2011年09月06日

●「子ども手当の理念を考える」(EJ第3135号)

 野田内閣では、増税の問題よりも「3党合意」の順守か否かが
大きな問題になるはずです。「3党合意」は裏を返せば、マニュ
フェストを守るか放棄するかの問題です。これだけは、小沢一郎
氏は絶対に譲らないはずです。
 なぜなら、マニュフェストを放棄すれば、それは民主党が民主
党でなくなることを意味しているからです。民主党の主流派がマ
ニュフェスト放棄を強行すると、小沢グループは党を割ると思わ
れます。今までの小沢氏の政治行動から見ると、これは間違いが
ないことです。
 マニュフェストの放棄に関しては、小沢グループに限らず、党
内に相当の抵抗があるのです。民主党参院議員の有田芳生氏は次
のように述べています。
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 私は小沢派ではない。だが結局、マニュフェストの意義を問う
 なら、政権交代を実現した当事者である小沢一郎に代表選を戦
 ってもらうほうがわかりやすかった。いまは党員資格停止中だ
 が、裁判で冤罪が確定した場合、来年秋の代表選には出ること
 になるだろう。小沢一郎に総理大臣をやらせてみて、判断せね
 ばならない。今の体たらくを見ていると、そう強く感じる。
              ──民主党参院議員の有田芳生氏
               『週刊ポスト』9/9日号より
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 民主党のマニュフェストの目玉は何といっても「子ども手当」
です。子ども手当については、EJ第3125号でも述べたよう
に自民党には絶対できない政策です。『週刊ポスト』9/9日号
に詳しい分析レポートが出ているので、これを参考にして再び子
ども手当について紹介することにします。
 3党合意とは、基本的には2012年4月から子ども手当を廃
止し、自公政権時代の児童手当を復活させることで合意するとい
うことです。なお、3党合意には、合わせて他の政策──「高校
授業料無償化」「高速道路の無料化」「農家戸別所得補償」の見
直しにも言及しています。
 この3党合意について、2011年8月5日付の読売新聞は次
のように報道しています。
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 最初から財源の裏付けを欠いた無理な政策であり、加えて、東
 日本大震災では巨額の復興財源が必要になった以上、廃止する
 のは当然である。   ──2011年8月5日付の読売新聞
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 野党、とくに自民党は何かというとすぐ「財源」といいますが
当の自民党は今まで財源を決めずに今日まで膨大な赤字国債を出
し続けてきたのです。そのため、日本は膨大な財政赤字を膨らま
せることになったのです。子ども手当について大新聞は、「財源
の裏付けを欠いた無理な政策」ときめつけ、批判しています。民
主党の政策というよりも、小沢氏の政策としての批判でしょう。
 さらに朝日新聞は8月に実施した世論調査において、次の質問
をし、賛成が過半数に達していることを伝えています。
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 子ども手当をやめて児童手当に戻すことに賛成ですか 63%
           ──朝日新聞による2011年8月調査
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 しかし、この数字は本当に民意を反映しているのでしょうか。
子ども手当の受給世帯は全体の20%程度なのですが、明らかに
そういう世帯を中心に聞いていないと思われるからです。これで
は、子ども手当に関するネガティブキャンペーンといわれても仕
方がないでしょう。
 子ども手当を廃止し、児童手当に戻すといいますが、そもそも
自公の児童手当と民主党の子ども手当は理念が違うのです。自公
の児童手当は、子育てはあくまで親がするものであり、行政はそ
れをサポートするという前提に立っています。
 しかし、子ども手当は、「社会で子どもを育てる」という理念
に立っており、少子化対策として位置付けています。少子化対策
について自公政権は、その重要性を認めながら、思い切った施策
をまるでやってこなかったのです。
 「社会で子どもを育てる」という理念であれば、所得制限など
は設けるべきではないのです。それに子ども手当は、EJ第31
25号でも強調したように、国民への「直接給付」というところ
に特徴があるのです。もし、自公時代の農業補助金のように「間
接給付」で実施すると、経由する団体に既得権が発生してしまう
からです。既得権益を作らないという意味でも「直接給付」にし
ているのです。
 もともと日本は、子育てに対する支援をきちんとやってきてい
ないのです。これに対してヨーロッパでは手厚い制度を設けてい
るのです。橋本俊詔・同志社大学経済学部教授は、ヨーロッパの
制度について次のように述べています。
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 ヨーロッパ諸国では子供への現金給付が盛んだ。フランスは学
 費免除に加えて、第2子以降なら20歳になるまで2万〜3万
 円程度が給付される。スウェーデンでは、子供の数に応じて第
 1子の約2万円〜第5子以降の約6万円まで、産めば産むほど
 もらえる(16歳まで)。その甲斐あって、フランスは2・0
 スウェーデンは1・9(ともに08年)と高い出生率を誇って
 いる。       ──橋本俊詔・同志社大学経済学部教授
               『週刊ポスト』9/9日号より
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 民主党の子ども手当は、これを目指しているのです。しかし、
国民に約束した特別会計にろくに切り込みもしないで「財源がな
い」として断念し、その理念を放棄するとは国民に対する裏切り
です。          ─── [日本の政治の現況/61]


≪画像および関連情報≫
 ●子ども手当の財源について
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  民主党が野党時代から主張してきた政策であるが、財源の確
  保が明示されていないことが問題点として指摘されている。
  財源は初年度で2兆2500億円、翌年からは倍のの4兆5
  000億円ほど必要であり、その財源については、扶養控除
  等の廃止を充てるとされていた。これによって得られる税収
  増は扶養控除8000億円、配偶者控除6000億円であり
  子ども手当の必要経費には及ばない。国際通貨基金や経済協
  力開発機構などの国際経済機関からも見直しを求められてい
  る。国際通貨基金(IMF)は日本の財政赤字が国内総生産
  (GDP)に対して10・5%に達する見通しであると発表
  し、子ども手当など国債増発によりイギリスやアイルランド
  のように大規模な財政調整が必要になると指摘した。
                    ──ウィキペディア
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有田 芳生氏
posted by 平野 浩 at 04:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本の政治の現況 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする