2015年02月20日

●「緊縮政策に苦しむフランスの現況」(EJ第3978号)

 フランソワ・オランド氏が大統領選に出馬したのは、2012
年5月のことです。そのとき、オランド氏は次のように演説して
いたのです。
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 われわれの敵には、名前がなく、顔もなく、政党にも属してい
ません。立候補も、選挙の洗礼も受けたことがありません。それ
でもわれわれを支配しています。その敵とは金融界です。
                ──フランソワ・オランド氏
                ──三橋貴明著/徳間書店刊
       『2015年/暴走する世界経済と日本の命運』
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 オランド氏は、演説ではグローバル金融を敵として批判してい
ます。この時点でフランス政界の流れは、反グローバリズム、反
自由主義であり、その担い手としてオランド氏は、第24代フラ
ンス共和国大統領に選ばれたのです。
 しかし、反グローバリズムを掲げてみたものの、何一つとして
うまくいっていないのです。2010年から2013年1〜3月
期までのフランスの実質GDPは次の通りで、オランド政権以後
かえって悪化しています。
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           2010年   1・6%
           2011年   2・0%
           2012年   0・0%
     ――――――――――――――――――
     2012年 7〜 9月   0・3%
          10〜12月  ▲0・6%
     2013年 1〜 3月  ▲0・6%
               ──フランス政府
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 このように経済がよくないので、失業率は10%台に高止まり
しています。2012年第1四半期にユーロ導入後はじめて失業
率が10%を超え、その年の5月にオランド大統領が就任しまし
たが、その後も一向に改善していないのです。2014年8月時
点でフランスの失業率は10・5%です。とくに若者の失業率は
20%を超えており、今やオランド政権の支持率は30%を大き
く下回っている状況です。
 ここで、フランスとドイツの経済構造の違いについて知ってお
く必要があります。フランスは個人消費型の経済であり、ドイツ
は輸出型の経済です。経済の構造のタイプが異なるのです。
 フランスの場合、景気の良し悪しによって経済が左右されるの
です。景気が悪いと内需が伸びないので、ますます経済が落ち込
んでしまう傾向があります。オランド大統領就任後の2012年
10〜12月期以降、2四半期連続のマイナス成長になり、景気
の良くない状況が続いています。
 本来であれば、フランス政府はただちに景気対策を実施すべき
ですが、フランスはEU加盟国であり、金融政策をECBに委譲
しているので、通貨の発行権はなく、財政政策は一応保有してい
るものの、EUの盟主のドイツやEUからの厳しい規制があって
事実上使えないのです。つまり、フランスは不景気になっても、
通常の景気対策を実施できないことになります。
 このようにEU加盟国では、EUの設計者であるロバート・マ
ンデル教授がいうように、金融政策と財政政策──つまり、ケイ
ンズ政策が政治家の手の届かないところに棚上げされ、事実上使
えないようになっているのです。EUの設計がそのようになって
いるからです。これでは、EUは構造的不況に陥ってしまうこと
になります。
 オランド大統領は、ケインズ政策を打てないので、反自由主義
の旗を降ろし、いまどこかの国がやっている「成長戦略」という
名の構造改革と大企業優遇に舵を切ることにしたのです。そして
2014年8月下旬に内閣改造を断行し、左派色の強い閣僚を更
迭しています。
 オランド大統領は、新内閣で規制を緩和し、大企業の利益を拡
大させる政策を行うことによって経済成長につなげる方針を鮮明
に打ち出したのです。しかし、それでも経済は一向に改善する兆
しを見せていないのです。
 これに加えてフランスは、社会保険料が非常に高いのです。日
本の場合は社会保険料は労使折半ですが、フランスでは、雇用側
が従業員に支払う給料の50%程度を社会保険料として負担しな
ければならないのです。そして従業員は給料の25%を負担する
ことになっています。相当の高負担です。
 給料を100とすると、従業員は社会保険料として25を引か
れます。そして雇用者は「従業員の給料100+社会保険料50
=150」を負担しなければならないのです。こうした社会保険
料の高負担が、企業経営を圧迫しているというのです。
 これに加えてフランスでは、正社員を解雇をすることが非常に
困難です。解雇するには、退職金のほかに2年程度の給料を支払
う必要があるからです。これでは事実上解雇はできないのです。
 そこでフランス政府は、解雇手続きの簡素化や、景気低迷時の
労働時間の短縮などの実現を目指していますが、法律で決めるの
ではなく、あくまで話し合いでの改革なので、相当時間がかかる
ことになります。
 このように、ユーロの仕組みには問題が山積です。ロバート・
マンデル教授は、1961年から1965年までIMFに在籍し
1965年から1972年までシカゴ大学でミルトン・フリード
マン教授とも一緒にやっていたことがあります。
 そのため、IMFやEUの政策には、新自由主義経済主義を採
用せざるを得ない巧妙な仕組みが仕掛けてられているのです。ア
ベノミクスにおいても労働改革が進められており、新自由主義の
罠は世界中に仕掛けられているといえます。
            ─── [検証!アベノミクス/60]

≪画像および関連情報≫
 ●「失われた10年」の処方箋求める/WSJ
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  【ベルリン】ドイツとフランスの経済閣僚は、欧州の景気低
  迷の長期化への対処法を経済学者に求めた。両国は、経済活
  性化のための方策をめぐって意見が対立しているが、今回の
  試みはこれに橋を渡そうとするもの。ウォール・ストリート
  ・ジャーナルが確認した書簡により、ドイツのガブリエル経
  済相とフランスのマクロン経済相は最近、フランスの経済学
  者、ジャン・ピザニフェリ氏とドイツの経済学者、ヘンリク
  ・エンダーライン氏に助言を求めた。両氏ともにベルリンの
  ヘルティー公共政策大学院で教べんを取っている。両経済相
  は、欧州が低成長、物価の低迷、債務の拡大、高い失業率と
  いった「失われた10年」に瀕しているとした上で二人の経
  済学者に対し、2017年までに経済を改革し欧州の成長を
  後押しするため取るべき方策を尋ねた。最近ユーロ圏のリー
  ダーはドイツに対し、ユーロ圏の景気低迷に対処するために
  投資と消費を活性化させるべきだとの要求を強めている。こ
  うした圧力は特にフランスとイタリアから強いが、国際通貨
  基金(IMF)や欧州中央銀行(ECB)からも見られる。
  フランスとイタリア政府は、公的債務が拡大しているところ
  から欧州の厳格な財政ルールの例外を求めている。一方、ド
  イツはここ数ヶ月、成長鈍化の兆しが顕著になりつつあるが
  政府支出拡大の要求を拒絶し、予定通り来年も均衡予算を組
  む方針だ。その上、フランスとイタリアが求める例外措置に
  は否定的で、両国に経済改革を進め公的支出を削減すべきだ
  と繰り返し述べている。    http://on.wsj.com/1Djiyk8
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メルケル独首相/オランド仏大統領.jpg
メルケル独首相/オランド仏大統領
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする