陸山会公判が開始されたのです。そのときの模様を作家の森功氏
は次のように書いています。
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10時少し前、元秘書3人が並んで104号法廷に入廷した。
大久保と石川がチャコールグレーの地味なスーツ、池田は紺地
にストライプの背広をまとっている。正面に向かって右から大
久保、石川、池田の順で、登石郁朗裁判長の前に並んで立つ。
「開廷します」
裁判長による宣言のあと、検察官による起訴状の朗読、さらに
小沢側の罪状認否がおこなわれた。焦点の石川がワープロ打ち
したA4用紙を手にとり、視線を落として口を開いた。「小沢
議員から借用した4億円の記載が(政治資金収支報告書)ない
とされているが、私としては記載したつもりだ」。そう全面無
罪を主張する。そこから水谷建設からの献金に触れた。ひとき
わ言葉に力を込める。「5千万円を受け取ったそのような事実
は断じてない」。大久保、池田も同じように全面否認し、無罪
を主張する。そこから検察側の冒頭陳述に入った。
──森功著『泥のカネ/裏金王・水谷功と権力者の饗宴』
文藝春秋刊
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森功氏といえば、「小沢=悪者」を前提として書いているノン
フィクション作家です。しかし、彼は初公判を傍聴しているので
第1回公判はこのようにしてはじまったのだと思います。ここで
注目すべきは、石川知裕氏が次のように述べている部分です。
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小沢議員から借用した4億円の記載がないとされているが、私
としては記載したつもりだ。
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これによると、石川氏は小沢氏からの借用金4億円を政治資金
収支報告書に記載したといっていますが、「記載したつもりだ」
と、何とも自信がない表現。うろ覚えのようです。官報に掲載さ
れていることを石川氏も彼の弁護士も知らないようです。信じら
れない話です。官報の写しを提出すれば証拠として採用されるの
にやっていないからです。
最も卑怯なのは検察です。政治資金収支報告書を押収しておい
て、報告書に4億円はちゃんと記載されているのに、記載されて
いないとして断罪しているからです。石川氏としては、報告書へ
記載したと思っていても、「記載していないじゃないか」と検察
にいわれると、書類が押収され検察の手元にあるだけに、「そう
だったかな?」と思ってしまうものです。まさか検察がウソをつ
いているとは思わないからです。
卑劣なのは検察だけではなく、検察のいうままに今でも「不記
載」と書いている新聞、テレビなどの記者クラブメディアです。
こちらは郷原信郎氏がテレビで、4億円の記載があると証拠を提
示していることや官報に記載がある事実を知っていながら、検察
のいうことをそのまま書いています。これがウソであることを承
知して書いているのです。
しかし、石川氏にとっては、4億円の記載があるかどうかは自
らが無罪を勝ち取るための必要条件です。それなのに政治資金収
支報告書が官報に載ることを知らないのは不可解です。まして弁
護士も知らないとは!?この弁護士はいったいどっちの味方なの
でしょうか。
一方、検察にとっては、政治資金収支報告書に記載しているか
いないかなどはどうでもよく、小沢氏の4億円に水谷建設からの
献金が含まれていることを立証することが重要なのです。収支報
告書への不記載は、逮捕するための別件であり、陸山会事件の本
丸は、あくまで水谷建設からの不正献金であったのです。
検察のいい分というかストーリーはこうです。検察は小沢氏の
4億円のうち、少なくとも1億円は水谷建設からの裏献金が含ま
れているとしています。水谷建設からは5000万円の献金が2
回、計1億円が小沢氏に秘書を通じて渡ったと主張するのです。
しかし、江川紹子氏はこの主張は、はじめから破綻していると
して、次のように述べています。
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しかしこの検察側の主張は、初公判の時からすでに破綻してい
た。検察側冒頭陳述によれば、石川氏が水谷建設から一回目の
現金五〇〇〇万円を受け取ったと検察側が主張しているのは、
〇四年一〇月一五日。当時の水谷建設社長の川村尚証人も、同
日午後に全日空ホテルのフロント前で金を石川氏に渡したと証
言した。ところが石川氏は、同月一三日には小沢氏から預かっ
た現金の分散入金を始めているのだ。これは銀行の記録ではっ
きりしている。となると、仮に水谷建設からの五〇〇〇万円が
あったとしても、小沢氏の四億円に入り込むはずがない。二回
目の授受、すなわち川村元社長が大久保氏に五〇〇〇万円を渡
したとするのは、翌年四月一九日だ。小沢氏の四億円が石川氏
に渡ってから半年以上先のことになる。一億円の水谷マネーが
小沢四億円とは無関係であるのは、一目瞭然だ。
──「世界」10月号
江川紹子氏論文『「陸山会事件」とは何だったのか』
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そもそも陸山会裁判は、水谷建設献金事件とは何の関係もない
のですが、検察側はこの問題を取り上げ、証人を次々と立てる。
それを記者クラブメディアが大きく報道する。しかし、弁護側の
主張はわずかしか書かない。小沢一郎氏を貶めるのが狙いであり
効果満点です。かくて日本国民の80%は、小沢氏は「悪い政治
家」だと思っています。この国は何もかも傷んでいます。今日の
判決は、きっと一部に有罪が出るでしょう。そして、また小沢排
除がはじまると思います。 ─── [日本の政治の現況/73]
≪画像および関連情報≫
●小沢秘書3人は無罪か有罪か/ゲンダイネット
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先月22日の陸山会事件の最終弁論。前回までの公判で検察
官の席にドッカリと座っていたひとりの検事の姿が消えてい
た。東京地検特捜部の斎藤隆博副部長(48)――。公判担
当の主任検事として、7月の論告求刑公判では衆院議員の石
川知裕被告に禁錮2年、後任の事務担当秘書だった池田光智
被告に禁錮1年、元公設第1秘書の大久保隆規被告に禁錮3
年6月を求刑した。公判の“最後の見せ場”を飾った主任検
事が突然、表舞台から消えたのだ。「長野県岡谷市生まれで
中大法学部卒。本来は株の不正操作事件のエキスパートで、
05年末に出向先の証券取引等監視委員会から特捜部に戻る
と、ライブドア事件を一から掘り起こして名を上げました。
将来を嘱望されているエース検事です」(検察事情通)
以下は、下記サイトで読めます。
http://gendai.net/articles/view/syakai/132734
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「世界」2011年10月号