2010年02月03日

●「小沢一郎/『私は戦う』の意味」(EJ第2746号)

 小沢一郎論を書くにあたって、小沢とメディアとのかかわりに
ついて触れないわけにはいかないと思います。とにかく小沢はこ
れまでに官僚機構とメディアに徹底的に攻撃のターゲットにされ
てきているからです。
 その異常さは、昨年来の検察の捜査とそれに伴うマスコミの報
道を見ればわかるはずです。日本国憲法では、有罪判決が出るま
では犯罪人ではないという法律の基本があるのに、検察のリーク
とそれを怒涛のように流すマスコミ報道によって、もはや小沢は
「巨悪」扱いです。図に乗って産経新聞などは小沢を「容疑者」
と書く大失態まで冒しています。
 この日本のマス・メディアについて、既出の渡辺乾介氏は次の
ように述べています。
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 『日本/権力構造の謎』(早川書房刊)の著書で知られるオラ
 ンダ人ジャーナリスト、カレル・ヴァン・ウォルフレンが「日
 本というシステム」と呼んだ官僚主導の内向きな仕組みの中に
 はメディアも位置付けられている。新聞を中心とする大手ジャ
 ーナリズムを官製報道として厳しく批判した。それは欧米の日
 本メディアに対する見方、信用力の低さと軌を一にした批判で
 もある。
 ──渡辺乾介著、『小沢一郎/嫌われる伝説』より/小学館刊
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 どうして小沢がマスコミのターゲットになるのかというと、小
沢とメディアのかかわりについての歴史を少し振り返ってみる必
要があります。小沢は中曽根政権下で自民党総務局長、衆院議院
運営委員長、自治大臣を務めて頭角をあらわし、続く竹下内閣の
官房副長官を経て自民党幹事長に昇進しています。そのとき、ベ
ルリンの壁の崩壊があって、時代の大きな転換期に小沢は立つこ
とになります。
 おりからの湾岸危機で、国際貢献策として自衛隊の海外派遣を
実現しようとする小沢の前に立ちはだかったのは、官僚機構の厚
い岩盤であり、当時の小沢は、結局それを跳ね返すことができな
かったということは既に書いた通りです。
 もうひとつ小沢の目指したものは政治改革なのです。政治とカ
ネのスキャンダルが起きるたびに政治的倫理確立を謳って政治資
金規正法改正を繰り返すこれまでの対応ではなく、政権交代を可
能にする選挙制度改革を作り、根っこから改革する必要があると
考えたのです。
 やがて小沢は、55年体制下の官僚主導、政官一体の政治と行
政の仕組みがそのまま残る自民党ではその改革はできないことが
わかり、小沢は1993年に自民党を割って離党したのです。
 そして、小沢は目指した小選挙区比例代表制を実現させ、その
目的である自民党から民主党への政権交代を成し遂げています。
その最終仕上げともいうべき「官主導」から「政治主導」への改
革に入りつつあった矢先に起きたのが、一年前に続いて二度目に
なる検察による小沢事務所の秘書の逮捕です。
 ちょうど一年前の2009年3月3日、東京地検特捜部は小沢
の公設第一秘書を政治資金規正法の虚偽記載で逮捕しているので
すが、そのとき、小沢の発した短い言葉について、渡辺乾介氏は
興味深い分析をしています。この分析は、小沢という政治家を知
るうえで意義のあるものと考えるのでご紹介します。
 大久保秘書が逮捕された夜、小沢は弁護士と連絡を取り、対応
を協議しているのですが、弁護士が来るまでの間、一時間半ぐら
い空白の時間があったのです。その時間を使って小沢は今後の自
分の進退について一人で考えたものと思われます。
 弁護士との相談を終えて部屋から出てきた小沢は、ふっきれた
ような明るい表情で、次のように述べたのです。
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 ・私には絶対に承服できない話だ。法律が法律として通らない
  国にしてはならない。法が悪いなら法を変えないと「国民」
  は不幸な目に遭う。私は戦う。
 ・政治や経済が不安定で混乱した状況になると、自己主張する
  ことが排斥される日本社会は非常に極端な流れに付和雷同し
  がちになるから、私の問題で「国民」に不安を与えてはなら
  ない。                 ──渡辺乾介著
         『小沢一郎/嫌われる伝説』より/小学館刊
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 渡辺乾介氏は、この2つの短い言葉の中に小沢はこの時点で辞
任を決意していることを感じたと述べています。そして時期は後
になったものの、小沢は民主党代表を辞任しているのです。
 前段で小沢は「私は戦う」といっていますが、渡辺氏はこれを
「私は一人でも戦う」という意味にとらえています。というのは
小沢がこの言葉を使うときは、党首、代表、幹事長などのように
重要な地位についているときに限られるからです。
 これは自分の政治理念というものをそういう重要な地位と切り
離して戦う──つまり、「辞任する」という意味であると渡辺氏
は分析しているのです。
 それなら、今年の1月15日に3人の秘書が逮捕されたときは
どうであったかというと、次の日に開催された民主党の党大会に
おいて小沢は「断固として、自らの信念を通し戦っていく」と表
明し、同じ言葉を使っています。捜査の推移を見守るしかありま
せんが、やはり幹事長辞任は視野に入っているものと思います。
 問題はそれで済むかどうかです。今回は小沢自身が事情聴取さ
れており、このままで終わるとは思えないからです。そうでなけ
れば、党大会の前夜にいきなり秘書を3人逮捕し、政権与党の幹
事長に任意とはいえ事情聴取までしないからです。
 さて、小沢は前段と後段で「国民」という言葉をそれぞれ1回
ずつ使っていますが、渡辺氏は小沢の気持ちの中では、別々のこ
とをいう意味で使っていると述べています。これについての分析
は明日のEJで行います。    ―――[小沢一郎論/22]


≪画像および関連情報≫
 ●民主党党大会/2010.1.16/小沢幹事長
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  「何ら不正なお金ではない」「何としても納得できない」。
  演説では全身を前のめりに動かしながら一言一言に力を込め
  た。党大会前日の元秘書らの逮捕劇に「これがまかり通るな
  ら日本の民主主義は暗たんたるものになる」と憤然とした表
  情。「信念を通し戦っていく決意です」と自らに言い聞かせ
  るように大きくうなずくと、議員席から「そうだ!」という
  掛け声と大きな拍手が起こった。演説を終えると小沢氏はそ
  のまま退場。外で待ち構えていた記者団に「現職の国会議員
  が逮捕され、非常に残念。国民におわび申し上げたい」と陳
  謝し、「国民に味方していただける」と話して約十分で切り
  上げた。      ――2010.1.17「東京新聞」
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民主党党大会での小沢幹事長.jpg
民主党党大会での小沢幹事長
posted by 平野 浩 at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 小沢一郎論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする