2011年08月15日

●「『江藤惇』の小沢一郎への引退勧告」(EJ第3119号)

 菅首相がやっと退陣を表明したので、次の首相選びが騒がしく
なってきています。こうなると、現在、座敷牢に入牢されている
小沢一郎氏が、またしても、どう動くかが最大のかぎとなってき
ているのです。またしても小沢中心の政局です。
 石川知裕議員の本に、作家の江藤惇氏のコラムについて触れた
部分があります。
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 「帰りなん、いざ、小沢一郎に与う」
 小沢君よ、その時期については君に一任したい。しかし、今こ
 そ君は新進党党首のみならず衆議院の議席をも辞し、飄然とし
 て故郷水沢に帰るべきではないのか。そして、故山に帰った暁
 には、しばらく閑雲野鶏を友として、深く国事に思いに潜め、
 内外の情勢を観望し、病いを養いつつ他日を期すべきではない
 のか。        ──1997年3月3日付、産経新聞
                      ──石川知裕著
         『悪党/小沢一郎に仕えて』/朝日新聞出版
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 江藤惇氏といえば、戦後日本の著名な文芸評論家であり、小林
秀雄亡き後の文芸批評の第一人者であり、20代の頃から長らく
文芸時評を担当し、文壇に大きな影響力を与えた作家です。19
99年に亡くなっています。
 この江藤惇氏のコラムを小沢一郎氏への「引退勧告」と解釈し
「文藝評論家の江藤惇もいうように・・」と小沢氏へ引退を勧め
る政治評論家も少なくないのです。
 しかし、これは「引退勧告」ではないのです。石川氏は江藤先
生の真意を知っているといいます。なぜなら、江藤惇氏と小沢氏
が軽井沢ではじめて会ったとき、運転手として小沢氏を送って行
き、江藤先生と小沢氏が話しているとき、石川氏はすぐ側にいた
からです。コラムの後半部分にその真意を解く鍵があります。
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 小沢一郎が永田町を去れば、永田町は反小沢の天下になるのだ
 ろうか?かならずしもそうとはいえない。そのときむしろ、無
 数の小・小沢が出現する可能性が開けると見るべきである。な
 ぜなら、反小沢を唱えさえすれば能事足れりとして来た徒輩が
 今度は一人ひとり自分の構想を語らざるを得なくなるからであ
 る。         ──1997年3月3日付、産経新聞
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 江藤惇氏はこういいたかったのです。「小沢一郎が政界からい
なくなってはじめて小沢の必要性に国民は気が付くはずだ」と。
つまり、この言葉は江藤淳氏から小沢一郎に対するエールだった
のです。石川氏はこれについて、次のようにいっています。
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 つまり、小沢一郎という便利な合わせ鏡″がなくなれば、多
 くの政治家は「自画像」を描けなくなる。多くの政治家が座標
 軸を見失い、政界は混乱に陥るということだろう。小沢一郎に
 は、自分の国家観を示したテキストが複数存在する。中でも、
 『日本改造計画』は出版から20年近くたっても、いまだに読
 まれている。一方、菅直人さん、岡田克也さんや前原誠司さん
 あるいは仙谷由人さんはどうか。彼らがマニフェスト以外に、
 中長期に日本が取るべき方向性を個別・具体的に論じたり、独
 自の政策集をまとめたりしたという話は聞いたことがない。江
 藤先生が指摘するように、「自分の構想」をいつ語るのだろう
 か。                   ──石川知裕著
         『悪党/小沢一郎に仕えて』/朝日新聞出版
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 考えてみると、自分が首相になって日本という国家をどのよう
にして治めていくかについて事前に明確に示した政治家はきわめ
て少ないのです。1993年の時点で小沢氏が日本という国のあ
り方について論じた『日本改造計画』(講談社刊)を発刊してい
ることはきわめて希有なことです。そういう人にして、はじめて
「政治主導」を実現できるのです。
 しかし、政治家の多くは、首相になれるチャンスが出てきた時
点で、その政権構想を雑誌などで発表するスタイルがほとんどで
す。今回の民主党の代表選で、出馬を表明している野田財務大臣
が、8月10日発売の月刊誌『文藝春秋』に「わが政権構想」と
題する論文を発表したあのスタイルなのです。それでも政権構想
を事前に発表するのはマシの方で、菅首相などはそれすらもやっ
ていないのです。
 もっとも既に強固にでき上がっている官僚組織に最初から乗る
つもりであれば、何とか首相らしいことはさせてもらえるでしょ
う。しかし、現在のように世界が多極化し、経済がグローバル化
して変動が激しく、とくに先進国においては首脳発言が注目され
るときには、官僚任せでは国家を治めることは困難です。
 経産省の古賀茂明氏は、民主党の政治主導について、国をバス
会社に例えて次のように述べています。
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 バス会社に例えると、政治家は経営者、官僚は運転手。自民党
 時代はバスの運転手に運転を任せっきり。順調に運行している
 ように見えても全体の路線図に不備があり、いろんな場所で、
 人々が置き去りにされた。民主党政権に代って「オレたちが乗
 る」とバスの運転を始めたが、いろんな所で事故を起こして混
 乱してしまっている。運転は官僚に任せ、大臣は路線図の書き
 換えを行うという役割分担が必要だ。
         ──2011年8月13日付、朝日新聞より
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 政治は大きな方向性を決め、それを官僚がスピーディーに実行
するという役割分担が機能不全になっているのです。それができ
るリーダーがいま日本で求められています。
              ── [日本の政治の現況/45]


≪画像および関連情報≫
 ●野田佳彦財務相が「政権構想」発表
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  民主党代表選に出馬する意向を固めた野田佳彦財務相が十日
  発売の月刊誌「文芸春秋」で発表する政権構想が九日、明ら
  かになった。財政再建を「未来への責任」と指摘し、消費増
  税を含めた税制改革の実現に取り組む決意を表明している。
  野田氏は、政府・与党が消費税率を「二〇一〇年代半ばまで
  に、段階的に10%」と決めた六月の社会保障と税の一体改
  革案について「覚悟を持って実現していく」と強調。社会保
  障制度の財源を安定させることで「雇用、消費の拡大を促し
  経済成長につながる」としている。
         ──2011年8月10日付、東京新聞より
  http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2011081002000040.html
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江藤惇氏.jpg
江藤 惇氏
posted by 平野 浩 at 04:09| Comment(2) | TrackBack(0) | 日本の政治の現況 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする