2011年07月01日

●「有罪判決率を上げる自白中心主義」(EJ第3089号)

 山縣有朋の官僚制度を守るためのさまざまな仕掛けを土台とし
て、平沼騏一郎や馬場義続のような検察官が力を握り、力のある
政治家を脅しつつ、妥協を図るようになったのです。この平沼や
馬場の処世術について、相手の出方によって、政治評論家の田原
総一朗氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「検察官として、ごく平均的な生き方をした人間」として平沼
 騏一郎がおり、平沼が出世した理由として、政治家のちょっと
 したスキャンダルを見つけてきては、それをフレームアップす
 る。狙いをつけている政治家が頼み込んできたら、そこで打ち
 切って大いに恩に着せる。その平沼流出世術を真似したのが馬
 場であり、これを当時の自民党の実力者である河野一郎にやり
 のち広島高検に転出させられそうになったのを河野の口利きで
 撤回させている。なお、検事総長になるほどの人物であれば、
 誰でもこの類の話に事欠かない。    ──ウィキペディア
―――――――――――――――――――――――――――――
 検察は平沼や馬場の時代から、有罪判決率を上げるため、次の
3つのことを心がけていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.検察官が恣意的な判断の余地を多く取れるようにするた
   め、法律の条文はできるだけ曖昧にする。
 2.客観的情況証拠を重視しないで、あくまで容疑者の自白
   に重きを置き、それを証拠の中心にする
 3.もし、無罪判決が出たときは「検察職」の権威を保つた
   め、控訴を続けて執拗に戦うことにする。
―――――――――――――――――――――――――――――
 上記3つのことは、現在の検察の中で生き続けているのです。
多くの客観的情況証拠を集めるよりも、取り調べを強化して、自
白調書を作り上げ、裁判所もそういう自白調書を一級の証拠とし
て活用してきたのです。しかし、あの証拠改竄事件によって、検
察の権威には黄ランプが灯ってはいますが、本当に検察の改革が
進むかどうかは予断を許さないものがあります。
 こうした日本の検察の自白主義に対して、鋭い知覚で日本につ
いて書いている政治学者、チャーマーズ・ジョンソンは次のよう
に書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の警察、検事、裁判官は、自白を「証拠の王」と考える。
 自白は、あらゆる検事が起訴に先立って欲しがる決定的な証拠
 であり、それはまた、検事のそれまでの努力が法廷でどれだけ
 裁判官に認められるかを決める、唯一もっとも重要な要素であ
 る。内容の詳しい自白に比べれば、情況証拠は明らかに二の次
 である。このように検事と裁判官が自白をより重視することか
 ら、日本の警察が、客観的≠ノ事件を証拠だてするよりも、
 自白を得ることに力を注ぐこともそれはど驚くことではない。
            ──カレルウォルフレン著/篠原勝訳
            『日本/権力構造の謎』上/早川書房
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、敗戦により、日本に進駐した占領軍は、この慣行を変
えようとしているのです。それは、それまでかなりの割合におい
て、自白が拷問などによって引き出されていたからです。
 そこで憲法において、次の規定──憲法第38条が設けられる
ことになったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
 2.強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留
   若しくは拘禁された後の自白は,これを証拠とすること
   ができない。
 3.何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である
   場合には,有罪とされ,又は刑罰を科せられない。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この規定は、大日本帝国憲法にはないのです。第1項は、黙秘
権(自己負罪拒否特権)を規定しており、第2項と第3項は自白
法則を規定しています。この条文によって自白の証拠性は否定さ
れているのです。また、唯一の証拠が本人にとって不利益な自白
だけであるという場合は、それによって有罪になることはなく、
検察は、自白以外の証拠を十分に得なければ、起訴出来ないこと
を意味しているのです。
 しかし、占領時代が終わると、自白が決め手の有罪判決が多く
なってきています。それは、大雑把に見積もって、全有罪判決の
65〜75%を占めるようになったのです。この有罪率がさらに
進んで99.9 %に達するようになるのです。これは、明らかに
憲法第38条の規定に違反しています。
 実際に被告が撤回した自白が、後で証拠として使われることも
あるのです。こういう場合に裁判官の姿勢が重要になるのですが
検事サイドのこのやり口を阻もうとする正義感のある裁判官は、
ほとんどいないとウォルフレン氏は慨嘆し、著書で次のように書
いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1987年12月16日、東京地裁の反町宏裁判長は住居侵入
 強盗・婦女暴行未遂の罪に問われた被告に無罪を言い渡し、容
 赦なく自白を引き出す検事のやり方を公然と批判した。筆者が
 判事や弁護士にインタビューしてわかったのは、1パーセント
 のさらに何分の一というごくわずかながら、検察側が負けたケ
 ースがあるのは、自由主義的な裁判官が撤回された自白を証拠
 として認めなかったためだということだった。
            ──カレルウォルフレン著/篠原勝訳
            『日本/権力構造の謎』上/早川書房
―――――――――――――――――――――――――――――
             ─── [日本の政治の現況/15]


≪画像および関連情報≫
 ●法学館憲法研究所/「憲法第38条逐条解説」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  刑事手続における被疑者や被告人に限らず、証人も刑事責任
  を問われる可能性のある供述を強要されることはありません
  (1項)。この供述拒否権は、刑事裁判のみならず民事裁判や
  議院における証言の場においても、また行政手続においても
  保障されます。2項は強制された自白など、任意性のない自
  白を証拠として使うことを禁じます。強制や利益誘導されて
  得られた自白は虚偽である危険が大きいですし、捜査機関に
  黙秘権侵害をさせないようにするには、証拠として使えない
  とすることが効果的だからです。2項に列挙された事由はあ
  くまでも例示であり、たとえば長時間にわたる取調べによっ
  て得られた自白も、その任意性に疑いを生じさせるようなも
  のであれば証拠として使うことはできません。3項は、自白
  を唯一の証拠とする場合にも有罪とできるとすると自白強要
  のおそれや誤判の危険が高まるので、その自白だけでは有罪
  にできないとしました(補強法則)。
                  (2006年11月3日)
        http://www.jicl.jp/itou/chikujyou.html#038
  ―――――――――――――――――――――――――――

田原総一朗氏.jpg
田原 総一朗氏
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2011年07月04日

●「『姿なき権力者』が恐れるのは誰か」(EJ第3090号)

 「管理者たち/アドミニスタレーターズ」の中心的存在──官
僚について述べてきています。彼らは「姿なき権力者」として、
日本の国を実質的に動かしている存在です。
 表向きの権力は大臣や副大臣が持っていますが、本当の権力は
そのバックにいる官僚組織が国を動かしているのです。具体的に
いうと、実質的には各省庁の官僚トップの事務次官が権力を握っ
ているといっても過言ではないのです。
 なぜなら、その事務次官の下に官僚組織が配置されているから
です。いくら大臣が何かをやろうとしても、この官僚組織が動か
ない限り、実現することは困難です。まして官僚組織が嫌がるこ
とはほとんど実現できないことになります。
 このシステムは官僚側から見るときわめて都合がよいのです。
実質的に組織や資金を握っていて、国を動かせるからです。そし
てどんなに失敗しても責任はいっさいとらないで済むからです。
 そのために官僚としては、自らの組織(システム)を守ること
が重要になります。そのための諸制度や仕掛けが緻密に作り上げ
られ、明治以来現在まで続いているのです。
 その磐石の体制ができたのは、1955年以来の自民党の一党
独裁体制です。中国の共産党一党独裁体制を批判する割には、日
本人は自国の一党独裁体制をあまり批判しないのです。それは日
本が民主主義国であるからです。
 確かに日本は、欧米諸国以外で、民主主義国家としての体裁が
もっとも整っている国であるといえます。ウォルフレン氏は日本
について次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本には、議会制民主主義には欠かせないとされる機関がすべ
 てある。そして、表面的に見るかぎり、別に並外れて特異なと
 ころがあるわけではない。東京の都心には国会議事堂がある。
 衆参両院の議員たちが集まって審議をする場所である。民主主
 義にそって自分の職務を遂行していないのではないかなどとい
 われれば、彼らは激怒するであろう。日本国民には、四年ごと
 に、また時によってはもっと頻繁に、広範にわたる候補者の中
 から自分がよいと思う議員を投票で選ぶ機会がある。
            ──カレルウォルフレン著/篠原勝訳
            『日本/権力構造の謎』上/早川書房
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、日本は自民党による一党独裁だったのです。この体制
がよいはずがありません。そのため、50年を超える年月が経過
して自民党が劣化し、遂に2009年夏に事実上小沢一郎が率い
る民主党が政権交代を果たしたというわけです。なぜ、事実上か
というと、選挙直前に検察によって小澤事務所の大久保秘書が逮
捕され、代表を降りざるを得なかったからです。
 既に選挙前から民主党が勝つことは見えていたので、「姿なき
権力者」たちは大きな危機感を覚えたわけです。そこで、検察を
使って小沢氏を代表から降ろし、小沢総理の実現だけはなんとか
防止したのです。小沢首相が率いる民主党だけは絶対に実現させ
ないという強い意志をそこに見ることができます。
 それでは、なぜ小沢氏をそれほどまでに恐れるのでしょうか。
それは小沢氏の政治的パワーが並外れて強いからです。その実力
は、時の政権与党を倒して野党が政権をとるなどということを2
度にわたって実現させていることによって明らかです。そんな政
治家は今までに一人もいないからです。
 小沢氏が政権をとったら何をするかは、1993年に彼が上梓
した『日本改造計画』(講談社刊)で明らかです。そこには19
93年の時点で明確に日本の政治の弊害が鋭く指摘され、日本の
統治構造をどのように改革すべきか、その基本的なやり方が示さ
れているからです。
 しかし、その計画は官僚組織にとってはとうてい受け入れられ
るものではなく、そういう意味で小沢氏は官僚にとって最大の恐
るべき敵なのです。ウェルフレン氏は、日本が必要とする抜本的
な改革に取り組めるのは、小沢一郎氏をおいてほかにはいないと
いっています。
 「姿なき権力者」は、民主党が政権をとり、小沢氏が幹事長に
就任したあとも、もし鳩山内閣が行き詰まったら、次の総理にな
る可能性は高いとして、検察を使って乾坤一擲の勝負に出たので
す。それが小沢氏への人物破壊です。
 今や小沢一郎といえば「公共工事を利用してゼネコンから泥の
カネを手に入れる悪徳政治家」のようにいわれています。このイ
メージは、検察がマスコミを使って長期にわたって執拗に続けた
人物破壊の結果であり、事実と完全に異なるものなのです。多く
の人が騙されているのです。
 既に民主党の反小沢グループ(現菅政権と執行部)はもはや民
主党ではなく、自民党以上に自民党化したグループです。彼らは
そうしなければやっていけないことを政権与党の座について悟っ
たのです。そして実権は「姿なき権力者」に握られているが、表
面上は政権与党として振るまえる道を選んだのです。
 しかし、肝心の小沢氏はまだ何もやっていないのです。官僚側
の物凄い抵抗に遭って身動きがとれない状況だからです。秘書裁
判での不起訴にも関わらず、疑惑の検察審査会での起訴を受け、
これから裁判がはじまるからです。
 日本の現状は深刻なものがあります。一刻でも早く、力のある
政治家によって改革を実現することが不可欠な状況にあります。
とくに菅政権になってからは、めちゃくちゃな国家運営が行われ
ており、それに加えて大震災に遭遇し、一層日本は混迷の度を深
めつつあります。
 7月2日の日本テレビの政治番組で、このまま菅政権が続くと
どうなるかについて4人の識者全員が、「日本破綻」と書いたフ
リップを出していました。まさに日本の危機といっても過言では
ないでしょう。      ─── [日本の政治の現況/16]


≪画像および関連情報≫
 ●アジアの政治体系のなかの日本
  ―――――――――――――――――――――――――――
  この形式上の権威と実質的な権威との不一致ということは、
  近隣のアジア諸国にもなじみが深い。今日のアジアの形式上
  の権力構造の多くは体裁をつくろうための作りものである。
  アジアの非共産主義諸国の飾りものの公式の体裁は、インド
  インドネシア、フィリピソ、マレーシアの場合には、旧植民
  地宗主国によって、また、タイや日本の場合には、西洋的形
  態を取り入れたはうが自国の独立も護れ、西欧諸国からも敬
  意の目で見られるだろうと考えた国内の改革者によって、西
  欧からとり入れられたものである。
            ──カレルウォルフレン著/篠原勝訳
            『日本/権力構造の謎』上/早川書房
  ―――――――――――――――――――――――――――

菅直人首相.jpg
菅直人首相
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2011年07月05日

●「陸山会公判重要局面へ」(EJ第3091号)

 陸山会公判が重要な局面を迎えています。2009年の衆院選
の直前に東京地検特捜部は、当時民主党代表の小沢一郎氏の第一
秘書である大久保隆規氏をいきなり逮捕・起訴したのです。特捜
部は、その取り調べの模様を記者クラブを通じてリークし、テレ
ビや新聞はそれを使って派手に書き立てたのです。
 政権交代が起きる可能性のある選挙の直前であり、どう考えて
も、小沢氏の失脚を狙った選挙妨害ともいえる逮捕であったとい
えます。しかし、小沢氏は代表を鳩山氏に譲り、選挙担当として
選挙戦を勝ち抜いて、民主党の政権交代は実現したのです。
 ところが、強引に起訴した大久保隆規被告の裁判では検察側が
きわめて劣勢であり、検察側の立てた証人の供述によってその立
証の根拠が崩れ、2010年2月に予定されていた判決では無罪
を勝ち取る可能性が高くなったのです。
 そうすると、東京地検特捜部は、今度は小沢氏の資金管理団体
「陸山会」の土地購入問題を取り上げ、大久保隆規氏を含め、衆
議院議員で元秘書の石川知裕氏、同じく元秘書の池田光智氏の3
人を政治資金規正法違反の容疑で逮捕したのです。
 政治資金収支報告書に虚偽記載があったという容疑ですが、そ
れも土地購入の登記日にずれがあったというだけのものであり、
通常であれば形式犯として訂正で済む事案なのです。まして通常
国会開催の直前に衆議院議員の逮捕をするなどあまりにも強引な
やり方なのですが、マスコミは「小沢一郎=悪人」の証明ができ
たとばかり、鬼の首でも取ったように書き立てたのです。
 そのさい、無罪判決が間違いないところにきていた大久保隆規
の容疑の訴因変更を行い、3人をまとめて起訴したのです。つま
り、無罪必至の事件は訴因から外しているのです。これはとんで
もないことです。そして当時幹事長の小沢氏に関しては2回の事
情聴取を行い、テレビや新聞・雑誌はそれを派手に取り上げたの
です。しかし、小沢氏は結局不起訴になったのです。いや、起訴
したくてもできなかったというのが正しいといえます。そのとき
証拠改竄の前田事件は起こっていないのです。前田元検事の証拠
改竄が報道されたのは2010年9月のことです。
 結局、小沢氏は鳩山氏と一緒に辞任し、菅政権が誕生するので
すが、それまで急落していた民主党の支持率は急回復しているの
です。しかし、菅陣営が支離滅裂な選挙を行ったことにより、参
院選では大敗したのです。そして、2010年9月の代表選に敗
れた小沢氏に降りかかったのは、検察審査会による2回にわたる
「起訴相当」による強制起訴です。代表選と検察審査会の決定に
は大きな疑惑があり、これについては改めて取り上げです。しか
し、いずれにしても、これによって小沢氏は表立った政治活動が
できなくなってしまったのです。
 さて、その陸山会公判は最初から異常だったのです。検察側は
起訴事実とは関係のない証人を次々と立てて証言させ、4億円の
出所がゼネコンからの献金であるかのように印象づけたのです。
新聞は例によって検察側の主張のみ派手に書き立てたのです。目
的はただひとつ小沢氏を貶めることにあるようです。
 しかし、陸山会公判は既に最終段階にきており、7月20日に
論告求刑、8月22日に最終弁論が行われることになっているの
です。これに伴い、地裁は6月30日付で検察が証拠申請をして
いた3人の秘書の捜査段階の供述調書38通のうち12通を「任
意性がない」として全部却下し、他にも多数の調書を一部棄却し
たのです。検察の面子丸つぶれです。
 これは検察にとって想定外のことであったようです。とくに小
沢氏に虚偽記載することを報告して了承を得たとする調書はすべ
て任意性がないとして却下されているからです。
 ここで触れておくべきことがあります。そもそも事実と異なる
調書になぜ容疑者がサインするかということです。そこに検事の
駆け引きがあるのです。もし、事実と少しでも異なる調書にサイ
ンしないで突っ張ると、検事は「それなら保釈させないぞ」と脅
して実際にそうするのです。大久保氏はそれを貫き、ほとんど調
書にサインしなかったので、長期にわたって保釈は認められてい
ないのです。これは違法なのですが、実際には行われています。
 そこで昨年1月の逮捕時では、3人は多少のウソが入っていて
も認めてサインしています。しかし、証拠改竄の前田事件が起き
るまでは、その調書が有罪の決め手になっているのです。開示さ
れない取り調べでは検事による脅しや取引が平然と行われている
のです。このあたりのことを今回の裁判長の登石郁朗氏はていね
いに調べ上げ、これらの調書を却下させているのです。前田事件
の影響がこのようなところに及んでいるのです。登石裁判長は、
検察側提出の供述調書を大量に却下した理由について次のように
検察側を批判しているのです。これは極めて異例のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 威迫と利益誘導を織り交ぜ、硬軟両面の言辞で調書に署名させ
 ている。そのため石川は強い心理的圧迫を受け、小沢氏に類が
 及ばないよう妥協していた。      ──登石郁朗裁判長
―――――――――――――――――――――――――――――
 検察側は「調書は採用されるはず」と楽観視していたフシがあ
り、大量の調書却下に衝撃を受けています。とくに小沢氏を強制
起訴した指定弁護士は、今回却下された調書を基に起訴しており
裁判長は変わっても調書は採用されない可能性があります。
 そうなると、小沢氏の無罪の可能性は高くなり、これ以上検察
審査会の起訴裁判で与党の有力政治家の行動を制限することは国
益に反することです。指定弁護士は自らの面子にとらわれること
なく、早期に収束を図るべきであると思います。なお、今回の証
拠却下について、郷原信郎弁護士と徳山勝氏のコメントが参考に
なるので、「関連情報」をご一読いただきたいと思います。もし
大久保秘書の逮捕がなければ、現在のような醜い民主党の混乱は
なかったといっても過言ではないと思います。「姿なき権力者」
の姿が少し見えてきています。── [日本の政治の現況/17]


≪画像および関連情報≫
 ●東京地裁の証拠却下決定についての意見/郷原信郎氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  民主党の小沢元代表の政治資金を巡る事件で、起訴された元
  秘書らの主な供述調書のほとんどが証拠請求を却下された。
  NHKニュース「裁判所特捜部の取り調べ批判」によると、
  裁判所は、決定の中で「心理的圧迫と利益誘導を織り交ぜな
  がら、巧妙に供述を誘導した」と指摘し、東京地検特捜部の
  取り調べを厳しく批判した。今回の決定は、特捜検察の従来
  の捜査・取調べの手法に対して、村木事件における大阪地裁
  の証拠却下決定と同様に、裁判所が正面から否定的な判断を
  示したものであり、私が「検察の正義」(ちくま新書)「検
  察危ない」(ベスト新書)等で批判してきた一連の小沢事件
  捜査の暴走に対する司法判断として極めて重要な意味を持つ
  ものである。http://www.twitlonger.com/show/bfqpmu
 ●ニュースクリップ/徳山勝氏
  震災報道の所為か意識的にかは知らないが、マスコミは陸山
  会事件の公判で被告側に有利な報道は全くして来なかった。
  だが、裁判所が公表したからには報道せざるを得なかったの
  だろう。1日の新聞・テレビではその内容に濃淡の差はある
  が、陸山会事件で検察が証拠として申請した検察調書38通
  の内12通を、東京地裁(登石裁判官)が証拠として採用し
  ないことを決定したことを報じた。
  http://www.olive-x.com/news_30/newsdisp.php?m=0&i=12
  ―――――――――――――――――――――――――――

郷原信郎氏.jpg
郷原 信郎氏
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2011年07月06日

●「西松事件公判はどこに行ったのか」(EJ第3092号)

 昨日のEJ第3091号の記述に追加したいことがあり、今回
はそれを中心に書きます。現時点で小沢事務所の陸山会関連で裁
判になっている事件は次の2つがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――
  1.西松建設の献金事件 ・・・       大久保
  2.陸山会土地購入事件 ・・・ 石川、大久保、池田
―――――――――――――――――――――――――――――
 小沢一郎氏をターゲットとする政治謀略は、小説のレベルを超
えています。検察と大メディアが、有力政治家とはいえ一人の人
間に過ぎない小沢一郎氏に対して襲いかかり、執拗に人物破壊を
続ける異様さに多くの国民は気がついていないのでしょうか。
 「姿なき権力者」のひとつである検察は、メディアの力を借り
て、日頃から有力政治家のウラネタを収集しており、何かのとき
に使おうと企んでいるといわれます。それは与党の有力議員全員
に及んでいるといわれます。
 しかし、そういう政治家が本当に悪いことをしているなら、そ
れは暴かれても仕方がないと思います。問題なのは、何も悪くな
いのに、事件をでっち上げられ、逮捕起訴される──そんなこと
は絶対にあってならないはずです。
 そのひとつ事例が西松建設事件です。この事件で小沢一郎氏の
公設第一秘書の大久保隆規氏が逮捕・起訴され、小沢氏は民主党
の代表の座を降りたのです。もし、代表のまま2009年の衆院
選を戦っていたら小沢内閣ができていたのです。そのため、それ
を嫌った検察が仕掛けた小沢氏の公設秘書の逮捕劇であったと思
われます。これが謀略でなくて何でしょうか。
 ところで、この西松建設事件はどうなっているのでしょうか。
確かに大久保被告は現在裁判を受けていますが、これは西松建設
事件の裁判ではなく、陸山会事件の裁判のはずです。西松建設事
件の裁判は忽然と消えているのです。この裁判はどうなっている
のでしょうか。
 西松建設事件をフォローしてみます。この裁判は、2009年
11月に第1回公判が開かれ、第2回公判は2010年1月13
日だったのです。実は大久保被告の無罪の兆しが明確に見えたの
が、この第2回公判だったのです。
 第2回公判では、検察側要請の証人が西松建設の2つの政治団
体は実態のある団体であることを証言したからです。検察側はそ
れらの政治団体はダミーであることを前提に起訴しているので、
立証の根拠が崩れたことを意味するのです。
 検察は窮地に追い込まれたのです。なぜなら、次の第3回公判
は2010年1月26日であり、態勢を立て直すには、時間がな
かったからです。しかも残りの公判日は、2月26日まで既に決
められていたのです。
 そこで検察がやったことは、陸山会の別の事件「陸山会土地購
入事件」を取り上げ、2日後の1月15日に小沢事務所の元秘書
大久保隆規、石川知裕、池田光智の3氏を逮捕したのです。
 この逮捕は計画されたものではないといえるのです。なぜかと
いうと、15日に逮捕できたのは石川、池田の両氏だけであり、
大久保氏の逮捕は次の日になったからです。政治犯の場合、逮捕
状を取って逮捕するときは、逮捕日前に警察や検察はあらかじめ
本人の所在を把握しており、本人が不在で逮捕が次の日になるな
どということは考えられないことだからです。
 そして、検察のやったことは、2010年1月22日付、産経
新聞で明らかです。彼らはとりあえず、既に決まっている公判を
すべて先延ばしし、時間を稼いだのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 政治資金規正法違反事件で逮捕された小沢一郎氏の公設第一秘
 書、大久保隆規容疑者(48)について東京地裁(登石郁朗裁
 判長)は22日、今月26日から2月26日まで指定していた
 西松建設の違法献金事件の期日4回をすべて取り消した。次回
 は未定。大久保容疑者に対する西松建設事件の公判は2月にも
 結審する見込みだった。しかし、大久保容疑者に対する捜査が
 続いているため、検察、弁護側、地裁の3者が期日を取り消す
 ことで合意した。   ――2010.1.22付/産経新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 注目すべきことは、大久保被告の公判(西松建設事件)を担当
していた裁判官が、現在、陸山会事件の公判を担当している登石
郁朗裁判長であることです。
 これは、西松建設事件公判の訴因を変更し、大久保被告を他の
2人の被告と一緒に変更した訴因で裁くことによって、西松建設
事件の公判を先送りしようと画策したのです。無罪必至の裁判を
スケジュール通りにやって、もし本当に無罪判決が出ると、世間
からあの逮捕は何だったのか、小沢潰しが目的の政治謀略ではな
いかと一斉に非難を浴びる結果になり、検察として権威が保てな
くなるからです。しかし、先送りすれば、いくら無罪必至の裁判
でも無罪判決が出るまでは無罪ではないからです。
 このようにして、西松建設事件の裁判は昨年の3月以来一年以
上にわたって止まっています。「訴因変更」──こんな都合のよ
い手が検察にはあるのです。これには裁判所も加担しており、結
局のところ、警察、検察、裁判所はつるんでいるということをい
われても仕方がないと思います。
 その登石郁朗裁判長でさえ、今回の検察の取り調べには疑問を
呈しており、このようなことでは国民の司法不信が募る恐れがあ
ります。検察も裁判所もマスコミも、それに菅政権も、どこまで
小沢潰しをすれば気が済むのでしょうか。あまりにも度が過ぎて
いると思います。
 西松事件の公判を裁判所がどう処理するのか、国民は監視する
必要があります。これは司法の問題であり、自分にも降りかかる
問題でもあるからです。もっともメディアがどこまで報道するか
疑問ではありますが・・・。 ── [日本の政治の現況/18]


≪画像および関連情報≫
 ●「訴因変更」とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  検察官が公判の途中で、起訴状に記載した事実の範囲内で該
  当する罪名を変更したり追加したりすること。裁判所は訴因
  に対してしか判断できないが、刑事訴訟法は、審理の経過を
  みて適当と認めたときには検察官に訴因変更を命じられると
  定めている。例えば、ほかの訴因に変更すれば明らかに有罪
  なのに、検察官の主張する訴因のままだと無罪になると判断
  した場合などに変更を命じるケースなどが想定されている。
  ただし、検察官は命令に従わなくても構わないとされる。

 ●ブログ「誰も通らない裏道」より/2010年2月17日
  ―――――――――――――――――――――――――――
  当ブログでもで触れたことではあるのだが、どうしても気に
  なるので、もう一度書いておく。それは西松事件における大
  久保秘書の訴訟の行方だ。ネット上ではすでに有名な話だが
  この裁判では今年1月13日に行われた第2回公判で検察側
  の証人として出廷した西松建設の元取締役が検察側の描いた
  構図を覆す証言をした。そのため公判の成り行き、具体的に
  言えば大久保秘書は無罪の可能性があるのではないかと注目
  されていた。そしてこの裁判の第3回目の公判は来週26日
  に行われて、ここで結審する予定だった。ところが、東京地
  検は石川知裕議員を逮捕した際に大久保秘書も再び逮捕し、
  それとともに西松公判については訴因変更を請求するという
  報道が流れた。これが認められれば26日の公判は行われな
  いわけで、裁判は長期化する。つまり窮地に陥った東京地検
  がこの裁判の方向性を無理やり変えて、裁判の引き伸ばしを
  謀ったわけだ。これは私の感覚ではとてつもない大ニュース
  出来事だと思う。
  http://fusenmei.cocolog-nifty.com/top/2010/02/post-bb1c.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

大久保隆規氏.jpg
大久保 隆規氏
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2011年07月07日

●「公務員改革はなぜ進まないか」(EJ第3093号)

 憲法によると、行政権は内閣に付与されています。つまり、法
律上は各省庁の大臣はその省庁のトップとして、その運営を担う
ことにができるわけです。しかし、日本の大臣は省庁の運営にか
かわることはない。省庁の官僚がそれを許さないし、運営しよう
としてもできるはずがないからです。
 つまり、大臣とは名ばかりで、各省庁の事務次官が実質的な権
力を握っているのです。したがって、大臣は余計なことにはかか
わらず、省庁のことはほとんど事務次官にまかせて自分は神輿の
上に乗って悠然としていれば、物事はスムーズに運ぶのです。神
輿に担ぐのは軽い方がよいといわれるように、むしろ無能の大臣
の方が物事はスムーズにうまく行くのです。
 少し力のある大臣であれば、与党内の勢力をバックに省庁の高
級官僚の人事に何らかの影響を与えて、政策決定の分野で自分の
影響力を示すことはできますが、よほどのベテランの大臣でない
限り、それは困難なのです。
 大臣は内閣改造や選挙によってその任期はきわめて短く、その
省庁における情報を吸収する時間はなく、実務に関しては、入省
してからずっとその省にいる事務次官にはとても対抗できないの
です。このように、ごく一部の例外を除いて、大臣のその省庁へ
の影響力はほとんどないといっても過言ではないのです。
 その一部の例外といえるのが、田中角栄元首相なのです。田中
角栄は官僚の扱いが非常に上手な政治家であり、大臣時代から事
務次官をはじめ多くの官僚は角栄のいうことであれば、どのよう
なことでも進んで協力したといわれています。
 田中角栄のエピソードとして伝えられていることはたくさんあ
ります。大臣には大臣機密費という自分の裁量で自由に使える機
密費がありますが、田中角栄は、郵政、大蔵、通産大臣のときは
それに一度も手を付けず、「部下の面倒も見なければならんだろ
う、自由に使ってくれ」とすべて事務次官に渡していたといいま
す。官僚が驚いたのはいうまでもなく、特に課長クラスには目を
かけ、飲み食いできる金額を人知れず渡していたというのです。
今の首相や大臣とは大変な違いです。
 小沢氏はそういう角栄の側近として仕えており、角栄の人使い
の見事さに感服はするものの、官僚が最も嫌がることはしない人
であり、それが角栄の限界とあると見抜いていたのです。これが
小沢氏が自民党を離党した大きな理由なのです。自民党にいては
政治改革はできないと悟ったからです。
 ここで知っておくべきことがあります。政治家には次の2つの
タイプがあるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
           1.党人派政治家
           2.官僚派政治家
―――――――――――――――――――――――――――――
 「党人派政治家」というのは生粋の政党員である政治家です。
これに対して「官僚派政治家」とは、官僚(かつては軍人、皇族
などを含む)出身の政治家のことです。
 明治政府が成立した初期は、薩長の藩閥出身者が政権の大半を
占めていたのですが、その後、藩閥の影響下にある官僚出身者と
自由民権運動に端を発する政党出身者が政権に加わるようになっ
たのです。これから、前者を官僚派、後者を党人派とする用語が
生まれたのです。したがって、これらの2つの言葉は明治時代か
らあるのです。
 第2次大戦前は、軍部が台頭し、軍人出身の政治家が多数を占
めたのですが、戦後は軍そのものが解体され、それに加えて、公
職追放によりその他の人材も大量に追放され、政治家が不足して
しまったのです。
 この事態に対処するため、時の総理の吉田茂は、代わりの人材
として自らの出身母体である官僚から政治家を大量に登用し、後
に公職追放から復帰した鳩山一郎などの党人派と対置されるよう
になったのです。
 こういう官僚派の政治家が古巣の省庁の大臣になる場合は、人
にもよりますが、少なくとも党人派の政治家よりもその省庁につ
いての情報もあるし、知己もいるので有利になります。
 しかし、そういう官僚派政治家への官僚組織の協力は、あくま
で彼らが官僚組織を毀さないということが条件であり、もしそれ
をやると、手痛い反撃を食う結果になるのです。
 例えば、公務員制度改革などをやろうとするには、官僚の気質
を知りぬいている官僚派政治家の方が本当はよいのですが、その
ようなことをする官僚派政治家はほとんどいないのです。
 「脱官僚」といえば民主党の専売特許のように考えている人が
多いですが、実は1962〜64年にかけて、第一次臨時行政調
査会(会長/佐藤喜一郎三井銀行会長)が、当時の池田勇人内閣
に脱官僚の提言を出しており、実に40年以上前から議論されて
きているが、何も実現していないのです。
 したがって、民主党が政権を取ると、たちまち尻尾を丸め、菅
内閣に至っては、脱官僚どころか官僚中心に回帰してしまってい
るのです。明治維新以来、大久保利通をはじめ多くの官僚派政治
家がそのシステムの維持のために心血を注いで守り抜いてきたも
のを力のない政治家が切り崩せるはずがないのです。
 それなら官僚にしたがった方が得策と考えて、自らの掲げた公
務員制度改革を骨抜きにしようと考えているように見えるのが現
在の菅内閣であるといえます。
 その典型が自らキャリア官僚でありながら、抜本的な公務員改
革を唱える古賀茂明氏の勇気ある行動を助けるどころか、国会で
恫喝し、退職を強要されているのを見て見ぬフリをする菅内閣の
姿勢です。「脱官僚」を掲げて政権交代を成し遂げながら、その
最大の功労者の小沢氏を座敷牢に閉じ込め、官僚に尻尾を振る菅
内閣の姿勢こそ「ペテン師」そのものであるといっても過言では
ないでしょう。       ── [日本の政治の現況/19]


≪画像および関連情報≫
 ●元行革大臣補佐官/原英史氏の言葉
  ―――――――――――――――――――――――――――
  ところで、ここまで「脱官僚」という言葉を使ってきたが、
  お気づきだろうか、鳩山総理(当時)は、総選挙前後から、
  「脱官僚」という言葉を意識的に避け、「脱官僚依存」と言
  い換えるようになった。「官僚に依存することがいけないの
  であって、官僚をすべて排除するわけではない」という論理
  だ。この論理は別に間違いではないが、当たり前のことだ。
  官僚を全員クビにして政治家だけで行政府を運営することな
  ど、国民は誰も期待していない。そんな誤解を心配するのは
  全く無意味だ。どうでもよいところで言葉を言い換え始めた
  ときは、たいてい裏がある。要するに、政権獲得を目前に、
  腰が引けたのだと思う。     ──原英史著/新潮社刊
    『官僚のレトリック/霞が関改革はなぜ迷走するのか』
  ―――――――――――――――――――――――――――

田中角栄元首相.jpg
田中 角栄元首相
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2011年07月08日

●「なぜ古賀茂明氏は退職させられるのか」(EJ第3094号)

 古賀茂明氏(経済産業省大臣官房付)は、松永和夫経産事務次
官から、7月15日付で退職を勧奨されています。公務員は解雇
できないので、あくまで本人の意思を尊重するかたちをとってい
ますが、明らかにクビの宣告です。
 この時期に退職勧奨が出たのは、バックに仙谷官房副長官がい
るからです。現在、官邸は震災対応のために霞ヶ関の人事を凍結
していますが、そのなかで古賀氏だけがピンポイントでクビを宣
告されるのは仙谷官房副長官の意向が働いているためです。自分
が官邸に睨みがきくうちに古賀氏を切ってみせしめにしたいと考
えているものと思われます。
 このような経緯から見て、仙谷副長官は古賀氏の行動に相当激
しい怒りを覚えているようですが、かつて仙谷氏は古賀氏を非常
に買っていた時期があるのです。
 2009年9月16日、民主党政権が誕生すると、鳩山首相は
直ちに公務員制度改革に取り組む姿勢を見せたのです。仙谷由人
氏は行政刷新担当大臣に就任したのですが、実は組閣前に古賀氏
は、仙谷氏から都内のホテルに3回ほど呼び出されています。
 そこで仙谷氏のブレーンとみられる民間の人たちと一緒に、公
務員制度改革、規制改革、独立行政法人改革などが話し合われ、
古賀氏は「いよいよ改革がはじまるぞ!」と胸が高鳴ったのを覚
えていると述懐しています。
 その席で古賀氏は仙谷氏から行政刷新会議と事務局のメンバー
の候補者リストを作ってくれといわれて届けています。そして古
賀氏は公務員改革事務局に入っているのです。
 しかし、2009年12月になって、古賀氏を含む公務員改革
事務局の幹部全員が更迭され、古賀氏は経産省に戻されているの
です。古賀氏の本によると、仙谷氏はそのさい古賀氏を補佐官と
して残し、改革推進をしようとしたのですが、財務省を筆頭に各
省庁は古賀氏の起用に猛反対し、遂に仙谷氏は断念したという事
情があったようです。
 実はこれと似た話が一年以上前にもあったのです。2008年
6月8日──国家公務員制度改革基本法が衆議院内閣委員会で可
決された日です。このとき、インタビューで、担当の渡辺喜美大
臣は涙をこぼしていたことを覚えています。この涙はその法律の
成立がいかに大変であったかを物語っています。時の総理は「あ
なたとは違うんです」の福田康夫氏でです。
 国家公務員制度改革基本法では、総理大臣をトップとする閣僚
クラスで構成される国家公務員制度改革推進本部を設置し、その
事務局を設けることになっていたのです。基本法で謳っている改
革が実を結ぶか否かのカギを握っていたのは、その事務局のメン
バーの人選にあったのです。
 一般的には、事務局のメンバーは、各省から出向した官僚で構
成されるのですが、これらの官僚は省益を担っており、事務局に
入れると、所属する省にとって都合の悪いことはすべて骨抜きに
してしてしまうことは火を見るよりも明らかだったのです。
 渡辺喜美大臣はそのことは熟知しており、事務局幹部の一人と
して、古賀茂明氏を推薦したのです。しかし、古賀氏の起用は財
務省をはじめ、官邸にも反対者が多く、福田総理まで反対したと
いうのです。とくに二橋正弘官房副長官が強く反対したといわれ
ているのですが、古賀氏によると、福田総理はもとより二橋氏に
も面識はないということです。したがって、官僚の中枢からの意
思で「古賀を外せ」の指令が出されていたと思われます。
 公務員制度改革推進本部事務局のスタッフの人選でもめたのは
仙谷副長官のケースと同じですが、渡辺大臣はそういう反対を押
し切って古賀氏を事務局の幹部に入れてしまったのです。ここが
渡辺喜美氏と仙谷由人氏の政治家として器量の違いなのです。
 このようにして古賀氏は、2008年7月に発足した公務員制
度改革推進本部事務局の審議官になったのです。このときの事務
局のスタッフについて古賀茂明氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 官邸でのすったもんだがあったため他の幹部はすでに着任して
 おり、私だけ遅れて七月二八日に着任した。事務局内の管理職
 で改革派とはっきり分かっていたのは、原英史、石川和男(元
 経済産業省)、磯谷俊夫(元オリックス球団代表)、菅原晶子
 (経済同友会部長)各氏(いずれも企画官)と、その他一部の
 民間人と数名の若手官僚くらいである。後はほとんどが守旧派
 または事なかれ派だとすぐに分かった。五分話せば分かるはど
 はっきりしていたといっていい。各省が既得権確保のために送
 り込んだ、いわば精鋭部隊だ。もちろん若手には、他にも改革
 の気概に燃えている者がいたかもしれないし、議論していけば
 改革の意味を理解してくれる人もいただろう。しかし、守旧派
 のオルグも徹底していた。いずれにしても少数派に甘んじるし
 かない。それでも、渡辺大臣のリーダーシップのもとで少数派
 が主導権を握る、それが私の作戦だった。  ──古賀茂明著
               『日本中枢の崩壊』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、何ということでしょうか。肝心の福田総理が8月1日
に政権を投げ出してしまったのです。そして、麻生政権が誕生す
ると、渡辺大臣は外されてしまったのです。何しろ麻生氏は「官
僚は敵ではなく友である」と明言する人であり、公務員制度改革
に熱心なはずがないのです。
 そのとき、皮肉なことに古賀氏らを支援したのは、政権交代を
狙う民主党だったのです。とくに民主党の3М──松本剛明、松
井孝治、馬渕澄夫の3氏であったと古賀氏はいっています。
 こういう経緯があったので、行政刷新担当大臣の仙谷氏が目を
つけたのが、古賀茂明氏であったというわけです。しかし、仙谷
氏はどこで方針を変更させたのでしょうか。それは官僚組織を解
体することがいかに困難かを物語っており、来週に述べていくこ
とにします。        ── [日本の政治の現況/20]


≪画像および関連情報≫
 ●大泉一貫氏のブログより
  ―――――――――――――――――――――――――――
  国家公務員制度改革推進本部の事務局長に立花宏日本経団連
  参与(64)が就任した。7月上旬のこと。立花さんが、橋
  本行革のメンバーだったとは知らなかったが10年たって機
  は熟したということか。最も困難な課題だ。「官僚内閣制」
  から「議院内閣制」への転換が可能か?全て、立花さんにか
  かる。断固たる姿勢でやって欲しい。課題は、事務局体制の
  編成の仕方。チーム立花が組めるか?外のスタッフを有効に
  利用できるか?脱藩官僚候補などを探し当て登用できるか?
  これを自民党の手でやり遂げたら民主党は出番がなくなる。
  福田さんに断固やり抜くの覚悟をと、立花さん要請したそう
  だが、議員総出で支援したらいい。族議員が多いので、そう
  もいかないのかもしれないが、前途多難であることだけは間
  違いない。
  http://blog.goo.ne.jp/ikkan_2005/e/0c1e037a8950e6dd9ddd1a97e919109c
  ―――――――――――――――――――――――――――

古賀茂明氏.jpg
古賀 茂明氏
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2011年07月11日

●「国家公務員制度改革はなぜ必要か」(EJ第3095号)

 日本の国家財政が厳しい状況にあることは多くの人はわかって
いますが、それを解決するためには、国家公務員制度改革が何よ
りも必要であることを分かっている人は少ないと思います。
 今や話題の人である古賀茂明氏は、現在の日本の国家財政の現
状を次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の国家財政はぎりぎりの状態にある。企業にたとえれば分
 かりやすい。いま日本が置かれているのは、企業でいえば一時
 的赤字の段階ではなく、構造的赤字で、借金返済の目処が立た
 ず、しかも本業の稼ぎも向上の見通しが立たない状態。民事再
 生や会社更生の申し立てを検討する段階である。企業の再生時
 には、一時的経常悪化時とはまったく異なる大胆な改革が必要
 となる。経営陣の退陣や外部人材の投入で、すべてのしがらみ
 を断って非連続的改革を行う。と同時に、並行して内部の中堅
 ・若手を抜擢し、改革業務をリードさせる。信賞必罰を徹底し
 年功序列が能力主義に改められる。     ──古賀茂明著
               『日本中枢の崩壊』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ウォルフレン氏が述べているように、日本人には「国家」とい
う概念が希薄なのです。長い間にわたって平和が続き、国という
ものを意識するときは、パスポートを持って海外に出るときやオ
リンピックやサッカーの国際試合で日本を応援するときぐらいの
ものであるからです。ウォルフレン氏は、日本人に対して、自分
の人生をよりよいものにするために、日本を根本的に変えること
にもっと力を尽くすべきだと強調しています。そのために理解し
なければならないのは、次の概念であるといいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
      市民としての立場(シチズンシップ)
―――――――――――――――――――――――――――――
 ウォルフレン氏は、次の3つの概念を分けて認識することが重
要であるといっています。これらの概念を多くの日本人は同じ意
味であると混同しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      1.市民 ・・・・・   シチズン
      2.臣民 ・・・・・ サブジェクト
      3.国民 ・・・・・  ナショナル
―――――――――――――――――――――――――――――
 「市民」は、日本で生活する外国人も含むので「国民」とは明
らかに異なり、政府や君主に服従する「臣民」──つまり官僚と
も異なる存在です。国を変えようとするには、「市民としての立
場」に立つ必要があるというのです。市民についてウォルフレン
氏は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 市民とは政治的に意味をもつ存在だ。市民とは、自分のまわり
 の世界がどう組織されるかは自分の行動にかかっていると、お
 りにふれてみずからに言いきかせる人間である。私は、市民と
 してのみなさんに向かってこの本を書いている。私は日本人で
 はないが、市民としてはみなさんと対等の立場にある。市民は
 つねに、社会における自分たちの運命について理解を深めよう
 とつとめる。市民は、ときに不正にたいして憤り、なんとかし
 なくてはいけないと思いたって、社会にかかわっていく。受け
 身の姿勢では、市民としての立場を失うことになる。
      ──カレル・ヴァン・ウォルフレン著/鈴木主税訳
   『人間を幸福にしない日本というシステム』/OH!文庫
―――――――――――――――――――――――――――――
 「臣民」とされる官僚──とくに中央省庁の官僚は、自分の所
属する省庁ならびに公務員全体の世界を「国」に近い概念として
とらえている人は多いのです。昔の「藩」の考え方に似ていると
いえます。だから、国益にとってどんなマイナスなことでも、省
益を守るためであれば平気でやってしまうのです。
 今や日本人(国民)のほとんどは、日本が国家財政の危機にあ
ることは知っています。しかし、日本が20年近く連続で世界一
の債権国であるという認識は薄いのです。それは、官僚の意図的
な宣伝によるものであるからです。
 といっても世界一の債権国だから国家財政の危機ではないとい
うわけではないのですが、そのあたりのことを市民という立場に
立って、情報を正確に見極める必要があるのです。
 現在、大半の国民は政府が進める「社会保障と税の一体改革」
における消費税増税について容認する姿勢を示しています。しか
し、その前に「ムダの排除」が不可欠であると多くの国民は考え
ています。しかし、その無駄の排除が事業仕分けなどによるちょ
こちょこしたものではなく、その根っこにある国家公務員制度改
革をやり遂げないと達成できないし、国家財政の危機もクリアで
きないことを知るべきです。
 しかし、東日本大震災で経済が疲弊している現在の日本で増税
をするとどうなるのかは火を見るよりも明らかです。しかし、政
府はそれを強引に推し進めようとしています。これは政府がとい
うよりも「政府のバックにいて事実上政府を動かしている官僚」
がそうさせていると考えるべきです。
 国の税収を上げるには、増税だけでなく、経済力を強化する方
法があります。被災地の復興ということも経済力を強化する機会
になります。しかし、財務官僚は、その財源は増税で賄うという
ように話をすぐ増税に持って行くよう画策しています。
 ここで考えなければならないことは、増税で経済が破綻しても
困るのは国民であって、公務員は収入が安定しており、何も困ら
ないのです。彼らは経済の成長には無関心です。時間もかかるし
確実性がないからです。そのため、日本の経済はあの橋本元首相
時代の消費税5%アップのとき以来、まったく成長していないの
です。こんな国は日本だけです。─ [日本の政治の現況/21]


≪画像および関連情報≫
 ●社会保障・税一体改革「2つのアプローチ」/日本財団
  ―――――――――――――――――――――――――――
  そもそも社会保障・税の一体改革を考えるには2つのアプロ
  ーチがある。一つは、「赤字補填アプローチ」である。現在
  国の消費税収は、すべて医療・介護・年金の高齢者3経費に
  充てられることになっている。3経費と国の消費税収の間に
  は10兆円のギャップ(平成23年度予算ベース)がある。
  毎年自然増が見込まれるので、2015年時点でそのギャッ
  プは13兆円弱に膨れ上がる。これは、消費税率でいえば、
  5%分である。そこで、これを増税の根拠とするアプローチ
  である。しかし、国民の立場からは、今の社会保障にはさま
  ざまな非効率があり、生活保護ビジネスの横行などの恥部も
  見え隠れする。現行制度の表面づらを化粧直しして、財源が
  これだけ足りない、増税を、というのでは、納得できないと
  いうことになる。そこで、現行の社会保障制度を改革し、そ
  の姿を具体的に示しつつ、そのために必要な財源を試算し、
  それを税負担増の根拠とするという「社会保障改革アプロー
  チ」が出てくる。要点は、「徹底した社会保障の効率化」と
  「真に必要な分野への重点的な拡充」、この2つである。
      http://www.tkfd.or.jp/topics/detail.php?id=280
  ―――――――――――――――――――――――――――

与謝野経財相.jpg
与謝野経財相
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2011年07月12日

●「参院予算委における古賀氏の発言」(EJ第3096号)

 ウォルフレン氏の3つの分類──市民、官僚、国民によると、
古賀茂明氏は、身分は官僚なのですが、市民の立場に立って公務
員制度改革について革新的な発言をしたわけです。しかし、これ
は官僚から見ると、とんでもない裏切りであるわけです。
 ところで最初のうち古賀氏を高く評価していた仙谷官房副長官
がなぜ古賀氏を遠ざけるだけでなく、その退職勧奨にまでかかわ
るようになったのかについて古賀氏の本を参照してまとめておき
たいと思います。そうすれば、現在の菅政権の公務員制度改革に
ついての姿勢も見えてくるからです。
 2010年10月15日のことです。その日古賀氏は前日から
四国に出張していたのですが、急遽帰京を命じられたのです。み
んなの党の小野次郎議員から指名があり、参議院予算委員会に出
席せよという命令です。
 そのまま空港に向かい、帰京して何の準備もないまま、参議院
の予算委員会に出席したのです。質問に立った小野議員は次のよ
うに私に意見を述べるよう促したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国家公務員制度改革の政府案では、天下り根絶というスローガ
 ンが骨抜きになっている。政府は現役出向は天下りではないと
 いっているが、このことに関して貴兄の知見を伺いたい。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この手の質問がくることは見当をつけていたのですが、実際問
題として古賀氏は正直にいうべきかどうか迷っていたそうです。
もし、国会で話せば大きな問題になり、それなりの覚悟はしなけ
ればならない。しかし、小野議員に促されてると、その瞬間自分
の考え方として正直に述べようという気になっていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 天下りがいけないという理由は二つある。天下りによってその
 ポストを維持する、それによって大きな無駄が生まれる、無駄
 な予算がどんどん作られる、あるいは維持されるという問題が
 一つ。もう一つは、民間企業などを含めてそういうところと癒
 着が生じる。そして、たとえばその企業あるいは業界を守るた
 めの規制は変えられないというようなことが起こる。ひどい場
 合は官製談合のような法律に違反する問題さえ出てくる。一部
 に退職金を二回取るのが問題だという詰もあるが、それは本質
 的な問題ではなくて、重要なのは、無駄な予算が山のようにで
 きあがる、あるいは癒着がどんどんできる、これが問題だ。現
 役で出ていけば、問題ないというのは非常に不思議なロジック
 だ。無駄が生まれる、あるいは維持される、それから不透明な
 癒着ができるということは、公務員の身分を維持して出ていっ
 てもまったく同じことが起きる可能性があるので、その点が非
 常に問題だ。               ──古賀茂明氏
              /『日本中枢の崩壊』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに対して、仙谷官房長官(当時)は小野議員から質問をさ
れていないのに、次のように発言したのです。これによって、参
議院予算委員会の会場は騒然となったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 さっきの古賀さんの上司として、一言先ほどのお話に私から話
 をさせていただきます。私は、小野議員の今回の、古賀さんを
 こういうところに、現時点での彼の職務、彼の行っている行政
 と関係のないこういう場に呼び出す、こういうやり方はなはだ
 彼の将来を傷つけると思います・・・。優秀な人であるだけに
 大変残念に思います。      ──仙谷官房長官(当時)
―――――――――――――――――――――――――――――
 仙谷官房長官(当時)は、古賀氏に対してでなく、小野議員に
クレームをつけたのです。その当時古賀氏は政府案が骨抜きであ
ることを批判しており、経産省大臣官房付という閑職に追いやら
れ、長期出張をさせられていたのです。
 それをわざわざ国会に呼び出して政府案の批判をさせるなど許
せない。そんなことをすれば古賀氏をやめさせることになる──
これが仙谷氏の本音であったと思います。
 この参議院予算委員会の質疑のさい、小野議員の人事に対して
配慮を求めたのに対し、当時の大畠章宏経産大臣は次のように答
えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ご本人のお話などを承わりながら、ご本人の経験やあるいは能
 力、そういうものが十分発揮できるような形で対処してまいり
 たいと思います。      ──大畠章宏経産大臣(当時)
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、その後大畠大臣は経産相を去り、この約束は何ら引き
継がれていないのです。大畠大臣としても官僚幹部とぶつかって
まで古賀氏を守るつもりなどないし、後任の海江田大臣にしても
こんなことに首を突っ込むほどヒマではないわけです。
 経産省幹部としては、しばらく時間稼ぎをして、あまり騒がれ
なくなるまで待つという考え方であったようです。しかし、経産
省幹部は、この7月15日付での退職勧奨を古賀氏に求めている
ようです。意外に早いという感じです。
 その原因は仙谷官房副長官がそれを経産省に求めたものと思わ
れます。というのは、現在の菅政権は先行きが不安定であり、い
つ退陣するかわからない情勢にあります。そうなると、仙谷氏は
官房副長官を外れる可能性があり、自分が官邸に力を持っている
うちにケリをつけたいと考えたものと思われます。
 しかし、もし今古賀氏をクビにすると、相当大きくマスコミに
取り上げられることは必至であり、古賀氏はテレビに引っ張りだ
こになるはずです。単に部下に恥をかかせられた腹いせでしょう
か。自分が口を出してまでやるべきことではないのになぜそうす
るのでしょうか。古賀氏は正しいことをいっているのです。民主
党の主張ではないですか。  ── [日本の政治の現況/22]


≪画像および関連情報≫
 ●古賀氏答弁/仙谷官房長官の発言/動画で再生
  ―――――――――――――――――――――――――――
  菅直人内閣で異様な存在感を放つ仙谷由人官房長官が、20
  10年15日の参院予算委員会で、政府参考人として菅内閣
  の天下り対策に批判的な答弁をしたキャリア官僚に対し「彼
  の将来が傷つき残念だ」と発言し、審議が一時紛糾した。批
  判的な官僚に対する人事権の発動とも受け取れ、「公衆の面
  前で官僚を恫喝した仙谷氏の罷免を求める」(自民党中堅)
  との声も出てきた。
           http://sakura-memo.jugem.jp/?eid=118
  ―――――――――――――――――――――――――――

参議院予算委員会での古賀茂明氏.jpg
参議院予算委員会での古賀 茂明氏
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2011年07月13日

●「海江田経産相は役人に使われている」(EJ第3097号)

 2011年7月10日の「サンデー・フロントライン」に古賀
茂明氏が出演しました。古賀氏は7月15日をめどに退職を迫ら
れていますが、先日松永事務次官から催促されたというのです。
 7月7日の国会では、自民党の塩崎恭久議員が海江田経産相に
古賀氏の問題を取り上げ、質問しています。そのやりとりを要約
すると次のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 塩 崎/古賀茂明さんは海江田大臣の下にいますが、6月21
     日に「君にふさわしい仕事はないから、7月15日ま
     でにやめてくれ」といわれたと聞いています。
 海江田/確かにそういう退職勧奨を次官を通じて行ったことが
     ございます。
 塩 崎/2月15日の記者会見であなたはこういっています。
     「大畠大臣と基本的に同じ。能力を発揮できる場所で
     仕事をしていただくというのが一番いい」。間違いな
     いですね。
 海江田/その通りです。この件についてぜひ大臣室にお越しく
     ださいと記者会見でも申し上げておりますが、お越し
     になっていません。
 塩 崎/そもそもね。仕事も与えない。ポストも与えない。そ
     れで待っていても来ないなんて、そんなこといっても
     だめですよ。職務違反があったのですか。
 海江田/そういうことではございません。
 塩 崎/古賀さんはいろいろな問題、公務員改革もそうだし、
     電力のこともそうだし、中小企業政策もそうですよ。
     経産省も参考にしたらよいことが、古賀さんの本には
     たくさん出ていますよ。
 海江田/だから、一度話を聞きたいので、私の部屋まで来てく
     ださいと申し上げているのです。
 塩 崎/女性問題を起こして経産省に恥をかかせた西山審議官
     が更迭されただけなのに、よいことを提言している古
     賀氏がクビというのは不釣り合いですよ。正式にここ
     で古賀氏の退職勧奨を撤回してください。
 海江田/繰り返しますが、私に直接、話にきてください、と申
     し上げておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 このやりとりを見て、私が思うのは、海江田氏は結局役人に動
かされているだけの人物であって、原発問題にしても、電力問題
にしてもとても改革などできないと思います。
 経産省がなぜ古賀氏を嫌うかはよくわかります。古賀氏をなぜ
長い間意味のない出張に行かせたのかというと、何回も国会に呼
び出されると困るからです。小野氏のような強面の政治家には通
用しませんが、「出張中で出席できない」といって通る政治家も
いるからです。
 それではなぜ7月15日に退職を迫ったのかですが、それは経
産省のインサイダー疑惑が発覚し、その経緯について詳しい情報
を古賀氏が握っているからです。この事実はかなり前から幹部は
わかっていたのを隠蔽していたのです。もし、そんなことを現職
の経産省の役人が国会で話したら、大変なことになります。
 とにかく古賀氏を公務員の身分を外して民間人にさせたい──
経産省の幹部はそう考えているのです。そこでその役割を海江田
大臣に担わせようとしているのです。海江田大臣にしてみれば、
せっかく手に入れた重要閣僚の地位を失いたくない──そのため
には事務次官をはじめ役人のいうことに従うしかないというわけ
です。改革に真面目に取り組み、結局志し半ばで追われた長妻前
厚労相のようにはなりたくないからです。
 現在、海江田氏は菅首相にハシゴを外され、辞意を表明したこ
とで、同情が集まっています。しかし、「いずれ辞任する」は辞
任しないということです。本当に辞任する気があったら即座に辞
任すべきです。
 菅首相の指示を受け、佐賀の玄海原発の再稼働の折衝に古川康
・佐賀県知事と会い、ほとんどまとめてきているのに、菅首相が
ストレステストを持ち出して潰したということが世間一般の認識
ですが、古賀氏の意見は少し違うのです。
 ストレステストが出る前には、浜岡原発は止めたが、他の原発
については安全宣言が出れば再稼働するという点で菅首相と海江
田経産相の意見は一致していたのです。しかし、この件は最初に
海江田経産相がいい、それを菅首相が追認するかたちになってい
たのです。
 しかし、原発の停止にいちばん危機感を持ったのは、経産省自
身なのです。原発が続くことで出向先をはじめ、旨みのある仕掛
けをたくさん作っているからです。
 菅首相による浜岡原発停止によって不安を覚えた経産省幹部は
海江田大臣に話を持ちかけたのです。佐賀の玄海原発は町長が協
力的であり、再稼働の可能性がいちばん高いので、何とか再稼働
させて欲しいと大臣を動かしたのです。このさい、ひとつでも動
かしておけば、他も動かせると考えたのです。
 そこで海江田経産相は佐賀県知事に会い、玄海原発の再稼働の
約束を取り付けたのです。しかし、菅首相は迷っていたのです。
浜岡原発停止の評判がよく、脱原発の流れが出来つつあるところ
に玄海原発を再稼働させると脱原発で盛り上がりつつある代替エ
ネルギー開発ブームに水をさす──菅首相はこう考えてストレス
テストを持ち出し、玄海原発の再稼働を潰したのです。
 それに菅首相は海江田氏が経産省の幹部役人に動かされている
ことを知っていたのです。今回の原発のことで、経産省に首相は
不満を抱いていたのです。しかし、これが国会で取り上げられ、
閣内不一致と批判されたことと、自分が一層悪者になり、海江田
氏に同情が集まってしまったことが誤算だったのです。
              ── [日本の政治の現況/23]


≪画像および関連情報≫
 ●古賀氏退職勧奨関連ブログ
  ―――――――――――――――――――――――――――
  少し時間が経ってしまったが報道に依れば経産省次官が審議
  官の古賀茂明氏に退職勧奨したという事だ。表向きは仕事が
  ない、そういう事らしいが、古賀氏は官僚としてはいわゆる
  改革派と目される人物で、歯に衣着せぬ物言いなどで、一部
  守旧派からは煙たがられる存在である。私の生き方からすれ
  ば所詮、官僚、そういうものもあるが、しかし、現実に国民
  が納めた血税を食い物にして自分たちだけが太るような事を
  している官僚組織や官僚達の浪費を抑える事をやってくれる
  ならば頭の色がどうであれネズミを捕る猫はいい猫と、ぜひ
  力を発揮してもらいたい。
         http://u-san.blog.so-net.ne.jp/2011-07-01
  ―――――――――――――――――――――――――――

塩崎恭久自民党議員.jpg
塩崎 恭久自民党議員
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2011年07月14日

●「民主党とはどういう政党か」(EJ第3098号)

 民主党という政党について考えるとき、気をつけるべきことが
あります。それは明らかに一枚岩ではないことです。強いて分け
ると次の3つになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
          1.主流グループ
          2.中間グループ
          3.小沢グループ
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の主流グループは、現在の菅政権を形成しているグループ
(とくに閣僚クラス)です。もともと最初から民主党にいるグル
ープです。代表経験者としては、菅、鳩山、岡田、前原氏らがこ
のグループに属しています。しかし、鳩山グループは現在は主流
グループと距離を置いており、中間グループといわれています。
 第3の小沢グループは、いうまでもなく、小沢一郎元代表を中
心とするグループで、その中心組織はかつての自由党のメンバー
であり、民由合併で民主党に合流したグループです。小沢グルー
プの政治に対する考え方は、他のグループ、少なくとも主流グル
ープの考え方とはかなり違います。
 そして、主流グループでも小沢グループでもないグループが第
2の中間グループです。このグループはそのときの情勢に応じて
主流グループに属したり、離れたりします。
 民主党は、1998年4月の結党ですが、なかなか政権が取れ
なかったのです。とくに小泉内閣の高支持率を背景に国政の主導
権を握る与党の自由民主・公明両党に対して大きく離される状況
が続いていたのです。
 そこで、何とか政権交代の展望を見出すため、非自民勢力の結
集を狙い、民主党の方から小沢一郎氏率いる自由党に合併の申し
入れを行ったのです。2003年9月のことです。
 もともとこの合併には、鳩山氏が熱心であり、もし合併に反対
すれば、鳩山グループは離党も辞さないとの態度を示したので、
菅氏自身も非自民勢力を結集する必要性を感じていたことによっ
て民由合併が実現したのです。
 一方の小沢氏率いる自由党も自民党との連携などいろいろやっ
てはいたが、先の展望が開けているわけではなかったのです。し
かし、民主党と合併すると、十分自民・公明の与党と戦う体制が
確保でき、自由党としてもメリットはあったので、合併の誘いに
応じたわけです。そしてその後党勢を拡大させ、6年後の200
9年9月に待望の政権交代が実現したのです。
 したがって、合併前の民主党のグループと小沢グループとは考
え方は根本的に違うのです。それは次のキャッチコピーにあらわ
れています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  合併前のキャッチコピー/「元気な日本を復活させる」
  小沢一郎キャッチコピー/   「国民の生活が第一」
―――――――――――――――――――――――――――――
 そして、2009年の衆院選では、「国民の生活が第一」のス
ローガンを掲げて戦い、これによって政権をとっているのです。
しかし、とくに党内主流派の考え方は小沢一郎の理念の外にあり
今頃になって政権公約を次々と破棄しはじめているのです。それ
が現在の民主党の凋落の原因です。
 もともと、国家公務員制度改革など、最大の支持団体である連
合を抱える民主党ができるはずがないのです。最初から腰が引け
ているのです。それでもマニュフェストにそれを掲げたのは、あ
くまで政権交代のためのスローガンとしてです。
 しかし、小沢グループの考え方はかなり違うのです。小沢氏の
考え方は、彼の『日本改造計画』(講談社刊)に明確に示されて
いますが、そのためには官僚組織を完全に破壊し、真の意味での
公務員制度改革を成し遂げないと実現しないのです。
 しかし、連合を抱える民主党ではその実現は困難であり、おそ
らく党を割って、自民党やみんなの党などのグループの一部と組
んで自民党でも民主党でもない新しい保守新党を作るつもりであ
ると考えます。小沢氏は連合と仲が良いという人は多いですが、
それはあくまで政権交代を成し遂げるための手段だったのです。
 だから、小沢元代表は何が何でも民主党で首相になろうとはし
なかったのです。昨年9月の代表選に出たのは、菅氏があまりに
もひどいと見抜いていたからです。
 しかし、官僚組織は小沢一郎という政治家の実力を知り抜いて
おり、彼が首相になることを恐れたのです。そのため、手段を選
ばず、検察やメディアを使って潰しにかかったのです。
 現在の民主党が駄目であることは国民の誰もがそのように感じ
ていると思います。しかし、気になるのは、鳩山元首相や菅首相
だけではなく、小沢一郎氏を含めてそういっていることです。確
かに小沢氏は現在強制起訴され、刑事被告人の身であり、当然と
いう人が多いですが、それは間違っていると思います。
 なぜ、官僚組織が小沢一郎という政治家を恐れるのかというと
その実力を知っているからです。そのひとつを上げるなら、政権
交代を二度にわたって成し遂げた政治家は日本では小沢一郎しか
いないからです。考えてみると、小沢氏が自民党を離党して以来
つねに政局の中心には小沢氏がいるのです。
 官僚組織はメディアを使って小沢氏を貶めていますが、それで
も小沢氏を完全に潰すことはできず、彼が政権を取ることを何よ
りも恐れています。今や国家公務員制度改革を完全に成し遂げる
には、小沢政権しかないといえます。
 先日私のツイッターに「なぜ、それほど小沢を擁護するのか。
小沢の政治的実績を示せ!」というリプライがきました。そこで
「私のブログの『小沢一郎論』72回を読んでください」とリプ
ライを返したら、沈黙してしまいました。小沢氏を批判する前に
彼の政治理念やこれまでにやってきたことをよく調べてからそう
すべきであります。     ── [日本の政治の現況/24]


≪画像および関連情報≫
 ●民主党とはどういう政党か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1998年4月、院内会派「民主友愛太陽国民連合」(民友
  連)に参加していた旧民主党・民政党・新党友愛・民主改革
  連合が合流して結成された。法規上では、1998年に旧民
  主党が各党を吸収したという形をとっており、1996年結
  成の旧民主党が存続ということになっている。結党時には保
  守中道を掲げる旧民政党系と中道左派を掲げる旧民主党系が
  対立した結果、党の基本理念を「民主中道」とすることで落
  ち着いた。保守・中道右派を自認する自民党に対して、主に
  海外メディアからはリベラル・中道左派の政党と位置付けら
  れることが多い。しかし、結党の経緯により主に自民党の流
  れを汲む保守本流・保守左派の議員や旧民社党系の反共色の
  強い議員も一定数存在しており、このため左派政党と位置付
  けられることに否定的な党員や支持者も存在する。
                    ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

政権交代を成し遂げた民主党.jpg
政権交代を成し遂げた民主党
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2011年07月15日

●「民主党潰れたって構わない」(EJ第3099号)

 7月12日の産経新聞の「単刀直言」において、鳩山由紀夫前
首相が「民主党潰れたって構わない」というタイトルで自省の念
をこめて激白しています。このタイトルは、菅首相が仮に解散を
仕掛けるることによって民主党が割れ、消滅してしまったとして
も構わないという決意を述べています。前と大きく違います。
 今のままでは、国民の利益を大きく損なう状況になることは間
違いないので、そんな民主党なら潰れたって構わないと考えてい
るわけです。そして、菅氏のやり方について次のことを明かして
います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 菅直人さんは、私が首相のときに副総理として、何度も「厳し
 い局面に立たされたら、別の大きなテーマを示せばそちらに国
 民の目が向いて局面を打開できるんだ」と進言してきました。
 (米軍)普天間飛行場移設問題で危機に陥ってるときにも「消
 費税増税を言え」と働きかけました。私は「言えない」と答え
 ました。      ──2011年7月12日付、産経新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 菅氏はまさに確信犯なのです。国民にとっては実に失礼な話で
あります。鳩山政権のときからそのようなことを考えていたので
すから。そして首相になってから実際に自分の思うところを実践
し、参院選に敗北したのです。それでも懲りず、現在は自政権の
延命のため、そういうパフォーマンスを続けているのです。鳩山
氏は菅氏の政権運営について次のように批判をしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小泉純一郎元首相の流儀をまねて、党内に抵抗勢力を作って戦
 っている姿を示して支持率を上げようともしました。憎悪の塊
 みたいに小沢一郎元代表を敵に祭り上げ、政権運営してきまし
 た。「小沢さんが党内にいると、うまくいかない」と言ってい
 ましたね。菅さんには、鳩山政権と違う色を出せば政権浮揚す
 るという気持ちがあるんですね。私が打ち出したものを否定し
 たことで、民主党の理念が見えなくなった。
           ──2011年7月12日付、産経新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは、民主党はどうしたらよいのでしょうか。鳩山氏は次
期首相について次のように意見を述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 次の首相は、党内をきちんとまとめ、好き嫌いではなく、政策
 の議論を行い、他党にも協力を得られるような包容力のある人
 が必要です。小沢さんのような官僚システムを熟知している人
 の協力を求めながら、党としても政府としても経験と能力を生
 かし切れる態勢にすべきです。
           ──2011年7月12日付、産経新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 この鳩山氏の言葉では「小沢さんのような官僚システムを熟知
している人の協力を求めながら」と述べていますが、小沢氏と協
調しながら、他党にも協力を得られる人材など、今の民主党に果
たしているでしょうか。この難局を乗り越えて、民主党政権を安
定させるためには、小沢氏が総理になるしかないという思いがそ
こに込められているのです。
 既に述べたように、野党のときの民主党は、自分たちの力では
政権は取れないと考えて、日本の政治家で唯一政権交代を成し遂
げている剛腕小沢一郎自由党党首に頼ったのです。そしてその願
いは6年後に結実します。
 しかし、そうなった瞬間から彼らは小沢氏が邪魔になったので
す。そして党の政策決定になるべく小沢氏が介入しないよう予防
線を張りはじめたのです。こんな勝手な話があるでしょうか。
 鳩山氏自身は、自分たちが政権交代を実現するために招聘した
小沢氏にはそれなりのポストを用意するつもりでいたのですが、
党内には強い反対が多く、鳩山氏はそういう動きをうまくまとめ
切ることができなかったのです。
 こんな動きがあったのをご存知でしょうか。
 2009年8月30日──それは歴史に残る衆議院選挙の投票
日です。既にその時点で世論調査の結果を受けて、民主党勝利は
間違いなしの予測が出ていたのです。これに有頂天になった民主
党の一部の議員(主流G)人たちは、岡田克也氏が代表時代にま
とめた「岡田政権500日プラン」に基づいた政権移行チームを
8月31日にも立ち上げるべく動き出したのです。
 彼らとしては、小沢氏が動き出す前に手を打たないと小沢氏に
思うようにやられるという不安感があったのです。しかし、この
政権移行チームについては、何も聞かされていなかった輿石東氏
が潰したので、外に大きく漏れることはなかったのです。しかし
このことを知った小沢氏は激怒したといいます。30日の選挙の
大勝利にもかかわらず、小沢氏の表情が非常に険しかったのはそ
のためなのです。
 鳩山政権のとき、さかんに「小沢幹事長による二重支配」とい
うことがいわれましたが、細川政権時代に武村正義氏や田中秀征
氏がそのように批判したことから、マスコミがそう書いたもので
あると、平野貞夫氏は反論しています。細川首相の主席秘書官で
現在駿河台大学総長の成田憲彦氏は、2009年9月10日の産
経新聞に掲載されたコメントでそれを否定しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 細川内閣時代には、当時、新生党代表幹事だった民主党の小沢
 一郎代表代行による「二重支配」が指摘され、今も同様な構図
 と指摘する報道があるが、事実ではない。小沢氏は細川元首相
 の言うことに従っていた。         ──平野貞夫著
       『日本一新/私たちの国が危ない!』/鹿砦社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本中の多くの人が小沢一郎という政治家を間違ってとらえて
います。          ── [日本の政治の現況/25]


≪画像および関連情報≫
 ●「岡田政権500日プラン」の夢物語
  ―――――――――――――――――――――――――――
  民主様の能書きは、壮大ですね。(棒読み)
  第1週内に首相官邸の首相補佐官、首相秘書官ら前政権を支
  えたスタッフは全員入れ替える。あのさぁ、亜米利加のホワ
  イトハウスじゃないんだからさ、総取っ替えしたら、仕事が
  回らんのではないんかい?ホワイトハウスは、総取っ替えし
  ますよ、たしかに。でも、それって、2大政党制政治が熟し
  ているからであって、能力も人材も無い政党がそれをマネし
  ても、上手くいくわけないと思うんだけどねぇ。
  普通だったら「お手並み拝見」で済むかもしれないけれど、
  このご時世・・・日本の政治が空転したら、世界的にも影響
  があるわけで、今までのノウハウを全部捨て去ることの影響
  まで考えてないんだろうなぁ・・・
     http://myjulia.btblog.jp/cm/kulSc03mH454672A1/1/
  ―――――――――――――――――――――――――――

鳩山前首相.jpg
鳩山前首相
posted by 平野 浩 at 04:07| Comment(2) | TrackBack(0) | 日本の政治の現況 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年07月19日

●「最初から脱小沢外に動いた民主党幹部」(EJ第3100号)

 ここにきて、民主党内では小沢総理待望論がじわじわと高まり
つつあります。中間派だけではなく、主流派の中からもそういう
声が上がりつつあります。菅首相の居座りでグチャグチャになっ
ている民主党内をまとめ、党を立て直せる人は小沢元代表しかい
ないというわけです。困ったときの小沢頼みです。
 1998年結党の民主党は、当時の実力では政権がとれないこ
とを自覚し、小沢一郎氏率いる自由党と合併して、政権交代を目
指すことにしたのです。2003年9月のことです。
 しかし、民主党の多くの党員は本当に政権交代が実現できると
は思っていなかったので、剛腕小沢氏を警戒しつつも、多くの議
員は、お手並み拝見を決め込んでいたのです。
 しかし、政権交代が間違いなく実現すると確信したとき、小沢
氏に政策の主導権を取られないよう、現在の主流派グループが中
心になって一斉に「小沢外し」に動き出したのです。もはや信義
も何もない恩知らずの行為であるといえます。
 それでも鳩山氏は民主党が政権を取り、自分が首相になれたの
は、小沢元代表のお蔭であるとして、周囲の反対を押し切って小
沢氏を幹事長に任命したのです。しかし、その一方で鳩山氏はと
んでもない裏切りをやっているのです。
 これについて、小沢氏の盟友である平野貞夫氏は、次のように
述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 政権交代したとき、鳩山さんと菅さんがいろいろ相談して、党
 内に反対はあったけど小沢さんを幹事長にしました。しかし、
 そのときに条件として、政策には関わらない選挙だけを担当す
 る幹事長にしようというヘンテコなことをやった。民主党のマ
 ニフェストは「政治のやり方を変える」ということで、税金の
 無駄遣いとか問題点を、政府と党を一本化することで解決しよ
 うとした。それを鳩山さんと菅さんが破って肝心な政策協議に
 小沢を排除した。ところが、民主党もマスコミも誰も言わない
 でしょう。だからぼくは、鳩山内閣は一年もたないと言った。
 小沢さんにも言いましたよ、そんなことで議院内閣制は運営で
 きないと。                ──平野貞夫著
       『日本一新/私たちの国が危ない!』/鹿砦社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は、与党と内閣の一体化は、小沢氏の年来の主張なのです。
政権交代の前にそのことは民主党内で何回も話し合われ、自民党
から政権を奪取した暁にはぜひやろうということになっていたの
です。この構想は、1993年の小沢氏の『日本改造計画』(講
談社)において、既に発表されているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 政治改革によって首相のリーダーシップを強化するとき、ポイ
 ントになるのは、与党と内閣の一体化なのである。(中略)具
 体的にどうするか。まず党の重要な役職者を内閣に取り込んで
 しまう。そして、党の政策担当機関を内閣のもとに編成しなお
 し、正式な機関として位置づける。党の中枢イコール内閣とい
 う体制にするのである。          ──小沢一郎著
                 『日本改造計画』/講談社
―――――――――――――――――――――――――――――
 鳩山内閣で小沢氏は幹事長になりましたが、小沢構想によれば
幹事長は閣僚として内閣入りするべきなのです。幹事長といえば
与党側の議会運営の最高責任者ですが、その幹事長が閣僚になる
ことによって、内閣と与党が頂点でひとつになり、責任を持って
政治を運営できる──これが小沢構想です。
 しかし、鳩山氏と菅氏は党内の反対を抑えるため、小沢氏を政
策協議から外したのです。しかし、鳩山氏や菅氏をはじめ、民主
党の主流グループのメンバーは、自己を過信し、一度もやったこ
とがない内閣の運営を小沢抜きで行なったのです。
 そのため、小沢氏としては鳩山内閣がどんなに行き詰まっても
内閣を助けられず、結局平野貞夫氏の予想通りに鳩山内閣は一年
持たなかったのです。しかし、それでも鳩山氏としては、その時
点で小沢氏に政権を譲る気などまったくなかったのです。
 2010年6月、退陣のハラを固めた鳩山首相は、小沢氏の提
示した「鳩山首相が小沢一郎を切る」というシナリオに乗って、
退陣することにしたのです。受け皿は、鳩山、小沢ともに菅とい
うことで決めていたのです。小沢氏は自分を悪者にして鳩山首相
と一緒に退陣すれば、支持率は回復すると考えたのです。そのと
きは菅直人という人物がこれほどひどいとは、2人とも想像して
いなかったのです。
 しかし、退陣発表の前夜、鳩山氏は菅氏と電話で次のように話
しているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     鳩山:やめることにした。後をやってくれ
     菅 :わかった。このさい、小沢を切ろう
―――――――――――――――――――――――――――――
 小沢氏の狙い通り、鳩山氏と小沢氏の退陣で、支持率は急回復
したのです。しかし、首相就任後、菅氏は一変します。公然と小
沢切りを宣言し、消費税10%増税を打ち出し、参院選で大敗し
たのです。これによって、せっかくの政権交代を機能不全にして
しまったのです。
 世間の多くの人は、鳩山氏が小沢氏と抱き合わせ退陣を画策し
たということを信じているはずです。実はこれは小沢氏の演出な
のです。小沢氏は、一切弁解しない人であり、自分が悪役になっ
て他人を立てて事態を収拾する人である──平野貞夫氏はこのよ
うにいっています。
 これに対して鳩山氏は、どちらかというと、他人のせいにして
問題を処理しようとする政治家です。辞任の挨拶でも「国民が耳
を傾けない」とか、「社民党が・・」といういい方をしていたで
はないですか。       ── [日本の政治の現況/26]


≪画像および関連情報≫
 ●「しばらく静かにしていろ!」は暴言である
  ―――――――――――――――――――――――――――
  鳩山辞任後、菅さんは代表に立候補したときの記者会見で、
  「小沢幹事長は国民の不信を招いたことについて、少なくと
  もしばらくは静かにしていただいた方が、ご本人にとっても
  民主党にとっても日本の政治にとってもいい」と発言しまし
  た。テレビや新聞のコメンテーターなどは、「しばらく」と
  は小沢に甘いなどと言ってましたけど、そんな問題ではない
  でしょう。この菅さんの発言こそ、憲法感覚の欠如と人間性
  の欠陥を自分で吐露したものです。人間は基本的人権として
  言論と行動の自由をもっています。まして与党の幹事長を務
  めて、党の代表として政権交代に自己を犠牲にして貢献した
  小沢一郎という政治家に「日本のためにも静かにしていろ」
  との暴言は見逃せません。この発言は、政治家の言論・活動
  の自由を侵害するという憲法上、由々しき問題です。日本の
  有識者、政治家がこのことに気がつかないことが、日本の知
  的危機と言えますね。          ──平野貞夫著
       『日本一新/私たちの国が危ない!』/鹿砦社刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

平野貞夫氏の『日本一新』.jpg
平野貞夫氏の『日本一新』
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2011年07月20日

●「マックス・ウェーバーと小沢一郎」(EJ第3101号)

 鳩山政権ができたとき、政権幹部は政権交代の最大の功労者で
おり、与党の幹事長経験も閣僚経験もあるベテランの政治家・小
沢一郎氏を内閣に口を出させない幹事長に押し込み、当の民主党
自身が「脱小沢」をやっているのです。
 その民主党から小沢一郎待望論が出ているのです。土肥隆一衆
院議員(兵庫3区選出・当選7回)というベテランがいます。こ
の人は菅グループの重鎮的存在であり、小沢切りの先頭に立って
いた人です。この土肥隆一議員は最近次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 私は党常任幹事会議長として昨年12月、小沢氏を党員停止処
 分の決定の断を下しました。しかし、今の民主党をまとめ上げ
 挙党一致態勢を築けるのは剛腕の小沢氏以外にない。もっとも
 小沢氏が反小沢派一掃の報復人事をやったらおしまいです。
             ──『サンデー毎日』7/24より
―――――――――――――――――――――――――――――
 この土肥隆一氏の発言は実に身勝手であると思います。困った
ときだけ、小沢氏に頼って政権交代の果実を手にしたにもかかわ
らず、強い疑いのある検審による小沢氏に対する強制起訴には、
仲間であり、党の恩人である小沢氏の味方にならず、党の名誉に
傷つけたとして党員資格停止処分にする。しかし、党が再び危機
に瀕すると、また小沢一郎を頼りにする。こんなことをしていた
のでは、民主党は国民からの信頼は得られないでしょう。
 これとは別の角度から小沢氏の復活を予言しているのは、姜尚
中氏です。姜尚中氏は、石川知裕氏の次の新刊書を読んだ感想を
下敷きにしてかなり内容のあることを語っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
         石川知裕著/朝日新聞出版
        『悪党/小沢一郎に仕えて』
―――――――――――――――――――――――――――――
 そのタイトルは「姜尚中が語る/小沢一郎は復活してくる」で
あり、『週刊朝日』(7/22)に掲載された特集です。姜尚中
氏は小沢一郎氏を学者らしく分析しており、大変興味深いので、
少し詳しくご紹介することにします。
 姜尚中氏は、石川知裕氏の著書の第2部第3章の「悪党とウェ
ーバー」が最も興味深いとして次のように述べています。ウェー
バーとは、ドイツの社会学者であり、経済学者であるマックス・
ウェーバーのことです。姜尚中氏は、石川氏の文章を読んで、政
治家としてはかなり精緻にウェーバーを読解していると評価して
次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ウェーバーはドイツの「鉄血宰相」ビスマルクをアンビバレン
 トに解釈しました。ビスマルクは憲政を敷き、旧体制を合法的
 に葬り去った。ウェーバーはそこは評価しましたが、後継者が
 育たず、エピゴーネン(模倣者)が蔓延した点は問題視した。
 結果的には政治を後退させてしまったのです。
             ──『週刊朝日』(7/22)より
―――――――――――――――――――――――――――――
 アンビバレントとは、1つの物事に対し、全く相反する感情、
態度、考えを抱くことをいいます。姜尚中氏は、現在小沢氏の周
辺には多くのエピゴーネン(模倣者)がいますが、石川氏はそう
なっておらず、ウェーバーの目をもって小沢政治をアンビバレン
トに評価していると述べています。
 石川氏は著書で、ウェーバーの『職業としての政治』の次の1
節を取り上げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 官吏にとっては、自分の上級官庁が・・・自分には間違ってい
 ると思われる命令に固執する場合、それを、命令者の責任にお
 いて誠実かつ正確に・・・執行できることが名誉である。(中
 略)官吏として倫理的にきわめて優れた人間は政治家に向かな
 い人間、とくに政治的な意味で無責任な人間であり、(中略)
 こうした人間が……指導的地位にいていつまでも跡を絶たない
 という状態、これが『官僚政治』と呼ばれているものである。
           ──マックス・ウェーバー著/脇圭平訳
              『職業としての政治』/岩波文庫
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで、ウェーバーが何をいっているのかというと、官僚は政
治的指導者の出す命令が、自分の意思に反するものでも、それに
従うべきであって、そういう意味で官僚は政治をするべきでない
し、巻き込まれてもいけないと述べているのです。
 石川氏はそのひとつの例として、2009年12月に中国の習
近平・国家副主席が来日したさい、小沢氏の申し入れによって天
皇陛下との会見が実現したケースを取り上げています。これに対
して宮内庁の羽毛田信吾長官(当時)は「天皇の政治利用」だと
小沢幹事長に物言いをつけたのです。なぜなら、天皇との会見は
1ヵ月前に申し入れるという慣例(法律ではない)を破ったから
です。石川氏そのとき、小沢幹事長の行為に対し、ウェーバーに
照らして次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小沢一郎は記者会見でこう反論した。「内閣の一部局の一役人
 が、内閣の方針にどうだこうだ言うなら、辞表を提出した後に
 言うベきだ」。ニュースでは「天皇の政治利用」が論点となっ
 たが、小沢の意図は少し違った。羽毛田氏は厚生労働省から、
 「派遣」された官僚である。官僚は政治家の決定に従わなけれ
 ばならない。それは解釈によって、あるいは政策によって変わ
 らない、政治家の本領(エレメント)である。羽毛田発言に対
 して小沢がこだわった点は、そこだった。  ──石川知裕著
         『悪党/小沢一郎に仕えて』/朝日新聞出版
―――――――――――――――――――――――――――――
              ── [日本の政治の現況/27]


≪画像および関連情報≫
 ●ウェーバーの政治論
  ―――――――――――――――――――――――――――
  政治とは何かについてウェーバーは「自主的におこなわれる
  指導行為」の一切を含むものと述べている。銀行の為替政策
  都市の教育政策、細君の亭主操縦などあらゆる社会現象は政
  治的なものである。ただし以後述べる政治は国家の指導に影
  響するような政治活動に限定する。社会学的な国家とは物理
  的暴力の行使という特殊な手段を有する政治団体であるとい
  うものであり、トロツキーが「すべての国家は暴力の上に基
  礎付けられている」と述べたように、暴力を持たない国家は
  無力である。無論、暴力の行使は平時における通常の国家の
  政治的手段であるわけではない。つまり国家とは域内におい
  て「正当な物理的暴力行使の独占を要求する人間共同体」だ
  と捉えることができる。       ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

石川知裕氏.jpg
石川 知裕氏
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2011年07月21日

●「姜尚中氏/小沢一郎は復活してくる」(EJ第3102号)

 石川知裕氏のウェーバーの目による小沢一郎論を続けることに
します。減税日本の河村たかし代表は、政治家が家業になってい
る政治家──政治を代々家業にしている者が増えていることを嘆
いています。
 とくに比例単独で当選した人々は、地元事務所も私設秘書も不
要であり、事務所の運営はすべて公費で賄えるので、歳費はすべ
て自分の懐に入ります。こういう政治家の中に小沢一郎氏の「政
治とカネ」を根拠もないのに批判する者がいるのですが、こうい
う輩は、小沢氏を批判する資格などかけらもないのです。
 ウェーバーは、政治家を分けるのは「経済的側面」であるとい
い、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 政治を恒常的な収入源にしようとする者、これが職業としての
 政治『によって』生きる者であり、そうでない者は政治『のた
 めに』ということになる。(中略)ずばり言えば、恒産がある
 か、でなければ私生活の面で充分な収入の得られるような地位
 にあるか、そのどちらかが必要である。
           ──マックス・ウェーバー著/脇圭平訳
              『職業としての政治』/岩波文庫
―――――――――――――――――――――――――――――
 政治家は官僚に立ち向かう必要があります。そのためにはお金
がいります。それは政治のために必要なお金なのです。そういう
お金が確実に定期的に入ってくる何らかの制度が必要である──
このようにウェーバーはいうのです。そうでないと、議員歳費を
当てにするようなサラリーマン的な政治家が多くなる恐れがあり
ます。政治家が税金で賄われる生活に安住してしまうと、「第2
の官僚」が続々と生まれるだけなのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国家や政党の指導が、(経済的な意味で)政治によってではな
 く、もっぱら政治のために生きる人によっておこなわれる場合
 政治指導者層の人的補充はどうしても『金権制的』におこなわ
 れるようになる。(中略)政治関係者、つまり指導者とその部
 下が、金権制的でない方法で補充されるためには、政治の仕事
 に携わることによってその人に定期的かつ確実な収入が得られ
 るという、自明の前提が必要だ。
          ──マックス・ウェーバー著の前掲著より
―――――――――――――――――――――――――――――
 小沢一郎氏は、自民党を離党して樹立した細川政権において、
かねてからの念願である政治改革4法──改正公職選挙法や改正
政治資金規正法、政党助成法などの政治改革四法を難産のすえ成
立させているのです。
 小沢氏としては、政治改革法は自民党において成立を目指した
のですが、それが不可能であると悟ると、果敢に自民党を離党し
新生党を結党、総選挙のうえ誕生した細川連立政権においてそれ
を成立させたのです。
 この政治改革四法において、ウェーバーのいう「政治の仕事に
携わることによってその人に定期的かつ確実な収入が得られると
いう自明の前提」の実現として、企業・団体献金の制限を打ち出
し、その代償として政党助成法を成立させているのです。さらに
1999年の自自公政権において、今や当たり前になった副大臣
・政務官制度を導入しています。何のことはない。政治改革の諸
制度に関する限り、ほとんど小沢氏がやっているのです。このよ
うに野党であっても小沢氏はきちんと仕事をしているのです。
 一般的には、小沢一郎という政治家は「政治とカネ」に汚い政
治家としての認識しか持っていない人が多いのですが、これはマ
スコミによる意図的な宣伝であり、その実体は大きく異なるので
す。小沢一郎の本当の姿を知りたければ、石川知裕氏の著書を一
読されることをお勧めします。
 小沢氏は、自分のやるべきことを『日本改造計画』によって具
体的に示し、行動を起こすたびにきちんと目標にしている仕事を
着実に仕上げているのです。石川氏は、そういう真の政治家のあ
り方を示すウェーバーの言葉として次を上げています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 政治とは、情熱と判断力の2つを駆使しながら、堅い板に力を
 こめてじわっじわっと穴をくり貫いていく作業である。
                 ──マックス・ウェーバー
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここでいう「堅い板」とは官僚主導政治であり、「判断力」と
は先を見通す力であると石川氏はいうのです。そういう力を有す
る政治家をこともあろうに座敷牢に閉じ込めて自由に動けないよ
うにしている菅民主党政権は、国益に反することを平然と行って
いることになります。
 姜尚中氏は、石川氏の本の文中に出ている、ウェーバーと小沢
一郎などについて、次のように独自の意見を述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ウェーバーの『職業としての政治』に出てくる政党政治が生ん
 だ「ボス」を(石川氏は)小沢氏に当てはめていますが、彼は
 必ずしも黒幕型のリーダーではな思います。2010年代表選
 小沢氏は連日ワイドショーなどに出て饒舌に語っていました。
 文中にもある、代表選で打った演説は「能弁の小沢」の典型例
 です。師弟対談での小沢氏の話しぶりを見ると、角栄が裁判闘
 争のさなかに見せたような悲壮感がありません。むしろ、ディ
 レッタント(好事家)になっているのでは。読み終えて、小沢
 氏は、これから積極的に表舞台に出てくるという確信を得まし
 た。          ──『サンデー毎日』7/24より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように姜尚中氏は、一般的にいわれている小沢一郎像とは
異なる表現をしており、「小沢一郎は復活してくる」と読み解い
ているのです。       ── [日本の政治の現況/28]


≪画像および関連情報≫
 ●職業政治家について(『職業としての政治』)
  ―――――――――――――――――――――――――――
  政治は臨時や副業の政治家でも可能であるが、物的にも心的
  にも一義的に政治で生きている人々としての職業政治家がい
  る。職業として政治を行う場合は政治のために生きるか、政
  治によって生きるのかのどちからがある。もしも政治のため
  に生きる政治家が成り立つためには十分な資産を持つか、私
  生活で十分な収入がなければならない。つまり政治関係者が
  政治のために生活するためにはその報酬を保障しなければな
  らない。              ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

姜尚中氏と石川氏の本.jpg
姜尚中氏と石川氏の本
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2011年07月22日

●「どこが虚偽記載なのか/陸山会論告」(EJ第3103号)

 2011年7月20日、小沢一郎民主党元代表の資金管理団体
「陸山会」の政治資金規正法違反事件で、検察側は次の論告求刑
を行っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  石川知裕被告(衆議院議員) ・・・    禁錮2年
  大久保隆規被告(元秘書)  ・・・ 禁錮3年6ヵ月
  池田光智被告        ・・・    禁錮1年
―――――――――――――――――――――――――――――
 ところで、「論告求刑」とは何でしょうか。
 刑事訴訟法では、「起訴」から「判決」に至るまでの間の審理
を「公判」というのです。その判決前の最後の公判において、今
までやってきた証拠調べに基づいて当事者が意見陳述を行うこと
になっているのです。
 これが「弁論」ですが、検察官が行う弁論のことを「論告」と
いうのです。この論告のときについでに検察官としては被告人に
これだけの刑を科すのが相当だという意見を述べることがあるの
です。いや、ほとんどの検察官は求刑しますが、しなくてもよい
のです。単なる慣習であり、法律上の規定ではないからです。
 ですから、ずいぶん厳しい求刑をしていますが、単なる検察官
側の願望というか希望に過ぎないのです。なお、8月22日に今
度は弁護側の最終弁論が行われ、判決は9月26日にいいわたさ
れることになっています。
 陸山会事件──一体これは何の事件なのでしょうか。この件に
ついてEJでは何回も述べていますが、推論を交えず、事実だけ
に絞って述べるならこうなります。
 小沢事務所は、秘書寮建設用地を取得するため、世田谷の物件
を購入することにしたのです。しかし、陸山会にはそのときお金
がなかったので、2004年10月に小沢一郎氏から4億円を借
り入れたのです。そして、10月末日に土地を購入したのですが
登記は2カ月後の2005年1月に行っているのです。土地取得
日と登記日のずれ──ただそれだけのことです。これだけのこと
で、現職国会議員を含む3人の元秘書を逮捕・起訴したのです。
 それでは、どこが収支報告書を虚偽記載に当るのでしょうか。
 はっきりしていることは、2004年10月に小沢氏から借り
入れた4億円は収支報告書に記載があることです。これについて
は平成16年(2004年)の収支報告書に次のように記載があ
ります。EJ第2858号(2010年7月20日)でも指摘し
た通りです。
 収支報告書は官報に記載されます。「借入金 4億円」の記載
のある官報は「官報号外223号」です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 <官報号外223号>
http://www.soumu.go.jp/main_content/000047155.pdf#page=162
―――――――――――――――――――――――――――――
 上記URLをクリックすると、官報号外223号の86ページ
が出るので、247ページまでスクロールすると、陸山会が出て
きます。そこにちゃんと「借入金 小沢一郎 4億円」と出てい
ます。しかし、スクロールが面倒な人も多いと思うので、EJ第
2858号で使った同じ添付ファイルを付けておきます。
 ところが21日の新聞を見ると、どの社もその記載のあること
をぼかして書いているのです。これほどはっきりしている事実を
なぜ認めないのでしょうか。
 陸山会では、小沢氏から借りた4億円を定期預金にして銀行か
ら同額の融資を受けています。検察側はこれを「複雑な資金の操
作」といっていますが、企業ではそんなことはよくあることを検
察が知らないだけです。常識を疑います。
 しかし、2004年の収支報告書にあるのは小沢氏からの借入
金(4億円)の記載だけであり、銀行から借り入れた4億円の記
載はありません。なぜでしょうか。それは記載する必要がないか
らです。政治資金規正法第4条によると、収支報告書の「収入」
の定義には、銀行からの借入金は該当しないのです。法律の専門
家である検察がなぜ知らないのでしょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「収入」とは、金銭、物品その他の財産上の利益の収受で、第
 八条の三各号に掲げる方法による運用(銀行預金など)のため
 に供与し、又は交付した金銭等の当該運用に係る当該金銭等に
 相当する金銭等の収受以外のものをいう。
               ――政治資金規正法第4条より
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでは、なぜ、購入と同時に登記しなかったのでしょうか。
それは登記しなかったのではなくて、できなかったのです。それ
は政治団体が「権力なき社団」という法的立場にあるからです。
そのため、政治団体名義あるいは政治団体代表者の肩書き名義で
の土地登記権限がないのです。そのため、代表者個人名義でない
と登記できないのです。
 陸山会としてどうするかですが、小沢氏からの4億円を定期預
金にし、それを担保として同額を土地代金として銀行から融資を
受けます。その資金を使って、不動産の所有者に代金を支払い、
この時点で土地は個人小澤一郎の所有になります。あくまで個人
ですから、収支報告書に記載する必要はないのです。
 土地の所有権が確定した個人小澤一郎は、その所有権に基づき
土地利用権が陸山会に帰属することを明示する契約を陸山会と交
わします。その契約日をもって、陸山会は、土地代金相当を個人
小澤一郎に支払い、同時にこの土地を陸山会の資産として計上す
るのです。
 陸山会はほぼそれと同様のことをやっています。どこが収支報
告書の虚偽記載なのでしょうか。ちょうど一年前のEJ第285
8号の再現になってしまいましたが、なぜこんなことでまだもめ
ているのでしょうか。    ── [日本の政治の現況/29]


≪画像および関連情報≫
 ●衝撃の郷原発言/サンデー・プロジェクト(当時)より
  ―――――――――――――――――――――――――――
  田原:
  この土地を買ったという4億円が、どうも小沢さん側が言っ
  ているように銀行から融資を受けたんではないと。どうもこ
  れは小沢さんの金ではないかと。
  郷原:
  私も最初はこう理解していたんですね。2005年に土地を
  買ったということになっていたけれども、実際には2004
  年に買っている。2004年の土地を買った原資のことが、
  全然収支報告書に出ていない。だから不記載だ。だから石川
  さんは違反だ。ということかと思っていたんですね。ところ
  がよく見てみると、2004年の収支報告書には小沢さんか
  らの4億円の借入れの記載は、あるんです。
  田原:
  えっ。ちょっと大変なことだ。何ですか?
  郷原:
  2004年の収支報告書には「小澤一郎 400,000,000」 と
  いうのは書いてあるんです。
  田原:
  この4億円が全く書かれていない謎の金ではなくて。ちょっ
  とアップしてください。郷原さんの持っている紙。どこに書
  いてありますか?
   http://ameblo.jp/hirokane604/entry-10431618730.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

陸山会/2004年収支報告書.jpg
陸山会/2004年収支報告書
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2011年07月25日

●「小沢一郎はなぜ動かないか」(EJ第3104号)

 7月24日の朝日新聞は民主党に対して次の見出しの記事を掲
載しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
       動かぬ小沢氏/視線は「ポスト菅」
            ──2011年7月24日/朝日新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 これに先立つ『週刊ポスト』8/5では次のタイトルを掲げて
特集を組んでいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
    小沢一郎よ、この「瀕死の日本」を見捨てるのか
                 ──『週刊ポスト』8/5
―――――――――――――――――――――――――――――
 どこもかしこも小沢、小沢、小沢です。困ったときの「小沢頼
み」です。小沢氏は検察審査会から強制起訴されているうえその
強制起訴を理由として民主党から党員資格停止処分を受けている
のです。岡田幹事長は、かなり前に幹事会に提出されていた小沢
氏の「異議申し立て」を最近になってわざわざ却下して党員資格
停止処分を最終決定しています。それも渡部恒三最高顧問や輿石
参院幹事長が反対するなかを押し切ったのです。なぜ、この時期
になってわざわざ処分を最終決定したのでしょうか。
 岡田幹事長をはじめとする現在の民主党の執行部は、菅首相退
陣後に行われる民主党の代表選に小沢氏が出てくるのを何よりも
恐れているのです。常識からいっても菅首相が退陣すれば、前回
の代表選の議員票で互角に戦った小沢氏が代表になるのが当然す
ぎるほど当然であったからです。そんなことになれば、自分たち
は惨めなことになると考えるからです。
 それで党員資格停止処分を最終決定することによって小沢氏を
総裁選に出れないようにしたのです。もし菅首相がこのまま居座
って、9月に入ってしまい、もし陸山会公判で小沢氏に有利な判
決が出てしまうようなことになれば、党員資格停止処分も撤回せ
ざるを得ない状況になってしまうからです。
 ところで、小沢氏はいまなぜ動かないのでしょうか。結論から
いうと、動く必要がないからです。
 実は小沢氏は、2010年9月の代表選のときでさえ、小沢氏
自身が小沢支持グループを本気でまとめようと動いていないので
す。しかし、現在は毎日のように支持グループの会合に顔を出し
結束固めをやっているのです。こんなことは珍しいのです。
 7月15日のことです。民主党の中堅・若手議員で作る「国益
を考える会」が、菅直人首相の即時退陣を求める決起集会を呼び
かけたのです。考える会の長島昭久、吉良州司両衆院議員ら衆参
両院議員11人が党所属の全議員に出席を呼びかけたのですが、
集まったのはたったの31人であり、100人以上入る会議室は
がらんとしていたのです。小沢氏が「その会合には出るな」と指
示したからです。
 小沢氏が本気になって「菅降ろし」に動いたのは、不信任案可
決のときだけであり、後は「菅首相を降ろすのは、かつて彼を支
持した執行部が責任を持ってやるべきことである」として、突き
放しているのです。
 現在は、菅首相の居座りによって、脱小沢グループはバラけつ
つあります。それに小沢グループが動かなくても執行部を中心に
菅降ろしをやっており、菅首相も粘るので、執行部のイメージが
ダウンする一方です。
 小沢グループの現状について、小沢グループの有力議員は次の
ように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで再び小沢さんが菅降ろしの号令を掛ければ、再び反小沢
 勢力を結束させてしまう。小沢さんは確実に政権を取り戻すた
 めに、支持派の若手議員たちに1人ずつ電話をかけて意見を聞
 き、グループの地固めをしているところだ。本人は出馬資格が
 ないから意中の代表候補に出馬を打診し、代表選の準備も始め
 ているが、まだ調整に時間がかかっている。しかし、菅首相が
 粘るほどこちらにも時間ができるし、かつての菅支持派の亀裂
 も大きくなるから情勢は有利だ。─『週刊ポスト』8/5日号
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在の民主党で次期代表になるには小沢グループの支持が得ら
れないとなれないことは明らかです。小沢氏は「過去の言動や振
る舞いは問わない」と明言しています。
 そもそも同じ党の仲間であるのに、首相自ら「脱小沢」などと
いう党内を割るような運営をすれば、行き詰ることは目に見えて
いるのです。救いがたいことに民主党の執行部はそれをまだやっ
ているのです。脱小沢をそのままにして、醜態の限りを尽くし、
特例公債法案ですら、まとめられない──与党として態をなして
おりません。
 石川知裕氏の本に佐藤優氏の次の言葉が紹介されています。民
主党の議員は手加減を知らないのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 肉食動物よりも草食動物の方が実は残酷なのです。どこまで叩
 いていいかわからない。だからやりすぎてしまう。頭でっかち
 の民主党にはそういう政治家が多い。国民が求めると自分を守
 るために小沢一郎を殺してしまう。自民党では派閥間で政争を
 繰り広げてもお互いに致命傷はなかった。  ──石川知裕著
         『悪党/小沢一郎に仕えて』/朝日新聞出版
―――――――――――――――――――――――――――――
 菅政権とその執行部の最大の問題点は「誰も責任を取らない」
ことに尽きます。選挙に大敗しても首相も幹事長も選挙対策本部
長も責任を取らず、知らん顔であり、ひたすら自分の地位にしが
みついていて見苦しい限り。「政治とは責任を取ることである」
──これは小沢一郎氏の言葉です。
              ── [日本の政治の現況/30]


≪画像および関連情報≫
 ●「国益を考える会」の菅退陣要求決起大会
  ―――――――――――――――――――――――――――
  民主党の中堅・若手議員で作る「国益を考える会」が呼びか
  け人となって(7月)15日昼、菅直人首相の即時退陣を求
  める決起集会を国会内で開いた。同党の衆参両院議員32人
  が出席し、首相の下では東日本大震災の復興や東京電力福島
  第1原発事故の早期収束は実現不可能だとして即時退陣を求
  める決議を行った。運動の拡大次第で、同党内の早期退陣論
  に弾みが付きそうだ。集会は、考える会の長島昭久、吉良州
  司両衆院議員ら衆参両院議員11人が党所属の全議員に「首
  相は政権運営にとり致命的な失態を繰り返している。3条件
  に関係なく即刻退陣すべきだ」とする文書を配り、参加を呼
  びかけていた。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110715/stt11071513460011-n1.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

「国益を考える会」.jpg
「国益を考える会」
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2011年07月26日

●「小沢グループの戦略を分析する」(EJ第3105号)

 民主党の小沢グループは現在体制を固めています。現在の小沢
グループは次の3つから成っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      ≪小沢グループ≫
       1.一新会 ・・・・ 約30人
       2.北辰会 ・・・・ 約50人
       3.参議院 ・・・・ 約30人
―――――――――――――――――――――――――――――
 一新会というのは、小沢氏のコアグループです。北辰会は20
09年の衆院選の1期生のグループです。これに参議院の人数を
加えると、ゆうに100人を超えるのです。
 現在、小沢グループがやろうとしていることは、上記3つのグ
ループを1つのグループにまとめ、大小沢グループづくりであり
会長には小沢氏自身が就任するとみられています。
 こんなことは小沢氏ならいつもやっていることだという人もい
るかもしれませんが、小沢氏自身が積極的にグループづくりに力
を入れるのは珍しいことなのです。少なくとも民主党に入ってか
らは小沢氏自身はグループ強化に取り組んでいないのです。
 一体小沢氏は何を考えているのでしょうか。石川知裕氏の本の
「あとがきにかえて」にその謎を解く次の一文があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小沢新党はできるのか。できた場合に、党本部として使える部
 屋を小沢は持っている。ホテルニューオータニの近くにある、
 かつて新生党本部があったビルのだだっ広い一室だ。小沢が自
 民党政治に反旗を翻して初めて「悪党」を集めた、思い入れの
 ある象徴的な場所でもある。そこに再び小沢一郎を筆頭とする
 造反した議員たちが集まり、「挙党一致内閣」を動かす夢を私
 は思い浮かべてみた。           ──石川知裕著
         『悪党/小沢一郎に仕えて』/朝日新聞出版
―――――――――――――――――――――――――――――
 この石川氏の記述を見ると、小沢氏が新党を考えていることが
読み取れます。それでは、どういうときに新党を立ち上げるのか
現在わかっている情報から予測してみます。なお、この予測は、
「サンデー毎日」7/31の記事を参照しています。次の3つの
可能性のそれぞれについて考えてみます。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.菅首相が8月末で退陣したとき
       2.菅首相が8月に辞任しないとき
       3.菅首相が解散総選挙に出たとき
―――――――――――――――――――――――――――――
 まず、菅首相が8月末で退陣したときです。このときは9月に
代表選が行われますが、小沢グループはしかるべき代表候補を選
び、支援する方針です。これが民主党を割らない最善の方法であ
るといえます。野田、馬淵、前原、海江田氏らがポスト菅に意欲
を見せています。このさい、小沢グループは代表選びに大きな影
響力を持つことになります。
 それでは、菅首相が8月末に辞任しない場合どうするかです。
このさい、次の2つの可能性があります。
―――――――――――――――――――――――――――――
     1.小沢グループがクーデターを敢行する
     2.自公両党が内閣不信任案を再提出する
―――――――――――――――――――――――――――――
 上記2から考えます。内閣不信任案の再提出は、今のところ公
明党が乗り気ではありませんが、可能性としてはあります。もし
内閣不信任案が提出されると、今度は問題なしに可決されます。
民主党の執行部としても首相に何回も辞任を迫りながら、内閣不
信任案を否決したのでは整合性がとれないからです。
 この場合、菅首相がどう出るかです。内閣を総辞職すれば代表
選になりますが、菅首相のことですから、解散し、脱原発総選挙
を仕掛けてくる可能性があります。党の大半を敵にまわしている
ので、彼なら破れかぶれ解散をやりかねません。この場合、民主
党は壊滅的敗北を喫するはずです。このとき、小沢グループはど
うするのでしょうか。
 上記1について考えます。小沢グループによるクーデターとは
何でしょうか。
 これはいろいろあります。両院議員総会における代表解任動議
や分党論の提案です。もともと小沢グループは、不信任案に小沢
グループ71人だけで賛成する場合、分党を考えていたといわれ
ます。実際には賛成する議員はさらに増えて、可決ラインまで行
ったのですが、71人だけでは不信任案は成立しないので、賛成
した小沢グループは全員離党し、そのさい分党を提案する予定だ
ったのです。すなわち、小沢グループは新党を作ったうえで、民
主党と連立政権を組むという構想です。かつて原口前総務相がい
っていた「民主党A」(新党)と「民主党B」(現在の民主党)
に分党するアイデアです。
 これには小沢グループだけでなく、現在の民主党から去る議員
も多く出ると思われます。なぜなら、現在の民主党では選挙は勝
てないからです。既に「新党自由」という名前も決まっていると
いわれます。
 もちろん小沢グループ以外の民主党が分党に応じないで、小沢
グループその他が民主党を離党する可能性もあります。そのさい
は残った民主党が過半数割れに追い込まれることは確実です。そ
うすると、民主党は自民党との連立をしようとするでしょうが、
小沢氏は既に自民党にも手をまわしており、民主党Bが自民党と
簡単には連立を組めるとは思えないのです。
 こうなると、どのみち総選挙になります。この場合、民主党の
残党にまず勝ち目はないと思われます。すべては菅首相が8月末
に素直に辞めるかどうかです。これによって日本の政治状況は大
きく変わることになります。 ── [日本の政治の現況/31]


≪画像および関連情報≫
 ●原口一博前総務大臣の「民主党分党論」
  ―――――――――――――――――――――――――――
  原口一博前総務大臣の「民主党分党論」が、日本の政治を大
  きく変える「一撃」になる可能性がある。原口氏の意見は、
  簡単に言えば、民主党は「2009年マニフェストを実現す
  る派」と「マニュフェストを修正する派」に分かれる必要が
  ある、というものだ。さらにシンプルに考えれば、二派の分
  かれ目は、「増税」を受け入れるか否か、になる。デフレ下
  にも関わらず、菅現政権はマニフェストを大きく修正して増
  税路線に転換しようとする。方や原口氏は、現政権の消費税
  を始めとする増税路線に反対である。
         http://www.janjanblog.com/archives/33056
  ―――――――――――――――――――――――――――

分党論を説く原口前総務相.jpg
分党論を説く原口前総務相
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2011年07月27日

●「なぜ、世間は小沢を悪くみるのか」(第3106号)

 小沢一郎ほど、ここまで悪しざまにいわれる政治家も少ないで
しょう。多くの人が小沢を慕い、そして多くの人が小沢から離れ
ていくといいます。「来る者は拒まず、去る者は追わず」、そし
て「言い訳をしない」──これが小沢氏の信条です。
 しかし、小沢一郎について調べていくと、世間一般で認識され
ている評価は非常に歪められていることがわかります。明らかに
彼はある勢力によって意図的に悪者に仕立てられています。どう
いう意図をもって彼らは小沢氏を貶めているのでしょうか。
 小沢氏の身近に仕え、彼を知り尽くしている元秘書の石川知裕
氏はこれについて、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 新生党を立ち上げ、細川政権を樹立した時は「剛腕」と称賛さ
 れた。だが、「普通の国」と言い出したとたんに「独裁者」と
 なった。小選挙区制や国民福祉税を掲げると「強権」と言われ
 保保連合が取りざたされると「悪魔」と呼ばれた。新進党を解
 党した時、「壊し屋」が定着。そして、近年、「政治とカネ」
 が小沢の代名詞になった。政策や理念に共鳴しているなら、小
 沢の評価は変わらないはず。それなのに、人は離れていく。新
 進党、自由党にいた人は自民党に戻った。民主党でも近づいて
 きた人がいたが、小沢が代表や幹事長を辞任した後には菅さん
 や前原さんのもとに移っていった。いつも小沢が下野している
 時、人は離れていく。そんなものだ。    ──石川知裕著
         『悪党/小沢一郎に仕えて』/朝日新聞出版
―――――――――――――――――――――――――――――
 ブログやツイッターで小沢氏のことを取り上げると、「なぜ小
沢を擁護するのか。小沢にどれほどの政治的業績があるのか。彼
はただの壊し屋じゃないか」というような意見をいただくことが
あります。テレビや新聞などのマスコミが意図的に小沢氏を貶め
ている効果がここまで浸透してしまっているのです。
 同じようなことをカレル・ヴァン・ウォルフレン氏がいってい
るのです。ウォルフレン氏は日本で講演する機会が多いそうです
が、必ずといってよいほど次のような質問が出るといいます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ウォルフレンさん、あなたのおっしゃることはほぼすべてにつ
 いてもっともだと感じます。しかしあなたがなぜ小沢ファンな
 のか、私には理解できません。
       ──カレル・ヴァン・ウォルフレン著/井上実訳
         『誰が小沢一郎を殺すのか?』/角川書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ウォルフレン氏は、日本政治の現代史を調べるなかで、小沢一
郎に関するさまざまな資料を集めて彼がこれまでやってきたこと
を踏まえて、彼が日本の政界できわめて重要な存在であることを
認識しているのです。
 しかし、日本人の多くのは小沢一郎の政治的業績についてロク
に調べもせず、彼の書いた本も読まず、テレビや新聞の報道を見
て「小沢は悪い奴だ」というイメージを持っているのです。テレ
ビや新聞が小沢一郎という政治家を意図的に貶めているのではな
いかとなぜ考えないのでしょうか。
 ウォルフレン氏は、しだいに日本人の小沢一郎観がわかってき
て、事態が飲み込めるようになってきたといいます。そして小沢
一郎という希有な政治家が、このままでは政治的に「殺される」
ことを危惧して『誰が小沢一郎を殺すのか?』という本を上梓し
たのです。その中で、ウォルフレン氏は小沢一郎について次のよ
うに書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 やがて自分にも、小沢氏の強烈な個性と果断さ、傑出した政治
 手腕が理解できるようになった。するとなぜ彼のやり方が、当
 時、世間に賛否両論を呼び起こしたのか、ということがわかっ
 た。それは小沢氏がその非凡な能力ゆえに、日本の政治システ
 ムという旧態依然とした体制を維持しようともくろむ勢力にと
 って真の脅威であるからだった。早くも一九九三年と九四年に
 その政治的な動機にあらぬ疑いをかけ、小沢氏の立場を貶めよ
 うとする動きが生じ、さまざまな異論が噴出したのはなぜか?
 私から見ればその答えは単純明快である。それは小沢氏が疑い
 もなく、日本の政治システムを運営し、権力の頂点に達し、さ
 らにはほかの政治家たちの支持をも集めることのできるような
 効果的で、なおかつ従来とは異なるやり方を、だれにも増して
 熟知しているという点で、改革を志す政治家のなかでは最強の
 人物だったからである。要するに、小沢氏は日本の政治システ
 ムという現体制の最大の脅威となり得る人物だということなの
 だ。小沢氏の著書『日本改造計画』(1993年/講談社)を
 読めば、彼が日本の政治の弊害をいかによく理解しているかが
 わかる。  ──カレル・ヴァン・ウォルフレン著/井上実訳
         『誰が小沢一郎を殺すのか?』/角川書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 ウォルフレン氏の推薦する『日本改造計画』には、小沢氏が日
本の政治体制はかくあるべしということが具体的に記述されてい
ます。そして、その多くのことを小沢氏自身が既に実現してきて
いるのです。小選挙区制、政党助成金制度、国会改革などなど、
日本の政治の世界で既に実現していることが『日本改造計画』に
は既に書かれていたのです。1993年の出版であり、小沢一郎
という政治家がいかに先見の明があるかがよくわかります。
 そして、民由合併によって民主党入りして6年、諸悪の根源で
ある自民党を倒して政権交代を成し遂げて最後のステージに入っ
ているのです。これからが小沢氏の本番であったのです。
 小沢氏は最後の総仕上げに取りかかっており、これぞというと
きに、危機を感じた旧態依然たる体制を維持しようともくろむ勢
力によってフェアでない足払いをかけられ、その動きを止められ
てしまったのです。     ── [日本の政治の現況/32]


≪画像および関連情報≫
 ●『日本改造計画』について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  小沢が自民党の幹部時代、講談社から1993年5月20日
  に発表され、実際に書店に並んだのは6月下旬だった。内容
  は小沢の政策やビジョンをつづったもので、小沢が自民党を
  離党して、新生党を立ち上げ、細川連立内閣が成立するとい
  う政治の激動期において、中心人物の小沢の考えを知るため
  の書として、発行部数72万5000部の年間3位のベスト
  セラーになった。かつて、小沢の師の田中角栄が1972年
  に著してベストセラーになった『日本列島改造論』の平成版
  ともいわれる。           ──ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

小沢一郎/『日本改造計画』.jpg
小沢一郎/『日本改造計画』
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2011年07月28日

●「日本は政治上巨大な壁がある」(EJ第3107号)

 東日本大震災の復旧・復興が4ヵ月を経過しても遅々として進
んでいません。原発事故に対しても政府の対応は後手後手に回っ
ており、その収束はまだ遠い先の話です。まさに現在は日本の危
機であるといえます。
 こういうときに政治が果たすべき役割が期待されるのですが、
菅政権の稚拙きわまる対応に国民の焦慮感は募る一方です。さら
に菅首相の脱原発の思い付き発言によって、今後原発は次々に止
まり、日本中に深刻な電力不安が起きつつあります。このまま事
態が推移すると、日本の企業──とくに製造業は続々と国外に生
産拠点を移し、日本経済に深刻な打撃を与えることが懸念されま
す。選挙のさいに「一に雇用、二に雇用、三に雇用」と連呼して
いた菅首相ですが、今そこにある危機を見ずに「脱原発」「自然
エネルギー」という遠い未来の話にかまけている──まさに支離
滅裂な政権運営といえます。これによって、いま多くの雇用が失
われようとしているのです。
 「このままでは日本の製造業が日本脱出を企てる」──その事
態は既にはじまっています。先の話ではないのです。新聞は報道
しませんが、少しオーバーにいえば、怒涛のように企業は日本脱
出をはじめているのです。いくつか例を上げることにします。
 三井金属鉱業は、この6月に主力製品であるスマートフォン用
材料の製造ラインをマレーシア工場に新設することを決めていま
す。なぜその決断をしたのかというと、同社は計画停電によって
埼玉の上尾営業所の生産が1ヵ月間ストップし、業界に大打撃を
与えたからです。
 レンズメーカー大手のHOYAは、中国・山東省に工業用ガラ
ス工場を新設し、今年の12月から稼働させる予定です。ガラス
工場では原料を溶かす工程で安定した電力供給が不可欠であり、
前途に不安を感じて移転を決断しています。
 まだあります。半導体産業の日本最大のルネサスエレクトロニ
クスは台湾やシンガポール企業に委託生産する方針を決定してい
るし、中堅自動車メーカーのユーシンは中国に拠点を移し、同社
は、「このままいくと日本での部品生産はゼロになる」と話して
います。精密モーターなどの電子・工業部品の世界的企業である
日本電産も実験設備などは海外に移転すると述べています。
 この事態を小沢氏の側から見ると、政権交代をした民主党の中
にいながら何もできない状態になっています。強制起訴の件も重
いですが、党員資格停止処分を受けていては、党員ではないので
事実上何もできないのです。まさに座敷牢に入れられているのと
同じです。
 かつて小沢氏は、自民党の幹事長であったとき、湾岸戦争が起
こっています。時の政権与党の幹事長ですから、何でもできる権
力を持っている立場にありながら、思うように国としての対応が
取れなかったと述懐しています。
 サダム・フセインがイラクに進攻したとき、米国が懸念したの
はサウジアラビアのことだったのです。軍事専門家によると、も
し、イラクがサウジアラビアに攻め込むと、約2週間でサウジア
ラビアの主要な油田地帯をほぼ制圧できるというのです。そうす
ると、イラクは世界の55%の石油をコントロールできることに
なります。イラクは当時毒ガスを平気で使う国であり、これはま
さに世界的危機といえます。
 このとき、日米両国は「グローバル・パートナーシップ」のス
ローガンのもとで、政策協議がスムーズに進んでいたのです。で
すから、米国は同盟国である日本の協力を非常に頼りにしていた
のです。はじめての有事での対応であり、まさに、日米同盟の真
価が問われる事態だったからです。
 しかし、結局日本にできたことは、130億ドルの資金提供だ
けだったのです。もちろん幹事長の小沢氏は、最善の努力をした
のですが、頑強な官僚機構に阻まれて、ほとんど何もできなかっ
たのです。
 このときの状況を小沢氏は『日本改造計画』において、次のよ
うに書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 まず、アメリカは日本に軍用物資を運ぶ輸送機の派遣を要請し
 てきた。それに対して日本政府はあまり検討の時間もかけずに
 「ノー」の答えを出す。次にアメリカは補給艦を要請する。こ
 れも「ノー」。軍用のタンカーはどうか。またまた「ノー」。
 それでは船を。これに対しては、日本国籍二隻、米国籍一隻の
 計三隻を出して応じたが、出港した九月末は輸送需要のピーク
 を過ぎていた。さらに、アメリカは掃海艇の派遣を要請してき
 た。政府は憲法上の観点から「ノー」と答えた。最後には政府
 は掃海艇を派遣したが、戦争が終わってからであった。このよ
 うに、政府の対応が遅すぎて、本当に必要なときに協力できな
 かったのである。             ──小沢一郎著
                『日本改造計画』/講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 このとき、小沢氏は幹事長としてあらゆる手を尽くしたのです
が、官僚機構の壁を破れず、ここを変えないと、日本は変わらな
いと考えて仲間と一緒に自民党を離党したのです。そして今それ
に取り掛かる直前に手足を奪われたかたちになっています。
 これに関連して小沢氏はこういっています。民主主義のあり方
が日本と欧米とは逆である、と。米国では日常生活の次元で民主
主義が徹底されていますが、一朝、緊急事態が発生すると、きわ
めて少数の人間が責任をもって決断、対処して行くのです。
 しかし、日本は逆なのです。一朝有事になると、マスコミを筆
頭にして、民主主義が高らかに叫ばれるのです。しかし、その場
合の民主主義とは、きわめて手続き面に偏重した民主主義なので
す。「議論をとことん尽くせ」となるわけです。今回の震災対応
にもそれがあらわれているのです。小沢氏はそれを根本から変え
ようと考えているのです。  ── [日本の政治の現況/33]


≪画像および関連情報≫
 ●小沢一郎著、『日本改造計画』冒頭部分より
  ―――――――――――――――――――――――――――
  世界の大国でなければ、国の指導者に指導力が欠如していて
  も、少なくとも世界に対して迷惑をかけることはない。しか
  し、ひとたび大国といわれるほどに国力が高まり、その動き
  の一つ一つが対外的に影響を及ぼすようになれば、もはや、
  「指導力の欠如」は許されない。「弱い指導者」は他国には
  迷惑でしかないのである。(中略)大国としての責任を免れ
  ることはできない。アメリカが単独で世界を取り仕切ってい
  た時代のようなわけにはいかない。日本はその広く深い影響
  力をきっちりとコントロールし、世界のために役立てる義務
  がある。そのためには何が必要なのか。強力なリーダーシッ
  プである。その強いリーダーシップが日本にあるだろうか。
                      ──小沢一郎著
                『日本改造計画』/講談社刊
  ―――――――――――――――――――――――――――

どう動くか。小沢一郎.jpg
 
どう動くか。小沢 一郎 
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2011年07月29日

●「菅氏にはこんな側近がついている」(EJ第3108号)

 7月26日の「BSフジプライムニュース」は、『「首相・菅
直人」研究、辞めない男の“原点”』というタイトルで報道され
たのです。この番組に「菅直人」のことをよく知る人物として次
の2氏が出演しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
            下村健一内閣審議官
        橘 民義第一総合研究所代表
―――――――――――――――――――――――――――――
 下村健一氏はTBSの元ジャーナリストで、現在菅氏の身近に
いてその考え方をよく知る人物であり、橘民義氏は江田五月氏の
元秘書で、岡山県議を経て菅首相と30年以上の付き合いのある
人物です。このほか、田中秀征・元経済企画庁長官、作家・大下
英治氏がゲストとして出演しています。
 この菅氏サイドの2氏の発言には唖然とすることがたくさんあ
ります。例えば、2011年6月2日の民主党代議士会での菅首
相の「退陣表明」について、われわれとはぜんぜん違う意見を述
べているからです。
 橘民義氏は6月2日の民主党代議士会における菅首相の発言は
退陣表明ではないといい、下村健一氏までが、菅首相は「退陣」
とか「辞任」という言葉は一切使っていないという始末です。本
人は退陣する気はないのに、「退陣」とメディアに書かれ、菅氏
は不本意に思っているそうです。
 これに対して、キャスターの反町理(おさむ)氏と田中秀征氏
が鋭く2人に切り込みます。その一部を再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
 反町:菅さんはあの代議士会でどうしてあんな発言をしたんで
    すかね。
 橘 :いや、それは民主党の分裂を恐れたのですよ。
 反町:自分の不信任が通ることを恐れたのではないのですか。
 橘 :不信任なんて通らないですよ。鳩山さんだって自分のグ
    ループで賛成する議員が少なくて愕然としたというぐら
    いですからね。数が足りないのですよ。
 大下:そんなことないよ。最終段階で執行部が票読みしたら、
    80票をはるかに超えていて、鳩山さんの提案に乗らざ
    るを得なくなったのですよ。
 橘 :そんなことないですよ。6月2日のことで菅さんは辞任
    を口にしたじゃないかといわれ、報道も辞任表明という
    ように書かれましたね。ところが菅さんは、俺は辞任な
    んかいったおぼえはないというのです。
 反町:議員生活30年やってこられて、あの発言が退陣と受け
    取られないと思っているとしたら、それが側近の橘氏と
    してはつらいところじゃないのではないですか。あれを
    退陣といわない野党なんていませんよ。
 橘 :そうかもしれませんが、菅さんは少なくとも辞めるとい
    うつもりで発言したんじゃないといっているのですよ。
 田中:退陣表明というように、海外を含めて新聞がデカデカと
    出したわけだ。だったら、それを否定しなきゃ。そうで
    しょう。あれは退陣表明じゃないと菅さんはっきりいう
    べきでしょう。
 下村:菅さんは総理の椅子に長くとどまりたいので、いろいろ
    政策を出していると世間の人はいうけれども、まるで逆
    なのです。政策をやりたいので、総理に留まっているだ
    けなのです。そこが菅氏と世間のギャップなんです。
   ──7月26日放送/「BSフジプライムニュース」より
http://www.bsfuji.tv/primenews/movie/index.html?d110726_0
―――――――――――――――――――――――――――――
 橘民義氏は「不信任なんか通らない」といっていますが、これ
は大下氏のいう通りで、大きな間違いです。執行部は最初のうち
は、小沢グループが数をまとめ切れないとみていたのです。
 しかし、小沢グループは、最初から鳩山グループはあてにでき
ないと見て、小沢氏自身がグループの結束に力を入れ、70名以
上を固めたのです。しかし、70名では不信任案は可決できない
ので、全員離党して新党を結成するつもりでいたのです。
 ところが小沢グループが70名以上まとめていることを知った
他の議員──その大半は様子見を極め込んでいた議員たちなので
すが、それらの議員が賛成にシフトしてきて、80名を大きく超
えてしまったのです。不信任案はほぼ可決が確実だったのです。
 菅氏は鳩山氏に辞任を明言しています。そのため、人の好い鳩
山氏は文書から辞任や退陣の言葉や辞任時期を外し、あえて曖昧
にしたのです。武士の情けです。しかし、サインはして欲しいと
迫ったのですが、菅氏はそれも「勘弁してくれ」と拒否していま
す。しかし、辞任の言葉を聞いている鳩山氏はそれでも受け入れ
たのです。菅氏は鳩山氏の甘さにつけ込んだのです。
 さらに代議士会で菅氏は、慎重に辞任や退陣という言葉を使う
ことを避け、言質を取られないようにしています。それ以降菅氏
は国会の答弁でも辞任や退陣という言葉を一切使っていないので
す。そして、側近には「俺は辞任する気でいったのではない」と
伝えているのです。最初から騙すつもりだったようです。
 下村氏も橘氏も菅氏とは30年来の付き合いであり、菅氏の良
い点も悪い点も知り尽くしているはずです。まして下村氏は、元
ジャーナリストであり、支持率が16%まで落ちて、不支持率が
70%を超えている菅氏の置かれた立場がどういうものかよくわ
かっているはずです。なぜ、その状況を説明し、退陣を勧めない
のでしょうか。ただ、菅氏を擁護しているだけで、世間一般とは
お二人ともズレていると思います。
 鳩山政権のときと違ってメディアは菅政権に好意的であったと
思います。それでも最近は批判色が濃くなりつつあります。それ
は菅氏が世間の常識を超えて総理の座に本気でしがみついている
からです。         ── [日本の政治の現況/34]


≪画像および関連情報≫
 ●BSフジプライムニュースとは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  単にニュースを伝えるのではなく、ニュースで浮き彫りにな
  った問題点を多面的な観点から解説し、ゲストと共に議論。
  その中で新たなニュースを番組から発信し、視聴者へ前向き
  かつ具体的な提言や提案をすることを目指す。キャスターに
  は、元フジテレビアナウンサーの八木亜希子と、フジテレビ
  入社以来報道一筋の反町理(フジテレビ政治部編集委員)が担
  当。金曜日は八木に代って島田彩夏(フジテレビアナウンサ
  ー)が担当する。また、解りづらい専門用語や問題の経緯な
  どを解説する解説キャスターに報道のエキスパートであるフ
  ジテレビ解説委員の面々が曜日別で登場する。
  ―――――――――――――――――――――――――――

BSフジプライムニュース/2011.7.26.jpg
BSフジプライムニュース/2011.7.26
posted by 平野 浩 at 04:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本の政治の現況 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする