2015年02月24日

●「量的金融緩和とインフレの関係性」(EJ第3980号)

 浜田宏一イェール大学名誉教授によると、民主党の馬淵澄夫衆
院議員は数少ないリフレ派の政治家であるそうです。池尾和人慶
応義塾大学教授は、その馬淵氏のブログに次の書き込みを行い、
反論を展開しています。池尾氏は、なかなかアクティブで、アン
チリフレ派の筆頭として活躍する学者の一人です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 インフレ目標の設定や量的緩和などによるマネタリーベース拡
大を行うとどうしてインフレになるのかについては、是非、その
トランスミッション・メカニズムを(馬淵氏以外の方でも結構な
ので)教示してもらいたい。(略)ゼロ金利下の世界は、いわば
アリスの迷い込んだ『不思議の国』である。したがって、金利が
正の世界では常識であることについても、ゼロ金利下でも同様に
成り立つというためには、その理由を説明する必要がある。
                ──浜田宏一/安達誠司共著
         『世界が日本経済をうらやむ日』/幻冬舎刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで池尾氏のいう「トランスミッション・メカニズム」とは
何を意味しているのでしょうか。これは、量的金融緩和をすると
どうしてインフレになるのか、そのプロセスを明確に示して欲し
いということをいっているのです。トランスミッション・メカニ
ズムは、「金融政策の波及経路」または[金融政策の伝達経路」
と訳されています。
 池尾教授は、量的金融緩和をいくらやっても、それによって物
価が上がり、インフレにはならないと考えています。したがって
否定的な意味で、量的金融緩和をしたら、どのようにしてインフ
レになるのか、その波及経路を示せといっているのです。「示せ
るものなら示してみよ」ぐらいの強い意味です。
 2010年のことですが、池尾氏は「アゴラ」というブログに
おいて、「量的緩和という物語」というタイトルで、日銀が量的
金融緩和をしても、金利がゼロの状態では必ずしも市中の通貨の
量は増えないとして次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 金利がゼロの(正確には、短期金融市場金利と準備預金に付く
金利水準に差がなくなった)状況では話は基本的に違ってくる。
というのは、資金を日銀当座預金口座に寝かせておいても、とく
に損になるということはなくなるからである。もちろん、貸出を
増やせば利益を見込めるという機会があれば、民間金融機関は資
金を使おうとするであろう。しかし、そうした機会が見出せない
ということになると、民間金融機関は日銀が供給した資金をその
まま日銀当座預金口座に寝かせておく行動をとることになる。
 そうした行動(これを俗には「ブタ積み」と呼ぶ)を民間金融
機関がとる限り、資金は日銀の外に出て行かず、金融緩和にはな
らない。この意味で、日銀の外に資金が出ていくかどうかの鍵を
握っているのは、民間金融機関である。そして、金利が正の状況
では、中央銀行が民間金融機関の行動を誘導することは比較的可
能であるとしても、金利がゼロになった状況では、誘導する手立
てはほとんど存在しない。       http://bit.ly/1zSGVhl
―――――――――――――――――――――――――――――
 量的緩和をしてインフレにするには、市中の通貨量(マネース
トック)を増やす必要があります。これに成功すると、明らかに
それまでの状況が変わってくるので、人々はインフレ期待を持つ
ようになるといえます。
 しかし、何度も述べているように、日銀が量的緩和でいくら金
融機関の日銀当座預金口座に資金を積み上げても、銀行がそれを
引き出して貸し出しに回さない限り、マネーストックは増加しな
いのです。要は金融機関の意思にかかっているわけです。
 現在、日銀当座預金に積み上がっている資金のうち、預金に応
じて積み立てる「必要準備」を超える「超過準備」には0・1%
の金利が付いており、金融機関としては超過準備を引き出さなく
ても別に損にならない状況です。
 これに加えてさらに池尾教授は、2013年4月7日の日本経
済新聞の「経済教室」において次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 リフレ論争は「特効薬だ」と告げて偽薬を与える治療を認める
べきかどうかという問題に似ている。効果を信じれば、ただの小
麦粉でも効くケースはある。一方で、「気合いを入れれば効く」
といっているに過ぎない。         ──池尾和人教授
          ──浜田宏一/安達誠司共著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに対して浜田教授は、量的金融緩和を続ければ、銀行の貸
し出しが増えなくてもマネーストックは増やせるし、実際に増え
ているとし、池尾氏の求めるトランスミッション・メカニズムは
示すことはできると、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これはつまり、「ゼロ金利では、それ以上金利を下げられない
ので、銀行の貸し出しは増やせない」「だから銀行の貸し出しを
増やす以外に、インフレを生じさせる経路を説明できないリフレ
派の議論には穴がある」というのである。
 この論を否定するには、「銀行貸し出しが増えずともマネーサ
プライ(マネーストック)を増やすことはでき、その結果として
緩やかなインフレを起こし、景気を回復させることもできる」こ
とを示せればよいのだろう。実際に今現在、アベノミクスの金融
緩和政策の発動後、銀行貸し出しはあまり増えていないのに、マ
ネーサプライが増え、物価も上昇し始め、景気も回復してきてい
る。(中略)それは企業の経営者がデフレ期に自社に溜め込んで
いたフリーキャッシュフローを投資に回し始めたことで、日本全
体のマネーサプライが増えているからである。
          ──浜田宏一/安達誠司共著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/62]

≪画像および関連情報≫
 ●金融政策だけで「デフレ脱却」はできない/池尾和人教授
  ―――――――――――――――――――――――――――
  消費者や企業のマインド改善は景気が回復する前提条件にな
  る。いろんな機会をとらえて、消費者や企業のマインドが前
  向きになるよう働きかけていくことは、経済政策を運営して
  いくうえで大切なことだ。(中略)デフレから脱却した将来
  において、物価水準が必要以上に高くなることを日銀が放置
  する、と人々に信じ込ませることができれば、インフレ期待
  を高めることができる、という議論がある。しかし、少し考
  えれば、そんな無責任な政策を日銀が取ることはありえない
  とわかる。根拠のない、いわば偽薬(プラシーボ)のような
  政策であっても効くことは一時的にはありうるかもしれない
  が、持続的なものではありえない。多くの人を一時的に、あ
  るいは少数の人を長期間だますことは可能でも、多くの人を
  長期間だまし続けることはできないからだ。デフレとは、物
  価が持続的に下落することだ。しかし、デフレ脱却のために
  とにかく物価が上がればよいのかというと、そうではない。
  世間でいうデフレ脱却というのは景気がよくなることを指し
  ている。賃金が上がらないのに物価は上がるのは困る、とい
  うのが一般的な考え方だ。物価指数で除した賃金を実質賃金
  というが、金融政策で仮に価格の持続的な下落を止められた
  としても、金融政策だけで実質賃金を引き上げることはでき
  ない。              http://bit.ly/1JsQ3o2
  ―――――――――――――――――――――――――――

池尾和人教授/浜田宏一教授.jpg
池尾 和人教授/浜田 宏一教授
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする