2011年08月01日

●「菅首相偽装退陣のからくり」(EJ第3109号)

 注目すべき情報があります。2011年7月28日、小沢一郎
元代表が、カレル・ヴァン・ウォルフレン氏と会談をしているの
です。自由報道協会の公開討論においてです。
 そこでは、政府の震災・原発事故対応について、「今までみた
いなやり方をしていたらダメだ」と菅政権を批判し、意見の一致
を見たのです。小沢氏とウォルフレン氏は確か直接会うのはこれ
がはじめてではないかと思われます。
 そして、討論会後の記者会見で、菅首相の辞任問題について、
小沢氏は次のように述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本人的常識で言えば菅さんも『辞める』みたいなことを言っ
 たんでしょうけれども、その常識の通用しない相手だとどうし
 ようもないわけで、今のようになっちゃうわけです。
                       ──小沢一郎
      http://etc8.blog83.fc2.com/blog-entry-1108.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 先週のEJでも書きましたが、菅首相の側近の下村健一氏や橘
民義氏(EJ第3108号)の発言を聞いてわかったことがあり
ます。それは、6月2日の代議士会の前夜、菅首相以下、執行部
が票読みをしたところ、賛成票は80票をはるかに超えており、
不信任案の可決は必至の情勢であったのです。
 焦った菅首相は、鳩山前首相の提案を受け入れることにし、話
し合いをもったのです。そのとき菅首相は「メドがついたら首相
を辞める」と明言しているはずです。いま発言しているようなぼ
かした表現ではなく、「辞める」とはっきりいっているのです。
そうでなければ、いくら鳩山氏が甘くても、ぼかした表現では納
得するはずがないからです。
 ところが代議士会ではああいう発言です。しかし、鳩山氏とし
ては、直前に「辞める」という発言を聞いているので、総理の立
場上そういわざるを得なかったのだろうと好意的に判断したわけ
です。菅首相はそういう鳩山氏の甘さにつけ込んで不信任案可決
を回避したのです。だから、菅首相が「辞任とはいっていない」
といったとき、鳩山氏は「ペテン師だ」といって怒ったのです。
 さらに菅氏は鳩山氏が民主党を壊したくないという思いも利用
したのです。もし、このまま不信任案の採決に突入すると、小沢
グループ約77人以上が賛成する──たとえ否決しても小沢グル
ープは党を割ることは確実で、そうなると、民主党は壊れる。お
そらく同調者がさらに加わると思われるので、民主党は衆議院で
過半数を失ってしまうのです。
 したがって、鳩山氏としては、それを何とか回避したかったの
です。だからこそ、菅氏は「辞任」するフリをすれば、鳩山氏は
それに飛びつくと考えたのです。
 この経緯から見て、同席していた岡田幹事長は菅氏の「辞任」
発言を直接聞いているはずです。それでいて岡田幹事長が鳩山氏
のペテン師発言を聞いたとき、「辞任とはいっていないし、一定
のめどというのは辞任の条件ではない」と否定しているので、2
人が共謀して鳩山氏を騙したことは明らかです。
 鳩山氏は、おそらくこれで菅直人と岡田克也という人物とは付
き合っていけないと思ったはずです。最近の鳩山氏は民主党につ
いて弟である邦夫氏との対話でこう話しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 邦 夫:菅さんは辞めるのか?一体、どうなっているのか霧の
     中みたいだ。兄貴はどうするつもりなんだ?
 由紀夫:いよいよ民主党への愛着がなくなってきたよ。若手議
     員らもどんどん民主党への愛着がなくなってきてる。
     もう、民主党なんか壊れたっていい。
          ──2011年7月25日発行、夕刊フジ
―――――――――――――――――――――――――――――
 鳩山邦夫氏も、兄の鳩山由紀夫氏が菅首相の「退陣偽装」に騙
されたのは「党を壊したくない」という思いであり、「兄貴はそ
の心の隙に付け込まれた」といっています。その由紀夫氏が「も
はや愛着がない」というのは、尋常ならざることです。邦夫氏は
次のように由紀夫氏の気持ちを代弁しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 菅首相に母屋を取られたんだからもういい。母屋は菅首相にや
 ればいい。新しい道(新党)しかないな、ということだろう。
                  ──前掲、夕刊フジより
―――――――――――――――――――――――――――――
 もともと民主党は、鳩山兄弟に菅氏が加わってスタートしたの
です。新党設立資金は、由紀夫氏が8億円、邦夫氏が7億円借金
して用意したのですが、菅氏は300万円しか出さなかったとい
うのです。菅直人という人は、こういうときはたとえ金があって
も出さない人といわれているのです。その民主党を菅氏は鳩山氏
をペテンにかけて取り上げたのです。
 一体民主党はどうなるのか。小沢氏はそれまで菅首相の問題は
執行部の責任でやるべきだといって、表立って動かなかったので
すが、ウォルフレン氏との討論会を契機に一挙に前面に出て発言
するようになっており、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 岡田幹事長をはじめとする執行部や、菅さんを支えてきた人た
 ちが、「お盆まで辞める」といっているのだから、今は見守る
 しかない。もっともお盆を過ぎても辞めなければ、これは話が
 違うということになってくる。自発的に辞めてくれなければど
 んな手を使っても・・・というものはある。
        ──2011年7月29日発行、日刊ゲンダイ
―――――――――――――――――――――――――――――
 なんだかんだといっても、現在の民主党は小沢グループを無視
できないのです。小沢グループが誰につくかによって、代表が決
まるからです。       ── [日本の政治の現況/35]


≪画像および関連情報≫
 ●ブログ「日々坦々」より/小沢一郎発言
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  原発事故、深刻な事態と、当初から訴えてまいりました。日
  本人の長所が発揮されていると同時に、欠点も露呈されてい
  る。皆、力をあわせて復興のため努力している。その忍耐、
  努力、能力は誇っていい。しかし、原発事故と放射能汚染の
  拡大は、個人の力の発揮だけでなく、国家として力を発揮す
  る仕組みが大事になる。ところが、一般の国民の中からもな
  かなか出てこない。これは日本的な現象。他国だったら、そ
  うはならない。国民運動のようになる。日本人の不思議なと
  ころ。マスコミが政治が何をするべきか、お悔やみをいうこ
  とか。政治家は国家がどうあるべきか、考えるのが仕事。
      http://etc8.blog83.fc2.com/blog-entry-1108.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

小沢一郎×カレル・ウォルフレン.jpg
小沢一郎×カレル・ウォルフレン
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2011年08月02日

●「与党提出の内閣不信任決議案」(EJ第3110号)

 「お盆過ぎまで菅首相が辞めないときは、どんな手を使っても
降ろす」──小沢元代表の発言です。かなり自信に満ちた大胆な
発言です。一体小沢氏は何を考えているのでしょうか。
 それは不信任決議案(以下、不信任案)の提出です。日本の総
理大臣を降ろすには不信任案しかないと小沢氏はいうのです。も
っとも不信任案といっても再提出ではないのです。与党の民主党
から菅首相の不信任案を提出するか信任案を提出するのです。ど
ちらも同じですが、与党から出すときは、信任案の方がスジが通
っているように見えます。いうまでもないことながら、不信任案
のときは「賛成多数」、信任案のときは「反対多数」で首相は内
閣を総辞職するか、解散をするしかなくなります。
 このように不信任案と信任案は、野党でも与党でも提出できる
のです。ただし、提出には人数上の条件はありますが、現在の民
主党では退陣賛成派が多いので、問題なく、クリアできます。
 もうひとつ与党提出の不信任案にはそれを提出する方に大きな
メリットがあるのです。野党提出の不信任案に同調すると、党紀
違反になり、除名などの処分を受けることになります。しかし、
与党提出の不信任案は党の意思として出すことになるので、党紀
処分の対象にならないことです。
 したがって、小沢グループでは、最初から与党提出の不信任案
の提出を示唆していたのです。小沢氏は提出の根拠について、次
のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 【首相辞任】首相を代えるために唯一、憲法上認められるのは
 内閣不信任決議案の可決だ。自発的に辞めるなら結構だが、辞
 めないときは意を決するときが来る。不信任案は提出者と理由
 が違えば一事不再議に反するものではなく2度でも3度でも出
 せる。岡田克也幹事長も「お盆前に辞める」と言っているので
 当面は見守るが、辞めないのなら民主党議員全員が深刻に考え
 決断すべきだ。
 【ポスト菅】次の人については、菅さんでなければ、どなたで
 もいいんじゃないでしょうか。
           ──2011年7月29日付、産経新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 同じ菅首相に対する不信任案ですが、提出者は野党ではなく、
与党の民主党、提出理由は「退陣表明しているのに辞めない」と
いうように前回と変更すれば出せるのです。
 新聞や小沢氏を批判する政治評論家は、これまでことあるごと
に小沢氏を「これで小沢氏の影響力の低下は避けられない」とい
う決まり文句で書くのがつねです。何とかして小沢氏の影響力を
排除したいの一心で固まっているのでしょう。報道人としては、
あってはならないことです。政権交代以来、小沢氏がそう書かれ
たのは次の5回に及ぶのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1.陸山会元秘書逮捕
         2.民主党幹事長辞任
         3.民主党代表選敗北
         4.検察審の強制起訴
         5.党員資格停止処分
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、いずれもメディアの書いていることとは、違う結果に
終っています。とくに2010年9月に民主党の代表選に破れ、
追い撃ちをかけるような検察審査会による強制起訴、そしてそれ
を利用して小沢氏の力を弱めようとした菅内閣執行部による党員
資格停止処分──メディアはそのつど「もはや小沢は終り!」と
書いてきたのです。
 そして今年6月の菅内閣不信任案の採決でのドタバタ──鳩山
氏の変心による不発によって、またしてもメディアは「小沢氏は
終り!」と書き続けたのです。
 しかし、事実はそれとまったく異なるのです。小沢氏を排除す
ることは、反小沢の菅内閣、執行部にプラスのメリットをもたら
すとして、党執行部は党を政権交代に導いた小沢元代表の恩を忘
れ、メディアの力も借りて小沢グループを干し上げたのです。
 そして、党則を破ってまで事実上無期限の党員資格停止処分と
いう座敷牢に小沢氏を閉じ込め、菅内閣はうまく政権運営ができ
たのでしょうか。2010年の参院選に負けてねじれの原因を作
り、その後のすべての選挙に負け続けても誰も責任を取らず、稚
拙きわまる政局運営に加え、国民との約束であるマニュフェスト
を大幅に変更して野党にへつらっても特例公債法案が通らない。
そうすると、今までかついできた菅首相を執行部や閣僚が批判す
るというグチャグチャの事態になっています。それでいて、菅首
相を降ろせず、遠巻きにして眺めている。なぜ、執行部や閣僚は
批判するなら、辞表を出さないのでしょうか。
 そこまで徹底的に露骨な小沢封じ込めをやってきて、迎えた不
信任案採決の事態──そのとき小沢氏は賛成同意の議員を77人
集めているのです。これについて元フジテレビ政治部の鈴木哲夫
氏は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 不信任案で自主投票に転じた小沢グループについて、菅首相側
 近やメディアは「菅追い落としに失敗」「小沢氏の求心力も落
 ちた」と論評した。たしかに、不信任案採決前夜、賛成すると
 集まったのは77人。一気に不信任案を成立させる人数には足
 りず、かつて代表選で200票を集めたことからすれば「たっ
 た70人そこそこ」となる。しかし、私の取材では77人は脅
 威だ。小沢グループ幹部も「(集めたことで)この勝負は小沢
 の勝ち」と胸を張る。
   ──鈴木哲夫の永田町核心レポート/夕刊フジ/6.14
―――――――――――――――――――――――――――――
              ── [日本の政治の現況/36]


≪画像および関連情報≫
 ●日本人は知ってはいけない/関連ブログの記事
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  予定通り内閣不信任案が提出されました。もともと、民主党
  は、菅直人氏と小沢一郎氏がタッグを組んで、政権交代を成
  し遂げてきたもの。それでは、どこで、おかしくなっていっ
  たのか大雑把に振り返り考えてみたい。ここからは全て筆者
  自身の妄想であります。妄想ではありますが、ほぼ間違えな
  いでしょう。民主党が政権を担う直前に策を練ったやつがい
  る。「小沢を潰そう」。その為に「小沢をえん罪にしよう」
  と。そして、マスコミ、検察の総動員で「水谷建設」、「検
  察」の疑惑をつくりだした。これがもとで世論の中で、風評
  にながされやすい、無知な人たちは影響を受け始めた。それ
  をマスコミはあおった。
   http://cosmo-world.seesaa.net/article/206204017.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

主導権を握っている小沢グループ.jpg
主導権を握っている小沢グループ
posted by 平野 浩 at 04:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本の政治の現況 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年08月03日

●「小沢政治の原点と自自合意文書」(EJ第3111号)

 小沢一郎という政治家は多くの人に誤解されています。ほとん
どの年配者は、小沢氏を田中角栄や金丸信などのイメージをだぶ
らせて見ています。そして「力はあるが、カネに汚く、裏にいて
総理を操る黒幕型のリーダー」というイメージが小沢氏に定着し
ているのです。
 しかし、これは小沢氏のイメージとはまったく異なります。と
もに検察に逮捕・起訴された田中角栄や金丸信の子分として見ら
れていますが、まったく違います。自民党時代の小沢氏を調べて
みると、確かに田中、金丸という2人の実力政治家から多くのこ
とを学んでいますが、汚いカネとはまったく無縁です。
 しかし、今や「政治とカネ」は小沢氏の代名詞にまでなってい
ます。一体どうしてこうなったのでしょうか。彼は他の政治家の
誰よりも政治資金の扱いは慎重であり、そのすべてを公開してい
るのです。そういう政治家は他にいないはずです。まして不正な
カネなどまったく手にしていないのです。それなのに、なぜ、カ
ネに汚い政治家といわれるのでしょうか。
 それは自民党が使う汚い手のひとつ、スキャンダルを探して、
公にし、政権から追い落とす手法です。これによって細川政権は
下野を余儀なくされています。しかし、小沢氏には、そういうス
キャンダルがないのです。そこで徹底して小沢を貶める作戦に出
たのです。「政治とカネ」はその一環です。
 小沢氏にはもうひとつ「剛腕」というイメージがついてまわっ
ています。どこが剛腕なのでしょうか。それは決断が早いことと
自らが目指す政治目標につねに向き合い、それを着実に実行に移
して実現していることです。
 自分が実現を目指す政治改革が自民党では実現不能と判断する
と、野党の提出した宮沢内閣の不信任案に賛成し、自民党を離党
し、新政党を結成する。そして細川連立政権に参加して政権交代
を成し遂げています。これによって、自民党ははじめて政権を失
うのです。小沢氏は自民党にとって仇敵そのものです。この頃か
ら「反小沢」「非小沢」などといわれるようになったのです。
 小沢一郎という政治家の基本は真の保守主義です。理想的な保
守新党を立ち上げることにあります。しかし、それを達成するに
は、いろいろな問題を乗り越える必要があります。彼はそのため
の独自の行動計画を持っているのです。
 小沢氏の行動計画をごく簡単にいうと、こうなると思います。
10の目標を達成しないと政治的理想が実現しないとします。そ
のうちの3は、ある政党と一緒にやる必要があるとします。この
場合、その政党の理念と自分のそれが合わなくても、その政党と
連立するなりしてそれを実現するのです。これを小沢氏の本質を
知っている人から見ると、「小沢は変質した」というように見え
ますが、彼にとってはあくまで手段なのです。
 細川連立政権は、小沢氏の努力で結成できたのですが、小沢氏
の目指そうとしている改革には水と油の社会党(当時)やさきが
けなどが加わっていたのです。しかし、それでも連立政権を樹立
したのは、もっともコアになる改革がその政権で実現できると考
えたからです。
 小沢氏は、その連立政権で細川首相と共に改正公職選挙法や改
正政治資金規正法、政党助成法などの「政治改革四法」を成立さ
せています。上記のたとえでいうと、これで3の目標が達成でき
たことになります。
 これらの制度は現在でも生きているのです。これによって、今
までよりも政権交代が可能な制度ができ上がったのです。しかし
もともと合うはずのない社会党やさきがけは党を出て行き、細川
政権は崩壊します。
 続いて小沢氏は次の目標を達成するため、自由党を結成するの
です。1998年1月のことです。その同じ年の夏、自民党は、
橋本連立政権が参院選で大敗して橋本首相は退陣し、7月から小
渕内閣が誕生したのです。
 小沢氏はこれをチャンスと考えたのです。なぜなら、小沢氏は
小渕氏と仲が良く、話し合える男と考えていたからです。この内
閣であれば、小沢氏の政治目標は達成できるとみて、自自連立が
成立します。小沢自由党はここでも与党になったのです。このあ
たりがずっと野党のままであった鳩山・菅両氏の率いる民主党と
はぜんぜん違うのです。
 この自自連立で、副大臣制度の導入や、衆議院議員定数削減な
どが実現しています。あの党首討論(クエッションタイム)も小
沢氏のアイデアでこのとき実現しているのです。小渕内閣と組ん
だのは、残りの7の目標のうち、そのほとんどを達成できると考
えたからです。それは自自連立の合意書にはっきりと書かれてい
るのです。すべてを書くと長くなるので、その合意文書の大きな
タイトルを示しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 T、政治を国民の手に取り戻すために(政治・行政改革)
   政治が責任を持って諸改革を推進する体制を確立するため
   に、効率的で小さな政府を実現する。
 U、国民の命を守るために(安全保障)
   日本国憲法の理念に基づき、冷戦後に適した安全保障体制
   を確立する。
 V、国民の暮らしを守るために(税制改革)
   経済・社会の構造改革を進めるとともに、社会保障制度の
   基盤を強化するため、税制の抜本改革を断行する。
                  ──渡辺乾介著/小学館
              『小沢一郎/嫌われる伝説』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここから民主党のスローガン「国民の生活が第一」が生まれて
きているのです。しかし、小沢氏にとって頼みの綱であった小渕
恵三氏は総理の職のまま急逝してしまうのです。
              ── [日本の政治の現況/37]


≪画像および関連情報≫
 ●自自連立政権を伝える当時の記事/琉球新報
  ―――――――――――――――――――――――――――
  小渕恵三首相は14日午後、内閣改造を断行、自自連立政権
  が正式に発足した。首相は同日午前の閣議で「国民の政治に
  対する信頼を回復し、世界から尊敬される日本を創造するた
  めに連立政権を樹立する」と決意を表明した。保守党同士の
  連立政権としては1983年12月発足の自民党と新自由ク
  ラブによる第二次中曽根内閣以来、約15年ぶり。自由党か
  らは野田毅幹事長が自治相として入閣、首相が求めてきた小
  沢一郎党首の入閣は見送った。
  http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-92943-storytopic-86.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

小渕恵三元首相.jpg
小渕 恵三元首相
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2011年08月04日

●「自自連立合意9項目は無血革命」(EJ第3112号)

 1998年11月19日のことです。その日、首相官邸の総理
大臣執務室で行われた小渕自由民主党・小沢自由党の両党首会談
で、自自連立が合意されたのです。
 連立交渉から基本政策にいたるまで、すべて小沢氏が一貫して
衝に当り、政策の一字一句まで詰めたといわれます。そしてこれ
は自民党による自由党政策の丸飲みというべき合意であったとも
いえるのです。
 小沢氏はこれを「無血革命」と称しています。合意書にサイン
した小沢氏は、自由党の側近たちとの祝勝会で次のように述べて
いるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 自民党はすでに保守党としての使命を終えている。9項目の政
 策は自民党内から生まれることなどありえなかった。外から変
 え、抑えるのが一番いい。(一部略)この連立を一言でいうと
 無血革命だ。9項目を見ればその意味がわかるだろう。
                  ──渡辺乾介著/小学館
              『小沢一郎/嫌われる伝説』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここでいっている「9項目」とは、前回ご紹介した合意書の大
項目の中の細目です。整理して以下に示しておきます。これは小
沢氏の著書、『日本改造計画』をベースとし、現在の民主党の政
策にもつながるものです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ◎第1項目(政治・行政改革)
  国会の政府委員制度を廃止し、国会審議を議員同士の討論形
  式に改める。
 ◎第2項目(政治・行政改革)
  与党の議員は大臣、副大臣、政務補佐官として政府に入り、
  与党と政府の一体化を図る。
 ◎第3項目(政治・行政改革)
  中央省庁の再編は1府12省とする。ただし、閣僚の数は、
  金融監督庁所管の大臣を加えて14人とする。
 ◎第4項目(政治・行政改革)
  国家公務員は平成11年度採用分から毎年新規採用を減らし
  公務員を10年間で25%削減する。
 ◎第5項目(政治・行政改革)
  衆議院、参議院とも当面、議員定数を50ずつ削減すること
  を目標として、自由民主・自由両党間で協議を行い、次の通
  常国会で公職選挙法の改正を行う。
 ◎第6項目(安全保障)
  わが国は、わが国が武力による急迫不正の侵害を受けた場合
  に限り、武力による阻止、反撃を行う。国際連合の総会また
  は安全保障理事会で国際平和活動に関する決議が行われた場
  合には、国連の要請に従い、その活動に従事する。
 ◎第7項目(安全保障)
   第6項目の原則に基づいて、法整備を整備する。
 ◎第8項目(税制改革)
  消費税については税率・福祉目的への限定(基礎年金、高齢
  者医療、介護等)などの抜本的見直しを行う。
 ◎第9項目(税制改革)
  所得税、住民税等の減税規模は10兆円を目途とする大幅減
  税を実施する。その内、法人関係税の実効税率は40%に引
  き上げる。     ──渡辺乾介著の前掲書よりのまとめ
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は小渕と小沢両氏は、政治改革の真の実現は自自連立では無
理であると考えていたのです。旧来の自民党の体質ではこの改革
は受け入れられないとみていたからです。
 そもそも自自連立が成立したのは、橋本自民党が1998年7
月の参院選で惨敗し、参院の与党少数のねじれ国会になったこと
がベースにあります。どこかと組まないと政権運営が困難になっ
ていたからです。現在の民主党と同じ状況です。
 小渕首相は別として、多くの自民党幹部は参院に多数の議席を
持つ公明党と連立を組んで、小沢の自由党を追い出すことを考え
ており、そのことは小渕・小沢両党首も百も承知だったのです。
 案の定というべきか、自自連立がスタートした翌年の1999
年10月に公明党が加わって自自公連立になったのです。これを
機に自民党は反転攻勢に出ます。政策会議に小沢氏が出てくると
仕切られてしまうので、自自公3党の幹事長会談を立ち上げて、
小沢氏の影響力を排除しようとしたのです。
 そういうわけで、小渕氏と小沢氏は自民党を解体し、他の保守
勢力と合わせて、保守新党を立ち上げる計画──保守合同を考え
ていたのです。実際に小渕・小沢両氏は、その新党協議を非公式
ではあるが、数回行っています。しかし、これに危機感を抱いた
のは、旧経世会と清和会などの自民党主流派です。
 「このまま傍観すると小沢にやられる!」──当時幹事長代理
の野中広務氏や官房長官の青木幹雄氏が小渕首相に強い縛りをか
けて小沢氏に同調しないようにしたのです。
 野中と青木両氏は、自由党内に手を突っ込み、連立維持派の抱
き込み工作をやったのです。このとき小沢氏を裏切り、自民党に
寝返った議員が今も自民党にたくさんいます。
 小沢氏は猛然とこれに抗議し、連立離脱を宣言して巻き返そう
とします。その板ばさみになったのは小渕首相です。おそらくこ
れが原因で、小渕首相に病魔が少しずつ巣食っていったのです。
こればかりは小沢氏の計算外のことだったのです。
 2000年4月1日、三党首会談が行われたのです。この時点
で小沢氏は連立離脱を決めており、公明党を取り込んだ自民党は
自由党にたいし、「お好きにどうぞ!」の姿勢だったのです。し
かし、小渕首相は悩みに悩んでおり、この会談終了後に小渕氏は
脳梗塞で倒れてしまうのです。── [日本の政治の現況/38]


≪画像および関連情報≫
 ●自由党とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  自由党は、かつて存在した日本の政党。憲政史上、数々ある
  日本の自由党と区別するため、小沢自由党と呼ばれることも
  ある。1998年1月5日に届出、1998年1月6日に結
  党大会を開いた。但し、法的には新進党分党によるものであ
  るため、1998年1月1日発足。2003年9月26日、
  解党し、民主党に吸収合併された。政策スローガンは「日本
  一新」である。           ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

野中広務氏.jpg
野中 広務氏
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2011年08月05日

●「自自公連立からの自由党の離脱」(EJ第3113号)

 2000年4月1日の自民、公明、自由の三党首会談──この
日、自民・公明両党は組んで小沢自由党を連立離脱させる方針で
会談に臨んでいます。小渕首相は党からそれを求められていたの
で、とても悩んでいたといわれます。
 『小沢一郎/嫌われる伝説』の著者、渡辺乾介氏の取材記録か
ら、会談でのやり取りを再現します。「神埼」というのは、神埼
武法公明党代表です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小沢:政策合意を実行する決意とそのスケジュールを示して欲
    しい。
 小渕:今国会では難しい。不可能と言っていいかもしれない。
 神埼:努力したいが、総理と同じだ。
 小沢:そういうことなら、月曜日の全議員懇談会で協議して態
    度を決める。
 神埼:それは連立離脱の発言と理解していいか。
 小沢:月曜日に結論を出すということだ。
 小渕:党に何と言えばいいのか。  ──渡辺乾介著/小学館
              『小沢一郎/嫌われる伝説』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 これで事実上自由党の連立離脱が決まったのです。その後9年
にわたって自公連立政権が続くことになります。そして、200
9年の衆院選で、民主党を指揮した小沢一郎氏に自公は敗れるの
です。小沢氏の政治家としての一貫性、粘り強さ、信念に対し、
自民党は再び政権交代を許すことになったのです。
 渡辺乾介氏によると、この3党首会談のあと、小渕首相と小沢
自由党党首は2人だけで、総理執務室で30分ほど話しているの
です。渡辺氏の取材記録を基にして、そのやり取りを再現するこ
とにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小渕:切り捨てるようなことになってすまんな。こうしなくて
    はならなくてな。俺もどうせ長くない。俺が全部任され
    ていれば、政策も保守新党もみんなできるんだが、俺も
    情けないけれど、任されていないんだ。
 小沢:政策はほどほどにして丸く丸くやればいいということは
    わかっているんですが、この時代、理念を掲げて政策を
    実行しなければならんということで、自由党を結成して
    やってきたものですから。
 小渕:それはわかっちょる。お互い立場があるんだから、しよ
    うがない。今日でケリをつけるよう言われているんだ。
 小沢:申し訳ありませんが、連立を解消しなきゃなりません。
 小渕:しかし、いっちゃん、またやろうな。また話ができるよ
    な。もっとも選挙の後は立場が逆になっているかもしれ
    ないけど・・・。じゃあ、またな。
    ──渡辺乾介著/『小沢一郎/嫌われる伝説』小学館刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 2人は握手して別れたそうです。小渕首相はその数時間後に病
変に襲われたのです。小渕、小沢両氏のこの最後のやり取りでも
分かるように、小渕首相は、自分が自民党の幹部の激しい反対に
遭い、小沢氏と約束した合意事項を実現できないことを非常に悩
んでおり、それが原因で脳梗塞になったものと思われます。
 しかし、小沢自由党が自自公連立から離脱するとき、自由党に
残った人たちに浴びせられたのは次の言葉だったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    小渕首相を病気に追い込んだのは小沢一郎である
―――――――――――――――――――――――――――――
 これはマスコミを使って派手に行われたのです。その中心には
野中広務、神埼武法の両氏がいたのです。このさい、小沢の勢力
を出来る限り削いでおこうという考え方です。
 さらに連立離脱のさい、自民党の工作により、50人いた自由
党議員のうち、26人が引き抜かれ、24人になってしまったの
です。例によってマスコミや評論家は「もう小沢は終り!」とさ
かんに書き立てたのです。小沢氏を排除したいと願うマスコミの
常套手段です。
 このとき自由党を出て行く人に対して小沢氏が「金を分ける」
いい出したのです。このときのことについて、かつての小沢氏の
側近である平野貞夫氏は次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 このときに、小沢さんは党の金を出て行った人に分けると言っ
 たんです。ぼくが小沢さんに「どの金を分けるんだ」と聞くと
 「政党助成金だ」と言うので、「憲法違反だ」と反対したんで
 す。直近の参議院選挙の比例票、「自由党」と書いてくれた五
 二〇万に対する政党助成金でしょう。自民党に手を突っ込まれ
 て党に離反して出て行く反党行為に出すのはおかしいと。する
 と小沢さんは、「ならば企業団体や個人献金とかほかの金をや
 る。それなら文句ないだろう」と言い出した。でもぼくは「野
 党から与党に行く議員に、党の資金をやるなんて話は民主政治
 の国ならどこにもないですよ」とそれも反対した。小沢さんは
 顔を真っ赤にして怒り、「あんたはこれで何回目だ。理屈を言
 ってぼくの評判を悪くするのは」と言う。結局、残っている人
 たちに聞いて結論を出そうということになった。でも、残って
 いる人たちも「ゼロ回答」だった。     ──平野貞夫著
       『日本一新/私たちの国が危ない!』/鹿砦社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 平野貞夫氏は、これを契機に「小沢は金に汚い」といわれるよ
うになり、それは自分のせいであると述懐しています。平野氏に
よると、小沢氏自身はカネに関しては潔癖なほどきれいてあり、
風評とは違うことを強調しています。それでも2000年6月の
衆院選では比例区において658万票を得て、小沢自由党は党勢
を回復しているのです。   ── [日本の政治の現況/39]


≪画像および関連情報≫
 ●小沢邸で考えたこと/平野貞夫氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  元日に小沢邸を訪ねた。昨年は大勢の政治家が押しかけると
  いうことで遠慮したが、今年は「小沢新年会」に顔を出した
  政治家を観察する魂胆があった。国会議員が120名ぐらい
  だったが、昨年の元旦、総選挙直後の160名と比べて遜色
  はなかった、というより、再生民主党の力としては十分だと
  思う。出席者で目立ったのは、海江田万里国務大臣・原口一
  博元総務大臣・細野豪志議員らであった。細野氏は「朝まで
  生テレビ」の元日放映に出演したばかりで眠そうだったが、
  少しの間、番組の話をした。司会の田原総一朗氏の「ソーシ
  ャル・ビジネス」と、細野氏が主張した「新しい公共事業」
  は似て非なるものだ。田原氏には何か企みがあるのではない
  か、と私は問いかけた。
     http://news.livedoor.com/article/detail/5259012/
  ―――――――――――――――――――――――――――

平野貞夫氏.jpg
平野 貞夫氏
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2011年08月08日

●「なぜ、政治改革が必要なのか」(EJ第3114号)

 小沢一郎氏が総理になったら、彼は何をするでしょうか。それ
は、小沢氏の著書『日本改造計画』(1993年/講談社)の中
にいくつかのヒントがあります。
 小沢氏はこの本で「政府は国際政治の舞台では、せいぜい民間
の『企業弁護士』的な役割しか期待されない」と述べているので
す。この「企業弁護士」とは何でしょうか。
 企業弁護士について小沢氏は次のように述べています。本が出
されたのが、1993年(平成5年)であることを前提に読んで
いただきたいと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本が「大国」の一つに数えられる存在になったことは誰も否
 定しないだろう。これまで幾度となく国連安保理の非常任理事
 国となり、先進国首脳会議(サミット)のメンバーでもある。
 何が現在の日本を「大国」にしているのか。技術力であり経済
 力である。ところが、その肝心の経済力は民間の手の中にあり
 政府の手中にはない。政府はひたすら民間の利益追求を極限ま
 で可能にすることを求められる。政府が果たすべき仕事は「企
 業弁護士」的な役割なのである。もし政府や官僚組織が公平な
 調整者としての立場をきっちり示さなければ、この傾向はます
 ます強くなるだろう。やがては政府や官僚組織は、個別の利益
 の擁護者、代理人、あるいは極端な場合には「人質」にされて
 しまう。こうなると、何が国益かという問題が出てくる。
        ──小沢一郎著/『日本改造計画』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 小沢氏は同書でこうも述べています。既に中国に抜かれ、世界
第3位になってしまったものの、日本が経済大国といわれるまで
に経済成長できたのは国際社会が存在していたからである、と。
自由と民主主義という共通の価値観によって貫かれている国際社
会のおかげで日本はそのメリットを受けて成長してきたのです。
 したがって、日本がこれからもさらに発展したいのであれば、
国際社会の理念にしたがって行動し、その発展のために協力する
必要があると小沢氏は強調するのです。
 しかし、湾岸戦争で日本は何ができたのかについて、日本人は
考えるべきであると小沢氏はいいます。湾岸戦争のような問題は
緊急な決定を次々としなければならないのです。しかし、現在の
日本は首相のイニシアチブで政策決定ができないのです。そこに
は大きな壁があります。小沢氏は湾岸戦争のさい、いやというほ
ど味あわされたのです。それが小沢氏をして政治改革に立ち上が
らせるきっかけになったのです。湾岸戦争が日本の政治・行
政のあり方に多くの欠陥があることを示したからです。
 小沢氏は自民党を離党し、与党となった細川連立政権で政治改
革の第一歩になる「政治改革四法」を成立させ、野党に転じてか
らも自自連立で国会改革の一部を実現しています。これについて
は既にここまで述べてきていることです。
 細川護煕氏は1993年8月5日召集の特別国会で首相に指名
され、9日に細川連立内閣が発足しています。その就任演説で細
川首相は次のように述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この内閣は政治改革をやるために生まれた。年内に政治改革関
 連法案を成立できなければ、私は責任を取る。 ──細川首相
  ──渡辺乾介著/小学館/『小沢一郎/嫌われる伝説』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 何と思い切りのよい、責任感あふれる発言でしょうか。小沢氏
はこの発言を聞いて感激し、「さすがだ!歴代の総理大臣で、こ
れだけのことを言った人はいない」と最大級の賛辞を贈ったので
す。結果はどうなったかというと、年内にはさすがに無理でした
が、次の年に「政治改革四法」は成立しているのです。
 その後細川氏と小沢氏の仲は不仲になったとされていますが、
2010年9月の民主党代表選で、既に政治家を引退している細
川護煕氏が、小沢支持の運動を続けていたことを知る人は少ない
と思います。日本のために小沢総理を何とか実現させたいと細川
氏は考えていたからです。
 自民党は当時の圧倒的な細川人気に危機感を感じ、細川氏のス
キャンダルを追及し、退陣させています。そのとき官僚組織が少
なからず、自民党に協力しているのです。このように小沢氏が少
しでも台頭すると、自民党と官僚組織は手を組んで小沢潰しに動
く体制をとってきているのです。
 2004年5月10日、民主党代表の菅氏は年金未加入問題で
辞任しています。実際にはそういう事実がなかったことがあとで
判明するのですが、このとき菅氏はあっさりと辞任したのです。
そこで民主党は、後任に代表代行の小沢氏を立てようとしたので
す。小沢氏もそれを受けるつもりで準備していたのです。
 ところが、「小沢一郎に年金未加入期間あり」という情報が流
れたのです。国民年金が任意加入だった80〜86年と古い衆院
議員当選以前の11ヵ月間が未加入であったというのです。
 すべて加入義務のなかった時期であり、何の問題もないので周
辺は小沢氏に代表に就任するよう求めたのですが、小沢氏はその
情報発信源を独自のルートで調べたところ、それが首相官邸であ
ることがわかったのです。
 それがわかると、小沢氏は即座に代表を辞退しています。もは
や周囲がどのように説得しても、小沢氏の決断は動かなかったの
です。小沢氏はこれは「小沢潰し」であり、その包囲網が敷かれ
ていることを察知したからです。
 相手は誰か。それは自民党時代から反小沢包囲網を敷き、その
司令塔的存在であったYKKの1人である小泉純一郎氏であり、
そのとき首相の地位にあったのです。当時小泉首相は「消えた年
金問題」をかわすため、閣僚をはじめ、与野党の政治家の年金加
入状況を調査させ、その結果を政治的に利用したのです。
              ── [日本の政治の現況/40]


≪画像および関連情報≫
 ●細川護煕首相退陣のいきさつ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  連立の一致点であった政治改革が曲がりなりにも実現したこ
  ともあり、政権は国民福祉税構想の頓挫以降急速に求心力を
  失っていく。早期からあった「一・一ライン」とさきがけ代
  表の武村官房長官との対立も、政権運営の手法や政治改革の
  方法などに加え税制改革をめぐって深刻化。武村は悪化が明
  らかになってきた景気へのてこ入れを優先し政治改革法案は
  継続審議にすべきと主張する自民党に同調し、幹部とも頻繁
  に接触していた。また小池百合子は、北朝鮮有事に際し、ア
  メリカ側から北朝鮮に宥和的な社会党や武村の存在を問題視
  されたのも、武村更迭の一因だと後に述懐している。
                    ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

細川護煕氏.jpg
細川 護煕氏
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2011年08月09日

●「首相官邸はこうあるべきである」(EJ第3115号)

 首相が名実ともにトップに立って、政治をリードしていく体制
──これをつくる必要があると小沢一郎氏は主張するのです。首
相周辺のスタッフを充実化させ、緊急課題を的確に判断して処理
すると同時に長期ビジョンに基づいて政策を立案する体制──こ
れが必要であるというのです。
 それには戦前の岡田内閣のようになってはならない──小沢氏
はそう考えたのです。岡田内閣で何があったのでしょうか。
 岡田内閣というのは、退役海軍大将の岡田啓介が第31代内閣
総理大臣に任命され、1934年(昭和9年)7月から1936
年(昭和11年)3月まで続いた内閣のことです。
 岡田啓介首相は、内閣直属の内閣調査局を作り、政策立案ブレ
ーン制を導入したのです。この調査局は各省の政策を横断的に統
合して国策にするのが任務だったのです。そしてこの内閣調査局
には、次の3つの特色があったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1.全体合議制の導入
         2.15人専任調査官
         3.民間人の積極採用
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、内閣調査局は内閣にとってはまったく役に立たない存
在だったのです。それでいて内閣調査局の影響力の方は著しく拡
大し、やがて企画院として、独立官庁になってしまったのです。
このようにして官僚組織は自己増殖するのです。
 したがって、小沢氏は官邸機能の拡充強化は、首相のブレーン
を拡充する補佐官制度を導入するという方向で行うべきであり、
官僚組織を拡充させてはならないと考えたのです。
 そのためには、首相秘書官や官房長官、官房副長官で構成され
ている現在の官邸ではなく、首相の手足になる部分を多彩な人材
から成る補佐官群によって増強し、首相の頭脳を分担するための
ブレーンつくる──これが小沢氏のいう補佐官制度です。
 『日本改造計画』には、小沢氏の考える「将来の首相官邸」図
が、「現在の首相官邸」図(1993年当時)との対比で掲載さ
れているので、その図を添付ファイルにしてあります。与党の幹
事長として官邸と接した経験に基づく改革案です。
 その大きな特色は、官房長官を主席補佐官にしている点にあり
ます。内閣を首相を中心として位置づけるためです。小沢氏はこ
れについて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 内閣官房長官を首席補佐官とするのは、内閣を名実ともに、首
 相を中心としたものに位置づけるという狙いである。また首相
 の側近を一元化することによって、官邸の柔軟な運営が可能に
 なる。もちろん、首席補佐官は国務大臣であり、閣僚として閣
 議に出席する。閣議では官邸を代表する立場から積極的に論議
 をおこし、議長である首相と一緒になって閣議をリードする。
 首席補佐官のもう一つの重要な役割は、拡充した官邸の調整役
 である。首席補佐官はそれに徹する。私は、ホワイトハウスに
 おける大統領首席補佐官が果たしている役割を念頭に置いてい
 る。人選でも、その点が考慮されるべきだ。最近、官房長官の
 重要性が認識されてか、有力政治家が登用される傾向がある。
 しかし、首席補佐官はあくまで首相スタッフの長であり、任期
 中はある程度までは個性を抑えて職務に尽くす必要がある。政
 界内での地位よりも、首相との信頼関係を重視した方がよい。
        ──小沢一郎著/『日本改造計画』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在の内閣官房長官は枝野幸男氏であるが、そのイメージは内
閣報道官です。小沢氏によると、これも改めるべきであり、報道
官は広報補佐官をあてるべきであるといっています。
 なぜかというと、首席補佐官はあくまで陰の調整役であり、あ
まり表面には出ない方がよいからです。陰の調整役と表の広報役
の一人二役ではどちらも満足に任務が果たせなくなる──このよ
うに小沢氏はいっています。
 企画補佐官は何をするのでしょうか。これは首相の発言を企画
し、首相の世界への発信を助ける専門家であり、実質的な「コミ
ュニケーション補佐官」です。現在、世界では、首脳発言が非常
に重要になっていますが、日本だけは、担当閣僚が発言する──
これではきわめてインパクトが弱いと小沢氏はいうのです。
 それでは、現在の官房副長官の仕事は誰がするのでしょうか。
 それは調整補佐官と政務補佐官が行うのです。これらの補佐官
は、首相と一体となって動く存在であり、スタッフも首相と共有
することになります。
 ところで、内閣審議室は何をするのでしょうか。
 内閣審議室について小沢氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 閣議を本当の意味の討議の場にするため、審議室を、議案を閣
 議にはかる前の予備的な調整機関とする。これによって、実質
 的な調整機能を官邸に持ってくることができる。審議官はこれ
 まで通り各省庁からの出向者を中心とし、一部民間人を加える
 ことを検討すべきだ。彼らは実質的な調整権限を持っているの
 で、各省庁は上位の官僚を派遣しなければ、その省庁の意向を
 反映することができない羽目になる。
        ──小沢一郎著/『日本改造計画』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 1993年の時点において小沢氏は首相官邸についてこれだけ
の構想をもっているのです。この考え方は現在でも十分通用する
はずですが、何ら取り入れられていないのです。
 しかし、どんな立派な首相官邸をつくっても肝心の首相自身が
一国を治める器量や能力、リーダーシップを持っていないと機能
しないのです。間違って首相を選ぶと何が起きるか。民主党議員
はよくわかったはずです。  ── [日本の政治の現況/41]


≪画像および関連情報≫
 ●企画院とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  企画院の前身は1935年(昭和10年)5月10日に設置
  された内閣総理大臣直属の国策調査機関である内閣調査局に
  ある。「重要産業統制法」(1931年7月公布)から始ま
  り、五・一五事件を経て二・二六事件以後の陸軍内での統制
  派の勃興以後、所謂「新々官僚(新官僚)」の牙城・内閣調
  査局の権限は強まり、より強力な重要政策を立案する組織と
  して1937年5月14日に企画庁へ改組。同年10月25
  日に内閣資源局と統合し企画院が発足した。
                    ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

首相官邸のあり方.jpg
首相官邸のあり方
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2011年08月10日

●「与党と内閣の一体化/小沢提案」(EJ第3116号)

 日本の政治体制は「議院内閣制」です。議院内閣制とは、立法
権を有する議会と行政権を有する政府(内閣)が分立しています
が、政府は議会の信任によって存在するとする制度のことです。
議会内閣制、政党内閣制などとも呼ばれます。議会と政府の関係
を整理しておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
        議会 ・・・・・・ 立法権
        政府 ・・・・・・ 行政権
―――――――――――――――――――――――――――――
 議会の多数派が内閣を組織し、責任を持って政治を担当する制
度であり、立法府の多数派と行政府が手を握るのですから、本来
であれば、首相は強力な指導力を発揮できるはずです。
 しかし、皮肉なことにその制度自体が、首相のリーダーシップ
の足を引っ張っていると小沢氏は指摘するのです。その理由につ
いて小沢氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところが、(日本の場合)戦前からの官僚制を温存したため、
 権力の中枢は「官」であり、政治家は「民」の代表にすぎない
 という意識をそのまま引きずってきた。だから、たとえ国会の
 多数派となって、ある政党が政権を担っても、統治機構の外部
 の存在にすぎないという意識が残りつづけた。たとえば、与党
 である自民党は、しばしば「政府」に対して「要望」を出して
 いる。このような習慣があるのは、「官」としての政府が政治
 の頂点であり、与党はその周辺に存在しているものという図式
 になっているからだ。議会内の多数派である与党が名実ともに
 政権を担当するという意識が欠けているのではないだろうか。
 憲法に定められた制度は建前上の制度であり、実際には、戦前
 のように権力が「官」の世界に分散している状態がつづいてい
 るというほかない。
        ──小沢一郎著/『日本改造計画』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 内閣における一番重要な会議が「閣議」です。政策はすべて閣
議にかけられ、合議されることになっています。閣議の意思決定
には「閣議決定」と「閣議了解」がありますが、「意思決定は閣
僚の全員一致を原則」とするのです。
 議院内閣制の下では、各省庁のトップである大臣は同時に国政
全体に責任を持つゼネラリストとしての国務大臣の役割があるの
です。したがって、閣議に参加するときの資格は本来国務大臣と
してなのであり、各省庁の代表としてではないのです。
 しかし、現実には、各大臣は各省庁の代表として参加しており
ほとんどの大臣は自分の省庁についての知識がないので、官僚の
言い分を代弁する役割をしているに過ぎないのです。これでは閣
議において政策の調整をすることはきわめて困難になります。し
かも、「意思決定は閣僚の全員一致を原則」とするからです。
 そうなると、閣議にかけられる案件は事前に根回しの済んでい
るものに限られることになります。そこで実際にその調整をする
のは各省庁の事務次官であり、閣議の前日に開かれる事務次官会
議において提出案件が決められることになります。そうならざる
を得ないのです。そのため、閣議そのものは単なる儀式に過ぎな
いものになってしまいます。
 しかも、民主党政権では、その事務次官会議をかたちのうえで
は廃止しているので、閣議にかけられる案件の調整が、不十分に
なっているのです。その解決策として小沢氏は次のことを提案し
ているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 具体的にどうするか。まず党の重要な役職者を内閣に取り込ん
 でしまう。そして、党の政策担当機関を内閣のもとに編成しな
 おし、正式な機関として位置づける。党の中枢イコール内閣と
 いう体制にするのである。まず、与党の重要ポストを内閣に取
 り込むことだが、イギリスでは、中世以来の重要ポストで現在
 は名目化している閣僚ポストに、議会運営の責任者や特命事項
 の担当者を任命する慣行ができている。それを参考にして日本
 でも、法案について内閣が責任を十分負えるよう、与党側の議
 会運営の最高責任者、たとえば幹事長を閣僚にする。それによ
 って、内閣と与党が頂点で一つになり、責任を持って政治を運
 営できる。  ──小沢一郎著/『日本改造計画』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 上記の小沢氏の考え方に基づいて、民主党は各省庁に副大臣や
複数の政務官を入れたのです。それまで各省庁の大臣は「民」の
代表としてひとりぼっちで省庁に乗り込んだのです。大臣の下に
は官僚のトップである事務次官がいるので、これでは官僚が反対
する政策がスムーズに進むはずがないのです。
 政務官の正式名称は「大臣政務官」といい、そのポジションは
副大臣の下で、事務次官の上であって権限はあるのです。そのた
め、大臣としては自分の下に政治家の部下がいることによって、
以前よりは仕事が進めやすくなったことは確かです。
 しかし、いかんせん政治家に経験が不足していることや官僚が
抵抗してサボタージュをすることによって必ずしも仕事が順調に
進んでいるとはいえない状況にあります。それに人数も明らかに
足りないのです。
 小沢氏は『日本改造計画』において「省庁ごとに2〜3人の政
務次官と4人〜6人の政務審議官のポストをつくり・・」と述べ
ています。政務次官を副大臣、政務審議官を政務官と考えると、
大臣の下には6人〜9人のスタッフが入ることになります。これ
によって、160人程度の議員が政府に入ることになりますが、
小沢氏は1993年の時点で著書においてそのことを提言してい
るのです。民主党政権でそのことが一歩進んだと思いますが、最
初からうまくいかないのは当たり前の話です。継続して時間をか
けるしかないのです。    ── [日本の政治の現況/42]


≪画像および関連情報≫
 ●「大臣政務官」について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  大臣政務官は、国会審議の活性化及び政治主導の政策決定シ
  ステムの確立に関する法律により、従来の政務次官を廃止し
  て副大臣とともに設けられた。従来の政治任用ポストであっ
  た政務次官は権限も小さく役割も不明確であったため、「省
  庁の盲腸」と揶揄され軽んじられてきた。この点を反省し、
  国会審議の活性化と政治主導の政策決定システムを確立する
  ため、国会における政府委員制度を廃止し、副大臣と大臣政
  務官に適材適所の実力者を登用することとした。
                    ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

歴代内閣総理大臣の花押.jpg
歴代内閣総理大臣の花押
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2011年08月11日

●「日本は経済運営に失敗している」(EJ第3117号)

 現在の日本は、こと経済に関してはあまりにも無策というか、
明らかに政策を間違えているとしか思えないのです。それは次の
数字を見れば歴然としています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    ≪株価≫
    1989年12月末
     日経平均 ・・・・・・ 38915 円
     NYダウ ・・・・・・  2753ドル
    2010年12月末
     日経平均 ・・・・・・ 10229 円
     NYダウ ・・・・・・ 11577ドル
    ≪名目GDP≫
    1991年
     日  本 ・・・・・・  467 兆円
     アメリカ ・・・・・・  5.9 兆ドル
    2010年
     日  本 ・・・・・・  480 兆円
     アメリカ ・・・・・・ 14.6 兆ドル
                   出典/中浜経済研究室
      http://money-clinic.co.jp/economy/blog/652.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 株価については約20年経過しているのに日経平均は 0.26
倍、NYダウは4.2 倍になっています。名目GDPで見ると、
日本は1.02 倍(横ばい)であるのに対し、米国は2.47 倍
に増加しています。日本は、20年前から一向に成長していない
ということになります。
 米国もリーマンショックがあり、けっして経済はよくないにも
かかわらず、この差がついています。日本はGDPが増えず、株
価は4分の1、地価は半分以下、給料も増えず、物価も上がらな
いという構図です。日本の経済運営は明らかに失敗しているとし
か思えません。
 まして東日本大震災以後は、増税、増税、増税です。まず、自
民党が消費税増税10%を打ち出し、2010年に菅首相がそれ
に呼応するように消費税増税10%を掲げて参院選を戦い、惨敗
し、ねじれ国会の原因をつくっています。
 日本の財政赤字が危機的状況にあることは否定しませんが、国
民には正しい実態が知らされているとは思えないのです。これに
ついては改めてきちんと述べますが、少なくとも現時点での増税
が日本経済にもたらす影響には深刻なものがあります。
 この20年間の経済運営は自民党と財務省がやってきたのです
が、明らかに経済運営に失敗しています。とくに依然としてデフ
レから脱却できない日本──自民党、財務省、日銀の責任は重大
です。民主党政権になってからは、財務省は、菅、野田財務相に
働きかけ、彼らの描いたシナリオに沿って増税路線を進ませよう
と画策しているのです。
 しかし、なぜ、こうも単純に増税推進になってしまうのでしょ
うか。他の経済運営の手段はないのでしょうか。自由党党首時代
の小沢氏は、2003年5月24日に新進党代表のとき以来、4
年半ぶりに代表質問に立ち、はげしく自民党を批判したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (1996年総選挙で)所得税・住民税の半減、法人税の大幅
 引き下げを柱とする18兆円の大減税を訴えました。国民が自
 分の所得の使い道を自分で決められる仕組みに改めるとともに
 可処分所得を増やすことで個人消費を拡大し、景気の回復にも
 役立つと考えたからであります。(中略)政府・自民党は『財
 源はどうするのか。無責任なばら撒きだ』と激しく攻撃しまし
 た。私たちは一時的に国債を増発しても、景気回復による税の
 自然増収と行政経費の削減によって十分カバーできると反論し
 ましたが、聞く耳を全く持ちませんでした。(中略)一方で政
 府・自民党は相変わらず、従来型の公共事業と国債増発を続け
 その結果、国債発行残高は平成8年度(1996年)の245
 兆円から現在の428兆円にまで急増、国家財政は破綻状態に
 陥っています。(中略)仮に、私たちが主張したように、全額
 国債を財源として18兆円減税を実施しても、今年度(200
 3年)までの6年間で108兆円にしかなりません。平成9年
 度(1997年)から18兆円減税を断行していれば、少なく
 とも日本経済と国家財政が、今のように破滅的になることはな
 かった。
  ──渡辺乾介著/小学館/『小沢一郎/嫌われる伝説』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このときの小沢氏の代表質問について渡辺乾介氏はこう記述し
ています。「小沢氏は、自民党政治が招いた国と社会の危機を指
摘したくだりでは悔恨を叩きつけ、咆哮せんばかりの激しさであ
り、議場はどよめいた」と。
 事実自民党政権が政権を担っていた2009年までの国債残高
は、800兆円に膨らんだのです。この経済失政は自民党に全責
任があります。そうであるのに、政権を再び取り戻すために特例
公債法を人質に取り、菅政権を解散・総選挙に追い込むという姑
息な戦略を取ろうとしています。
 自民党としては、菅首相のままで選挙を戦いたいのです。最近
自民党が行った独自の世論調査によると、今選挙をすると、自公
で過半数が取れるという結果が出たからです。これによって、菅
首相のままで選挙をした方が得策である──そのように判断して
作戦を変更したものと思われます。
 東日本大震災の被災地復旧や復興が進んでいないなか、政局の
ために国民の生活をさらにドン底に落とすようなことをしようと
する自民党は明らかに間違っています。公約を平気で変更する現
在の民主党政権は本来の民主党ではないといえます。国民は冷静
に判断すべきです。     ── [日本の政治の現況/43]


≪画像および関連情報≫
 ●「エコノMIX異論正論」/池田信夫氏のコラム
  ―――――――――――――――――――――――――――
  参議院選挙が7月11日に決まったが今回も「不毛の選択」
  といわざるをえない。民主党は鳩山首相から菅首相に代わっ
  ても「行き過ぎた市場原理主義」を嫌悪して所得再分配ばか
  りいう方針は変わらない。それに対して自民党は「小さな政
  府」という対抗軸を打ち出すことに失敗し、選挙の争点がよ
  くわからない。あとの新党は、ポピュリズムや意味不明なも
  のばかり。この調子では、日本経済の「失われた20年」は
  25年年ぐらいに延長されそうだ。
  http://www.newsweekjapan.jp/column/ikeda/2010/06/20-1.php
  ―――――――――――――――――――――――――――

小沢一郎氏代表質問.jpg
小沢 一郎氏代表質問
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2011年08月12日

●「日本は財政危機ではない」(EJ第3118号)

 今まで日本の財務省は、長期にわたって日本の財政がいかに危
機的な状態にあるかを国民に印象づけてきています。したがって
民主党が国民に約束したマニュフェストの目玉である「子ども手
当」を事実上降ろしても、国民にはあまり怒りがなく、子ども手
当廃止の是非を世論調査で聞いても、賛成が反対を大きく上回っ
ています。
 実際に子ども手当が廃止されて、大きなマイナスになる世帯に
聞いても「国の財政が厳しいときであるから仕方がない」という
殊勝な返事が返って来るのです。こんなことをいう国民はおそら
く世界中で日本人だけだと思います。これは、財務省の洗脳が国
民の間にいかに浸透しているかを示しています。
 これはとても恐ろしいことです。かつての戦争もこういう国民
への洗脳によって引き起こされているからです。日本人は昔から
「官」に弱く、お上のいうことは正しいと素直に信じてしまう傾
向があるのです。
 結論からいうと、「日本は未曽有の財政危機にある」というの
は財務省のウソです。財務省はもちろん本当のことを把握してい
て、それらの情報をコントロールし、増税に世論を誘導しようと
していますが、民主党は、首相をはじめ、現政権の閣僚や執行部
がどれほど本当のことを理解しているのか、非常に疑問に思いま
す。少なくとも菅首相は日頃の言動から、経済のことはまったく
わかっていないと思います。この財務省のウソについて、EJで
は、いろいろな角度から実証していきたいと思っています。
 2010年2月のことです。5日からカナダ・イカルウィット
で開かれたG7で、菅副総理・財務相(当時)は日本の財政赤字
について何か問われるのではないかとすごく心配していたという
のです。なにしろ、日本はGDP比でギリシャよりも財政赤字を
積み上げているので、ギリシャのようになりかねないと菅氏は本
気で心配していたようです。
 これについては、「極東ブログ」の2010年2月9日付の記
事からご紹介することにします。このブログでは英和対比による
解説があり、詳しくはブログを参照願います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ≪極東ブログ≫
 http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2010/02/post-62ee.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 2010年2月8日付のフィナンシャルタイムズ紙の社説は、
日本の財政赤字について、次のように論じています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    Japan’s debt woes are overstated
    日本の財政赤字問題は深刻に悩まなくてよろし
―――――――――――――――――――――――――――――
 フィナンシャルタイムズ紙は、日本はギリシャのように債務不
履行にならないとして、その理由を次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.債務の全体が誤解されやすい。日本国の債務は、国の保有
   分を相殺すれば、GDPの100%以下になる。
 2.日本の国債償還費は低く、GDPの約1.3 %。対するに
   米国は1.8%、英国は2.3 %、イタリアは5.3 % 。
 3.日本の財政には遊びの余地がある。消費税はわずか5%に
   すぎない。
 4.日本の債務の95%は国内で消化されている。外国人が気
   まぐれに影響を与えることはできない。
  以上の4つを上げて、結論として次のように書いています。
 つまり、日本の問題は依然貯蓄の過剰にある。日本の銀行には
 預金がじゃぶじゃぶしていて、投資先が必要になっている。し
 ばらくの間は、日本政府が国債の安定した買い手を探すことに
 はならない。日本の財政赤字問題は、お家の都合で解消されう
 るものだ。
―――――――――――――――――――――――――――――
 フィナンシャルタイムズ紙といえば、1888年創刊で、発行
部数44万部、世界140ヶ国、のべ150万人が読む世界最高
峰の国際経済紙です。そこにはっきりと「日本の財政は心配する
ことはない」という記事が出ているのです。
 もちろん、膨大な債務に見合う債権があるとはいえ、財政赤字
があまりにも多いのは、褒められたことではありませんが、多く
の日本人が財務省のキャンペーンによって信じ込まされている事
実とはかなり異なるのです。そんなことは、世界では常識に属す
ることです。知らないのは日本人だけです。
 ちなみに、フィナンシャルタイムズ紙の記事には、解決の処方
箋まで付いているので、その一部をご紹介します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日銀、仕事をしろよ。日銀は国債買い上げをして、その分市場
 に貨幣供給ができるのだ。日本の財政状況は見た目ほどには悪
 くはないのだから、もうちょっと名目成長率を上げれば、全体
 の見た目も大きく改善できる。──フィナンシャルタイムズ紙
―――――――――――――――――――――――――――――
 もし、日本の財政が本当に危機的であれば、米国債の格付けが
下がったからといって、世界が円を買うはずはないのです。それ
にしても、政府(財務省)も日銀は、なぜ本気で事態の解決に動
かないのでしょうか。
 「失われた10年」といっていましたが、いつのまにか「失わ
れた20年」になり、このままでは「失われた25年」になって
しまいます。なぜ、いつまで、デフレをそのままにしておくつも
りでしょうか。そうしておいて増税とは経済に対してどういう考
え方をしているのか理解できません。
 民主党の政治家はよく勉強していると思っていたのですが、一
部の議員をのぞいてどうやら経済には弱いようです。しっかりと
勉強して欲しいものです。  ── [日本の政治の現況/44]


≪画像および関連情報≫
 ●「失われた20年」/関連ブログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  このブログで何度も書いてきたように、デフレ不況から脱却
  するために有効な政策を発動できるのは政府・財務省(財政
  政策)と日銀(金融政策)のみである。個別企業や個人の合
  理的な努力は無力なのだ。にもかかわらず、日本はこの20
  年間、財政支出の拡大が必要な時には「財政再建」を目指し
  て増税・歳出削減を行い、また、ようやくインフレ率がマイ
  ナスからプラスへ転じようとすると金融引き締めを行いデフ
  レに引き戻すという、信じられないような財政政策と金融政
  策を繰り返してきた。その結果が「失われた20年」であり
  「失われた3200兆円」なのである。
     http://philnews.seesaa.net/article/155723935.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

財務省.jpg
財務省
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2011年08月15日

●「『江藤惇』の小沢一郎への引退勧告」(EJ第3119号)

 菅首相がやっと退陣を表明したので、次の首相選びが騒がしく
なってきています。こうなると、現在、座敷牢に入牢されている
小沢一郎氏が、またしても、どう動くかが最大のかぎとなってき
ているのです。またしても小沢中心の政局です。
 石川知裕議員の本に、作家の江藤惇氏のコラムについて触れた
部分があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「帰りなん、いざ、小沢一郎に与う」
 小沢君よ、その時期については君に一任したい。しかし、今こ
 そ君は新進党党首のみならず衆議院の議席をも辞し、飄然とし
 て故郷水沢に帰るべきではないのか。そして、故山に帰った暁
 には、しばらく閑雲野鶏を友として、深く国事に思いに潜め、
 内外の情勢を観望し、病いを養いつつ他日を期すべきではない
 のか。        ──1997年3月3日付、産経新聞
                      ──石川知裕著
         『悪党/小沢一郎に仕えて』/朝日新聞出版
―――――――――――――――――――――――――――――
 江藤惇氏といえば、戦後日本の著名な文芸評論家であり、小林
秀雄亡き後の文芸批評の第一人者であり、20代の頃から長らく
文芸時評を担当し、文壇に大きな影響力を与えた作家です。19
99年に亡くなっています。
 この江藤惇氏のコラムを小沢一郎氏への「引退勧告」と解釈し
「文藝評論家の江藤惇もいうように・・」と小沢氏へ引退を勧め
る政治評論家も少なくないのです。
 しかし、これは「引退勧告」ではないのです。石川氏は江藤先
生の真意を知っているといいます。なぜなら、江藤惇氏と小沢氏
が軽井沢ではじめて会ったとき、運転手として小沢氏を送って行
き、江藤先生と小沢氏が話しているとき、石川氏はすぐ側にいた
からです。コラムの後半部分にその真意を解く鍵があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小沢一郎が永田町を去れば、永田町は反小沢の天下になるのだ
 ろうか?かならずしもそうとはいえない。そのときむしろ、無
 数の小・小沢が出現する可能性が開けると見るべきである。な
 ぜなら、反小沢を唱えさえすれば能事足れりとして来た徒輩が
 今度は一人ひとり自分の構想を語らざるを得なくなるからであ
 る。         ──1997年3月3日付、産経新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 江藤惇氏はこういいたかったのです。「小沢一郎が政界からい
なくなってはじめて小沢の必要性に国民は気が付くはずだ」と。
つまり、この言葉は江藤淳氏から小沢一郎に対するエールだった
のです。石川氏はこれについて、次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、小沢一郎という便利な合わせ鏡″がなくなれば、多
 くの政治家は「自画像」を描けなくなる。多くの政治家が座標
 軸を見失い、政界は混乱に陥るということだろう。小沢一郎に
 は、自分の国家観を示したテキストが複数存在する。中でも、
 『日本改造計画』は出版から20年近くたっても、いまだに読
 まれている。一方、菅直人さん、岡田克也さんや前原誠司さん
 あるいは仙谷由人さんはどうか。彼らがマニフェスト以外に、
 中長期に日本が取るべき方向性を個別・具体的に論じたり、独
 自の政策集をまとめたりしたという話は聞いたことがない。江
 藤先生が指摘するように、「自分の構想」をいつ語るのだろう
 か。                   ──石川知裕著
         『悪党/小沢一郎に仕えて』/朝日新聞出版
―――――――――――――――――――――――――――――
 考えてみると、自分が首相になって日本という国家をどのよう
にして治めていくかについて事前に明確に示した政治家はきわめ
て少ないのです。1993年の時点で小沢氏が日本という国のあ
り方について論じた『日本改造計画』(講談社刊)を発刊してい
ることはきわめて希有なことです。そういう人にして、はじめて
「政治主導」を実現できるのです。
 しかし、政治家の多くは、首相になれるチャンスが出てきた時
点で、その政権構想を雑誌などで発表するスタイルがほとんどで
す。今回の民主党の代表選で、出馬を表明している野田財務大臣
が、8月10日発売の月刊誌『文藝春秋』に「わが政権構想」と
題する論文を発表したあのスタイルなのです。それでも政権構想
を事前に発表するのはマシの方で、菅首相などはそれすらもやっ
ていないのです。
 もっとも既に強固にでき上がっている官僚組織に最初から乗る
つもりであれば、何とか首相らしいことはさせてもらえるでしょ
う。しかし、現在のように世界が多極化し、経済がグローバル化
して変動が激しく、とくに先進国においては首脳発言が注目され
るときには、官僚任せでは国家を治めることは困難です。
 経産省の古賀茂明氏は、民主党の政治主導について、国をバス
会社に例えて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 バス会社に例えると、政治家は経営者、官僚は運転手。自民党
 時代はバスの運転手に運転を任せっきり。順調に運行している
 ように見えても全体の路線図に不備があり、いろんな場所で、
 人々が置き去りにされた。民主党政権に代って「オレたちが乗
 る」とバスの運転を始めたが、いろんな所で事故を起こして混
 乱してしまっている。運転は官僚に任せ、大臣は路線図の書き
 換えを行うという役割分担が必要だ。
         ──2011年8月13日付、朝日新聞より
―――――――――――――――――――――――――――――
 政治は大きな方向性を決め、それを官僚がスピーディーに実行
するという役割分担が機能不全になっているのです。それができ
るリーダーがいま日本で求められています。
              ── [日本の政治の現況/45]


≪画像および関連情報≫
 ●野田佳彦財務相が「政権構想」発表
  ―――――――――――――――――――――――――――
  民主党代表選に出馬する意向を固めた野田佳彦財務相が十日
  発売の月刊誌「文芸春秋」で発表する政権構想が九日、明ら
  かになった。財政再建を「未来への責任」と指摘し、消費増
  税を含めた税制改革の実現に取り組む決意を表明している。
  野田氏は、政府・与党が消費税率を「二〇一〇年代半ばまで
  に、段階的に10%」と決めた六月の社会保障と税の一体改
  革案について「覚悟を持って実現していく」と強調。社会保
  障制度の財源を安定させることで「雇用、消費の拡大を促し
  経済成長につながる」としている。
         ──2011年8月10日付、東京新聞より
  http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2011081002000040.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

江藤惇氏.jpg
江藤 惇氏
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2011年08月16日

●「鳩山氏も『小沢外し』をしている」(EJ第3120号)

 鳩山・菅首相の下での民主党政治によって、せっかくの政権交
代が無意味になろうとしています。とくに菅首相は、内閣不信任
案可決の間際に追い詰められ、その場しのぎの退陣を口にして党
員を欺き、2ヵ月以上も政権に居座り続けて、今ごろになって、
やっと辞任を口にする始末です。
 2010年の参院選での大敗でも誰ひとりとして責任を取らず
不幸にして起こった3・11の東日本大震災や福島原発事故に対
しても政府は稚拙な対応を繰り返し、復旧・復興対策は大幅に遅
れ、被災地から強い不信を買っています。
 それに加えて首相がいったん辞任を表明しながら居座ったため
に生じた外交空白による国益の喪失、国民との約束のマニュフェ
ストの取り下げなど、失政に次ぐ失政を重ねてテンとして恥じる
ところがないのです。
 民主党がこういう事態に陥った最大の責任は、菅内閣の閣僚や
執行部に加えて、2010年9月の民主党代表選で「菅直人」に
投票した民主党の議員全員にあります。しかるに、現在ポスト菅
の有力後継者として名乗りを上げているのは野田財務相であり、
それを仙谷、前原、岡田の3人が支える構図になる可能性が十分
あります。彼らには既に前科があるように、「責任を取る」とい
う意識がぜんぜんない人たちのようなのです。
 どうして鳩山内閣と菅内閣は、このような失政を重ねることに
なったのでしょうか。
 結論から先にいうと、その原因は、両内閣ともに「小沢外し」
を画策したことにあります。このようにいうと、鳩山内閣のとき
は違うのでは・・と考える人が多いと思いますが、実は程度の差
こそあれ、鳩山、菅両氏ともに「小沢外し」を行い、結果として
政権運営に失敗しているのです。
 鳩山政権最大の失敗は、幹事長の小沢氏を政策決定の場から外
したことにあります。既に述べたように、民主党の議員は政権交
代をすると、一斉に小沢氏排除に乗り出しているのです。鳩山首
相は小沢氏に幹事長を引き受けてもらうことは考えていたのです
が、政策の決定には関わってもらいたくなかったのです。
 本当は、選挙前と同様の代表代行(選挙担当)をやってもらい
たかったのですが、それでは政権交代の功労者である小沢氏にあ
まりにも失礼であるとして、幹事長を打診したのです。しかし、
「選挙と国会運営」に限定して、政策決定には関わらせないよう
にしたのです。結果として、これが鳩山政権が窮地に陥ったとき
小沢氏が助けられなかった原因になるのです。
 新聞報道で間違っているのは、小沢氏が政策調査会を廃止した
としていることです。これは、鳩山氏の周辺にいる官僚出身議員
が、一般議員に政策を作らせると族議員化するからということで
政府に一元化することに決めたのです。これについても、小沢氏
に政策に関わって欲しくないということから決まったことです。
 これら一連のことを「小沢外し」といわずして、何というので
しょうか。与党政治がどういうものであるかを一番熟知している
小沢氏を外しても政権運営できるという思い上がりが鳩山政権を
迷走させたのです。
 しかし、小沢氏はそういう不当な条件をすべて受け入れている
のです。なぜかというと、民主党にとって一番重要なことは、次
の参院選(2010年7月)であり、そこで勝たなければ政治改
革は何も進まないと考えたからです。
 しかし、小沢氏にも誤算があったのです。まさか、自分の秘書
3人が逮捕されるとはさすがに考えていなかったからです。それ
は、官僚機構がそれほど小沢氏が力を握ることを恐れていること
を意味しています。
 しかし、鳩山内閣の支持率はどんどん下がり、小沢氏の秘書3
人の逮捕による影響も受けて、参院選を勝ち抜くためには、鳩山
内閣を退陣させ、党を立て直す以外に方法はなかったのです。そ
こで小沢氏は輿石参院幹事長と相談し、自分も辞めることを前提
に鳩山氏に退陣を迫ったのです。そのとき、小沢氏は、後継は菅
氏ということに決めていたのです。
 しかし、鳩山氏はなかなか辞めなかったのです。鳩山氏といえ
ども政権を簡単に投げ出したくはなかったので、辞めることにつ
いては聞く耳を持たなかったのです。そこで小沢氏は鳩山氏に花
を持たせる作戦に出たのです。このことについて、平野貞夫氏は
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 鳩山首相を辞任させるにあたって、鳩山氏が自分も首相をやめ
 るから小沢氏にも辞任を迫った、と報じられているが、真実は
 逆だ。この辞任劇はすべて小沢氏の脚本、演出によるものだ。
 鳩山首相は辞任すべきであったのに、なかなか辞任しないこと
 に小沢氏は頭を悩ませていた。日本の首相として格好もつけさ
 せてやらなければならないから、小沢氏が悪役になることで、
 辞任の大義名分を与えてやったわけだ。   ──平野貞夫著
        『日本一新/私たちの国が危ない』/鹿砦社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 この時点で小沢氏は菅直人という人物を過大評価していたので
す。菅氏の下で挙党一致体制を築き、何よりも参院選を勝利する
計画を立てていたのです。狙い通り、鳩山・小沢のダフル辞任に
よって、菅政権の支持率は一挙に回復し、参院選の勝利は間違い
ないものと思われたのです。
 しかし、菅氏と仙谷氏一派は、これを小沢追い落としの絶好の
チャンスととらえたのです。菅氏は民主党の政策スローガンであ
る「国民の生活が第一」という理念を捨て去り、「強い経済、強
い財政」という新自由主義を復活させ、小沢政策を全否定に出た
のです。ここまでは、鳩山・菅の両氏は共同歩調をとっていたと
考えられます。そして、突如として消費税増税を打ち出し、参院
選に惨敗を喫することになります。さらに民主党はその後の選挙
で負け続けるのです。    ── [日本の政治の現況/46]


≪画像および関連情報≫
 ●鳩山首相辞任会見/極東ブログ
  ─――――――――――――――――――――――――――
  鳩山由紀夫首相は退陣すべきだと思っていたが、これまでど
  れほど失態しても嘘と無責任を貫いてきたので、このまま参
  院選で痛い目に合うしかないのだろうとも思っていた。しか
  も実際には、それほど痛い目に合うこともないのかもしれな
  い。そんな中、今日午前鳩山首相辞任と聞いて少し驚いた。
  小沢幹事長も辞任すると聞いて、もう少し驚いた。辞任の弁
  を聞いて、呆れた。会見では鳩山首相は涙ぐんでいるように
  も見えた。辺野古に新基地を押しつけた時点で辞任を考えて
  いたのかもしれない。が、実際に話を聞いていると、本当に
  ダメだったんだなこの人という思いを新たにした。産経新聞
  「鳩山発言詳報」より。
  http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2010/06/post-b7ca.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

鳩山首相と小沢幹事長(当時).jpg
鳩山首相と小沢幹事長(当時)
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2011年08月17日

●「静かにしていろ/菅氏の暴言」(EJ第3121号)

 2010年6月2日──菅直人氏は民主党代表に就任すると、
開口一番次のようにいい放っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国民の不信を招いたのだから、小沢幹事長はしばらく静かにし
 た方が、ご本人、民主党、日本の政治にとっていい
                   ──菅直人民主党代表
―――――――――――――――――――――――――――――
 このとき、小沢氏は未曽有の苦境にあったのです。逮捕された
3人の元秘書は2月に起訴され、小沢氏は起訴こそ免れたものの
4月には第5検察審査会から第1回目の「起訴相当」の議決を受
けたからです。テレビと新聞はここぞとばかり陸山会事件につい
てあることないことを書き立てて、民主党の支持率はその影響を
受けて急落していたのです。参院選の前の民主党の危機です。そ
こで小沢氏はこのタイミングで鳩山首相と共にダブル辞任したの
です。その直後、代表に就任した菅代表の発言がコレなのです。
 この当時、小沢氏は「悪者」のイメージが一段と強くなってお
り、菅氏にこのようにいわれても当然と受け止めた国民は多かっ
たと思います。しかし、これは総理になる人の発言としては、と
んでもない内容なのです。菅氏の発言には、民主党にとって政権
交代の恩人であり、代表経験者でもある同志の小沢氏に対し、一
片の配慮も見せない、思いやりのまったくない冷たい発言であっ
たからです。平野貞夫氏は、菅氏のこの発言に対し、強い怒りを
次のようにぶつけています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは党内政変であると同時に人格罵倒であり、表現の自由、
 行動の自由を次期内閣総理大臣という最高権力者が制限すると
 いう、小沢氏の人権をないがしろにするような許しがたい発言
 だった。菅新政権の本質、参議院大敗の根源はここにある。私
 の政治の師であり人生の師である故・前尾繁三郎(元衆議院議
 長)は「政治家である前に人間であれ」と遺言した。これは、
 政治家としての駆け引き、手腕以前に、人間としての見識、判
 断力、人格こそが問われるということだ。菅氏、そして幹事長
 に就任した枝野幸男氏に決定的に欠けているのはこうした人間
 としての資質だ。国民は本能的に、しかし鋭くこうした人格の
 高低を見抜くものだ。           ──平野貞夫著
        『日本一新/私たちの国が危ない』/鹿砦社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 2009年に歴史的な政権交代が実現し、鳩山政権が誕生した
のですが、鳩山政権はスムーズな政権の運営ができなかったので
す。しかし、その責任をとって鳩山・小沢両氏は速やかに辞任し
ており、それにより民主党の支持率はV字回復しているのです。
 この事実をもってもわかるように、この菅代表の発言の時点で
は民主党が政権を取ってまだ一年経過していないので、大多数の
国民はこの時点でも民主党を強く支持しており、菅首相に多くの
国民は期待していたのです。
 しかし、菅首相とその取り巻きの反小沢グループはこれを「小
沢切り」の絶好のチャンスとしてとらえ、あからさまに反小沢政
策を取りはじめたのです。菅首相は、民由合併のときから、いつ
かこういう機会がきたら、小沢切りに動くと決めていたようであ
り、これには鳩山氏も同調していたと思われます。
 そこで菅氏が掲げたのは「消費税の増税」──これは「国民の
生活が第一」を理念として掲げる小沢政策、いや、民主党政策の
全否定です。つまり、菅首相は戦略的に小沢氏を葬り去ろうとし
たわけです。まず、陸山会疑惑で政局的に小沢氏を切り、続いて
政策的に小沢氏を退けるというやり方です。
 こういう菅政権のやり方こそが、民主党が参院選で大敗する原
因になったと平野貞夫氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小沢切りという政争のために国民に痛みを強いる消費税増税を
 持ち出す、政治家以前に人間としての低劣さに、国民が拒否反
 応を示したのだ。これは、野党各党との舌戦においても如実に
 表れていた。菅氏、枝野氏の発言は、口喧嘩にもなっていない
 レベルのものだった。自分の言論に対する誠実さなど微塵も感
 じられず、問題点を指摘されると屈理屈ではぐらかし、不利に
 なると相手の古傷に指を入れて罵倒し、逆襲する。この様子は
 昭和四十年代の、無秩序に陥り、とにかく相手を潰しさえすれ
 ばよいという大学紛争や、平成七年の過激新興宗教団体広報担
 当の「ああ言えばこう言う、こう言えばああ言う」という詭弁
 を髣髴とさせ、背筋が凍りつくものだった。
                ──平野貞夫著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 平野貞夫氏は、2010年の参院選で民主党が敗れた決定的原
因は、一人区での「8勝21敗」という事実にあると指摘してい
ます。どうしてこんな差が生じてしまったかです。
 このとき、自民党の政権パートナーであった公明党は、自民党
と共に衆院選でボロ負けしたことにより、自民党との距離を置き
はじめており、その関係はけっしてよくなかったのです。選挙に
おける自公協力も、本部からの指令は、「やれるところはやれば
よい」という程度であったのです。
 しかし、選挙後半に入ると、その自公協力が突然復活するので
す。それはテレビなどで各党首脳の討論が報道されるようになっ
てからのことなのです。菅首相も枝野幹事長も、議論というより
も、理屈で相手をやり込めることが多く、野党の主張に耳を傾け
る度量にまるで欠けていたのです。
 これは菅首相が小沢氏に放った「党のためにも、自分のために
も静かにしていろ!」と恫喝する口舌と何ら変わらないものであ
り、公明党もこんな政党を勝たせるわけにはいかないとして奮起
し、自公協力を復活させたのです。その結果、民主党は一人区で
惨敗を喫したのです。    ── [日本の政治の現況/47]


≪画像および関連情報≫
 ●前尾繁三郎(1905〜1981)について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  前尾繁三郎──日本の政治家、官僚。宏池会第二代会長。第
  58代衆議院議長。政界有数の読書家、教養人としても知ら
  れ、小学生時代に太平記を読破し、蔵書は和漢、欧米の原書
  など約4万冊と言われ、現在故郷宮津市で前尾文庫として残
  る。芸事も巧みで、小唄は春日流名取りで「春日と繁利」の
  名を持ち、入院中、見舞いに来た宮沢喜一と床でおさらいを
  したり、田中角栄と並んで東横ホールに出演し唄ったことも
  ある。三味線、ハーモニカ、バイオリン、明笛もこなした。
                    ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

前尾繁三郎.jpg
前尾 繁三郎氏
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2011年08月18日

●「財務省に取り込まれた野田財務相」(EJ第3122号)

 民主党の総裁選に名乗りを上げた野田財務相は、代表選の主要
テーマは「大連立による救国内閣」であると発言しています。こ
の言葉に騙されてはいけないと思います。大連立は手段であり、
その手段を使って野田氏は何をしようとしているのでしょうか。
 それは「増税──消費税の増税」です。財務省はこれに賭けて
いるのです。そのため、財務省はまず財務相になった菅氏を洗脳
したのです。これには自民党の財務省寄りの議員を使って狡猾な
謀略を仕掛けています。
 その自民党議員は、国会で菅財務相(当時)に対し経済学の基
礎的な知識「乗数効果」の意味を問い、答えられない菅財務相に
万座で恥をかかせた後、協力を約束して取り込んだのです。まさ
か財務省がそこまでするかと思うかもしれませんが、このような
ことは官僚の常套手段なのです。
 財務副大臣としてこれを見ていた野田氏としては、自分が将来
首相になるには財務省の協力は欠かせないと思っても不思議はな
いのです。もちろん財務省はあらゆるデータを駆使し、野田氏を
完璧に洗脳したのです。
 既に洗脳されている自民党は「消費税10%」を早くから宣言
していますし、民主党は財務省に洗脳された菅内閣が2010年
の参院選で突然「消費税10%」を打ち上げ、選挙に大敗し、ね
じれ国会の原因をつくっています。
 本来であれば、民主党は大敗した原因を総括して分析し、20
09年の衆院選のとき民主党が打ち出したマニュフェストとの関
係も十分議論して政権運営を行うべきだったのですが、それを怠
り、あろうことか、政権首脳は「脱小沢」を鮮明にして、党内融
和を乱す政権運営を強引に進めたのです。これは政権運営という
よりも「政争」そのものです。
 それに加えて、菅内閣は増税派の与謝野氏まで閣内に引っ張っ
てきて「税と社会保障の一体改革」をまとめ上げ、紛糾したもの
の、閣議了承までもっていっています。与謝野氏の閣内取り込み
をアドバイスしたのもおそらく財務省でしょう。
 しかし、次の代表が誰になるかによって実現するかどうかわか
らないのです。そのため、野田財務相は8月12日の記者会見で
次のようにいい、増税反対派を牽制したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (「税と社会保障の一体改革」は)どんな内閣であっても先送
 りできないテーマである。ちゃぶ台返しの議論があってはなら
 ない。                  ──野田財務相
―――――――――――――――――――――――――――――
 一見もっともな議論のように見えます。国民も社会保障の目的
に使うなら消費税を5%上げてもいいではないかと考える人が多
く、世論調査では賛成が反対を上回っています。
 しかし、ここに落とし穴があるのです。消費税を社会保障の目
的税にすると、もともと社会保障費は毎年激増していくものであ
り、不足すると税率を上げて行くことになります。そうすると、
税率は10%どころか20%、30%以上にもなってしまうので
す。世論調査でこれに賛成した人は、そのあたりのことをよくわ
かった上での賛成なのでしょうか。もっと議論すべき問題である
と思います。
 もうひとつ重要なことがあります。他党と連立を組むには、当
たり前のことですが、民主党が一本にまとまっていることが必要
です。しかし、民主党は菅政権の「脱小沢」の政権運営により、
主流派、小沢派、中間派に割れています。とくに主流派と小沢派
の亀裂は深く、まるで別の党のようです。
 民主党の3派による力学は、主流派対小沢派の対立に中間派が
どちらにつくかによって優位が移動するのです。小沢氏が秘書逮
捕や強制起訴によって貶められているときは、中間派の多くは主
流派に付き、菅首相の増税推進や退陣表明後の居座りによって不
信が増大している現在では、中間派の多くは小沢派に付いて、小
沢派が大勢力になっているのです。
 したがって、主流派は民主党をひとつにまとめるには、「脱小
沢」や「殺小沢」の政権運営をやめて、真の党内融和を心がける
必要があります。つまり、主流派は自民党との連立ではなく、小
沢派との連立(?)が必要なのです。野田氏も当初は「誰かを排
除する恩讐の政治はよくない」と党内融和を掲げていたはずなの
ですが、これは菅氏が代表選後にいった「ノーサイド」発言と同
じ意味だったようです。
 自公と大連立を組む場合、当然自公は小沢グループ付きの連立
には反対するはずです。この連立工作は仙谷副官房長官が行って
おり、当然小沢派外しを前提としているのです。何も恩讐の政治
を超えていないのです。依然として「脱小沢」です。
 ここで民主党がなぜ政権交代できたかについて考えてみる必要
があります。少なくとも自民党が口汚く罵る「バラマキ4K」に
有権者が釣られたわけではないのです。これについて、政治評論
家の尾山太郎氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 民主党は2年前、何をやると言ったか、思い出して貰いたい。
 バラマキ4Kに釣られた有権者もいただろうが、最も人心を捕
 らえたのは「天下り根絶」の公約だっただろう。当時、天下り
 法人数は4600、天下り者数は2万8000人、法人に流れ
 込むカネは12兆6000億円といわれた。例えばUR(都市
 再生機構)は不動産業を営み、明らかに民業を圧迫している。
 7月に総務省が発表した「3代以上」にわたり理事長を同一省
 庁出身者が占めている独立行政法人は1594に及ぶ。官が民
 業に侵入する現象は日本の官僚内閣制≠フ象徴だ。天下り法
 人は民業を歪め、競争を阻害する。日本を20年にわたり不況
 に導いている元凶ともいえる。 ──8月16日付、産経新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
              ── [日本の政治の現況/48]


≪画像および関連情報≫
 ●UR──独立行政法人都市再生機構とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  独立行政法人都市再生機構は、大都市や地方中心都市におけ
  る市街地の整備改善や賃貸住宅の供給支援、UR賃貸住宅─
  旧公団住宅の管理を主な目的とした国土交通省所管の独立行
  政法人である。略称は都市機構またはUR、愛称はUR都市
  機構。2004年7月1日、都市基盤整備公団と地域振興整
  備公団の地方都市開発整備部門が統合され、設立された。運
  営形態、業務範囲などは独立行政法人都市再生機構法によっ
  て定められている。主な収益はUR賃貸住宅の家賃収入や市
  街地整備による土地の売却益である。本社は神奈川県横浜市
  中区にある。            ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

野田財務相.jpg
野田財務相
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2011年08月19日

●「野田氏は民主党を身売りするのか」(EJ第3123号)

 昨日のEJでご紹介した政治評論家・尾山太郎氏は、民主党が
一番死守すべきだったのは公約である「天下り根絶」であるとし
て、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 民主党は「天下り根絶」と「わたり禁止」を標榜した。天下り
 をなくすということは肩たたきという役所の慣行を変えること
 である。各省の幹部人事は「内閣人事局」が行い、政策全般に
 わたる戦略は「国家戦略局」が担い、独法などの整理は「行政
 刷新会議」が行う──というのが民主党の公約だった。小沢氏
 はいま、「マニフェスト(政権公約)を守れ」と言っているが
 幹事長時代は、「天下り根絶」を一顧だにしなかった。4Kバ
 ラマキの方が楽だったせいだろう。     ──尾山太郎氏
       2011年8月16日付、産経新聞『正論』より
―――――――――――――――――――――――――――――
 尾山太郎氏は、大方の政治評論家たちと同様に小沢一郎氏がお
嫌いなようです。尾山氏のコラムの前半では「蠢く『小鳩』よ、
恥を知れ」と書き、小沢氏も鳩山政治の失敗に責任があり、まし
て目下は政治資金規正法にかかわる刑事被告人なのだから、恥を
知ってもらいたいと批判しています。これは菅首相の「静かにし
ていろ!」の発言と同様であり、失礼な話です。
 小沢氏は鳩山政治に責任があると感じたからこそ、鳩山氏と一
緒に辞めたのです。しかし、「天下り根絶」を小沢氏が一顧だに
しなかったというのは事実に反します。尾山氏は、小沢氏が選挙
を含む党務と国会運営だけに職務を限定された幹事長であった事
実をご存知なかったようです。公務員制度改革こそ小沢氏が執念
を燃やして政権交代を成し遂げた目的であるからです。
 ところで、『週刊朝日』8月26日号に次のタイトルの対談が
掲載されています。
―――――――――――――――――――――――――――――
     瀕死の「日本システム」を再起動させるには・・
     オザワを解放すべし
     カレル・ヴァン・ウォルフレン/榊原英資
―――――――――――――――――――――――――――――
 『週刊朝日』に小沢氏を擁護する記事が載るのは久しぶりのこ
とです。「朝日新聞」は反小沢を現在も貫いていますが、「週刊
朝日」は小沢問題に対して真実を伝えようとして努力していたの
です。それは山口一臣編集長の時代のことです。
 しかし、山口氏がこの4月に販売部長に異動になると、編集方
針は一新され、親新聞とあまり変わらない記事が載るようになっ
たのです。そういう意味では、今回の対談記事は画期的な企画で
すが、ウォルフレン氏が次のようにいっているにもかかわらず、
表紙からは一切無視されています。(添付ファイル参照)
―――――――――――――――――――――――――――――
 榊:小沢さんが再びリーダーシップを発揮することはとても重
   要です。裁判が終わればそれが可能になるはずです。
 ウ:では、この号の表紙に「小沢を解放せよ!」と文字を大き
   く入れたらどうかな(笑い)。非民主的なプロセスで起訴
   された小沢さんが有罪にでもなったら、それこそ日本の民
   主主義にとって大変な危機です。
 榊:小沢さんは間違いなく無罪になると思います。
           【註】榊→榊原英資/ウ→ウォルフレン
               『週刊朝日』8月26日号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 民主党を創設した鳩山由紀夫氏と菅直人氏の2人は、結果は満
足なものではなかったものの、ともに総理をやっています。しか
し、2人が総理になれたのは、小沢一郎氏の尽力による政権交代
のお陰ではないでしょうか。その小沢氏だけが、総理をやってい
ないのです。これはどう考えても不合理な話です。「次は小沢」
は常識的な話です。でも誰からもそういう声は出てこない。
 小沢氏は「政治の仕組みを変えて日本を変える」ということで
これまで政治活動をやってきており、着実にその成果を上げてい
ます。したがって、民主党による政権交代はその仕上げの段階に
入っているのです。それだけに従来の支配構造を死守したい官僚
組織にとって小沢氏は危険きわまる存在といってよいのです。
 そのため小沢氏に対して悪意に満ちた「人物破壊」が行われて
活動が意図的に抑止されている──このようにウォルフレン氏は
解説しています。
 野田氏のいう「大連立」は、仙谷、岡田両氏と大島副総裁との
間で話し合いが進められており、それなりの展望と感触のある話
なのです。自民党は現在党員に満足に「氷代」も出せないほど金
に困っています。したがって、第3次補正にはどうしても加わり
たいのです。民主党の現在の執行部としても連立になれば役職に
も恵まれると考えており、ひそかに狙っています。つまり、彼ら
の狙う大連立は国家国民のためではなく、自分たちの延命のため
なのです。これは自公への「身売り」そのものです。これでは菅
首相と五十歩百歩であり、その本性は同じです。
 一体小沢氏は今回の代表選をどのように戦うのでしょうか。民
主党を自公に身売りしようと画策する野田氏を支援することは考
えられないし、他のどの候補も帯に短し襷に長しであり、いずれ
もパッとしません。
 しかし、次の代表の任期は菅代表の残りの約1年なのです。し
たがって、本番は来年の9月の代表選です。その頃には裁判の決
着はついていると考えられるので、小沢氏自身が代表選に出馬す
ると考えられます。そのときは、前原氏も確実に出馬すると思わ
れるので、代表選は壮絶な戦いになるはずです。
 そうすると、次の代表はそれまでのつなぎになると考えられま
す。それなら、誰が代表にふさわしいのか。選挙の期日によって
も戦い方に違いが出てきます。おそらく来週には動きが出てくる
と思います。        ── [日本の政治の現況/49]


≪画像および関連情報≫
 ●松下幸之助の「無税国家論」について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  野田氏は松下政経塾の第1期生である。その創始者の松下幸
  之助は無税国家論論者である。野田氏は一体何を学んできた
  のであろうか。ジャーナリストの出井康博氏は次のように述
  べている。「松下幸之助が唱えていたのは「無税国家論」で
  す。予算の使い道を徹底的に洗い直し、ムダ遣いをなくせば
  余剰金が生まれます。これを積み立てていけば、いずれは運
  用益だけで国家財政を賄えるようになり、税金はいらなくな
  る。幸之助は、高い税金が勤労意欲を失わせ、生産性を下げ
  ることを懸念した。重税は国家にとってマイナスと考えたの
  です」。  ──2011年8月17日発行/日刊ゲンダイ
  ―――――――――――――――――――――――――――

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『週刊朝日』8/26
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2011年08月22日

●「民主党代表選/仙谷氏の思惑」(EJ第3124号)

 民主党の代表選──どうやら仙谷官房副長官の戦略が狂ってき
たようです。仙谷氏の戦略とはこうです。今回は切り札である前
原氏は温存し、野田氏を擁立することで、「脱小沢」グループ約
70人をまとめて多数派を形成し、代表選を乗り切り、今国会会
期中に新首相を選出するというものです。短期決戦です。
 いうまでもなく今回の民主党の代表選は、事実上首相を選ぶ選
挙なのです。その大事な選挙を本稿執筆時点では、8月29日に
代表選、新首相の指名は30日、とたったの2日でやろうとして
いるのです。それが民主党執行部の方針なのです。それにしても
なぜそのように急ぐのでしょうか。
 民主党のこれまでの首相である鳩山氏と菅氏は、ともに民主党
の創設者であり、野党ではあったものの、その政治活動は多くの
国民の目にとまっています。したがって、政権交代後に首相の地
位に就いても誰も不思議には思わないでしょう。
 しかし、現在代表選で名前の出ている候補者の知名度はいずれ
も低く、国民はどういう人物かわからないのです。そういう人に
国を委ねられるでしょうか。それだけに代表選では、ある程度の
時間をとって大いに論戦を戦わせ、その主義や主張を国民にアッ
ピールする義務があると思うのです。それをなぜ2日で強行しよ
うとしているのでしょうか。
 この問いを民主党議員にすると、現在は東日本大震災や福島原
発事故による非常時であり、一日も政治空白が許されるときでは
ないという返事が返ってきます。しかし、現在の菅政権の存在そ
のものが政治空白であり、次の日本を委ねる首相の主義や主張を
吟味するための短い政治空白など問題ではないはずです。どう考
えても2日で決めるのは無茶苦茶な話なのです。
 仙谷氏を中心とする「脱小沢」陣営では、9月26日に出る陸
山会事件の秘書公判判決の結果を気にしているのです。もし、無
罪判決が出ると、小沢氏自身の裁判も即無罪になる可能性があっ
たからです。『週刊ポスト』はそのように報じていたのです。
 そういう話が出ていた8月上旬のことですが、突如小沢氏の初
公判の日程が「10月6日」と発表されたのです。これは、小沢
氏自身の即無罪はないという指定弁護士たちの意思表明であると
思われます。しかし、あまりにもタイミングが良すぎるのと思う
のは私だけでしょうか。
 何しろ仙谷氏といえば、法務・法曹関係に隠然たる力を持って
おり、そこに何らかのコントロールがあったと考えても不思議は
ないといえます。昨年の検察審査会の強制起訴議決についても疑
惑がたくさんあり、これについては改めて書くつもりです。
 『週刊ポスト』9/2号によると、この代表選について官房機
密費が使われているといわれます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今回の代表選では軍資金≠ェ飛び交っている。現在、官房機
 密費を握っているのは党内で野田氏と同盟を組む枝野幸男・官
 房長官や仙谷由人・官房副長官ら凌雲会(前原グループ)であ
 る。菅首相が退陣を明言してからほどなく、民主党の広報戦略
 にかかわる広告代理店関係者に、官邸スタッフの一人から連絡
 が入ったという。「菅総理が辞める前に、いまある機密費を使
 い切りたい。こちらに有利な世論を喚起できるようないいアイ
 デアを出して欲しい」。機密費の支出権を持つ枝野長官ら官邸
 中枢が、自分たちに都合がいい新首相をつくるため、メディア
 工作に機密費を投入する相談だったというのである。それと軌
 を一にして、大新聞には連日、「野田本命」の記事が躍り始め
 た。代表選から小沢氏を排除せよという論調には、ますますエ
 ンジンがかかった。       ──『週刊ポスト』9/2
―――――――――――――――――――――――――――――
 こうしたメディアの援護にもかかわらず、野田氏の支持は広が
らなかったのです。野田氏の打ち上げた「大連立」「増税」「マ
ニュフェスト見直し」の3つに対して、強く反発する民主党議員
が多かったからです。
 野田氏としては、前原氏は今回の代表選は出ないという前提で
前原グループの支援をあてにしていたのです。そのため、野田氏
は8月17日に前原氏と会って支援を要請したのですが、前原氏
は即答を避けています。
 翌8月18日に前原グループは会合を開いています。その席で
前原氏は支持議員から強く出馬を求められたのです。そして、も
し前原氏が出馬しないのであれば、自主投票にして欲しいという
要望が出されたのです。つまり、前原氏が出るなら凌雲会として
一本化するが、出ないのであれば野田氏を支持するかどうかは各
自の自由にするというものです。
 このとき仙谷氏は会合に同席していましたが、実に不思議な発
言をしているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ・私が野田氏を推すとの報道があるが、そんなことはない。
 ・もう「親小沢」とか「反小沢」かという議論は、乗り越えて
  いかなければなりません。
            ──2011年8月20日/産経新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 この2つの仙谷氏の発言は何を意味しているのでしょうか。彼
は野田氏をかつぐ気でいたのですが、支持が拡がらないので、危
機感を感じ、前原氏が出馬するのであれば、野田氏を切って前原
氏を支援する気でいるのです。どちらにしても自分は主流派でい
たいのです。
 しかし、これ以上「脱小沢」を続けるのは得策でないと判断し
代表選後には、挙党体制をつくるべきだと前原氏の会合で説いて
いるのです。もし、小沢氏が無罪となって復権すると、自分は主
流派でいられなくなるとの恐れから、このような信じられない発
言をしたのではないかと思われます。代表選はますます混迷を深
めています。        ── [日本の政治の現況/50]


≪画像および関連情報≫
 ●野田佳彦氏の小沢氏に関係する発言
  ―――――――――――――――――――――――――――
  野田氏は講演で小沢氏の党員資格停止処分の解除にも言及し
  次のように述べている。「93年の政権交代の推進者は小沢
  先生だ。依然として政局の中心にいる。希有な存在であり、
  政治力量のすごい方だ。与野党が向き合うとかきは、与党が
  しっかりまとまるのは必須条件である。 ──18日千葉市
  内での野田佳彦氏の講演/2011年8月20日/産経新聞
  ―――――――――――――――――――――――――――

仙谷由人官房副長官.jpg
仙谷 由人官房副長官
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2011年08月23日

●「民主党の基本政策はそんなに劣悪か」(EJ第3125号)

 現在の民主党に大きな疑問を感ずるのは、民主党の基本政策で
ある次の4つの政策を次々と捨て去ろうとしていることです。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.   子ども手当
          2.高校授業料無償化
          3.高速道路の無料化
          4.農家戸別所得補償
―――――――――――――――――――――――――――――
 自民党はこれを「バラマキ4K」と呼び、メディアは票集めの
ための人気取り政策とボロクソにいっていますが、本当にそんな
にひどい政策なのでしょうか。
 これら4つの公約には共通する特色があるのです。それは「直
接給付」ということです。自公時代は、農業補助金のように役所
が天下り団体を通じて恣意的に業界に金を配分する「間接給付」
だったのです。こういう金の配分方式では、特定集団に既得権が
発生してしまうのです。このようなかたちで、もし既得権ができ
てしまうと、それ以後長年にわたって、そこには膨大な税金が注
ぎ込まれることになるのです。
 民主党ではこれを「直接給付」することによって、役人の権益
を縮小し、特定団体の既得権を破壊しようとしたのです。高速道
路や教育に使われる税金についても、そのメリットを等しく国民
が享受できるようにしようということで、マニュフェストが作ら
れたのです。そのどこがいけないのでしょうか。
 民主党のマニュフェストに危機感を抱いたのは、霞が関、すな
わち財務省です。そして、その財務省に洗脳されている自民党で
す。財務省にとって既得権を侵害する者はすべて敵なのです。そ
のため首謀者の小沢一郎氏の政治活動を検察を使ってとことん妨
害し、あらゆる手段を講じて、既得権益を守ろうとしたのです。
そして小沢氏が座敷牢に入れられて動けない間に自民党を使い、
特例公債法などの重要法案を人質にとって、「バラマキ4K」を
すべて葬り去ろうとしたのです。要するに、菅政権とその執行部
は自らのマニュフェストの精神をまるで理解しておらず、自己保
身で自民党との大連立を目指し、「バラマキ4K」を捨てようと
したのです。
 民主党のマニュフェスト策定ブレーンの一人である山崎養世氏
──成長戦略総合研究所理事長は、高速道路の無償化を提案した
人物ですが、その政策について次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 自公政権は構造的に地方を貧しくする政策をとってきた。高速
 料金ひとつを例にとっても、首都高は安く、地方は高い。だか
 ら民主党はまず高速無料化で大都市と地方の格差をなくし、地
 域が自立して豊かになる社会をつくることを国作りの目標にし
 た。地域が潤えば地域の人口も増える。国民益にもなる。とこ
 ろが、政治家、官僚、マスコミが無料化したらJRが困る、お
 れの業界が困るからとよってたかって高速無料化をつぶした。
               ──『週刊ポスト』9/2より
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういうマニュフェストは、民主党全体で検討し、合意の下で
作られているはずです。しかし、前原誠司元国交相は、担当大臣
であるにもかかわらず、高速道路無料化は間違いだったと次のよ
うに述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 担当大臣でありながら、実は、おかしいなと思っていました。
 道路建設の負債が約34兆円あり、それを返さないといけない
 し、維持管理費も年間、数千億円単位でかかる。全道路を無料
 化すると、他の公共事業費が捻出できないだけでなく、既存の
 インフラの維持・管理すらおぼつかなくなります。(中略)高
 速道路無料化という公約は撤回すると正直に言い、国民にお詫
 びするべきだと思います。  ──『週刊朝日』8/26より
―――――――――――――――――――――――――――――
 この前原氏の発言には唖然とせざるを得ないのです。高速道路
無料化の政策は、民主党の基本政策であるのに、前原氏はタッチ
していなかったのでしょうか。彼は民主党において、基本政策作
りに意見もいえない程度の人物なのでしょうか。
 しかも担当大臣を務めながら、高速道路無料化をおかしな政策
だとは何事でしょうか。おかしな政策なら、担当大臣のときに廃
止すればいいではありませんか。
 前原氏は、新聞の世論調査などでは「国民的人気が高い」とさ
れていますが、この程度の人物なのです。20日発行の日刊ゲン
ダイが前原氏について次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 前原総理なんて国民にとっては悪夢だ。八ツ場ダムしかり、J
 AL再建も尖閣問題も、最初だけは威勢がいいが、すぐ腰砕け
 になって、結局、後始末は他人任せ。何ひとつマトモニこなせ
 なかった「口先番長」である。
      ──2011年8月20日発行/日刊ゲンダイより
―――――――――――――――――――――――――――――
 前原氏は、鳩山首相時代には国土交通相、菅政権では外相を務
めていますが、どんな仕事をしたでしょうか。国土交通相時代は
八ツ場ダムとJAL再建を迷走させ、高速道路無料化は信念がな
いので適当に行い、外相としては何をやったか思い出せず、しか
も外国人献金疑惑を国会で追及され、辞任しています。
 それでも新聞は「国民的人気の高い首相候補」と書き立て、本
人もその気になっています。もし、彼が首相になったら、菅政権
よりも民主党は劣化してしまう恐れがあります。
 民主党にはまだ2年残っているのです。この2年で党勢を復活
させられるのは、ただひとり首相をやっていない小沢一郎氏しか
いないと思います。小沢氏が残っていることが民主党にとって真
の切り札なのです。     ── [日本の政治の現況/51]


≪画像および関連情報≫
 ●高速道路無料化を拒んでいるのは誰か/山崎養世氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  民主党の目玉政策であるはずの高速道路無料化を巡る混乱が
  続いている。前原誠司国土交通大臣と小沢一郎民主党幹事長
  の対立が報じられ、混乱の原因は小沢幹事長だ、という見方
  がマスメディアの大勢だ。事実は全く異なる。2003年に
  当時の菅直人代表が私の高速道路無料化の提案を民主党のマ
  ニフェストに採用し、私を「影の内閣」の国土交通大臣に指
  名した。それ以来私は政権交代からこれまでの経緯をつぶさ
  に見てきたし、高速道路無料化を巡る動きを体験してきた。
  今、私にはっきり分かるのは、前原国土交通大臣が、高速道
  路無料化の予算がマニフェストの6分の1にまで削減される
  のを放置してきたということだ。そのため、新しい通行料金
  は、8割のユーザーにとっては値上げになる。
         http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/3347
  ―――――――――――――――――――――――――――

前原誠司氏.jpg
前原 誠司氏
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2011年08月24日

●「『数の力』はどうして悪いのか」(EJ第3126号)

 民主党代表選の候補者たちが次々と小沢一郎元代表に対する党
員資格停止処分の凍結ないし解除を口にしています。驚くべきこ
とは、それが海江田万里氏や小沢鋭仁氏のように、小沢氏に近い
鳩山グループの候補者だけではなく、今まで脱小沢を標榜してい
た候補者の口からも出ていることです。
 もちろん代表選において、数を持つ小沢グループの支持を得る
ことが狙いのすり寄りであることは明らかです。しかし、それを
口にする候補者のすべてが、そういう支援狙いだけであるとはい
い切れないのです。
 やはり、それらの議員は心のどこかで、検察が不起訴を出した
にもかかわらず、検察審査会による2度の起訴相当議決──それ
もきわめて疑惑に満ちた決定によるものであることを知っている
からです。それを仙谷官房副長官は「起訴は起訴である」といい
岡田幹事長が強引に党員資格停止処分に踏み切ったのです。民主
党の議員は、そのうしろめたさがどこかにあるので、ここにきて
処分の凍結ないし解除をいい出したのです。自分が代表になれば
それができるからです。
 これについて、メディアはいつものことながら、批判的です。
とくに20日の産経新聞は社説に「耳疑う小沢氏処分の解除」と
いうタイトルをつけて、次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 民主党は今年2月、「法に基づき国会議員本人が起訴された事
 実は重い」として、小沢氏の党員資格停止処分を下したばかり
 だ。具体的には判決確定まで党の役職に就けず、公認や活動資
 金も得られないなどの内容だ。いったい、どんな理屈をつけれ
 ば代表選実施が処分解除につながるのか。党のけじめをつけた
 のではなかったか。強制起訴の裁判も進んでいないのに、党倫
 理委員会などで検討を重ねた正式決定の変更を安易に論じる状
 況そのものが、党への信頼をさらに失わせている。
     ──2011年8月20日付、産経新聞「社説」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 大新聞は、小沢氏の問題になると正義面をして「立派な」こと
をいいますが、大きな事実誤認があるのです。「党倫理委員会な
どで検討を重ねた正式決定」というが、最初の党倫理委員会では
多くの議員が反対だったのです。
 そうすると、菅政権の執行部は菅首相の命を受けて、常任幹部
会(党倫理委員会の上部機関)のメンバーを入れ替え、親小沢グ
ループが反対しても決定できないメンバー構成にして、2011
年2月に強引に決定しているのです。
 それに小沢氏が党則に基づいて異議申し立てたにもかかわらず
長期間最終決定を放り出し、菅首相の退陣が見えてきた7月末に
なって慌てて正式決定をしたのです。なぜ、ここにきて正式決定
をしたのでしょうか。それは小沢氏が代表選に出てくるのを封じ
たのです。これでは政局そのものです。
 マスコミはすべてを知っていながら、依然として小沢叩きをや
めないのです。この調子だと、仮に小沢氏の秘書が無罪になって
も、小沢氏自身の検察審の最終判決が無罪と出ても、あるいはそ
の以後も、メディアは小沢氏を叩き続けると思われます。脱小沢
で大失敗し、日本を危機に陥れた菅政権の現状を見ても、こうい
う偏向報道をなぜまだやめないのでしょうか。
 もうひとつ、マスコミは「数の力」を批判します。しかし、政
治における「数」がなぜ悪いのでしょうか。
 小沢グループが「数」を持っているのは2009年の衆院選で
勝利したからです。小沢氏の選挙指揮が功を奏し、大勢の民主党
新人議員が当選したのです。小沢グループの大半はそうした新人
議員で成り立っているのです。
 しかし、それらの新人議員は、小沢主義というか、小沢イズム
というものがわかっていないのです。そのため、小沢グループは
当選した新人議員に教育しようとします。小沢一郎という人は、
しっかりとした政治信条を持っており、民主党において最多の政
治経験を持つ小沢氏の話を聞くことは、とくに新人議員にとって
は役に立つことは多いはずです。
 しかし、このことと小沢グループに参加するかどうかは各議員
の自由です。鳩山内閣において小沢氏が幹事長になったときでさ
え、当選した新人が他のグループにも流れているのです。すべて
が小沢グループが囲い込んでいるわけではないのです。
 しかし、それ以後は、小沢氏の秘書の逮捕・起訴、幹事長辞任
代表選の敗北、検察審の強制起訴などなど、そしてそれを巡る嵐
のようなマスメディアによる小沢叩き──小沢氏にとってマイナ
スなことがいろいろあって、当然小沢グループから離れていった
新人議員は多いのです。小沢氏の主張は「来る者は拒まず、去る
者は追わず」に徹しています。それでいて、小沢グループには現
在も120名以上の議員がいるのです。新聞報道によると、前原
誠司氏は「国民的人気がある」そうですが、彼のグループは50
人程度であり、最近増加したという話は聞かないのです。
 このようなさまざまなマイナスの出来事にもかかわらず、小沢
氏のグループが120名という数を有しているというのは、小沢
氏の信条に共鳴する人が多いということであり、これこそ人気の
バロメーターといってもよいと思います。
 このように政治において「数の力」は、物事を決める重要な要
素であり、批判の対象になるものではないのです。どうも小沢氏
には、田中角栄の次の言葉の負の影響が多いようです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    政治は数であり、数は力であり、力は金である
                   ──田中角栄
―――――――――――――――――――――――――――――
 本号をお送りする日には、代表選に出馬する候補は絞られてい
ると思います。いずれにしても小沢グループが支持する候補が総
理になる可能性があります。 ── [日本の政治の現況/52]


≪画像および関連情報≫
 ●自民党幹事長時代の「呼びつけ面接事件」の真相
  ―――――――――――――――――――――――――――
  代表選候補者の小沢詣が行われると、マスコミは自民党幹事
  長時代の小沢氏のやった「呼びつけ面接事件」を紹介して、
  またしても小沢氏を貶めている。しかし真相はこうである。
  「小沢の呼びつけ面接事件が起きた。当日は折悪しく日曜日
  に当たった。経世会事務局がある建物には職員が出勤してお
  らず、ホテルは秋シーズンで予約が取れなかった。小沢は候
  補たちの事務所を訪ねようとしたが、渡辺が事務所の不都合
  を理由に、小沢のいるところに出向くと申し出たことから、
  小沢の事務所で会談することになつた。それを知った宮沢と
  三塚も同意し、時間差をつくつて会った」。──渡辺乾介著
           『小沢一郎/嫌われる伝説』/小学館刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

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かぎを握る小沢 一郎氏
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2011年08月25日

●「忠臣は最後に出てくる/謎の発言」(EJ第3127号)

 民主党代表選の候補者は出揃ったのでしょうか。実はこの原稿
は22日の夜に書いています。EJは日刊なので、仕事が入って
いるときは数日前に書いておく必要があります。22日夜の時点
で代表選に出馬を表明するか、意欲を示している候補者を上げる
と次の7人になります。なお、EJの発信登録をする23日に、
前原氏は代表選出馬を表明しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    野田 佳彦   小沢 鋭仁   鹿野 道彦
    馬淵 澄夫   海江田万里   前原 誠司
    樽床 伸二           ──敬称略
―――――――――――――――――――――――――――――
 代表選の告示日を27日とすると、少なくとも26日まではこ
れ以外の候補者が出る可能性があります。また、上記の候補者の
中で20人の推薦人が集まらずに出馬を断念する人も当然出てく
ると思われます。
 議員だけによる短期決戦ということになると、多数を有する小
沢グループの推す候補が有利になります。ところで小沢グループ
はどのくらいの陣容なのでしょうか。
 夕刊フジの人気コラム『鈴木棟一の風雲永田町』の鈴木棟一氏
は、22日のコラムで次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 衆院だけで小沢グループは、100人を下らない。参院民主は
 参院民主は106人だが、そのうち3分の2ぐらいが小沢系。
 議員会長の輿石を中心に執行部全体が小沢寄り。党内で180
 人とみる。     ──2011年8月22日付、夕刊フジ
―――――――――――――――――――――――――――――
 180人ということになると、もし小沢グループが一致団結し
て特定候補を支援すれば、その候補者がほぼ代表選を制すると考
えてよいと思います。
 それでは、小沢氏は現在の時点で誰を支援すると考えているの
でしょうか。22日の時点ではまったくわかっていないのです。
しかし、今回小沢一郎氏は、鳩山兄弟と緊密な連携を取って動こ
うとしています。ネット上にはそれに関連するいくつかの情報が
出ているので、ご紹介することにします。
 代表選の候補者がしきりと小沢詣でをしていますが、小沢氏は
ある候補者に対して、次のような謎の発言をしているのです。私
はこれをニュースで聞いたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
          忠臣は最後に出てくる
―――――――――――――――――――――――――――――
 これはどういう意味でしょうか。
 実は8月17日(水)に第62回小沢一郎政経フォーラムがA
NAインターコンチネンタルホテル東京で行われたのです。その
ときの講師は、副島隆彦氏であったのですが、小沢氏が出てきて
次のように話したそうです。ちなみに、この政経フォーラムの入
場料は2万円とかなり高いのですが、いつも700人ほど集まる
といわれています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 歴史の中でもいろいろ困難な時期はいくらでもあるのですけど
 も、そういうときに中々国論はまとまらず、あるいはリーダー
 が不在、というようなことが重なることがままある。しかしな
 がら、一方において「国乱れて忠臣あり」という昔からの言葉
 もございます。私がそういう意味において、なんとか国民のみ
 なさんが2年前に託してくれた、その気持ち、そしてその気持
 ちに応えようとしていた我々の初心に返って原点に返って、そ
 してみんなで一生懸命期待に応えられるよう努力して参りたい
 と思っております。 ──政経フォーラムでの小沢氏の話より
―――――――――――――――――――――――――――――
 「国乱れて忠臣あり」という言葉は、中国前漢の武帝の時代に
司馬遷によって編纂された中国の歴史書である『史記』の中に出
てくる言葉です。
 これは、「国がよく治まっているときは、家来の誰が忠臣で、
誰が不忠の臣であるかはわからないが、国が乱れてくると、忠臣
がはっきりしてくる」という意味です。
 確かに現在日本は国難に遭遇し、危機的状況にあります。もと
もとデフレで経済が弱いときに東日本大震災、福島原発事故、円
高などが重なり、それに対して菅内閣が稚拙な対応を繰り返し、
事態を悪化、深刻化させています。
 このことを通じて、反小沢で固めた菅首相と官邸と執行部では
事態の乗り切りは困難という事態に立って、忠臣が見えてきたと
いっているのです。果たしてその忠臣とは誰でしょうか。小沢氏
は、次の代表のリーダー像について次のように語っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 次のリーダーは、それなりの知識と経験があり、命に代えてで
 もという自らの自己犠牲的な精神をもつ人でなければいけない
 と思います。そういう中で、いろいろと自分自身が必ずしも皆
 さんの期待にこたえ切れない現状であることを大変申し訳なく
 思っております。(少し沈黙)私も・・・・何といいますか、
 出来る限り積極的にその仕事に携わり努力していきたいと思っ
 ております。    ──政経フォーラムでの小沢氏の話より
   http://31634308.at.webry.info/201108/article_18.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 ネット上ではこの部分の解釈を巡っていろいろな意見が出てお
ります。「命に代えてでもという自らの自己犠牲的な精神をもつ
人」──そんな人が民主党にいるのでしょうか。もし、いるとす
れば、それは小沢一郎氏しかいないのではないか。そういう論調
がネットに流れています。しかし、それをどのようにして実現す
るのでしょうか。小沢氏には党員資格停止処分がかかっているの
です。           ── [日本の政治の現況/53]


≪画像および関連情報≫
 ●小沢氏は「自分でやるつもりである」?!
  ―――――――――――――――――――――――――――
  小沢氏がこの史記の言葉を使う限りにおいて、「不忠臣」は
  菅執行部で、自分こそは「忠臣」であると暗に述べている。
  自分がやれば初心に返り、2年前の夏の原点に返ると述べて
  いる。これをもう少し強調すれば、このスピーチの核心であ
  る『何といいますか、出来る限り積極的にその仕事に携わり
  努力していきたいとそう思っています。』に行きつく。つま
  り、小沢氏自身が、自分でやると言っているのだ。
             ──「かっちの言い分」ブログより
   http://31634308.at.webry.info/201108/article_21.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

政権フォーラムでの小沢一郎氏.jpg
政権フォーラムでの小沢 一郎氏
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2011年08月26日

●「ウルトラCに実現の可能性はあるか」(EJ第3128号)

 遂に代表選に前原誠司氏が出馬宣言をしました。本人はいろい
ろ立派なことをいっていますが、どのように考えても「野田氏で
は勝てない」とみての出馬です。
 「党内融和」とか「全員野球」とかいっていますが、もともと
菅首相側の人間が何をいっても信用できないと思います。反小沢
グループの危機感が前原氏を出馬させたものと考えます。
 もうひとつ前原氏が出馬したのは、明らかに世代交代を意識し
ているのです。「鳩山、菅、小沢+輿石」の「トロイカ+1」か
らの脱却を口にしていますし、実際にそれを狙っています。「脱
ベテラン」であり、結局は「脱小沢」です。
 複数候補で戦う第1回投票では全員が過半数が取れず、決着が
つかないはずです。その場合、2回目の投票では「前原氏対小沢
氏が支持する候補」の一騎打ちになると思います。前原氏はそれ
には勝てると自信を持っているのです。確かに小沢グループが一
致した行動がとれないと敗れることが考えられます。しかし、今
回はそのような手抜かりはないと考えます。
 ところで小沢氏は誰を推すのでしょうか。小沢氏は後継首相に
は、次の条件を上げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 後継総理には、マニフェストの理念を守ることと、知識と経
 験があり、命懸けでやる人でなければならない ──小沢氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 この条件に該当する人は、現在の民主党には小沢氏以外いない
と思います。しかし、小沢氏は自分のことを意識してそのような
ことをいうはずはないし、意中の人がいる──小沢氏はどう考え
ているのでしょうか。
 この原稿は23日の夜に書いています。代表選の告示を27日
とすると、それまでにどのような人が出てくるかわからないので
予測するしかありません。事実と異なるかしれませんが、あえて
書くことにします。25日の夜までに予測と異なる事態が起きて
も、内容の訂正をしないで26日のEJを配信します。「小沢氏
はそんなことも考えていたのか」ということを知っていただくの
も無駄ではないと思うからです。
 小沢氏の構想はこうです。小沢氏の推す人は代表選に勝って民
主党代表になっても総理にはならず、国会の首班指名で「知識と
経験のある人」を指名する──こういう戦略を立てていることは
確かです。いわゆる「総・代分離」です。ウルトラCですが、党
員資格停止の小沢氏としては、これしか手がないのです。といっ
ても政局を制し、自分が総理になろうと考えているのではないの
です。このままでは「日本が壊れる」と思っているからです。
 日本は現在未曽有の国難に遭遇しています。ただでさえ大変な
のに、菅政権のちくはぐな対応で、危機が一段と深刻化していま
す。そういうときは、豊富な知識と経験を持つベテランの起用が
どうしても必要なのです。
 それでは、総理にならない「代表」の候補者は誰でしょうか。
その候補者は既にそのことを告げられており、その準備をしてい
ると思います。ということは、小沢氏や鳩山氏に近い人物です。
2人いますが、その1人は海江田万里氏です。
 『サンデー毎日』サイドの情報ですが、海江田氏は代表選の出
馬のさい、輿石氏と会談しています。そのときに海江田氏は「私
は代表選には出馬するが、首相にはならない」という約束を交わ
しているというのです。
 それでは首相は誰なのでしょうか。それはそのあと、輿石氏が
会談を持った3人の中にいると考えられます。3人とは小沢一郎
氏と石井一氏と亀井静香氏です。ある民主党の幹部は、首相候補
者は亀井氏であると明かし、この「総・代分離」について次のよ
うに述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 首相指名選挙では「海江田代表」ではなく、連立与党の統一候
 補として亀井氏に立候補してもらう。党議拘束がかかる首相指
 名選挙で民主党の大半の議員が「亀井静香」と書けば、「亀井
 首相」が実現する。その見返りとして亀井氏は、衆参のねじれ
 解消のため参院自民党からの一本釣り″を担う──その話し
 合いが行われたのではないか。──『サンデー毎日』9/4号
―――――――――――――――――――――――――――――
 もう1人は、松野頼久元官房副長官です。松野氏の父は、政界
の仕掛け人といわれた松野頼三氏です。父が元熊本県知事で日本
新党を結成した細川護熙氏の政治的後見人であったことが縁で、
1993年、日本新党の職員となります。日本新党解党後は、フ
ロム・ファイブを結成した細川氏の議員秘書になっています。第
42回衆院選(2000年)で民主党公認で初当選し、以後連続
当選し、2009年8月、選挙後成立した鳩山由紀夫内閣におい
て内閣官房副長官に就任。鳩山側近3人衆の1人です。
 松野氏は、一貫して脱小沢に反対し、民主党の党内融和を主張
し、面倒見がよいので、中堅・若手議員の信望が厚い存在です。
小沢氏は党務に使える優秀な人材と見ています。
 この「総・代分離」なら、代表になるや小沢氏の党員資格停止
処分を解いて小沢氏を幹事長に復帰させることも可能です。いや
それどころか、小沢氏を国会の首班指名で総理に就任させること
もできるのです。海江田氏か松野氏が代表選に出馬し、「自分は
代表になり、小沢氏を総理にする」と「総・代分離」を打ち出し
代表選に勝利すればよいのです。
 実際に「総・代分離」という手を使うのか、それとも別の戦術
を使うのかは23日の夜の時点ではまったく不明です。いろいろ
な選択肢があるからです。
 しかし、小沢、鳩山兄弟は新党結成を覚悟してこの代表選に臨
んでいます。もし、民主党の議員が実体のない「前原人気」に心
を奪われて、前原氏を勝たせるようなことがあると、そのときは
民主党は終りです。     ── [日本の政治の現況/54]


≪画像および関連情報≫
 ●果たして「総・代分離」はあり得るのか
  ―――――――――――――――――――――――――――
  この「総・代分離」を成功させるには大きな壁があると『サ
  ンデー毎日』は書いている。脱小沢を辞め、党内融和に努め
  るとともにマニュフェストの理念を守ることを約束すれば、
  小沢氏は前原氏や野田氏を推すこともありうる。
  「海江田氏が出馬表明の時点で明確にしなければ、同僚議員
  を騙すことになる。またいくら連立パートナーとはいえ、他
  党の代表の名前を書くことには相当な心理的抵抗がある」。
               ──『サンデー毎日』9/4号
  ―――――――――――――――――――――――――――

海江田/松野両氏.jpg
海江田/松野両氏
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2011年08月29日

●「民主党の良心が問われる代表選」(EJ第3129号)

 本日、民主党の代表選が行われ、新代表が決まります。候補者
は、次の5人です。
―――――――――――――――――――――――――――――
    前原 誠司前外 相   野田 佳彦 財務相
    馬淵 澄夫前国交相   鹿野 道彦 農 相
    海江田万里 経産相
―――――――――――――――――――――――――――――
 民主党の所属国会議員は、衆院301人、参院106人の合計
407人ですが、党員資格停止処分中の議員を除くと、398人
で過半数は200人になります。
 しかし、1回目の投票では、誰も過半数は取れないと考えられ
るので、上位2人による決選投票になるはずです。このさい、1
回目の投票で、第1位の候補が有利になると考えられます。支援
グループによって予測すると、常識的には前原氏と海江田氏です
が、果たしてどうなるかは現時点では見えない状況です。
 前原陣営の支持がどこまで拡がるかはわかりませんが、果たし
て海江田氏で小沢グループや鳩山グループがどこまで一本化でき
るかが読めないのです。
 小沢一郎氏にとって、海江田万里氏の支持はおそらく苦渋の決
断であったと思われます。なぜなら、海江田氏では明らかにイン
パクトが弱いからです。とくに国会で涙を見せたこともあり、こ
れは明らかに海江田氏にとってマイナスになっています。
 しかし、政治家として知識面、とくに経済面においては、経済
評論家としてマスコミで活躍していた時期もあり、他の候補者に
比べて強いといえます。また、野末陳平氏に師事したことが縁で
中国に強く、人脈も有しています。よく知られているように、漢
詩に造詣が深く、2006年には私撰の詩集まで出しています。
インパクトにはいささか欠けるが、常識人であり、誠実な人柄で
も知られています。
 小沢氏としては、民主党の党勢を回復するには最低でも2年は
必要であり、そのためには代表選が終了する直後から建て直しに
取り組む必要があると考えています。
 そのため、もし、意中の候補が代表に選ばれず、脱小沢側の首
相が誕生する事態になれば、情勢を見て鳩山兄弟とともに新党結
成に動く可能性があります。もちろん、民主党が近く解散に追い
込まれるという判断をしているからです。
 このことを裏付ける重要な情報があるのです。7月中旬に民主
党のある大物議員が大手銀行に億単位の融資を打診し、その総額
は10億円規模に達するというのです。7月中旬といえば、菅首
相が退陣を匂わせながら、「脱原発」を掲げた解散総選挙の可能
性を探っていた時期に当ります。
 この大物議員は、おそらく小沢一郎氏と考えられ、総選挙に備
えての資金確保ではないかと思われるのです。かねてから、総選
挙になれば鳩山兄弟とともに民主党を離党し、新党結成を計画し
ていたフシがあるからです。これについて、政治評論家の小林吉
弥氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 融資打診が事実なら、時期的に見て総選挙資金の可能性が高い
 のではないか。当時、菅首相が「脱原発」解散に打って出る可
 能性があった。大物議員としては万一に備えて、若い議員を助
 けるためにも準備したのではないか。    ──小林吉弥氏
           ──「ZaKZaK/政治・社会」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 27日の『田勢康弘の週刊ニュース新書』(テレビ東京)には
田原総一朗氏と平野貞夫氏の2人が出演しましたが、代表選以後
の今後の政局について、田勢、田原、平野の3氏ともに「民主党
と自民党その他による政界再編成」と答えています。
 このように、今回の代表選は代表に誰が選ばれるかによって、
民主党分裂の危機をはらんでいるのです。民主党の、とくに前回
の代表選で菅氏に投票した議員は、今度こそ日本のことをよく考
えて投票して欲しいと思います。
 27日、今回民主党の代表選に出馬する5人の候補者の記者会
見が行われましたが、記者団の一番前に陣取った朝日新聞の星浩
論説委員、読売の橋本五郎論説委員らの海江田氏に対する質問は
きわめて意地の悪いものであり、公平さに欠けるものであったと
思います。不偏不党のはずの大新聞の論説委員がこのようなこと
では大新聞の価値が下落する一方です。
 小沢グループが支援したからといって、海江田氏がまるで小沢
氏であるかのような質問をするのは常軌を逸しています。小沢氏
の処遇などを代表選のテーマにすべきではないでしょう。27日
の『田勢康弘の週刊ニュース新書』で平野貞夫氏がいっていまし
たが、小沢氏は裁判できちんと無罪が出るまで動くつもりはない
と明言しているそうです。
 小沢氏としては、今回の代表選で誰が選ばれても自らが幹事長
に就任したりはしないといっているのです。名実ともに裁判で無
罪を勝ち取ってから動いても遅くはないと考えているのです。そ
れにしても、あれほど日本中が大騒ぎをして、もし、小沢氏が無
罪になったら、メディアはどのようにして小沢氏に申し開きをす
るのでしょうか。名誉棄損に問われても仕方がないでしょう。
 27日午後7時の情勢では、前原氏の支持が広がっておらず、
海江田、野田、前原の順に支持を固めているようです。野田氏の
発言は、小沢氏寄りにかなり修正されており、もし「前原対海江
田」の決戦投票では野田氏の票の一部が海江田氏に流れる可能性
があります。もしかとすると、第1回投票では野田氏が2位につ
ける可能性すらあります。野田氏のバックに細川護煕氏が支援に
動いており、それが影響しています。前回の代表選でも細川氏は
小沢氏の支援に動いたのです。伏兵は鹿野道彦氏です。鹿野氏の
発言はしっかりしており、もしかすると、海江田氏の強敵になる
可能性があります。     ── [日本の政治の現況/55]


≪画像および関連情報≫
 ●民主党代表選/記者会見/2011.8.27
  ―――――――――――――――――――――――――――
  菅首相(民主党代表)の後継を決める民主党代表選の候補者
  5人は27日午後、日本記者クラブ主催の共同記者会見に出
  席した。5人とも東日本大震災と福島第一原発事故への対応
  を優先課題に挙げた。ねじれ国会への対応について、前原誠
  司前外相は「大連立を前提にすべき」と明言したが、馬淵澄
  夫前国土交通相は「大連立ありきではない」、海江田万里経
  済産業相は「国会が(立法府としての)機能を引き続き果た
  していくことが必要」と慎重な姿勢を示した。野田佳彦財務
  相は「与野党の信頼関係を築くべきだ」、鹿野道彦農相は、
  「野党に対して責任をもって話し合いが出来る体制作りが大
  切だ」と、それぞれ述べるにとどめた。東日本大震災の復興
  における財源について、前原氏は民間資金の活用や政府資産
  の洗い直し、復興債を挙げた。野田氏は、行革を進めながら
  足りない部分について「歳入増加の環境整備を進めたい」と
  した。鹿野氏は復興債を日銀が引き受けることを検討課題に
  挙げた。馬淵氏と海江田氏は「経済の成長を前提にすべき」
  と強調した。   ──2011年8月27日付、読売新聞
  ―――――――――――――――――――――――――――

民主党代表選/記者会見.jpg
民主党代表選/記者会見
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2011年08月30日

●「海江田氏の敗因を分析する」(EJ第3130号)

 遂に民主党代表選は決着。野田佳彦氏が新代表に選出されたの
です。野田首相の誕生です。海江田万里氏の完敗です。
―――――――――――――――――――――――――――――
      ≪第1回投票≫
       海江田万里 ・・・・・ 143
       野 田佳彦 ・・・・・ 102
       前原 誠司 ・・・・・  74
       鹿野 道彦 ・・・・・  52
       馬淵 澄夫 ・・・・・  24
      ≪決選 投票≫
       野田 佳彦 ・・・・・ 215
       海江田万里 ・・・・・ 177
―――――――――――――――――――――――――――――
 党内最大勢力の小沢グループが支援した海江田万里氏は、なぜ
勝てなかったのでしょうか。その敗因として、次の3つが考えら
れると思います。
―――――――――――――――――――――――――――――
        1.海江田万里氏の力不足
        2.小沢傀儡政権への警戒
        3.解散回避への議員心理
―――――――――――――――――――――――――――――
 敗因の第1は「海江田万里氏の力不足」です。
 多くの議員は、国会での海江田氏の経産相としての仕事ぶりを
見ており、リーダーとしてふさわしくないと考えたのでしょう。
私もそう思います。国会で号泣したことはともかくとして、何よ
りも問題なのは、海江田氏が経産省の役人に簡単に取り込まれて
しまったことです。今回の原発事故に対する経産省の責任はきわ
めて重大であるのに、幹部3人の更迭──実は割増金付きの特別
待遇の辞任と順送り人事を認めてしまったことです。
 あのとき、菅首相は経産省に最大のダメージを与える人事を検
討していたのです。それは、あの古賀茂明氏を事務次官に抜擢す
る人事です。
 これは菅首相にしてはなかなか良いアイデアです。実現したら
経産省は震撼し、組織が劇的に変わったかもしれないのです。と
ころが、菅首相はあくまで国のためではなく、自分の人気取りに
利用しようとするので、それが問題なのです。
 しかし、その情報を掴んだ松永和夫事務次官(当時)は、人の
好い海江田経産相を焚きつけて、素早くこの人事案を潰し、自ら
幹部3人が責任を取って辞任するかたちを急いだのです。惜しむ
らくは、もし、「古賀茂明事務次官」を海江田氏が推進していた
ら、たとえそれが実現しなかったとしても、海江田人気は相当沸
騰したと思われます。菅首相の方が一枚上手です。こんなことで
は、代表選に勝てるはずがないのです。
 敗因の第2は「小沢傀儡政権への警戒」です。
 民主党の議員、とくに一年生議員は、小沢一郎という政治家の
ことをあまりにも知らなさ過ぎです。それはたとえ小沢グループ
に属する議員も同様でしょう。ほとんど小沢氏について勉強して
いないし、小沢氏の著書である『日本改造計画』(講談社刊)も
読んでいない人も多いと思われます。
 今回の代表選でもメディアは、小沢グループが支持した海江田
氏をわざと小沢氏の名前を出すことによって貶めています。どの
メディアも同様ですが、とくに産経新聞は28日の「主張」(社
説)において、次の見出しをつけて、3人の秘書裁判の進行をあ
えて無視して論じています。明らかな海江田潰しです。
―――――――――――――――――――――――――――――
    「民主党代表選告示」
    政治とカネはどうした/「小沢問題」と向き合え
        ──2011年8月28日付、産経新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 民主党の議員──反小沢議員は当然として、中間派や小沢氏に
近い議員も含めて、小沢氏を本当にそういう政治家だと思ってい
るようです。今回の投票結果を見ると、それがよくわかります。
 数合わせ、数の力、二重権力など、これらはすべてメディアの
造語ですが、そういうメディアの論評が明確な意図を持った小沢
潰しであることを理解せず、そのまま受け入れる幼稚な議員が民
主党には多いのです。
 民主党は、このままでは次の総選挙で壊滅的敗北を喫するはず
です。その原因は、実は「マニュフェストの見直し」なのです。
メディアの世論調査では国民は「マニュフェストの見直し」に賛
成する人が多いようですが、こういうメディアの調査は信用でき
ません。小沢氏としては、自分の意見が素直に聞き入れられる体
制を求めたに過ぎないのです。小沢傀儡政権など、メディアの意
図的な造語のひとつであり、実態のないものです。
 敗因の第3は「解散回避への議員心理」です。
 第1回投票の結果から見て、野田候補の主張する大連立や増税
に反対する議員が多いので、中間派や鹿野グループ、馬淵グルー
プからある程度の数が海江田候補に入ると思ったのですが、ほと
んどそうならなかったのは意外です。
 政治評論家の分析によると、野田氏は安定しており、大連立も
主張しているので、もしそれがうまく行けば、解散・総選挙は当
面なくなるのではないかと考えた議員が多かったのではないかと
思いますが、果たしてそうでしょうか。
 野田氏になると、マニュフェストを全面見直し、自民党との大
連立を仕掛ける──これは国民に対する裏切りであり、それがど
のような結果をもたらすかについて、決戦投票で野田氏に入れた
議員は責任を持つべきです。これは民主党にとって自殺行為であ
ると思います。野田氏が勝利宣言として口にした「ノーサイドに
しましょう、もう」は果たして本当でしょうか。その実行をしば
らく見届けたいと思います。─── [日本の政治の現況/56]


≪画像および関連情報≫
 ●非小沢勢力結集に成功/東京新聞
  ―――――――――――――――――――――――――――
  野田佳彦財務相が民主党代表選で勝利したのは、海江田万里
  経済産業相を支援して復権を狙う小沢一郎元代表に批判的な
  非小沢勢力の結集に成功した結果だ。小沢氏と敵対してきた
  菅政権主流派は、野田氏と前原誠司前外相が出馬表明したこ
  とで、互いに票を食い合う状態が続いていた。その結果、海
  江田氏に大幅リードを許し、海江田氏が一回目の投票で過半
  数を制する可能性さえ指摘された。これに危機感を持った野
  田、前原、菅首相グループは投開票日の前日、非小沢系勢力
  を結集させることで一致。決選投票に持ち込んで、下位連合
  で海江田氏を破る戦略を描いた。「二位はどちらでも構わな
  い。海江田氏に勝てればいい」。前原陣営幹部はこう言い切
  った。ただ非小沢系勢力が結集しても、海江田陣営と数の上
  では互角。勝敗を決したのは、海江田氏が民主、自民、公明
  の三党合意の見直しを明言したことで、国会運営の行き詰ま
  りを心配した層が海江田氏から逃げ出した。代表選を争って
  きた鹿野道彦農相も決選投票で海江田氏に投票しないよう陣
  営に呼び掛け、これも決め手の一つとなった。海江田氏が環
  太平洋連携協定(TPP)に慎重姿勢を見せるなど、小沢氏
  の意向をくんで、次々と政策を転換する姿もマイナスに働い
  た。             ──「東京新聞/ウェブ」
  ―――――――――――――――――――――――――――

民主党新代表の野田佳彦氏.jpg
民主党新代表の野田 佳彦氏
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2011年08月31日

●「民主党が躓いた2つの原因」(EJ第3131号)

 EJで再び日本政治のテーマを取り上げたのは、この国の政治
には異様なものが存在するからです。民主党の代表選に決着がつ
いたので、このテーマをさらに掘り下げて行くことにします。
 理想を掲げて悲願の政権交代を実現した民主党は、なぜ現在の
ようなテイタラクになってしまったのでしょうか。それは見るも
無残な状態で、修復が困難なほどです。
 経産省官僚で今や一番の有名人である古賀茂明氏は、民主党が
躓いた基本的な原因を2つ上げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.民主党が何をやりたいのか、明確でないこと
    2.政治主導のための仕組みを確立できていない
―――――――――――――――――――――――――――――
 民主党は何をやりたいのでしょうか。民主党がそれを掲げて選
挙を戦ったマニュフェストを熟読しても、民主党が目指している
国家観が伝わってこない──このように古賀氏はいっています。
 しかし、民主党を政権交代に導いた小沢一郎元代表は、その著
書である『日本改造計画』(講談社)において、既に1993年
にそれを明確にしています。それだけではないのです。小沢氏は
新生党、新進党、自由党において、野党でありながら、与党と連
立を組むなりして、それをひとつずつ実現してきていることは、
ここまで述べてきている通りです。
 しかし、民主党の議員たち──とくに反小沢陣営の議員たちは
果たしてこの本を読んでいるのでしょうか。テレビなどで、そう
した議員たちの発言を聞くと、とてもそう思えない人もたくさん
いるのです。小沢氏に対して「政治とカネ」のレッテルを貼るだ
けで、小沢一郎という政治家についてろくに研究もせず、理解し
ようとしていないのです。それではいつまで経っても「脱小沢」
はなくならないのです。
 民主党が評判を落としたことのもうひとつは、政治主導に失敗
したことです。少し厳しくいうと、官僚の前から尻尾を巻いて逃
げ出した観があります。その理由は2つあります。
 第1は、最初の鳩山内閣が「弱い内閣」を作ってしまったこと
にあります。それは鳩山首相が小沢氏を「条件付き」の幹事長に
しか起用しなかったことにあります。そのため、鳩山内閣は小沢
氏の剛腕をフルに使えなかったのです。政治の制度改革には与党
として相当の覚悟で取り組む必要があります。そのため、政治改
革を政治目標としてこれまでやってきている小沢元代表を使うべ
きだったのにそれをしなかったのです。
 古賀茂明氏は民主党の「政治主導」について次のように述べて
います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 官僚が国民の代表である政治家の考えを半ば無視して、自分た
 ちの利益につながる政策を立案している。これを改革するキー
 ワードが「政治主導」なのは間違いないが、言葉だけが独り歩
 きしていて、そのための仕組みが整えられておらず、掛け声倒
 れになった。そうなってしまったのは、政治の制度改革が遅れ
 ていたからだ。国家公務員制度改革推進本部で公務員制度改革
 に取り組んでいたときに、行政と政治の制度改革はセットで行
 うべきだと強く感じた。公務員制度が改革され、官僚が国民の
 ために働く仕組みになっても、政治がそれを使いこなし、政策
 に活かせる体制になっていなければ、行政は正常に機能しない
 からだ。  ──古賀茂明著/『日本中枢の崩壊』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 第2は、民主党議員の勉強不足です。「政治主導」とは、政治
家が「主」になって、官僚を「従」として使いこなし、物事を決
めていくことですが、知識や知恵が不足しているために、政治家
が「主」になれなかったのです。ところで、政権交代の前に民主
党は次のようなことをいっていたのを覚えているでしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
 霞が関の幹部職員(事務次官など)には、全員辞表を書いて
 もらう。それが政治主導というものである。
―――――――――――――――――――――――――――――
 これについて古賀茂明氏は、うまくやると、これはきわめて効
果的であったと述べているのです。どうすればよかったかのとい
うと、内閣発足と同時に本当に幹部職員から辞表を書いてもらう
のです。もちろん、公務員には身分保障があるので、有無をいわ
さず、クビにはできないのは当然です。
 鳩山内閣では辞表すら集められませんでしたが、辞表は集める
べきであり、その辞表は大臣預かりにするのです。これだけでも
官僚は相当プレッシャーを感ずるものです。そのうえで、例えば
「独法の天下りポストをすべて廃止せよ」とか「無駄なコストを
2割削減せよ」という指示を一定の期限を切って出し、それがで
きれば留任させ、できなければ辞表を受理するか、他のポストに
異動させるのです。
 米国では、政権が変われば政権を支えたスタッフは全員代るの
です。しかし、そういう習慣のない日本でこれをやるには、閣僚
としての相当の度胸と決断力が必要です。民主党は結局は何もし
ないまま、自民党のときの幹部官僚を全員そのまま受け入れてし
まったのです。これで政治主導ができるはずがないのです。
 己の力を過信し、政治経験豊富なベテラン政治家を遠ざけ、官
僚を敵視して相手にせず、結局何もできないで終る──これが現
在の民主党の現状であるといえます。
 民主党が最初にぶつかったのは、既に概算要求として財務省に
提出されていた予算の扱いです。これは自民党政権下において提
出されたものであり、民主党としてはそれをそのまま追認するわ
けにはいかなかったのです。一から組み直す時間がない。予算編
成の経験もない。結局、妥協の産物として、財務省に頼らざるを
得なかったのです。これによって財務省にすっかり取り込まれた
のです。        ──── [日本の政治の現況/57]


≪画像および関連情報≫
  ●予算の概算要求について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  年度の予算編成にあたっては、前年度の夏から秋頃までに各
  省庁が必要な予算額を財務省に示す。これが「概算要求」で
  ある。これを財務省の主計局がとりまとめて「財務原案」と
  呼ばれる予算の原案を作成するという手順になる。概算要求
  基準は、この概算要求の上限をあらかじめ財務省が設定して
  各省庁に通知するものであり、英語で天井・限度を意味する
  「シーリング」と称される。この数字は経済財政諮問会議で
  議論された上で閣議了解されることで決定される。
                    ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

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経産省・古賀 茂明氏
posted by 平野 浩 at 04:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本の政治の現況 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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