭介氏  http://bit.ly/19NfDnb
―――――――――――――――――――――――――――――
 アベノミクスでも、それぞれの経済学者や識者によって意見が
完全に分かれており、まったく意見がまとまっていないのです。
これでは、経済学に対する不信感さえ生まれてしまいます。
 中原氏は、「経済学は数学とか物理学と違って『科学』ではな
く、複雑な数式などが登場するものの、それは経済学の怪しい出
自を隠すための偽装でしかなく、社会科学と呼ぶのも躊躇する」
といっています。ちなみに、中原氏のいう「孫正義氏が師匠と仰
ぐ経営学者」とは、おそらく経営学者の野田一夫氏のことである
と思います。
 現在、アベノミクスの反対者の先頭に立っているのは、京都大
学名誉教授の伊東光晴氏です。伊東教授の反対論については、1
月21日のEJ第3957号からEJ第3959号にかけて取り
上げています。
 実は伊東光晴氏は、都留重人一橋大学名誉教授の弟子であり、
現代においても都留名誉教授の所論を受け継いでいる経済学者で
す。そこで、伊東教授の著作『アベノミクス批判/四本の矢を折
る』(岩波書店)のなかから、成長論争「都留重人VS下村治」
関連の記述をひろってみると、次の2つが見つかったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
◎当時の日本の適正な経済成長率を高く推計した人の代表は池田
勇人首相のブレーンであった下村治氏で、9ないし10%である
と主張し、安定成長論者といわれる多くの人たちは6%程度と推
計した。都留重人一橋大学名誉教授もその一人であった。氏の推
計は6%程度で、安定成長論者の中ではやや高めである。下村氏
には推計上の誤りがあり、それを正すと下村氏のモデルを認めて
も6・5%ないし7%の間になっている。
◎戟後の日本経済の歴史の中で高い経済成長を示した1960年
代、これを勃興期であると予言したのは、下村治氏の卓見であっ
た。鉄が鉄を生むといわれた重化学工業という、経済波及の大き
な産業の勃興であった。インフラ整備のために建設投資が次から
次へと起こった。このような成長期は、人の一生のうち青年期が
一度であるように、国の経済発展段階の中では再び起こることは
ないのかもしれない。            ──伊東光晴著
      『アベノミクス批判/4本の矢を折る』/岩波書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 伊東教授は、1960年代の経済成長を多くの経済学者が5〜
6%と予測するなかで、下村氏が1960年代は「経済勃興期」
であることを指摘し、名だたる経済学者よりも高い成長率を予測
したことは評価しています。実際に1960年代は、半分以上が
10%以上成長しており、平均すると約9%の経済成長を続けた
からです。まさに経済勃興期であったからです。
 伊東教授は、ハロッドの成長率経済学から「適正経済成長率」
の概念をもってきて、そうなった原因は、適正な経済成長率が現
実のそれを上回っていたからであると説明しています。それは有
効需要の増加が適正なものより大きいことを意味し、そのために
操業度は上がり、拡大への力がより強まり続けることを意味して
います。逆に現実経済成長率が適正なそれを下回ると、操業度は
下がり、たとえ成長していても、投資は減少して、不況感が広が
ると指摘しています。
 つまり、適正な経済成長率の上方と下方の両側に不安定なゾー
ンが広がっているわけで、そこは政府の政策介入が必要であるこ
とを示しているというのです。市場にすべてを任せればよいとい
う米国の市場原理主義経済学の考え方を否定しています。
 また、伊東教授は、安倍首相が成長戦略の説明などで「長年続
いた不況」という言葉を取り上げ、これは事実に反するとして、
次のように反論しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1990年代の不況は2002年ごろから上昇に転じ、リーマ
ン・ショックで世界経済が大きな不況に突入するまで5年間にわ
たる好況を経験しており、通常は「5年に及ぶ長い好況」といわ
れている。安倍首相のいう長い不況は、3度の景気後退局面を含
む90年代から2002年への10年あまりについていえること
である。            ──伊東光晴著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは言葉の問題であり、安倍首相は「デフレ」というところ
を「不況」といっただけのことです。デフレの定義も学者によっ
て違うようであり、ますます経済学はどのようにでもいえる学問
(?)になってしまいます。 ─ [検証!アベノミクス/92]

≪画像および関連情報≫
 ●「デフレの克服/我々の挑戦」/黒田東彦氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本では、これまで15年に渡るデフレが続いてきました。
  例えば、東京の地下鉄の初乗り運賃は、160円(1・6ド
  ル)で、95年から変わっていません。NYの地下鉄の運賃
  は、この間、1・5ドルから2・5ドルに上昇しました。公
  共料金は一般に値下げされにくいので、東京の地下鉄料金は
  下がりもしませんでしたが、日本の物価全体としては、長期
  間にわたって緩やかに下落しました。このように日本の「デ
  フレ」の特徴は、緩やかだが、しつこいということです。こ
  れは、大恐慌時代の「デフレ」とは様相が大きく異なる現象
  です。大恐慌時代の米国でのデフレをみると、短期間に大き
  な物価下落が起こりました。1931年から1932年の2
  年間は、年間10%近い激しい物価下落に見舞われましたが
  デフレが続いていたのは4年間だけでした。これに対して、
  日本の消費者物価は、この15年間(1998年度〜201
  2年度)で、4・1%下落しました。年平均にすれば下落率
  は0・3%にすぎません。ただし、それは非常にしつこく続
  くものでした。日本の若者は、生まれた時から、「物価は変
  わらないか、下がるもの」と思って生活してきたことになり
  ます。小幅であっても長期にわたって物価が下がり続けたこ
  とは、日本経済から活力を奪いました。デフレのもとでは、
  現金や預金を保有していることが、相対的に有利な投資にな
  ります。             http://bit.ly/1I9onD8
  ―――――――――――――――――――――――――――

アベノミクスを批判する伊東光晴教授.jpg
アベノミクスを批判する伊東 光晴教授
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2015年04月08日

●「官邸の圧力は真に存在するか否か」(EJ第4011号)

 今回のEJのテーマは、安倍政権の経済政策であるアベノミク
スを取り上げて論じています。既に指摘しているように、アベノ
ミクスにはいろいろなリスクはあるものの、長く続いているデフ
レから日本経済を脱却させるためには、おそらくこの方法しかな
いと考えられます。
 先日、2014年10〜12月期のGDPの第2次速報値が公
表されましたが、これにより2014年の経済成長率が確定して
います。それによると、実質成長率はゼロであったものの、名目
成長率は1・6%のプラス成長だったのです。
 注目すべきは、国内生産ベースの物価をあらわす「GDPデフ
レーター」が1・7%のプラスになったことです。これは、19
97年以来17年ぶりのことで、デフレ脱却に一歩近づいたこと
を意味しています。なぜなら、GDPデフレ−ターが0よりも大
きいということは、それがインフレであることをあらわすからで
す。それに景気の先行きも悪くないのです。政府は3月の月例経
済報告で生産や輸出が上向いているとして、景気判断を上方修正
しています。
 このように、安倍政権の経済政策は今のところ順調な歩みを示
していますが、安倍政権には大きな問題があるのです。なかでも
最大の問題は「安全保障法制」です。安倍政権の悲願は憲法改正
ですが、その第一段階としての安保法制は、政権として今国会で
絶対に成立させる必要があるのです。安保法制を安倍政権が成立
させるためには、次の4つのことが必要になります。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.アベノミクスが成功し、景気が回復すること
    2.連立を組んでいる公明党と合意に達すること
    3.国会で野党の追及をかわすことができること
    4.テレビが安保法制を批判的に報道しないこと
―――――――――――――――――――――――――――――
 結論からいうと、安倍政権はこれら4つをほとんどクリアして
いるといえます。ひとつずつ確認していきます。
 「1」に関しては上記で述べたように、今のところアベノミク
スは成功しつつあります。これによって安倍政権の支持率は高ど
まりしており、選挙でも負けない体制ができつつあります。支持
率の状況によっては、もう一度衆議院を解散して信を問う可能性
すらあります。景気回復に成功した政権は強いのです。
 「2」に関しては、公明党との合意は成立しており、既にクリ
アしています。公明党にブレーキ役を期待した国民は多かったと
思いますが、きわめてあっさりと合意に達しているのです。
 「3」に関しては、何しろ野党第一党の民主党の党勢が衰えて
おり、いかんせん多勢に無勢で、どのように抵抗しても安保法制
は与党が閣議決定をした内容で成立する可能性が高いのです。
 安倍政権にとって最大の問題点は「4」です。本来であれば、
野党が多勢に無勢なのですから、そこはメディア──とくにテレ
ビが社会の木鐸として積極的にこの問題を取り上げ、メディアと
しての本来の使命を果す必要があるのですが、すべてのメディア
が完全に政権に取り込まれてしまっているように見えます。
 こういうときに、古賀茂明氏のテレビ朝日/報道ステーション
での「反乱」があったのです。2015年3月27日、元経産官
僚で報道ステーションのコメンテーターの古賀茂明氏が、ニュー
スと関係のない話題でキャスターの古館伊知郎氏と激論になり、
舞台裏の事情が透けて見えてしまったあの事件です。
 果して古賀氏のいうように、テレビ局への官邸の圧力があった
かどうかです。新聞は断片的にしか書いていないので、当日報道
ステーションを見ていない人のために、その部分のやり取りを文
章で確認していただきたいと思います。省略なしで全文を読むこ
とができます。実は、動画もたくさん出ていたのですが、すべて
テレビ朝日から著作権違反の申し立てがあったとして削除されて
しまっているからです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎古舘伊知郎氏と古賀茂明氏の「報道ステーション」バトル
       ──「ちきゅう座」/ http://bit.ly/1NPbIp3
―――――――――――――――――――――――――――――
 核心部分を抜き出してみます。サウジの後ろ盾になっている米
国の問題に関して、古館キャスターから意見を求められた古賀氏
は、いきなり次のように話しはじめたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 古賀:ちょっと、そのお話する前に、あの私、今日が最後とい
うことでですね、テレビ朝日の早河(洋)会長とか、古舘プロジ
ェクトの佐藤(孝)会長のご意向でですね、私はこれがもう最後
ということなんですが。これまで非常に多くの方から激励を受け
まして。一方で、菅官房長官をはじめですね、官邸の皆さんには
ものすごいバッシングを受けてきましたけれども。まあ、それを
上回る皆さんの応援のおかげでですね、非常に楽しくやらせてい
ただいたということで、心からお礼を申し上げたいなというふう
に思います。本当にありがとうございました。(頭を下げる)
―――――――――――――――――――――――――――――
 このなかで一番重要なのは「菅官房長官をはじめですね、官邸
の皆さんにはものすごいバッシングを受けてきましたけれども」
の部分です。
 これによると、いかにも菅官房長官や官邸のスタッフが、古賀
氏に対し、さまざまなバッシングをしたというように読み取れま
すが、それは果して本当のことかどうかです。
 これに対して菅官房長官は、30日の記者会見で「事実無根」
と語り、「公共の電波を使った行動として極めて不適切である」
と不快感を示しています。そして「放送法」の関係があるので、
しばらく対応を見守りたいといったのです。
 この一言でテレビ局は大騒ぎになったのです。これについては
看過できない問題であるので、明日も続けて取り上げます。
              ─ [検証!アベノミクス/93]

≪画像および関連情報≫
 ●古賀茂明氏降板問題/さまざまな意見
  ―――――――――――――――――――――――――――
  基本的にこの古賀さんという人は重度の陰謀論者で、理論的
  な人にあんまり受け入れられない話ばかりしてるなと思うけ
  ど、はっきり言って安部総理の普段からの言動を考えたらこ
  れくらいの無茶苦茶をしないと打撃を与えられないのは明ら
  かなわけで、品行方正に政権運営してなかった自業自得とい
  うことで痛快に感じるね。品格や知性、教養がこういう人々
  に求められてるのは無い物ねだりの貧乏人のわがままという
  のではなく、限度のない行動によって一番嫌な思いをするの
  は自分ですよという自戒なんだよね。神の決めたこの世の摂
  理によって殺すなとか盗むなというのが秩序付けられている
  のも、殺さないことを通じて自分が殺されないようにすると
  いうセルフディフェンスなのと同じことだ。報道は、事実を
  淡々と流せばいいとかばかみたいな批判をする奴がまたウジ
  虫みたいに湧いているけど、そう思うんならもうテレビ見る
  のやめなよとしか思えないんだよな。事実だけ見たかったら
  事実しか載ってないメディアを見ればいいんだよ。しかも真
  実や事実をそのまま伝えろとか言ってる奴って、自分でそれ
  が本当かどうか考える能力がないだけなんだろ?そんなにプ
  レーンなファクトが知りたかったら自分で取材しろとw。報
  道が事実や真実でなかった場合に不都合を感じる人って、そ
  れが嘘だった場合に私は騙されるんですと大声で主張してる
  のと一緒なんだよね。       http://bit.ly/1MPp9by
  ―――――――――――――――――――――――――――

3月27日の報道ステーション.jpg
3月27日の報道ステーション
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2015年04月09日

●「古賀茂明氏を批判する言説が増加」(EJ第4012号)

 テレビ朝日の「報道ステーション」での古賀茂明氏の爆弾発言
は、一部テレビ、各週刊誌、夕刊紙などで大々的に取り上げられ
大きな騒動になっています。
 この騒ぎというか事件について、ネットなどでの主張は明確に
2つに分かれています。古賀氏の側に立ち、官邸の圧力に屈した
としてテレビ朝日側を批判する言説と、公共の電波を使って個人
的な恨みを吐露するのはいかがなものかという古賀茂明氏の発言
を一種の電波ジャックとして批判する言説です。
 当初は前者が多かったのですが、後者もここにきて勢いを増し
ています。その是非はともかく、後者の発言をいくつかをご紹介
することにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎「古賀茂明という人はテレビで発言する機会を与えられてい
  ることの責任と義務をまったく理解していない」。
    ──『ニューズウイーク日本版』元編集長の竹田圭吾氏
 ◎「公共の電波で自分の見解を伝えるという貴重な機会を、個
  人的な恨みの吐露に使っている」     ──江川紹子氏
 ◎「テレビ局に対し、政治家が出演者をおろせなどということ
  は絶対ない(あったら大事件になる)。彼は政治とメディア
  の関係を誤解しているようだが、報ステのような番組に政治
  家から圧力がかかることはありえない」。 ──池田信夫氏
 ◎安倍政権の支持率が50%を超えているような状況で「アイ
  ム・ノット・アベ」と国民が唱えれば人質が返ってくるなん
  てアホなことを言う出演者がいると、視聴者の半分を敵に回
  して視聴率に響くからです。       ──辛坊政郎氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 古賀氏を批判する側の人たちのなかには、何とかしてこの事件
を「古賀対古館の口論」とか「テレ朝の内紛」のレベルに矮小化
して終わらせたいと意図して発言している人がいます。しかし、
この事件は、そのような単純な問題ではないと考えます。権力側
がメディアに対して本当に圧力をかけているか否かが問われてい
るのです。
 新聞と違ってテレビ局は「放送法」によって縛られています。
もし、放送法違反ということになると、テレビ局に対して「放送
免許剥奪」も十分考えられます。「放送法」第4条は、次のよう
に定められています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 放送法第4条:放送事業者は国内放送及び内外放送(以下「国
内放送等」という)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の
定めるところによらなければならない。
  1.公安及び善良な風俗を害しないこと
  2.政治的に公平であること
  3.報道は事実をまげないですること
  4.意見が対立している問題については、できるだけ多くの
    角度から論点を明らかにすること
―――――――――――――――――――――――――――――
 上記放送法第4条第3項には「報道は事実をまげないでするこ
と」という規定があります。つまり、ウソの報道をしてはいけな
いということです。
 ところが古賀氏は、報道ステーションの生放送で、「菅官房長
官をはじめ、官邸の皆さんにはものすごいバッシングを受けた」
と発言しています。もし、これが事実でないならば、テレビ朝日
は放送法第4条第3項に違反していることになります。テレ朝幹
部が上を下への大騒ぎになっても不思議ではないのです。
 これについて、元大蔵省官僚の高橋洋一氏は、「夕刊フジ」の
コラムで次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 おそらく古賀氏は何らかの根拠があるからこそ、あのような行
動に出たのだと思わざるを得ない。でなければ放送法違反になっ
てしまう。ただ、事実は古賀氏しか知らず、本稿執筆時にそれは
明らかになっていないので、一般論しかいえない。
 仮に筆者が古賀氏の立場で、圧力の事実を知っていたとしたら
テレビ番組ではコメンテーターの職務を全うして穏便に終わらせ
他のメディアでぶちまけるだろう。その意味で、古賀氏の行動に
はびっくりした。筆者は元キャリア官僚であるが、実はキャリア
官僚として数%に過ぎない官邸勤務をしたことがある。そのとき
の経験から言えば、官邸の圧力というのは考えにくい。
                 ──2015年4月2日付
     『2015「日本」の解き方/高橋洋一』/夕刊フジ
―――――――――――――――――――――――――――――
 テレビに限らず、政府筋からのメディアへの干渉は少なからず
あることは事実です。EJでは2010年4月19日から「ジャ
ーナリズム論」のタイトルで68回にわたって書いており、さま
ざまな圧力についても触れています。
 しかし、そのときは、官庁、とくに財務省からの圧力であって
官邸からストレートの圧力というのは、高橋洋一氏もいうように
一般論としては、考えられないことです。
 しかし、安倍政権、それも2012年末からの第2次安倍政権
は、メディア対策には莫大な予算を用意して、露骨なほど力を入
れていることは確かです。そうであっても、菅氏のような官房長
官の職にある人が、特定のキャスターを名指しして、批判するこ
とは考えにくいことです。
 この事件で間違えてはならないことは、古賀氏がいいたかった
ことは、自身の番組降板についての恨みつらみではなく、官邸か
らのバッシングの方であるということです。これは、昨日のEJ
で示した古館氏とのやり取りをすべてを読めば明らかです。
 しかし、当然のことながら官邸としては、バッシングとしては
取り上げて欲しくないのです。そのために、官邸としては突然の
降板に対する古賀氏の怒りの暴走というストーリーにしようとし
ているのです。       ─ [検証!アベノミクス/94]

≪画像および関連情報≫
 ●古賀茂明氏パッシング事件/小坂正則の個人ブログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本のマスコミ、とりわけテレビ局の報道の自由が問われる
  今回の「報道ステーション問題」について、週刊誌は実に各
  紙がにぎやかに取り扱っています。その全てを見たわけでは
  ありませんが、週刊文春は、実に官邸寄りの「『報道ステー
  ション』電波ジャック古賀茂明vs古舘伊知郎内ゲバの全真
  相」というタイトルで、「古賀茂明氏が放送という公共の電
  波をハイジャックして自分の言いたい放題を言った」と。し
  かもその内容が、「ありもしない事実をでっち上げた被害妄
  想」と切り捨てた内容でした。しかし、これは想定の範囲で
  す。そして、週刊プレイボーイは「報道ステーション降板で
  渦中の古賀茂明氏アイアムノットアベ発言に後悔ない」と事
  実を淡々と伝えています。そして彼の今回の目的は「フォー
  ラム4」という政治勢力を作ることにあるというようなわり
  と好意的な内容でした。だいたい週刊誌は新潮と文春は別と
  して政権べったりでの記事では売れないので、そこそこ批判
  はする方が売れるとして、割と古賀さんに好意的な書き方で
  す。意外だったのは新潮が割とまともでした。もちろん古賀
  氏を批判していますが、「官邸の圧力はあった」と書いてま
  すし、「テレビ各局が官邸の言いなりになっている」と、テ
  レビを批判しているのです。私は新潮を見直しました。
                   http://bit.ly/1MWARBo
  ―――――――――――――――――――――――――――

渦中の古賀茂明氏.jpg
渦中の古賀 茂明氏
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2015年04月10日

●「テレビ局への官邸圧力はあったか」(EJ第4013号)

 官邸のメディアへの圧力は本当にあるのでしようか。事実関係
を整理してお伝えします。
 2015年1月23日(金)、この日、報道ステーションに出
演した古賀茂明氏は、イスラム国による後藤健二氏と湯川遥菜氏
の人質事件に関連して、安倍首相のエジプトとイスラエルでの演
説を批判したのです。
 この時点では、まだ、湯川遥菜氏が殺害されたというニュース
は、入ってきていなかったのです。それがもたらされたのは1月
24日午後11時頃のことです。後藤健二氏が、亡くなった湯川
氏の写真を持って、ヨルダンに囚われている死刑囚の解放を求め
るあの例の動画が公開されたのです。
 エジプトでの演説は、日本政府は後から「あくまで人道支援で
ある」ことを強調しましたが、内閣官房副長官補として安全保障
を担当したことのある柳澤協二氏によると、演説には間違いなく
次の文言が入っていたそうです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ISIL(イスラム国)がもたらす脅威を少しでも食い止める
 ため、ISILと戦う周辺各国に支援を約束する。
              ──エジプトでの安倍首相の演説
―――――――――――――――――――――――――――――
 さらに安倍首相のイスラエルでの演説は首脳会談なので、当然
バックにはイスラエルと日本の国旗がありますが、カメラで写す
角度によっては、安倍首相はイスラエルの国旗を背に話している
ようにも見えるのです。実際にそういう動画が、ユーチューブに
よって世界中に流されているのです。
 これについて、日本女子大の臼杵陽教授(中東現代史)は次の
ように指摘しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 安倍さんが一番まずかったのは、イスラエルで会見をやったこ
と。安倍さんの会見はユーチューブにアップされ、全世界にばら
まかれたわけですが、日本の旗とイスラエルの旗(ユダヤ民族の
象徴のダビデの星)がバックだった。
 「人道的な支援で軍事的に加担しているわけではない」と釈明
しましたが、アラブ人が見れば、「何だ、イスラエルと日本は同
盟を組んだのか」と誤解をされる。政治的に最悪でした。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1月23日の報道ステーションで古賀氏が安倍首相を批判した
のは、湯川氏と後藤氏がイスラム国の人質になっていることを知
りながら、わざわざ中東に出かけて行って、誤解を招くような演
説をやったからです。
 ちょうど、そのとき後藤氏の命が危ないことを知った世界中の
人々が、何とか後藤氏を救おうと、ネットを通じて「アイ・アム
・ケンジ」というプラカードを持つ写真や動画を交流サイトに投
稿する動きが広がっていたのです。
 古賀氏が報道ステーションに出演した1月23日、番組の放送
中に菅官房長官の秘書官から、報道ステーションの中村直樹編集
長に抗議の電話がかかってきたのです。しかし、電話がうまくつ
ながらず、その秘書官によるショートメールが入ったのです。そ
のメールには次のように書かれていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
          古賀は万死に値する
―――――――――――――――――――――――――――――
 その後、テレビ朝日は大騒ぎになるのです。このメールを見た
篠塚局長と藤岡政治部長は、チーフプロデューサー(CP)を呼
びつけて厳重に注意したり、番組終了後の反省会でも「今後官邸
から抗議が来るようになるな」という声も聞かれたのです。
 どうしてこのような事態になったのでしょうか。そのとき官邸
で起きていたことについて、ある官邸スタッフは、次のように明
かしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 あの夜は、ある秘書官が菅さんと一緒に報ステを見ていた。す
ると、菅さんが古賀さんの発言に怒り始めたそうです。横にいた
秘書官は、すぐに抗議しなきゃいけない。関係者に片っ端から連
絡したけれど、つながらない。とにかく放送中に菅さんの目の前
で連絡しようとして、最後は編集長にショートメール送ったんで
しょう。           ──『週刊現代』4/18日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、1月23日に「古賀対報道ステーション」の第1ラウ
ンドがあったわけです。その後、菅官房長官は、このことに関連
して公式記者会見で次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 まず、政府としては憲法が保障する報道・表現の自由は、最大
限尊重されなければならないと考えています。実際我が国におい
ては、あらゆる政策について、国会や言論界で自由闊達な意見の
表明が行われているのではないでしょうか。
 つい先日、ある方が、テレビに出て、ISILへの対応につい
て、政府を批判しておられましたが、あたかも政府が人命に危険
が迫るようなことをしたと、見てきたような、全く事実と異なる
ことを、テレビ局で堂々と延々と発言していました。そういうこ
とを見ても、日本はまさに自由がしっかりと保障されているので
はないでしょうか。そのなかには、はき違えというようなものも
あるだろうと思います。    ──菅官房長会の記者会見要旨
―――――――――――――――――――――――――――――
 ある方と名前こそいわないものの、菅官房長官は明らかに古賀
氏を批判しています。そして、そんなことは「事実と異なる」と
全面否定です。さらに、菅官房長官は、その後で行われた「オフ
レコ会談」でも古賀氏の報ステでの発言を批判しているのです。
そこでは放送法をはっきりと口にしているのです。これはテレビ
朝日への牽制というか、脅しそのものです。
             ── [検証!アベノミクス/95]

≪画像および関連情報≫
 ●古賀茂明氏へのインタビュー/2015年2月2日
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ──あの発言が出た直後から、大変な反響だったと聞きまし
  たよ。官邸の秘書官筋からテレビ朝日の上層部に抗議の電話
  が入り、大騒ぎになったとか。古賀さん自身には何かありま
  したか?
  古賀:局に対してはいろいろな声があったようですが、僕に
  は直接ありません。でも、誰かが声を上げて、「これはおか
  しい」と言わなければ、太平洋戦争と同じ状況になってしま
  う。だから、注目度が高い番組に出た際、考え抜いて発言し
  たわけで、反論は予想通りですし、むしろ反響の大きさに驚
  いているくらいです。
  ――戦前と同じ状況というのは、ついに日本も米国と一緒に
  泥沼のテロとの戦いに引きずり込まれてしまった。キッカケ
  は安倍首相の軽率としか思えない中東歴訪と、イスラム国と
  戦う国への2億ドル支援表明です。多くの日本人が不安を抱
  えているのに声に出せない。そんな状況ということですか?
  古賀:今度の人質事件では、いろいろな報道がされていまし
  た。でも、必ず最後の方は「テロは許しがたい行為だ」「い
  まは一致団結して、安倍さんの戦いを支持すべきだ」という
  ところに帰結してしまうんですね。そうなると、あらゆる議
  論が封じ込まれてしまう。今は戦前のように治安維持法もな
  いし特高警察もいませんが、安倍政権のテロとの戦いに異論
  を挟むのは非国民だ、みたいな雰囲気が醸成されつつある。
  http://bit.ly/1BPeLFI
  ―――――――――――――――――――――――――――

記者会見をする菅官房長官.jpg
記者会見をする菅官房長官
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2015年04月13日

●「オフレコ懇談にて何が話されたか」(EJ第4014号)

 今のところ、アベノミクスが好調に推移していることで、安倍
政権は政権維持に自信を深めています。経済が好転してしまうと
もはや野党には攻め口はなく、自民党に少々の不祥事が続いても
支持率は下がらないのです。
 しかし、こういう場合、政権にとって一番怖いのがメディアな
のです。とくに「たかがコメンテーターごとき」といいますが、
人気と実績があり、説得力のあるコメンテーターがテレビに出演
して本当のことを喋られると、政権はダメージを受けます。
 民主党政権の小沢一郎の陸山会事件で、もともと検察のリーク
によるデタラメな報道ではあったものの、長期間やられると本人
の政治生命を奪ってしまう力があるのです。もっとも陸山会事件
の場合、味方であるはずの民主党自身が小沢を攻撃する側に回っ
たので民主党の残党に大きな責任がありますが、メディアは間違
っていたことがわかった今でも基本的には謝罪しないのです。
 安倍政権は今やオリンピックの行われる2020年までの長期
政権を狙っています。きっともう一回衆議院解散を行い、足元を
固めて、オリンピックを仕切るはずです。そのためには、メディ
アのコントロールが必要なのです。政治とカネの不祥事が起きて
も、メディアが報道しなければ、それを国民の目から隠すことが
できるからです。
 古賀茂明氏のテレビでのクーデターへの対応も明らかに官邸が
仕掛けているのです。官邸は1月23日の古賀氏の発言を重視し
コメンテーターを交代しやすい4月に古賀追放をテレビ朝日に促
したものと思われます。
 1月23日の古賀発言に関連して公式会見の後で開かれた記者
とのオフレコ懇談でのやり取りをみると、官邸の本音が手に取る
ようにわかります。「Q」は記者であり、「A」は菅官房長官の
発言です。
―――――――――――――――――――――――――――――
Q:会見で出た、ISILの件で、まったく事実と違うことを、
  延々としゃべっていたコメンテーターというのはTBSなん
  でしょうか。
A:いやいや、いや、違う。
Q:テレビ朝日ですか。
A:どことは言わないけど。
Q:古賀茂明さんですか?
A:いや、誰とは言わないけどね。(※肯定の反応)ひどかった
  よね、本人はあたかもその地に行ったかのようなことを言っ
  て、事実と全然違うことを延々としゃべってる。放送法から
  見て大丈夫なのかと思った。放送法がある以上、事実に反す
  る放送をしちゃいけない。本当に頭にきた。俺なら放送法に
  違反してるって言ってやるところだけど。
                   http://bit.ly/1Ek3K4W
―――――――――――――――――――――――――――――
 このオフレコ懇談は、あくまで「オフレコ」が原則なのですが
記事にすること自体は各社の判断なります。ただ、当の発言者は
「そんなこといっていない」と否定できるのです。公式会見では
ないからです。したがって発言者としては、発言を広めたい場合
これを利用する場合が多いのです。古賀氏に対するオフレコ懇談
は、むしろこれを狙っていると思います。
 官房長官のオフレコ発言を聞くと、名前は絶対に口にしないも
のの、明らかに古賀茂明氏を批判しています。古賀氏はそのオフ
レコ発言を知っているので、「官房長官にはたびたびバッシング
を受けた」と発言し、菅氏は「事実無根である」と突っぱねてい
るのです。
 実は菅官房長官は、この時点では、オフレコ懇談でふれている
「放送法」を公式会見では述べていないのです。その公式会見で
放送法に言及したのは、3月27日の報道ステーションでの古賀
発言を受けてのことです。
 菅官房長官の放送法うんぬんの発言は、古賀氏が3月27日の
報道ステーションで、「菅官房長官からバッシングを受けた」と
いう発言を受けて「放送法もあるので、対応を見守りたい」とい
う公式発言をしたのです。菅氏は、古賀氏にバッシングなどはし
ていないと発言しており、事実と異なる発言であるから、放送法
違反であるというのです。
 既に述べたように、放送法第4条第3項には「報道は事実をま
げないですること」と書かれています。官房長官の地位にある人
物が「放送法」という言葉を使うだけで、「そのようなことをし
ていると、放送免許を取り上げるぞ」という意味のテレビ局に対
する威嚇になります。
 安倍首相とメディア幹部との会食は度を超えています。上智大
学文学部新聞学科の田島泰彦教授は、メディアの現状に危機感を
覚えるとして、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 安倍総理が総理に返り咲いて2年3ヶ月の間にメディアと会食
した回数は、3年3ヵ月続いた民主党政権時代の総理3人の総計
の既に4倍に達しています。
 加えて15年度の政治広報の予算は83億円で、民主党の野田
政権時代と比べると、2倍以上に膨らんでいる。こうした影響を
受けているのか、大手メディアは今、長いものに巻かれている印
象が拭えません。      ──『週刊新潮』4月9日号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 総理がメディアの幹部と会って話すのは、別に悪いことではな
いのです。その話のなかで安倍首相はメディアを押さえつけるよ
うなことはいわないはずです。
 一方において官房長官は非常にこわもてです。そのためこれは
メディアの幹部にとって大きなプレッシャーになりますが、脅し
に屈してメディアは方針を変えてはならないのです。それがジャ
ーナリズムの精神であるからです。
             ── [検証!アベノミクス/96]

≪画像および関連情報≫
 ●土井敏郎WEBコラム
  「古賀茂明氏の“孤高の闘い”が突きつけるもの」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  テレビのドラマやバラエティー番組はほとんど見ない私だが
  ドキュメンタリー番組や報道番組はできる限り観るようにし
  ている。ジャーナリスト・ドキュメンタリストという職業柄
  情報源として不可欠だし、自分のドキュメンタリー番組や映
  画を制作のために、その視点や製作技術を学ぶためである。
  報道番組の中でもTBSの「報道特集」とテレビ朝日の「報
  道ステーション」は、予約録画して見逃さないようにしてき
  た。両番組が、ジャーナリズムの原点である「権力の監視と
  批判」の姿勢をきちんと死守していると思ってきたからであ
  る。「報道ステーション」の“権力の監視と批判”の姿勢は
  ほぼ同じ時間帯の「ニュースウォッチ9」とそのメインキャ
  スターだった大越健介氏の“政権の代弁者”かと見紛うよう
  な報道姿勢と比較すると一層際立って見えた。そのことをこ
  のコラムでも、「『報道ステーション』と『ニュースウォッ
  チ9』」(2012年7月28日)や「“カモフラージュ”
  のためのニュース」(2012年10月5日)の中で書いて
  きた(その大越氏さえ、先月3月に官邸の意向で“更迭”さ
  れたという報道に、一体NHKのニュース番組はどこまで、
  「御用放送」に成り下がっていくのかと戦慄してしまう)。
  「報道ステーション」が原発、沖縄、安全保障、憲法など今
  の日本にとって微妙で重大な問題に果敢に取り組み、安倍政
  権の強権政治に鋭く切り込んで批判する勇気ある報道姿勢に
  溜飲が下がる思いがしたのは私だけではないはずだ。
                   http://bit.ly/1ayYyhk
  ―――――――――――――――――――――――――――

報ステ降板後の古賀茂明氏.jpg
報ステ降板後の古賀 茂明氏
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2015年04月14日

●「メディア規制を強化する安倍政権」(EJ第4015号)

 「萩生田文書」なるものがあります。安倍首相は、2014年
11月21日に消費税10%引き上げ延期を表明し、衆議院を解
散しています。その2日前の11月18日、安倍首相はTBSの
「NEWS23」に出演したのです。
 番組がアベノミクスに関する街頭インタビュー映像を流すと、
首相はみるみる不機嫌になったといいます。「景気がよくなった
とはあんまり思わない」とか「アベノミクスは感じていない」と
いう批判的な意見が多かったからです。そして、安倍首相は次の
ように抗議したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 6割の企業が賃上げしているのですよ。これ、ぜんぜん声が反
映されてませんが、おかしいじゃないですか。
     ─2015年11月18日付、「NEWS23」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 街頭インタビューですから、公平に多くの声を集めることは困
難です。局としては、街頭でできる限り集めた声を編集して流し
ただけなのです。これをもってすべての実態をあらわしていると
はいえませんが、多くの国民はそう感じており、国民の声を代弁
しているといえます。それを安倍首相は「公平じゃない」と憤慨
したのです。一国の首相の対応とは思えない幼児性です。
 それから1日後のことです。安倍首相の側近の萩生田光一自民
党総裁特別補佐は、在京キー局の自民党記者クラブを個別に呼び
出し、自民党筆頭副幹事長名で各局の編成局長、報道局長に宛て
た文書を手渡し、実施を迫ったのです。なお、自民党筆頭副幹事
長は、萩生田氏が兼務していています。
 問題のその文書ですが、多くのサイトがURLを掲載していま
すが、現在ではすべて削除されています。官邸にはメディアを監
視するチームがあり、不都合なコンテンツはすべて削除を命令し
ているようです。やましいことがなければ、そんなことはしない
はずです。しかし、やっとその文書を入手したので、次に一部を
示しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 衆議院選挙は短期間であり、報道の内容が選挙の帰趨に大きく
影響しかねないことは、皆様もご理解いただけるところと存じま
す。また、過去においては、具体名は差し控えますが、あるテレ
ビ局は偏向報道を行い、それを事実として認めて誇り、大きな社
会問題になった事例も現実にあったところです。
 したがって、私どもとしては、
 ・出演者の発言回数及び時間等についても公平を期していただ
  きたいこと
 ・ゲスト出演者の選定についても公平中立、公正を期していた
  だきたいこと
 ・テーマについて特定の立場から特定政党出演者への意見の集
  中などがないよう公平中立、公正を期していただきたいこと
 ・街角インタビュー、資料映像等で一方的な意見に偏る、ある
  いは特定の政治的立場が強調されることがないよう、公平中
  立、公正を期していただきたいこと
──等について特段のご配慮をいただきたく、お願い申し上げま
す。以上、ご無礼の段、ご容赦賜り、何とぞよろしくお願い申し
上げます。              http://bit.ly/1HhcxW0
―――――――――――――――――――――――――――――
 これをよく読むと、テレビ局はほとんど何もできないことにな
ります。その一方において、安倍首相は信じられないほど多くの
回数にわたって、メディアのトップと親しく会食を重ねているの
です。まさに「アメとムチ」の両方を使い分けて、やりたい放題
です。これでは、テレビ局としては対応に苦慮するはずです。
 それでもテレビ局は毅然として局として考える公平中立の立場
に立って、報道すべきです。それがジャーナリズムの精神だから
です。それでは、テレビ局は実際にどう対応したのでしょうか。
 日本のテレビ局は、「あとで自民党に文句をいわれるのは面倒
である。トップの立場もある。選挙報道は最小必要限度に縮小し
よう」と考えて、実施したのです。
 数字で根拠を示します。「SAPIO/サピオ」2015年5
月号は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 テレビ番組の調査・分析会社の集計によると、衆院解散当日か
ら、1週間(11月21日〜27日)の間にNHKと在京民放5
局が取り上げた選挙関連の放送時間は合計26時間16分で、前
回総選挙(12年)の約3分の1に減った(朝日新聞/2014
年12月10日付)。テレビ局は「報道の中立」に配慮して番組
をつくるのではなく、「あとで自民党に文句をいわれるなら、や
めてしまえ」とばかりに選挙報道そのものを減らしたのである。
        ──「SAPIO/サピオ」2015年5月号
―――――――――――――――――――――――――――――
 この萩生田文書に続いて、今回の古賀氏のクーデター発言によ
り、メディア、とくにテレビ朝日は政治番組のメインの時間帯で
ある日曜日の午前中から「報道ステーションサンデー」を夕方に
移動させ、その後にお笑い番組を配置するという愚かな変更を行
い、安倍政権にシオを贈っています。
 さらに、月曜日〜金曜日の朝のワイドショー「モーニングバー
ド」では、キャスターを大幅に減らし、まともなコメントをする
コメンテーターを慎重に外しています。これによって番組の魅力
は大幅ダウン。ことさら、安倍政権を刺激しないようメディアが
政権に全面協力しているのです。誠に嘆かわしい事態です。日本
のジャーナリズムの死ともいえます。
 このようにメディアが政権批判を自主規制し、政治との緊張関
係が失われると、政治のモラルハザードは一段と進んでしまいま
す。現に違法献金疑惑を追及されている真っ黒の下村博文文科相
もメディアの追及がないので、ゆうゆうと逃げ切れてしまいそう
です。          ── [検証!アベノミクス/97]

≪画像および関連情報≫
 ●古賀茂明氏のコラム/週刊現代「官々愕々」より
  ―――――――――――――――――――――――――――
  自民党の今回の文書発出は、どう見ても政権与党として禁じ
  手だ。明らかに憲法が保障している表現の自由への直接的侵
  害行為であり、報道の自由への重大な挑戦である。これが他
  の先進国で起きたら、単なる政権批判だけではすまない。政
  権そのものが揺らぐ大問題になるはずだ。しかし、私が今回
  の事件でもっと驚いたのは、この文書を受け取ったテレビ局
  やそれを知った他の報道機関の多くが、本件を重大な問題だ
  と受け止めなかったことだ。自民党の「暴挙」を知りながら
  ほぼ1週間放置した日本の報道機関。テレビ局は報道したら
  安倍総理に睨まれるからということでおとなしくしていた。
  政府を監視するというマスコミの役割を果たす気力も能力も
  持っていないということになる。官邸詰めの記者クラブにい
  たテレビ局以外の新聞社の記者たちもうすうす知っていたら
  しい。しかし、どの新聞も通信社もこれを報道しなかった。
  最初に報道したのは、インターネットテレビ「ニューズオプ
  エド」だったが、その後もテレビ局はニュース番組でこれを
  取り上げていない。これは結果的に在京キー局が選挙に際し
  て自民擁護の役割を果たすことになる。偏向以外の何物でも
  ない。これこそ放送免許剥奪につながる問題ではないのか。
  「国境なき記者団」が発表している「報道の自由度」世界ラ
  ンキングというものがある。それによれば、日本はG7の中
  ではダントツのビリ。先進国中でも異例の下位にあり、14
  年は何と59位である。民主党政権時代は、10位台か悪く
  て20位台だった。        http://bit.ly/1qH3M1A
  ―――――――――――――――――――――――――――

特集を組んだ「SAPIO/サピオ」.jpg
特集を組んだ「SAPIO/サピオ」
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2015年04月15日

●「自民党がテレ朝の番組に文書圧力」(EJ第4016号)

 2015年4月11日のことです。またしてもとんでもない安
倍政権によるメディアへの圧力が判明したのです。それは、衆院
選前の2014年11月26日のことです。同日付の福井照自民
党報道局長名で、テレビ朝日へ出された書状です。
 それは11月24日放送の報道ステーションの内容が、放送法
に違反していると訴える文書です。これは、2015年4月11
日にはじめて伝えられたニュースです。
 そうすると、安倍政権は20日に萩生田光一筆頭副幹事長が在
京キー局に対して報道の公正中立を求める書状を出しただけでな
く、24日の報道ステーションの内容にも問題があるとして、今
度は自民党が官邸に続いてクレームをつけているのです。
 これについて、4月11日付の朝日新聞は、次のように報道し
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 同日付の報道ステーションがアベノミクスについて報じた内容
について、「アベノミクスの効果が大企業や富裕層のみに及び、
それ以外の国民には及んでいないかのごとく断定する内容」と批
判。「意見が対立している問題については、多くの角度から論点
を明らかにしなければならないとされている放送法4条4号の規
定に照らし、同番組の編集及びスタジオの解説は十分意を尽くし
ているとは言えない」と指摘した。   http://bit.ly/1CxQzbJ
         ──2015年4月11日付、朝日新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 何と放送法まで出して、厳しく報道内容を批判しているのです
が、11月24日放送の報道ステーションがどんな内容だったの
かご紹介します。
 報道は「アベノミクスを考える」と題して約9分間報道されて
います。古館キャスターは、「安倍政権になって2年が経過した
が、株価は2倍以上になった」と語り、株が上がったので、気持
ちがポジティブになった人が大勢いるとして、アベノミクスの恩
恵を受けた人たちの話に多くの時間を割いています。2O日に萩
生田文書が出たばかりであり、番組としては、その点を十分考慮
して報道しているように考えられます。
 そのうえで、実質賃金が伸びていないこともグラフで示し、専
門家の「若年層は資産がなく、所得が増えないなか、切り詰めた
消費を続けているのが現状である」というコメントを紹介してい
るのです。これだけの内容です。
 どこが放送法違反なのでしょうか。現在であればまだしも、昨
年の11月の時点の話なのです。その当時、アベノミクスの恩恵
を実感している国民は、やはり株を保有している富裕層が中心で
あり、国民全体などにはぜんぜん及んでいないのです。
 それをテレビ朝日としては、アベノミクスの恩恵を実感してい
る人を比較的多く紹介したうえで、実質賃金が伸びないで困窮し
ている人々を紹介したのです。ちゃんとバランスをとっているの
です。そうしなければ報道にウソが入ることになるからです。そ
れとも自民党は、テレビ朝日に対して、アベノミクスの恩恵を実
感していない人の声をカットせよというのでしょうか。
 これは紛れもなく報道に関する政府の圧力であり、国民の知る
権利をも侵し、憲法に違反することになります。選挙のためとは
いえ、政権与党としては極めて冷静さを欠く行為です。
 これに関して、元日本テレビ報道ディレクターで、法政大学教
授(メディア論)の水島宏明氏は、対応を誤ると、メディアの分
断につながるとして、次のようにコメントしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 政権与党が個別の番組に注文を付けるなど、前代未聞。ー種の
威嚇と言えるだろう。アベノミクスをどう報じるか、バランスに
「正解」はない。扱いが難しいものは取り上げないということに
つながりかねない。
 安倍政権はメディアを監視し、意に沿わない報道に対して「偏
っている」と注文を付ける姿勢が顕著だ。かつては権力の側に、
「ジャーナリズムは厳しく批判を加えるものだ」という見識があ
り、健全な民主主義を育ててきた。「一強政治」の中で、そうし
たたしなみが失われている。
 一方、メディアの側も日本民間放送連盟や日本新聞協会といっ
た組織で抗議の声を上げるべきだ。できないのは、政権との距離
感の違いから「メディアの分断」とも言うべき状況が生まれてい
るから。ジャーナリズム全体が弱体化したと言わざるを得ない。
                  ──聞き手/中島新太郎
         ──2015年4月11日付、朝日新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 不思議なのは、自民党によるこの言論統制といわれても否定の
できないテレビ朝日への圧力が、なぜ今頃出てきたのかというこ
とです。テレビ局全般に関する萩生田文書ですら、不当な言論統
制ですが、26日の自民党の福井照自民党報道局長名の文書は、
番組内容まで介入しているので、もし明るみに出ると、自民党は
苦しい立場に追い込まれてしまうことは確実です。
 アベノミクスのような経済政策の成否は、それが現在進行して
いる状況では正確な評価を下すことは困難です。それに対して自
民党のようなクレームをつけられると、「報道しない」ことが無
難な選択肢になるのです。まして、放送免許を取り上げられる恐
れもあり、局としては報道を中止せざるを得なくなります。
 そうであるとしたら、これは言論統制そのものであり、到底許
されるものではないのです。しかし、テレビ朝日としては安倍政
権にも配慮して、そういう要請があったことを公開しなかったも
のと思われます。そうすればそれが抑止力となって、さらなる報
道抑制を防げるとでも考えたのでしょう。
 ところが古賀茂明氏は、3月27日の発言で、官邸から強い圧
力があったことを証明する立場に追い込まれたのです。そのため
古賀氏が選挙前の11月26日付の文書の存在を明かしたものと
思われるのです。     ── [検証!アベノミクス/98]

≪画像および関連情報≫
 ●真実を探すブログ/自民党が報ステに圧力を加えた文書
  ―――――――――――――――――――――――――――
  古賀茂明氏が「報道ステーションに自民党が圧力をかけてい
  る」等と発言した事が話題になりましたが、それを裏付ける
  文章の存在がニュース「オプエド」で報じられました。4月
  9日のオプエドによると、昨年に自民党がテレビ朝日「報道
  ステーション」に対して報道圧力とも受け取れる文書を送付
  していたとのことです。この文章は報道ステーションがアベ
  ノミクスの効果について、「日本全体には波及していない」
  と報道した数日後に送られた物で、文章には「公平中立な報
  道」を要望する旨の言葉が書いてありました。自民党とテレ
  ビ朝日は文章の存在を認めており、自民党は「アベノミクス
  について、客観的なデータをお知らせしたもので圧力とは考
  えておりません」とコメントしています。報道ステーション
  に政府が圧力を加えている問題には賛否両論が有りましたが
  今回の文章でそれが裏付けられました。アベノミクスに疑問
  を投げ掛けただけでこのような文章を送るというのは、報道
  側からしてみれば、圧力その物だと言えるでしょう。分かり
  易く言えば、あなたが町中で安倍首相の悪口を言った途端に
  自民党から公平中立のお願いの電話が来るようなものです。
  「報道するな」とは書いていませんが、報道直後に送ってい
  る時点で萎縮させる効果があります。無関係という方が無理
  のある話で、自民党は報道機関に対して政府としての要望を
  控えるようにするべきです。    http://bit.ly/1CuXT8f
  ―――――――――――――――――――――――――――

水島宏明氏.jpg
水島 宏明氏
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2015年04月16日

●「『高橋洋一対小幡績』の激論対決」(EJ第4017号)

 『激論!クロスファイア』という番組があります。田原総一朗
氏が司会をする討論番組です。土曜日のBS朝日の午前10時〜
11時に放送されます。ほとんどは政治討論ですが、そうでない
テーマのときもあります。
 2015年4月11日には、次のテーマで高橋洋一氏と小幡績
氏が対決して討論が行われたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ◎検証!3年目のアベノミクス/激論!クロスファイア
                高橋洋一/嘉悦大学教授
          小幡 績/慶応義塾大学大学院准教授
   2015年4月11日/ 【動画】http://bit.ly/1yjdjzN
―――――――――――――――――――――――――――――
 これはアベノミクス推進派と反対派の対決です。高橋洋一氏は
安倍首相のアドバイザーも務めるアベノミクスの推進派であり、
小幡績氏は安倍政権が発足し、アベノミクスが開始されるとすぐ
『リフレはヤバい』(ディスカヴァー携書)を上梓し、リフレ政
策を強く批判する論陣を張った経済学者です。
 注目すべきは、高橋、小幡の両氏は、ともに財務省出身である
ということです。財務省の出身者は、財務省を離れた後も財務省
の不文律というか、戒律というか、財務省にとって不利になるこ
とは絶対に発言しないものです。その代わり、それを守っていれ
ば、就職の斡旋など、いろいろなかたちでの支援が受けられると
いわれています。
 しかし、高橋氏は財務省の不文律を守らないことで知られてい
ます。「埋蔵金」の存在を明かしたのも高橋氏であり、財務省の
秘密を明かしてしまうので、財務省からはとことん嫌われていま
す。私は高橋氏の著作やブログ、夕刊紙の連載などはほとんど目
を通していますが、彼が述べていることは本当のことであり、と
ても参考になっています。
 そういう意味で「高橋VS小幡」対決は非常に興味深く、アベ
ノミクスの成否を知る興味深い論戦になっています。しかもこの
対決のすべてを約47分の動画で見ることができます。URLを
クリックすれば動画がスタートします。なお、こうした動画はテ
レビ局の都合で削除されることがありますので、なるべく早くご
覧になっていただきたいと思います。
 討論の概要について述べます。まず、小幡績氏は次のフリップ
を掲げて、アベノミクスの問題点を6つ上げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ≪アベノミクスの問題点≫
   1.        円安は日本経済にマイナス
   2.        インフレは経済にマイナス
   3.    「デフレ脱却」とは呪文に過ぎない
   4.    国債大量買い入れは金融市場を壊す
   5.    景気対策、消費刺激は経済成長阻害
   6.復古主義経済政策、高度成長は戻ってこない
―――――――――――――――――――――――――――――
 小幡氏は、現在景気は回復しているといいます。株が上がって
いるからです。しかし、それはアベノミクスのせいではなく、金
融緩和なんかしなくても景気は回復したというのです。現在の景
気回復は、景気循環によるそれであり、アベノミクスは20%程
度しか貢献していないと主張します。
 その20%というのは、安倍首相が「デフレ脱却」という呪文
を唱えたからであり、この呪文が効いて株価が上がったというの
です。しかし、その副作用として「円安」になり、「インフレ」
を目指していますが、これは経済にとってマイナスである──小
幡氏はこういうのです。
 小幡氏は「円安/インフレ」は最悪であり、「円高/デフレ」
がよいと主張します。そして景気が回復し、雇用も改善している
のであるから、金融緩和の継続をストップし、出口を探るべきで
あるといいます。
 これに対して、高橋洋一氏は、民主党政権時と安倍政権時の経
済指標の変化を示す次のフリップを使い、経済指標は大きく改善
していると主張します。何よりも就業者数の改善がその大きな成
果で、これによって増収が期待できるというのです。なお、下記
数値の「消費者物価指数」は増税分を引くとゼロになり、消費支
出が低迷しているのも増税の影響であるといいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪安倍政権「経済指標」の変化≫
          12.12  15. 4. 9  変化
 日経平均株価 1万0230円   1万9937円  株高
     為替     85円      120円  円安
消費者物価指数   −0・2%      2・0%  上昇
 有効求人倍率   0・83倍     1・15倍  改善
    失業率    4・3%      3・5%  改善
 実質消費支出   −0・7%     −2・9%  低迷
―――――――――――――――――――――――――――――
 2人の討論を聞いていると、小幡氏の主張が非常に説得力のな
いことがわかります。彼は金融緩和を中止し、恵まれ過ぎている
年金の支給率を下げて歳出を削減し、消費税を15〜20%に引
き上げることを主張しています。要するに小幡氏は、財務官僚そ
のものであり、その主張も財務省の思想と同じです。
 高橋氏は多くを語りませんが、その主張には強い説得力があり
ます。消費税の増税などしなくてもアベノミクスで雇用の改善を
進めれば、増税分はそれによる増収で賄えるというのです。
 最後のところで「1000兆円の政府の借金」の話になります
が、その説得力の差は歴然としています。財務省の作成する対G
DP200%を超える日本政府の大借金は、各国の純債務を日本
だけ粗債務で比較したもので、財務省が増税の説得のために借金
を嵩上げした結果であることがわかります。動画を最後まで視聴
されることをお勧めします。── [検証!アベノミクス/99]

≪画像および関連情報≫
 ●「小幡氏はなぜ無意味な金融緩和批判をするのか」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2014年10月31日の日銀・黒田東彦総裁の記者会見を
  見た。じっくり見た。やはりこの人は筋金入りの戦略家だ。
  経済学の知見をよく理解していて主張は一貫している。昨年
  4月4日の異次元緩和から、何もぶれていない。やはり愛国
  官庁大蔵省の本流、聞きしに勝る愛国者という話は大げさで
  はない。今回の追加緩和を「今回の日銀の金融政策決定会合
  においては、彼の結論も打ち出した政策も間違っている。何
  のための追加緩和なのか。量的質的緩和の拡大は何のためな
  のか。何のためにもならない金融緩和策を打ち出したのは、
  なぜなのか。(東洋経済オンライン『黒田総裁は天才かつ秀
  才だが、間違っている』)」などと批判をしている学者がい
  る。慶応大学の小幡氏である。彼は経済の基本がわかってい
  ないのではないか。そういう疑問がわいてきた。ハーバード
  大学で博士号を取ったそうだが、経済については理解してい
  ない。そう思わざるを得ない。小幡氏は言う、「今回の追加
  緩和は大きなサプライズだった。日経平均株価は755円も
  の上昇となり、GPIFネタで200円程度上げていたこと
  もあったが、そこからさらに500円上げた。これはまさに
  サプライズだった。そして、これは、追加緩和を自分の都合
  で要求していた短期筋の海外投機家にとっても同じだった。
  まさか、今だって?そういう声が聞こえそうな、金曜の午後
  1時過ぎの暴騰だった」。     http://bit.ly/1x3L5ao
  ―――――――――――――――――――――――――――

「高橋洋一VS小幡績」.jpg
「高橋 洋一VS小幡 績」
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2015年04月17日

●「アベノミクスの株高とバブル懸念」(EJ第4018号)

 もはや日本は、民主主義国ではなく、安倍首相による独裁政権
化しているといわざるを得ません。というのは、安倍政権による
メディアへの圧力は、国内メディアだけではなく、海外メディア
にまで及んでいたのです。日刊ゲンダイの記事から要約してお伝
えすることにします。
 外国人特派員協会は、「ナンバー1新聞」という月刊紙を発行
しています。その4月号にカールステン・ガーミスという人が、
安倍政権の圧力の数々を暴露するレポートを書いています。
 カールステン・ガーミス氏は最近までドイツの高級紙「フラン
クフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング」の記者として、東
京特派員を務めていたのです。
 ガーミス氏のレポートによると、ガーミス氏が安倍政権の歴史
修正主義について批判的なレポートを書いたとき、在フランクフ
ルトの日本総領事が、ドイツにある編集部に乗り込んできて、猛
抗議をしたというのです。しかも、対応した編集者に対し、にわ
かには信じられない次のような言辞を弄したといいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (あの男は)金が絡んでいると疑わざるを得ない。安倍批判の
記事を書くのは、中国へのビザ申請を承認してもらうためではな
いか。   ──2015年4月13日発行/日刊ゲンダイより
―――――――――――――――――――――――――――――
 ガーミス氏に対する外務省の干渉は、昨年から激しくなり、記
事を書くたびに外務省に呼び出しを受けるようになったというの
です。ガーミス氏は「外務省の干渉は、私と編集者と、本紙全体
に対する侮辱である」と激高しています。
 これに関して、元外交官で外交評論家の天木直人氏は、次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今まで聞いたことがない衝撃的な内容です。安倍政権のあまり
の下劣なやり方に、ドイツ国民は腰を抜かすのではないでしょう
か。圧力をかけた点と外交官の暴言、二重の意味で権威を損ねて
いる。圧力を受けたのは、ドイツ紙だけとは思えません。今後、
世界各地で同じような話が出てくるのではないか。きっと国際的
に大問題になりますよ。これを報じない日本のメディアも終わっ
ています。     ──天木直人氏/前掲の日刊ゲンダイより
―――――――――――――――――――――――――――――
 もともと「ナンバー1新聞」は、日本に関して厳しい論評をす
る新聞のようです。ちなみに2014年11月号では、次のタイ
トルをつけて、朝日新聞の問題を取り上げています。URLをク
リックすると、「ナンバー1新聞」/2014年11月号を見る
ことができます。表紙に注目です。
―――――――――――――――――――――――――――――
      NUMBER 1 /SHIMBUN / November 2014
               SINK THE ASAHI!
            http://bit.ly/1OrvUOa
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、日経平均株価は、4月10日に一時的であるが2万
円を突破しました。報道では「約15年ぶりの高値」といわれて
いますが、本当は、ITバブル時の高値である「2万0833円
21銭」を超えてはじめて15年ぶりの高値といえるのです。
 株価が上昇してくると、すぐいわれるのが、「バブルではない
か」という懸念です。そのバブルかどうかを見るテクニカルな指
標というものがあります。次の2つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.         東証1部の騰落レシオ
    2.日経平均ボラティリティー・インデックス
―――――――――――――――――――――――――――――
 1の「東証1部の騰落レシオ」とは何でしょうか。
 騰落レシオとは、東証1部の値上がり銘柄数を値下がり銘柄数
で割って算出します。添付ファイルの東証1部の騰落レシオを見
ると、2万円を一時超えた10日時点でも107%であり、「買
われ過ぎ」とされる120%を下回っています。
 しかし、日経平均が3月23日に1万9754円まで上昇した
とき、騰落レシオは130%まで上昇していたのです。しかし、
急ピッチに株価が上昇すると、その警戒感から利益を確定するた
めの売りが行われ、調整が行われるのです。この調整を挟んだこ
とによって、2万円を一時的に突破した1O日時点では過熱感は
窺えないのです。
 もう一ついえることは「日経平均ボラティリティー・インデッ
クス」が低下傾向にあることです。日経平均ボラティリティー・
インデックスは、投資家が日経平均株価の将来の変動をどのよう
に想定しているかをあらわしている指数です。この指数値が高い
ほど、投資家が今後、相場が大きく変動すると見込んでいること
を示唆しています。
 添付ファイルの日経平均ボラティリティー・インデックスを見
ると、2015年1月から4月まで、一貫して低下傾向が続いて
います。これから見る限り、「買われ過ぎ」の過熱感は見られな
いのです。これは、目先の相場急変を見込む市場参加者が減少し
ていることを意味しているのです。このような状況を見る限り、
バフルとはいえないのです。
 また、アベノミクスは大企業や一部の富裕層だけを富ませてい
るだけという人がいますが、中小企業の資金繰りも改善の傾向が
出てきています。
 日銀の企業短期経済観測調査によると、中小企業から見た金融
機関の貸出態度判断DI(緩い〜厳しい)はプラス15。これは
1990年2月調査のプラス18に次ぐ高い数値であり、バブル
期並みの積極さになっています。借入金利も「低下」の回答が、
「上昇」を大きく上回っているのです。これらを総合的に判断す
ると、アベノミクスは効果を上げつつあり、中小企業の破綻懸念
は遠のいています。   ── [検証!アベノミクス/100]

≪画像および関連情報≫
 ●「アベノミクス・バブルがはじけるとき」/小幡績氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  新しい企業が苦労して芽を出し、新しい構造に移りつつある
  ところへ、もう一度古い高度成長期下の構造へ戻して短期的
  に景気を良くしようというのがアベノミクスです。日本経済
  の現状認識も、個別の政策手法も、未来へのビジョンもすべ
  て間違っています。アベノミクスのブレーンは、リフレ政策
  が失敗してインフレ期待が腰折れすれば日本経済は終わりだ
  と言いますが、終わらないです。私の現状認識では日本経済
  は危機ではありません。非常に底力があります。財政の危機
  や年金危機を経済の危機に置き換えてもらっては困ります。
  日本経済の未来のビジョンに必要なのは構造改革であり、新
  しい企業と人の育成です。その移行期にひずみは出ますが、
  私から言わせればリフレ政策のようなハイリスク・ネガティ
  ブリターンなギャンブルをする理由はありません。必要なの
  は地道な構造改革、雇用・人材育成だと思います。民間経済
  は円安のデメリットにもめげずに構造改革を進めていますが
  政策がそれを後押しできていないのが現状です。売れないと
  ころに設備投資を進めても意味はありません。消費税対策で
  意見が分かれる設備投資減税ですが、国内に巨大な生産ライ
  ンを作り、世界一良いものを競合国と同じ値段で作れば絶対
  に世界で売れるはずだという、高度成長期やバブル期の発想
  に基づいた施策です。       http://bit.ly/1HjSlTi
  ―――――――――――――――――――――――――――

バブルか否かを判定する指標.jpg
バブルか否かを判定する指標
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2015年04月20日

●「黒田日銀総裁の首相への直言内容」(EJ第4019号)

 2月26日のEJ第3982号と27日のEJ第3983号で
2月12日の経済財政諮問会議の席上、黒田日銀総裁がオフレコ
で政府に強く財政再建を求めた顛末について述べています。
 そのときの黒田総裁と安倍首相のやり取りの詳細が、4月15
日付の日本経済新聞で明らかになっています。その記事の見出し
は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   【真相深層】■黒田総裁、首相への直言全容は・・・
  国債保有規制に強い懸念/財政再建重視、持論を曲げず
       ──2015年4月15日付、日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 この記事から判明したことは多いので、記事を基にして黒田総
裁の発言を再現して分析します。総裁の発言を前半と後半に分け
ます。まず、前半の発言です。
―――――――――――――――――――――――――――――
・2020年度の基礎的財政収支黒字化にはもっと力をいれて取
 り組む必要がある。ここからはセンシティブな話なので、外に
 出ないように、議事録から外してもらいたい。
・欧州の一部の銀行は、日本国債を保有する比率を恒久的に引き
 下げるとした。国際的な銀行の資本規制では、外国の国債はそ
 の格付けに応じて資本を積まなければならない。したがって、
 格付けが下がると、どうしても外国の国債を持たなくなる。消
 費再増税の延期で日本国債が格下げされたときに、欧州の一部
 の銀行がそのように動いている。しかし、国債保有者に占める
 外国の銀行の比率は6〜7%程度だったため、国債の金利には
 ほとんど影響はなく、長期金利は0・195%まで低下したほ
 どであった。──2015年4月15日付/日本経済新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の国債は現在「A1」、G7ではイタリアに次いで低いの
です。その格下げの理由についてムーディーズ・インベスターズ
・サービスは次の3つを上げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.財政赤字削減目標の達成可能性に関して、不確実性の高
   まりが存在する。
 2.デフレ圧力の下での成長促進策のタイミングと有効性に
   不確実性がある。
 3.中期的な日本国債利回り上昇リスクの高まりと債務負担
   能力が低下する。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ムーディーズは、日本の財政赤字──2014年の政府債務が
GDP比で245%もあることが最大の懸念材料であるとしてい
るのです。
 そのうえで、ムーディーズは2014年4月の8%への消費税
増税によって実質成長率が失速したことを重視し、増税に耐えら
れるだけの経済の強さが日本経済にないと断定しています。さら
にそれを引き上げる政策──成長戦略も具体性に欠けており、デ
フレから脱却できないでいるとしています。つまり、アベノミク
スがうまくいっていないと断じているのです。
 これには反論がありますが、それはひとまずおき、黒田総裁の
発言の後半です。
―――――――――――――――――――――――――――――
・これからお話しすることは少し深刻な話である。実はドイツ、
 アメリカ、イギリスなどが強硬に、銀行が自国の国債を持つこ
 とについても資本を積むべきであると主張している。
・もちろん、とんでもない話であり、日本やイタリアが反対して
 いるため、なかなか合意には至らないと思うが、ドイツやアメ
 リカが自国でそういった規制を導入する可能性がある。
       ──2015年4月15日付/日本経済新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 この問題は既にバーゼル銀行監督委員会でも討議がはじまって
いますが、そんなに簡単には決まらないと考えられます。しかし
もし、ドイツや米国が自国内で自主的にそういう規制を導入する
と、おそらく日本のアナリストのなかには、その規制が導入され
た場合の日本の銀行の資本不足をいい立てる可能性があります。
その結果、資本不足といわれるのを恐れ、銀行は国債を手放して
しまうところが多くなる可能性があります。黒田総裁はそのこと
を心配しているのです。
 しかし、黒田総裁の発言に対して安倍首相は、次のように強く
反論を展開したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 格付け会社にしっかり働きかけることが重要でないか。政府の
1000兆円規模の債務総額であるグロスで見ると確かに大きい
のだが、政府債務から資産を差し引いた純債務であるネットで見
ると、他国とあまり変わらないという説明などをしなければなら
ない。                    ──安倍首相
       ──2015年4月15日付/日本経済新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 各国の政府債務は自己申告で行われます。そのさい、政府債務
は、金融資産を差し引いた「純債務」で公表することになってい
ます。金融資産の定義などは各国の判断で行われます。
 しかし、日本の財務省は政府債務を金融資産を引かない「粗債
務」で申告しています。各国は「純債務」です。したがって、日
本の政府債務は突出し、GDP比で245%になってしまうので
す。なぜ、そんなことをするのでしょうか。
 それは、国民に危機感を与えて、増税しやすくするためと思わ
れます。各国は、まさか自ら自国の借金を大きく申告する国など
ないので、それを信用しているのではないかと思われます。安倍
首相がそのことをあえて黒田総裁に口にしたということは、財務
省に挑戦状を叩きつけたことを意味しています。
            ── [検証!アベノミクス/101]

≪画像および関連情報≫
 ●経世済民のエコノミスト/菊池英博氏の言葉より
  ―――――――――――――――――――――――――――
  粗債務という概念は、「国債と財投資(財政投融資)、政府
  短期証券、政府保証債務を合計した金額」である。政府・財
  務省は、「粗財務だけの残高をみて、日本の財政は破綻状態
  だ」と言う。しかし政府は債務だけでなく、金融資産を持っ
  ている。それゆえ、財政は、粗債務から金融資産を控除した
  「ネットの債務」で見る必要がある。これが純債務である。
  一国の財政は純債務で見るのが国際的にも一般的である。純
  債務のほうが「実体を的確に表す数字であるとしてOECD
  の統計表では各国がこの数字を公表している。粗債務だけで
  危機を煽っているのは、日本だけである。他の主要国の政府
  保有金融資産はGDPの15〜20%に過ぎない。これに比
  し、日本は世界一のお金持ち国であり、政府は国内総生産に
  相当する500兆円近い金融資産を保有している。これを無
  視した粗債務だけの見方は現実をまったく反映していない。
  国内の大手新聞5社から、マスメディアのほとんどが、四半
  期に流す、国のバランスシート上の1000兆円と云う「粗
  債務」だけが一人歩きし、バランスシートの反対側の資産の
  借り方(左側)を表示せずに負債である貸し方(右側)だけ
  を示して、国民に公表するという、片手落ちの数値で国民に
  「偽装の財政状態」を示しているわけです。しかも、政府は
  国債発行の原資を民間銀行や生損保で6割以上国民の貯蓄や
  預け金からお金を借りていますが、同時に、政府機関である
  「社会保障基金・日本銀行・年金基金」の3つの政府機関か
  らもお金を借りた分まで「1100兆円」と積み上げている
  のは、まさに偽装で犯罪的な詐欺といえます。
                  http://amba.to/1D1h08F
  ―――――――――――――――――――――――――――

菊池英博氏.jpg
菊池 英博氏
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2015年04月21日

●「オープンレジームとアベノミクス」(EJ第4020号)

 安倍政権になってから、アベノミクスには賛否はあるものの、
経済をめぐる環境が一変したことは確かです。それは、経済のレ
ジームが変換したからです。「レジーム」とは、体制転換のこと
です。政権交代もレジーム・チェンジです。
 日本経済は長期デフレによって、人々は「まだデフレは続く」
というデフレマインドを持つ人は多かったのですが、ここにきて
インフレに変わるとまではいかないものの、何か変わりそうだと
いう予想を持つようになってきています。
 ところで、レジームには「オープンレジーム」と「クローズド
レジーム」があります。若田部教授の本に出ている対照表を次に
示しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
       オープンレジーム    クローズドレジーム
     原則     ルール      裁量/計画重視
 市場との関係    市場重視    企業・産業利益重視
   新規参入      歓迎           警戒
   金融政策 フレームワーク      裁量/総合判断
   主要政策    競争政策         産業政策
   政策手段      減税          補助金
    再分配    ルール型          裁量型
 政策決定方式     分散型          集権型
    経済学      重視           軽視
                    ──若田部昌澄著
   『ネオアベノミクスの論点/レジームチェンジの貫徹で
         日本経済は復活する』/PHP新書973
―――――――――――――――――――――――――――――
 これまでの政治経済は「クローズドレジーム」で運営されてき
ているといえます。あらゆるものごとは上からの裁量や計画で決
められてきたのです。それをルールに基づいて変えるのが、オー
プンレジームです。これが「原則」です。
 「すべての人が満足できる政策のみを実施する」という考え方
があります。どこの国もはじめはそこから出発しようとします。
ちょっと考えると、非常に望ましいビジョンですが、これは結果
として、既得権益を守ることにつながるのです。
 ある独占されている市場に、新規企業が参入するケースを考え
てみます。参入を許すと、それだけ競争が激化することになるの
で、独占企業にとっては不利益になり、権益が失われる可能性も
あります。これはすべての人の利益にはならないので、実施され
にくいのです。これはクローズドレジームです。このクローズド
レジームの行き着くところは、旧社会主義国の統制経済や国有化
いわゆる計画経済ということになります。
 結局、理想的な政策とは、次のようなことになります。これは
効率化政策といわれます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 改革によって生活水準が上がった人が、生活水準が下がった人
に対して補償を与えても、なお改革前よりも高い生活水準を維持
しうる政策である。経済成長を求めて全体のパイを大きくしなが
ら、成長が必然的に生む産業の転換を迫られた人や、不幸にも市
場での競争からこぼれ落ちた人にもしっかりとしたケアをすると
いう考え方である。      ──若田部昌澄著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここに「ルールに基づいた再分配」の考え方が出てきます。今
までの再分配は、裁量に基づいて行われてきたのですが、あくま
でルールに基づいて行われる必要があります。この考え方はまさ
しくオープンレジームです。
 日本では、他国に先駆けて金融緩和をやっていますが、必ずし
もうまくいっていなかったといえます。これもルールに基づかず
裁量的に行ったからです。これに対してアベノミクスでは、2%
というインフレ目標を掲げて、ちゃんと一定の歯止めをかけて、
ルールに基づいてやっています。
 オープンレジームに基づく経済政策が実を結んだ格好の例が池
田勇人内閣による「所得倍増計画」です。この計画は1961年
から70年までの10年間で、名目国民所得を倍増させる政策で
す。それも下村理論というルールに基づいて経済政策を実行して
いますので、計画という言葉は使われているものの、オープンレ
ジームの理念に基づいて行われた経済政策といえます。そういう
意味で、オープンレジームは経済学を重視するのです。
 池田勇人が遺した言葉から、彼の経済政策観を探ってみると、
次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 池田は、経済成長には政府の財政金融政策によって総需要を適
切に管理することが必要としながらも「政府の干渉は、国民の活
動が十分に、競争が公正に行なわれて、各自の創意工夫努力が最
大限の成果を挙げうる条件をつくることに限定すべきである」と
言っています。
 「経済政策の要諦」は、「国土、資源開発のための輸送通信特
に道路、港、工業用水、治山治水、特に科学技術の振興、その他
学校、研究施設、衛生施設の改善充実などの社会的間接投資を積
極的にやることと、金利を引き下げ減税を行い各種の統制や制限
をできるだけやめて、民間の自主的創造力発展力をその聡明な判
断と真剣な努力によってフルに活動させるようにすること」であ
ると言います。「全国民の全知全能を最大限に発揮できる体制」
である「自由競争を建前とする市場経済体制」を作り上げなけれ
ばならないとも訴えています。 ──若田部昌澄著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 これがオープンレジームの発想です。池田は、金の卵を生むの
は国家でも政府でもなく、国民の力であって、国民各自の知恵と
工夫と真剣な努力であると考えているのです。アベノミクスは、
オープンレジームに基づいている経済政策なのです。
            ── [検証!アベノミクス/102]

≪画像および関連情報≫
 ●アベノミクスと所得倍増/「猫の遠ぼえ」のサイト
  ―――――――――――――――――――――――――――
  今日のタイトルは、あの毎日新聞の中では比較的保守的とさ
  れる岩見隆夫氏のコラム『近聞遠見』のタイトルをそのまま
  借用した。50年以上も前の池田勇人首相による所得倍増計
  画とアベノミクスを、あまり知られていない事実を紹介しな
  がら比較していて、なかなかいいコラムになっている。
   まず池田首相が所得倍増を考えていた頃のエピソードが興
  味深い。池田勇人が所得倍増計画を着想したのは、岸政権の
  無任所国務相のころ(1958年)で、気の合う新聞記者た
  ちとの雑談のなかだった。ある日、記者の1人が、「最近は
  食うことと着ることには不自由を感じなくなったが、住む方
  がまだまだ苦しい」 と生活実感を話題にすると、池田がす
  かさず、「しかし、そのよくなり方は大変なもんだよ。君た
  ちの給料だって、10年たてば倍になるんだ」と応じた。
  「そんなバカなことが・・」「絶対になるんだ」と池田はム
  キになる。最初は月給2倍論、次第に肉付けされていった。
  60年7月、首相に就任、国民所得倍増計画が閣議決定され
  たのは同年末だ。岩見氏は1958年入社だから、この会話
  の中にいた可能性はほとんどない。先輩記者から聞いた話な
  のだろうが、「池田はムキになる」という表現に、筆者の池
  田首相に対する好意が感じられる。高度経済成長が緒に就い
  たころの生活実感や、大臣と記者との関係が伝わってくるよ
  うだ。所得倍増計画には、有力政治家やエコノミストが批判
  的だったそうだが、池田首相のやる気は記者たちに伝わって
  いたのだろう。         http://amba.to/1cLvWTn
  ―――――――――――――――――――――――――――

記者会見する池田勇人元首相.jpg
記者会見する池田勇人元首相
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2015年04月22日

●「足元の景気は少しずつ改善の兆し」(EJ第4021号)

 現在の日本の景気動向を一番的確に掴んでいるところはどこか
といえば、それは日銀であり、その最新情報を一元的に把握して
いるのは、黒田東彦日銀総裁であると思います。
 日銀は3ヵ月に1回のペースで支店長会議を開催しています。
ところで、日銀の支店長は何をしているのでしょうか。日銀マン
の活動というものは案外知られていないものです。
 日銀の各支店長は、行員を指揮して地元の企業を丹念に回り、
景気や経済の動向を足を使ってこつこつ集めています。支店長は
地元の財界と太いパイプを持っており、どんな有力な調査機関で
も掴めない確度の高い情報を握っているといわれます。支店長は
それらの情報を集約して、3ヵ月に1回の支店長会議で報告して
いるのです。
 2015年4月13日に日銀の「春の支店長会議」が開催され
ています。ところが、この日の会議はいつもと少し様子が違って
いて、明るい情報が次々と上ってきているというのです。これに
ついて、ある日銀幹部は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 正直言って、日銀内部にも黒田東彦総裁が進める金融緩和路線
を懐疑的に見ている人は少なくなかった。しかし、今回の地域経
済報告によって、景気回復の波が地方経済や中小企業にも波及し
てきたことが分かったので、少し安堵しています。まだ始まった
ばかりですが、日本経済の好循環が始まったといえる。
              ──『週刊現代』/5/2号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 誰の目にもはっきりしているのは日経平均株価の上昇です。し
かし、2万円の大台を一時超えたものの、その後一進一退が続い
ており、「実感なき株高」という声も多く聞かれます。しかし、
その足元では確実に何かが大きく動き出している気配が読み取れ
るのです。
 三井住友アセットマネジメント理事・チーフエコノミストであ
る宅森昭吉氏は、次の3つの点において景気回復の兆しが明確に
出ているといいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.2015年2月分の有効求人倍率が1・15倍になって
   いるが、これはバブル経済崩壊直後の1992年3月分
   の1・19倍以来23年ぶりの水準
 2.設備投資の先行指標といわれている機械受注が2015
   年1〜3月期まで、3四半期連続して増加する見込みで
   あり、設備投資の伸びが期待できる
 3.広告費の代理変数ともいえる大相撲懸賞本数が今年1月
   の初場所で1625本、春場所の懸賞本数も1374本
   と地方場所でも過去最高記録を更新
             ──『週刊現代』/5/2号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように、足元の景気は回復しつつあることは確かです。し
かし、本当に景気回復の波は、中小企業にまで波及しているので
しょうか。
 中小企業に関しては、次の2つのことが明らかに変化している
といえます。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.企業間信用の回復が顕著である
       2.金融機関の貸出し姿勢の積極化
―――――――――――――――――――――――――――――
 「1」は企業間信用の回復です。企業間の取引は通常であれば
手形などの信用取引ができますが、景気が悪くなると、現金取引
になります。実際にリーマン危機や東日本大震災のときなどは、
取引先の破綻リスクへの警戒が強まり、信用取引が大幅に減少し
すべてが現金取引になっているのです。
 日銀の資金循環統計をみると、企業間信用に輸出入にかかる貿
易信用を含めた残高で比較すると、リーマン危機前の2008年
と2014年末を比較すると、企業間信用は、2014年末には
リーマン危機以前の状態に戻っていることがわかります。
―――――――――――――――――――――――――――――
     2008年 6月末 ・・・ 229兆円
     2014年12月末 ・・・ 228兆円
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、添付ファイルの上のグラフでも確かめられます。これ
は売掛債権の推移を見たものですが、2009年に大幅に落ち込
んでいた売掛債権は、アベノミクスがはじまった2013年後半
から急速に回復し、2014年後半にはリーマンショック以前に
まで回復していることがわかります。
 「2」は金融機関の貸出し姿勢の積極化です。金融緩和の効果
は、銀行の貸し出し姿勢にもあらわれています。日銀の企業短期
経済観測調査によると、中小企業から見た金融機関の「貸出態度
判断DI」は、次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ◎中小企業から見た金融機関の「貸出態度判断DI」
   「緩い」−「厳しい」=+15
―――――――――――――――――――――――――――――
 この「プラス15」という数字は、1990年2月調査(プラ
ス18)以来の水準であり、銀行も貸し出しを積極化しつつある
ことがわかります。これは、添付ファイルの下のグラフの貸出態
度判断DIの推移を見ればわかります。
 これらを総合的に判断すると、金融緩和の効果は中小企業にま
で及びつつあることは確かです。中小企業の資金繰りも改善して
いるのです。
 国内銀行の中小企業向け貸出金残高は、2014年末時点で約
177兆円、前年比2・1%増になっています。この数字もリー
マン危機前の180兆円にあと一歩のところに来ているのです。
            ── [検証!アベノミクス/103]

≪画像および関連情報≫
 ●アベノミクスから2年/庶民・中小企業の叫び
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2014年11月27夕、東京六本木のある飲食店。料理人
  の小山氏(52)は、テレビから流れ続ける選挙関連ニュー
  スを見ながら、「いったいなぜまた選挙をするのか分からな
  い」と話した。彼は「前回の選挙がわずか2年前だった。同
  じ人々がまた出てくるのに選挙をすればお金を使うだけ」と
  して「韓国でもこのようによく選挙をするのか」と尋ねた。
  「誰に入れるのか」と尋ねると「野党はあまりにも無能だが
  安倍首相がすることも正しいのか分からない」と答えた。そ
  れから4日後の2日、安倍晋三首相は福島県相馬市で「今回
  の選挙はアベノミクスについての(賛否を尋ねる)選挙」と
  規定して選挙運動を始めた。彼は「15年間体験したデフレ
  から抜け出す機会を逃すことはできない。必ず勝つ」と話し
  た。安倍首相は来年10月に予定された消費税の追加引き上
  げの延期を前面に出して議会を解散した後、総選挙を実施す
  る強硬姿勢に出た。政権を取って2年で再び行う今回の選挙
  は、さまざまな面でおかしいという指摘を受ける。自民党の
  現役議員295人中で公認から脱落した人はたった5人だ。
  このうち4人は比例代表だ。地方区議員は1人だけがすげ替
  えし、その候補はそのままだ。今回の選挙が経済を前面に出
  した安倍首相の政治的な見せ掛けだという指摘が出る理由で
  ある。              http://bit.ly/1D9NjUg
  ―――――――――――――――――――――――――――

中小企業関連データ.jpg
中小企業関連データ
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2015年04月23日

●「デフレ脱却の兆しも出てきている」(EJ第4022号)

 日本経済がデフレから脱却しつつあるということはいろいろな
面で裏付けることができます。大きな話題にはなっていませんが
2015年4月14日にIMF(国際通貨基金)は、「世界経済
見通し」を発表し、2015年の日本経済の成長予測を上方修正
しています。
 もうひとつ、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング
が値下げではなく、昨年秋冬物から5%程度の値上げに踏み切っ
ていることです。それでいて、ユニクロは2015年8月期の通
期業績見通しを上方修正しているのです。
 これについて、株式評論家の海老原紀雄氏は、デフレ時代の終
焉を迎えつつある現象として、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私は、今回のユニクロの値上げ宣言は、日本経済がインフレ時
代に入ったとまでは言えないが、デフレ時代が終ったということ
だろうと受け取っています。今後、ユニクロに続くところが出る
でしょう。もちろん、値上げするためには商品に対する品質面の
自信が求められるはず。この点が過去の物価上昇時代とは異なる
点だろう。          ──株式評論家の海老原紀雄氏
                   http://bit.ly/1IECEor
―――――――――――――――――――――――――――――
 もちろん他の業種でも値上げは起きています。円安になって原
材料の輸入価格が上昇したのですから、当然の現象であり、それ
をもってデフレ脱却といえるわけではありません。だが、ユニク
ロに関しては、デフレを象徴する「990円ジーンズ」を真っ先
に発売し、「ユニクロ型デフレ」という流行語をつくった企業で
あるだけに、今回、どこよりも早く値上げを宣言したところにデ
フレ脱却を予感させる何かがあるのです。
 この「ユニクロ型デフレ」の命名者である浜矩子同志社大学大
学院教は、その新型デフレについて書いた著書において、次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この仁義なき安売り競争の口火を切ったのは、人気カジュアル
ブランド、ユニクロが2009年3月に発表した「990円ジー
ンズ」だった。1000円以下のジーンズは小売業界に大きな衝
撃を与え、ライバル企業がこれに追随した。同年8月にはイオン
が880円、10月には西友が850円、ディスカウント店を展
開するドン・キホーテに至っては、690円という破格の低価格
ジーンズを競って売り出している。
 食事時ともなると、250円弁当を売る店の前に長い行列がで
きる。サラリーマンのお昼の定番である定食類も500円以下、
牛井は200円台まで値下がりし、一度購入すれば、期間中は毎
回値引きサービスがある上に、かけうどんが無料になるうどん
定期券″まで発売された。           ──浜矩子著
     『ユニクロ型デフレと国家破産』/文春新書/759
―――――――――――――――――――――――――――――
 かつて2000年代に、景気が少し回復したときがあったので
す。デフレであっても景気回復は起きるのです。そのときは「実
感なき景気回復」といわれたものです。
 当時は企業は利益を上げていたのですが、デフレが続く先行き
不安で、企業は利益を貯め込み、取引先や従業員に分配しようと
はしなかったのです。デフレのときは、どうしてもこのように企
業家のマインドが冷え込んでしまうのです。
 しかし、今回も「実感なき株高」といわれますが、政府の努力
もあって、企業経営者は利益を取引先や従業員に還元させる努力
をするようになっています。そして、その効果は少しずつあらわ
れているのです。起業家のマインドが変化したからです。
 つまり、企業経営者は、今までとは違う新しい稼ぎ方にシフト
し、より積極的な経営をするようになってきているのです。日本
企業は円高時代には生き残りのためのグローバル化を推し進めて
きたのですが、現在では「海外への投資案件で稼ぐ」というモデ
ルを積極的にはじめています。つまり、攻めの経営です。
 ソフトバンクや第一生命、サントリーがやっているように、海
外企業を積極的に買収するというかたちでの海外投資を積極化さ
せているのです。最近では、そういう投資案件が利益を出し始め
それが円安によってさらに利益を嵩上げされるというようによい
循環が生まれつつあるのです。
 これについて、第一生命経済研究所主席エコノミストの嶌峰義
清氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 いま日本で起きているのは、1円を削りに行く消耗戦から、1
円でも高くする商品開発の時代への転換です。まさにデフレ脱却
の前段といえる現象であり、これが新しく日本経済の歯車を回し
出そうとしている。
 もちろん、これまでの勝者が勝者のままでいられる保証はあり
ません。ただし、企業の生み出す付加価値にまっとうな価格が支
払われる健全な経済が戻ってくるということ。日本経済全体を大
きく躍進させる原動力になる。──『週刊現代』5/2日号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 本稿は4月22日に書いていますが、日経平均株価は再び2万
円を超えて、終値で2万0133円になっています。心配なのは
6月以降に予想される米国の利上げです。
 金融危機は、10年サイクルといわれます。87年のブラック
マンデー、97年のアジア通貨危機、07年のサブプライムロー
ン危機、そして次は2017年ですが、それらの危機の3年前に
米国が利上げを行っているのです。具体的には、84年、94年
そして04年ということになります。
 米国が利上げをすると、新興国の市場に影響が出て、3年ほど
経過すると、先進国の株式市場に大きなダメージがくるのです。
それだけに米国の利上げ時期には注目する必要があります。20
17年が心配です。   ── [検証!アベノミクス/104]

≪画像および関連情報≫
 ●「デフレと相対価格」/池田信夫氏/2009年
  ―――――――――――――――――――――――――――
  毎月送っていただく『文藝春秋』の1月号に「ユニクロ型デ
  フレで日本は沈む」という、浜矩子氏と荻原博子氏の対談が
  出ている。内容は以前の浜氏の記事と同じで、それに荻原氏
  が相槌を打っているだけだが、こんなお粗末な対談が日本の
  代表的な総合雑誌に堂々と出るのは困ったものだ。そもそも
  タイトルの「ユニクロ型デフレ」というのが名辞矛盾である
  ことに彼女たちは(編集者も)気づいていない。デフレーシ
  ョンというのは一般物価水準の下落であり、ユニクロの価格
  が下がるのは特定の財の相対価格の変化である。前者は通貨
  供給量によって起こる貨幣的な現象だが、後者は実体経済の
  変化で、両者はまったく原因が違う。2000年代初頭から
  日本で起きている物価の下落は、この二つの原因が複合した
  ものと考えられる。両者を分離することは困難だが、直近で
  いえば、野口悠紀雄氏も指摘するように、原油価格が1年で
  半減した影響が大きい。またドル安と、それに事実上ペッグ
  しているアジア諸国の通貨の減価によって、輸入物価もほと
  んど半減した。ユニクロが低価格で高い利益を上げているの
  は、こうしたグローバルな相対価格の変化の結果であって原
  因ではない。外需の激減に加えて内需も弱いため、GDPギ
  ャップが拡大している。現在の価格低下がどの要因によるも
  のかは一概にはいえないが、輸入物価も外需もリアルな要因
  であり、金融政策では補正できない。白川総裁が「インフレ
  にするぞ!」と叫んでも、それを実現する政策手段がないと
  インフレ予想は変化しないのだ。  http://bit.ly/1EryFh4
  ―――――――――――――――――――――――――――

浜矩子同志社大学大学院教授.jpg
浜 矩子同志社大学大学院教授
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2015年04月24日

●「追加金融緩和の本当の狙いを探る」(EJ第4023号)

 このところアベノミクスでは、景気回復の顕著な影響が見られ
デフレ脱却に近づきつつあることが感じられます。これは、さま
ざまなデータによって裏付けることができます。
 これは、第1の矢の大胆な金融緩和と第2の矢の機動的な財政
政策が機能した結果です。しかし、これら2つの政策はいつまで
も続けることはできないのです。あくまでも日本経済をデフレか
ら脱却させるためのカンフル剤だからです。
 現在の日銀の国債保有額は約200兆円に達しており、全体の
25%です。そのうえ日銀は毎月8〜12兆円の国債を買い続け
ており、このままのペースでいくと、2018年には全国債の半
分を日銀が保有することになってしまいます。
 そんなことをいつまでも続けていると、世界から財政ファイナ
ンスの烙印を押されるリスクも高いのです。その点は黒田日銀総
裁もよく分かっていて、4月1日の参院予算委員会では次のよう
に答弁しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国債買い入れは2%の物価目標達成のために行っておりまして
漫然と継続することはありません。     ──黒田日銀総裁
―――――――――――――――――――――――――――――
 経済学の世界ではリフレ派は少数派です。つまり、反対派が大
多数なのです。いうまでもなくアベノミクスは、リフレ派の経済
政策をベースにして展開されていますが、現在の状況を見る限り
成功しつつあります。ところが、反対派はそれではこれまでの主
張を否定されることになるので、いろいろ反論します。
 既に述べたように、経済学の世界は、世界一流の経済学者の説
を同じく世界一流の経済学者が正反対の主張で否定し、その両者
ともノーベル経済学賞を受賞している不思議な世界なのです。
 そこで、アベノミクスの今後について対照的な次の2人の対談
をご紹介することにします。信州大学経済学部教授の真壁昭夫氏
と、投資ストラテジストで、ドイツ証券株式会社アドバイザーの
武者綾司氏の対談の一部です。
―――――――――――――――――――――――――――――
真壁:量的緩和という金融政策はあくまで非常時のものというこ
   とを忘れてはいけません。景気が回復してくれば引き締め
   ざるを得ないし、出口戦略が最も難しい。そのことは黒田
   東彦日銀総裁が最もよくわかっている。現在の日銀の政策
   委員会には、量的緩和推進派のリフレ論者がずらりと並ん
   でいますが、果してこのメンバーでうまく出口戦略が描け
   るか・・・。これだけおカネをジャブジャブ流しているの
   だから、どこかで必ず歪みが出る。株や不動産市場でバブ
   ルが発生する懸念があります。
武者:私はそうは思いません。アメリカは計5年間も量的緩和を
   続けて、景気拡大軌道が復元されました。この政策を失敗
   だと考えるアメリカ人は一人もいないでしょう。日本は緩
   和を始めてまだ3年目ですから、あと2〜3年はどんどん
   緩和すればいいのです。今はハイパーインフレのリスクも
   通貨暴落のリスクもないのですから、大相場の環境が整っ
   ている。気がつけば3万円ということも十分ありえる。
              ──『週刊現代』5/2日号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 黒田日銀総裁は、株価の維持や出口戦略のことも十分考えなが
ら金融政策を行っています。それが昨年の追加緩和によくあらわ
れています。
 追加緩和は、2014年10月31日の金融政策決定会合で決
定されたのですが、その内容は同じ日に発表された年金積立金管
理運用独立法人(GPIF)の株式運用比率の拡大に深く関係す
るのです。
 今回のGPIFの運用比率の変更は国内債券の比率を60%か
ら35%に大幅に引き下げ、国内株式と外国株式をそれぞれ12
%から25%へ、外国債券を11%から15%にするという大幅
な変更です。
 これによると、GPIFは約24兆円の国内債券(国債)を売
却することになりますが、これほどの巨額の売りが出ると、国債
の価格が下落してしまうのです。そのため、日銀は追加緩和で長
期国債の買い入れを年間約30兆円増額して国債価格の下落を防
いだのです。この額ならば、GPIFの売りを十二分に消化でき
るからです。
 つまり、GPIFが持つ国債を日銀が市場を通じて買い、GP
IFがその売却資金で、株式市場において国内株式を購入すると
いう構図がここに確立したのです。それが追加緩和の狙いです。
 実は、これまでやっていた銀行などの金融機関が保有する国債
を日銀が買うのと、GPIFが保有する国債を購入するのとでは
大きな違いがあるのです。
 日銀が銀行などの金融機関から国債を購入すると、その代金は
金融機関の日銀当座預金にマネタリーベースとして積み立てられ
ます。しかし、それが使われない限り、マネーストック(マネー
サプライ)にならないのに対し、GPIFから購入した場合には
その代金は、そのままマネーストックとして市中に流通し、実体
経済に直接影響を与えることができるという点です。日本経済が
追加緩和以降に大きな変化を見せているのは、これが原因である
と考えられます。
 追加緩和にはもうひとつ重要なことがあります。それはETF
(上場投資信託)の買い入れ枠を年間1兆円〜3兆円に増額した
ことです。ETFは、次の言葉の頭文字を取った投資信託の一種
で、株と同じように証券取引所で売買することができます。この
ETFは今後日銀の出口戦略のかぎを握ると考えられます。
―――――――――――――――――――――――――――――
     Exchenge Traded Fund/指数連動型投資信託
―――――――――――――――――――――――――――――
            ── [検証!アベノミクス/105]

≪画像および関連情報≫
 ●日銀のさらなる追加緩和は悪影響/ブルームバーグ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  (ブルームバーグ):現時点で一段の追加緩和を行うことは
  日本経済にとってむしろ逆効果になるとの見方が日本銀行内
  で浮上している。関係者への取材によると、足元で輸出と生
  産が持ち直しており、原油価格の下落、消費増税の先送り、
  政府の経済対策などにより、日銀は景気の先行きに自信を深
  めている。そうした中、原油安により消費者物価だけはさえ
  ない動きとなる可能性が高いが、日銀内では、ここで追加緩
  和を行えば、さらなる円安を引き起こし、回復しつつある消
  費マインドに水を差すなど悪影響の方が大きい、との声が上
  がり始めている。日銀幹部の一部で、為替相場に対する考え
  方に変化が生じている可能性もある。BNPパリバ証券の河
  野龍太郎チーフエコノミストは「アベノミクスでは、デフレ
  から脱却することで、日本経済が自律的な回復軌道に乗ると
  いうシナリオを描いていたが、2014年に実際に観測され
  たのは、円安によるインフレ上昇がもたらした景気減速だっ
  た。15年は反対に、原油安によりインフレ低下が景気回復
  をもたらす」と指摘。その上で、「原油安により15年春に
  インフレ率はゼロ前後まで低下すると見られるが、原油安の
  メリットを円安が損なうことを認識し始めた政権は、2%物
  価目標達成時期の先送りを容認する姿勢を示している。日銀
  自身も追加緩和は実行可能性の観点から困難と考えており、
  政治圧力がない中、追加緩和の可能性はますます低下してい
  る」という。           http://bit.ly/1G9pz3D
  ―――――――――――――――――――――――――――

武者綾司氏/真壁昭夫氏.jpg
武者 綾司氏/真壁 昭夫氏
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2015年04月27日

●「ETF買い入れ枠を増やした理由」(EJ第4024号)

 今週からゴールデンウィークに入ります。今回のテーマは既に
106回に達しており、一応書くべきことは書いたと思うので、
5月1日に終了することにします。今回を含めてあと4回という
ことになります。
 アベノミクスを「アホノミクス」と呼び、黒田東彦総裁の日銀
政策を徹底的に批判する浜矩子同志社大学大学院教授は、最近の
インタビューでも次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中央銀行の存立意義は、通貨価値の安定と、それをベースにし
た経済活動の安定を維持することにあります。ところが黒田さん
はむしろ通貨価値を不安定にしてきた。日銀は、ETFの購入な
どを通じ、リスク資産である株式の保有高を大きくしています。
今やジャンクボンド並みにリスクの大きい日本国債もじゃんじゃ
ん買い上げている。財務体質は悪化するばかりです。
 そんな状態でありながら、通貨価値の番人として機能し続けよ
うとするのは、大きな矛盾。自国通貨を安く誘導していくのも、
中央銀行の政策として考えられません。いずれにしても金融政策
の名に値しないことをやっていますね。
     ──2015年4月24日発行「日刊ゲンダイ」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ボロクソです。しかし、ここで浜教授もいっているETFの購
入が今後日銀の出口戦略のかぎを握ることになるのです。それは
一体どういうことなのでしょうか。
 これは、マネックス証券チーフ・ストラテジストの広木隆氏が
主張している政策です。広木氏は「ダイヤモンド・オンライン」
のレポートで、黒田総裁が今後採ろうとしている政策を次のよう
に推理しています。今日のEJはその広木レポートをご紹介する
ことにします。http://bit.ly/1bD0RkP
 安倍政権の戦略は、2016年7月の参院選で勝利し、憲法改
正に向けて衆参両院で3分の2以上の議席を獲得することです。
その達成のためには、アベノミクスの物価目標2%を達成し、デ
フレ脱却を確かなものにする必要があります。具体的には、20
16年夏に「デフレ脱却宣言」を出し、その成果を掲げて参院選
を戦うことが必要になります。
 しかし、国債の買い入れには限界があります。黒田総裁はそれ
に代わるものとしてETFを買い入れることを考えて、昨年の追
加緩和のさい、ETFの買い入れ枠を今までの1兆円から3倍の
3兆円に増加させたのです。
 ここでETFについて理解する必要があります。ETFは投資
信託の一種ですが、株と同じように証券取引所で買ったり、売っ
たりできるのです。ETFの正体は、株価指数──例えば日経平
均やTOPIX(東証株価指数)などの特定のベンチマークに連
動するように作られているインデックスファンドです。
 普通の投資信託は、証券会社や銀行などの「販売会社」を通じ
て購入し、そこを通じて売買します。しかし、売りは、1日に一
度のタイミングに限られますし、価格も後から決まることになり
ます。つまり、売買には不便です。
 これに対してETFの場合は、1日に何度でも売買できますし
株と同じなのです。つまり、「ETF」という銘柄を売ったり、
買ったりできると考えてよいと思います。また、投資信託の場合
は、2〜3%の高い手数料を取られますが、ETFは株と同じ手
数料体系であり、投資信託よりはるかに安いのです。
 ETFがどういうものかある程度わかったところで、広木隆氏
の提案に戻ります。日銀は今後もこのまま国債を買い続けるとい
うかたちでの金融緩和を続けるでしょうが、国債の買い入れには
限界があります。そこで、ある時点で国債の買い入れを国債残高
を維持する範囲にとどめ、その分ETFの買い入れを増やしてい
くものと思われます。
 日銀がETFを買い入れることは、銀行などの金融機関から国
債を買うのと違って、直接株式市場に生きた資金が流れ、株価は
上昇し、実体経済によい影響を与えます。また、日銀はGPIF
が売却する国債を買い入れるので、その代金も株式市場に流れ、
株価を押し上げるとともに実体経済に好影響を与えることになり
ます。現在はそれが功を奏しつつあるのです。
 日銀がETFの買い入れを増加させることのメリットには、次
の4つがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.ETFは金融緩和によってインフレが過熱したときに売
   ればマーケットをコントロールできること
 2.アベノミクスが成功しデフレから脱却できれば、株価が
   上がるので、日銀の財務の健全化に役立つ
 3.ETFを買い入れると、株式市場を通じて実体経済に資
   金が回り、マネーストックに直結すること
 4.ETFの買い入れで株価が上がると、経営者や資産家や
   株主の消費が促進されて、景気が良くなる
―――――――――――――――――――――――――――――
 もし、日銀が国債を売れば国債価格は下落するのでそれはでき
ませんが、ETFであれば、マーケットをコントロールする資金
として使えるのです。
 アベノミクスについては、国内では浜教授のように失敗である
と批判する人は少なくありませんが、23日に来日した世界最大
の資産運用会社で、日本のGDPの500兆円を上回る資金を運
用している米ブラックロックのローレンス・フィンク氏は、アベ
ノミクスに一定の評価を与えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 外国人投資家のアベノミクスへの信頼は揺らいでいない。安倍
首相の訪米も注目している。円安によって日本企業が競争力を取
り戻したことは大きい。     ──ローレンス・フィンク氏
―――――――――――――――――――――――――――――
            ── [検証!アベノミクス/106]

≪画像および関連情報≫
 ●日銀はなぜETFを買うのか/馬養雅子氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本の株に投資しようとするとき、個別の銘柄は3000以
  上あってどの銘柄を買うか選ばなくてはなりませんが、TO
  PIXに連動するETFなら、日本の株式市場全体を買うこ
  ととほぼ同じになるため、個別株式の銘柄選択をする必要が
  なく、市場の方向性を判断すればすみます。また、個別の銘
  柄は、その株を発行した会社が破たんすると、投資したお金
  が大きく減ったりゼロになったりしますが、ETFは数多く
  の銘柄に分散投資しているので、その中のどれかが破たんし
  ても影響は少なく、価格がゼロになることもありません。コ
  ストが低いのもETFのメリットです。投資信託は運用にか
  かるコストが各商品(ファンド)の資産から差し引かれます。
  もしファンドが運用によって4%値上がりしたとしても、コ
  ストが1%かかったら、実質の成果は3%ということになり
  ます。ETFも投資信託なのでコストがかかりますが、「指
  数に組み入れられている銘柄をそっくりそのまま買って保有
  しているので、ファンドに組み入れる銘柄のリサーチなどに
  手間がかからず、その分コストは低くなっています」と今井
  さんは話します。コストが運用成果へ与える影響も少ないと
  いえます。日銀が個別の株や一般の投資信託ではなくETF
  を買っているのは、もしかしたら、ETFを買うことで日本
  の株式市場全体を買うこととほぼ同じになることに理由があ
  るのかもしれませんね。      http://bit.ly/1yZBB2d
  ―――――――――――――――――――――――――――

ローレンス・フィンク氏.jpg
ローレンス・フィンク氏
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2015年04月28日

●「デフレ脱却道遠し/東大指数分析」(EJ第4025号)

 「デフレからの脱却」──これはアベノミクスの目標です。そ
れでは、何をもってデフレからの脱却とみなすのかというと、そ
れは黒田日銀の掲げる「物価目標2%」の達成です。
 それでは、なぜ物価目標が2%になると、デフレから脱却とい
えるのでしょうか。そもそもデフレとは何なのでしょうか。
 実は経済学ではデフレの定義が曖昧なのです。最近の代表的な
経済学の教科書を開いてみても、デフレの定義はないのです。正
確にいうならば、1992年まではないのです。
 1992年までのマクロ経済学の代表的な教科書としては次の
本があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
    広松 毅訳/ドーンブッシュ+フィッシャー著
      『マクロ経済学』/(シーエーピー出版)
―――――――――――――――――――――――――――――
 この教科書には、なんと「デフレーション」という言葉は一度
も出てこないのです。デフレーションという言葉がはじめて経済
学の教科書に登場するのは、1992年のマンキューの次の教科
書からなのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      グレゴリー・マンキュー著/足立英之訳
    『経済学U/マクロ編』/東洋経済新報社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 デフレの記述はこの本の「インフレーション/その原因とコス
ト」という題で、インフレーションを論じているところにこう書
いてあるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 物価の上昇のことをインフレーションと呼ぶ。19世紀には、
物価が下落するデフレーションと呼ばれる現象が長期間にわたっ
て生じた。    ──グレゴリー・マンキュー著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 まるで滅多にかかることのない伝染病のような書き方です。こ
の稀な病気に先進国としては世界ではじめて罹病し、20年近く
そこから脱出することのできないでいる国、それが日本です。ゼ
ロ金利も金融緩和もそこから脱出するために日銀が考え出したノ
ウハウですが、今や世界中でデフレになりそうな国が多くなり、
日本のノウハウが実施されているのです。
 結局、デフレーションとは何でしょうか。現在では次のように
定義されています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 デフレーションとはある期間にわたって物価が下落すること
 である。      ──岩田規久男著『デフレの経済学』
                    東洋経済新報社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは「物価」とは何でしょうか。
 それは総務省で測定している「消費者物価指数(CPI)」の
ことです。簡単にいってしまうと、消費者が購入する生活用品の
価格変動を示す指数のことです。
 総務省がデータを作っているのですが、全国から167市町村
を選び、小売価格はその中で代表的な小売店やサービス事業所約
3万店舗、家賃は2万5千世帯、宿泊料は約530事業所を対象
として全国の調査員が直接訪問して調査しています。これほどの
規模の調査はやはり国でないとできないでしょう。
 この場合、対象となるのはあくまで「普段売っている価格」が
前提であって、特売商品は除外され、安売りされた価格も、商品
が売れた量なども一切カウントされないのです。ある商品が特売
セールでいくら大量に売れても指数には反映されないのです。
 つまり、総務省の調査では、特売などの特殊な条件には左右さ
れない基本的価格が時系列にどのように推移しているかを見てい
むるのです。アベノミクスの目的は、このCPIがある基準年か
ら見て、約2%になるようにしようとしているのです。
 したがって、総務省は特売という一時的な変化で、消費者物価
が左右されるべきでないという考え方に立っています。それはそ
れで正しいと思います。しかし、消費者物価指数には上方バイア
スがあることがわかっています。それは1%といわれています。
 1995年のことですが、米国の連邦議会で消費者物価指数が
不正確だという議論が起きたことがあります。そこで議会が研究
者を集めて調査した結果、1%ほど実態より数値が高く出ること
がわかったのです。
 「東大指数」というものがあります。全国のスーパー約300
店のPOSデータを使い、そのスーパーで販売されるすべての商
品(20万点)の値段、売れた個数をコンピュータで集め、毎日
指数を計算し、東大のホームページで毎日公開されています。車
や衣服を含む幅広い品目が対象に加えられてはいませんが、これ
には特売セールなどの安売り価格も反映されているので、金融機
関やシンクタンク、政府や日銀の関係者にも使われています。東
大の日次物価指数のURLを示しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
       ◎東大日次物価指数プロジェクト
            http://bit.ly/1GucTqI
―――――――――――――――――――――――――――――
 添付ファイルは、アベノミクスが開始された2013年1月か
ら今年の3月までの東大指数の推移(週間平均)と総務省指数を
比較したグラフです。総務省指数の上方バイアスやまだデフレか
ら脱却していない実態が読み取れると思います。この東大指数に
ついては、現在発売中の次の雑誌に掲載されています。
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  「『東大指数』でわかったデフレ退治は進んでいない」
 渡辺努東京大学教授」/『文芸春秋』/2015年5月号
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            ── [検証!アベノミクス/107]

≪画像および関連情報≫
 ●消費者物価を高精度かつ迅速に計測する手法の開発
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  東京大学大学院経済学研究科 教授 渡辺努らの研究グループ
  は日本の消費者物価を高精度かつ迅速に計測する手法を開発
  した。2014年5月24日より、同手法を用いた物価の指
  標(名称「東大日次物価指数」)を日々計測し、ホームペー
  ジ上で公開する。東大日次物価指数は、日本全国のスーパー
  マーケット約300店舗で販売される20万点超の商品(食
  料品や日用雑貨など)の価格を集計した物価指数である。ス
  ーパーでの売れ筋商品を正確に捕捉し、それに基づく集計を
  行うことにより、消費者の実感に近い指数を作成できる。ま
  た、更新までのラグは3日であり、公表まで1ヶ月以上を要
  していた。これまでの指標と比べ大幅に短縮されている。同
  指数は日々更新される。日本では、1990年代後半以降、
  消費者物価の下落(デフレ)が続いており、デフレ脱却を目
  指し日本銀行は新しい金融緩和策を導入している。本手法を
  用いて、消費者物価を高精度かつ迅速に計測することにより
  政策効果のモニターが可能となる。デフレ脱却の確認がタイ
  ムリーにできるほか、予期せぬ物価の急上昇を監視する指標
  としても有効である。また、株式、為替、国債などの市場の
  参加者に物価に関する最新の情報をタイムリーに提供するこ
  とにより、これらの市場における価格形成の効率性を高める
  効果が期待できる。        http://bit.ly/1JG7xsF
  ―――――――――――――――――――――――――――

東大指数と総務省指数jpg.jpg
東大指数と総務省指数
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2015年04月30日

●「国債保有規制案は日本潰しの陰謀」(EJ第4026号)

 2015年4月26日付、日本経済新聞第一面のトップ記事で
黒田日銀総裁が警告を発していたバーゼル銀行監督委員会の方針
が次のように報道されています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎銀行の国債保有規制
  バーゼル委/金利変動に備え/来年にも決定/住宅ローンも
         ──2015年4月26日付、日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 バーゼル委員会によれば、内容は5月中にも発表されるそうで
すが、次の2つの選択肢があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.国債などの金利上昇のリスクを銀行経営の健全性の評価
   に盛り込む共通ルールを導入する。
 2.各国で銀行を監督する当局の権限を強化。金利変動時に
   資本増強などの行政処分を求める。
―――――――――――――――――――――――――――――
 どちらが選択されるにせよ、今までリスク資産でなかった国債
はリスク資産とされ、国債の金利が上昇したとき──国債の価値
は下落──銀行は国債の一部を売却するか、その分資本を増強す
ることになります。このルールの狙いは、国債の金利が突然上昇
しても銀行の経営に影響が出ないようにするものですが、これは
明らかに日本を意識した規制であるといわざるを得ないのです。
 このところ英国とドイツは何かと日本──場合によっては米国
を含めて──目の敵にしています。その典型的な例を上げると、
中国が積極的に推し進めるAIIB(アジアインフラ投資銀行)
のメンバーに日本が参加しないことを承知しながら、G7のメン
バーである英国が真っ先に参加を表明し、ドイツ、フランスがそ
れに続いたことです。
 ドイツのメルケル首相が3月に来日したとき、安倍首相はメル
ケル首相に対して、AIIBへはG7が一体となって、外から透
明性を求めて行くことへ確認を迫っているのです。しかし、メル
ケル首相はそれに対しては無視を決め込み、ドイツに戻ってから
参加を表明したのです。安倍首相のメンツは丸潰れです。
 しかし、ADB(アジア開発銀行)でのノウハウを持つ日米が
参加しないと運営がうまくいかないとわかると、メルケル首相は
一転して安倍首相に電話し、「日本はAIIBに参加すべきであ
る」と要請する身勝手さです。
 それにメルケル首相は、サミットなどで会うたびに安倍首相に
財政再建を強く求めるといいます。ドイツの悪いクセは、他国に
対して自国の経済政策や財政のありかたを押し付けることです。
EU各国はドイツが資金面でリーダーシップを握っている以上、
従わざるを得ませんが、日本にとっては、ドイツの干渉はまった
く余計なお世話でしかありません。
 今回のバーゼル銀行監督委員会の国債保有規制が欧米の日本に
対する牽制であるといえます。その理由は、現在、財政の状況が
極めて悪く、銀行などの国内の金融機関が巨額の国債を持つ国と
いえば日本しかないからです。これに対して、銀行の国債保有比
率が低い国は、英国とドイツなのです。今回のバーゼル委員会の
国債規制案はこれら両国が提案してきたものです。
 それでも日本の長期金利は異常に低く、極めて安定しているの
です。これは、経済の堅実さでは世界一であることを誇るドイツ
にとっては不満なのでしょう。何といっても日本は「世界第3の
経済大国」であり、その面でドイツを上回っています。
 もし、この規制が決まり、日本の国内銀行が前倒しで保有国債
を一斉に売却したらどうなるでしょう。国債金利は暴騰し、日本
経済は完全に破綻してしまいます。つまり、規制を強めることに
よって、国債リスクがかえって高まるのです。
 日本の国債発行額は約860兆円であり、そのうち銀行は1割
強を保有しています。そういう意味で銀行が国債発行の大きな受
け皿であることは間違いないことです。しかし、政府が金融機関
に国債を押し付けてはいないのです。長期金利が少し上がって、
国債価格が値下がりすると、日本国債はたちまち消化されてしま
うのです。確実に利益が出る債券であるからです。
 もうひとつ今回の規制では住宅ローンも対象に含めています。
銀行は追加の資本の積み増しを恐れて、住宅ローンの圧縮に動く
ことは間違いないと思われます。そうすると、住宅市場が冷え込
み、景気への下押し圧力が強くなります。銀行だけを守っても何
のプラスにもならないのです。
 これはドイツが主導する欧米による日本への経済戦争であると
いえます。その証拠にこのバーゼル委員会の発表の直後に欧米系
の格付け会社フィッチ・レーティングスは日本国債を21段階あ
る上から5番目の「Aプラス」から、「A」に格下げしてきたの
のです。おそらくバーゼル委員会による銀行の資本の積み増しは
国債の格付けにリンクする規制になると思います。日本はずっと
デフレのままでいて欲しいという彼らの願いなのでしょう。
 しかし、かつて銀行の不良債権の問題で痛い目に遭っている邦
銀の自己資本は、世界のグローバルな金融機関のなかでもダント
ツに高く、大手邦銀幹部は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  規制の適用時期が数年後なら、利益の蓄積で乗り切れる。
                     ──大手行幹部
―――――――――――――――――――――――――――――
 また、全国銀行協会の佐藤康博会長は今回の規制に関して次の
ように疑問を呈しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この規制は根本的に考え方がおかしい。預金を集めてリスクを
取って、仲介機能を働かせるという金融の基本的な役割が逆の方
向に向かう。            ──佐藤康博全銀協会長
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            ── [検証!アベノミクス/108]

≪画像および関連情報≫
 ●夢老い人の呟き/資本増強か/国債売却か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本などが反対している、数値基準を義務付ける「規制案」
  は、国債や長期固定のローンの様な、銀行の保有資産の価格
  が金利上昇で下落した場合に備え、あらかじめ保険として自
  己資本を積み増す事を義務付けるもの。例えば金利が2%上
  昇した際に発生する損失額をその資産の「リスク量」として
  計算し、リスク量に見合う金額を資本に上乗せする案などが
  ある。日本が反対するのは、邦銀が多額の国債を資産として
  保有しているため。邦銀が持つ日本国債(1月時点)は、約
  128兆円あり、日銀が昨年6月の邦銀の運用状況を基に試
  算したところ、金利が2%上昇すると、邦銀全体で10兆円
  の含み損を抱えるという。もし、一律に数値基準を義務付け
  られると、邦銀は自己資本積み増しか融資縮小、あるいは国
  債売却を迫られる。これまで日銀が買い入れることにより、
  国債価格は上昇し金利は下がっていたが、すでに日銀の保有
  する国債は272兆円、国債残高の30%を超えている。銀
  行が大量に国債を売却すれば国債価格は下落、金利上昇とな
  る。日銀が買い支えようとすれば、実質的な財政ファイナン
  スとなり、円の信用が失われ、暴落する可能性もある。異次
  元の量的緩和は出口戦略が見つかるのだろうか。このニュー
  スはもっと大きく取りあげられるべきだと思うが、あまり大
  きく報道されないのはなぜだろうか?
                  http://amba.to/1IkUfng
  ―――――――――――――――――――――――――――

日本国債市場で高まる日銀の存在感.jpg
日本国債市場で高まる日銀の存在感
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする