2015年02月23日

●「どのような原因で円安になったか」(EJ第3979号)

 このテーマも60回を超えてきているので、そろそろ締めくく
りに入ることにします。ネット上では「アベノミクス是か非か」
という論争が続いています。経済のとらえ方にはいろいろあって
結果が出ていることであっても、この世界では真逆のとらえ方が
できるのです。
 「失われた20年」の原因であるデフレから脱却することに対
しては、大方の人は当然だと思うはずですが、「デフレのままの
方がいい」と正反対の意見を本にする経済学者もいるのです。こ
の世界ではそういうことが許されてしまうのです。
 2014年の名目GDPは488兆円ですが、この数字は19
92年の名目GDPとまったく同じなのです。つまり、22年間
日本経済はまったく成長していないことになります。もちろんデ
フレが原因でそうなったのです。
 1月にトマ・ピケティ氏が来日したとき、民主党幹部がいち早
く動いて、ピケティ氏と連絡を取り、1月30日の夜、岡田代表
をはじめ、幹部がピケティ氏と会っています。経済政策が必ずし
も強いとは思えない民主党の幹部としては異例のすばやい行動で
あり、少し驚いたのです。
 しかし、これは経済に関する論議というよりも、ピケティ氏が
格差問題を批判しているので、言葉は良くないですが、ピケティ
の名声を利用して、国会質問などで安倍政権を追い詰めてやろう
という考え方のようです。
 民主党の経済に対するとらえ方のレベルの低さについては、ア
ベノミクスがはじまる2012年11月末に、当時の野田首相が
金融緩和強化を訴える安倍自民党総裁を次のように批判している
ことからよくわかります。
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 安倍さんのおっしゃっていることは極めて危険です。なぜなら
インフレで喜ぶのは誰かです。株を持っている人、土地を持って
いる人は良いですよ。一般の庶民には関係がありません。それは
国民にとって大変迷惑な話だと私は思います。
             ──野田佳彦内閣総理大臣(当時)
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 かつての日本のリーダーである野田首相の経済に対するとらえ
方がこの程度のレベルなのです。この言葉を聞くだけで、野田氏
が経済について勉強していないことがわかります。
 安倍政権のアベノミクスの指南役とされる浜田宏一イエール大
学/東京大学名誉教授は、1月末に新刊書を発刊して、アベノミ
クス批判派の学者に対して反論しています。
 その批判の対象は慶応義塾大学教授の池尾和人氏であり、同教
授の2013年4月7日付の東洋経済オンラインのインタビュー
記事についての反論です。
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 安倍政権の発足はタイミングがよかった。円高から円安に修正
される動きは(安倍政権発足前の)2012年11月ごろから起
きていた。欧州の信用不安が小康状態になったことに加え、米国
の景気がかなり手堅いとの認識が広がり、投資家の態度が、いわ
ゆる「リスクオフ」(リスク回避的な姿勢)から「リスクオン」
(リスク志向的な姿勢)に変わったからだ。
                   http://bit.ly/1JsQ3o2
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 要するに池尾教授は円安になった事実は認めているのですが、
それはたまたまタイミングがよかっただけであり、アベノミクス
とやらには何も関係はないといっているのです。
 池尾教授の考え方はこうです。2011年11月以前は、ギリ
シャ問題などに端を発するユーロ危機が深刻になり、世界中の投
資家たちは、ユーロ圏から資金を引き上げ、日本を含めた安全な
国に投資を増やしていたのです。これが「リスクオフ」の姿勢と
呼んでいるのです。
 したがって、ユーロ圏から投資をシフトされた国では、自国通
貨高現象が起きます。具体的にいうと、海外から日本への投資が
増えるということは、海外投資家が円を買っていることと同じに
なるので、円高になります。
 しかし、ユーロ危機はECBのがんばりで収束したので、投資
家たちは、ユーロ圏以外の国にシフトしていた資金を再びユーロ
圏に投資をはじめたのです。これが「リスクオン」の姿勢です。
その結果、資金が引き上げられた国は自国通貨安になっていった
のです。
 2012年後半からの日本の円安はそれが原因で起きており、
アベノミクス宣言は、たまたまそれとタイミングよく重なっただ
けであるというのです。これについて、浜田宏一教授は、グラフ
(添付ファイル)を示して、次のように池尾和人教授の主張に反
論しています。
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 (添付ファイル)を見れば、スイスフラン高局面が終わり、円
安に向い出した時期は確かに近い。そのため「スイスフラン」と
円が自国通貨安方向に向かい出したのは、この時期にユーロ危機
が一息つき、それにより、ユーロ圏以外に向っていた世界の資金
がユーロ圏へ戻っていったからだ」と後づけで言えなくもない。
しかし、その後1年後の2012年11月、日本は突如して、そ
れまで以上の円安局面に転じている。一方、スイスに大幅なスイ
スフラン安局面は訪れていない。仮に池尾氏の主張が正しいなら
ば、この時は日本やスイスへの投資資金がいっきにユーロ圏へと
集中したはずである。そして当然、日本だけでなく、スイスへの
投資資金もユーロ圏に向っていたはずだ。つまり一層スイスフラ
ン安がもたらされていたはずである。
                ──浜田宏一/安達誠司共著
         『世界が日本経済をうらやむ日』/幻冬舎刊
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            ─── [検証!アベノミクス/61]

≪画像および関連情報≫
 ●シティバンク銀行・尾河眞樹氏に聞くアベノミクス
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  安倍首相が首相になる前の2012年11月15日、「自民
  党が政権をとった暁には、2%〜3%のインフレターゲット
  を設けて、円高是正、デフレ脱却に向けてできる政策を総動
  員する」と発言しました。この意味するところは、物価がど
  んどん下がる、企業利益が悪化する、株が下がる、給料が下
  がる、物が売れない、景気が悪い、という状況から脱却する
  ためには、何でもやるということをおっしゃったわけです。
  当時、日米の金利差で見るとそこまで円安が進む状況ではな
  かったのですが、想定外の円安トレンドが始まりました。さ
  らに衆院選後の12月16日、安倍政権が発足。1月はまだ
  日銀総裁は白川方明さんでしたが、日銀と政府がインフレタ
  ーゲットを設けて、政府も日銀も一丸となって頑張るという
  共同声明を出しました。インフレターゲットをそこまで明確
  に協調して進める体制ができたというのは初めてだったので
  す。白川総裁の退任表明後の総裁人事では、インフレを起こ
  してデフレから脱却していこうという黒田東彦さんが総裁に
  また、副総裁にもそういった考えを持つ方が就任しました。
  基本的に、インフレを起こすということは、通貨の価値が下
  がっていくということですから、日銀がどんどん量的緩和を
  拡大していくということになると、円が大量に市場に供給さ
  れ、円安が進むことになります。  http://bit.ly/1Ec2uQx
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 ●グラフ出典/浜田宏一/安達誠司共著の前掲書より

円、スイスフラン、ユーロ、ポンドの対ドルレートの推移.jpg
円、スイスフラン、ユーロ、ポンドの対ドルレートの推移
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする