2015年02月02日

●「中央銀行当座預金マイナス金利に」(EJ第3965号)

 先進国による量的金融緩和のリレーが行われています。そのよ
うに感じないでしょうか。
 リーマンショックでペシャンコになった景気を立て直すため米
国のFRBが先行して実施し、2013年から日銀がその後を追
うように実施し、欧州のECBも準備を進めるなか、FRBが出
口戦略を行って撤退した後を追うように、遂にECBも今年の3
月からの実施を決定──量的金融緩和政策のリレーです。
 2013年から安倍首相がアベノミクスをはじめたとき、いち
早く賛成したのは時のバーナンキ米FRB議長です。日本という
バトンタッチすべき理想的な相手が現われたからです。
 2008年からFRBは量的金融緩和を3次にわたって波状的
に行い、そこに注ぎ込んだ資金は実に4兆8000ドル、当時の
日本のGDPをしのぐすさまじい額になっているのです。これに
よってNYダウは史上最高を謳歌していますが、果して本当に景
気が好転したのでしょうか。
 これは疑問です。しょせんは、バブルで空いた穴をバブルで埋
めているだけではないのでしょうか。これについては、いずれ検
証することにします。
 2014年の夏頃から「ジャクソンホールの密約」という噂が
流れはじめたのです。8月下旬、米国のワイオミング州の保養地
ジャクソンホールで金融セミナーが開かれ、ランチタイムに隣同
士に座ったドラギ欧州中銀総裁とイエレンFRB議長が何やら真
剣に話し合っていたというのです。
 その席で、「米国が量的緩和を終えた後、不足する資金を日本
とEUが埋めるという密約が交わされたのではないか」という噂
が流れたというのです。そして2014年10月にFRBは量的
緩和を終了しますが、間髪を入れず、黒田日銀による追加の金融
緩和が宣言されています。あまりにも話が出来過ぎているといわ
ざるをえないのです。
 ここで、「金融緩和」について知識を整理して、アベノミクス
の検証を進めることにします。
 「金融政策」とは何でしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
 金融政策とは、日銀が利子率を変更することで通貨供給量を調
節し、経済の動きを調整する政策である。
―――――――――――――――――――――――――――――
 基本は「利子率(金利)の変更」なのです。大前提として、市
場に供給されている通貨供給量(マネーストック)と経済活動の
間には密接な関係があることはわかっています。
 必要以上のお金が市場に供給されると「カネ余り」の状態にな
り、通貨価値が下がって物価が高騰するインフレ現象を起こしま
す。逆に、市場に供給されるお金が不足すると、物価が下落する
デフレ現象を起こします。
 どちらの現象も経済活動を崩壊させてしまうため、日銀は通貨
供給量の動向を監視して、市中に出回る通貨量がつねに適量とな
るように調整しています。
 ところが、金利をゼロないしその近くまで下げてしまうと、通
貨供給量の調節ができなくなってしまいます。金利はゼロ以下に
は下げられないからです。
 そこで登場したのが量的金融緩和政策です。2001年3月に
ゼロ金利になったときに、時の速水優日銀総裁が取った金融政策
のひとつです。つまり、日本がはじめたのです。
 具体的には、当座預金(民間金融機関が日銀内に開設している
預金口座)の残高を増やすこと──それが量的金融緩和政策なの
です。日銀が『当座預金残高を増やす』ということは、民間金融
機関が自由に使えるお金を増やすことを意味します。
 実はこのとき、日本の金融機関は不良債権が積み上がり、危機
的状況にあったのです。時の速水日銀総裁は、それによる不測の
事態も想定して、金融機関の当座預金の残高を増やしたともいわ
れています。それが後に「量的金融緩和政策」と呼ばれるように
なるのです。
 これに関連して知っておくべきなのは、「準備預金制度」とい
う制度です。金融機関が受け入れている預金などの一定比率(準
備率)以上の金額を無利子で日銀に預け入れることを義務づける
制度のことをいいます。これは、1957年(昭和32年)に施
行された「準備預金制度に関する法律」によって、金融政策の手
段として導入されたものです。
 この準備率の調整も金融政策の手段となります。中央銀行はこ
の準備率を操作して、金融機関の現金準備を直接的に増減させ、
その信用創造機能をコントロールする調節手段となっているので
す。預金準備率操作といいます。日銀の量的緩和は、日銀が金融
機関の有する国債などを買い取り、その金額を金融機関の日銀当
座預金に積み上げるかたちを取ります。そうすると、日銀当座預
金の金額には次の2つがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.必要準備 ・・・ 無利子の法定準備金額
    2.超過準備 ・・・ 必要準備を上回る金額
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在のところ、「超過準備」の部分については、0・1%の利
息がついています。しかし、EUの場合は、ECBの当座預金の
金利はマイナス金利になっているのです。つまり、当座預金に預
けているとマイナス金利によって預金が減少するのです。そのた
め、金融機関が資金を引き出して貸し付けに回す可能性もあると
いえます。
 EUはそれに加えて量的緩和に踏み切ることになるので、量的
緩和とマイナス金利が果して同時に機能するかどうかが注目され
るところです。問題は、この状態でEUの金融機関が、国債をE
CBに素直に売却するかどうかは疑問です。貸出をするにしても
マイナス金利分のコストを誰が負担するのでしょうか。
            ─── [検証!アベノミクス/47]

≪画像および関連情報≫
 ●ECBマイナス金利導入/近藤駿介氏のブログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  欧州中央銀行(ECB)は2014年6月5日の定例理事会
  で追加の金融緩和策を決めた。指標となる政策金利を0・1
  %引き下げ、過去最低の年0・15%とする。主要国・地域
  で初めて、民間銀行が中央銀行に預け入れる余剰資金の金利
  をマイナスにする政策も導入する」(6日付、日本経済新聞
  「欧州中銀、初のマイナス金利」)前回の定例理事会で、追
  加の金融緩和を実施することは予告されていましたので、E
  CBが金融緩和に踏み切ることは想定の範囲内と言えます。
  注目を集めていたのは、金融緩和の中身です。個人的に感じ
  ることは、今回の金融緩和は期待通りの効果を生むかどうか
  とは別に日本の金融緩和を反面教師にして、欧州の「金融」
  を担う中央銀行らしい、慎重に検討された「金融」政策だと
  いうことです。政策金利を0・15%にしたのは、もう一回
  利下げ余地を残したのと同時に、「民間銀行が中央銀行に預
  け入れる余剰資金の金利をマイナスにする」という「マイナ
  ス金利」を導入するからだと思われます。「マイナス金利」
  を簡単に言えば、これまで民間銀行の資金を「預金」という
  形で預かってくれていたECBが、今後は民間銀行の資金は
  「貸金庫」に入れるようにすると宣言したイメージです。E
  CBが「預金」として預かってくれるのであればECBから
  「預金利息」が貰えますが、ECBの「貸金庫」に預けるこ
  とになったことで、ECBに対して「貸金庫代(保管料)」
  を支払わなければならなくなったという感じです。
                   http://bit.ly/1EWSwRI
  ―――――――――――――――――――――――――――

ECBドラギ総裁.jpg
ECBドラギ総裁
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2015年02月03日

●「ECBの量的緩和は成功するのか」(EJ第3966号)

 欧州中央銀行(ECB)の採用した「マイナス金利」──通常
であれば、お金を借りる側が貸す側に利息を支払うのですが、マ
イナス金利の場合は、お金を貸す側が借りる側に金利分を支払う
ことになるのです。
 ECBがマイナス金利を適用したのは、2014年6月11日
のことです。ECBはユーロ圏17ヶ国の銀行から預かるお金に
付ける金利を、それまでのゼロから「0・1%のマイナス」にし
たのです。あわせて、政策金利をそのとき、年0・25%から、
過去最低の0・15%に引き下げたのです。
 2014年6月の時点で、ECBはまだ量的金融緩和は考えて
おらず、このマイナス金利で、どのくらいの効果が期待できるか
を試そうとしていたものと思われます。
 それでは、量的金融緩和とマイナス金利は、実体経済にどのよ
うなかたちで影響を与えるでしょうか。整理してみます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎量的金融緩和
  マネタリーベースを増加→インフレ率に働きかける→予想イ
  ンフレ率の向上→実質金利の低下→実体経済の刺激
 ◎マイナス金利
  中銀当座預金にマイナス金利→当座預金の減少→民間銀行の
  ポートフォリオバランス貸出増加→実体経済の刺激
―――――――――――――――――――――――――――――
 ECBの当座預金にマイナス金利を導入すると、ユーロ圏諸国
の銀行は、長く預けておくと、手数料を取られることになるので
引き出して、企業への貸し出しなどに使おうとするなど、お金を
回しやすくなる効果が期待できるのです。
 また、ドルや円などの通貨より魅力が薄れることで、ユーロ安
を招き、輸入品の価格上昇などを通じて、インフレ率が高まると
いう効果も見込めることになります。それによって、景気を浮揚
させようという狙いです。
 なぜ、ECBがその時点で、マイナス金利を選択したかについ
て、高橋洋一氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ECBが量的緩和でなく、名目金利マイナスを選択したかとい
えば、量的緩和は国債の買い取りを伴うので、EUのどこの国の
国債を買うかでもめるからだ。
 表向きの理由は、財政ファイナンスの禁止である。具体的には
ECBは各国国債の直接引受(買い入れ)をマーストリヒト条約
で禁止されている。これは、日銀でも財政法、FRBも連邦準備
法によって同じように原則禁止となっている。
 日米の中央銀行は、政府からの直接引受ではなく、市中から国
債買入という形でその条項に反しないように国債オペをやってい
るが、ECBだけは各国の思惑の違いがあり、国債買入が政治的
にはやりにくいのだ。なお、ECBにはこうした政治的な弱点が
あるために、財政ファイナンスの禁止をことさら強調しすぎるき
らいがある。             http://bit.ly/1ExFU5X
―――――――――――――――――――――――――――――
 結局のところ、ECBは、2015年1月22日の理事会で、
「量的金融緩和」の導入を決定したのです。ECBの指揮下にお
いて、ユーロ圏各国の中央銀行が国債を含めて毎月600億ユー
ロ(約8兆円)の資産を買い取り、2016年9月末まで続ける
としています。その19ヶ月間の買い取り総額は、1兆ユーロを
超す見通しです。
 一応期限は切っているものの、目標として「2%に近い中期的
な物価上昇目標」というインフレ目標を掲げており、その達成が
見通せるまで続けることに言及しているので、目標達成が見通せ
るまで量的金融緩和政策を続けることになります。しかし、日本
のケースを考えても、その目標が19ヶ月程度の期間で達成でき
るとはとても思えないのです。
 日銀と違う点は、ECBの場合は、量的緩和であげたターゲッ
トが買い入れる国債などの資産規模であり、日銀のようなマネタ
リーベースにはなっていない点です。
 日銀は、マネタリーベースをいくら量的に増加させても、それ
が必ずしも大量に貸出に回るとは考えておらず、マネタリーベー
スを思い切って大きくすれば、そこにインフレ期待が強まり、2
%の物価目標が達成できると考えているのです。したがって、超
過準備の0・1%の付利をした意味はあるといえます。
 しかし、ECBはマイナス金利のままにしています。これは、
ECBの量的緩和の目的が、国債買入による通貨ユーロの下落を
誘い、それによって物価の下落を食い止めるところにあるためで
はないかと考えられます。
 反リフレの主張のなかには、日銀が超過準備に付利しているこ
とを批判する向きがありますが、むしろ超過準備に付利すること
によって、日銀の当座預金に資金が積み上げられ、それが期待イ
ンフレ率を高めるという反論もあります。それに、マネタリーベ
ースの増加がマネーストックの増加に結び付くには、ある一定程
度のタイムラグが必要であるといわれます。
 添付ファイルをご覧ください。上のグラフは、マネタリーベー
スの増加率とマネーストックの増加率を比較したグラフです。マ
ネタリーベースの増加にあわせてマネーストックも増加している
ことがわかると思います。ただマネタリーベースを30%以上も
増加させて、ようやくマネーストックが3%増えているという状
況を考えると、マネーストックを増加させることが決して容易で
はないことが分かります。
 下のグラフは、マネーストックの増加率と、預金および貸し出
しの増加率を比較したグラフです。マネーストックの増加に合わ
せて、貸し出し、預金ともに増えていますが、預金の増加率の方
が高くなっています。これを見ると、供給されたお金は預金とい
うかたちで金融機関に滞留しており、必ずしも貸出に回っていな
いことがわかります。  ─── [検証!アベノミクス/48]

≪画像および関連情報≫
 ●量的緩和策はマネーストックに影響を与えているか
  ―――――――――――――――――――――――――――
  量的緩和が経済成長に結びつくルートはそれだけではない。
  マネーの総量が増え続けることが予想される場合、世の中に
  はインフレ期待が出てくることになる。実質金利は名目上の
  金利からインフレ率を引いたものなので、インフレ期待が出
  てくれば、実質的に金利を引き下げることができる。実質的
  な金利が下がれば、貸し出しが増え、設備投資の活性化が期
  待される。そうなれば名目上の物価上昇であっても、実質的
  な経済成長を伴うことになる。現時点では株価が上昇してい
  ることや円安になっていること以外には、明確に期待インフ
  レ率が上昇しているという兆候は見られない。ただ、マネー
  サプライの増加傾向が確実になってくれば、円安による輸入
  物価上昇との組み合わせで、ある程度のインフレ期待が醸成
  されてくるかもしれない。ここまで来れば、いよいよ量的緩
  和策の実体経済への波及メカニズムを具体的に検証すること
  ができるようになってくる。来月以降のマネーストックの数
  値は要注目といえそうだ。     http://bit.ly/1ExT56R
  ―――――――――――――――――――――――――――

マネタリーベースとマネーストックの関係.jpg
マネタリーベースとマネーストックの関係
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2015年02月04日

●「株価を政権支持率とする安倍政権」(EJ第3967号)

 ここまで、安倍政権が「この道しかない」として進めるアベノ
ミクについて、肯定派と反対派のそれぞれの立場に立って、予断
を交えず、その検証を進めてきました。しかし、この方向で正し
いとする答えはまだ見つからないでいます。
 その一方で、このままでいいのかと懸念されることはたくさん
あります。安倍政権は、異常なほど「株価」を気にする内閣であ
るといえます。まるで株価が安倍内閣の支持率であるかのように
気にする内閣です。
 1月30日のテレビ東京のWBSを見ていたときのことです。
不敵な笑顔を浮かべる黒田日銀総裁の顔の大写しと、次のタイト
ルとともにニュースが流れたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     過去最大の買い/日銀過去最大の株買い!
       WBS動画/ http://bit.ly/18G7kta
―――――――――――――――――――――――――――――
 日銀は、2014年10月末の追加金融緩和のさい、年間3兆
円のETF=上場投資信託を買い入れると宣言しているのです。
問題はその実績です。2005年1月は3443億円と過去最大
の規模になっています。この額は、年間の買い入れ総額3兆円の
1割以上の金額であり、単月では過去最大になります。
 さらに問題は買い入れる日です。買い入れのタイミングは主に
日経平均が下落した日で、金額としては5日の374億円の買い
入れが最大だったのです。何のことはない。日銀が日経平均を買
い支えている構図です。もちろん、こんなことは、世界でも極め
て異例の措置であり、株価を押し上げる効果を持つ一方、市場の
役割を歪めているとの批判も出ています。
 ETFというのは「上場投資信託」のことです。証券取引所に
上場されていて、株式と同じように取引される投資信託のことで
日経平均株価などの指数などに連動することを目標に作られてい
るのです。つまり、投資信託と株式、両方の性質をあわせ持つ金
融商品のことです。
 もうひとつ、気になることがあります。それは、昨年の秋に厚
生年金や国民年金の積立金の約130兆円を運用する年金積立金
管理運用独立行政法人(GPIF)の新資産構成への移行がいつ
の間にか決まったことです。確かに、そういう話はニュースとし
ては出ていたのですが、いつそれが発表になったかを明確に覚え
ている人は少ないと思います。
 それは、日銀の追加金融緩和の発表が行われた2014年10
月31日に同時に発表されているのです。添付ファイルの「GP
IF新資産構成」をご覧ください。
 このグラフは、2014年6月末時点の資産構成に比べ、国内
債券(主として国債)の比率を54%から35%に大きく減らし
その分、国内外の株式や、外国債券の比率を大きく増やす内容に
なっています。
 とくに国内株は単純計算で約10兆円の買い増しになり、この
発表後に市場が開いた11月4日の日経平均株価は、448円の
急騰になっています。しかし、これによって国内債券の売却額は
24兆円にも上がり、国債価格下落(金利上昇)にもつながりか
ねない状況になります。
 しかし、日銀は同時発表の追加緩和で、長期国債の購入額を年
間30兆円増額しており、GPIFの国債売却を買い支えた体制
になっているのです。これは、日銀と政府が十分に打ち合わせの
うえで行っていることを示しています。
 といっても、GPIFは、株式市場の需給に配慮して、新資産
構成への移行完了期間を示していないのです。したがって、一気
呵成に新資産構成にシフトするのではないようです。株価が上昇
している局面で、一時的に株価が下落したタイミングを見計らっ
て買いを入れる──押し目買いをしていくことが予想されます。
株価が下落することを相場用語で「押す」と表現するので、この
手法は「押し目買い」と呼ばれるのです。
 心配なのは、この新資産構成は「アベノミクスの成功」を前提
にしていることです。ここまでの検証でもわかるように、アベノ
ミクスには、不透明感が多々あるのです。仮にアベノミクスが不
調に終われば、株価下落によってGPIFには何10兆円もの損
失が発生することも否定できないのです。
 GPIFでは、現在運用のプロの人材を募集しています。転職
支援会社コトラによると、2月にそのための採用セミナーを企画
して応募したところ、セミナーへの参加者が150人と当初の倍
以上集まったので、あわててセミナー会場を変更したほどの盛況
ぶりであるといいます。
 こういうGPIFのやり方について、運用業務20年以上の実
戦経験を持つ評論家で、前国会議員政策顧問でもある近藤駿介氏
は、次のように批判しています。そして、今回のGPIF改革は
間違いだらけであるといっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 GPIFは既に運用のほとんどを外部委託しています。その運
用委託先は、国内外の有名運用機関ばかりです。つまり、国内外
の優秀な運用機関に預けて来たにも関らず、公的年金の問題は運
用では解決出来なかったということです。
 こうした現実があるなかで、どこから「運用の現場に金融のプ
ロ」を採用するというのでしょうか。GPIFが委託していない
組織の中に「プロ」が埋もれているというのでしょうか。
 また、GPIFが「運用の現場に金融のプロ」を採用できたと
しても、運用はこれまでと変り映えしない運用機関に外部委託す
るわけですから、GPIFが「金融のプロ」を採用したことで、
運用委託先の運用が「リスクをとりつつ損失を避け、安定かつ高
い利回りを実現する高度な運用」に変化するなどということはあ
り得ない話でしかありません。     http://bit.ly/1CQCjhj
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/49]

≪画像および関連情報≫
 ●GPIF改革は間違っている/小幡 績慶応義塾大学准教授
  ―――――――――――――――――――――――――――
  私は、2014年4月21日まで、公的年金の運用機関であ
  るGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用委員
  というものを4年間務めた。運用委員とは、簡単に言えば、
  社外取締役みたいなものである。現在、「安倍政権の官邸が
  主導して、GPIF改革が行なわれようとしている」という
  報道が盛んになされている。私だけでなく、多くの運用委員
  が4月22日から入れ替えとなり、2名を除いては新しいメ
  ンバーで運用委員会が行なわれることとなった。そして、今
  後は、いわゆる有識者会合で議論された、ガバナンスなどの
  変更が行なわれることになるだろう。しかし、GPIF改革
  のニュースは日本国内よりも海外投資家に注目されており、
  私に対する取材も、ほとんどが外資系メディアと海外投資家
  である。そして、彼らの注目は、アセットアロケーションの
  変更がどのように行なわれるかである。つまり、彼らは、G
  PIFが今後何を運用対象資産とするのか、どの資産を買っ
  てくるのかということにしか関心がない。要は、「日本国債
  を売って、株を買うのかどうか」ということである。これは
  誤った議論であり、誤った改革である。今回のコラムでは、
  現在議論されているGPIFの改革のどこが誤りか、本質は
  どこにあるのか、本当はどのような改革が望ましいのかにつ
  いて議論したい。         http://bit.ly/1tTc9ZC
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/「週刊東洋経済2015大予測」P95

GPIF新資産構成.jpg
GPIF新資産構成
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2015年02月05日

●「量的金融緩和とジョン・ローの話」(EJ第3968号)

 今日のEJは少し怖い話をします。前にもご紹介したことのあ
る野口悠紀雄一橋大学名誉教授の新刊書に出ている話ですが、内
容をやさしく要約してお伝えしようと思います。この回のテーマ
で私が読んだ本のなかで、一番参考になっている本です。ご一読
をお勧めします。
―――――――――――――――――――――――――――――
        野口悠紀元雄著/日本経済新聞出版社
   『金融政策の死/金利で見る世界と日本の経済』
―――――――――――――――――――――――――――――
 フランス革命前のフランス──ルイ15世の時代の話です。ル
イ14世の治世は、乱費の限りを尽くし、フランスの国家財政は
ほとんど破産状態にあったのです。
 1715年にルイ14世が死去したとき、フランスの国庫債務
残高は30億リーブルだったといいます。それに対して、そのと
きの財政収入は1・45億リーブルしかなかったといわれます。
つまり、当時のフランスは、財政収入の20年分を超える莫大な
債務を抱えていたのです。
 20年分の債務というと莫大ですが、日本でも2012年度末
の公債残高は780兆円で、税収の16年分に相当します。日本
は当時のフランスを笑えないのです。
 そこにあらわれたのがジョン・ローという人物なのです。彼は
スコットランド人ですが、ルイ15世の摂政であったオルレアン
公爵に取り入って、財務総監の地位に出世するのです。
 ジョン・ローは、フランス政府の財政赤字を解決する方法があ
るとして、オルレアン公爵を説得したのです。そして、その仕掛
けとして次の2つのことをやったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.銀行を設立し銀行券を発行する
      2.ミシシッピ株式会社を設立する
―――――――――――――――――――――――――――――
 「1」は、銀行の設立と銀行券の発行です。1716年にこの
銀行は設立されています。発行された銀行券は、法貨としての地
位が与えられたので、この銀行は、現代の中央銀行と同じ権限を
与えられていたことになります。
 「2」は、1717年のミシシッピ株式会社の設立です。当時
フランスの植民地であった米国のミシシッピ川流域の開発を行う
という触れ込みの会社設立です。しかし、ジョン・ローは本気で
事業をやる気などなかったのです。しかし、本気度を見せるため
オルレアン公爵の名を冠した町を作っています。それが、現在の
ニューオルリーンズなのです。
 さて、これで2つの仕掛けができたのです。ジョン・ローは国
債をミシシッピ株式会社の株式に転換できるようにしたのです。
これがローのやった一番重要なことであるといえます。
 当時のフランスの国債は、すでに信用を失っており、その市場
価格は額面価格を大きく下回っていたのです。それでも政府は国
債を発行せざるを得なかったのです。一方、ミシシッピ株式会社
は、ローの巧みな宣伝により、巨額の利益を生む事業であると期
待されていたのです。
 こういう状況においてローは、国債の額面価値でミシシッピ株
式会社の株式を購入できるようにしたのです。これによって人々
が争って国債を株式に交換したことはいうまでもありません。何
しろミシシッピ株式会社の資本金は1億ルーブルで、これは当時
フランスの国家予算と同規模だったのです。
 ここで重要なポイントは、国債は政府の借金であり、返却義務
がありますが、株式には返却義務がないことです。国民が国債と
株式を交換すればするほど、フランスの王室は、巨額の債務から
解放されることになっていったのです。
 これによってミシシッピ株式会社にはザクザクとお金が入って
きたのです。株価はどんどん上昇を続けたのです。当然配当は支
払わなければなりませんが、ジョン・ローの銀行は大量の紙幣を
刷って配当の支払いに充てたのです。
 さらにローは、ミシシッピ株式会社として王室に12億リーブ
ルを貸し付けています。これは、当時のフランスの国家予算とほ
ぼ同規模なのです。これは驚くべき額であり、当時のフランスの
人々の目にはその額はおそらく「異次元」と映ったに違いないと
いえます。
 野口悠紀元雄教授は、ここまでのジョン・ローのやったことを
次のようにまとめています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ミシシッピ会社の株式の価値を支えていたのは、その事業に対
する人々の期待と、紙幣に対する信頼である。形のあるものとし
て現実に配当として支払われていたのは紙幣だから、結局のとこ
ろ、ミシシッピ会社の株式の価値は紙幣によって支えられていた
と言える。したがって、国債という形の国の債務が、紙幣という
形の債務に置き換えられたことになるわけだ。つまり、これは、
「国債の貨幣化」である。紙幣を増発することによって、国債を
償還したのだ。       ──野口悠紀元雄著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、こんなことが成功するはずがないのです。ミシシッピ
株式会社は投機の対象となり、バブルが生じ、フランスはまさに
熱狂状態になったのです。
 1720年になると、さすがのフランス国民もこれは少しおか
しいぞと思うようになったのです。そして紙幣の正貨への返還要
求が起きるようになります。不安が増幅し、貴金属などの価値の
あるものの、国外への流出が起きたのです。
 ローのシステムに対する信頼は急落し、銀行は破綻し、ミシシ
ッピ株式会社の株は暴落したのです。既に市中には大量の紙幣が
残っていたので、インフレが発生したのです。金融緩和の行きつ
く先は、これとたいして変わらない──野口教授はこのように警
告しているのです。   ─── [検証!アベノミクス/50]

≪画像および関連情報≫
 ●「ミシシッピ株式会社とは何か」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  フランスで立てられたこの計画は、開発バブルを引き起こし
  会社の業績が極端に悪いのに発行価格の40倍にまで株価が
  暴騰する事態を招いた。チューリップ・バブル(オランダ)
  や南海泡沫事件(イギリス)とともに、3大バブル経済の例
  えとして知られる。ミシシッピ会社の発行済株式の量は17
  20年には50万株程度だった。すなわち株価が1万リーブ
  ルだった時の会社の時価評価額は50億リーブルとなる。株
  価が500リーブルまで崩壊した1721年9月時点では、
  時価評価額は2億5千万リーブルにまで下がった。ちなみに
  当時のフランス政府の歳出規模は1億5千万リーブルで、政
  府の負債額は16億リーブル(1719年)であった。政府
  とジョン・ローは16億リーブルの政府負債の全てを会社の
  株式で買い上げることにした。この計画は成功した。政府の
  負債の債権者達は、債権や手形でこの株を購入し、1720
  年には政府の全負債はこの会社に移った。これによって、元
  の政府に対する債権者が今度はこの会社の所有者(株主)と
  なったが、会社経営は、政府によってコントロールされてい
  た。政府は毎年3%にあたる4千8百万リーブルの利息を支
  払った。これによって、政府は歳入の10倍(GDPの約2
  〜4倍)もの多額の債務の返済を一時的に免れ、債務免除さ
  れたような状況になった。この成功によって株価は高騰した
  が、その後1720年から1721年にかけて、この会社の
  市場からの資本調達が破綻した。  http://bit.ly/1CTKlGm
  ―――――――――――――――――――――――――――

ジョン・ロー.jpg
ジョン・ロー
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2015年02月06日

●「日本の国債はバブルに陥っている」(EJ第3969号)

 今日は昨日よりももっと深刻な話をします。ジョン・ローの経
済政策は非常に現代の量的金融緩和政策に似ています。これは、
1710年代から20年代の話ですが、現存する中央銀行のなか
で最古の歴史を有するのは、1668年に設立されたスウェーデ
ン国立銀行です。
 しかし、今日見られるような典型的な中央銀行制度に最大の貢
献をしたのは1694年に設立されたイングランド銀行です。当
初は銀行券を独占して発行はできなかったものの、1844年に
銀行券発行の独占権を認められています。
 さて、「ビットコイン」のテーマのところで、紙幣というもの
が、金匠の発行する預かり証から発達したものであることについ
て述べましたが、ジョン・ローは、スコットランドの首都、エジ
ンバラ近郊で、金細工師・銀行家のウィリアム・ローと、その妻
ジャネットの第5子として出生しているのです。彼は金匠の息子
なのです。そのため、小さいときから、銀行というものについて
よく知っていたのです。
 ジョン・ローは、「紙幣はほとんどコストなしに増発できる」
という事実に目をつけ、「市中に紙幣が増えれば経済は活性化す
る」ということを人々に信じ込ませ、政府の債務を巧みに紙幣に
転換したのです。
 ジョン・ローの場合は、ミシシッピ株式会社の株価がバブルを
起こしたのですが、日本の場合は、国債がバブルを起こしている
といえます。どこがバブルなのかというと、それは、金利が異常
なほど低くなっているからです。
 この原稿を書いている2月3日時点の長期金利は、0・285
%です。ある専門家が「0・3%」を切ることは絶対ないといっ
ていたこのラインをあっさり割ってしまっています。
 2014年末の時点では、残存年数が4年以下の国債利回りが
マイナス0・02〜0・4%、5年国債が0・03%、10年国
債が0・33%、20年国債が1・09%、30年国債が1・3
%となっています。驚くべきことに、残存年数が4年以下の国債
利回りはマイナスになっていることです。
 どうしてこんなに金利が低くなってしまったのでしょうか。
 それは日銀が、2013年4月から「長期国債」を毎月7・5
兆円買い入れることをコミットメントする異次元量的金融緩和を
継続して行い、さらに2014年11月から買入れ額を毎月8〜
12兆円に拡大して、その保有残高を年間80兆円増加させる狂
気の量的追加緩和を始めたからです。
 大雑把にいうとこうなります。今や日銀は市中で新規発行され
る長期国債のほぼ全額を買い入れています。しかし、そうしても
年間32兆円程度しか残高は増えないのです。もちろん償還があ
るからです。
 しかし、日銀は80兆円の長期国債の保有残高を増加させなけ
ればならないので、そのためには、民間保有の「長期国債」を年
間50兆円ほど吸い上げることになります。
 それでも「物価目標2%」の達成は無理なのです。完全にアベ
ノミクスは現在空回りしています。それにもかかわらず、この超
異次元緩和を消費税が10%に増税される2017年4月まで日
銀は続けようとしています。まさかやらないとは思いますが、さ
らに超・超異次元追加緩和をやる可能性だってあるのです。
 長期金利が低下し過ぎると何が起きるでしょうか。
 それは、日本全体において投資収益水準全体の低下が起こり、
投資意欲が減退し、それによって景気が減速し、デフレが加速し
ます。何のことはない。デフレから脱却するためにやっている量
的金融緩和がかえってデフレを加速させることになるのです。
 そして、円安がさらに加速し、既に起きつつある輸入物価の高
騰が起こり、消費者の生活や、中小企業の活動を損ない、さらな
る景気減速を招く恐れがあります。そして、デフレの様相がさら
に深刻化すると考えられます。そして2017年4月には、否応
なしに消費税が10%まで増税されるのです。日本経済は、これ
で完全に沈没してしまいます。
 現在、銀行は日銀の異次元金融緩和によって、非常に安直に収
益を得ている状況にあります。既に述べているように最近の国債
利回りの急低下で、残存年数が4年以下の国債利回りが軒並みマ
イナスとなっており、発行額の多い5年国債利回りが0・03%
7年国債でも0・09%の低さになっています。つまり、0・1
%を切っているのです。
 したがって銀行は、残存年数7年以下の国債をすべて日銀に売
却してしまい、その代金を日銀当座預金に積み上げておけば、大
変安直に収益が上がることになります。日銀当座預金の超過準備
分に対しては、0・1%が付利されているからです。皮肉なこと
に、この0・1%付利が、資金が外に流れ出すことを止める際ど
い滑り止めになっているのです。
 これほどの低金利になると、国内資金が流出を始めることは時
間の問題です。いや、それはもう始まっており、そのため円安に
なっているかもしれないのです。日銀当座預金は、要求払い預金
ですから、銀行がそれを引き出して外債に投資を始めることを止
めることはできないのです。
 そうすると、何が起きるでしょうか。
 それは、これまで国内資金で支えてきた1000兆円を超える
公的債務をファイナンスできなくなることを意味します。財政赤
字がいくら大きくても、それが1000兆円を超えていようと、
それは民間の需要不足を公的需要で補っている結果で、それだけ
ではあまり深刻になる必要はないのです。怖いのは、その公的債
務を国内資金でファイナンスできなくなる事態です。
 日銀の超異次元金融緩和によって、その危機は刻々と近付いて
きています。これ以上、長期金利の低下が続くと、国内資金の海
外流出が起きる可能性が高まっています。それはそんなに先のこ
とではない可能性が高いのです。
            ─── [検証!アベノミクス/51]

≪画像および関連情報≫
 ●日本の長期金利が過去最低を更新した背景
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2014年12月25日に日本の10年国債の利回り(長期
  金利)は0・310%に低下し、2013年4月5日につけ
  たこれまでの最低となっていた0・315%を下回り、過去
  最低を記録した。26日には、0・003%まで低下した。
  25日には2年国債の入札があり、そこでの平均落札利回り
  は0・003%となり、利付国債の入札としては初めてのマ
  イナス金利が発生した。ここまでの日本の金利低下の背景に
  はいくつかの要因が考えられる。最も影響力があるのが、日
  銀の異次元緩和による新規発行額に相当する国債の買入であ
  る。これにより、需給面ではほとんど不安なく、マイナスで
  あろうが、需要があれば買われる状況となっている。その国
  債への需要であるが、日本でのマイナス金利の背景には海外
  投資家の存在がある。今年の夏以降、為替スワップ市場にお
  いて、ドルの超過需要が強まったことを背景に、円投ドル転
  コストが上昇し、その分がジャパンプレミアムのようなもの
  となった。ドルを保有する外国投資家が、為替スワップを通
  じて非常に安いコストでドルを円に転換できるため、外国投
  資家は、レートがマイナスの国債に対して、マイナスのコス
  トで調達した円を投資したのである。為替スワップによる円
  の調達コストが大きなマイナスであれば、マイナス金利であ
  っても利鞘は取れる。これが日銀の追加緩和の影響も手伝い
  3か月物から1年物におよび、ついに残存4年近くにまでマ
  イナス金利が波及しつつある。   http://bit.ly/18JA0l3
  ―――――――――――――――――――――――――――

超異次元緩和を続ける日銀総裁.jpg
超異次元緩和を続ける日銀総裁
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2015年02月09日

●「スイス銀の次に問題は日銀である」(EJ第3970号)

 アベノミクスにより、「円安株高」の傾向が定着しつつあった
1月半ばのことですが、突如「円高株安」という光景があらわれ
たのです。何が原因でそうなったのでしょうか。
 その原因は、スイスの国立銀行の次の宣言があったからです。
1月16日の朝日新聞デジタルは次のように伝えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 スイス国立銀行(中央銀行)は15日、欧州政府債務(借金)
危機をきっかけに、通貨スイスフランが高くなるのを抑えるため
に導入した対ユーロ相場の上限目標を撤廃すると発表した。これ
を受けて、金融市場ではスイスフランが買われ、ユーロに対し、
一時30%の急騰となった。
 スイス国立銀は、2011年9月、危機でユーロ安が進み「安
全資産」としてのスイスフランが上昇していたため、1ユーロ=
1・2スイスフランを上限に設定。それを超えて値上がりしそう
なときはスイスフラン売り、ユーロ買いの為替介入を無制限に実
施することを決めた。これにより為替相場は、1ユーロ=1・2
スイスフラン前後で推移していた。
       ──2015年1月16日付、朝日新聞デジタル
―――――――――――――――――――――――――――――
 そもそもスイス国立銀行は、どうして1ユーロ=1・2スイス
フランの上限を設けたのでしょうか。それには、スイス国立銀行
がこの決断をした3年前の状況について知る必要があります。
 その原因は、当時のギリシャ危機に端を発した欧州財務危機が
PIIGS諸国(ポルトガル、アイルランド、イタリア、スペイ
ン、ギリシャの各国)全般に広がっており、各国の国債価格が急
落しつつあったことです。このままでは国債の借り換えが困難化
し、放置すると、投資家がそれらの国々から資金を引き揚げ、よ
り安全な避難先を探すことになります。
 その安全な避難先として選ばれたのがスイスフランなのです。
スイスフランは「堅い」イメージがあり、世界の退避資金がスイ
スフランめがけて一斉に流れ込んだのです。当然スイスフランは
強くなり、スイスの輸出業者は苦しむことになります。
 そこでスイス当局としては考えたのです。スイスフランを「ダ
メな通貨」であるユーロと連動させると宣言し、安全な避難先と
しての魅力をわざと奪い去ってしまえば、スイスフランへの怒涛
の投機資金流入が避けられると考えたのです。そしてその結果行
われたのが、無制限為替介入です。
 しかし、この考え方には問題があります。ある国の通貨を他の
国の通貨──ここではユーロに連動させるということは、その金
融政策も同じにしなければならないことを意味します。そうでな
いと、金利差などに代表される、通貨間での魅力の差が生じてし
まい、無制限為替介入の労力がその分、増えてしまうからです。
 それでもスイス国立銀行の無制限為替介入はそれなりの効果を
発揮したのです。それにこの3年ほど、いわゆる欧州危機はドラ
ギ総裁の采配によって少しずつ収まりつつあったのです。しかし
この3年の間に投資家たちは、スイス当局の無制限為替介入の方
針を前提として投資を行うようになっていたのです。
 そして2015年、再びユーロ圏の経済は悪化し、ギリシャも
総選挙の結果、緊縮反対派が勝利し、ギリシャのユーロ圏離脱の
危機も懸念されている状態です。このままでは、デフレの懸念も
あるので、ECBのドラギ総裁は、1月の政策決定会合で量的金
融緩和を決断する可能性が確実視されていたのです。
 これによって、スイス当局は完全に追い込まれたのです。そう
でなくても現在スイス国内では不動産バブルの兆候が生じており
これ以上ユーロ圏が緩和すると、スイス国立銀行は、それに調子
を合わせてさらに緩い金利政策は取れないからです。
 そこでスイス当局が決断したのが無制限為替介入の突然の終了
です。この発表に大混乱になった投資家たちは、株などのリスク
資産を売る一方で、安全資産である円や日本国債への資産逃避に
なだれを打ったのです。メディアはこれを「有事の円買い」と呼
んでいます。
 これによって、投資家の間では中央銀行をどこまで信用してい
いものか疑念が広がりつつあるといわれます。そして、スイスに
続いて、日本も中央銀行である日銀が、先進国の中央銀行として
は、極端な金融政策を取っており、何かが起きたとき、次に危な
いのは日本だと思われているのです。
 クレディ・スイス証券チーフエコノミストの白川浩道氏も次の
ように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本銀行が異次元緩和を始めてまもなく3年目に突入しますが
大量に国債を買い続けるこの政策は限界が近づいてきました。ス
イスの例を見てもわかるように、無理のある異常な政策はどこか
でやめなければいけない時が来るのです。
 そして中央銀行が降りる決断をした際には、副作用は避けられ
ない。このほどスイス中銀がギブアップすると、スイスフランは
対ユーロで一気に3割ほど急騰しました。日本に置き換えれば、
1ドル=120円から85円になったわけで、日本でも同様の事
態になれば、これほどの急激な円高シフトが起きかねないといえ
ます。                http://bit.ly/1xF9Apw
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、円安に振れているのは米国の利上げの観測があるからで
す。この6月にもイエレンFRB議長の判断で利上げが行われる
という観測が行われています。しかし、米国での賃金の上昇は遅
れているのです。このままであると、米国の利上げは6月よりも
もっと後にズレ込む可能性もあるのです。
 世界のメディアでは、イエレン議長は簡単には利上げに踏み切
れないと予測しています。それは、急激に進行している原油安が
あるからです。もし、「1バレル=35ドル」前後まで下がると
円安のシナリオは崩れる可能性が濃厚であり、事態を注視する必
要があります。     ─── [検証!アベノミクス/52]

≪画像および関連情報≫
 ●「スイスショックはなぜ起きたか」/窪田真之の時事深層」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  スイス国立銀行(中央銀行)が1月16日、2011年以来続
  けてきた無制限の為替介入を突然やめると発表し、スイスフ
  ランが1日で一時30%もの急騰(対ユーロ)を演じたことが
  世界中に波紋を広げている。「中央銀行は嘘をついていいの
  か?」。スイスフラン急騰で大きな損失をこうむった投資家
  からは恨み節が聞こえる。スイス中央銀行が1ユーロ=1・
  2スイスフランを上限として無制限のスイスフラン売り介入
  をすると宣言していたことを信じて、スイスフランを売り建
  てていた投資家は、一瞬にして大きな損失をこうむることと
  になった。中央銀行の介入は、為替市場に大きな影響を及ぼ
  すが、それにも限度はある。スイスは、国土面積では日本の
  九州とほぼ同じ面積の小さな国だが、経常収支で黒字を稼ぎ
  続ける「高信用国」である。放っておけばスイスフランは対
  ユーロで上昇を続けることになる。スイスは国内の輸出産業
  の競争力を維持するため、無制限のスイスフラン売り介入を
  宣言してスイスフラン上昇を抑えてきた。ところが、欧州中
  央銀行(ECB)が追加金融緩和に踏み込む公算が高まり、
  ユーロ売り・スイスフラン買いの市場エネルギーが増大して
  きたために、スイス国立銀行は介入でスイスフランの上昇を
  抑えることを断念せざるを得なくなった。かつて日本円は、
  スイスフランと同じ「高信用通貨」とみなされ、絶え間ない
  買い圧力に悩まされていた。為替介入だけでは円高を止めら
  れないという、スイスと同じ経験をしている。
                   http://bit.ly/1zHBcyf
  ―――――――――――――――――――――――――――

スイス国立銀行本店.jpg
スイス国立銀行本店
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2015年02月10日

●「円安シナリオが崩れる2つの要素」(EJ第3971号)

 アベノミクスには賛否両論が渦巻いています。「日銀が国債な
どを従来では考えられないほどの量を買いまくる」ということに
何となく危うさを覚える人は少なくないでしょう。
 しかし、このようにアベノミクスの金融政策である量的金融緩
和を批判する人はたくさんいるものの、「それなら、代替案を示
せ」といわれると、批判だけでなく、こうすべきであると明確に
代替案を示した人は、私の知る限りいないのです。
 このように、アベノミクスの成否がいろいろ取り沙汰されてい
るなかで、アベノミクス以前と以後の変化を比較すると、次のこ
とは間違いなくいえると思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
     「アベノミクス以前」 ・・ 円高・株安
     「アベノミクス以後」 ・・ 円安・株高
―――――――――――――――――――――――――――――
 そのキーになるのは「円安」か「株高」かということです。ア
ベノミクス以前は1ドル=80円台、以後は110円台で推移し
ています。30〜40%の大きな違いです。このことを影響して
日経平均も2月6日現在、1万7500円台をつけています。ア
ベノミクス以前は株価が約8000円程度だったので、大変化で
す。円が高いか安いかによって、その恩恵を受ける人は違ってき
ます。しかし、国の経済や景気のことを考えるのであれば、やは
り「円安」であることが求められるのです。車や家電などの大型
製造業の業績が良いか悪いかは、国の景気に大きな影響を与える
からです。
 アベノミクスによる円安になってから丸2年が経過しますが、
製造業の一部──シャープ、パナソニック、キャノン、ダイキン
ホンダなどが生産拠点を国内に戻す動きが始まっています。これ
などは確実に経済に影響を与える動きです。1ドル=120円ぐ
らいが国内回帰のメドになるようですが、為替は動くので、ある
程度安定することが求められるのです。
 しかし、アベノミクスがうまくいったとしても、その円安、株
高を脅かす要素として、現在次の2つがあるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.原油安の拡大
          2.欧州危機拡大
―――――――――――――――――――――――――――――
 「1」の原油安は、既に終息したという人もいますが、これか
らさらに低下するという意見が支配的です。この原油安は、米国
のシェールガスを意識したサウジアラビアが仕掛けた戦略であり
サウジアラビアは「1バレル=30ドル」まではやるという説も
あるからです。これに関して、証券アナリストの植木靖男氏は、
この原油安はサブプライムローン問題よりも大きな経済危機を招
くと次のように警告しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国のシェールガス関連企業の破綻ラッシュです。原油安です
でに倒産した会社も出てきましたが、さらに後が続けば資金の出
し手である金融機関が莫大な不良債権を抱えることになる。すで
に米国では数10兆円の不良債権があるとも言われ、サブプライ
ムローン問題より大きな危機に発展しかねないという声も出てき
た。仮に米国の大手銀行が破綻することになれば、急激なドル売
り・円買いが起きて、1ドル=100円割れまで急騰する可能性
があります。             http://bit.ly/1zjT3I3
―――――――――――――――――――――――――――――
 もしこのように、原油安がこのまま続くと、イエレン米FRB
議長は簡単に利上げに踏み切れなくなります。これについて、株
式評論家の渡辺久芳氏は、「原油が35ドルまで下がると円安の
シナリオは崩壊する」として、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国が利上げをするには、インフレになっていることが条件で
すが、原油価格が下げ止まらないことで、インフレになりにくく
なっています。原油価格は下げ止まったという楽観論を語る人も
いますが、まだまだ低下するリスクは十分にある。現在1バレル
=40ドル台の水準ですが、これが35ドル前後まで下がれば、
円安のシナリオが崩れるのは当然。そこまでいけば、産油国を中
心に新興国経済が大打撃を受けて市場全体が一気にリスクオフに
傾き、短期的に円が買われやすくなるという、パターンになるで
しょう。               http://bit.ly/1A3PACD
―――――――――――――――――――――――――――――
 「2」は欧州危機の拡大です。欧州中央銀行のECBは、3月
から量的緩和政策を取ることを決定していますが、これによって
欧州危機が解決される可能性は低いのです。なぜなら、量的金融
緩和だけをやっても効果は低く、同時に財政政策を実施すること
が必要ですが、ドイツが猛烈に反対しており、実現する可能性が
低いからです。それに加えて、SMBC日興証券シニアエコノミ
ストの渡辺浩志氏は、リーマンショックのような予測不能の事態
が起きることが一番怖いと次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 たとえば、欧州危機が再燃してスペインやイタリアの銀行が破
綻する。5月に総選挙が行われる英国でEUからの離脱を主張す
る政党が大勝して、英国がEU離脱を決める。仮にそんなことが
起これば、リーマン級の衝撃がマーケットを駆け巡るでしょう。
リーマン時には、半年足らずで約2割も円が急上昇しています。
 現在に置き換えれば、1ドル=90円台前半になる可能性があ
るということです。そうした急激な円高が進む際には、企業収益
は悪化し、このところやっと上昇の兆しが見えてきた賃金が減る
どころか、リストラで職を失う人も出てくるでしょう。アベノミ
クスがスタートする以前の振り出しに戻るということです。
                   http://bit.ly/1zjT3I3
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/53]

≪画像および関連情報≫
 ●「ECBが遂に量的金融緩和」/岡田晃氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ECBも昨年から量的緩和導入を議論してきましたが、ドイ
  ツなどの強い反対で実施に踏み切れないでいました。反対の
  理由は、量的緩和によって大量のお金がじゃぶじゃぶ状態に
  なり、インフレやバブルを生む心配があるからです。これに
  は歴史的な背景があります。ドイツは第1次世界大戦後に敗
  戦と戦後賠償金の支払いなどの影響で物価上昇率1万%以上
  という超インフレに見舞われました。パン1個が1兆マルク
  になったとか、コーヒー1杯を飲んでいる間に値段が何倍に
  もなったというウソのような実話が残っているほどです。フ
  ランクフルトにあるドイツ連邦銀行(ユーロ発足前のドイツ
  の中央銀行)の通貨博物館には、その頃発行された100万
  マルク札や100兆マルク札などの紙幣が展示されてありま
  す。以前にこれを見た時「あの悲惨な超インフレを二度と繰
  り返してはならない」というドイツの強いメッセージを感じ
  ました。このような歴史からドイツ連銀は「インフレを絶対
  起こさない」という強い使命感を持って金融政策を進めてき
  ました。ユーロ統合によって発足したECBもその精神を受
  けついでいるのです。そのような精神は中央銀行としてきわ
  めて重要なことですが、そのことから金融緩和には慎重にな
  る傾向がECBには見受けられました。従来からの利下げも
  スローペースでした。       http://bit.ly/1A42dhe
  ―――――――――――――――――――――――――――

シェールガス採掘現場.jpg
シェールガス採掘現場
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2015年02月12日

●「ドイツの緊縮財政は水責めである」(EJ第3972号)

 ここで、欧州連合(EU)の諸問題について考えてみることに
します。なぜEUかというと、現在、EUの深刻な危機が再び囁
かれているからです。
 2月8日のロイター通信によると、ギリシャのバルファキス財
務相はドイツのショイブレ財務相との会談が不調に終わったこと
を受けて、イタリア放送協会(RAI)のインタビューで、次の
ような爆弾宣言を行っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 もしギリシャがユーロ圏を離脱すれば、他の国が追随し、ユー
ロ圏は崩壊する。ユーロ圏はぜい弱で、カードで城を作っている
ようなものだ。ギリシャのカードを取り除けば全体が崩れる。
             ──ギリシャ/バルファキス財務相
―――――――――――――――――――――――――――――
 このバルファキス財務相の発言は、もしECBがギリシャの要
求を受け入れないのであれば、ギリシャのユーロ圏離脱はあり得
るという宣言です。そうすれば、他の国も追随し、ユーロ圏は崩
壊することになるぞ──このようにECBとそれを主導するドイ
ツに脅しをかけたのです。
 今回のギリシャの総選挙で勝利したチプラス首相は、その足で
アテネ郊外のケサリアニを訪れています。ナチスの占領時代に、
ナチス親衛隊に殺害された同胞へ花をたむけるためです。このよ
うに、チプラス政権はドイツに対して強い不信感を持っており、
とくに、この新政権で財務相に就任したバルファキス経済博士は
ドイツ主導の緊縮財政に対し、「間違っている」として、次のよ
うに表現し、批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   ドイツの緊縮財政は財政上の水責めそのものである
―――――――――――――――――――――――――――――
 かつての欧州債務危機は、確かにEUとIMFによる巨額の金
融支援によって表面上は収束したものの、その代わりに支援を受
けた国々は厳しい緊縮財政が課せられたによって、EU全体の経
済成長は停滞し、2012年、2013年とマイナス成長が続き
2014年も0・8%の回復にとどまっています。このようにし
て、EUはデフレの入り口まで追いつめられてしまったのです。
 このドイツの経済に対する考え方について、遠藤乾北海道大学
教授は、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ドイツと、仲間であるオランダやフィンランドなどは、勤労・
倹約・契約に価値をおく。国ごとに財政を均衡させ、賃金を抑制
し、借りた債務は返済する。ドイツ自身が財政出動などを通じて
内需を拡大し、欧州全体の経済を活性化する意識は乏しい。
 ましてや、すでに再編済みの債務をさらに棒引きするなどあり
えない。世論の後押しもある。独大衆紙ビルトは「ユーロの怪物
を選出!」とギリシャ総選挙の結果を伝えた。
    ──2015年2月3日付、日本経済新聞「経済教室」
       遠藤乾北海道大学教授論文「激動ユーロ下」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ユーロ圏に属するそれぞれの国の国民性や価値観の違いが鮮明
にあり、何回話し合っても、議論しても、交わることのない哲学
のようなものをそれぞれ抱えていると思います。
 ドイツはかつてハイパーインフレに見舞われ、塗炭の苦しみを
経験した国です。そのため、インフレを非常に警戒します。した
がって、今回のECBのドラギ総裁によるインフレ目標を掲げて
の量的金融緩和などはもってのほかでしょう。そのため、ドイツ
は最後の最後までECBの方針に反対したのです。
 しかし、債権国家であるドイツは、自国の利益だけではなく、
ユーロ圏全体の経済のことをもっと考えるべきです。なぜなら、
ユーロ圏によって何よりもドイツ自身が一番利益を得ている国だ
からです。EUはドイツによるドイツのためのEUであるという
面も多くあるからです。
 遠藤乾北海道大学教授はEU主要国の各国への印象に見る「ス
テレオタイプ」を表にしています。ステレオタイプとは、判で押
したように多くの人に浸透している先入観、思い込み、認識、固
定観念やレッテル、偏見、差別などの類型・紋切型の観念のこと
をいいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪欧州各国民の各国への印象/ステレオ・タイプ≫
       最も勤勉  最も信頼  最も怠惰  最も不信
    英国  ドイツ   ドイツ  ギリシャ  フランス
  フランス  ドイツ   ドイツ  イタリア  ギリシャ
   ドイツ  ドイツ   ドイツ  ギリシャ  ギリシャ
                         イタリア
  イタリア  ドイツ   ドイツ ルーマニア  イタリア
  スペイン  ドイツ   ドイツ  ギリシャ  イタリア
  ギリシャ ギリシャ  ギリシャ  イタリア   ドイツ
 ポーランド  ドイツ   ドイツ  ギリシャ   ドイツ
    ──2015年2月3日付、日本経済新聞「経済教室」
―――――――――――――――――――――――――――――
 これによると、ドイツは多くの国で「勤勉で信用できる」と思
われています。EUはドイツあってのEUであり、EUの中心は
やはりドイツです。
 「最も信頼」は、ほとんどの国がドイツを上げていますが、ギ
リシャだけは勤勉で信用できるとしたのは、本人たち以外にはお
らず、ギリシャでドイツはまるで信用されていないのです。
 そのドイツは、ギリシャを「最も怠惰」な国としており、そし
て「最も不信」に感じている国はギリシャとイタリアです。ドイ
ツはイタリアについても強い不信感を持っているのです。
 このような状態で、そもそもEUはうまく行くのでしょうか。
3月からECBによって行われる量的金融緩和はユーロ圏に春を
もたらすのでしょうか。 ─── [検証!アベノミクス/54]

≪画像および関連情報≫
 ●「日本だけが出口なき金融緩和を実施」/小幡績の視点
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ついに、ECB(欧州中央銀行)が量的緩和に踏み切った。
  ここ数年、市場や政治の要求に屈せず、量的緩和からは一線
  を画してきたECBまでが量的緩和を行うことで、金融市場
  はついに歯止めを失った。では、世界は超金融緩和の世界に
  入り、金融市場はマネーに溢れ、バブル突入、世界金融市場
  崩壊、となるかというと、そうでもない。量的緩和に対して
  原理的にも実践的にも強く反対している私にとっては、その
  方が、わかりやすく原稿を書けるのであるが、現実はそうで
  はない。なぜなら、堕落したのは日本と欧州だけだからだ。
  米国の中央銀行(FED)、あるいはFRBのバーナンキ議
  長(当時)が、もっとも量的緩和の正当性を強く主張し、信
  じ、愛し、実行してきた。心の底から正しいと思って、ある
  意味、前向きに実行してきた。世界で唯一の「明るい金融計
  画」ならぬ「明るい量的緩和」を行ってきた。一方、日本と
  ECBは、市場と政治とエコノミスト世論の量的緩和の催促
  に、抵抗を続けてきた。日本銀行の白川前総裁は、理論で量
  的緩和に抵抗してきたが、政治の力に屈せざるを得ず、最後
  はアコードを結び量的緩和を行った。しかし、それでも、量
  的緩和を行うに際して、副作用だけ説明する「辛気くさい量
  的緩和」であり、そのせいで、せっかく量的緩和を行っても
  効果がなくなってしまったと、揶揄された。
                   http://bit.ly/1ANfqMG
  ―――――――――――――――――――――――――――

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バルファキス/ギリシャ財務相
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2015年02月13日

●「ドイツの財政均衡政策とユーロ圏」(EJ第3973号)

 現在のEUが「ドイツの、ドイツのための、ドイツによる共通
通貨ユーロである」ことを知る必要があります。ドイツは、20
01年に崩壊したITバブルの影響を受け、国内の企業が投資不
振に落ち込み、経済が悪化して、雇用環境が深刻化したのです。
 これによってドイツは失業率が上昇し、2005年には10%
を超えるまでになります。当時フランス、スペイン、イタリア、
ギリシャの失業率はそこまで行っておらず、ドイツの失業率がダ
ントツで高い状態だったのです。
 このドイツを一貫して助けたのがECBです。ドイツに有利な
低金利政策を取り続け、結果的にスペインやアイルランドにおい
てバブルを膨張させてしまうことになります。当時、ユーロの為
替は高水準に推移していたので、ドイツがユーロ圏以外の国に輸
出するのは困難でしたが、ユーロ圏内への輸出を拡大させること
により、何とかデフレを回避することに成功します。そして、ド
イツの失業率も改善の一途をたどったのです。
 しかし、2008年のリーマンショックによって、EUでもア
イルランド、イギリス、スペインなどの不動産バブルが次々と崩
壊し、変動しない為替レートがかえって災いして、いわゆる「P
IIGS/ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、ス
ペイン」諸国の財政危機が深刻化するのです。
 しかし、PIIGS諸国が財政危機に落ち込み、圏内が混乱す
ればするほどユーロは安くなるので、ドイツの輸出は大きく伸び
てドイツだけがトクをする状況が現在も続いています。2005
年には10%を超えていた失業率はどんどん下がり、2010年
以降は7%を切るところまで改善したのです。まさにドイツがい
まあるのは、EUのおかげといってよいのです。
 そして現在ドイツですが、2014年9月9日にショイブレ財
務相は次の宣言を行っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ドイツ政府の新規国債発行額は2015年にゼロになる
             ──ショイブレ/ドイツ財務相
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在ドイツは、EUのなかで最もGDP成長率が高く、失業率
も低いのです。そして、長期金利(10年物国債金利)は1%を
割り込んでいる状況にあります。これによって、ドイツは、日本
スイスに続く長期金利1%割れ国になったのです。なぜ、そこま
で長期金利が低下したのでしょうか。
 既に述べているように、ドイツは国の財政の歳入や歳出を通じ
て総需要を管理し、経済に影響を及ぼす財政均衡政策をとってい
ます。政府の支出拡大による財政政策は拡張的財政政策といって
最も嫌うのです。そして、EU全体の財政収支の均衡を2015
年には実現させようとしているのです。そのための新規国債発行
額のゼロ宣言なのです。
 この財政均衡政策をドイツほど厳格ではないものの、黒田現日
銀総裁以前の日銀はとってきたのです。そのため、日本は現在も
デフレから脱却できていないのです。そしてこの政策とは対照的
なリフレ政策によって、デフレ脱却を試みています。
 ただ、注意しなければならないことがあります。この財政均衡
政策にはそれなりの説得力があることです。「財政を均衡させ、
賃金を抑制し、できる限り借金はせず、借りた金は返済する」と
いうように、経済の素人にもとてもわかりやすいからです。どう
してかというと、国家財政を家計にたとえているからです。
 しかし、EJでは何度も強調しているように、国家財政と家計
は似て非なるものであり、同一に論ずるべきではないのです。国
家には危機のさいには「お札を刷る」ことができますが、家計で
はそんなことはできないからです。
 聞くところによると、ドイツのアウトバーンは通行できないと
ころが増えているそうです。コンクリートが腐食し、危険で通行
できなくなっているのです。しかし、ドイツでは財政出動には法
律上の厳しい縛りがあって容易にはできないのです。
 2014年10月時点で、EU全体の経済が停滞し、景気後退
(リセッション)危機が強まるなかで、ドイツ自体が財政均衡路
線を一時棚上げにし、財政支出を拡大すべきであるという要請が
出ていることに対し、ドイツのガブリエル経済相は次のように反
論し、ドイツ政府として拒否しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 予想成長率の下方修正はしたが、修正は「警戒すべき要因」で
は全くない。なぜなら、ドイツ国内雇用は拡大を続けており、一
連の経済指標も不十分とはいえ、リセッション(景気後退)の前
触れとなるようなものではない。
 また、経済政策や財政政策、また社会・労働政策についても変
える理由は全くない。政府はじたばたして債務を膨らませるよう
な形でドイツ経済を下支えするつもりはない。
  ──ドイツ/ガブリエル経済相 http://on.wsj.com/16VFCav
―――――――――――――――――――――――――――――
 ドイツはEUという経済圏のなかの一国であり、EUのエンジ
ンともいうべき重要な存在です。現在、EU全体の経済が停滞し
リセッションの危機に瀕しているので、それを避けるために、ド
イツ自体もこのさいは財政均衡路線を一時棚上げして、財政支出
を拡大させて欲しいというEU参加国からの要請を冷たく拒否し
たかたちになります。
 かつてITバブル崩壊の危機に、EUにドイツはどれほど助け
られたかを忘れ、宗教のような財政均衡路線を頑なに守り、他国
へもそれを強制する──少し身勝手ではないかというのがドイツ
の姿勢です。
 それでも2015年に入って、ECBによる量的金融緩和策を
ドイツも承認したということは、もはやそれ以外の方法はないと
いう結論に達したのでしょうか。EUというメカニズムをもう一
度考え直してみる必要があると思います。
            ─── [検証!アベノミクス/55]

≪画像および関連情報≫
 ●「ユーロ圏、デフレの前に行動せよ」FT/1月12日
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ユーロ圏のデフレは原油価格とは無関係だ。デフレの原因は
  ここ数年の一連の政策ミス、つまり、2011年の利上げ、
  2013年にインフレ率が崖から落ちた際に行動しなかった
  こと、そして景気後退の最中に緊縮財政を推し進めたことな
  どだ。欧州中央銀行(ECB)が「2%に近いが、2%を下
  回る水準」というインフレ目標を達成できていたら、原油価
  格の急落は無害だったろう。インフレ率はせいぜい2%から
  1%まで下がる程度だったはずだ。中央銀行はこれを無視し
  てよかった。だが、ゼロに近いところから始めると、デフレ
  に陥ってしまう。今から1年前、ユーロ圏はショックが1度
  起きただけでデフレに陥ると言われていた。それ以来、我々
  は2つのショックを経験した。ロシアによるウクライナ侵攻
  と原油価格の下落だ。ショックは起きるものだ。また、ユー
  ロ圏のような石油純輸入国・地域にとっては、原油安は通常
  なら恩恵となる。しかし、遅れてやって来る二次的な効果は
  警戒しなくてはならない。すでに、ドイツの賃金交渉担当者
  が賃金計算式で2%というECBのインフレ目標を引き下げ
  ている兆候が見られる。担当者らは概して、ECBのインフ
  レ目標とドイツの生産性拡大の一部を合算して賃上げ幅を算
  出する。だが、インフレ率がゼロで推移すると、この計算式
  に残るのは生産性だけで、その生産性も大して拡大していな
  い。インフレ予想が低下すれば、賃上げ率も低下することに
  なる。              http://bit.ly/1IEMzuC
  ―――――――――――――――――――――――――――

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ドイツ/ガブリエル経済相
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2015年02月16日

●「ギリシャのユーロ圏離脱はあるか」(EJ第3974号)

 ギリシャ問題は今日──2月16日が「Xデ−」といわれてい
ます。2月11日に行われたユーロ圏財務相会合では、ギリシャ
はEU側と合意にいたらず、16日に財務相会合が行われること
になっているのです。
 もし、16日もまとまらないと、2月末で切れる支援延長に議
会決議が必要な国もあるので、事実上のタイムリミットは本日と
いうことになります。
 EU側がギリシャに求めるのは、あくまで現行の支援計画の延
長です。しかし、支援延長には、現在の緊縮財政の実行が前提条
件になります。ギリシャ新政権としては、それだけは絶対に飲め
ないのです。なぜなら、それをやると、選挙公約を翻すことにな
るからです。
 ギリシャのチプラス新首相は、2月8日に次の趣旨の議会演説
を行っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 EUなどによるギリシャ支援は明らかに失敗である。2月末に
期限切れを迎える現行の支援制度の延長は、失敗の延長であり、
これを拒否する。しかし、新たな支援策について話し合う間、資
金不足を賄うための「つなぎ措置」を欧州各国に求めたい。
                ──ギリシャ/チプラス首相
―――――――――――――――――――――――――――――
 11日のユーロ圏財務相会合では、現行の支援計画を延長し、
その計画終了の可能性を探るために、ギリシャとEU側は協議を
重ねるということでいったん合意に達しているのです。バルファ
キス財務相は一度は合意しているのです。
 要するに、EU側は、ギリシャがあくまで緊縮計画を継続する
こととが前提の支援計画の延長を受け入れたうえで、若干の返済
猶予などを検討するという考え方なのです。
 ところが、バルファキス財務相が本国に共同声明案を電話した
ところ、その合意を翻したのです。おそらくチプラス首相が反対
したものと思われます。
 しかし、最終的にチプラス政権は支援延長を受け入れざるを得
ないと思われます。「ユーロ離脱」というが、そんな簡単なこと
ではないし、チプラス首相もバルファキス財務相も口ではいうも
のの、その気はないと思われます。
 もし、ギリシャがそれでもユーロ離脱を敢行した場合、何が起
きるかについて、ジャーナリストの鷲尾香一氏は、次のように述
べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 実はユーロには離脱規定がない。しかし、離脱できないわけで
はない。ギリシャがEUを脱退することで、ユーロからの離脱は
可能になる。だが、結論から言えば、ギリシャがユーロ=EUか
ら離脱する可能性は、ほぼゼロに近いだろう。その理由をいくつ
か挙げてみよう。
 まず、ユーロから離脱するということは、ギリシャは新通貨に
切り替えることになる。そもそもギリシャ経済に対して信頼性が
低いため、新通貨の価値は非常に低いものとなる。ギリシャ国民
はユーロで預金を行っているわけで、そのユーロが紙くず同然と
なるかもしれない新通貨に切り替わることを望まない。当然、預
金を引き出し、ドルや円、あるいは金などに避難させようとする
だろう。
 これに対して、ギリシャ政府は預金凍結措置を取るだろうが、
それ以前に、例えばユーロ離脱の話が真実味を帯びた時点で、パ
ニック的な預金解約が発生する。ギリシャ全土の銀行で、「取り
付け騒ぎ」が起き、銀行が破綻し、ギリシャ経済も完全に破綻す
る可能性がある。これは、決して悪夢ではない。
                   http://bit.ly/1A5XOZq
―――――――――――――――――――――――――――――
 ギリシャ側が強気になっているのは、世界的ベストセラーズと
なっている『21世紀の資本』(みすず書房)の著者、トマ・ピ
ケティ氏の心強い後押しです。海外メディアでのインタビューで
ピケティ氏は次の発言をしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ギリシャなどでの反緊縮政党の躍進は欧州にとってよいニュー
スである。緊縮政策は市民に深刻な影響を与えている。
                   ──トマ・ピケティ氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 ピケティ氏がいうまでもなく、経済学的に見ても、緊縮政策を
やっている限り、経済の展望は開けないのです。経済が疲弊して
いるのに、年金カット、公務員削減、消費税増税などの緊縮政策
を続ければどうなるのでしょうか。ドイツ式財政均衡主義には大
きな疑問があるのです。
 白川浩道クレディ・スイス証券チーフ・エコノミストは、ユー
ロの現状に関して次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 各種報道では、ギリシャのユーロ離脱はない、それほど深刻な
状況にはない、というものが多いようですが、問題はもっと根深
いと思います。
 ギリシャをユーロ圏に残すべきかどうか、「出ていく!」「出
ていけ!」といった夫婦喧嘩のような話が現実味をもって議論さ
れるでしょう。最終的には、ユーロの崩壊というテーマも出てく
る。もはや単なる「危機」という段階は過ぎた。そもそもユーロ
という枠組が正しかったのかどうかという歴史的な転換点にきて
しまった。         ──『週刊現代』2/21号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ギリシャ問題は日本と無関係ではないのです。米経済学者のバ
リー・アイケングリーン氏は、ギリシャのユーロ圏離脱を「リー
マンショックの2乗」と予測し、全世界に大きな影響を与えるこ
とになると警告を発しています。
            ─── [検証!アベノミクス/56]

≪画像および関連情報≫
 ●ユーロ圏離脱は財政緊縮よりも「いばらの道」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  [アテネ 12日 ロイター]ギリシャのユーロ圏離脱、い
  わゆる「グレグジット」は、起きるとすれば恐らく電撃的な
  形で実行されるだろうが、それは同国にとって長くつらい道
  のりの始まりともいえる。ある面では、国際支援プログラム
  の下でこれまで歩んできたよりも厳しい状況が見込まれる。
  急進左派連合(SYRIZA)を中心に誕生した新政権は、
  ユーロにとどまりたいと考えている。だが2月末に期限を迎
  える現行の支援プログラムを延長するか、あるいはそれに代
  わる支援の枠組みを設定することで欧州連合(EU)側と合
  意できなければ財政破綻やデフォルト(債務不履行)によっ
  て、いやでもグレグジットに追い込まれかねない。もしも、
  ユーロから離脱すれば、ギリシャ経済に対して残っている信
  頼感は消滅するので、迅速な政策対応が必要になる。制御で
  きない資金逃避を食い止めるためには資本規制の導入は不可
  避だろう。銀行や金融市場が閉鎖された場合、そうした規制
  が発動されるとみられる。次に政府が必要になるのは新通貨
  だ。この新通貨は歴史的にみれば導入時から非常に弱く、既
  に資金難に苦しむ多くのギリシャ国民や地元企業が多額の貯
  蓄を失うかもしれない。それに伴って物価上昇率は急激に跳
  ね上がる。EUと国際通貨基金(IMF)が課した緊縮政策
  で、国民の4人に1人が失業する事態になった。だがグレグ
  ジットは、少なくともしばらくの間はそれよりもひどい痛み
  をもたらす可能性がある。     http://bit.ly/1yA1Zca
  ―――――――――――――――――――――――――――

ギリシャ・チプラス首相.jpg
ギリシャ・チプラス首相
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2015年02月17日

●「政治家から金融政策を奪うユーロ」(EJ第3975号)

 ロバート・マンデル氏というカナダの経済学者がいます。19
32年生まれですので、現在82歳ですが、コロンビア大学経済
学科教授を務めています。サプライサイド経済学の権威として知
られています。
 ロバート・マンデルコロンビア大学教授の功績を上げると次の
ようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.「最適通貨圏理論」の構築/最適通貨理論の父
   2.     ユーロの構築への貢献/ユーロの父
   3.別の時代の金本位制の運用に関する歴史的研究
   4.1970年代に起きたインフレーションの予測
   5.       マンデル=フレミング・モデル
   6.          マンデル=トービン効果
―――――――――――――――――――――――――――――
 マンデル教授といえば、「マンデル=フレミング・モデル」が
有名ですが、彼はユーロの設計者として知られ、「ユーロの父」
とも呼ばれているのです。
 このマンデル教授について、2012年7月26日に、英国の
大手新聞「ザ・ガーディアン」に次のような衝撃的な記事が掲載
されたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   「ロバート・マンデル、ユーロの邪悪なる天才」
             ──「ザ・ガーディアン」
              グレッグ・パラスト記者
―――――――――――――――――――――――――――――
 少し長いですが、そのエッセンス部分を三橋貴明氏の著作から
引用します。驚くべき内容が記述されています。一人称(私)は
米国人ジャーナリストのグレッグ・パラスト記者です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 選挙で選ばれた政治家からマクロ経済政策を奪い、規制緩和を
強制することは、ユーロ構築にさいした計画の一部だった。ユー
ロが失敗しているという考え方は、あまりにもナイーブ(幼稚)
である。ユーロは、1%の富裕層が当初から計画していたとおり
予定どおり正しく機能している。
 その始祖は元シカゴ大学の経済学者ロバート・マンデル教授で
ある。供給サイドの経済学(サプライサイド経済学)の権威は、
現在はコロンビア大学の教授である。しかし、私は通貨と為替レ
ートに関するマンデルの研究がヨーロッパにおける通貨統合と共
通通貨の青写真となる前から、シカゴ大学のミルトン・フリード
マン教授を通して彼を知っていた(中略)。
 ユーロは危機のときにこそ真価を発揮する、とマンデルは説明
した。為替レートに対する政府の干渉を排除すると、不況期にケ
インズ的な金融、財政政策をとりたがる厄介な政治家を妨害する
ことができる。「政治家の手が届かないところに、金融政策を置
くんだ」彼は言った。
 金融政策と財政政策が使えないとなると、雇用を維持する唯一
の解は、競争力を高めるために規制を緩和することのみになる。
彼はもちろん(規制として)労働法、環境規制、税制をあげてい
る。すべてはユーロによって洗い流されるだろう。民主主義が市
場価格に干渉することは許されなくなるだろう。(中略)
 マンデルは私に説明した。事実、ユーロはレーガノミクスの断
片である、と。「金融規律が政治家に財務規律をも強制するのだ
よ」。危機が起きると、経済的に武装解除されてしまった国々は
政府の規制を撤廃し、国有産業をそっくり民営化し、税金を下げ
てヨーロッパ型の福祉国家をドブに捨てるしかないのだ。
                ──三橋貴明著/徳間書店刊
     『2014年/世界連鎖破綻と日本経済に迫る危機』
―――――――――――――――――――――――――――――
 「ユーロ」は、ヨーロッパの平和的統合、強いヨーロッパ連合
の実現であるとよくいわれますが、ユーロの設計者の本音はそん
な高邁な思想に基づくものではなく、「1%の富裕層のビジネス
を拡大するための実験的規制緩和手法」ということになります。
 重要な指摘は「政治家の手が届かないところに、金融政策を置
く」という部分です。普通の国は、経済危機に陥ると、現在の日
本のアベノミクスのように、金融政策と財政政策を駆使して乗り
切ることができますが、EUに属する国家は金融政策をECBに
委譲しており、ECBが金融政策のすべてを握っているのです。
 財政政策については各国が有していますが、EU全体にドイツ
的な厳しい財政規律が要求されており、財政政策も自由に使うこ
とは事実上できないのです。
 金融政策と財政政策が使えないとなると、雇用を維持するため
には、規制を緩和して競争力を高めるしかないことになります。
財政危機が生じているギリシャでは、規制を緩和し、公共サービ
スの民営化をさせられ、国有財産の売却まで行われています。そ
れしか方法がないからです。
 これによってトクをするのは、ユーロ圏のグローバル資本なの
です。彼らにとってそれらはおいしいビジネスとなります。ギリ
シャが歯を食いしばって緊縮財政を続けたとしても、おいしいと
ころはすべてグローバル資本に持って行かれるのです。
 このグローバリズムについて経済評論家の三橋貴明氏は、次の
ように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 グローバリズムにとって最大の敵はその国の民主主義なのであ
る。だからこそ、グローバリズムは規制緩和に反対する第3層に
「既得権益」とレッテルを貼り、「既得権益をぶち壊せ!」と、
革命チックな攻撃を(マスコミを通じて)行う。ときには、ユー
ロのように、民主主義が機能しにくい構造も設計する。その最大
の犠牲者は、各国の国民である。 ──三橋貴明著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/57]

≪画像および関連情報≫
 ●本当に怖いユーロの話
  ―――――――――――――――――――――――――――
  金融政策と財政政策を同時に実施すると、インフレ率は上昇
  するが、現在のギリシャは日本以上に物価上昇率が低迷して
  いる状況にある。日本がアベノミクス効果により、物価上昇
  率が何とか「ゼロから上」に顔を出そうとしているのに対し
  ギリシャは8月時点でもマイナス幅を拡大している。現在の
  ギリシャは、日本以上に深刻なデフレーションに苦しめられ
  ているのだ。元々、国内のモノやサービスを生産する能力、
  つまりは供給能力が不足気味で、国民の需要を満たすことが
  できず、高インフレや貿易赤字が常態化していたギリシャが
  「デフレ」なのである。バブル崩壊後のギリシャ国内の需要
  の縮小たるや、恐るべきペースとしか言いようがない。現在
  のギリシャが失業率を押し下げ、経済を成長路線に戻すため
  には、前述のように金融政策と財政政策のパッケージ以外に
  ありえない。すなわち、普通のデフレ対策をすればいいので
  ある。ところが、ギリシャは「構造的」に正しいデフレ対策
  を実施することが不可能になっている。何しろ、ギリシャ政
  府は独自の金融政策を採ることができない。全てのユーロ加
  盟国は、金融政策の権限をECB(欧州中央銀行)に委譲して
  いる。さらに、ギリシャ政府は財政的な主権も奪われつつあ
  る。EUやIMFから緊急融資を受けた代償として、公務員
  削減などの緊縮財政を強要されているのだ。ゆえに、現在の
  ギリシャには金融政策、財政政策の主権はない。
                   http://bit.ly/1EqImI4
  ―――――――――――――――――――――――――――

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ロバート・マンデル教授
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2015年02月18日

●「ドイツはやがて発展途上国になる」(EJ第3976号)

 ドイツが頑なに遵奉する財政均衡主義──それは基本的にいう
と、財政の支出と収入が均衡していることをいいます。つまり、
財政均衡主義は、小さな政府による新古典派経済学的発想に立脚
した経済の考え方です。日本の財務省も同じ考え方に立っていま
す。ただ、ドイツの場合問題なのは、これをEU全体に広げよう
としていることです。
 2013年6月のことです。ドイツ経済研究所があるレポート
を発表したのです。その内容を経済評論家・三橋貴明氏の本から
引用します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1990年以降、ドイツでは国内インフラの維持などに必要な
投資額が、毎年平均750億ユーロ(10兆円弱)足りず、経済
成長率が押し下げられているというのである。
 速度無制限で有名なドイツの高速道路ネットワーク、すなわち
アウトバーンで、もっとも交通量が多いA1号線のライン橋では
速度が時速60キロに制限されている。橋が老朽化し、速度無制
限にすると危険であるためだ。
 また、アウトバーンのA52号線は、一部の片側路線が閉鎖さ
れた。ベルリンでは一般道路の傷みが激しく、制限速度が10キ
ロに下げられ、市バスが路線変更せざるをえない区間もある。ド
イツの自治体連盟のウベ・ツインマーマン副事務局長は、「アウ
トバーンで完全通行禁止になる橋が出てくるのは時間の問題」と
語っている。          ──三橋貴明著/徳間書店刊
     『2014年/世界連鎖破綻と日本経済に迫る危機』
―――――――――――――――――――――――――――――
 なぜ、こんなことになるのでしょうか。それは、ドイツは憲法
(基本法)において、歳入と歳出を均衡させなければならないよ
う定められており、対GDP比で0・35%の国債発行しかでき
ないのです。そのため、どんなにインフラが老朽化しても、国債
を発行できないのです。
 前にも述べたように、ドイツは家計レベルの論理を国家財政に
当てはめようとしています。なるべく借金をしないよう倹約する
ことは家計の常識としては大切なことですが、それを国家財政に
もあてはめようとするのは間違っています。まして憲法に書いて
それを縛ろうとするのは異常です。
 かつて昭和前期に日本が深刻なデフレ不況に陥ったとき、時の
大蔵大臣・高橋是清は大胆な金融政策を実施してデフレ脱却を成
し遂げていますが、そのとき高橋是清は次のように国民に話しか
けているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 年に5万円の生活をする余力のある人が倹約して3万円で生活
して残り2万円を貯蓄に充てた場合、その人個人は毎年それだけ
の蓄財2万円ずつが増えていって誠に結構なことであるが、これ
を国の経済から見るときは、その倹約によってこれまでその人が
消費していた2万円分の物質の需要がどこかに消えてしまう。当
然生産もされない。             ──三橋貴明著
           『真説日本経済』/KKベストセラーズ
―――――――――――――――――――――――――――――
 高橋是清は、実にわかりやすく家計と国の財政の違いを説明し
ています。そういう意味でドイツは経済というものがわかってい
ないと思います。自分たちの作ったルールに縛られて、道路など
の危険な場所を放置し、事故が起きて人命が失われたらどうする
のでしょうか。それよりも憲法が優先するのでしょうか。
 それだけではないのです。ドイツはこの愚かな財政均衡主義を
EU諸国に押し付けようとしています。EU諸国は新財政協定に
より、近い将来、EUが崩壊しなければの話ですが、この財政均
衡主義をEU各国の憲法に書くことになるのです。
 その矛盾が現在のギリシャに出ています。ギリシャはこれまで
に何回もデフォルトをするなど、財政規律の甘い国ですが、そう
かといってカネを出してやったのだから、ドイツと同レベルの緊
縮財政政策をやれと強制した結果、ギリシャの経済は一向に回復
しないのです。チプラス政権のいうように、ギリシャ支援は失敗
だったといえます。
 ドイツほど日本はひどくありませんが、日本の財務省も財政均
衡主義に立っており、これまで増税をしてはならないタイミング
で増税をして、せっかく立ち直りかけた景気を何回も潰してきた
「実績?」があるのです。財務省も平気で国の財政を家計にたと
えて増税の必要性を説いています。増税の必要性を国民に認識さ
せる手段なのか、財務省が経済というものがまるでわかっていな
いかのどちらかです。
 添付ファイルを見てください。日本は小泉政権以降、公共投資
を一貫して減らし続けてきています。1996年を100とする
と、半減させています。これまで「公共投資=悪」と考えてきた
のです。その落差はドイツを上回っています。
 三橋貴明氏は、このままでは「ドイツは遠からず発展途上国に
になる」として、次のように述べています。現在、ドイツの経済
が良いのは財政均衡主義とやらのおかげではなく、ユーロによっ
て多大の恩恵を受けているからです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 政府(というか国民)が新古典派経済学的な財政均衡主義に傾
注し、インフラのメンテナンスすら、「借金が増えるからやらな
い」を続けていくと、いずれは発展途上国化する。道路がボロボ
ロで通れない。橋が危なくて渡れない。それにもかかわらず、自
国で修繕できない、というのが(理由はどうあれ)発展途上国と
いうものだ。インフラが財政均衡主義という魔物に魅入られ、ボ
ロボロに朽ち果てていけば、当たり前だが、その国の経済成長力
は落ちていく。物流や人の移動がスムーズにいかない国が、成長
率を高められるはずがない。   ──三橋貴明著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/58]

≪画像および関連情報≫
 ●ユーロ崩壊は悪性インフレから始まる/土居丈朗慶大教授
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ユーロが崩壊する前に、前兆現象として起こりうるのはユー
  ロ圏で制御困難な悪性インフレでしょう。ユーロが崩壊する
  とは、ユーロという通貨を大半の人が信用できず、ユーロを
  経済取引で使いたくなくなることです。ユーロがそれなりの
  通貨価値を何とか保ち続けられるなら、強いてユーロを崩壊
  させる動機は生じないでしょう。ユーロ圏経済の現状は、財
  政危機に端を発した金融危機、金融市場の機能不全が強く懸
  念される状況です。金融市場での混乱からマクロ経済へと悪
  影響が波及することも起こりえます。ただ、金融危機が起こ
  った後の経済は、世界大恐慌、1997年の日本、リーマン
  ショックを見てもわかるように、信用収縮が起こりデフレ圧
  力が生じます。金融危機が起こった後は、流動性不足から、
  決済資金を必要とする企業や個人の現金需要がむしろ高まる
  可能性があって、ユーロの崩壊の元となりうる通貨価値の大
  幅な毀損には直結しません。ただ、決済資金の需要は、国際
  的な経済取引を念頭に置けば、何もユーロでなければならな
  いという必然性はありません。ユーロ以外の通貨に資金需要
  がシフトするなら、ユーロの需要が減少するので、ユーロの
  価値が他の通貨と比べて下落することはありえます。
                   http://bit.ly/1zEhJuO
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/三橋貴明著の前掲書より

公共事業を減らし続けた災害大国.jpg
公共事業を減らし続けた災害大国
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2015年02月19日

●「ドイツはなぜ財政を均衡できたか」(EJ第3977号)

 ところで、ドイツはなぜ財政均衡を達成できたのでしょうか。
また、フランスの現況はどうなのでしょうか。EUの2つの中心
国、ドイツとフランスの現状を探ってみることにします。
 既に述べたように、ドイツはITバブルの崩壊によって経済が
悪化し、2005年には失業率が10%以上とEU加盟国のなか
では一番高かったのです。当時ドイツは「ヨーロッパの病人」と
呼ばれるほど、一人負けの状態が続いていたのです。
 このドイツの苦境を救ったのはECBです。当時、EU加盟国
の経済はバブル気味であり、こういう時期こそ経済を引き締める
べきだったのですが、ECBはドイツを助けるためにあえて低金
利政策をとったのです。これでは、ドイツ以外の国はバブルが過
熱することになります。
 当時ユーロの為替レートは「1ユーロ=169円」と高水準で
推移しており、ドイツはEU圏外に輸出を伸ばすのは困難な状況
にあったのですが、ECBが低金利政策を取ってくれたおかげで
バブルに沸くEU圏内に貿易黒字を大きく拡大することによって
何とか危機を脱したのです。
 そして、2008年のリーマンショックでバブルが崩壊し、政
府の税収が減り、財政が悪化したのです。例によってEUは緊縮
財政を強行したので、EUの一部において、物価上昇率(インフ
レ率)がマイナスになってしまったのです。南欧諸国が軒並みマ
イナスになっています。これはデフレ状態です。
―――――――――――――――――――――――――――――
     ≪EU加盟国のインフレ率(対前年比)≫
       スペイン ・・・・・・ −0・5%
       ギリシャ ・・・・・・ −0・2%
       イタリア ・・・・・・ −0・2%
      ポルトガル ・・・・・・ −0・1%
―――――――――――――――――――――――――――――
 普通の国であれば、政府が国債を発行し、中央銀行が金利を抑
制するなどの景気対策が取れるのですが、EUの場合、共通通貨
であるし、金融政策はECBに委譲しており、財政政策も事実上
とれないのです。要するに、手も足も出せない状況です。
 実は、この状況はドイツにとってきわめて好都合なのです。ド
イツは2008年には既に不況から脱出していましたし、失業率
も4%台にまで下がっていたのです。これは、EU圏への輸出を
拡大して景気回復に成功したのです。
 デフレになると、民間の資金需要が低迷し、長期金利が下がり
ます。金利が下がると、国債利払いの支出を減らすことができま
すが、低金利の環境下で、GDPを伸ばすのは困難化します。と
くに名目GDPはなかなか伸びにくいのです。しかし、名目GD
Pは、税収とほぼ比例するので、伸ばす必要があります。
 ところで、名目GDPは支出面で見ると、次の式であらわすこ
とができます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 名目GDP=民間・政府の消費+民間・政府の投資+純輸出
―――――――――――――――――――――――――――――
 デフレになり、ましてEU全体で緊縮財政をとっているので、
「民間・政府の消費」、すなわち内需も、「民間・政府の投資」
も当然のことながら低迷します。こういう状況で名目GDPを伸
ばすには、「純輸出」を伸ばすしかないのです。純輸出とは次の
式であらわすことができます。
―――――――――――――――――――――――――――――
          純輸出=輸出−輸入
―――――――――――――――――――――――――――――
 ドイツの場合、日本と同様に輸出すべき工業製品を多く持って
おり、しかも対外債権国家であって、海外資産を豊富に持ってい
ます。そのため、純輸出は大幅な黒字になり、名目GDPの増大
に貢献することになったのです。
 もともとドイツはEUの加盟国であり、最大市場であるユーロ
圏に対しては、為替レートの変動や関税などのリスクなしに輸出
を拡大することができるのです。実は、これにもうひとつ、ドイ
ツの経済成長に影響する重要な要素があるのです。それは当時の
史上まれにみるユーロ安です。
 ちょうどギリシャなどの南欧諸国の危機が深刻化し、ユーロは
一時的に「1ユーロ=100円」を割り込むところまで下落して
いたのです。つまり、ドイツは最大市場のユーロ圏に対しては有
利な条件の下で輸出攻勢をかけることができるのに加えて、折か
らのユーロ安で、ユーロ圏以外の国に対してもユーロ安の恩恵を
生かして輸出を拡大することができたのです。
 このようにしてドイツはデフレ下にもかかわらず、ユーロ圏内
外に輸出を拡大して名目GDPを伸ばし、財政均衡を実現させた
のです。それは同一通貨のユーロ圏という特殊な経済圏があって
初めて可能なことであったのです。これについて、経済評論家の
三橋貴明氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 経常収支黒字国が黒字幅を拡大したとき、必ず反対側に赤字を
拡大させた国がある。ドイツの経常収支が黒字化したぶんを赤字
として引き受けたのが、スペイン、イタリア、ギリシャ、ポルト
ガルといったユーロ圏の南欧諸国、それにフランスだった。
 ドイツが南欧諸国などで稼いだ所得(貿易黒字)は、現地の不
動産バブルに投資された。結果的に、ドイツは南欧への輸出を拡
大し、南欧諸国は不動産を中心とする投資を拡大するかたちで、
ユーロ経済は全体的な成長を達成できたのである。貿易黒字であ
ろうが、不動産投資(GDP上の民間住宅)であろうが、GDP
を拡大させるという点では、なんら変わりはない。
                ──三橋貴明著/徳間書店刊
       『2015年/暴走する世界経済と日本の命運』
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/59]

≪画像および関連情報≫
 ●減速するドイツ経済/財政均衡よりインフラ整備を!
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ドイツはここ数年間、低迷する欧州経済の中で例外的に輝い
  ていた。ところがここに来て突然、頑丈なはずの同国がトラ
  ブルに陥っている。今年4〜6月期(第2四半期)にはGD
  P(国内総生産)が前期比マイナスとなった。そしてさらに
  恐ろしいデータが相次いで発表されている。8月の鉱工業生
  産及び輸出高は急落。欧州経済研究センター(ZEW)が発
  表した、投資家心理を示す独景況指数(ZEW指数)はほぼ
  2年ぶりの最低水準となった。ドイツ経済は恐らくリセッシ
  ョン(景気後退)に入ったのだろう。これらの弱い経済指標
  を見て、ドイツ国外の多くの人々は強い懸念を抱いている。
  だが国内の反応は冷静で無関心だ。ドイツ政府は10月14
  日、2014年の成長率見通しを1・8%から1・2%に、
  2015年の見通しを2%から1・3%に下方修正した。た
  だし、来年に財政均衡を実現するという長年の目標は維持し
  ている。シグマール・ガブリエル経済相は、「成長鈍化は大
  変動ではない」と述べ、「経済政策を変更しなければならな
  い根拠はない」とした。政治的に見れば、この立場には明白
  な根拠がある。2015年に政府債務をゼロにすることは、
  アンゲラ・メルケル首相の選挙公約の中核だった。公約を忠
  実に実行することは、ドイツの有権者にアピールする。彼ら
  は債務を危険で効果がなく、恐らく道義に反するものと考え
  ている。            http://nkbp.jp/1AH2Q0y
  ―――――――――――――――――――――――――――

メルケルドイツ首相.jpg
メルケルドイツ首相
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2015年02月20日

●「緊縮政策に苦しむフランスの現況」(EJ第3978号)

 フランソワ・オランド氏が大統領選に出馬したのは、2012
年5月のことです。そのとき、オランド氏は次のように演説して
いたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 われわれの敵には、名前がなく、顔もなく、政党にも属してい
ません。立候補も、選挙の洗礼も受けたことがありません。それ
でもわれわれを支配しています。その敵とは金融界です。
                ──フランソワ・オランド氏
                ──三橋貴明著/徳間書店刊
       『2015年/暴走する世界経済と日本の命運』
―――――――――――――――――――――――――――――
 オランド氏は、演説ではグローバル金融を敵として批判してい
ます。この時点でフランス政界の流れは、反グローバリズム、反
自由主義であり、その担い手としてオランド氏は、第24代フラ
ンス共和国大統領に選ばれたのです。
 しかし、反グローバリズムを掲げてみたものの、何一つとして
うまくいっていないのです。2010年から2013年1〜3月
期までのフランスの実質GDPは次の通りで、オランド政権以後
かえって悪化しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
           2010年   1・6%
           2011年   2・0%
           2012年   0・0%
     ――――――――――――――――――
     2012年 7〜 9月   0・3%
          10〜12月  ▲0・6%
     2013年 1〜 3月  ▲0・6%
               ──フランス政府
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように経済がよくないので、失業率は10%台に高止まり
しています。2012年第1四半期にユーロ導入後はじめて失業
率が10%を超え、その年の5月にオランド大統領が就任しまし
たが、その後も一向に改善していないのです。2014年8月時
点でフランスの失業率は10・5%です。とくに若者の失業率は
20%を超えており、今やオランド政権の支持率は30%を大き
く下回っている状況です。
 ここで、フランスとドイツの経済構造の違いについて知ってお
く必要があります。フランスは個人消費型の経済であり、ドイツ
は輸出型の経済です。経済の構造のタイプが異なるのです。
 フランスの場合、景気の良し悪しによって経済が左右されるの
です。景気が悪いと内需が伸びないので、ますます経済が落ち込
んでしまう傾向があります。オランド大統領就任後の2012年
10〜12月期以降、2四半期連続のマイナス成長になり、景気
の良くない状況が続いています。
 本来であれば、フランス政府はただちに景気対策を実施すべき
ですが、フランスはEU加盟国であり、金融政策をECBに委譲
しているので、通貨の発行権はなく、財政政策は一応保有してい
るものの、EUの盟主のドイツやEUからの厳しい規制があって
事実上使えないのです。つまり、フランスは不景気になっても、
通常の景気対策を実施できないことになります。
 このようにEU加盟国では、EUの設計者であるロバート・マ
ンデル教授がいうように、金融政策と財政政策──つまり、ケイ
ンズ政策が政治家の手の届かないところに棚上げされ、事実上使
えないようになっているのです。EUの設計がそのようになって
いるからです。これでは、EUは構造的不況に陥ってしまうこと
になります。
 オランド大統領は、ケインズ政策を打てないので、反自由主義
の旗を降ろし、いまどこかの国がやっている「成長戦略」という
名の構造改革と大企業優遇に舵を切ることにしたのです。そして
2014年8月下旬に内閣改造を断行し、左派色の強い閣僚を更
迭しています。
 オランド大統領は、新内閣で規制を緩和し、大企業の利益を拡
大させる政策を行うことによって経済成長につなげる方針を鮮明
に打ち出したのです。しかし、それでも経済は一向に改善する兆
しを見せていないのです。
 これに加えてフランスは、社会保険料が非常に高いのです。日
本の場合は社会保険料は労使折半ですが、フランスでは、雇用側
が従業員に支払う給料の50%程度を社会保険料として負担しな
ければならないのです。そして従業員は給料の25%を負担する
ことになっています。相当の高負担です。
 給料を100とすると、従業員は社会保険料として25を引か
れます。そして雇用者は「従業員の給料100+社会保険料50
=150」を負担しなければならないのです。こうした社会保険
料の高負担が、企業経営を圧迫しているというのです。
 これに加えてフランスでは、正社員を解雇をすることが非常に
困難です。解雇するには、退職金のほかに2年程度の給料を支払
う必要があるからです。これでは事実上解雇はできないのです。
 そこでフランス政府は、解雇手続きの簡素化や、景気低迷時の
労働時間の短縮などの実現を目指していますが、法律で決めるの
ではなく、あくまで話し合いでの改革なので、相当時間がかかる
ことになります。
 このように、ユーロの仕組みには問題が山積です。ロバート・
マンデル教授は、1961年から1965年までIMFに在籍し
1965年から1972年までシカゴ大学でミルトン・フリード
マン教授とも一緒にやっていたことがあります。
 そのため、IMFやEUの政策には、新自由主義経済主義を採
用せざるを得ない巧妙な仕組みが仕掛けてられているのです。ア
ベノミクスにおいても労働改革が進められており、新自由主義の
罠は世界中に仕掛けられているといえます。
            ─── [検証!アベノミクス/60]

≪画像および関連情報≫
 ●「失われた10年」の処方箋求める/WSJ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  【ベルリン】ドイツとフランスの経済閣僚は、欧州の景気低
  迷の長期化への対処法を経済学者に求めた。両国は、経済活
  性化のための方策をめぐって意見が対立しているが、今回の
  試みはこれに橋を渡そうとするもの。ウォール・ストリート
  ・ジャーナルが確認した書簡により、ドイツのガブリエル経
  済相とフランスのマクロン経済相は最近、フランスの経済学
  者、ジャン・ピザニフェリ氏とドイツの経済学者、ヘンリク
  ・エンダーライン氏に助言を求めた。両氏ともにベルリンの
  ヘルティー公共政策大学院で教べんを取っている。両経済相
  は、欧州が低成長、物価の低迷、債務の拡大、高い失業率と
  いった「失われた10年」に瀕しているとした上で二人の経
  済学者に対し、2017年までに経済を改革し欧州の成長を
  後押しするため取るべき方策を尋ねた。最近ユーロ圏のリー
  ダーはドイツに対し、ユーロ圏の景気低迷に対処するために
  投資と消費を活性化させるべきだとの要求を強めている。こ
  うした圧力は特にフランスとイタリアから強いが、国際通貨
  基金(IMF)や欧州中央銀行(ECB)からも見られる。
  フランスとイタリア政府は、公的債務が拡大しているところ
  から欧州の厳格な財政ルールの例外を求めている。一方、ド
  イツはここ数ヶ月、成長鈍化の兆しが顕著になりつつあるが
  政府支出拡大の要求を拒絶し、予定通り来年も均衡予算を組
  む方針だ。その上、フランスとイタリアが求める例外措置に
  は否定的で、両国に経済改革を進め公的支出を削減すべきだ
  と繰り返し述べている。    http://on.wsj.com/1Djiyk8
  ―――――――――――――――――――――――――――

メルケル独首相/オランド仏大統領.jpg
メルケル独首相/オランド仏大統領
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2015年02月23日

●「どのような原因で円安になったか」(EJ第3979号)

 このテーマも60回を超えてきているので、そろそろ締めくく
りに入ることにします。ネット上では「アベノミクス是か非か」
という論争が続いています。経済のとらえ方にはいろいろあって
結果が出ていることであっても、この世界では真逆のとらえ方が
できるのです。
 「失われた20年」の原因であるデフレから脱却することに対
しては、大方の人は当然だと思うはずですが、「デフレのままの
方がいい」と正反対の意見を本にする経済学者もいるのです。こ
の世界ではそういうことが許されてしまうのです。
 2014年の名目GDPは488兆円ですが、この数字は19
92年の名目GDPとまったく同じなのです。つまり、22年間
日本経済はまったく成長していないことになります。もちろんデ
フレが原因でそうなったのです。
 1月にトマ・ピケティ氏が来日したとき、民主党幹部がいち早
く動いて、ピケティ氏と連絡を取り、1月30日の夜、岡田代表
をはじめ、幹部がピケティ氏と会っています。経済政策が必ずし
も強いとは思えない民主党の幹部としては異例のすばやい行動で
あり、少し驚いたのです。
 しかし、これは経済に関する論議というよりも、ピケティ氏が
格差問題を批判しているので、言葉は良くないですが、ピケティ
の名声を利用して、国会質問などで安倍政権を追い詰めてやろう
という考え方のようです。
 民主党の経済に対するとらえ方のレベルの低さについては、ア
ベノミクスがはじまる2012年11月末に、当時の野田首相が
金融緩和強化を訴える安倍自民党総裁を次のように批判している
ことからよくわかります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 安倍さんのおっしゃっていることは極めて危険です。なぜなら
インフレで喜ぶのは誰かです。株を持っている人、土地を持って
いる人は良いですよ。一般の庶民には関係がありません。それは
国民にとって大変迷惑な話だと私は思います。
             ──野田佳彦内閣総理大臣(当時)
―――――――――――――――――――――――――――――
 かつての日本のリーダーである野田首相の経済に対するとらえ
方がこの程度のレベルなのです。この言葉を聞くだけで、野田氏
が経済について勉強していないことがわかります。
 安倍政権のアベノミクスの指南役とされる浜田宏一イエール大
学/東京大学名誉教授は、1月末に新刊書を発刊して、アベノミ
クス批判派の学者に対して反論しています。
 その批判の対象は慶応義塾大学教授の池尾和人氏であり、同教
授の2013年4月7日付の東洋経済オンラインのインタビュー
記事についての反論です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 安倍政権の発足はタイミングがよかった。円高から円安に修正
される動きは(安倍政権発足前の)2012年11月ごろから起
きていた。欧州の信用不安が小康状態になったことに加え、米国
の景気がかなり手堅いとの認識が広がり、投資家の態度が、いわ
ゆる「リスクオフ」(リスク回避的な姿勢)から「リスクオン」
(リスク志向的な姿勢)に変わったからだ。
                   http://bit.ly/1JsQ3o2
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに池尾教授は円安になった事実は認めているのですが、
それはたまたまタイミングがよかっただけであり、アベノミクス
とやらには何も関係はないといっているのです。
 池尾教授の考え方はこうです。2011年11月以前は、ギリ
シャ問題などに端を発するユーロ危機が深刻になり、世界中の投
資家たちは、ユーロ圏から資金を引き上げ、日本を含めた安全な
国に投資を増やしていたのです。これが「リスクオフ」の姿勢と
呼んでいるのです。
 したがって、ユーロ圏から投資をシフトされた国では、自国通
貨高現象が起きます。具体的にいうと、海外から日本への投資が
増えるということは、海外投資家が円を買っていることと同じに
なるので、円高になります。
 しかし、ユーロ危機はECBのがんばりで収束したので、投資
家たちは、ユーロ圏以外の国にシフトしていた資金を再びユーロ
圏に投資をはじめたのです。これが「リスクオン」の姿勢です。
その結果、資金が引き上げられた国は自国通貨安になっていった
のです。
 2012年後半からの日本の円安はそれが原因で起きており、
アベノミクス宣言は、たまたまそれとタイミングよく重なっただ
けであるというのです。これについて、浜田宏一教授は、グラフ
(添付ファイル)を示して、次のように池尾和人教授の主張に反
論しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (添付ファイル)を見れば、スイスフラン高局面が終わり、円
安に向い出した時期は確かに近い。そのため「スイスフラン」と
円が自国通貨安方向に向かい出したのは、この時期にユーロ危機
が一息つき、それにより、ユーロ圏以外に向っていた世界の資金
がユーロ圏へ戻っていったからだ」と後づけで言えなくもない。
しかし、その後1年後の2012年11月、日本は突如して、そ
れまで以上の円安局面に転じている。一方、スイスに大幅なスイ
スフラン安局面は訪れていない。仮に池尾氏の主張が正しいなら
ば、この時は日本やスイスへの投資資金がいっきにユーロ圏へと
集中したはずである。そして当然、日本だけでなく、スイスへの
投資資金もユーロ圏に向っていたはずだ。つまり一層スイスフラ
ン安がもたらされていたはずである。
                ──浜田宏一/安達誠司共著
         『世界が日本経済をうらやむ日』/幻冬舎刊
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/61]

≪画像および関連情報≫
 ●シティバンク銀行・尾河眞樹氏に聞くアベノミクス
  ―――――――――――――――――――――――――――
  安倍首相が首相になる前の2012年11月15日、「自民
  党が政権をとった暁には、2%〜3%のインフレターゲット
  を設けて、円高是正、デフレ脱却に向けてできる政策を総動
  員する」と発言しました。この意味するところは、物価がど
  んどん下がる、企業利益が悪化する、株が下がる、給料が下
  がる、物が売れない、景気が悪い、という状況から脱却する
  ためには、何でもやるということをおっしゃったわけです。
  当時、日米の金利差で見るとそこまで円安が進む状況ではな
  かったのですが、想定外の円安トレンドが始まりました。さ
  らに衆院選後の12月16日、安倍政権が発足。1月はまだ
  日銀総裁は白川方明さんでしたが、日銀と政府がインフレタ
  ーゲットを設けて、政府も日銀も一丸となって頑張るという
  共同声明を出しました。インフレターゲットをそこまで明確
  に協調して進める体制ができたというのは初めてだったので
  す。白川総裁の退任表明後の総裁人事では、インフレを起こ
  してデフレから脱却していこうという黒田東彦さんが総裁に
  また、副総裁にもそういった考えを持つ方が就任しました。
  基本的に、インフレを起こすということは、通貨の価値が下
  がっていくということですから、日銀がどんどん量的緩和を
  拡大していくということになると、円が大量に市場に供給さ
  れ、円安が進むことになります。  http://bit.ly/1Ec2uQx
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/浜田宏一/安達誠司共著の前掲書より

円、スイスフラン、ユーロ、ポンドの対ドルレートの推移.jpg
円、スイスフラン、ユーロ、ポンドの対ドルレートの推移
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2015年02月24日

●「量的金融緩和とインフレの関係性」(EJ第3980号)

 浜田宏一イェール大学名誉教授によると、民主党の馬淵澄夫衆
院議員は数少ないリフレ派の政治家であるそうです。池尾和人慶
応義塾大学教授は、その馬淵氏のブログに次の書き込みを行い、
反論を展開しています。池尾氏は、なかなかアクティブで、アン
チリフレ派の筆頭として活躍する学者の一人です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 インフレ目標の設定や量的緩和などによるマネタリーベース拡
大を行うとどうしてインフレになるのかについては、是非、その
トランスミッション・メカニズムを(馬淵氏以外の方でも結構な
ので)教示してもらいたい。(略)ゼロ金利下の世界は、いわば
アリスの迷い込んだ『不思議の国』である。したがって、金利が
正の世界では常識であることについても、ゼロ金利下でも同様に
成り立つというためには、その理由を説明する必要がある。
                ──浜田宏一/安達誠司共著
         『世界が日本経済をうらやむ日』/幻冬舎刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで池尾氏のいう「トランスミッション・メカニズム」とは
何を意味しているのでしょうか。これは、量的金融緩和をすると
どうしてインフレになるのか、そのプロセスを明確に示して欲し
いということをいっているのです。トランスミッション・メカニ
ズムは、「金融政策の波及経路」または[金融政策の伝達経路」
と訳されています。
 池尾教授は、量的金融緩和をいくらやっても、それによって物
価が上がり、インフレにはならないと考えています。したがって
否定的な意味で、量的金融緩和をしたら、どのようにしてインフ
レになるのか、その波及経路を示せといっているのです。「示せ
るものなら示してみよ」ぐらいの強い意味です。
 2010年のことですが、池尾氏は「アゴラ」というブログに
おいて、「量的緩和という物語」というタイトルで、日銀が量的
金融緩和をしても、金利がゼロの状態では必ずしも市中の通貨の
量は増えないとして次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 金利がゼロの(正確には、短期金融市場金利と準備預金に付く
金利水準に差がなくなった)状況では話は基本的に違ってくる。
というのは、資金を日銀当座預金口座に寝かせておいても、とく
に損になるということはなくなるからである。もちろん、貸出を
増やせば利益を見込めるという機会があれば、民間金融機関は資
金を使おうとするであろう。しかし、そうした機会が見出せない
ということになると、民間金融機関は日銀が供給した資金をその
まま日銀当座預金口座に寝かせておく行動をとることになる。
 そうした行動(これを俗には「ブタ積み」と呼ぶ)を民間金融
機関がとる限り、資金は日銀の外に出て行かず、金融緩和にはな
らない。この意味で、日銀の外に資金が出ていくかどうかの鍵を
握っているのは、民間金融機関である。そして、金利が正の状況
では、中央銀行が民間金融機関の行動を誘導することは比較的可
能であるとしても、金利がゼロになった状況では、誘導する手立
てはほとんど存在しない。       http://bit.ly/1zSGVhl
―――――――――――――――――――――――――――――
 量的緩和をしてインフレにするには、市中の通貨量(マネース
トック)を増やす必要があります。これに成功すると、明らかに
それまでの状況が変わってくるので、人々はインフレ期待を持つ
ようになるといえます。
 しかし、何度も述べているように、日銀が量的緩和でいくら金
融機関の日銀当座預金口座に資金を積み上げても、銀行がそれを
引き出して貸し出しに回さない限り、マネーストックは増加しな
いのです。要は金融機関の意思にかかっているわけです。
 現在、日銀当座預金に積み上がっている資金のうち、預金に応
じて積み立てる「必要準備」を超える「超過準備」には0・1%
の金利が付いており、金融機関としては超過準備を引き出さなく
ても別に損にならない状況です。
 これに加えてさらに池尾教授は、2013年4月7日の日本経
済新聞の「経済教室」において次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 リフレ論争は「特効薬だ」と告げて偽薬を与える治療を認める
べきかどうかという問題に似ている。効果を信じれば、ただの小
麦粉でも効くケースはある。一方で、「気合いを入れれば効く」
といっているに過ぎない。         ──池尾和人教授
          ──浜田宏一/安達誠司共著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに対して浜田教授は、量的金融緩和を続ければ、銀行の貸
し出しが増えなくてもマネーストックは増やせるし、実際に増え
ているとし、池尾氏の求めるトランスミッション・メカニズムは
示すことはできると、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これはつまり、「ゼロ金利では、それ以上金利を下げられない
ので、銀行の貸し出しは増やせない」「だから銀行の貸し出しを
増やす以外に、インフレを生じさせる経路を説明できないリフレ
派の議論には穴がある」というのである。
 この論を否定するには、「銀行貸し出しが増えずともマネーサ
プライ(マネーストック)を増やすことはでき、その結果として
緩やかなインフレを起こし、景気を回復させることもできる」こ
とを示せればよいのだろう。実際に今現在、アベノミクスの金融
緩和政策の発動後、銀行貸し出しはあまり増えていないのに、マ
ネーサプライが増え、物価も上昇し始め、景気も回復してきてい
る。(中略)それは企業の経営者がデフレ期に自社に溜め込んで
いたフリーキャッシュフローを投資に回し始めたことで、日本全
体のマネーサプライが増えているからである。
          ──浜田宏一/安達誠司共著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/62]

≪画像および関連情報≫
 ●金融政策だけで「デフレ脱却」はできない/池尾和人教授
  ―――――――――――――――――――――――――――
  消費者や企業のマインド改善は景気が回復する前提条件にな
  る。いろんな機会をとらえて、消費者や企業のマインドが前
  向きになるよう働きかけていくことは、経済政策を運営して
  いくうえで大切なことだ。(中略)デフレから脱却した将来
  において、物価水準が必要以上に高くなることを日銀が放置
  する、と人々に信じ込ませることができれば、インフレ期待
  を高めることができる、という議論がある。しかし、少し考
  えれば、そんな無責任な政策を日銀が取ることはありえない
  とわかる。根拠のない、いわば偽薬(プラシーボ)のような
  政策であっても効くことは一時的にはありうるかもしれない
  が、持続的なものではありえない。多くの人を一時的に、あ
  るいは少数の人を長期間だますことは可能でも、多くの人を
  長期間だまし続けることはできないからだ。デフレとは、物
  価が持続的に下落することだ。しかし、デフレ脱却のために
  とにかく物価が上がればよいのかというと、そうではない。
  世間でいうデフレ脱却というのは景気がよくなることを指し
  ている。賃金が上がらないのに物価は上がるのは困る、とい
  うのが一般的な考え方だ。物価指数で除した賃金を実質賃金
  というが、金融政策で仮に価格の持続的な下落を止められた
  としても、金融政策だけで実質賃金を引き上げることはでき
  ない。              http://bit.ly/1JsQ3o2
  ―――――――――――――――――――――――――――

池尾和人教授/浜田宏一教授.jpg
池尾 和人教授/浜田 宏一教授
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2015年02月25日

●「経済論議には3つの不思議がある」(EJ第3981号)

 2月20日付の日本経済新聞のコラム「大機小機」に次の記事
が出ていたので取り上げることにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
      【大機小機】『経済論議の三不思議』
        ──2015年2月20日付、日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 「大機小機」は、匿名ですが、一流のコラムニストが持ち回り
で執筆する日経の有名なコラムです。「大機小機」は仏教用語で
本来は「大乗仏教を理解実践できる人」という意味なのですが、
それから転じて優れたものと劣ったものという意味になります。
 2月20日付「大機小機」は、『経済論議の三不思議』と題し
最近の経済論議の3つの不思議を指摘しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.アベノミクス第1の矢の低評価である。日銀の金融緩和
   政策に誤解や低評価が絶えない。   →第1の不思議
 2.論壇での消費増税の論じ方である。まるで腫れ物にさわ
   るかのごとき取扱いをしている。   →第2の不思議
 3.普通の経済学がごく普通に経済を説明できることがない
   がしろにされていることである。   →第3の不思議
―――――――――――――――――――――――――――――
 「1」は、アベノミクスの第1の矢である「大胆な金融緩和」
の意外な低評価です。これは経済論議の不思議の第1であるとい
うのです。
 量的金融緩和は、2OO1年3月に当時の日銀審議委員の中原
伸之氏によって提案され、採用された金融政策ですが、世界で初
めての実施なのです。速水優日銀総裁時代のことです。
 バブルが崩壊し、日本経済が深刻な不況に陥ったとき、当時の
日銀の速水総裁はゼロ金利政策を採用し、それを2000年8月
に解除したのです。日銀としては、ゼロ金利という異常な状態を
1日も早く抜け出したかったからです。
 しかし、2000年秋にITバブルが崩壊し、それによる設備
投資の後退で景気が急速に悪化したのです。ゼロ金利政策を解除
した直後のことであり、明らかな日銀の政策ミスであったという
ことができます。
 この量的金融緩和の採用は、日銀にとって不安そのものだった
ようです。何しろ前例がないので、その作用・副作用はわからず
どうしても恐る恐るの実施になってしまうからです。しかし、名
目金利はゼロ近くに誘導されており、そこにデフレが進行したの
で実質金利が上がり、量的金融緩和以外にそれを引き下げる手段
がなかったのです。
 ここで思い出すべきは、実質金利を下げるには「期待インフレ
率」を上げることですが、そのときは十分期待インフレ率を上げ
ることができずに終わっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      実質金利=名目金利―期待インフレ率
―――――――――――――――――――――――――――――
 その後日本経済は足取りは遅いものの、少しずつ回復し、20
07年にはデフレ脱却の一歩手前までいったのです。2002年
度の基礎的財政収支は28兆円の赤字だったのですが、2007
年には6兆円の赤字まで減少しています。
 それは、速水総裁の後任である福井俊彦日銀総裁は、5年間に
わたって量的金融緩和を継続実施したからであるといえます。し
かし、またしても日銀は出口戦略を誤るのです。
 2006年3月9日に福井日銀総裁は量的金融緩和政策を解除
し、同年7月には約8年間に及んだゼロ金利からも脱却すると宣
言し、一転金融引き締め政策を実施したのです。しかし、これで
日本経済は再びデフレへと逆戻りしてしまうことになります。
 そういう日銀の失敗の歴史のなかで、黒田日銀総裁は、世界を
驚かす「大胆な金融緩和」を実施し、円安/株高の状況をつくり
出すのに成功しています。速水、福田日銀総裁のときは掲げてい
ない「物価目標2%」のインフレ目標を掲げ、思い切った大量の
国債買い取りを行っています。まさに「大胆な」の実践です。
 確かに消費税増税と原油の価格下落の影響を見誤ったのは日銀
の責任ですが、それは追加緩和したことによって取り戻しつつあ
ります。したがって、日銀にもっと高評価をあげてもいいのでは
ないかというのが「1」の不思議です。
 「2」は、まるで腫れ物にさわるような論壇での消費増税の論
じ方です。誰に遠慮しているのか、消費税増税の負の効果に正面
から論ずる解説は少ないのです。これは経済論議の不思議の第2
であるというのです。
 安倍首相はもともと消費税増税には慎重姿勢です。したがって
消費税増税の負の効果について書くことに躊躇するのは、財務省
の目を意識しているからと思われます。2月16日に発表された
国民経済計算の第1次速報では、内需の遅れが顕著だった一方で
輸出は伸びています。円安が効いてきたのです。
 内需では、消費、設備投資、住宅投資の回復が遅れており、そ
れは明らかに消費税増税の影響ですが、それについては明確に書
いていないのです。英フィナンシャル・タイムズ紙の17日付け
の記事は、消費の弱さの原因として消費税増税の影響を明確に指
摘しているのです。
 「3」は、普通の経済学がごく普通に経済を説明することがな
いがしろにされているのではないかというものです。これは経済
論議の不思議の第3であるというのです。
 日本は政治など各方面に気を遣い、普通の経済論議ができない
国になっているのではないかという指摘です。確かにその通りで
あり、このコラムでは次の言葉で結んでいます。「金融緩和の正
の効果は否定しながら、緊縮財政の負の効果を否定する。こうい
う議論にはかなりの無理がある。論壇の不思議が消えるのはいつ
の日だろうか」。
            ─── [検証!アベノミクス/63]

≪画像および関連情報≫
 ●日本経済新聞・喜多恒雄社長に聞く
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ──日経の強みは何か
  やはり経済を中心にした経済紙という点だろう。経済現象を
  丹念に追う「ファクト主義」の伝統がある。私も入社以来、
  「数字に基づく客観的な報道を心がけろ!」と指導されてき
  た。日経には一つのテーマをチームで追いかけるという特徴
  がある。ある企業がテーマになったとき、直接担当する産業
  部の記者だけではなく、メーンバンクを担当する経済部の記
  者、株式を担当する証券部の記者など、複数の記者が多面的
  に取材する。たとえば日経が特報した「AIJ投資顧問」の
  年金消失問題も、部署を横断した取材チームの成果だ。一部
  の記者が特ダネを集めるのではなく、取材、分析、報道をチ
  ームで手がけるのが強みだ。
  ──-売上高、社員数が減っているが
  新聞をとりまく環境が厳しいのは事実。だが記者の数は減っ
  ていない。むしろ私が現場にいたときより多いはずだ。従業
  員の削減は、印刷工場などの制作部門が中心。間接部門でも
  合理化を進めたが、新聞社の一番の根幹であるコンテンツに
  直接関わる人員は減らしていない。社員3200人のうち、
  編集・取材の人員は1400人強になる。社員の半数が編集
  ・取材とは歪(いびつ)に感じるかもしれないが、われわれ
  はコンテンツ企業だから、そこは絶対に手抜きをしない。今
  後も一定水準の記者採用は続けていく。
                   http://bit.ly/1AtPXoU
  ―――――――――――――――――――――――――――

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喜多 恒雄日経社長
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2015年02月26日

●「安倍首相と黒田総裁の微妙な関係」(EJ第3982号)

 2月12日に行われた経済財政諮問会議において、黒田日銀総
裁は自ら発言を求め、「この発言は議事録から外して欲しい」と
前置きして5分以上にわたり、財政再建についてオフレコで重要
な発言をしています。
 出席者からの情報を集めると、おおよそ次のような発言であっ
たといわれています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 金融機関の国際ルールでは、自国通貨の国債はリスクをゼロと
規定しているが、海外では国債もリスク資産とみなし、規制を強
化すべきだという議論が始まりつつある。議論が本格化すれば、
大量の国債を持つ日本の金融機関が国債を手放し始める。その結
果、国債が暴落し、金利が急上昇する。まして日本の国債は20
14年に民間の格付け会社がランクを下げており、日本の銀行経
営に対する影響が懸念される。事態はきわめてリスキーであると
考えている。               ──黒田日銀総裁
―――――――――――――――――――――――――――――
 経済財政諮問会議で黒田日銀総裁が自分から発言することはあ
まりないそうです。ところが12日は総裁自ら発言を求めており
きわめて異例なことです。
 この発言に関して安倍首相は「民間の格付け会社と話し合って
みたらどうか」とややピンボケな発言をしたそうです。これに対
して黒田総裁は、かつて格付け会社のトップと国債格付けの件で
話したことがあるが、格付けを変えることはできなかったとした
うえで、安倍首相に対し、財政健全化に本腰を入れるよう強く訴
えたというのです。
 この発言についてはいろいろなことがいわれています。見方と
しては、次の2つがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.黒田日銀総裁は、金融機関の国際ルールの見直しの動き
   を把握し、政府に警告したものである。
 2.黒田日銀総裁は、財政再建をめぐって安倍政権と距離を
   置こうとし、蜜月が転機を迎えている。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「1」は、日銀総裁が自らの職務として、経済財政諮問会議の
場を借りて、安倍首相に国債の現状を報告し、財政再建への姿勢
をもっと強めて欲しいと要望したものという見方です。
 なぜかというと、安倍政権としては2020年までに基礎的財
政収支の黒字化を目指す方針は変えていないものの、自民党議員
の一部に、「2020年までの黒字かなんて無理」という声が出
てきていることを黒田日銀総裁は懸念し、クギを刺したというの
が「1」です。
 しかし、本当のところは「2」であるという見方が支配的なの
です。2月21日付の日本経済新聞の朝刊では、第2面に次の記
事を掲載し、そのことを伝えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ≪真相深層≫
   政府と日銀、転機の蜜月/17年消費増税、再び試練
       ──2015年2月21日付、日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 「首相と黒田さんの距離が広がっている」──首相周辺はこの
ように証言しています。それは黒田総裁が2014年10月31
日に官邸に対して何の根回しもなしに追加緩和を打ち出したこと
にあるのです。
 アベノミクスによる物価目標2%の達成は、人々の期待に働き
かける政策であり、そのためにサプライズが必要であると考える
黒田総裁は、内輪の人にもサプライズを与える意味で官邸に根回
しをしなかったとも考えられます。
 しかし、官邸は別の意味にとったのです。もしかすると、財務
省は日銀と組んで何が何でも消費税10%増税を既成事実化しよ
うとしているのではないかと疑心暗鬼になったのです。追加緩和
以前にも、安倍首相は「増税は計画通りに実施すべき」と繰り返
す黒田総裁に少しずつ疑念を持っていたのです。
 そのとき、安倍首相は消費税10%増税の先送りをほぼ決めて
おり、そういう憶測は当時世間に広がりを見せていたのです。も
ちろん黒田総裁の耳にも届いていたものと思われます。
 「首相は迷っている」と考えた黒田総裁は、ここで追加緩和を
行うことによって、一層の円安が進み、株価を高騰させれば、安
倍首相は増税決断がしやすくなるのではないかと考えて、追加緩
和を実行したのです。つまり、追加緩和はあくまで10%増税を
前提とするものだったのです。
 しかし、日銀が追加緩和を行い、実際に円安/株高が起きると
安倍首相はそれを増税を延期し、解散を強行する絶好のチャンス
ととらえて、増税延期宣言をし、解散総選挙行ったのです。
 これによって黒田日銀は追いつめられることになったのです。
黒田総裁が国債の発行額全量を買い取る追加緩和を決めた直後に
増税が延期されたため、日銀の「量的・質的緩和」による国債買
い入れが財政の穴埋め──マネタイゼーションの色彩が強くなり
急激な円安や資本逃避の可能性も出てきたからです。これで日銀
側も安倍政権に不信感を持つようになったのです。
 そして、1月23日、政府は月例経済報告で、「2%の物価目
標を『できるだけ早期に』実現」としてきた表現を「経済・物価
情勢を踏まえつつ」に変更したのです。一見すると、原油安など
で物価低迷に悩む黒田総裁に助け舟を出したように見えますが、
日銀はこれを「首相サイドの意趣返し」と受け取ったのです。
 「異次元緩和は、人びとの物価上昇への期待に働きかける政策
だ。政府があっさり『早期』の旗を降ろしたことは、日銀からみ
ればはしごを外されたに等しい」と日経の「真相深層」は書いて
います。このようなことがあって、黒田総裁の2月12日のオフ
レコ発言になったものと思われます。
            ─── [検証!アベノミクス/64]

≪画像および関連情報≫
 ●日本経済新聞/「真相深層」より
  ―――――――――――――――――――――――――――
  黒田氏と首相のすれ違いが目立つのは、財政健全化や物価を
  めぐってだけではない。1月にスイスのダボスで開いた国際
  会議の討論会。「第3の矢(成長戦略)が今ひとつですね」
  と突っ込まれた黒田氏は、苦笑いするしかなかった。ある日
  銀幹部は「第1の矢である金融政策でやれることはやるが、
  そろそろ政府にバトンを引き継いでもらわないと」と本音を
  漏らす。(中略)首相は昨年11月に衆院を解散する際、景
  気の良しあしに関係なく17年4月には消費税率を必ず上げ
  ると約束した。同じタイミングで日戯が異次元緩和の出に向
  かえば、財政と金融は同時に引き締められる。景点は腰溺れ
  しかねない。長期政権をめざす首相は、黒田氏に18年4月
  の任期まで異次元緩和を続けるよう求める可能性がある。そ
  のとき黒田氏は「日銀総裁として物価安定への姿勢を問われ
  る。(BNPパリバ証券の河野龍太郎氏)脱デフレに向けて
  首相と黒田氏の連携を維持しつつ、日銀の独立性をどう確保
  するか。古くて新しい問題に向き合う時期にさしかかってい
  る。──2015年2月21日付、日本経済新聞/「真相深
  層」より
  ―――――――――――――――――――――――――――

黒田日銀総裁/安倍首相.jpg
黒田日銀総裁/安倍首相
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2015年02月27日

●「黒田総裁の警告の真の意味を探る」(EJ第3983号)

 世界中で量的金融緩和をしているのに、日本の異次元緩和は財
政赤字の穴埋めのためにお札を刷るマネタイゼーションではない
かと非難する国が少しずつ出てきています。
 そういう状況のなかで、国債をリスク資産とみなして、金融機
関の国際ルールの見直しを仕掛ける動きが出てきているといわれ
ています。もともと自国国債は「リスクゼロ」ということになっ
ており、金融機関がいくら自国国債を保有しても、何の問題もな
かったのです。
 しかし、海外では国債もリスク資産とみなし、規制を強化すべ
きという議論が始まりつつあるのです。もし、そういう議論が本
格化すれば、金融機関の保有する国債の量が規制される可能性も
出てくると思われます。
 かつてのバーゼル合意のように、国際的に活動する銀行の自己
資本比率や流動性比率などに関する国際統一基準のようなものが
国債についてもいわれるようになったらエライことになります。
もっともそういう規制が簡単に決まるとは思えませんが、議論が
海外ではじまるだけでも、現在大量に国債を保有している日本の
金融機関のなかには国債を手放すところが出てくるはずです。
 まして日本国債はランクが低く、ますます売られる可能性が高
いのです。そうすると、国債価格は暴落し、長期金利が跳ね上が
る可能性があります。したがって、黒田日銀総裁は、物価目標2
%を達成するために異次元緩和を継続して行うかたわら、消費税
増税を行うなど財政再建に力を入れる必要があることをオフレコ
発言で安倍首相に強く進言したのです。
 黒田日銀総裁は、追加緩和の後で消費税再増税が延期されたこ
とについて、「追加緩和が間違っていたとは思わない」として、
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 追加緩和はあくまで2%の物価目標を早期に実現するためであ
り、増税延期で追加緩和が間違っていたとか、緩和時期を待つべ
きだったとは考えない。財政への信認が失われるリスクは実際に
起きる確率は非常に低いが、そのリスクは無視できるほど小さい
とは思わない。もし財政規律が失われれば、公共サービスや所得
の再分配機能、景気の調整機能に障害が生じる。
          ──黒田日銀総裁 http://bit.ly/1z80ylq
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の国債は現在でもほとんど国内で消費されています。確か
に最近では、外国人投資家が保有する日本国債が2014年末で
約46兆円になり、7年ぶりに過去最高を更新しています。欧米
の金利低下で、政府系ファンドやヘッジファンドが日本国債を投
資先として見直す動きが広がっているからです。
 日銀によると、2013年末の外国人の国債保有額(短期国債
を除く)は34兆3千億円。財務省の集計では2014年末には
保有残高は12兆円増え、年末ベースで過去最高だった2007
年の41兆円を上回り、過去最高になっています。しかし、日本
国債全体から見れば、その割合は5%弱に過ぎず、現在でもほと
んど国内で消費されているのです。
 2014年第3四半期(暫定値)の日本国債、860・7兆円
の保有者別内訳(国債・財融債合計)は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   民間銀行 ・・・・・・・・・・・・ 32・8%
   保険・年金基金 ・・・・・・・・・ 26・6%
   その他金融機関 ・・・・・・・・・ 21・5%
   社会保障基金・地方自治体など ・・  7・5%
   投信・証券など ・・・・・・・・・  3・4%
   海外(外国人) ・・・・・・・・・  4・8%
   家計 ・・・・・・・・・・・・・・  2・2%
   非金融法人企業 ・・・・・・・・・  0・8%
   非営利団体 ・・・・・・・・・・・  0・4%
                http://bit.ly/1wchsF1
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、国債がリスク資産とみなされ、それによって金融機関
が規制されるようになると、金融機関は国債を手放さざるを得な
くなるので、国債を国内資金でファイナンスできなくなってしま
います。そうなると、「財政破綻」が現実味を帯びてくることに
なります。
 つまり、国の借金が1千兆円あろうと2千兆円あろうと、それ
が国内資金でファイナンスされてさえいれば、財政破綻の心配は
ないのです。要するに財政赤字の額ではないということです。た
だ、それができなくなると、リスキーな状態になるのです。黒田
総裁が安倍首相に「財政再建に取り組む姿勢を見せて欲しい」と
要請したのは当然のことであり、そのいわんとすることは安倍首
相に通じていると思います。
 しかし、昨年12月22日の経済財政諮問会議で安倍首相は次
のような発言をしているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 財政再建を進めるうえで、政策経費を税収などでどのくらいま
かなえるのかを示す基礎的財政収支だけでなく、債務残高のGD
P比にも着目すべきではないか。        ──安倍首相
―――――――――――――――――――――――――――――
 安倍首相はどうしてこのような発言をしたのでしょうか。
 安倍首相は基礎的財政収支を黒字化する財政均衡主義には反対
なのだと思います。安倍首相はアベノミクスの成長戦略を成功さ
せることによって名目GDPを上げようとしています。そうすれ
ば、債務残高がGDPに占める割合が小さくなります。これを積
み上げて行けば、財政は自然に健全化するという考え方です。
 安倍首相がこのように発言したのは、それを推進するよう勧め
る一派が自民党内にいるからです。これは「国土強靭化」を目指
すグループであり、そのグループの主張に首相は傾いていること
を意味しています。   ─── [検証!アベノミクス/65]

≪画像および関連情報≫
 ●「追加緩和」に否定的な発言をする黒田総裁の本音
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2015年2月17日から開かれている日銀の金融政策決定
  会合の結果が、今日発表される予定だ。「政策変更なし」と
  発表される公算大で、株式市場への影響は限定的だろう。市
  場の注目は、その後の黒田総裁の記者会見で、先行き追加緩
  和の可能性を匂わす発言があるかに向かっている。楽天証券
  経済研究所のチーフストラテジスト窪田真之氏は、市場の追
  加緩和期待を高めるような発言があれば、円安、株高が進む
  可能性があるが、今回はそうした発言は出ないと予想される
  という。FRB(米国の中央銀行)や、ECB(欧州中央銀
  行)は、金融政策の方針について、市場と対話することを重
  視している。金融政策の変更で市場にショックを与えないよ
  うに、政策変更の可能性を少しずつ市場に織り込ませる努力
  をしている。2014年10月、米FRBはQE3(量的緩
  和第三弾)を終了した。これは、2年以上前から、何度も市
  場との対話を通じて市場に伝えてきたことなので、市場に驚
  きを与えることはなかった。ECBは今年の1月に量的緩和
  を導入した。これも、事前に市場と対話しながら方針を伝え
  ていたので、市場に驚きを与えることはなかった。日銀も、
  欧米の中央銀行を見習って、市場と対話していく方針を打ち
  出している。ただし、実態は、必ずしもそうなっていない。
  日銀は、かつて金融政策の方向性について、完全な秘密主義
  を貫いていた。近年は、昔に比べると政策に関する情報を出
  すようになってはいるが、それでもFRBやECBに比べる
  と、秘密主義の側面が強いと言わざるをえない。
                   http://bit.ly/1BAjPmx
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経済財政諮問会議/2015年2月12日 
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(3) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする