2008年12月01日

●「金融再生プログラムの矛盾」(EJ第2461号)

 不良債権を加速処理をすると、何が起こるのでしょうか。竹中
大臣率いる金融庁は、DFC方式と減損会計による資産査定を行
い、不良債権を意図的に増加させたのです。
 不良債権が増えるということは、それだけ破綻企業が増えるこ
とを意味します。それを整理回収機構/RCCに引き取らせ、お
いしいところはバゲタカ・ファンドの外資が買い占めたのです。
 これに飽き足らず、既に述べたように、ハバード大統領経済諮
問委員会(CEA)は、日本の銀行にまで手を伸ばそうとしてい
たのです。この指令を受けた竹中大臣は、銀行の自己資本の毀損
に狙いを定めたのです。
 銀行の立場に立って考えてみましょう。厳しいというか無茶苦
茶な資産査定によって不良債権が増えると、銀行はそれに応じた
貸倒引当金を利益を取り崩して積まなければならないのです。し
かし、日本では貸倒引当金には税金がかかるのです。
 ここで「繰り延べ税金資産」というわかりにくい面倒なことを
説明する必要があります。菊池英博氏の本を参考にして、具体的
な例で説明することにします。
 A銀行がX社という企業に20億円を融資しているとします。
ところがX社は欠陥商品を出して売上げ不振に陥ります。そして
借入金20億円のうち10億円が返済できなくなります。
 しかし、X社は他の事業が好調であり、企業として十分再生可
能であると判断されたとします。この場合、銀行はX社が返済で
きなくなった10億円相当分を貸倒引当金として、利益から落と
して計上しなければならないのです。
 法人税を50%と仮定すれば、A銀行は引当金を積まないで利
益のままであった場合の10億円に相当する法人税5億円を支払
わなければならないわけです。このとき支払った税金の5億円は
「有税引当金」と呼ばれるのです。
 その後、X社の業績が回復して貸倒引当金が不要になった場合
か、X社が倒産した場合、有税引当金として支払った法人税5億
円は税務署からA銀行に還付されるのです。したがって、銀行に
とっては有税引当金はいずれ戻ってくる財産ということになるの
で、「繰り延べ税金資産」といわれるのです。そして、それは資
産の中に計上され、その資産は「税効果資本」として、資本金の
一部に組み入れられるのです。
 竹中大臣は、この「税効果資本」に目をつけたのです。これを
圧縮することによって、銀行の自己資本を毀損させようとして、
金融再生プログラムに次のように盛り込んだのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「自己資本の充実」の名の下に、資本勘定に組み込まれている
 「繰り延べ税金資産」(税効果資本)を圧縮し、アメリカ並み
 に「自己資本の10%以内か、一年分の税効果資本の増加分の
 うち、どちらか小さいほう」を計上させること。
             ――菊池英博著/ダイヤモンド社刊
          『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』
―――――――――――――――――――――――――――――
 金融再生プログラムには上記のように書いてありますが、その
内容は米国の税法と同じです。しかし、この「税効果資本」を圧
縮させようとしたことは、竹中平蔵氏としては大変な失敗であっ
たと思います。というのは、竹中氏は米国の税法をよく調べてい
なかったからです。これについては、2003年12月11日付
日本経済新聞で、あのリチャード・クーが指摘しているのです。
彼はどうやら、米国の場合は無税引当であることを知らなかった
ようなのです。
 ここまで検討したことによって、金融再生プログラムの2つの
骨子は、「不良債権の加速処理」と「税効果資本の圧縮」を意味
することはわかると思います。しかし、これら2つは明らかに矛
盾するのです。
 不良債権を加速処理をすると、破綻の危険のある企業が増加し
ます。そうすると銀行は貸倒引当金を多く積むことになります。
これは同時に「税効果資本の増大」を意味するのです。ところが
その税効果資本を圧縮して自己資本の毀損を狙うというのですか
ら、明らかに矛盾しています。
 当然のことながら、大手銀行の首脳は竹中大臣と対立したので
す。当時の銀行協会会長であった寺西正司氏(UFJ銀行頭取)
は次のようにいって金融庁を批判したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 今までサッカーのルールでやっていたものを、急にラグビーに
 変えるといわれてもできない。       ――寺西正司氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 結局、「税効果資本の圧縮」は棚上げされることになったので
す。このように、金融庁は本来なら不良債権にならない企業まで
含めて強引に不良債権処理を行ったので、銀行は莫大な貸倒引当
金を積むことになったのです。
 しかし、もともと不良債権でない企業まで不良債権化した結果
後になって銀行には莫大な額の税金の戻りがあり、主力銀行は現
在に至るまで、莫大な利益を出しているのに、税金を支払わない
で済んでいるのです。これだけ見てもあのときの金融再生プログ
ラムがいかに問題があったかわかると思います。
 ちなみに日本の税制で問題なのは、有税引当金として支払った
税金が税務署から還付される際に現金で返済されるのではなく、
次の決算で利益が出れば、その法人税から控除されるに過ぎない
という点です。
 したがって、銀行の利益が減ったり、赤字決算をして還付の元
になる利益を計上できない場合は、支払済みの税金は一切還付さ
れない仕組みになっているのです。
 これに対して米国では、企業が赤字決算をすると、10年前ま
で遡って、支払い済みの税金が現金で還付されるのです。日本と
比べると、大きな違いです。「不良債権処理の竹中」といわれま
すが、これが真相なのです。 ――[円高・内需拡大策/19]


≪画像および関連情報≫
 ●税効果会計とは何か
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  税効果会計とは、法人税等の額を適切に期間配分することに
  より、税引前当期純利益と税金費用――法人税等に関する費
  用を合理的に対応させることを目的とする会計上の手続きで
  ある。企業会計上の損益認識時期――どの会計期間に計上さ
  れるかと税法上の損益認識(認容)時期は必ずしも一致しな
  い。この結果、企業会計上の税引前当期純利益に対して一定
  税率で課税されるはずの法人税等は必ずしも税引後当期純利
  益(最終利益)とは対応しない。   ――ウィキペディア
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菊池英博氏.jpg
菊池英博氏
posted by 平野 浩 at 04:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 円高・内需拡大策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする