2015年03月02日

●「トービンq効果というものがある」(EJ第3984号)

 株価が上昇しています。2月27日午前に日経平均株価は1万
8800円台半ばに達しています。この株価は2000年4月以
来、実に15年ぶりの高値水準なのです。
 ここで「株価はなぜ上がるのか」について考えてみる必要があ
ります。株価というのものは、上がったり、下がったりするもの
です。なぜ、そうなるかというと、投資家がさまざまな経済情報
によって売りと買いを判断しているからです。
 投資家は、ある企業の株が上がると判断すれば買うし、下がる
懸念があれば売ります。つまり、株価は「期待の世界」であると
いえます。景気が良くなるか、悪化するかについても期待の世界
です。どのような「気」を持つかによって「景」は変わると考え
るのです。
 大塚家具の親娘ケンカ騒動のさい、株価はストップ高になるほ
ど上がったのです。普通このような出来事は企業業績については
マイナスですが、投資家は「これによってトップの経営方針が安
定し、かえって業績は伸びる」と判断したのでしょう。
 同様に予想インフレ率が上昇すると、株価は上がるのです。予
想インフレ率が上がり、実際にインフレ率が──平均的ではある
が──上がると、企業の商品やサービスの単価が近い将来上がる
ことが予想されます。これは企業にとっては増収を意味しますが
投資家は増収が予想される企業の株を買うのです。
 投資家は経済がデフレであることが問題があると考えており、
予想インフレ率の向上によってデフレ脱却が期待される状況にな
ると、投資家は企業の業績が改善されると考えて株を買うので、
株価が上がるのです。
 まして安倍首相は、首相になる前の自民党総裁のときから、金
融緩和を宣言しており、それに反応してすぐ円安の動きが出て、
株価が上昇しています。これはやはり近い将来インフレ率が上が
るという期待で株価が上昇したと考えてよいと思います。トップ
の発言でも株価は上がると浜田宏一教授はいっています。
 株価が上がると何が変化するのでしょうか。
 かつて野田総理が国会の答弁で「株価が上がっても株を持って
いる人はよいが、持っていない人は関係がない」という総理らし
からぬお粗末な発言をしたことをご紹介しましたが、株価が上が
ると経済は好循環を始めるのです。
 金融緩和の是非論については改めて述べますが、金融緩和は予
想インフレ率が低い状況でいくらやっても効き目はないのです。
それは多くの人々がデフレが続くと考えているからです。
 しかし、今回は少し予想インフレ率が上がっており、デフレ脱
却期待も生まれているのです。ゼロ金利のデフレ下では、銀行に
お金を置いておいても雀の涙程度の金利しか付かないことに不満
を持っている人は大勢います。
 ところが、現在は緩やかなインフレ予想が生まれており、株価
が上がっているので、銀行にお金を寝かせている人の一部が、株
式投資にお金を回すことは十分考えられることです。まさに現在
はそれが起きているのです。人々が将来インフレになると考える
と株価は上昇するのです。
 ここで、「トービンのq効果」というものについて知っておく
必要があります。「トービンのq」というのは、米国の経済学者
であるジェームズ・トービンが提唱した投資理論です。トービン
はケインズの考え方を支持しているノーベル賞受賞経済学者で、
財政・金融政策でさまざまな論争を展開した人物です。
―――――――――――――――――――――――――――――
    ≪トービンのq効果≫
    トービンのq=株式の時価総額÷実物資産の価値
   株式の時価総額=1株当たりの株式時価額×発行数
―――――――――――――――――――――――――――――
 ある企業の株式時価総額は、株価の終値に株の発行数を掛けれ
ば簡単に算出できます。これは、その企業の「金融的な価値」を
あらわしています。もっと具体的にいうと、その企業を現在買収
するために必要な資金ということもできます。
 これに対して実物資産の価値とは、その企業が持つ生産設備の
総額です。仮に、その設備をすべて買い替えるとした場合のかか
る総額のことです。整理すると次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   「株式の時価総額」 ・・・・ 企業の金融的価値
   「実物資産の価値」 ・・・・ 企業の物的な価値
―――――――――――――――――――――――――――――
 「トービンのq」は、企業の金融的な価値をその企業の物質的
価値で割ったものです。つまり、企業の金融的評価が、その企業
の物的な評価の何倍あるかをあわわす指標が「トービンのq」と
いうわけです。実はトービンのqが1を大きく超えて大きくなれ
ばなるほど、企業の設備投資が増加するのです。
 時価総額で示される企業の金融的価値は、投資家のその企業へ
の期待をあらわしたものです。これに対して企業の物的な価値は
現在におけるその企業の価値をあらわしています。これについて
浜田宏一教授は、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 仮にその企業の株式の時価総額(金融的価値)が、現在の企業
の物的価値を上回っていたら、その企業が新株を発行して投資す
ることで、利益を上げられることを意味する。企業の生産設備の
総額よりも、株式の時価総額のほうが高いということは、投資家
が、「その企業は、その企業の現在の生産設備(物的価値)を利
用することで、これからも利益を出せる」「だから将来有望なそ
の会社に投資をしておこう」と考えていることになるからだ。そ
の結果、その企業の株は買われ、時価捻額が上がり、同時にトー
ビンのqは高くなつていく。   ──浜田宏一/安達誠司共著
         『世界が日本経済をうらやむ日』/幻冬舎刊
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/66]

≪画像および関連情報≫
 ●「トービンのq」について考える
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「トービンのq」とは『資本ストックの総市場価値を資本ス
  トックの再取得価格で除した値のことをいい、「q>1」の
  とき投資は実行される』というもので、著名なケインジアン
  であるジェームズ・トービンが提唱したものである。「トー
  ビンのq」は「(株価総額+負債総額)÷現存の資本ストック
  の買替に必要な費用」と置き換えることができる。「トービ
  ンのq」について考えてみたい。「トービンのq」はケイン
  ズの『資本の限界効率』を応用したものと思われる。そして
  「平均のq」と「限界のq」に分けることができる。「平均
  のq」は上記に示した値のことで、「限界のq」は追加資本
  ストック1単位あたりの費用に対する市場価値の比率と定義
  される。本来、『事業投資』における意思決定の際に用いら
  れるべき「トービンのq」は「限界のq」の方であるが、追
  加資本からの将来収益性を評価することは不可能と考えられ
  ていることから「平均のq」で代用されているといわれてい
  る。ここで少し考えてみたい。あくまで個人的な意見となる
  が『ブラック=ショールズ・モデル』を「限界のq」に応用
  できるのではないかと考える。ブラック=ショールズ・モデ
  ルはヨーロピアンタイプのオプションの価値を算定するもの
  として1974年にフィッシャー・ブラックとマイロン・シ
  ョールズによって考案されたものであり、後に他の資産価格
  を算定することに応用されている。ブラック=ショールズ・
  モデルは、市場で得られる数値をもとに比較的容易に資産価
  値が算定できるとして実務でも応用されているといわれてい
  る。              http://amba.to/1ADu9Zg
  ―――――――――――――――――――――――――――

ジェームズ・トービン教授.jpg
ジェームズ・トービン教授
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2015年03月03日

●「リフレ派経済学者の攻勢が強まる」(EJ第3985号)

 最近書店の経済書の書架に行くと、異変が起きていることがわ
かります。2013年後半から14年にかけて、大量に出版され
ていたアベノミクス批判本は、一部の極端な国家破綻論を除いて
少なくなり、アベノミクスの正当性を訴える本が多くなりつつあ
ります。その代表的なものは次の2つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.浜田宏一/安達誠司共著
   『世界が日本経済をうらやむ日』/幻冬舎刊
   2015年1月30日/第1刷
 2.若田部昌澄著
   『ネオアベノミクスの論点/レジームチェンジの貫徹で
   日本経済は復活する』/PHP新書973
   2015年2月27日/第1刷
―――――――――――――――――――――――――――――
 「1」に関しては、既にEJで何回も取り上げています。アベ
ノミクスの設計者といわれる浜田宏一教授の本はこれで3冊目で
す。1冊目の『アメリカは日本経済の復活を知っている』(講談
社刊)において浜田氏は、当時の白川方明日銀総裁を名指しで、
次のように痛烈に批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私は白川氏が日銀総裁となったとき、心から喜んだ。「これで
真っ当な経済論理に即した金融政策が発動されるだろう」と考え
た。長い間日銀の調査研究畑のリーダーとして、銀行内で支配的
だった企画畑出身者と奮闘してきた鈴木淑夫氏は、「初めて調査
畑から総裁が出た。きちんとした理論、数字の裏づけをもって、
外国語で世界のリーダーと対等に話ができる総裁が出たことは画
期的なことなのです」と語ってくれた。私も白川総裁誕生のとき
まさにそう思った。しかし、実際には・・・。白川総裁には、何
度となく落胆させられた。彼は出世への道を進むと同時に、世界
でも異端というべき「日銀流理論」にすっかり染まってしまって
いったのだろう。(中略)(白川氏は)日銀という組織で生きる
ため、日銀の昔からの政策観やしきたりに無理に合わせようとし
てきたのではないか。あるいは、経済学の学習者として経済論理
をつかむ力と、事態に応じて臨機応変に、しかも自分の責任のも
とで、国民のために経済政策を司る力には違いがある、と考える
ことでしか、彼の変貌は理解できない。    ──浜田宏一著
    『アメリカは日本経済の復活を知っている』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 浜田氏は、白川氏が日銀総裁になってからも深刻なデフレに手
を打とうとしない日銀に失望し、若田部昌澄氏と勝間和代氏との
共著『伝説の教授に学べ!本当の経済学がわかる本』に日銀総裁
への公開書簡を載せて、白川総裁に本を謹呈したのです。そこで
は、白川日銀総裁を「歌を忘れたカナリヤ」と表現し、次のよう
に書かれています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 若者の就職先がないことは、雇用の不足により、単に現在の日
本の生産力が失われるだけではありません。希望に満ちて就職市
場に入ってきた若者の意欲をそぎ、学習による人的能力の蓄積、
発展を阻害するのです。日本経済の活力がますます失われていき
ます。(中略)白川君、忘れた「歌」を思い出してください。お
願いです。           ──浜田宏一著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 浜田氏によると、この本は白川総裁と日銀審議委員全員に謹呈
されたのですが、白川総裁からは「自分で買います」という返書
とともに送り返されてきたそうです。
 これでわかるように、経済学者は自分の理論にこだわり、状況
が変化し、内容に大きな矛盾が生じても訂正し、変更することが
できない人が多いようです。
 「2」の若田部昌澄早稲田大学政治経済学術院教授は、浜田宏
一教授が「畏友」と呼ぶリフレ派の経済学者です。この本の出版
には、リフレーション政策の元祖といわれるポール・クルーグマ
ン米プリンストン大学教授から推薦文が寄せられています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    低成長と格差の時代は終わらせることができる
             ──ポール・クルーグマン
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、浜田氏の新刊書の「あとがき」には、最近の白川氏
とのあつれきが次のように記述されています。白川前総裁はアベ
ノミクスによって、日本経済に活力が出てきている事態になって
も、まるで反省をしていないようです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2014年の秋にソウルで行われた「世界知識フォーラム」で
私は久しぶりに日銀の白川前総裁とお会いした。国民のためとは
いえ、これまで表の中央銀行総裁に対して私の言葉が過ぎていた
かもしれないので、できたら仲直りをしたいと思って出かけたの
だ。ところが、フォーラムでのパネルディスカッションで白川前
総裁は現役時代と同じく、「金融政策は時間稼ぎにすぎない」と
繰り返した。さらに、デフレ傾向にあるのに利上げしてユーロ圏
の沈滞をもたらしたと思われるジャン・タロード・トリシュ欧州
中央銀行前稔裁、そして韓国のウォン安政策を転換し、金融引き
締めで韓国経済を低迷させた韓国銀行(中央銀行)のキムジュン
ス金仲秀前総裁とのパネルディスカッションでは、量的緩和の問
題点や危険性ばかりを強調した。アベノミクス的政策に対する真
正面からの挑戦であった。そこで一聴衆であった私は思わず「こ
れでは日の目を見られない韓国国民がかわいそう」と前置きして
話をしてしまったので、白川さんとの仲直りは達成できずに終わ
ってしまった。         ──浜田宏一/安達誠司共著
         『世界が日本経済をうらやむ日』/幻冬舎刊
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/67]

≪画像および関連情報≫
 ●クルーグマンが教えてくれる経済学の驚き/山形浩生
  ―――――――――――――――――――――――――――
  『クルーグマン教授の経済入門』は、山形浩生にとっても経
  済学理解の原点となる名著だった。そしてまたそれはクルー
  グマンの名コラムニスト的なスタイルを確立するという意味
  でも、記念碑的な本だ。その価値は現在もなお変わっていな
  い。ぼくの訳した『クルーグマン教授の経済入門』は、原著
  はもう20年も前の本だ。昨年ノーベル経済学賞を受賞した
  ポール・クルーグマン若かりし日の名著となる。テーマは、
  アメリカ経済。ぼくの訳が初めて出たのも、十年以上前にな
  る。にもかかわらずこの本は未だに古びていない。もちろん
  時事ネタは仕方ない。でも本書は時事ネタそのものの話より
  も、それをどう見るかという経済学的な考え方にこそ価値が
  ある。そしてぼくを含む多くの経済学素人は、かれの教えて
  くれる経済学、特にその限界についての記述に心底驚かされ
  たのだった。特にみんながびっくりしたのは、生産性がなぜ
  上がるかよくわからない、という話だ。素人の多くは、生産
  性くらいすぐに上げられると思っている。ITを入れれば、
  教育をよくすれば等々。でもそうじゃないという。多くの人
  は、これをはっきり言ってもらったことで救われた。やり方
  がわかっているのにそれができないなら、単なる無能だ。で
  もそうでないなら――やり方がわかっていないなら――見当
  違いなところでで犯人捜しをして時間を無駄にすることもな
  くなる。             http://bit.ly/1E53APa
  ―――――――――――――――――――――――――――

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浜田 宏一教授の近刊書
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2015年03月04日

●「なぜ日本はデフレが長期化したか」(EJ第3986号)

 日本の経済学者の多くは、表面はともかくハラのなかでは、実
はアベノミクスに反対です。どうしてかというと、もしそれが正
しいのであれば、20年前からそういう主張をしていないとおか
しいですが、そういう気配はなかったからです。
 私は安倍政権にはいろいろな問題があると思っていますが、こ
とアベノミクスに関しては一定の評価をしているのです。それは
ある意味において、安倍政権が財務省のポリシーに強い抵抗をし
ているフシがあるからです。その点は評価できます。
 2014年4月の消費税増税の実施に関して、反対した経済学
者は、いわゆるリフレ派といわれる学者に限られています。アベ
ノミクスの設計者である浜田宏一イェール大学名誉教授、消費税
を実施すべきかどうかを議論する財務省主催の会議において、委
員のほとんどが予定通りの実施に賛成であるなか、「増税の実施
は絶対反対」を貫いた若田部昌澄早稲田大学政治経済学術院教授
は、いずれもリフレ派の経済学者です。リフレ派の元祖といわれ
るクルーグマンプリンストン大学教授も、もちろんメディアを通
じて増税に反対を表明しています。
 ところでアベノミクスの目的は何でしょうか。
 一般人からすると「景気の回復」でしょうが、安倍首相は「デ
フレからの脱却」を主張しています。確かにデフレから脱却でき
れば景気は回復するというのであれば納得できます。黒田日銀総
裁は「物価目標2%の達成」を掲げています。しかし、景気が良
くなれば物価が上がるというのはわかりますが、経済政策で強制
的に物価を上げると景気が回復するというのは、一般人にはなか
なか腑に落ちにくいと思われます。
 そもそもデフレとは何でしょうか。デフレは良くないことなの
でしょうか。
 デフレは必ずしも悪いことではないという意見があります。日
本がデフレから20年以上も脱却できないでいるのは、そう考え
ている論者──経済学者や政治家や官僚など──が少なからずい
るからです。
 デフレとは物価が下がり続けることであるといわれますが、そ
れ自体は悪いことではないはずです。むしろ、かつてはインフレ
の方が怖いと考える人の方が多かったはずです。
 この点について、竹中平蔵氏は次のようにわかりやすく説明し
ているので、ご紹介しましょう。
―――――――――――――――――――――――――――――
 デフレは、ある意味ではインフレよりももっと怖いんです。商
売をしている人を考えてみましょう。例えばパンを売っている人
の場合、100円のパンの単価が10円、10%下がったとしま
す。パンを買う人にとっては10円安くなってうれしいかもしれ
ません。でも、仕入れのコストも10%下がり、経費も人件費も
もちろん売上も全部10%下がるんです。
 その程度だったらあまり影響がないと思われるかもしれません
けれども、例えばすでに契約していた住宅ローンなどは絶対に下
がらないわけですよ。数ヶ月前に仕入れた小麦粉の料金を払う場
合も「いまは安くなったから」と10%値引きしてもらえること
なんてあり得ません。収入は減っても、過去の借金は下がってく
れないんです。だからデフレの見えない怖さというのは、借金が
相対的にどんどん重くなっていくということです。
   ──田原総一朗/竹中平蔵著/『ちょっと待って!竹中先
生、アベノミクスは本当に間違ってませんね?』/ワニブックス
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、モノの値段は下がっても、借金は下がらないというこ
とです。給料が今後少しずつ下がり続ける状態が続いたら、誰も
怖くて住宅ローンなんか組めないはずです。ですから、投資も消
費も伸び悩み、経済が停滞してしまうのです。そういう意味で、
経済停滞の諸悪の根源はデフレなのです。
 日本のデフレが長期化しているのは、それを国や政府が放置し
ていたことです。ここで「国」とは公務員や官僚のことであると
いう立場に立つと、彼らは自身が経済停滞が原因で職を失う心配
がないうえに、所得は景気によって左右されず一定なので、物価
が下がり続けるデフレの方が都合がよいのです。だから、そこか
ら真剣に脱却しようとは考えなかったのです。
 その点政府には責任があります。政治家、とくに与党の政治家
には選挙があるので、デフレが深刻化して雇用情勢が悪化すると
当選できなくなる恐れがあるのです。しかし、日本の政治はEJ
で何度も述べているように、国民の手にはなく、公務員や官僚に
握られています。政府がデフレから脱却しようとするには、公務
員や官僚の巣窟である財務省と戦う必要があります。それには強
い信念と政治力、それに日銀を味方に加えることが必要です。そ
れとデフレから脱却するための正しい経済に関する知識が必不可
欠です。それが今までの政権にはなかったのですが、安倍政権は
それをやろうとしています。現時点では、それが成功するかどう
かはわかりませんが、そこは大いに評価できるところです。
 ここで大事なことがあります。デフレが日本経済に与える影響
を「個人」の視点だけで考えてはならないということです。浜田
宏一教授は、これについて、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 デフレの是非を考える場合、「個人とは、モノを購入する主体
(消費者・需要者)であると同時に、モノを生産する主体(労働
者・供給者)でもある」ことを考えて、判断しなければならない
のだ。             ──浜田宏一/安達誠司共著
         『世界が日本経済をうらやむ日』/幻冬舎刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 デフレについて考えるとき、忘れてはならないことは、世界で
デフレになっているのは日本だけであるということです。どこの
国もデフレにだけはならないように、周到な手を打ってそれを防
いでいるのに、日本はこれまでデフレをそのまま放置してきたの
です。         ─── [検証!アベノミクス/68]

≪画像および関連情報≫
 ●アベノミクス、広がる懐疑的評価とデフレ待望論
  ―――――――――――――――――――――――――――
  異色の経済本が出版された。『99%の国民が泣きを見るア
  ベノミクスで貧乏くじを引かないたった一つの方法』(増田
  悦佐/マガジンハウス)だ。著者の増田悦佐氏はニューヨー
  ク州立大学助教授を経て世界的金融グループのHSBC証券
  など外資系証券会社で勤務した経歴を持ちながら、米国の経
  済政策を徹底批判してきたエコノミストだ。増田氏は本書の
  中で、そもそもアベノミクスのインフレ政策に決定的な錯誤
  があると指摘している。「(インフレは)借金のし放題とい
  うひと握りの恵まれた連中だけがますます儲けて、ふつうの
  庶民にはちっとも恩恵が及ばない、まさに国民の99%が泣
  きを見るような経済状態なのだ」(本書より)「物価の上昇
  と通貨価値の下落が継続的に続く状態」であるインフレでは
  借金をしても実質負担が減る。儲けられるのは、多額の借金
  があって、その借金の元本の目減り分が非常に大きい人たち
  政府や一流企業、金融機関、個人でいえば一部の金持ちに限
  られるというわけだ。それはインフレを目指してきた米国を
  見ればわかるという。一部の富裕層へ富が集中し、所得上位
  1%の所有分が2割近くに及ぶ。一方で、飲食業界などの勤
  労者は低賃金。医療サービスや大学の授業料は値上がりし、
  貧富の格差を示すジニ係数は日本よりかなり高い。インフレ
  で勤労者の所得が増えるわけではないのだ。
                   http://bit.ly/1wHOI1D
  ―――――――――――――――――――――――――――

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デフレは諸悪の根源と説く竹中 平蔵氏
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2015年03月05日

●「デフレを過小評価するプロもいる」(EJ第3987号)

 デフレは必ずしも悪いものではない──素人だけではないので
す。専門家でもそう思っている人が日本では少なくないのです。
浜田宏一教授が指摘する2人の専門家の主張を参考に考えてみる
ことにします。第1の例は、佐々木融氏の著書の次の主張です。
佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行債券為替調査部長と
いう金融のプロです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 デフレであれば多少それが続いたところで、個人にとっては購
買力が高まるので、実は幸せなことである。さらに、普通に会社
に入って勤務を続けていれば、多少賃金制度などが変わってきた
とはいえ、歳をとっていくなかで昇給等によりそれなりに名目賃
金は増える。デフレで物の価格が下がるなかで、賃金はそれなり
に増えるのであるから、実質的な購買力は結構上がっている。
 ──佐々木融著『弱い日本の強い円』/日経プレミアシリーズ
                ──浜田宏一/安達誠司共著
         『世界が日本経済をうらやむ日』/幻冬舎刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで佐々木氏が想定している普通の会社とはどういう企業な
のでしょうか。大企業とはいわないものの、相当業績が安定した
企業を前提にしていると思われます。そうでなければ、定時昇給
があり、名目賃金は増えないからです。
 添付ファイルは、日本人の現金給与総額と消費者物価指数の推
移を示したものです。これをみると、「それなりに名目賃金が増
える」どころか、1996年を頂点として現金給与総額は年々減
少を続けているのです。つまり、佐々木氏のいうような賃金がそ
れなりに増える状況は少なくとも日本では起きていないのです。
 定職があり、年功序列に支えられた人だけでないと、「実質的
な購買力は結構上がり」はしないのです。佐々木氏に対し、浜田
宏一氏は、次のように厳しく批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 佐々木氏は重要なことを見落としている。それは「デフレ下に
おいて雇用は伸び悩み、賃金も減り続けてきた事実である」。
          ──浜田宏一/安達誠司共著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 デフレが進行すると、商品の値段が下がり、それを購入する人
にとっては多少ハッピーかもしれないが、企業の収益も減るので
従業員の賃金が減り、最悪の場合、解雇される可能性もあるので
す。一家の大黒柱が職を失う恐れもあるということです。
 第2の例として浜田宏一教授は、池尾和人慶応義塾大学教授の
2010年10月5日付のダイヤモンドオンラインの発言を取り
上げて次のように批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 デフレを最重要視する人々は、時に戦前の恐慌時をたとえに持
ち出す。そのときのデフレは確かに大問題だった。だが、今は2
つの点が違う。第1に相対価格が非常に大きく動いている。平均
値はマイナス1%程度だが、30%も下落している商品もあれば
上昇している商品もある。戦前は一律に低下した。第2は、当時
のデフレは物価の下落率が2ケタ以上の異常事態だった。だが、
現在は1%程度の下落が続き、スパイラルに加速しているわけで
はない。      ──池尾和人氏  http://bit.ly/1wFqhau
―――――――――――――――――――――――――――――
 池尾氏のいいたいことは、要するに「デフレ、デフレと大袈裟
なんだよ」ということではないかと思います。デフレといっても
「たかだか年率1%程度で物価が下落する程度のデフレ」に過ぎ
ないので、大騒ぎをするレベルではないというのです。
 こういう経済学者が日本では多いので、今まで長い間にわたっ
てデフレが放置されてきたといえます。しかし、その「年率1%
程度のデフレ」が問題であると浜田教授はいうのです。なぜなら
その程度のデフレでも継続すると、日本の雇用状況を確実に悪化
させるからです。
 フィリップス曲線というものがあります。ニュージーランド生
まれの経済学者、A.W.フィリップスが、1958年の論文の
なかで発表したものです。
 フィリップス曲線とは、縦軸に「インフレ率」、横軸に「失業
率」をとって描くグラフです。このグラフを見ると、インフレ率
が高くなるほど失業率が減少し、デフレ(インフレ率がマイナス
になる)が進行するほど失業率が増加することがわかります。
 浜田宏一氏は、池尾氏のいう「年率1%程度のデフレ」につい
て、デフレになっていない1992年〜1993年の数値とデフ
レが最も深刻化した2010年の数値を比べてみることを勧めて
います。
 デフレではない1992年〜1993年はインフレ率が2%程
度でしたが、完全失業率は2年間平均で2%です。失業率は非常
に低く、ほとんど完全雇用といえます。
 これに対してデフレが最も深刻化した2010年は、平均マイ
ナス1・25%のデフレになっていますが、完全失業率は5・1
%まで上昇しています。最もよかったときから完全失業率が約3
%悪化したことを意味しています。しかし、この3%の悪化は、
約86万人の失業者が増えることを意味しており、これが年率1
%程度のデフレの恐ろしさです。
 また、浜田教授によると、完全失業率が3%のときの若年層失
業率は10・8%以上にまでなっているのです。若年層とは15
歳〜24歳の年齢層のことです。これは、同世代の若者のうち、
10人に1人が職についていないという凄惨な状況を意味してい
ます。このような悲惨な若年層失業率は、年率1%程度のデフレ
から起きているのです。
 このように、デフレは年率1%程度なら大したことはないとす
る人は、日本の高名な経済学者のなかにもいる──浜田宏一教授
は怒りをもってこう訴えているのです。
            ─── [検証!アベノミクス/69]

≪画像および関連情報≫
 ●フィリップス曲線について/三橋貴明氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本の場合、実に美しいフィリップス曲線が描けます。19
  80年以降のデータを見ると、インフレ率が上昇すると失業
  率が下がり、「インフレ率(GDPデフレータベース)2%
  で、失業率が2%前半に接近することになります。興味深い
  ことに日本は、インフレ率が、2%、3%、5%と上昇して
  いったとしても、失業率は2%を切りません(1980年以
  降は)。すなわち、我が国にとって失業率2%とは「完全雇
  用」である可能性が高いのです。逆に、インフレ率がマイナ
  スとなり、デフレが深刻化していくと失業率は上昇します。
  もっとも、日本の失業率は「今回のデフレーション」の期間
  ついに6%を超えることはありませんでした。日本の失業率
  は2%から6%の間を推移し、インフレ率と極めて強い相関
  関係を保ちながら動くのです。それに対し、アメリカは「一
  応」フィリップス曲線が成り立っているように見えないこと
  もないのですが、日本ほど美しい曲線にはならないのでござ
  います。フィリップス曲線が「美しくなる」ためには、「イ
  ンフレ率が上昇し、景気が良くなると、国民が働き始める」
  必要があります。当たり前のことですが、国民が働こうとし
  ない、厳密には「労働市場に参加し、職を得ようとしない場
  合、インフレ率と失業率のトレードオフの関係は成り立たな
  くなります。すなわち、インフレ率が健全で好景気に見え実
  際に職があるにも関わらず、国民が労働市場で職を得ようと
  しない場合、フィリップス曲線の「美しさ」は消滅します。
                   http://bit.ly/1M470D0
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/浜田宏一/安達誠司共著の前掲書より

物価よりも給与のほうが下がっている.jpg
物価よりも給与のほうが下がっている
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2015年03月06日

●「デフレと人口減少は無関係である」(EJ第3988号)

 藻谷浩介氏という人がいます。現在は、日本総合研究所主席研
究員、日本政策投資銀行特任顧問を務めるかたわら、平成の大合
併前の約3200市町村のほぼすべてを訪れ、地域復興や地域経
済の分野で研究・著作・講演を重ねている著名人です。
 この藻谷氏の代表作は、次の著作で、この本は非常によく売れ
ているそうでうす。
―――――――――――――――――――――――――――――
         藻谷浩介著/角川oneテーマ21
    『デフレの正体/経済は「人口の波」で動く』
―――――――――――――――――――――――――――――
 今日のEJはこの本の内容に関連してアベノミクスについて考
えるので、何はともあれ本の内容について知る必要があります。
たまたま神奈川新聞が、本書の内容を次のように要領よくまとめ
てくれているので、この本を読んでいない人のために、ご紹介す
ることにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 15歳から64歳の生産年齢人口、いわゆる現役世代の減少に
注目し、日本経済の低迷を分析した。統計データから日本の輸出
力の高さを明示。内需不振については「若者の車離れ」「景気変
動」「インターネットの普及による出版不況」「地域間格差」な
どとは関係がなく、購買力のある現役世代の減少と貯蓄が消費に
回らない高齢者の激増が原因であると指摘している。
 経済を動かしているのは景気の波ではなく、人口の波だとし、
「経済成長率」だけを指標にした考え方で経済を再生することは
困難で、人口構造に合わせた対策を進める重要性を訴えた。具体
的には、高齢富裕層から若者への所得移転、女性の就労と経営参
画の促進、訪日外国人観光客と短期定住者の増加による経済の再
活性化を提言する。  ──神奈川新聞 http://bit.ly/1KbHEpj
―――――――――――――――――――――――――――――
 この本の発売日は、2010年6月10日で、ちょうど日本の
デフレが最も深刻になった時期であり、実にタイミングのよい発
売だったといえます。しかし、この本は、デフレについての正し
い判断を誤らせる役割も果したのです。この本の発売後「日本の
デフレは少子高齢化による生産年齢人口の減少によって引き起こ
されている」という「人口減少デフレ説」が広がったからです。
 しかも、この説に乗ったのが時の白川方明総裁率いる日本銀行
なのです。日銀に対する金融緩和をやれという圧力をかわす格好
言い訳になる考えたからです。浜田宏一教授は、この「人口デフ
レ要因説」について、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日銀は、「人口がデフレの要因である」ことも主張したいらし
い。ところが、人口をデフレに結びつけるのは、理論的にも実証
的にも根拠のないものだ。もちろん人口は成長の要因にはなるが
実質生産に、人口あるいは生産年齢人口が影響するのは当たり前
のことである。しかし、貨幣的現象である物価、あるいはデフレ
に人口が効くというのは、経済の解剖学、すなわち「国民所得会
計」から見ても、生理学すなわち「金融論」から見ても、まった
く的外れな議論だ。医学の発達した社会で、床屋での素人談義で
患者の診断と治療法を決めようとしているのが日銀の姿なのだ。
                      ──浜田宏一著
    『アメリカは日本経済の復活を知っている』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 結論からいうなら、藻谷氏の本で述べられている「デフレ」は
経済学でいうところのデフレではないのです。デフレとは「一般
的な物価水準の持続的下落」のことであり、国際機関ではデフレ
を「GDPデフレータの2年連続のマイナス」としています。つ
まり、デフレとは「一般物価」というマクロ経済現象なのです。
 これに対して、藻谷氏のいうデフレは、耐久消費財などの個別
品目の価格の下落を意味しているのです。要するに、藻谷氏のい
うデフレはミクロ現象であって、マクロ経済学でいうところのデ
フレではないのです。
 ところが藻谷氏のデフレはミクロ経済学であるだけに、一般人
にはかえってわかりやすいのです。普通「物価」といえば、そう
いうものの価格を指すからです。日銀の2%物価目標における物
価が、個別品目の価格ではなく、全品目の加重平均である物価指
数であるといわれてもピンとこないのは当然のことです。
 もし、人口減少がデフレの原因であるならば、現役世代の人口
が減少した国では、デフレが起きていることになります。そこで
1988年以降複数年にわたって現役世代の人口が減少した国に
おける生産年齢人口増加率とインフレ率を比較してみます。
―――――――――――――――――――――――――――――
       生産年齢人口増加率 インフレ率(消費者物価)
 ラトビア      −2.6 %         4.8 %
 リトアニア     −2.3 %         4.8 %
 ブルガリア     −1.4 %         4.9 %
 日本        −0.9 %        −0.2 %
 クロアチア     −0.8 %         3.0 %
 ハンガリー     −0.4 %         5.0 %
 エストニア     −0.4 %         4.4 %
 ポルトガル     −0.3 %         1.9 %
 ドイツ       −0.2 %         1.6 %
 セルビア      −0.2 %         9.0 %
                ──浜田宏一/安達誠司共著
         『世界が日本経済をうらやむ日』/幻冬舎刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 これによると、ラトビア、リトアニア、ブルガリアの3国の方
が日本よりも現役世代の減少が生じています。しかし、これらの
国で起きているのは、日本のようにデフレではなく、インフレな
のです。現役世代の減少でデフレになっているのは日本だけであ
るということです。   ─── [検証!アベノミクス/70]

≪画像および関連情報≫
 ●デフレと人口減少は関係ない/浜田宏一教授
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本国内では今なお多くの識者がこの「人口減少デフレ説」
  を支持している。さらには、当の日銀がこの説を支持し、あ
  ろうことか白川方明前総裁までが「日銀にデフレの責任はな
  い」ことの根拠としたのである。そして、「人口減少デフレ
  説」を支持している人たちは、その裏にある、もう一つの大
  切な事実を見落としている可能性が大きい。そもそも「現役
  世代」の意味は、「働く現役世代」のことである。「働く世
  代の人口」が減った時に真っ先に起こることは、「日本の生
  産能力が低下すること」である。これは、「企業の供給能力
  が低下すること」に他ならず、それと同時に「需要の量」も
  減るのである。つまり「現役世代」が減少すれば、確かに日
  本全体の需要が減り、消費や投資が減る可能性はある。「人
  口減少は経済成長鈍化の原因の一つである」ことは疑いのな
  い事実である。しかしながら、人口減少がデフレの原因では
  決してない。仮に生産年齢人口の減少が起きた時に、日本全
  体の商品・サービスの供給量は減らず、消費だけが減るとし
  たら、確かに、(同じ量の商品・サービスを売ろうとするな
  ら)企業は値下げをせざるを得なくなる。すなわち、デフレ
  が起こる。しかし生産年齢人口が減少し、現役世代全体の消
  費の量が減ったとしても、同時に商品・サービスの供給量が
  減れば、消費も供給も減るわけだから、物価に変動は起こら
  ないのである。すなわちデータ的にも理論的にも、「人口減
  少デフレ説」は間違いである。
          ──浜田宏一/安達誠司共著の前掲書より
  ―――――――――――――――――――――――――――

藻谷浩介氏.jpg
藻谷 浩介氏
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2015年03月09日

●「『デフレの正体』はなぜ売れるか」(EJ第3989号)

 藻谷浩介氏の著作、とくに『デフレの正体』(角川oneテー
マ21)がベストセラーズになり、今でも売れているのには、い
くつもの偶然が重なった結果でもあるといえます。
 これに関連して述べておきたいことがあります。安倍政権のこ
とです。4日のEJでも述べたように、安倍政権にはいろいろな
問題点がありますが、その経済政策──アベノミクスは、ここま
での検討から、必ずしも間違っていないということです。
 藻谷氏の本が出版された2010年は日本はデフレの真っ只中
にあったのです。2008年9月のリーマンショック以来、米国
をはじめとする世界各国の中央銀行が金融緩和政策をとるなかで
日本だけはやらなかったので、日本経済はひどい円高に苦しめら
れていたのでです。
 時の日銀総裁は白川方明氏です。日銀には日増しに金融緩和へ
の圧力が高まっていたのです。そういうときに『デフレの正体』
は発売されたのです。このあたりから、日銀は「人口がデフレの
原因である」という主張をはじめます。とても偶然の一致とはい
えないタイミングの良さです。
 その頃、藻谷氏の本が評判になり、「デフレは生産人口の減少
が原因である」とする説が日本中に広がりつつあったので、日銀
はそれに便乗したとしか思えないのです。本が好調に売れている
ときに、日銀も同じようなことをいいはじめたので、それが本の
主張を裏付けるかたちになって、さらに藻谷氏の本が売れるとい
う構図になったと思われます。
 しかし、藻谷氏の主張する人口減少デフレ説は、明らかにマク
ロ経済学でいうところのデフレとは違うものです。私の記憶では
そのことを指摘されたとき、藻谷氏はそれをいったんは認めてい
るのです。さらに藻谷氏は記者から「他にも生産年齢人口が減っ
ている国はないのですか?」と質問されると、次のように答えて
います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 生産年齢人口減少にいくつか他の条件が加わったから、日本で
だけこのような供給過剰(デフレ)が起こっている。(一部略)
日本以外には、1人当たりのGDPがトップクラスで、かつ居住
外国人を含めた生産年齢人口が減っている国はない。(一部略)
日本は世界の成熟の最先端を走っている。   ──藻谷浩介氏
                ──浜田宏一/安達誠司共著
         『世界が日本経済をうらやむ日』/幻冬舎刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに、藻谷氏は「日本以外の生産年齢人口が減少している
国は発展途上国だから、デフレになっていない」と答えているの
です。しかし、EJ第3988号で示した生産年齢人口増加率と
インフレ率の比較表では、世界の国々のなかで9番目に生産年齢
人口が減少している国としてドイツが上げられていますが、ドイ
ツはデフレにはなっていないのです。藻谷氏は、これをどのよう
に説明するのでしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
       生産年齢人口増加率 インフレ率(消費者物価)
 ドイツ       −0.2 %         1.6 %
                   http://bit.ly/1EqW8wy
―――――――――――――――――――――――――――――
 安倍政権になると、藻谷氏は『里山資本主義』(角川oneテ
ーマ21)を上梓し、安倍政権の進めるアベノミクスを徹底的に
批判しはじめるのです。そうすると、安倍政権を批判し続ける日
刊ゲンダイ紙などの批判勢力は、藻谷氏を持ち上げ、反論を煽る
のです。それが藻谷氏の主張の追い風になって、さらに本が売れ
ることにつながっているのではないかと考えられます。
 しかし、もともとデフレのとらえ方が異なるのですから、議論
にならないのです。「高校生からのマクロ・ミクロ経済学入門」
というブログがあります。このブログの主宰者である北海道の高
校教諭の菅原晃氏が藻谷氏の『デフレの正体』を取り上げて批判
したところ、藻谷氏から次のコメントが書き込まれたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 わかってますよ。ですが、対外債権が積みあがっていることす
ら知らない人が余りに多いので、このように書いているのです。
問題は内需が減少する一方のために、対外債権が幾ら積みあがろ
うと国内投資も増えないということですよね。その原因は、あな
た方の言っているコンベンショナルなマクロ経済学で解けるので
すか?日銀がインフレ誘導すれば内需は増加すると?あなたは、
7章と8章をどう読んだのか?そんなことはとっくに知ってたの
ですか?三面等価なんて、資産が腐る世界では意味がない、その
ことをわかって使っていますか?「自分は経済学を知っている、
こいつは勉強していない」、そんなつまらない矮小なプライドで
モノをいうなってんですよ。経済学なんてどうでもいいのです。
枠組みはどうでもいい。対外資産が積みあがるだけで何の役にも
立たない、なんて老人の繰言を言うな!なんとかしようと考えな
いのか?あんたみたいなあたまでっかちしかいなくなったから、
自慢できることが実践ではなくて理論だけだから、日本はだめに
なるのだ。くやしかったら、自分の実践を少しでも語ってみろ。
対外資産の増加を国内に少しでも還元する努力をしてみろ。そう
でなければ外国に引っ越せ。あるいは早く死んで子供に財産でも
残せ。そういうことです。言い直します。それだけ理解力がある
のであれば、実践力もあるはずだ。早く正道に戻ってください。
                   http://bit.ly/17Zlfdm
―――――――――――――――――――――――――――――
 菅原氏は、これを暴言として民事訴訟を起こし、2011年9
月に勝訴しています。裁判所は原告の訴えを認め、藻谷氏は「罰
金10万円を支払え」といい渡されています。判決理由は「コメ
ントは学問上の論評を超え、ことさら男性を侮辱するもので不法
行為を成立する」となっています。藻谷氏としては、冷静さを欠
く行為であったと思います。── [検証!アベノミクス/71]

≪画像および関連情報≫
 ●脱成長・里山資本主義思想による根拠なきアベノミクス批判
  ―――――――――――――――――――――――――――
   藻谷浩介が、日刊ゲンダイで「安倍政権は経済的な反日の
  極み」と主張している。これを「過激なようで論理的」と持
  ち上げている一部のマスコミは、論理的と言えるだけのデー
  タの検証を行ったのだろうか。藻谷のあげている間違いだら
  けのデータと主張を鵜呑みにしただけだろう。経済とエネル
  ギーに関するデータを基に藻谷の主張を検証すると、主張に
  データの裏付けはなく、藻谷の主張に都合の良いように話を
  変えていることが分かる。筋道と過程が無茶だから、最後の
  結論にいたっては、とんでもないことになっている。藻谷の
  主張は経済的なデータに基づくものではなく、単に「原発も
  経済成長も不要、里山を活かせ」という思想・心情を披歴し
  たものに過ぎないと言っていい。経済の話として主張するこ
  とにより、一部のマスコミを含め経済データの詳細を知らな
  い人間を騙すことにもなっている。
   藻谷の主張の骨子は次の通りだ。何箇所か数字が出てくる
  が、その裏付けデータは示されていない。燃料代の上昇から
  対中貿易赤字までを円安が引き起こしたとして、円安を作り
  出した安倍首相の経済政策を非難しているが、その根拠はな
  い。研究所に勤務する人間がデータをよく調べないで理論を
  構成するというのは、にわかには信じ難いが、調べると、藻
  谷の主張の根拠となるデータや数字は間違っていることが分
  かる。              http://bit.ly/1HaQeiS
  ―――――――――――――――――――――――――――

藻谷浩介著『里山資本主義』.jpg
藻谷 浩介著『里山資本主義』
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2015年03月10日

●「アベノミクスと池田所得倍増計画」(EJ第3990号)

 アベノミクスはいろいろ問題点は多々あるものの、基本的には
間違っているとは思えないし、この経済政策が日本にとって大き
なチャレンジになることを知るために、少し歴史を振り返ってみ
る必要があります。
 日本の高度成長期の19年間で、総理大臣は6人変わっていま
す。鳩山一郎、石橋湛山、岸信介、池田勇人、佐藤栄作、田中角
栄の6人です。このなかで、経済政策を掲げて推進したのは池田
内閣と田中内閣の2つです。
 これらのなかで、岸、池田、佐藤の3内閣は現在の安倍政権と
深い関連を持っています。若田部昌澄教授はこれについて次のよ
うに興味深いことを述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 池田首相の一代前は、安倍首相の祖父である岸信介首相です。
また、池田の一代後は岸信介の実弟にあたる佐藤栄作首相です。
前者が日米安全保障条約を締結し国民世論を二分させつつ、将来
の改憲まで視野に入れていたことや、後者が本音を言えば安定成
長を志向し、高度成長に否定的だったことと比べると、「政治の
季節」のさなかに「所得倍増」をスローガンに掲げた池田内閣の
独自性が際立ちます。           ──若田部昌澄著
    『ネオアベノミクスの論点/レジームチェンジの貫徹で
          日本経済は復活する』/PHP新書973
―――――――――――――――――――――――――――――
 安倍晋三首相の祖父である岸信介率いる第1次岸内閣から実に
58年の年月を経て、現在国会では安倍内閣による安保法制の議
論が行われていることを考えると感慨深いものがあります。
 その岸内閣を引き継いだのは池田勇人首相率いる内閣です。こ
の内閣は「所得倍増計画」によってあまねく知られています。池
田勇人が首相になったのは1960年です。池田首相は1960
年から1970年の10年間で「所得倍増」──正確にいうと、
名目国民所得(国民総生産)を2倍にする経済政策を策定し、そ
れを実現させています。実際の数字を示しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1960年名目国民所得 ・・・・・ 13兆4967億円
 1970年名目国民所得 ・・・・・ 61兆0297億円
―――――――――――――――――――――――――――――
 驚くなかれ、2倍どころか4倍超の大成果です。池田首相は何
をやったのでしょうか。それは次の3つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.日銀による金融緩和政策のスタンス
     2.インフラ整備を目的とする財政政策
     3.貿易の自由化とエネルギー政策転換
―――――――――――――――――――――――――――――
 このとき池田首相は3本の矢とはいっていませんが、それぞれ
はアベノミクスの3本の矢そのものです。それにインフレ目標で
はないものの、日本経済の名目GDPを2倍にするという目標を
掲げて挑戦しています。つまり、バブル崩壊後に日本があきらめ
ていた成長路線に舵を切ったのです。
 実は、池田政権の経済政策を構築し、池田首相をサポートした
のは、下村治という人物です。下村治は、大蔵省出身のエコノミ
ストで、経済の通説にとらわれず、経済成長率を高く推計するこ
とで知られます。
 安倍首相は、2013年4月19日に「成長戦略」についてス
ピーチしていますが、そこで下村治博士のことについて語ってい
ます。若田部教授の本から引用します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 高度成長時代の「所得倍増計画」を理論づけた下村治博士は、
「経済成長の可能性と条件」と題した論文の中で、こう論じてい
ます。成長政策とは、「日本の国民が現にもっている能カをでき
るだけ発揮させる条件」をつくることだ、と。
 下村博士は、当時4500万人いた就業者が、「非常に高い潜
在的な能カを持っているにもかかわらず」、創造的な能カを「発
揮できる機会が少ない」ことを指摘し、「機会」さえしっかりと
与えられれば、日本経済は成長できる、と説きました。この下村
博士の言葉は、現在も、普遍的な価値を持っていると考えます。
・・・(中略)最後に、先ほどの下村博士の別の言葉で締めくく
りたいと思います。
 これは、「成長政策の基本問題」と題する昭和35年の論文の
序文にある言葉です。本格的な高度成長に入ろうとしていた日本
への下村博士の強いメッセージです。「10年後のわれわれの運
命を決定するものは、現在におけるわれわれ自身の選択と決意で
あり、創造的努カのいかんである。この可能性を開拓し実現する
ものは、退嬰的・消極的な事なかれ主義ではなく、意欲的・創造
的なたくましさである。日本国民の創造的能カを確信しつつ、自
信をもって前進すべきときである」。
 私は、日本国民の「能カ」を信じます。日本国民のカによって
もう一度日本経済はカ強く成長します。そう信じて、「次元の違
う」成長戦略を策定し、呆敢に実行してまいります。
               ──若田部昌澄著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 どうやらアベノミクスの支柱は、下村治の経済成長論にあるよ
うです。「所得倍増計画」といいますが、実は池田も下村も「計
画」という言葉が嫌いなのです。なぜなら、計画が「統制」につ
ながるからです。
 池田も下村も経済成長は人々の創意工夫を最大限に発揮すべき
であると考えており、若田部教授はこれは「オープンレジーム」
の理念そのものといっています。
 オープンレジームとは、裁量やお上からの計画を重視するので
はなく、ルールや枠組みを重視して政策運営を行うことをいいま
す。これは若田部教授がよく使う言葉になっています。
             ── [検証!アベノミクス/72]

≪画像および関連情報≫
 ●下村治と池田勇人総理の「所得倍増計画」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  NHK・TV番組「その時、歴史が動いた」から・・・
  池田勇人・総理大臣が昭和35年に打ち出した「国民所得倍
  増計画」。戦後間もない当時、貨幣価値は殆ど無く、物々交
  換など庶民の生活は困窮していた。この計画を立案したのが
  下村治氏で、終戦後の食糧難の中で庶民の力強い生活ぶりを
  肌で感じた経験から、彼の所得倍増構想が生まれたと言われ
  る。しかし、戦争後間もないその時期に下村氏の構想は多く
  の経済専門家の中から反対の意見が上がった。そんな時、下
  村氏に理解を示していたのが池田勇人だった。彼の構想は池
  田勇人が総理になった事により「所得倍増計画」が推進され
  ることになる。紆余曲折は有ったにしろ所得は確実に毎年伸
  びていった。だが、下村氏が計画した「所得倍増計画」は目
  標達成目前にして日本経済は失速した。その時、彼は国債の
  発行を提言した。しかし、戦争当時の悪夢を心配する声が多
  くなかなか説得できないでいた。下村氏の構想は、国民が豊
  かになることで需要が増え経済は成長を続ける事が出来ると
  当時の情勢分析から確信していた。経済が失速したにも関わ
  らず、この時でも国民所得は確実に増えていた。そういった
  実情もあり国債の発行が認められ所得倍増計画は達成される
  ことになる。その頃から国民の多くが中流階級を意識する社
  会構造が生まれ、国民の消費活動が活発になり経済大国日本
  へと進んで行った。        http://bit.ly/1EYzMDc
  ―――――――――――――――――――――――――――

下村治博士.jpg
下村 治博士
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2015年03月11日

●「国民生活向上に寄与した池田内閣」(EJ第3991号)

 池田勇人首相については、「所得倍増計画」をやったことと、
国会で「貧乏人は麦を食え」といったことぐらいしか覚えていな
い人が多いと思います。しかし、「貧乏人は麦を食え」とは実際
には発言していないのです。それよりももっと激しいのが「中小
企業の5人や10人自殺してもやむを得ない」とも発言し、国会
を紛糾させたことがあるのです。
 しかし、その池田内閣は、「所得倍増計画」に代表されるよう
に、現在の日本人の生活に深く関係する「改革」という名のつく
改革はほとんどやっているのです。はっきりとものをいうので誤
解されますが、今考えると、国民の生活を一番よく考えていた内
閣といってよいと思います。
 国民皆保険・皆年金制度を作ったのは池田内閣ですし、岸内閣
の通産大臣時代から進めていた貿易自由化を自由化率92%まで
進めたのも、エネルギーを石炭から石油に変更したのもこの池田
内閣です。それに、1964年の東京オリンピック開催時の総理
大臣も池田勇人なのです。
 池田はこう考えていたのです。国民所得を2倍にするにも、社
会保障や福祉を充実させるためにも経済成長は絶対に必要です。
そのためには、金の卵を多く生み出し、それを公正に、より多く
の金の卵を生みうるように配分しなければならないのです。
 そして、その金の卵を生むのも都市、それも大都市への集積が
必要である──このように考えて、この考え方のもとに太平洋ベ
ルト地帯の都市部に重点的に公共投資を行ったのです。
 とくに、エネルギー政策の転換は大変だったのです。1959
年12月──池田が首相に就任する直前ですが、三井三池炭鉱で
大争議が発生しています。この争議はその後1年以上にわたって
延々と続いたのです。
 問題はその痛みのケアを池田内閣はどのように施したかです。
これについて、若田部教授は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 石炭から石油への産業構造転換には手厚いケアをしました。具
体的には炭鉱離職者を雇用した企業への補助金支給を行ったり、
炭鉱離職者たちの東京や大阪での就業支援として公団型のアパー
トを建設したりしました。このときに重要なのは「改革による痛
みの代償として三池・夕張・常磐の炭鉱にお金を落とすのではな
く、離職者の新しい就職先の都市にお金を落とした」ことです。
池田は資源の移動を促進するような再分配政策を打ったのです。
重要なことは、痛みを媛和するのに所得倍増政策という強力なマ
クロ政策が役に立ったことです。もしも、当時経済が停滞してい
たら、炭鉱を立ち去らざるをえなかった労働者の行く末は、どう
なったでしょうか。            ──若田部昌澄著
    『ネオアベノミクスの論点/レジームチェンジの貫徹で
          日本経済は復活する』/PHP新書973
―――――――――――――――――――――――――――――
 池田内閣が推進した貿易の自由化とエネルギー政策の転換は、
アベノミクスでいうところの「第3の矢」──成長戦略に当たり
これが高度成長のエンジンとなって働いたのです。現在の安倍内
閣もTPPと原発再稼働という困難な問題を抱えています。
 池田内閣は、一貫して経済優先の政策を推し進め、日本が経済
大国を実現できたのもこの「池田ドクトリン」の所産といわれて
います。しかし、池田は喉頭癌を患い、東京オリンピックの終了
後に退陣し、次の年に亡くなっています。
 後任の佐藤栄作内閣では、経済政策は精彩を欠き、経済成長は
惰性化してしまいます。次の内閣を担った田中角栄は、「日本列
島改造論」という経済政策を掲げて経済成長を推進しようとしま
したが、必ずしも経済成長としては効果を上げていないのです。
 日本列島改造論は、経済成長を追求するように見えて、都市で
生まれた利益を地方に再配分するものに過ぎなかったのです。そ
のためこの1970年代に日本の経済成長率は鈍化してしまった
のです。証券アナリストにして経済評論家の増田悦佐氏は、田中
角栄の経済政策について、自著で次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 高度成長の終焉の経験もまた今日的な意義をもつ。田中角栄は
池田の経済政策の真逆を行った。田中の主張した日本列島改造論
は、お金の動きを都市から地方に、そして若者から老人に移動さ
せることで、社会の固定化につながり、成長率の鈍化を招いた。
   ──増田悦佐著『高度経済成長は復活できる』/文春新書
―――――――――――――――――――――――――――――
 池田の都市部重点政策に対して地方出身の政治家田中角栄は、
増田悦佐氏の指摘するように、日本列島改造論で、池田の政策と
は真逆の「中央から地方へ」の政策に舵を切っています。田中流
の再配分政策ですが、これは経済成長を鈍化させてしまうことに
なります。田中角栄の政策の問題点について、若田部教授は次の
ように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 池田内閣時代の国民年金は積立方式でした。これは年金保険料
を支払った本人が老後にそれを受け取るというものでしたが、こ
れを事実上賦課方式に変えたのも田中内閣です。賦課方式とは現
役世代の納めた年金保険料を、同じ時点での老齢世代が受け取る
ものです。1973年を「福祉元年」と名づけた田中角栄は、年
金給付水準の大幅な引き上げ、物価スライド・賃金スライド制の
導入を進めました。都市部から地方へと利益を誘導していった田
中は今度は年金によって将来世代から現役世代へと利益誘導をし
たのです。票を集めやすい方向へと再分配の舵を取る、その結果
として成長の推進力を弱めてしまう。田中角栄以降の政策を象徴
する現象のひとつです。現在の自民党にもこのようなビジョンが
色濃く残っていることは「地方創生」などを見れば明らかです。
               ──若田部昌澄著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
             ── [検証!アベノミクス/73]

≪画像および関連情報≫
 ●田中内閣における日本列島改造論の評価
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日本にとって、首都の過密と地方の過疎は当時よりも一層深
  刻な問題になっており、少なくとも田中が日本列島改造論を
  著したのはこうした状況への問題提起としての意味を持って
  いたと考えられる。交通網の整備で様々な課題が解決すると
  いう発想は、余りに楽観的で「土建業一辺倒だ」という批判
  もある。地方から過密地(特に首都・東京)へ向かう交通網
  の整備は、大都市が持つ資本・技術・人材・娯楽が地方にも
  浸透しやすくなったことは事実であるが、同時に地方の住民
  ・人材・企業も、また大都市に流出しやすくことなったこと
  で、大都市への一極集中(特に東京一極集中)と地方過疎化
  をもより促進してしまうということが起こった(ストロー効
  果)。地方での道路の整備も同様の事象が起こり、地方都市
  の郊外化を招き、中心市街地を衰退してしまった。このよう
  に結果として田中が抱いていた理想の未来とは程遠いまでの
  厳しい課題が残った。現在建設されている新幹線や高速道路
  などは地方と東京を結ぶ路線がほとんどで、地方と地方を結
  ぶ路線の建設は遅々として進まないのも現状である。こうし
  た背景を受けて、東京へ人口が流入する現象が現れるのは仕
  方がなく、今後は地方間の路線を建設することにより「均衡
  ある発展」を現代に合わせ、防災を兼ねる形で実現させるべ
  きだという論もある。       http://bit.ly/191QTbg
  ―――――――――――――――――――――――――――

池田勇人元首相.jpg
池田 勇人元首相
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2015年03月12日

●「花見酒の経済学をめぐる笠と石橋」(EJ第3992号)

 花見の季節です。今日は花見に因んで「花見酒の経済学」とい
うものについて考えます。落語の演目に「花見酒」というのがあ
りますが、何はともあれ、話の内容を知っていただく必要がある
ので、この話を現代風にアレンジしている「キャリコネ」という
サイトから引用してご紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 桜の季節に、長屋に住む兄貴分の熊さんが、弟分の辰さんに持
ちかけた。「安い酒を仕入れて、花見客に高く売りつけ、ひとも
うけをしよう」。
 1本1000円で仕入れた一升瓶を10本、背中に担ぎ、花見
客で賑わう公園に出かけた。1合を1000円で売れば、1升で
1万円。全部で10万円の売上げになる。仕入れの費用の1万円
が、10倍になる計算だ。
 ところが、長屋から花見の場までは遠い。途中で熊さんが言っ
た。「おい、1000円を払うから、おまえの背負った一升瓶か
ら一杯だけ飲ませろ」。その1000円を受け取った辰さん。次
は自分が「おいらも飲みたくなった。1000円で一杯、売って
くれ」。
 これを繰り返しているうちに、二人ともへべれけに。花見の場
に着くころには、背負った酒はすっからかんになり、手元には、
1000円だけが残った。       http://bit.ly/1A6ekp7
―――――――――――――――――――――――――――――
 この落語の話を基にかつての朝日新聞の論説主幹、笠信太郎が
上梓した本に『「花見酒」の経済』(朝日新聞社刊)あります。
この本は、1962年の発刊ですから、池田政権のときに出た本
で、当時爆発的に売れたそうです。
 笠信太郎は「反経済成長」の旗手であり、朝日新聞は、反成長
キャンペーンをやっていたのです。つまり、池田政権が進める経
済政策「所得倍増」に対して反対の論陣を張っていたのです。
 笠信太郎は、この本を通して何を訴えたかったのでしょうか。
それは、所得倍増計画に突き進み、GNP(国民総生産)を増や
す経済政策はこの花見酒経済と同じであり、バブルのようなもの
であるといいたかったのです。
 兄貴分の熊と弟分の辰の間でお金が行き来することは市中にお
金が流通することを意味していますが、これによって経済が良く
なることには疑問があると笠信太郎はいうのです。
 また、GNPは価値のやり取りの合計であり、それは花見酒を
めぐって熊と辰の間でお金が行き来するだけで増えてしまうもの
で、まさに泡、すなわちバブルのようなものであるというわけで
す。それを主張するために笠信太郎は、『「花見酒」の経済』を
書いたのです。
 若田部昌澄教授によると、笠信太郎の本に先立つこと30年前
に、石橋湛山が笠の『花見酒の経済』と同じ題名で小論を書いて
いるというのです。
 グーグルで調べてみると、2006年に上梓された次の本のな
かにその論文は所載されており、間違いないことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
                大森郁夫責任編集
        『経済思想9/日本の経済思想1』
    第8章 石橋湛山「花見酒の経済」政策思想
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここでは全く同じ「花見酒」を取り上げているのですが、その
解釈は笠信太郎のそれとは異なるのです。笠は、結局熊と辰の間
を1000円が行き来するだけで、この売買は利益を生まなかっ
たととらえ、そこにみかけ上生ずるGNPはあぶくのような実体
のないものだというのです。
 これに対して、石橋は1000円支払うつどそれは「酒を飲ん
で楽しい気分になった」という効用に費やされ、消費されたと考
えたのです。つまり、熊と辰がまともに商売すれば、10万円の
お金が残り、それがGNPとなるのですが、その10万円分の効
用を手に入れる消費者は熊と辰か、他の花見客かは関係がないの
です。要するに誰でもいいのです。
 笠信太郎と石橋湛山について、若田部教授は次のように紹介し
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 笠信太郎は1928年から31年までは大原社会問題研究所で
研究助手、研究員として働き、マルクス経済学者の大内兵衛の推
薦で朝日新聞社に入社したという経歴の持ち主です。つまり、当
初は、気鋭のマルクス派の貨幣経済学者としてデビューした人で
す。彼にとっての論敵は石橋湛山でした。
 石橋はジャーナリストから戦後は第一次吉田茂内閣の大蔵大臣
となり、1956年には内閣総理大臣に就任した人で、日本の帝
国主義を批判した「小日本主義」など、非常にリベラルな思想で
知られる人物ですが、経済面でも金本位制からの離脱や、脱デフ
レーションを主張した、金融政策において先見性のある経済人で
もありました。元祖リフレ派と言ってもいいかもしれません。実
際、リフレーション政策という名称を日本にいち早く紹介したの
は石橋です。               ──若田部昌澄著
    『ネオアベノミクスの論点/レジームチェンジの貫徹で
          日本経済は復活する』/PHP新書973
―――――――――――――――――――――――――――――
 石橋湛山は、1956年12月に首相に就任しますが、軽い脳
梗塞で倒れ、首相在任期間65日で退陣しています。しかし、石
橋は戦後の復興期の1946年に大蔵大臣を務め、そのさい、リ
フレーション的な考え方でデフレの抑制を図っています。
 これに対する笠信太郎はマルクス経済学者として知られ、「イ
ンフレで景気がよくなるのはバブルである」と主張し、石橋湛山
の考え方に終始反論したのです。マルクス派はインフレを非常に
恐れ、それはハイパーインフレを招くとして根強い反対を唱える
のです。         ── [検証!アベノミクス/74]

≪画像および関連情報≫
 ●石橋湛山首相就任と退陣に関わるエピソード
  ―――――――――――――――――――――――――――
  石橋が首相を退陣した時にその潔さを国民は高く評価される
  ことが多いが、弁護士正木ひろしは私的な感情で「公務(首
  相の地位)を放棄した」と厳しく批判している。そもそも、
  自民党総裁選で1位優位であった岸信介に対抗する形で2位
  候補だった石橋と石井光次郎と2位・3位連合を組み1位当
  選を果たすことで岸総理を阻止して、石橋総理総裁が誕生し
  た経緯があった。しかし、冬場に自身の体調を考慮しない遊
  説を行ったために風邪を引いて寝込み、絶対安静が必要との
  医師の診断を受けた石橋は、連合相手であるが閣内に入れて
  いなかった石井を差し置く形で、閣内に副総理格外相として
  迎えていた岸信介をただちに総理臨時代理として総理総裁を
  禅譲し、平和裏に岸総理総裁が誕生した。予算審議が目前で
  あるにも関わらず自身の不考慮が原因で寝込んだことで、重
  たい責任がある首相として最初の国会で一度も演説や答弁を
  行うことができないまま首相退陣するという愚行を国民にさ
  らしたあげく、次期総理総裁を当初の連合相手の石井ではな
  く、総裁選のライバルであった岸に渡し、総裁選時の岸総理
  阻止という理念を反故にしたことになる。
                   http://bit.ly/1A6Uw51
  ―――――――――――――――――――――――――――

笠信太郎/.石橋湛山jpg.jpg
笠 信太郎/石橋 湛山
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2015年03月13日

●「戦前から存在した経済成長否定論」(EJ第3993号)

 アベノミクスは明らかに経済成長を狙う経済政策です。これに
対して、「もはや成長はあり得ない」と訴えるエコノミストや経
済学者が多くなっています。その反成長派の筆頭といわれるのが
水野和夫日本大学国際関係学部教授です。
 その水野氏が2014年3月に上梓した近刊書が、いま爆発的
に売れています。この本の冒頭には次の記述があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 近代とは経済的に見れば、成長と同義語です。資本主義は「成
長」をもっとも効率的におこなうシステムですが、その環境や基
盤を近代国家が整えていったのです。
 私が資本主義の終焉を指摘することで警鐘を鳴らしたいのは、
こうした「成長教」にしがみつき続けることが、かえって大勢の
人々を不幸にしてしまい、その結果、近代国家の基盤を危うくさ
せてしまうからです。もはや利潤をあげる空間がないところで無
理やり利潤を追求すれば、そのしわ寄せは格差や貧困という形を
とって弱者に集中します。そして現代の弱者は、圧倒的多数の中
間層が没落する形となつて現れるのです。   ──水野和夫著
   『資本主義の終焉と歴史の危機』/集英社新書0732A
―――――――――――――――――――――――――――――
 水野和夫氏のことは、かつてのテレビ朝日の番組「サンデープ
ロジェクト」の常連エコノミストとして、その言説には何回も接
していますが、物事を悲観的に見る人という印象があります。
 たしか1月のBS朝日の「激論!クロスファイア」だったと思
いますが、水野和夫氏が出演したのです。そのとき水野氏は、世
の中に本当に必要なものは既に開発され尽くされていて、最近の
製品やサービスは意味のないものが多いと発言したのです。
 例えば、4Kテレビについては、テレビなんかより美しい画面
で見たってしょうがないといい、アマゾンの書籍の即日配達なん
か必要のない無駄なサービスであり、それは物事の段取りの悪い
人のためのものに過ぎないという奇異な意見を述べたのです。
 それは水野氏個人の価値観であって、テレビをより細密な画像
で見たいと思う人は大勢いるでしょうし、即日配達のサービスを
便利であると感ずる人も少なくないと思うのです。段取りが良い
か悪いかの問題ではないと思います。おそらく水野氏は今の世の
中は「もはや利潤をあげる空間がない」と考えており、資本主義
が終わるときが眼前に迫っていると警告をしているのです。
 水野氏のような成長終焉論を唱える経済学者やエコノミストは
日本にはたくさんいます。しかし、そのルーツをたどると、戦前
の昭和恐慌時に起きた「金解禁論争」に行き着くのです。つまり
日本が高度成長を始めるはるかに前の時点から、成長否定論が存
在していたことになります。以下、若田部昌澄教授の本を基にし
て記述していきます。
 ここで金解禁論争について知る必要があります。金解禁論争と
は、金本位制に復帰するかどうかという議論です。第1次世界大
戦が始まったのは1914(大正3年)のことです。それと同時
に日本をはじめとして多くの国が金本位制から離脱したのです。
 第1次世界大戦が1918年(大正7年)に終わると、各国は
金本位制に戻り始めたのですが、日本ではどうするかについて、
一大議論があったのです。
 当時金の輸出入は禁止されており、金本位制に戻るということ
は、金を解禁するということになるのです。そのさい、金の交換
レートについて、次の2つのことが議論になったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.昔のレートに戻す ・・ 旧平価
      2.新しい基準にする ・・ 新平価
―――――――――――――――――――――――――――――
 金本位制というのは、通貨の量が金の鋳造量によって規定され
る通貨制度であり、通貨量の調節が金の保有量に縛られてしまう
ので、当然経済は緊縮化されることになります。
 政治家、官僚、経済学者のほとんどは「1」、すなわち「旧平
価」を支持したのです。ちょうど第1次大戦中から景気が過熱し
てバブルのような状態になっていたので、ここで経済を緊縮させ
てバブルを潰し、強い経済を作るべきである。そのためには痛み
は伴うけれども、それは耐えるべきであるという意見が圧倒的に
多かったのです。この人たちがそのまま現在の反リフレ派になっ
ていると考えてよいと思います。
 これに対して、反対の論陣を張って「2」を主張したのが次の
4人です。彼らは、インフレを許容しても必要な生産力は向上さ
せるべきであると主張したのです。主として新聞記者と経済評論
家であり、「新平価解禁4人組」と呼ばれたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
        石橋湛山(東洋経済新報社)
        高橋亀吉  (経済評論家)
        小汀利得 (中外商業新報)
        山崎靖純  (時事新報社)
―――――――――――――――――――――――――――――
 大多数の政治家、官僚、経済学者たちから見れば、変わり者4
人組ということになりますが、彼らは山崎靖純を除き、第2次世
界大戦終了後も大活躍をするのです。
 石橋湛山は大蔵大臣を経て首相に就任していますし、高橋亀吉
は通産省の顧問を務めるなどカリスマ的な人気を誇る経済評論家
として活躍、文化功労者として表彰されています。小汀利得(お
ばまとしえ)は、戦後の政治テレビ番組「時事放談」(この番組
は現在も継続中)での毒舌が人気を博したのです。小汀は中外商
業新報の記者だったのですが、この新聞社は現在の日本経済新聞
の前身です。
 ここに金解禁論争当時は大学生だった下村治が加わり、「石橋
─高橋─下村」のラインが形成されるのです。彼らが現代のリフ
レ派に近い主張を展開することになるのです。
             ── [検証!アベノミクス/75]

≪画像および関連情報≫
 ●「連載/湛山を語る」/香西 泰氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  湛山が関わった戦前の経済論争では金解禁論争が著名です。
  第1次大戦中に実施した「金輸出禁止」を解除するのに、従
  来の1ドル=2円の旧平価で実施するか、その後の実勢レー
  トに沿った新平価(円安)で行うべきかの論争ですが、石橋
  ・高橋亀吉・小汀利得・山崎靖純の「四人組」等は、大戦や
  関東大震災後の日本経済の実力に合わせた新平価解禁を主張
  した。結局、昭和5(1930)年1月に浜口雄幸首相・井上準
  之助蔵相の下で、旧平価による金輸出解禁が実施されたもの
  の、激しい為替投機などによる混乱で、翌昭和6年12月、
  犬養毅首相・高橋是清蔵相の下で再禁止される。この間の論
  争の詳細は省略して、もし湛山らの主張のとおり、当初から
  新平価で金輸出解禁していたならば、どんな結果になったと
  考えますか。昭和の初めの経済状況の分析は非常に大きな問
  題でかつ難しい。私自身どう考えていいのか分かっていない
  側面も多く、まだ何かあるのではないかとも考えています。
  そこで、新平価で金輸出解禁を実施していたらどうかといわ
  れると、新平価の決め方にもよるが、経済界への影響はそれ
  ほど強くはなかった一方で、為替は必ずしも安定はしなかっ
  たのではないかと思われる。世界大恐慌の渦中で「新平価」
  はたちどころに「新新平価」「新新新平価」に変わっていっ
  た可能性が強い。         http://bit.ly/1ExcyVJ
  ―――――――――――――――――――――――――――

水野和夫氏の近刊書.jpg
水野 和夫氏の近刊書
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2015年03月16日

●「財務省と戦っているアベノミクス」(EJ第3994号)

 EJは一貫して自民党には批判的ですが、安倍政権については
少し今までとは違うスタンスを持ちつつあります。なぜなら、安
倍政権の進めるアベノミクスが少しずつですが、デフレ脱却に向
けて進みはじめていると思うからです。
 アベノミクスを批判する人はうんざりするほどたくさんいます
が、誰もアベノミクスに代わるデフレ脱却策を持ち合わせていな
いと思います。あの陰鬱で暗いデフレ時代に逆戻りしたいとは誰
も思わないでしょう。
 日本の政治は、明治維新以来、官僚機構に完全に主導権を握ら
れており、政治は国民が選挙で選ぶ政治家主導で行われていない
のです。その官僚機構の中枢は財務省です。日銀も独立はしてい
るものの、財務省の影響力と無関係ではないのです。したがって
経済政策も財務省の意向には逆らえないのです。
 自民党は長い間にわたって、官僚機構と折り合いをつけ、国民
向けには政治家主導のかたちをとっているものの、実質的権限は
官僚機構が握っているのです。これについては、これまでEJで
何回も取り上げて論じてきているところです。
 現在、安倍政権は閣僚の政治とカネが噴出しているものの、内
閣支持率は安定しています。それは、アベノミクスによる円安=
株高が起きたことで、経済が良い方向に向かっていると多くの国
民が少し感じはじめたからです。
 日本経済を良い方向に向けるには、どうしても財務省と本気で
戦わざるを得ないのです。それが今までの自民党政権と、官僚機
構と戦うことを公約にして政権交代を果した民主党政権でもでき
なかったのです。
 とくに民主党政権では、政権運営に慣れていないことに加えて
政権運営の経験があり、政権交代の立役者である、最も頼りにな
るはずの小沢一郎氏を排除するという愚かな党内抗争を起こして
党勢を弱め、完全に財務省の術中にはまって、公約にない消費税
大増税を決めてしまったのです。
 しかし、安倍政権には大きな問題点が多々あります。原発をベ
ース電源とするエネルギー政策、日本を戦争ができる国にする安
保法制の議論などがそれに当たりますが、そこから経済政策──
アベノミクスの部分を切り離して考えるべきです。経済政策につ
いては評価できる部分があるからです。EJでは、そのように考
えて、アベノミクスを論じていきます。
 さらにアベノミクスを正しくとらえるためには、そこから消費
税増税スケジュールを外して考えるべきです。なぜなら、消費税
の増税は、アベノミクスが始まる前に民主党政権主導で決められ
たスケジュールであり、アベノミクスという経済政策には含まれ
ていないからです。
 確かに自民党も野党時代の谷垣総裁主導で消費税10%を推進
していますが、もし消費税増税が決まる前に安倍政権が発足して
いれば、消費税増税を見送っているはずです。それなら2014
年4月の増税はなぜ実施したのかというと、それは財務省の圧力
に屈したからであるといえます。
 なぜなら、デフレから脱却しようとしているときに、増税など
の緊縮政策を実施することは、その足を引っ張ることは確実であ
り、そんなことは経済の常識であるからです。それでも財務省に
逆らうことは安倍首相にとってはリスクがあったのです。
 リフレ派の学者の一人で、3月25日に任期が満了する日銀の
宮尾龍蔵審議委員の後任に内定している早稲田大学教授の原田泰
氏は、消費税増税とリフレ政策には、経済的相互依存関係と政治
的相互依存関係があるとして次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 経済的相互依存関係とは、消費税増税が消費需要を減退させて
予想物価上昇率を引き下げ、それが実質金利を引き上げて投資を
削減し、経済全体に、より大きなマイナスの影響を与え、デフレ
脱却を難しくする可能性である。
 さらに、政治的相互依存関係がある。景気は消費税増税によっ
て、少なくとも一時的には失速する。それは、消費税増税の当然
の影響なのだが、金融緩和政策の失敗とされて、緩和政策ができ
なくなってしまうかもしれない。現在のリフレ政策は、安倍晋三
総理が、多数派の日銀官僚、財務官僚、金融機関などの反対を押
し切って黒田東彦日銀総裁に行わせているものである。景気が順
調に拡大しなければ、総理の政治力が弱まって、リフレ政策の継
続が難しくなるかもしれない。
 私としては、消費税を増税して財政赤字を削減するのが、国家
100年の大計であると国士的議論を唱えている方には、それを
全うしていただきたい。すなわち、「増税すれば景気が悪くなる
のは当たり前で、景気が悪くなっても消費税増税をする。消費税
増税とリフレ政策とは関係がない」と宣言していただきたい。増
税しても景気が悪くならないというのは詐欺師だが、景気が悪く
なっても増税するというのは国士である。奇妙な考え方に取りつ
かれた国士も困るが、私は、詐欺師より国士の方が好きである。
                       ──原田泰著
   『日本を救ったリフレ経済学』/日経プレミアムシリーズ
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、日本経済は依然としてデフレ下にあります。そういう状
況において消費税増税などの緊縮政策を取ると、確実に景気は悪
化し、雇用に影響が出てきます。財政再建を旗印にそういう緊縮
政策を強行すると、給与は下がり、多くの人はリストラされ、職
を失うことになります。
 重要なことは、そういう状況でも官僚(公務員)は、少なくと
も景気悪化によって職を失うことはないし、基本的に給与は景気
の状況に関係なく上がっていくのです。彼らにとってリストラは
あり得ないし、景気が良くなろうが悪くなろうが関係がない安全
な立場にいるのです。だからこそ、財務省は、国民を苦しめる消
費税増税を平気で進めることができるのです。
             ── [検証!アベノミクス/76]

≪画像および関連情報≫
 ●トリクルダウンはない?江戸時代と比較する/原田泰氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  トリクルダウンという言葉がある。豊かな人々がもっと豊か
  になれば、やがてその豊かさが下にも落ちてきて貧しい人も
  豊かになれるという議論である。アベノミクスで株が上がれ
  ば、そのおこぼれは皆に回ってくる。円安で輸出大企業が利
  益を上げれば、それは労働者や下請けにも回ってくるという
  議論である。だが、そんなものは自分のところに落ちてこな
  いと、多くの人はトリクルダウンに懐疑的である。しかし、
  私は、トリクルダウンがないはずはないと思う。豊かな人が
  まず豊かになるのだから、それが所得分配を平等にすること
  はないが、理屈から言って、おこぼれがないはずはない。豊
  かになった人は、そのより豊かになった部分を、貯蓄をする
  か消費をするかしかない。貯蓄は必ず投資されるはずだから
  投資が増える。国内で投資が増えれば、必ず誰かを雇うはず
  である。雇用が増えれば、トリクルダウンがあったことにな
  る。海外に投資したのでは、海外で雇用が増えるだけだから
  日本国内にはトリクルダウンがない。しかし、海外ではトリ
  クルダウンがあったはずだ。こう言うと、多くの人は、海外
  でトリクルダウンがあっても仕方がないと怒るだろう。怒る
  のはもっともだが、日本は、海外投資を活発にして、投資収
  益で食べてゆくべきだという議論が、盛んになされた時代も
  あった。             http://bit.ly/1xomRUl
  ―――――――――――――――――――――――――――

原田 泰氏.jpg
原田 泰氏
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2015年03月17日

●「安倍首相/消費税増税10%まで」(EJ第3995号)

 安倍首相は、2014年11月18日夜に、2015年10月
に予定していた消費税率10%引き上げを2017年4月まで1
年半延期すると発表し、21日に解散したのです。なぜ、解散を
断行したのでしょうか。
 成立した消費増税法には景気弾力条項が付いているので、解散
まですることはないという声もありましたが、安倍首相はあえて
解散にこだわったのです。それは、最後の最後まで「増税断行」
の根回しを執拗にやっていた財務省に対する宣戦布告であると考
えられます。財務省に対して「俺はお前たちのいう通りにはなら
ないぞ」という強いメッセージを送ったのです。
 今までの政権で、本気で財務省と戦った政権はなく、安倍政権
はどこまで戦えるかは疑問ですが、とにかく財務省に対して強い
抵抗を示している点は評価できます。今のところ財務省は14年
末の総選挙で大勝利したことと、高い内閣支持率で、正面切って
安倍政権に抵抗できないでいるのです。
 2014年12月22日、経済財政諮問会議の席上、安倍首相
は、2020年までに基礎的財政収支を黒字化する目標に関連し
て、次の発言をしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国内総生産(GDP)を大きくすれば、累積債務の比率を小さ
くできる。(財政健全化は)もう少し複合的に見ていくことも必
要かな、と思う。               ──安倍首相
           2015年2月15日付、日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 この安倍首相の曖昧な発言の真意は何でしょうか。
 ごく簡単にいうと、現在政府が目指している基礎的財政収支の
黒字化の達成だけでなく、アベノミクスの成長戦略の推進によっ
て名目GDPを拡大し、GDPに占める債務残高の割合を縮小化
させることも財政再建の目安とすべきではないか──こういう主
張なのです。
 要するに、GDPに占める債務残高の割合が縮小していれば、
あえて基礎的財政収支にこだわることはないという意味にもとれ
る表現です。なぜ、この発言が出たかについては、自民党内の勢
力関係を知る必要があります。
 背景としては、二階俊博総務会長率いる「国土強靭化計画推進
グループ」の存在があります。安倍首相はこのグループから激し
く突き上げされているものと思われます。
 なぜなら、基礎的財政収支の黒字化の目標を達成するためには
社会保障や公共事業を思い切って削減することが不可欠であり、
そうなると国土強靭化計画の推進は困難になります。そんなこと
は受け入れられないと国土強靭化計画推進グループは首相を突き
上げたものと思われるのです。自民党内では、二階総務会長の力
は強くなっており、首相としても無視できない存在です。
 3月13日に開催された衆議院財務金融委員会において、首相
は財政再建について、民主党の古川元久議員の質問に答えて、次
の注目発言をしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 10%までは消費税を引き上げていくが、それ以上の消費税の
引き上げで税収を増やすことは考えていない。(どうやって税収
を確保するのかという質問に対して)政府で行っていた部門を民
間に任せることで歳出の削減を図れるだろうし、産業として様々
な活力を生みだしていく。それがさらなる税収を生んでいく可能
性もある。                  ──安倍首相
           2015年3月14日付、日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは重大な発言です。一番驚愕したのは財務省であったと思
います。消費税は2017年4月の10%引き上げは確定してい
ますが、財務省は財政再建のためと称して、その後も引き続き、
15%〜20%、20%〜30%へと次々と引き上げる計画を立
てているのです。
 そしてその情報は、おそらく財務省の広報戦略の一環であると
思いますが、巷にも流れているのです。さらなる消費税率引き上
げをメディアが流すことによって、日本の財政再建が容易ならざ
るものであり、ある程度の消費税率の引き上げは仕方がないかと
国民に納得させる戦略です。これはほとんど成功しています。
 それを安倍首相が否定したのです。「安倍政権が続く限り、消
費税率は10%にとどめ、税収確保は別の手段で行う」と明言。
財務省としては絶対に看過できないはずです。このように安倍首
相は財務省と戦っているのです。この点は従来の政権にはないこ
とであり、評価できると思います。
 これに対して財務省はさまざまな反撃を行いつつあります。そ
れは、これまで巨額の広報予算で手なずけてきたマスメディアを
使って反論する方法です。
 安倍首相の主張する財政再建の目標を基礎的財政収支だけでな
く複数化するということに関しては、2月15日の日本経済新聞
において、法政大学の小黒一正准教授は「リスクが大きい」と反
論しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 首相の提案にはかなりのリスクがある。景気がよくなって成長
率が高まれば、ふつうはお金の需要が増えて金利が上がる。それ
は財政を圧迫する要因になる。国債の利払い費が増え、債務残高
が膨らむからだ。        ──小黒一正法政大学准教授
―――――――――――――――――――――――――――――
 増税推進派の定番の反論です。それにあくまで新進気鋭の大学
教授の反論というかたちをとっていますが、この小黒一正氏は、
元財務官僚出身のマクロ経済学者です。日本経済新聞の「経済教
室」などで、財政再建論を展開している学者です。
 財務省はこういう経済学者を数多く有しており、新聞やテレビ
などを使って巧妙な増税キャンペーンを展開するのです。
             ── [検証!アベノミクス/77]

≪画像および関連情報≫
 ●財政再建に必要な消費税は何%?/小黒一正法政大学准教授
  ―――――――――――――――――――――――――――
  どれくらい消費税率をアップすれば政府債務(対GDP)の
  膨張をストップできるのか。いくつかの試算がある。現在、
  国の借金は1000兆円を突破し、2015年3月末には、
  1100兆円超に膨らむとみられている。そして約110兆
  円の社会保障給付費(年金・医療・介護)は毎年約2・6兆
  円ずつ増え続けている。米アトランタ連銀のアントン・ブラ
  ウン氏らの研究によると、社会保障費を抑制せず、財政安定
  化のために2017年度に一気に消費税率を引き上げる場合
  最終税率は33%になるという。同じような研究で、米カリ
  フォルニア大学ロサンゼルス校のゲイリー・ハンセン教授ら
  は35%と推計している。また、小黒氏と慶応義塾大学の小
  林慶一郎教授は、2050年ごろの消費税率を約31%と推
  計している。現在、政府と日銀は、インフレ率2%の実現を
  目指している。それによって増税を避けるという論調もある
  が、ブラウン氏らはインフレ率2%を達成した状態での試算
  も行っている。他方、消費税率を5%ずつ5年おきに段階的
  に引き上げていく場合、年金の所得代替率を30%にまで削
  減し、高齢者の窓口負担を2割にするなど厳しい社会保障改
  革を実行したとしても、ピーク時の消費税率は32%に達す
  るという。            http://bit.ly/1MESTlY
  ―――――――――――――――――――――――――――

衆院財務金融委員会での安倍首相.jpg
衆院財務金融委員会での安倍首相
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2015年03月18日

●「黒田日銀総裁は財務省の代弁者か」(EJ第3996号)

 安倍政権と財務省が対立を深めつつあります。両者は経済・財
政に関する考え方が異なるのです。それでは、日銀の黒田総裁は
どちらの味方なのでしょうか。
 黒田総裁は財務省の出身です。「ミスター円」といわれた榊原
英資氏の後任として、1999年7月から2003年7月まで財
務官を務めています。
 この「財務官」というポストは、財務省の財務事務次官、国税
庁長官と並ぶ3つの次官級ポストのひとつです。しかし、事務次
官に準ずるポストとして、続く大臣官房長や局長よりも上のポス
トに位置づけられています。大臣官房長や局長は「財務事務官」
と呼ばれますが、財務事務次官と財務官は職名であるとともに官
名でもあります。つまり、大変なエリート官僚なのです。
 通常このポストを経験した人が財務省を裏切ることは絶対にな
いといってよいのです。まして黒田総裁は久しぶりの財務省出身
の日銀総裁であり、財務省から見ると身内の人間です。財務省の
ために一働きしてくれるものと期待されている存在です。
 その黒田総裁は、3月20日で就任3年目に入ります。景気は
回復しつつあるものの、自らが掲げた「約2年で2%の物価目標
達成」は、実現が難しい情勢です。日銀総裁としては少し頭が痛
い状況にあるといえます。
 実は、安倍首相と黒田総裁の間には、昨年以来少しすき間風が
吹いているのです。それは増税を実施すべきかどうか悩んでいる
首相を意識し、黒田総裁は執拗に消費税増税のスケジュール通り
の実施をコメントしていたからです。安倍首相としてはこの発言
を相当気にしていたと思われます。
 それに加えて、黒田総裁が2014年10月31日に官邸に何
の根回しもなしに断行したサプライズ緩和についても、財務省に
よる再増税工作を気にしていた安倍首相としては、不快感を持っ
たと思われます。官邸としては、黒田総裁は財務省ムラの人物と
考えているのでしょう。
 そして2015年2月12日、経済財諮問会議において、黒田
総裁のオフレコ発言が起きるのです。このときの経済財政諮問会
議の雰囲気について、日本経済新聞の「核心」のコラムで、滝田
洋一編集委員は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 15年2月12日の経済財政諮問会議。黒田絵裁は自ら発言を
求め、財政健全化の手を緩めることのないよう首相に進言した。
その発言に成長加速を目指している首相が反発し、「一瞬気まず
い雰囲気に包まれた」と会議参加者はいう。議事録によれば、新
浪剛史サントリーホールディングス社長が、座を取りなすように
ダボス会議の報告を始めた。
       ──2015年3月16日付、日本経済新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 消費税の増税──本来これは、経済がインフレで過熱気味のと
きにそれを引き締めるために取られる経済政策の一つです。しか
し、日本経済はまだデフレから脱却していないのです。したがっ
て、何はともあれ、デフレから脱却を目指す──これがアベノミ
クスの狙いのはずです。それなのに、なぜ増税をして、それにブ
レーキをかけるのでしょうか。
 デフレの状態で緊縮政策を行えば、さらにデフレはひどくなり
多くの雇用が失われます。それはEUにおけるギリシャをはじめ
とする南欧諸国の経済を見れば明らかです。現在では、EU圏全
体がデフレの入り口に立っています。これはEUの経済政策が間
違っているのです。だからこそ、ECBは日本と同様に物価目標
2%が達成できるまで、量的金融緩和を実施しているのです。日
本のマネをしているといえます。
 緊縮経済政策をいくら積み重ねても、かえって財政再建はでき
ないのです。まして日本は先進国で唯一デフレに陥っているので
す。しかも、20年以上もずっとデフレです。つまり、20年間
全く経済は成長していないのです。これは、どのように理屈をつ
けようとも、日銀や財務省の経済政策が間違っていたということ
を意味します。あえて政権の責任を問わないのは、日本の経済運
営は今まで完全に官僚機構に握られているからです。責任は、日
銀と財務省にあります。
 安倍首相は、デフレから脱却するには、成長率を高めて自然な
税収増を図るべきであると考えています。そうしないと、財政再
建もできないといっているのです。まして、2017年4月に消
費再増税をしなければならないのですから、それまでに、経済の
地力を回復させなければならないのです。
 安倍首相のいう「自然な税収増」は、不可能なことではないの
です。アベノミクスをはじめてから、日本の税収は着実に増えて
いるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ◎当初予算と決算を比較
   2012年度 ・・・・・ 1・6兆円増
   2013年度 ・・・・・ 3・9兆円増
   2014年度 ・・・・・ 4・6兆円増(試算)
―――――――――――――――――――――――――――――
 こうした自然増収に、低金利、円安、原油安という追い風が吹
いているのです。日本にとって千載一遇のチャンスといえます。
政府は2020年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス/
PB)の黒字化を目指していたのですが、この達成は困難である
として、債務残高の名目GDP比の改善も目標として加えること
を検討しています。
 毎年赤字が続くので、債務残高のGDP比が改善するはずがな
いと考えるかもしれませんが、そうではないのです。内閣府の計
算によると、18年度まで1%前後の「名目成長率>長期金利」
が続くと想定すると、PBは赤字でも、分母となる成長率の増加
と分子になる利払い費の抑制で、債務残高のGDP比は減少する
のです。         ── [検証!アベノミクス/78]

≪画像および関連情報≫
 ●「なぜ、財務省は景気回復による税収の自然増を嫌うのか」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  A:増税で景気が悪くなりますね。ところが、官僚のお仕事
  は目先の税収でも国民生活を豊かにすることでも景気を良く
  することでもなく、別の目的があるので愚行とは思っていな
  いと思います。よく消費税増税で景気が悪くなり却って税収
  が落ち込んだと主張する方もいます。景気が悪くなるのは当
  然ですが、本当に税収がこれで逆に落ち込んでもなんとも思
  いません。本当に今官僚が欲しいのは国民からどのようにし
  て金融資産を取りあげるかの法制度です。その中でも一番重
  要視しているのが1500兆とも1600兆とも言われる個
  人金融資産の元本を捕捉するためにマイナンバーを浸透させ
  ることです。安倍首相、もしくはその取り巻きは以下のよう
  な発言をしています。
   @証券税制の大増税
   A法人税減税と消費税大増税と軽減税率
   B死亡消費税
   C銀行預金の捕捉(預金金利の所得税は源泉徴収課税であ
   り脱税はできないのになぜ?)@〜Bは伊藤元重、ACは
  安倍晋三の言です。        http://bit.ly/1Cqwaup
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●添付資料/2015年3月16日付、日本経済新聞

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首相の立ち位置は変わったか
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2015年03月19日

●「財務省は『増収』には冷淡である」(EJ第3997号)

 1000兆円を超す財政赤字──日本はどうしてこんなに多く
の借金を作ってしまったのでしょうか。浜田宏一イェール大学名
誉教授は、それは次のことに尽きるといっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 長引くデフレによって、景気が悪化し、それに伴い、税収が
 減り続けてきたからである。        ──浜田教授
               ──浜田宏一/安達誠司共著
        『世界が日本経済をうらやむ日』/幻冬舎刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 添付ファイルを見てください。これは、浜田教授の本に出てい
るグラフで、日本の税収の1995年〜2013までの推移を示
しています。
 このグラフで、景気の推移を示すために実質GDPではなく名
目GDPが使われているのは、税収が名目値で示されているから
です。名目GDPというのは、一定期間に国内で生産された商品
・サービスの合計額、すなわち国内総生産(GDP)をその時の
市場価格で評価したものです。物価の変動を反映している数値な
ので、実質GDPよりも生活実感に近いといえます。
 したがって、名目GDPが増えることは景気が良いことをあら
わしており、減少するのは景気の悪化を意味しています。グラフ
を見ると、名目GDPにリンクしているのは法人税であることが
わかります。他の税収──所得税と消費税は、必ずしも名目GD
Pの変化とリンクせず、ほとんど一定で推移しています。
 さて、法人税は1997年から下落していますが、これは消費
税を3%から5%に上げたことによるものです。消費増税をした
ことによって、景気が悪化したからです。これに対処するため、
当時の速水日銀総裁は1999年からゼロ金利を開始します。
 続いて、法人税は2000年以降減少していますが、これはバ
ブル崩壊によるものです。日銀は、ITバブルによっていったん
解除したゼロ金利を事実上復活させ、2001年から2006年
まで量的金融緩和による景気浮揚策を行い、2004年に行われ
た為替介入による円安効果によって、2004年頃から2007
年にかけて景気は回復し、それに合わせて法人税も大幅に増加し
ています。そして、そして2008年からのリーマンショックに
よって、景気は悪化し、法人税も急激に下落しています。
 さて、景気は良くなったり、悪くなったりするものですが、景
気が悪くなるたびに財政赤字が積み上がるのです。その理由とし
ては次の3つがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.政府は景気を下支えするため、公共事業などの財政政策を
   行うため、政府支出が増加する。
 2.景気が悪化すると、政府の税収、とくに所得税と法人税が
   減少するので、歳入が悪化する。
 3.景気が回復しても、選挙が近いと、有権者の歓心を買うた
   め、財政支出を継続増加させる。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで大事なのは、景気が悪化すると、政府支出を増やすので
出て行くお金(歳出)が増える一方で、入ってくるお金(歳入/
税収)が減るということです。しかも、景気が回復しても選挙対
策として公共事業などを続ける傾向があるので、財政赤字は増加
する一方になってしまうのです。これを長年にわたって、自民党
政権は続けてきたのです。したがって、1000兆円を超える政
府の借金の責任は、すべて自民党にあるといえます。
 それでは、財政赤字を減らし、財政再建を進めるにはどうすれ
ばよいでしょうか。3つの対策があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.財政の無駄を切り、歳出を削減
      2.公共事業などの財政政策を減少
      3.消費税増税などの諸増税を実施
―――――――――――――――――――――――――――――
 このうち「1」は誰でも分かっていますが、なかなかできない
ものです。削減効果を上げるには、毎年増え続ける社会保障を削
減する必要がありますが、それは政権党としては選挙があるので
躊躇せざるを得ないのです。
 本来は、高級官僚が自分たちの天下りのために持っている政府
系の企業や団体こそ整理すべきですが、それは財務官僚が絶対に
手を触れさせようとはしないのです。
 「2」は小泉政権や民主党政権で、「公共事業=悪」と位置付
け、大幅に削減しています。しかし、本当に補修が必要なインフ
ラ整備にもお金が回らず、痛ましい事故を起こしています。
 「3」については、財務省が隙あらば実施を狙っています。今
回の消費税の大増税は、政権運営に慣れていない民主党政権を洗
脳して実施させたものです。官僚にとっては景気が悪化しようが
雇用が減少しようが、自分たちの給与や地位は安泰なので、財政
再建の名の下に、情け容赦なく実施しようとします。
 ところが、この3つの政策は、いずれも財政赤字を減らすどこ
ろか、逆に増やしてしまうものばかりです。なぜなら、実施すれ
ば、確実に税収が減少してしまうからです。
 問題は税収を増やすにはどうすればよいかです。安倍政権は自
然増収を重視していますが、財務省は税収を増やすことには熱心
ではなく、冷淡ですらあります。
 なぜなら、自然増収が増えるということは、増税をする余地が
なくなるからです。彼らは四六時中、増税、つまり国民からお金
を巻き上げることばかりを考えているのです。
 日本全体の税収はどういう式であらわされるのでしょうか。式
を示しておき、明日のEJで説明します。
―――――――――――――――――――――――――――――
    日本全体の税収=名目GDP×税収弾性値×税率
―――――――――――――――――――――――――――――
             ── [検証!アベノミクス/79]

≪画像および関連情報≫
 ●「税率を上げるのではなく、税収を上げよ」/尾山太郎氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  安倍晋三首相の年末解散は政界に衝撃を与えたが、安倍氏が
  めざすアベノミクスを完徹するには、この時期この手しかな
  かった。安倍氏は「2015年10月から消費税を10%に
  引き上げるかどうかは11月17日のGDP速報を見てから
  決める」と財務省の引き上げ論を抑え込んできた。その数値
  が二期連続マイナスで、通年で換算すると、1・6%のマイ
  ナス成長となった。財務省は4月に消費税を上げたから、5
  〜6月に成長が落ち込むのは当然で、7〜9月にはV字型の
  回復を示すはずと宣伝してきた。しかし、結果は完全に裏目
  に出た。このうえ消費税の再引き上げをしたら、景気が落ち
  込み、元のデフレに戻るのは必至だ。もともと、首相は4月
  の8%への引き上げにさえ乗り気ではなかった。だが、財務
  省は「消費税の引き上げをやらないと、日本は財政再建につ
  いて熱意がないとみられ、国家の信用を落とすし、国債も暴
  落する」とまでいった。乗り気でない8%への引き上げをや
  らされた挙げ句に、1年半しか経たないのに10%へ再引き
  上げするのは無謀だとしかいいようがない。日本ではもちろ
  ん、世界にも短期間でダブルの引き上げをしたという経験が
  ないほど稀有なことだ。      http://bit.ly/1ACJjuj
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/──浜田宏一/安達誠司共著の前掲書より

日本の経済成長と税収は比例している.jpg
日本の経済成長と税収は比例している
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2015年03月20日

●「日本の税収弾性値はなぜ1・1か」(EJ第3998号)

 昨日のEJ──EJ第3997号で示した日本全体の税収をあ
らわす数式を再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
    日本全体の税収=名目GDP×税収弾性値×税率
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここある「税収弾性値」とは何でしょうか。
 これについて説明する前に、税収は次の式から算出されること
を知る必要があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
          税収=課税対象×税率
―――――――――――――――――――――――――――――
 当たり前の話ですが、税収は「課税対象×税率」で計算される
額になります。しかし、現在の日本では、法人企業の70%以上
が赤字の状況で、法人税を支払っていないのです。失業者は所得
税や住民税を支払っていません。
 しかし、名目GDPが増加すると、これまで税金を払っていな
かった赤字企業や職を得た失業者が税金を支払うようになるので
税収は名目成長率以上に増加することになります。ここに「税収
弾性値」の存在意義があります。
 ここでは各税とも税収弾性値が共通であると仮定しています。
つまり、税収弾性値とは名目GDP成長率が1%上昇したときに
税収が何%増加するかを示したものです。
 それなら、日本の税収弾性値は何%になるのでしょうか。財務
省によると、税収弾性値は次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
          税収弾性値=1・1
―――――――――――――――――――――――――――――
 経済評論家の三橋貴明氏は、法人企業の7割を超える赤字企業
を持つ日本で、税収弾性値が「1・1」などという低い水準はあ
り得ないといい、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今後の日本において、介護、医療等の社会保障支出が拡大する
としても金額的には精々1・2兆円「程度」に過ぎない。1・2
兆円「程度」の支出増など、税収弾性値を無視したとしても、名
目GDP3%成長「程度」で賄える金額なのである。(中略)
 2013年度の名目GDPは1・9%成長だった。それに対し
税収は6・9%の増加。すなわち、税収弾性値は3・7。税収弾
性値を3と置き、名目GDPが今後、2%のペースで成長してい
くと想定してみよう(低い成長率だが)。
 すると、税収は6%ずつ増えていくことになる。現在の税収が
50兆円であると仮定すると、毎年3兆円のペースで税収が増え
ていくことになるのだ。社会保障費の1・2兆円「程度」の増加
など、余裕で賄い続けることが可能になるわけだ。
                   http://bit.ly/1MIC0c9
―――――――――――――――――――――――――――――
 名目GDPを拡大させることが財政再建には必要なのです。三
橋氏の指摘にもあるように、2013年度の名目GDPは1・9
%成長で税収は実に6・9%の増加です。しかし、メディアはこ
のことを大きくは報道しないのです。それは、財務省の睨みが効
いているからです。
 財務省としては、税収が増えていることをあまり強調されると
増税をしなくてもよい状況が生まれるので、報道して欲しくない
のです。何といっても消費税は安定財源であるので、財務省はど
うしても税率を引き上げたいのです。
 しかし、1997年の消費増税以降、消費税収以外──景気悪
化のあおりを受けた所得税と法人税の税収が減ってしまったため
に、日本全体の税収は減っています。
 一般的認識では、増税をすればその分だけ税収アップにつなが
るはずだと考えますが、とくにデフレのときに消費税を上げると
次の循環で消費も生産も所得も激減してしまうのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 消費減→生産減→所得減→【消費税引き上げ】→消費激減→
 生産激減→所得激減→・・・
―――――――――――――――――――――――――――――
 今回は、増税といっても税率を上げるだけであり、名目GDP
や課税対象になる個人の所得や企業の利益を減らす方向に働くの
で、そのまま税収の増加にはつながらないのです。
 これに関連して、日本共産党の「しんぶん赤旗」のサイトには
「消費税にたよらない別の道」として、次の記述があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 消費税創設以来26年間で、その税収は282兆円にものぼり
ますが、ほぼ同じ時期に法人3税は254兆円、所得税・住民税
も248兆円も減ってしまいました。不況による税収の落ち込み
に加え、大企業、富裕層への減税が繰り返されたからです。
 消費税は、その穴埋めに消えてしまったのです。「社会保障財
源と言えば消費税」「財政健全化といえば消費税」という消費税
頼みのやり方では、この失敗を繰り返すだけです。
                   http://bit.ly/1ysuw7d
―――――――――――――――――――――――――――――
 消費増税是か非か──この問いを日本の識者にすると、80%
は「増税すべき」となるのです。浜田宏一イェール大学教授は、
「日本の識者は財務省の情報作戦にのせられて、『認識捕囚』さ
れてしまっている」と述べています。認識捕囚とは、元米国経済
学会会長のジョージ・スティグラー氏の作った言葉で、「ミイラ
取りがミイラになる」といった意味です。
 財務省の政策を批判的な視点で見なけれはいけないはずのメデ
ィアや識者が、財務省に取り込まれ、財政再建至上主義者にとっ
て都合のよい記事を書いたり、発言したりするのです。まさに認
識捕囚そのものであるといえます。
             ── [検証!アベノミクス/80]

≪画像および関連情報≫
 ●「やはり現在の税収弾性値は1・1ではない」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  今年度(2013年度)の税収は財務省予測より大幅に上振
  れしています。この上振れした税収額から推定される税収弾
  性値は約3です。この税収弾性値は、財政政策立案の重要な
  ファクターですが、従来から財務省や関係研究者が主張する
  税収弾性値1・1を根拠に消費税増税を主張することは大変
  危険です。(中略)財務省やその関係研究者は税収弾性値を
  大きく見積もって税収を楽観的に見ることを戒めています。
  しかし、少し考えれば分かることですが、税収は増える局面
  だけではありません。それらの人々はデフレ期の税収弾性値
  を小さく見積もることで、名目GDPが小さくなった時の税
  収減を楽観的に小さく見てしまっています。「税収弾性値は
  大きく見積もれば楽観的で、小さく見積もれば堅実」などと
  いうことはなく、正しく見積もらなければ、正しい財政政策
  が描けないということです。安倍首相が消費税増税を決定す
  る少し前に、名目GDPを伸ばすことで税収を増やすべきと
  いう本田悦朗・内閣官房参与らと「高い税収弾性値には致命
  的な欠陥がある」とする土居丈朗慶大教授(増税推進派の経
  済学者)らの論争が日経に載っていました。
                   http://bit.ly/1MMIYLt
  ―――――――――――――――――――――――――――

三橋貴明氏.jpg
三橋 貴明氏
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2015年03月23日

●「経済は真の株高局面に入っている」(EJ第3999号)

 3月22日付の日本経済新聞は、第1面のトップに次の記事を
掲げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  「景気拡大」7割超/円安・米経済追い風
  手元資金は成長に/「設備投資」46%「M&A」36%
          2015年3月22日付、日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは国内主要企業の社長を対象に3ヵ月に一度調査している
もので、今回は3月4〜20日に145社からの回答に基づいて
まとめた調査結果です。
 添付ファイルにグラフを付けていますが、注目すべきは、20
14年6月、9月、12月に残っていた「悪化」が、2015年
3月には消えていることです。そして「景気は拡大している」が
70%を超えています。実際に今年の年末の景気の見通しについ
ては「よくなっている」が53・1%と半分以上を占めており、
景気が回復しつつあると感ずる社長が多くなっています。
 景気回復は他の面からも裏付けることができます。実は2月に
潮目が変わったのです。在米ヘッジファンドマネージャーは次の
指摘をしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私は大相場の予感を感じたのは、黒田東彦総裁率いる日本銀行
の動きを見てのことです。あまり知られていませんが、日銀は今
年1月にほぼ3日に1日という猛烈な勢いで日本株を買っていた
のに、2月10日以降はバッタリと動きを止めています。
 これまでの常識なら株価は下がるはずでしたが、実際の値動き
はまったく逆。このあたりから日本株は、グングンと上昇気流に
乗って行ったのです。     ──「週刊現代」3/21より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで「日本株」といっているのは「ETF」のことです。E
TFは投資信託の一種で、「指数連動型ETF」といって、例え
ば、日本を代表する株価指数「TOPIX(東証株価指数)」に
連動するETFがあるのです。日銀は個別株を買うことはできな
いので、このようなETFを買うのです。ETFを買えば、株価
は上昇します。もちろんETFはリスク資産です。したがって、
ETFを買うことは日本株を買うのと同じなのです。
 みずほ証券チーフ株式ストラテジストの菊地正俊氏は、次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 海外投資家は年始以来、日本株を売り越し基調でしたが、2月
第2週に現物・先物合計で約7500億円、第3週には、同1兆
1000億円と大きな買い越しに転じました。円安が進んでいな
いのに株高になっているのは、日本企業のコーポレートガバナン
ス(企業統治)改革などへの期待感が高まっているからです。あ
まりにも急に買われ過ぎだと不安視する向きもありますが、東証
33業種を見ても、電力・ガス、機械などはむしろ売られ過ぎで
買われ過ぎている業種は一つもありません。
               ──「週刊現代」3/21より
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本株が買われるのは、日本企業の業績がよくなってきている
からです。日本企業の来期の業績は2ケタになると見られていま
す。とくに来期は原油安のメリットが日本経済全体に行きわたっ
てくるので、15年度のGDPは、予想の1%をはるかに超えて
3%〜3・5%になるともいわれています。
 しかし、下落の事態が予想されないわけではないのです。ギリ
シャのEUとの交渉破綻や米国の利上げの時期が現在予想されて
いる9月よりも前倒しされること、さらに夏に出る安倍首相の戦
後70年談話の内容によっては日中関係がさらに悪化し、株式市
場に影響を及ぼすことが考えられます。
 安倍首相は、2016年夏に「デフレ脱却」を宣言することを
考えています。そうすると、物価目標2%は2016年3月には
達している必要があります。黒田日銀総裁もハラのなかではそれ
を考えていると思います。
 このように書くと、アベノミクスに反対している経済学者や評
論家、政治家たちのなかには「バブルではないか」という人が出
てくると思います。しかし、今回はバブルではないと思います。
 それは、次に示す1989年末当時の企業の時価総額のランキ
ング(ベスト15)と、今年の2月末のそれが大幅に違うからで
す。89年末は上位は銀行株が独占していますが、これは資産バ
ブルだったからです。しかし、今年の2月末のそれは、真の実力
で買われた企業しか入っていないことがわかると思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1989年末     1915年2月末
   1.日本興業銀行     トヨタ自動車
   2.住友銀行       三菱UFJFG
   3.富士銀行       NTTドコモ
   4.第一勧業銀行     ソフトバンク
   5.三菱銀行       KDDI
   6.東京電力       本田技研工業
   7.三和銀行       三井住友FG
   8.日本電信電話     日産自動車
   9.トヨタ自動車     日本電信電話
  10.野村證券       ファナック
  11.日本長期信用銀行   みずほFG
  12.新日本製鉄      キャノン
  13.東海銀行       JT
  14.三井銀行       デンソー
  15.松下通信工業     ファーストリテイリング
               ──「週刊現代」3/21より
―――――――――――――――――――――――――――――
             ── [検証!アベノミクス/81]

≪画像および関連情報≫
 ●「ETFとは何か」/現代ビジネス
  ―――――――――――――――――――――――――――
  貯蓄から投資へと謳われてから約10年、やっと日本人もタ
  ンス預金にしまいこんでいたおカネを投資に回すようになっ
  てきた。中高年の夫婦が証券会社や銀行の窓口に出向き、商
  品を見比べながら購入している姿はいまや全国で見られる。
  預金に代わる代表的な投資先となったのは、投資信託。投資
  信託協会が先日発表した調査結果によると、投信残高は2年
  連続で増加したという。だが実はここ数年、金融先進国であ
  る米国では投資信託への投資熱が冷えこみ始めていることは
  あまり知られていない。さらに投資信託と「似て非なる」E
  TFなる商品の人気が過熱しているともいう。何が起こって
  いるのか。「かつては米国でも投資信託が人気でしたが、個
  人投資家が不利益を被っているとされる不正取引などが相次
  ぎ、信頼が落ち込んだ。そこで代わりに人気が集まったのが
  ETF。ETFは投資信託の一種で、『何に投資しているか
  中身がすべて公開されている』『手数料が安い』というメリ
  ットが付け足されていることが特徴です。個人投資家のみな
  らず、ハーバード大学の年金基金など機関投資家もETFへ
  殺到したことで、この10年で市場規模(時価総額)が100
  倍以上に拡大、商品数も1000を超えた」。
                   http://bit.ly/1EAgqQV
  ―――――――――――――――――――――――――――

社長100人アンケートjpg.jpg
社長100人アンケート
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2015年03月24日

●「ドル建て日経平均500ドルの壁」(EJ第4000号)

 EJは本日、4000号に到達しました。1998年から書き
始めて満16年が経過しましたが、ここまで続けてこられたのは
大勢の読者のお陰であり、厚く御礼申し上げます。今後どこまで
続けられるかわかりませんが、今後ともよろしくお願いします。
 2月後半以降、日経平均が上昇に転じたのは、海外投資家が本
格的に日本買いにシフトしたからです。これを株式用語でいうと
これまで日本株のショート(空売り)で稼いでいた海外投資家が
ロング(買い)にポジションを移したということになります。こ
れは、短期的な利益を狙っていた海外投資家が、少し腰を据えて
長期的な利益を狙う姿勢に変化したことを意味します。
 ところで、海外投資家がいつも見ている日本株チャートは「ド
ル建て日経平均」の推移なのです。「ドル建て日経平均」とは何
でしょうか。
 ドル建て日経平均とは、日経平均の価格にドル/円の為替レー
トを適用し、ドル・ベースの価格に直したものです。3月19日
と20日のケースで計算すると次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
     ≪19日≫
      日経平均:1万9476円
      ドル・円:   120円
      ドル建て日経平均:162・3ドル
     ≪20日≫
      日経平均:1万9246円
      ドル・円:   121円
      ドル建て日経平均:159・0ドル
―――――――――――――――――――――――――――――
 ドル建て日経平均には「150ドルの壁」というものがあった
のです。アベノミクスの開始以来、何度もこの壁に跳ね返されて
超えることができなかったのですが、今年の2月の半ばにやっと
150ドルを超えてから一挙に160ドルを超えるレベルに到達
しています。添付ファイルに、2014年11月から2015年
3月までのドル建て日経平均の推移グラフを示しているので、ご
覧ください。2月半ばから、円建て、ドル建てともに日経平均は
急上昇していることが読み取れると思います。
 これについて、海外の投資家事情に詳しい株式評論家の渡辺久
芳氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ドル建ての日経平均が「壁」を突破したのは大きな変化です。
海外投資家にとって、日本株市場が絶好の儲け場になったことを
意味するからです。(中略)日本株の先物市場では、ゴールドマ
ン・サックスやJPモルガンなど、海外の大手ヘッジファンドが
利用する証券会社による買いオプションの増加も目立ってきた。
 ドル建ての日経平均が150ドルの壁を抜いて以降、日本株に
に投資するファンドに米国の個人投資家の資金が大量に入り始め
たという話も聞こえてきました。──「週刊現代」3/21より
―――――――――――――――――――――――――――――
 今までは株が買われるのは、円安の恩恵を受ける輸出株が中心
でしたが、現在では内需株にも世界中のマネーが殺到しているの
です。業績が好調で、売上高が大きく伸びているからです。
 実際のところ、ユニクロの既存店売上高は7ヶ月連続で増加し
ていますし、ニトリホールディングスも過去最高益を更新するな
ど、内需企業は絶好調であるといえます。
 それに加えて、安倍首相は昨年から大企業に賃上げを強く要請
してきましたが、今年は春闘でトヨタが4000円のベアを決め
ると、ベースアップを決める企業が相次ぎ、これまでマイナス続
きの実質賃金の改善が期待されます。
 さらに、トヨタは傘下の下請企業に対し、部品価格の値下げを
要請しないことをアナウンスしています。これは、海外投資家か
ら見ると、政府の方針に大企業が協力しようとしているように映
り、好印象を持つのです。もし、他の企業にもそういう動きが波
及すれば、中小企業も賃上げの動きが出てくるはずです。中小企
業の賃上げが実現すると、確実に日本経済の好循環がはじまり、
日経平均の2万円超えは春先以降に実現すると思われます。
 安倍政権は現在徹底した株高政策を推進しています。その計画
は入念に練られており、これも海外投資家に評価され、期待され
ているのです。そのひとつがこの6月から導入される予定の「コ
ーポレートガバナンスコード」です。これについて、株式ジャー
ナリスト・天海源一郎氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、金融庁や東証が決める企業統治(コーポレートガバナ
ンス)の方針です。経営者側は、潤沢な内部留保を投資に回さな
かったり、株主に還元しなかったりすると説明責任が生じます。
そのため、多くの上場企業は手元の資金を投資や配当金の増額、
自社株買いに回さなければならなくなる。その結果、さらに株価
は上昇していきます。
 その象徴的な銘柄が、工作機械大手のファナックです。これま
で同社は秘密主義を貫き、株主への還元もしてきませんでしたが
コーポレートガバナンス強化の一環で社長が表に出てきて、総額
1300億円もの巨額投資を発表。株価は2月だけで約20%も
急騰しました。        ──「週刊現代」3/21より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように、アベノミクスの効果は2年後の2月になって明確
にあらわれてきています。果して今後どこまで日経平均が上昇す
るかわかりませんが、少なくとも今までとは違う状況になりつつ
あります。
 日経平均株価が3万8957円の史上最高値を記録した198
9年末、当時の東証全体の時価総額は約611兆円ですが、すで
にこの2月末時点で約567兆円になっています。ここまでは、
安倍首相の狙い通りに円安株高の状態が続いています。
             ── [検証!アベノミクス/82]

≪画像および関連情報≫
 ●「ガバナンス」なき企業に上場の意味なし/浪川攻記者
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2015年6月に向けて、日本の上場企業は、コーポレート
  ガバナンス改革のまっただ中に踏み込むことになりそうだ。
  金融庁が開催してきた「コーポレートガバナンス・コードの
  策定に関する有識者会議」が12月12日、「日本版コーポ
  レートガバナンス・コード」の基本形をまとめて、15年6
  月1日からの適用を決定したからである。今後1ヶ月ほどの
  間に、パブリックコメントを求め、その後にこの原案が確定
  する。コーポレートガバナンス・コードは、OECD(経済
  協力開発機構)が導入した同コードに基づいて、策定作業と
  その議論が重ねられてきた。今回のコード策定は、上場企業
  の経営者がその手腕を十分に発揮できる環境を整えることを
  狙いとしており、その主旨は冒頭の序文に明記された。これ
  は財界の中に同コードが「経営の自主性を制約しかねない」
  という懸念があったことを踏まえたものと言える。実際、コ
  ードはその性格上、強制的なものではないが、企業はコード
  の受け入れを表明し、コードの原則に則ったガバナンスを行
  なうか、コードを受け入れない場合にはその説明を行なうこ
  とが求められる。この導入と企業の対応によって、日本企業
  のコーポレートガバナンスの向上を通じ、外国からより多く
  の投資マネーを日本市場に呼び込むことが期待されている。
                   http://bit.ly/1CLRHhj
  ―――――――――――――――――――――――――――

日経平均とドル建て日経平均の推移.jpg
日経平均とドル建て日経平均の推移
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2015年03月25日

●「数字によれば雇用は改善している」(EJ第4001号)

 2015年になって、日経平均株価が上昇しているのは、誰も
否定できない事実ですが、それによって景気が回復しているとは
いえないという人はたくさんいます。それは、いまだに次のよう
な批判が多くあることでも明らかです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    ・庶民には実感がわかない
    ・儲かっているのは株を持っている金持ちだけ
    ・あらゆるものが値上がりして生活が苦しい
―――――――――――――――――――――――――――――
 確かにそういう声はたくさんあります。しかし、アベノミクス
以前と以後で、はっきりと変化しているものがあります。それは
失業率が下がっているということです。目下利上げのタイミング
を探っているイエレン米FRB議長も、最も慎重に見ているのが
失業率の改善です。
 添付ファイルをご覧ください。これは2011年1月から20
14年9月までの失業者数を人数ベースで示しています。一番失
業者数が多かったのは2011年1月の319万人です。しかし
アベノミクスがスタートした2013年1月以降、失業者数は明
らかに減少しています。
 最も失業者数が減ったのは2014年5月の233万人ですが
2011年1月の319万人から86万人も失業者数が減少して
いるのです。
 グラフを見ると、2013年以前と以降では失業者数が大きく
減少しているのがわかると思います。とくに2014年になって
からの減少が大きくなっています。
 このグラフから、民主党政権当時の2012年7〜9月期と安
倍政権の2014年7〜9月期の失業者数を比べると、役員をの
ぞく雇用者数の全体数は101万人も増加しているのです。民主
党政権では、経済対策にきちんとした計画性がなく、場当たりに
やっているので、こういう差が出ているのです。
 3月23日付、日本経済新聞の「景気指標」欄の最新のデータ
で、有効求人倍率と完全失業率の数値を並べてみると、次のよう
になります。
―――――――――――――――――――――――――――――
           有効求人倍率   完全失業率
    11年度数値   0・68     4・5
    12年度数値   0・82     4・3
    13年度数値   0・97     3・9
    14年03月   1・07     3・6
       04月   1・08     3・6
       05月   1・09     3・6
       06月   1・10     3・7
       07月   1・10     3・7
       08月   1・10     3・5
       09月   1・10     3・6
       10月   1・10     3・5
       11月   1・12     3・5
       12月   1・14     3・4
    15年01月   1・14     3・6
         有効求人倍率/倍、完全失業率/%
     ──2015年3月23日付、日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 求人倍率というのは、求職者1人当たり何件の求人があるかを
示す景気指標のひとつです。求人倍率が「1・0」より高いとい
うことは、仕事を探している人の数よりも求人のほうが多いとい
うことです。なお、「有効求人倍率」というのは、公共職業安定
所で扱った新規求人数を新規求職者数で割った数値のことです。
 有効求人倍率の数値を見ると、民主党政権時の11年度〜12
年度の平均では1・0を下回っていますが、安倍政権になってか
らの13年度は1・0を下回ったものの、14年度に入ってから
は3月の1・07から12月の1・14へとすべて1・0を上回
り、なおかつ増加しています。明らかにアベノミクスによって雇
用状況は改善しているといえます。
 「完全失業率」とは、15歳以上の働く意欲のある人(労働力
人口)のうち、仕事を探しても仕事に就くことのできない人の割
合のことです。完全失業率は11年度〜12年度は4%台だった
のですが、安倍政権になってからは3%台に下がり、14年12
月には3・4%まで下がっています。
 なお、雇用者の解雇は通常、経営判断の最後の手段として実施
されるので、完全失業率は景気の動きに遅行するのです。そのた
め、完全失業率は、景気動向指数の遅行系列の1つとして採用さ
れているのです。
 雇用が改善したというと、野党やアベノミクス反対派は、非正
規雇用者数が増えて正規雇用者数が減少していることが問題であ
ると批判しています。確かに2013年になってから非正規雇用
者は増加していますが、正規雇用者は一時的に減少しています。
しかし、総務省のデータを見ると、2014年には非正規雇用者
は激減し、その代わり、2014年7〜9月期になると、正規雇
用者も増加に転じているのです。
 これについて、浜田宏一イェール大学名誉教授は、次のように
コメントしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本経済は、「非正規雇用者数」が増える形での失業率低下の
段階から、「非正規雇用者」の正規登用の段階へと移行しつつあ
るのだ。そして、これは、企業が将来の業績に対して強気になっ
てきたからこそ実現した現象であり、アベノミクスの成果といえ
るだろう。           ──浜田宏一/安達誠司共著
         『世界が日本経済をうらやむ日』/幻冬舎刊
―――――――――――――――――――――――――――――
             ── [検証!アベノミクス/83]

≪画像および関連情報≫
 ●アベノミクス、眉唾の雇用回復/BLOBOS
  ―――――――――――――――――――――――――――
   衆院選の公示を控え、各党の党首による論戦も盛んになっ
  て来ました。その論戦の中で安倍総理が訴えているのは、こ
  の2年間で「雇用を拡大した」という実績です。その裏付け
  として使われているのが、「雇用者100万人増」「有効求
  人倍率「1・10倍」「完全失業率3・5%」といった統計
  です。しかし、こうした主張は必ずしも現在の日本の雇用情
  勢を客観的に示したものとは言えないものばかりです。
   「雇用者100万人増」に関しては、野党も指摘している
  通り、2013年1月から2014年10月の間に「正規の
  職員・従業員」(実数)は38万人減っている一方で、「非
  正規の職員・従業員」は157万人増加しているので、「雇
  用の質」が伴っていないといえます。また、繰り返し成果と
  して強調している「有効求人倍率1・10倍」も、あくまで
  「求人」であり「就職件数」ではありませんので、「雇用拡
  大」の成果を裏付ける統計とはいえません。2014年10
  月時点では、実際に就職に繋がった「成約率」(=就職件数
  /有効求人数)は7・3%に過ぎず、リーマンショック後に
  「有効求人倍率」が0・42倍台まで下がった時の14・5
  %を大きく下回っています。    http://bit.ly/1FQV2uy
  ―――――――――――――――――――――――――――

減少傾向にある失業者数.jpg
減少傾向にある失業者数
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2015年03月26日

●「アベノミクス反対者の正体を探る」(EJ第4002号)

 アベノミクスには問題が多くありますが、推進派と反対派が主
張する論拠を調べ上げたうえで、その結論として、私はアベノミ
クスは一応評価できると考えています。ここにきて実体経済にも
少しずつ影響が及んでいるからです。
 しかし、それでも反対する識者は大勢いるのです。反対派のひ
とりである元日銀審議委員のキャノングローバル戦略研究所特別
顧問、須田美矢子氏は、3月15日の日本経済新聞で、アベノミ
クスについて次のようにコメントしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 円安と株高が起きたことは認める。1年目は円安の効果で、コ
ストプッシュ型の物価上昇が起きた。だが次のステップである実
体経済への波及効果は疑問だ。(中略)
 消費の弱さは増税も一因だが、円安で生活にかかわるモノの値
段が継続的に上がったことも、消費者心理を大きく悪化させたと
考えている。さらに消費だけでなく、輸出も設備投資も停滞して
いた。          ──須田美矢子氏「日曜に考える」
         ──2015年3月15日付、日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 須田美矢子氏は、異次元緩和によって、円安と株高が起きたこ
とは認めていますが、それは実体経済に影響を与えていないと主
張しています。しかし、アベノミクスによって失業率は減り、雇
用が順調に伸びてきていることは事実なのです。
 そして消費の弱さについては、消費税増税の影響というより、
円安で生活物資が値上がりし、それが消費を圧迫していることを
強調しています。円安のメリットについては触れず、マイナス面
だけを強調しています。このように考えている人は非常に多いの
です。消費税増税の経済に及ぼす影響を非常に小さく考えている
といえます。財務省を意識してそうなるのです。
 須田氏はもともと金融緩和の反対者であり、金融緩和は効果が
ないし、長く続ければバブルになり、やがてハイパーインフレに
なるという主張を繰り返した人です。あるブログでは、須田氏の
ことを次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2010年8月の政策決定会合で須田美矢子日銀審議委員は、
「金融緩和したらハイパーインフレになる〜極端な場合には物々
交換をするような状態になることすらあり得ないことではありま
せん」と騒いで金融緩和に反対していた人物なのだが、数ヶ月後
には「包括的金融緩和でもデフレ脱却が難しい」などと態度を一
変させている。国民はハイパーインフレで物々交換を強いられる
のではなかったのだろうか?(笑)服用中の薬の副作用なのか、
いまだに80年代のバブルの妄想に浸っているのか、発言内容に
まるで一貫性がない。         http://bit.ly/1BbrMcU
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本では20年以上にもわたってデフレが進行していますが、
政府や金融当局は、それから本気で脱却しようとはしていないよ
うにみえます。それは、なぜでしょうか。
 それは、財務省やその周辺にいる人たち──金融機関関係者、
経済評論家、経済学者、高級官僚などにとっては、デフレの方が
メリットがあったからです。デフレの最大の悪は、雇用を奪うこ
とです。これによって大多数の国民は塗炭の苦しみを味わうこと
になりますが、その一方で利益を享受する人がいるのです。
 デフレになると、債券(国債)の利回りが低下します。債券の
利回りが下がるということは、債券の価格が上がることを意味し
ています。この円高とデフレの進行が長期間続く状態では、債券
を買うと確実に利益が出るのです。つまり、ラクをして儲かると
いう状況が長く続いたのです。
 ところが、2012年10月に安倍晋三氏が自民党総裁になっ
て、大胆な金融緩和を示唆する発言を行うと、潮目が変わり、円
安/株高がはじまったのです。海外投資家が殺到したからです。
そのとき、国内の投資家、とくに機関投資家の大半は、絶好の儲
けのチャンスをみすみす見逃してしまったのです。リチャード・
クー氏は、このときの日本の市場関係者の行動について、次のよ
うに証言しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 海外の投資家、特にニューヨークのヘッジファンドが、アベノ
ミクスの発表を受けて巨額な資金を日本に移してきた。彼らは円
を売って日本株を買うという大きな行動に出たが、その間、日本
経済のことをよく知っている国内の投資家、特に機関投資家の大
半はそれに乗らず、国内の債券市場にずっととどまっていた。日
本をよくわかっている投資家は債券市場にいて、海外の投資家は
円売り、株買いに向かったのである。 ──リチャード・クー著
       『バランスシート不況下の世界経済』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 安倍晋三氏が登場する前は、債券の取引で生計を立てていたの
ですから、金融機関の債券市場に関連する部署の組織的な地位が
高まり、社内での出世などの利得に与った人も少なくなかったは
ずです。このときは、円高になればなるほど利益が出たので、ど
うしても円高賛成論者になってしまうのです。
 債券市場での取引の大部分は国債取引ですが、国債は財務省が
発行しているのです。したがって、債券市場で働いている人たち
は、市場関係者のなかでも、とくに財務省とのつながりを重要視
します。彼らは「財務省の意向と反対のことをいうと、国債の入
札から外されるのじゃないか」という恐怖感があるのです。した
がって、そういう金融機関出身の評論家やコメンテーターは、財
務省の意向に反することを絶対にいわないのです。
 しかし、アベノミクスでの儲けの絶好の機会に債券市場にとど
まって、海外投資家においしいところを全部持っていかれる──
まさに「トンビに油揚げをさらわれる」そのものです。現在でも
そのような傾向は根強く残っているのです。
             ── [検証!アベノミクス/84]

≪画像および関連情報≫
 ●「デフレを脱却できないのは日銀のせい」/真壁昭夫氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「デフレから脱却できないのは、日銀が政策を出し惜しみし
  ているからだ」最近、そうした発言が目立つようになってお
  り、日銀に対する政治的圧力の高まりが鮮明化している。わ
  が国経済がデフレから抜け出せないのは、本当に、日銀の政
  策運営に問題があるのだろうか。その点について、はっきり
  した答えがあるわけではない。金融の専門家や経済学者の間
  でも意見が分かれている。「デフレはお金に関する現象なの
  だから、日銀の政策次第で解決できるはずだ」との見方があ
  る一方で、「すでに日銀は潤沢な資金供給を行なっているに
  もかかわらず、デフレが続いているのは多額のデフレギャッ
  プがあるからだ」との意見もある。現在民主党の中には「日
  銀の独立性を保証した日銀法を改正してでも、日銀にさらに
  積極的な政策を打たせるべきだ」との思い切った意見が出て
  いる。そうした政治的な圧力に関しては、大きなリスクが存
  在する。政治家諸氏は、必ずしも経済・金融の専門的な知識
  を持っているとは限らない。そうした人々が「デフレは日銀
  のせいだ」と主張し、日銀が独立して意思決定できる現在の
  体制を崩そうとしている。中央銀行が、政治の圧力によって
  通貨を際限なく発行すると、中長期的には通貨の価値が下落
  してインフレ圧力が高まるだろう。そのときに、都合の良い
  ところでインフレ率を止めようとしても、それがうまくいく
  保証はない。(2012年5月)  http://bit.ly/1G8m01g
  ―――――――――――――――――――――――――――

日銀政策決定会合.jpg
日銀政策決定会合
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2015年03月27日

●「世界大投資家のアベノミクス評価」(EJ第4003号)

 「世界3大投資家」といわれている人がいます。それは、次の
3人です。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.ウォーレン・バフェット
        2.   ジョージ・ソロス
        3.   ジム・ロジャーズ
―――――――――――――――――――――――――――――
 この世界3大投資家の1人であるジム・ロジャーズ氏は、『週
刊現代』の独占インタビューで、日本経済について、次のように
コメントしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2月に日本株が今世紀最高値を更新しました。しかしそれ自体
に、なんら驚くことはありません。日本株の上昇には極めてはっ
きりした理由があるからです。
 アメリカや日本、英国を含むヨーロッパの中央銀行が量的金融
緩和でおカネを刷りまくっているのがその理由です。刷ったおカ
ネはどこかに行きつくものです。そこに円安が重なって輸出産業
の業績も絶好調ですから、トヨタやファナックといった株が高値
になることは当然でしょう。
 日経平均がどこまで上がるのかは、日銀があとどれくらいの期
間、どれくらいの量のおカネを刷るかにかかっています。日経平
均が2万円を超えてもビックリしません。実際のところ私は現在
アメリカ株は買っていませんが、日本株は買い続けていますよ。
               ──「週刊現代」3/21より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、ジム・ロジャーズ氏は、「週刊東洋経済/2015大
予測」のスペシャル・インタビューにおいて、日本の景気の浮上
は認めながらも、それはおカネを大量に刷っている結果であると
し、東京オリンピックの前に状況が悪化し、日本のみならず、世
界のほぼ全土で経済が破綻すると警告しているのです。
 それに加えて、「円安/ドル高」は短期的には日本にとってよ
いことだが、長期的な視点に立つと、通貨の価値を下げることで
発展した国はないと述べています。
 しかも、円の下がり方はあまりにも急速すぎるとジム・ロジャ
ーズ氏はいいます。円はこの3年間でドルに対して40%以上価
値を下げていますが、これは驚くべきことである、と。これまで
の歴史に照らしてみても、たった3年の間に主要国の通貨が40
%も下げた事例などないというのです。このまま円安が進むと、
最終的には日本経済が破壊されることになるとジム・ロジャーズ
氏はいうのです。
 浜田宏一イェール大学教授は、世界3大投資家のもうひとりの
ジョージ・ソロス氏に会って、アベノミクスについて話したこと
があるそうです。それもソロス氏の方から「ニューヨークの自宅
に遊びに来ないか」と電話がきたのです。
 浜田氏の時間の都合で、ソロス氏がイェール大学にきて、話す
ことになったそうですが、浜田氏によると、ソロス氏はアベノミ
クスのことを探りにきたのではないかと述べています。浜田氏は
自著でエコノミストの安達誠司氏との対談で、そのことを次のよ
うに明かしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
浜田:重要なのは我々日本のリフレ派が長年主張していた「日本
   経済の回復のためには大規模な金融緩和政策が必要」とい
   うことを、少なくとも、ソロス自身は理解していたという
   ことです。「金融緩和を行うとハイパーインフレになる」
   「スタグフレーショシに陥る」「財政破たんが起こる」な
   んて言っていた日本の市場関係者たちとは大違いですね。
安達:そう思います。私自身、海外の市場関係者と話すにつけ、
   日本の市場関係者の通説がいかにガラパゴス的でおかしい
   ものかを実感しています。
浜田:それは市場関係者だけでなく、日本の経済学者にもまった
   く同じことが当てはまります。ところでソロスの話は、市
   場関係者にとってはとても示唆的だと思います。なぜなら
   マクロ経済の仕組みを知り、各国政府の、その時々の経済
   政策によって何が起こるかを把握できれば、大きな収益の
   機会になるということなのですから。ソロスは、「金融緩
   和を行った国では相対的に自国通貨安が起こる」としたソ
   ロスチャートでも有名です。
                ──浜田宏一/安達誠司共著
         『世界が日本経済をうらやむ日』/幻冬舎刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように見ていくと、金融緩和──お札を刷ることに対する
アレルギーがいかに強いかということがよくわかります。それは
国家の財政と家計とを同じように扱いたいということと無関係で
はないと思います。国家の財政が家計と一番違うところは「お札
を刷る」ことであり、税金を徴収するという点だからです。
 家計というのは収入が限られていて、簡単に増やすことはでき
ませんから、その収入の中で暮らしていかなければならないので
す。したがって、家計では収入の方が先にあって、次に支出を考
えることになります。
 これに対して政府は、市場の世界だけでは供給されない公共サ
ービスなどを国民に提供する責務があります。つまり、公共サー
ビスを提供する役割が最初にあって、そのために税金を集める必
要があるのです。したがって、出す方(支出)が先で入る方(収
入)は後で考えるという順番になり、家計とは逆転して考えなけ
ればならないのです。
 もし、家計にたとえてしまうと、政府の大切な役割はどこかに
消えてしまって、「とにかく借金をなくさなければいけない」と
いう話だけになっていくことになります。財務省は意図的にそう
いうレトリックを使い、税金を上げる論拠にしたいのです。
             ── [検証!アベノミクス/85]

≪画像および関連情報≫
 ●「今から日本で起きる悲劇」/ジム・ロジャーズ氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  安倍晋三首相は最後に放った矢が自分の背中に突き刺さって
  命取りとなり、日本を破綻させた人物として歴史に名を残す
  ことになるでしょう。自国通貨の価値を下げるなんて、狂気
  の沙汰としか思えません。円はここ数年で45〜50%も下
  落していますが、これは先進国の通貨の動きとしては異常で
  す。このようなことが起きると国家は崩壊し、時には戦争に
  発展します。これまで英国、ドイツ、フランス、イタリア、
  アルゼンチン、エクアドル、ジンバブエなど多くの国がこの
  手法を試みましたが、成功例は皆無です。米国は2度も失敗
  しました。一度目はアメリカ独立革命のときです。大陸会議
  が「コンチネンタル」という紙幣を発行したのですが、暴落
  して紙屑同然になった。ところが、南北戦争で同じ過ちが繰
  り返されます。財政難に陥った南部連合は紙幣を大量に刷り
  ますが、ひどいインフレが起きました。救済策として綿花で
  保障しようとしましたが、大戦に勝利した北軍兵に綿花を焼
  き払われてしまう。北軍も、やはり同じ失敗をしています。
  いわゆる「グリーンバック」という裏が緑色の紙幣を大量に
  発行しましたが、価値が大幅に下がってしまった。
                   http://bit.ly/1A2Yuif
  ―――――――――――――――――――――――――――

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ジム・ロジャーズ/ジョージ・ソロス
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2015年03月30日

●「菅VS竹中論争に見えてくるもの」(EJ第4004号)

 書店で若林栄四氏の新刊書を購入していま読んでいます。若林
氏は、歴史観に裏付けられた洞察力から生み出される相場大局観
で、国内外の機関投資家、個人投資家に絶大な人気を持つ人物で
すが、彼は経済学について次のように述べています。私も常々そ
う思っており、共感できるので、引用します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 経済学とは、所詮、いろいろな前提条件を置いて、「こうやっ
たらこうなります」みたいなことを示せるだけで、ある人がこう
言えば、またある人はこう言うで、物理学のように絶対的に正し
いパラダイムが存在しない分野である。しかも再現実験ができな
いので、「Would have been」 とか「Could have been」 という
ことを誰も証明できない。「これをやっていなければ」あるいは
「あれをやっていれば」が分からない。
 極論を言えば、経済学は学問ではない。したがって、ノーベル
経済学賞という部門が存在することは間違っていると筆者などは
思うのだが。                ──若林栄四著
      『異次元経済/金利0(ゼロ)の世界』/集英社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 テレビなどで、経済政策について議論しているのを聞いている
と、明らかにかみ合わない議論をしている人が大勢います。その
典型的なケースをひとつ取り上げることにします。
 政権交代をして民主党が得意絶頂だった2009年12月16
日のことです。急いで民主党として、成長戦略を策定しなければ
ならなくなり、その日、官邸で急遽会議が開かれたのです。会議
には、慶応義塾大学教授の竹中平蔵氏を講師として招き、意見を
聞くことにしたのです。
 民主党から見れば、竹中氏は小泉政権で経済財政担当相として
銀行の不良債権処理を行い、総務相として郵政民営化の難題をや
り遂げたいわば敵方の将であり、そういう人物からあえて成長戦
略について教えを請うとは殊勝な心がけのように思えますが、実
は違うのです。きちんとした成長戦略を作れなかった自民党の失
敗に学ぶために当の責任者であった竹中氏を呼んで、つるしあげ
てやろうという意図だったようです。
 この会議で「成長の原動力は供給か需要か」が問題になったの
です。そのとき、民主党側は需要面での政策を行う必要があると
いう意見が出たのです。これに対して、竹中平蔵氏は次のように
述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 経済成長の基本的な考え方について申し上げます。まず私は経
済成長の基礎は、経済の供給側、サプライサイドになければなら
ない。これは常にそのように考えています。もちろん需要側は重
要なんです。しかし、需要というのは供給を上回って成長するこ
とは絶対できませんので、その天井を決めるのは供給側です。
 しかし、現実に日本の政策論議では供給側の議論というのは、
ほとんどなされません。サプライサイドが決めるものは何かとい
うと、資本を増やすこと、そして労働投入を増やすこと、そして
技術を高めること。この3点しかありません。
           ──若田部昌澄著/日本経済新聞出版社
        『解剖/アベノミクス/日本経済復活の論点』
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに関して当時経済財政担当相の菅直人氏が、次のように反
論したのです。しかし、菅氏の話した通りでは、論理がゴチャゴ
チャして読みにくいので、私なりに彼がいわんとしていることを
整理して示します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 供給を超える需要はないといわれましたが、アダム・スミスの
時代は供給が需要を決めたんだと思うんです。しかし少なくとも
1929年以降は、需要がなくて供給過剰になるというなかでの
不況が多く起きたわけで、今まさにデフレという状況が生まれて
おります。私たちが考えている経済政策というか成長戦略は、ま
ず需要をつくることが重要ではないかと。もちろん供給サイドを
効率化する、競争で勝てるような供給サイドをつくることは大切
ですけれども、需要がなければ競争に勝った企業は、企業として
は成り立つけれども、負けたところからどんどん失業者が出ます
から。完全雇用じゃない状況のなかで、需要サイドをいかにして
新たな需要を生み出すかということがより重要だと思いますが、
その点はいかがですか。    ──若田部昌澄著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 完全に議論がかみ合っていません。長期でみるか短期でみるか
の違いです。竹中氏は長期で見ており、菅氏は短期の立場に立っ
て論じています。マクロとミクロの違いです。経済成長(成長戦
略)は長期の話であるのに菅氏は短期の視点から論じています。
それに完全雇用ではない状況というのは短期の話です。要するに
マクロ経済学というものがわかっていないのです。
 これは、素人にとどまらず、経済学者や市場関係者にも及んで
いるのです。既出の安達誠司氏は「マクロの経済政策の効果を正
しく理解している市場関係者は稀どころか、ほぼ皆無なため、日
本はマクロ経済に対する後進国になってしまっている」といって
います。
 かつて浜矩子同志社大学大学院ビジネス研究科教授は「ユニク
ロ型デフレ」を主張し、これについてEJで論評したことがあり
ます。明らかにミクロのとらえ方です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2012年1月24日付、EJ第3224号「経済学者はデフ
レをどう考えているか」        http://bit.ly/1F4P209
―――――――――――――――――――――――――――――
 そういう人たちに本当にリフレ派経済学を批判できるのか大い
に疑問です。賛否両論があるなかでも、単なる経済論争ではなく
アベノミクスは一応の成果を上げつつあるのです。はじめた以上
成果を見守るべきです。  ── [検証!アベノミクス/86]

≪画像および関連情報≫
 ●多事争論「ユニクロ型デフレ」/2009年12月
  ―――――――――――――――――――――――――――
  今日やっと文藝春秋新年特別号の「『ユニクロ型デフレ』で
  日本は沈む」を読んで、正直驚きました。エコノミスト、経
  済ジャーナリストを名乗る人がこういってはなんですが、と
  んでも本のような類の論説を、それも文藝春秋の表のページ
  に掲載するとは!(中略)この文章を読む限り、「安い労働
  力を求めて海外に生産拠点を移」したのは、「小泉改革が規
  制緩和を進め、市場原理主義を進め、日本にグローバル・ス
  タンダード主義を持ち込」んだからと読めます。どんなとこ
  ろの規制緩和を行って、どんな政策が市場原理主義となって
  企業が安い労働力を海外に求めていったと思っていらっしゃ
  るのでしょうか?例えば政府が今まで「安い労働力を求めて
  海外に行ってはいけない」といった規制でも、していたので
  しょうか?企業はコスト削減と柔軟な生産調整を実現すべく
  正規雇用を非正規雇用に切り替えていく」のは、派遣職種を
  大幅に緩和した派遣法の改正が呼び水になっているとは思い
  ます。では、なぜ企業はそうしたのか?またその結果、企業
  は儲かるようになったのでしょうか?ユニクロもデザインと
  品質管理を日本で統括していますが、生産は中国などでして
  いるのは小泉改革のどんな規制緩和が影響しているのでしょ
  うか?さすがに「理由は小泉改革だ!」としているデフレの
  名称に「ユニクロ型デフレ」と名付けていらっしゃいますか
  ら、どこかに関連性があるのでしょう・・・。
                   http://bit.ly/1Cxpp8t
  ―――――――――――――――――――――――――――

竹中平蔵氏と菅直人氏.jpg
竹中 平蔵氏と菅 直人氏
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2015年03月31日

●「3本の矢の経済格的根拠とは何か」(EJ第4005号)

 マクロ経済学における「短期」と「長期」を整理して表にする
と次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎短期と長期の比較
       定義     理論  焦点      政策
 短期 不完全雇用 有効需要理論 需要側 金融・財政政策
 長期  完全雇用  経済成長論 供給側    成長政策
           ──若田部昌澄著/日本経済新聞出版社
        『解剖/アベノミクス/日本経済復活の論点』
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで短期と長期といってもこれは現実的な時間を意味してい
ないのです。何年以内が短期で何年以上は長期ということではな
いのです。
 それから不完全雇用か完全雇用かということですが、完全雇用
が失業率ゼロということではないのです。職を求めて働かない人
もいますし、よりよい賃金や条件を求めて求職活動をしている人
もいるので、失業率何%が完全雇用かということは一概にいうこ
とはできないのです。そのため、米国のFRBでは「完全雇用」
とは呼ばず、「最大雇用」といっています。
 短期と長期では理論が変わります。短期では、「有効需要の原
理」が働きます。これは家計や企業や政府といった経済主体の行
う有効需要──マネーの裏付けのある需要によって決まります。
 現在アベノミクスは、短期の政策を実践しているのです。第1
の矢として「大胆な金融政策」と「機動的な財政政策」を同時に
行っています。
 この短期、長期の問題について、若田部教授は次のようにまと
めています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 現代マクロ経済学を短期、長期と分けるのがよいでしょう。短
期というのは、物価や賃金といった経済の変数が調整されきって
いない状態を指します。逆に、長期というのはそういう変数が調
整されている状態です。
 これをもう少し経済の状態に近づけて言うと、短期とは経済の
「余力」が残っている状態、あるいは天井まで到達していない状
態、長期とは「余力」が残っておらず、天井に到達している状態
と考えられます。短期の場合、資本や労働といった資源が使いき
られていない状態といえます。 ──若田部昌澄著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このマクロ経済学の短期/長期との関連で、経済政策の目標と
して、若田部教授は次の3つを上げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1. 経済成長:  余力を上げる
      2.景気安定化: 余力を残さない
      3.所得再分配:最低限の所得保証
―――――――――――――――――――――――――――――
 「短期」とは、経済の余力が残っておらず、天井まで達してい
ない状態です。物価や賃金などの経済の変数が調整されていない
状態です。この場合は、「余力を残さない」ように資本や労働な
どの資源を使いきる必要があります。それが「景気安定化」とい
うことになります。
 これに対して「長期」は、余力が残っておらず、天井に達して
いる状態です。この場合は天井を上げること、すなわち、経済的
「余力を上げる」ことが求められます。これが経済成長の理論に
なるのです。つまり、アベノミクスの第3の矢「民間投資を呼び
起こす成長戦略」になるのです。
 ところで、経済成長はなぜ必要なのでしょうか。
 このことについて、若田部教授は著書で次のような文章を書い
ているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 最初にこの話をしなくてはならないのが、日本の経済論壇の悲
劇的な状況ではあります。   ──若田部昌澄著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは何を意味しているのでしょうか。その答えは、若田部教
授の近刊書の「序章─ネオアベノミクスが始まる」の冒頭に書か
れています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「経済成長はもはや不可能であるし、成長を前提とした社会は
私たちから人間らしい幸福を奪ってきた。成長しない社会モデル
の構築こそ、これからの日本に必要なものであり、すでに各地の
小さなコミュニティや人的ネットワークには、その萌芽が見られ
るのだ」。近年、このような主張が主力紙の社説やコラムに散見
されます。さらに、書店を一回りすればそのようなテーマの本を
何十冊も見つけることができるでしょう。ベストセラーとなった
永野和夫著『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書)など
はその典型です。             ──若田部昌澄著
 『ネオアベノミクスの論点/レジュームチェンジの貫徹で日本
            経済は復活する』/PHP新書973
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本人は悲観論がすこぶる大好きな国民です。そのため、昨今
の経済論壇やメディアでは、反成長論、脱成長論、成長悲観論が
隆盛を極めています。若田部教授の上げた水野和夫氏の著書など
は、超大ベストセラーになっています。
 「もはや成長などできない」──デフレに陥った日本経済をデ
フレから脱却させる努力を何もしないで20年以上も放置し、国
民に塗炭の苦しみを与えても平然としていた白川総裁時代の日本
銀行──これは犯罪といってもよいほどの成さざるの罪です。
 安倍政権はいろいろ問題がありますが、アベノミクスによって
とにかくデフレから脱却する努力をしている点は高く評価できま
す。このテーマは長くなっていますが、経済成長の問題まで書い
て近く終了する予定です。 ── [検証!アベノミクス/87]

≪画像および関連情報≫
 ●特別対談/若田部昌澄氏VS高橋洋一氏/2011年11月
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ――最初に、大変基本的なことですが、なぜ経済成長が必要
  かについて、お2人の意見を聞かせてください。世界的にみ
  れば、日本はもう十分豊かなので、経済成長は必要ない、定
  常的な社会を前提にして、課題の解決に取り組むべきだとい
  う、根強い意見があります。
  若田部:経済成長が必要ないという主張は、本当に考えられ
  ない話です。まず日本は十分に豊かになっているというけれ
  ども、実際にはいま日本は貧しくなっている。貧困層も増え
  ている。というのは、やはり名目GDP(国内総生産)が停
  滞しているからです。名目GDPは簡単にいうと1年間の国
  民が得る給料や配当などの合計額。それが停滞しているのだ
  から、貧困層が増えていてもおかしくない。もう少し具体的
  に経済成長をしないと何が問題なのかというと、まず『オー
  クンの法則』という経験則がある。アーサー・オークンはか
  なり前に亡くなった、アメリカの新進気鋭の経済学者で、こ
  の法則は実質経済成長率と失業率の間の相関関係をとってみ
  ると、経済成長率が高いほうが、失業率が低いというもので
  す。これは非常に頑強に成り立っている経験則です。だから
  それでいくと日本のように経済成長率が下がると、それによ
  って失業率が高まり、所得が減って、貧しくなるというのが
  1つ目の問題ですね。       http://bit.ly/1gl1D1M
  ―――――――――――――――――――――――――――

若田部昌澄教授の近刊書.jpg
若田部 昌澄教授の近刊書
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