2011年07月11日

●「国家公務員制度改革はなぜ必要か」(EJ第3095号)

 日本の国家財政が厳しい状況にあることは多くの人はわかって
いますが、それを解決するためには、国家公務員制度改革が何よ
りも必要であることを分かっている人は少ないと思います。
 今や話題の人である古賀茂明氏は、現在の日本の国家財政の現
状を次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の国家財政はぎりぎりの状態にある。企業にたとえれば分
 かりやすい。いま日本が置かれているのは、企業でいえば一時
 的赤字の段階ではなく、構造的赤字で、借金返済の目処が立た
 ず、しかも本業の稼ぎも向上の見通しが立たない状態。民事再
 生や会社更生の申し立てを検討する段階である。企業の再生時
 には、一時的経常悪化時とはまったく異なる大胆な改革が必要
 となる。経営陣の退陣や外部人材の投入で、すべてのしがらみ
 を断って非連続的改革を行う。と同時に、並行して内部の中堅
 ・若手を抜擢し、改革業務をリードさせる。信賞必罰を徹底し
 年功序列が能力主義に改められる。     ──古賀茂明著
               『日本中枢の崩壊』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ウォルフレン氏が述べているように、日本人には「国家」とい
う概念が希薄なのです。長い間にわたって平和が続き、国という
ものを意識するときは、パスポートを持って海外に出るときやオ
リンピックやサッカーの国際試合で日本を応援するときぐらいの
ものであるからです。ウォルフレン氏は、日本人に対して、自分
の人生をよりよいものにするために、日本を根本的に変えること
にもっと力を尽くすべきだと強調しています。そのために理解し
なければならないのは、次の概念であるといいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
      市民としての立場(シチズンシップ)
―――――――――――――――――――――――――――――
 ウォルフレン氏は、次の3つの概念を分けて認識することが重
要であるといっています。これらの概念を多くの日本人は同じ意
味であると混同しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.市民 ・・・・・   シチズン
      2.臣民 ・・・・・ サブジェクト
      3.国民 ・・・・・  ナショナル
―――――――――――――――――――――――――――――
 「市民」は、日本で生活する外国人も含むので「国民」とは明
らかに異なり、政府や君主に服従する「臣民」──つまり官僚と
も異なる存在です。国を変えようとするには、「市民としての立
場」に立つ必要があるというのです。市民についてウォルフレン
氏は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 市民とは政治的に意味をもつ存在だ。市民とは、自分のまわり
 の世界がどう組織されるかは自分の行動にかかっていると、お
 りにふれてみずからに言いきかせる人間である。私は、市民と
 してのみなさんに向かってこの本を書いている。私は日本人で
 はないが、市民としてはみなさんと対等の立場にある。市民は
 つねに、社会における自分たちの運命について理解を深めよう
 とつとめる。市民は、ときに不正にたいして憤り、なんとかし
 なくてはいけないと思いたって、社会にかかわっていく。受け
 身の姿勢では、市民としての立場を失うことになる。
      ──カレル・ヴァン・ウォルフレン著/鈴木主税訳
   『人間を幸福にしない日本というシステム』/OH!文庫
―――――――――――――――――――――――――――――
 「臣民」とされる官僚──とくに中央省庁の官僚は、自分の所
属する省庁ならびに公務員全体の世界を「国」に近い概念として
とらえている人は多いのです。昔の「藩」の考え方に似ていると
いえます。だから、国益にとってどんなマイナスなことでも、省
益を守るためであれば平気でやってしまうのです。
 今や日本人(国民)のほとんどは、日本が国家財政の危機にあ
ることは知っています。しかし、日本が20年近く連続で世界一
の債権国であるという認識は薄いのです。それは、官僚の意図的
な宣伝によるものであるからです。
 といっても世界一の債権国だから国家財政の危機ではないとい
うわけではないのですが、そのあたりのことを市民という立場に
立って、情報を正確に見極める必要があるのです。
 現在、大半の国民は政府が進める「社会保障と税の一体改革」
における消費税増税について容認する姿勢を示しています。しか
し、その前に「ムダの排除」が不可欠であると多くの国民は考え
ています。しかし、その無駄の排除が事業仕分けなどによるちょ
こちょこしたものではなく、その根っこにある国家公務員制度改
革をやり遂げないと達成できないし、国家財政の危機もクリアで
きないことを知るべきです。
 しかし、東日本大震災で経済が疲弊している現在の日本で増税
をするとどうなるのかは火を見るよりも明らかです。しかし、政
府はそれを強引に推し進めようとしています。これは政府がとい
うよりも「政府のバックにいて事実上政府を動かしている官僚」
がそうさせていると考えるべきです。
 国の税収を上げるには、増税だけでなく、経済力を強化する方
法があります。被災地の復興ということも経済力を強化する機会
になります。しかし、財務官僚は、その財源は増税で賄うという
ように話をすぐ増税に持って行くよう画策しています。
 ここで考えなければならないことは、増税で経済が破綻しても
困るのは国民であって、公務員は収入が安定しており、何も困ら
ないのです。彼らは経済の成長には無関心です。時間もかかるし
確実性がないからです。そのため、日本の経済はあの橋本元首相
時代の消費税5%アップのとき以来、まったく成長していないの
です。こんな国は日本だけです。─ [日本の政治の現況/21]


≪画像および関連情報≫
 ●社会保障・税一体改革「2つのアプローチ」/日本財団
  ―――――――――――――――――――――――――――
  そもそも社会保障・税の一体改革を考えるには2つのアプロ
  ーチがある。一つは、「赤字補填アプローチ」である。現在
  国の消費税収は、すべて医療・介護・年金の高齢者3経費に
  充てられることになっている。3経費と国の消費税収の間に
  は10兆円のギャップ(平成23年度予算ベース)がある。
  毎年自然増が見込まれるので、2015年時点でそのギャッ
  プは13兆円弱に膨れ上がる。これは、消費税率でいえば、
  5%分である。そこで、これを増税の根拠とするアプローチ
  である。しかし、国民の立場からは、今の社会保障にはさま
  ざまな非効率があり、生活保護ビジネスの横行などの恥部も
  見え隠れする。現行制度の表面づらを化粧直しして、財源が
  これだけ足りない、増税を、というのでは、納得できないと
  いうことになる。そこで、現行の社会保障制度を改革し、そ
  の姿を具体的に示しつつ、そのために必要な財源を試算し、
  それを税負担増の根拠とするという「社会保障改革アプロー
  チ」が出てくる。要点は、「徹底した社会保障の効率化」と
  「真に必要な分野への重点的な拡充」、この2つである。
      http://www.tkfd.or.jp/topics/detail.php?id=280
  ―――――――――――――――――――――――――――

与謝野経財相.jpg
与謝野経財相
posted by 平野 浩 at 04:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本の政治の現況 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする