僚について述べてきています。彼らは「姿なき権力者」として、
日本の国を実質的に動かしている存在です。
表向きの権力は大臣や副大臣が持っていますが、本当の権力は
そのバックにいる官僚組織が国を動かしているのです。具体的に
いうと、実質的には各省庁の官僚トップの事務次官が権力を握っ
ているといっても過言ではないのです。
なぜなら、その事務次官の下に官僚組織が配置されているから
です。いくら大臣が何かをやろうとしても、この官僚組織が動か
ない限り、実現することは困難です。まして官僚組織が嫌がるこ
とはほとんど実現できないことになります。
このシステムは官僚側から見るときわめて都合がよいのです。
実質的に組織や資金を握っていて、国を動かせるからです。そし
てどんなに失敗しても責任はいっさいとらないで済むからです。
そのために官僚としては、自らの組織(システム)を守ること
が重要になります。そのための諸制度や仕掛けが緻密に作り上げ
られ、明治以来現在まで続いているのです。
その磐石の体制ができたのは、1955年以来の自民党の一党
独裁体制です。中国の共産党一党独裁体制を批判する割には、日
本人は自国の一党独裁体制をあまり批判しないのです。それは日
本が民主主義国であるからです。
確かに日本は、欧米諸国以外で、民主主義国家としての体裁が
もっとも整っている国であるといえます。ウォルフレン氏は日本
について次のように述べています。
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日本には、議会制民主主義には欠かせないとされる機関がすべ
てある。そして、表面的に見るかぎり、別に並外れて特異なと
ころがあるわけではない。東京の都心には国会議事堂がある。
衆参両院の議員たちが集まって審議をする場所である。民主主
義にそって自分の職務を遂行していないのではないかなどとい
われれば、彼らは激怒するであろう。日本国民には、四年ごと
に、また時によってはもっと頻繁に、広範にわたる候補者の中
から自分がよいと思う議員を投票で選ぶ機会がある。
──カレルウォルフレン著/篠原勝訳
『日本/権力構造の謎』上/早川書房
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しかし、日本は自民党による一党独裁だったのです。この体制
がよいはずがありません。そのため、50年を超える年月が経過
して自民党が劣化し、遂に2009年夏に事実上小沢一郎が率い
る民主党が政権交代を果たしたというわけです。なぜ、事実上か
というと、選挙直前に検察によって小澤事務所の大久保秘書が逮
捕され、代表を降りざるを得なかったからです。
既に選挙前から民主党が勝つことは見えていたので、「姿なき
権力者」たちは大きな危機感を覚えたわけです。そこで、検察を
使って小沢氏を代表から降ろし、小沢総理の実現だけはなんとか
防止したのです。小沢首相が率いる民主党だけは絶対に実現させ
ないという強い意志をそこに見ることができます。
それでは、なぜ小沢氏をそれほどまでに恐れるのでしょうか。
それは小沢氏の政治的パワーが並外れて強いからです。その実力
は、時の政権与党を倒して野党が政権をとるなどということを2
度にわたって実現させていることによって明らかです。そんな政
治家は今までに一人もいないからです。
小沢氏が政権をとったら何をするかは、1993年に彼が上梓
した『日本改造計画』(講談社刊)で明らかです。そこには19
93年の時点で明確に日本の政治の弊害が鋭く指摘され、日本の
統治構造をどのように改革すべきか、その基本的なやり方が示さ
れているからです。
しかし、その計画は官僚組織にとってはとうてい受け入れられ
るものではなく、そういう意味で小沢氏は官僚にとって最大の恐
るべき敵なのです。ウェルフレン氏は、日本が必要とする抜本的
な改革に取り組めるのは、小沢一郎氏をおいてほかにはいないと
いっています。
「姿なき権力者」は、民主党が政権をとり、小沢氏が幹事長に
就任したあとも、もし鳩山内閣が行き詰まったら、次の総理にな
る可能性は高いとして、検察を使って乾坤一擲の勝負に出たので
す。それが小沢氏への人物破壊です。
今や小沢一郎といえば「公共工事を利用してゼネコンから泥の
カネを手に入れる悪徳政治家」のようにいわれています。このイ
メージは、検察がマスコミを使って長期にわたって執拗に続けた
人物破壊の結果であり、事実と完全に異なるものなのです。多く
の人が騙されているのです。
既に民主党の反小沢グループ(現菅政権と執行部)はもはや民
主党ではなく、自民党以上に自民党化したグループです。彼らは
そうしなければやっていけないことを政権与党の座について悟っ
たのです。そして実権は「姿なき権力者」に握られているが、表
面上は政権与党として振るまえる道を選んだのです。
しかし、肝心の小沢氏はまだ何もやっていないのです。官僚側
の物凄い抵抗に遭って身動きがとれない状況だからです。秘書裁
判での不起訴にも関わらず、疑惑の検察審査会での起訴を受け、
これから裁判がはじまるからです。
日本の現状は深刻なものがあります。一刻でも早く、力のある
政治家によって改革を実現することが不可欠な状況にあります。
とくに菅政権になってからは、めちゃくちゃな国家運営が行われ
ており、それに加えて大震災に遭遇し、一層日本は混迷の度を深
めつつあります。
7月2日の日本テレビの政治番組で、このまま菅政権が続くと
どうなるかについて4人の識者全員が、「日本破綻」と書いたフ
リップを出していました。まさに日本の危機といっても過言では
ないでしょう。 ─── [日本の政治の現況/16]
≪画像および関連情報≫
●アジアの政治体系のなかの日本
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この形式上の権威と実質的な権威との不一致ということは、
近隣のアジア諸国にもなじみが深い。今日のアジアの形式上
の権力構造の多くは体裁をつくろうための作りものである。
アジアの非共産主義諸国の飾りものの公式の体裁は、インド
インドネシア、フィリピソ、マレーシアの場合には、旧植民
地宗主国によって、また、タイや日本の場合には、西洋的形
態を取り入れたはうが自国の独立も護れ、西欧諸国からも敬
意の目で見られるだろうと考えた国内の改革者によって、西
欧からとり入れられたものである。
──カレルウォルフレン著/篠原勝訳
『日本/権力構造の謎』上/早川書房
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菅直人首相