2015年02月03日

●「ECBの量的緩和は成功するのか」(EJ第3966号)

 欧州中央銀行(ECB)の採用した「マイナス金利」──通常
であれば、お金を借りる側が貸す側に利息を支払うのですが、マ
イナス金利の場合は、お金を貸す側が借りる側に金利分を支払う
ことになるのです。
 ECBがマイナス金利を適用したのは、2014年6月11日
のことです。ECBはユーロ圏17ヶ国の銀行から預かるお金に
付ける金利を、それまでのゼロから「0・1%のマイナス」にし
たのです。あわせて、政策金利をそのとき、年0・25%から、
過去最低の0・15%に引き下げたのです。
 2014年6月の時点で、ECBはまだ量的金融緩和は考えて
おらず、このマイナス金利で、どのくらいの効果が期待できるか
を試そうとしていたものと思われます。
 それでは、量的金融緩和とマイナス金利は、実体経済にどのよ
うなかたちで影響を与えるでしょうか。整理してみます。
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 ◎量的金融緩和
  マネタリーベースを増加→インフレ率に働きかける→予想イ
  ンフレ率の向上→実質金利の低下→実体経済の刺激
 ◎マイナス金利
  中銀当座預金にマイナス金利→当座預金の減少→民間銀行の
  ポートフォリオバランス貸出増加→実体経済の刺激
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 ECBの当座預金にマイナス金利を導入すると、ユーロ圏諸国
の銀行は、長く預けておくと、手数料を取られることになるので
引き出して、企業への貸し出しなどに使おうとするなど、お金を
回しやすくなる効果が期待できるのです。
 また、ドルや円などの通貨より魅力が薄れることで、ユーロ安
を招き、輸入品の価格上昇などを通じて、インフレ率が高まると
いう効果も見込めることになります。それによって、景気を浮揚
させようという狙いです。
 なぜ、ECBがその時点で、マイナス金利を選択したかについ
て、高橋洋一氏は次のように述べています。
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 ECBが量的緩和でなく、名目金利マイナスを選択したかとい
えば、量的緩和は国債の買い取りを伴うので、EUのどこの国の
国債を買うかでもめるからだ。
 表向きの理由は、財政ファイナンスの禁止である。具体的には
ECBは各国国債の直接引受(買い入れ)をマーストリヒト条約
で禁止されている。これは、日銀でも財政法、FRBも連邦準備
法によって同じように原則禁止となっている。
 日米の中央銀行は、政府からの直接引受ではなく、市中から国
債買入という形でその条項に反しないように国債オペをやってい
るが、ECBだけは各国の思惑の違いがあり、国債買入が政治的
にはやりにくいのだ。なお、ECBにはこうした政治的な弱点が
あるために、財政ファイナンスの禁止をことさら強調しすぎるき
らいがある。             http://bit.ly/1ExFU5X
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 結局のところ、ECBは、2015年1月22日の理事会で、
「量的金融緩和」の導入を決定したのです。ECBの指揮下にお
いて、ユーロ圏各国の中央銀行が国債を含めて毎月600億ユー
ロ(約8兆円)の資産を買い取り、2016年9月末まで続ける
としています。その19ヶ月間の買い取り総額は、1兆ユーロを
超す見通しです。
 一応期限は切っているものの、目標として「2%に近い中期的
な物価上昇目標」というインフレ目標を掲げており、その達成が
見通せるまで続けることに言及しているので、目標達成が見通せ
るまで量的金融緩和政策を続けることになります。しかし、日本
のケースを考えても、その目標が19ヶ月程度の期間で達成でき
るとはとても思えないのです。
 日銀と違う点は、ECBの場合は、量的緩和であげたターゲッ
トが買い入れる国債などの資産規模であり、日銀のようなマネタ
リーベースにはなっていない点です。
 日銀は、マネタリーベースをいくら量的に増加させても、それ
が必ずしも大量に貸出に回るとは考えておらず、マネタリーベー
スを思い切って大きくすれば、そこにインフレ期待が強まり、2
%の物価目標が達成できると考えているのです。したがって、超
過準備の0・1%の付利をした意味はあるといえます。
 しかし、ECBはマイナス金利のままにしています。これは、
ECBの量的緩和の目的が、国債買入による通貨ユーロの下落を
誘い、それによって物価の下落を食い止めるところにあるためで
はないかと考えられます。
 反リフレの主張のなかには、日銀が超過準備に付利しているこ
とを批判する向きがありますが、むしろ超過準備に付利すること
によって、日銀の当座預金に資金が積み上げられ、それが期待イ
ンフレ率を高めるという反論もあります。それに、マネタリーベ
ースの増加がマネーストックの増加に結び付くには、ある一定程
度のタイムラグが必要であるといわれます。
 添付ファイルをご覧ください。上のグラフは、マネタリーベー
スの増加率とマネーストックの増加率を比較したグラフです。マ
ネタリーベースの増加にあわせてマネーストックも増加している
ことがわかると思います。ただマネタリーベースを30%以上も
増加させて、ようやくマネーストックが3%増えているという状
況を考えると、マネーストックを増加させることが決して容易で
はないことが分かります。
 下のグラフは、マネーストックの増加率と、預金および貸し出
しの増加率を比較したグラフです。マネーストックの増加に合わ
せて、貸し出し、預金ともに増えていますが、預金の増加率の方
が高くなっています。これを見ると、供給されたお金は預金とい
うかたちで金融機関に滞留しており、必ずしも貸出に回っていな
いことがわかります。  ─── [検証!アベノミクス/48]

≪画像および関連情報≫
 ●量的緩和策はマネーストックに影響を与えているか
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  量的緩和が経済成長に結びつくルートはそれだけではない。
  マネーの総量が増え続けることが予想される場合、世の中に
  はインフレ期待が出てくることになる。実質金利は名目上の
  金利からインフレ率を引いたものなので、インフレ期待が出
  てくれば、実質的に金利を引き下げることができる。実質的
  な金利が下がれば、貸し出しが増え、設備投資の活性化が期
  待される。そうなれば名目上の物価上昇であっても、実質的
  な経済成長を伴うことになる。現時点では株価が上昇してい
  ることや円安になっていること以外には、明確に期待インフ
  レ率が上昇しているという兆候は見られない。ただ、マネー
  サプライの増加傾向が確実になってくれば、円安による輸入
  物価上昇との組み合わせで、ある程度のインフレ期待が醸成
  されてくるかもしれない。ここまで来れば、いよいよ量的緩
  和策の実体経済への波及メカニズムを具体的に検証すること
  ができるようになってくる。来月以降のマネーストックの数
  値は要注目といえそうだ。     http://bit.ly/1ExT56R
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マネタリーベースとマネーストックの関係.jpg
マネタリーベースとマネーストックの関係
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする