の一面は、繰延税金資産が安易に自己資本にカウントされている
実態に目をつけたところに見ることができます。
既に述べたように、繰延税金資産は、将来の収益の中からその
分、非課税の利益になるという実態のないものを自己資本にカウ
ントするものであるからです。その実態は、「見せかけの自己資
本」といっても過言ではないのです。
それまで繰延税金資産は5年分が認められており、りそな側は
繰延税金資産5年分――約7000億円を自己資本にカウントす
る方針であり、そうすればりそなの自己資本比率は6%になる計
算だったのです。そして、それは当然監査法人も認めてくれるは
ずと思っていたのです。
そういう見せかけの自己資本ではなく、もっと中身のある充実
した自己資本を持つべきであるという竹中氏の主張は一応正論で
あるといえます。実際に大手銀行の首脳は竹中大臣との一連のバ
トルを通じて自力で自己資本の増強を図る対応をしています。国
有化されることに危機感を感じたからです。しかし、メガバンク
以外の国内行の首脳の意識はそこまで行っていなかったのす。
竹中氏は、監査法人は独立機関であり、政府といえども監査法
人の下した結論には逆らえないと明言していたのです。しかし、
竹中氏が監査法人に国有化の引き金を引かそうとし、巧妙に圧力
をかけていたことは間違いないようです。なぜなら、当時の公認
会計士協会の奥山章雄会長は、竹中PT――金融分野緊急対応戦
略PTのメンバーだったからです。これについて、植草一秀氏は
次のように述べています。
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当時の公認会計士協会会長は奥山章雄氏だが、奥山氏は竹中金
融相の下に置かれた「金融問題タスクフォース」のメンバーも
務めた人物で竹中氏との関係は非常に深い。公認会計士協会と
金融庁当局が連携してりそな銀行処理が決められたと考えるの
が妥当である。 ――UESUSAレポート
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とにかくりそな銀行実質国有化では、竹中PTのメンバーであ
る木村剛氏と奥山章雄氏が深く絡んでいることは確かです。
まず、2003年2月25日の時点で、日本公認会計士協会は
奥山章雄会長による「会長通牒」を出しています。これは既に述
べた通りです。奥山章雄氏も竹中PTのメンバーであるので、竹
中金融担当相の要請を受けてそれが行われたものと考えるのが自
然であると思われます。それは銀行の監査に関しては厳正に対応
すべきであるという内容であったのです。
続いて、5月14日に木村剛氏は自分のサイトにりそな銀行の
繰延税金資産は認めるべきではないし、認めても1年にすべきで
あるであると主張するコラムを書いています。
木村氏はあくまで個人意見であり、竹中PTに関係はないとい
うでしょうが、そういう政府の公式PTのメンバーである以上、
内容が銀行の監査に関してであり、個人意見であっても、好まし
いことではないといえます。
奥山氏にせよ、木村氏にせよ、繰延税金資産は厳しく査定すべ
きであるという意見です。しかし、新日本監査法人は3年を認め
たのです。つまり、甘く査定したのです。この監査法人の査定に
対して、奥山氏はともかくとして、木村氏は批判してしかるべき
です。なにしろ、繰延税金資産を認めないか、認めても1年であ
り、もし、それ以上多く認めた監査法人は破綻させるべきである
という主張をしていたからです。
しかし、木村剛氏は、りそな処理が終わると、一貫してその処
理を批判していないのです。これに関して植草一秀氏は次のよう
に述べているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
りそな処理で見落とせないのは、木村剛氏が、5月17日のり
そな銀行実質国有化案が提示されて以降、一度も政府決定を批
判していないことである。私は木村氏とテレビで何度も、りそ
な処理をめぐって論争した。私は、「自己責任原則貫徹の大原
則」が完全に踏みにじられたことを訴え続けたが、木村氏は全
面にわたって政府決定の擁護に回ったのである。5月14日に
記述した内容とは正反対の主張を繰り返したのである。
――UEKUSAレポートより
―――――――――――――――――――――――――――――
私は植草氏と木村剛氏のこのりそな問題でのテレビの討論を実
際に視聴したのですが、植草氏のいう通り、一貫して政府措置の
擁護に回っていたのです。
銀行の繰延税金資産の査定は厳しく対処すると公言し、二重三
重の論陣を張っておいて、一転甘く査定して実質国有化する――
もし、これがそういうシナリオになっており、そのシナリオが外
資系ファンドに漏れていたらどうなるのでしょうか。これは完全
なインサイダー取引になる――植草氏はこう指摘するのです。
このりそな処理によって、7000円台を低迷していた株価は
大きく反発し、10000円台を回復しています。その後は折か
らの景気回復の波によって経済は改善していったのです。これに
ついて植草氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
小泉政権の政策評価に際してもっとも重要であるのが、りそな
処理なのである。このりそな処理についての厳密かつ客観的評
価なくして、小泉政権の政策評価は不可能である。2003年
から2006年までの株価反発、経済改善をもって小泉政権の
「改革」政策を高く評価するような軽薄な論評にはまったく存
在価値がないことをしっかりと見抜かなければならない。その
ような評価に共通する背景は「権力迎合」の精神構造である。
――UEKUSAレポートより
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――[円高・内需拡大策/24]
≪画像および関連情報≫
●植草氏と小泉元首相にレクチャーしている
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「直言:失われた5年 ー 小泉政権・負の総決算」によれば
植草一秀氏は、小泉内閣発足の一年前に、小泉純一郎と中川
秀直に対してレクチャーをしている。植草氏は財政収支改善
を中期的に取り組む必要を説き始めたとき、小泉はその発言
をさえぎって、「緊縮財政運営こそがすべてに優先されるべ
き」であるという持論を得々と開陳したそうである。植草氏
は、当時、日本経済の根っこには、巨大な不良債権問題が沈
潜しており、これを無視して財政緊縮路線を遂行すれば、経
済悪化、金融不安増大、財政赤字拡大等の深刻なマイナス要
因が発生し、「魔の悪循環」のスパイラルに呑みこまれるこ
とが目に見えていた。
http://slicer93.real-sound.net/0-ip-space-7514.html
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竹中平蔵元金融担当相