2011年09月13日

●「なぜ、『脱官僚』が必要なのか」(EJ第3140号)

 天皇の忠実な部下たる官僚は戦時中は軍部と連合し、完全に国
を動かし、日本の国を支配したのです。
 実は1945年の終戦のとき、日本は「官を尊び政を卑しむ」
思想をベースにする官僚機構を根本から改革すべきであったので
す。しかし、当時のGHQ──米占領軍が結果として日本の官僚
機構を温存させてしまったのです。これについて、ウォルフレン
氏は次のように述べています。
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 占領軍は、戦時中の日本は、戦時中のドイツやイタリアと同じ
 だったろうと判断した。占領軍は、東條英機大将はヒトラーや
 ムッソリーニの日本版だと考えたのだ。そして、民主主義の実
 現のため日本が何よりも必要としていることは、中央政府の強
 力な政治指導性だということにまったく思いいたらなかった。
 1945年以降、日本の寡占支配の構造は変わった。軍人と官
 僚との連合は、官僚と実業界の経済官僚との連合に取って代わ
 られたのだ。ここで言う経済官僚のほとんどは退職官僚で、各
 種業界団体の重要な地位と、また、のちに系列企業となる会社
 の官僚的経営者の地位を占めはじめた。
       ──カレル・ヴァン・ウォルフレン著/篠原勝訳
  『人間を幸福にしない日本というシステム』/毎日新聞社刊
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 今まで官僚の上には天皇がいたのです。官僚制度はそれを前提
として作られていたのですが、その天皇が象徴天皇になったので
すから、当然制度全般を見直すべきであったです。しかし、米占
領軍はそれをしないで、それまでの官僚制度をそのままに残して
しまったのです。
 よく知られているように、公務員は特別の理由がない限り、免
職や降格が出来ないのです。これは、国家公務員法に「公務員の
身分保障」として規定があるからです。
 なぜ、このような規定があるのでしょうか。
 当初は大臣も官僚でしたが、そのうち政治家が大臣の地位を占
めるようになり、かたちのうえでは、官僚は政治家を上司として
迎えるようになったのです。その場合、人事権は一応大臣が持っ
ているので、大臣の恣意的な人事を防ぐ必要があったのです。
 官僚は上司である大臣がいろいろ命令を出してくることに内心
不快感を抱いているのです。このとき、心のなかでは次のように
考えているといわれます。
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  われわれは大臣に雇われているのではなく、日本という
  国家に雇われている。
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 これは非常におかしないい分なのです。確かに政治家が大臣に
なっていますが、政治家も大臣に任命されたら「官僚の身分」に
なるのです。したがって、大臣は名実ともに官僚の上司というこ
とになります。
 公務員の身分保障の規定は、「政治家は悪いことをする」とい
う前提に立っています。政治家は自分の政治的な野望のため、自
分の気に入らない公務員を免職し、自分の息のかかった人物を登
用したりする恐れがあるので、こういう規定を作って、官僚の人
事には政治家が口を出させないようにしているのです。
 しかし、自民党が結成された1955年以降、政治家と官僚は
共存してやっていくようになったのです。これは一種の取引のよ
うなものです。例えば大臣は公務員の人事には口を出さないが、
その代り、これこれの協力はするというようにです。
 これは一定の効果をもたらし、自民党は非常に長期にわたる安
定政権を続けることができたのです。小沢一郎元民主党代表は、
かつて自民党の幹事長のとき、政治改革を実現させようとしたの
ですが、官僚機構の厚い壁に跳ね返され、自民党にいては政治改
革はできないと判断して自民党を離党したのです。当時既に自民
党と官僚との関係は抜き差しならぬものになっており、自民党の
中からそれを変えるのは不可能になっていたのです。
 小沢氏は、以来さまざまな理不尽な苦難に遭いながらも、一歩
一歩本丸に近づきつつあります。官僚側も負けてはいません。こ
ともあろうに、今度は反小沢系の民主党政権を取り込んで、自ら
を守ろうとしています。
 現在の官僚機構は盤石であり、政治家はそれに対抗できなくな
りつつあります。事務次官の立場からいうと、大臣は何も知らな
い、能力のない素人の方が都合がよいのです。彼らは彼らのやり
方で、大臣などいなくてもやれる力を持っているからです。しか
し、それは国益のためではなく、あくまで省益のためです。そし
てうまくいかないときは大臣に責任をとらせればよいのです。自
分たちの身分は保障されており、クビになる心配はないのです。
 現在、官僚側は完全に主導権を握っていて、やりたいようにで
きる体制にあります。民主党の反小沢系の政権が官僚と手を握り
自民党化しつつあるからです。菅政権と野田政権は、何かという
と、自民党との大連立を口にしています。そうなることが官僚側
には都合がよいので、政権側にサジェスチョンしていると思われ
ます。昔の自民党のようにしようと思っているからです。
 しかし、官僚が主導権を持って省益で国を動かしている現状は
まさに「官僚の暴走」です。政治家の暴走は国民が選挙でチェッ
クすることは可能ですが、官僚の暴走は、国民の力ではどうする
こともできません。だから「脱官僚」は必要です。
 現在、迷走を続ける民主党が戦うべき本当の相手は、官僚の世
界を「聖域」化している諸制度と慣習である──既出の原英史氏
はいいます。それは公務員制度の改革なのです。日本はいま未曽
有の危機にあります。野田政権は、それこそ過去の恩讐を乗り越
えて、真の意味での党内の一体化をはかり、日本の国益のために
公務員制度改革に党を上げて全力で取り組むべきであり、それが
使命であると考えます。  ─── [日本の政治の現況/66]


≪画像および関連情報≫
 ●わざと素人大臣を起用し政治主導を完全放棄/原英史氏
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  野田首相は財務告が担ぎ上げた政権であるといわれる。私も
  そう思うし、状況証拠もある。例えば、2009年の事業仕
  分けで建設凍結となった財務省所轄の公務員宿舎(埼玉県・
  朝霞市)がいつの間にか着工していたりする。もちろん、凍
  結解除を認めたのは当時の財務相、今の野田首相その人だ。
  役人に取り込まれている首相がそれをゴマカすために公務員
  制度改革を持ち出し、蓮舫大臣を担当にしたところで、その
  正体は見透かされている。(談)
               ──9/6発行/日刊ゲンダイ
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原英史氏.jpg
原 英史氏
 
posted by 平野 浩 at 04:13| Comment(1) | TrackBack(0) | 日本の政治の現況 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする