2015年01月01日

EJ4000号記念パーティのご案内

EJブログご愛読の皆様へ

      EJ4000号記念パーティのご案内

 暑い日が続いておりますが、皆様にはお元気にそれぞれの分野
でご活躍のこととお慶び申しあげます。

 平野さんより毎日(平日)発信しておりますエレクトロニック
・ジャーナル(略称EJ)ブログは、平成14年12月3日に1
000号、平成19年1月17日に2000号、平成23年2月
21日に3000号を記録し、今年の3月24日にはEJ400
0号を迎えました。現在ブログの読者数は、一日平均7000人
(PV/ページビュー)以上になっております。

 つきましては、EJを書き続ける平野さんへの尊敬と感謝と応
援の意を込めて「EJ4000号記念パーティ」を下記日程で開
催することといたしました。そこで初めての試みですが、不特定
多数のEJブログご愛読者の皆様に、平野さんのブログを借りま
して、パーティーのご案内を差しあげた次第です。しかし、出席
者の予想がつきません。そこで今回の予告の案内と本案内(出席
者のみ)と二段階でご案内させていただきます。

 大変お手数ですが、準備の都合上来る8月15日(土曜日)ま
でに次のメールアドレスへ出欠の連絡と「平野さんへのひと言」
をお願いいたします。皆様のコメントを平野さんへお伝えしたい
と思いますので、よろしくお願い申しあげます。

連絡メールアドレス e-media2@f2.dion.ne.jp (担当:梅木)

                          以上

     EJ4000号記念パーティ開催発起人 梅木 宗広

                記

開催日時:平成27年9月16日(水)午後6時〜午後8時
開催場所:ライオン 銀座クラシックホール
(電話03−3573−5355)
東京都中央区銀座7−9−20 ライオン銀座七丁目ビル6階
地 図:URL参照(http://r.gnavi.co.jp/g008212/
会 費:8,500円(平野さんの記念品代含む)
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

●「新年ご挨拶/2015.1.1」

 EJ読者の皆様、明けましておめでとうございます。EJをい
つもご愛読いただき心より御礼申し上げます。本年もよろしくお
願いいたします。
 2014年のEJは、1月6日の第3703号から12月29
日の第3945号までの242本を営業日の毎日、一日も欠かさ
ず、お届けしました。その間、同じ内容のコンテンツをブログに
投稿しています。つまり、ブログは年に242回更新したことに
なります。2014年は次の4つのテーマについて書きましたが
現在執筆中の「検証!アベノミクス」についてはまだ未完です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.消費税増税を考える ・・・・・・・・・・・ 83回
 2.新自由主義の正体 ・・・・・・・・・・・・ 79回
 3.ビットコインについて考える ・・・・・・・ 53回
 4.検証!アベノミクス(未完) ・・・・・・・ 27回
                        242本
―――――――――――――――――――――――――――――
 今年のEJは毎日どのくらいの人に読まれたでしょうか。
 EJと同じコンテンツを掲載しているブログの毎日の来訪者数
の月平均数値の推移をとってみると次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪消費税増税を考える≫
             UU     PV    FW
    1月 ・・ 1911人  5847人 19048
    2月 ・・ 1789人  5156人 19177
    3月 ・・ 1726人  5311人 19306
    4月 ・・ 1703人  5283人 19542
    5月 ・・ 1842人  5436人 19628
 ≪新自由主義の正体≫
    6月 ・・ 1648人  5462人 19687
    7月 ・・ 1775人  6297人 19731
    8月 ・・ 1606人  5395人 19775
 ≪ビットコインについて考える≫
    9月 ・・ 1422人  5331人 19854
   10月 ・・ 1472人  4916人 19965
   11月 ・・ 1542人  5025人 20108
 ≪検証!アベノミクス≫
   12月 ・・ 1820人  5957人 20590
―――――――――――――――――――――――――――――
 「UU」は「ユニーク・ユーザー」といって、最新の記事を読
むためにブログを訪れた正味の数であり、毎日のUUの月平均数
値です。同じ人がもう一度ブログに訪れても「1」としかカウン
トしないのです。つまり、重複はカウント(1日単位)しない数
字です。
 「PV」は「ページビュー」といい、毎日のPVの月平均数値
です。「PV」の数字は、実際にブログを訪れた人の1日単位の
総数を表しています。これは重複訪問を含んだ数字です。
 UUはテーマによって影響を受けます。今年は「新自由主義の
正体」や「ビットコインについて考える」という専門的なテーマ
を取り上げているので、全体的な傾向として2013年よりも数
値は低くなっています。テーマによって、200人〜300人の
数値が動きます。
 それでも新規テーマの平均的訪問数は毎日「1700人」、ブ
ログへの訪問総数は毎日「5000回」は確保しています。1日
に5000回というと月間15万回、年間で180万回であり、
年間50万回のPVがあれば有力サイトといわれていますので、
プログとしては合格ラインに入っていると思います。昨年の暮れ
にはある企業から広告の申し入れもきており、EJブログもやっ
と広告対象サイトになりつつあるのかなと思っています。
 私は2010年1月4日からツイッターを開始し、毎日ツイー
トを配信してちょうど5年になります。こちらは土日祝日を含む
365日毎日発信しています。ツイッターでもEJブログへ誘導
しており、ブログのアクセス数と無関係ではないと思うので、今
年はフォロワーの数値を「FW」として示しておきます。
 フォロワーは2014年11月に2万人を突破し、現在順調に
伸びています。フォロワーは簡単にフォローをやめること、アン
フォローができるので、フォローする人の数がアンフォロー数よ
りも多くなければフォロワーの数は増えないのです。やった人は
わかりますが、なかなか増えないものです。それだけにメッセー
ジが瞬時に2万人に届く影響力は少なくないと考えています。
 今年のEJは、昨年の「ビットコインについて考える」のよう
な30〜50回のテーマを多くしていきたいと考えています。こ
のテーマは、あるロータリークラブから、演題自由の講演を依頼
されたのがきっかけで、取り上げたものです。
 テーマの後半になってから、楽天が海外での取引に採用したり
海外でビットコインやペイパルによる送金が増えてきたことから
日本の銀行の振込時間の延長の検討が進むなどの大きな変化につ
ながってきて、ブログのアクセス数が急に増えてきています。
 ビットコインについては、貨幣論に詳しい気鋭の英国エコノミ
スト、ライオントラスト・アセット・マネジメントパートナー兼
エコノミストであるフェリックス・マーチン氏のコメントを「画
像および関連情報」でご紹介します。
 ビットコインへの対応に関しては、日本が世界で一番遅れてい
ると思います。まだ円天などと一緒のように考えている人が多い
し、マウントゴックスの破綻によって、ビットコインは終わった
と思われています。しかし、海外では急速にビットコインは普及
しているのです。ビットコインが普及すると、金融機関は送金シ
ステムを中心に大きなダメージを受けます。そして、経済にも大
きなインパクトを与えることになります。
 EJは、2014年12月29日現在、第3945号に達して
います。あと55回で4000号です。到達日は、2015年3
月24日です。今年は、1月5日よりEJを配信します。本年も
EJをよろしくお願いいたします。

≪画像および関連情報≫
 ●ビットコインについて/フェリックス・マーチン氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ビットコインには二つの側面があります。一つは、国家や中
  央銀行の発行によるものでない「民間通貨」という点です。
  同じイデオロギーの下に集まったグループが発行する民間通
  貨は歴史上、これまでにも数多くありました。ビットトコイ
  ンには、国家の金融制度にとらわれまいとするイデオロギー
  があります。ビットコインのような「暗号仮想貨幣」は、何
  ら問題なく流通し続けることができます。幅広い支持は得ら
  れなくても、存在を阻むものは皆無です。こうした「交換価
  値の自己増殖」、つまり、民問通貨の創造・流通の制御は不
  可能であり、通常は好ましくありません。民間通貨が国家の
  金融秩序に脅威をもたらしうるのは、国家の通貨と大々的に
  競合できる状況に限られます。たとえば超インフレなど、国
  家の通貨が本来の役割を果たせないときです。二つ目はビッ
  コインに組み込まれた支払いツール「分散型パブリックレジ
  ャー(公開台帳)」が新奇で、興味深い点です。この電子公
  開台帳には、ビットコイン使用者の信用履歴などが記録され
  ます。専門家によれば、「極めて廉価で安全、迅速で効率的
  な記録方法」です。ビットコインの問題点は、まず、匿名性
  がないこと。紙幣などが歴史的に大成功を収めた理由の一つ
  は、身元が明らかにならないことにあります。次に、非常に
  デフレ効果の高い貨幣本位制であることです。ハードコード
  (動作環境の決め打ち)によって、発行量が厳しく制限され
  ているからです。  ──「週刊東洋経済」新春合併特大号
  ―――――――――――――――――――――――――――

年賀状/2015年元旦.jpg
年賀状/2015年元旦
posted by 平野 浩 at 03:37| Comment(0) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月05日

●「どうして円安/株高になったのか」(EJ第3946号)

本号は今年はじめてのEJです。今年もEJをよろしくお願いい
たします。
 「アベノミクスをこのまま続けて良いか。信を問いたい」と安
倍首相は宣言して解散し、総選挙で勝利しています。しかし、ア
ベノミクスの方向性が正しいかどうかについては、エコノミスト
や学者によって意見が大きく異なります。したがって、安倍首相
に「これでいいのか」と問われても、国民としては正しい判断を
することは困難です。
 しかし、誰の目にも明らかなのは、民主党の野田政権のときよ
りも円安が進み、株価が上昇していることです。それは、安倍政
権が発足すると同時に起こっているのです。円安が進行すれば輸
出が増大し、株価が上がり、この状態が持続されれば、日本経済
は長く続いたデフレから脱却できるではないかと多くの人が感じ
たことは確かです。
 しかし、株価や為替レートはしばしば実体経済の動向から乖離
することがあります。ところで、このような文脈で「実体経済」
というときは、それは「ファンダメンタルズ」と呼ばれることが
多いのです。
 株価や為替レートは資産価値であり、何らかの予想というか期
待によって、将来への見通しが好転すると考えると、ファンダメ
ンダルズに何の変化もないにもかかわらず、その価値が上昇する
ことがあります。資産価値が上昇すると、需要が増加し、それに
投機的な取引が加わると、ファンダメンタルズに乖離した価格上
昇が続くことになります。つまり、バブルの発生です。
 確かに、将来の資産価値の見通しを大きく変化させる「期待」
を多くの人に抱かせた人物がいます。それは、2012年11月
13日に自民党総裁になったばかりの安倍晋三氏の発言です。こ
れについては、12月24日のEJ第3942号に書きましたが
再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 自民党が政権をとった暁には、2%〜3%のインフレターゲッ
トを設けて、円高是正、デフレ脱却ができる政策を総動員する。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは「日銀を変える」というメッセージでもあるのです。な
ぜなら、インフレターゲットを設けるということは、基本的には
日銀が大量に通貨を発行して、日本国債を大量に購入することを
意味しています。日銀がマネタリーベースを劇的に増やせば、円
の価値が下落するので、物価上昇=インフレが起こるからです。
 それに、その頃から自民党幹部から「日銀法改正」の発言が相
次いだのです。これによって、投資家は自民党がもし政権を取れ
ば、リフレ派の日銀総裁が誕生し、インフレ目標が設定され、相
当規模の金融緩和が行われることは容易に予想できたのです。そ
れなら、株とドルを安いうちに購入しようと考える投資家があら
われても当然です。
 もっともこの時点では、解散総選挙がいつ行われるかはわから
なかったのですが、いずれ近いうちに選挙があることは予想され
ていたのです。そしてもし総選挙になれば、自民党が勝利するこ
とは誰の目にも明らかであったのです。そういうわけで、実際に
安倍首相の発言直後から、実際に円安が進み、株価が向上しはじ
めたのです。
 実際の数字を正確にチェックしてみます。添付ファイルの「円
安・株高の推移」を見てください。2012年11月14日から
2013年11月14日までの動きを見ると、ドル/円は25%
の円安、株価は実に72%も上昇しています。
 貿易相手国の物価の変化の違いを考慮した実効為替レートでみ
ると、2012年11月から2013年12月までの1年間で、
22%の円安が進行していますが、この間の下落率は主要国のな
かで突出しています。
 ちなみに、リーマンショックが生ずる前の2008年8月から
2012年10月までの4年間では21%の円高が進んでいたの
ですが、安倍総裁就任後の2012年11月からの1年間で、そ
の円高は打ち消されたことになります。
 株価に関しては、「買い越し」と「売り越し」について知って
おく必要があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   株式の買いが売りを上回る状態 ・・・ 買い越し
   株式の売りが買いを上回る状態 ・・・ 売り越し
―――――――――――――――――――――――――――――
 買い越しが進めば、株価には上昇圧力が働き、売り越しが進め
ば、株価には下落圧力がかかります。2012年1月の外国人投
資家の買い越し額は1586億円でしたが、11月以降に大幅に
増加して、2013年4月は2兆円を超えています。これは、海
外投資家の買い越しが株価上昇に大きく貢献したことを意味して
いるのです。これは日銀がデフレ脱却に向けて本格的なレジーム
チェンジをはじめたものと受け止められ、海外投資家の積極的な
買いを呼んで、株価の上昇に結びついたのです。
 ところで、期待(予想)インフレ率を上げることは、実質金利
を下げ、企業が投資しやすい環境を作ることにつながるはずです
が、実際に実質金利は下がっているでしょうか。
 添付ファイルの下のグラフ「予想実質金利の推移」を見てくだ
さい。このグラフは、片岡剛士氏が既存研究を参照して2000
年以降の予想実質金利を推計したものですが、これをみると20
13年に入り、予想実質金利は急速に低下が進んで、直近時点で
の予想実質金利は、2000年以降で最低レベルに下がっている
ことがわかります。
 しかし、予想実質金利が下がってはいるものの、肝心の企業の
設備投資の動きは緩慢なのです。これは、製造業の設備投資が、
2013年以降低迷しているからです。これは、製造業が長引い
たデフレや円高に対応するため、海外に拠点を移すなどして生き
残ってきたため、予想実質金利が下がっても国内生産にすぐには
シフトできないのです。 ─── [検証!アベノミクス/28]

≪画像および関連情報≫
 ●「円安株高の本当の原因は何か」/プレジデントオンライン
  ―――――――――――――――――――――――――――
  プロと称される市場関係者の目は、衆議院の解散から安倍政
  権発足以降の円安株高に対して意外と冷ややかだったのでは
  ないか。不思議なもので、お金でお金を生むエゲツない世界
  にいながらも、ディーラーというのは、相場そのものに対し
  ては畏敬の念に似た感覚を抱いている。それは人智を超えた
  何かを感じるからなのだが、安倍首相が「私の発言によって
  円安となり株高になった」と語ったことで相場参加者は引い
  てしまったのではなかろうか。気分が高揚しすぎて勇み足に
  なっている、といった指摘も見られたが、市場へのリスペク
  トを欠いた口上はやはり国際金融取引の最前線近くにいる人
  ほど受け容れ難いのだろう。中央銀行の役目であって、一国
  の首相の役割ではないとおっしゃるかもしれないが、各国当
  局が市場との対話を重視しているように、せっかくであれば
  国際金融市場の参加者をも味方につけたほうが、安倍首相の
  今後の政策運営もぐっと楽になるはず。使えるものは何でも
  有効に使えばよいわけで、不用意なコメントはいかにも勿体
  ないと思ってしまうのだ。冷ややかな反応の裏には、今回の
  円安株高が本当にアベノミクスだけでもたらされたのか、と
  いう疑問がある。         http://bit.ly/13OklOx
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/片岡剛士著、『日本経済はなぜ浮上しないのか
  /アベノミクス第2ステージへの論点』/幻冬舎刊

円安・株高の進展/予想実質金利の推移.jpg
円安・株高の進展/予想実質金利の推移
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月06日

●「金融政策は『まじない』ではない」(EJ第3947号)

 2013年8月28日のことです。岩田日銀副総裁は、京都商
工会議所で次の講演を行っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「『量的質的金融緩和』のトランスミッション・メカニズム
 ──『第一の矢』の考え方」  ──岩田規久男日銀副総裁
                  http://bit.ly/1Bv0gIn
―――――――――――――――――――――――――――――
 安倍政権の進めるアベノミクスは、この講演で述べられている
岩田理論に基づいています。岩田氏は、この講演において、次の
2つのことを述べていますが、それはアベノミクスにおける「第
1の矢」の効果を強調しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.日銀が大量の通貨の供給を続けると、人々は物価が上が
   ると考えるので、予想インフレ率が上昇する。そうする
   と、予想実質金利が低下するので、企業は設備投資を増
   加させるので、景気浮揚の力が働く。
 2.予想インフレ率が上昇すると、それは予想実質金利を引
   き下げることになる。そうすると、それは手持ちの資産
   の価値を増加させることになるので、それによって消費
   支出が増大し、景気浮揚の力が働く。
―――――――――――――――――――――――――――――
 岩田副総裁は、企業が設備投資を増やしたり、人々が消費支出
を増大させるには実質金利が下がることが必要であることを強調
し、そのためには、人々の「期待」に働きかけて予想インフレ率
を高める必要があるというのです。この「人々の期待に働きかけ
る」ということについて、岩田氏は、次のように話しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「人々の期待に働きかける」という私の説明を聞いて、『おま
じないのような話』だと思われた方もいらっしゃるかも知れませ
ん。しかし、金融政策というのは、本来「人々の期待に働きかけ
ること」を通じてその効果を発揮するものなのです。過去15年
近く続くデフレの中で定着してしまったデフレ予想を「緩やかで
安定的なインフレの方向」に変えていくことが、私たちが現在取
り組んでいる金融緩和政策の、最も重要なポイントだというのが
私の考えです。──岩田日銀副総裁の講演より/『』部分は筆者
―――――――――――――――――――――――――――――
 アベノミクスに対しては、多くの懐疑派というか否定派の学者
がたくさんいます。その筆頭ともいうべき学者の一人に京都大学
名誉教授の伊東光晴氏の存在があります。伊東教授は岩田日銀副
総裁がこの講演で金融政策が『おまじないのような話』と述べた
ことを重視し、次のように批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この波及経路を明言した日銀副総裁岩田規久男氏は、金融政策
は、人々の期待に働きかけるもので、おまじないのように思われ
るかもしれないとも言っている。日銀の政策がそのようなもので
あることを、私ははじめて聞いた。ケインズ理論が登場し、財政
政策や有効需要政策が前面に出るまで、金融政策は、経済政策の
中心であり、確たるものであり、決して、おまじないのようなも
のではない。このような不確かな理論にもとづく政策の登場は、
レーガノミクスと同じである。(中略)アベノミクスもレーガノ
ミクスと同じ推測にもとずく人々の行動を前提としており、実証
に欠け、無理論の上に立つものという点では同様である。
                      ──伊東光晴著
      『アベノミクス批判/4本の矢を折る』/岩波書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 伊東教授は岩田氏のいう政策の波及経路は、すべてあやふやな
ものであって、実証されていないと批判しています。「物価が上
がるだろう」はあくまで「だろう」であって「上がる」ではない
というのです。そして、「供給過剰な社会で物価が上がることは
ない」と断言しています。
 そして伊東教授は、利子率が下がったときに投資が増えるか否
かを検証したものとしては「オックスフォード調査」があるのに
岩田氏はそれを無視しているといっています。
 本来「利子率低下が投資を増加させる」と説いたのは新古典派
であり、ケインズはこれを受け入れましたが、実証が必要である
と考えていたといいます。この検証をしたのが「オックスフォー
ド調査」であり、1930年代に行われたのです。その調査結果
は次のようなものであったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 調査の結果は次のようなものである。利子率について言えば、
長期利子率が低下しても投資に直接影響はない。「長期利子率」
の低下は債券価格を引き上げるけれども」というものであった。
                ──伊東光晴著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、経済学の考え方は千差万別です。この世界では、Aと
いう学説とBという学説の内容がまったく逆のものであっても両
方とも成り立ってしまうのです。自然科学のように、白黒つけら
れない世界であるともいえます。
 アベノミクスが正しいか間違っているかは別にして、現実に円
安と株価上昇は起きています。しかし、伊東教授はアベノミクス
の批判書を上梓した理由について、「週刊ダイヤモンド」新春合
併特大号で次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 株価上昇や円安は、安倍政権の経済政策とは無関係だ。それを
明らかにするのが、1つの目的である。第2に、人口減少の影響
を考慮した、マクロ分析による政策科学で論ずることである。こ
れが本書の理論的な新しさだと思う。     ──伊東光晴氏
          「週刊ダイヤモンド」新春合併特大号より
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/29]

≪画像および関連情報≫
 ●『アベノミクス批判──四本の矢を折る』書評
  ―――――――――――――――――――――――――――
  伊東光晴は、『ケインズ』(岩波新書)の翻訳もあり、長き
  にわたる雑誌『世界』の論客であるが、そのためか、「岩波
  文化を代表する」などと形容されることもあるようだ。「岩
  波文化の凋落」などと、本書を批判しているレビュアーもあ
  るが、だいたい、「岩波文化」などと言うこと自体、歳がわ
  かる(笑)。かつてそのようなものがあったとしても、その
  ようなものは、とっくに凋落していて、なにも本書とは関係
  がない。まっとうな(資料を駆使して、科学的に分析するス
  タイルの)経済学者ではあるが、本書は、経済学ばかりの本
  ではない。「アベノミクス」という、知識のない庶民、ある
  いは、あってもテキトーな政治家向けの、便利な言葉の胡散
  臭さを、とくに、「アベノミクスの三本の矢」(金融政策、
  国土強靱化政策、成長政策)という経済政策がいかに「不可
  能か」を実証的に分析しかつ、「隠された四本目の矢」をあ
  ぶり出すものである。四本目の矢というのは、ズバリ、憲法
  改正である。氏に言わせると、自民党内の右派は、中曽根、
  小泉、安倍。リベラルは、田中角栄、池田勇人、大平正芳で
  ある。そして、小泉は、「戦術上靖国参拝を利用した」。し
  かし、安倍は、心から靖国に祀られているA級戦犯を尊敬し
  ているゆえに、靖国に参拝した。そういうことをありがたが
  る右翼の年寄りは、どんどん死んでいくが、だが、大丈夫、
  ネット界、出版界には、新しい右翼が育っている(合掌)。
                  http://amba.to/1DiW7IV
  ―――――――――――――――――――――――――――

伊東光晴京都大学名誉教授jpg.jpg
伊東 光晴京都大学名誉教授
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月07日

●「円安株高はアベノミクスと無関係」(EJ第3948号)

 アベノミクスについて書いた本はたくさんあります。このテー
マを書くとき、どの本を選ぶか迷ったのです。そこで、ジュンク
堂池袋店に行き、椅子に座って時間をかけて本を選択した結果、
次の3冊を中心にして書くことにしたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.片岡剛士著/『日本経済はなぜ浮上しないのか/アベノミ
   クス第2ステージへの論点』/幻冬舎刊
 2.伊東光晴著/『アベノミクス批判/四本の矢を折る』
   /岩波書店刊
 3.服部茂幸著/『アベノミクスの終焉』/岩波新書1495
―――――――――――――――――――――――――――――
 アベノミクスに関する書籍は、アベノミクスを肯定的に受け止
めるものと批判的にとらえるものに分けられます。タイトルを見
てもわかるように、「2」と「3」は後者です。それも「2」は
アベノミクスというよりも安倍政権を明確に批判しているのに対
し、「3」はアベノミクスを「日銀と政府の物語」としてとらえ
それに騙されてはいけないと説いています。つまり、批判本です
が、感情的に批判しているわけではないのです。
 アベノミクスを肯定的にとらえる本はたくさんあります。その
なかにあって「1」は、あくまで豊富な実証データに基づいてア
ベノミクスを客観的に検証している点が好感が持てます。そして
その方向性の正しいことは認めています。ここまでのEJの記述
は、主として「1」に準拠しています。
 これら3冊の本には「消費税増税」について際立った違いがあ
ります。それは、「1」と「2」が消費税増税についてはほとん
ど言及していないのに対し、「3」は2つの章を設けてその悪影
響について述べています。つまり、「3」は、アベノミクスの方
向性については是とするものの、消費税増税は余計であり、延期
すべきであると説いています。
 偶然ですが、「1」と「2」の著者──伊東氏と服部氏はいず
れも京都大学の出身であり、「3」の片岡氏は慶応義塾大学商学
部の出身です。年齢的には伊東氏は88歳、京都大学名誉教授で
あり、雑誌『世界』の論客の一人です。服部氏は50歳台であり
現在福井県立大学経済学部教授です。これに対し、片岡氏は40
歳台で、三菱UFJリサーチ&コンサルティング経済・社会政策
部主任研究員です。
 これら3氏の所論を参考にしながら、アベノミクスを検証して
いくことにします。第1次安倍政権が発足したときからアベノミ
クスがスタートしたと考えると、アベノミクスは、丸2年が経過
したことになります。
 しかし、2013年と2014年は、状況はまるで異なるので
す。2013年は、アベノミクスの成否がそのままあらわれた年
ですが、2014年は、4月に消費税増税が行われており、増税
のダメージがモロにあらわれた年であるからです。
 消費税増税は、アベノミクスがはじまる前にその実施が決まっ
ており、常識的に経済政策としては、増税をアベノミクスに含め
て考えるべきではないのです。本来であれば、安倍首相は経済弾
力条項を使って3%の増税こそ延期すべきだったのです。
 しかし、法律通りに3%の増税を決断したことによって、1〜
3月の駆け込み需要と、4〜6月の実質GDP成長率の大幅な落
ち込み、7〜9月期と10〜12月期のマイナス成長と、アベノ
ミクスは表面上は失敗に終わっています。しかし、円安と株高は
10月の追加緩和もあって、2014年も大きく伸びています。
 したがって、アベノミクスを批判的にとらえる向きは、消費税
増税を含めてとらえますが、真にアベノミクスの成果を検証する
には、2013年の成果を中心に見るべきです。
 伊東光晴氏は、2013年の円安と株高はアベノミクスには関
係がないと次のように断言しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 株価上昇も円安も安倍政権の経済政策がもたらしたものであろ
うか。財政出動一つをとって見てもよい。安倍政権の三本の失の
うちの一つ、人からコンクリート、つまり南海トラフ地震の被害
予想220兆円と、首都直下型地震の被害予想112兆円のため
の対策費、10年間で200兆円の公共投資、国土強靭化政策は
いまだ動いていない。私は株価の上昇も円安も別の要因に基づく
ものであると断言できる。          ──伊東光晴著
      『アベノミクス批判/4本の矢を折る』/岩波書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 伊東氏は、株価については、2012年11月13日から上昇
に転じ、2013年5月7日には1万4180円になり、リーマ
ンショック前の水準に達していますが、黒田東彦氏が日銀総裁に
就任したのは2013年3月20日のことであり、異次元金融緩
和を宣言した金融政策決定会合は4月4日のことなのです。つま
り、政策が決定するはるか以前から、株価の上昇は起こっている
と伊東氏は主張しています。
 服部茂幸氏も伊東光晴氏とほぼ同主旨のことを次のように自著
で述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 リフレ派の主張にしたがい、安倍晋三首相がデフレ脱却のため
に日銀による無制限の金融緩和を訴えたのは首相になる前の12
年11月のことだった。直ちに株価上昇と円安が進行した。13
年3月にはリフレ派の黒田東彦が日銀総裁、岩田規久男が日銀副
総裁に就任した。4月にはリフレ派の主張にそって、異次元緩和
が始まった。(中略)皮肉なことに、異次元緩和が始まると、日
本経済は失速した。きっかけは5月23日の株価大暴落である。
その後時期によって多少の違いはあるが、全体的には株価上昇も
円安もストップした。13年後半の経済成長率も低迷している。
 ──服部茂幸著/『アベノミクスの終焉』/岩波新書1495
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/30]

≪画像および関連情報≫
 ●高度成長期の幻想にとらわれる安倍首相/浜 矩子氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「安倍政権の経済政策はアベノミクスではなく、『アホノミ
  クス』です」。浜氏は挑戦的な言葉でこう切り出したうえで
  「問題点は大きく分け3つあります。それは、@『成長』に
  とらわれすぎている点、A人間に対する関心が少ない点、B
  金融政策がお粗末な点です」と指摘した。「成長」にとらわ
  れすぎているとは、いったいどういうことだろうか。浜氏は
  次のように表現する。
  「アベノミクスは、高度成長期の幻想にとらわれすぎている
  のです。今の日本経済の問題は、成長がないことではなく、
  むしろ再分配がうまくいっていないこと。つまり、貧困・格
  差こそが、一番の政治的課題なのです。日本の『相対的貧困
  率』は16%(2009年)ですが、我々のような洗練され
  た経済環境にある国家にとって、この数字は高すぎます。た
  とえばデンマークは6%(2010年)程度です」。ここで
  浜氏が指摘している「相対的貧困率」とは、国内の所得格差
  に注目する指標で、国民の所得中央値の半分以下の所得しか
  ない人の割合だ。OECDによると2010年のOECD平
  均が11・1%、アメリカは17・4%、フランスは7・9
  %となっている。         http://bit.ly/13S9Vx6
  ―――――――――――――――――――――――――――

服部茂幸福井県立大学経済学部教授.jpg
服部 茂幸福井県立大学経済学部教授
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月08日

●「円安/株高は偽薬効果ではないか」(EJ第3949号)

 2012年12月26日に安倍政権が発足してから、少なくと
も2013年5月までは、株価は上昇し、急ピッチに円安が進ん
だことは確かな事実です。
 日本といえばデフレの国と思われていただけに、この日本の円
安/株高の動きは、世界に大きな驚きで受け止められたのです。
英誌「ザ・エコノミスト」は、その5月18日〜23日号の表紙
で、スーパーマンに扮した安倍首相を取り上げ、コミカルな表現
ではあるものの、次のように驚きを表明しています。添付ファイ
ルをご覧ください。
―――――――――――――――――――――――――――――
   Is it a bird ? Is it a plane ? It is JAPAN !
    「鳥か?、飛行機か?、いや・・・日本だ!」
  「彼の計画が半分しか成功しなくても、彼は偉大な首相
   として数えられるだろう」
    「The Economist」/2013年5月18〜24日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 「ザ・エコノミスト」誌だけではないのです。米国の外交専門
誌「フォーリン・アフェアーズ」は、2013年5月16日に安
倍首相のインタビューをウェブサイト上に掲載し、次のように評
価しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 首相復帰当初は、投資家や有識者を心配させた。だが、安倍首
相はすぐに日本経済復興のための野心的なキャンペーンに着手し
た。およそ半年が経って、彼の努力は成果が出つつあるようだ。
             ──「フォーリン・アフェアーズ」
―――――――――――――――――――――――――――――
 米ニューヨーク・タイムズと香港の「サウス・チャイナ・モー
ニング・ポスト」は、やや批判的に次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
◎「ニューヨーク・タイムズ」/5月20日付
 アベノミクスによって多くの日本人は、物価が上がりだしたに
もかかわらず、賃金は下がる一方だと不満を漏らしている。
◎香港のサウス・チャイナ・モーニング・ポスト/5月17日付
 最近は北アジアの隣国との関係は冷え込んでいるが、国際投資
家にとっては、安倍首相はスターだ。いずれにせよ、金融政策だ
けでは日本の問題は解決できない。安倍首相の2本目、3本目の
矢が的に当たらないという心配がある。
―――――――――――――――――――――――――――――
 大胆な金融緩和や財政出動が株価上昇と円安につながった──
これはメディアも伝えているし、アベノミクスの批判者も認めて
いる事実ですが、伊東光晴氏と服部茂幸氏はそれすらもアベノミ
クスとは関係ないといっているのです。
 なぜなら、円安と株価上昇の兆しは安倍政権がはじまる以前か
ら起きており、皮肉なことに黒田氏が日銀総裁に就任して、異次
元緩和をはじめたとたんにそれがストップしているからです。
 それなら、なぜ円安/株価は起きたのでしょうか。
 これについて、服部茂幸氏は「偽薬(プラシーボ)効果」とい
う言葉を使って次のように説明しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 初期の段階での円安と株価上昇の原因も改めて考え直す必要が
あろう。円安は2012年秋から徐々に進行していた。その背景
には、アメリカとヨーロッパの経済情勢の改善という外的要因も
あったといわれている。それでも、12年11月の安倍の発言が
円安と株価上昇を加速させたことは事実である。
 けれども、異次元緩和の効果、特に予想に働きかけるという効
果は、偽薬効果であるという主張がある。偉い医者がよく効く薬
だと偽って、薬でないものを患者に与えても、患者がよく効く薬
だと信じていると、本当に病気が治ることがある。そこまでいか
なくても、症状が改善することがある。これが偽薬効果である。
 ──服部茂幸著/『アベノミクスの終焉』/岩波新書1495
―――――――――――――――――――――――――――――
 この偽薬効果と関連するものに有名な「ケインズの美人投票」
があります。ここでいう美人投票は、一番得票の多い女性を選ん
だ投票者には賞金が与えられることになっています。
 美人かどうかの判断は、本来それぞれ個人の好みで決まります
が、この場合、賞金を勝ち取るためには、自分の好みではなく、
投票者の好みを推測して投票することになります。
 アベノミクスも美人投票と同じなのです。株式や外貨の投機で
利益を得ようとすれば、アベノミクスが経済政策として正しいか
どうかではなく、他の投資家がアベノミクスをどのように捉えて
行動するかを推測して投資判断を決める必要があります。この場
合、本当はアベノミクス自体に効果がなくても、投資家が効果が
あると思い込めば、株価上昇と円安が生ずるのです。このように
アベノミクスの最初の6ヶ月は、偽薬効果であると服部氏はいう
のです。
 このほか、アベノミクスの最初の6ヶ月の成功は、ハネムーン
といってよいほどのさまざまな幸運が重なった結果であると主張
する人がいます。バランスシート不況論の野村総合研究所チーフ
・エコノミストのリチャード・クー氏です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 実際にアベノミクスが2012年の年末に始まってからの最初
の5ヶ月カ月は、ハネムーンと呼べるくらい多くの幸運が重なっ
て日本経済の風景が大きく変わることになった。このハネムーン
は2013年5月には終わったが、まだこの経済政策には多くの
重要な可能性が残されており、それらを活かすことができれば、
日本は本当に20数年来のバランスシート不況とその後遺症から
脱却できると思われる。       ──リチャード・クー著
       『バランスシート不況下の世界経済』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/31]

≪画像および関連情報≫
 ●『アベノミクスの終焉』書評/根井雅弘京大教授
  ―――――――――――――――――――――――――――
  アベノミクスは、ここにきて当初の期待感とは違って、それ
  に対する批判的な論調が目立つようになった。著者は以前か
  らアベノミクスに批判的な言論活動をしてきたが、本書は、
  タイトルに表れているように、それに引導を渡そうとする野
  心作だ。著者は、アベノミクスの三本の矢をひとつずつ総括
  していく。第一の異次元緩和(量的・質的金融緩和)につい
  ては、一時政府や日銀によってその効果(株価上昇と円安)
  が大々的に宣伝されてきた。だが、著者によれば、低迷する
  経済を実際に支えていたのは、政府支出、民間住宅投資、耐
  久財消費であり、しかも政府支出以外は消費税増税前の駆け
  込み需要によるところが大きい。つまり、日銀の異次元緩和
  とは関係がないという。第二の矢、つまり政府支出が確かに
  効果を発揮したことは著者も認める。しかし、財政主導型の
  経済回復が建設業に偏っていては、これから本当に重要な医
  療、福祉、教育の分野での政府支出が犠牲にされている。し
  かも、一部の論者が言うように、異次元緩和が財政ファイナ
  ンスを目的にしていると疑われるならば中長期的には問題に
  なるだろう。第三の矢は成長戦略なのだが、よくいわれると
  ころの「トリクルダウン」(企業の利益増大が賃金上昇に結
  びつく)効果は生じていない。   http://bit.ly/1yvTBA1
  ―――――――――――――――――――――――――――

安倍首相を取り上げた英誌「ザ・エコノミスト」.jpg
安倍首相を取り上げた英誌「ザ・エコノミスト」
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月09日

●「アベノミクスのメカニズムを解明」(EJ第3950号)

 アベノミクスの最初の6ヶ月について、リチャード・クー氏は
「ハネムーンと呼べるくらい多くの幸運が重なった結果」と述べ
ていますが、具体的にはどういうことでしょうか。
 現象的には、日本経済の雰囲気が変わったことです。今まで重
苦しく空を覆っていた雲がなくなり、何となく明るい日ざしが見
えてきたというところでしょうか。これを否定する人はあまりい
ないと思います。民主党政権のときの経済政策があまりにもお粗
末だったからです。
 このハネムーンについて、東京財団上席研究員の原田泰早稲田
大学政治経済学術院教授は次のように表現しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 円が下落し、企業の採算が好転し、株価が上昇している。生産
も増加している。雇用も拡大し、失業率は低下し、有効求人倍率
も上昇している。消費も民間企業設備投資も拡大している。消費
者物価上昇率も1%を超え、日本はデフレから脱却しつつある。
予想物価上昇率も上昇している。ただし、輸出数量は円安にもか
かわらず伸びていない。            ──原田泰著
   『日本を救ったリフレ派経済学』/日本経済新聞出版社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 リチャード・クー氏によると、この円安/株高を演出したのは
日本の投資家ではなく、海外の投資家だったことです。数値とし
ては次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  ◎2012年12月〜2013年10月の期間
   ・外国人投資家 ・・・ 12・2兆円の買い越し
   ・日本人投資家 ・・・  5・3兆円の売り越し
   ・日本金融機関 ・・・  6・5兆円の売り越し
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは何を意味しているのでしょうか。
 ここで海外の投資家というのはニューヨークのヘッジファンド
のことですが、安倍首相のアベノミクスの宣言を聞いて巨額の資
金を日本に持ち込み、円を売って日本株を購入したのです。円安
/株高になるのは当然です。
 しかし、日本経済を熟知している国内の投資家や機関投資家の
大半はそれに乗らず、国内の債券市場にずっととどまっていたの
です。つまり、行動を変えなかったわけです。なぜ、行動を変え
なかったかといえば、彼らは日銀が金融緩和をいくらしてもイン
フレにはならないことを知っていたからです。
 こうした国内投資家たちの行動は、外国投資家たちを利するこ
とになったのです。なぜなら、日本の機関投資家たちが債券市場
にとどまっていてくれたおかげで、長期金利が上がらなかったか
らです。だから、外国人投資家たちは安心して円を売り、日本株
を買うことができたのです。
 しかし、少しずつ雰囲気が変わり始めます。それは国内の個人
投資家が参入してきたからです。そういう気持ちにさせたのは、
ワイドショーにおける経済評論家たちのあおりです。クー氏はこ
れについて次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 テレビのワイドショーでも、もしかしたらインフレになるぞと
いう声が出てきたのである。ウソも100回言えば人は信じると
言った人がいるが、あれだけマスコミがインフレになるかも知れ
ないと言い出すと、人々のマインドももしかしたらという発想に
なってくる。その意味で、アベノミクスのハネムーンで人々のマ
インドが変わるという効果は間違いなくあった。ワイドショー効
果と言うべきか、そういうものは確かにあったのである。これは
日本経済にとって顕著な変化であったと言えよう。
                  ──リチャード・クー著
       『バランスシート不況下の世界経済』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 その当時10年国債の利回りは0・8%です。もし黒田日銀総
裁がいうようにインフレ率が2%になったら、いやなるかもしれ
ないと思ったら、利回りが0・8%しかない10年国債は暴落す
ることになります。2013年4月に黒田東彦氏が日銀総裁に就
任するまでの約3ヶ月の間に国内の機関投資家たちは「もしかす
ると、本当にインフレになるかも」と考えはじめたのです。
 そこに飛び出したのが、黒田日銀総裁の異次元金融緩和発言で
す。このタイミングで国内の投資家たちも一挙に国債の大量売り
を仕掛けたのです。そのため、当時0・3%台まで低下していた
長期金利が一気に1%にまで跳ね上がったのです。
 そうなると、外国人投資家たちも株と為替相場の調整を強いら
れるようになり、円を買って日本株を売る展開になったのです。
そのため、当時「1ドル=103円」まで進んでいた円安が90
円台の円高になり、株も20%程度下落したのです。これが5月
の日経平均の暴落です。
 この5月の日経平均の暴落は、当時のバーナンキ米FRB議長
が2012年9月から導入した金融緩和(QE3)を縮小すると
発言したのが原因といわれていたのですが、それだけが原因では
なく、それまで動かなかった債券市場が反応しはじめたことの影
響が大きかったのです。
 それでは、なぜ、当初日本の機関投資家たちがインフレにはな
らないと判断して債券市場にとどっていたかというと、日本では
日銀がいくら金融緩和して金融機関の日銀当座預金に資金を積み
上げても、企業からの資金需要がなく、マネーストック(マネー
サプライ)は増えないことを知っていたからです。つまり、マネ
タリーベースがいくら増えても、マネーストックは増加しないこ
とを熟知していたからです。
 このことに関しては反論もあります。マネーストックは着実に
増えているという意見があることです。これに関する議論は、来
週のEJで論ずることにします。
            ─── [検証!アベノミクス/32]

≪画像および関連情報≫
 ●日本の機関投資家が動かなかった理由/リチャード・クー氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  現時点で日本の民間が貯蓄しているGDP比8%の貯蓄のか
  なりの部分が金融機関に入ってくるが、これを国内で運用し
  ようとしても民間に借り手がいない。国内で唯一おカネを借
  りているのが財政赤字を出している政府であり、そうなると
  彼らも民間に借り手がいないなかで国債を買うことになる。
  日本の投資家はこのような行動を20年間も強いられてきた
  のである。彼らにしてみれば、日銀が量的緩和を再開して、
  今度はスピードを速めて大胆にやると言ったところで、民間
  に借り手がいなければ、この種の金融緩和はマネーサプライ
  を増やすことができず、またマネーサプライを増やすことが
  できなければ景気が良くなる理由もないことをよく知ってい
  るのである。金融媛和が効くためには、マネーサプライが伸
  びなければいけないが、マネーサプライが伸びるには、お力
  ネを借りる人がいなければいけない。ところが、おカネを借
  りる人がいない日本では、どんなに日銀が量的緩和で流動性
  を供給しても、その資金は銀行から外へ出られず、そこで止
  まってしまうことになる。このように貨幣乗数が限界的にゼ
  ロかマイナスの状態ではマネーサプライは増えない。マネー
  サプライが増えなければ、景気が良くなる理由はないしイン
  フレが加速する理由もない。
            ──リチャード・クー著の前掲書より
  ―――――――――――――――――――――――――――

原田泰著/『日本を救ったリフレ派経済学』.jpg
原田 泰著/『日本を救ったリフレ派経済学』
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月13日

●「アベノミクスの実体経済への影響」(EJ第3951号)

 2013年の実質GDP成長率を四半期ごとにその推移を見て
いきます。添付ファイルをご覧ください。四半期ごとの実質GD
P成長率は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1〜 3月期 ・・・・  5・1%
      4〜 6月期 ・・・・  3・4%
      7〜 9月期 ・・・・  1・8%
     10〜12月期 ・・・・ −0・5%
     ──片岡剛士著/『日本経済はなぜ浮上しないのか/
       アベノミクス第2ステージへの論点』/幻冬舎刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 1〜3月期は5・1%、4〜6月期は3・4%と高率で推移し
ていますが、これに貢献しているのは、民間消費、公共投資、輸
出です。2013年全体の実質GDP成長率は1・5%ですが、
これを支えたのは、年前半の成長率であるといえます。しかし、
これは、日銀の異次元緩和のはじまる前のことです。
 民間消費支出が伸びたのは、家計が保有する金融資産が伸びた
ことが原因です。2013年10〜12月期の金融資産の伸びは
対前年5・9%と高率に伸びているからです。この金融資産残高
の増加に貢献したのは、株式・出資金、投資信託、保険・年金準
備などです。この消費支出の中身について、片岡剛士氏は、自著
で次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 円安や株高は家計が保有する金融資産残高の増加につながり、
それが2013年の民間消費を増加させる原動力となったという
ことです。他方で所得効果による民間消費への寄与は、資産効果
よりも小さいことがわかります。筆者の推計結果によれば、20
13年の民間消費の増加の8割が資産効果に基づくものであり、
残り2割が所得効果によるものです。(中略)
 名目家計消費支出の前年比と世帯主の年齢階級別・所得階層別
消費の寄与度をみると、世帯主の年齢階級別では、40歳以上、
所得階層別では上位20%層(第5分位)が主に消費を増やして
いることがわかります。逆にいえば、世帯主の年齢が39歳未満
の年齢の若い世帯や低所得世帯の消費はあまり増えていないとい
うことです。          ──片岡剛士著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに、伸びた民間消費支出の中身は、円安/株高で資産価
格が上がって儲けた富裕層が、ハンドバッグ、アクセサリー、宝
飾品、高級時計などの奢侈品の消費を伸ばしている──高額消費
額の百貨店の販売高の推移を分析した結果がそうなっています。
このように2013年の消費支出の増加は、幅広い年齢層・所得
階層には及んでいないのです。この層が伸びないと、実体経済が
改善したとはいえないのです。
 さて、企業の設備投資はどのように動いたのでしょうか。
 既に1月5日のEJ第3946号で、予想実質金利は2000
年以降では、最低レベルの水準まで大きく低下していることを確
認しています。そうであれば、設備投資は伸びていなければなら
ないのですが、どうなっているのでしょうか。
 結論からいうならば、設備投資はとても伸びているとは、いえ
ないのです。設備投資は2000年以降、平均60兆円台で低迷
しています。ソフトウェアを除く全産業の四半期ごとの伸び率を
示すと、次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1〜 3月期 ・・・・  0・2%
      4〜 6月期 ・・・・  2・6%
      7〜 9月期 ・・・・ −0・2%
     10〜12月期 ・・・・ −0・3%
                ──片岡剛士著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 本来であれば、予想実質金利の低下や円安/株高は、設備投資
を拡大させる要因なのですが、2013年の設備投資の増加は、
非製造業が中心であって、製造業は伸びていないのです。これが
全産業の設備投資の伸びが低くなっている原因です。
 製造業は、長引くデフレと円高に対応して海外に拠点を移すな
どしてして生き残ってきており、アベノミクスによって急に円安
/株高が進んだからといって、直ちに国内投資の拡大や国内生産
にシフトできないのです。
 まして、企業側はこの円安/株高が、海外投資家の投機で進ん
だという分析をしており、その継続性を疑問視しているので、そ
れも設備投資が思ったより伸びない原因になっています。
 安倍首相はなんとか設備投資を70兆円台に乗せようとしてい
ますが、これはかなり困難な目標です。なぜなら、現在設備投資
を増やしているのは非製造業ですが、これらの企業は内需型なの
で、円安はメリットにならず、大きなコスト増につながってしま
うからです。
 最後に公共投資(公的固定資本形成)です。公共投資は、20
11年および2012年には20兆円台で推移していたのですが
2013年4〜6月期に22兆円、7〜9月期に24兆円と拡大
し、その後も高水準で推移しています。しかし、公共事業の手持
ち工事高は、建設業の供給制約──人手不足ということもあって
次のように増加しています。これも実体経済が思うように改善し
ない原因のひとつにもなっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
     ◎公共事業の手持ち工事高/未消化工事高
       2011年 ・・・・・ 10兆円弱
       2012年 ・・・・・ 11兆円超
       2013年 ・・・・・ 13兆円超
                ──片岡剛士著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/33]

≪画像および関連情報≫
 ●『虚構のアベノミクス』/野口悠紀雄著/書評
  ―――――――――――――――――――――――――――
  民主党政権の時は、日経平均が8000円ぐらいで低迷して
  いた。それが、安倍政権になってから一時は2倍の1万60
  00円間近になっていたのだから、アベノミクスを批判する
  声は、株高にかき消されてしまった。アベノミクスと言って
  も、目新しいのは、黒田日銀総裁による大規模な量的緩和と
  それによって引き起こされてきた円安効果である。円安にな
  ると、円で見る株価は名目で上昇するし、また輸出企業を中
  心に円で見る企業業績も改善するので、これも株高につなが
  る。アベノミクスは、円安バブルと株価バブルを引き起こし
  それによって人々のセンチメントを改善することが狙いだっ
  た。そして、それは概ね上手くいってきたといえる。問題は
  これから実体経済が本当によくなるのかどうかだ。野口悠紀
  雄氏は、昔から、強い円が日本の国益である、という円高論
  者で、規制緩和による構造改革でのみ日本経済を成長させら
  れる、という考えの学者である。その点で、安易な円安誘導
  で、生産性の低い産業を温存させ、産業構造の転換を遅らせ
  るアベノミクスには非常に懐疑的であった。また、アベノミ
  クスが、日銀による国債引き受けで、政府の財政赤字をファ
  イナンスさせるという性質を強く帯びていることから、この
  ことによる財政破綻のリスクに警鐘を鳴らしてきた。
                   http://bit.ly/1zZ9mLc
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/片岡剛士著の前掲書より

実質GDP成長率と各項目の寄与度.jpg
実質GDP成長率と各項目の寄与度
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月14日

●「金融緩和で銀行の貸出は伸びたか」(EJ第3952号)

 「異次元金融緩和政策によって市場に大量のお金が供給されて
いる」とよくいわれます。市中に大量のお金が供給されると、通
貨の量そのものが増えるので、円安になります。円安になると輸
出が増えて株価が上昇し、景気が回復する──これは一般的な景
気回復のロジックですが、アベノミクスは果してこれに当てはま
るのでしょうか。
 2003年3月に黒田東彦氏が日銀総裁に就任して打ち出した
異次元金融緩和政策の中身について考えてみます。それは、日銀
が毎月国債を約7・5兆円購入して、年間でその保有額を80兆
円増加させるというものです。
 日銀が発行する国債は月間約10兆円ですから、その大半を日
銀が買ってしまうということになるので、大変なことです。これ
まで日銀は、残存期間の長い10年物、20年物は価格変動リス
クが高いとして、残存期間が3年未満のものしか、買うことはな
かったのです。
 なぜなら、価格変動リスクの高い国債を買うと、もし価格が下
がるようなことがあると、日銀は不良債権をかかえることになり
円の信用が失われ、金融不安が起きる危険があるからです。しか
し、月に7・5兆円も買うと、残存期間の長い国債も買わざるを
得なくなるのです。実際に日銀はそういう国債も買い続けていま
す。そういう意味でまさに異次元金融緩和であるといえます。
 日銀が国債の保有を増やすというのは、その代金分のお金を市
場に流すことを意味しています。しかし、直接市場に流すのでは
なく、各金融機関が日銀に設けている当座預金に振り込みをする
のです。金融機関がこのお金を引き出して企業などに貸し出して
使ったとき、はじめて市場にお金が流れることになります。
 このようにして、各金融機関の日銀当座預金口座に積み上がっ
たお金の総合計を「マネタリーベース」といいます。マネタリー
ベースは、「ベース・マネー」や「ハイ・パワード・マネー」と
も呼ばれます。つまり、日銀が直接コントロールできるのはこの
「マネタリーベース」だけなのです。日銀当座預金は、民間金融
機関が日銀や他の金融機関、あるいは国と取引するさいの決済な
どに使われます。
 これに対してその日銀当座預金のお金が銀行によって引き出さ
れ、企業などに貸し付けられると、そのお金は、市中に流通する
マネーの総量の一部になります。これを「マネーストック」と呼
ぶのです。この呼び方は日本独自であり、多くの国では「マネー
サプライ」と呼んでいますし、日本でも2008年6月まではマ
ネーサプライと呼んでいたのです。
 なぜ名称を変更したのかというと、ゆうちょ銀行(2007年
10月に業務開始)が国内銀行として扱われるようになったこと
や、金融商品が多様化したことが原因といわれています。それに
しても世界中で使われている用語を日本独自に変更してしまうこ
とは混乱の原因になります。念のため、マネーストックの定義を
示しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 マネーストックは、日本銀行を含む金融機関全体から、経済全
体にお金がどの程度供給されているかを見るのに利用される指標
で、民間部門(金融機関と中央政府を除く、一般法人、個人、地
方公共団体)の保有する通貨量残高を集計したものです。
          ──金融用語辞典 http://bit.ly/1xaRif2
―――――――――――――――――――――――――――――
 日銀当座預金についてもうひとつ覚えておくべきことがありま
す。日銀当座預金に民間金融機関は、最低限預け入れなければな
らない金額があります。これを「法定準備預金」といいます。こ
の法定準備預金を超えるお金は「超過準備」と呼ばれますが、こ
の超過準備には現在「0・1%」の利息が付くのです。このこと
を覚えておく必要があります。
 さて、ここでもう一度冒頭の「異次元金融緩和政策によって市
場に大量のお金が供給されている」に戻って考えてみることにし
ます。確かに日銀の異次元金融緩和によって、市場に供給される
お金の量は巨額になります。
 そのお金は金融機関の日銀当座預金に積み上げられますが、果
してどの程度の額が銀行によって引き出され、企業などへ貸し出
されているでしょうか。異次元金融緩和によって、マネタリーベ
ースは劇的に増えるものの、多くはそこにブタ積みされるだけで
マネーストックになっていないのではないかと疑う識者も多くい
るのです。
 片岡剛士氏はこれに反論します。彼はマネーストックは増加し
銀行貸出はちゃんと増えていると主張しています。これについて
は、添付ファイルをご覧ください。
 このグラフは、「マネーストック統計」に基づいて作られてい
ます。この統計は、流動性──資産の交換しやすさの度合いに応
じて、次の3つの指標に分けて公表されています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.広義流動性 ・・・ 最も流動性の低い資産を含む指標
 2.M3    ・・・ 1に続き流動性が低い資産を含む
 3.銀行貸出  ・・・  最も流動性の高い現金の伸び率
―――――――――――――――――――――――――――――
 一口にマネーといってもいろいろあります。M3というのは、
現金通貨と預金通貨、それに準通貨のCDを含む概念です。この
M3に金銭信託、投資信託、金融債、銀行発行普通社債などを含
むものが広義流動性という指標です。なお、銀行貸出は銀行だけ
ではなく、信用金庫を含みます。
 広義流動性の伸び率は4・3%であり、1997年以来の高さ
です。M3の3・4%は2002年以来の高さ、銀行貸出につい
ても、2009年7月以来の高さになっています。いずれにして
も安倍政権発足直後の2013年になってから、マネーは大きく
動き出していることは確かです。
            ─── [検証!アベノミクス/34]

≪画像および関連情報≫
 ●「銀行の貸出が増加している」/「ニュースの教科書」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  全国銀行協会は、2013年4月9日、3月末の全国銀行預
  金・貸出金速報を発表した。全国の銀行117行の貸出残高
  は前年同月比2・4%増、前月比1・7%増の436兆14
  84億円だった。伸び率は前月より0・1%拡大しており、
  2009年7月以来の高さとなった。市場関係者は、アベノ
  ミクスの成果がどの程度、実体経済に反映されているのかに
  ついて強く意識しており、銀行の貸出残高や小売店の販売動
  向などに注目している。今回の貸出残高の増加は確かに従来
  よりも大きな伸びとなっているが、アベノミクスの効果が表
  れたと判断するにはまだ少々早い。意外なことだが、銀行の
  貸出残高は2012年の前半からかなりのペースで伸びてき
  ている。伸び率に加速がついてきている面はあるが、このト
  レンドは今に始まったことではないのだ。銀行の貸出が昨年
  から伸びてきたのは、個人向け住宅ローンを銀行が強化した
  ことと、自治体向けの融資が増えていることが主な原因であ
  る。住宅ローンについては、消費税の増税前に住宅を購入し
  てしまおうという層が増えていることや、低金利が背景とな
  っており、いわば官が作りだした需用といえる。自治体向け
  の融資は、国からの借金を民間に振り替える制度による特需
  という面が大きく、こちらも官製需要である。
                   http://bit.ly/1B1X6xO
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフの出典/片岡剛士著/『日本経済はなぜ浮上しないの
  か/アベノミクス第2ステージへの論点』/幻冬舎刊

マネーストックと銀行貸出の推移.jpg
マネーストックと銀行貸出の推移
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月15日

●「金融緩和と銀行貸出は関係するか」(EJ第3953号)

 異次元金融緩和のはじまる前の2013年3月31日時点の日
銀の貸借対照表と2014年11月10日の貸借対照表を比較す
ると、次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎2013年 3月31日時点
  資産合計/164兆8127億円
    国債/125兆3556億円
  当座預金/ 58兆1289億円 http://bit.ly/1y3AdLb
 ◎2014年11月10日時点
  資産合計/286兆9553億円
    国債/241兆3801億円
  当座預金/165兆5647億円 http://bit.ly/1BWZEez
―――――――――――――――――――――――――――――
 資産合計の数値を大きく押し上げているのは国債の増加です。
約116兆円も増えています。日銀の進める異次元金融緩和政策
によって、マネタリーベースを2年で2倍にするといっているの
ですから、国債の残高が増えているのは当然です。
 一方、日銀当座預金は約107兆円増えています。日銀にとっ
て当座預金は負債になります。国債を買い取った代金として金融
機関が日銀に対して持っている当座預金に振り込んだ結果です。
 この数字を見ると、日銀が民間金融機関から国債を買い取り、
当座預金残高を増やすことで、マネタリーベースを膨らませてい
ることが鮮明に読み取れます。
 実は、黒田総裁が就任する前の日銀には、「日銀ルール」とい
う暗黙のルールがあったのです。それは次の2つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.保有国債の量は日銀券発券残高を超えないこと
   2.残存機関3年未満の国債しか買い取らないこと
―――――――――――――――――――――――――――――
 これらのルールは、今回の異次元金融緩和によって、一時的に
停止されていることになります。そこまでして、日銀が金融緩和
をする目的は、市場に流通するお金の量を増やし、経済を活性化
させるためです。そのためには、マネーストックが増えなければ
ならないのです。
 昨日のEJにおいて、異次元金融緩和政策のはじまる前よりも
マネーストックは明らかに増えています。しかし、この程度の増
え方では増えたことにはならないと主張する経済学者がいます。
一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏です。野口教授は最新刊の著書
において次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日銀が国債を大量に買い上げるため、日銀当座預金が増え、マ
ネタリーベースは増える。しかし、そこで止まってしまい、貸出
しが増えるという動きが生じていない。このため、マネーストッ
クはほとんど増えない。つまり、金融緩和政策は「空回り」して
いるわけである。(中略)ところでこの結果は意外なものではな
い。あらかじめ予測されていたことだ。日本では01年から量的
緩和政策が実行されており、十分なデータが蓄積されている。そ
のデータは、マネタリーベースが大きく増加したにもかかわらず
マネーストックはほとんど増えず、量的緩和政策が実体経済に影
響しないことを、はっきりと示しているのだ。
          ──野口悠紀元雄著/日本経済新聞出版社
       『金融政策の死/金利で見る世界と日本の経済』
―――――――――――――――――――――――――――――
 野口教授は、このことを自著で2つのグラフによって説明して
います。その2つのグラフを添付ファイルにしてあります。添付
ファイルをご覧ください。
 上のグラフは、マネタリーベースとマネーストックを対前年比
で比較したものです。これを見ると、マネタリーベースは突出し
て増えていますが、これに比べると、マネーストックはほとんど
影響を受けていないことがわかります。
 これに対して下のグラフは、スケールを変えてマネーストック
の伸びを見たグラフです。ここで、「M2」と「M3」について
簡単に説明します。
 マネーストックは、現金通貨と各種の銀行預金とを組み合わせ
て、M1、M2、M3と呼んでいます。銀行預金には、顧客の申
し出があれば即座に支払う「要求払い預金」と、一定期間銀行に
預けておいて金利を稼ぐ「定期性預金」があります。
 「M1」は、現金通貨と「要求払い預金」を組み合わせたもの
です。「M2」は、M1に定期性預金を加えたものです。ただし
ゆうちょ銀行はここから除かれるのです。
 「M3」は、M2にゆうちょ銀行が加わり、それにCD(譲渡
性預金)を加えたものです。CDというのは、途中で売買できる
預金証書のことです。
 これに加えて、M3に金銭信託、投資信託、金融債、銀行発行
普通社債、金融機関発行のCP、国債、外債を加えて「広義流動
性」と呼ぶことは、昨日のEJで述べています。なお、M3の金
融機関には、M3に国内銀行信託勘定、中央政府、保険会社など
が加わるのです。
 マネタリーベースとマネーストックの関係について、野口教授
は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 マネーストックの増加は、マネタリーベースの動向に左右され
るよりも、むしろ実体経済の動きに左右されていることを示唆す
る。13年以降マネーストックの伸びが高まったのは、実体経済
において公共事業と住宅駆込み需要によって需要が増加したこと
による。13年末に高まったのは、駆込み需要がピークになった
からであり、その後に伸び率が落ちたのは、駆込み需要が消滅し
たからと解釈できる。    ──野口悠紀元雄著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/35]

≪画像および関連情報≫
 ●銀行貸出が順調に増加/ザ・リバティー・ウェブ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  大手銀行の貸出しが順調に増えている。2013年4月1日
  付日本経済新聞によると、大手銀行の国内貸出残高は、3ヵ
  月連続で前年同月を上回り、198兆円となった。同紙の分
  析では、企業のM&A(合併・買収)が盛んになり、その資金
  が必要となったことと、アベノミクスの影響で円安になって
  輸入代金の必要額が増していることにあるという。今後、こ
  の流れが一時的なものにとどまるか、あるいは本格的な景気
  回復につながるかは、企業が設備投資をするために銀行から
  の借り入れを増やす流れができるかどうかにかかっている。
  金融緩和政策のキモは、巷間言われるような円高対策やデフ
  レ対策の側面もあるが、最も重要なのは、資金繰りに苦しん
  でいる企業にお金が行きわたるかどうかにある。
                   http://bit.ly/1DznDVB
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/野口悠紀元雄著の前掲書より

マネタリーベースとマネーストックの伸び率.jpg
マネタリーベースとマネーストックの伸び率
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(1) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月16日

●「日銀はマネタリー・シャーマンだ」(EJ第3954号)

 加藤出(いずる)氏という人がいます。東短リサーチという会
社の取締役です。短資会社というのは、金融機関相互間で資金の
運用や決済を行う市場(銀行間取引市場/コール市場)において
主として1年未満の短期的な資金の貸借またはその媒介を業とし
て行う会社です。東短リサーチは、東短グループの調査・研究部
門を担う独立したシンクタンクです。
 加藤出氏は、『日銀、出口なし!』という近著において、日銀
の金融緩和政策について、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日銀は、中央銀行がマネタリーベースを増やすと、通貨安にな
る、インフレになる、株が上がる、と誤解している人がいるなら
その誤解を利用してしまおう、という戦略をとっている。世界で
もっともアグレッシブなマネタリー・シャーマンは日本銀行だ。
        ──加藤出著『日銀、出口なし!』/朝日新書
―――――――――――――――――――――――――――――
 「日銀はマネタリー・シャーマンである」とはよくもいったり
です。シャーマンとは、トランス状態に入って超自然的存在(霊
神霊、精霊、死霊など)と交信する現象を起こすとされる職能・
人物のことです。つまり、日銀の異次元緩和政策は「偽薬効果」
でしかないし、おまじないのようなものであるというのです。
 これに近いことを服部茂幸福井県立大学経済学部教授も次のよ
うにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「雨乞いは雨を必ず降らせることができる」というジョークが
ある。「なぜならば、雨が降るまで続けるからだ」。これを異次
元緩和に置き換えると、「異次元緩和は必ず日本経済を復活させ
ることができる。なぜならば、日本経済が復活するまで続けるか
らだ」となる。
 ──服部茂幸著/『アベノミクスの終焉』/岩波新書1495
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、国民の多くはアベノミクスを信じています。なぜなら
何をするにも危なっかしく、稚拙な政権運営を展開した民主党政
権の重苦しい3年間の雰囲気を吹き飛ばすような現象が安倍政権
になって起きたからです。
 その点、安倍首相は2度目の首相就任であり、何事についても
慣れています。その点が民主党の政権運営と際立った違いを見せ
つけたことは確かです。安倍政権の方が安定感があるのです。
 それに、経済政策について、消費税増税以外ほとんど何もでき
なかった民主党に比べて、安倍氏の首相就任とほぼ同時に起きた
円安と株高の急速な進行によって、株価が久しぶりに1万円台に
乗ったときは、何かが変わるという変化を実感した国民は多かっ
たと思うのです。
 ところが、アベノミクスは何も効いていないという専門家の意
見も少なくないのです。それでも誰でも認めるのは、安倍政権発
足後約半年間の経済の好調さです。実際に2013年第1・四半
期の経済成長率は年率で5・1%、第2・四半期は3・4%でき
わめて高い成長率です。
 しかし、安倍政権が誕生したのは2012年12月であり、異
次元緩和が始まるのは2013年4月であり、2013年前半の
経済の高成長は、異次元緩和の成果ではあり得ないのです。これ
について、服部教授は次のことを指摘します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 そもそも景気動向指数によると、日本の景気の谷は12年11
月(暫定)である。経済の回復は、安倍政権の誕生とほぼ同時期
に始まっている。経済の回復期には、一時的に高い成長率がでる
ことがある。13年前半の高成長は景気回復期の一時的なものだ
とみなすべきである。
 皮肉にも、異次元緩和が始まると、経済成長率は低迷する。第
3・四半期の経済成長率は年率で1%、第4・四半期にはほとん
どゼロである。14年第1・四半期の成長率は6%と極めて高い
が、消費増税前の駆け込み需要によるところが大きい。
                ──服部茂幸著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 服部教授は、安倍政権のスタート時期が景気回復期と重なって
いるというのです。それに危ないといわれていた欧州が何とか持
ち直したということで、2012年の秋頃から、景気は少しよく
なってきていたのです。
 関連する数値を検証することにします。添付ファイルをご覧く
ださい。このグラフは、実質GDPとその各項目を示したもので
す。アベノミクスが始まった12年度4・四半期の数値を100
とする指数です。耐久財消費、民間住宅投資は右目盛り、他は左
目盛りです。
 耐久財消費と民間住宅投資は自民党の麻生政権時代の2009
年から急増していますが、これは、エコカー減税やエコ・ポイン
トなどの政策によるものと考えられます。アベノミクスが始まる
と、再び耐久財消費と民間住宅投資は急増していますが、これは
2014年4月の消費税増税の駆け込み需要と無関係ではないと
思われます。
 政府支出も急増していますが、これは第2の矢の効果であり、
異次元緩和とは無関係です。耐久財消費、民間住宅投資、政府支
出を合計すると、GDPの4割を占めているのです。アベノミク
スの経済成長を支えたのは、間違いなくこの部分です。
 それ以外の6割の部分は「その他」として表示されています。
この6割部分は、GDPと連動して増減していますが、アベノミ
クスが始まると連動しなくなっています。そして、2013年前
半はわずかに増加したものの後半は減少しています。2014年
第1・四半期はわずかに増加していますが、これは消費税増税の
駆け込み需要の結果と考えられます。つまり、2013年後半を
支えたのは、政府支出、耐久財消費、民間住宅投資の3つなので
す。          ─── [検証!アベノミクス/36]

≪画像および関連情報≫
 ●アベノミクス効果とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  アベノミクス信者は、株価が上がるとどんな要因でそうなっ
  たのかも全く検証&言及せずに、ひたすら呪文のように「ア
  ベノミクス効果だ!韓国経済大打撃!韓国破綻!」と騒ぎ立
  てますが、株価が急落すると「外国経済が原因だ!アベノミ
  クスとは関係ないぞ!」と言うのが一種のおまじないのよう
  なものに成っていますが、冷静になって現実を見ませんか?
  信者さん。もともとアベノミクスの本質は知らず知らず国民
  の資産を収奪するためのものです。アベノミクスはほとんど
  の国民に恩恵はありませんよ。素晴らしいと言っている人は
  おそらく特殊事情で自分だけ得をするから事実を捏造してい
  る人です。あるいは国民の資産収奪政策であることがわから
  ないのです。情勢を考えられる人なら防衛策を考えますが、
  そうでない人は資産を失い茹でガエルになります。アベノミ
  クスが素晴らしい政策であるためには、以下の3条件が必要
  です。@日本の国債を買っているのが日本の金融機関ではな
  く外国人投資家だった場合、A日本国民の個人金融資産が株
  などが大半で預金が少ない場合、B増税を一切しないと明言
  した場合、アベノミクスのインフレ政策は金融政策で市場に
  銀行券を流すことです。このようなインフレで得をするのは
  金を借りている人、損をするのは貸している人です。(もし
  借金が変わらずいきなり物価が2倍になれば金を借りている
  人の借金は半分になったも同然なのはお判りでしょう)。
                   http://bit.ly/1INyEkh
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/ ──服部茂幸著の前掲書より

実質GDPとその各項目jpg.jpg
実質GDPとその各項目
posted by 平野 浩 at 02:10| Comment(0) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月19日

●「バーナンキの金融政策は正しいか」(EJ第3955号)

 服部茂幸福井県立大学経済学部教授は、宮沢喜一元首相とバー
ナンキ前FRB議長について、次のように興味深いことを語って
います。
 1990年代のはじめ、バブルが崩壊したとき、日本の銀行は
不良債権を抱えることになることを誰よりも早く気づいたのは宮
沢喜一氏です。しかし、彼はその解決に失敗します。こういう人
を世間では、「経済的センスは一流だが、政治的センスは三流で
ある」と評するのです。
 危機にいち早く気づくのは凡人には理解できない先見性がある
からです。しかし、こういう先見性のある指導者は、それが理解
できない凡人のあいだで孤立し、解決に失敗するものなのです。
 これに対して、バーナンキ元FRB議長は、米国の住宅バブル
の最中に、その住宅バブルも、そのなかで返済できない負債の存
在も否定し、認めようとはしなかったのです。しかも、バブルが
崩壊しても一切認めず、不況は認めながらも、あくまで一時的現
象であることを繰り返し強調したのです。経済の世界では、どの
ようにでもいい逃れが出来るからです。こういう指導者は経済的
センスは三流であるが、政治的センスは一流というのです。
 2008年8月下旬のことです。世界銀行元総裁のジェームズ
・オルフェンソンは、その日、カンザス・シティ連邦準備銀行主
催のシンポジウムの出席者を夕食会に招待したのです。この夕食
会は、後に「オルフェンソンの夕食会」として歴史に名が残るこ
とになります。
 その夕食会でバーナンキ議長(当時)は、「また大恐慌が起き
ると思うか。それとも日本のように失われた10年になるだろう
か」と出席者に問いかけています。リーマン・ショックについて
書いた自著のなかで、アンドリュー・ロス・ソーキン氏は、これ
について、次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに対する招待客の一致した見解は、おそらくアメリカ経済
は日本のように長期的な不況に陥るというものだった。しかし、
バーナンキはどちらのシナリオもありえないと発言して、まわり
を驚かせた。「われわれは、世界大恐慌と日本から充分学んでい
る。どちらも起きません」と彼は断言した。
 ──アンドリュー・ロス・ソーキン著「リーマン・ショック・
    コンフィデンシャル」(上)/加賀山貞朗訳/早川書房
 ──服部茂幸著/『アベノミクスの終焉』/岩波新書1495
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、それから一ヶ月もたたないうちにリーマン・ブラザー
ズは破綻します。破綻の翌日の2008年9月16日、FRBの
金融政策会合が開かれたのですが、政策金利はそのまま据え置か
れたのです。バーナンキ議長をはじめ、FRBの関係者は一時的
に不況になるが、翌年の前半から回復すると発表しています。
 ここでなぜバーナンキ前FRB議長のことを取り上げるのかと
いうと、彼がリフレ派であるといってよいかどうかはわからない
が、リフレ政策を容認する経済学者であることは明らかです。実
際に彼はアベノミクスを支持すると明言しています。
 しかし、リーマン・ショックによって米国経済は大恐慌にはな
らなかったものの、FRBとしては、それが世界金融恐慌に発展
するとは予測していなかったし、その深刻さをまるで理解してい
なかったのです。だが、何らかの言い訳を発表せざるを得ないと
ころに追い込まれたのです。これについて、服部福井県立大学教
授は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 金融危機後、住宅バブルの原因は、FRB元議長グリーンスパ
ンの過剰な金融緩和と金融の規制緩和にあるという批判が広がっ
た。バーナンキに対する批判もある。しかし、グリーンスパンも
バーナンキも、金融緩和がバブルを引き起こしたことを認めてい
ない。代わりに世界的な貯蓄過剰(とウォール街の過剰な投機)
にその責任を帰した。
 それは次のような理屈である。貯蓄過剰とは、その国が稼ぐ所
得よりも支出が小さいということである。差額の資金があまるこ
とになる。このあまった資金がアメリカや一部のヨーロッパに流
入し、住宅バブルを生み出したのである。貯蓄が過剰な国とは、
日本、中国などの東アジア諸国や、ロシア、サウジアラビアなど
の産油国、ドイツである。責任を外国に押しつけることによって
自らの責任を回避しているのである。
 ──服部茂幸著/『アベノミクスの終焉』/岩波新書1495
―――――――――――――――――――――――――――――
 起こらないといってしまったことが起こってしまった場合、人
は多くの場合、それが人知を超えるもの、想定外の事態であると
して、責任を回避しようとします。東日本大震災のとき量産され
たのが、この想定外です。
 米国も、グリーン・スパン元FRB議長が2008年10月に
米下院の監視・政府改革委員会の公聴会において、次の発言をし
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 米国は、100年に1度の信用の津波に見舞われており、消
 費と雇用への影響は避けられない。  ──グリーンスパン
―――――――――――――――――――――――――――――
 「100年に1度の信用の津波」という表現は、「想定外」と
同じです。予期せぬ大地震や大津波が地震学の敗北ではないよう
に、金融危機が起きることは、経済学の敗北ではないという理屈
なのです。
 逆に金融危機が起きても大恐慌のような事態を引き起こすこと
を防いだのは、バーナンキの政策が優れていたからである──と
いうようにして、明らかな失敗が成功に置き換えられてしまうの
です。自然現象の津波が起きたことは人間の責任ではないでしょ
う。しかし、その津波の被害を少なくすることは人間の努力でや
れるのです。      ─── [検証!アベノミクス/37]

≪画像および関連情報≫
 ●書評/「リーマン・ショック・コンフィデンシャル」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  リーマン・ブラザーズ倒産からほぼ2年を経た。金融経済危
  機はいまだ完全には終息していないものの、そのおおよその
  姿は判明してきている。危機の原因は、米国政府の中低所得
  者層向け住宅ローン促進策が経済的合理性を欠いた住宅ロー
  ンを急成長させた一方、長引いた金融緩和環境の下で規律の
  低下した世界中の金融機関が、関連金融商品を大量に組成し
  また自らも自己資本規制等を巧妙に逃れる形でそれらを大量
  に保有したことである。危機は2008年3月のベアー・ス
  ターンズ破綻(はたん)で深刻化し、同年秋にクライマック
  スを迎えた。本書は、この約半年間に危機の渦中にあった金
  融機関経営者、危機対応を迫られた政策担当者の一挙一動を
  ニューヨーク・タイムズのトップ記者が、彼らに対する詳細
  なインタビューに基づいて克明に記録したものである。技術
  的になりがちな金融危機というテーマを扱って、推理小説を
  読ませるような迫真の出来栄えに仕上げている。本書の中心
  は、この時期にリーマンがどのように追い込まれていったか
  であるが、最後の最後に英国政府の出方次第では、同社の倒
  産は避けられたかもしれないこと、一方で破綻不可避と見ら
  れたAIGが救済されていった経緯、またメリル、モルガン
  ・スタンレー等が破綻寸前で、ぎりぎりの生き残り策を画策
  した様子などが、よくここまで聞き出せたと思われるくらい
  に詳細に語られる。        http://bit.ly/15mmbaj
  ―――――――――――――――――――――――――――

アンドリュー・ロス・ソーキンの本.jpg
アンドリュー・ロス・ソーキンの本
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月20日

●「円安株高はアベノミクスと無関係」(EJ第3956号)

 アベノミクスは「政治的レトリック」ではなかったかという人
がいます。そもそも経済政策というものはそういう曖昧なもので
あるといえなくもないのです。
 ある経済政策が正しかったかどうかを検証するには、政策が行
われた場合と行われなかった場合の差を比較しなければならない
のですが、シミュレーションならともかく、実際にそういう比較
はできないのです。
 そういう経済政策の曖昧さについて、服部茂幸教授は次のよう
に述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 例えば、日本の経済成長率がゼロだったとしても、異次元緩和
が行われなかった場合、成長率がマイナス3%になっていたとす
れば、異次元緩和は成長率を3%引き上げたことになる。逆に4
%という高い成長率であつても、異次元緩和が行われなくても4
%の成長率だったならば、政策効果はゼロである。しかし、異次
元緩和が行われなかったら、日本経済がどうなっていたかは正確
には誰にも分からない。そのため、政策評価は曖昧なものとなら
ざるを得ない。    ──服部茂幸著『アベノミクスの終焉』
                     岩波新書1495
―――――――――――――――――――――――――――――
 服部茂幸教授は、安倍政権と日銀は、アベノミクスで「ある物
語」を作ろうとしているといっています。それは、民主党政権の
3年間で低迷している日本経済を安倍政権が目の醒めるような大
胆な経済政策を実行して、かつての経済成長華やかなりし頃の日
本を取り戻すという「物語」です。
 まず、政権発足前の安倍晋三自民党総裁が「日本経済を再生す
るために無制限の金融緩和を行うべきである」と主張します。そ
うすると、直ちに円安と株価上昇がはじまったのです。これに呼
応して、安倍氏周辺の政治家や経済学者が「市場はアベノミクス
を支持している」と訴えたのです。
 しかし、安倍政権が発足し、黒田日銀総裁が異次元金融緩和を
実施したとたん株式市場の大暴落が起きたのです。安倍総裁が無
制限の金融緩和を訴えたとき市場がそれを支持したという論法に
したがえば、2013年5月の株価大暴落は「市場はアベノミク
スを拒否した」ことになります。
 しかし、安倍首相周辺の政治家や経済学者は「株は上がったり
下がったりするもの。株価には一喜一憂すべきではない」という
のです。その代わり「有効求人倍率は順調に上昇しているじゃな
いか」とデータを示して反論します。つまり、悪いデータは無視
し、良いデータを示して反論しているのです。
 それでは、アベノミクスが安倍政権発足後に起きている円安/
株高の原因でないとしたら、何によってその現象が起きたのでし
ようか。アベノミクス懐疑派の論説をまとめると、次のようにな
るのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.12年秋以降の円安は、ユーロ危機により買われていた円
   が危機が去るにつれて売られたことと、海外投資家による
   円安投機によるものである。
 2.異次元緩和が始まる前の経済成長は、主として政府支出の
   増加(第2の矢)による効果が中心で、一部に消費税増税
   による駆け込み需要がある。
 3.異次元金融緩和が始まると、円安が止まり円高に振れ、株
   価が下がり、経済成長率は低迷する。消費者物価の上昇も
   輸入インフレが原因である。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これから1つずつ実証していくことにしますが、まず、「1」
について考えます。
 添付ファイルをご覧ください。このグラフは、イタリア10年
国債利回りと円/ドルレート関係を示したものです。これらの2
つは強く相関しています。
 このグラフの作成者である野口悠紀雄氏は、グラフについて次
のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 イタリア10年国債の利回りは、11年11月から12年1月
までは、7%を超える水準だった。しかし、12年1月初めから
急低下し、3月には一時5%を割り込んだ。これと並行して円安
が進展した。この時の円安は一時的なものにすぎなかったのだが
イタリア国債の利回りはその後再び上昇し、7月には6・3%に
なった。これに対応して円高が進展した。しかし、イタリア国債
の利回りはこの後はほぼ下落を続け、13年1月には4・1%に
なった。この過程と急激な円安の進行がほぼ一致している。
          ──野口悠紀元雄著/日本経済新聞出版社
       『金融政策の死/金利で見る世界と日本の経済』
―――――――――――――――――――――――――――――
 このグラフが示している重要なポイントは、円安が進行した時
期と、イタリア国債の利回りが低下した時期が一致していること
です。つまり、ユーロ危機が深刻になると、安全資産である円が
買われ、円高になりますが、危機が去るにつれて資金は引き上げ
られ、円安になるのです。
 2012年は秋から円安になっていますが、イタリア国債の利
回りの低下は10月中旬から生じています。つまり、その頃から
ユーロ危機は遠ざかり、安全資産の円にシフトしていた資金は引
き上げられ、円安になり、それは加速しつつあったのです。これ
は、安倍晋三氏が自民党総裁になり、「無期限金融緩和」を宣言
する前からの傾向であり、安倍晋三氏によるアベノミクス宣言と
は何ら関係はない──これが野口悠紀雄氏の考えです。
 これを機に、「ユーロ崩壊」に賭けていたニューヨークのヘッ
ジファンドを中心とする海外投資家の資金が、日本に流れ込み、
円安投機を仕掛け、日本は円安/株高が進むことになるのです。
これが「1」です。   ─── [検証!アベノミクス/38]

≪画像および関連情報≫
 ●欧州債務危機と円高/羽田 亨教授
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2011年11月21日のニューヨーク外国為替市場で円相
  場が一時1ドル=75円78銭をつけ2ヶ月ぶりに戦後最高
  値を更新したのに続き、その翌週には連日最高値を更新して
  31日のオセアニア市場で一時1ドル=75円32銭まで上
  昇しました。対ユーロでも円高が続いています。31日の政
  府・日銀の市場介入により東京市場で円は一時、79円台半
  ばまで急落したが、円高圧力は依然として強く日本の景気や
  企業業績への悪影響が心配されています。円高の要因のひと
  つに欧州の債務危機があり、安全な資産とされる円に資金が
  流れ込んでいることがその背景にあります。欧州債務危機は
  2009年に発生したギリシャ財政危機に端を発しているの
  です。2009年10月にギリシャでは政権交代があり、新
  政権が2009年の財政赤字は対GDP比で12・7%に達
  すると発表したことで、前政権が財政赤字をかなり低く見積
  もっていたことが明らかになりました。市場では、ギリシャ
  の財政破綻懸念とこの粉飾疑惑から、ギリシャ国債の大量の
  売りが発生して国債価格が暴落しました。
                   http://bit.ly/1yycDmP
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/──野口悠紀元雄著の前掲書より

イタリア10年国債利回りと円/レートの相関.jpg
イタリア10年国債利回りと円/レートの相関
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月21日

●「なぜ12年から株価が上昇したか」(EJ第3957号)

 アベノミクス懐疑派の論説を紹介し、検討しています。3つの
まとめのうち、「3」を再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 3.異次元金融緩和が始まると、円安が止まり円高に振れ、株
   価が下がり、経済成長率は低迷する。消費者物価の上昇も
   輸入インフレが原因である。
―――――――――――――――――――――――――――――
 異次元金融緩和がはじまったとたん円安が止まり、株価が下落
したのですから、この事実からみると、それにアベノミクスが関
わっていないことは明らかです。
 しかし、株価は2012年11月13日の日経平均8661円
から上昇に転じ、2013年5月7日には1万4180円になり
リーマンショック前のレベルに達しています。伊東光晴京都大学
名誉教授は、円安も株高も、アベノミクスには何の関係もないと
いっています。それなら、株価はなぜ上昇したのでしょうか。
 伊東教授は、これを明らかにするには、日本の株式市場の特異
性について知る必要があるというのです。伊東教授は、日本の株
式市場には次の2つのグループがあるといいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.株式をほとんど売買しないグループ
     2.株式の売買を頻繁に行なうグループ
―――――――――――――――――――――――――――――
 「株式をほとんど売買しないグループ」とは、事業会社、都市
銀行、地方銀行などです。これに対して「株式の売買を頻繁に行
なうグループ」とは、海外投資家──それも非居住者の海外ファ
ンド、個人投資家、生命保険会社、損害保険会社、投資信託など
が該当します。2の株式保有比率は、次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1. 海外投資家 ・・・・ 25%
      2. 個人投資家 ・・・・ 20%
      3.生損保・投信 ・・・・ 10%
―――――――――――――――――――――――――――――
 海外投資家の背後には、投資ファンドがあり、1日にもの凄い
回数の売買を繰り返すのです。いうまでもなく彼らの狙いは日本
への投資ではなく、利益を出して儲けることです。したがって、
一定の投資基準を示して、資金を複数の運用会社にまかせ、業績
を上げようと虎視眈々と狙っているのです。
 伊東教授によると、2012年10月になると、海外投資家と
日本の投資家とは、投資のやり方に際立った違いが出てきている
ことを指摘して次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2012年10月から海外の投資家の行動が変わる。それまで
(2012年4月から9月)売り越しであったものが、一転、買
い越しに変わる。10月、1585億円の買い越し。解散以前に
すでに外国人筋の買い越しの動きが始まっている。11月、49
75億円の買い越し。したがって11月13日からの株価上昇は
政権交代と何の関係もない動きから始まっている。
 他方、個人株主、生損保、信託銀行、投資信託は、いずれも売
り越しである。したがって11月13日からの株価上昇は外国人
筋の買い以外の何ものでもない。
     ◎海外投資家買い越し
      12月 ・・・ 1兆5448億円
       1月 ・・・ 1兆2379億円
       2月 ・・・   8542億円
       3月 ・・・ 1兆8553億円
 他方、個人は、1、2、3月と売り越し。生損保も投資信託も
同じく売り越しである。こうして基本的には外国人の買いが4月
まで続き、その他の人は売り越していく。その動きが5月に株価
が1万5000円を超えてから、乱高下へと変わっていく。当然
である。                  ──伊東光晴著
      『アベノミクス批判/4本の矢を折る』/岩波書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 海外投資家は日本株を買い越し、日本の投資家は逆に売り越し
ている──これは、リチャード・クー氏も同じことを指摘してい
ます。彼らは、「ユーロは崩壊する」という前提で勝負に出てい
たのですが、ドラギECB総裁の「必要なら何でもやる」のひと
言によって、崩壊が回避される状況になってきたのです。
 その結果、海外投資家が目をつけたのは日本なのです。リチャ
ード・クー氏は安倍総裁の「インフレ目標の設定」と「無制限金
融緩和」発言を聞いて、ターゲットがユーロから日本になったと
いっていますが、伊東教授は、海外投資家の日本シフトは、安倍
氏が自民党総裁になる前にはじまっており、安倍総裁の発言に触
発されたわけではないと分析しているのです。そこがクー氏とは
違うのです。クー氏も「物語」を作っているように思えます。
 現在日本で起きている株高は、明らかに海外投資家によって起
こされています。彼らは儲けるために株を買っているので、外部
条件が少しでも動くとすぐ売買を仕掛けるので、株式相場が非常
に不安定になっています。彼らの狙い通りです。これについて、
伊東教授は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 もちろん海外投資家は、日本株を所有するとはいえ、企業経営
を行おうなどとは、つゆほども思ってはいない。だから上場され
ている回転寿司の会社までもが購入対象となっているのである。
(中略)安倍内閣の「大胆な金融緩和」と株式市場の活況とを直
結する人は多い。だが株価上昇への力は、民主党が衆議院で多数
を占め、解散の声が起きる以前に動き出したのである。新聞が書
き、当事者たちが自負する安倍政権とは何の因果関係もない。
                ──伊東光晴著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/39]

≪画像および関連情報≫
 ●「安倍・黒田は何もしていない」/鈍想愚感
  ―――――――――――――――――――――――――――
  岩波書店の雑誌「世界」8月号で、伊東光晴京都大学名誉教
  授が「安倍・黒田氏は何もしていない」と題してアベノミク
  スの実態を理論的に解き明かしている。円安にしろ、株高に
  しろ、たまたま時期が一致しただけで、アベノミクスによる
  ものでもなんでもない、と喝破している。アベノミクスに対
  する世間の評価は高く、来たる参院選でも自公の圧勝に終わ
  る、とされているが、一部のマスコミはアベノミクスなるも
  のに鋭い矢を放っている。伊東論文はその最たるもので、経
  済学の重鎮である伊東教授のご託宣は重みがある、といって
  いいだろう。伊東論文ではトヨタ自動車の2013年3月期
  決算で、営業利益が1兆3288億円となったことをあげ、
  その内訳は販売増が49%にあたる6500億円、コスト削
  減が34%の4500億円、そして円安効果はわずか11%
  の1500億円である、と分析し、利益の大半は自己努力に
  よるもので、アベノミクスとはほとんど関係ない、としてい
  る。そして注目すべきは豊田社長が決算発表時に「日本の国
  内市場は縮小している」と語ったことと指摘している。利益
  に一番貢献している販売増は実は海外市場からもたらされた
  ものである、ということが今後の日本経済の動向に大きく関
  わってくる。国内市場の縮小は通貨政策ではいかんともしよ
  うのないものである、としているのである。
                   http://bit.ly/1sVFd2a
  ―――――――――――――――――――――――――――

伊東光晴京都大学名誉教授.jpg
 
伊東 光晴京都大学名誉教授
posted by 平野 浩 at 03:09| Comment(0) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月22日

●「円安の原因は為替介入によるもの」(EJ第3958号)

 円とスイスフランは「安全資産」といわれます。しかし、日本
には1000兆円を超える借金があり、財政面の不安があるはず
です。それなのになぜ安全資産といわれるのでしょうか。
 それは、日本が相場に影響を与えるリスクが最も少ない国であ
るからです。相場に一番影響を与えるのは戦争です。政権交代に
もリスクがあります。
 世界の国々を見ると、平和な国というのはあまりないのです。
日本では戦争はまず起こらないし、政情も安定しているため、突
然のクーデターやテロで相場が暴落するなどという危険性はほと
んどない国なのです。そういうわけで、海外の通貨と経済に強い
不安材料が出た場合は円が安全資産として買われ、そのため、円
高となる傾向がよくあるのです。
 通貨であれば、スイスフランも安全資産として有名です。しか
し、円はスイスフランに比べて流動性が高く、すぐに換金できる
ため、いつでも好きなときに退避させたり、元に戻すのに便利で
あり、安全資産として選ばれることが多いのです。
 スイスフランといえば、現在「スイス・ショック」というもの
が起きています。スイスでは2001年9月から、「1ユーロ=
1・2スイスフラン」を上限と定め、このラインを超えそうにな
ると、即座に介入を行い、1・2スイスフランになるまで無制限
に続けることで有名です。
 しかし、1月15日にスイスは、対ユーロでのこの無制限介入
を突然やめると宣言し、証券業界に大ショックを与えたのです。
これによってスイスフランは急騰しています。これはギリシャの
ユーロ離脱などEUの情勢不安が背景にあると思われます。
 いわゆるアベノミクスが関係ないとすれば、円安はどうして起
こったのでしょうか。
 2012年11月13日時点で「1ユーロ=100円」だった
のです。ユーロ圏の銀行経営の不安定や複数国の財政危機によっ
て、ユーロに滞留していた大量の資金が安全資産である円に流れ
円の国際的価値を異常に高めたのです。
 それが5ヶ月後の2013年4月10日になると、「1ユーロ
=130円」の円安になっています。
 対ドルで見てみます。同じ2012年11月13日、「1ドル
=79円」だったものが、2013年5月3日、「1ドル=99
円」になり、円は20%以上安くなっています。問題は、なぜそ
うなったのかです。
 海外投資家は、どのようにして日本株を買っているのでしょう
か。彼らはドルなりユーロなりを持ち込んで円にし、10倍から
20倍の株式購入に充てています。外資系銀行はそういう海外投
資家に対して円資金を用意しています。
 つまり、株式投資の下では、円買いが行われているのです。こ
ういう動きのなかでは、円売りの動きはなく、円安になるはずが
ないのです。伊東光晴京都大学名誉教授は、こういう状況で考え
られることは為替介入が行われていると指摘しています。これは
伊東教授以外、他の誰も指摘していない新事実です。
 かつての為替介入は、一切公表されなかったのですが、これま
でにわかっている有名な介入に次の2つがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.榊原介入       4兆9589億円
   1995年2月17日〜1995年9月22日まで
 2.溝口/テイラー介入 32兆8694億円
   2003年5月 8日〜2004年3月16日まで
―――――――――――――――――――――――――――――
 「榊原介入」は、その名の通り、榊原英資氏が国際金融局長時
代に行っています。そのとき、榊原氏の下にいたのが、現日銀総
裁の黒田東彦氏なのです。本来為替介入は財務官がやるのですが
榊原氏の場合は国際金融局長のときにやっています。
 榊原氏は「ミスター円」と呼ばれ、1997年に財務官に昇進
しています。その2年後に黒田東彦氏が後任の財務官になってい
ます。黒田氏は為替介入の専門家なのです。
 「溝口/テイラー介入」は、黒田氏の後任の財務官、溝口善兵
衛氏と時の米ジョン・B・テイラー財務次官との合意の下で行わ
れています。ちなみに溝口財務官は「ミスタードル」と呼ばれて
いるのです。
 「溝口/テイラー介入」でわかることは、日本の為替介入は少
なくとも米国の何らかの合意がないとやれないということです。
したがって、今回(2012年〜13年)為替介入が行われたと
いうことは、「溝口/テイラー介入」のときと同じような条件が
生じて、米国が容認せざるを得なかったものと思われます。
 為替介入は、外国為替資金特別会計で政府短期証券を発行して
円資金を調達します。この円で外貨を買うのです。榊原介入では
「円売りドル買い」であり、溝口・テイラー介入の場合は「ドル
・ユーロ買い円売り」なのです。
 長期国債の発行額は毎年の予算で決まっており、国会の決定事
項です。しかし、政府短期証券は国会の議を経ないで臨機応変に
財務官の判断で行うことができます。
 為替介入は、われわれが考えている以上に頻繁に行われている
ようです。1991年以降の介入に関しては、財務省の「外国為
替平衡操作の実施状況」を見ればわかります。
 これによると、円高が一定以上進行すると、必ず介入している
ことがわかります。日銀が量的金融緩和をしているときも介入は
行われます。財務省関連の論文に「量的緩和時期の外為介入」と
いうのがあり、財務省は介入の効果についていろいろ研究を行っ
ているのです。
 民主党政権下においても介入は頻繁に行われています。「外国
為替平衡操作の実施状況」によると、8回行われており、その額
は16兆4320億円になっています。しかし、その効果はほと
んどなかったのです。為替介入については、明日のEJでも継続
して検討します。    ─── [検証!アベノミクス/40]

≪画像および関連情報≫
 ●「円安進行なら市場介入も」/藤井裕久元財務相
  ―――――――――――――――――――――――――――
  民主党顧問の藤井裕久元財務相(82)は、円安がさらに進行
  すれば政府・日本銀行などが円買い介入に踏み切る選択肢も
  あるとの認識を示した。日銀が大規模な金融緩和を行ってい
  ることで結果的に円安をもたらす政策は「間違い」とも指摘
  した。2014年10年1日のブルームバーグ・ニュースの
  インタビューで語った。藤井氏は1ドル=110円台をつけ
  るなど円安は日本銀行による質的・量的緩和で金融の「ばら
  まき」が行われているのが原因と指摘。このまま進行した場
  合は「言いにくいけど誰かが介入する」と述べ、通貨当局に
  よる円買い介入の選択肢も「あり得る」と語った。東京外国
  為替市場では1日、円が一時6年1カ月ぶりとなる1ドル=
  110円台に下落した。日銀の黒田東彦総裁はドル円相場が
  109円台に乗せた9月19日、20カ国・地域(G20)
  財務相・中央銀行総裁会議が開かれていたオーストラリアの
  ケアンズで、「今の動き自体について何か大きな問題がある
  ように思っていない」と記者団に述べた。藤井氏は円安進行
  による国民生活への影響について、「これからはマイナスだ
  け」と言明。エネルギーや食品の価格が上昇していくとして
  「それがいいとはとても思えない」と語った。2日午前の円
  相場は1ドル=109円を挟む展開。
                   http://bit.ly/1yHU5AM
  ―――――――――――――――――――――――――――

榊原英資氏と溝口善兵衛氏.jpg
榊原 英資氏と溝口 善兵衛氏
posted by 平野 浩 at 02:52| Comment(0) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月23日

●「時期をずらした実質的な為替介入」(EJ第3959号)

 2012年末から2013年の春にかけての円安は、何らかの
為替介入が行われた結果である──伊東光晴京都大学名誉教授は
そのように指摘しています。
 しかし、財務省の「外国為替平衡操作の実施状況」で調べると
2012年から2013年5月までは「介入ゼロ」になっている
のです。為替介入には、政府短期証券の発行が前提になりますが
この期間において外国為替特別会計で政府短期証券は発行されて
いないのです。
 伊東教授は、専門家にしかわからない複雑にして特殊な介入を
金融機関を使って行っているとして、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 外為特別会計で短期証券を発行し、これによって得た円資金を
もとに先物の円を売り(これをショートという)、同時に、同じ
ショートの円を買う。これと、この円資金で買えるドルの先物の
売り買いを組み合わせる。期間がくると、それぞれを相殺すると
同時に、再び同じことを繰り返し1年数か月たって、ショートの
取引をやめ、ロングの取引──つまり、円を売ってドルを買う。
こうして、2011年に調達した円資金を2012年末以降にず
らして使い、形式上と実質上の介入を分けたのである。
                      ──伊東光晴著
      『アベノミクス批判/4本の矢を折る』/岩波書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに、ある時点で為替介入を行うために発行した政府短期
証券をそのときは実質的には使わず、形式的介入にとどめ、時期
をずらして2012年末に使ったのではないかということです。
こういう手法に関しては、伊東教授自身、最近になってわかった
ことがあるとして次のようにコメントしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ある投資銀行の人から、形式的介入の時期と実質的介入の時期
をずらすのは他でも行われていることと、投資銀行は、直接では
なく、さらに金融機関を使ってこれを行っているということが寄
せられた。           ──伊東光晴著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 2012年末から2013年春にかけての財務省によって行わ
れたとみられる為替介入は、かつての溝口/テイラー介入のとき
のように、米国の合意があったとみられるのです。実際に当時の
バーナンキFRB議長は、アベノミクスについて質問されたとき
「安倍首相の3本の矢のアプローチを支持する」と発言し、次の
ように述べています。2013年6月20日のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 デフレは長年にわたり日本の問題であり、日銀は極めて困難か
つ定着したデフレと戦っている。デフレ見通しを打ち破り、イン
フレ率を日銀が定めた2%の水準まで上昇させるには非常に積極
的な政策が必要だ。だからこそ非常に難しく、積極的でなければ
ならない。積極的な政策の初期段階においては、投資家がまだ日
銀の反応関数を学んでいるため、ボラティリティーが生じても格
段予想外ではない。また日本国債市場は、例えば米国債市場と比
べて流動性が低いこともある。    http://huff.to/1uvZ8Wo
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、財務省は円安を狙って円を売り、ドルを買うのです
が、そのドルはほとんどの場合、米国の長短期の国債に換えられ
るのです。これは米国政府にとっては歓迎すべきことであり、そ
のために日本の為替介入に暗黙の合意を与えたことは十分考えら
れることです。
 とくにバーナンキ前議長は、空前の規模の量的金融緩和──Q
E1、QE2、QE3まで行っていましたが、このとき自らの退
任を決めていたのです。辞めるときは「飛ぶ鳥跡を濁さず」で、
自分の庭はきれいにしておきたかったと思われます。これに関し
て伊東教授は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アメリカの中央銀行(連邦準備制度理事会)総裁バーナンキは
2014年春に退任を予定していた。もちろんマネタリストであ
るバーナンキは日本にならって不況対策として通貨供給量の増加
を実施してきた。2013年は期限を決めず、月850億ドル、
約83兆円の国債などの資産を買い入れている(『毎日新聞』2
003年6月7日夕刊)。その結果買い入れた国債が累積する。
これを退任前に減少させたいと思っている。財政当局とて同じで
ある。この間まで、中国がこれを買ってくれていた。いま日本が
これを買うのであれば、アメリカの望むところである。日本の円
高是正のための円売りドル買いがアメリカ国債購入となるならば
アメリカも日本の為替介入を黙認してゆくことになる。溝口テイ
ラー介入時と同じである。もちろんこの円高是正の介入は現財務
官が行うのであって、黒田氏とは何の関係もない。
                ──伊東光晴著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 何のことはない。伊東教授の主張によると、安倍首相、黒田日
銀総裁によるアベノミクス/異次元金融緩和政策は、彼らが自画
自賛するのとはまるで異なり、株価上昇や円安には何も関係はな
いということになります。おまけに、米国FRBの出口戦略に日
本は利用されていることになります。
 そもそも金融政策は、例えば行き過ぎたインフレにブレーキを
かけて止め、正常化させることはできても、銀行貸出を増加させ
て、マネーストックを増やし景気を上昇させるような、こちらか
らプッシュする政策には不向きなのです。
 これは「紐のたとえ」といって、犬のリードを引いて犬の動き
を止めるように、紐を引くことは意義がありますが、紐を押して
も何もできないのです。伊東教授は、安倍/黒田両氏は、紐を押
しているに過ぎないといっているのです。強烈なアベノミクス批
判です。リフレ派の経済学者は、これに対してどのように反論す
るのでしょうか。    ─── [検証!アベノミクス/41]

≪画像および関連情報≫
 ●「聞きかじりだから安倍首相は嘘をつく」/伊東教授直撃
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ――世間ではさまざまな専門家がアベノミクスを評価してい
    ますが。
  伊東/エコノミストは理論を知らない。経済学者は現実を知
    らない。そんなのが新聞社で御用を務めている。理論も
    現実も知っている日本人はいない。
  ――アベノミクスには異次元緩和という第1の矢、国土強靭
    化を大義にした財政出動という第2の矢、成長戦略とい
    う第3の矢があるわけですが、全部ダメ?
  伊東/これに戦後の政治体制の改変という第4の矢が隠され
    ている。アベノミクスはすべてを壊そうとしています。
  ――まず、第1の矢ですが。
  伊東/本質的には日銀の国債引き受けです。それをやらない
    と、予算が組めない。これ以上国債を出すと、国債金利
    が上がってしまうからです。金利が1%上がれば予算編
    成ができなくなる。財務省の役人のクビが飛んじゃう。
    そこで言うことを聞く人物を日銀総裁にしたのです。
  ――異次元緩和で投資や消費が増えるもくろみでしたが、う
    まくいっていませんね。
  伊東/根拠なき政策効果への期待です。日銀の岩田規久男副
    総裁は異次元緩和をすると、人々は物価が上がるだろう
    と考え、設備投資が増加し、景気浮揚の力が働くとして
    いますが、人々の期待は多様なのです。物価が上がれば
    生活が困ると考え、生活を切り詰める人もいるかもしれ
    ない。金利が低くなったところで設備投資をするかとい
    うと、過去に経済企画庁の企業行動調査は否定的な調査
    結果を出しています。     http://bit.ly/1vleBYc
  ―――――――――――――――――――――――――――

ベン・バーナンキ前FRB議長.jpg
ベン・バーナンキ前FRB議長
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月26日

●「量的金融緩和を支える経済学理論」(EJ第3960号)

 1月22日の理事会で、遂に欧州中銀(ECB)も量的金融緩
和に踏み切ると発表しています。ECBの指揮下で、各国の中銀
が今年の3月から国債を含めて毎月600億ユーロ(約8兆円)
の資産を買い取り、市場に資金を供給するのです。当面2016
年9月まで続けると声明をしています。その結果、ECBのバラ
ンスシートは現在の2兆ユーロから3兆ユーロに拡大することに
なります。
 いうまでもなく量的金融緩和とは、政策金利を引き下げる余地
がなくなったときの緩和政策のことをいいます。今まででもEU
では何度か導入議論されたのですが、ドイツやオランダが「財政
赤字の穴埋めになりかねない」として猛反対したことにより、実
現にいたらなかったのです。
 ところで、中央銀行が金融機関などが所有する国債などを買い
上げ、市場に資金を供給することがどのようにして物価の上昇や
景気回復につながるのでしょうか。
 これに関しては、いわゆるリフレ派の経済学者の本を読み漁り
調べてみたのですが、どうしても納得がいかないのです。これに
ついて、検証していくことにします。
 リフレ派の主張を裏付けているものに「ワルラスの法則」とい
うのがあります。ここでワルラスというのは、スイスのローザン
ヌ・アカデミー(後のローザンヌ大学)で経済学の教鞭を執ったフ
ランス生まれの経済学者であるレオン・ワルラスのことで、ヨー
ゼフ・シュンペーターによって次のように称賛された優れた業績
を持つ経済学者です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 すべての経済学者の中でレオン・ワルラスは最も偉大である
              ──ヨーゼフ・シュンペーター
―――――――――――――――――――――――――――――
 このワルラスの法則は、経済学部に在籍する学生が、早い機会
に学ぶ経済学の重要な法則です。この法則は、いくつかの市場の
同時均衡についてのルールです。一応その法則自体を紹介してお
くことにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 たとえば、2つの市場、A、Bだけが存在するという簡単な設
定を考えよう。一方の財の市場において「超過需要」が生じてい
る時にはもう一方の財の市場において「超過供給」が必ず生じて
いる。ワルラスは、「超過需要」や「超過供給」が生じたままの
状態で経済取引が実行されることはなく、経済取引はまず、相対
価格の調整によって需給が2つの市場で同時に均衡してから行わ
れるものと考えた。相対価格の調整がなされ品不足、売れ余りが
同時に解消した後に、初めて経済取引が実行されることになる。
                   http://bit.ly/1BZMIZg
―――――――――――――――――――――――――――――
 これだけを読んでも非常にわかりにくいと思われます。一言で
いうと、次のようにまとめられます。
―――――――――――――――――――――――――――――
  全ての財の総供給の価値額=全ての財の総需要の価値額
―――――――――――――――――――――――――――――
 若田部政治経済学術院教授は、ワルラスの法則によると「経済
は全体から見ると、閉じている仕組みである」といっています。
ここでは、貨幣を1つの財、財・サービスを1つの財と考えて、
式を書き直します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 財・サービスの総供給+貨幣の総供給=
           財・サービスの総需要+貨幣の総需要
              ↓
 財・サービスの総供給−財・サービスの総需要=
               貨幣の総需要−貨幣の総供給
―――――――――――――――――――――――――――――
 左辺と右辺がゼロになるというのがワルラスの法則です。この
場合、左辺は「需給ギャップ」として捉えることができます。需
給ギャップがあるということは、貨幣の総需要が貨幣の総供給を
上回っていることになり、この場合は、財・サービスの価値は下
がることになります。デフレ状態がまさにそれです。デフレとい
う現象は、貨幣に対する需要が、供給よりも大きい場合に起こる
のです。
 若田部教授によると、こういう事態に対する対策としては次の
3つの方法があるというのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.      自然の調整にまかせる。
     2.財・サービスの総需要を増加させる。
     3.    貨幣の総供給を増加させる。
           ──若田部昌澄著/日本経済新聞出版社
        『解剖/アベノミクス/日本経済復活の論点』
―――――――――――――――――――――――――――――
 ワルラス自身は「1」が正解としているのです。デフレが起き
ると、いずれは需給は調整されると考えています。物価が下がる
と、実質的な資産価値が上がって消費が増えるので、総需要は増
えると考えます。しかし、この考え方は大恐慌が起きて、現在で
は採用されていないのです。
 「2」は、財政政策によって政府が直接需要を増やすという考
え方です。しかし、変動相場制の世界に移行したことにより、そ
の効果は小さくなっています。
 そこで需給ギャップが生じたときは「3」の金融政策によって
中央銀行が貨幣の総供給の増加策をとる方法が正解とされている
のです。貨幣の総供給を増やすと貨幣の価値が下がり、財・サー
ビスの価値が上がります。これがインフレ効果です。これは、現
代の貨幣数量論の基本的な考え方になっています。量的金融緩和
を支える経済学理論はこれだといわれています。
            ─── [検証!アベノミクス/42]

≪画像および関連情報≫
 ●レオン・ワルラス「一般均衡理論」について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1870年代に誕生した新しい経済学の考え方、今日の用語
  法でいえば新古典派の経済理論をもっとも整合的な形で展開
  し、現在にいたるまでもっとも基礎的な理論の枠組みを提供
  しているのは、レオン・ワルラスの一般均衡理論である。
  (宇沢弘文著『経済学の考え方』/岩波新書)ということで
  今日はタイトルの通り、ワルラスの「一般均衡理論」につい
  て。「一般均衡理論」を説明する前に、まずは「均衡論」と
  は何か?を整理してみます。右上がりの供給曲線と右下がり
  の需要曲線。交差した点で価格と量が決まる。高校の政治経
  済の授業でも習ったような気がしますが、経済学と言えば、
  たぶん多くの人はこれを思い出すのではないでしょうか?そ
  してこの需要と供給による価格決定論が「均衡論」です。競
  争市場では、需要と供給が一致することにより市場価格と取
  引数量が決定される。以下で示す需要・供給分析は、ある財
  (物品)・サービスの市場に注目した分析となるため、部分
  均衡分析と呼ばれる。(すべての市場を同時に分析するもの
  を一般均衡分析と呼び、対照的に扱われる)。この有名な需
  要と供給による価格決定のお話は、ある一つの財での価格を
  説明する際に使われるものです。これは「一般均衡理論」と
  分ける意味で「部分均衡理論」とも呼ばれ、ミクロ経済学の
  の基本中の基本になるわけです。  http://bit.ly/1yY0R5k
  ―――――――――――――――――――――――――――

若田部昌澄早稲田大学政治経済学術院教授.jpg
若田部 昌澄早稲田大学政治経済学術院教授
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月27日

●「『流動性の罠』について検証する」(EJ第3961号)

 昨日のEJで取り上げたワルラスの法則の式の部分に誤りがあ
りました。読者からご指摘がありましたので、お詫びして、次の
通り修正させていただきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 財・サービスの総供給−財・サービスの「総供給」=
               貨幣の総需要−貨幣の総供給
 上記の式の「総供給」のところは「総需要」です。したがっ
て正しい式は次のようになります。
 財・サービスの総供給−財・サービスの総需要=
               貨幣の総需要−貨幣の総供給
―――――――――――――――――――――――――――――
 リフレ派の経済学者の主張をご紹介していきます。「マネーを
増やす」といっても通常の金融政策では、名目金利を下げて対応
するのですが、名目金利がゼロになってしまうと、それより下に
下げることができなくなります。
 ここに出てきたのが「流動性の罠」という考え方です。これに
は次の2つの考え方があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.元来ケインズ経済学で主張されているもの
    2.クルーグマンの論文で主張されているもの
―――――――――――――――――――――――――――――
 「1」では、名目金利がゼロになると、金融政策は無効になり
財政政策に頼るしか方法がなくなると考えます。現在でもこの考
え方に立つ人経済学者は多いのです。
 「2」はポール・クルーグマン米プリンストン大学教授の19
98年の論文では「1」とはかなり考え方が異なるのです。これ
について、若田部教授は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 クルーグマンは、2つの利子率を区別します。1つは自然利子
率とでもいうべきもので、資本の期待収益率と考えられます。あ
るいはマネーを財・サービスの購入に振り向けるときの見返りと
考えられます。それに対して、資本のコストが実質利子率です。
ここで何らかの理由で自然利子率が非常に低くなったとしましょ
う。クルーグマンの想定は、日本経済の少子化などの構造的要因
ですが、別のところでは金融危機などで一時的に下がる状態でも
よいとしています。こうなるとマネーへの超過需要が起こり、デ
フレになります。   ──若田部昌澄著/日本経済新聞出版社
        『解剖/アベノミクス/日本経済復活の論点』
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、経済がデフレに陥って名目金利がゼロになると、いく
ら金融緩和をしても景気に対しては効果がなくなります。しかし
やみくもに財政政策をうっても事態は改善しないのです。
 通常であれば金利が低下すると、お金が借りやすくなり、民間
投資が増えるものです。しかし、それがあまり低くなりすぎると
投資資金の需要に対する供給の弾力性が無限大になってしまうの
です。そうなると、中央銀行がお金の供給をいくら増やしても、
投資意欲を刺激することはできなくなるのです。
 クルーグマン教授は、こういう流動性の罠──ゼロ・ローワー
バウンドになったとき、それから脱却する方法として、次のよう
な方法を提案しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 そこで中央銀行が非伝統的な経済政策、すなわちインフレ期待
を高め、実質金利をマイナスにすれば「流動性の罠」から脱却で
きる。インフレ目標やマイナス金利の導入に現実味がないという
なら、期待インフレ率を高めるため、減税などの財政政策と、ゼ
ロ金利などの金融緩和を組み合わせた政策を打ち出すことが有効
である。            ──ボール・クルーグマン著
              山形浩生監修・解説/大野和基訳
  『そして日本経済が世界の希望になる』/PHP新書887
―――――――――――――――――――――――――――――
 この本でクルーグマン教授は、安倍首相が「非日本人的決断力
を持つ宰相」であるとして激賞しています。「2%のインフレ目
標」を掲げてデフレ脱却に乗り出しているからです。その決断力
こそが、多くの人々の「期待」を変えるといっているのです。し
かし、増税は論外であるとして反対しています。
 具体的なインフレ目標を掲げるだけでなく、さらにインフレ予
想をさらに醸成するために、補助手段として財政政策を第2の矢
としてやっている──これはきわめて有効な策であるといってい
るのです。
 実はリフレ派の経済学理論である貨幣数量理論は、すこぶる評
判の悪い学説のようです。とくに政府寄りの論述を張る吉川洋東
京大学教授などはその筆頭です。嘉悦大学教授の高橋洋一氏など
は、貨幣数量理論の話をすると、「まだそんな理論を信じている
のか」といわれることも多々あるようです。こと経済に関しては
東京大学の教授は少なくとも私は信用しておりません。
 ノーベル賞のノーベル経済学賞──実はこの賞は、受賞式など
は他のノーベル賞と同じように行われますが、アルフレッド・ノ
ーベルの遺贈したものではなく、スウェーデン国立銀行が設立し
た賞であることをご存知だったでしょうか。この賞の正式名称は
次のようにいうのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞
―――――――――――――――――――――――――――――
 なぜこの賞が設立されたかというと、1931年にスウェーデ
ンを襲った経済危機に対して、敢然とインフレ目標を導入し、大
恐慌からいち早く抜け出すことに成功した中央銀行だからです。
時の総裁は、ステファン・イングブス氏です。そのとき、総裁が
何をやったのかについては明日のEJで説明します。それは貨幣
数量理論に基づいていたのです。
            ─── [検証!アベノミクス/43]

≪画像および関連情報≫
 ●日本のガラパゴス経済学を解剖する/吉松崇氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「生産年齢人口の減少が不況とデフレの原因」(日本総研の
  藻谷浩介氏)、「名目賃金の下落がデフレの原因」(吉川洋
  東大教授)、「お金が究極の欲望の対象となる成熟社会では
  金融緩和は効果を持たない」(小野善康大阪大学教授)。私
  の見るところ、黒田日銀の大胆な金融緩和を批判する言説の
  中で、これは日本特有のものだと思われるのは、以上の3つ
  である。このほかにも、大胆な金融緩和を批判する言説には
  実物的景気循環論(リアルビジネスサイクル仮説)に立脚し
  て、金融緩和で名目変数を動かせても実質変数は動かせない
  つまりデフレがインフレになっても実体経済に影響を与えな
  いとの主張があるが、これは日本特有の言説とはいえない。
  もともとこの学派は、エドワード・プレスコット、ロバート
  ・ルーカスといった1970〜80年代にアメリカ経済学会
  を席巻した合理的期待形成学派の流れを汲む人々である。少
  なくともアメリカでは、1990年代半ばから2008年の
  リーマン・ショックまでの、多くの人々が未曾有のマクロ経
  済安定が永遠に続く!と考えた、いわゆる大中庸の時代には
  この学派はアカデミズムでも政策形成の場でも大きな影響力
  を持っていた。ところが、そもそも実物的景気循環論のモデ
  ルに従えば、金融市場は合理的・効率的なものと想定されて
  おり、実体経済(リアルビジネス)に対して中立的である筈
  だった。             http://bit.ly/1D8eWhA
  ―――――――――――――――――――――――――――

ポール・クルーグマンプリンストン大学教授.jpg
ポール・クルーグマンプリンストン大学教授
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月28日

●「貨幣数量式理論では説明できない」(EJ第3962号)

 スウェーデン国立銀行のステファン・イングブス総裁は、次の
貨幣数量式が頭にあり、1931年の大恐慌のさい、消費者物価
指数年率2%プラスマイナス1%のインフレ目標を導入し、国を
危機から救ったのです。マネーと物価の関係についてよくわかっ
ていた中央銀行総裁だったからできたことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    M(貨幣ストック)×V(流通速度)
           =P(価格)×Y(取引量)
―――――――――――――――――――――――――――――
 この式は何を意味しているのでしょうか。式を次のように書き
直して考えてみます。
―――――――――――――――――――――――――――――
          V=(P×Y)÷M
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、あるGDPを生み出すのに、貨幣が何回転しているか
を示しています。経済危機が起きると、経済活動が不活発になり
Vは小さくなります。
 取引は、貨幣が仲介しています。たとえば、Pが100円の商
品を10個(Y)取引すると、取引額(PY)は1000円とな
ります。ここに貨幣が500円玉1枚(M)しかなかったとする
と、この500円が2回(V)使われると、うまく取引できるこ
とになります。
 フィッシャーの交換方程式(MV=PY)は、「500円玉1
枚×2回=100円×10個」となり、「ある期間中に取引に使
われる貨幣流通量」と「財貨の取引額」とが等しいことを表して
います。
 この同じ貨幣数量式について、経済学者の野口悠紀雄氏は同じ
式を示して次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    マネーストック×流通速度=物価水準×取引量
 「流通速度」とは、「一定期間内において、貨幣が取引のため
に用いられた回数」と解釈することができる。この逆数を「マー
シャルのk」と呼ぶこともある。マネーストックが増えれば、物
価水準の上昇か、取引量の増加(あるいは両方)が起きるという
ものだ。しかし、実際はそうならなかった。
          ──野口悠紀元雄著/日本経済新聞出版社
       『金融政策の死/金利で見る世界と日本の経済』
―――――――――――――――――――――――――――――
 野口氏が「実際はそうならなかった」といっているのは、次の
ような理由からです。右辺の代理変数として「名目GDP」をと
ります。そうすると、式は次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
      マネーストック×流通速度=名目GDP
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本のリーマンショック前の名目GDPは500兆円〜510
兆円の範囲です。しかし、リーマンショックによって、470兆
円程度にまで落ち込み、2013年7〜9月期までは、年換算で
480兆円未満の状態が続いたのです。
 ところがM2(マネーストック)は、2008年8月の737
兆円から2014年8月の875兆円まで、伸び率約2%で上昇
しているのです。つまり、この場合、式の「流通速度」が低下し
てしまっているのです。
 これによって、野口教授は、貨幣数量説が経済分析に使えるの
は、流通速度が一定である場合だけであって、変化してしまった
のでは使えない。したがって、貨幣数量説に依拠して量的緩和措
置を支持する人はいないといいます。
 ワルラスの法則にしても、この貨幣数量理論にしても、中央銀
行が金融緩和をすることによってなぜ景気を押し上げるのか、今
ひとつわからないのです。経済学の理論はどうもまわりくどくて
曖昧なことが多く、スッキリとしないのです。とくにリフレ派の
経済学というのは、反対意見の持つ学者が多く、双方の意見を聞
いていると、明確な結論を出せなくなってしまいます。
 ここで、根本的な疑問にメスを入れることにします。日銀によ
る金融緩和によって市中に多くのマネーが流れるのであれば、そ
れは間違いなく景気に影響することはわかります。
 日銀は戦後の一定時期に「日銀窓口指導」をやっていたことが
あります。これは、昨年のテーマ「新自由主義の正体」のところ
で詳しく述べています。要するに、日銀の窓口指導とは、各金融
機関に貸出先を確保させたうえで資金を提供する方式で、これな
ら確実に資金は市中に流通します。景気に影響するのは当たり前
のことです。つまり、マネタリーベースはそのままマネーストッ
クにつながることになるわけです。
 日銀が金融緩和でいくらマネタリーベースを増やしても、それ
は日銀当座預金に資金が積み上がるものの、金融機関がそれを引
き出して企業などへの貸出に回さなければ、お金は日銀当座預金
に積み上がるだけで、市中には流れないのです。それを防ぐひと
つの提言として、高橋洋一氏は次のようにも述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私は「日銀が量的緩和をしないならば、政府が政府通貨を発行
してもいい」という政策提言を行なった。これに対して、不謹慎
な話だと批判をいただいた。もちろん、今の制度で政府にも通貨
の発行権はあるから、現行法の枠内でも可能な話だ。シニョレッ
ジ(通貨発行益)によって、量的緩和をすれば、必ず物価が上が
ることを言いたかっただけだ。政府通貨なら、シニョレッジがそ
のまま財政収入になって、物価を押し上げることを想像するのは
容易だからだ。長い目でみれば、政府通貨も日銀券も同じ経済効
果になるので、政府通貨の発行も日銀券が増刷される量的緩和も
効果は同じはずだ。          http://bit.ly/1Bimhsr
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/44]

≪画像および関連情報≫
 ●マネタリーベースを増やせば物価は上がるか
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2014年7月2日に日銀は6月のマネタリーベースを発表
  した。マネタリーベースとは日本銀行が供給する通貨のこと
  であり、市中に出回っているお金である流通現金(日銀券発
  行高と貨幣流通高)と日銀当座預金の合計値となる。現在の
  日銀の金融政策の目標値としているのが、このマネタリーベ
  ースである。たとえば金融政策決定会合の公表文を確認する
  と、昨年4月の量的・質的緩和以前は「無担保コールレート
  (オーバーナイト物)を、0〜0・1%程度で推移するよう
  促す」となっていた部分が、量的・質的緩和以降は「マネタ
  リーベースが、年間約60〜70兆円に相当するペースで増
  加するよう金融市場調節を行う」に変更されている。そのマ
  ネタリーベースが6月末に243兆4305億円となり、5
  か月連続で過去最高を更新した。これはもちろん日銀が金融
  政策の目標に向けて、大量の国債買入などにより資金供給を
  行っていることが主因である。また6月は国債の償還月にあ
  たることや、四半期に一度の貸出増加を支援するための資金
  供給があったことも増加要因となった。今更ではあるが、で
  は日銀は何のためにマネタリーベースを増加させているので
  あろうか。それはむろん、消費者物価の前年比上昇率2%の
  「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いて、で
  きるだけ早期に実現するためである。
                   http://bit.ly/1Eoaqzh
  ―――――――――――――――――――――――――――

スウェーデン国立銀行本店.jpg
スウェーデン国立銀行本店 
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(1) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月29日

●「日銀は自身の使命をどう考えるか」(EJ第3963号)

 2013年2月7日午前の衆議院予算委員会において、安倍首
相は、民主党の前原誠司委員の「人口が減少するなかで、構造問
題を解決しないとデフレから脱却できないのではないか」という
質問に次のように答えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 人口減少とデフレを結びつける考え方を私はとらない。デフレ
は貨幣現象であり、金融政策で変えられる。人口が減少している
国はあるが、デフレになっている国はほとんどない。 安倍首相
―――――――――――――――――――――――――――――
 この「デフレは貨幣現象である」という言葉は、マネタリズム
の巨匠のミルトン・フリードマンの言葉を真似ていったものなの
です。もっともフリードマンの言葉は正確には次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
         インフレは貨幣現象である
―――――――――――――――――――――――――――――
 高橋洋一氏によると、日銀には昔から「日銀理論」というもの
があり、それは「日銀はインフレをコントロールできない」こと
を意味しているといわれます。
 かつての米FRB議長のポール・ヴォルカー氏は「インフレ・
ファイター」として知られており、インフレには敢然として戦う
ことこそFRBの務めであることを標榜していたのです。そのた
め、日銀理論は、物価の安定をつかさどることを使命とする日銀
が戦わずしてインフレに降伏しているような印象を与えます。日
銀はどうしてこのように弱気なのでしょうか。
 なぜ日銀理論がいわれるようになったのかというと、その端緒
は、1990年はじめのバブル潰しに対して日銀の執った政策を
デフレ経済政策の第1人者である岩田規久男学習院大学経済学部
教授が批判したことにはじまります。
 具体的には、三重野総裁の金融引き締め策によって、マネーサ
プライが急激に低下したことを岩田教授は批判したのです。日本
の多くの経済学者は日銀の顔色を見て正面切って批判しないなか
で、日銀側はこれに猛烈に反論し、遂に日銀は次のことをいうよ
うになったのです。これが日銀理論に結びついてくるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
  日銀はマネーサプライをコントロールすることはできない
―――――――――――――――――――――――――――――
 考えてみると、この日銀の最大の批判者である岩田規久男氏を
日銀副総裁に迎えているのですから、日銀の完敗といっても過言
ではないことになります。
 ここで「マネーサプライ」という言葉を使いましたが、これは
そのまま訳すと「通貨供給量」になります。これは世界に流通し
ている金融用語です。日本も2008年までは、この言葉を使っ
ていたのですが、日銀はこれを「マネーストック」に突如変更し
ています。これに日銀対岩田論争が関係するのです。そうすると
「マネーサプライ」と「マネーストック」では、その意味は微妙
に違ってきますが、それにしても、世界でポピュラーな金融用語
を日銀のメンツのために変更するとは、まことに乱暴な話です。
―――――――――――――――――――――――――――――
     ◎マネーサプライ ・・・・ 通貨供給量
     ◎マネーストック ・・・・  通貨残高
―――――――――――――――――――――――――――――
 このことについては、2014年3月4日付のEJで取り上げ
ていますが、要点を再現しておきます。要するに「日銀がマネー
サプライをコントロールできるかどうか」の問題ですが、ある東
大教授が中に入っての裁定で、「短期的にはできないが、長期的
にはできる」ということに落ち着いたというのです。長期的であ
れ、できるのであれば、それは「できる」というのが常識なので
すが、詳細は次を参照してください。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2014年3月4日付/EJ第3742号「なぜマネーストッ
 クに変更したか」          http://bit.ly/1c2js8n
―――――――――――――――――――――――――――――
 これについて高橋洋一氏は、きわめて興味深いことを指摘して
います。それは、当時から日銀では「マネーストックは2年後の
インフレ率を決める」という事実がわかっていたことです。添付
ファイルのグラフは、1969年〜2011年でマネーストック
とインフレ率の関係をグラフにしたものです。マネーストックは
2年前のものです。
 日銀は、何もかもわかっていて、自ら果すべき役割を果たして
いないようです。少なくとも白川前日銀総裁まではそうであった
といえます。こういう日銀理論について、高橋洋一氏は次のよう
にコメントしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日銀は、マネーストックをコントロールできないという言い方
をしていたが、実のところ、これは「日銀がインフレ率をコント
ロール出来ないということ」と同義である。というのは、回帰式
を考えれば、インフレ率はマネーストックでコントロールされる
のが明らかなので、マネーストックをコントルール出来るか、出
来ないかは、インフレ率をコントルール出来るか、出来ないかと
完全に対応しているからだ。
 さすがに、日銀がインフレ率をコントロールできないというと
日銀法などの規定に抵触するのが誰の目にも明らかになるので、
あえて、専門用語のマネーストックをコントロールできないと論
点そらしをしたのだろう。本音では、日銀はインフレ率をコント
ロールできないといいたいわけだ。これを皮肉を込めて「日銀理
論」といっている。これは、頑なにインフレ目標を拒否してきた
日銀の本性だ。それは外部から見れば、単に責任回避、組織保身
とみえなくもない。          http://bit.ly/1zvLtAD
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/45]

≪画像および関連情報≫
 ●「日本が陥ったデフレ経済の原因」とは/逝きし世の面影
  ―――――――――――――――――――――――――――
  経済学の常識の範囲ならば日銀からの資金供給量(マネタリ
  ーベース)が増えると、市中に出回る通貨総額のマネーサプ
  ライ(マネーストック)も増加し、銀行からの企業向け融資
  も増加する。通常ならマネタリーベースとマネーサプライと
  銀行融資とは連動していて、この3者には密接な相関関係が
  存在している筈なのです。ところが、我が日本国だけに限れ
  ば、1997年の消費税増税前後からは三者の動きが一致し
  なくなっている。経済がデフレになるかインフレになるかは
  マネタリーベースの増減ではなくて、マネーサプライの増減
  が決定的に影響する。日本はバブル崩壊後の20年間、マネ
  ーサプライは一定であり経済規模の拡大以下の水準なので、
  今のように必ずデフレになって当然であったのです。日本の
  経済全体がデフレで縮小していれば当然銀行融資も減額され
  るので、今の状態は何の不思議も無かったのであった。20
  01年の小泉純一郎首相の時代に日銀の福井俊彦総裁は、今
  回の黒川日銀総裁の『異次元金融緩和』策に類似した、デフ
  レ脱却の『量的緩和拡大』を行って大幅にマネタリーベース
  を拡大、円相場は120円に下落し円高が緩和し株価も1万
  8千円まで上昇している。日本経済を根本的に破壊した小泉
  ・竹中構造改革を今でも支持している(期待している)多く
  の日本国民が存在している原因とは、この時のマネタリーベ
  ースの拡大による株高と円安効果による一時的な景気の良さ
  である。             http://bit.ly/18sPjP1
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/高橋洋一氏論文/http://bit.ly/1zvLtAD

マネーストック対前年比(2年前)とインフレ率推移.jpg
マネーストック対前年比(2年前)とインフレ率推移
posted by 平野 浩 at 02:53| Comment(0) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月30日

●「異次元緩和でM3は増えていない」(EJ第3964号)

 日銀による2013年4月の異次元緩和と、2014年10月
の追加緩和によって、日銀券と日銀当座預金の合計──つまり、
マネタリーベースはどんどん膨張しています。マネタリーベース
は、日銀がコントロールできるマネーのことです。
 しかし、これはあくまでマネタリーベースであって、マネース
トックではないのです。マネタリーベースは日銀当座預金に積み
上がりますが、金融機関がそれを引き出して企業への貸し付けな
どに回さない限り、市中にお金は流れないのです。つまり、単に
金融緩和をしてもマネーストックは増えないわけです。
 そういう情報は、月曜日の日本経済新聞の「景気指標」に出て
います。直近の1月26日の数値から、「銀行貸出残高」「M3
増加率」「マネタリーベース」を抜き出して比較してみます。
―――――――――――――――――――――――――――――
       銀行貸出残高  M3増加率 マネタリーベース
        (前年比)  (前年比)    (前年比)
 13年度数値    2.3     3.1      44.0
 14年01月    2.5     3.5      51.9
    02月    2.4     3.2      55.7
    03月    2.2     2.9      54.8
    04月    2.4     2.8      48.5
    05月    2.4     2.7      45.6
    06月    2.5     2.5      42.6
    07月    2.3     2.5      42.7
    08月    2.3     2.5      40.5
    09月    2.4     2.5      35.3
    10月    2.4     2.6      36.9
    11月    2.8     2.9      36.7
    12月    2.7     2.9      38.2
     ──2015年1月26日付、日本経済新聞朝刊より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで「M3増加率」という指標は、現金通貨とゆうちょ銀行
を含む市中銀行の預金残高を合計したもので、マネーストックそ
のものです。本来好景気時には、M3はどんどん増加し、マネタ
リーベースの10倍程度まで増えるのですが、景気が低迷すると
その倍率は大きく下がるのです。
 したがって、安倍政権が進めるアベノミクスが本当に景気を刺
激しているかどうかを見るには、「マネタリーベース」によって
日銀がマネタリーベースを増やしている状況を確認したうえで、
企業の貸出を示す「銀行貸出残高」が伸びているかをチェックし
「M3増加率」の状況を調べることになります。
 「マネタリーベース」の前年比の伸び率を見ると、前半は50
%台の大幅な伸び率を示しています。2014年5月以降は伸び
率が40%台から3O%台と小さくなっていますが、これは異次
元緩和が2013年4月からはじまったことによるものです。既
に資金を相当積み上げている前年との比較ですから、当然伸び率
は小さくなります。
 しかし、「マネタリーベース」の大きな伸びにもかかわらず、
「銀行貸出残高」にしても「M3増加率」にしても、特段大きな
変化は見られないのです。これでは、金融機関が保有していた国
債の変動リスクを日銀が肩代わりしているだけといわれても、仕
方がないでしょう。これを見る限りにおいて、アベノミクスがう
まく機能しているとは思えないのです。
 とはいっても、マネタリーベースにせよ異次元と呼ばれるほど
大量のお金を日銀が増加させると宣言すれば、円は売られ、円安
になります。しかも、黒田日銀総裁の金融緩和宣言は多分にサプ
ライズがあったので、市場の反応が早かったのです。
 円安になると、輸出が増大するという思惑などから株価には上
昇圧力が加わり、株高になります。そして、この傾向が顕著にな
り、それが継続すると、それまで国債などの債券に投資していた
投資家も株を購入するようになり、株価はさらに上がる──ここ
までは間違いなくいえるのです。しかし、円安になって株価が上
がっても、肝心の景気回復には結び付かないのです。だが、日本
は長く、円高、株安、経済の低成長という陰鬱なデフレの時期が
続いたので、アベノミクスによって「もしかすると、景気回復す
るかも」と期待する人々が増えたことも確かなのです。
 それでは、2014年10月の追加緩和は何のために行われた
のでしょうか。
 表向きは、黒田日銀の目指す「2015年4月に2%の物価目
標の達成」が難しくなったからであるといわれます。それに国内
景気が、消費税増税の影響が深刻で、きわめて思わしくなかった
こともあります。これに加えて、経営コンサルタントの小宮一慶
氏は、黒田日銀総裁は、政府が政策のフリーハンド(自由度)を
高められるよう配慮したのではないかといっています。
 ここで政策のフリーハンドとは2つあり、1つは消費税増税の
判断についてであり、もう1つは当時巷で囁かれていた解散総選
挙の実施判断です。いずれも、この時点で一挙に円安が進み、株
高になれば、安倍首相のフリーハンドは高まります。
 結果として、安倍首相はこのフリーハンドによって、10%の
消費税増税を先送りし、衆議院解散総選挙に打って出て大勝利を
収めたのです。果たして本当であるかどうかの確証はありません
が、日銀総裁としては本来やってはならない禁じ手を使って安倍
政権を助けたといえます。これについて、元朝日新聞記者で、デ
モクラTV代表、山田厚史氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 妖怪は倒れそうなアベノミクスを抱き起そうというのだ。今よ
りきつい劇薬を飲ませ「国債をすさまじく買うぞ」「株や不動産
も買い上げるぞ」と宣言した。こんなことをいつまでやるつもり
なのか。               http://bit.ly/1qqB5AI
―――――――――――――――――――――――――――――
            ─── [検証!アベノミクス/46]

≪画像および関連情報≫
 ●「異次元緩和の限界」/五十嵐敬喜のページ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  「お金、マネー」(以下、「マネー」と言う)とは、預金の
  ことである。もちろん現金(銀行券と硬貨)もお金には違い
  ないが、経済や金融を考えるときに「お金、マネー=現金」
  というイメージを持ってしまうと本質が見えなくなる。現金
  は、企業や家計等が必要に応じて自らの預金を引き出したも
  のだ。現在はおよそ84兆円の現金が市中で流通している。
  支払いや決済の多くは、それが高額であるほど現金では行わ
  れない。市中に流通している現金の総量は大きくは変わらな
  いし、キャッシュレス化が進めばその分はむしろ不要となろ
  う。日銀が(マネーの供給を増やす目的で)大胆な量的・質
  的緩和を実施しても、現金が増えることはない。現金が増え
  る理由はただ一つ、預金者が自らの預金を現金で引き出すこ
  とだけだ。日銀が輪転機を回すから世の中で現金が増えるの
  ではなく、日銀は預金者が現金を引き出すのに見合って「受
  動的に」輪転機を回しているに過ぎない。ところで預金には
  2種類ある。企業や家計が銀行に預けている預金と、銀行が
  日銀に預けている預金だ。後者は日銀当座預金と呼ばれてい
  る。企業や家計が現金を引き出す場合、銀行は日銀当座預金
  から現金を引き出してその支払いに充てる。したがって、現
  在84兆円の現金が市中にあるのだとすると、民間の預金も
  日銀当座預金も、元々の金額よりも各々84兆円だけ少なく
  なっているわけだ。この元々の金額にはそれぞれ呼び名があ
  る。日銀当座預金はマネタリーベース、民間の預金はマネー
  ストックだ。前者は「日銀当座預金の現在残高+流通現金残
  高」、後者は「民間の銀行預金の現在残高+流通現金残高」
  と言い換えることもできる。    http://bit.ly/1zEIxli
  ―――――――――――――――――――――――――――

異次元金融緩和を説明する黒田日銀総裁.jpg
異次元金融緩和を説明する黒田日銀総裁
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | アベノミクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする