2015年02月13日

●「ドイツの財政均衡政策とユーロ圏」(EJ第3973号)

 現在のEUが「ドイツの、ドイツのための、ドイツによる共通
通貨ユーロである」ことを知る必要があります。ドイツは、20
01年に崩壊したITバブルの影響を受け、国内の企業が投資不
振に落ち込み、経済が悪化して、雇用環境が深刻化したのです。
 これによってドイツは失業率が上昇し、2005年には10%
を超えるまでになります。当時フランス、スペイン、イタリア、
ギリシャの失業率はそこまで行っておらず、ドイツの失業率がダ
ントツで高い状態だったのです。
 このドイツを一貫して助けたのがECBです。ドイツに有利な
低金利政策を取り続け、結果的にスペインやアイルランドにおい
てバブルを膨張させてしまうことになります。当時、ユーロの為
替は高水準に推移していたので、ドイツがユーロ圏以外の国に輸
出するのは困難でしたが、ユーロ圏内への輸出を拡大させること
により、何とかデフレを回避することに成功します。そして、ド
イツの失業率も改善の一途をたどったのです。
 しかし、2008年のリーマンショックによって、EUでもア
イルランド、イギリス、スペインなどの不動産バブルが次々と崩
壊し、変動しない為替レートがかえって災いして、いわゆる「P
IIGS/ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、ス
ペイン」諸国の財政危機が深刻化するのです。
 しかし、PIIGS諸国が財政危機に落ち込み、圏内が混乱す
ればするほどユーロは安くなるので、ドイツの輸出は大きく伸び
てドイツだけがトクをする状況が現在も続いています。2005
年には10%を超えていた失業率はどんどん下がり、2010年
以降は7%を切るところまで改善したのです。まさにドイツがい
まあるのは、EUのおかげといってよいのです。
 そして現在ドイツですが、2014年9月9日にショイブレ財
務相は次の宣言を行っています。
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  ドイツ政府の新規国債発行額は2015年にゼロになる
             ──ショイブレ/ドイツ財務相
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 現在ドイツは、EUのなかで最もGDP成長率が高く、失業率
も低いのです。そして、長期金利(10年物国債金利)は1%を
割り込んでいる状況にあります。これによって、ドイツは、日本
スイスに続く長期金利1%割れ国になったのです。なぜ、そこま
で長期金利が低下したのでしょうか。
 既に述べているように、ドイツは国の財政の歳入や歳出を通じ
て総需要を管理し、経済に影響を及ぼす財政均衡政策をとってい
ます。政府の支出拡大による財政政策は拡張的財政政策といって
最も嫌うのです。そして、EU全体の財政収支の均衡を2015
年には実現させようとしているのです。そのための新規国債発行
額のゼロ宣言なのです。
 この財政均衡政策をドイツほど厳格ではないものの、黒田現日
銀総裁以前の日銀はとってきたのです。そのため、日本は現在も
デフレから脱却できていないのです。そしてこの政策とは対照的
なリフレ政策によって、デフレ脱却を試みています。
 ただ、注意しなければならないことがあります。この財政均衡
政策にはそれなりの説得力があることです。「財政を均衡させ、
賃金を抑制し、できる限り借金はせず、借りた金は返済する」と
いうように、経済の素人にもとてもわかりやすいからです。どう
してかというと、国家財政を家計にたとえているからです。
 しかし、EJでは何度も強調しているように、国家財政と家計
は似て非なるものであり、同一に論ずるべきではないのです。国
家には危機のさいには「お札を刷る」ことができますが、家計で
はそんなことはできないからです。
 聞くところによると、ドイツのアウトバーンは通行できないと
ころが増えているそうです。コンクリートが腐食し、危険で通行
できなくなっているのです。しかし、ドイツでは財政出動には法
律上の厳しい縛りがあって容易にはできないのです。
 2014年10月時点で、EU全体の経済が停滞し、景気後退
(リセッション)危機が強まるなかで、ドイツ自体が財政均衡路
線を一時棚上げにし、財政支出を拡大すべきであるという要請が
出ていることに対し、ドイツのガブリエル経済相は次のように反
論し、ドイツ政府として拒否しています。
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 予想成長率の下方修正はしたが、修正は「警戒すべき要因」で
は全くない。なぜなら、ドイツ国内雇用は拡大を続けており、一
連の経済指標も不十分とはいえ、リセッション(景気後退)の前
触れとなるようなものではない。
 また、経済政策や財政政策、また社会・労働政策についても変
える理由は全くない。政府はじたばたして債務を膨らませるよう
な形でドイツ経済を下支えするつもりはない。
  ──ドイツ/ガブリエル経済相 http://on.wsj.com/16VFCav
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 ドイツはEUという経済圏のなかの一国であり、EUのエンジ
ンともいうべき重要な存在です。現在、EU全体の経済が停滞し
リセッションの危機に瀕しているので、それを避けるために、ド
イツ自体もこのさいは財政均衡路線を一時棚上げして、財政支出
を拡大させて欲しいというEU参加国からの要請を冷たく拒否し
たかたちになります。
 かつてITバブル崩壊の危機に、EUにドイツはどれほど助け
られたかを忘れ、宗教のような財政均衡路線を頑なに守り、他国
へもそれを強制する──少し身勝手ではないかというのがドイツ
の姿勢です。
 それでも2015年に入って、ECBによる量的金融緩和策を
ドイツも承認したということは、もはやそれ以外の方法はないと
いう結論に達したのでしょうか。EUというメカニズムをもう一
度考え直してみる必要があると思います。
            ─── [検証!アベノミクス/55]

≪画像および関連情報≫
 ●「ユーロ圏、デフレの前に行動せよ」FT/1月12日
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  ユーロ圏のデフレは原油価格とは無関係だ。デフレの原因は
  ここ数年の一連の政策ミス、つまり、2011年の利上げ、
  2013年にインフレ率が崖から落ちた際に行動しなかった
  こと、そして景気後退の最中に緊縮財政を推し進めたことな
  どだ。欧州中央銀行(ECB)が「2%に近いが、2%を下
  回る水準」というインフレ目標を達成できていたら、原油価
  格の急落は無害だったろう。インフレ率はせいぜい2%から
  1%まで下がる程度だったはずだ。中央銀行はこれを無視し
  てよかった。だが、ゼロに近いところから始めると、デフレ
  に陥ってしまう。今から1年前、ユーロ圏はショックが1度
  起きただけでデフレに陥ると言われていた。それ以来、我々
  は2つのショックを経験した。ロシアによるウクライナ侵攻
  と原油価格の下落だ。ショックは起きるものだ。また、ユー
  ロ圏のような石油純輸入国・地域にとっては、原油安は通常
  なら恩恵となる。しかし、遅れてやって来る二次的な効果は
  警戒しなくてはならない。すでに、ドイツの賃金交渉担当者
  が賃金計算式で2%というECBのインフレ目標を引き下げ
  ている兆候が見られる。担当者らは概して、ECBのインフ
  レ目標とドイツの生産性拡大の一部を合算して賃上げ幅を算
  出する。だが、インフレ率がゼロで推移すると、この計算式
  に残るのは生産性だけで、その生産性も大して拡大していな
  い。インフレ予想が低下すれば、賃上げ率も低下することに
  なる。              http://bit.ly/1IEMzuC
  ―――――――――――――――――――――――――――

ドイツ/ガブリエル経済相.jpg
ドイツ/ガブリエル経済相
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする