んでいません。原発事故に対しても政府の対応は後手後手に回っ
ており、その収束はまだ遠い先の話です。まさに現在は日本の危
機であるといえます。
こういうときに政治が果たすべき役割が期待されるのですが、
菅政権の稚拙きわまる対応に国民の焦慮感は募る一方です。さら
に菅首相の脱原発の思い付き発言によって、今後原発は次々に止
まり、日本中に深刻な電力不安が起きつつあります。このまま事
態が推移すると、日本の企業──とくに製造業は続々と国外に生
産拠点を移し、日本経済に深刻な打撃を与えることが懸念されま
す。選挙のさいに「一に雇用、二に雇用、三に雇用」と連呼して
いた菅首相ですが、今そこにある危機を見ずに「脱原発」「自然
エネルギー」という遠い未来の話にかまけている──まさに支離
滅裂な政権運営といえます。これによって、いま多くの雇用が失
われようとしているのです。
「このままでは日本の製造業が日本脱出を企てる」──その事
態は既にはじまっています。先の話ではないのです。新聞は報道
しませんが、少しオーバーにいえば、怒涛のように企業は日本脱
出をはじめているのです。いくつか例を上げることにします。
三井金属鉱業は、この6月に主力製品であるスマートフォン用
材料の製造ラインをマレーシア工場に新設することを決めていま
す。なぜその決断をしたのかというと、同社は計画停電によって
埼玉の上尾営業所の生産が1ヵ月間ストップし、業界に大打撃を
与えたからです。
レンズメーカー大手のHOYAは、中国・山東省に工業用ガラ
ス工場を新設し、今年の12月から稼働させる予定です。ガラス
工場では原料を溶かす工程で安定した電力供給が不可欠であり、
前途に不安を感じて移転を決断しています。
まだあります。半導体産業の日本最大のルネサスエレクトロニ
クスは台湾やシンガポール企業に委託生産する方針を決定してい
るし、中堅自動車メーカーのユーシンは中国に拠点を移し、同社
は、「このままいくと日本での部品生産はゼロになる」と話して
います。精密モーターなどの電子・工業部品の世界的企業である
日本電産も実験設備などは海外に移転すると述べています。
この事態を小沢氏の側から見ると、政権交代をした民主党の中
にいながら何もできない状態になっています。強制起訴の件も重
いですが、党員資格停止処分を受けていては、党員ではないので
事実上何もできないのです。まさに座敷牢に入れられているのと
同じです。
かつて小沢氏は、自民党の幹事長であったとき、湾岸戦争が起
こっています。時の政権与党の幹事長ですから、何でもできる権
力を持っている立場にありながら、思うように国としての対応が
取れなかったと述懐しています。
サダム・フセインがイラクに進攻したとき、米国が懸念したの
はサウジアラビアのことだったのです。軍事専門家によると、も
し、イラクがサウジアラビアに攻め込むと、約2週間でサウジア
ラビアの主要な油田地帯をほぼ制圧できるというのです。そうす
ると、イラクは世界の55%の石油をコントロールできることに
なります。イラクは当時毒ガスを平気で使う国であり、これはま
さに世界的危機といえます。
このとき、日米両国は「グローバル・パートナーシップ」のス
ローガンのもとで、政策協議がスムーズに進んでいたのです。で
すから、米国は同盟国である日本の協力を非常に頼りにしていた
のです。はじめての有事での対応であり、まさに、日米同盟の真
価が問われる事態だったからです。
しかし、結局日本にできたことは、130億ドルの資金提供だ
けだったのです。もちろん幹事長の小沢氏は、最善の努力をした
のですが、頑強な官僚機構に阻まれて、ほとんど何もできなかっ
たのです。
このときの状況を小沢氏は『日本改造計画』において、次のよ
うに書いています。
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まず、アメリカは日本に軍用物資を運ぶ輸送機の派遣を要請し
てきた。それに対して日本政府はあまり検討の時間もかけずに
「ノー」の答えを出す。次にアメリカは補給艦を要請する。こ
れも「ノー」。軍用のタンカーはどうか。またまた「ノー」。
それでは船を。これに対しては、日本国籍二隻、米国籍一隻の
計三隻を出して応じたが、出港した九月末は輸送需要のピーク
を過ぎていた。さらに、アメリカは掃海艇の派遣を要請してき
た。政府は憲法上の観点から「ノー」と答えた。最後には政府
は掃海艇を派遣したが、戦争が終わってからであった。このよ
うに、政府の対応が遅すぎて、本当に必要なときに協力できな
かったのである。 ──小沢一郎著
『日本改造計画』/講談社刊
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このとき、小沢氏は幹事長としてあらゆる手を尽くしたのです
が、官僚機構の壁を破れず、ここを変えないと、日本は変わらな
いと考えて仲間と一緒に自民党を離党したのです。そして今それ
に取り掛かる直前に手足を奪われたかたちになっています。
これに関連して小沢氏はこういっています。民主主義のあり方
が日本と欧米とは逆である、と。米国では日常生活の次元で民主
主義が徹底されていますが、一朝、緊急事態が発生すると、きわ
めて少数の人間が責任をもって決断、対処して行くのです。
しかし、日本は逆なのです。一朝有事になると、マスコミを筆
頭にして、民主主義が高らかに叫ばれるのです。しかし、その場
合の民主主義とは、きわめて手続き面に偏重した民主主義なので
す。「議論をとことん尽くせ」となるわけです。今回の震災対応
にもそれがあらわれているのです。小沢氏はそれを根本から変え
ようと考えているのです。 ── [日本の政治の現況/33]
≪画像および関連情報≫
●小沢一郎著、『日本改造計画』冒頭部分より
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世界の大国でなければ、国の指導者に指導力が欠如していて
も、少なくとも世界に対して迷惑をかけることはない。しか
し、ひとたび大国といわれるほどに国力が高まり、その動き
の一つ一つが対外的に影響を及ぼすようになれば、もはや、
「指導力の欠如」は許されない。「弱い指導者」は他国には
迷惑でしかないのである。(中略)大国としての責任を免れ
ることはできない。アメリカが単独で世界を取り仕切ってい
た時代のようなわけにはいかない。日本はその広く深い影響
力をきっちりとコントロールし、世界のために役立てる義務
がある。そのためには何が必要なのか。強力なリーダーシッ
プである。その強いリーダーシップが日本にあるだろうか。
──小沢一郎著
『日本改造計画』/講談社刊
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どう動くか。小沢 一郎